(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190430
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】タイヤの設計方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098752
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴臣
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC55
3D131LA33
(57)【要約】
【課題】 面取りの設計に必要なコストを低減可能な設計方法及び製造方法を提供する。
【解決手段】 タイヤの設計方法及び製造方法である。この方法は、コンピュータに、コーナ部に実質的な面取りが形成されていないタイヤを、複数の節点を有する要素を用いてモデリングした第1タイヤモデルを入力する工程S1と、コンピュータに、路面をモデリングした路面モデルを入力する工程S2と、コンピュータが、第1タイヤモデルを路面モデルの上で転動させ、複数の節点のうち、第1タイヤモデルの踏面上に位置する節点の物理量を計算する工程S3と、コンピュータが、物理量に基づいて、踏面上の節点を移動させ、コーナ部に面取りが形成された第2タイヤモデルを作成する工程S4とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に複数の陸部を有し、前記複数の陸部の少なくとも1つには、踏面と側壁面とが交わるコーナ部に面取りが形成されたタイヤを設計するための方法であって、
コンピュータに、前記コーナ部に実質的な面取りが形成されていないタイヤを、複数の節点を有する要素を用いてモデリングした第1タイヤモデルを入力する工程と、
前記コンピュータに、路面をモデリングした路面モデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、前記第1タイヤモデルを前記路面モデルの上で転動させ、前記複数の節点のうち、前記第1タイヤモデルの踏面上に位置する節点の物理量を計算する工程と、
前記コンピュータが、前記物理量に基づいて、前記踏面上の節点を移動させ、前記コーナ部に面取りが形成された第2タイヤモデルを作成する工程とを含む、
タイヤの設計方法。
【請求項2】
前記第2タイヤモデルを作成する工程は、前記物理量が、予め定められた閾値よりも大きい節点のみを移動させる、請求項1に記載のタイヤの設計方法。
【請求項3】
前記面取りに関する予め定められた制約条件を、前記コンピュータに入力する工程をさらに含み、
前記第2タイヤモデルを作成する工程は、前記制約条件を満足するように、前記節点を移動させる、請求項1又は2に記載のタイヤの設計方法。
【請求項4】
前記物理量を計算する工程での前記転動が、制動、駆動及び旋回の少なくとも1つを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤの設計方法。
【請求項5】
前記物理量は、摩耗エネルギー又は接地圧であり、
前記第2タイヤモデルを作成する工程は、前記踏面上での前記物理量の分布が均一に近づくように前記踏面上の節点を移動させる、請求項4に記載のタイヤの設計方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤの設計方法で作成された前記第2タイヤモデルに基づいて、前記タイヤを製造する工程を含む、
タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの設計方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に、タイヤ周方向に連続する複数の主溝と、これらの主溝の間に区分された複数の陸部とを具えたタイヤが記載されている。これらの陸部には、踏面と側壁面とが交わるコーナ部に、面取りが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような面取りは、陸部の接地圧の局所的な集中を防ぐことができるものの、多数の面取りや、大きな面取りが必要以上に形成されると、踏面の接地圧の不均一な分布や、ランド比の低下を招いて、走行性能等を低下させるおそれがある。このため、面取りの設計には、例えば、ハンドカットによるタイヤの試作や、シミュレーションモデルの作成等を繰り返して、走行性能等の検証が必要となるため、多くのコストを要するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、面取りの設計に必要なコストを低減可能な設計方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部に複数の陸部を有し、前記複数の陸部の少なくとも1つには、踏面と側壁面とが交わるコーナ部に面取りが形成されたタイヤを設計するための方法であって、コンピュータに、前記コーナ部に実質的な面取りが形成されていないタイヤを、複数の節点を有する要素を用いてモデリングした第1タイヤモデルを入力する工程と、前記コンピュータに、路面をモデリングした路面モデルを入力する工程と、前記コンピュータが、前記第1タイヤモデルを前記路面モデルの上で転動させ、前記複数の節点のうち、前記第1タイヤモデルの踏面上に位置する節点の物理量を計算する工程と、前記コンピュータが、前記物理量に基づいて、前記踏面上の節点を移動させ、前記コーナ部に面取りが形成された第2タイヤモデルを作成する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記第2タイヤモデルを作成する工程は、前記物理量が、予め定められた閾値よりも大きい節点のみを移動させてもよい。
