(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190434
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】3次元プリンタ、3次元プリンタ用のホットエンドモジュール、吐出ヘッド、及びフィラメントの送り方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/209 20170101AFI20221219BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20221219BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20221219BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20221219BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20221219BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221219BHJP
【FI】
B29C64/209
B29C64/118
B29C64/321
B29C64/393
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098756
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】502072374
【氏名又は名称】谷口 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀夫
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213AJ02
4F213AJ03
4F213AJ06
4F213AR06
4F213AR09
4F213AR14
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL32
4F213WL74
4F213WL85
4F213WL92
4F213WL96
(57)【要約】 (修正有)
【課題】3次元プリンタにおいて、微少精密にフィラメントを送る方法、および小型のホットエンドモジュールの提供。
【解決手段】ホットエンドモジュール1は、フィラメント3aを導入するための導入口11を有し、フィラメント3aを下流側へ供給する供給部10、供給部10から供給されたフィラメント3aを加熱融解する融解部20、融解されたフィラメント3bを吐出する吐出口31を有する吐出部30、及び、導入口11から吐出口31へと連通する通路12、を備える吐出ヘッド100と、フィラメント送り機構40と、を備える。供給部10は開口部10aを有し、フィラメント送り機構40は、開口部10aから通路12内に臨んで配置されたネジ部を有するウォーム41と、ウォーム41を駆動させる駆動手段44と、を有し、ウォーム41のネジ部をフィラメント3aに当接させてウォーム41を回転させることによってフィラメント3aを送り出す。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元プリンタにおけるフィラメントの送り方法であって、
前記フィラメントに、ネジ部を有するウォームの前記ネジ部を当接させ、前記ウォームを回転させることで前記フィラメントを送り出すようにしたことを特徴とする、フィラメントの送り方法。
【請求項2】
吐出ヘッド内において前記ネジ部を前記フィラメントに当接させることを特徴とする、請求項1に記載のフィラメントの送り方法。
【請求項3】
前記フィラメントの送り方向に沿う駆動軸によって前記ウォームを回転させることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィラメントの送り方法。
【請求項4】
造形材料であるフィラメントを導入するための導入口を有し、前記導入口から導入された前記フィラメントを下流側へ供給する供給部、前記供給部から供給された前記フィラメントを加熱融解する前記下流側の融解部、前記融解部で融解された前記フィラメントを吐出する吐出口を有する吐出部、及び、前記導入口から前記吐出口へと連通する通路、を備える吐出ヘッドと、
前記フィラメントを前記下流側へ送り出すためのフィラメント送り機構と、を備えた3次元プリンタ用のホットエンドモジュールであって、
前記吐出ヘッドの前記供給部は、前記通路を露出させる開口部を有し、
前記フィラメント送り機構は、前記開口部から前記通路内に臨んで配置されたネジ部を有するウォームと、前記ウォームを駆動させる駆動手段と、を有し、
前記ウォームの前記ネジ部を前記通路内の前記フィラメントに当接させた状態で前記ウォームを回転させることによって前記フィラメントを前記下流側へ送り出すようにしたことを特徴とする3次元プリンタ用のホットエンドモジュール。
【請求項5】
前記吐出ヘッドの前記供給部の前記開口部から露出する前記通路の内壁に、前記ウォームと対向する凸部を形成したことを特徴とする、請求項4に記載の3次元プリンタ用のホットエンドモジュール。
【請求項6】
前記吐出ヘッドの前記供給部は、前記通路を介して前記開口部と対向するように設けられた対向開口部を有し、
