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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019038
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/16 20060101AFI20220120BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20220120BHJP
   F16D 67/02 20060101ALI20220120BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20220120BHJP
   F16D 41/066 20060101ALI20220120BHJP
   F16D 43/02 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
B60N2/16
F16D63/00 R
F16D67/02 A
F16D41/06 Z
F16D41/066
F16D43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122578
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【弁理士】
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 敦司
(72)【発明者】
【氏名】大矢 悠生
(72)【発明者】
【氏名】芝野 宏
【テーマコード(参考)】
3B087
3J058
3J068
【Fターム(参考)】
3B087BA15
3J058AA07
3J058AA13
3J058AA20
3J058AA25
3J058AA30
3J058AA37
3J058AB21
3J058AB34
3J058BA01
3J058BA64
3J058BA67
3J058CA03
3J058CA37
3J058CB04
3J058CC06
3J058CC46
3J058CC76
3J058DD15
3J058FA01
3J068BA01
3J068BB03
3J068CC01
3J068CC05
(57)【要約】
【課題】外郭の一部を構成するリングの溶接時の熱影響を抑制しつつ、溶接作業を容易に実施可能な構成を提供する。
【解決手段】内周面31aと当該内周面31aに対向する複数のカム面32aとによってカム面32aごとに一対のくさび形空間が形成され、外周面31bにて当該ブレーキ装置10の外郭の一部が構成され、ピニオンギヤ35に対して同軸的に配置されるリング31と、ピニオンギヤ35が貫通する貫通穴51が形成されて、溶接縁部53がリング31の外周面31bに沿うようにリング31の出力側端面31cを覆うブラケット50と、が設けられる。そして、ブラケット50は、溶接縁部53の溶接個所Y11~Y16にて、リング31と複数個所点状に溶接される。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されるトルクを入力部材から出力軸へ伝達して出力するとともに、前記入力部材に入力されるトルクがなくなると前記出力軸の回動を規制する車両シート用のブレーキ装置であって、
前記出力軸に同軸的に連結されて外周面に複数のカム面が形成されるブレーキカムと、
内周面と当該内周面に対向する前記複数のカム面とによってカム面ごとに一対のくさび形空間が形成され、外周面にて当該ブレーキ装置の外郭の一部が構成され、前記出力軸に対して同軸的に配置されるリングと、
前記くさび形空間に入り込むことで前記リングと前記ブレーキカムとの相対回動を規制するための複数のブレーキローラーと、
前記入力部材の回動に応じて、前記ブレーキローラーを前記くさび形空間から離脱させるとともに、前記ブレーキカムを回動させる回動伝達部材と、
前記出力軸が貫通する貫通穴が形成されて、外縁の一部が前記リングの外周面に沿うように前記リングの出力側端面を覆うブラケットと、
を備え、
前記ブラケットは、前記外縁の一部にて、前記リングと複数個所点状に溶接されることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記外郭の他の一部を構成するカバーを備え、
