(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190389
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】切断装置および切断方法
(51)【国際特許分類】
B26D 1/09 20060101AFI20221219BHJP
B26D 7/08 20060101ALI20221219BHJP
B26D 3/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B26D1/09
B26D7/08 D
B26D3/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098689
(22)【出願日】2021-06-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和3年5月27日にダウンロード可能となった2021年度塑性加工春季講演会WEB講演会の講演論文集(606) ・2021年度塑性加工春季講演会WEB講演会における令和3年6月4日の講演資料
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立野 大地
(72)【発明者】
【氏名】横井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 基宏
(57)【要約】
【課題】炭素繊維強化プラスチック等、繊維を含有する樹脂材料をせん断によって切断するに際し、高い加工効率をもって、平滑な切断端面を得ることができる切断装置および切断方法を提供する。
【解決手段】被切断材Wの下面W3側に配置される下刃20と、上面W2側に、下刃20に対向して配置される板押さえ40と、上面W2側に、板押さえ40に隣接して配置され、上面W2側から下面W3側に向かう移動方向に沿って移動する上刃10と、を有し、上刃10は、移動方向に沿って前方に配置された第一の刃11と、移動方向に沿って後方に配置された第二の刃12と、を連続して有し、第一の刃11は、被切断材Wをせん断切断することができ、第二の刃12は、第一の刃11よりも板押さえ40側にせり出して設けられ、被切断材Wの端面の組織を削り取ることができる切断装置1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含有する樹脂材料よりなる被切断材を切断する切断装置であって、
前記被切断材の一方面である下面側に配置される下刃と、
前記被切断材の他方面である上面側に、前記下刃に対向して配置される板押さえと、
前記被切断材の上面側に、前記板押さえに隣接して配置され、前記上面側から前記下面側に向かう移動方向に沿って移動する上刃と、を有し、
前記上刃は、前記移動方向に沿って前方に配置された第一の刃と、前記移動方向に沿って後方に配置された第二の刃と、を連続して有し、
前記第一の刃は、前記被切断材をせん断切断することができ、
前記第二の刃は、前記第一の刃よりも前記板押さえ側にせり出して設けられ、前記被切断材の端面の組織を削り取ることができる、切断装置。
【請求項2】
前記切断装置は、前記被切断材の前記下面側に、前記上刃に対向して配置された逆押さえ刃をさらに有する、請求項1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記逆押さえ刃は、上下方向に運動可能となっている、請求項2に記載の切断装置。
【請求項4】
前記逆押さえ刃は、ダイクッションに取り付けられている、請求項3に記載の切断装置。
【請求項5】
前記第一の刃の刃先が鋭角をなしている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項6】
繊維を含有する板状の樹脂材料よりなる被切断材を切断するに際し、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の切断装置を用い、
前記下刃と前記板押さえの間に前記被切断材を挟んで固定した状態で、前記被切断材の上面側から前記下面側に向かって前記上刃を移動させ、
前記第一の刃で前記被切断材をせん断切断する第一の工程と、
前記第一の工程で得られた前記被切断材の端面の組織を、前記第二の刃で削り取る第二の工程と、を連続して実施する、切断方法。
【請求項7】
前記被切断材は、炭素繊維強化プラスチックである、請求項6に記載の切断方法。
【請求項8】