【0008】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記面取りに関する予め定められた制約条件を、前記コンピュータに入力する工程をさらに含み、前記第2タイヤモデルを作成する工程は、前記制約条件を満足するように、前記節点を移動させてもよい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記物理量を計算する工程での前記転動が、制動、駆動及び旋回の少なくとも1つを含んでもよい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤの設計方法において、前記物理量は、摩耗エネルギー又は接地圧であり、前記第2タイヤモデルを作成する工程は、前記踏面上での前記物理量の分布が均一に近づくように前記踏面上の節点を移動させてもよい。
【0011】
本発明は、前記タイヤの設計方法で作成された前記第2タイヤモデルに基づいて、前記タイヤを製造する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のタイヤの設計方法は、上記の工程を採用することにより、面取りの設計に必要なコストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】タイヤの設計方法及び製造方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
【
図2】タイヤの設計方法で設計されるタイヤの一例を示す部分断面図である。
【
図3】タイヤの設計方法及びタイヤの製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
【
図5】第1タイヤモデルの一例を示す部分断面図である。
【
図6】(a)は、節点が移動する前の状態の一例を説明する図、(b)は、節点が移動した後の状態の一例を説明する図である。
【
図7】第2タイヤモデルの一例を示す部分断面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態のタイヤの設計方法及びタイヤの製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】(a)は、実施例のミドル陸部モデルの面取りの一例を示す図、(b)は、比較例のミドル陸部モデルの面取りの一例を示す図である。
【
図10】(a)は、実施例の第2タイヤモデルの接地圧分布を示す図、(b)は、比較例のタイヤモデルの接地圧分布を示す図である。
【
図11】摩擦係数とスリップ率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0015】
[コンピュータ]
図1は、本実施形態のタイヤの設計方法及び製造方法(以下、それぞれ「設計方法」及び「製造方法」ということがある。)を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、例えば、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の設計方法及び製造方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、タイヤの設計装置及び製造装置として構成される。
【0016】
[タイヤ]
図2は、本実施形態のタイヤの設計方法で設計されるタイヤ2の一例を示す部分断面図である。本実施形態では、乗用車用の空気入りタイヤが例示されるが、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、及び、エアレスタイヤ等、他のカテゴリーのタイヤであってもよい。
【0017】
本実施形態のタイヤ2は、トレッド部3に、複数の陸部4を有している。
【0018】
本実施形態の陸部4は、タイヤ周方向に連続して延びる複数本の周方向溝5によって区分されている。本実施形態の周方向溝5には、一対のセンター周方向溝5A、5Aと、一対のショルダー周方向溝5B、5Bとが含まれる。一対のセンター周方向溝5A、5Aは、タイヤ赤道Cのタイヤ軸方向の両外側に配置されている。一対のショルダー周方向溝5B、5Bは、センター周方向溝5Aとトレッド接地端3tとの間に配置される。
【0019】
本明細書において、「トレッド接地端3t」とは、正規状態のタイヤ2に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度にて平坦面に接地させたときのトレッド接地面6のタイヤ軸方向の最外端とする。正規状態とは、タイヤ2が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。なお、本明細書において、タイヤ各部の寸法等は、特に断りがない場合、正規状態で測定された値として特定される。
