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特開2022-190330繊維用環状オレフィン系重合体および繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190330
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】繊維用環状オレフィン系重合体および繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20221219BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20221219BHJP
   C08F 232/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
D01F6/04 Z
D01F6/46 A
D01F6/46 C
C08F232/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098604
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中島 真実
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
【テーマコード(参考)】
4J100
4L035
【Fターム(参考)】
4J100AA02R
4J100AA16R
4J100AR09P
4J100AR21Q
4J100BC43Q
4J100CA05
4J100DA09
4J100DA25
4J100DA42
4J100FA09
4J100FA19
4J100HA04
4J100HB02
4J100HE14
4J100JA11
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE07
4L035EE09
4L035EE20
4L035HH10
4L035JJ19
4L035KK05
4L035LA02
4L035MA02
(57)【要約】
【課題】劣化が抑制されており、連続して紡糸することができる繊維を得ることができる繊維用環状オレフィン系重合体を提供する。
【解決手段】本発明の繊維用環状オレフィン系重合体は、以下の条件を満たす。
(条件)
260℃、周波数1Hz、大気下で連続的にせん断をかけた場合の複素粘性率の比が1≦η*2/η*1≦5
η*1:せん断をかけた直後の複素粘性率(Pa・sec)
η*2:せん断をかけてから3600sec経過後の複素粘性率(Pa・sec)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件を満たす繊維用環状オレフィン系重合体。
(条件)
260℃、周波数1Hz、大気下で連続的にせん断をかけた場合の複素粘性率の比が1≦η*2/η*1≦5
η*1:せん断をかけた直後の複素粘性率(Pa・sec)
η*2:せん断をかけてから3600sec経過後の複素粘性率(Pa・sec)
【請求項2】
環状オレフィン系共重合体(I-1)および環状オレフィンの開環重合体(I-2)から選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【請求項3】
環状オレフィン系共重合体(I-1)は、
炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する、請求項1または2に記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【請求項4】
環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(A)の含有量が10モル%以上80モル%以下である、請求項3に記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【請求項5】
環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(C)の含有量が0.1モル%以上50モル%以下である、請求項3~4のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【請求項6】
環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下である、請求項3~5のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【請求項7】
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B-1)で示される化合物を含む、請求項3~6のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【化1】
(前記式[B-1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R~R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
【請求項8】
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む、請求項3~7のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【化2】
(上記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R~R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10~R17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化3】
(上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化4】
(上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体からなる繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用環状オレフィン系重合体および当該重合体からなる繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系重合体は、透明性に優れ、高耐熱性、耐薬品性等の特性を有することから、薬品包装材や検査容器などの医療用途、レンズや光学フィルムなどの光学用途、電子デバイス用途、繊維や不織布などに使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エチレンと所定の環状オレフィンとの共重合体または所定の環状オレフィンの開環重合体からなる繊維が開示されている。
特許文献2には、環状オレフィン系重合体を含む繊維で構成されるメルトブローン不織布が開示されている。
【0004】
