(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190275
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】複合着色粒子
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20221219BHJP
C09D 11/17 20140101ALI20221219BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20221219BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20221219BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C09D11/16
C09D11/17
C08J3/215 CER
C08J3/215 CEZ
B43K7/01
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098526
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
【テーマコード(参考)】
2C350
4F070
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA04
4F070AA26
4F070AA28
4F070AA29
4F070AA32
4F070AE04
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB07
4F070FC01
4J039AD09
4J039AE04
4J039BE01
4J039BE02
4J039CA06
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 分散安定性及び筆記性等に優れたインク組成物を提供する。
【解決手段】 粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子、粒子表面において負の電荷を有する着色粒子及び低密度粒子を含み、前記樹脂粒子に前記着色粒子及び前記低密度粒子がクーロン力によって複合化された複合着色粒子、及び、前記複合着色粒子が水性媒体中に分散した水性インク組成物及び該水性インク組成物を搭載した筆記具を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子、粒子表面において負の電荷を有する着色粒子及び粒子表面において負の電荷を有する低密度粒子を含み、前記樹脂粒子に前記着色粒子及び前記低密度粒子がクーロン力によって複合化された複合着色粒子。
【請求項2】
複合着色粒子の見かけ密度が0.6g/cm3~1.8g/cm3である
請求項1に記載の複合着色粒子。
【請求項3】
複合着色粒子の少なくとも95%が0.2μm~3.0μmの範囲内の粒子径である
請求項1又は2に記載の複合着色粒子。
【請求項4】
低密度粒子の見かけ密度が0.1g/cm3~1.4g/cm3である
請求項1~3の何れか一つに記載の複合着色粒子。
【請求項5】
低密度粒子がアニオン性官能基で修飾された低密度樹脂からなる
請求項1~4の何れか一つに記載の複合着色粒子。
【請求項6】
粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子が、カチオン基で修飾された高分子からなる粒子である
請求項1~5の何れか一つに記載の複合着色粒子。
【請求項7】
粒子表面において負の電荷を有する着色粒子が、アニオン性官能基で修飾された、顔料又は着色剤含有樹脂の微粒子からなる
請求項1~6の何れか一つに記載の複合着色粒子。
【請求項8】
粒子表面において負の電荷を有する着色粒子が、アニオン性を有する、アクリル系樹脂、ウレア系樹脂、ウレタン系樹脂及びウレア-ウレタン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種のアニオン性樹脂の内部又は表面に染料が包容された粒子からなる
請求項1~7の何れか一つに記載の複合着色粒子。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一つに記載の複合着色粒子が媒体に分散してなるインク組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のインク組成物を搭載した筆記具。
【請求項11】
粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンに、粒子表面において負の電荷を有する着色粒子を含む分散体及び低密度粒子を含むエマルジョンを混合する複合化工程を含む複合着色粒子の製造方法。
【請求項12】
さらに、凝集体を破砕する解凝集工程を含む請求項11に記載の複合着色粒子の製造方法。
【請求項13】
複合着色粒子の少なくとも95%が0.2μm~3.0μmの範囲内の粒子径を有する請求項11又は12に記載の複合着色粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用のインク組成物、これに含有される着色材、及びこれを搭載した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具用インクには、様々な染料又は顔料が着色材として溶剤に溶解又は分散されたインク組成物が使用されている。また、ボールペンやマーキングペン等の筆記具を長期間使用しないで保管していると、インク組成物に含有される着色材が沈降して濃度の変化が生じ、そのような筆記具を使用して筆記すると、筆跡が薄くなったり、掠れたりすることがある。筆記具用インクを長期間保存した際にインク組成物成分の沈降による筆跡濃度の変化が生じないようにするには、インク組成物に含有される着色材の分散安定性が求められる。
【0003】
特許文献1には、着色材と、水と、多糖類複合体とを含み、前記多糖類複合体が、複数種の、2種以上の単糖を構成単糖に有する多糖類からなる、ボールペン用水性インキ組成物が記載されている。これによれば、せん断減粘性を有する水性インキであって、着色材に顔料を用いた場合であってもインキ粘度を過度に高めることなく顔料の沈降、凝集を抑えてインキ分離や筆跡濃度の低下を抑制し、カスレ、割れ及び滲みのない、鮮明な筆跡を長期に渡って形成可能とするボールペン用水性インキ組成物と、それを収容したボールペンが提供される。
【0004】
また、特許文献2には、少なくとも顔料と、水と、部分的に側鎖ガラクトースを有していないガラクトキシログルカンと、からなる筆記具用水性インキ組成物が開示されている。これによれば、外部からの熱によりインキ粘度が低下し、顔料が凝集、沈降して筆跡が淡色化や濃色化することがなく、とりわけ、筆記先端部が上向きの状態(正立状態)で、筆記具を服の胸ポケットに挿して携帯する(胸挿し)場合や、夏場に輸送する場合等の、外部から熱と振動が加わる場合のインキ粘度の低下及び、顔料の凝集、沈降を抑制して、筆跡にカスレが生じたり淡色化することのない、生活環境温度域を超える温度域での顔料の分散安定性に優れる筆記具用水性インキ組成物及びそれを収容した筆記具が提供される。
【0005】
これらの文献に記載されている方法は、いずれもインキ組成物に含有される水性媒体に着目し、媒体の物性を改良することによって顔料の分散安定性を改善しようとするものであり、顔料そのものの分散安定性を改善する発明ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-8595号公報 第3-4頁
