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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019035
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】試験片の保持装置及び試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/04 20060101AFI20220120BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
G01N3/04 A
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122573
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(71)【出願人】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(71)【出願人】
【識別番号】520200584
【氏名又は名称】株式会社キーレックス・ワイテック・インターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉岡 博之
(72)【発明者】
【氏名】山形 正彦
(72)【発明者】
【氏名】森戸 拓馬
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA11
2G061AB01
2G061BA01
2G061CA01
2G061CB18
2G061CB20
2G061CC01
2G061DA16
2G061EA01
2G061EA02
(57)【要約】
【課題】溶接部を有する試験片に対して該溶接部の強度試験を行う際に、試験精度を向上させる。
【解決手段】第1金属片101を保持する第1保持具10と、第2金属片102を保持する第2保持具20と、を備え、第1及び第2保持具10,20は、第1及び第2本体部11,21にそれぞれ取り付けられた第1及び第2可動部13,23と、各金属片101,102とそれぞれ取付固定しかつ取付固定された各金属片101,102が、第1及び第2可動部13,23を介して互いに離間するように引っ張られる際に、溶接部103の周辺部分の変形を抑制可能に構成された第1及び第2固定部12,22を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面U字状をなす一対の金属片を、各U字開口が互いに反対側を向くように各U字底部同士を接合部により接合して形成された試験片の保持装置であって、
前記一対の金属片の一方を保持する第1保持具と、
前記一対の金属片の他方を保持する第2保持具と、を備え、
前記第1保持具は、
第1本体部と、
前記第1本体部に設けられかつ前記一方の金属片を、該一方の金属片が嵌め込まれた状態で取付固定する第1固定部と、
前記第1本体部とは別体で構成され、前記第1本体部に対して取付位置を変更できるように取り付けられる第1可動部と、
を有し、
前記第2保持具は、
第2本体部と、
前記第2本体部に設けられかつ前記他方の金属片を、該他方の金属片が嵌め込まれた状態で取付固定する第2固定部と、
前記第2本体部とは別体で構成され、前記第2本体部に対して取付位置を変更できるように取り付けられる第2可動部と、
を有し、
前記第1及び第2固定部は、前記第1及び第2可動部を介して、取付固定された前記各金属片が互いに離間するように引っ張られる際に、前記試験片の変形を抑制可能に構成されていることを特徴とする試験片の保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試験片の保持装置において、
前記第1固定部は、前記一方の金属片のU字開口の幅と同程度の厚みを有し、
前記第2固定部は、前記他方の金属片のU字開口の幅と同程度の厚みを有することを特徴とする試験片の保持装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の試験片の保持装置において、
前記第1及び第2可動部は、前記試験片の接合部を中心に点対称に並ぶように、前記第1及び第2本体部にそれぞれ取り付けられていることを特徴とする試験片の保持装置。
【請求項4】
請求項3に記載の試験片の保持装置において、
前記各金属片の前記各U字底部はそれぞれ面状をなしており、
前記第1及び第2本体部は、前記第1可動部、前記接合部、及び前記第2可動部が、前記U字底部の面直方向と該面直方向に直交する方向とに一直線に並ぶことができるように、前記第1及び第2可動部を取り付け可能に構成されていることを特徴とする試験片の保持装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の試験片の保持装置において、
前記第1及び第2本体部は、それぞれ平板状の扇形をなしており、
前記第1及び第2固定部は、前記第1及び第2本体部の扇形の中心を含む部分にそれぞれ形成され、