特許文献3には、ガラス転移温度が70℃以上150℃未満の環状ポリオレフィン系樹脂を含む繊維が開示されている。
特許文献4には、所定の嵩密度を有する環状オレフィン重合体の樹脂粉から得られたペレットを紡糸し、次いで所定の条件で熱処理してなる繊維が開示されている。
【0005】
特許文献5には、炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位と、を有する環状オレフィン系共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-158420号公報
【特許文献2】国際公開第2019/049706号
【特許文献3】特開2017-222934号公報
【特許文献4】国際公開第2015/060242号
【特許文献5】国際公開第2019/107363号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術においては、環状オレフィン系重合体を含むペレットから溶融紡糸する際に、紡糸を続けるとノズルと樹脂の間にせん断がかかることで樹脂が劣化し、連続して紡糸した場合に繊維が破断することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、環状オレフィン系重合体を所定の条件でせん断をかけた場合において、せん断の前後における複素粘性率の比が特定の範囲にあると、環状オレフィン系重合体の劣化が抑制されることから、当該重合体からなる繊維を連続して紡糸することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0009】
[1] 以下の条件を満たす繊維用環状オレフィン系重合体。
(条件)
260℃、周波数1Hz、大気下で連続的にせん断をかけた場合の複素粘性率の比が1≦η*2/η*1≦5
η*1:せん断をかけた直後の複素粘性率(Pa・sec)
η*2:せん断をかけてから3600sec経過後の複素粘性率(Pa・sec)
[2] 環状オレフィン系共重合体(I-1)および環状オレフィンの開環重合体(I-2)から選択される少なくとも一種を含む、[1]に記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
[3] 環状オレフィン系共重合体(I-1)は、
炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する、[1]または[2]に記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
[4] 環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(A)の含有量が10モル%以上80モル%以下である、[3]に記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
[5] 環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(C)の含有量が0.1モル%以上50モル%以下である、[3]~[4]のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
[6] 環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(B)および構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下である、[3]~[5]のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
[7] 前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B-1)で示される化合物を含む、[3]~[6]のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【化1】
(前記式[B-1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R~R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
[8] 前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む、[3]~[7]のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体。
【化2】
(上記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R~R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10~R17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化3】
(上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化4】
(上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の繊維用環状オレフィン系重合体からなる繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維用環状オレフィン系重合体は劣化が抑制されており、連続して紡糸することができる繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
[繊維用環状オレフィン系重合体(I)]
本実施形態において、繊維用環状オレフィン系重合体(I)は以下の条件を満たす。なお、本実施形態においては単に環状オレフィン系重合体(I)とも称呼する。
(条件)
260℃、周波数1Hz、大気下で連続的にせん断をかけた場合の複素粘性率の比が1≦η*2/η*1≦5、好ましくは1≦η*2/η*1≦4.5
η*1:せん断をかけた直後の複素粘性率(Pa・sec)
η*2:せん断をかけてから3600sec経過後の複素粘性率(Pa・sec)
【0013】
本実施形態の繊維用環状オレフィン系重合体(I)は、その複素粘性率の比が所定の範囲であり、粘度上昇が抑制されている。すなわち、複素粘性率の比を繊維用環状オレフィン系重合体(I)の劣化の指標とすることができ、当該比が所定の範囲である繊維用環状オレフィン系重合体(I)を用いることで、破断が抑制され連続して紡糸することが可能な繊維を提供することができる。さらに、繊維用環状オレフィン系重合体(I)の複素粘性率の比が所定の範囲であることにより、電子線あるいはガンマ線照射の耐性に優れた繊維を提供することができる。
【0014】
本実施形態の繊維用環状オレフィン系重合体(I)は、本発明の効果の観点から、環状オレフィン系共重合体(I-1)および環状オレフィンの開環重合体(I-2)から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、環状オレフィン系共重合体(I-1)を含むことがより好ましい。