前記フィラメント送り機構は、前記対向開口部から前記通路内に臨んで配置され、前記ウォームと対向する位置に配置されるバックアップ部材を有し、
前記ウォームと前記バックアップ部材との間に前記フィラメントを挟持した状態で、前記ウォームを回転させることによって前記フィラメントを前記下流側へ送り出すようにしたことを特徴とする、請求項4に記載の3次元プリンタ用のホットエンドモジュール。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載のホットエンドモジュールを搭載していることを特徴とする3次元プリンタ。
【請求項8】
造形材料であるフィラメントを導入するための導入口を有し、前記導入口から導入された前記フィラメントを下流側へ供給する供給部、前記供給部から供給された前記フィラメントを加熱融解する前記下流側の融解部、前記融解部で融解された前記フィラメントを吐出する吐出口を有する吐出部、及び
前記導入口から前記吐出口へと連通する通路、を備える吐出ヘッドであって、
前記供給部は前記通路を露出させる開口部を有し、前記開口部と対向する前記通路の内壁に凸部を設けたことを特徴とする、吐出ヘッド。
【請求項9】
前記凸部は、前記内壁における前記凸部が形成されるべき位置の上側及び下側の部分に凹部を形成することで設けたことを特徴とする、請求項8に記載の吐出ヘッド。
【請求項10】
前記供給部と前記融解部と前記吐出部とが一体的に形成されていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層方式(FFF(FDM)方式)の3次元プリンタにおけるフィラメントの送り方法、並びに3次元プリンタ用のホットエンドモジュール、吐出ヘッド、及びこれらを搭載した3次元プリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータを利用して3次元プリンタにより立体造形物を製造することが盛んに行われている。このような立体造形物を製造する造形装置として、フィラメント(フィラメント状の造形材料)を、フィラメントを融解させるためのヒーターを備えたヘッドに送り込み、融解(溶解)した造形材料を積層することで造形物を形成する、FFF(FDM)方式の3次元プリンタが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている造形装置では、フィラメントリールとヘッドとの間に、フィラメントに接触するギア(回転部材)を有するモーター(エクストルーダ)が配置され、フィラメントリールから導き出されたフィラメントは、モーターの回転によってヘッドに向かって送り出される。ヘッドに送り込まれたフィラメントは、造形材であるフィラメントを加熱するヒーターから与えられる熱によって融解され、融解したフィラメントはヘッド先端に設けられたノズルの吐出口から造形ステージに向けて押し出される。ヘッドは造形ステージに対して2方向に相対的に移動しながら吐出を行い、造形ステージに融解したフィラメントを堆積させる。
【0004】
このような3次元プリンタにおいては、造形動作における融解した造形材料の吐出速度は、フィラメントがヘッドに送り込まれる速度によって、すなわちモーターの回転速度によって制御される。モーターの回転速度は制御部から与えられる回転駆動信号によって、所望の回転速度となるように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の3次元プリンタにおけるフィラメントの送り方向(移動方向)は、モーターの回転軸(送りギア(送りローラ)の回転軸)に対して垂直方向となっているために、送り機構が横方向に大型となり、しかもモーターの回転速度がそのままフィラメントの移動速度(送り速度)となり、フィラメントの送り速度を微少精密制御しすることに適しているとは言えないものである。例えば、送りギアの直径を5mmにした場合、1回転で15.7mmのフィラメントが送られることになり、フィラメントを0.7mm送りたい場合には送りギアを約1/22.4回転させることなり、高解像送りには不適であり、減速比1/22.4の減速ギアボックスが必要となり、フィラメント送り機構が大きなものとなってしまう。
【0007】
また、上述の特許文献1に示されているような3次元プリンタでは、エクストルーダ(フィラメントをヘッドに送り込むギア、ギアを回転させるモーター、及びモーターの駆動をギアに伝達する軸部材などの送り機構)はヘッドから、フィラメントの上流側の離れた位置に配置されているため、ヘッドの移動に伴って、エクストルーダとヘッドとの間のフィラメントに、撓みや捻じれなどが生じ、フィラメントをヘッドへ正確な速度で送り込み難い状況が生じ得ると考えられる。このような状況は、造形材料の吐出量の精密な調整を阻害する要因となり、正確な造形動作の支障となり得る。さらに、エクストルーダが比較的大型であるために、ヘッドにエクストルーダを組み付けてモジュール化するとホットエンドモジュールの大型化を招くことになる。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、微少精密にフィラメントを送ることで、より精密な造形物の形成が可能なフィラメントの送り方法、小型のホットエンドモジュール、ホットエンドモジュールを搭載した3次元プリンタ、及びホットエンドモジュールに備えられる吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ウォームギアのウォームをフィラメントに当接してフィラメントを送るようにすることで、ウォームの回転速度に加えてウォームのネジ部のネジ山の間隔(ピッチ)によってもフィラメントの送り速度を制御することができ、より微少、より精密なフィラメント送りを行うことができることを見出した。また、ウォーム(駆動軸)をフィラメントの送り方向、すなわち吐出ヘッド(の通路)に沿って(例えば、略平行)配置でき、減速ギアボックスをなくすことができ部品点数が削減でき、フィラメント送り機構を小型軽量化でき、少ないトルクで回転制御ができ、結果としてホットエンドモジュールの小型化、軽量化、製造コスト削減、造形速度の高速化を図ることができることを見出した。