【0020】
「正規リム」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。したがって、正規リムは、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
【0021】
「正規内圧」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。したがって、正規内圧は、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【0022】
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ2毎に定めている荷重である。したがって、正規荷重は、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0023】
本実施形態の陸部4は、センター陸部4A、一対のミドル陸部4B、4B及び一対のショルダー陸部4C、4Cが含まれる。センター陸部4Aは、一対のセンター周方向溝5A、5Aで区分されている。一対のミドル陸部4B、4Bは、センター周方向溝5Aとショルダー周方向溝5Bとで区分されている。一対のショルダー陸部4C、4Cは、ショルダー周方向溝5Bとトレッド接地端3tとで区分されている。
【0024】
本実施形態では、センター陸部4A、一対のミドル陸部4B、4B及び一対のショルダー陸部4C、4Cに、周方向溝5と交差する向きに延びる横溝7が、タイヤ周方向に隔設されている。これにより、センター陸部4A、一対のミドル陸部4B、4B及び一対のショルダー陸部4C、4Cには、横溝7で区分された複数のブロック8がそれぞれ設けられている。
【0025】
複数の陸部4(各ブロック8)は、踏面9と、側壁面10とを含んで構成されている。本実施形態の側壁面10は、踏面9の端部(コーナ部13)から、周方向溝5及び横溝7の溝底11、又は、サイドウォール部12に向かって延びている。
【0026】
踏面9と側壁面10とが交わるコーナ部13(
図2において、二点鎖線で示す)は、その他の踏面9に比べて、接地圧が局所的に集中し、偏摩耗が生じやすい。このため、複数の陸部4の少なくとも1つには、コーナ部13に面取り14が形成されている。
【0027】
本実施形態の面取り14は、踏面9と、周方向溝5に面する側壁面10とのコーナ部13に形成されている。さらに、面取り14は、踏面9と、横溝7に面する側壁面(図示省略)とのコーナ部(図示省略)に形成されている。なお、面取り14は、このような態様に限定されるわけではなく、コーナ部13に適宜形成されうる。
【0028】
上述のような面取り14は、陸部4の接地圧の局所的な集中や、偏摩耗を防ぐのに役立つ。一方で、多数の面取り14や、大きな面取り14が必要以上に形成されると、踏面9の接地圧の不均一な分布や、ランド比の低下を招いて、走行性能(例えば、制動性能、駆動性能及び旋回性能)等を低下させるおそれがある。このため、従来の面取り14の設計では、例えば、ハンドカットによるタイヤ2の試作や、シミュレーションモデル(タイヤモデル)の作成等を繰り返して、走行性能等の検証が行われていたため、多くのコストを要するという問題があった。
【0029】
[タイヤの設計方法(第1実施形態)]
本実施形態の設計方法は、以下に説明する処理手順に基づいて、陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、走行性能を維持しうる面取り14の形状を直接取得している。これにより、本実施形態の設計方法は、タイヤ2の試作等を繰り返す従来の設計方法に比べて、面取りの設計に必要なコストを低減させている。
図3は、タイヤの設計方法及びタイヤの製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0030】
[第1タイヤモデル入力工程]
本実施形態の設計方法では、先ず、コンピュータ1(
図1に示す)に、コーナ部13に実質的な面取り14が形成されていないタイヤ2(
図2で二点鎖線で示す)を、複数の節点を有する要素を用いてモデリングした第1タイヤモデルが入力される(工程S1)。ここで、「実質的な面取り」とは、陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぐことを目的として形成された面取り14(
図2に示す)を意味している。このため、当該目的として形成されていないもの(例えば、美観の向上等を目的とした形式的な面取り(面取り状に形成されたもの))は、実質的な面取り14に含まれない。
【0031】
図4は、第1タイヤモデル21及び路面モデル23の一例を示す斜視図である。
図5は、第1タイヤモデル21の一例を示す部分断面図である。なお、
図4では、
図5に示した第1タイヤモデル21の要素F(i)が省略されている。
【0032】
図5に示されるように、工程S1では、
図2に示したコーナ部13に実質的な面取り14が形成されていないタイヤ2(
図2で二点鎖線で示す)が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)を用いてモデリング(離散化)される。これにより、工程S1では、面取りが形成されていない第1タイヤモデル21が設定される。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