前記カバーは、前記リングの外周面に対して複数個所点状に溶接されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記点状の溶接は、非消耗電極式のアーク溶接により形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シート用のブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両シートに配設されて、車両シートの姿勢調整において入力部材から出力部材に伝達されるトルクを制御するブレーキ装置に関する技術として、例えば、下記特許文献1に開示されるブレーキ装置が知られている。このブレーキ装置は、ハウジング本体とカバーとで形成されるブレーキハウジング内にて、複合ばねで付勢された二組のクランプ部材の凸部が出力軸の二面幅部に圧接すると共に、両端部のクランプ面がブレーキドラムの制動面に圧接することで、出力軸がブレーキドラムに対して回動しない制動状態となり、駆動ホイールの回動に伴い二組のクランプ部材による出力軸の二面幅部の挟み込みが解除された制動解除状態となるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-020685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1では、ブレーキドラムが圧入されるハウジング本体とカバーとがカシメを利用して結合されており、カシメ結合部のために装置の小型化が困難であるという問題がある。このため、例えば、ハウジングにブレーキドラムを圧入する構成ではなく、ブレーキドラムの外周面が装置の外郭の一部となるように構成することで、装置の小型化を図ることができる。
【0005】
しかしながら、ブレーキドラムと外郭の他の一部を構成するカバー等を結合する必要があり、この結合に溶接を採用すると、煩雑な溶接工程が必要になるだけでなく、溶接工程によっては溶接時に伝わる熱によってブレーキドラムの内周面に接触する部材等に対して熱影響が生じてしまう可能性がある。一方、溶接時の熱影響を避けるために、カシメを利用してブレーキドラムとカバー等とを結合すると、カシメ結合部のために外郭が大きくなり、装置の更なる小型化が困難になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、外郭の一部を構成するリングの溶接時の熱影響を抑制しつつ、溶接作業を容易に実施可能な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1の発明は、
入力されるトルクを入力部材(20)から出力軸(35)へ伝達して出力するとともに、前記入力部材に入力されるトルクがなくなると前記出力軸の回動を規制する車両シート用のブレーキ装置(10)であって、
前記出力軸に同軸的に連結されて外周面に複数のカム面(32a)が形成されるブレーキカム(32)と、
内周面(31a)と当該内周面に対向する前記複数のカム面とによってカム面ごとに一対のくさび形空間が形成され、外周面(31b)にて当該ブレーキ装置の外郭の一部が構成され、前記出力軸に対して同軸的に配置されるリング(31)と、
前記くさび形空間に入り込むことで前記リングと前記ブレーキカムとの相対回動を規制するための複数のブレーキローラー(33)と、
前記入力部材の回動に応じて、前記ブレーキローラーを前記くさび形空間から離脱させるとともに、前記ブレーキカムを回動させる回動伝達部材(40)と、
前記出力軸が貫通する貫通穴(51)が形成されて、外縁の一部(53)が前記リングの外周面に沿うように前記リングの出力側端面(31c)を覆うブラケット(50)と、
を備え、
前記ブラケットは、前記外縁の一部にて、前記リングと複数個所(Y11~Y16)点状に溶接されることを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、出力軸に同軸的に連結されて外周面に複数のカム面が形成されるブレーキカムと、内周面と当該内周面に対向する複数のカム面とによってカム面ごとに一対のくさび形空間が形成され、外周面にて当該ブレーキ装置の外郭の一部が構成され、出力軸に対して同軸的に配置されるリングと、くさび形空間に入り込むことでリングとブレーキカムとの相対回動を規制するための複数のブレーキローラーと、入力部材の回動に応じて、ブレーキローラーをくさび形空間から離脱させるとともに、ブレーキカムを回動させる回動伝達部材と、出力軸が貫通する貫通穴が形成されて、外縁の一部がリングの外周面に沿うようにリングの出力側端面を覆うブラケットと、が設けられる。そして、ブラケットは、上記外縁の一部にて、リングと複数個所点状に溶接される。
【0009】
