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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190281
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】カード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/305 20140101AFI20221219BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20221219BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221219BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20221219BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B42D25/305 100
B05D7/00 K
B05D7/24 302C
B05D3/12 E
B32B5/28 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098536
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土岐 謙次
【テーマコード(参考)】
2C005
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
2C005MA07
2C005MA28
2C005MB08
2C005PA04
4D075AA01
4D075AC21
4D075AC57
4D075AE03
4D075AE05
4D075BB16X
4D075BB20Z
4D075BB56Z
4D075BB60Z
4D075CA07
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB00
4D075CB06
4D075DA06
4D075DB20
4D075DB38
4D075DC21
4D075EA06
4D075EA35
4D075EB07
4D075EB08
4F100AB01B
4F100AJ02A
4F100AJ02B
4F100BA02
4F100CA13B
4F100CC00B
4F100DE01B
4F100DE02B
4F100DG12A
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ86
4F100GB41
4F100GB71
4F100HB00B
4F100JG06
4F100JL10B
(57)【要約】
【課題】ICカード又は磁気カードとして十分な強度を備え、かつ自然界で分解可能なカード及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カード1は、織布4と織布4に浸潤して硬化した糊漆とからなる少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層3と、硬化した漆塗料からなり織布含有硬化糊漆層3に接着している漆塗膜層2とを備え、漆塗膜層2の織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出する電子素子5を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布と該織布に浸潤して硬化した糊漆とからなる少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層と、硬化した漆塗料からなり該織布含有硬化糊漆層に接着している漆塗膜層とを備え、
該漆塗膜層と該織布含有硬化糊漆層とのいずれか一方又は両方の表面に露出する電子素子を備えることを特徴とするカード。
【請求項2】
請求項1記載のカードにおいて、前記電子素子は、磁気ストライプ又は、ICチップであることを特徴とするカード。
【請求項3】
織布と該織布に浸潤して硬化した糊漆とからなり互いに重なり合う複数の織布含有硬化糊漆層と、硬化した漆塗料からなり該織布含有硬化糊漆層に接着している漆塗膜層とを備え、
複数の該織布含有硬化糊漆層の層間に電子素子を備えることを特徴とするカード。
【請求項4】
請求項3記載のカードにおいて、前記電子素子は、ICモジュール又は、アンテナシートであることを特徴とするカード。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項記載のカードにおいて、前記漆塗膜層は前記織布含有硬化糊漆層と反対側の表面に露出する、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含むことを特徴とするカード。
【請求項6】
漆塗膜層が剥離可能な基板表面の所定の位置に電子素子を配置する工程と、
該電子素子が配置された該基板表面に漆塗料を塗布する工程と、
該漆塗料を乾燥硬化させて該電子素子を含む漆塗膜層を形成する工程と、