【0033】
要素F(i)には、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。各要素F(i)は、複数の節点24を有している。さらに、各要素F(i)は、節点24、24間をつなぐ直線状の辺25が設けられている。
【0034】
各要素F(i)には、要素番号、節点24の番号、及び、節点24の座標値などの数値データが定義される。さらに、各要素F(i)には、
図2に示したタイヤ部材(トレッドゴムなど)の材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、損失正接(tanδ)、及び/又は、複素弾性率E*等)などの数値データが定義される。
【0035】
本実施形態の第1タイヤモデル21のトレッド部21Tには、周方向溝5(
図2に示す)をモデリングした周方向溝モデル26と、陸部4を(
図2に示す)モデリングした陸部モデル27とが設定される。
【0036】
本実施形態の周方向溝モデル26は、一対のセンター周方向溝モデル26A、26Aと、一対のショルダー周方向溝モデル26B、26Bとが含まれる。一対のセンター周方向溝モデル26A、26Aは、一対のセンター周方向溝5A、5A(
図2に示す)をそれぞれモデリングしたものである。一対のショルダー周方向溝モデル26B、26Bは、一対のショルダー周方向溝5B、5B(
図2に示す)をそれぞれモデリングしたものである。
【0037】
本実施形態の陸部モデル27は、センター陸部モデル27A、一対のミドル陸部モデル27B、27B及び一対のショルダー陸部モデル27C、27Cが含まれる。センター陸部モデル27Aは、センター陸部4A(
図2に示す)をモデリングしたものである。一対のミドル陸部モデル27B、27Bは、一対のミドル陸部4B、4B(
図2に示す)をそれぞれモデリングしたものである。一対のショルダー陸部モデル27C、27Cは、一対のショルダー陸部4C、4C(
図2に示す)をそれぞれモデリングしたものである。
【0038】
本実施形態では、センター陸部モデル27A、一対のミドル陸部モデル27B、27B及び一対のショルダー陸部モデル27C、27Cに、横溝(
図7に示す)をモデリングした横溝モデル(図示省略)が設けられる。これにより、センター陸部モデル27A、一対のミドル陸部モデル27B、27B及び一対のショルダー陸部モデル27C、27Cには、複数のブロック8をそれぞれモデリングした複数のブロックモデル28が設けられる。
【0039】
複数の陸部モデル27(各ブロックモデル28)には、
図2に示した複数の陸部4(各ブロック8)と同様に、踏面29、及び、側壁面30が含まれる。さらに、複数の陸部モデル27(各ブロックモデル28)には、踏面29と側壁面30とが交わるコーナ部31が含まれている。これらのコーナ部31には、実質的な面取りが形成されていない。
【0040】
第1タイヤモデル21のその他の構造は、
図2に示したタイヤ2の構造に基づいて、従来のタイヤモデルと同様手順で設定されうる。第1タイヤモデル21は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0041】
[路面モデル入力工程]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(
図1に示す)に、路面(図示省略)をモデリングした路面モデル23が入力される(工程S2)。本実施形態の工程S2では、図示しない路面に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S2では、路面モデル23が設定される。
【0042】
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。要素G(i)には、複数の節点32が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点32の座標値等の数値データが定義される。
【0043】
本実施形態の路面モデル23は、平滑な表面に設定されているが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設定されても良い。路面モデル23は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0044】
[物理量計算工程]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1タイヤモデル21を路面モデル23の上で転動させて、
図5に示した複数の節点24のうち、第1タイヤモデル21の踏面29上に位置する節点24の物理量が計算される(工程S3)。
【0045】
本実施形態の工程S3では、先ず、
図4に示されるように、路面モデル23の上で転動する第1タイヤモデル21が計算される。第1タイヤモデル21の転動は、適宜計算することができる。本実施形態では、例えば、特許文献(特開2019-91302号公報)に記載の手順のように、予め定められた境界条件に基づいて、内圧充填後の第1タイヤモデル21を計算し、その第1タイヤモデル21を路面モデル23の上に転動させた状態が計算される。
【0046】
