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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190418
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】歯科用樹脂材料及び抗菌性義歯
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/70 20200101AFI20221219BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K6/70
A61K6/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098734
(22)【出願日】2021-06-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年6月30日発行の「神奈川歯科大学学会雑誌」第55巻 第1号、第57~67頁にて公開 令和3年1月1日発行の「アポロニア21」 Jan.2021 No.325、第88~92頁にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】521253859
【氏名又は名称】株式会社スタティックジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀司
(72)【発明者】
【氏名】浜田 信城
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀大
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089AA02
4C089AA06
4C089AA09
4C089BA07
(57)【要約】
【課題】歯科用樹脂材料として使用可能な機械的特性及び化学的特性を備え、歯周病原因菌、齲蝕原因菌、真菌等に対する持続的な抗菌性を有し、デンチャープラークの付着を抑制できる、又はメチルメルカプタン等の口臭原因物質を低減することができる歯科用樹脂材料、及びそれを用いて作製される歯科用物品、特に抗菌性義歯を提供する。
【解決手段】表面改質された酸化亜鉛粉末を分散させた歯科用樹脂材料、及びそれからなる抗菌性義歯。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質された酸化亜鉛粉末を分散させた歯科用樹脂材料。
【請求項2】
前記酸化亜鉛粉末の平均粒径が、1~500nmの範囲である、請求項1に記載の歯科用樹脂材料。
【請求項3】
前記表面改質が、硫化亜鉛皮膜による被覆である、請求項1に記載の歯科用樹脂材料。
【請求項4】
前記表面改質が、カップリング剤による被覆である、請求項1に記載の歯科用樹脂材料。
【請求項5】
前記表面改質が、酸化亜鉛粉末表面の部分被覆である、請求項1~4のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項6】
前記硫化亜鉛又はカップリング剤の被覆量が、0.1~30質量%である、請求項3又は4に記載の歯科用樹脂材料。
【請求項7】
前記表面改質された酸化亜鉛粉末の配合量が、0.1~10質量%である、請求項1~5のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項8】
歯冠用材料、コンポジットレジン、歯科充填用材料、レジンセメント、歯科用接着剤・合着材、フィッシャーシーラント、コーティング材、クラウン・ブリッジ・インレー用レジン、支台築造材、義歯用レジン、義歯床用レジン、義歯床補修用レジン、歯ブラシの毛用、歯ブラシの柄用、又はマウスピース用レジンである、請求項1~7のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項9】
歯周病原因菌、齲蝕原因菌及び/又は真菌の増殖を抑制する、請求項1~8のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項10】
デンチャープラークの付着を抑制する、請求項1~9のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項11】
