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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190433
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】弾性材料の性能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G01N3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098755
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】間下 亮
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩通
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA16
2G061BA15
2G061CA10
2G061CB00
2G061CB02
2G061DA16
2G061EA04
2G061EA10
2G061EB10
2G061EC02
2G061EC05
(57)【要約】
【課題】 弾性材料の性能を予測することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための方法である。この方法は、弾性材料からなる試験片に歪みを与えて、試験片の内部に少なくとも1つの空隙を形成する工程S2と、空隙を形成した後の複数の時刻でそれぞれ、試験片にX線を照射して、試験片の投影像を取得する工程S3と、投影像から、性能の指標の一つとして、複数の時刻間での空隙の体積変化を特定する工程S4とを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための方法であって、
前記弾性材料からなる試験片に歪みを与えて、前記試験片の内部に少なくとも1つの空隙を形成する工程と、
前記空隙を形成した後の複数の時刻でそれぞれ、前記試験片にX線を照射して、前記試験片の投影像を取得する工程と、
前記投影像から、前記性能の指標の一つとして、前記複数の時刻間での前記空隙の体積変化を特定する工程とを含む、
性能評価方法。
【請求項2】
前記複数の時刻は、前記試験片に与えられた歪みが予め定められた第1閾値に到達した第1時刻と、前記第1時刻から予め定められた時間が経過した後の第2時刻とを含む、請求項1に記載の性能評価方法。
【請求項3】
前記時間は、100~1200秒である、請求項2に記載の性能評価方法。
【請求項4】
前記第1閾値は、0.2以上である、請求項2または3に記載の性能評価方法。
【請求項5】
前記体積変化を特定する工程は、前記第1時刻での前記空隙の体積V0と、前記第2時刻での前記空隙の体積Vtとの比Vt/V0を、前記体積変化として特定する、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項6】
前記体積変化に基づいて、前記性能を評価する工程を含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項7】
前記評価する工程は、前記体積変化が、予め定められた第2閾値以下であるときに、前記性能が良好であると評価する、請求項6に記載の性能評価方法。
【請求項8】
前記第2閾値は、1.0~3.0である、請求項7に記載の性能評価方法。
【請求項9】
前記歪みは、伸張歪である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項10】
前記X線を可視光に変換するための蛍光体の減衰時間が100ms以下である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項11】
前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムである、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項12】
前記ゴムは、タイヤ用ゴムである、請求項11に記載の性能評価方法。
【請求項13】
前記X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、1010以上である、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性材料の性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性材料の性能(例えば、摩耗に関する性能)を評価する方法として、例えば、弾性材料を、ランボーン摩耗試験機等の室内摩耗試験機によって摩耗させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-308447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法で評価した性能の結果と、弾性材料を用いた実際の製品の性能の結果とが一致しないという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、弾性材料の性能を予測することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための方法であって、前記弾性材料からなる試験片に歪みを与えて、前記試験片の内部に少なくとも1つの空隙を形成する工程と、前記空隙を形成した後の複数の時刻でそれぞれ、前記試験片にX線を照射して、前記試験片の投影像を取得する工程と、前記投影像から、前記性能の指標の一つとして、前記複数の時刻間での前記空隙の体積変化を特定する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記複数の時刻は、前記試験片に与えられた歪みが予め定められた第1閾値に到達した第1時刻と、前記第1時刻から予め定められた時間が経過した後の第2時刻とを含んでもよい。