このように、外郭の一部を構成するリングとブラケットとを複数個所点状に溶接するため、リングとブラケットとを円周状に連続して溶接する場合と比較して各溶接個所での溶接時間が短くなるので、溶接時の熱変形等の熱影響を抑制することができる。特に、リングの外周面に沿うブラケットの外縁が溶接個所となることから、各溶接個所は出力軸の回動中心を基準に同一円上にて点状に位置することになる。このため、溶接作業前のセット状態のリング及びブラケットを出力軸の回動中心を基準に回転させて溶接することで、複数個所点状に溶接する溶接作業であっても容易に実施することができる。
【0010】
請求項2の発明では、ブレーキ装置の外郭の他の一部を構成するカバーは、リングの外周面に対して複数個所点状に溶接される。これにより、カバーとリングとの溶接個所がリングの外周面となり、ブラケットと同様に各溶接個所は出力軸の回動中心を基準に同一円上にて点状に位置することになるため、溶接作業前のセット状態のリング及びカバーを出力軸の回動中心を基準に回転させて溶接することで、カバーとリングとの溶接作業をも容易に実施することができる。
【0011】
請求項3の発明では、上記点状の溶接は、非消耗電極式のアーク溶接(例えば、プラズマ溶接やTIG溶接)により形成される。これにより、非消耗電極式のアーク溶接として、例えば、プラズマ溶接を採用する場合には、溶接時間が短くなることからプラズマ特有の磁気吹きや溶け込み不足がなく、安定して溶接作業を行うことができる。また、溶接スパッタがでないので、ブレーキ装置のような精密装置の接合にも利用することができる。そして、レーザー溶接等に対して接合面積を大きくできるので、出力の調整に応じて溶け込み量を調整でき、ワーク間に多少の隙間が生じる場合でも溶接できることから、ワークの形状がバラツキやすい場合でも必要な強度を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るブレーキ装置が適用された車両用シート装置を示す側面図である。
図2】ブレーキ装置を入力側から見た斜視図である。
図3】ブレーキ装置を出力側から見た斜視図である。
図4】ブレーキ装置の正面図である。
図5】ブレーキ装置を入力側から見た側面図である。
図6】ブレーキ装置を出力側から見た側面図である。
図7】ブレーキ装置の分解斜視図である。
図8図5に示すX1-X1断面を拡大して示す拡大断面図である。
図9図4に示すX2-X2断面を拡大して示す拡大断面図である。
図10図4に示すX3-X3断面を拡大して示す拡大断面図である。
図11図5からレバー部材及びブラケットを取り除いた状態を拡大して示す説明図である。
図12】ブレーキ装置の組み立て工程の一部を説明する説明図であり、図12(A)は、ピニオンギヤ及びブラケット等のセット状態を示し、図12(B)は、ピニオンギヤ及び第2カム等のセット状態を示す。
図13】ブレーキ装置の組み立て工程の一部を説明する説明図であり、図13(A)は、回動伝達部材に対する第1カム等のセット状態を示し、図13(B)は、図13(A)の回動伝達部材等と図12(B)のリング等のセット状態を示す。
図14】ブレーキ装置の組み立て工程の一部を説明する説明図であり、図14(A)は、図13(B)のセット状態に対してカバーを溶接接合した状態を示し、図14(B)は、図14(A)の第1カムに対してレバー部材を溶接接合した状態を示す。
図15】リングとブラケットとを溶接接合する工程を説明する説明図である。
図16図16(A)は、中立位置におけるレバー部材、第1カム及びタッピングネジとカバーとの位置関係を説明する説明図であり、図16(B)は、図16(A)の状態からレバー部材、第1カム及びタッピングネジが回動した状態を説明する説明図である。
図17】リングとブラケットとをプラズマ溶接にて点状に溶接したときに生じるリングの内周面の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るブレーキ装置が適用された車両用シート装置の一実施形態について図を参照して説明する。
図1に示すように、車両用シート装置100は、主に、車両フロアBに対して前後に摺動可能なシートレール101と、このシートレール101上にシートブラケット(図示略)等を介して取り付けられるシートクッション102と、このシートクッション102に対して傾動可能に支持されるシートバック103とを備えている。シートクッション102の一方の側部には本発明に係る車両シート用のブレーキ装置(クラッチ装置)10が配設されており、このブレーキ装置10には、操作レバー104が連結されている。
【0014】
このブレーキ装置10は、シートブラケットに設けられる公知のハイト機構(出力側機構)に対して操作レバー104による入力トルクを入力部材及び出力部材等を介して伝達することで、シートクッション102の高さを任意に調整する役割を果たす。