口臭原因物質を低減する、請求項1~10のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の歯科用樹脂材料からなる抗菌性義歯。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の歯科用樹脂材料からなるナイトガード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用樹脂材料及び抗菌性義歯に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科領域の二大疾患である齲蝕と歯周病は、いずれも口腔常在菌により惹起されることが明らかにされている。即ち、ミュータンス連鎖球菌をはじめとする口腔常在菌とそれらの代謝産物によって構成されるプラーク細菌が齲蝕誘発の直接的原因であり、Porphyromonas gingivalisをはじめとする嫌気性グラム陰性菌の歯肉縁下における増殖が歯肉の炎症あるいは歯周組織破壊の原因となる。従って、プラークを構成する細菌の増殖を抑制することがこれらの疾患の予防に重要であることは明らかである。
【0003】
また、義歯性口内炎は、義歯や床矯正装置などの可撤性床装置と関連した床下粘膜の炎症であり、口腔内の微生物が深く関わり、義歯床粘膜面にみられるCandida abicansを主体とするデンチャープラークが義歯性口内炎の重要な因子であることが報告されている。デンチャープラークの主要構成菌は、通性嫌気性グラム陽性球菌と通性嫌気性グラム陽性桿菌であると報告されている。また、義歯性口内炎とCandida及びStaphylococcusとの相関や、デンチャープラーク中から高頻度にCandida albicansを主体とするCandida属の菌種が検出されることが報告されている。
【0004】
デンチャープラークの為害性として、義歯性口内炎や口角炎等の生体に対する為害作用のみならず、義歯材料への侵入やこれに伴う義歯材料の劣化に伴いデンチャープラークの堆積が助長され、さらなる義歯性口内炎等の増悪が懸念される。
【0005】
特に、樹脂を成形した義歯の周囲は細菌が繁殖しやすい環境であり、齲蝕原因菌や歯周病原因菌が口腔内に存在すると、義歯の周囲は特にこれらの細菌が繁殖しやすく、義歯周辺の健康な歯が損なわれる原因ともなる。また、歯周病患者は、歯周病原因菌によって生産されるメチルメルカプタン等による強い口臭を有することが多い。そのため、義歯を常に清潔に保持する必要がある。
【0006】
しかしながら、例えば、自分では義歯の清掃ができない高齢者等は、介助者による手助けが必要であるが、介助者がいなかったり、必ずしも行き届いた清掃ができなかったりという状況もある。義歯の清掃を怠ると、免疫力が低下した高齢者等では、口腔内の細菌や食物の残りかすが気管にはいって誤嚥性肺炎を発症する危険性が高くなる。義歯を清潔に保つことは、齲蝕や歯周病の予防だけでなく誤嚥性肺炎などの予防にもつながる。
【0007】
そこで、義歯を形成する樹脂に有機系抗菌剤組成物を均一混合して成形した義歯が提案され、主要な歯周病原因菌や齲蝕原因菌を長期に渡って抑制できることが報告されている(特許文献1)。
【0008】
一方、抗菌活性を示し、かつ人体に対して安全な無機材料としては、銀や酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等が知られている。衛生管理製品や繊維製品の分野では、樹脂組成物に抗菌性や殺菌性を付与した製品の開発・研究が行われている。歯科領域では、今後の超高齢化社会を見据えた全身管理との関係においても、口腔細菌の増殖を長期に阻害する歯科材料の開発は必須であると考えられる。
【0009】
酸化亜鉛は、光触媒活性、紫外線吸収活性、殺菌、抗菌、消臭等の機能を有することが知られている。
特許文献2及び3には、酸化亜鉛粉末の表面に表面処理を施して酸化亜鉛の光触媒活性を抑制し、紫外線吸収活性、殺菌、抗菌、消臭等の機能を維持した表面処理酸化亜鉛粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特許第6172713号
【特許文献2】特開2000-109601号公報
【特許文献3】特開平8-59890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、歯科用樹脂材料として使用可能な機械的特性及び化学的特性を備え、歯周病原因菌、齲蝕原因菌、真菌等に対する持続的な抗菌性を有し、デンチャープラークの付着を抑制できる、又はメチルメルカプタン等の口臭原因物質を低減することができる歯科用樹脂材料、及びそれを用いて作製される歯科用物品、特に抗菌性義歯を提供することを主たる目的とする。
【0012】
本発明者らは、人体に対して安全であり、一般的な細菌に対して有効な無機系抗菌剤として知られる酸化亜鉛粉末の表面を改質して、樹脂中での分散性を向上させた表面改質酸化亜鉛粉末が歯周病原因菌、齲蝕原因菌、真菌等の口腔内細菌に対しても抗菌性を示すことを見出した。
【0013】
前述した有機系抗菌剤組成物を用いた抗菌性義歯は、口腔内で長期に渡って唾液等にさらされることで、特に義歯表面近くに存在する有機系抗菌剤化合物の分解が進み、義歯の抗菌性が低下する懸念がある。これに対し無機系抗菌剤は口腔内でも分解することがなく、長期に渡って抗菌性が持続するという利点を有する。
【0014】