前記切断装置は、前記被切断材の前記下面側に、前記上刃に対向して配置された逆押さえ刃をさらに有し、前記逆押さえ刃は、上下方向に運動可能となっており、
前記第一の工程は、前記逆押さえ刃を上昇させた状態で実施し、
前記第二の工程は、前記第一の工程よりも前記逆押さえ刃を下降させた状態で実施する、請求項6または請求項7に記載の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断装置および切断方法に関し、さらに詳しくは、繊維を含む被切断材の切断に用いることができる切断装置および切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量で高強度の材料として、自動車等の分野において、構造材として用いられるようになっている。CFRPは、その高強度のために、加工が困難であり、切断や穴あけ等の加工は、アブレシブウォータージェット加工、レーザー加工、旋削加工等によって行われている。しかし、これらの加工手段はいずれも、点状の領域に対して加工を行うものであり、所定の部材形状への切断等、広い領域にわたって加工を行う場合には、加工手段との位置関係を変えながら、加工を施す必要がある。よって、加工に要する時間が長くなり、加工効率に優れているとは言えない。
【0003】
そこで、CFRP材の加工に際し、加工効率を高めるために、せん断切断を利用することが検討されている。せん断切断であれば、線状の領域を一度に加工することができるため、加工に要する時間を短く抑えることができる。CFRP材をせん断切断するための装置および方法が、例えば下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CFRP材に対して、せん断切断を行う場合に、せん断切断によって得られた端面において、炭素繊維に由来する毛羽立ちや凹凸構造が形成され、平滑な端面が得られにくい。端面の平滑性を高めることは、製造される部材の寸法精度等の観点から、重要である。せん断切断によって得られたCFRP材の端面に対して、事後的に、毛羽立ちや凹凸構造を除去するための処理を施し、平滑な端面を得ることも考えられるが、その場合には、その処理工程に時間と労力を要するものとなり、せん断切断の適用による加工効率向上の効果が、十分に発揮されなくなる。同様の問題は、CFRP材以外にも、繊維を含む樹脂材料に対してせん断切断を行う際に、発生しうる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、炭素繊維強化プラスチック等、繊維を含有する樹脂材料をせん断によって切断するに際し、高い加工効率をもって、平滑な切断端面を得ることができる切断装置および切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明にかかる切断装置は、繊維を含有する樹脂材料よりなる被切断材を切断する切断装置であって、前記被切断材の一方面である下面側に配置される下刃と、前記被切断材の他方面である上面側に、前記下刃に対向して配置される板押さえと、前記被切断材の上面側に、前記板押さえに隣接して配置され、前記上面側から前記下面側に向かう移動方向に沿って移動する上刃と、を有し、前記上刃は、前記移動方向に沿って前方に配置された第一の刃と、前記移動方向に沿って後方に配置された第二の刃と、を連続して有し、前記第一の刃は、前記被切断材をせん断切断することができ、前記第二の刃は、前記第一の刃よりも前記板押さえ側にせり出して設けられ、前記被切断材の端面の組織を削り取ることができる。
【0008】
ここで、前記切断装置は、前記被切断材の前記下面側に、前記上刃に対向して配置された逆押さえ刃をさらに有するとよい。この場合に、前記逆押さえ刃は、上下方向に運動可能となっているとよい。さらに、前記逆押さえ刃は、ダイクッションに取り付けられているとよい。また、前記第一の刃の刃先が鋭角をなしているとよい。
【0009】
本発明にかかる切断方法は、繊維を含有する板状の樹脂材料よりなる被切断材を切断するに際し、上記の切断装置を用い、前記下刃と前記板押さえの間に前記被切断材を挟んで固定した状態で、前記被切断材の上面側から前記下面側に向かって前記上刃を移動させ、前記第一の刃で前記被切断材をせん断切断する第一の工程と、前記第一の工程で得られた前記被切断材の端面の組織を、前記第二の刃で削り取る第二の工程と、を連続して実施する。
【0010】
