(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190421
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】電線の止水処理装置
(51)【国際特許分類】
H02G 1/14 20060101AFI20221219BHJP
H02G 15/00 20060101ALI20221219BHJP
H02G 15/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H02G1/14
H02G15/00 030
H02G15/04 030
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098738
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 晴美
【テーマコード(参考)】
5G355
5G375
【Fターム(参考)】
5G355AA03
5G355BA02
5G355BA08
5G355CA17
5G355CA19
5G355CA26
5G375AA02
5G375BA09
5G375BA15
5G375BB48
5G375EA17
(57)【要約】
【課題】人手による作業負荷を減らして、安定した品質の止水処理部を得られる電線の止水処理装置を提供する。
【解決手段】電線Wの先端Waの被止水処理部を、低粘度液体状態の止水剤31に浸漬させることにより、被止水処理部に止水剤を塗布する止水剤塗布機構E1と、止水剤を塗布した電線の先端に熱収縮性キャップCを被せるキャップ装着機構E2と、熱収縮性キャップを被せた電線の先端を加熱処理するヒータ40と、止水剤を塗布し熱収縮性キャップを被せた作業位置から電線の先端をヒータに移動し、ヒータによる加熱処理後に、電線の先端を元の作業位置に移動する搬送機構E3と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の先端に止水処理を施す装置であって、
前記電線の先端の被止水処理部を止水剤に浸漬させることにより、前記被止水処理部に止水剤を塗布する止水剤塗布機構と、
前記止水剤を塗布した電線の先端に熱収縮性キャップを被せるキャップ装着機構と、
前記熱収縮性キャップを被せた電線の先端を加熱処理するヒータと、
前記止水剤を塗布し前記熱収縮性キャップを被せた作業位置から前記電線の先端を前記ヒータに移動し、前記ヒータによる加熱処理後に、前記電線の先端を元の作業位置に移動する搬送機構と、を備える、
電線の止水処理装置。
【請求項2】
前記止水剤塗布機構は、
上方が開放し中に低粘度液体状態の止水剤を収容した止水剤容器と、
前記止水剤容器の上方に位置して前記電線の先端を保持し、該電線の先端を、水平方向に向けた姿勢から下方に向けた姿勢に移動し、下方に向けた姿勢で前記電線の先端を下降させることにより前記被止水処理部を前記止水剤に浸漬させ、浸漬後に前記電線の先端を上昇させると共に下方に向けた姿勢から水平方向に向けた姿勢に移動する第1アームと、
を有している、
請求項1に記載の電線の止水処理装置。
【請求項3】
前記キャップ装着機構は、
前記第1アームによって水平方向に向けた姿勢で保持された前記電線の先端に対向するように前記キャップを先端で保持し、前記電線の先端に向けて前記キャップを相対的に前進させることにより、前記止水剤を塗布した電線の先端に前記キャップを被せる第2アームを有している、
請求項2に記載の電線の止水処理装置。
【請求項4】
前記搬送機構は、
前記電線の先端に前記キャップが装着された状態で、前記第1アームと前記第2アームとを相互位置関係を維持したまま前記ヒータ側に移動し、前記ヒータによる加熱処理後に、前記第1アームと前記第2アームとを相互位置関係を維持したまま前記元の作業位置側に移動する、
請求項3に記載の電線の止水処理装置。
【請求項5】
前記第1アームに前記電線をセットする際に前記電線の先端を前記第1アームに対して位置決めする位置決め部材を備え、
前記位置決め部材は、前記電線の延在方向に対して垂直な方向に退避可能とされている、