【0008】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記時間は、100~1200秒であってもよい。
【0009】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記第1閾値は、0.2以上であってもよい。
【0010】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記体積変化を特定する工程は、前記第1時刻での前記空隙の体積V0と、前記第2時刻での前記空隙の体積Vtとの比Vt/V0を、前記体積変化として特定してもよい。
【0011】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記体積変化に基づいて、前記性能を評価する工程が含まれてもよい。
【0012】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記評価する工程は、前記体積変化が、予め定められた第2閾値以下であるときに、前記性能が良好であると評価してもよい。
【0013】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記第2閾値は、1.0~3.0であってもよい。
【0014】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記歪みは、伸張歪であってもよい。
【0015】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記X線を可視光に変換するための蛍光体の減衰時間が100ms以下であってもよい。
【0016】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムであってもよい。
【0017】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記ゴムは、タイヤ用ゴムであってもよい。
【0018】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、1010以上であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の弾性材料の性能評価方法は、上記の工程を採用することにより、弾性材料の性能を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】弾性材料の性能評価装置の斜視図である。
図2】コンピュータのブロック図である。
図3】弾性材料の性能評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】(a)は、第1時刻で取得された試験片の断層画像、(b)は、第2時刻で取得された試験片の断層画像である。
図5】体積変化特定工程の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態の弾性材料の性能評価方法(以下、単に「性能評価方法」ということがある。)では、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能が評価される。
【0023】
[弾性材料]
弾性材料は、適宜採用することができる。本実施形態の弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムが挙げられる。また、ゴム(弾性材料)は、例えば、タイヤ用ゴムが挙げられる。本実施形態の方法で評価される性能の一例としては、摩耗に関する性能(耐摩耗性能)が挙げられる。
【0024】
[弾性材料の性能評価装置]
本実施形態の性能評価方法には、弾性材料の性能評価装置(以下、単に「性能評価装置」ということがある。)1が用いられる。図1は、本実施形態の弾性材料の性能評価装置1の斜視図である。
【0025】
性能評価装置1は、弾性材料の性能を評価するためのものである。本実施形態の性能評価装置1は、歪付与部2、撮像部3、体積変化特定部4、及び、評価部5を含んで構成されている。
【0026】
[歪付与部]
本実施形態の歪付与部2は、弾性材料からなる試験片10に歪を与えるためのものである。本実施形態の歪付与部2は、試験片10が固着される一対の治具21、22と、治具21と治具22とを相対的に移動させて試験片10に歪を与える駆動部23とを有している。
【0027】
駆動部23は、一方の治具21を固定した状態で、治具21、22が互いに離れる方向に、他方の治具22を移動させる。本実施形態の駆動部23は、他方の治具22を、円柱状の試験片10の軸心方向に移動させている。これにより、試験片10は、その軸方向に伸張されて、歪が与えられる。
【0028】
試験片10に付与される歪又は荷重は、ロードセル(図示せず)等により検出される。ロードセルの位置及び形式は、任意である。このような歪付与部2により、試験片10には、予め定められた歪又は荷重が付与される。本実施形態の駆動部23は、試験片10及び治具21、22を、試験片10の軸心回りに回転可能に構成されている。
【0029】
[撮像部]