ここで、前記被切断材は、炭素繊維強化プラスチックであるとよい。また、前記切断装置は、前記被切断材の前記下面側に、前記上刃に対向して配置された逆押さえ刃をさらに有し、前記逆押さえ刃は、上下方向に運動可能となっており、前記第一の工程は、前記逆押さえ刃を上昇させた状態で実施し、前記第二の工程は、前記第一の工程よりも前記逆押さえ刃を下降させた状態で実施するとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる切断装置は、第一の刃と第二の刃を連続して有する上刃を備えている。上刃を被切断材に対して、上面側から下面側に移動させた際に、最初に、第一の刃によって、被切断材がせん断切断される。その状態では、せん断切断によって得られた端面に、被切断材の繊維が突出している可能性や、凹凸等の不規則構造が形成されている可能性があるが、さらに上刃を下降させることで、続いて、第一の刃よりも板押さえ側の位置に設けられた第二の刃が、それらの組織を削り取ることになる。このように、単一の上刃によって、第一の刃によるせん断切断と、第二の刃による組織の削り取りを、連続して実施することができ、繊維の存在に起因する毛羽立ちや凹凸構造の形成が抑えられた平滑な切断端面を、高い加工効率をもって得ることができる。
【0012】
ここで、切断装置が、被切断材の下面側に、上刃に対向して配置された逆押さえ刃をさらに有する場合には、下刃と板押さえで被切断材を保持している箇所の外側に、上刃の第一の刃による切断端面が形成され、第二の刃によって削り取ることができる組織が、被切断材の端部に確実に残りやすくなる。よって、第一の刃によるせん断切断と第二の刃による削り取りを経て、平滑性の高い切断端面を、所望の位置に形成しやすくなる。
【0013】
この場合に、逆押さえ刃が、上下方向に運動可能となっていれば、第一の刃によって被切断材をせん断切断する間は、逆押さえ刃を上昇させておくことで、逆押さえ刃から被切断材に上向きの荷重を印加し、下刃と板押さえで被切断材を保持している箇所の外側に、上刃の第一の刃による切断端面を確実に形成しやすくなる。一方、第二の刃によって被切断材の端面の組織を削り取る間は、逆押さえ刃を下降させておくことで、逆押さえ刃と上刃の間の衝突を防ぐことができる。この際、逆押さえ刃が、ダイクッションに取り付けられていれば、一般的な金型プレス装置に備えられるダイクッションを利用して、逆押さえ刃の上下運動を簡便に実現することができる。
【0014】
また、第一の刃の刃先が鋭角をなしている場合には、第一の刃によって、所望の位置に、被切断材のせん断を起こしやすくなり、平滑性の高い切断端面が得られやすい。
【0015】
本発明にかかる切断方法においては、第一の刃と第二の刃が連続して設けられた上刃を有する上記の切断装置を用いて、第一の刃による被切断材のせん断切断と、第二の刃による端面の組織の削り取りを、一度の工程で実施することができる。よって、被切断材に含まれる繊維に起因する毛羽立ちや凹凸構造の少ない平滑な切断端面を、高い加工効率をもって得ることができる。
【0016】
ここで、被切断材が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である場合には、高い材料強度を有するCFRP材において、切断端面の平滑性を確保しながら、切断加工を行うことができる。CFRP材の加工には、アブレシブウォータージェット加工等、点状の領域を加工する方法が主に用いられているが、本発明の切断方法を用いれば、せん断切断によって線状の領域を一度に加工することができ、かつ端面の平滑化のための処理を別途行う必要がないことから、CFRP材の切断における加工効率を、大幅に向上させることができる。
【0017】
また、切断装置が、被切断材の下面側に、上刃に対向して配置された逆押さえ刃をさらに有し、逆押さえ刃が、上下方向に運動可能となっており、第一の工程を、逆押さえ刃を上昇させた状態で実施し、第二の工程を、第一の工程よりも逆押さえ刃を下降させた状態で実施する場合には、逆押さえ刃から被切断材に上向きの荷重を印加しながら、第一の工程におけるせん断切断を実施することで、下刃と板押さえで被切断材を保持している箇所の外側の位置に、上刃の第一の刃による切断端面を形成しやすくなる。すると、第二の刃によって削り取ることができる組織が被切断材の端部に確実に残されることになり、第二の工程を経て最終的に得られる端面に、第一の工程で形成される平滑性の低い組織が残りにくくなる。一方、第二の工程を実施する際には、逆押さえ刃を下降させておくことで、逆押さえ刃と上刃の間の衝突を避けながら、被切断材の端面における組織の削り取りを行うことができる。これらの結果として、第一の工程と第二の工程を経て、平滑な切断端面を効率的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる切断装置の構成を示す側面図である。