第1タイヤモデル21の変形計算(転動計算)は、
図5に示した各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件が当てはめられた運動方程式が作成され、微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎に、第1タイヤモデル21の変形計算が行われる。
【0047】
第1タイヤモデル21の変形計算(転動計算)は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。単位時間T(x)は、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定されうる。
【0048】
第1タイヤモデル21の転動には、例えば、タイヤ2(
図2に示す)の走行状態に応じて、自由転動、制動、駆動、及び、旋回などが適宜設定される。本実施形態の転動には、制動、駆動、及び、旋回の少なくとも1つが含まれる。これらの第1タイヤモデル21の転動は、第1タイヤモデル21に、角速度V1(
図4に示す)やスリップ角(図示省略)が適宜定義されることで、容易に計算することができる。
【0049】
次に、本実施形態の工程S3では、
図5に示した第1タイヤモデル21を構成する複数の節点24のうち、第1タイヤモデル21の踏面29上に位置する節点24の物理量が計算される。物理量には、特に限定されないが、陸部4の接地圧の局所的な集中や、陸部4の偏摩耗に関係するものが望ましい。本実施形態の物理量は、摩耗エネルギー又は接地圧(本例では、摩耗エネルギー)が採用される。
【0050】
工程S3では、第1タイヤモデル21に作用する力が定常状態(安定した状態)まで転動させたのちに、踏面29上の各節点24の物理量が計算されるのが望ましい。また、本実施形態では、第1タイヤモデル21の踏面29上の各節点24において、路面モデル23に接触してから離間するまでの間において、微小時間(単位時間T(x))ごとに、物理量が計算される。各節点24の物理量は、コンピュータ1に入力される。
【0051】
[第2タイヤモデル作成工程]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1が、第1タイヤモデル21のコーナ部31に、面取りが形成された第2タイヤモデル22を作成する(工程S4)。工程S4では、工程S3で計算された物理量に基づいて、第1タイヤモデル21の踏面29上の節点24を移動させることにより、コーナ部31に面取りが形成された第2タイヤモデル22が作成される。
図6(a)は、節点24が移動する前の状態の一例を説明する図である。
図6(b)は、節点24が移動した後の状態の一例を説明する図である。
【0052】
踏面29上の節点24の移動手順は、特に限定されるわけではないが、例えば、特許文献(特開2017-033076号公報)や、特許文献(特開2019-91302号公報)に記載の手順が採用されうる。これにより、本実施形態の工程S4では、
図6(a)及び(b)に示されるように、踏面29上の節点24と、踏面29上の節点24よりもタイヤ半径方向内側に位置する節点24とを結ぶ辺25に沿って、踏面29上の節点24を移動させることができる。
【0053】
図6(a)に示されるように、踏面29上の各節点24の移動量Mは、それらの節点24の物理量に基づいて決定される。本実施形態の移動量Mは、踏面29上の各節点24について、微小時間(単位時間)ごとに計算された物理量の総和に基づいて決定される。なお、移動量Mは、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、微小時間ごとに計算された物理量の平均値に基づいて決定されてもよい。
【0054】
本実施形態の工程S4では、第1タイヤモデル21の踏面29上の各節点24について、工程S3で計算された物理量(本例では、物理量の総和)が大きいほど、移動量Mが大きく設定されている。物理量は、コーナ部31側に位置する節点24において、相対的に大きくなる傾向がある。したがって、工程S4では、
図6(b)に示されるように、コーナ部31側に位置する節点24を、第1タイヤモデル21の内側(タイヤ半径方向の内側)に、大きく移動させることができる。このような節点24の移動により、工程S4では、第1タイヤモデル21のコーナ部31に、面取り33が形成された第2タイヤモデル22を作成することができる。
【0055】
第2タイヤモデル22では、面取り33を構成する節点24(移動した節点24)の物理量を、移動する前の節点24(
図6(a)に示す)物理量に比べて小さくすることができる。上述したように、本実施形態の物理量(本例では、摩耗エネルギー)は、陸部4の接地圧の局所的な集中に関係するものである。したがって、第2タイヤモデル22の面取り33の形状は、
図2に示したコーナ部13で生じがちな陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぐことができる。
【0056】
なお、踏面29上の各節点24の移動量Mは、例えば、特許文献(特開2019-91302号公報)に記載の手順と同様に、踏面29上の節点24の物理量(物理量の総和)が、摩耗進展率に乗じられることによって決定されてもよい。これにより、本実施形態の設計方法では、物理量が大きい節点24が必要以上に大きく移動して、現実から乖離した面取り33が形成されるのを防ぐことができる。