前記第1及び第2可動部は、前記第1及び第2本体部の周縁を含むようにそれぞれ取り付けられていることを特徴とする試験片の保持装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の試験片の保持装置を用いた試験方法であって、
前記一方の金属片を前記第1固定部に固定しかつ前記他方の金属片を前記第2固定部に固定する保持工程と、
前記第1及び第2可動部を引張装置に取り付ける取付工程と、
前記保持工程及び前記取付工程の後に、前記第1及び第2可動部を、前記接合部から離れる方向にそれぞれ引っ張る引張工程と、を含むことを特徴とする試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、試験片の保持装置及び試験方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、引張試験等の試験片を保持するための保持装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一方向に延びる試験部と、該試験部の延伸方向と直交する方向に突出して該試験部に対して段差を形成するように、該試験部の前記延伸方向の両端にそれぞれ設けられた一対の保持部とを有する試験片を保持するための装置が開示されており、該保持装置は、一対の保持部のうち一方を保持する第1固定部と、一対の保持部のうち他方を保持する第2固定部とを備え、第1及び第2固定部は、保持部を延伸方向の両側から保持する延伸方向固定部と、保持部を直交方向の両側から保持する第1 直交方向固定部とをそれぞれ有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-70911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年は自動車の安全性を向上させながら車体を構成する部品の軽量化が求められており、車体部品を製造する企業においてもこの要求に応えるべく試行錯誤の部品開発が盛んに進められている。このために、車体部品そのもののみならず、車体部品同士の接合部分に関して、その挙動や強度などの試験評価も重要になっている。
【0006】
接合部分の強度試験において、試験精度を向上させるためには、母材の変形を出来る限り抑制させることが求められる。特許文献1に記載の保持装置は、母材そのものにおいて、特定部分の周囲の変形を抑制しながら該特定部分の強度を測定することが可能ではあるが、接合部分の強度を測定する際には適用し難い。
【0007】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、接合部を有する試験片に対して該接合部の強度試験を行う際に、試験精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様は、断面U字状をなす一対の金属片を、各U字開口が互いに反対側を向くように各U字底部同士を接合部により接合して形成された試験片の保持装置を対象として、前記一対の金属片の一方を保持する第1保持具と、前記一対の金属片の他方を保持する第2保持具と、を備え、前記第1保持具は、第1本体部と、前記第1本体部に設けられかつ前記一方の金属片を、該一方の金属片が嵌め込まれた状態で取付固定する第1固定部と、前記第1本体部とは別体で構成され、前記第1本体部に対して取付位置を変更できるように取り付けられる第1可動部と、を有し、前記第2保持具は、第2本体部と、前記第2本体部に設けられかつ前記他方の金属片を、該他方の金属片が嵌め込まれた状態で取付固定する第2固定部と、前記第2本体部とは別体で構成され、前記第2本体部に対して取付位置を変更できるように取り付けられる第2可動部と、を有し、前記第1及び第2固定部は、前記第1及び第2可動部を介して、取付固定された前記各金属片が互いに離間するように引っ張られる際に、前記試験片の変形を抑制可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0009】
ここに開示された技術の第2の態様は、第1の態様において、前記第1固定部は、前記一方の金属片のU字開口の幅と同程度の厚みを有し、前記第2固定部は、前記他方の金属片のU字開口の幅と同程度の厚みを有する、ことを特徴とする。
【0010】
ここに開示された技術の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記第1及び第2可動部は、前記試験片の接合部を中心に点対称に並ぶように、前記第1及び第2固定部にそれぞれ取り付けられている、ことを特徴とする。
【0011】
ここに開示された技術の第4の態様は、第3の態様において、前記各金属片の前記各U字底部はそれぞれ面状をなしており、前記第1及び第2本体部は、前記第1可動部、前記接合部、及び前記第2可動部が、前記U字底部の面直方向と該面直方向に直交する方向とに一直線に並ぶことができるように、前記第1及び第2可動部を取り付け可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0012】
