IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナブテスコ株式会社の特許一覧

特開2022-190388膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム
<>
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図1
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図2
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図3
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図4
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図5
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図6
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図7
  • 特開-膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190388
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】膝継手、膝継手の調整支援装置、義足、膝継手の制御方法、膝継手の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/64 20060101AFI20221219BHJP
   A61F 2/74 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
A61F2/64
A61F2/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】43
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098688
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA07
4C097BB02
4C097BB09
4C097CC01
4C097CC18
4C097TA06
4C097TA08
4C097TB13
(57)【要約】
【課題】利便性の高い膝継手または義足を提供する。
【解決手段】義足10は、大腿部としてのソケット11と、ソケット11側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結され膝軸23周りに回転可能に設けられる下腿部21と、ソケット11が膝軸23を通る鉛直線に対してなす傾斜角度Ψを取得する大腿部傾斜角度取得部と、ソケット11が後方に鉛直線から傾斜した時の正の傾斜角度から、ソケット11が前方に鉛直線から傾斜した時の負の傾斜角度への遷移に応じて、膝軸23の回転抵抗を弱める回転抵抗制御部とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部と、
前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度を取得する大腿部傾斜角度取得部と、
前記大腿部が鉛直線に対して後方に傾斜した時の正の傾斜角度から、前記大腿部が鉛直線に対して前方に傾斜した時の負の傾斜角度への遷移に応じて、前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御部と
を備える膝継手。
【請求項2】
前記大腿部の傾斜角度の角速度を取得する大腿部傾斜角速度取得部と、
前記回転抵抗制御部による制御結果が回転抵抗に反映されるまでの遅延時間を取得する遅延時間取得部と
を更に備え、
前記回転抵抗制御部は、前記大腿部の角速度が負の場合、前記遅延時間の間に前記大腿部の傾斜角度が所定の閾値を下回らないように、前記大腿部の傾斜角度が前記閾値より大きい間に前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を開始する
請求項1に記載の膝継手。
【請求項3】
前記下腿部にかかる荷重の方向を表す荷重線を取得する荷重線取得部を更に備え、
前記回転抵抗制御部は、前記膝軸が前記荷重線の後方から前方に遷移する前に、前記膝軸の回転抵抗を弱める
請求項1または2に記載の膝継手。
【請求項4】
前記膝軸の回転抵抗を発生させる作動流体の流路を開閉可能なバルブを更に備え、
前記回転抵抗制御部は前記バルブの開度を制御する
請求項1から3のいずれかに記載の膝継手。
【請求項5】
前記回転抵抗制御部は、前記大腿部が正の傾斜角度から負の傾斜角度へ遷移する際、前記膝軸の回転抵抗を弱める請求項1から4のいずれかに記載の膝継手。
【請求項6】
前記膝継手を装着した使用者の歩行態様を検知する歩行態様検知部を更に備え、
検知された歩行態様が特定の歩行態様である場合、前記回転抵抗制御部は、前記大腿部が正の傾斜角度から負の傾斜角度へ遷移する場合であっても、前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を行わない
請求項1から5のいずれかに記載の膝継手。
【請求項7】
前記回転抵抗制御部は、前記歩行態様検知部で検知された歩行態様が特定の歩行態様である場合、前記大腿部が正の傾斜角度から負の傾斜角度へ遷移する場合であっても、前記膝軸の回転抵抗を強める制御を行う
請求項6に記載の膝継手。
【請求項8】
前記大腿部および前記下腿部の少なくともいずれかが鉛直線に対してなす傾斜角度の角速度を取得する角速度取得部を更に備え、
前記回転抵抗制御部は、前記大腿部が正の傾斜角度から負の傾斜角度へ遷移する際に、前記角速度取得部が取得した角速度が負である状態が所定時間継続した場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める
請求項1から7のいずれかに記載の膝継手。
【請求項9】
前記大腿部および前記下腿部の少なくともいずれかが鉛直線に対してなす傾斜角度を所定の時間間隔で取得する傾斜角度取得部を更に備え、
前記回転抵抗制御部は、前記大腿部が正の傾斜角度から負の傾斜角度へ遷移する際に、前記傾斜角度取得部が取得した傾斜角度が所定回数連続して減少した場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める
請求項1から8のいずれかに記載の膝継手。
【請求項10】
前記膝軸の回転角度である膝角度を取得する膝角度取得部を更に備え、
前記回転抵抗制御部は、前記大腿部が正の傾斜角度から負の傾斜角度へ遷移する際に、前記膝角度が所定値以下の場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める
請求項1から9のいずれかに記載の膝継手。
【請求項11】
前記膝軸の回転角度である膝角度を取得する膝角度取得部と、
前記下腿部が鉛直線に対してなす傾斜角度を取得する下腿部傾斜角度取得部と
を更に備え、
前記大腿部傾斜角度取得部は、前記膝角度取得部で取得した前記膝角度と前記下腿部傾斜角度取得部で取得した前記下腿部の傾斜角度に基づいて、前記大腿部の傾斜角度を演算する
請求項1から10のいずれかに記載の膝継手。
【請求項12】
前記下腿部にかかる荷重を検知する荷重検知部を更に備え、
前記荷重検知部が荷重を検知していない時に、前記大腿部の傾斜角度が正から負に遷移していた場合、前記回転抵抗制御部は前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を行わない、または、回転抵抗を強める制御を行う
請求項1から11のいずれかに記載の膝継手。
【請求項13】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手であって、
前記膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知部と、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の状態から当該前進量閾値未満の状態に遷移した場合、前記膝軸の回転抵抗を強める回転抵抗制御部と
を備える膝継手。
【請求項14】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手であって、
前記膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知部と、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を可能にする回転抵抗制御部と
を備える膝継手。
【請求項15】
