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特開2022-190366車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190366
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/173 20060101AFI20221219BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20221219BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20221219BHJP
   H02K 7/08 20060101ALI20221219BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20221219BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20221219BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H02K5/173 A
B60B35/14 V
B60K7/00
H02K7/08 Z
F16C19/18
F16C41/00
F16C19/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098650
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】徳永 寛哲
【テーマコード(参考)】
3D235
3J217
3J701
5H605
5H607
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB20
3D235BB45
3D235CC42
3D235GA02
3D235GA13
3D235GA59
3D235GA62
3J217JA02
3J217JA12
3J217JA13
3J217JA24
3J217JA33
3J217JA34
3J217JA43
3J217JB23
3J217JB26
3J217JB37
3J217JB56
3J217JB64
3J701AA03
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA77
3J701EA02
3J701FA31
3J701FA46
3J701FA60
3J701GA03
3J701GA24
5H605AA07
5H605AA08
5H605BB01
5H605BB05
5H605CC02
5H605CC03
5H605CC04
5H605CC10
5H605DD09
5H605EB10
5H605EB15
5H605GG04
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB14
5H607BB17
5H607BB26
5H607CC01
5H607CC03
5H607CC09
5H607DD01
5H607DD02
5H607DD03
5H607DD16
5H607GG08
(57)【要約】
【課題】外輪の外周面に対向する電動機の内周面を容易に外輪の外周面に固定でき、電動機の固定による軸受形状の崩れ等を抑え、電動機で発生する銅損および鉄損による発熱を軸受内部に伝え難い車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】この車両用動力装置1は、車輪用軸受2と電動機3とを備える。ハブフランジ7に、車輪と共にブレーキロータ12が取付けられ、車両用動力装置1の全体が、ブレーキロータ12における、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部12bよりも小径である。固定輪である外輪4の外周面に、電動機3における半径方向内方に位置するステータ18が圧入により固定されている。外輪4の外周面と、外輪4の外周面に対向し固定される電動機3の内周面のいずれか一方または両方に、環状の凹み21が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、
前記固定輪に取付けられたステータおよび前記回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置であって、
前記ハブフランジに、前記車輪と共にブレーキロータが取付けられ、前記車両用動力装置の全体が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、
前記固定輪または前記回転輪である外輪の外周面に、前記電動機における半径方向内方に位置する前記ステータまたは前記ロータが圧入により固定され、前記外輪の外周面と、この外輪の外周面に対向し固定される前記電動機の内周面、のいずれか一方または両方に、環状の凹みが設けられた車両用動力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用動力装置において、前記車輪用軸受は複列のアンギュラ玉軸受であり、前記外輪における一方の軌道面の溝底位置から他方の軌道面の溝底位置までの軸方向範囲よりも軸方向外側に、前記電動機の内周面と前記外輪の外周面との当接部が設けられている車両用動力装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用動力装置において、前記電動機および前記外輪のいずれか一方または両方に、前記環状の凹みと外部とを連通する連通孔が設けられている車両用動力装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用動力装置において、前記車輪用軸受は複列のアンギュラ玉軸受であり、このアンギュラ玉軸受を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面で、前記複列のアンギュラ玉軸受のそれぞれの接触角が前記外輪の外周面と交わる二点の間に、前記電動機の内周面と前記外輪の外周面との当接部が設けられている車両用動力装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両用動力装置において、前記車輪用軸受は、前記固定輪が内輪、前記回転輪が前記外輪の外輪回転であり、前記外輪の外周面に前記ロータが固定されている車両用動力装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用動力装置において、前記内輪にブラケットを介して前記ステータが取付けられ、前記内輪に対する前記外輪の回転角度または回転速度を検出する回転検出器を備え、この回転検出器は、前記ロータを構成するロータコアに取付けられた被検出部と、前記ブラケットに固定されて前記被検出部を検出するセンサ部とを有する車両用動力装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両用動力装置において、前記車輪用軸受は、前記固定輪が前記外輪、前記回転輪が内輪の内輪回転であり、前記外輪の外周面に前記ステータが固定されている車両用動力装置。