【
図2】上記切断装置によって、被切断材を切断している状態を示す側面図である。(a)は第一の刃によってせん断切断を行っている状態を示し、(b)は第二の刃によって削り取りを行っている状態を示している。
【
図3】切断装置によってCFRP材を切断する過程を撮影した撮影像であり、(a)から(h)へと、切断が進行している。
【
図4】CFRP材の切断端面を示す写真であり、平滑度1(左側)から平滑度5(右側)へと、端面の平滑性が向上している。上段の画像が、切断端面の全体外観を撮影した撮影像であり、下段の画像が、断面の拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態にかかる切断装置および切断方法について詳細に説明する。本実施形態にかかる切断装置は、繊維を含有する樹脂材料よりなる被切断材を切断するための装置であり、本実施形態にかかる切断方法は、そのような切断装置を用いて、被切断材を切断する方法である。
【0020】
被切断材の具体的な種類は、特に限定されるものではないが、以下では、好適な被切断材として、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いる場合を主に想定して説明する。CFRP材は、高強度と軽量性を両立する材料である。中でも、母材の樹脂として熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)を被切断材として好適に適用することができる。被切断材の形状は、特に限定されるものではないが、板状またはシート状である場合が好適である。板状またはシート状の被切断材の厚さは特に限定されるものではないが、1mm以上、5mm以下の範囲を好適に例示することができる。
【0021】
[切断装置]
図1に、本発明の一実施形態にかかる切断装置1について、金型近傍の構造を、側面図にて表示する。以下、上下左右の方向は、図中の方向に従って示すものとする。また、
図1では、部材の境界が分かりやすいように、各部材の間に隙間を設けて表示している。
【0022】
本実施形態にかかる切断装置1はプレス装置として構成されており、上刃10を備えた上型と、下刃20を備えた下型を含む金型によって、繊維W1を含有する被切断材Wを、上刃10および下刃20の形状によって定まる所定の形状に切断するものである。本実施形態にかかる切断装置1は、金属材料の切断に用いられてきた従来の金型プレス装置に、以下に説明する所定の形状の刃を備えた金型を取り付けることで、構築できる。
【0023】
本実施形態にかかる切断装置1は、被切断材Wの一方面である下面W3側に配置される下刃20と、他方面である上面W2側に配置される上刃10および板押さえ40を有している。さらに切断装置1は、任意ではあるが、下面W3側に、逆押さえ刃30を有している。
【0024】
板押さえ40は、被切断材Wを挟んで下刃20と対向する位置に、配置されている。下刃20と板押さえ40の間に被切断材Wを挟み込んで、被切断材Wを固定することができる。上刃10は、板押さえ40と隣接した位置に配置されている。図では、板押さえ40に対して右側に、上刃10が配置されている。被切断材Wを切断する際に、上刃10は、被切断材Wの上面W2側から下面W3側に向かう移動方向(上下方向)に沿って、移動可能となっている。
【0025】
逆押さえ刃30が設けられる場合には、被切断材Wを挟んで上刃10と対向する位置に、逆押さえ刃30が配置される。逆押さえ刃30は、ダイクッション(図略)に取り付けられている。ダイクッションは、従来一般の金型プレス装置にも、下型への荷重の印加等の目的で設けられるものであり、空気圧等により、上下動することができる。ダイクッションの運動により、逆押さえ刃30が上下動可能となっている。
【0026】
上刃10および下刃20はそれぞれ、上下方向に沿った端縁を含む箇所に、刃面を有している。被切断材Wを下刃20と板押さえ40の間に挟んだ状態で、上刃10を移動方向に沿って下方に運動させることで、被切断材Wを切断することができる。なお、図示した例では、下刃20と板押さえ40で被切断材Wを片持ち状に支持して被切断材Wの切断を行う形態を示しているが、所望される加工形状等に応じて、被切断材Wを相互に離れた複数の位置で支持し、それらの支持位置の間を打ち抜く形態としてもよい。