【特許文献2】特開2021-31679号公報 第3-4頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インク保存時における着色料の沈降を抑制し、経時的な分散安定性に優れた水性インク組成物、並びに、筆記性及び耐滲み性に優れた筆記具を提供することを課題とする。また、前記水性インク組成物に着色料として配合される複合着色粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、使用される着色剤の分散安定性について鋭意研究を行った結果、樹脂粒子と着色剤粒子及び低密度粒子とをクーロン力を利用して複合化することを着想し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子、粒子表面において負の電荷を有する着色粒子及び粒子表面において負の電荷を有する低密度粒子を含み、前記樹脂粒子に前記着色粒子及び前記低密度粒子がクーロン力によって複合化された複合着色粒子に関する。
【0009】
また、本発明は、前記複合着色粒子が水性媒体中に分散した水性インク組成物及び該水性インク組成物を搭載した筆記具に関する。
さらに、本発明は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子を含む樹脂エマルジョン、粒子表面において負の電荷を有する着色粒子を含む分散体、並びに、粒子表面において負の電荷を有する低密度粒子を含む分散体を混合する複合化工程を含む複合着色粒子の製造方法に関する。
【0010】
なお、本発明において、クーロン力とは、電荷の符号が正負である荷電粒子間にはたらく引力(静電気力)をいう。また、「粒子表面において正(又は負)の電荷を有する」とは、粒子が少なくとも表面において正(又は負)の電荷を有することを意味し、粒子表面のみが正(又は負)の電荷を有する場合、及び粒子内部が正(又は負)の電荷を有することによって粒子表面が正(又は負)の電荷を有する場合を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分散安定性が改善された着色剤が得られる。本発明の複合着色粒子を配合したインク組成物は、良好な分散安定性、筆記性及び耐滲み性を発揮する。その結果、長期の分散安定性に優れたインク組成物、並びに、筆記性及び耐滲み性に優れたボールペンやマーキングペンなどの筆記具が提供される。本発明に係るインク組成物を搭載した筆記具は、筆記性に優れ、かつ長期間使用しないまま保管しても、筆跡濃度の変化が生じたり、掠れたりすることがない。また、本発明によれば、前記インク組成物に配合される、分散安定性に優れた複合着色粒子及びその工業的生産に適した製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の例を説明するための模式図である。粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子3に粒子表面において負の電荷を有する着色粒子1及び粒子表面において負の電荷を有する低密度粒子2とがクーロン力によって複合化し、本発明の大粒径の複合着色粒子を形成することを示す。
【
図2】
図2は、実施例1において、複合化工程及び解凝集工程を行って得られた複合着色粒子P-1の粒子径頻度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複合着色粒子は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子(以下、カチオン性樹脂粒子ということがある)に粒子表面において負の電荷を有する着色粒子(以下、アニオン性着色粒子ということがある)及び粒子表面において負の電荷を有する低密度粒子(以下、アニオン性低密度粒子ということがある)がクーロン力によって結合した構造を有する、安定な複合化粒子である。
【0014】
以下に、本発明の実施形態について詳しく説明する。但し、本発明には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で構成要素を追加又は変更することができ、本発明の技術的範囲は、記載された実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ。
【0015】
なお、本発明において、カチオン性樹脂粒子及び複合着色粒子の粒子径分布は、レーザー回折法により測定することができる。アニオン性着色粒子は、動的光散乱法により測定することができる。
【0016】
<カチオン性樹脂粒子>
本発明に用いられる樹脂粒子は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子(カチオン性樹脂粒子)である。このような樹脂粒子としては、カチオン基で修飾された高分子からなる樹脂粒子が使用でき、具体的には、樹脂粒子に試剤を付着又は反応させて正の電荷を生じせしめたもの、及び、樹脂粒子を調製する際に正の電荷を有する官能基又はその前駆体を含むモノマーを共存させて、生成する高分子をカチオン化せしめたものが挙げられる。
【0017】
本発明に用いられる樹脂粒子は、カチオン基を有する高分子からなる樹脂粒子が好適に使用される。かかる高分子としては、カチオン基で修飾された、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂から選ばれた少なくとも1種の高分子によって主に構成されることが好ましい。
【0018】
酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子
酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子は、酢酸ビニルモノマーの他にカチオン性モノマー又はカチオン性乳化剤等のカチオン性助剤を加えて重合されたものが好ましい。例えば、酢酸ビニルモノマー単独、又は酢酸ビニルモノマーと塩化ビニルや(メタ)アクリル系モノマー等の酢酸ビニルモノマーと共重合可能なコモノマーの混合物を用いて重合する際に、カチオン性乳化剤を用いたり、カチオン基を有するポリマーを保護コロイドとしたり、あるいはカチオン性モノマーを加えて逆相乳化重合を行うことにより作製される。
【0019】
好ましくは、カチオン性乳化剤としてカチオン性界面活性剤を用いた乳化重合により、酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することができる。カチオン性界面活性剤としては、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のアルキルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド等のアルキルピリジニウムアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド等のテトラアルキルアンモニウムクロライド、及び、アルキルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライド等のアルキル基の炭素数が8~18、エチレンオキシド付加数が2~15倍モルのEO付加型アンモニウムクロライドなどが挙げられる。乳化重合に使用されるカチオン性界面活性剤の使用量は、モノマー100質量部に対して1~10質量部が好ましく、2~5重量部がより好ましい。
【0020】
また、ノニオン系の界面活性剤を用いて乳化重合した後、カチオン性物質、例えばカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエチレンイミンなどを添加して酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。
【0021】
さらに、(メタ)アクリル系モノマー、又は、(メタ)アクリル系モノマーとスチレン系コモノマーの混合物に、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルあるいは(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリルアミドジメチルアミノプロピルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリルアミドなどのアミノ基含有モノマーを添加して共重合させた後、アルキル化剤で四級化して酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。アルキル化剤としては、塩化オクチル、臭化オクチル、塩化ドデシル、臭化ドデシル、塩化テトラデシル、臭化テトラデシル、塩化へキサデシル、臭化ヘキサデシルなどのハロゲン化アルキルが使用される。