ここに開示された技術の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、前記第1及び第2本体部は、それぞれ平板状の扇形をなしており、前記第1及び第2固定部は、前記第1及び第2本体部の扇形の中心を含む部分にそれぞれ形成され、前記第1及び第2可動部は、前記第1及び第2本体部の周縁を含むようにそれぞれ取り付けられている、ことを特徴とする。
【0013】
ここに開示された技術は、第1~第5の態様のいずれか1つの保持装置を用いた試験方法をも対象とする。具体的には、ここに開示された技術の第6の態様は、前記一方の金属片を前記第1固定部に固定しかつ前記他方の金属片を前記第2固定部に固定する保持工程と、前記第1及び第2可動部を引張装置に取り付ける取付工程と、前記保持工程及び前記取付工程の後に、前記第1及び第2可動部を、前記接合部から離れる方向にそれぞれ引っ張る引張工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
ここに開示された技術の第1及び第6の態様によると、試験片を保持する第1及び第2固定部が、各金属片が互いに離間するように引っ張られる際に、試験片の変形を抑制可能に構成されているため、実際に接合部に入力されている荷重を精度良く求めることができる。これにより、試験精度を向上させることができる。
【0015】
ここに開示された技術の第2の態様によると、試験精度をより向上させることができる。すなわち、第1固定部が一方の金属片におけるU字開口の幅と同程度の幅を有し、第2固定部が他方の金属片におけるU字開口の幅と同程度の厚みを有していれば、U字開口が閉じるような変形を効果的に抑制することができる。これにより、試験精度をより向上させることができる。
【0016】
ここに開示された技術の第3の態様によると、第1可動部、接合部、及び第2可動部が一直線上に並ぶようになるため、第1及び第2可動部を介して、各金属片が互いに離間するように引っ張る引張試験を行う際に、接合部に精度良く負荷を入力することができる。これにより、試験精度をより向上させることができる。
【0017】
ここに開示された技術の第4の態様によると、1つの保持装置で、引張剪断強度試験と接手引張試験とを実行することができる。これにより、試験の効率を向上させることができる。
【0018】
ここに開示された技術の第5の態様によると、第1及び第2可動部を移動させたとしても、接合部から可動部までの距離を一定に保つことができる。これにより、第1及び第2可動部のセッティングが容易になって、試験の効率をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】例示的な実施形態に係る保持装置に保持される試験片を示す斜視図である。
図2】試験片が保持された状態の保持装置を示す正面図である。
図3】試験片が保持された状態の保持装置を示す側面図である。
図4】試験片が保持された状態の保持装置を示す平面図である。
図5図4のV-V線で切断した断面図である。
図6】試験片が保持された状態の保持装置を示す正面図であって、図2とは異なる位置に第1及び第2可動部を配置した状態を示す。
図7】引張試験時の試験片の状態を例示する模式図であり、(a)は接手引張試験のときを示し、(b)は引張剪断強度試験のときを示す。
図8】保持装置を用いて十字接手引張試験を行った結果を示すグラフである。
図9】保持装置を用いて引張剪断強度試験を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0021】
〈試験片〉
図1は、保持装置1に保持される試験片100を示す。試験片100は、断面U字状をなす一対の金属片を、各U字開口が互いに反対側を向くように溶接して形成されている。以下、試験片100を形成する一方の金属片を第1金属片101といい、他方の金属片を第2金属片102という。
【0022】
第1金属片101は、平面上の第1底部101aと、第1底部101aの端部から互いに対向するようにそれぞれ延びる一対の第1立壁部101bとを有する。各第1立壁部101bには、2つの孔部101cがそれぞれ形成されている。第2金属片102は、第1金属片101と同様の構成をしており、平面上の第2底部102aと、一対の第2立壁部102bとを有する。各第2立壁部102bには、2つの孔部102cがそれぞれ形成されている。
【0023】
試験片100は、図1に示すように、第1金属片101のU字開口と第2金属片102のU字開口とが互いに逆方向を向いた状態で、第1底部101aと第2底部102aとを重ねて溶接により接合することで形成されている。溶接部103は、第1及び第2底部101a,102aの中央部分に形成されている。溶接部103は接合部の一例である。
【0024】
〈保持装置〉
保持装置1は、第1金属片101を保持する第1保持具10と、第2金属片102を保持する第2保持具20とを有する。第1保持具10と第2保持具20とは、同じ構造をしており、使用時には点対称になるように配置される。以下、第1及び第2保持具10,20の構成について図2図6を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