請求項2~4のいずれか1項に記載の電線の止水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の先端に止水処理を施すための電線の止水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の芯線接合部などに水分が接触した場合、その水分が毛細管現象により芯線間の隙間に浸透して他所に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、車載用の電線などの場合、配線箇所によっては、芯線接合部などに止水処理を施すことが広く行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
止水処理の例として、瞬間接着剤など低粘度液体の止水剤で満たされた液槽に電線の先端の被止水処理部を浸漬させ、浸漬後に、当該浸漬箇所に熱収縮性キャップ(熱収縮チューブ)を被せて、ヒータで加熱処理することにより、止水剤を乾燥硬化させると共に、熱収縮性キャップの収縮により止水部を保護して、止水性能を得ることが一般的に行われている。
【0004】
ところで、従来では、作業者が手作業で上記の止水処理を行っているが、作業負荷が大きい上に、人手によるため安定した品質の提供を行うためには、作業者が経験を積む必要があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来の電線の被水処理は、作業者の人手によるため、作業負荷が大きい上に安定した品質の提供が難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、人手による作業負荷を減らして、安定した品質の止水処理部を得られるようにする電線の止水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線の止水処理装置は、下記(1)~(5)を特徴としている。
(1) 電線の先端に止水処理を施す装置であって、
前記電線の先端の被止水処理部を止水剤に浸漬させることにより、前記被止水処理部に止水剤を塗布する止水剤塗布機構と、
前記止水剤を塗布した電線の先端に熱収縮性キャップを被せるキャップ装着機構と、
前記熱収縮性キャップを被せた電線の先端を加熱処理するヒータと、
前記止水剤を塗布し前記熱収縮性キャップを被せた作業位置から前記電線の先端を前記ヒータに移動し、前記ヒータによる加熱処理後に、前記電線の先端を元の作業位置に移動する搬送機構と、を備える、
電線の止水処理装置。
【0009】
(2) 前記止水剤塗布機構は、
上方が開放し中に低粘度液体状態の止水剤を収容した止水剤容器と、
前記止水剤容器の上方に位置して前記電線の先端を保持し、該電線の先端を、水平方向に向けた姿勢から下方に向けた姿勢に移動し、下方に向けた姿勢で前記電線の先端を下降させることにより前記被止水処理部を前記止水剤に浸漬させ、浸漬後に前記電線の先端を上昇させると共に下方に向けた姿勢から水平方向に向けた姿勢に移動する第1アームと、
を有している、
上記(1)に記載の電線の止水処理装置。
【0010】
(3) 前記キャップ装着機構は、
前記第1アームによって水平方向に向けた姿勢で保持された前記電線の先端に対向するように前記キャップを先端で保持し、前記電線の先端に向けて前記キャップを相対的に前進させることにより、前記止水剤を塗布した電線の先端に前記キャップを被せる第2アームを有している、
上記(2)に記載の電線の止水処理装置。
【0011】
(4) 前記搬送機構は、
前記電線の先端に前記キャップが装着された状態で、前記第1アームと前記第2アームとを相互位置関係を維持したまま前記ヒータ側に移動し、前記ヒータによる加熱処理後に、前記第1アームと前記第2アームとを相互位置関係を維持したまま前記元の作業位置側に移動する、
上記(3)に記載の電線の止水処理装置。
【0012】
(5) 前記第1アームに前記電線をセットする際に前記電線の先端を前記第1アームに対して位置決めする位置決め部材を備え、
