(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190278
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】光学式距離測定装置の較正装置
(51)【国際特許分類】
G01C 3/00 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G01C3/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098530
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】大久保 史人
【テーマコード(参考)】
2F112
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA06
2F112CA12
2F112DA13
2F112FA50
(57)【要約】
【課題】恒温槽内を低温としたときでも光学式距離測定装置のレーザー照射口のガラス面が結露または凍結することを抑制し、正確な較正をすることが可能な較正装置を提供すること。
【解決手段】光学式距離測定装置4を収容する収容部3を有し、収容部3内の温度を一定に保つことが可能な恒温槽2を備えた光学式距離測定装置の較正装置1であって、収容部3の一部が、外部と連通する投光孔34が形成された遮蔽部材32によって覆われ、投光孔34の周縁に、収容部3に収容された光学式距離測定装置4から射出されるレーザー光Lの進路を妨げることなく、収容部3の外部に向けて送風することが可能な送風機5を備えたことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学式距離測定装置を収容する収容部を有し、前記収容部内の温度を一定に保つことが可能な恒温槽を備えた光学式距離測定装置の較正装置であって、
前記収容部の一部が、外部と連通する投光孔が形成された遮蔽部材によって覆われ、
前記投光孔の周縁に、収容部に収容された光学式距離測定装置から射出されるレーザー光の進路を妨げることなく、前記収容部の外部に向けて送風することが可能な送風機を備えたことを特徴とする光学式距離測定装置の較正装置。
【請求項2】
前記送風機は、
風を発生させるファンを備えた吸気部と、
先端側及び基端側の端部が開口した筒状の筒部とを備え、
前記筒部は、外壁と内壁との間に前記吸気部で発生させた風を受け入れる中空通路を備え、内壁に前記風を吐出するスリットが形成されている請求項1に記載の光学式距離測定装置の較正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式距離測定装置の較正装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、投射したレーザー光が測定対象物に当たって反射し戻ってくるまでの時間から、測定対象物までの距離を測定する光学式距離測定装置が知られている。特許文献1には、温度変化に起因する誤差を除去するために、前記時間に基づいて演算された測定対象物までの距離が、本体内の温度に対応する距離補正値データによって補正される距離測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
発明者は、温度変化による演算値の誤差を補正するための補正データを取得する手段のひとつとして、光学式距離測定装置を収容可能な恒温槽を備えた較正装置を開発した。較正試験では、恒温槽内部の光学式距離測定装置から恒温槽外部の測定対象物に向けてレーザー光を投射するが、その際にレーザー光の径路を妨げないように恒温槽の扉が開放状態となることにより、恒温槽内の温度制御が困難となる。そこで、発明者は、恒温槽に外扉と、レーザー光が通過できる投光孔を形成した内扉とを設け、内扉より奥側に光学式距離測定装置を設置し、温度制御が容易な較正装置とした。
【0005】
しかし、恒温槽の内部を-30℃のような低温環境とした場合に外扉を開放状態とすると、内扉に設けた投光孔から室温の外気が光学式距離測定装置周辺に入り込み、光学式距離測定装置のレーザー照射口に備えられたガラス面が結露または凍結して、正確な光量調整が困難となる問題があった。前記ガラス面の結露または凍結を防ぐために、投光孔をガラス等の透光性材料で塞ぐ方法も考えられるが、その場合、透過率低下や戻り光の乱反射によって正確な光量調整ができないおそれがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、恒温槽内を低温としたときでも光学式距離測定装置のレーザー照射口のガラス面が結露または凍結することを抑制し、正確な較正をすることが可能な較正装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、光学式距離測定装置を収容する収容部を有し、前記収容部内の温度を一定に保つことが可能な恒温槽を備えた光学式距離測定装置の較正装置であって、前記収容部の一部が、外部と連通する投光孔が形成された遮蔽部材によって覆われ、前記投光孔の周縁に、収容部に収容された光学式距離測定装置から射出されるレーザー光の進路を妨げることなく、前記収容部の外部に向けて送風することが可能な送風機を備えたことを特徴とする光学式距離測定装置の較正装置とする。
【0008】