【0057】
また、工程S4では、物理量(本例では、物理量の総和)が、予め定められた閾値よりも大きい節点24のみを移動させてもよい。これにより、本実施形態では、閾値よりも小さい節点24が移動するのを防ぐことができるため、例えば、踏面29上に位置する全ての節点24が移動することを抑制できる。したがって、本実施形態の設計方法では、トレッドプロファイルの意図しない変形や、現実から乖離した面取り33の形成等が抑制される。閾値については、上記のような不具合を防ぐことができるように、適宜設定されうる。本実施形態の閾値は、例えば、踏面29上に位置する節点24について、それらの全ての節点24の物理量の平均値に、予め定められた係数を乗じた値や、それらの全ての節点24の物理量の最大値に、予め定められた係数を乗じた値に基づいて設定されうる。各係数は、適宜調整されうる。
【0058】
図7は、第2タイヤモデル22の一例を示す部分断面図である。第2タイヤモデル22は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0059】
[判断工程]
ところで、第2タイヤモデル22に形成された面取り33の形状(
図7に示す)により、陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぐことができたとしても、踏面29の物理量の分布が不均一になると、走行性能(例えば、制動性能など)等が低下するおそれがある。このような走行性能の低下を防ぐために、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1が、第2タイヤモデル22の踏面29上での物理量の分布が均一か否かを判断する(工程S5)。
【0060】
工程S5では、先ず、物理量を計算する工程S3と同様の手順に基づいて、第2タイヤモデル22を、
図4に示した路面モデル23上で転動させた状態が計算される。次に、工程S5では、第2タイヤモデル22を構成する複数の節点24のうち、第2タイヤモデル22の踏面29上に位置する各節点24の物理量が、それぞれに計算される。そして、工程S5では、第2タイヤモデル22の踏面29上での物理量の分布が、均一か否かが判断される。
【0061】
第2タイヤモデル22の踏面29上での物理量の分布が均一か否かは、適宜判断される。本実施形態では、第2タイヤモデル22の踏面29上に位置する全ての節点24の物理量について、それらの物理量の最大値と最小値との差(分散度)が、予め定められた閾値よりも小さい場合に、物理量が均一であると判断される。このような分散度(すなわち、物理量の最大値と最小値との差)は、その数値が大きいほど、物理量が大きくバラついており、物理量の分布が不均一であることを示している。閾値については、物理量の分布が均一であるか否かを判断できれば、適宜設定することができる。本実施形態の閾値は、例えば、踏面29上に位置する節点24について、工程S5で計算された全ての節点24の物理量の平均値に、予め定められた係数を乗じた値や、工程S3で計算された物理量の分散度に、予め定められた係数を乗じた値に基づいて設定されうる。各係数は、適宜調整されうる。
【0062】
工程S5において、第2タイヤモデル22の踏面29上での物理量の分布が均一であると判断された場合(工程S5で「Yes」)、第2タイヤモデル22は、陸部4(
図2に示す)の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、さらに、走行性能が維持されている。このため、本実施形態の製造方法(設計方法)では、第2タイヤモデル22に基づいて、タイヤ2(
図2に示す)が製造される(工程S6)。
【0063】
一方、工程S5において、第2タイヤモデル22の踏面29上での物理量の分布が均一ではないと判断された場合(工程S5で「No」)、第2タイヤモデル22では、陸部4(
図2に示す)の接地圧の局所的な集中を防げたとしても、走行性能の維持が困難である。このため、本実施形態の設計方法では、第2タイヤモデル22を作成する工程S4、及び、判断する工程S5が再度実施される。
【0064】
再度実施される第2タイヤモデル22を作成する工程S4では、判断する工程S4で計算された物理量に基づいて、踏面29上での物理量の分布が均一に近づくように、第2タイヤモデル22の踏面29上の節点24を移動させる。
【0065】
本実施形態では、踏面29上の節点24のうち、物理量の平均値に比べて、物理量が大きい節点24を、タイヤ半径方向の内側に移動させている。一方、踏面29上の節点24のうち、物理量の平均値に比べて、物理量が小さい節点24を、タイヤ半径方向の外側に移動させている。なお、節点24の移動は、上述の手順に基づいて実施される。これにより、第2タイヤモデル22を作成する工程S4では、踏面29上での物理量の分布が均一に近づくように、第2タイヤモデル22の踏面29上の節点24を移動させることができる。したがって、本実施形態の設計方法では、
図2に示したタイヤ2の陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、走行性能を維持しうる面取り14(
図7に示した面取り33)の形状を得ることができる。
【0066】