該漆塗膜層の該基板と反対側の面に織布を積層し、該織布に糊漆を浸潤させ、乾燥硬化させる操作を少なくとも1回行い少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層を形成する工程と、
少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層が形成された該漆塗膜層を該基板から剥離して、該漆塗膜層の該織布含有硬化糊漆層と反対側の表面に露出する電子素子を備えるカードを得る工程と、
を備えることを特徴とするカードの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のカードの製造方法において、前記電子素子は、磁気ストライプ又は、ICチップであることを特徴とするカードの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7記載の漆塗膜カードの製造方法において、
前記漆塗膜層が剥離可能な基板表面の所定の位置に電子素子を配置する工程に先立って、
該基板表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を配置する工程を備えることを特徴とするカードの製造方法。
【請求項9】
漆塗膜層が剥離可能な基板表面に漆塗料を塗布する工程と、
該漆塗料を乾燥硬化させて漆塗膜層を形成する工程と、
該漆塗膜層の該基板と反対側の面に織布を積層し、該織布に糊漆を浸潤させ、乾燥硬化させる操作を少なくとも1回行い少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層を形成する工程と、
該織布含有硬化糊漆層の上の所定の位置に電子素子を配置する工程と、
該電子素子が配置された該織布含有硬化糊漆層の上に織布を積層し、該織布に糊漆を浸潤させ、乾燥硬化させる操作を少なくとも1回行い少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層を形成する工程と、
複数の織布含有硬化糊漆層が形成された該漆塗膜層を該基板から剥離して、複数の織布含有硬化糊漆層の層間に電子素子を備える漆塗膜カード得る工程と、
を備えることを特徴とするカードの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のカードの製造方法において、前記電子素子は、ICモジュール又は、アンテナシートであることを特徴とするカードの製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10記載のカードの製造方法において、
前記漆塗膜層が剥離可能な基板表面に漆塗料を塗布する工程に先立って、該基板表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を配置する工程を備えることを特徴とするカードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀行のキャッシュカード、クレジットカード、ポイントカード等の各種カードとして、合成樹脂製の基材内部に半導体メモリー等のICモジュールを内蔵するICカード、該基材表面に磁気ストライプを備える磁気カード等のカードが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところが、前記カードに用いられる合成樹脂は自然界で分解されることがないため、廃棄された場合に環境負荷が大きいという問題がある。
【0004】
一方、非浸透性かつ可撓性のある基材上に漆塗料等を塗り重ねた積層体を形成し、前記積層体を前記基材から離型させることにより得られる漆製品が知られている(例えば、特許文献2参照)。前記漆製品は漆塗料という天然素材からなるので、自然界で分解可能であり、廃棄された場合に環境負荷を低減できると考えられる。そこで、前記漆製品を基材として、前記ICカード又は前記磁気カードを製造することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-41272号公報
【特許文献2】特許第6239388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2記載の漆製品は前記漆塗料の塗り重ねにより形成されているため、前記ICカード又は前記磁気カードとした場合に十分な強度を得ることができないことがあるという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、前記ICカード又は前記磁気カードとして十分な強度を備え、かつ自然界で分解可能なカード及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、漆塗料等を塗り重ねた積層体からなる漆製品に十分な強度を付与する手段について検討した。この結果、本発明者は、織布と該織布に浸潤して硬化した糊漆とからなる少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層と、硬化した漆塗料からなり該織布含有硬化糊漆層に接着している漆塗膜層とからなる漆製品は、例えば、15~17N/mm2の範囲の引張応力を備えており、該引張応力は前記ICカード又は前記磁気カードとして十分な強度であることを知見した。