【0022】
アクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子
アクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子は、アクリル系モノマーの他にカチオン性モノマー又はカチオン性乳化剤等のカチオン性助剤を加えて重合されたものが好ましい。例えば、(メタ)アクリルモノマー単独、又は(メタ)アクリルモノマーと(メタ)アクリルモノマーと共重合可能なコモノマーの混合物を用いて重合する際に、カチオン性乳化剤を用いたり、カチオン基を有するポリマーを保護コロイドとしたり、あるいはカチオン性モノマーを加えて逆相乳化重合を行うことにより作製される。
【0023】
好ましくは、カチオン性乳化剤としてカチオン性界面活性剤を用いた乳化重合により、アクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することができる。カチオン性界面活性剤としては、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のアルキルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド等のアルキルピリジニウムアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド等のテトラアルキルアンモニウムクロライド、及び、アルキルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライド等のアルキル基の炭素数が8~18、エチレンオキシド付加数が2~15倍モルのEO付加型アンモニウムクロライドなどが挙げられる。乳化重合に使用されるカチオン性界面活性剤の使用量は、モノマー100質量部に対して1~10質量部が好ましく、2~5重量部がより好ましい。
【0024】
また、ノニオン系の界面活性剤を用いてアクリル系モノマーを乳化重合した後、カチオン性物質、例えばカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエチレンイミンなどを添加してアクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。
【0025】
さらに、(メタ)アクリルモノマー、又は、(メタ)アクリルモノマーとスチレン系コモノマーの混合物に、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルあるいは(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリルアミドジメチルアミノプロピルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリルアミドなどのアミノ基含有モノマーを添加して共重合させた後、アルキル化剤で四級化してアクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。アルキル化剤としては、塩化オクチル、臭化オクチル、塩化ドデシル、臭化ドデシル、塩化テトラデシル、臭化テトラデシル、塩化へキサデシル、臭化ヘキサデシルなどのハロゲン化アルキルが使用される。
【0026】
ウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子
ウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子としては、四級化アンモニウム基を有するウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子が好ましい。このカチオン性樹脂粒子は、例えば、溶剤中又は無溶剤で、ポリオール、ポリイソシアネート及び三級アミノ基含有ポリオールを反応させてポリウレタンの分散液を作製し、次いで、ポリウレタン中の三級アミノ基を酸でプロトン化、あるいはアルキル化剤で四級化することにより、四級化アンモニウム基を有するウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することができる。
【0027】
他の作製方法としては、溶剤中又は無溶剤で、ポリオール、ポリイソシアネート及び三級アミノ基含有ポリオールを所定比率で反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを作製した後、ポリアミンを用いて該ウレタンプレポリマーを鎖伸長させ、ウレタン樹脂粒子の分散液を作製する。次いで、ウレタン樹脂中の三級アミノ基を酸でプロトン化、あるいはアルキル化剤で四級化する。これにより、四級化アンモニウム基を有するウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子が作製される。
【0028】
三級アミノ基を四級化するアルキル化剤は、アミノ基にアルキル基を付加して第四級アンモニウムカチオンを生成する試剤であって、塩化オクチル、臭化オクチル、塩化ドデシル、臭化ドデシル、塩化テトラデシル、臭化テトラデシル、塩化へキサデシル、臭化ヘキサデシルなどのハロゲン化アルキルが好ましく使用される。
【0029】
本発明に用いられるカチオン性樹脂粒子は、微粒子の含有量が少なく、粒子径の揃ったものが好ましい。具体的には、粒子径分布において、その少なくとも95%の粒子が0.1μm~3.0μmの範囲内の粒子径を有するものが好ましく、その少なくとも95%の粒子が0.1μm~2.0μmの範囲内の粒子径を有するものがより好ましい。
【0030】
<アニオン性着色粒子>
本発明においては、粒子表面において負の電荷を有する着色粒子(アニオン性着色粒子)が用いられる。これには、粒子表面において負の電荷を有し、染料を含有する樹脂粒子(以下、アニオン性染料粒子ということがある)、及び、粒子表面において負の電荷を有する顔料粒子(以下、アニオン性顔料粒子ということがある)が含まれる。
【0031】
本発明に用いられるアニオン性着色粒子は、任意の粒子径のものが使用できるが、粒子径が0.01~1.0μm、特に0.05~0.5μmの微粒子が好ましく、その少なくとも95質量%が0.01~0.5μm、特に0.05~0.3μmの範囲内の粒子径を有する微粒子がより好ましい。
この範囲の粒子径を有することが、カチオン性樹脂粒子と複合化して良好な複合着色粒子を形成するので好ましい。アニオン性着色粒子の形状は、球状、特に真球状が好ましい。
【0032】
〔アニオン性染料粒子〕
本発明に用いられるアニオン性染料粒子には、アニオン性を有する樹脂粒子の内部又は表面に染料が包容された粒子、及び樹脂粒子の内部又は表面にアニオン性の染料が包容された粒子が含まれ、特に、アニオン性を有する樹脂微粒子の内部又は表面に染料が包容されたアニオン性染料微粒子が好ましい。
【0033】
アニオン性を有する樹脂粒子の内部又は表面に染料が包容されたアニオン性染料粒子の製造に使用される樹脂粒子としては、アニオン性を有する官能基(以下、アニオン性基ともいう)が化学的に結合された樹脂からなる粒子又はアニオン性基が物理的に付着された樹脂からなる粒子が使用できる。
【0034】
アニオン性染料粒子を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が使用でき、好ましくは、アクリル系樹脂、ウレア系樹脂及び、ウレタン系樹脂及びウレア-ウレタン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種の樹脂を使用することができる。樹脂の構造は、直鎖状であっても分岐状であっても良い。
【0035】