本発明者らは、歯科で用いられる樹脂、特に義歯形成用の樹脂に表面改質酸化亜鉛粉末を均一に分散させて成形した抗菌性を有する歯科用樹脂材料、それを用いて作製される抗菌性義歯を完成させた。
【0015】
また、本発明者らは、前記表面改質酸化亜鉛粉末を含有する樹脂からなる歯科用樹脂材料が、歯周病患者の強い口臭の原因物質であるメチルメルカプタン等を低減できることを見出した。
【0016】
さらに、本発明者らは、前記表面改質酸化亜鉛粉末を含有する樹脂からなる歯科用樹脂材料が、デンチャープラークの原因となる細菌の付着を抑制することも見出した。
【0017】
長期又は長時間に渡って口腔内に配置される歯科用物品、特に義歯が、抗菌性を有するだけでなく、メチルメルカプタン等の強い口臭の原因物質を分解したり、デンチャープラークの付着を抑制する機能を有することで、歯周病等の悪化を抑制し、口臭を低減することが期待できる。
【0018】
本発明者らは、歯科用樹脂材料、特に義歯用の樹脂に表面改質酸化亜鉛粉末を分散させて成形した歯科用樹脂材料、特に義歯によって、歯周病や齲蝕の原因菌を長期に渡って抑制でき、メチルメルカプタン等の口臭物質を低減でき、デンチャープラークの付着を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、以下の歯科用樹脂材料、抗菌性義歯等が提供される。
1.表面改質された酸化亜鉛粉末を分散させた歯科用樹脂材料。
2.前記酸化亜鉛粉末の平均粒径が、1~500nmの範囲である、1に記載の歯科用樹脂材料。
3.前記表面改質が、硫化亜鉛皮膜による被覆である、1に記載の歯科用樹脂材料。
4.前記表面改質が、カップリング剤による被覆である、1に記載の歯科用樹脂材料。
5.前記表面改質が、酸化亜鉛粉末表面の部分被覆である、1~4のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
6.前記硫化亜鉛又はカップリング剤の被覆量が、0.1~30質量%である、3又は4に記載の歯科用樹脂材料。
7.前記表面改質された酸化亜鉛粉末の配合量が、0.1~10質量%である、1~5のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
8.歯冠用材料、コンポジットレジン、歯科充填用材料、レジンセメント、歯科用接着剤・合着材、フィッシャーシーラント、コーティング材、クラウン・ブリッジ・インレー用レジン、支台築造材、義歯用レジン、義歯床用レジン、義歯床補修用レジン、歯ブラシの毛用、歯ブラシの柄用、又はマウスピース用レジンである、1~7のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
9.歯周病原因菌、齲蝕原因菌及び/又は真菌の増殖を抑制する、1~8のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
10.デンチャープラークの付着を抑制する、1~9のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
11.口臭原因物質を低減する、1~10のいずれかに記載の歯科用樹脂材料。
12.1~11のいずれかに記載の歯科用樹脂材料からなる抗菌性義歯。
13.1~11のいずれかに記載の歯科用樹脂材料からなるナイトガード。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、歯周病原因菌、齲蝕原因菌、真菌等に対する持続的な抗菌性を有し、かつ、メチルメルカプタン等の口臭原因物質を低減できる、又はデンチャープラークの付着を抑制できる歯科用樹脂材料、及びそれを用いて作製される歯科用物品、特に抗菌性義歯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験例1に記載の吸水性試験結果を示すグラフである。
図2】試験例2に記載の曲げ強さ試験結果を示すグラフである。
図3】試験例2に記載の曲げ弾性率試験結果を示すグラフである。
図4】試験例3に記載のP.gingivalisに対する表面改質酸化亜鉛粉末の抗菌性試験結果を示すグラフである。
図5】試験例3に記載のS.mutansに対する表面改質酸化亜鉛粉末の抗菌性試験結果を示すグラフである。
図6】試験例3に記載のC.albicansに対する表面改質酸化亜鉛粉末の抗菌性試験結果を示すグラフである。
図7】試験例4に記載の表面改質酸化亜鉛粉末を配合した樹脂材料への口腔細菌の付着抑制試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の歯科用樹脂材料は、表面改質された酸化亜鉛粉末を分散させた樹脂からなることを特徴とする。
ここで、「歯科用樹脂材料」とは、主として歯科で口腔内に用いる物品を形成するための樹脂材料をいう。「歯科用樹脂材料」の形態(性状)は、成形・固化を行う前は、特に限定されず、粉体状、粒子状、ビーズ状、ペレット状、ペースト状、固形状等のいずれであってもよく、固化した後は特定の形状を有する。