第1保持具10は、金属板で構成された第1本体部11を有する、第1本体部11は、厚み方向から見て、略扇形をなしている。
【0026】
第1本体部11の扇形の中央付近には、第1金属片101が取付固定される第1固定部12が形成されている。第1固定部12は、図2及び図6に示すように、前記厚み方向から見て、矩形状をなしている。図5に示すように、第1固定部12は、第1本体部11と一体に形成されている。第1固定部12の厚みは、第1本体部11の厚みよりも大きい。具体的には、第1固定部12は、第1金属片101のU字開口の幅と同程度の厚みを有する。第1固定部12には、第1金属片101の孔部101cに対応する位置に、第1貫通孔12aが形成されている。第1貫通孔12aは、第1金属片101の孔部101cに対応して2つ形成されているが、図5において1つだけ示している。
【0027】
図3及び図5に示すように、第1金属片101は、第1固定部12に外側から嵌め込まれている。第1金属片101は、孔部101cと第1貫通孔12aとが連通するように位置合わせされた後、軸状締結部材104(ボルト及びナット)により、第1固定部12に取付固定される。これにより、第1金属片101が第1保持具10に保持されるようになる。第1固定部12に第1金属片101が取付固定されたときには、第1金属片101における第1立壁部101bの内側面の略全体が第1固定部12に接触する。
【0028】
第1本体部11の周縁の近傍部分には、該第1本体部11とは別体で構成された第1可動部13が取り付けられている。第1可動部13は、試験片100に対して引張強度試験を行う際に試験装置に接続される部分である。
【0029】
第1可動部13は第1本体部11に取り付けられる一対の第1取付部14と、第1取付部14に取り付けられかつ前記試験装置に接続される第1接続部15とを有する。
【0030】
一対の第1取付部14は、矩形状の金属板でそれぞれ構成されている。各第1取付部14は、図5に示すように、第1本体部11の周縁部を挟んだ状態で該第1本体部11に取り付けられている。これにより、第1可動部13が第1本体部11の周縁を含むように取り付けられる。第1本体部11の周縁よりもやや径方向内側の部分には、各第1取付部14を取り付けるための複数の第1取付孔11aが設けられている。各第1取付孔11aは、第1本体部11の径方向に相隣接する一対の第1取付孔11a(以下、第1取付孔群11bということがある)の中心同士を結んだ直線が特定の1点に集まるように、放射状にそれぞれ配置されている。この特定の点には、第1固定部12に固定された試験片100の溶接部103が位置するようになっている。
【0031】
各第1取付部14は、2つの孔部14aをそれぞれ有する。2つの孔部14aは、第1取付孔群11bに対応するように並んで形成されている。各第1取付部14は、第1取付孔群11bの一対の第1取付孔11aと各孔部14aとが連通した状態で、軸状締結部材16(ボルト及びナット)により、第1本体部11に取り付けられている。
【0032】
第1接続部15は、矩形状の金属板で構成されている。第1接続部15は、図5に示すように、第1本体部11と隙間を空けた状態でかつ一対の第1取付部14の間に挟まれた状態で、各第1取付部14に取り付けられている。第1接続部15は、軸状締結部材17により各第1取付部14に取り付けられている。
【0033】
第1可動部13は、第1取付部14の第1本体部11に対する取付位置を変更することにより、第1本体部11に対する取付位置を変更することができる。
【0034】
第2保持具20は、前述したように、第1保持具10と点対称に配置されるだけで、その構成は第1保持具10と同じである。具体的には、第2保持具20は、平板扇状の第2本体部21と、第2本体部21に設けられかつ第2金属片102を取付固定する第2固定部22と、第2本体部21とは別体で構成されかつ該第2本体部21の周縁を含むように取り付けられる第2可動部23とを有する。
【0035】
第2固定部22は、第2本体部21の扇形の中央付近に形成されている。第2固定部22は矩形状をなしている。図5に示すように、第2固定部22は、第2本体部21と一体に形成されている。第2固定部22は、第2金属片102のU字開口の幅と同程度の厚みを有する。第2固定部22には、第2金属片102の孔部102cに対応する位置に、第2貫通孔22aが形成されている。第2金属片102は、第2固定部22に外側から嵌め込まれてた状態で、軸状締結部材104(ボルト及びナット)により、第2固定部22に取付固定される。これにより、第2金属片102が第2保持具20に保持されるようになる。第2固定部22に第2金属片102が取付固定されたときには、第2金属片102における第2立壁部102bの内側面の略全体が第2固定部22に接触する。
【0036】