アニオン性染料粒子の製造において、樹脂粒子にアニオン性基を導入する場合、アニオン性基を有する試剤又はその前駆体を直接的に樹脂に結合しても良く、他の原子団を介して間接的に樹脂に結合しても良い。アニオン性基と樹脂を結合させる他の原子団としては、炭素原子数1から12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、アミノ基、アゾ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0036】
アニオン性染料粒子の製造に使用されるアニオン性基を導入した樹脂粒子として、アニオン性基を有するモノマーを含むモノマー混合物、又はアニオン性基を有する乳化剤等の助剤を含むモノマー混合物を、染料とともに溶解又は分散状態で重合させて得られた樹脂組成物からなる粒子が使用できる。さらに、樹脂粒子の化学的処理によって粒子表面にアニオン性基を形成した粒子が使用できる。アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基を挙げることができる。
【0037】
アニオン性基を有するアクリル系樹脂は、例えば、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸又はカルボキシル基やスルホン酸基等のアニオン性基を有する(メタ)アクリル酸エステルをモノマーとして使用して重合させることにより得ることができる。アニオン性基を有するウレア系樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物の組み合わせの少なくとも一方にアニオン性基を有する化合物を使用して重合させることにより得ることができる。アニオン性基を有するウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の組み合わせの少なくとも一方にアニオン性基を有する化合物を使用して重合させることにより得ることができる。アニオン性基を有するウレア-ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物及びポリオール化合物の組み合わせの少なくとも一種にアニオン性基を有する化合物を使用して重合させることにより得ることができる。
【0038】
樹脂表面にアニオン性基を導入する化学処理として、樹脂にジアゾニウム塩によるカップリング反応を行うことによりカルボキシル基、スルホン酸基、又はリン酸基等のアニオン性基を導入する方法を行うこともできる。
【0039】
さらに、樹脂を気相法、液相法又はこれ等を組み合わせた酸化処理を行うことによりカルボキシル基等のアニオン性基を導入することもできる。気相法により酸化処理する場合、酸化剤としてオゾンや酸素を用い、樹脂に接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。
【0040】
液相法により酸化処理する場合は、酸化剤として、塩素、過酸化水素水、硝酸、硫酸、塩素酸塩又は過硫酸塩などを用いることができ、例えば、前記酸化剤を含む水溶液中に樹脂を投入することにより、表面にアニオン性基を有する樹脂を得ることができる。
【0041】
樹脂粒子の表面にアニオン性基を物理的に付着させる場合、樹脂粒子の分散液にアニオン性の高分子分散剤を供給してアニオン性の高分子分散剤を樹脂表面に付着させる方法や、樹脂粒子をアニオン性の試剤の溶液に投入後、溶媒を除去して樹脂表面にアニオン性の試剤を被覆する方法が挙げられる。
【0042】
アニオン性染料粒子の製造に使用される染料は、酸性染料、塩基性染料、直接染料、油溶性染料のいずれも用いることができ、天然由来の染料でも、合成染料でもよい。非アニオン性又はアニオン性の染料を2種以上混合して使用してもよく、非アニオン性の染料とアニオン性の染料を混合して使用してもよい。
【0043】
酸性染料としては、エオシン、フオキシン、アシッドレッド、ウォーターブルー、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンが挙げられる。
【0044】
塩基性染料としては、例えば、メチルバイオレット等のジ又はトリアリールメタン系染料;アジン系(ニグロシンを含む)、オキサジン系、チアジン系等のキノンイミン系染料;ローダミン等のキサンテン系染料;トリアゾールアゾ系染料;チアゾールアゾ系染料;ベンゾチアゾールアゾ系染料;アゾ系染料;ポリメチン系、アゾメチン系、アザメチン系等のメチン系染料;アントラキノン系染料;フタロシアニン系染料が挙げられ、中でも水溶性の塩基性染料が好ましい。
【0045】
直接染料しては、ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルーが挙げられる。
油溶性染料としては、モノアゾ、ジアゾ、金属錯塩型モノアゾ、アントラキノン、フタロシアニン、トリアリールメタンが挙げられる。また、酸塩基性染料の官能基を疎水基で置換した造塩タイプ油溶性染料も使用することができる。
【0046】
油溶性染料として、黄色系は、C.I.ソルベントイエロー114、116;オレンジ系は、C.I.ソルベントオレンジ67;赤色系は、C.I.ソルベントレッド122、146;青色系は、C.I.ソルベントブルー5、36、44、63、70、83、105、111;黒色系は、C.I.ソルベントブラック3、7、27、29;がそれぞれ挙げられる。
【0047】
油溶性染料の市販品としては、青染料SBNブルー701(保土谷化学工業株式会社製)、青染料オイルブルー650(オリエント化学工業株式会社製)、青染料サビニールブルーGLS(クラリアント株式会社製)、赤染料SOC-1-0100(オリエント化学工業株式会社製)、オイルブラック860、オイルピンク314、オイルイエロー3G、バリファストピンク2310N、同レッド3312、同イエローCGHNnew、同イエロー1108、同ブラック3830(オリエント化学工業株式会社製)を挙げることができる。
【0048】
アニオン性染料粒子において、染料は、アニオン性染料粒子全量に対して、0.2~50質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1.0~10質量%含有させることができる。
【0049】
〔アニオン性顔料粒子〕
本発明に用いられる顔料粒子は、粒子表面において負の電荷を有する樹脂粒子(以下、アニオン性顔料粒子ということがある。)である。このような顔料粒子としては、アニオン性基で修飾された固体顔料からなる顔料粒子が使用できる。
【0050】
アニオン性顔料粒子としては、無機顔料を主成分とする粒子及び有機顔料を主成分とする粒子がいずれも使用できる。無機顔料としては、酸化チタン系、酸化鉄系、金属粉系、焼成系、体質系の顔料が挙げられる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ペリノン・ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック系、アゾ-メチンアゾ系、カーボンブラック系の顔料が挙げられる。無機顔料と有機顔料を組み合わせて使用することもできる。
【0051】
本発明においては、アニオン性顔料粒子として、顔料の粒子表面にアニオン性の官能基(以下、アニオン性基という)又はその前駆体を有する試剤を化学的に結合又は物理的に付着させたものが使用できる。また、アニオン性顔料粒子として、顔料粒子表面を化学反応させてアニオン性基を生成させたものが使用できる。アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基が挙げられる。
【0052】
顔料の粒子表面にアニオン性基を化学的に結合させる場合、アニオン性基は、直接的に顔料を構成する化合物に結合しても良く、他の原子団を介して顔料を構成する化合物に結合しても良い。アニオン性基と顔料を構成する化合物を間接的に結合させる他の原子団としては、炭素原子数1から12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、アミノ基、アゾ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0053】