【0027】
上刃10は、第一の刃11と、第二の刃12の2つの領域を有している。第一の刃11は、上刃10の移動方向に沿って前方(下方)に設けられ、第二の刃12は、上刃10の移動方向に沿って後方(上方)に設けられている。上刃10と下刃20は、上下方向に沿って相互に連続しており、一体の部材として、上刃10を構成している。
【0028】
第一の刃11は、上刃10の先端部に設けられており、上刃10を下降させた際に、被切断材Wにせん断力を印加することにより、被切断材Wをせん断切断することができる。第二の刃12は、第一の刃11の上方に連続して設けられているが、上刃10の上下方向に沿った端縁は、第一の刃11から第二の刃12にわたって直線状になっているのではなく、第二の刃12が、第一の刃11よりも、板押さえ40側(図の左側)にせり出して設けられている。後に切断方法について詳しく説明するように、上刃10を下降させた際に、第一の刃11によるせん断切断によって得られた端面を含む被切断材Wの組織を、第二の刃12が削り取る。
【0029】
上刃10においては、第一の刃11の刃先の角度θ1が、鋭角であることが好ましい。さらに、逆押さえ刃30の先端部の角度θ3も、鋭角であることが好ましい。第一の刃11の刃先の角度θ1、および逆押さえ刃30の刃先の角度θ3はいずれも、20°以上、また70°以下であると、さらに好ましい。特に、それら刃先の角度θ1,θ3は、45°±5°程度であるとよい。なお、上刃10の第二の刃12の刃先の角度θ2および下刃20の刃先の角度θ4は、鋭角になっている必要はなく、直角に近似できるものとしておけばよい。
【0030】
上刃10において、各部の寸法は、被切断材Wの厚さや特性等に応じて、適宜設定すればよいが、上下方向に沿った第一の刃11の長さD1は、次に説明する切断方法の第一の工程によって、被切断材Wの厚み方向に沿ってほぼ全域をせん断切断できるように設定することが好ましい。加えて、第二の刃が被切断材Wに接触する前に逆押さえ刃30が逃げるのを避ける観点から、第一の刃11の長さD1は、被切断材Wの厚みよりも短くしておくことが好ましい。また、第一の刃11に対して第二の刃12が、板押さえ40側にせり出している距離(段差D2)は、第二の刃12の位置が逆押さえ刃30よりも外側になり、かつ上刃10の先端と逆押さえ刃30の先端を結ぶ線(
図1中の直線L1)が被切断材Wの厚み方向に対して45°以上傾斜しないように、また第一の工程を経て得られる被切断材Wの端面の組織を第二の刃12によって十分に削り取れるように設定すればよい。上記のように、被切断材Wが、厚さ1mm以上、5mm以下のCFRP材よりなる場合に、第一の刃11の長さD1として、0.5mm以上、また2.5mm以下の範囲を好適に例示することができる。また、第一の刃11と第二の刃12の間の段差D2として、0.2mm以上、また3.6mm以下、さらに好ましくは1mm以下の範囲を好適に例示することができる。
【0031】
[切断方法]
次に、本発明の一実施形態にかかる切断方法について説明する。ここでは、上記で説明した切断装置1を用いて、繊維W1を含有する樹脂材料よりなる被切断材Wを切断する。
【0032】
被切断材Wを切断するのに先立ち、切断装置1の下刃20と板押さえ40の間に、被切断材Wを挟み込んで保持する。上刃10は、被切断材Wの上面W2よりも上方に配置しておく。切断装置1が逆押さえ刃30を有する場合に、逆押さえ刃30は、被切断材Wの下面W3に先端を接触させた状態とされる。そして、逆押さえ刃30が取り付けられたダイクッションが、上昇した位置に保持され、逆押さえ刃30に上に向かう荷重Fを印加する。
【0033】
この状態から、上刃10を、上方から下方に向かって移動させる(運動M)。上刃10の下方への移動に伴い、
図2(a)に示す第一の工程と、
図2(b)に示す第二の工程が、この順に連続して実施される。
【0034】
図2(a)に示す第一の工程においては、上刃10のうち、下方に設けられた第一の刃11が、被切断材Wに食い込む。第一の刃11は、被切断材Wに対して、上面W2からせん断力を印加することにより、逆押さえ刃30との間で、被切断材Wをせん断切断する。ただし、被切断材Wは、樹脂材料の中に、繊維W1が包埋された構造を有するため、第一の工程におけるせん断切断によって得られる切断端面E1には、突出した繊維W1や、繊維W1を含む組織の不規則構造により、毛羽立ちや凹凸が形成され、端面E1の平滑性が低くなりやすい。特に、被切断材WがCFRP材よりなる場合には、炭素繊維が高い強度を有しており、せん断切断を受けにくいことにより、切断端面E1の平滑性の低さが顕著となる。