【請求項8】
固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、
前記固定輪に取付けられたステータおよび前記回転輪に取付けられたロータを有する発電機と、を備えた発電機付き車輪用軸受装置であって、
前記ハブフランジに、前記車輪と共にブレーキロータが取付けられ、前記発電機付き車輪用軸受装置の全体が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、
前記固定輪または前記回転輪である外輪の外周面に、前記発電機における半径方向内方に位置する前記ステータまたは前記ロータが圧入により固定され、前記外輪の外周面と、この外輪の外周面に対向し固定される前記発電機の内周面、のいずれか一方または両方に、環状の凹みが設けられた発電機付き車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設置される車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪内部に電動機を組み込んだ車両用動力装置は、車輪を支持する車輪用軸受と、車輪の駆動および回生を行う電動機が一体構造の装置で、車両の駆動アシスト、減速時の回生、各輪トルク制御による姿勢の安定化など多くの利点があり、自動車の電動化と相俟って今後需要が見込まれている。
特許文献1に示す車輪用軸受装置は、装置が小型で、ブレーキロータの外周部よりも内径側に配置できるため、現行の車輪用軸受からの置き換えが容易である。
【0003】
<従来構造>
図10に示す従来の車両用動力装置は、車輪用軸受50と電動機51とを備え、ブレーキロータ52のブレーキ摺動部よりも内周側に収められる。懸架装置53に、車輪用軸受50の外輪、電動機51のステータ固定部材54を介して、電動機51のステータコアが固定されている。ステータコアには、電流を流し磁力を発生させるためのコイルが巻かれている。一方、車輪用軸受50のハブフランジ55に、電動機51のロータと一体になったロータケース56が取付けられ、ステータコアの周りを回転する。この車輪用軸受50と一体化された電動機51によって車両の走行状態に合わせて、駆動および回生を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-52482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の上記車両用動力装置では、ステータコアの固定として、ステータコアをステータ固定部材54に焼き嵌めして、ステータ固定部材54を、車輪用軸受50の外輪の外径部に圧入または接着を行う。前記圧入の場合、外輪の外径よりステータ固定部材54の内径が小さく、外輪を縮径する力が発生する。ステータ固定部材54の内径が、外輪のアウトボード側の軌道面またはインボード側の軌道面と径方向で重なっていると、前記圧入の縮径する力が、直接軌道面に作用することになる。これにより、軌道面の形状の崩れ、予圧過大となり、圧痕による振動および早期の異常の原因となる。外輪の外径寸法とステータ固定部材54の内径寸法を管理し、圧入による縮径を考慮して車輪用軸受50の設計を行ったとしても、圧入による安定した固定を得るには、各部品の寸法公差が厳しくなり、量産に向かない構造となる。
【0006】
また、圧入の場合でも、接着の場合でも、外輪の外径とステータ固定部材54の内径は、隙間なく接している。このため、電動機51の動作時にコイルに電流が流れることによる発熱(銅損)と回転に伴うステータコア内部の磁束の変化による発熱(鉄損)が、ステータコアからステータ固定部材54、外輪を通して軸受内部まで伝熱し、車輪用軸受50の温度を上昇させる。この車輪用軸受50の温度上昇は、車輪用軸受内部のグリースおよび転動体を保持する保持器の早期の異常を招き、信頼性を低下させる可能性がある。そして、接着の場合、電動機51からの発熱により接着剤が経年劣化し、接着力の低下により振動および異常を引き起こす可能性もある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、外輪の外周面に対向する電動機の内周面を容易に外輪の外周面に固定でき、電動機の固定による軸受形状の崩れ等を抑え、電動機で発生する銅損および鉄損による発熱を軸受内部に伝え難い車両用動力装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、外輪の外周面に対向する発電機の内周面を容易に外輪の外周面に固定でき、発電機の固定による軸受形状の崩れ等を抑え、発電機で発生する銅損および鉄損による発熱を軸受内部に伝え難い発電機付き車輪用軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の車両用動力装置は、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、
前記固定輪に取付けられたステータおよび前記回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置であって、
前記ハブフランジに、前記車輪と共にブレーキロータが取付けられ、前記車両用動力装置の全体が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、
前記固定輪または前記回転輪である外輪の外周面に、前記電動機における半径方向内方に位置する前記ステータまたは前記ロータが圧入により固定され、前記外輪の外周面と、この外輪の外周面に対向し固定される前記電動機の内周面、のいずれか一方または両方に、環状の凹みが設けられている。
【0009】
この構成によると、車両用動力装置の全体が、ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であるため、ブレーキロータ内に電動機を設置するスペースを確保してこの電動機をコンパクトに収めることができる。
外輪の外周面に、電動機における半径方向内方に位置するステータまたはロータが圧入により固定されるが、外輪の外周面または電動機の内周面に環状の凹みが設けられているため、前記圧入による軌道面の形状の崩れおよび予圧過大が起こることを防止することが可能となる。このため、圧痕による振動および早期の異常の原因を回避することができる。よって、各部品の寸法公差を厳しく管理することなく、外輪の外周面に電動機の内周面を容易に固定することができる。また環状の凹みが設けられているため、電動機で発生する銅損および鉄損による発熱が、車輪用軸受の軸受部に伝熱する割合が減り、外輪のインボード側から例えば車両の懸架装置に伝わる。これにより、軸受内部のグリース等の早期の異常を防ぎ、従来よりも高い信頼性が得られる。