本実施形態の撮像部3は、歪を受けた試験片10にX線を照射して、試験片10の投影像を取得するためのものである。本実施形態の撮像部3は、X線を照射するX線管31と、X線を検出して電気信号に変換する検出器32とを含んで構成されている。検出器32は、X線を可視光に変換するための蛍光体32aを有している。このような撮像部3は、試験片10が軸回りに回転された状態で、複数の投影像を撮影することにより、全周にわたる試験片10の投影像を取得することができる。
【0030】
[体積変化特定部・評価部]
本実施形態の体積変化特定部4及び評価部5は、コンピュータ8によって構成されている。図2は、本実施形態のコンピュータ8のブロック図である。
【0031】
本実施形態のコンピュータ8は、入力デバイスとしての入力部11と、出力デバイスとしての出力部12と、演算処理装置13とを含んで構成されている。
【0032】
入力部11には、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部12には、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置13は、各種の演算を行う演算部(CPU)13A、データやプログラム等が記憶される記憶部13B、及び、作業用メモリ13Cを含んで構成されている。
【0033】
記憶部13Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部13Bには、データ部16、及び、プログラム部17が設けられている。
【0034】
本実施形態のデータ部16には、投影像入力部16A、及び、体積変化入力部16Bが含まれる。これらに入力されるデータは、後述の性能評価方法の処理手順において説明される。
【0035】
本実施形態のプログラム部17は、コンピュータプログラムとして構成されている。本実施形態のプログラム部17は、体積変化特定プログラム17A、及び、評価プログラム17Bが含まれている。これらの体積変化特定プログラム17A、及び、評価プログラム17Bが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、体積変化特定部4及び評価部5として機能させることができる。これらの機能は、後述の性能評価方法の処理手順において説明される。
【0036】
[弾性材料の性能評価方法]
次に、本実施形態の性能評価方法の処理手順が説明される。図3は、本実施形態の弾性材料の性能評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0037】
[試験片を固定]
本実施形態の性能評価方法では、先ず、図1に示されるように、試験片10が治具21、22に固定される(工程S1)。本実施形態の試験片10には、一様な密度分布を有する上述の弾性材料が用いられている。試験片10は、例えば、特許文献(特開2017-83182号公報)と同様に、円柱状に形成されている。なお、試験片10の詳細や、試験片10を治具21、22に固定する手順は、特許文献(特開2017-83182号公報)に記載のとおりである。
【0038】
[空隙を形成]
次に、本実施形態の性能評価方法では、試験片10に歪が与えられて、試験片10の内部に少なくとも1つの空隙が形成される(工程S2)。本実施形態の工程S2では、歪付与部2の駆動部23により、円柱状の試験片10の軸心方向において、歪付与部2の治具21、22が互いに離れる方向に、治具21、22を相対移動させている。これにより、工程S2では、試験片10を伸張させることができ、試験片10に伸張歪を付与することができる。
【0039】
本実施形態の工程S2では、試験片10に歪が与えられることによって、試験片10の内部に局所的な応力集中が発生し、弾性材料の内部構造(分子鎖の結合)が、部分的に破壊される。これにより、試験片10の内部には、少なくとも1つの空隙15(図4(a)、(b)に示す)が形成される。ここで、「空隙」は、歪が与えられる前の弾性材料の平均密度を1.0としたときに、試験片10に歪みが与えられたときの弾性材料の密度が0.0~0.1である部分として定義される。
【0040】
本実施形態の工程S2では、試験片10に伸張歪が付与されるため、例えば、その他の歪(例えば、圧縮歪や、せん断歪み)が付与される場合に比べて、弾性材料(試験片10)の内部に、空隙15を効率よく発生させることができる。
【0041】
工程S2では、試験片10に与えられた歪を、予め定められた第1閾値に到達させるのが望ましい。これにより、試験片10に一定の歪(第1閾値)が与えられるため、定量的な性能評価が可能となる。第1閾値(歪)は、歪が与えられた後の試験片10の変形長さ(歪が与えられる前からの伸張方向の変化分)を、歪が与えられる前の試験片10の高さ(伸張方向の長さ)を除することで求められる比で表される。本実施形態の第1閾値は、0.2に設定される。
【0042】
第1閾値は、弾性材料の剛性や、評価される性能等に応じて適宜設定されうる。第1閾値は、0.2以上が望ましい。第1閾値が0.2以上に設定されることにより、試験片10(弾性材料)の内部に、弾性材料の性能の評価に必要な空隙15(図4(a)、(b)に示す)が形成されうる。一方、第1閾値が大きくなると、隣接する空隙15、15が連結して形成される新たな空隙(図示省略)が必要以上に大きくなり、弾性材料の性能の評価が困難となるおそれがある。このような観点より、第1閾値は、1.0以下が望ましい。
【0043】
本実施形態では、工程S2において歪が第1閾値に到達した後、それ以降に実施される工程S3において、その歪(第1閾値)が維持される。
【0044】
[試験片を撮像]
次に、本実施形態の性能評価方法では、図1に示されるように、試験片10にX線を照射して、試験片10の投影像が取得される(工程S3)。本実施形態の工程S3では、空隙15を形成した後の複数の時刻でそれぞれ、試験片10の投影像が取得される。投影像は、コンピュータートモグラフィー法によって取得される。