前記回転抵抗制御部は、検知された前進量が前記前進量閾値以上である状態が所定時間継続した場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を可能にする請求項14に記載の膝継手。
【請求項16】
前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度を取得する大腿部傾斜角度取得部を更に備え、
前記前進量検知部は、前記大腿部の傾斜角度から前進量を検知する
請求項13から15のいずれかに記載の膝継手。
【請求項17】
前記膝継手の接地を検知する接地検知部と、
前記大腿接続部から前記下腿部の下端までの前記膝継手の長さを取得する長さ取得部と
を更に備え、
前記前進量検知部は、前記膝継手が接地している際の前記大腿部の傾斜角度と前記膝継手の長さに基づいて前進量を検知する
請求項16に記載の膝継手。
【請求項18】
前記回転抵抗制御部は、前記前進量検知部で検知された前進量の減少量が所定の減少量閾値を超えた場合、前記膝軸の回転抵抗を強める請求項13から17のいずれかに記載の膝継手。
【請求項19】
前記前進量閾値は、前記膝継手を装着した前記使用者の過去の歩行時の前進量のデータに基づいて設定される請求項13から18のいずれかに記載の膝継手。
【請求項20】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手であって、
前記膝継手を装着して歩行中の使用者の立脚期から遊脚期への遷移に応じて前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御部と、
前記使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する歩行情報取得部と、
前記歩行情報に基づいて、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する制御タイミング判断部と
を備える膝継手。
【請求項21】
前記回転抵抗制御部は、前記制御タイミング判断部で判断されたタイミングで前記膝軸の回転抵抗を弱める請求項20に記載の膝継手。
【請求項22】
前記制御タイミング判断部で判断されたタイミングを外部に出力する出力部を更に備える請求項20または21に記載の膝継手。
【請求項23】
前記歩行情報取得部は、前記膝継手の調整のために当該膝継手を装着した前記使用者が行う試験歩行時の歩行情報を取得し、
前記制御タイミング判断部は、前記試験歩行時に取得された歩行情報に基づいて、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する
請求項20から22のいずれかに記載の膝継手。
【請求項24】
前記膝継手の調整者によって設定された基準タイミングを取得する基準タイミング取得部を更に備え、
前記制御タイミング判断部は、前記使用者の歩行状態に応じた変分を前記基準タイミングに加え、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングとする
請求項20から23のいずれかに記載の膝継手。
【請求項25】
前記歩行情報は、前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度を含み、
前記制御タイミング判断部は、前記大腿部が後方に鉛直線から傾斜した時の正の傾斜角度から、前記大腿部が前方に鉛直線から傾斜した時の負の傾斜角度へ遷移するタイミングを、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングとして判断する
請求項20から24のいずれかに記載の膝継手。
【請求項26】
前記歩行情報は、前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度の角速度を含み、
前記制御タイミング判断部は、前記大腿部の負の角速度の絶対値が所定値を超えるタイミングを、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングとして判断する
請求項20から25のいずれかに記載の膝継手。
【請求項27】
前記歩行情報は、前記膝継手を装着した前記使用者の前進量を含み、
前記制御タイミング判断部は、前記前進量が所定の前進量閾値を超えるタイミングを、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングとして判断する
請求項20から26のいずれかに記載の膝継手。
【請求項28】
前記歩行情報は、前記膝継手を装着した前記使用者の進行方向の加速度を含み、
前記制御タイミング判断部は、前記加速度が所定の加速度閾値を超えるタイミングを、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングとして判断する
請求項20から27のいずれかに記載の膝継手。
【請求項29】
前記歩行情報は、前記下腿部にかかる荷重の方向を表す荷重線を含み、
前記制御タイミング判断部は、前記膝軸が前記荷重線の後方から前方に遷移するタイミングを、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングとして判断する
請求項20から28のいずれかに記載の膝継手。
【請求項30】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部と、
前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす大腿部傾斜角度、前記下腿部が前記鉛直線に対してなす下腿部傾斜角度、前記大腿部と前記下腿部がなす膝角度のいずれか二つの角度を取得する角度取得部と、
前記角度取得部で取得された角度に基づいて前記膝軸の回転抵抗を制御する回転抵抗制御部と
を備える膝継手。
【請求項31】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の調整支援装置であって、
前記膝継手を装着して歩行中の使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する歩行情報取得部と、
前記歩行情報に基づいて、前記膝継手の立脚期から遊脚期への遷移に応じて前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する制御タイミング判断部と
を備える膝継手の調整支援装置。
【請求項32】
大腿部と、
前記大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部と、
前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度を取得する大腿部傾斜角度取得部と、
前記大腿部が後方に鉛直線から傾斜した時の正の傾斜角度から、前記大腿部が前方に鉛直線から傾斜した時の負の傾斜角度への遷移に応じて、前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御部と
を備える義足。
【請求項33】
大腿部と、前記大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える義足であって、
前記義足を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知部と、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の状態から当該前進量閾値未満の状態に遷移した場合、前記膝軸の回転抵抗を高める回転抵抗制御部と
を備える義足。
【請求項34】
大腿部と、前記大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える義足であって、
前記義足を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知部と、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を可能にする回転抵抗制御部と
を備える義足。
【請求項35】
大腿部と、前記大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える義足であって、
前記義足を装着して歩行中の使用者の立脚期から遊脚期への遷移に応じて前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御部と、
前記使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する歩行情報取得部と、
前記歩行情報に基づいて、前記回転抵抗制御部が前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する制御タイミング判断部と
