(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190379
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】油性マーキングペン用インキ組成物及び油性マーキングペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20221219BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098675
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】大澤 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】八木 隆宏
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
4J039AE01
4J039AE02
4J039AE08
4J039BC07
4J039BC13
4J039BC36
4J039BE07
4J039BE12
4J039CA04
4J039EA42
4J039EA48
4J039GA21
(57)【要約】
【課題】油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる油性マーキングペン用インキ組成物及び油性マーキングペンを提供すること。
【解決手段】有機溶剤と、着色剤と、有機溶剤に可溶な樹脂とを含む油性マーキングペン用インキ組成物であって、樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、油性マーキングペン用インキ組成物が、アミド結合を有するアミド化合物を含む、油性マーキングペン用インキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤と、
着色剤と、
前記有機溶剤に可溶な樹脂とを含む油性マーキングペン用インキ組成物であって、
前記樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、
前記油性マーキングペン用インキ組成物が、アミド結合を有するアミド化合物を含む、油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂に対する前記アミド化合物の質量比が、0.3~3である、請求項1に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油性マーキングペン用インキ組成物を含む油性マーキングペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性マーキングペン用インキ組成物及び油性マーキングペンに関する。
【背景技術】
【0002】
油性マーキングペンにおいては、そのキャップを取り外した状態(いわゆるキャップオフ状態)を長時間にわたって続けると、チップが乾き始め、その後、油性マーキングペンによる筆記を開始しようとしても、油性マーキングペンが筆記可能な状態に復活しにくくなることがある。そのため、例えば下記特許文献1では、長時間にわたってキャップ状態におかれた後にも掠れなく、滑らかに筆記し始めることができるように、油性マーキングペン用インキ組成物に、脂肪酸ポリアミンポリアミドなどのキャップオフ剤を含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1に記載された油性マーキングペンインキ組成物は、以下の課題を有していた。
【0005】
すなわち、上記特許文献1に記載された油性マーキングペンインキ組成物は、油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後に、油性マーキングペンによる筆記を開始しようとしても、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させる点で未だ改善の余地を有していた。また、より長時間のキャップオフ状態を続けても油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させるようにするために、キャップオフ剤の添加量を増やすことも考えられる。しかし、その場合、油性マーキングペンインキ組成物の粘度が増加してしまい、油性マーキングペン用インキ組成物を油性マーキングペンに用いた場合に、油性マーキングペンによる筆記ができなくなる不書きが生じるなど、筆記性能に問題が生じることがあった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる油性マーキングペン用インキ組成物及び油性マーキングペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため研究を重ねた結果、以下の発明により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、有機溶剤と、前記有機溶剤に可溶な樹脂と、着色剤とを含む油性マーキングペン用インキ組成物であって、前記樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、前記油性マーキングペン用インキ組成物が、アミド結合を有するアミド化合物を含む、油性マーキングペン用インキ組成物である。
【0009】
本発明の油性マーキングペン用インキ組成物は、油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる。
【0010】
本発明の油性マーキングペン用インキ組成物によって上記効果が得られる理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。
【0011】