【0009】
そこで、本発明の第1の態様のカードは、織布と該織布に浸潤して硬化した糊漆とからなる少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層と、硬化した漆塗料からなり該織布含有硬化糊漆層に接着している漆塗膜層とを備え、該漆塗膜層と該織布含有硬化糊漆層とのいずれか一方又は両方の表面に露出する電子素子を備えることを特徴とする。前記本発明の第1の態様のカードにおいて、前記電子素子は、磁気ストライプ又は、ICチップである。
【0010】
本発明の第1の態様のカードによれば、前記少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層と硬化した漆塗料からなり該織布含有硬化糊漆層に接着している漆塗膜層とを備えることにより、前記ICカード又は前記磁気カードとして十分な強度を得ることができ、該漆塗膜層と該織布含有硬化糊漆層とのいずれか一方又は両方の表面に露出する前記電子素子が磁気ストライプである場合には磁気カードとして、前記電子素子がICチップである場合には接触型ICカードとして用いることができる。
【0011】
また、本発明の第2の態様のカードは、織布と該織布に浸潤して硬化した糊漆とからなり互いに重なり合う複数の織布含有硬化糊漆層と、硬化した漆塗料からなり該織布含有硬化糊漆層に接着している漆塗膜層とを備え、複数の該織布含有硬化糊漆層の層間に電子素子を備えることを特徴とする。前記本発明の第2の態様のカードにおいて、前記電子素子は、ICモジュール又は、アンテナシートである。
【0012】
本発明の第2の態様のカードによれば、織布と該織布に浸潤して硬化した糊漆とからなり互いに重なり合う複数の織布含有硬化糊漆層と、硬化した漆塗料からなり該織布含有硬化糊漆層に接着している漆塗膜層とを備えることにより、前記ICカードとして十分な強度を得ることができ、複数の該織布含有硬化糊漆層の層間に電子素子としてICモジュール又は、アンテナシートを備えることにより、非接触型ICカードとして用いることができる。
【0013】
また、本発明の第1又は第2の態様のカードによれば、前記電子素子を除く構成要素がすべて天然物のみで構成されており、廃棄した際に自然界で分解可能であり、環境負荷を低減することができる。
【0014】
また、本発明の第1又は第2の態様のカードにおいて、前記漆塗膜層は前記織布含有硬化糊漆層と反対側の表面に露出する、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含むことが好ましい。本発明の第1又は第2のカードにおいて、前記漆塗膜層は前記織布含有硬化糊漆層と反対側の表面に前記少なくとも1種の材料が露出していることにより、該材料による各種装飾を施すことができる。
【0015】
本発明の第1の態様のカードは、漆塗膜層が剥離可能な基板表面の所定の位置に電子素子を配置する工程と、該電子素子が配置された該基板表面に漆塗料を塗布する工程と、該漆塗料を乾燥硬化させて該電子素子を含む漆塗膜層を形成する工程と、該漆塗膜層の該基板と反対側の面に織布を積層し、該織布に糊漆を浸潤させ、乾燥硬化させる操作を少なくとも1回行い少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層を形成する工程と、少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層が形成された該漆塗膜層を該基板から剥離して、該漆塗膜層の該織布含有硬化糊漆層と反対側の表面に露出する電子素子を備えるカードを得る工程と、を備える製造方法により有利に製造することができる。
【0016】
また、本発明の第1の態様のカードを製造する際には、前記漆塗膜層が剥離可能な基板表面の所定の位置に電子素子を配置する工程に先立って、該基板表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を配置する工程を備えることが好ましい。前記基板表面の所定の位置に電子素子を配置する工程に先立って、該基板表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を配置する工程を備えることにより、少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層が形成された該漆塗膜層を該基板から剥離したときに、前記漆塗膜層の前記織布含有硬化糊漆層と反対側の表面に、該材料による各種装飾が施された第1の態様のカードを得ることができる。
【0017】