を備える義足。
【請求項36】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御方法であって、
前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度を取得する大腿部傾斜角度取得ステップと、
前記大腿部が後方に鉛直線から傾斜した時の正の傾斜角度から、前記大腿部が前方に鉛直線から傾斜した時の負の傾斜角度への遷移に応じて、前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御ステップと
を備える膝継手の制御方法。
【請求項37】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御プログラムであって、
前記大腿部が前記膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度を取得する大腿部傾斜角度取得ステップと、
前記大腿部が後方に鉛直線から傾斜した時の正の傾斜角度から、前記大腿部が前方に鉛直線から傾斜した時の負の傾斜角度への遷移に応じて、前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御ステップと
をコンピュータに実行させる膝継手の制御プログラム。
【請求項38】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御方法であって、
前記膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知ステップと、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の状態から当該前進量閾値未満の状態に遷移した場合、前記膝軸の回転抵抗を高める回転抵抗制御ステップと
を備える膝継手の制御方法。
【請求項39】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御プログラムであって、
前記膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知ステップと、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の状態から当該前進量閾値未満の状態に遷移した場合、前記膝軸の回転抵抗を高める回転抵抗制御ステップと
をコンピュータに実行させる膝継手の制御プログラム。
【請求項40】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御方法であって、
前記膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知ステップと、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を可能にする回転抵抗制御ステップと
を備える膝継手の制御方法。
【請求項41】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御プログラムであって、
前記膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知ステップと、
検知された前進量が所定の前進量閾値以上の場合、前記膝軸の回転抵抗を弱める制御を可能にする回転抵抗制御ステップと
をコンピュータに実行させる膝継手の制御プログラム。
【請求項42】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御方法であって、
前記膝継手を装着して歩行中の使用者の立脚期から遊脚期への遷移に応じて前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御ステップと、
前記使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する歩行情報取得ステップと、
前記歩行情報に基づいて、前記回転抵抗制御ステップで前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する制御タイミング判断ステップと
を備える膝継手の制御方法。
【請求項43】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、前記大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の制御プログラムであって、
前記膝継手を装着して歩行中の使用者の立脚期から遊脚期への遷移に応じて前記膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御ステップと、
前記使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する歩行情報取得ステップと、
前記歩行情報に基づいて、前記回転抵抗制御ステップで前記膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する制御タイミング判断ステップと
をコンピュータに実行させる膝継手の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膝継手に関する。
【背景技術】
【0002】
怪我や病気で足を失った人が装着する膝継手または義足として、装着者の歩行フェーズに応じて膝軸の回転抵抗を制御するものが知られている。義足が接地して荷重がかかっている立脚相では膝が荷重によって屈曲しないように膝軸の回転抵抗を高くし、義足が地面を離れて振られている遊脚相では膝を屈曲させて義足が地面に接触しないように膝軸の回転抵抗を低くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-101807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、膝継手または義足の更なる利便性の向上のために、膝軸の回転抵抗の制御について多面的な検討を行った。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、利便性の高い膝継手または義足を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部と、大腿部が膝軸を通る鉛直線に対してなす傾斜角度を取得する大腿部傾斜角度取得部と、大腿部が鉛直線に対して後方に傾斜した時の正の傾斜角度から、大腿部が鉛直線に対して前方に傾斜した時の負の傾斜角度への遷移に応じて、膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御部とを備える。
【0007】
本発明の別の態様もまた、膝継手である。この膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手であって、膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知部と、検知された前進量が所定の前進量閾値以上の状態から当該前進量閾値未満の状態に遷移した場合、膝軸の回転抵抗を強める回転抵抗制御部とを備える。
【0008】
本発明の更に別の態様もまた、膝継手である。この膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手であって、膝継手を装着した使用者の前進量を検知する前進量検知部と、検知された前進量が所定の前進量閾値以上の場合、膝軸の回転抵抗を弱める制御を可能にする回転抵抗制御部とを備える。
【0009】
本発明の更に別の態様もまた、膝継手である。この膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手であって、膝継手を装着して歩行中の使用者の立脚期から遊脚期への遷移に応じて膝軸の回転抵抗を弱める回転抵抗制御部と、使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する歩行情報取得部と、歩行情報に基づいて、回転抵抗制御部が膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する制御タイミング判断部とを備える。
【0010】