本実施形態の設計方法では、例えば、ハンドカットによるタイヤの試作等を繰り返さなくても、第2タイヤモデル22から、陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、走行性能を維持しうる面取り14の形状を直接得ることができる。したがって、本実施形態の設計方法は、面取り14の設計に必要なコストを低減することが可能となる。
【0067】
また、物理量を計算する工程S3において、第1タイヤモデル21の転動に制動が含まれる場合、第2タイヤモデルを作成する工程S4では、制動での物理量に基づいて、踏面29上の節点24を移動させることができる。これにより、設計方法では、制動時の陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、制動性能を維持しうる面取り14(
図7に示した面取り33)の形状を得ることができる。
【0068】
また、物理量を計算する工程S3において、第1タイヤモデル21の転動に駆動が含まれる場合、第2タイヤモデルを作成する工程S4では、駆動での物理量に基づいて、踏面29上の節点24を移動させることができる。これにより、設計方法では、駆動時の陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、駆動性能を維持しうる面取り14(
図7に示した面取り33)の形状を得ることができる。
【0069】
さらに、物理量を計算する工程S3において、第1タイヤモデル21の転動に旋回が含まれる場合、第2タイヤモデルを作成する工程S4では、旋回での物理量に基づいて、踏面29上の節点24を移動させることができる。これにより、設計方法では、旋回時の陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、旋回性能を維持しうる面取り14(
図7に示した面取り33)の形状を得ることができる。
【0070】
このように、本実施形態の設計方法では、性能の維持が望まれる走行性能(制動性能等)に基づいて、第1タイヤモデル21の転動(制動等)が設定されることにより、当該走行性能を維持し得る面取り14(面取り33)の形状を、より確実に得ることができる。
【0071】
また、物理量を計算する工程S3において、第1タイヤモデル21の転動には、制動、駆動及び旋回の全てが含まれてもよい。この場合、物理量を計算する工程S3は、制動時での物理量、駆動時での物理量、及び、旋回時での物理量の合計値が、第1タイヤモデル21の物理量として計算されてもよい。さらに、第2タイヤモデルを作成する工程S4は、それらの物理量の合計値に基づいて、踏面29上の節点24を移動させてもよい。これにより、設計方法では、制動時、駆動時及び旋回時の全てにおいて、陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、制動性能、駆動性能及び旋回性能を維持しうる面取り14(
図7に示した面取り33)の形状を得ることが可能となる。
【0072】
[タイヤの製造方法]
[タイヤ製造工程]
タイヤ2を製造する工程S6では、先ず、
図7に示した第2タイヤモデル22の形状(面取り33の形状を含む)に基づいて、タイヤ2の金型(図示省略)が設計される。そして、設計された金型を用いて、未加硫の生タイヤ(図示省略)が加硫成形される。これにより、本実施形態の製造方法では、陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、走行性能を維持しうる面取り14を備えたタイヤ2を製造することができる。
【0073】
[タイヤの設計方法(第2実施形態)]
図8は、本発明の他の実施形態のタイヤの設計方法及びタイヤの製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0074】
[制約条件入力工程]
この実施形態の設計方法には、面取り14(
図2に示す)に関する予め定められた制約条件を、コンピュータ1に入力する工程S7がさらに含まれる。本実施形態の工程S7は、第2タイヤモデルを作成する工程S4に先立って行われる。そして、第2タイヤモデルを作成する工程S4では、制約条件を満足するように、
図6(a)に示した踏面29上の節点24が移動される。
【0075】
制約条件は、面取り14に関するものであれば、適宜設定することができる。本実施形態の制約条件には、移動量M(
図6(a)に示す)の最大値、及び、移動対象の節点24が含まれる。
【0076】
[移動量の最大値(制約条件)]
移動量Mの最大値は、踏面29上の節点24の移動が許容される範囲を定めるためのもの(制約条件)である。このような移動量Mの最大値は、例えば、タイヤ2の走行性能の維持に必要なランド比などに基づいて設定される。
【0077】
この実施形態の第2タイヤモデルを作成する工程S4は、
図6(a)及び(b)に示されるように、移動量Mの最大値を満足するように、踏面29上の節点24を移動(すなわち、最大値以下の移動量で、節点24を移動)させている。これにより、この実施形態の設計方法では、現実から乖離した面取り33が形成されるのを防ぎつつ、走行性能を維持しうる面取り33を得ることができる。
【0078】
[移動対象の節点(制約条件)]