第2可動部23は、第2本体部21に取り付けられる一対の第2取付部24と、第2取付部24に取り付けられかつ前記試験装置に接続される第2接続部25とを有する。各第2取付部24及び第2接続部25は、矩形状の金属板でそれぞれ構成されている。
【0037】
図5に示すように、第2本体部21の周縁よりもやや径方向内側の部分には、各第2取付部24を取り付けるための複数の第2取付孔21aが設けられている。各第2取付孔21aは、第2本体部21の径方向に相隣接する一対の第2取付孔21a(以下、第2取付孔群21bということがある)の中心同士を結んだ直線が特定の1点に集まるように、放射状にそれぞれ配置されている。この特定の点には、第2固定部22に固定された試験片100の溶接部103が位置するようになっている。
【0038】
各第2取付部24は、第2取付孔群21bに対応するように並ぶ2つの孔部24aをそれぞれ有する。各第2取付部24は、軸状締結部材26(ボルト及びナット)により、第2本体部21に取り付けられている。
【0039】
第2接続部25は、図5に示すように、第2本体部21と隙間を空けた状態でかつ一対の第2取付部24の間に挟まれた状態で、各第2取付部24に取り付けられている。第2接続部25は、軸状締結部材27により各第2取付部24に取り付けられている。
【0040】
第2可動部23は、第2取付部24の第2本体部21に対する取付位置を変更することにより、第2本体部21に対する取付位置を変更することができる。
【0041】
図2及び図6に示すように、保持装置1において、第1保持具10と第2保持具20とは、試験片100の溶接部103を中心に点対称に並ぶように配置される。これにより、第1及び第2可動部13,23は、溶接部103を中心に点対称に並ぶようになる。また、第1及び第2保持具10,20は、試験片100が各固定部12,22に固定された状態で、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23が一直線上に並ぶようになっている。より具体的には、図2及び図6に示すように、第1可動部13の第1接続部15の幅方向の中点M1と、溶接部103と、第2可動部23の第2接続部25の幅方向の中点M2とが一直線上に並ぶようになる。
【0042】
本実施形態に係る保持装置1では、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23の一直線の並びは、図2に示すような、第1及び第2底部101a,102aの面直方向と、図6に示すような、該面直方向に垂直な方向との両方とで実現できるようになっている。すなわち、本実施形態に係る保持装置1において、第1及び第2本体部11,21は、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23が、第1及び第2底部101a,102aの面直方向と該面直方向に直交する方向とに一直線に並ぶことができるように、第1及び第2可動部13,23を取り付け可能に構成されている。これは、各第1取付孔群11bが前述したような放射状に配置されているとともに、各第2取付孔群21bが前述したような放射状に配置されているためである。尚、図示は省略しているが、本実施形態に係る保持装置1は、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23の一直線の並びが、第1及び第2底部101a,102aの面直方向に対して、第1及び第2本体部11,21の円周方向に30°傾斜した方向、該面直方向に対して該円周方向に45°傾斜した方向、及び該面直方向に対して該円周方向に60°傾斜した方向にも実現できるようになっている。
【0043】
〈引張強度試験〉
本実施形態に係る保持装置1を用いて、試験片100に対して溶接部103の引張強度試験を行うには、まず、試験片100の第1金属片101を第1固定部12に固定しかつ試験片100の第2金属片102を第2固定部22に固定する(保持工程)。
【0044】
次に、試験内容に合わせて第1及び第2可動部13,23の位置を調整する。例えば、接手引張試験(十字接手引張試験やL字接手引張試験等)を行うときには、図2に示すように、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23が、第1及び第2底部101a,102aの面直方向に並ぶように配置する。また、引張剪断強度試験を行うときには、図6に示すように、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23が、第1及び第2底部101a,102aの面直方向に垂直な方向に並ぶように配置する。本実施形態では、この他、30°引張強度試験、45°引張強度試験、及び60°引張強度試験を行うことができる。
【0045】
次いで、第1及び第2可動部13,23(厳密には、第1及び第2接続部15,25)を不図示の引張装置に取り付ける(取付工程)。引張装置は既知のものを採用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0046】