【0015】
すなわち、ブレーキ装置10は、操作レバー104の操作に応じて入力部材から入力されるトルクを出力部材へ伝達して出力するとともに、入力部材に入力されるトルクがなくなると出力部材の回動が規制されて入力部材のみ中立位置に戻るように構成されている。このため、ブレーキ装置10は、操作レバー104が水平な中立位置Nでは、シートクッション102の高さを維持するように出力部材が回動不能に固定される。
【0016】
また、ブレーキ装置10は、シートクッション102の高さを上昇させるために操作レバー104が上方向Uへ揺動操作されると、この揺動操作に応じた入力トルクが入力部材及び出力部材を介して上記ハイト機構に伝達される。これにより、シートクッション102の高さが上昇する。そして、入力トルクがなくなると、出力部材はその回動角度を維持し、入力部材は操作レバー104とともに中立位置に戻るため、上昇したシートクッション102の高さが維持される。
【0017】
一方、ブレーキ装置10は、シートクッション102の高さを下降させるために操作レバー104が下方向Dへ揺動操作されると、この揺動操作に応じた入力トルクが入力部材及び出力部材を介して上記ハイト機構に伝達される。これにより、シートクッション102の高さが下降する。そして、入力トルクがなくなると、出力部材はその回動角度を維持し、入力部材は操作レバー104とともに中立位置に戻るため、下降したシートクッション102の高さが維持される。
【0018】
次に、ブレーキ装置10の構成について、図を用いて説明する。
図2図11に示すように、ブレーキ装置10は、レバー部材21、カバー22、ウェーブワッシャ23、第1カム24、6個の第1ローラー25及び3個の第1スプリング26を有する入力部材20と、リング31、第2カム32、10個の第2ローラー33、5個の第2スプリング34、ピニオンギヤ35、フリクションスプリング36を有する出力部材30と、回動伝達部材40及びブラケット50とを備え、入力部材20及び出力部材30は回動伝達部材40を介して同軸的に配置されている。
【0019】
まず、入力部材20を構成する各部品について説明する。
図8に示すように、レバー部材21は、締結部材として機能する3つのタッピングネジ27を利用して操作レバー104に締結されるもので、操作レバー104の揺動操作による入力トルクを第1カム24等に伝達する役割を果たす。なお、図8では、便宜上、タッピングネジ27及び操作レバー104を二点鎖線にて図示している。
【0020】
このレバー部材21は、図2図5及び図7に示すように、平板状であって、円弧状の底縁21bと底縁21bに連なるように対向する一方の側縁21c及び他方の側縁21dとからなる凹部21aが、外縁に対して内方に凹むように3つ設けられて形成される。本実施形態における「平板状」とは、表裏面が平行な板状の素材を加工することで得られる形状であって、一部に凸凹が設けられる形状を含むものとする。各凹部21aは、同じ形状であって周方向にて等間隔に位置するように配置されている。また、レバー部材21の中央には、第1カム24が係合する係合孔21eが形成され、この係合孔21eを中心に、タッピングネジ27を固定するための貫通孔21fが3つ形成されている。レバー部材21は、係合孔21eにて係合した第1カム24に対して3個所点状に溶接されるように構成されている(図2等の符号Y31~Y33参照)。なお、図2等では、便宜上、3個所の点状の溶接個所Y31~Y33及び後述する溶接個所Y11~Y16,Y21~Y26をハッチング領域にて概略的に図示している。また、図9及び図11では、便宜上、タッピングネジ27を二点鎖線にて図示している。
【0021】
図7図8及び図11に示すように、カバー22は、底部となる側壁部22aと円筒部22fとを備えた略有底円筒状に形成される入力側カバーであって、側壁部22aの中央には、後述する第1カム24の係合突部24bが挿通する貫通孔22bが形成されている。この貫通孔22bは、第1カム24の回動時に係合突部24bが接触しないように形成されている。また、貫通孔22bの周囲には、3つのガイド片22cと、3つの挿通孔22dと、3つの規制部22eが設けられている。
【0022】
各ガイド片22cは、レバー部材21の回動範囲を制御するもので、周方向にて等間隔となる位置にて、側壁部22aの一部を入力側に切り起こすようにして形成されている。ガイド片22cは、上記回動範囲の一端までレバー部材21が回動した時に一方の側縁21cに当接し、上記回動範囲の他端までレバー部材21が回動した時に他方の側縁21dに当接するように形成されている。本実施形態では、図5に示すように、各凹部21aは、上記中立位置では、底縁21bの中央部分にてガイド片22cに対向するように配置されている。これにより、中立位置から回動範囲の一端までのレバー部材21の回動角度と回動範囲の他端までのレバー部材21の回動角度とが同じ角度になる。