また、前記送風機は、風を発生させるファンを備えた吸気部と、先端側及び基端側の端部が開口した筒状の筒部とを備え、前記筒部は、外壁と内壁との間に前記吸気部で発生させた風を受け入れる中空通路を備え、内壁に前記風を吐出するスリットが形成されている構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、低温環境下でも光学式距離測定装置のレーザー照射口のガラス面が結露または凍結することを抑制し、正確な較正をすることが可能な較正装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の較正装置と、較正装置の正面側に設置されたターゲットの斜視図である。
【
図2】
図1の較正装置及びターゲットの断面図である。
【
図3】実施形態の収容部の斜視図である。ただし、投光孔に送風機が取り付けられていない状態を表している。
【
図6】
図5の部分拡大図である。収容部内の温度を、恒温槽外部の温度より低温に設定した場合の空気の流れを矢印で表している。
【
図9】
図8のA-A断面図である。ただし、収容部内の温度を、恒温槽外部の温度より低温に設定した場合の空気の流れを矢印で表している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に発明を実施するための形態を示す。
図1~
図2に示すように、本実施形態の較正装置1は、光学式距離測定装置4を収容する収容部3を有し、収容部3の内部を温度制御手段によって所定の温度条件に保つことが可能な恒温槽2を備えている。実施形態の恒温槽2は、前面に設けられた開口部21と、開口部21の全面を覆うことが可能な外扉22とを備え、開口部21から奥行方向へ箱型に形成された凹部が収容部3となっている。収容部3の一部は、外部と連通する投光孔34が形成された遮蔽部材32によって覆われる。実施形態の遮蔽部材32は、収容部3に収容された光学式距離測定装置4の前側に、収容部3の断面を覆うように設けられている。
【0012】
較正装置1の正面側には、開口部21と対向する向きで測定対象物である板状のターゲット9が設けられている。実施形態のターゲット9は、収容部3に収容された光学式距離測定装置4からの距離Dだけ離れた位置において、光学式距離測定装置4から射出されるレーザー光Lが垂直に当たるように設置されている。なお、この距離Dは任意の値とすることができる。
【0013】
実施形態の光学式距離測定装置4は、投射したレーザー光Lが測定対象物まで往復してくる時間から、測定対象物までの距離を演算することができるものである。実施形態において較正試験を行うときは、収容部3に光学式距離測定装置4を収容し、収容部3を所定の温度に制御した後、恒温槽2の外扉22を開放し、光学式距離測定装置4からターゲット9に向けてレーザー光Lを射出し、ターゲット9から反射して戻ってきたレーザー光Lを受光するまでの時間に基づいて、ターゲット9までの距離を算出させる。本実施形態では、光学式距離測定装置4が屋外で使用されることを想定して、収容部3の内部温度を氷点下環境温度~猛暑環境温度の範囲で制御する。各温度帯において、光学式距離測定装置4によって算出されたターゲット9までの距離が、所定の値の範囲内となるように光学式距離測定装置4の調整を行う。
【0014】
ここで、収容部3について説明する。
図2に示すように、実施形態の収容部3は、遮蔽部材32によって奥側の空間が遮蔽されている。遮蔽部材32より奥側は、光学式距離測定装置4を設置する設置空間35とする。設置空間35には、
図3~
図4に示すように、複数台の光学式距離測定装置4を収容可能な設置台31を設けてもよい。実施形態の設置台31は、左右方向に2列、上下方向に4段の区画が形成され、各区画内に最大で3台の光学式距離測定装置4を収容することができ、一度に複数台の検査や較正を行うことが可能となっている。光学式距離測定装置4は、レーザー光を射出するレーザー照射口41が正面側を向くように設置台31内に設置される。
【0015】
なお、実施形態では、設置台31の前面に設けられた内扉322と、その上下を覆う遮蔽板321とが、遮蔽部材32として機能している。実施形態では、設置台31の1区画につき1枚、合計8枚の内扉322が設けられ、区画ごとに内扉322の開閉ができるようになっている。各内扉322には把手33が取り付けられている。これらの遮蔽部材32によって収容部3の断面が覆われるため、恒温槽2の外扉22を開放した状態であっても、遮蔽部材32より奥側の設置空間35では温度変動が抑制され、光学式距離測定装置4を所定の温度に保つことが可能となる。
【0016】
内扉322には、設置空間35の内部と外部とが連通する投光孔34が形成されている。設置台31に設置された光学式距離測定装置4から射出されたレーザー光Lは、この投光孔34を通過してターゲット9へ向かう。内扉322に投光孔34が形成されていることにより、内扉322を開放しなくても収容部3の内部から外部へ向けてレーザー光Lを投光することができ、設置空間35の密閉性を高めることができる。また、投光孔34は、使わないときは閉状態とし、使うときに開状態とする構造とすれば、さらに設置空間35内の密閉性を高めて温度変動を抑制できるため好ましい。
【0017】
また、本実施形態では、
図4~
図6に示すように、投光孔34の周縁に送風機5が設けられる。実施形態の送風機5は、後段で詳述するように、内扉322に取り付けられて、設置空間35の内側から外側へ向かう空気の流れを形成することができるものである。なお、