前記位置決め部材は、前記電線の延在方向に対して垂直な方向に退避可能とされている、
上記(2)~(4)のいずれかに記載の電線の止水処理装置。
【0013】
上記(1)の構成の電線の止水処理装置によれば、電線の先端の被止水処理部に止水剤を塗布する工程、止水剤を塗布した電線の先端に熱収縮性キャップを被せる工程、そのキャップを被せた電線の先端をヒータに導入して加熱処理し、塗布した止水剤を乾燥硬化させると共に熱収縮性キャップを収縮させる工程、という一連の止水処理作業を、人手によらず自動で行うことができる。したがって、人手による作業負荷を減らすことができると共に、安定した品質の止水処理製品を作ることができる。
【0014】
上記(2)の構成の電線の止水処理装置によれば、電線の先端の被止水処理部を止水剤に浸漬させる際に、第1アームを垂直面内で動かすだけでよいので、水平面内での動作領域を小さくすることができる。また、止水剤容器は第1アームの真下に置くことができる。そのため、水平面内での装置占有面積を小さくすることができ、装置全体のコンパクト化を図ることが可能になる。
【0015】
上記(3)の構成の電線の止水処理装置によれば、第2アームの先端に保持したキャップを第1アームに対して相対的に水平面内で前進させることにより、止水剤を塗布した電線の先端にキャップを被せることができる。したがって、第1アームと第2アームを水平面内で互いに対向する関係で配置すればよく、そのため装置のコンパクトが図れる上、第1アームと第2アームが並ぶ位置の側方に作業者が位置すれば、電線のセットとキャップのセットとを容易に行うことが可能になる。
【0016】
上記(4)の構成の電線の止水処理装置によれば、第1アームと第2アームの相互位置関係を維持したまま電線の先端をヒータに移動するので、ヒータを、キャップを被せた電線の先端の保持位置のすぐ側方に配置することができる。そのため、良好な作業性を確保することが可能になると共に、アームや電線の移動のために確保する必要のある領域も狭くすることができ、装置のコンパクト化に寄与することができる。
【0017】
上記(5)の構成の電線の止水処理装置によれば、第1アームで電線を保持する際の電線の先端位置を決めることができるので、第2アームの保持するキャップを電線の先端に被せた際の電線の先端とキャップとの位置関係を一定に管理することができる。すなわち、電線の先端がキャップの内奥端に突き当たる手前でキャップを被せる動作を止めることができるので、電線の先端がキャップの内奥端に突き当たって電線が曲がってしまうようなことがない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人手による作業負荷を減らして、安定した品質の止水処理部を作ることができる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る止水処理装置の概略構成を示す図で、
図1(a)は平面図、
図1(b)は側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る止水処理装置の第1アームに電線をセットしようとしている状態を示す側面図である。
【
図3】
図3は、
図2の次の工程として、第1アームで保持した電線の先端を垂直下方に向けた状態を示す側面図である。
【
図4】
図4は、
図3の次の工程として、第1アームで保持した電線の先端を下降させて止水剤に浸漬させている状態を示す側面図である。
【
図5】
図5は、
図4の次の工程として、止水剤に浸漬後の電線の先端を上昇させた状態を示す側面図である。
【
図6】
図6は、
図5の次の工程として、止水剤に浸漬後の電線の先端を水平方向に向け直した状態を示す側面図である。
【
図7】
図7は、
図6の次の工程として、止水剤の塗布された電線の先端に対し、第2アームを伸ばしてキャップを被せている状態を示す側面図である。
【
図8】
図8は、
図7の次の工程として、第2アームの先端に位置するキャップ保持チャックを開いた状態を示す図で、
図8(a)は側面図、
図8(b)は平面図である。
【
図9】
図9は、