【0023】
各挿通孔22dは、レバー部材21の回動に伴って移動するタッピングネジ27に接触しないように長孔状であって、ガイド片22cの切り起こし部分に連なるように形成されている。
【0024】
各規制部22eは、周方向にて等間隔であって、後述する一対のカム面24aにそれぞれ対応する第1ローラー25間に位置するように、側壁部22aの一部を出力側に切り起こして形成されている。
【0025】
円筒部22fは、その出力側にて、リング31の外周面31bに対して6個所点状に溶接されるように構成されている(図2及び図3等の符号Y21~Y26参照)。このため、円筒部22fの出力側の縁部は、6個所の溶接部位が他の部位に対してさらに出力側に突出するように形成されている。
【0026】
図7及び図9に示すように、第1カム24は、その外周面に、一対のカム面24aが等間隔にて3か所設けられており、各カム面24aは、後述する回動伝達部材40の内周面41aとの間で6か所のくさび形空間を形成するように配置されている。第1カム24の中央には、カバー22の貫通孔22bを挿通した状態でレバー部材21の係合孔21eに係合する係合突部24bが入力側に突出するように設けられている。また、第1カム24の外周面には、溝部24cが等間隔にて3か所設けられており、各溝部24cは、レバー部材21に締結されたタッピングネジ27がそれぞれ入り込むように形成されている。
【0027】
各第1ローラー25は、略円筒状に形成される入力側ローラーであって、その径が、第1カム24のカム面24aと回動伝達部材40の内周面41aとにより形成される一対の対向するくさび形空間内にて正逆回動可能とするための遊びを有するように配置されている。そして、図9に示すように、一対のカム面24aに対してそれぞれ対応する第1ローラー25間には、カバー22の規制部22eが位置している。
【0028】
図9に示すように、第1スプリング26は、コイルバネ状の付勢部材であって、一端側にて第1ローラー25を規制部22eに向けて付勢し、他端側にて異なる第1ローラー25を異なる規制部22eに向けて付勢するように配置されている。
【0029】
次に、出力部材30を構成する各部品について説明する。
図2図4に示すように、リング31は、その外周面31bにてブレーキ装置10の外郭の一部を構成する円環状の部材である。このリング31は、図10に示すように、その内周面31aと当該内周面31aに対向する第2カム32のカム面32aとによってカム面32aごとにくさび形空間が形成されるように配置されている。
【0030】
図7及び図10に示すように、第2カム32は、その外周面に、一対のカム面32aが等間隔にて5か所設けられており、各カム面32aは、リング31の内周面31aとの間で10か所のくさび形空間を形成するように配置されている。第2カム32の中央には、ピニオンギヤ35が同軸的に係合するための係合孔32bが形成されている。また、第2カム32の入力側の端面には、5つの円筒凸部32cが、周方向にて等間隔に位置するように配置されている。なお、第2カム32は、「ブレーキカム」の一例に相当し得る。
【0031】
各第2ローラー33は、略円筒状に形成されており、その径が、第2カム32のカム面32aとリング31の内周面31aとにより形成される一対の対向するくさび形空間内にて正逆回動可能とするための遊びを有するように配置されている。そして、図10に示すように、一対のカム面32aにそれぞれ対応する第2ローラー33間に、後述する回動伝達部材40の規制部42aが位置している。なお、第2ローラー33は、「ブレーキローラー」の一例に相当し得る。
【0032】
図10に示すように、第2スプリング34は、コイルバネ状の付勢部材であって、一端側にて第2ローラー33を規制部42aに向けて付勢し、他端側にて異なる第2ローラー33を異なる規制部42aに向けて付勢するように配置されている。
【0033】
図7及び図8に示すように、ピニオンギヤ35の入力側には、第2カム32の係合孔32bに係合する係合突起35aが形成されている。なお、ピニオンギヤ35は、「出力軸」の一例に相当し得る。
【0034】
図7及び図8に示すように、フリクションスプリング36は、係合孔36aにて第2カム32の係合孔32bとともにピニオンギヤ35の係合突起35aに係合するように配置されている。このフリクションスプリング36は、ピニオンギヤ35が回動する際にリング31の内周面31aに摺接することで、ピニオンギヤ35に対して逆回動方向の付勢力を付与するように機能する。