【0010】
前記車輪用軸受は複列のアンギュラ玉軸受であり、前記外輪における一方の軌道面の溝底位置から他方の軌道面の溝底位置までの軸方向範囲よりも軸方向外側に、前記電動機の内周面と前記外輪の外周面との当接部が設けられていてもよい。この場合、電動機の内周面と外輪の軌道面との径方向の重なり部分を低減することができ、軌道面の形状の崩れ、予圧過大をより確実に防止することができる。
【0011】
前記電動機および前記外輪のいずれか一方または両方に、前記環状の凹みと外部とを連通する連通孔が設けられていてもよい。この場合、環状の凹みの空気が連通孔から外部に抜けるため、電動機の内周面の位置が、外輪の外周面における所定の位置からずれることを防止することができる。
【0012】
前記車輪用軸受は複列のアンギュラ玉軸受であり、このアンギュラ玉軸受を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面で、前記複列のアンギュラ玉軸受のそれぞれの接触角が前記外輪の外周面と交わる二点の間に、前記電動機の内周面と前記外輪の外周面との当接部が設けられていてもよい。この場合、転動体と外輪の各軌道面が接触する接触点と、当接部とが径方向で重ならないようにすることができ、軌道面の形状の崩れ、予圧過大をより確実に防止することができる。
【0013】
前記車輪用軸受は、前記固定輪が内輪、前記回転輪が前記外輪の外輪回転であり、前記外輪の外周面に前記ロータが固定されていてもよい。このような外輪回転方式の車輪用軸受を備えた車両用動力装置を実現し得る。
【0014】
前記内輪にブラケットを介して前記ステータが取付けられ、前記内輪に対する前記外輪の回転角度または回転速度を検出する回転検出器を備え、この回転検出器は、前記ロータを構成するロータコアに取付けられた被検出部と、前記ブラケットに固定されて前記被検出部を検出するセンサ部とを有してもよい。この場合、固定された部品間に円周方向のずれ、いわゆる位相のずれが生じたとしても、電動機と回転検出器との間の位相のずれを抑えることができる。これにより、電動機の制御または車両の制御を継続し、安全性の向上を図ることができる。
【0015】
前記車輪用軸受は、前記固定輪が前記外輪、前記回転輪が内輪の内輪回転であり、前記外輪の外周面に前記ステータが固定されていてもよい。このような内輪回転方式の車輪用軸受を備えた車両用動力装置を実現し得る。
【0016】
この発明の発電機付き車輪用軸受装置は、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、
前記固定輪に取付けられたステータおよび前記回転輪に取付けられたロータを有する発電機と、を備えた発電機付き車輪用軸受装置であって、
前記ハブフランジに、前記車輪と共にブレーキロータが取付けられ、前記発電機付き車輪用軸受装置の全体が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、
前記固定輪または前記回転輪である外輪の外周面に、前記発電機における半径方向内方に位置する前記ステータまたは前記ロータが圧入により固定され、前記外輪の外周面と、この外輪の外周面に対向し固定される前記発電機の内周面、のいずれか一方または両方に、環状の凹みが設けられている。
【0017】
この構成によると、発電機付き車輪用軸受装置の全体がブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であるため、ブレーキロータ内に発電機を設置するスペースを確保してこの発電機をコンパクトに収めることができる。
外輪の外周面に、発電機における半径方向内方に位置するステータまたはロータが圧入により固定されるが、外輪の外周面または発電機の内周面に環状の凹みが設けられているため、前記圧入による軌道面の形状の崩れおよび予圧過大が起こることを防止することが可能となる。このため、圧痕による振動および早期の異常の原因を回避することができる。よって、各部品の寸法公差を厳しく管理することなく、外輪の外周面に発電機の内周面を容易に固定することができる。また環状の凹みが設けられているため、発電機で発生する銅損および鉄損による発熱が、車輪用軸受の軸受部に伝熱する割合が減り、外輪のインボード側から例えば車両の懸架装置に伝わる。これにより、軸受内部のグリース等の早期の異常を防ぎ、従来よりも高い信頼性が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両用動力装置によれば、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、前記固定輪に取付けられたステータおよび前記回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置であって、前記ハブフランジに、前記車輪と共にブレーキロータが取付けられ、前記車両用動力装置の全体が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、前記固定輪または前記回転輪である外輪の外周面に、前記電動機における半径方向内方に位置する前記ステータまたは前記ロータが圧入により固定され、前記外輪の外周面と、この外輪の外周面に対向し固定される前記電動機の内周面、のいずれか一方または両方に、環状の凹みが設けられた。このため、外輪の外周面に対向する電動機の内周面を容易に外輪の外周面に固定でき、電動機の固定による軸受形状の崩れ等を抑え、電動機で発生する銅損および鉄損による発熱を軸受内部に伝え難くすることができる。
【0019】
本発明の発電機付き車輪用軸受装置によれば、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、前記固定輪に取付けられたステータおよび前記回転輪に取付けられたロータを有する発電機と、を備えた発電機付き車輪用軸受装置であって、前記ハブフランジに、前記車輪と共にブレーキロータが取付けられ、前記発電機付き車輪用軸受装置の全体が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、前記固定輪または前記回転輪である外輪の外周面に、前記発電機における半径方向内方に位置する前記ステータまたは前記ロータが圧入により固定され、前記外輪の外周面と、この外輪の外周面に対向し固定される前記発電機の内周面、のいずれか一方または両方に、環状の凹みが設けられた。このため、外輪の外周面に対向する発電機の内周面を容易に外輪の外周面に固定でき、発電機の固定による軸受形状の崩れ等を抑え、発電機で発生する銅損および鉄損による発熱を軸受内部に伝え難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用動力装置の断面図である。