また、本発明の第2の態様のカードは、漆塗膜層が剥離可能な基板表面に漆塗料を塗布する工程と、該漆塗料を乾燥硬化させて漆塗膜層を形成する工程と、該漆塗膜層の該基板と反対側の面に織布を積層し、該織布に糊漆を浸潤させ、乾燥硬化させる操作を少なくとも1回行い少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層を形成する工程と、該織布含有硬化糊漆層の上の所定の位置に電子素子を配置する工程と、該電子素子が配置された該織布含有硬化糊漆層の上に織布を積層し、該織布に糊漆を浸潤させ、乾燥硬化させる操作を少なくとも1回行い少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層を形成する工程と、複数の織布含有硬化糊漆層が形成された該漆塗膜層を該基板から剥離して、複数の織布含有硬化糊漆層の層間に電子素子を備える漆塗膜カード得る工程と、を備える製造方法により有利に製造することができる。
【0018】
また、本発明の第2の態様のカードを製造する際には、前記漆塗膜層が剥離可能な基板表面に漆塗料を塗布する工程に先立って、該基板表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を配置する工程を備えることが好ましい。前記基板表面に漆塗料を塗布する工程に先立って、該基板表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層、金属粉、金属片、貝殻からなる群から選択される少なくとも1種の材料を配置する工程を備えることにより、少なくとも1つの織布含有硬化糊漆層が形成された該漆塗膜層を該基板から剥離したときに、前記漆塗膜層の前記織布含有硬化糊漆層と反対側の表面に、該材料による各種装飾が施された第2の態様のカードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の態様のカードの一構成例を示す説明的断面図。
図2】A~Gは本発明の第1の態様のカードの製造方法を示す説明的断面図。
図3】本発明の第2の態様のカードの一構成例を示す説明的断面図。
図4】A~Hは本発明の第2の態様のカードの製造方法を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0021】
まず、図1を参照して、本実施形態の第1の態様のカード1について説明する。カード1は、漆塗膜層2と、4層の織布含有硬化糊漆層3とからなる。漆塗膜層2は硬化した漆塗料からなり、織布含有硬化糊漆層3に接着している。織布含有硬化糊漆層3は、織布4と、織布4に浸潤して硬化した糊漆からなる。この結果、カード1は、15~17N/mm2の範囲の引張応力を備えている。
【0022】
また、漆塗膜層2は、織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出する電子素子としての磁気ストライプ5と、織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出する材料としての顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8を備えている。
【0023】
カード1は、磁気ストライプ5に代えてICチップを備えていてもよい。カード1は、磁気ストライプ5を備える場合には磁気カードとなり、ICチップを備える場合には接触型ICカードとなる。尚、カード1において、磁気ストライプ5は紙面に垂直な方向に延在している。
【0024】
また、カード1は、漆塗膜層2の織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出する材料としての顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8により装飾することができる。前記顔料を含む漆塗膜層6は、一般に色漆と呼ばれるものからなり、該色漆に含まれる前記顔料としては、酸化第二鉄(弁柄)、二酸化チタン(チタン白)等を挙げることができる。前記色漆は、例えば、堤淺吉漆店(京都府)から入手することができる。
【0025】
前記金属片7としては、金粉、銀粉等の金属粉又は、金箔、銀箔等の金属箔を用いることができる。また、前記貝殻8としては、貝殻内面の真珠層部分等を用いることができる。
【0026】
カード1は、漆塗膜層2の織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出する材料として、前記顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8の全てを備えている必要はなく、いずれか1種又は2種の材料を備えるだけであってもよい。また、装飾を必要としない場合、カード1は、前記顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8を全く備えていなくてもよい。
【0027】
次に、図2を参照して、本実施形態のカード1の製造方法について説明する。カード1を製造するときには、まず、図2Aに示すように、漆塗膜層2が剥離可能な基板9の表面の所定の位置に、磁気ストライプ5と、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8とを配置する。尚、カード1の製造方法では、磁気ストライプ5に代えて図示しないICチップを用いてもよく、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8はそのいずれか1種以上を用いてもよく、あるいは、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8の全てを用いなくてもよい。