図8の次の工程として、キャップを被せた電線の先端をヒータに移動した状態を示す平面図である。
【
図10】
図10は、
図9の次の工程として、ヒータで加熱後の電線の先端を元の作業位置に戻した状態を示す平面図である。
【
図11】
図11は、
図10の次の工程として、キャップ保持チャックを閉じて第2アームの先端をキャップから外し、第1アームの電線保持チャックを開いて、処理済みの電線を第1アームから取り外している状態を示す平面図である。
【
図12】
図12は、
図12の次の工程として、処理後の第2アームおよびキャップ保持チャックを元の位置に戻している状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る電線の止水処理装置の概略構成を示す図であり、
図1(a)は平面図、
図1(b)は側面図である。
【0023】
本実施形態の止水処理装置は、電線の芯線接合部などに止水処理を施すための装置であり、
図1(a)、(b)に示すように、止水剤塗布機構E1と、キャップ装着機構E2と、ヒータ40と、搬送機構E3と、を備えている。
【0024】
止水剤塗布機構E1は、電線Wの先端Waの被止水処理部(例えば、複数の被覆電線の芯線接合部)を、低粘度液体状態の止水剤31に浸漬させることにより、被止水処理部に止水剤31を塗布するようになっている。
【0025】
キャップ装着機構E2は、止水剤31を塗布した電線Wの先端Waに、熱収縮性キャップ(以下、単に「キャップ」とも言う)Cを被せるようになっている。このキャップCは、筒状に形成されており、前端に開口Csを有し、閉塞した後端に係合用の小凸部Ctを有している。
【0026】
また、ヒータ40は、熱収縮性キャップCを被せた電線Wの先端Waを加熱処理して、電線Wの先端Waに塗布した止水剤31を乾燥硬化させると共に、熱収縮性キャップCを熱収縮させるためのものである。
【0027】
さらに、搬送機構E3は、止水剤31を塗布し熱収縮性キャップCを被せた作業位置から、電線Wの先端Waをヒータ40に移動し、ヒータ40による加熱処理後に、電線Wの先端Waを元の作業位置に移動するためのものである。
【0028】
本実施形態では、作業者の立ち位置Mの正面が作業位置Nとして設定されており、その作業位置Nにおける右側に止水剤塗布機構E1が配置され、左側にキャップ装着機構E2が配置されている。
【0029】
ここでの作業者による作業は、主として、止水剤塗布機構E1に対する電線Wのセットおよび処理後の取り外しと、キャップ装着機構E2に対する熱収縮性キャップCのセットである。また、作業者の立ち位置Mから見て作業位置Nの向こう側(奥側)にヒータ40が配置されている。
【0030】
以下、より具体的な構成を説明する。
まず、作業者の立ち位置Mの正面右側に位置する止水剤塗布機構E1は、上方が開放し中に低粘度液体状態の止水剤31を収容した止水剤容器30と、止水剤容器30の上方に位置して電線Wの先端Waを保持する第1アーム10と、を有している。
【0031】
第1アーム10は、電線Wの先端Waを、水平方向に向けた姿勢から下方に向けた姿勢に移動し、下方に向けた姿勢で電線Wの先端Waを下降させることにより電線Wの先端Waの被止水処理部を止水剤31に浸漬させる。そして、浸漬後に電線Wの先端Waを上昇させると共に下方に向けた姿勢から水平方向に向けた姿勢に移動する。第1アーム10は、これら一連の動作を連続して行うようになっている。
【0032】
これら一連の動作を実行するために、第1アーム10は、電線Wの先端Waを水平方向左側に向けて直線状に支持する樋状のストレートガイド11と、ストレートガイド11の手前において電線Wの基端側を保持する開閉式の電線保持用チャック12と、ストレートガイド11および電線保持用チャック12を支持する上下揺動ベース13と、上下揺動ベース13の揺動機構14本体を昇降させるための昇降機構15と、を備えている。
【0033】
この第1アーム10にセットされる電線Wの先端Waは、水平に延びるストレートガイド11に案内されて左方向に向けて水平に延ばされる。そして、ストレートガイド11の基端側において、電線Wは、電線保持用チャック12の一対の把持ブロックによって水平方向に挟まれて保持される。