「歯科用樹脂材料」からなる、あるいはこれを用いて製造される物品の例としては、例えば、義歯、義歯床、歯ブラシの毛、歯ブラシの柄、ナイトガード、マウスピース等が挙げられ、特に義歯、義歯床であることが好ましい。
【0023】
本発明でいう「歯科用樹脂材料」とは、上記物品の他、広く歯科治療や口腔ケアにおいて使用される樹脂製の歯科材料全般をも包含するものであり、例えば、歯冠用レジン、人工歯等の歯冠用材料、コンポジットレジン、根管充填材、ボンディング材等の歯科充填用材料、レジンセメント、矯正用接着材等の歯科用接着材・合着材、フィッシャーシーラント、コーティング材、クラウン・ブリッジ・インレー用レジン、支台築造材、義歯床用レジン、義歯床補修用レジン等が挙げられる。治療の過程で一時的に使用する充填物や補綴物や、長期に渡って口腔内で使用されるいわゆる入れ歯や、インプラントの代替歯部分、義歯床等を含む。
また、「義歯」とは、いわゆる入れ歯、インプラントの代替歯部分、義歯床を含む。
【0024】
本発明の歯科用樹脂材料は、そのベースとなる材料(レジン等)に、表面改質酸化亜鉛粉末を添加し、均一に混合した流動性のある状態、即ち、患部に適用する前及び後の、硬化する前の段階のもの、及び硬化した後のものも含む。
【0025】
「酸化亜鉛」は、一般的な細菌に対する抗菌性を有する無機系抗菌剤として用いられているが、これまで義歯や補綴修復物等の歯科用樹脂材料に用いられることは無かった。
【0026】
また、380nm以下の紫外線を吸収することから、紫外線吸収剤としても知られている。酸化亜鉛は、紫外線を吸収すると光触媒作用により、酸化・還元力を発揮する。特に、酸化亜鉛の酸化力により樹脂が酸化され劣化が促進されるという問題点がある。
【0027】
本発明における、酸化亜鉛粉末の「表面改質」とは、酸化亜鉛粉末の表面を部分的に被覆処理することで、歯周病原因菌、齲蝕原因菌や真菌に対する抗菌性、口臭の脱臭効果は損なうことなく、酸化亜鉛の光触媒活性を抑制し、樹脂中での分散性を向上させるための加工をいう。
【0028】
本発明における、酸化亜鉛粉末の「表面改質」方法としては、例えば、特許文献2及び3に記載されている方法が挙げられる。
特許文献2に記載の硫化処理は、酸化亜鉛粉末を硫化水素又は亜硫酸ガスと接触させて、酸化亜鉛粉末の表面を硫化させ、酸化亜鉛粉末の表面を硫化亜鉛で被覆する方法である。具体的には、酸化亜鉛粉末をガラス容器に入れ、これを振動させながら、硫化水素ガス又は亜硫酸ガスを流通させて接触させる。
【0029】
特許文献3に記載のカップリング剤による被覆処理は、酸化亜鉛粉末の表面にカップリング剤を被覆処理し、被覆酸化亜鉛粉末とする方法である。
酸化亜鉛粉末表面へのカップリング剤の被覆処理は、酸化亜鉛粉末の水中又は非水溶媒中のスラリーを攪拌しつつカップリング剤を添加する湿式法;高速回転が可能なヘンシェルミキサーやハイスピードミキサー等で酸化亜鉛粉末を高速攪拌しつつカップリング剤をスプレーまたは滴下する乾式法;酸化亜鉛粉末を入れた反応容器内に窒素等の不活性ガスでキャリーしたカップリング剤を導入し、被覆処理する気相法のいずれでもよい。
【0030】
カップリング剤としては、シラノール基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基等を持つシランカップリング剤を使用することができる。また、シランカップリング剤以外のチタン系、アルミニウム系、ジルコニウム系、ジルコアルミネート系等のその他のカップリング剤あるいはシラン等を使用してもよい。
【0031】
酸化亜鉛粉末の平均粒径は、1~500nmの範囲であることが好ましく、10~400nmであることがより好ましく、50~300nmであることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、歯科用樹脂への分散性が損なわれず、均一に混合できる。
【0032】
酸化亜鉛粉末のBET法による比表面積は、10~500m/gの範囲であることが好ましく、10~400m/gがより好ましく、20~300m/gがさらに好ましい。
【0033】
酸化亜鉛粉末の表面を部分的に被覆するためには、酸化亜鉛粉末の比表面積を考慮して、硫化亜鉛皮膜及びカップリング剤による被覆量を調整すればよく、表面改質酸化亜鉛粉末の使用目的により適宜決定すればよい。
歯科用樹脂材料の場合には、被覆量は、0.1~30質量%の範囲とすることが好ましく、0.2~20質量%がより好ましく、0.2~15質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、樹脂中に均一に分散させ易く、酸化亜鉛の歯周病原因菌、齲蝕原因菌、真菌等への抗菌性が損なわれず、口臭原因物質等の分解性が保持できる。
【0034】