続いて、前記引張装置により、第1及び第2可動部13,23を、溶接部103から離れる方向にそれぞれ引っ張る(引張工程)。これにより、第1及び第2可動部13,23、第1及び第2本体部11,21、並びに第1及び第2固定部12,22を介して、溶接部103に荷重が入力される。
【0047】
そして、引張工程において溶接部103が分離するまでの荷重の変化を計測することで、試験結果を得ることができる。
【0048】
図7は、本実施形態に係る保持装置1を用いて引張強度試験を実施した際の試験片100の形状を模式的に示している。図7(a)は、十字接手引張試験(以下、CTS試験という)を行ったときの試験片100の状態であり、図7(b)は、剪断引張強度試験(以下、TSS試験という)を行ったときの試験片100の状態である。
【0049】
図7(a)に示すように、保持装置1を用いたCTS試験では、第1底部101a及び第2底部102aが溶接部103に向かって僅かに変形するだけであり、それ以外の部分はほとんど変形しない。これは、第1及び第2金属片101,102が、その内周面が第1及び第2固定部12,22に接触するように、該第1及び第2固定部12,22に軸状締結部材104で取付固定されているためである。すなわち、第1底部101a及び第2底部102aが互いに引っ張られたときには、第1及び第2金属片101,102は、そのU字開口が閉じるように変形しようとする。しかし、この変形が第1及び第2固定部12,22により抑制される。したがって、試験片100の変形挙動が理想に近い挙動になって、CTS試験における引張荷重が溶接部103に適切に入力されるようになる。
【0050】
一方で、図7(b)に示すように、保持装置1を用いたTSS試験では、第1底部101a及び第2底部102a自体もほとんど変形しない。これは、保持装置1を用いた場合には、第1及び第2金属片101,102おけるU字底部101a,101bと立壁部101b,102bとの間の角部の延びる方向と引張方向とが平行になるためである。TSS試験における引張荷重も溶接部103に適切に入力されるようになる。
【0051】
図8は、従来のCTS試験の試験結果と本実施形態に係る保持装置1を用いたCTS試験の試験結果とを示す。図8のグラフにおいて、縦軸は溶接部103への入力荷重である。一方、図8のグラフにおいて、横軸は、試験片100を引張方向に変位させた量であって、第1固定部12と第2固定部22との間の離間距離とみなしてもよい。
【0052】
図8に示すように、保持装置1を用いた場合には、従来のものと比較して、試験片100の変位量に対する溶接部103への入力荷重が大きいことが分かる。また、保持装置1を用いた場合には、従来のものと比較して、試験片100の変位量に対する溶接部103への入力荷重の変化が直線的になっていることが分かる。これは、従来のものは試験片100が変形して荷重が逃げてしまうのに対して、本実施形態に係る保持装置1では、試験片100がほとんど変形せず、試験片100の変位量に応じた荷重が溶接部103に適切に入力されるためである。このように、本実施形態に係る保持装置1を用いれば、理想的なCTS試験が可能である。
【0053】
図9は、従来のTSS試験の試験結果と本実施形態に係る保持装置1を用いたTSS試験の試験結果とを示す。図9のグラフにおいて、縦軸は溶接部103への入力荷重である。一方、図9のグラフにおいて、横軸は、試験片100を引張方向に変位させた量であって、第1固定部12と第2固定部22との間の離間距離とみなしてもよい。
【0054】
図9に示すように、保持装置1を用いた場合には、従来のものと比較して、試験片100の変位量に対する溶接部103への入力荷重が大きいことが分かる。これについても、CTS試験の場合と同様に、従来のものは試験片100が変形して荷重が逃げてしまうのに対して、本実施形態の保持装置1では、試験片100がほとんど変形せず、試験片100の変位量に応じた荷重が溶接部103に適切に入力されるためである。したがって、本実施形態に係る保持装置1を用いれば、理想的なTSS試験も可能である。
【0055】
〈まとめ〉
したがって、本実施形態では、試験片100を構成する一対の金属片のうち一方の金属片である第1金属片101を保持する第1保持具10と、一対の金属片のうち他方の金属片である第2金属片102を保持する第2保持具20と、を備え、第1保持具10は、第1本体部11と、第1本体部11に設けられかつ第1金属片101を、該第1金属片101が嵌め込まれた状態で取付固定する第1固定部12と、第1本体部11とは別体で構成されかつ第1本体部11に対して取付位置を変更できるように取り付けられる第1可動部13とを有し、第2保持具20は、第2本体部21と、第2本体部21に設けられかつ第2金属片102を、該第2金属片102が嵌め込まれた状態で取付固定する第2固定部22と、第2本体部21とは別体で構成されかつ第2本体部21に対して取付位置を変更できるように取り付けられる第2可動部23とを有し、第1及び第2固定部12,22は、第1及び第2可動部13,23を介して、取付固定された各金属片101,102が互いに離間するように引っ張られる際に、試験片100の変形を抑制可能に構成されている。