【0034】
第1アーム10に電線Wをセットする際に、電線Wの先端Waを第1アーム10に対して位置決めすることが望ましい。そのため、本実施形態の止水処理装置は、可動式の位置決め部材50を備えている。この位置決め部材50は、必要時には必要な位置(位置決めするための位置)に移動し、必要時以外は、他の動作の邪魔にならないように、電線の延在方向に対して垂直下方向に退避可能となるよう設備されている。
【0035】
また、位置決め部材50と、ストレートガイド11の先端との間には、止水剤塗布後の電線Wの先端Waを後述するキャップCに対して軸心合わせするための軸心合わせホールド60が設けられている。この軸心合わせホールド60は、上下に開閉して上下から電線Wを挟む挟持腕を有し、閉じたときに、ストレートガイド11の先端よりも先方に延びる電線Wの先端Waよりやや基端側の位置を軽く挟持することができるようになっている。この軸心合わせホールド60は、開いたときには、他の動作の邪魔にならない位置に挟持腕を退避するように設けられている。
【0036】
一方、作業者の立ち位置の正面左側に位置するキャップ装着機構E2は、第2アーム20を有している。この第2アーム20は、上方から投入されるキャップCを受けて支持するキャップ保持用チャック21と、左右方向にシリンダロッド22を伸縮するシリンダ(シリンダの本体は図示略)と、を有している。
【0037】
キャップ保持用チャック21は、一対のブロックを水平方向から下方に向けて開閉回動するようになっている。キャップ保持用チャック21は、閉じた状態のとき、上方からセットされるキャップCを受けて保持し、開いた状態のときキャップCの保持を解除して、キャップCを装着した電線Wの先端Waの移動を妨げることがないように設けられている。このキャップ保持用チャック21は、シリンダロッド22の伸縮方向と同方向(左右方向)にスライド自在に設けられている。また、シリンダロッド22の先端には、キャップCの後端の小凸部Ctに係合する係合部22aが設けられている。
【0038】
このように構成された第2アーム20は、第1アーム10によって水平方向に向けた姿勢で保持された電線Wの先端Waに対向するようにキャップCを先端で保持する。そして、水平方向に向けた姿勢で保持された電線Wの先端Waに向けてキャップCを相対的に前進(右方向へ移動)させることにより、止水剤31を塗布した電線Wの先端WaにキャップCを被せるようになっている。
【0039】
搬送機構E3は、電線Wの先端にキャップCが装着された状態で、第1アーム10と第2アーム20とを相互位置関係を維持したまま作業位置Nからヒータ40に移動し、ヒータ40による加熱処理後に、第1アーム10と第2アーム20とを相互位置関係を維持したまま元の作業位置Nに移動するものである。
【0040】
本実施形態では、搬送機構E3は、第1アーム10側と第2アーム20側で別々に設けられているものの、連動するように駆動制御される。
【0041】
すなわち、第1アーム10側の搬送機構E3は、作業位置Nの右側方からヒータ40の右側方まで延びる直線状のレール17と、このレール17に沿ってスライドするスライダ16と、このスライダ16をリニア駆動する駆動機構(図示略)と、を有している。そして、このスライダ16に第1アーム10の昇降機構15の本体部が固定されている。
【0042】
また、第2アーム20側の搬送機構E3は、作業位置Nの左側方からヒータ40の左側方まで延びる直線状のレール27と、このレール27に沿ってスライドするスライダ26と、このスライダ26をリニア駆動する駆動機構(図示略)と、を有している。そして、このスライダ26に第2アーム20のシリンダの本体部が固定されている。
【0043】
第1アーム10側のレール17と第2アーム20側のレール27は、互いに平行に設置されており、第1アーム10側のスライダ16と第2アーム20側のスライダ26は、同期してスライドするように制御される。
【0044】
したがって、第1アーム10側のスライダ16および第2アーム20側のスライダ26は、