【0045】
本実施形態の工程S3では、先ず、図1に示されるように、X線管31から試験片10にX線が照射される。X線は、試験片10を透過して、検出器32によって検出される。検出されたX線は、電気信号に変換される。電気信号は、コンピュータ8に出力される。この電気信号が、コンピュータ8によって処理されることにより、試験片10の投影像が取得される。
【0046】
本実施形態の工程S3では、試験片10を軸心回りに回転させることにより、複数の投影像(回転シリーズ像)が取得される。このような複数の投影像(回転シリーズ像)は、後述の断層画像を構成する工程S41において、コンピュータートモグラフィー法によって再構成され、試験片10の三次元の断層画像が取得されうる。図4(a)、(b)は、試験片10の断層画像33である。これらの断層画像33は、図1に示した試験片10の軸心方向に対して垂直に交差する任意の平面で、試験片10を切断した断面が示されている。空隙15は、黒色で示されている。
【0047】
X線の輝度は、適宜設定されうる。なお、X線の輝度は、X線散乱データのS/N比に大きく関係している。X線の輝度が小さいと、X線の統計誤差よりもシグナル強度が弱くなる傾向にあり、計測時間を長くしても十分にS/N比の良いデータを得ることが困難となるおそれがある。このような観点から、X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、好ましくは1010以上であり、より好ましくは1012以上である。
【0048】
X線を可視光に変換するための蛍光体32aの減衰時間は、適宜設定されうる。減衰時間は、特許文献(特開2017-83182号公報)と同様に、先に撮影した投影像の残像が、後から撮影する投影像への影響を防ぐ観点から、好ましくは100ms以下であり、より好ましくは50ms以下であり、さらに好ましくは10ms以下である。
【0049】
本実施形態の工程S3では、空隙15が形成された後(本例では、空隙15を形成する工程S2後)の複数の時刻でそれぞれ、試験片10の投影像が取得される。これにより、工程S3では、弾性材料の内部構造(分子鎖の結合)の破壊の進行に伴って、空隙15の大きさ(体積)が時々刻々と変化する試験片10の投影像が、各時刻で取得されうる。
【0050】
複数の時刻は、適宜設定されうる。本実施形態の複数の時刻には、試験片10に与えられた歪が第1閾値に到達した第1時刻が含まれる。これにより、工程S3では、一定の歪(第1閾値)が与えられた(性能の評価に必要な空隙15が形成された)直後の試験片10の投影像が取得されうる。
【0051】
本実施形態の複数の時刻には、第1時刻から予め定められた時間が経過した後の第2時刻が含まれる。予め定められた時間(以下、「経過時間」ということがある。)は、第1時刻から、空隙15の大きさ(体積)が変化した試験片10の投影像が取得されれば、特に限定されないが、100~1200秒に設定されるのが望ましい。経過時間が100秒以上に設定されることにより、第2時刻での空隙15の体積を、第1時刻での空隙15の体積から確実に変化(大きく)させることができる。一方、経過時間が1200秒以下に設定されることにより、投影像の取得に要する時間が、必要以上に大きくなるのを防ぐことできる。このような観点より、経過時間は、好ましくは400秒以上であり、また、好ましくは800秒以下である。図4(a)は、第1時刻で取得された試験片10の断層画像33である。図4(b)は、第2時刻で取得された試験片10の断層画像33である。
【0052】
本実施形態では、投影像が取得される複数の時刻において、試験片10に与えられた歪が、第1閾値に維持されている。これにより、一定の歪みに基づいて、空隙15の体積が変化した試験片10の投影像が、複数の時刻においてそれぞれ取得されうる。複数の時刻(例えば、第1時刻及び第2時刻)に取得された試験片10の投影像は、コンピュータ8の投影像入力部16A(図2に示す)に入力される。
【0053】
[体積変化を特定]
次に、本実施形態の性能評価方法では、試験片10の投影像から、性能の指標の一つとして、複数の時刻間での空隙15の体積変化が特定される(体積変化特定工程S4)。
【0054】
本実施形態の体積変化特定工程S4では、先ず、図2に示されるように、投影像入力部16Aに入力されている試験片10の投影像(図示省略)、及び、体積変化特定プログラム17Aが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、体積変化特定プログラム17Aが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、複数の時刻間での空隙15の体積変化を特定するための体積変化特定部4として機能させることができる。図5は、本実施形態の体積変化特定工程S4の処理手順を示すフローチャートである。
【0055】
[断層画像を構成]
本実施形態の体積変化特定工程S4では、先ず、試験片10の投影像を用いて、試験片10の断層画像33(一例として、図4(a)、(b)に示す)が構成される(工程S41)。上述したように、本実施形態の工程S41では、試験片10の投影像を用いて、試験片10の軸心方向に対して垂直に交差する任意の平面で、試験片10を切断した複数の断層画像33が取得される。
【0056】
本実施形態の断層画像33は、図1に示した試験片10の軸心方向の一端(図示省略)から他端10bまでの間を、任意の間隔(例えば、5~30μm)で取得される。断層画像33の枚数は、適宜設定することができる。本実施形態の枚数は、150~300枚である。