図2】本発明の他の実施形態の車両用動力装置の断面図である。
図3】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の断面図である。
図4】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の断面図である。
図5】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の断面図である。
図6】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の断面図である。
図7A】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の部分拡大断面図である。
図7B】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の部分拡大断面図である。
図8A】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の断面図である。
図8B】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の断面図である。
図9A】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の部分拡大断面図である。
図9B】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の部分拡大断面図である。
図9C】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の部分拡大断面図である。
図9D】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の部分拡大断面図である。
図9E】本発明のさらに他の実施形態の車両用動力装置の部分拡大断面図である。
図10】従来の車両用動力装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]:内輪回転方式、アウターロータ型
この発明の第1の実施形態に係る車両用動力装置を図1と共に説明する。図1は、この車両用動力装置を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面である。後述する他の実施形態についても同様である。
図1に示すように、この車両用動力装置1は、車輪用軸受2と、電動機を兼用する発電機である電動機3とを備える。電動機を兼用しない発電機である場合、この発電機と車輪用軸受2とを備える発電機付き車輪用軸受装置となる。なお図の二点鎖線で囲まれた部分を拡大して示す。
【0022】
<車輪用軸受2について>
車輪用軸受2は、固定輪である外輪4と、複列の転動体6と、回転輪である内輪5と、転動体6を保持する図示外の保持器とを有する。車輪用軸受2として、背面合わせの複列のアンギュラ玉軸受が適用される。転動体6は鋼球から成る。外輪4と内輪5との間の軸受空間である軸受内部には、グリースが封入されている。外輪4は、円筒部4bと、この円筒部4bのインボード側端から半径方向外方に突出する車体取付フランジ4aとを有する。円筒部4bの内周面には、複列の転動体6が転走する複列の軌道面4c,4cが形成されている。車体取付フランジ4aは、車体の懸架装置8に複数のボルト9で固定される。
【0023】
内輪5は、ハブ輪5aと、部分内輪5bとを有する。ハブ輪5aは、この外周面にアウトボード側の軌道面を有し、且つ外輪4よりも軸方向のアウトボード側に突出した箇所にハブフランジ7を有する。部分内輪5bは、ハブ輪5aのインボード側の外周面に嵌合され、この部分内輪5bの外周面にインボード側の軌道面を有する。
ハブフランジ7のアウトボード側の側面には、ブレーキロータ12と図示外の車輪のリムとが軸方向に重なった状態で、ハブボルト13により取付けられている。前記リムの外周に図示外のタイヤが取付けられている。
なおこの明細書において、車両用動力装置1が車両に搭載された状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の車幅方向の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0024】
<ブレーキについて>
ブレーキは、ディスク状のブレーキロータ12と、図示外のブレーキキャリパとを備える摩擦ブレーキである。ブレーキロータ12は、平板状部12aと、外周部12bとを有する。平板状部12aは、ハブフランジ7に重なる環状で且つ平板状の部材である。外周部12bは、平板状部12aの外周縁部からインボード側に円筒状に延びる円筒状部12baと、この円筒状部12baのインボード側端から外径側に平板状に延びる平板部12bbとを有する。前記ブレーキキャリパは、懸架装置8に取付けられ、前記平板部12bbを挟み付ける摩擦パッド(図示せず)を有する。前記ブレーキキャリパは、油圧式および機械式のいずれであってもよく、また電動モータ式であってもよい。
【0025】
<電動機3について>
この例の電動機3は、車輪の回転で発電を行い、給電されることによって車輪を回転駆動可能な走行補助用の電動発電機である。電動機3は、ステータ18と、このステータ18に対し半径方向に対向して位置するロータ19とを有する。この電動機3は、ロータ19がステータ18の半径方向外方に位置するアウターロータ型である。また、電動機3は、ロータ19がロータケース14を介してハブフランジ7に取付けられたダイレクトドライブ形式である。
【0026】
この電動機3は、ステータ18およびロータ19の全部がブレーキロータ12の外周部12bよりも小径である。よって、車両用動力装置1の全体が、ブレーキロータ12における、前記ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部12bよりも小径である。さらに電動機3は、ハブフランジ7と、ナックル8のアウトボード側面8aとの間の軸方向範囲L1に設置されている。電動機3は、例えば表面磁石型永久磁石モータ、すなわちSPM(Surface Permanent Magnet)同期モータ(もしくはSPMSM(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)と標記)である。
【0027】