図1(a)中の矢印A1方向に移動する。また、第1アーム10側のストレートガイド11および電線保持用チャック12は、
図1(b)中矢印A2で示すように上下方向に揺動し、
図1(b)中矢印A3で示すように上下方向に昇降する。また、第2アーム20のシリンダロッド22の先端は、
図1(a)、(b)中矢印A4で示すように左右方向に大きく移動するか、または、矢印A5で示すように左右方向に小さく移動する。また、第2アーム20のキャップ保持用チャック21は、
図1(a)、(b)中に矢印A4で示すように左右方向に大きく移動する。
【0045】
次に、一連の作業内容について説明する。なお、一連の動作の制御については、ところどころで手動スイッチの操作により手動で指令を出すようにしてもよいが、最初の指令のみを手動で操作するようにし、あとは図示しないセンサ等の信号に基づいて自動で制御が進むようにしてもよい。
【0046】
まず、作業者は立ち位置Mに位置する。そして、
図2に示すように、電線Wを第1アーム10にセットする(矢印Y1)。この際、電線Wの先端Waを位置決め部材50で位置決めしながら、電線Wを樋状のストレートガイド11に載せると共に、電線Wの基端側を電線保持用チャック12で把持する。また、左端に位置して閉じた状態に保たれているキャップ保持用チャック21に、上方からキャップCをセットする(矢印Y2)。なお、このキャップCのセットは、後述するように後の段階で行ってもよい。
【0047】
電線W等のセットが終わったら、例えば、スイッチ操作により、一連の作業を自動で進める。まず、
図3に示すように、位置決め部材50を下方に退避させると共に、第1アーム10の上下揺動ベース13を矢印Y3のように下向きに回転させて、電線保持用チャック12が保持した電線Wの先端Waを、水平方向に向いた姿勢から垂直下方に向いた姿勢となるように回転させる(矢印Y3a)。
【0048】
次に、
図4に示すように、昇降機構15を下降動作させて(矢印Y4)、第1アーム10の電線保持用チャック12が保持した電線Wの先端Waを下降させ(矢印Y4a)、電線Wの先端Waの被止水処理部を、止水剤容器30の中の止水剤31に浸漬させる。
【0049】
次に、
図5に示すように、昇降機構15を上昇動作させて(矢印Y5)、第1アーム10の電線保持用チャック12が保持した電線Wの先端Waを上昇させ(矢印Y5a)、電線Wの先端Waの被止水処理部を止水剤31から引き上げる。この段階で、電線Wの先端Waの被止水処理部には、止水剤31が塗布されている。
【0050】
次に、
図6に示すように、第1アーム10の上下揺動ベース13を矢印Y6のように上向きに回転させて、電線保持用チャック12が保持した電線Wの先端Waを、垂直下方に向いた姿勢から水平方向に向いた姿勢となるように回転させる(矢印Y6a)。水平方向に向き直ったら、軸心合わせホールド60を閉じて、電線Wの先端Waの位置をキャップCに対して軸心合わせする。
【0051】
次に、
図7に示すように、第2アーム20のシリンダロッド22を伸長させると共に、キャップ保持用チャック21を電線Wの先端Waに向けて前進させ(矢印Y8)、所定の位置でストップすることで、キャップCを、止水剤31を塗布した電線Wの先端Waに被せる。なお、この動作の前に第2アーム20のキャップ保持用チャック21にキャップCをセットしてもよい。
【0052】
キャップCを被せたら、次に、
図8(a)の側面図および
図8(b)の平面図に示すように、軸心合わせホールド60を開く(矢印Y9)と共に、キャップ保持用チャック21を開く(矢印Y10)。この段階で、電線Wの先端に被せられたキャップCは、シリンダロッド22の先端の係合部22aがキャップCの後端の小凸部Ctに係合していることにより、脱落しないように支えられる。
【0053】
次に、
図9に示すように、搬送機構E3を動作させて第1アーム10側のスライダ16と第2アーム20側のスライダ26とを同期してヒータ40側にスライドさせ(矢印Y11)、第1アーム10と第2アーム20に保持された電線Wの先端Waを、作業位置Nからヒータ40に導入する(矢印Y11a)。このときの電線Wの先端Waには、キャップCが被せられている。そして、ヒータで加熱処理が行われることにより、電線Wの先端Waに塗布された止水剤31が乾燥硬化すると共に、熱収縮性キャップCが熱収縮し、電線Wの先端Waの被止水処理部が保護される。