すなわち、油性マーキングペン用インキ組成物を、チップ及びキャップを有する油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態で長時間にわたって油性マーキングペンを放置すると、チップにおいてインキ組成物中の有機溶剤が蒸発する。すると、ポリアミド樹脂はアミド結合を有しているため、有機溶剤の蒸発が進むにつれてポリアミド樹脂分子鎖同士が接近し、アミド結合同士間の水素結合によって互いに引き付け合う。ここで、油性マーキングペン用インキ組成物がアミド化合物を含んでいない場合、ポリアミド樹脂分子鎖同士が規則正しく配列した結晶部分が増加する。このため、チップに含まれるインキ組成物は強固に硬化してしまい、インキ組成物がインキ供給部からチップまで供給されにくくなる。このため、油性マーキングペンで筆記を開始しようとした場合に、油性マーキングペンによる筆記を行いにくくなり、不書きが生じやすくなる。これに対し、本発明のように、油性マーキングペン用インキ組成物がアミド化合物を含むと、アミド化合物はアミド結合を含むため、同じくアミド結合を有するポリアミド樹脂との親和性が高く、ポリアミド樹脂に接近しやすい。さらに、アミド化合物とポリアミド樹脂とで官能基(ポリアミド結合)が同じであることから、不書きの原因となる余計な化学反応が生じる恐れも少ない。そのため、有機溶剤の蒸発が進むにつれてポリアミド樹脂同士が接近し、アミド結合同士間の水素結合によって互いに引き付け合おうとしても、ポリアミド樹脂同士の間に、アミド化合物が入り込むことで、ポリアミド樹脂分子鎖同士が規則正しく配列した結晶部分が減少し、チップに含まれるインキ組成物が硬化しても柔らかい状態にとどまる。その結果、油性マーキングペンで筆記を開始した場合に、筆記による摩擦力程度でチップにインキ組成物が供給され、筆記線が早期に復活することが可能になる。
【0012】
また、本発明のインキ組成物は、キャップオフ剤として機能し得るポリアミド樹脂に加えて、長時間のキャップオフ状態の後の筆記の早期回復に寄与するアミド化合物をさらに含むため、油性マーキングペン用インキ組成物の粘度を増加させる原因となりうるポリアミド樹脂の添加量を減らすことができる。このため、インキ組成物がアミド化合物を含まない場合に比べて、インキ組成物の粘度を低下させることが可能となり、筆記性能の低下を抑制することができる。
【0013】
以上のことから、本発明の油性マーキングペン用インキ組成物によって上記効果が得られるのではないかと本発明者らは推察する。
【0014】
上記油性マーキングペン用インキ組成物においては、ポリアミド樹脂に対する前記アミド化合物の質量比が、0.3~3であることが好ましい。
【0015】
この油性マーキングペン用インキ組成物を油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンをより早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる。
【0016】
また、本発明は、上述した油性マーキングペン用インキ組成物を含む油性マーキングペンである。
【0017】
上述した油性マーキングペン用インキ組成物は、油性マーキングペン用インキ組成物を油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる。このため、上述した油性マーキングペン用インキ組成物を含む本発明の油性マーキングペンによれば、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる油性マーキングペン用インキ組成物及び油性マーキングペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
<油性マーキングペン用インキ組成物>
本発明の油性マーキングペン用インキ組成物(以下、単に「インキ組成物」と呼ぶことがある)は、有機溶剤と、着色剤と、有機溶剤に可溶な樹脂とを含む。ここで、樹脂は、ポリアミド樹脂を含み、インキ組成物は、アミド結合を有するアミド化合物を含む。
【0021】
本発明のインキ組成物は、油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる。
【0022】
以下、上記インキ組成物について詳細に説明する。
【0023】
(A)有機溶剤
有機溶剤は、着色剤及び樹脂を溶解することが可能であり、かつ、蒸気圧や表面張力などの物性が一般的な油性マーキングペンのインキ組成物に使用されている物性の範囲である溶剤であればよく、適宜選択することが可能である。このような有機溶剤としては、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は混合して用いることができる。水溶性有機溶剤とは、25℃における水の溶解度が10g/100g以上である有機溶剤をいう。
【0024】
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エトキシトリグリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、メタノール、t-ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。
【0025】
(非水溶性有機溶剤)
非水溶性有機溶剤とは、25℃における水の溶解度が10g/100g未満である有機溶剤をいう。
【0026】
このような非水溶性有機溶剤としては、例えば、ベンジルアルコール、フェニルグリコールなどの芳香族系アルコール;オクタノールなどの炭素数8以上の脂肪族系アルコール;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのシクロパラフィン系溶剤などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
インキ組成物中の有機溶剤の含有率は特に制限されるものではないが、好ましくは50~95質量%であり、より好ましくは60~90質量%である。この場合、インキ組成物中の有機溶剤の含有率が50質量%未満である場合に比べて、滑らかな筆記が可能となる。また、インキ組成物中の有機溶剤の含有率が95質量%を超える場合に比べて、筆跡の濃度が低下することを抑制できる。
【0028】
(B)着色剤
着色剤としては、染料及び顔料が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
(染料)