【0035】
次に、入力部材20から入力されるトルクを出力部材30へ伝達するための回動伝達部材40について説明する。
図7及び図8に示すように、回動伝達部材40は、円筒部41及び側壁部42を備え、略有底円筒状に形成されている。円筒部41は、その内周面41aにて、第1カム24の各カム面24aと対向することで、上記くさび形空間を形成するように配置されている。側壁部42には、5つの規制部42aと5つの凹部42bとが設けられている。各規制部42aは、周方向にて等間隔であって、第2カム32の一対のカム面24aにそれぞれ対応する第2ローラー33間に位置するように、側壁部42の一部を出力側に切り起こして形成されている。各凹部42bは、対応する第2カム32の円筒凸部32cがそれぞれ入り込むように、周方向の長さが円筒凸部32cの直径よりも長くなるように形成されている。
【0036】
ブラケット50は、リング31及び第2カム32等を出力側から覆い上記外郭の一部を構成する覆うカバー部材である。ブラケット50には、ピニオンギヤ35が貫通する貫通穴51が中央部に形成され、シートクッション102に連結するための連結穴52が一方の端部と他方の端部とに計3つ形成されている。
【0037】
また、ブラケット50は、連結穴52の形成部位を除く外縁の一部(以下、溶接縁部53ともいう)が、リング31の外周面31bに沿って当該リング31の出力側端面31cを覆うように円弧状に形成されている。ブラケット50は、溶接縁部53にてリング31の外周面31bに対して6個所点状に溶接されるように構成されている(図2及び図3等の符号Y11~Y16参照)。
【0038】
このように、リング31の外周面31bに沿うブラケット50の溶接縁部53が溶接個所Y11~Y16となることから、各溶接個所Y11~Y16は、ピニオンギヤ35の回動中心Lを基準に同一円上にて点状に位置することになる。また、カバー22とリング31との溶接個所Y21~Y26がリング31の外周面31bとなり、ブラケット50と同様に、各溶接個所Y21~Y26は、ピニオンギヤ35の回動中心Lを基準に同一円上にて点状に位置することになる。
【0039】
次に、上述のように構成されるブレーキ装置10の製造方法について、図12図14を参照して説明する。
まず、図12(A)に示すように、フリクションスプリング36を係合(圧入)したピニオンギヤ35と、リング31を溶接接合したブラケット50とをセットする。次に、図12(B)に示すように、第2カム32をピニオンギヤ35に係合した後、各カム面32aを基準に、第2ローラー33及び第2スプリング34をそれぞれセットする。
【0040】
続いて、図13(A)に示すように、サブ工程として、回動伝達部材40に対して第1カム24をセットした後、各カム面24aを基準に、第1ローラー25及び第1スプリング26をそれぞれセットする。そして、図13(B)に示すように、回動伝達部材40の各規制部42aが第2ローラー33間にそれぞれ入り込むとともに各凹部42bに第2カム32の円筒凸部32cがそれぞれ入り込むようにして、図13(A)の状態の回動伝達部材40等と図12(B)の状態のリング31等とをセットしてリング31とブラケット50とを溶接個所Y11~Y16にて溶接接合した後、ウェーブワッシャ23を係合突部24bにセットする。
【0041】
次に、図14(A)に示すように、各規制部22eが第1ローラー25間にそれぞれ入り込むようにセットしたリング31とカバー22とを溶接個所Y21~Y26にて溶接接合する。そして、図14(B)に示すように、係合孔21eに係合突部24bを係合させたレバー部材21と第1カム24とを溶接個所Y31~Y33にて溶接接合することで、ブレーキ装置10の組み立てが完了する。
【0042】
ここで、ブレーキ装置10の製造方法に関して、本実施形態において上記溶接接合時に実施される溶接作業について、リング31とブラケット50とを溶接接合を例に、図15を参照して詳述する。
本実施形態では、所定の溶接トーチ及び溶接治具等を用いた非消耗電極式のアーク溶接、より具体的には、プラズマ溶接によって、リング31とブラケット50とを6つの溶接個所Y11~Y16にて点状に溶接して接合し、リング31とカバー22とを6つの溶接個所Y21~Y26にて点状に溶接して接合し、レバー部材21と第1カム24とを3つの溶接個所Y31~Y33にて点状に溶接して接合する。
【0043】
リング31とブラケット50とを溶接接合する際に用いる溶接治具60は、図15に示すように、3つの支柱61にて各連結穴52を利用してブラケット50を保持した状態で、ピニオンギヤ35の回動中心Lを基準に回転可能に構成されている。また、溶接トーチ70は、溶接治具60により保持されたリング31及びブラケット50の溶接個所Y11~Y16に対して短時間(例えば、0.05s)通電して点状にプラズマ溶接するためのもので、溶接時には位置が固定される。