本発明の歯科用樹脂材料で用いることができる「表面改質酸化亜鉛粉末」の市販品としては、例えば、AD-PSJ(株式会社ニッショー化学製)が挙げられる。
【0035】
表面改質酸化亜鉛粉末を分散させる基材となる「樹脂」は、特に限定されず、歯科領域で通常に用いられる種類の樹脂を用いることができる。
本発明の歯科用樹脂材料が義歯用材料として用いられる場合、基材となる「樹脂」は義歯用のベースレジンである。
【0036】
義歯用のベース材料(レジン)としては、広く使用されている義歯用レジンを用いることができる。義歯用レジンとしては、マイクロウエーブ重合型(電子レンジ)、熱重合(お湯炊き)等が好ましい。義歯用レジンの市販品としては、例えば、ベイシスレジン(山八歯材工業株式会社製、加熱重合型)、アクロン(株式会社ジーシー製、加熱重合型)、アクロンMC(株式会社ジーシー製、マイクロ波重合型)、クイックアクロン(株式会社ジーシー製、加熱重合・ヒートショック型)、ラクソン(株式会社ジーシー製、加熱重合型)、フィットレジン(株式会社松風製、常温重合レジン)、ポアーレジン(株式会社松風製、常温重合レジン)、アーバン(株式会社松風製、加熱重合レジン)等が挙げられる。
【0037】
表面改質酸化亜鉛粉末を義歯形成用樹脂に混合する手段は、当業者が通常用いる方法から適切なものを選択すればよい。例えば、粉(重合開始剤)及び液(重合性単量体)の2成分型の義歯成形用レジンの場合には、液(重合性単量体)に表面改質酸化亜鉛粉末を予め添加し、これを粉(重合開始剤)と混合するか、或いは粉(重合開始剤)に表面改質酸化亜鉛粉末を予め添加し、これを液(重合性単量体)と混合すればよい。
表面改質酸化亜鉛粉末を混合した樹脂材料を成形する手段、及び硬化させる手段も、当業者が通常用いる方法からベース材料に適したものを選択すればよい。
【0038】
また、近年では、3Dプリンターを用いた義歯の製造が広まっている。3Dプリンターで義歯を製造する場合には、表面改質酸化亜鉛粉末を配合した粉末状又はペレット状の樹脂材料を3Dプリントの原料として用い、所望の形状の義歯とすればよい。
【0039】
本発明の歯科用樹脂材料中の表面改質酸化亜鉛粉末の配合量は、使用する樹脂や用途によっても異なるが、通常は0.1~10質量%、好ましくは0.3~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%の範囲内である。
【0040】
本発明の歯科用樹脂材料、及びそれを用いて作製される抗菌性義歯等の歯科用物品には、その用途に応じて、表面改質酸化亜鉛粉末が有する効果が損なわれない範囲で、表面改質酸化亜鉛粉末以外に各種の添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、フィラー、着色剤等の歯科用物品に添加される各種のものが挙げられる。また、本発明の歯科用樹脂材料には、さらに酸化亜鉛以外の無機系抗菌剤や、有機系抗菌剤を配合してもよい。
【0041】
歯科用樹脂材料、及びそれを用いた義歯等の歯科用物品は、実施例又は試験例に記載の方法に準拠し、用いるベース材料、目的とする歯科用物品に合わせ、当業界で通常用いられる方法で製造することができる。
【0042】
本発明でいう「抗菌性(antibacterial)」とは、細菌を死滅させる「殺菌性(bactericidal)」乃至、細菌の増殖を抑制する「静菌性(bacteriostatic)」までの範囲を包含するが、「静菌性」であることが好ましい。口腔常在菌を死滅させることなく、口腔内の免疫を保持しつつ、歯周病原因菌、齲蝕原因菌、真菌等の増殖を抑制することが好ましいからである。
【0043】
本発明の歯科用樹脂材料からなる抗菌性義歯は、義歯に求められる機械的強度、低い吸水性等の特性を有し、抗菌性だけでなく、デンチャープラークの付着が抑制でき、さらには口臭原因物質であるメチルメルカプタン等の悪臭を低減することができる。
【0044】
また、ナイトガード等の柔軟性を有する歯科用物品にも、本発明の歯科用樹脂材料を用いることができ、就寝時の歯周病原因菌、齲蝕原因菌、真菌等の増殖を抑制し、発生する口臭原因物質を低減することができる。
【実施例0045】
以下、実施例及び試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0046】
実施例1:表面改質酸化亜鉛粉末配合樹脂材料の製造
表面改質酸化亜鉛粉末であるAD-PSJ(株式会社ニッショー化学製)を、それぞれ1.5質量%、1.0質量%、及び0.5質量%の濃度で、アクリルレジンに配合し、成形した表面改質酸化亜鉛粉末配合樹脂材料(アクリルレジンディスク)を、以下のように作製した。
【0047】
直径17.5mm、高さ50mmの円柱状のシリコン型をフラスコに埋没した。ベイシスレジン(山八歯材工業株式会社製、アクリルレジン)の粉末20gと液8.6mLを混和し、室温にて20分間放置した。餅状になったアクリルレジンをシリコン型に填入し、油圧プレス(TD-607;吉田製作所製)を用いて、40kg/cmの圧力をかけ固定した。フラスコを水糟(イボ-1;白水貿易株式会社製)に浸潰し、加熱、沸騰後30分で重合完了とした。