染料としては、例えばSPIRIT BLACK 61F、VALIFAST VIOLET 1701、VALIFAST VIOLET 1704、VALIFAST YELLOW1109、VALIFAST YELLOW 1151、VALIFAST YELLOW 1171、OIL YELLOW 107、VALIFAST BLUE 1605、VALIFAST BLUE 1621、VALIFAST BLUE 1623、VALIFAST BLUE 2620、OIL BLUE 613、VALIFAST RED 1308、VALIFAST RED 1320、VALIFAST RED 1364、VALIFAST RED 2320、VALIFAST BLACK 3830、VALIFAST BLACK 3870(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、Aizen Spilon BLACK GHMSpecial、Aizen Spilon VIOLET C-RH、Aizen Spilon YELLOW C-GH new、Aizen Spilon BLUE C-RH、Aizen Spilon S.P.T.BLUE -111、Aizen Spilon S.P.T.BLUE -121(以上、保土谷化学工業株式会社製)などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
着色剤中の染料の含有率は特に制限されず、希望する色の状態に応じて適宜決定すればよい。
【0031】
(顔料)
着色剤中の顔料は、特に制限されるものではなく、顔料としては、有機顔料及び無機顔料が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
有機顔料としては、例えば不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、キナクドリン顔料、ジケトピロロピロール顔料などが挙げられる。
【0033】
無機顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、金属粉などが挙げられる。
【0034】
着色剤中の顔料の含有率は特に制限されず、希望する色の状態に応じて適宜決定すればよい。
【0035】
(C)樹脂
樹脂は、有機溶剤に可溶な樹脂でありかつポアミド樹脂を含んでいればよい。樹脂は、ポリアミド樹脂のみで構成されてもよいし、ポリアミド樹脂と他の樹脂との混合物でもよい。
【0036】
ポリアミド樹脂は、アミド結合を有する樹脂であれば特に制限されるものではないが、ポリアミド樹脂としては、例えばn-ナイロンやn,m-ナイロンなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。中でも、アルコールに可溶な変性ポリアミドが好ましい。
【0037】
ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、特に制限されるものではないが、1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることが特に好ましい。ポリアミド樹脂の重量平均分子量が100,000以上であることで、筆記線の固着性がより向上する。ただし、ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、500,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂の重量平均分子量が300,000以下であることで、インキ組成物の粘度上昇をより抑制できる。
【0038】
他の樹脂としては、例えばケトン樹脂、ケトンアルデヒド縮合樹脂、フェノール樹脂、マレイン樹脂、キシレン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン変性樹脂などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。中でも、ケトンアルデヒド縮合樹脂、テルペンフェノール樹脂又はこれらの混合物が好ましい。この場合、ガラス、金属、プラスチックなどといった非吸収面への密着性を向上させることができる。
【0039】
マレイン樹脂は、マレイン酸又は無水マレイン酸に由来する構成単位を含有する樹脂であり、単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0040】
ケトン樹脂は、ケトン基を有する樹脂である。
【0041】
樹脂がポリアミド樹脂と他の樹脂との混合物である場合、樹脂中のポリアミド樹脂の含有率は特に制限されるものではないが、長時間のキャップオフ状態の後、早期に筆記可能な状態に復活させる機能を付与させる観点からは、好ましくは1.5質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。但し、樹脂中のポリアミド樹脂の含有率は、インキ組成物の粘度を低く保つという観点からは、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0042】
インキ組成物中の樹脂の含有率は特に制限されるものではないが、通常は30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下である。この場合、インキ組成物中の樹脂の含有率が30質量%を超える場合に比べて、インキ組成物の粘度を低下させることができるため、油性マーキングペンの使用時において、筆記性が向上する。インキ組成物中の樹脂の含有率は、3質量%以上であることが好ましい。この場合、インキ組成物中の樹脂の含有率が3質量%未満である場合に比べて、インキ組成物の粘度がより増加するため、筆記面に対する筆跡の定着性が向上する。
【0043】
(D)アミド化合物
アミド化合物は、アミド結合を有する化合物であれば特に制限されるものではない。アミド化合物は、例えば下記式(1)で表される。
【化1】
【0044】
上記式(1)中、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、フェニル基を表す。
【0045】
R1は水素原子、アルキル基、フェニル基であればよいが、分子量がインキ組成物の粘度に与える影響や、溶剤への溶解性、その他添加剤との相溶性の観点から、アルキル基であることが好ましく、より好ましくは不飽和二重結合を有するアルキル基である。すなわち、アミド化合物は、アクリルアミド化合物であることが好ましい。このインキ組成物を油性マーキングペンに用いると、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンをより一層早期に筆記可能な状態に復活させることができる。