電動機3は、IPM(Interior Permanent Magnet)同期モータ(もしくはIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)と標記)でもよい。その他電動機3は、スイッチトリラクタンスモータ(Switched reluctance motor)であってもよい。各モータ形式において、ステータ18の巻き線形式として分布巻、集中巻の各形式が採用できる。
【0028】
ロータケース14は、内輪5と同心の有底円筒形状であり、平板状で且つ環状のケース底部14aと、このケース底部14aの外周縁部からインボード側に円筒状に延びるケース円筒状部14bとを有する。これらケース底部14aとケース円筒状部14bとは一体もしくは別体で形成されている。ケース底部14aは、ブレーキロータ12の平板状部12aと、ハブフランジ7との間に挟まれる。また、ケース底部14aをなくし、ハブフランジ7と円筒状部14bで、ロータケースを構成する構造も可能である。
【0029】
ケース円筒状部14bの内周面には、アウトボード側からインボード側に順次、小径部、中径部および大径部が設けられている。
ロータ19は、ケース円筒状部14bの前記中径部に固定される円筒状のロータコア19aと、このロータコア19aの内周面に設けられる複数の永久磁石とを備える。前記複数の永久磁石は円周方向一定間隔おきに設けられる。ケース円筒状部14bのうち、前記小径部と前記中径部とを繋ぐ段差部に、ロータ19のアウトボード側端が当接することで、ロータケース14に対しロータ19が軸方向に位置決めされる。
【0030】
この例では、ロータコア19aが、ロータケース14を介してハブフランジ7に取付けられ同ハブフランジ7と一体に回転するが、ロータコアがロータケースを兼ねてもよい。この場合、ロータコア19aがロータケース14と別部品である構成よりも部品点数を低減できコスト低減が期待できる。この場合のロータケースは、例えば、軟磁性材料から成る。前記ロータケースは、一体の金属部品で切削または鋳造等を用いて製作してもよく、もしくは、複数の分割構造体で製作後、これら分割構造体を、例えば、溶接、接着等で固定してもよい。
【0031】
ステータ18は、この電動機3における半径方向内方に位置する。ステータ18は、環状のステータコア18aと、このステータコア18aのティース部に絶縁部材を介して巻き付けられたステータコイル18bと、ステータコア18aが固定されるステータ固定部材18cとを備える。前記絶縁部材は、ステータコイル18bとステータコア18aとの間を絶縁する例えば樹脂製のボビンである。前記ボビンはインシュレーターとも称される。ステータ固定部材18cは、円筒状であり外輪4における円筒部4bの外周面に固定される。ステータ固定部材18cの内周面は、外輪4の前記外周面に対向して圧入により固定される。
【0032】
ステータ固定部材18cは、鋼製または樹脂製の材料から成るが、外輪4の圧入部への熱膨張の影響を小さくするには、外輪4と同質の中高炭素鋼を適用することが好ましい。前記中高炭素鋼として、例えば、JIS規格のS53C等が挙げられるがこのS53Cに限定されるものではない。ステータ固定部材18cの外周面に、円環状の絶縁層20を介してステータコア18aが取付けられている。ステータコア18aおよび絶縁層20は、ステータ固定部材18cの外周面に焼き嵌めで固定されている。
【0033】
絶縁層20は、車輪用軸受2の電食を防止する絶縁層であって、例えば、樹脂材料またはゴム材料等の絶縁性を有する軟材料、あるいはセラミックス等の絶縁材料等から成る。絶縁層20は、ステータコア18aの内周面の幅寸法と略同一でステータコア18aの内周面を全て覆うように形成されている。絶縁層20の径方向の厚みは、この電動機3の駆動電圧に応じて適宜に設定されている。このような絶縁層20により、転動体6への通電を遮断することにより、車輪用軸受2の電食を防止し得る。なおステータコア18aの内周面に、絶縁材料を塗布または溶射することにより絶縁層20を形成してもよい。
【0034】
ステータ固定部材18cの内周面には、環状の凹み21が設けられている。具体的には、ステータ固定部材18cの内周面には、アウトボード側からインボード側に順次、小径部22、大径部23および小径部22が設けられている。軸方向両側の小径部22,22はこの例では同一径に設定され、且つ、大径部23は各小径部22よりも所定寸法大径に形成されている。大径部23と軸方向両側の小径部22,22とは、それぞれ段差部24,24により繋がっている。前記環状の凹み21は、大径部23と段差部24,24から成る。軸方向両側の小径部22,22が、外輪4の外周面に圧入により固定されている。軸方向両側の小径部22,22が、この電動機3の内周面と外輪4の外周面との「当接部」に相当する。
【0035】
アウトボード側における小径部22の軸方向の位置は、外輪4のアウトボード側端面からアウトボード側の転動体6の中心(軌道面4cの溝底位置)P1までの軸方向範囲にある。インボード側における小径部22の軸方向の位置は、インボード側の転動体6の中心(軌道面4cの溝底位置)P2よりもインボード側の軸方向範囲にある。換言すれば、外輪4におけるアウトボード側(一方)の軌道面4cの溝底位置からインボード側(他方の)軌道面4cの溝底位置までの軸方向範囲よりも軸方向外側に、小径部22,22が設けられている。また、小径部22,22の取付け位置は、転動体6と外輪4の軌道面4cが接触する二つの接触点P3,P4に径方向で重ならないようにしている。このように小径部22,22の位置を規定することで、ステータ固定部材18cの前記圧入による軌道面4cの形状の崩れおよび予圧過大が起こることを防止することが可能となる。このため、圧痕による振動および早期の異常の原因を回避し得る。また、電動機と一体構造でない一般的な車輪用軸受と同等の寸法管理で部品を製作できる。
【0036】
<シール構造について>
ケース円筒状部14bのインボード側の内周面と、車体取付フランジ4aの外周面との間には、電動機3および車輪用軸受2内部への水および異物の侵入を防ぐシール部材25が配置されている。
【0037】
<回転検出器等について>
この車両用動力装置1には、回転検出器26が設けられている。この回転検出器26は、電動機3の回転を制御するために、外輪4に対する内輪5の回転角度または回転速度を検出する。回転検出器26は、回転側の被検出部26aと、この被検出部26aを検出する非回転側のセンサ部26bとを有する。ハブ輪5aのインボード側端に螺合された被検出部保持部材27に、被検出部26aがハブ輪5aと同軸に取付けられている。外輪4のインボード側の内周面に、センサ固定部材28を介してセンサ部26bが固定されている。
【0038】
この回転検出器26として例えばレゾルバが適用される。但し、回転検出器26としては、レゾルバに限定されるものではなく、例えば、エンコーダ、パルサーリングあるいはホールセンサなど形式を問わず採用可能で、それぞれを1つ以上もしくは組み合わせて搭載してもよい。外輪4のインボード側端には、このインボード側端を覆うキャップ29が固定されている。このキャップ29により、回転検出器26および軸受部への水の浸入を防止する。