顔料の粒子表面にアニオン性基を物理的に付着させる場合、顔料表面をアニオン性分散剤で処理することや、顔料表面をアニオン性樹脂等で被覆することが好ましい。
顔料を分散剤で表面処理する方法としては、顔料の分散液にアニオン性の高分子分散剤を供給し、アニオン性の高分子分散剤を顔料表面に付着させる方法が挙げられる。
【0054】
顔料を樹脂で被覆する方法としては、顔料の分散液にアニオン性のモノマーを供給し、重合させて顔料表面を被覆する方法、及び、アニオン性樹脂の溶液に顔料を投入し、溶媒を除去して顔料表面を被覆する方法が挙げられる。
【0055】
顔料の化学的処理によって粒子表面にアニオン性基を生成させる場合、アニオン性基は、顔料の化学反応によって生成する。顔料表面に導入される酸性基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、水酸基を挙げることができる。
【0056】
顔料表面にアニオン性基を導入する化学処理は、気相法、液相法又はこれ等を組み合わせた方法により行うことができる。
【0057】
気相法により酸化処理する場合、酸化剤としてオゾンや空気を用い、カーボンブラック等の顔料と接触させることにより、酸化する方法を挙げることができる。
【0058】
液相法により酸化処理する場合は、酸化剤として、過酸化水素水、硝酸、硫酸、塩素酸塩又は過硫酸塩などを用いることができ、例えば、前記酸化剤を含む水溶液中に、顔料を投入し、攪拌処理することにより、表面に酸性基を有する顔料を得ることができる。酸化剤の使用量及び反応温度を制御することで、カーボンブラック等の顔料の表面に酸性基を均一に導入することができる。
【0059】
さらに、カーボンブラック等の顔料の表面にジアゾニウム塩によるカップリング反応によりスルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基等のアニオン性基を導入したり、高温下で顔料と遊離酸素とを接触させることにより顔料表面にアニオン性基を導入したり、顔料表面を臭素及び水によって常圧下又は加圧下で処理することにより顔料表面にアニオン性基を導入する方法を挙げることができる。
<アニオン性低密度粒子>
【0060】
本発明で使用される低密度粒子は、粒子表面において負の電荷を有する、見かけ密度の低い粒子である。低密度粒子としては、有機又は無機の低密度粒子を使用でき、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
低密度粒子の見かけ密度は、0.1g/cm3~1.4g/cm3であることが好ましく、0.1g/cm3~1.0g/cm3であることがより好ましい。本発明において見かけ密度とは、粒子が液体中で排除する体積に対する粒子の質量であり、粒子が密実粒子である場合は真密度と等しいが、粒子が中空粒子である場合、空隙の占める体積を粒子体積から除外しない。
【0062】
低密度粒子は、その見かけ密度が低いことにより、複合着色粒子にクーロン力により複合化した際、複合着色粒子全体の見かけ密度を下げることができ、その結果、複合着色粒子がインク組成物内で沈降することを防止することができる。
【0063】
有機の低密度粒子としては、アニオン性低密度樹脂粒子を使用することができる。アニオン性低密度樹脂粒子は、粒子表面においてアニオン性を有し、低密度樹脂からなる粒子である。アニオン性低密度樹脂粒子を構成する低密度樹脂として、エチレン、プロピレン又はスチレン等のオレフィンを含む重合体及び共重合体が挙げられる。アニオン性基としては、スルホン基、カルボキシル基、リン酸基が挙げられる。
【0064】
アニオン性低密度樹脂粒子は、例えば、アニオン性基を有するモノマーを少なくとも一部使用して(共)重合する方法によって得ることができる。また、低密度樹脂粒子の表面の少なくとも一部をアニオン性基を有する材料で被覆する方法によって得ることができる。
【0065】
低密度樹脂粒子としては、空隙を有しない低密度樹脂からなる密実粒子を使用することができる。その場合、密実粒子を構成する低密度樹脂の密度(真密度)はより低い方が好ましく、具体的には1.4g/cm3以下、特に1.0g/cm3以下であることが好ましい。密実粒子としては、ポリオレフィン系樹脂粒子を使用することが好ましく、ポリエチレン系粒子及びポリプロピレン系粒子が特に好ましい。
【0066】
また、低密度樹脂粒子として、中空樹脂粒子が好ましく使用できる。中空樹脂粒子は、内部に空隙を有する中空構造からなる樹脂粒子である。中空樹脂粒子の空隙率としては、20%以上80%以下が好ましく、35%以上70%以下がより好ましい。中空粒子を使用する場合、低い見かけ密度が得られるが、見かけ密度が過度に低くなって粒子を構成するシェル層の厚みが薄くなると、破壊が生じやすくなり、安定して複合着色粒子を得ることが困難になる。
【0067】
中空樹脂粒子の構造としては、例えば、コア/シェル構造が挙げられる。コア/シェル構造のシェル層の厚みとしては、10nm以上20nm以下が好ましく、12nm以上15nm以下がより好ましい。中空樹脂粒子のシェル層の厚みが10nm以上であると、中空構造が壊れにくいため、密度を安定させて複合着色粒子を得ることができる。また、中空樹脂粒子のシェル層の厚みが20nm以下であると、密度を小さくさせて複合着色粒子を得ることができる。中空樹脂粒子の空隙率及びコア/シェル構造のシェル層の厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定される。
【0068】
低密度樹脂粒子として、市販のアニオン性中空樹脂粒子を使用することができる。市販品としては、例えば、スチレン-アクリル樹脂では、商品名:ローペイクOP-62(平均粒径:450nm、中空率:33%)、商品名:ローペイクOP-84J(平均粒径:550nm、中空率:20%、固形分42.5%)、商品名:ローペイクOP-91、商品名:ローペイクHP-1055(平均粒径:1,000nm、中空率:55%)、商品名:ローペイクHP-91(平均粒径:1,000nm、中空率:50%)、商品名:ローペイクULTRA(平均粒径:380nm、中空率:45%)(以上、ダウ・ケミカル社製);
【0069】
架橋型スチレン-アクリル樹脂では、商品名:SX-863(A)、商品名:SX-864(B)、商品名:SX-866(A)、商品名:SX-866(B)(平均粒径:300nm、中空率:30%)、商品名:SX-868(平均粒径:500nm)(以上、JSR株式会社製)、商品名:ローペイクULTRA E(平均粒径:380nm、中空率:45%)、商品名:ローペイクULTRA DUAL(平均粒径:380nm、中空率:45%)(以上、ダウ・ケミカル社製);変性スチレン-アクリル樹脂では、商品名:Nipol MH5055(平均粒径:500nm)、商品名:Nipol MH8101(平均粒径:1μm)(以上、日本ゼオン株式会社製)が挙げられる。
【0070】
無機の低密度粒子としては、充填されていない空隙を有する中空構造を内部に有する無機酸化物からなる中空無機粒子が好ましく、特に、中空ガラス粒子及び中空シリカ粒子が好ましい。中空無機粒子の空隙率としては、20%以上80%以下が好ましく、35%以上70%以下がより好ましい。
【0071】
本発明の低密度粒子として、市販品の中空無機粒子にアニオン性基を付与して使用することができる。低密度無機粒子の市販品としては、例えば、中空構造を内部に有するシリカ粒子である商品名:シリナックス(日鉄鉱業株式会社製)が挙げられる。
【0072】
中空ガラス粒子の表面にアニオン性基を付与する方法としては、例えば、前記した市販の中空ガラス粒子の表面の少なくとも一部をアニオン性基を有する樹脂等の材料を用いて被覆する方法が挙げられる。アニオン性基としては、スルホン基、カルボキシル基、リン酸基が挙げられる。
<複合化>
【0073】
本発明においては、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子と粒子表面において負の電荷を有する着色粒子及びアニオン性低密度粒子をクーロン力によって複合化することにより、複合着色粒子を製造することができる。