【0010】
さらに、ウォームを用いることで、吐出ヘッドの融解部により近い位置又は吐出ヘッドの通路内にフィラメントを押し込む力の伝達部を配置することができ、吐出ヘッドの融解部により正確かつ微少にフィラメントを送り出す(押し込む)ことができ、造形物を精度よく製造し得ることを見出した。つまり、吐出ヘッドの融解部及び吐出口に比較的近い位置でフィラメントを送り込む(押し込む)ようにしたことで、融解した造形材料の吐出量の制御をより正確かつ精密に行い得ることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、3次元プリンタにおけるフィラメントの送り方法であって、前記フィラメントに、ネジ部を有するウォームの前記ネジ部を当接させ、前記ウォームを回転させることで前記フィラメントを送り出すようにしたことを特徴とする。
【0012】
本発明において、ネジ部が当接させるフィラメントの当接部の温度は、好ましくはフィラメントの融解温度の約40%以下の温度、より好ましくは約30%以下の温度である。例えば、フィラメントとしてPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を用いる場合の融解温度を500℃とした場合、当接部の温度を、例えば140℃とされるのが好ましい。これは、当接部においてフィラメントが軟化していると、ウォームのネジ溝にフィラメントのカスが溜まるのを軽減するためである。
【0013】
本発明のフィラメントの送り方法において、吐出ヘッド内(供給部内(バレル部内))において前記ネジ部を前記フィラメントに当接させて当該フィラメントを送り出すようにしてもよい。また、前記フィラメントの送り方向に沿う駆動軸によって前記ウォームを回転させるようにしてもよい。
【0014】
また、本発明は、造形材料であるフィラメントを導入するための導入口を有し、前記導入口から導入された前記フィラメントを下流側へ供給する供給部(バレル部)、前記供給部から供給された前記フィラメントを加熱融解する前記下流側の融解部、前記融解部で融解された前記フィラメントを吐出する吐出口を有する吐出部、及び、前記導入口から前記吐出口へと連通する通路、を備える吐出ヘッドと、前記フィラメントを前記下流側へ送り出すためのフィラメント送り機構と、を備えた3次元プリンタ用のホットエンドモジュールであって、前記吐出ヘッドの前記供給部は、前記通路を露出させる開口部を有し、前記フィラメント送り機構は、前記開口部から前記通路内に臨んで配置されたネジ部を有するウォームと、前記ウォームを駆動させる駆動手段と、を有し、前記ウォームの前記ネジ部を前記通路内の前記フィラメントに当接させた状態で前記ウォームを回転させることによって前記フィラメントを前記下流側へ送り出すようにしたことを特徴とする。
【0015】
本発明において吐出ヘッドは、供給部、融解部及び吐出部が一体的に形成されたものであってもよいし、供給部(バレル部)と融解部及び吐出部(ノズル部)とを別体としてもよいし、供給部及び融解部と吐出部とを別体としてもよい。供給部は、熱伝導性の低い金属、例えば鉄合金(ステンレス)、ニッケル合金、チタン、チタン合金等の金属材料、セラミック等の無機材料を好ましく使用することができる。また、融解部及び吐出部、又は吐出部を供給部とは別体とする場合には、必ずしも供給部と同じ材質とする必要はなく、特に限定されることなく、上記金属材料、無機材料の他に、例えば黄銅(真鍮)等の従来公知の金属材料を広く用いることができる。このとき、融解部及び吐出部、又は吐出部を、供給部よりも熱伝導率が高い材料で形成するのが好ましい。好ましい一例として、供給部を64チタンとし、吐出部をSUS304又は真鍮とすることが挙げられる。
【0016】
本発明のホットエンドモジュールは、前記吐出ヘッドの前記供給部の前記開口部から露出する前記通路の内壁に、前記ウォームと対向する凸部が形成されるのが好ましい。また、前記吐出ヘッドの前記供給部は、前記通路を介して前記開口部と対向するように設けられた対向開口部を有し、前記フィラメント送り機構は、前記対向開口部から前記通路内に臨んで配置され、前記ウォームと対向する位置に配置されるバックアップ部材を有し、前記ウォームと前記バックアップ部材との間に前記フィラメントを挟持した状態で、前記ウォームを回転させることによって前記フィラメントが前記下流側へ送り出すようにしてもよい。本発明において、バックアップ部材及び/又はウォームは、相手方に向かってバネなどによって付勢されるのが好ましい。
【0017】
また、本発明の3次元プリンタは、上述のホットエンドモジュールを搭載している。
【0018】