別途、車両の速度を検出するために、この車両用動力装置1に車輪速センサを設けることもあるが、前記回転検出器26が、車輪速センサを兼ねることも可能である。
【0039】
<作用効果>
以上説明した車両用動力装置1によれば、車両用動力装置1の全体が、ブレーキロータ12における外周部12bよりも小径であるため、ブレーキロータ12内に電動機3を設置するスペースを確保してこの電動機3をコンパクトに収めることができる。外輪4の外周面にステータ18が圧入により固定されるが、ステータ固定部材18cの内周面に環状の凹み21が設けられているため、前記圧入による軌道面4cの形状の崩れおよび予圧過大が起こることを防止することが可能となる。このため、圧痕による振動および早期の異常の原因を回避することができる。よって、各部品の寸法公差を厳しく管理することなく、外輪4の外周面に電動機3の内周面を容易に固定することができる。また環状の凹み21が設けられているため、電動機3で発生する銅損および鉄損による発熱が、車輪用軸受2の軸受部に伝熱する割合が減り、外輪4のインボード側から例えば車両の懸架装置8に伝わる。これにより、軸受内部のグリース等の早期の異常を防ぎ、従来よりも高い信頼性が得られる。
【0040】
複列のアンギュラ玉軸受のうち、アウトボード側の軸受には、タイヤからの外力が大きな割合で作用し、外輪のアウトボード側開口部は変形が起こり易い。この例では、ステータ固定部材18cにおける一方の小径部22が、外輪4のアウトボード側の端面付近に取付けられる。これにより、外輪4のアウトボード側開口部の剛性が上がり、アウトボード側の軌道面4cの変形が抑えられ、外力に起因する振動および異常が避けられる。
【0041】
また、外輪4のインボード側に、ステータ固定部材18cにおける他方の小径部22の取付け位置があることにより、ステータ18の発熱が、車輪用軸受2の軸受部に伝熱する割合が減り、外輪4のインボード側から直接懸架装置8に伝わる。これにより、軸受内部のグリースおよび前記保持器の早期の異常を防ぎ、従来よりも高い信頼性が得られる。
【0042】
ステータ固定部材18cの小径部22の軸方向位置は、アウトボード側の転動体6の中心P1からインボード側の転動体6の中心P2までの軸方向範囲よりも軸方向外側に配置された例を示している。外輪4に対し圧入による安定した固定ができる場合には、ステータ固定部材18cの小径部22の軸方向位置は、軌道面4cの溝にかからないようにした方が、軌道面4cの形状の崩れ、予圧過大に対し、さらに望ましい形態となる。
【0043】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0044】
[第2の実施形態]:内輪回転方式、アウターロータ型
図2に示すように、ステータ固定部材18cの内周面における軸方向中央部に、小径部22が設けられていてもよい。具体的には、複列のアンギュラ玉軸受を軸受軸方向を含む平面で切断した断面で、前記複列のアンギュラ玉軸受のそれぞれの接触角α,αが外輪4の外周面と交わる二点P5,P6の間に、小径部(当接部)22が設けられている。
この構成によると、転動体6と外輪4の各軌道面4cが接触する接触点と、小径部22とが径方向で重ならないようにすることができ、軌道面4cの形状の崩れ、予圧過大をより確実に防止することができる。
【0045】
[第3の実施形態]:内輪回転方式、アウターロータ型
図3に示すように、外輪4の外周面に鍛造の抜け勾配βが形成される場合に、ステータ固定部材18cの軸方向両側の小径部22,22が、外輪4の外周面に圧入により固定される構成であってもよい。外輪4の外周面には、アウトボード側に向かうに従って小径となる鍛造の抜け勾配βが形成されている。この勾配βは軸受軸方向を含む円筒面に対する傾きの度合いである。外輪4の外周面のうち、小径部22,22が固定される部分のみ平坦つまり円筒状に加工されている。外輪4の外周面に前記抜け勾配βが形成されている分、ステータ固定部材18cのアウトボード側(図3左側)の小径部22がインボード側の小径部22よりも小径となる。
この構成によると、外輪4の外周面のうち、小径部22,22が固定される部分のみ円筒状に加工すればよいため、外輪4の外周面の略全体を加工する第1,第2の実施形態等よりも加工工数の低減を図れ、製造コストの低減を図れる。
【0046】
ステータ固定部材の内周面の軸方向両側に小径部が設けられる構成において、ステータ固定部材を外輪の外周面に圧入する際、ステータ固定部材の大径部の空気が抜けず、ステータコアの位置が所定の位置からずれる不具合が発生することがある。
【0047】
[第4の実施形態]:内輪回転方式、アウターロータ型
そこで、図4に示すように、ステータ固定部材18cに、環状の凹み21と外部とを連通する連通孔30が設けられていてもよい。この例の連通孔30は、ステータ固定部材18cのアウトボード側端からインボード側に所定距離延びる軸方向孔30aと、この軸方向孔30aと環状の凹み21とを連通する径方向孔30bとを有する。
【0048】
この構成によると、環状の凹み21の空気が連通孔30から外部に抜けるため、電動機3の内周面の位置が、外輪4の外周面における所定の位置からずれることを防止することができる。連通孔30は軸方向孔30aと径方向孔30bとを有することから、例えば軸方向に対し傾斜する孔よりも孔が加工し易く製造コストの低減を図れる。なお、連通孔30は円周方向一箇所に設けられているが、円周方向複数箇所に設けられてもよい。また環状の凹み21と、ステータ固定部材18cのインボード側の外部とを連通する連通孔であってもよい。
【0049】
[第5の実施形態]:外輪回転方式、インナーロータ型
図5に、電動機3がインナーロータ型で車輪用軸受2が外輪回転方式の場合の車両用動力装置1の構造を示す。この車両用動力装置1は、車輪用軸受2と電動機3とを備える。
<車輪用軸受2>
車輪用軸受2は、固定輪である内輪5と、複列の転動体6と、回転輪である外輪4と、転動体6を保持する図示外の保持器とを有する。外輪4のアウトボード側部分から外径側に突出するハブフランジ7が設けられている。このハブフランジ7のアウトボード側の側面に、ブレーキロータ12と図示外の車輪のリムとが軸方向に重なった状態で、ハブボルト13により取付けられている。
【0050】