【0015】
(環状オレフィン系共重合体(I-1))
環状オレフィン系共重合体(I-1)は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)の少なくともいずれかと、を有する。つまり、環状オレフィン系共重合体(I-1)は、前記構成単位(A)および前記構成単位(B)を有する、または、前記構成単位(A)および前記構成単位(C)を有する、または、前記構成単位(A)および前記構成単位(B)および前記構成単位(C)を有する。
好ましくは、前記構成単位(A)および前記構成単位(C)を有する、または、前記構成単位(A)および前記構成単位(B)および前記構成単位(C)を有する。
【0016】
環状オレフィン系共重合体(I-1)は、これらの構成単位を有することにより、劣化がより抑制されており連続して紡糸することができ、さらに電子線あるいはガンマ線照射の耐性にさらに優れた繊維を得ることができる。
環状オレフィン系共重合体(I-1)が、前記構成単位(A)および前記構成単位(B)および前記構成単位(C)を有すると、電子線あるいはガンマ線照射によってもラジカルの発生が抑制され、耐電子線あるいは耐ガンマ線に優れる繊維が得られる。環状オレフィン系重合体からなる繊維や不織布は、高耐熱性、耐薬品性等の特性に優れることから医療用途に応用可能であるが、滅菌の際に電子線あるいはガンマ線を照射した場合、ラジカルが発生することから適用が困難であった。しかしながら、上記の構成単位を有すると、耐電子線あるいは耐ガンマ線に優れる繊維が得られる。
【0017】
(構成単位(A))
本実施形態に係る構成単位(A)は炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位である。
【0018】
ここで、炭素原子数が2~20のα-オレフィンとしては、直鎖状でも分岐状でもよく、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素原子数が2~20の直鎖状α-オレフィン;3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン等の炭素原子数が4~20の分岐状α-オレフィン等が挙げられる。これらの中では、炭素原子数が2~4の直鎖状α-オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。このような直鎖状または分岐状のα-オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(A)の含有量は、好ましくは10モル%以上80モル%以下、より好ましくは30モル%以上75モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上70モル%以下である。
【0020】
上記構成単位(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、環状オレフィン系共重合体(I-1)の耐熱性を向上させ、劣化を抑制することができる。また、上記構成単位(A)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる繊維の電子線あるいはガンマ線耐性等を向上させることができる。すなわち、構成単位(A)の含有量が上記範囲であることによりこれらの特性に優れる。
本実施形態において、構成単位(A)の含有量は、例えば、H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0021】
(構成単位(B))
本実施形態に係る構成単位(B)は芳香環を有さない環状オレフィン由来の構成単位である。本実施形態に係る構成単位(B)としては、得られる成形体の屈折率をさらに向上させる観点から、下記式(B-1)で示される化合物由来の構成単位を含むことが好ましい。
【0022】
【化5】
【0023】
上記式[B-1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R~R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。
構成単位(B)として、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
これらの中でも、本実施形態に係る構成単位(B)としては、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン由来の構成単位、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン由来の構成単位およびヘキサシクロ[6,6,1,13,6,110,13,02,7,09,14]ヘプタデセン-4由来の構成単位等から選択される少なくとも一種の構成単位を含むことが好ましく、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン由来の構成単位およびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン由来の構成単位から選択される少なくとも一種の構成単位を含むことがより好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン由来の構成単位を含むことが特に好ましい。
【0025】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(B)の含有量は、上記構成単位(C)を含まない場合は、本発明の効果の観点から、好ましくは20モル%以上90モル%以下、より好ましくは25モル%以上70モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上60モル%以下である。
上記構成単位(C)を含む場合は、本発明の効果の観点から、好ましくは5モル%以上60モル%以下、より好ましくは10モル%以上55モル%以下、さらに好ましくは14モル%以上45モル%以下である。
【0026】
(構成単位(C))
本実施形態に係る構成単位(C)は芳香環を有する環状オレフィン由来の構成単位である。環状オレフィン系共重合体(I-1)が芳香環を有する環状オレフィン由来の構成単位(C)を含むことにより、連続的に紡糸を行った場合(連続的にせん断をかけた場合)の粘度上昇を抑制することができる。さらに、電子線あるいはガンマ線照射によってもラジカルの発生が抑制されており、耐電子線あるいは耐ガンマ線に優れる繊維を得ることができる。
【0027】
本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、下記式(C-1)で示される化合物(C-1)、下記式(C-2)で示される化合物(C-2)、下記式(C-3)で示される化合物(C-3)等が挙げられる。これらの芳香環を有する環状オレフィンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