【0057】
本実施形態の工程S41では、複数の時刻(本例では、第1時刻及び第2時刻)で取得された各投影像について、複数の断層画像33がそれぞれ構成される。図4(a)は、第1時刻で取得された投影像から構成された1枚の断層画像33が代表して示されている。図4(b)は、第2時刻で取得された投影像から構成された1枚の断層画像33が代表して示されている。
【0058】
[密度分布を測定]
次に、本実施形態の体積変化特定工程S4では、複数の断層画像33(一例として、図4(a)、(b)に示す)から弾性材料の密度分布が測定される(工程S42)。本実施形態の工程S42では、先ず、各断層画像33で表示されている試験片10の領域において、各断層画像33を構成する微小領域(本例では、画素)の輝度値がそれぞれ取得される。本実施形態の輝度値は、空隙15を微小領域において最も低くなっている。また、輝度値が高くなるほど、弾性材料の密度が大きくなっている。このように、輝度値と密度との間には、比例関係が成立している。
【0059】
次に、本実施形態の工程S42では、歪が与えられる前の弾性材料(すなわち、空隙15がない部分)の輝度値を1.0とし、かつ、弾性材料が存在しない輝度値(最も低い輝度値)を0.0として、各微小領域(本例では、画素)の輝度値の比率が求められる。このような輝度値の比率は、規格化された密度(すなわち、歪が与えられる前の弾性材料の密度に対する比率)として定義される。各断層画像33の微小領域において、輝度値の比率が求められることにより、弾性材料の密度分布が測定されうる。
【0060】
[空隙の体積を取得]
次に、本実施形態の体積変化特定工程S4では、弾性材料の密度分布に基づいて、空隙15の体積が取得される(工程S43)。上述したように、空隙15は、歪が与えられる前の弾性材料の密度を1.0としたときに、歪みが与えられたときの弾性材料の密度が0.0~0.1となる部分である。したがって、工程S43では、各断層画像33(一例として、図4(a)、(b)に示す)の微小領域(画素)において、輝度値の比率(規格化された密度)が0.0~0.1の微小領域(画素)の領域が、空隙15として検出される。空隙15の検出には、市販の画像処理ソフトウェア(例えば、Adobe社製のPhotoshop(登録商標))等が用いられる。
【0061】
本実施形態の工程S43では、第1時刻の複数の断層画像33について、各断層画像33で検出された空隙15の面積と、断層画像33が取得された間隔(例えば、5~30μm)との積が足し合わされることにより、第1時刻での空隙15の体積V0が取得される。さらに、工程S43では、第2時刻の複数の断層画像33について、各断層画像33で検出された空隙15の面積と、断層画像33が取得された間隔との積が足し合わされることにより、第2時刻での空隙15の体積Vtが取得される。
【0062】
[空隙変化を取得]
次に、本実施形態の体積変化特定工程S4では、複数の時刻間での空隙15の体積変化が取得される(工程S44)。本実施形態の工程S44では、第1時刻での空隙15の体積V0と、第2時刻での空隙15の体積Vtとの比Vt/V0が、空隙15の体積変化として特定される。
【0063】
空隙15の体積変化は、複数の時刻間(本例では、第1時刻と第2時刻との間)において、空隙15の体積の増加分(成長分)を示している。発明者らの実験によれば、複数の時刻間での体積変化と、弾性材料の性能(本例では、摩耗に関する性能)との間に、一定の相関があることを知見した。すなわち、体積変化が小さい弾性材料は、内部構造(分子鎖の結合)の破壊が進行し難く、弾性材料の性能が良好となることを知見した。したがって、本実施形態の性能評価方法では、弾性材料の性能の指標の一つとして、空隙の体積変化が求められることにより、弾性材料の性能を予測することが可能となる。
【0064】
本実施形態において、第1時刻及び第2時刻とは異なる時刻(例えば、第3時刻等)の空隙15の体積が取得されている場合には、それらの時刻間(例えば、第2時刻と第3時刻間など)での体積変化が取得されてもよい。空隙15の体積変化は、体積変化入力部16B(図2に示す)に入力される。
【0065】
[評価工程]
次に、図3に示されるように、本実施形態の性能評価方法では、空隙15の体積変化に基づいて、弾性材料の性能が評価される(工程S5)。
【0066】
本実施形態の工程S5では、先ず、図2に示されるように、体積変化入力部16Bに入力されている空隙15の体積変化、及び、評価プログラム17Bが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、評価プログラム17Bが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、弾性材料の性能を評価する評価部5として機能させることができる。
【0067】
本実施形態の工程S5では、空隙15の体積変化と、予め定められた第2閾値とが比較される。上述したように、体積変化が小さい弾性材料は、弾性材料の性能(本例では、摩耗に関する性能)が良好となる。このような観点より、本実施形態の工程S5では、空隙15の体積変化が、第2閾値以下である場合に、弾性材料の性能が良好であると評価される。
【0068】
第2閾値は、例えば、弾性材料に求められる諸性能(本例では、摩耗に関する性能)に応じて、適宜設定することができる。本実施形態の第2閾値は、1.0~3.0(本例では、2.0)に設定される。
【0069】
工程S5において、空隙15の体積変化が第2閾値(本例では、2.0)以下である場合(工程S5で「Yes」)、弾性材料の性能が良好であると評価される。この場合、弾性材料(ゴム)を用いた製品(例えば、タイヤ)が設計及び製造される(工程S6)。これにより、諸性能(本例では、摩耗に関する性能)に優れる製品が確実に製造されうる。