内輪5は、内輪本体5Aと、部分内輪5bとを有する。内輪本体5Aのアウトボード側の外周面に、車輪用軸受2のアウトボード側の軌道面を有し、内輪本体5Aのインボード側の外周面に、部分内輪5bが嵌合固定されている。内輪本体5Aには、部分内輪5bが嵌合固定される位置よりもインボード側に突出する突出部5Aaが設けられている。この突出部5Aaの外周面には、後述するブラケット31の回転を止めるインボリュートスプライン溝32と、固定用のねじ部33とが形成されている。部分内輪5bのインボード側端面が前記ブラケット31に当接され、内輪本体5Aにおける突出部5Aaの被嵌合部34に、ブラケット31が嵌合される。さらにねじ部33に固定ナット35が締結されている。固定ナット35により、軸受部に所定の軸力が発生するトルク値でねじ部33に締め付けるようになっている。
【0051】
<ブラケット31>
内輪5にブラケット31を介してステータ18が取付けられている。ブラケット31は、内輪5と同心でアウトボード側に開口した有底円筒形状である。ブラケット31は、懸架装置8と当接する平板状で且つ環状のブラケット底部31aと、このブラケット底部31aの外周縁部からアウトボード側に円筒状に延びるブラケット円筒状部31bとを有する。ブラケット底部31aの内周面に、車輪用軸受2との嵌合部31aaを有する。ブラケット底部31aには、複数のねじ孔が円周方向に形成され、懸架装置8のアウトボード側から挿通される固定ボルト36が前記ねじ孔に螺合される。これによりブラケット底部31aが懸架装置8に取付けられる。内輪本体5Aの被嵌合部34、およびブラケット底部31aの内周面には、互いに嵌合するインボリュートスプライン溝32,37が形成されている。これらインボリュートスプライン溝32,37が互いに嵌合することで、固定輪である内輪5の回転および回転方向への振動を抑制し得る。
【0052】
<電動機3>
この電動機3は、ロータ19がステータ18の半径方向内方に位置するインナーロータ型である。ブラケット円筒状部31bの内周面にステータコア18aが嵌合され、外輪4の外周面にロータ19が取付けられている。ロータ19は、外輪4の外周面に圧入により固定されるロータコア19aと、このロータコア19aの外周面に設けられる複数の永久磁石19bとを備える。前記複数の永久磁石19bは円周方向一定間隔おきに設けられる。ロータコア19aは、外輪4の圧入部への熱膨張の影響を小さくするには、外輪4と同質の中高炭素鋼を適用することが好ましい。前記中高炭素鋼として、例えば、JIS規格のS53C等が挙げられるがこのS53Cに限定されるものではない。
【0053】
ロータコア19aの内周面には、環状の凹み21が設けられている。ロータコア19aの内周面には、アウトボード側からインボード側に順次、小径部22、大径部23および小径部22が設けられている。軸方向両側の小径部22,22はこの例では同一径に設定され、且つ、大径部23は各小径部22よりも所定寸法大径に形成されている。大径部23と軸方向両側の小径部22,22とは、それぞれ段差部24,24により繋がっている。前記環状の凹み21は、大径部23と段差部24,24から成る。軸方向両側の小径部22,22が、外輪4の外周面に圧入により固定されている。その他、小径部22の軸方向の位置は、前述の第1の実施形態と同様に規定されている。
【0054】
<シール構造について>
ブラケット円筒状部31bのアウトボード側の内周面と、外輪4のハブフランジ7の外周面との間には、電動機3および車輪用軸受2内部への水および異物の侵入を防ぐシール部材25が配置されている。
【0055】
<回転検出器26>
この回転検出器26は、外輪4のアウトボード側端にキャップ38を介して取付けられる回転側の被検出部26aと、この被検出部26aを検出する非回転側のセンサ部26bとを有する。被検出部26aは外輪4と同軸に配置されている。キャップ38は防水性があり、回転検出器26および軸受部への水の浸入を防止する。内輪本体5Aのアウトボード側端に、センサ固定部材28を介してセンサ部26bが固定されている。内輪本体5Aの内部には、この回転検出器26のセンサ部26bから延びるケーブルCbが挿通される挿通孔が形成され、この挿通孔を通るケーブルCbが外部へ取り出される。
【0056】
<車輪速センサ39>
この車両用動力装置には、車両の速度を検出する車輪速センサ39が設けられている。この車輪速センサ39は、外輪4のインボード側端に設置される磁気エンコーダリング39aと、この磁気エンコーダリング39aに所定のギャップを介して対向する車輪速センサ部(図示せず)とを有する。前記車輪速センサ部は、例えば、部分内輪5bまたはブラケット底部31a等に固定される。なお前記回転検出器26が、車輪速センサを兼ねることも可能である。
【0057】
この車両用動力装置1によると、ロータコア19aの小径部22の軸方向の位置は、外輪3のインボード側端面からインボード側の転動体6の中心(軌道面4cの溝底位置)P2までの軸方向範囲と、アウトボード側の転動体6の中心(軌道面4cの溝底位置)P1よりもアウトボード側の軸方向範囲にある。また、ロータコア19aの小径部22,22の取付け位置が、転動体6と外輪4の軌道面4cが接触する二つの接触点P3,P4に径方向で重ならないようにしている。これにより、ロータコア19aの外輪4への圧入による軌道面4cの形状の崩れおよび予圧過大が起こることを防止することが可能となる。このため、圧痕による振動および早期の異常の原因を回避し得る。また、電動機と一体構造でない一般的な車輪用軸受と同等の寸法管理で部品を製作できる。
【0058】
複列のアンギュラ玉軸受のうち、インボード側の軸受にも、タイヤからの外力が作用し、外輪のインボード側開口部に変形が起こり易い。この例では、ロータコア19aにおける一方の小径部22が、外輪4のインボード側の端面付近に取付けられる。これにより、外輪4のインボード側開口部の剛性が上がり、インボード側の軌道面4cの変形が抑えられ、外力に起因する振動および異常が避けられる。
【0059】
また、外輪4のアウトボード側に、ロータコア19aにおける他方の小径部22の取付け位置があることにより、ロータ19の鉄損による発熱が、車輪用軸受2の軸受部に伝熱する割合が減り、外輪4のアウトボード側から直接ブレーキロータ12および図示外の車輪に伝わる。これにより、軸受内部のグリースおよび前記保持器の早期の異常を防ぎ、従来よりも高い信頼性が得られる。
【0060】
図示しないが、この外輪回転方式、インナーロータ型の車両用動力装置において、複列のアンギュラ玉軸受を軸受軸方向を含む平面で切断した断面で、前記複列のアンギュラ玉軸受のそれぞれの接触角α,αが外輪4の外周面と交わる二点P5,P6(図2参照)の間に、ロータコア19aの小径部22が設けられていてもよい。この場合でも、圧入による軌道面の形状の崩れ、予圧過大が起こらず、圧痕による振動および早期の異常の原因を回避し得る。
【0061】
[第6の実施形態]:外輪回転方式、インナーロータ型
<回転検出器26>