すなわち、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)は、構成単位(C)として、化合物(C-1)から導かれる構成単位(C)、化合物(C-2)から導かれる構成単位(C)、および化合物(C-3)から導かれる構成単位(C)から選択される少なくとも1種を含む。
【0029】
【化6】
【0030】
上記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2である。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0031】
~R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10~R17のうち一つは結合手であり、R15が結合手であることが好ましい。
~R17はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0032】
またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
上記式(C-1)の中でも、下記式(C-1A)で示される化合物が好ましい。
【0033】
【化7】
【0034】
【化8】
【0035】
上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0036】
18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。
18~R31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0037】
またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0038】
【化9】
【0039】
上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0040】
32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。
32~R39はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0041】
またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0042】
また、炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0043】
これらの中でも、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、芳香環を1つ有しているものが好ましく、例えば、1,4-ジヒドロ-1,4-メタノナフタレン(以下、ベンゾノルボルナジエンとも呼ぶ)、1,4,4a,9a-テトラヒドロ-1,4-メタノフルオレン(以下、インデンノルボルネンとも呼ぶ)およびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0044】
また、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、下記式(C-1’)で示される化合物、下記式(C-2’)で示される化合物、下記式(C-3’)で示される化合物等も挙げられる。これらの芳香環を有する環状オレフィンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
上記式(C-1’)、式(C-2’)および式(C-3’)において、mおよびnは0、1または2であり、R~R36はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R25とR26、R26とR27、R27とR28、R33とR34、R34とR35、R35とR36は互いに結合して単環を形成していてもよく、該単環が二重結合を有していてもよい。
【0049】
また、上記式(C-1’)、式(C-2’)および式(C-3’)において、mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。R~R36は水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0050】
また、炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0051】
これらの中でも、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、芳香環を1つ有しているものが好ましく、例えば、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0052】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(C)の含有量は、上記構成単位(B)を含まない場合は、本発明の効果の観点から、好ましくは20モル%以上90モル%以下、より好ましくは25モル%以上70モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上60モル%以下である。
【0053】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(C)の含有量は、本発明の効果の観点から、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上80モル%以下、さらにより好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらにより好ましくは40モル%以上78モル%以下である。
【0054】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(I-1)中の構成単位(C)の含有量は、本発明の効果の観点から、好ましくは0.1モル%以上50モル%以下であり、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは3モル%以上であり、そしてより好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、特に好ましくは20モル%以下である。
【0055】
本実施形態において、構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)の含有量は、例えば、H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0056】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、アッベ数、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れる成形体を得ることができる観点から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)としてはランダム共重合体であることが好ましい。