【0044】
すなわち、図15に示すように、溶接治具60により保持されたリング31及びブラケット50の溶接個所Y11を溶接トーチ70によって点状にプラズマ溶接して接合した後、次の溶接個所Y12に溶接トーチ70が位置するように溶接治具60を回動中心Lを基準に回転させる。このように、点状のプラズマ溶接と溶接治具60の回転とを溶接個所分だけ繰り返すことで、回動中心Lを基準に同一円上にて点状に各溶接個所Y11~Y16が位置するようにして、リング31とブラケット50とが溶接接合される。
【0045】
また、リング31とカバー22との溶接接合では、溶接治具により保持されたリング31及びカバー22の溶接個所Y21を溶接トーチによって点状にプラズマ溶接して接合した後、次の溶接個所Y22に溶接トーチが位置するように溶接治具を回動中心Lを基準に回転させる。このように、点状のプラズマ溶接と溶接治具の回転とを溶接個所分だけ繰り返すことで、回動中心Lを基準に同一円上にて点状に各溶接個所Y21~Y26が位置するようにして、リング31とカバー22とが溶接接合される。
【0046】
また、レバー部材21と第1カム24との溶接接合では、溶接治具により保持されたレバー部材21及び第1カム24の溶接個所Y31を溶接トーチによって点状にプラズマ溶接して接合した後、次の溶接個所Y32に溶接トーチが位置するように溶接治具を回動中心Lを基準に回転させる。このように、点状のプラズマ溶接と溶接治具の回転とを溶接個所分だけ繰り返すことで、回動中心Lを基準に同一円上にて点状に各溶接個所Y31~Y33が位置するようにして、レバー部材21と第1カム24とが溶接接合される。
【0047】
続いて、上記のように構成されるブレーキ装置10における入力部材20及び出力部材30等の作動について、図16を参照して説明する。なお、図16では、便宜上、レバー部材21及びタッピングネジ27を二点鎖線にて図示し、ブラケット50の図示を省略する。
【0048】
操作レバー104が操作されていない状態では、異なる第1スプリング26によってそれぞれ付勢された2つの第1ローラー25が1つの規制部22eに対して異なる方向から押圧された状態で、レバー部材21及び第1カム24は、図16(A)に示すように、上記中立位置に位置する。
【0049】
そして、操作レバー104が中立位置Nから上方向U又は下方向Dへ揺動操作されると、図16(B)に示すように、レバー部材21及び第1カム24が上記揺動操作に応じた方向に回動する。その際、一対のカム面24aにおいて、回動方向側のカム面24aに対応する第1ローラー25がそのカム面24aによって形成されるすきま空間に入り込むことでロック状態となり、そのすきま空間を形成する回動伝達部材40も第1カム24とともに回動する。その一方で、他方のカム面24aに対応する第1ローラー25は、第1スプリング26によって規制部22eに押圧される状態が維持される。
【0050】
上述のようにレバー部材21及び第1カム24が回動する際、図16(A)(B)からわかるように、レバー部材21と操作レバー104との締結に利用されるタッピングネジ27は、カバー22の挿通孔22dの長孔に沿って接触することなく、第1カム24の溝部24cとともに回動する。
【0051】
上述のように回動する回動伝達部材40の規制部42aによって回動方向に押圧された第2ローラー33がくさび空間から離脱することで、リング31に対する第2カム32の相対回動の規制が解除される。そして、回動伝達部材40の凹部42bに入り込んでいる第2カム32の円筒凸部32cが凹部42bに押圧されるようにして、第2カム32が回動伝達部材40とともに回動するとともに、この第2カム32に係合するピニオンギヤ35が回動する。これにより、入力部材20から入力された入力トルクが出力部材30のピニオンギヤ35等を介して上記ハイト機構に伝達されることとなる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るブレーキ装置10では、ピニオンギヤ35に同軸的に連結されて外周面に複数のカム面32aが形成される第2カム32と、内周面31aと当該内周面31aに対向する複数のカム面32aとによってカム面32aごとに一対のくさび形空間が形成され、外周面31bにて当該ブレーキ装置10の外郭の一部が構成され、ピニオンギヤ35に対して同軸的に配置されるリング31と、くさび形空間に入り込むことでリング31と第2カム32との相対回動を規制するための複数の第2ローラー33と、入力部材20の回動に応じて、第2ローラー33をくさび形空間から離脱させるとともに、第2カム32を回動させる回動伝達部材40と、ピニオンギヤ35が貫通する貫通穴51が形成されて、溶接縁部53がリング31の外周面31bに沿うようにリング31の出力側端面31cを覆うブラケット50と、が設けられる。そして、ブラケット50は、溶接縁部53の溶接個所Y11~Y16にて、リング31と複数個所点状に溶接される。