【0070】
一方、工程S5において、空隙15の体積変化が第2閾値(本例では、2.0)よりも大きい場合(工程S5で「No」)、弾性材料の性能が良好ではないと評価される。この場合、配合を変更した新たな弾性材料が作製され(工程S7)、工程S1~工程S5が再度実施される。これにより、諸性能(本例では、摩耗に関する性能)に優れる弾性材料を確実に作製することができる。
【0071】
本実施形態では、摩耗に関する性能(耐摩耗性能)が評価されたが、このような態様に限定されない。例えば、空隙15の体積変化に基づいて、弾性材料の耐引裂性能や、耐クラック性能が評価されてもよい。
【0072】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0073】
弾性材料A乃至Cについて、本発明の方法で求められる空隙の体積変化に基づいて摩耗に関する性能(耐摩耗性能)が評価された。さらに、上記弾性材料A乃至Cからなるトレッド部を有する空気入りタイヤがそれぞれ作成され、実車走行試験による耐摩耗性能が評価された。そして、本発明による耐摩耗性能の評価と、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された(実施例)。
【0074】
比較のために、上記弾性材料A乃至Cについて、ランボーン試験機を用いて耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された(比較例)。
【0075】
使用試薬は以下の通りである。
1.重合体(1) :(変性基1個)
2.重合体(2) :(変性基2個;重合体(1)のモノマー量違い)
3.重合体(3) :(変性基3個;重合体(1)のモノマー量違い)
4.SBR :STYRON製のSPRINTAN SLR6430
5.BR :宇部興産(株)製のBR150B
6.変性剤 :アヅマックス(株)製の3-(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン
7.老化防止剤 :大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン)
8.ステアリン酸 :日本油脂(株)製のステアリン
9.酸化亜鉛 :東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
10.アロマオイル :出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24
11.ワックス :大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
12.硫黄 :鶴見化学(株)製の粉末硫黄
13.加硫促進剤(1) :大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
14.加硫促進剤(2) :大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
15.シリカ :デグッサ製のウルトラジルVN3
16.シランカップリング剤:デグッサ製のSi69
17.カーボンブラック :三菱化学(株)製のダイアブラックLH(N326、N2SA:84m2/g)
【0076】
モノマー及び重合体(1)~(3)は、特許文献(特開2017-83182号公報)の「実施例」に記載された方法と同様の手順で合成された。テスト方法は、次のとおりである。
【0077】
<空隙の体積変化>
弾性材料A乃至Cについて、直径20mm、軸方向の長さが1mmの円柱状の試験片が準備された。そして、図3に示した手順にしたがって、試験片に歪み(伸長歪)を与えて、その歪みが第1閾値(0.2)に到達した第1時刻と、第1時刻から予め定められた時間(500秒)が経過した後の第2時刻とにおいて、に試験片の投影像が取得された。そして、図5に示した手順にしたがって、第1時刻での空隙の体積V0と、第2時刻での空隙の体積Vtとの比Vt/V0が、空隙の体積変化として取得された。空隙の体積変化(比Vt/V0の値)が小さいほど、耐摩耗性能に優れている。
【0078】
<ランボーン試験>
弾性材料A乃至Cについて、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で摩耗量が測定され、その逆数が計算された。結果は、弾性材料Aを100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0079】
<実車走行試験>
弾性材料A乃至Cからなるトレッド部を有するサイズ195/65R15の空気入りタイヤがそれぞれ作成された。そして、各空気入りタイヤが国産FF車に装着され、走行距離8000kmでのトレッド部の溝深さが測定され、トレッド部の摩耗量1mmあたりの走行距離が計算された。結果は、弾性材料Aを100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
テスト結果が表1に示される。
【0080】
【表1】
【0081】
テストの結果、表1から明らかなように、実施例の方法は、比較例に比べて実車走行試験との相関が良好であり、弾性材料の諸性能を予測(評価)できた。さらに、実施例では、空隙の体積変化が第2閾値(1.5)以下の弾性材料B及びCは、空隙の体積変化が第2閾値よりも大きい弾性材料Aに比べて、実車走行試験での評価が大幅に優れており、弾性材料の諸性能を高い精度で予測できた。
【符号の説明】
【0082】
S2 空隙を形成する工程
S3 試験片の投影像を取得する工程
S4 空隙の体積変化を特定する工程
図1
図2
図3
図4
図5