本発明の更に別の態様は、膝継手の調整支援装置である。この装置は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結され膝軸周りに回転可能に設けられる下腿部とを備える膝継手の調整支援装置であって、膝継手を装着して歩行中の使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する歩行情報取得部と、歩行情報に基づいて、膝継手の立脚期から遊脚期への遷移に応じて膝軸の回転抵抗を弱めるタイミングを判断する制御タイミング判断部とを備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、利便性の高い膝継手または義足を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る膝継手および義足の概略的な構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る膝継手および義足の概略的な構成を示す図である。
図3】義足の装着者の歩行フェーズに応じた膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φの遷移を簡略的に示す図である。
図4】シリンダおよび制御機構を示す図である。
図5】膝継手の屈曲および伸展動作時の油の流れを示す図である。
図6】膝継手の屈曲制御を担う機能ブロックを模式的に示す図である。
図7】義足の装着者の歩行フェーズにおける荷重線Lを示す図である。
図8】膝継手の調整支援装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1および図2は、本発明の実施形態に係る膝継手20および義足10の概略的な構成を示す。義足10は、大腿部としてのプラスチック製のソケット11と、ソケット11が接続される大腿接続部22と、大腿接続部22と連結され膝軸23周りに回転可能に設けられる下腿部21と、下腿部21の下端に連結される足部12を備える。ソケット11が接続される大腿接続部22と下腿部21は、その連結部分に設けられる図1の紙面に垂直な膝軸23の周りに相対的に回転することで、膝関節に相当する膝継手20を屈伸させる。また、足部12は弾性部材によって形成され、非接地時や直立時等の地面からの荷重が小さい時の相対姿勢が弾性によって一定に保たれる。また、歩行時等の地面からの荷重が大きい時は弾性部材が弾性変形して地面を蹴り出す推進力を生む。
【0015】
膝継手20は、高強度のフレームによって形成される下腿部21と、大腿部としてのソケット11に接続されると共に下腿部21に対して膝軸23の周りに回転可能に連結される大腿接続部22と、膝軸23周りの回転動作すなわち膝継手20の屈伸動作を制限または許容するシリンダ30と、シリンダ30を駆動する制御機構40を備える。なお、図1には大腿接続部22と下腿部21が単一のリンクによって連結され、特定の位置にある単一の膝軸23周りに回転可能な膝継手20を示したが、大腿接続部22と下腿部21が例えば前後二つのリンクによって連結され、合計4箇所の連結点の内側に仮想的かつ瞬間的に形成される回転中心としての膝軸23周りに回転可能な膝継手20にも本発明は適用できる。
【0016】
シリンダ30の伸縮量と膝継手20の膝軸23周りの回転角度である膝角度はほぼ一対一に対応しており、シリンダ30の伸縮量を測定して膝継手20の膝角度を検出する膝角度取得部としての膝角度センサ60が、シリンダ30および大腿接続部22の近傍に設けられる。膝角度センサ60で検出された膝角度は制御部50で利用される。膝角度センサ60は、シリンダ30の伸縮量を測定可能な任意のセンサで構成できるが、例えば、シリンダ30の伸縮に伴って移動するピストンロッド34に埋設された磁石の位置を検知可能なホール素子によって構成できる。膝角度は大腿部としてのソケット11の軸と下腿部21の軸がなす角度である。例えば、図1に示されるように、義足10の使用者が直立しており、ソケット11の軸と下腿部21の軸が一直線上にある場合の膝角度は0度である。また、義足10の使用者が着席し、下腿部21の軸が図1の鉛直方向のままでソケット11の軸が水平方向に変わった場合の膝角度は90度になる。
【0017】
下腿部21に設けられる慣性センサ75は、下腿部21の運動を司る3軸の並進方向および/または回転方向の速度(角速度)および/または加速度(角加速度)を測定することで、下腿部21の姿勢や運動を検知する。後述するように、慣性センサ75で検知される下腿部21の姿勢のうち、下腿部21の軸が膝軸23を通る鉛直線に対してなす傾斜角度であるすね角度は、本実施形態の膝継手20の制御に利用される。なお、すね角度や後述するもも角度は、前後方向と左右方向の二つの方向で検知でき、それぞれ膝継手20の制御に利用できるが、以下では特に断らない限り前後方向の傾斜角度を指すものとする。すね角度を検知可能な慣性センサ75は本発明の下腿部傾斜角度取得部を構成する。慣性センサ75は下腿部21の任意の場所に設置できるが、例えば、シリンダ30の外周に設置される制御基板上に制御部50と共に実装される。
【0018】
膝角度センサ60で取得される膝角度と、慣性センサ75で取得されるすね角度から、大腿部としてのソケット11の軸が膝軸23を通る鉛直線に対してなす傾斜角度であるもも角度を演算できる。すなわち、すね角度は膝軸23を通る鉛直線からの下腿部21の傾きであり、膝角度は下腿部21の軸からのソケット11の軸の傾きであるため、両者を合算することで膝軸23を通る鉛直線からのソケット11の軸の傾きであるもも角度を演算できる。したがって、膝角度センサ60および慣性センサ75はもも角度を取得する本発明の大腿部傾斜角度取得部を構成する。なお、ソケット11または大腿接続部22に慣性センサを設けることで、もも角度を直接的に測定する構成としてもよい。この場合は、測定された膝角度ともも角度に基づいてすね角度を演算できる。同様に、膝角度センサ60が設けられない場合でも、もも角度とすね角度を測定すれば膝角度を演算できる。
【0019】
図3は、義足10の装着者の歩行フェーズ(A)~(G)に応じた膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φの遷移を簡略的に示す。歩行フェーズ(A)は初期接地(IC:Initial Contactとも呼ばれる)であり、義足10が接地する。歩行フェーズ(B)は荷重応答期(LR:Loading Responseとも呼ばれる)であり、接地した義足10によって装着者の体重が支えられる。歩行フェーズ(C)は立脚中期(MSt:Mid Stanceとも呼ばれる)~立脚終期(TSt:Terminal Stanceとも呼ばれる)であり、義足10が体重を支えた状態で装着者の重心が義足10より前方に移動する。歩行フェーズ(D)は前遊脚期(PSw:Pre-Swingとも呼ばれる)であり、続く遊脚相に遷移するために義足10で地面を蹴り出す。歩行フェーズ(E)、(F)、(G)はそれぞれ遊脚初期(ISw:Initial Swingとも呼ばれる)、遊脚中期(MSw:Mid Swingとも呼ばれる)、遊脚終期(TSw:Terminal Swingとも呼ばれる)であり、地面を離れた義足10が後方から前方に振り出される。
【0020】
もも角度Ψは膝軸23を通る鉛直線を基準としてソケット11が膝軸23周りに前方に傾斜した時を負(-Ψと図示する)とし後方に傾斜した時を正(+Ψと図示する)とする。すね角度Φは膝軸23を通る鉛直線を基準として下腿部21が膝軸23周りに前方に傾斜した時を正(+Φと図示する)とし後方に傾斜した時を負(-Φと図示する)とする。膝角度θはソケット11の軸を基準として下腿部21が膝軸周りに後方に傾斜した時を正(+θと図示する)とする。以上のように定義された膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φは、常に「θ+Φ=Ψ」の関係式を満たす。
【0021】
図示されるように、初期接地(A)では膝角度θは略零/もも角度Ψは正/すね角度Φは正であり、荷重応答期(B)では膝角度θは略零/もも角度Ψは正/すね角度Φは正であり、立脚中・終期(C)では膝角度θは略零/もも角度Ψは負/すね角度Φは負であり、前遊脚期(D)では膝角度θは正/もも角度Ψは負/すね角度Φは負であり、遊脚初期(E)では膝角度θは正/もも角度Ψは正/すね角度Φは負であり、遊脚中期(F)では膝角度θは正/もも角度Ψは正/すね角度Φは負であり、遊脚終期(G)では膝角度θは正/もも角度Ψは正/すね角度Φは正である。
【0022】
膝角度θに着目すると、接地した義足10が装着者の体重を支える立脚相(A)~(C)では膝角度θは略零であり、立脚相(A)~(C)と遊脚相(E)~(G)の間の前遊脚期(D)で膝角度θは略零から正の値を持ち、義足10が地面を離れて振り出される遊脚相(E)~(G)では遊脚中期(F)で極大値を取るように膝角度θは単調に増減する。
【0023】