【0053】
このように、外郭の一部を構成するリング31とブラケット50とを複数個所点状に溶接するため、リング31とブラケット50とを円周状に連続して溶接する場合と比較して各溶接個所Y11~Y16での溶接時間が短くなるので、溶接時の熱変形等の熱影響を抑制することができる。
【0054】
図17は、リング31とブラケット50とをプラズマ溶接にて各溶接個所Y11~Y16を点状に溶接したときに生じるリング31の内周面31aの温度変化を示している。この図17からわかるように、リング31の内周面31aの温度は100℃以下であり、焼き戻し温度約200℃以上にならないので焼き戻しが発生せず、溶接時の熱変形等の熱影響を抑制することができる。
【0055】
特に、リング31の外周面31bに沿うブラケット50の溶接縁部53が溶接個所Y11~Y16となることから、各溶接個所Y11~Y16はピニオンギヤ35の回動中心Lを基準に同一円上にて点状に位置することになる。このため、図15に示すように、溶接作業前のセット状態のリング31及びブラケット50をピニオンギヤ35の回動中心Lを基準に回転させて溶接することで、複数個所点状に溶接する溶接作業であっても容易に実施することができる。
【0056】
そして、ブレーキ装置10の外郭の他の一部を構成するカバー22は、リング31の外周面31bの入力側に対して溶接個所Y21~Y26にて複数個所点状に溶接される。これにより、カバー22とリング31との溶接個所Y21~Y26がリング31の外周面31bとなり、ブラケット50と同様に各溶接個所Y21~Y26はピニオンギヤ35の回動中心Lを基準に同一円上にて点状に位置することになるため、溶接作業前のセット状態のリング31及びカバー22をピニオンギヤ35の回動中心Lを基準に回転させて溶接することで、カバー22とリング31との溶接作業をも容易に実施することができる。
【0057】
特に、各溶接個所Y11~Y16,Y21~Y26,Y31~Y36における点状の溶接は、非消耗電極式のアーク溶接、具体的には、プラズマ溶接により形成される。これにより、溶接時間が短くなることからプラズマ特有の磁気吹きや溶け込み不足がなく、安定して溶接作業を行うことができる。また、溶接スパッタがでないので、ブレーキ装置のような精密装置の接合にも利用することができる。そして、レーザー溶接等に対して接合面積を大きくできるので、出力の調整に応じて溶け込み量を調整でき、ワーク間に多少の隙間が生じる場合でも溶接できることから、ワークの形状がバラツキやすい場合でも必要な強度を容易に確保することができる。
【0058】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、例えば、以下のように具体化してもよい。
(1)上記点状の溶接は、プラズマ溶接により形成されることに限らず、TIG溶接などの非消耗電極式のアーク溶接により形成されてもよいし、製品仕様等によっては、他の方式の溶接により形成されてもよい。
【0059】
(2)ブラケット50は、溶接縁部53の溶接個所Y11~Y16にて、リング31と6個所点状に溶接されることに限らず、2~5個所又は7個所以上、溶接縁部53にてリング31と点状に溶接されてもよい。
【0060】
(3)カバー22は、リング31の外周面31bの入力側に対して溶接個所Y21~Y26にて6個所点状に溶接されることに限らず、リング31の外周面31bに対して2~5個所又は7個所以上点状に溶接されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…ブレーキ装置
20…入力部材
21…レバー部材
22…カバー
22f…円筒部
30…出力部材
31…リング
31a…内周面
31b…外周面
31c…出力側端面
32…第2カム(ブレーキカム)
33…第2ローラー(ブレーキローラー)
35…ピニオン(出力軸)
40…回動伝達部材
50…ブラケット
51…貫通穴
53…溶接縁部(外縁の一部)
100…車両用シート装置
Y11~Y16,Y21~Y26,Y31~Y33…溶接個所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17