【0046】
ポリアミド樹脂に対するアミド化合物の質量比rは0より大きければ特に制限されるものではないが、0.3~3であることが好ましく、0.7~1.5であることが特に好ましい。この場合、質量比rが0.3~3であることで、この油性マーキングペン用インキ組成物を油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンをより早期に筆記可能な状態に復活させることができる。
【0047】
(E)その他の成分
インキ組成物は、上記(A)~(D)のほか、インキ組成物の特性を損なわない範囲で、必要に応じ、分散剤、曳糸性付与剤、潤滑剤、防錆剤などの公知の添加剤をさらに含んでもよい。
【0048】
<油性マーキングペン>
次に、本発明の油性マーキングペンについて説明する。
本発明の油性マーキングペンは、上述したインキ組成物を含む。
【0049】
上述した油性マーキングペン用インキ組成物は、油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる。このため、上述した油性マーキングペン用インキ組成物を含む本発明の油性マーキングペンによれば、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することもできる。
【実施例0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例又は比較例で用いられる有機溶剤、着色剤、樹脂、及びアミド化合物としては、具体的に以下のものを使用した。
【0052】
<有機溶剤>
・プロピレングリコールモノメチルエーテル
・エタノール
【0053】
<着色剤>
(染料)
VALIFAST BLACK 3820(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
【0054】
<樹脂>
・ケトンアルデヒド縮合樹脂(商品名「TEGO(登録商標)VariPlus SK」、エボニック インダストリーズ株式会社製)
・テルペンフェノール樹脂(商品名「YS ポリスター K125」、ヤスハラケミカル株式会社製)
・ポリアミド樹脂(商品名「AQナイロン P-70」、東レ株式会社製、重量平均分子量:226,000~230,000、数平均分子量:77,000~82,000)
【0055】
<アミド化合物>
・N-イソプロピルアクリルアミド(和光純薬株式会社製、式(1)においてR1がビニル基でありR2がイソプロピル基であり、R3が水素原子である。)
・ベンズアミド(和光純薬株式会社製、式(1)においてR1がフェニル基でありR2が水素原子であり、R3が水素原子である。)
【0056】
(実施例1~5及び比較例1~3)
マグネチックスターラーを用い、有機溶剤、着色剤、樹脂、及びアミド化合物を、400rpm、2時間、50℃の条件で加熱しながら表1に示す含有率となるように混合してインキ組成物を得た。
【0057】
<インキ組成物の評価>
実施例1~5及び比較例1~3で得られたインキ組成物について、以下のようにしてキャップオフ後の筆記開始状態への早期復活性、筆記線乾燥性、粘度及び追随性を評価した。
【0058】
(1)キャップオフ後の筆記開始状態への早期復活性
長時間のキャップオフ後の筆記開始状態への早期復活性は、実施例1~5及び比較例1~3で得られたインキ組成物についてキャップオフ試験を行うことにより評価した。キャップオフ試験は、YYTS5(商品名、ゼブラ株式会社製)にインキ組成物を詰め、キャップを外して温度25℃、湿度60%の下で6時間静置した後、筆記角度65°、筆記速度4m/min、荷重50gで直径37mmのループを筆記試験機にて連続筆記し、かすれなく筆記線が復活するまでの筆記距離を測定した。このとき、筆記は、アクリル繊維チップ(太字側)で行った。結果を表1に示す。なお、表1において、10m筆記しても筆記線が復活しなかった場合には「×」と表示した。
【0059】
(2)筆記線乾燥性
実施例1~5及び比較例1~3で得られたインキ組成物について、ガラス表面上に、大きさ約12mm×12mmの範囲に収まる大きさのループを5つ描くように連続して筆記して筆記線を形成し、10秒後にゴム手袋で筆記線をこすった際に、筆記線がかすれて汚れるかどうかを調べた。このとき、筆記は、アクリル繊維チップ(太字側)で行った。結果を表1に示す。表1において、筆記線がかすれて汚れない場合には「〇」と表示し、筆記線が汚れた場合には「×」と表示した。
【0060】
(3)粘度
実施例1~5及び比較例1~3で得られたインキ組成物について、E型粘度計(ローター:0.8°×R24)を用いて25℃、12rpmの条件で測定される粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(4)追随性(筆記性能)
実施例1~5及び比較例1~3で得られたインキ組成物について、プラスチックチップ(細字側)で、筆記角度65°、筆記速度4m/min、荷重50gで直径37mmのループを筆記試験機にて連続筆記し、筆記線の追随性(筆記性能)を評価した。結果を表1に示す。筆記線にかすれがなく筆記線の色が薄くない場合には「〇」、筆記線にかすれはないが筆記線の色が薄い場合は「△」、筆記線がかすれた場合には「×」と表示した。
【0062】
【0063】
表1に示す結果より、実施例1~5のインキ組成物はいずれも、比較例1~3のインキ組成物に比べて、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができることが分かった。また、実施例1~5のインキ組成物はいずれも、粘度が低く、追随性が「〇」又は「△」であった。一方、比較例1及び3のインキ組成物は、粘度が低く、追随性は「〇」であったが、比較例2のインキ組成物は、粘度が高く、追随性は「×」であった。
【0064】
以上のことから、本発明の油性マーキングペン用インキ組成物は、油性マーキングペンに用い、キャップオフ状態を長時間にわたって続けた後でも、油性マーキングペンを早期に筆記可能な状態に復活させることができるとともに、油性マーキングペンによる筆記性能の低下を抑制することができることも確認された。