これにより、試験片100を保持す第1及び第2固定部12,22によって、各金属片101,102が互いに離間するように引っ張られる際に、試験片100の変形が抑制される。この結果、実際に溶接部103に入力されている荷重を精度良く求めることができ、試験精度を向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、第1固定部12は、第1金属片101のU字開口の幅と同程度の厚みを有し、第2固定部22は、第2金属片102のU字開口の幅と同程度の厚みを有する。このように、第1固定部12が第1金属片101のU字開口の幅と同程度の幅を有し、第2固定部22が第2金属片102のU字開口の幅と同程度の厚みを有していれば、U字開口が閉じるような変形を効果的に抑制することができる。この結果、試験精度をより向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、第1及び第2可動部13,23は、試験片100の溶接部103を中心に点対称に並ぶように、第1及び第2本体部11,21にそれぞれ取り付けられている。これにより、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23が一直線上に並ぶようになるため、第1及び第2可動部13,23を介して、各金属片101,102が互いに離間するように引っ張る引張試験を行う際に、溶接部103に精度良く負荷を入力することができる。この結果、試験精度をより向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態では、各金属片101,102の各U字底部(第1底部101a及び第2底部102a)はそれぞれ面状をなしており、第1及び第2本体部11,21は、第1可動部13、溶接部103、及び第2可動部23が、各U字底部(第1底部101a及び第2底部102a)の面直方向と該面直方向に直交する方向とに一直線に並ぶことができるように、第1及び第2可動部13,23を取り付け可能に構成されている。これにより、1つの保持装置1で、試験片100に対して引張剪断強度試験と接手引張試験とを実行することができる。この結果、試験の効率を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態では、第1及び第2本体部11,21は、それぞれ平板状の扇形をなしており、第1及び第2固定部12,22は、第1及び第2本体部の扇形の中心を含む部分にそれぞれ形成され、第1及び第2可動部13,23は、第1及び第2本体部11,21の周縁を含むようにそれぞれ取り付けられている。これにより、第1及び第2可動部13,23を移動させたとしても、溶接部103から可動部までの距離を一定に保つことができる。これにより、第1及び第2可動部13,23のセッティングが容易になって、試験の効率をより向上させることができる。
【0060】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0061】
例えば、前述の実施形態では、第1及び第2可動部13,23は、それぞれ2つの軸状締結部材16,26により、第1及び第2本体部11,21にそれぞれ取り付けられていた。これに限らず、第1及び第2可動部13,23を第1及び第2本体部11,21に取り付ける際に用いる軸状締結部材の数は1つでもよいし、3つ以上でもよい。このとき、第1及び第2本体部11,21における軸状締結部材の取付位置は、溶接部103を中心に点対称になっていることが好ましい。
【0062】
また、前述の実施形態では、第1及び第2可動部13,23は、第1及び第2取付部14,24と第1及び第2接続部15,25とに分離されていた。これに限らず、第1可動部13が第1取付部14と第1接続部15とが一体に形成され、第2可動部23が第2取付部24と第2接続部25とが一体に形成されていてもよい。
【0063】
また、前述の実施形態では、試験片100の接合部は溶接部103であった。これに限らず、試験片100の接合部は、リベット接続で構成されたものでもよいし、接着剤で構成されたものでもよい。
【0064】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
ここに開示された技術は、断面U字状をなす一対の金属片を、各U字開口が互いに反対側を向くように各U字底部同士を溶接して形成された試験片の保持装置及び該保持装置を用いた試験方法として有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 保持装置
10 第1保持具
11 第1本体部
12 第1固定部
13 第1可動部
20 第2保持具
21 第2本体部
22 第2固定部
23 第2可動部
100 試験片
101 第1金属片(一方の金属片)
101a 第1底部(U字底部)
102 第2金属片(他方の金属片)
102a 第2底部(U字底部)
103 溶接部(接合部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9