【0035】
そこで、被切断材Wの切断端縁の平滑性を高めるために、第一の工程に続いて、
図2(b)に示す第二の工程を実施する。切断装置1が逆押さえ刃30を有し、第一の工程を実施する間、ダイクッションにて逆押さえ刃30を上昇位置に保持していた場合には、ダイクッションの空気圧を抜く等して、第二の工程を実施する前に、逆押さえ刃30を下降させておくとよい。
【0036】
第二の工程は、上刃10のうち第二の刃12によって実施される。第一の工程の後、上刃10を下降させ続けると(運動M)、第一の工程において第一の刃11によるせん断切断によって形成された切断端面E1またはその近傍の組織が、第二の刃12に接触し、第二の工程を実施される。第二の工程においては、第一の工程で得られた切断端面E1を含む被切断材Wの組織W’を、第二の刃12が削り取る(シェービング)。第二の刃12が、第一の刃11よりも、板押さえ40側にせり出した位置に設けられていることにより、第一の工程を経て生じた平滑性の低い切断端面E1を含む被切断材Wの組織W’を、その切断端面E1よりも被切断材Wの内側(図の左側)に当たる位置において、第二の刃12が削り取り、平滑性の高い端面E2を、当初の切断端面E1よりも内側の位置に新たに形成する。
【0037】
このように、被切断材Wをせん断切断する第一の刃11と、被切断材Wの切断端縁E1を含む領域においてシェービングを行う第二の刃12をともに備えた上刃10を用いて、被切断材Wの切断を行うことで、被切断材Wが繊維W1を含み、単にせん断切断するだけでは平滑な切断端面を形成しにくいものであっても、一度の切断操作を行うだけで、平滑な切断端面E2を、簡便に形成することができる。第一の刃211と第二の刃12による切断を経て得られる切断端面E2の平滑性が高くなることで、切断によって形成される部材の寸法精度が高められる。切断端面から突出した繊維W1が作業者の手に刺さる等の事態も回避することができる。
【0038】
さらに、切断装置1が逆押さえ刃30を備え、第一の工程において、被切断材Wを下方から逆押さえ刃30で支持した状態で、上刃10の第一の刃11によるせん断切断を行う場合には、せん断による亀裂が、上刃10の先端と、逆押さえ刃30の先端を結ぶ線(
図1中の直線L1)に沿って、あるいはその線よりも外側において、進展しやすくなる。すると、第一の刃11によって形成される切断端面E1が、下刃20と板押さえ40によって挟み込まれた領域の内側(図の左側)に入り込みにくくなり、その領域よりも外側(図の右側)に形成されることになる。すると、第一の工程を経て、下刃20と板押さえ40によって挟み込まれた領域の外側に、被切断材Wの組織W’が残され、この残された組織W’を、第二の工程において、第二の刃12によってシェービングすることになる。すると、第二の工程を経て、被切断材Wの切断端面として露出する面が、第一の刃11によるせん断切断によって得られた平滑性の低い端面E1を残すことなく、第二の刃12によるシェービングによって得られた平滑性の高い端面E2より構成されることになる。このように、第一の工程における第一の刃11によるせん断切断を、逆押さえ刃30との協働によって行うことで、最終的に得られる切断端縁E2の平滑性を、効果的に高めることができる。逆押さえ刃30は、第二の工程を開始する前に下降させておけば、第二の工程を実施する間に、上刃10と逆押さえ刃30の間で衝突が起こるのを、回避することができる。
【0039】
また、上刃10において、第一の刃11の刃先の角度が鋭角になっていることによっても、第一の工程と第二の工程を経て得られる切断端面E2の平滑性を効果的に高めることができる。これは、第一の工程を経て形成される切断端面E1において、破断面に比べて、せん断面が占める割合が大きくなることによると考えられる。上刃10の刃先の角度が45°付近の時に、その効果を最も高く得ることができる。さらに、逆押さえ刃30の刃先も鋭角になっていれば、上刃10の第一の刃11による切断によって亀裂が形成される位置が、上刃10の先端と逆押さえ刃30の先端とを結ぶ位置(
図1中の直線L1)に、定まりやすい。そのため、第一の工程と第二の工程を経て、平滑性の高い切断端面E2を、所望の位置に高精度に形成しやすくなる。
【実施例0040】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0041】
[1]切断中の刃および被切断材の状態