【0048】
水槽からフラスコを取り出し、室温にて30分間放置後、さらに水中に入れ完全に冷却して、重合したアクリルレジンの掘り出しを行った。掘り出した円柱状のアクリルレジンを、自動回転切断機(ISOMET 11-1180 Low Speed Saw;Buehler LTD.,IL. U.S.A.)を用いて、厚さl.2mmとなるように切断した後、上下面を耐水研磨紙#1000にて研磨し、直径17.5±0.5mm、厚さ1.0±0.2mmに調整したものをアクリルレジンディスクとした。
【0049】
作製したアクリルレジンディスクについて、精度0.001mmのマイクロメーター(Mitutoyo;株式会社シナノ製作所製)にて直径2カ所、厚さ5カ所を計測し、直径及び厚さの平均値よりアクリルレジンディスクの体積Vを算出した。
【0050】
作製したアクリルレジンディスクをデシケータ内で乾燥させ、24時間で0.2mgの質量域になるまで、電子天秤(AUW120D;島津製作所製)にて繰り返し秤量を行い、恒量となった時点で37℃の水中に浸潰した。
【0051】
試験例1:表面改質酸化亜鉛粉末配合樹脂材料の吸水性試験
表面改質酸化亜鉛粉末を配合することにより、得られる樹脂材料の吸水性が変化するか否かを確認した。
【0052】
表面改質酸化亜鉛粉末AD-PSJを、それぞれ1.5質量%、1.0質量%、及び0.5質量%の濃度で配合したアクリルレジンディスク(試験片)、並びに比較対照として、表面改質酸化亜鉛粉末を配合していないアクリルレジンディスク(対照片)を用いて、吸水性試験を行った。
【0053】
試験片及び対照片のアクリルレジンディスクを、37℃の水中に1日間、7日間、及び28日間保管した。各保管期間後に、アクリルレジンディスクを水中から取り出し、乾いたタオルで表面の水分をふき取り、空気中で15秒間振った後、1分後に秤量した質量をmとした。秤量後、アクリルレジンディスクを再びデシケータ内で乾燥させ、恒量となったときの質量をmとした。得られたアクリルレジンディスクの質量データより、次式に従って吸水量を求めた。尚、アクリルレジンディスク(試験片及び対照片)は、各群5個とした。
sp=(m-m)/V
式中、
sp:吸水量(μg/mm
:水中浸漬直後のアクリルレジンディスクの質量(μg)
:アクリルレジンディスクの乾燥質量(μg)
V:アクリルレジンディスクの体積(mm
【0054】
得られた吸水量の結果を図1のグラフに示す。
図1のグラフから、表面改質酸化亜鉛粉末未配合(対照片)及び表面改質酸化亜鉛粉末未配合のアクリルレジンディスク(試験片)ともに、水中保管1日後に比べ、7日後及び28日後では、吸水量に差が認められるが、水中保管7日後と28日後では、吸水量に差は認められなかった。このことから、表面改質酸化亜鉛粉末を配合することは、アクリルレジンの吸水性に影響を与えないことがわかる。
【0055】
試験例2:表面改質酸化亜鉛粉末を配合した樹脂材料の機械的特性の評価
本発明の抗菌性歯科用材料は、例えば、義歯であれば、口腔内の常に湿った環境下で用いられるため、吸水によって強度が低下しないことを確認した。
表面改質酸化亜鉛粉末を、それぞれ1.5質量%、1.0質量%、及び0.5質量%の濃度で配合した板状アクリルレジン(試験片)、並びに比較対照として、表明改質酸化亜鉛粉末を配合していない板状アクリルレジン(対照片)を用いて3点曲げ試験を行なった。
【0056】
試験片及び対照片の板状アクリルレジンは、次の様に作製した。
板状のシリコン型をフラスコに埋没した。ベイシスレジンの粉10gと液4.3mLを混和し、室温で15分間放置した。餅状になったアクリルレジンを板状のシリコン型に填入し、油圧プレスで40kg/cmの圧力をかけ固定した。フラスコを水槽に浸潰し加熱、弗騰後30分で重合完了とした。水中からフラスコを取り出し,室温にて30分開放置後、さらに水中に入れ完全に冷却し、重合したアクリルレジンの掘り出しを行った。
【0057】
掘り出した板状のアクリルレジンは.横25mm、厚さ3mmとなるように耐水研磨紙#600にて研磨し、縦3mmとなるように自動回転切断機にて切断し、縦3mm×横25mm×厚さ3mmの試験片を得た。対照片は、表面改質酸化亜鉛粉末を配合しないこと以外、試験片と同様にして作製した。
【0058】
得られた板状アクリルレジンの試験片及び対照片を、37℃の水中に1日間、7日間、及び28日間保管した。各保管期間後に、板状アクリルレジンを水中から取り出し、乾いたタオルで表面の水分をふき取り、試験に供した。
【0059】
小型卓上試験機(EZTest;島津製作所製)を用いて、支点問距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minで3点曲げ強さ試験を行い、分析ソフト(TRAPEZUM2;島津製作所製)により、曲げ強さと曲げ弾性率を算出した。尚、試験片及び対照片は各群15個とした。