このような膝角度θの制御すなわち膝継手20の屈曲制御は、制御部50が制御機構40およびシリンダ30を介して行う。すなわち、立脚相(A)~(C)では、装着者の体重で膝継手20が屈曲しないように、シリンダ30の油圧抵抗を高くして膝軸23周りの回転を制限することで膝角度θを略零に維持する。前遊脚期(D)では、続く遊脚相(E)~(G)への準備として膝継手20が屈曲を始められるように、シリンダ30の油圧抵抗を低くして膝軸23周りの回転を許容することで膝角度θが正の値になる。遊脚相(E)~(G)では、地面を離れて振り出される義足10が地面に接触しないように、シリンダ30の油圧抵抗を低く維持して膝継手20を屈曲しやすくする。膝継手20の屈曲制御の詳細については後述する。
【0024】
図1および図2に戻って義足10の説明を続ける。膝角度センサ60および慣性センサ75以外のセンサとして、下腿部21と足部12の間にかかる荷重を検出する荷重センサ70を下腿部21の下端に設けてもよい。荷重センサ70で検出される荷重の大きさや方向に基づいて義足10の装着者の歩行フェーズを認識できるため、膝角度センサ60および慣性センサ75に加えて荷重センサ70を膝継手20の屈曲制御に利用してもよい。なお、荷重センサは大腿接続部22や、大腿接続部22と下腿部21の間の膝部に設けてもよい。一方、後述するように、膝継手20の屈曲制御は膝角度センサ60および慣性センサ75だけでも行えるため、荷重センサ70を省略して膝継手20を安価に構成してもよい。また、シリンダ30内の油の温度を測定する温度センサ80がシリンダ30の外壁または内壁に取り付けられる。これらの各センサの測定情報は制御部50で利用される。
【0025】
大腿接続部22または下腿部21にはバイブレータ85が設けられる。バイブレータ85は、義足10を装着した使用者に対して振動による通知や注意喚起を行うものであり、制御部50により制御される。
【0026】
制御部50は、膝角度センサ60、荷重センサ70、慣性センサ75、温度センサ80等の各種センサの測定情報に基づいて制御機構40を制御して、シリンダ30の伸縮動作に対する抵抗すなわち膝継手20の屈曲動作時の膝軸23の回転抵抗を制御する。制御部50には膝継手20の各部に電力を供給するバッテリー55が接続される。なお、図2において制御機構40、制御部50、バッテリー55は膝継手20の外部に示されるが、実際は膝継手20の構成部品として下腿部21の内部に設けられる。
【0027】
シリンダ30は、油を作動流体として抗力を発生することで膝継手20の屈曲または伸展動作を制限または許容する油圧シリンダである。シリンダ30は、ソケット11と下腿部21を回動可能に連結する膝軸23の近傍に設けられた上部支持点31と、下腿部21の一部に連結された下部支持点32によって支持され、両支持点の間で伸縮可能である。シリンダ長が小さくなる縮小工程では膝継手20が膝軸23周りで図1の反時計回り方向に回転する屈曲動作が行われ、シリンダ長が大きくなる伸長工程では膝継手20が膝軸23周りで図1の時計回り方向に回転する伸展動作が行われる。ここで、シリンダ長とは、シリンダ30の上部支持点31と下部支持点32との間の長さをいう。
【0028】
続いて、図4を参照してシリンダ30および制御機構40について説明する。シリンダ30は、シリンダチューブ33と、シリンダチューブ33の一端側(図4の右端側)から挿入され、シリンダチューブ33の長手方向(図4の左右方向)に沿って移動可能なピストンロッド34と、シリンダチューブ33内でピストンロッド34に固定され、シリンダチューブ33の内壁に沿って長手方向に摺動可能なピストン35を有する。シリンダチューブ33の内部は、ピストン35によって一端側(図4の右端側)の第1キャビティ36と、他端側(図4の左端側)の第2キャビティ37に分割される。第1キャビティ36および第2キャビティ37には、作動流体である油が充填される。
【0029】
制御機構40は、油圧によりシリンダ30を伸縮駆動する油圧駆動機構である。制御機構40は、シリンダ30にそれぞれ接続された伸展側油圧回路41と屈曲側油圧回路42を有する。伸展側油圧回路41および屈曲側油圧回路42は、それぞれ、一端側で第1キャビティ36と連通し、他端側で第2キャビティ37と連通する。伸展側油圧回路41は、膝軸23の回転抵抗を発生させる油の流路を開閉可能なバルブとしての伸展側バルブ43と、伸展側逆止弁44を有する。伸展側バルブ43を開状態とすることで油が伸展側油圧回路41を流通できるが、伸展側逆止弁44の作用により、油は第1キャビティ36から第2キャビティ37に向かう方向のみに流れ、その逆方向には流れない。
【0030】
屈曲側油圧回路42は、膝軸23の回転抵抗を発生させる油の流路を開閉可能なバルブとしての屈曲側バルブ45と、屈曲側逆止弁46を有する。屈曲側バルブ45を開状態とすることで油が屈曲側油圧回路42を流通できるが、屈曲側逆止弁46の作用により、油は第2キャビティ37から第1キャビティ36に向かう方向のみに流れ、その逆方向には流れない。伸展側バルブ43および屈曲側バルブ45は、制御部50によって開度が個別に制御される。各バルブの開度は全開(開度最高)と全閉(開度最低)の間で任意の値を取りうる。各バルブの全閉時は油の流れが遮断されて油圧抵抗が最大となる。また、各バルブの開度が全開に向けて高くなるにつれて、各バルブ内で油の流通可能な断面積が大きくなるため、油圧抵抗が減少する。
【0031】
図5(a)は、膝継手20の屈曲動作時の油の流れを示す。屈曲はシリンダ長が小さくなる縮小工程であり、ピストンロッド34が図5の左方に縮退し、ピストン35が引込側に移動する。ピストン35の移動によって第2キャビティ37から押し出される油は、伸展側逆止弁44を有する伸展側油圧回路41を流通できないため、屈曲側油圧回路42を流通して第1キャビティ36に流入する。この時、屈曲側バルブ45の開度を低くすれば、油が屈曲側油圧回路42を流れにくくすることができるため、膝継手20の屈曲動作を制限できる。このように、制御部50は屈曲側バルブ45の開度を制御することで、膝継手20の屈曲動作時の膝軸23の回転抵抗を制御する本発明の回転抵抗制御部を構成する。
【0032】
図5(b)は、膝継手20の伸展動作時の油の流れを示す。伸展はシリンダ長が大きくなる伸長工程であり、ピストンロッド34が図5の右方に伸長し、ピストン35が押出側に移動する。ピストン35の移動によって第1キャビティ36から押し出される油は、屈曲側逆止弁46を有する屈曲側油圧回路42を流通できないため、伸展側油圧回路41を流通して第2キャビティ37に流入する。この時、伸展側バルブ43の開度を低くすれば、油が伸展側油圧回路41を流れにくくすることができるため、膝継手20の伸展動作を制限できる。このように、制御部50は伸展側バルブ43の開度を制御することで、膝継手20の伸展動作時の膝軸23の回転抵抗を制御する本発明の回転抵抗制御部を構成する。
【0033】
図2に戻り、義足10に設けられる各種のセンサについて補足する。
【0034】
膝角度センサ60はピストンロッド34の伸縮位置を測定する。例えば、ピストンロッド34に取り付けられた磁石の位置を、シリンダチューブ33内に設けられた磁気センサで測定する。ピストンロッド34の伸縮位置と膝継手20の膝角度または膝軸23の回転角度は一対一に対応しているため、膝角度センサ60は検出したピストンロッド34の伸縮位置を膝継手20の膝角度に変換できる。なお、ピストンロッド34の伸縮位置を膝継手20の膝角度に変換する演算は制御部50で行ってもよい。この場合の膝角度センサ60は、ピストンロッド34の伸縮位置を測定して制御部50に提供する。
【0035】
慣性センサ75は測定した各軸の速度および/または加速度に基づいて下腿部21の姿勢や運動を検知する。例えば、慣性センサ75が測定した速度/加速度の変化から義足10の装着者の歩行フェーズを認識でき、また慣性センサ75の測定値を積分することで歩行中の下腿部21の位置を追跡できるため、一歩当たりの変位量である歩幅や一歩当たりの歩行速度を求めることができる。なお、慣性センサ75の測定値を積分して位置を求める等の演算は制御部50が行う。
【0036】
荷重センサ70は、例えばひずみセンサにより構成され、下腿部21と足部12の間の足首部に設けられる。足首部に加わる荷重によってひずみセンサを構成する物体にひずみが生じるため、それを検出することで荷重を測定できる。このような荷重センサを大腿接続部22に設ければ膝関節に加わる荷重も測定できる。なお、ひずみセンサが検出したひずみを荷重に変換する演算は制御部50で行ってもよい。この場合の荷重センサ70は、検出したひずみを制御部50に提供する。また、制御部50は、荷重センサ70が測定した荷重の大きさや方向の変化から義足10の装着者の歩行フェーズを認識できるため、歩幅や歩行速度を演算によって求めることができる。また、荷重センサ70が測定した荷重の位置、大きさ、方向から膝継手20にかかるモーメントの情報も得られる。
【0037】