まず、上記で説明した切断装置を用いて被切断材を切断する過程において、切断中の刃および被切断材の状態を確認した。
【0042】
[試験方法]
図1に示すように、上刃および下刃、板押さえ、さらに逆押さえ刃を備えた切断装置を用いて、試験を行った。上刃としては、上記で説明したとおり、第一の刃と第二の刃を備えるものを用いた。上刃の第一の刃および逆押さえ刃の刃先の角度θ1,θ3は、ともに45°とした。上刃の第二の刃および下刃の刃先の角度θ2,θ4は、ともに90°とした。第一の刃の長さD1は1mmとした。上刃の第一の刃と第二の刃の間の段差D2は0.6mmとし、上刃と板押さえの間のクリアランスは、第一の刃の位置で0.6mm、第二の刃の位置で0mmとした。下刃と逆押さえ刃の間のクリアランスは0.1mmとした。刃の幅(図面の奥行方向の寸法)は30mmとした。各刃は、SKD11材(硬度:60HRC)より構成した。
【0043】
被切断材としては、一方向CFRTPシート(板厚0.16mm、母材樹脂PA6、Vf50%)を、繊維が直交するように12層積層して加熱圧着したものを準備した。被切断材の寸法は、長さ30mm、幅10mm、板厚1.9mmであった。
【0044】
上記の被切断材の幅方向の一端を、下刃と板押さえの間に挟み込んで固定した。さらに、被切断材の下面に逆押さえ刃の刃先を接触させ、逆押さえ刃を取り付けた空気圧式ダイクッションを上昇させておいた。この状態で、上刃を被切断材の上面側から下降させ、被切断材の切断を行った。ダイクッションの荷重は30kN、上刃の移動速度は平均で2mm/sとした。第一の刃によって被切断材が破断した段階で、一旦上刃の下降を停止し、ダイクッションの空気圧を抜いて逆押さえ刃を下降させた。その後、上刃の下降を再開した。
【0045】
上刃を下降させて、被切断材を切断する過程において、被切断材の側面の方向から、各刃および被切断材を含む領域を高速ビデオカメラで撮影し、被切断材および各刃の状態を確認した。撮影速度は、300fpsとした。
【0046】
[試験結果]
図3に、高速ビデオカメラで得られた撮影像を示す。画像(a)から(h)へと上刃が下降し、切断が進行している。画像(a)は、切断が開始される前に、上刃および逆押さえ刃の刃先が被切断材の上面および下面にそれぞれ接触した状態を示している。撮影像においては、CFRTP材よりなる被切断材に含まれる炭素繊維の層が暗く写っている。
【0047】
画像(a)の状態から、上刃を下降させると、画像(b)のように、上刃の第一の刃と逆押さえ刃の間で、せん断による亀裂が発生し、上下から被切断材が切断される。上面側では、上刃によって、CFRTPシートの積層体の3層目までが切断されている。さらに上刃を下降させると、被切断材の切断が進行し、画像(c)の状態で、完全に破断が起こっている。つまり、厚さ方向全域にわたって被切断材が切断されている。
【0048】
画像(c)で被切断材が破断されると、画像(d)の状態において、一旦上刃の下降が停止されている。この際、上刃の左側に、第一の刃によって切断された切断端面が写っているが、その端面は、凹凸を有しているのが分かる。この端面は、一部が上刃および逆押さえ刃の影で暗くなっていて画像では分かりにくいものの、下刃と板押さえによって被切断材が固定されている位置よりも被切断材の外側(画像の右側)に位置している。
【0049】
その後、画像(e)の状態において、ダイクッションの空気圧が抜かれ、逆押さえ刃が下降されている。さらに、画像(f)以降、上刃の下降が再開され、画像(f)から(h)の過程において、第二の刃が、被切断材の端部の組織を削り取っている。削り取る位置は、第一の刃によるせん断切断で形成された切断端面よりも被切断材の内側(画像の左側)となっている。画像(g)の撮影像に矢印で表示するように、第二の刃によって削り取られた削り屑も撮影されている。
【0050】
画像(h)の撮影像では、第二の刃が被切断材の下面にまで達している。これにより、第一の刃によるせん断切断で形成された切断端面よりも被切断材の内側に、上刃の影で暗くなっているものの、直線的な端面が新たに形成されていることが分かる。
【0051】
以上のように、第一の刃と第二の刃を備えた上刃を用いることで、第一の刃による被切断材のせん断切断と、第二の刃による被切断材の端面のシェービングとを、連続して行えることが確認された。第一の刃でせん断切断を行う位置は、下刃と板押さえによって被切断材を固定している位置よりも外側となっており、第二の刃でシェービングを行う位置は、その第一の刃によって形成された切断端縁よりも内側となっている。