得られた曲げ強さの結果を図2のグラフに、曲げ弾性率の結果を図3のグラフに示す。
【0060】
図2のグラフから、1日目及び7日目の試験片の曲げ強さは、対照片の曲げ強さよりも劣っていたが、28日目には、試験片と対照片で差は見られなかった。
【0061】
図3のグラフから、1日目、7日目及び28日目のいずれも、試験片と対照片とで曲げ弾性率に差は見られなかった。
【0062】
試験例1及び2の結果から、本発明の表面改質酸化亜鉛粉末を配合した歯科用樹脂材料は、口腔内の湿った環境下でも吸水性(膨潤性)が低く、機械的強度が低下することも無く、口腔内で用いられる歯科用樹脂材料として好適であることがわかる。
【0063】
試験例3:表面改質酸化亜鉛粉末の口腔細菌に対する抗菌性試験
表面改質酸化亜鉛粉末であるAD-PSJの、歯周病原因菌、齲蝕原因菌及び真菌に対する抗菌性を確認する。
【0064】
(供試菌株)
歯周病原因菌:Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis)ATCC33277株
齲蝕原因菌:Streptococcus mutans(S.mutans)Ingbritt株
真菌:Candida albicans(C.albicans)ATCC10231株
【0065】
P.gingivalisは、5%ヒツジ脱繊血を含むBHI血液寒天培地(BHI血液平板)を用いて嫌気条件下(70% N、15% H、15% CO)(ANX-1;HIRASAWA製)37℃で培養した。
S.mutansは、ブレインハートインフージョン(BHI)ブロス(Becton Dickinson Co.製)にイーストエストラクト(5mg/mL)(Becton Dickinson Co.製)、ヘミン(5μg/mL)(和光純薬製)、ビタミンK(10μg/mL)(和光純薬製)を添加した培地(BHI・YHK培地)で培養した。
C.albicansは、普通寒天培地(日水製薬株式会社製)を用いて好気条件下37℃(アルプ株式会社製)で培養した。
【0066】
一昼夜培養し、波長550nmで吸光度0.6に調整したP.gingivalis(実験開始時生菌数:2.0×10±1.0×10CFU/mL)、S.mutans(実験開始時生菌数:1.0×10±1.5×10CFU/mL)、及びC.albicans(実験開始時生菌数:3.0×10±7.5×10CFU/mL)の培養菌液に1%濃度となるよう表面改質酸化亜鉛粉末AD-PSJを加え、沈殿しないようスターラーにて撹拌しながら培養し、24時間まで経時的に生菌数(CFU/mL)を測定した。尚、表面改質酸化亜鉛粉末を添加しない比較対照(control)についても並行して生菌数を測定した。結果をそれぞれ図4~6のグラフに示す。
【0067】
図4のグラフから、P.gingivalisは、表面改質酸化亜鉛粉末の添加により生菌数が経時的に減少し、12時間後以降は生菌は確認されなかったことがわかる。この結果から、表面改質酸化亜鉛粉末は、歯周病原因菌P.gingivalisに対して強力な抗菌性を有することが確認された。
【0068】
図5のグラフから、S.mutansは、表面改質酸化亜鉛粉末の添加により経時的に生菌数の減少したことがわかる。この結果から、表面改質酸化亜鉛粉末は、齲蝕原因菌S.mutansに対して緩やかな抗菌性を有することが確認された。
【0069】
図6のグラフから、C.albicansは、表面改質酸化亜鉛粉末を添加した場合でも経時的に生菌数は緩やかに増加していたが、表面改質酸化亜鉛粉末を添加していない比較対照に比べて増殖が抑制されたことがわかる。この結果から、表面改質酸化亜鉛粉末は、真菌C.albicansに対して増殖抑制効果を有することが確認された。
【0070】
試験例4:表面改質酸化亜鉛粉末を配合した歯科用樹脂材料への口腔細菌の付着抑制試験
表面改質酸化亜鉛粉末を配合した歯科用樹脂材料に、プラークの付着抑制効果があることを確認する。
【0071】
表面改質酸化亜鉛粉末AD-PSJを、それぞれ1.0質量%、及び0.5質量%の濃度で配合したアクリルレジンディスク(試験片)を用いて、プラーク付着性試験を行った。
P.gingivalis、S.mutans、及びC.albicansの各培養菌液100μLを加えた液体培地5mLに、アクリルレジンディスクを浸潰し、18時間培養した。培養後、アクリルレジンディスクを1%リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。アクリルレジンディスクを5mLのPBSに浸漬させ、Transsonic T780(超音波洗浄機;Elma Schmidbauer GmbH製)を用いて1分間の超音波処理によりアクリルレジンディスクから細菌を剥離した。剥離した細菌懸濁液を希釈して寒天培地へ塗抹、培養を行い、生菌数を測定した。結果を図7のグラフに示す。