図4~
図6には送風機5が1台設けられた状態が示されているが、設置空間35の設定温度や設置される光学式距離測定装置4の数などに応じ、適宜必要な数の送風機5を設けることができる。また、
図6には、収容部3の温度を恒温槽2の外部の温度より低温に設定した場合において、送風機5を設けた場合と設けない場合における空気の流れが図示されている。
【0018】
図6に示す例で、内扉322に送風機5が設けられていない上段側の区画においては、投光孔34を通じて設置空間35の冷気C1の一部が外部へ流出し、冷気C1より高温の外気OA1が設置空間35に流入する。このとき、光学式距離測定装置4のレーザー照射口41に設けられたガラス面(図示せず)に結露や着霜または凍結が生じるおそれがある。前記ガラス面に結露等が生じると、前記ガラス面の透過性が低下し、正確な較正を行うことが困難になる。
【0019】
一方、
図6に示す下段側の区画のように、投光孔34に対応する位置に送風機5を設けた場合、送風機5によって設置空間35の内部から外部へと向かう空気の流れF2が形成される。これにより、設置空間35の冷気C2より高温の外気OA2が、設置空間35に流入することが抑制される。したがって、光学式距離測定装置4のレーザー照射口41に設けられたガラス面に結露や着霜または凍結が生じることを抑制することが可能となる。なお、実施形態の送風機5は、投光孔34の周縁において投光孔34の開口を塞がないように取り付けられるため、投光孔34を通過するレーザー光Lの進路が妨げられない。
【0020】
ここで、送風機5について説明する。
図7~
図9に示すように、実施形態の送風機5は、風を発生させるファン511を内部に備えた吸気部51と、先端側に先端側開口部531が、基端側に基端側開口部532が開口し、両開口部531、532の間に空間部53が形成された筒状の筒部52とを備えている。本実施形態では筒部52を円筒形状としているが、これに限定されず、矩形など他の形状とすることもできる。筒部52は吸気部51と接続され、吸気部51で発生させた風を筒部52の内部へ導入することができる。
【0021】
図9に示すように、筒部5は外壁521と内壁522とによる中空壁によって円筒状に形成され、外壁521と内壁522との間は、吸気部51で発生させた風を受け入れる中空通路523となっている。また、内壁522には、吸気部51から中空通路523に流入した前記風を、筒部52の内側の空間部53へ吐出する吐出口となるスリット54が形成されている。スリット54は、筒部52の内壁のほぼ全周にわたり連続して形成されていることが好ましい。
図9に示すように、実施形態のスリット54は、内壁522の基端側開口部531に近い位置において環状となるように、内壁522と、端部が断面コ字状に形成された外壁521との間の狭い隙間として設けられ、外壁521の端部によって、風が先端側開口部531側へ吹き出すようにガイドされている。
【0022】
前記した構造の送風機5では、吸気部51内のファン511が作動すると、
図9に示すように、送風機5の内側に空気を吸い込む流れである吸気F1が発生する。吸気F1は、筒部52の中空通路523に流入し、細いスリット54から空間部53へと吐出される。このとき、スリット54から先端側開口部531に向かって吐出される吸気F1は風速が大きいため、空間部53において先端側開口部531へ向かう強い空気の流れF2が生じる。
【0023】
送風機5は、投光孔34の周縁において、投光孔34を通過するレーザー光Lが空間部53を通過可能な位置に取り付けられる。このとき、空間部53は、レーザー光Lの進路を妨げないように、レーザー光Lの径路より大きい内径を有し、かつ、レーザー光Lの径路に干渉しない位置に配置されることが好ましい。なお、実施形態の送風機5は、空間部53の内径が投光孔34の内径より大きくなるように形成されていて、内扉322の前面側において、空間部53の中心軸と投光孔34の中心軸とがほぼ一致する位置に配置される。
【0024】
また、送風機5は、先端側開口部531がターゲット9と対向し、基端側開口部532が設置空間35に収容された光学式距離測定装置4と対向する向きで配置されるので、送風機5の作動時には、
図9に示すように設置空間35の内側から外側へ向かう空気の流れが形成される。これにより、設置空間35内の冷気C2が設置空間35の外側へ吹き出す勢いが強くなり、暖かい外気OA2が設置空間35の内側へ入ってくることを抑制することができる。
【0025】
このようにして、本発明では、低温環境下でも光学式距離測定装置4のレーザー照射口41のガラス面が結露または凍結することを抑制し、正確な較正をすることが可能な較正装置1を提供することができる。
【0026】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 較正装置
2 恒温槽
21 開口部
22 外扉
3 収容部
31 設置台
32 遮蔽部材
321 遮蔽板
322 内扉
33 把手
34 投光孔
35 設置空間
4 光学式距離測定装置
41 レーザー照射口
5 送風機
51 吸気部
511 ファン
52 筒部
53 空間部
531 先端側開口部
532 基端側開口部
54 スリット
9 ターゲット
D 距離
L レーザー光
C1、C2 冷気
OA1、OA2 外気
F1:吸気
F2:空気の流れ