【0052】
[2]切断装置の構成と切断部の状態
次に、切断装置の構成と、切断によって得られる端面の状態との関係について調べた。
【0053】
[試験方法]
上記試験[1]と同様に、CFRTP材を被切断材として、切断装置による切断を行った。ただし、切断装置における刃の構成は、上記試験[1]における構成を基本として、実施例1~7および比較例1,2のそれぞれにおいて、上刃における第二の刃の有無、逆押さえ刃の有無、上刃および逆押さえ刃の刃先の角度θ1,θ3、上刃の材質のいずれか少なくとも1つのパラメータを変更した。実施例2の構成が、上記試験[1]にて採用した構成と同じになっている。
【0054】
切断によって得られた端面の外観を、カメラにて撮影するとともに、断面状態を、実体顕微鏡によって撮影した。さらに、端面において、毛羽立ち(端面から突出した繊維を含む組織)の最大長さを計測した。
【0055】
[試験結果]
図4に、表形式で、代表的な試料について、端面の外観写真および断面状態を示す。試料によって、端面の平滑度が大きく異なっているのが分かる。表の左から右に向かって、端面における毛羽立ちが少なくなり、断面の平滑性も向上している。ここで、端面の毛羽立ちの長さ(L)に応じて、端面の平滑性を評価した。1.5mm≦Lの場合を平滑度1、1.0mm≦L<1.5mmの場合を平滑度2、0.5mm≦L<1.0mmの場合を平滑度3、0.1mm≦L<0.5mmの場合を平滑度4、L<0.1mmの場合を平滑度5とした。平滑度5の場合は、外観写真で視認できる毛羽立ちはほぼなく、非常に平滑な断面が得られている。CFRTP材の加工において要求される寸法精度の観点から、平滑度1または2の場合は、不合格とみなし、平滑度3~5の場合は、合格とみなすことができる。
【0056】
下の表1に、切断装置の刃の構成と、切断部の平滑度の評価結果をまとめる。
【0057】
【0058】
表1に示すように、実施例1~7ではいずれも、上刃に、第一の刃に加えて第二の刃を設けているのに対し、比較例1,2では、上刃に第二の刃を設けておらず、第一の刃に対応するせん断切断用の刃のみで、上刃を構成している。そして、実施例1~7では、合格とみなしうる平滑度3以上の平滑な断面が、切断部において得られているのに対し、比較例1,2では、平滑度が2以下と、不合格となる低い水準となっている。このことから、上刃を第一の刃と第二の刃の二段構成として、第一の刃によって被切断材をせん断切断したうえで、第二の刃によって端面のシェービングを行うことで、平滑度の高い端面が得られることが分かる。
【0059】
さらに、実施例1~4では、逆押さえ刃を用いているのに対し、実施例5,6では、逆押さえ刃を用いていない。上刃および逆押さえ刃の刃先の角度が相互に同じになっている実施例1と実施例6の組、また実施例2と実施例5の組で、切断部の平滑性を比較すると、逆押さえ刃を用いていない実施例5,6ではいずれも、平滑度4となっているのに対し、逆押さえ刃を用いている実施例1,2ではいずれも、平滑度5と、非常に高い平滑性が得られている。このことから、逆押さえ刃を使用することで、切断端面の平滑性を特に高められることが分かる。
【0060】
実施例1~4では相互に、上刃の第一の刃および逆押さえ刃の刃先の角度が異なっている。これらを相互に比較すると、刃先の角度が90°である実施例4では、切断部の状態が、平滑度3に留まっているのに対し、刃先が鋭角になっている実施例1~3ではいずれも、平滑度5の非常に平滑性の高い切断面が得られている。このことから、上刃および逆押さえ刃の刃先を鋭角にしておくことで、切断端面の平滑性を特に高められることが分かる。実施例5,6の組、また比較例1,2の組も、刃先の角度が相互に異なっており、比較例1と比較例2を相互に比較すると、その角度が60°である比較例1よりも、30°である比較例2の方が、平滑性が少しは高くなっている。刃先の角度を、おおむね45°以下と小さくしておく方が、切断面の平滑性の向上に高い効果を発揮しうることが示唆される。
【0061】
実施例7は、実施例1と、上刃の構成材料が異なっているが、実施例1と実施例7のいずれにおいても、平滑度5と評価される平滑性の高い切断面が得られている。このことから、実施例1~6および比較例1,2の相互比較によって得られた上記の知見が、上刃に特定の鋼種を用いることによって得られるものではないことが、確認される。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。