図1に、カチオン性樹脂粒子とアニオン性着色粒子及びアニオン性低密度粒子とがクーロン力によって複合化し、大粒径の複合着色粒子を形成することを模式的に示す。
【0074】
本発明の複合着色粒子は、カチオン性樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンに、アニオン性着色粒子を含む分散体及びアニオン性低密度粒子を含むエマルジョンを混合する複合化工程により製造することができる。
【0075】
前記複合化工程におけるカチオン性樹脂粒子とアニオン性着色粒子の配合比は、カチオン性樹脂粒子/アニオン性着色粒子の質量比(水性媒体等を除く)で、好ましくは1/0.1~1/50、より好ましくは1/0.5~1/10、さらに好ましくは1/1~1/5の範囲から選ばれる。カチオン性樹脂粒子とアニオン性低密度粒子の配合比は、カチオン性樹脂粒子/アニオン性低密度粒子の質量比(水性媒体等を除く)で、好ましくは1/0.1~1/50、より好ましくは1/0.5~1/10、さらに好ましくは1/1~1/5の範囲から選ばれる。
【0076】
複合化工程においては、カチオン性樹脂粒子を含む樹脂エマルジョン、アニオン性着色粒子を含む分散体及びアニオン性低密度粒子を用意する。それぞれのエマルジョン及び分散体は、粒子が水性媒体中に分散されている水性エマルジョンであることが好ましい。使用する水性媒体の密度は、粒子の密度に近いことが好ましい。
【0077】
それぞれの水性エマルジョンの媒体は、相互に相溶性を有する水溶性媒体であり、好ましくは、水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶液である。それぞれの水性エマルジョン中の水性媒体の含有量は、エマルジョン又は分散体全量に対して、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0078】
水溶性有機溶剤としては、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、グリコールエーテル、アセチン、ジアセチンなどの1価ないしは多価のアルコール、ε‐カプロラクタム、2-ピロリドン、N-メチルピロリドンなどのラクタム、ε‐カプロラクトン、δ‐バレロラクトンなどのラクトン、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシドなどが使用可能である。
【0079】
上述した水溶性有機溶剤の中でも、多価アルコール及びラクタムが好ましい。具体的には、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドンが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0080】
次に、カチオン性樹脂粒子エマルジョンにアニオン性着色粒子分散体及びアニオン性低密度粒子エマルジョンを混合する。混合の順序は、任意であるが、カチオン性樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンとアニオン性着色粒子を含む分散体を混合し、次いで、これにアニオン性低密度粒子を含むエマルジョンを混合することが好ましい。アニオン性着色粒子分散体とアニオン性低密度粒子エマルジョンは、別々にカチオン性樹脂粒子エマルジョンに混合することができるが、アニオン性着色粒子分散体とアニオン性低密度粒子エマルジョンを予め混合してからカチオン性樹脂粒子エマルジョンに混合することも好ましい。
【0081】
エマルジョン同士の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラーなどの撹拌装置を備えた容器に、それぞれのエマルジョンを投入して撹拌する方法が採用できる。その際、インク組成物を構成するために必要な成分を加えてもよい。
【0082】
複合化工程において、各エマルジョン又は分散体に含まれるカチオン性樹脂粒子、アニオン性着色粒子及びアニオン性低密度粒子は、クーロン力により静電気的に結合して大粒径の複合着色粒子を効果的に形成する。これにより得られる複合着色粒子は、粒子径が0.1μm未満の着色剤微粒子の含有量がきわめて少ないものであり、このことは本発明の効果を奏する上で効果的である。
【0083】
その際、一部の複合着色粒子同士が凝集して粒子径が例えば10μmを超える超大粒径の複合着色粒子凝集体を形成することがある。超大粒径の凝集体は筆記具用途に使用した際においてインクの詰まりや掠れ等の不都合を生じるため、かかる凝集体を破壊して個々の複合着色粒子に分散する解凝集工程を付加することが好ましい。
【0084】
解凝集工程として、ホモミキサー、ディスパー.ミキサー、ウルトラミキサー、ホモジナイザー等の撹拌機を使って撹拌する方法が挙げられる。解凝集工程によって、超大粒径の凝集体は破壊されて個々の複合着色粒子に転化し、複合着色粒子の良好な分散液を生成する。凝集体を破壊する際の撹拌条件を調整することによって、複合着色粒子の粒径を制御することができる。
以上の複合着色粒子の製造方法は、工業的に良好に実施することができる。
【0085】
すなわち、本発明の複合着色粒子の製造方法の好ましい一態様は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンに、粒子表面において負の電荷を有する着色粒子を含む分散体及び低密度粒子を含む分散体を混合する複合化工程、次いで、複合化工程において生成した凝集体を破壊する解凝集工程を含む複合着色粒子の製造方法である。
【0086】
本発明の複合着色粒子の粒子径は、粒子の頻度として、好ましくは、少なくとも95%が0.2μm~3.0μmの範囲内にあり、より好ましくは、少なくとも95%が0.2μm~2.0μmの範囲内にある。複合着色粒子の0.1μm未満の微粒子の含有量は、粒子の頻度として好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満である。
【0087】
本発明の複合着色粒子の見かけ密度は、0.6g/cm3~1.8g/cm3であることが好ましく、0.7g/cm3~1.4g/cm3であることがより好ましく、0.8g/cm3~1.2g/cm3であることがさらに好ましい。複合着色粒子の見かけ密度は、例えば、Z8807:2012の方法によって測定することができる。
【0088】
<水性インク組成物>
本発明の複合着色粒子は、筆記具(ボールペン、マーキングペン等)としての要求特性に応じて添加された他の成分を含有する水性媒体中に分散されて、筆記具用の水性インク組成物が構成される。前記水性媒体を構成する他の成分としては、pH調整剤、増粘剤、防錆剤、防腐剤、抗菌剤、潤滑剤、及び、分散媒としての溶剤などを挙げることができる。
【0089】
水性インク組成物における本発明の複合着色粒子の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは1~30質量%、さらに好ましくは3~20質量%とすることが、インクの色相を確保し、また、筆記時の掠れを防止する上で好ましい。
【0090】
インク組成物のpHを調整するためのpH調整剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、モルホリンなどのアミン類、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの四級アンモニウム類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機水酸化物類、炭酸(水素)ナトリウム、炭酸(水素)カリウム、炭酸(水素)リチウムなどの無機塩類が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
【0091】