【0028】
基板9は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を除く合成樹脂からなる平板を用いることができる。前記基板9を構成する合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を挙げることができるが、これらのうち、離型性が最も良好であることからPVCであることが好ましい。
【0029】
基板9の表面の所定の位置に、磁気ストライプ5と、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8とを配置したならば、次に図2Bに示すように、磁気ストライプ5、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8が配置された基板9の表面に漆塗料2aを塗布し、乾燥硬化させて基板9上に硬化した漆塗料2aからなる漆塗膜層2を形成する。
【0030】
漆塗料2aは、生漆を精製してなる精製漆を含むものを用いることができる。前記生漆は、樹木としてのウルシから得られた樹液を濾過したものである。一方、前記精製漆は前記生漆を混練り撹拌してエマルジョンを分散処理したのち、加温脱水して水分を全量の3~5質量%にしたものであり、透明性のある濃色の漆液である。尚、前記精製漆を得る工程では、前記混練り撹拌を「なやし」、前記加温脱水を「くろめ」ということがある。
【0031】
前記生漆及び前記精製漆の品質は日本工業規格(JIS K 5950)により規定されており、このような精製漆を含む漆塗料2aは、例えば、堤淺吉漆店(京都府)から入手することができる。
【0032】
漆塗料2aは、例えば、基板9上に50μm以下となるように塗布したのち、恒温恒湿環境下(例えば、温度20~25℃、相対湿度70%)に所定時間(例えば、24時間)保持して乾燥硬化させることにより、漆塗膜層2を形成することができる。漆塗料2aの塗布は、刷毛塗り、吹き付け、ローラー塗布等の方法により行うことができる。
【0033】
また、漆塗料2aの乾燥硬化は、恒温恒湿乾燥器を用いても行ってもよいが、漆工芸において伝統的に用いられる「漆室(うるしむろ、又は単にむろ)」又は「風呂」と呼ばれる器具を用いて行ってもよい。
【0034】
漆塗料2aは、50μm以下となるように塗布し、前記恒温恒湿環境下で乾燥硬化させることにより、内部まで確実に硬化した漆塗膜層2を得ることができるが、漆塗料2aは内部まで確実に硬化させることができれば、100μm以下、例えば60~70μmの範囲の厚さとなるように塗布してもよい。
【0035】
尚、図2Bでは、単一の漆塗膜層2を形成した状態を示しているが、必要に応じて複数の漆塗膜層2を形成するようにしてもよい。
【0036】
漆塗膜層2を形成したならば、次に図2Cに示すように漆塗膜層2上に織布4を重ねる。織布4としては綿、麻等の天然繊維を平織りしたもの、例えば寒冷紗等を用いることができる。
【0037】
次に図2Dに示すように、織布4の上から糊漆3aを塗布する。糊漆3aの塗布は、箆塗り、吹き付け、ローラー塗布等の方法により、40~80μmの厚さとなるように行うことができる。糊漆3aは、前記生漆に米粉を混練したものであり、例えば、次のようにして製造することができる。
【0038】
まず、水22.5質量部に米粉5質量部を混合して常温(20~25℃)で撹拌する。水と米粉とが十分に混合されたならば、得られた混合物を撹拌しながら80~90℃の温度で1~1.5分間加熱し、米粉の糊化を行う。米粉が糊化したならば、80~100秒(例えば90秒)後に加熱を停止し、冷却しながら撹拌を続け、常温(20~25℃)に戻ったら、生漆15質量部を混合し、糊漆3aを得る。
【0039】
織布4の上から糊漆3aを塗布すると、図2Eに示すように、糊漆3aが織布4に浸潤し、織布4の基板9側で漆塗膜層2に到達する。そこで、次に糊漆3aを乾燥硬化させて織布含有硬化糊漆層3を形成する。糊漆3aの乾燥硬化は、漆塗料2aの乾燥硬化と同様にして行うことができる。この結果、織布含有硬化糊漆層3と漆塗膜層2とを接着することができる。
【0040】
本実施形態では、図2C及び図2Dに示す工程で、漆塗膜層2上に織布4を重ね、織布4の上から糊漆3aを塗布するようにしている。しかし、漆塗膜層2上に糊漆3aを塗布した後に糊漆3a上に織布4を重ね、織布4の上からさらに糊漆3aを塗布するようにしてもよく、図2Eに示すように、糊漆3aが織布4に浸潤し、織布4の基板9側で漆塗膜層2に到達した状態とすることができる。
【0041】
次に、形成された織布含有硬化糊漆層3上にさらに織布4を重ね、図2C図2Eに示す工程を繰り返すことにより、織布含有硬化糊漆層3上にさらに織布含有硬化糊漆層3を形成する。この場合、新たに形成される織布含有硬化糊漆層3は、織布4の基板9側で隣接する織布含有硬化糊漆層3に接着する。そこで、漆塗膜層2上に1層目の織布含有硬化糊漆層3を形成した後、さらに図2C図2Eに示す工程を3回繰り返すことにより、図2Fに示すように、漆塗膜層2上に4層の織布含有硬化糊漆層3を備える積層体を形成することができる。