【0057】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(I-1)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報、特開2007-314806号公報、特開2010-241932号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0058】
(環状オレフィンの開環重合体(I-2))
本実施形態において、繊維用環状オレフィン系重合体(I)は、環状オレフィンの開環重合体(I-2)を用いることができる。
【0059】
環状オレフィンの開環重合体(I-2)としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物等が挙げられる。
【0060】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体、等が挙げられる。
【0061】
これらの誘導体の環に置換される置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。なお、置換基は、1個または2個以上を有することができる。このような環に置換基を有する誘導体としては、例えば、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン等が挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0062】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。
【0063】
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウム等の金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒;チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;等を用いることができる。
【0064】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体等を挙げることができる。
【0065】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物や、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体の水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0066】
本実施形態に係る環状オレフィンの開環重合体(I-2)は、例えば、特開昭60-26024号公報、特開平9-268250号公報、特開昭63-145324号公報、特開2001-72839号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
本実施形態に係る環状オレフィンの開環重合体(I-2)は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、本実施形態に係る繊維用環状オレフィン系重合体(I)のガラス転移温度(Tg)は、得られる繊維の透明性を良好に保ちつつ、耐熱性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以上180℃以下であり、より好ましくは125℃以上170℃以下、さらに好ましくは130℃以上165℃以下である。
【0068】
ASTM D1238に準じ、260℃、荷重2.16kgで測定した繊維用環状オレフィン系重合体(I)のメルトフローレート(MFR)は、紡糸工程における紡糸加工性の観点から、3~100g/10分、好ましくは5~50g/10分である。
【0069】
[環状オレフィン系重合体組成物]
本実施形態に係る繊維用環状オレフィン系重合体(I)は繊維を形成するため、必要に応じて、環状オレフィン系重合体(I)以外のその他の成分を含むことができ、環状オレフィン系重合体組成物とすることができる。なお、本実施形態において、環状オレフィン系重合体組成物が繊維用環状オレフィン系重合体(I)のみしか含まない場合も環状オレフィン系重合体組成物と呼ぶ。
【0070】
また、本実施形態に係る環状オレフィン系重合体組成物中の繊維用環状オレフィン系重合体(I)の含有量は、環状オレフィン系重合体の劣化抑制および、耐電子線あるいは耐ガンマ線性能の性能バランスをより向上させる観点から、当該環状オレフィン系重合体組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0071】
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体組成物は、繊維用環状オレフィン系重合体(I)を上記の比率で含むことにより、繊維用環状オレフィン系重合体の劣化抑制を満足しながら、耐電子線あるいは耐ガンマ線性能をより一層向上させることができる。
【0072】
(その他の成分)
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体組成物には、必要に応じて、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、塩酸吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス、有機または無機の充填剤、環状オレフィン系共重合体(I)以外の樹脂等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体組成物は、必要に応じて、ヒンダードアミン系化合物[D]を含んでもよい。
【0073】
ヒンダードアミン系化合物[D](以下、単に、化合物[D]、あるいは、[D]とも表記する)としては、ヒンダードアミン構造(具体的には、以下の式(b1)で表される部分構造)を、1つまたは2つ以上有する化合物を適宜用いることができる。
式(b1)中、*は、他の化学構造との結合手を表す。
【0074】
【化13】
【0075】
化合物[D]として具体的には、公知のヒンダードアミン系光安定剤(Hindered Amine Light Stabilizers:略称HALS)として知られている化合物などを用いることができる。
【0076】
化合物[D]としては、例えば、国際公開第2006/112434号の段落0058~0082に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0124~0186に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0187~0226に記載のピペリジン誘導体またはその塩、特開2006-321793号公報に記載のポリアミン誘導体またはその塩などを例示することができる。