【0072】
図7のグラフから、3種の口腔細菌ともに、表面改質酸化亜鉛粉末の濃度に依存してアクリルレジンディスクへの付着菌数が減少したことがわかる。
このことから、表面改質酸化亜鉛粉末を配合した歯科用樹脂材料に、プラークの付着抑制効果があることが確認された。
【0073】
試験例5:表面改質酸化亜鉛粉末を配合した樹脂材料の口臭抑制試験
表面改質酸化亜鉛粉末を配合した歯科用樹脂材料が、歯周病患者の強い口臭の原因物質であるメチルメルカプタン量を減少させることができるか否かを確認する。
【0074】
表面改質酸化亜鉛粉末AD-PSJを、0.5%、1.0%、及び1.5%の含有率で配合したアクリルレジンディスク(試験片)及び表面改質酸化亜鉛粉末を配合していないアクリルレジンディスク(control)を、P.gingivalisの菌液へ浸潰し2日間培養した。培養後、アクリルレジンディスクを滅菌蒸留水で3回洗浄し、スペリアチューブに入れ、パラフィルムで密閉した。回転培養機ローテーターRT-30mini(タイテック株式会社製)にて転倒撹拌を行い、2日後にアクリルレジンディスクを新しいスペリアチューブへ移し替えて密封し、再度転倒撹拌を行った。24時間後にOralChroma CHM-1(NISSHAエフアイエス株式会社製)を用いてスペリアチューブ内のメチルメルカプタン(CHSH)量を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1の結果から、表面改質酸化亜鉛粉末を含有する樹脂材料は、P.gingivalisが生産するメチルメルカプタンを減少させることがわかる。また、表面改質酸化亜鉛粉末の含有率に依存してメチルメルカプタン量がより大きく減少することがわかる。
このことから、表面改質酸化亜鉛粉末を配合した樹脂材料によって、歯周病患者の強い口臭の原因物質であるメチルメルカプタン量を減少させることができることが確認された。
【0077】
試験例6:表面改質酸化亜鉛粉末を配合したナイトガードによる口臭抑制試験
被験者(歯周病患者)に、表面改質酸化亜鉛粉末を配合した樹脂材料で作製したナイトガードを装着してもらい、口臭の原因物質である揮発性硫化物(硫化水素HS、メチルメルカプタンCHSH、及びジメチルサルファイド(CHS)の量が減少するか否かを確認する。
尚、「ナイトガード」とは、睡眠中に使用するマウスピースであり、歯周病患者が、就寝中に歯ぎしりや歯を食いしばったりする場合にクッションとなって歯を保護するために用いる。
【0078】
被験者に、就寝前に歯磨きをしてもらい、歯磨き直後の呼気中の3種類の揮発性硫化物の濃度(単位:ppb)を口臭測定装置オーラルクロマ(NISSHAエフアイエス社製)で測定した。
次に、被験者に、表面改質酸化亜鉛粉末を配合していない樹脂材料で作製したナイトガードを装着して就寝してもらった。翌朝起床時の呼気中の3種類の揮発性硫化物の濃度(ppb)を同様に測定した。
次の日に、被験者に、就寝前に歯磨きをしてもらい、表面改質酸化亜鉛粉末AD-PSJを1質量%配合した樹脂材料で作製したナイトガードを装着して就寝してもらった。翌朝起床時の呼気中の3種類の揮発性硫化物の濃度(ppb)を同様に測定した。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2の結果から、表面改質酸化亜鉛粉末を配合したナイトガードを装着することにより、3種類の口臭成分の濃度がそれぞれ約半分になったことがわかる。具体的には、硫化水素が44%、メチルメルカプタンが53%、ジメチルサルファイドが64%に減少した。
このことから、表面改質酸化亜鉛粉末を配合した樹脂材料で作製したナイトガードによって歯周病患者の口臭の原因物質である揮発性硫化物を低減できることが確認された。
【0081】
上記試験結果から、本発明の歯科用樹脂材料は、表面改質酸化亜鉛粉末を配合しても、表面改質酸化亜鉛粉末を配合していない樹脂と同等の吸水性、機械的強度等の特性を保持し、口腔細菌、特に歯周病原因菌に対する高い抗菌性を有し、口腔細菌の樹脂材料表面への付着が低減でき、口臭の原因物質である揮発性硫化物を抑制することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の歯科用樹脂材料は、歯科領域で用いられる口腔内に適用される各種材料、治療過程で用いる一時的な詰め物、合着用セメント等の接着剤、固定して用いる被せ物、義歯、義歯床等の材料として有用である。その他、ナイトガード、歯ブラシの毛、歯ブラシの柄等としても用いることができる。
また、本発明の歯科用樹脂材料は、歯科領域だけでなく、例えば、ボクシング等のスポーツで用いられるマウスピース等の口腔内で用いる物品の樹脂材料としても有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7