【0042】
次に、図2Fに示す漆塗膜層2上に4層の織布含有硬化糊漆層3を備える積層体を、図2Gに示すように、基板9から剥離することにより、図1に示すカード1を得ることができる。
【0043】
尚、本実施形態の第1の態様のカード1では、図1に示すように、漆塗膜層2の表面に露出する電子素子としての磁気ストライプ5を備えるようにしているが、織布含有硬化糊漆層3の表面に露出する電子素子としての磁気ストライプ5を備えるようにしてもよく、漆塗膜層2の表面と織布含有硬化糊漆層3の表面との両方に露出する電子素子としての磁気ストライプ5を備えるようにしてもよい。
【0044】
織布含有硬化糊漆層3の表面に露出する電子素子としての磁気ストライプ5を備えるカード1は、図2に示す製造方法において、基板9の表面に磁気ストライプ5を配置することなく、漆塗膜層2と織布含有硬化糊漆層3と備える積層体を形成した後、織布含有硬化糊漆層3の表面に磁気ストライプ5を貼付し、該積層体を基板9から剥離することにより製造することができる。織布含有硬化糊漆層3の表面に磁気ストライプ5を貼付する操作は、前記積層体を基板9から剥離した後に行ってもよい。
【0045】
また、漆塗膜層2の表面と織布含有硬化糊漆層3の表面との両方に露出する電子素子としての磁気ストライプ5を備えるカード1は、図2に示す製造方法において、漆塗膜層2上に織布含有硬化糊漆層3を備える積層体の織布含有硬化糊漆層3の表面に磁気ストライプ5を貼付した後、該積層体を基板9から剥離するか、漆塗膜層2上に織布含有硬化糊漆層3を備える積層体を基板9から剥離した後、織布含有硬化糊漆層3の表面に磁気ストライプ5を貼付することにより製造することができる。
【0046】
また、漆塗膜層2の表面と織布含有硬化糊漆層3の表面とのいずれか一方又は両方に露出する電子素子としての磁気ストライプ5を備えるカード1は、図2に示す製造方法において、基板9の表面に磁気ストライプ5を配置することなく、漆塗膜層2と織布含有硬化糊漆層3とを備える積層体を形成し、該積層体を基板9から剥離した後、漆塗膜層2の表面と織布含有硬化糊漆層3の表面とのいずれか一方又は両方に磁気ストライプ5を貼付することによっても製造することができる。前記いずれかのカード1は、磁気ストライプ5に代えてICチップを備えていてもよい。
【0047】
次に、図3を参照して、本実施形態の第2の態様のカード11について説明する。カード11は、漆塗膜層2と、4層の織布含有硬化糊漆層3とからなる。この結果、カード11は、15~17N/mm2の範囲の引張応力を備えている。尚、カード11において、図1に示すカード1と同一の構成には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0048】
カード11において、漆塗膜層2は、織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出する材料としての顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8を備えており、4層の織布含有硬化糊漆層3は、層間、例えば図3に示すように第2層と第3層との間に、ICモジュール12とアンテナシート13とを備えている。この結果、カード11はアンテナシート13により、カードリーダ等の外部機器と通信を行い、ICモジュール12で所要の演算等を行う非接触型ICカードを構成している。
【0049】
尚、カード11において、漆塗膜層2の織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出する材料として、前記顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8の全てを備えている必要はなく、いずれか1種又は2種の材料を備えるだけであってもよい。また、装飾を必要としない場合、カード11は、前記顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8を全く備えていなくてもよい。
【0050】
次に、図4を参照して、本実施態様のカード11の製造方法について説明する。尚、カード11の製造方法において、図2に示すカード1の製造方法と同一の構成には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0051】
カード11を製造するときには、まず、図4Aに示すように、漆塗膜層2が剥離可能な基板9の表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8を配置する。尚、カード11の製造方法では、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8はそのいずれか1種以上を用いてもよく、あるいは、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8の全てを用いなくてもよい。基板9は、カード1の製造方法に用いるものと同一のものを用いることができる。