水性インク組成物に配合される増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロース及び多糖類等が使用できる。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩が挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。
【0092】
水性インク組成物に配合される防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが使用できる。水性インク組成物に配合される防腐剤又は抗菌剤としては、フェノール類、安息香酸類、ベンズイミダゾール類、イソチアゾロン類、トリアジン類、ブロノポール類、チアベンダゾール類、ジンクピリチオン類、カルベンダジム類、オマジン類などが使用できる。
【0093】
水性インク組成物に配合される潤滑剤としては、多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステル、アルキルポリオキシアルキレン燐酸エステルなどのノニオン系潤滑剤、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、ポリエーテル変性シリコーンなどのシリコーン系潤滑剤が挙げられる。
【0094】
<分散媒>
水性インク組成物には、複合着色粒子の分散状態を安定化させ、筆記具用インクとしての使用性を確保するために、分散媒として水性媒体が配合される。水性インク組成物における水性媒体の配合量は、複合着色粒子100質量部に対し、3~300質量部が好ましく、5~100質量部がより好ましい。
【0095】
分散媒としては、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水等の水、水溶性有機溶剤又はその混合溶液からなる親水性の分散媒を使用することができ、好ましくは、水と少なくとも1種の水溶性有機溶剤からなる混合溶液を使用することができる。
【0096】
水性媒体に使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類又はその誘導体が使用できる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ジグリセリンが挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。水100質量部に対して水溶性有機溶剤を5~200質量部の比率で混合した混合溶剤が好ましい。
【0097】
また、分散媒として、親水性のノニオン系ポリマーを使用することができる。水性インク組成物に配合されるノニオン系ポリマーとしては、例えば、ポリエーテルが使用できる。具体的には、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルが挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。これらのノニオン系ポリマーを主溶媒として使用することで、熱変色性マイクロカプセルの経時的な凝集の発生が防止できる。
【0098】
水性インク組成物に配合されるポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテルは、各重合度のものが使用できるが、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、ポリプロピレングリコールでは重合度400~700(重量平均)の範囲のポリマーの使用が好ましく、ポリブチレングリコールでは重合度500~700(重量平均)の範囲のポリマーの使用が好ましい。
【0099】
前記水性媒体の密度は、配合される複合着色粒子の見かけ密度に近いことが好ましい。具体的には、0.6g/cm3~1.8g/cm3、より好ましくは0.7g/cm3~1.4g/cm3、さらに好ましくは0.8g/cm3~1.2g/cm3から選ばれる。密度の近い水性媒体を複合着色粒子と組み合わせることが、保存時にインク中で着色粒子が沈降分離することを抑制し、経時的な分散安定性に優れた筆記具用水性インク組成物を得るために好適である。
【0100】
筆記具用の水性インク組成物は、例えば、複合着色粒子及び水性インク組成物に配合される各成分を所定量配合し、ホモミキサーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することによって製造することができる。必要に応じて、ろ過や遠心分離によって水性インク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0101】
<筆記具>
本発明の水性インク組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップを筆記先端部に備えたサインペン体、マーキングペン体や、ボールペンチップを筆記先端部に備えたボールペン体などに搭載して使用に供され、本発明の水性インク組成物を搭載した筆記具は、分散安定性及び筆記性に優れるという利点を有する。
【実施例0102】
実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例等に限定されるものではない。なお、以下において、配合における「部」は質量部を意味する。
【0103】
<樹脂粒子>
カチオン性の樹脂粒子のエマルジョンとして、カチオン変性酢酸ビニル系樹脂、カチオン変性アクリル系樹脂又はカチオン変性ウレタン系樹脂のそれぞれの水性エマルジョンを使用した。
(樹脂粒子A-1)カチオン変性酢酸ビニル系樹脂としては、カチオン変性酢酸ビニル樹脂エマルジョン(ビニブラン1008;日信化学工業株式会社製)を使用した。
(樹脂粒子A-2)カチオン変性アクリル系樹脂としては、カチオン変性ポリビニルアルコール-アクリル樹脂エマルジョン(モビニール6950;ジャパンコーティングレジン株式会社製)を使用した。
(樹脂粒子A-3)カチオン変性ウレタン系樹脂としては、カチオン変性ウレタンエマルジョン(スーパーフレックス620;第一工業製薬株式会社製)を使用した。
(樹脂粒子A-4)比較として、ノニオン性変性酢酸ビニル系樹脂のエマルジョン(ビニブラン1002;日信化学工業株式会社製)を使用した。
【0104】
<着色粒子>
アニオン性の着色粒子としては、下記調製例1~3の方法により得られたアニオン性の着色粒子が水性媒体に分散した着色樹脂分散体を使用した。
【0105】
調製例1(着色粒子B-1)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、蒸留水329.5部、グリセリンモノメタクリレート(日油株式会社製、ブレンマーGLM)5部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム(三菱ケミカル株式会社製、アクリルエステルSEM-Na)5部、重合性界面活性剤(ADEKA株式会社製、アデカリアソープSE-10N、エーテルサルフェート)20部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0106】
一方、メタクリル酸シクロヘキシルモノマー55部と、他のモノマーとしてメタクリル酸n-ブチル35部とからなる混合モノマーに、金属錯体系の油溶性染料(クラリアント株式会社製、サビニールブルーGLS)40部、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製、タイク(TAIC))10部を混合した液を調製した。
この調製液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、染料を内包したアニオン性樹脂からなるアニオン性樹脂染料粒子B-1のエマルジョンを得た。
【0107】
得られたアニオン性染料粒子は、ゼータ電位の測定値が-58mVであり、アニオン性を有していた。また、得られたアニオン性染料粒子の平均粒子径は、0.04μmであった。
【0108】
調製例2(着色粒子C-1)