移動対象の節点24は、踏面29上の全ての節点24のうち、移動可能な節点24を定めるためのもの(制約条件)である。このような移動対象の節点24は、例えば、タイヤ2の走行性能の維持に必要なランド比などに基づいて、コーナ部31側に配置された節点24が設定される。
【0079】
この実施形態の第2タイヤモデルを作成する工程S4は、移動対象の節点24のみを移動させている。これにより、この実施形態の設計方法では、例えば、陸部モデル27のタイヤ軸方向の中央部が部分的に凹んだり、現実から乖離した面取り33が形成されたりするのを防ぐことができ、走行性能を維持しうる面取り33を得ることができる。
【0080】
[タイヤの設計方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態の設計方法では、踏面29上の節点24を移動させるための物理量として、摩耗エネルギーである場合が例示されたが、接地圧でもよいし、摩耗エネルギーの計算に用いられる剪断力や滑り量であってもよい。さらに、摩耗エネルギー、接地圧、剪断力及び滑り量の少なくとも2つを組み合わせた(例えば、乗じた)物理量に基づいて、踏面29上の節点24が移動させられてもよい。これらの物理量は、いずれも、陸部4の接地圧の局所的な集中や、陸部4の偏摩耗に関係している。したがって、これらの物理量に基づいて、
図6(a)、(b)に示されるように、踏面上の節点24を移動せることにより、陸部4の接地圧の局所的な集中を防ぐことが可能な面取り14(
図7に示した面取り33)の形状を得ることができる。
【0081】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0082】
図3に示される処理手順に基づいて、面取りが形成されたタイヤが設計された(実施例)。実施例では、先ず、コンピュータに、コーナ部に実質的な面取りが形成されていないタイヤをモデリングした第1タイヤモデル、及び、路面をモデリングした路面モデルが入力された。
【0083】
次に、実施例では、コンピュータが、第1タイヤモデルを路面モデルの上で転動させ、複数の節点のうち、第1タイヤモデルの踏面上に位置する節点の物理量が計算された。第1タイヤモデルは、制動の条件(制動直前の速度:20km/h、制動時の加速度:0.8G)に基づく転動が計算された。また、物理量として、摩擦係数が計算された。
【0084】
そして、実施例では、制動の条件で転動したときの物理量に基づいて、踏面上の節点を移動させ、コーナ部に面取りが形成された第2タイヤモデルが作成された。節点の移動は、物理量が、予め定められた閾値よりも大きい節点のみを移動させた。
【0085】
図9(a)は、実施例のミドル陸部モデルの面取りの一例を示す図である。
図9(a)では、踏面29と、横溝モデルに面する側壁面30とのコーナ部31に形成された面取り33が代表して示されている。
図9(a)に示されるように、実施例の面取り33は、上記の節点の移動により、ミドル陸部モデルの面取りのタイヤ半径方向の深さが、ショルダー周方向溝モデル26Bからセンター周方向溝モデル26A側に向かって大きくなっている。
【0086】
比較のために、オペレータによって、面取りが形成されたタイヤが設計された。そして、設計されたタイヤに基づいて、複数の節点を有する要素を用いてモデリングしたタイヤモデルが作成された。
【0087】
図9(b)は、比較例のミドル陸部モデルの面取りの一例を示す図である。
図9(b)に示されるように、比較例の面取り33は、慣例にしたがい、ミドル陸部モデルの面取りのタイヤ半径方向の深さが、ショルダー周方向溝モデル26Bからセンター周方向溝モデル26A側にかけて均一に設定されている。
【0088】
そして、実施例の第2タイヤモデル及び比較例のタイヤモデルを、制動の条件(制動直前の速度:100km/h)でそれぞれ転動させ、それらの接地圧分布、及び、摩擦係数とスリップ率との関係(μ-S曲線)が求められた。共通仕様は、次のとおりである。
【0089】
タイヤサイズ:205/55R17
内圧:250kPa
荷重:5kN
【0090】
図10(a)は、実施例の第2タイヤモデルの接地圧分布を示す図である。
図10(b)は、比較例のタイヤモデルの接地圧分布を示す図である。
図10(a)及び(b)には、スリップ率が4%のときの接地圧分布が示されている。また、
図10(a)及び(b)は、色が濃くなるほど、接地圧が高いことを示している。
図11は、摩擦係数とスリップ率との関係を示すグラフである。
【0091】
図10(a)及び(b)に示されるように、実施例は、比較例に比べて、コーナ部付近の接地圧を小さくできており、踏面の接地圧分布を均一に近づけることができた。また、
図11に示されるように、実施例は、比較例に比べて、摩擦係数の最大値を大きくすることができ、制動性能を向上させることができた。したがって、実施例は、比較例に比べて、陸部の接地圧の局所的な集中を防ぎつつ、走行性能を向上しうるタイヤを設計することができた。
【0092】
また、比較例では、実施例の走行性能等を有する面取りを設計するために、ハンドカットによるタイヤの試作や、シミュレーションモデルの作成等を繰り返す必要がある。一方、実施例は、上記の面取りを直接得ることができるため、タイヤの試作や、シミュレーションモデルの作成を繰り返す必要がない。したがって、実施例は、比較例に比べて、面取りの設計に必要なコストを低減(比較例の約20%に低減)することができた。