温度センサ80は、シリンダ30の温度またはシリンダ30内の油の温度を測定し、例えば、油圧抵抗による発熱でシリンダ30が高温になったことを検知して、膝継手20の動作を制限する高温モードに移行させる。また、油の物性によって温度変化に応じて油圧抵抗が変化するため、制御部50は温度センサ80の測定温度に応じて制御機構40を制御して所望の油圧抵抗を実現できる。具体的には、油圧抵抗の各値を実現するための制御機構40への制御データセットを温度毎に作成して制御部50に格納する。制御部50は温度センサ80の測定温度に対応する制御データセットを選択して制御に用いる。
【0038】
図6は、膝継手20の屈曲制御を担う機能ブロックを模式的に示す。この図では義足10の構成要素のうち膝継手20の屈曲制御に関わる構成要素のみを示す。また、図示される構成要素はソケット11を除いて膝継手20に設けられ、回転抵抗制御部100等の情報処理を担う構成要素は制御部50に実装される。
【0039】
傾斜角度取得部110は、大腿部としてのソケット11が膝軸23を通る鉛直線に対してなす傾斜角度であるもも角度Ψを常時または所定の時間間隔で取得するもも角度演算部111と、下腿部21が膝軸23を通る鉛直線に対してなす傾斜角度であるすね角度Φを常時または所定の時間間隔で取得するすね角度センサとしての慣性センサ75を備える。前述の通り、膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φは「θ+Φ=Ψ」の関係式を満たすため、もも角度演算部111は、膝角度センサ60で測定された膝角度θおよび慣性センサ75で測定されたすね角度Φに基づいて、もも角度Ψ=θ+Φを演算できる。
【0040】
角速度取得部120は、もも角度Ψの角速度を取得するもも角速度取得部121(大腿部傾斜角速度取得部)と、すね角度Φの角速度を取得するすね角速度取得部122を備える。具体的には、もも角速度取得部121はもも角度演算部111で演算されたもも角度Ψを時間微分してもも角速度を求め、すね角速度取得部122は慣性センサ75で測定されたすね角度Φを時間微分してすね角速度を求める。なお、すね角度センサとしての慣性センサ75がすね角速度を直接的に測定できる場合は、慣性センサ75自体がすね角速度取得部122を構成する。また、すね角速度取得部122で取得されたすね角速度と、膝角度センサ60で測定された膝角度θを時間微分して求められる膝角速度に基づいてもも角速度を演算してもよい。
【0041】
回転抵抗制御部100は、屈曲側バルブ45の開度を制御することで、膝継手20の屈曲動作時の膝軸23の回転抵抗(以下、屈曲抵抗ともいう)を制御する。回転抵抗制御部100は、屈曲抵抗の制御に用いる各種の情報を取得するための構成要素として、遅延時間取得部101と、歩行態様検知部102と、荷重線取得部103と、前進量検知部104を備える。なお、回転抵抗制御部100は、これら全ての機能部を備える必要はなく、少なくとも一つの機能部を備えればよい。
【0042】
遅延時間取得部101は、回転抵抗制御部100による屈曲側バルブ45の制御結果が実際の屈曲抵抗に反映されるまでの遅延時間を取得する。遅延時間は、主に、回転抵抗制御部100の制御周期と、屈曲側バルブ45を所望の開度まで開閉するモータの駆動時間によって決まる。例えば、回転抵抗制御部100の制御周期が50ms、モータの駆動時間が50msの場合、合わせて100ms程度の遅延時間が生じる。後述するように、本実施形態では遅延時間も考慮して屈曲抵抗が制御される。
【0043】
歩行態様検知部102は、膝角度センサ60、慣性センサ75、もも角度演算部111、角速度取得部120等で検知できる義足10の各部の姿勢や運動に基づいて、義足10を装着した使用者の歩行態様を検知する。例えば、歩行態様検知部102は、義足10の装着者が図3に示される前方への通常の歩行を行っていることや、その間の各歩行フェーズ(A)~(G)を検知できる。また、歩行態様検知部102は、図3の通常の歩行態様とは異なる特定の歩行態様も検知できる。例えば、後ろ向きに歩行する後ろ歩きや、前後左右または上方への跳躍等の異常な歩行態様を検知できる。
【0044】
荷重線取得部103は、下腿部21にかかる荷重の方向を表す荷重線Lを取得する。図7図3と同様の歩行フェーズにおける荷重線Lを矢印またはベクトルで示す。荷重線Lの長さは荷重の大きさを表す。図7の歩行フェーズ(A)~(G)は図3の歩行フェーズ(A)~(G)に対応するが、図3では一つの歩行フェーズ(C)で示された立脚中・終期が図7では二つの歩行フェーズ(C1)立脚中期MStと(C2)立脚終期TStに分かれている。
【0045】
ここで、歩行フェーズ(C1)~(D)における荷重線Lと膝軸23の関係に着目すると、立脚中期(C1)では膝軸23(複数のリンクによって大腿接続部22と下腿部21が連結される膝継手20では仮想的かつ瞬間的な回転中心)が荷重線Lよりわずかに後方にあり、立脚終期(C2)では膝軸23が荷重線L上にあり、前遊脚期(D)では膝軸23が荷重線Lより前方にある。このように歩行フェーズ(C1)~(D)の遷移に合わせて膝軸23は荷重線Lの後方から前方に遷移する。なお、荷重線Lは、前述の歩行態様と同様に、慣性センサ75、もも角度演算部111、角速度取得部120等で検知できる義足10の各部の姿勢や運動に基づいて求められる。また、膝継手20に荷重センサ70が設けられる場合、荷重線Lは荷重センサ70で直接的に測定できる。
【0046】
前進量検知部104は、膝継手20を装着した使用者の前進量を検知する。図7の立脚終期(C2)および前遊脚期(D)に示すように、荷重線Lの水平方向または進行方向の成分Lxが前進量であり、荷重のうち義足10の装着者の前進に寄与する前進力を表す。具体的には後述するが、回転抵抗制御部100の屈曲抵抗の制御においては、前進量の変化ないし増減が分かれば十分であり、前進量ないし前進力を厳密に検知する必要はない。このため、前進量検知部104では、前進量と相関のあるデータを取得できれば十分である。
【0047】
このような前進量を示唆するデータとしては、例えば、もも角速度取得部121で取得されるもも角速度が挙げられる。図7の立脚終期(C2)および前遊脚期(D)で前進量が現われるのに対応して、図3の立脚中・終期(C)および前遊脚期(D)でもも角速度が負の値となっている。したがって、負のもも角速度は前進量を示唆する。
【0048】
前進量を示唆するデータは、接地検知部105や長さ取得部106からも得られる。接地検知部105は、膝継手20の接地を検知する。長さ取得部106は、大腿接続部22から下腿部21の下端までの膝継手20の長さを取得する。図7で前進量が現われる立脚終期(C2)および前遊脚期(D)では、膝継手20を装着した脚が接地しており、かつ、つま先と腰Wを結ぶ線が前傾している。したがって、接地検知部105が膝継手20の接地を検知した際に、腰Wが鉛直線に対して前傾角αが増加していれば前進量が存在すると言える。
【0049】
膝継手20が荷重検知部としての荷重センサ70を備える場合、接地検知部105は荷重センサ70で測定された荷重から膝継手20の接地を直接的に検知できる。ただし、荷重センサ70が検知する鉛直上方の荷重だけでは、通常歩行と後ろ歩きを区別できない可能性がある。この場合、慣性センサ75から演算できるもも角度Ψによって両者を区別できる。すなわち、図3に示されるような通常歩行の場合は義足10が接地する歩行フェーズ(G)から(A)にかけてもも角度Ψは大きな正の値を維持するのに対し、後ろ歩きの場合は義足10が接地する歩行フェーズ(E)から(D)にかけてもも角度Ψは正の値から負の値に遷移するので、両者を区別できる。後ろ歩きが検知された場合、膝軸23の回転抵抗を弱める制御を行わないようにする。
【0050】
一方、膝継手20が荷重センサ70を備えない場合、荷重検知部として機能する慣性センサ75や膝角度センサ60の測定データから検知できる義足10の各部(足部12、下腿部21、膝軸23、大腿接続部22、ソケット11等)の姿勢と、長さ取得部106で取得される膝継手20の長さに基づく幾何学的な演算によって、接地検知部105は足部12が地面に接触しているか否かを検知できる。また、腰Wの前傾角αは、すね角度Φ、膝角度θ、もも角度Φ、長さ取得部106で取得される膝継手20の長さ等から近似的に演算できる。荷重を検知していなかった慣性センサ75が鉛直上方の急激な加速度を検知した場合、足部12が下方に移動中に地面に当たって止められたと推定できるため、それ以前は膝継手20が接地していなかったと判断できる。この場合、もも角度Ψが正の値から負の値に遷移した時に後ろ歩きと判断して、膝軸23の回転抵抗を弱める制御を行わないようにする。あるいは、既に弱めた後であれば、膝軸23の回転抵抗を強める制御を行うようにする。
【0051】