【0077】
また、Chimassorb 2020、Chimassorb 944、Tinuvin 622、Tinuvin PA144 Tinuvin 765、Tinuvin 770(以上、BASF社製)、Cyasorb UV-3853、Cyasorb UV-3529、Cyasorb UV-3346、Cyasorb UV-531(以上、Cytec社製)、アデカスタブ LA-52、アデカスタブ LA-57、アデカスタブ LA-63P、アデカスタブ LA-68、アデカスタブ LA-72、アデカスタブ LA-77Y、アデカスタブ LA-81、アデカスタブ LA-82、アデカスタブ LA-87(以上、ADEKA社製)等の市販品を用いることができる。
【0078】
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体組成物は、必要に応じて、リン系化合物[E]を含んでもよい。
【0079】
使用可能なリン系化合物[E](以下、単に、化合物[E]、または、[E]とのみ表記することもある)については、特に制限は無い。例えば、公知のリン系酸化防止剤を用いることができる。
リン系酸化防止剤としては、特に制限はなく、従来公知のリン系酸化防止剤(例えば、ホスファイト系酸化防止剤)を用いることができる。
【0080】
具体的には、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレンなどのモノホスファイト系化合物;4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(ジフェニルモノアルキル(C12~C15)ホスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。
【0081】
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体組成物は、繊維用環状オレフィン系重合体(I)およびその他の成分を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;繊維用環状オレフィン系重合体(I)およびその他の成分を共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に繊維用環状オレフィン系重合体(I)およびその他の成分の溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0082】
<繊維>
本実施形態の繊維は上述の環状オレフィン系重合体(I)と、さらに必要により他の成分とを加えた組成物を、従来公知の繊維化方法により得ることができる。
【0083】
繊維化における紡糸方法としては、乾式紡糸法、湿式紡糸法、溶融紡糸法、エマルジョン紡糸法等を挙げることができる。これらの紡糸法の中でも特に溶融紡糸法が好ましい。
【0084】
この溶融紡糸法は、繊維用環状オレフィン系重合体(I)(または組成物)を融点(または軟化点)以上分解温度未満の温度、好ましくは120~300℃の温度に加熱して溶融状態にした後、ノズルから押し出し、押し出された樹脂を冷却しながら巻き取る方法である。この方法では、種々の形態のノズルが使用できるが、L/Dの値が10/0.5~60/3mm程度のノズルが適している。また、ノズルからの樹脂の押し出し速度は、通常は0.01~100m/min、好ましくは0.05~10m/min程度である。上記のような速度で押し出されたモノフィラメントの巻き取り速度は、通常は10~10,000m/min、好ましくは100~5,000m/minである。従って、ノズルから押し出されたモノフィラメントは通常は巻き取りの際に延伸される。この際の延伸倍率は通常は10~10,000、好ましくは100~5,000である。
【0085】
このように紡糸することにより得られた原糸には、不純物の除去、緊張延伸、熱処理、精錬、染色等を目的とする後処理工程における処理を施すことができる。
こうして得られた繊維は、衣服、ロープ、釣り糸、不織布、各種樹脂のコンパウンドの補強剤などの用途に使用することができる。
【0086】
また、本実施形態の繊維用環状オレフィン系重合体(I)からなる繊維は、ガンマ線または電子線照射することで、繊維のガンマ線または電子線照射物(ガンマ線または電子線を照射した繊維)を得ることができる。この繊維は、照射により、殺菌または滅菌がなされているため清潔であり、かつ、変色やラジカルの発生が抑えられている。照射量は特に限定されないが、通常は5~100キログレイ(kGy)、好ましくは10~80キログレイである。
このように、本実施形態の繊維は、電子線あるいはガンマ線照射の耐性に優れており、医療用途等に適用することができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0088】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
<環状オレフィン系共重合体の製造>
[製造例1]
【0090】
攪拌装置を備えた容積500mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を100Nl/hrの流量で30分間流通させた後、シクロヘキサン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(24mmol、以下、テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)、およびベンゾノルボルナジエン(40mmol、以下、BNBDとも呼ぶ。)を加えた。次いで回転数600rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を50℃に昇温した。溶媒温度が所定の温度に達した後、流通ガスを窒素からエチレンに切り替え、エチレンを50Nl/hr、水素を0.5Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、ポリメチルアルミノキサン(PMAO)(1.8mmol)、下記式(A-1)の触媒(0.0030mmol)をガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。
10分間経過した後、イソブチルアルコールを5ml添加して重合を停止させ、エチレン、テトラシクロドデセンおよびBNBDの共重合体を含む重合溶液を得た。その後、重合溶液を別に用意した容積2Lのビーカーに移液し、さらに濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合溶液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で10時間減圧乾燥を行ったところ、白色パウダー状のエチレン・テトラシクロドデセン・BNBD共重合体1.83gが得られた。
以上により、環状オレフィン系共重合体(P-1)を得た。
【0091】
【化14】
【0092】
[製造例2~8]