容器に、イオン交換水、水溶性有機溶剤、粘度調整剤、pH調整剤、分散剤及び顔料を前記の配合比率で順次加え、撹拌機で2時間のプレミキシングを行い、1mmジルコニアビーズミルにて分散処理を行い、遠心分離により不純物を除去し、さらにミクロフィルター(ポアサイズ5.0μm;ミリポア社製)を用いて減圧ろ過を行って、pH8.9のアニオン樹脂変性カーボンブラック粒子のエマルジョンを得た(C-1)。アニオン樹脂変性カーボンブラックからなるアニオン性樹脂変性顔料粒子C-1の平均粒子径は0.1μmであった。
【0109】
顔料:カーボンブラック(MCF88;三菱ケミカル株式会社製) 10質量%
分散剤:αメチルスチレン-アクリル共重合体(ジョンクリル61J、ジョンソン社製、30質量%水溶液) 10質量%
pH調整剤:アミノメチルプロパノール 0.1質量%
粘度調整剤:ポリビニルピロリドン 5質量%
水溶性有機溶剤:プロピレングリコールモノエチルエーテル 5質量%
イオン交換水 69.9質量%
【0110】
調製例3(着色粒子C-2)
表面がアニオン性に変性されたアニオン性顔料粒子C-2として、カーボンブラックの表面に酸性基が付与された自己分散型カーボンブラック(商品名CAB-O-JET200;キャボット・スペシャリティ社製)のエマルジョンを使用した。
【0111】
<低密度粒子>
アニオン性低密度粒子としては、下記調製例4~6の方法により得られたアニオン性の低密度粒子が水性媒体に分散した低密度粒子エマルジョンを使用した。
【0112】
調製例4(低密度粒子D-1)
アニオン性密実樹脂粒子からなる低密度粒子D-1として、アニオン性を有する密実構造の変性ポリエチレン樹脂粒子(商品名ケミパールA-100、三井化学株式会社製、密度0.89g/cm3)の固形分濃度40%のエマルジョンを調製した。
【0113】
調製例5(低密度粒子D-2)
アニオン性中空樹脂からなる低密度粒子D-2として、アニオン性を有する中空構造の架橋型変性スチレン-アクリル樹脂粒子(商品名:ローペイクULTRA E、ダウ・ケミカル社製、中空率:45%、屈折率:1.6、体積平均粒径:500nm)の固形分濃度30%のエマルジョンを調製した。
【0114】
調製例6(低密度粒子D-3)
アニオン性中空無機材からなる低密度粒子D-3として、中空構造のシリカ粒子からなる微小中空球(商品名:シリナックス、日鉄鉱業株式会社製;見かけ密度0.13g/cm3、粒子径(メジアン径)130nm、ガラス厚15nm)を使用して、これを下記の組成で混合してアニオン性分散剤を吸着させることにより、アニオン性が付与されたアニオン性変性低密度粒子D-3の固形分濃度30質量%のエマルジョンを製造した。
【0115】
微小中空球(商品名:シリナックス、日鉄鉱業株式会社製) 8質量%
ジョンクリル63J(BASF JAPAN社) 6質量%
バイオデンS(日本曹達社) 0.2質量%
トリエタノールアミン 1.4質量%
プロピレングリコール 15質量%蒸留水 残部
【0116】
実施例1~5、比較例1~2
表1に示す組み合わせ及び質量比(固形物の質量比)で、前記した各種のカチオン性樹脂粒子エマルジョンA-1~A-4に調製例1~3で作成したアニオン性着色粒子エマルジョンB-1又はC-1~C-2のいずれかを加えて混合し、次いで調製例4~6で作成したアニオン性低密度粒子エマルジョンD-1~D-3のいずれかを加え(又は加えずに)、撹拌機を用いて混合し、R-1~R-7の水性分散体を得た。次いで、ホモミキサーを用いて強く撹拌を行うことにより解凝集を行い、実施例としてアニオン性低密度粒子を含有する複合着色粒子P-1~P-5を、比較例としてアニオン性低密度粒子を含有しない複合着色粒子Q-1~Q-2をいずれも固形分濃度20質量%の水性分散体状態で得た。
【0117】
さらに、実施例1~5及び比較例1~2で作成した、解凝集操作を行った後の複合着色粒子について、粒子径の頻度分布を測定し、特定の粒子径範囲を有する複合着色粒子が該複合着色粒子全体に占める頻度割合(%)を求めた。結果を表2に示す。
これらの図及び表により、本発明の複合着色粒子は大粒径の粒子で構成され、小粒径の染料含有微粒子がほとんど含まれないことが明らかである。
【0118】
なお、カチオン性樹脂粒子、カチオン性低密度樹脂粒子及び複合着色粒子の粒子径分布は、粒子径分布解析装置(マイクロトラックHRA9320-X100;日機装株式会社製)を用いて、レーザー回折法により測定した。アニオン性染料含有粒子の粒子径分布は、濃厚系粒径アナライザー(FPAR-1000;大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により測定した。
【0119】
【0120】
【0121】
実施例11~19及び比較例11~12
実施例としてP-1~P-5、比較例としてQ-1~Q-2の複合着色粒子のエマルジョンをそれぞれ使用し、pH調整剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤及び分散媒を表3に示す組み合わせ及び重量比で配合、混合し、一部の凝集物を除去し、水性インク組成物の分散体を調製した。
【0122】
実施例11~19のインク組成物は、本発明の水性インク組成物である。比較例11のインク組成物は、カチオン性樹脂粒子を使用しない例であり、比較例12のインク組成物は、アニオン性低密度粒子を使用しない例である。
【0123】
[筆記具用水性インク組成物の評価]
〔ボールペンの作製〕
実施例1~5及び比較例1~5で得られた水性インク組成物を用いてボールペンを作製した。具体的には、透明ポリプロピレン製インク収容管(内径3.8mm、長さ113mm)と直径0.5mmの超硬合金製ボールを備えたステンレス製チップからなるリフィールを作成し、これに各水性インク組成物を0.8g充填し、インク収容管後端に鉱油を主成分とするインク追従体を充填した。得られたリフィールを、ボールペン(三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM-100)の軸に装填してボールペンを作製した。
【0124】
<インク組成物の評価>
前記した各実施例及び比較例の各ボールペンを用いて、下記評価方法により分散安定性及び筆記性の評価を行った。
【0125】
(1)分散安定性の評価
各ボールペンをキャップし、ペン先を下方にした状態で垂直に立て、25℃の室内に60日間静置した後、リフィールを取り出して、充填されたインクの状態を観察し、評価した。
分散安定性の評価基準:
A:リフィールのいずれの部分にも凝集物が認められなかった
B:リフィールの表層部又は底部に僅かながら凝集物が認められた
C:リフィールの表層部又は底部に大きな凝集物が認められた
【0126】
(2)筆記性の評価
各ボールペンをキャップした状態でチップを下方にして垂直に立て、25℃の室内に60日間静置した後、ISO規格141415-1に準拠した筆記試験機を用いて旧JISP3201に準拠した筆記用紙Aに筆記し、筆跡を評価した。筆記条件は、温度20℃、ペン角度70度、ペン先荷重100g、及び筆記速度4m/分とした。
筆跡の評価基準:
A:筆跡のカスレ、割れが認められなかった
B:筆跡のカスレ、割れが部分的に認められた
C:筆跡のカスレ、割れが顕著に発生した
【0127】
(3)耐滲み性の評価
上記で作製したボールペンを用いて、25℃、60%RH下で、PPC用紙に荷重100g、筆記角度60°で直線を引き、引き終えた最終点において、ボールペンのチップをPPC紙面から離すことなく10秒間保持し、その後ボールペンを紙面から離した。紙面の最終点に残されたインクの最大直径をルーペで測定した。測定された直径の小ささを接触直流度合いとして下記評価基準で耐滲み性を評価した。
評価基準:
A:紙面のインクの直径が1.0mm未満
B:紙面のインクの直径が1.0mm以上2.0mm未満
C:紙面のインクの直径が2.0mm以上
【0128】
評価結果を表3に示す。実施例11~19において、本発明の複合着色粒子を配合した水性インク組成物の良好な分散安定性及び筆記性が示された。
【0129】
本発明の複合着色粒子を配合したインク組成物は、サインペン、マーキングペン、ボールペン等の筆記具の用途に好適に利用できる。本発明によれば、インク組成物に優れた使用性を付与する複合着色粒子が工業的に有利に生産される。