続いて、回転抵抗制御部100による膝継手20の具体的な屈曲制御を説明する。図3に関して前述したように、立脚相(A)~(C)では装着者の体重で膝継手20が屈曲しないように、回転抵抗制御部100は屈曲側バルブ45の開度を低くして屈曲抵抗を強め、膝軸23周りの回転を制限することで膝角度θを略零に維持する。前遊脚期(D)では、続く遊脚相(E)~(G)への準備として膝継手20が屈曲を始められるように、回転抵抗制御部100は屈曲側バルブ45の開度を徐々に高くして屈曲抵抗を徐々に弱め、膝軸23周りの回転を許容することで膝角度θが正の値になる。遊脚相(E)~(G)では、地面を離れて振り出される義足10が地面に接触しないように、回転抵抗制御部100は屈曲側バルブ45の開度を高く維持して、屈曲抵抗が弱く膝継手20が屈曲しやすい状態を維持する。
【0052】
義足10の装着者の円滑な歩行を実現する上では、立脚中・終期(C)または前遊脚期(D)において、屈曲側バルブ45の開度を低い状態から高い状態に遷移させ、屈曲抵抗を強い状態から弱い状態に遷移させるタイミングが特に重要である。屈曲抵抗を弱めるタイミングが早すぎると、義足10の装着者が急停止等の不規則な動作をした際に、屈曲抵抗が弱い状態に遷移した膝継手20が意図せず屈曲してしまう「膝折れ」が発生する可能性が高まる。一方、屈曲抵抗を弱めるタイミングが遅すぎると、遊脚初期(E)になっても屈曲抵抗が強い状態のままで膝継手20が屈曲できず、伸展したまま振り出される義足10が地面に接触する可能性が高まる。
【0053】
そこで、本実施形態では立脚中・終期(C)または前遊脚期(D)において屈曲抵抗を弱めるタイミングを以下に列挙する各種の基準によって決定する。いずれの基準も単独で上記の問題の解決に寄与するが、これらの基準を適宜組み合わせることで屈曲抵抗を弱めるタイミングを最適化できる。
【0054】
第1の基準では、もも角度演算部111で演算されるもも角度Ψの正から負への遷移に応じて、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める。図3に示されるように、もも角度Ψは荷重応答期(B)から立脚中・終期(C)にかけて正から負へ遷移するため、これに合わせて屈曲抵抗が弱められる膝継手20は円滑に遊脚相(D)~(G)に移行できる。回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める制御を開始するタイミング、換言すれば、屈曲側バルブ45の開度を高める制御を開始するタイミングは、正から負へ減少中のもも角度Ψが0度になった時点でもよいし、もも角度Ψが負の閾値を下回った時点でもよいし、もも角度Ψが減少を開始した時点でもよいし、もも角度Ψが減少を開始してから所定時間経過後でもよいし、もも角度Ψが減少を開始してからの減少量が所定量以上になった時点でもよいし、もも角速度取得部121で取得されるもも角度Ψの減少速度が所定値以上になった時点でもよい。
【0055】
ここで、回転抵抗制御部100は、遅延時間取得部101で取得される遅延時間も考慮して膝軸23の屈曲抵抗を弱める制御を開始するタイミングを決定する。すなわち、回転抵抗制御部100は、もも角速度取得部121で取得されるもも角度Ψの角速度が負の場合、遅延時間取得部101で取得される遅延時間の間にもも角度Ψが閾値を下回らないように、もも角度Ψが閾値より大きい間に膝軸23の回転抵抗を弱める制御を開始する。例えば、前述のように、回転抵抗制御部100の制御周期を50ms、屈曲側バルブ45を開閉するモータの駆動時間を50msとすれば、最大で100msの遅延時間が生じる。この時、もも角度Ψが+5度、もも角速度が-0.05度/msの場合、100msの遅延時間の間にもも角度Ψが0度または負になってしまう可能性が高い(0.05度/ms×100ms=5度)。そこで、回転抵抗制御部100はもも角度Ψが正(+5度)であっても、負のもも角速度(-0.05度/ms)と遅延時間(100ms)から遅延時間中にもも角度Ψが0度または負になってしまう可能性を認識した際は、先んじて屈曲抵抗を弱める制御を開始する。
【0056】
第2の基準では、荷重線取得部103で取得された荷重線Lの後方から前方に膝軸23が遷移する前に、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める。図7に示されるように、膝軸23は立脚中期(C1)から前遊脚期(D)にかけて荷重線Lの後方から前方に遷移するため、これに合わせて屈曲抵抗が弱められる膝継手20は円滑に前遊脚期(D)および遊脚相(E)~(G)に移行できる。なお、膝軸23が荷重線Lの後方にある場合(例えば立脚中期(C1))、荷重の大きさによらず膝継手20は屈曲しない。一方、膝軸23が荷重線Lの前方にある場合(例えば前遊脚期(D))、荷重が屈曲抵抗より大きければ膝継手20が屈曲する。このように、膝軸23が荷重線Lの前方に来た際に円滑に屈曲できるように、第2の基準では膝軸23が荷重線Lの後方から前方に遷移する前に屈曲抵抗が予め弱められる。
【0057】
回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める制御を開始するタイミング、換言すれば、屈曲側バルブ45の開度を高める制御を開始するタイミングは、後方から前方へ移動中の膝軸23が荷重線L上に来る直前でもよいし、歩行フェーズ(C1)~(D)において膝軸23が荷重線Lに対して前方に相対移動を開始した時点でもよいし、膝軸23が荷重線Lに対して前方に相対移動を開始してから所定時間経過後でもよいし、膝軸23が荷重線Lに対して前方に相対移動を開始してからの相対移動量が所定量以上になった時点でもよいし、膝軸23の荷重線Lに対する前方への相対速度が所定値以上になった時点でもよい。ただし、義足10の装着者が不意にバランスを崩してしまう可能性を考慮すると、膝軸23が荷重線Lの前方にくる直前が望ましい。なお、第1の基準と同様に、回転抵抗制御部100は、遅延時間取得部101で取得される遅延時間も考慮して膝軸23の屈曲抵抗を弱める制御を開始するタイミングを決定してもよい。
【0058】
第3の基準では、第1または第2の基準を満たす場合に、角速度取得部120が取得したもも角度Ψおよび/またはすね角度Φの角速度が負である状態が所定時間継続していれば、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める。図3に示されるように、もも角度Ψおよびすね角度Φは荷重応答期(B)から前遊脚期(D)にかけて減少して負の角速度を持つ。
【0059】
このように、もも角度Ψおよび/またはすね角度Φが所定時間継続して負の角速度を持つ場合、図3に示されるような前方への通常の歩行が行われている可能性が高いため、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めることが許容される。逆に、もも角度Ψまたはすね角度Φが所定時間継続して負の角速度を持たない場合、図3の通常の歩行態様とは異なる後ろ歩きや跳躍等の異常な歩行が行われている可能性があり、膝軸23の屈曲抵抗を弱めると膝折れによる転倒の恐れがあるため、回転抵抗制御部100は屈曲側バルブ45の開度を低くして屈曲抵抗を強めることで義足10の装着者の安全を確保する。
【0060】
第4の基準では、第1または第2の基準を満たす場合に、傾斜角度取得部110が所定の時間間隔で取得したもも角度Ψおよび/またはすね角度Φが所定回数連続して減少していれば、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める。「もも角度Ψおよび/またはすね角度Φが所定回数連続して減少する」という条件を有する第4の基準は、「もも角度Ψおよび/またはすね角度Φの角速度が負である状態が所定時間継続する」という条件を有する第3の基準と同等である。
【0061】
第5の基準では、上記の各基準を満たす場合に、膝角度センサ60で測定される膝角度θが所定値以下であれば、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める。図3に示されるように、平地での通常歩行では屈曲抵抗を弱めるべき立脚中・終期(C)では膝角度θが略零である。このように屈曲抵抗を弱めるタイミングでの膝角度θが所定値以下であれば、平地での通常歩行の可能性が高いため、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めることが許容される。
【0062】
逆に、屈曲抵抗を弱めるタイミングでの膝角度θが所定値より大きい場合、膝継手20を屈曲させながら坂道等を歩行中の可能性があり、膝軸23の屈曲抵抗を弱めると膝折れによる転倒の恐れがあるため、回転抵抗制御部100は屈曲側バルブ45の開度を低くして屈曲抵抗を強めることで義足10の装着者の安全を確保する。なお、膝角度θが所定値以下であることに加えてまたは代えて、膝角度θの角速度が所定値以下であることを条件としてもよい。平地での通常歩行では立脚相(A)~(C)で膝角度θの角速度が略零であるのに対し、坂道等での歩行では立脚相(A)~(C)でも膝角度θが変動して所定値より大きい角速度を持つため、両者を効果的に区別できる。