図6に示すように、この車両用動力装置1では、回転検出器26は、ロータコア19aに取付けられた回転側の被検出部26aと、ブラケット31に固定されて前記被検出部26aを検出する非回転側のセンサ部26bとを有する。具体的には、ブラケット底部31aのアウトボード側端のうち、径方向中間部から軸方向に所定距離突出する環状の突出部40が設けられ、この環状の突出部40の内周面にセンサ部26bが取付けられている。またブラケット底部31aには、センサ部26b、被検出部26aおよびロータコア19aの各インボード側端が挿入される環状溝31abが形成されている。この環状溝31abは、ブラケット31に同心状である。
【0062】
ロータコア19aは、外輪4のインボード側端および部分内輪5bのインボード側端よりもインボード側に延び、このロータコア19aのインボード側端が前記環状溝31abに挿入されている。ロータコア19aの外周面のインボード側部分に被検出部26aが取付けられ、この被検出部26aはセンサ部26bに対し所定の径方向隙間を介して対向する。
【0063】
<車輪速センサ39>
この車輪速センサ39は、ロータコア19aの内周面のインボード側部分に取付けられる磁気エンコーダリング39aと、ブラケット底部31aに取付けられ前記磁気エンコーダリング39aに所定のギャップを介して対向する車輪速センサ部(図示せず)とを有する。なお前記回転検出器26が、車輪速センサを兼ねることも可能である。その他、第5の実施形態と同様の構成となっている。
【0064】
この構成によると、ロータコア19aに、ロータ19の永久磁石19bと、回転検出器26の回転側の被検出部26aと、磁気エンコーダリング39aが取付けられ、ブラケット31にステータ18と、回転検出器26の非回転側のセンサ部26bと、前記車輪速センサ部とが取付けられる。このため、万一、内輪本体5Aと部分内輪5bとの間、またはロータコア19aと外輪4との間、またはブラケット31と内輪本体5Aとの間に、外力によるすべり等が生じ、固定された部品間に円周方向のずれ、いわゆる位相のずれが生じたとしても、電動機3、回転検出器26、車輪速センサ39間の位相のずれは生じない。このため、回転検出器26および車輪速センサ39に不具合が起こらず、電動機3の制御または車両の制御を継続し、安全性の向上を図ることができる。その他、前述の第5の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0065】
回転検出器26と車輪速センサ39の両方の位相がずれない第6の実施形態が電動機等の制御上最も効果が高いが、センサの全てをロータコア19aとブラケット31に搭載できない場合は、いずれか一方のセンサを搭載し、この一方のセンサの位相がずれないようにするだけでも安全性は高まる。
【0066】
[さらに他の実施形態]
ステータ固定部材18cまたはロータコア19aの小径部22は、図7Aのようにインボード側のみに設けられていてもよく、図7Bのようにアウトボード側のみに設けられていてもよい。その他、小径部22は、図示しないが、インボード側と軸方向中央部、アウトボード側と軸方向中央部という組み合わせも可能である。ステータの発熱、またはタイヤからの外力、空間等の都合により適宜選択して設計し得る。
【0067】
図8Aに示す内輪回転方式で、アウターロータ型の車両用動力装置1では、外輪4の外周面に、ステータコア18aが圧入により固定される。このステータコア18aの内周面に、環状の凹み21が設けられている。この例の環状の凹み21は、軸方向所定間隔おきに複数設けられているが、この例に限定されるものではない。ステータコア18aの内周面に小径部22が一つ以上あればよい。この環状の凹み21における軸方向の間隔は一定間隔おきに設けられているが、不均一であってもよい。
【0068】
図8Bに示すように、外輪回転方式で、インナーロータ型の車両用動力装置1において、外輪4の外周面に圧入により固定されるロータコア19aの内周面に、環状の凹み21が軸方向所定間隔おきに複数設けられていてもよい。この環状の凹み21における軸方向の間隔は一定間隔おきに設けられているが、不均一であってもよい。
【0069】
図9Aに示すように、外輪4の外周面に、ロータ19またはステータ18と接する大径部23,23と、ロータ19またはステータ18と接しない小径部22とを設けてもよい。外輪4の外周面におけるアウトボード側、インボード側に、それぞれ径方向外方に突出する大径部23,23が設けられている。この場合、環状の凹み21は、小径部22と段差部24,24から成る。軸方向両側の大径部23,23が、この電動機の内周面と外輪4の外周面との「当接部」に相当する。
【0070】
図9Bに示すように、外輪4の外周面における軸方向中央部に大径部23が設けられていてもよい。図9Cに示すように、外輪4の外周面におけるインボード側に大径部23が設けられてよく、図9Dに示すように、外輪4の外周面におけるアウトボード側に大径部23が設けられてもよい。図9Eに示すように、外輪4の外周面に環状の凹み21が軸方向所定間隔おきに複数設けられていてもよい。
【0071】
電動機は、走行補助用ではなく、主たる走行用駆動源であってもよい。
【0072】
各実施形態において、電動機3を兼用しない発電機と、車輪用軸受2とを備える発電機付き車輪用軸受装置1Aとしてもよい。この発電機付き車輪用軸受装置1Aが搭載される車両用システムでは、発電を行う機能を有するが、給電による回転駆動をしない構成となっている。この発電機付き車輪用軸受装置1Aは、各実施形態の車両用動力装置1に対し電動機を除き同一構成である。
【0073】
本願における内輪回転方式の車両用動力装置、発電機付車輪用軸受は、回転輪として、一つの部分内輪が嵌合されたハブ輪を備え、固定輪である外輪と、ハブ輪および部分内輪の嵌合体で構成された第3世代構造としているが、これに限定するものではない。ハブフランジを有するハブと、転動体の軌道面を有する部材とを合わせた構造体が請求項でいう回転輪となる。例えば、主に固定輪である外輪と、ハブフランジを有するハブの外周面に嵌合された内輪とを備えた第1世代構造であってもよい。固定輪である外輪と、ハブフランジを有するハブの外周面に嵌合された内輪とを備えた内輪回転形式の第2世代構造であってもよい。これらの例では、前記ハブと前記内輪とが組み合わさったものが請求項でいう「回転輪」に相当する。ハブフランジを有する回転輪である外輪と、固定輪である内輪とを備えた外輪回転形式の第2世代構造であってもよい。
【0074】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1…車両用動力装置、1A…発電機付き車輪用軸受装置、2…車輪用軸受、4…外輪、4c…軌道面、5…内輪、6…転動体、7…ハブフランジ、12…ブレーキロータ、12b…外周部、18…ステータ、19…ロータ、21…環状の凹み、22…小径部、23…大径部、26…回転検出器、26a…被検出部、26b…センサ部、30…連通孔、31…ブラケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10