【0054】
次に、加熱処理が終わった段階で、
図10に示すように、搬送機構E3を逆に動作させて第1アーム10側のスライダ16と第2アーム20側のスライダ26を同期して作業位置N側にスライドさせ(矢印Y12)、第1アーム10と第2アーム20に保持された電線Wの先端(熱収縮したキャップCxに保護されている)Waを、ヒータ40から作業位置Nに戻す(矢印Y12a)。
【0055】
この段階で、キャップCは電線Wの先端Waに一体化されている。したがって、
図11に示すように、まず、いったんキャップ保持用チャック21を閉じて(矢印Y13)、その状態でシリンダロッド22を僅かに退縮方向に動かして、シリンダロッド22の先端の係合部22aをキャップCの後端の小凸部Ctから抜く(矢印Y14)。このとき、キャップ保持用チャック21は固定状態にある。そして、電線保持用チャック12を開いて電線Wの保持を解除し、処理完了した電線Wを第1アーム10から取り出す。このとき、キャップ保持用チャック21は閉じているが、キャップCが既に収縮しているので、キャップCに対する拘束力はなく、収縮したキャップCで保護された電線Wの先端Waを容易に取り出すことができる。
【0056】
次に、処理済みの電線Wを取り外したら、
図12に示すように、第2アーム20のシリンダロッド22の先端とキャップ保持用チャック21とを左側の初期位置まで移動する(矢印Y16)。以上により、1回の電線Wの先端Waに対する作業を完了し、
図1に示す次の作業を始める状態に戻る。
【0057】
以上の説明のように、本実施形態の電線の止水処理装置によれば、電線Wの先端Waの被止水処理部に止水剤31を塗布する工程、止水剤31を塗布した電線Wの先端Waに熱収縮性キャップCを被せる工程、そのキャップCを被せた電線Wの先端Waをヒータ40に導入して加熱処理し、塗布した止水剤31を乾燥硬化させると共に熱収縮性キャップCを収縮させる工程、という一連の止水処理作業を自動で行うことができる。したがって、人手による作業負荷を減らすことができると共に、安定した品質の止水処理製品を作ることができる。
【0058】
また、電線Wの先端Waの被止水処理部を止水剤31に浸漬させる際に、第1アーム10を垂直面内で動かすだけでよいので、水平面内での動作領域を小さくすることができる。また、止水剤容器30は第1アーム10の真下に置くことができる。そのため、水平面内での装置占有面積を小さくすることができ、装置全体のコンパクト化を図ることが可能になる。
【0059】
また、第2アーム20の先端に保持したキャップCを第1アーム10に対して相対的に水平面内で前進させることにより、止水剤31を塗布した電線Wの先端WaにキャップCを被せることができる。したがって、第1アーム10と第2アーム20を水平面内で互いに対向する関係で配置すればよく、そのため装置のコンパクトが図れる上、第1アーム10と第2アーム20が並ぶ位置の側方(例えば、左右に第1アーム10と第2アーム20が並ぶ場合は、それらの手前側)に作業者が位置すれば、電線WのセットとキャップCのセットとを容易に行うことが可能になる。
【0060】
また、第1アーム10と第2アーム20の相互位置関係を維持したまま電線の先端をヒータ40に移動するので、ヒータ40を、キャップCを被せた電線Wの先端の保持位置のすぐ側方(例えば、左右に第1アーム10と第2アーム20が並び、作業者がそれらの手前側に位置する場合は、第1アーム10と第2アーム20が並ぶ位置の向こう側)に配置することができる。そのため、良好な作業性を確保することが可能になると共に、アーム10、20や電線Wの移動のために確保する必要のある領域も狭くすることができ、装置のコンパクト化に寄与することができる。
【0061】