環状オレフィン系共重合体を構成する各構成単位およびその含有量の値が表1に記載の種類および値になるように調整した以外は、製造例1と同様に操作を行い、表1に記載の環状オレフィン系共重合体(P-2)~(P-8)をそれぞれ得た。
【0093】
ここで、表1におけるBNBDは下記式(1)で示されるベンゾノルボルナジエンを意味し、IndNBは下記式(2)で示されるインデンノルボルネンを意味する。MePhNBは下記式(3)で示されるメチルフェニルノルボルネンを意味する。
【0094】
【化15】
【0095】
【化16】
【0096】
【化17】
【0097】
[製造例9]
内部を窒素置換した重合反応器に、単量体混合物(ジシクロペンタジエン由来の構造単位40mol%、インデンノルボルネン由来の構造単位40mol%、メタノテトラヒドロフルオレン由来の構造単位20mol%)7部、脱水シクロヘキサン1600部、1‐ヘキセン0.6部、ジイソプロピルエーテル1.3部、イソブチルアルコール0.33部、トリイソブチルアルミニウム0.84部、六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.66%)30部を入れ、全容を55℃で10分撹拌した。
次いで、撹拌を継続しながら、55℃で上記単量体混合物693部と六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.77%)72部を、各々150分かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに30分間撹拌を継続した後、イソプロピルアルコール1.0部を添加して重合反応を停止させた。重合反応溶液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、単量体の重合体への転化率は100%であった。
【0098】
次いで、上記重合体を含有する重合反応溶液300部を、撹拌器付きオートクレーブに移し、シクロヘキサン100部、珪藻土担持ニッケル触媒(ニッケル担持率58%)2.0部を加えた。オートクレーブ内を水素で置換した後、180℃、4.5MPaの水素圧力下で6時間、水素化反応を行った。
水素化反応終了後、珪藻土を濾過床として、加圧濾過器を使用し、圧力0.25MPaで加圧濾過して、無色透明な溶液を得た。得られた溶液に対して3倍のアセトンを入れたビーカーに溶液を撹拌下加えて開環重合体を析出させ、製造例1に記載の方法と同様にP-9を得た。
【0099】
[環状オレフィン系共重合体を構成する各構成単位の含有量の測定方法]
エチレンおよび環状オレフィンの含有量は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重テトラクロロエタン
サンプル濃度:50~100g/l-solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000~16000回
測定温度:120℃
上記のような条件で測定した13C-NMRスペクトルにより、エチレンおよび環状オレフィンの組成をそれぞれ定量した。
【0100】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC-6220を用いてN(窒素)雰囲気下で環状オレフィン系重合体のガラス転移温度Tgを測定した。環状オレフィン系重合体を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で-20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から環状オレフィン系重合体のガラス転移点(Tg)を求めた。結果を表1に示す。
【0101】
[メルトフローレート(MFR)]
環状オレフィン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、 ASTM D1238に準拠した方法で、260℃、荷重2.16kgで測定した。結果を表1に示す。
【0102】
[実施例1~4、比較例1~5]
得られた環状オレフィン系重合体を、直径10mmの円筒状バレル中で230℃で溶融した後、L/D=20/1mmのノズル中を0.1m/minの速度で押し出し、押し出された樹脂を空冷しながら300m/minの巻き取り速度で巻き取って延伸することにより環状オレフィン系重合体のモノフィラメントを得た。
得られたモノフィラメントを用いて下記方法に従って物性を測定し評価した。結果を表1に示す。
【0103】
[複素粘性率の比]
ティー・エイ・インスツルメント社製、ARES-G2を用いて、大気下で直径25mmのコーン&パラレルプレ―ト(コーン角:0.1rad)に測定試料を挟み、周波数1Hz、温度260℃、測定時間1時間の条件で複素粘性率η*を測定した。得られたη*のうち、測定開始直後の複素粘性率をη*1(Pa・sec)、測定時間3600secでの複素粘性率をη*2(Pa・sec)とした。得られた複素粘性率の比η*2/η*1を表1に示す。
【0104】
[紡糸性]
上記の溶融紡糸により、1時間紡糸後の紡糸性を以下の基準にて目視で評価した。結果を表1に示す。
○:糸切れがなく、1時間の連続紡糸が可能
△:成形不良があるが1時間の連続紡糸が可能
×:成形不良が著しく、連続紡糸不可
【0105】
[耐ガンマ性]
(評価:ラジカル発生量)
ガンマ線照射後の試料のラジカル量は、電子スピン共鳴法(Electron Spin Rssonance(ESR))により測定した。
具体的には、ガンマ線照射直後の試験片を約6mg切り出し、それを試料管(詳細は以下)に入れて、以下条件でESRスペクトルを測定した。
【0106】
・装置:日本電子製電子スピン共鳴装置 JES-TE200
・共振周波数:9.2GHz
・マイクロ波入力:1mW
・中心磁場:326.5mT
・掃引幅:±15mT
・変調周波数:100kHz
・掃引時間:8min.
・時定数:0.1sec
・増幅度:25
・試料管:Xバンド対応の先端部石英の試料管
・外部照準:酸化マグネシウムに担持されたMn2+標準サンプル
・外部標準メモリ:0、700
・測定温度:室温
・測定雰囲気:大気
【0107】
ラジカル発生量の相対比較には、下記式に示される規格化値を用いた。
【数1】
【0108】
なお、ESRスペクトルのベースラインについては、Mn2+(第2シグナル)を基準とし補正した。
通常、ラジカル量の相対比較において、基準となるMn2+由来シグナルの面積はMn2+(第3シグナル)を用いる。しかし、有機ラジカル由来ラジカルのスペクトルと、Mn2+(第3シグナル)とが重なるため、今回の測定ではすべてMn2+(第2シグナル)を用いた(外部標準メモリ=700)。
また、有機ラジカル由来シグナルがMn2+(第3シグナル)と重なった場合は、外部標準メモリ=0のESRスペクトルを用いて算出した。
【0109】
記測定で得られたガンマ線照射5日後のラジカル発生量について、比較例2の規格値を100として相対値で比較した。結果を表1に示す。
〇:70未満
△:70以上100未満
×:100以上
【0110】
【表1】