【0052】
基板9の表面の所定の位置に、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8を配置したならば、次に図4Bに示すように、顔料を含む漆塗膜層6、金属片7、貝殻8が配置された基板9の表面に漆塗料2aを塗布し、乾燥硬化させて基板9上に硬化した漆塗料2aからなる漆塗膜層2を形成する。
【0053】
漆塗料2aは、50μm以下となるように塗布し、前記恒温恒湿環境下で乾燥硬化させることにより、内部まで確実に硬化した漆塗膜層2を得ることができるが、漆塗料2aは内部まで確実に硬化させることができれば、100μm以下、例えば60~70μmの範囲の厚さとなるように塗布してもよい。
【0054】
尚、図4Bでは、単一の漆塗膜層2を形成した状態を示しているが、必要に応じて複数の漆塗膜層2を形成するようにしてもよい。
【0055】
漆塗膜層2を形成したならば、次に図4Cに示すように漆塗膜層2上に織布4を重ね、次いで図4Dに示すように、織布4の上から糊漆3aを塗布する。糊漆3aの塗布は、箆塗り、吹き付け、ローラー塗布等の方法により、40~80μmの厚さとなるように行うことができる。
【0056】
織布4の上から糊漆3aを塗布すると、図4Eに示すように、糊漆3aが織布4に浸潤し、織布4の基板9側で漆塗膜層2に到達する。そこで、次に糊漆3aを乾燥硬化させて織布含有硬化糊漆層3を形成する。糊漆3aの乾燥硬化は、漆塗料2aの乾燥硬化と同様にして行うことができる。この結果、織布含有硬化糊漆層3と漆塗膜層2とを接着することができる。
【0057】
本実施形態では、図4C及び図4Dに示す工程で、漆塗膜層2上に織布4を重ね、織布4の上から糊漆3aを塗布するようにしている。しかし、漆塗膜層2上に糊漆3aを塗布した後に糊漆3a上に織布4を重ね、織布4の上からさらに糊漆3aを塗布するようにしてもよく、図4Eに示すように、糊漆3aが織布4に浸潤し、織布4の基板9側で漆塗膜層2に到達した状態とすることができる。
【0058】
次に、形成された織布含有硬化糊漆層3上にさらに織布4を重ね、図4C図4Eに示す工程を繰り返すことにより、織布含有硬化糊漆層3上にさらに織布含有硬化糊漆層3を形成する。この場合、新たに形成される織布含有硬化糊漆層3は、基板9側で隣接する織布含有硬化糊漆層3に接着する。
【0059】
そこで、図4Fに示すように、漆塗膜層2上に2層の織布含有硬化糊漆層3を備える積層体を形成することができる。カード11の製造方法では、次に、2層目の織布含有硬化糊漆層3の漆塗膜層2と反対側の表面の所定の位置に、ICモジュール12とアンテナシート13とを配置する。
【0060】
次に、図4Fに示す積層体に対し、図4C図4Eに示す工程をさらに2回繰り返すことにより、図4Gに示すように、ICモジュール12とアンテナシート13とが配置された織布含有硬化糊漆層3上にさらに2層の織布含有硬化糊漆層3を形成する。この結果、4層の織布含有硬化糊漆層3の第2層と第3層との間に、ICモジュール12とアンテナシート13とを備える積層体を得ることができる。
【0061】
次に、図4Gに示す漆塗膜層2上に4層の織布含有硬化糊漆層3を備え、織布含有硬化糊漆層3の第2層と第3層との間に、ICモジュール12とアンテナシート13とを備える積層体を、図4Hに示すように、基板9から剥離することにより、図3に示すカード11を得ることができる。
【0062】
尚、本実施形態では、4層の織布含有硬化糊漆層3の第2層と第3層との間に、ICモジュール12とアンテナシート13とを配置しているが、ICモジュール12とアンテナシート13とは第1層と第2層との間に配置してもよく、第3層と第4層との間に配置してもよい。
【0063】
また、図4に示す製造方法では、4層の織布含有硬化糊漆層3の第2層と第3層との間に、ICモジュール12とアンテナシート13とを備える積層体を得るようにしているが、ICモジュール12とアンテナシート13とを備えない以外は図3に示すカード11と全く同一の構成を備えるカード11を2枚製造し、2枚のカード11の織布含有硬化糊漆層3の間の所定の位置にICモジュール12とアンテナシート13とを挟んで、糊漆等を用いて貼り合わせるようにしてもよく、複数の織布含有硬化糊漆層3の層間にICモジュール12とアンテナシート13とを備えるカードを製造することができる。
【0064】
また、本実施形態では、図1に示すカード1において磁気ストライプ5に代えてICチップを備える接触型ICカードと、図3に示すカード11のような非接触型ICカードとについて説明しているが、漆塗膜層2の織布含有硬化糊漆層3と反対側の表面に露出するICチップと、複数の織布含有硬化糊漆層3の層間に配置されたICモジュール12又はアンテナシート13とを備える複合型(ハイブリッド)ICカードとしてもよい。前記複合型ICカードでは、層間接続等により、前記ICチップと、ICモジュール12又はアンテナシート13とが電気的に接続される。
【符号の説明】
【0065】
1、11…カード、 2…漆塗膜層、 3…織布含有硬化糊漆層、 5、12、13…電子素子。
図1
図2
図3
図4