また、第1アーム10で電線Wを保持する際の電線Wの先端位置を位置決め部材50で決めることができるので、第2アーム20の保持するキャップCを電線Wの先端Waに被せた際の電線Wの先端WaとキャップCとの位置関係を一定に管理することができる。すなわち、電線Wの先端WaがキャップCの内奥端に突き当たる手前でキャップCを被せる動作を止めることができるので、電線Wの先端WaがキャップCの内奥端に突き当たって電線Wが曲がってしまうようなことがない。
【0062】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0063】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る電線の止水処理装置の特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 電線(W)の先端に止水処理を施す装置であって、
前記電線(W)の先端(Wa)の被止水処理部を止水剤(31)に浸漬させることにより、前記被止水処理部に止水剤(31)を塗布する止水剤塗布機構(E1)と、
前記止水剤(31)を塗布した電線(W)の先端(Wa)に熱収縮性キャップ(C)を被せるキャップ装着機構(E2)と、
前記熱収縮性キャップ(C)を被せた電線(W)の先端(Wa)を加熱処理するヒータ(40)と、
前記止水剤(31)を塗布し前記熱収縮性キャップ(C)を被せた作業位置(N)から前記電線(W)の先端(Wa)を前記ヒータ(40)に移動し、前記ヒータ(40)による加熱処理後に、前記電線(W)の先端(Wa)を元の作業位置に移動する搬送機構(E3)と、を備える、
電線の止水処理装置。
【0064】
[2] 前記止水剤塗布機構(E1)は、
上方が開放し中に低粘度液体状態の止水剤(31)を収容した止水剤容器(30)と、
前記止水剤容器(30)の上方に位置して前記電線(W)の先端(Wa)を保持し、該電線(W)の先端(Wa)を、水平方向に向けた姿勢から下方に向けた姿勢に移動し、下方に向けた姿勢で前記電線(W)の先端(Wa)を下降させることにより前記被止水処理部を前記止水剤(31)に浸漬させ、浸漬後に前記電線(W)の先端(Wa)を上昇させると共に下方に向けた姿勢から水平方向に向けた姿勢に移動する第1アーム(10)と、
を有している、
上記[1]に記載の電線の止水処理装置。
【0065】
[3] 前記キャップ装着機構(E2)は、
前記第1アーム(10)によって水平方向に向けた姿勢で保持された前記電線(W)の先端(Wa)に対向するように前記キャップ(C)を先端で保持し、前記電線(W)の先端(Wa)に向けて前記キャップ(C)を相対的に前進させることにより、前記止水剤(31)を塗布した電線(W)の先端(Wa)に前記キャップ(C)を被せる第2アーム(20)を有している、
上記[2]に記載の電線の止水処理装置。
【0066】
[4] 前記搬送機構(E3)は、
前記電線(W)の先端(Wa)に前記キャップ(C)が装着された状態で、前記第1アーム(10)と前記第2アーム(20)とを相互位置関係を維持したまま前記ヒータ(40)側に移動し、前記ヒータ(40)による加熱処理後に、前記第1アーム(10)と前記第2アーム(20)とを相互位置関係を維持したまま前記元の作業位置(N)側に移動する、
上記[3]に記載の電線の止水処理装置。
【0067】
[5] 前記第1アーム(10)に前記電線(W)をセットする際に前記電線(W)の先端(Wa)を前記第1アーム(10)に対して位置決めする位置決め部材(50)を備え、
前記位置決め部材(50)は、前記電線(W)の延在方向に対して垂直な方向に退避可能とされている、
上記[2]~[4]のいずれかに記載の電線の止水処理装置。
【符号の説明】
【0068】
10 第1アーム
11 ストレートガイド
12 電線保持用チャック
13 上下揺動ベース
14 揺動機構
15 昇降機構
16 スライダ
17 レール
20 第2アーム
21 キャップ保持用チャック
22 シリンダロッド
22a 係合部
26 スライダ
27 レール
30 止水剤容器
31 止水剤
40 ヒータ
50 位置決め部材
60 ホールド
C キャップ
E1 止水剤塗布機構
E2 キャップ装着機構
E3 搬送機構
N 作業位置
W 電線
Wa 先端