【0063】
第6の基準では、歩行態様検知部102で検知された歩行態様が特定の歩行態様である場合、上記の各基準を満たしていたとしても回転抵抗制御部100は膝軸23の屈曲抵抗を弱める制御を行わない。具体的には、図3図7の通常の歩行態様とは異なる後ろ歩きや跳躍等の異常な歩行態様が検知された場合、膝軸23の屈曲抵抗を弱めると膝折れによる転倒の恐れがあるため、回転抵抗制御部100は屈曲側バルブ45の開度を低くして屈曲抵抗を強めることで義足10の装着者の安全を確保する。
【0064】
第7の基準では、前進量検知部104で検知された前進量が所定の前進量閾値以上の状態から当該前進量閾値未満の状態に遷移した場合、屈曲抵抗を弱めるための上記の各基準を満たしていたとしても、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を強める。例えば、図7の立脚終期(C2)において義足10の装着者が急に失速して前進力Lxが喪失した場合、鉛直方向の荷重のみが残るため荷重線Lが膝軸23の後方に移動する。この時、膝軸23の屈曲抵抗が弱められたままだと鉛直荷重によって膝継手20が膝折れしてしまい転倒を招く恐れがある。そこで、回転抵抗制御部100は屈曲側バルブ45の開度を低くして屈曲抵抗を強めることで義足10の装着者の安全を確保する。
【0065】
前進量閾値は任意の値に設定可能であるが、膝継手20を装着した使用者の過去の歩行時の前進量のデータに基づいて設定するのが好ましい。具体的には、図7の立脚終期(C2)や前遊脚期(D)で現われる前進量Lxまたはそれを示唆するデータを条件の異なる複数回の歩行で測定し、それらより有意に小さい任意の値に前進量閾値を設定する。なお、回転抵抗制御部100は、前進量検知部104で検知された前進量の減少量(喪失量)が所定の減少量閾値を超えた場合や、前進量検知部104で検知された前進量の減少速度(喪失速度)が所定の減少速度閾値を超えた場合に、膝軸23の屈曲抵抗を強めてもよい。
【0066】
第8の基準では、前進量検知部104で検知された前進量が所定の前進量閾値以上の場合、上記の各基準に従って回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める制御を可能にする。すなわち、所定量以上の前進量Lxが検知されている場合、図7に示されるような前方への通常の歩行が行われている可能性が高いため、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めることが許容される。
【0067】
第9の基準では、前進量検知部104で検知された前進量が前進量閾値以上である状態が所定時間継続した場合、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱める制御を可能にする。第8の基準と同様の趣旨であるが、所定量以上の前進量Lxが検知されている状態が所定時間継続することを条件とすることによって、前方への通常の歩行が行われている確度を高めることができる。
【0068】
図8は、膝継手20の調整支援装置200の機能ブロック図である。図6と対応する構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。調整支援装置200は、歩行情報取得部210と、制御タイミング判断部220と、出力部230を備え、膝継手20の制御部50に実装される。
【0069】
歩行情報取得部210は、膝継手20の使用者の歩行状態を表す歩行情報を取得する。歩行情報としては、膝角度センサ60、慣性センサ75、もも角度演算部111、角速度取得部120等が取得したデータそのもの、これらのデータから検知できる義足10の各部の姿勢や運動(速度および加速度)、これらに基づいて検知できる歩行態様(図6の歩行態様検知部102の説明を参照)、荷重線(図6の荷重線取得部103の説明を参照)、前進量(図6の前進量検知部104の説明を参照)が例示される。これらの歩行情報は、膝継手20の調整のために当該膝継手20を装着した使用者が行う試験歩行時に取得してもよいし、調整後の膝継手20を装着した使用者が行う通常歩行時に取得してもよい。
【0070】
制御タイミング判断部220は、歩行情報取得部210で取得された歩行情報に基づいて、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングを判断する。具体的には、制御タイミング判断部220は図6に関して説明した第1~9の基準によって屈曲抵抗を弱めるタイミングを判断する。例えば、制御タイミング判断部220は、第1の基準に対応して、もも角度演算部111で演算されるもも角度Ψが正から負へ遷移するタイミングを、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングとして判断してもよい。また、もも角度Ψが正から負へ減少する際に、義肢装具士等の調整者によって設定された閾値にもも角度Ψが到達したタイミングを、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングとして判断してもよい。この閾値は調整者が任意に設定できるが、例えば、-3度と-8度の間とするのが好ましい。閾値は0度としてもよいが、もも角度Ψが0度の直立時に膝継手20の装着者の意図に反して膝折れしてしまう可能性があるため、通常の直立時には取り得ない負のもも角度Ψを閾値とするのが好ましい。なお、例えば義肢装具士が-4度と設定していても、もも角速度が-0.05deg/msの場合には、100msの制御遅れを考慮して、+1度のときに膝軸23の屈曲抵抗を弱めてもよい。
【0071】
また、制御タイミング判断部220は、もも角速度取得部121で取得されるもも角度Ψの負の角速度の絶対値が所定値を超えるタイミングを、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングとして判断してもよい。また、制御タイミング判断部220は、膝継手20の装着者の進行方向の加速度が所定の加速度閾値を超えるタイミングを、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングとして判断してもよい。また、制御タイミング判断部220は、第2の基準に対応して、膝軸23が荷重線の後方から前方に遷移するタイミングを、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングとして判断してもよい。また、制御タイミング判断部220は、第8の基準に対応して、前進量が所定の前進量閾値を超えるタイミングを、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングとして判断してもよい。
【0072】
制御タイミング判断部220は、基準タイミング取得部221で取得された膝継手20の調整者によって設定された基準タイミングに基づいて、回転抵抗制御部100が膝軸23の屈曲抵抗を弱めるタイミングを判断してもよい。具体的には、制御タイミング判断部220は、義肢装具士等の調整者によって基準タイミングが設定された際に記録された歩行情報と、歩行情報取得部210でリアルタイムに取得された現在の歩行情報を比較し、その乖離に応じた変分を基準タイミングに加えて屈曲抵抗を弱めるタイミングとする。
【0073】
出力部230は、制御タイミング判断部220で判断されたタイミングを外部に出力する。義肢装具士等の調整者は、膝継手20を装着した使用者の実際の歩行情報に応じて出力されたタイミングを参照しながら、膝継手20を使用者毎に効率的に調整できる。
【0074】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0075】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0076】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0077】
10 義足、11 ソケット、20 膝継手、21 下腿部、22 大腿接続部、23 膝軸、30 シリンダ、34 ピストンロッド、35 ピストン、40 制御機構、43 伸展側バルブ、45 屈曲側バルブ、50 制御部、60 膝角度センサ、75 慣性センサ、100 回転抵抗制御部、101 遅延時間取得部、102 歩行態様検知部、103 荷重線取得部、104 前進量検知部、105 接地検知部、106 長さ取得部、110 傾斜角度取得部、111 もも角度演算部、120 角速度取得部、121 もも角速度取得部、122 すね角速度取得部、200 調整支援装置、210 歩行情報取得部、220 制御タイミング判断部、221 基準タイミング取得部、230 出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8