また、本発明の吐出ヘッドは、造形材料であるフィラメントを導入するための導入口を有し、前記導入口から導入された前記フィラメントを下流側へ供給する供給部、前記供給部から供給された前記フィラメントを加熱融解する前記下流側の融解部、前記融解部で融解された前記フィラメントを吐出する吐出口を有する吐出部、及び、前記導入口から前記吐出口へと連通する通路、を備える吐出ヘッドであって、前記供給部は前記通路を露出させる開口部を有し、前記開口部と対向する前記通路の内壁に凸部を設けたことを特徴とする。
【0019】
本発明の吐出ヘッドでは、前記凸部は、前記内壁における前記凸部が形成されるべき位置の上側及び下側の部分に凹部を形成することで設けられ得る。また、前記供給部と前記融解部と前記吐出部とは一体的に形成されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、造形材料であるフィラメントにウォームのネジ部を当接させ、ウォームの回転によってフィラメントを送り出すので、フィラメントをより微少且つ精密に送ることが可能となる。例えば、ウォーム(ネジ部)の最大径を約3~5mmとし、ネジ山間のピッチを約0.5~1.0mmとした場合、ウォームを1回転(回転軸を1回転)させることで、ピッチ分の約0.5~1.0mmフィラメント送りができ、小径のウォームにおいて微細送りが可能となる。また、ウォームを用いることで、これを回転させるためのモーターのトルクが小さくてすみ、減速ギアボックスが不要となって部品点数を減らすことができ、フィラメント送り機構の小型化、軽量化、省エネルギー化を図ることができ、造形速度の高速化に寄与できる。また、吐出ヘッドの供給部に形成された開口内にフィラメント送り機構のウォームを配置するようにしたので、装置の小型化を図ることができる。また、融解部及び吐出口に比較的近い位置でフィラメントを送り込む(押し込む)ことができるので、フィラメントの送り込み速度(すなわち融解した造形材料の吐出量)の制御をより正確に行うことができる。その結果、より緻密な精度の高い造形物を形成することが可能なフィラメントの送り方法、ホットエンドモジュール、3次元プリンタ及び吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態のホットエンドモジュールを備える3次元プリンタの一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態のホットエンドモジュールの一例の一部断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態のホットエンドモジュールに用いられる吐出ヘッドの(A)正面図、及び(B)底面図である。
【
図4】本発明の一実施形態のホットエンドモジュールの別の例の一部断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態のホットエンドモジュールのさらに別の例の一部断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態のホットエンドモジュールのさらに別の例の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず、図面を参照しながら、一実施形態の、ホットエンドモジュールを備える3次元造形装置(3Dプリンタ)について説明する。
図1は、実施形態のホットエンドモジュールを備える、熱溶解積層方式の3Dプリンタの一例を模式的に示している。図示される3DプリンタPにおいては、Y軸方向に可動な造形ステージSに、ノズル(吐出ヘッド)100から吐出される融解した造形材料が積層されて、立体造形物が形成される。
【0023】
吐出ヘッド100には、吐出ヘッド100の内部の造形材料を加熱して融解させる、加熱手段60が取り付けられている。吐出ヘッド100の上部はヘッド部Hに取り付けられている。ヘッド部Hは、X軸方向に可動なX軸ベルトBxによって、吐出ヘッド100とともにX軸方向における任意の位置に移動可能とされている。X軸ベルトBxが設置されているX軸フレームFxは、2本のZ軸移動機構BzによってZ軸方向に移動可能とされている。造形ステージSにはY軸方向に移動可能とするY軸ベルトByが取り付けられ、造形ステージSはY軸方向における任意の位置に移動可能とされている。これにより、吐出ヘッド100と造形ステージSとの相対的な位置関係が3次元で調整され得る。
【0024】
ヘッド部Hには、詳しくは後述する、吐出ヘッド100及び加熱手段60と共にフィラメント送り機構を一体的に備えるホットエンドモジュールが、ホルダー部を介して取り付けられている。ホットエンドモジュールが備える吐出ヘッド100にはフィラメントリールFTからフィラメント状の造形材料(フィラメント)3aが供給される。ホットエンドモジュールが備えるフィラメント送り機構は、フィラメント3aを吐出ヘッド100の先端側へと送り出す。送り出されたフィラメント3aは、加熱手段60から与えられる熱によって融解された後、吐出ヘッド100の下端に設けられている吐出口から吐出され、造形ステージ上に積層される。
【0025】
次に、
図2を参照しながら、上述された3DプリンタPに搭載され得る、一実施形態の3次元プリンタ用のホットエンドモジュールが説明される。
図2は、一実施形態のホットエンドモジュールの一例であるホットエンドモジュール1の一部断面図である。ホットエンドモジュール1は、供給部10、融解部20、吐出部30を備える吐出ヘッド100を有している。供給部10は、フィラメント状の造形材料である、固体の状態のフィラメント3aを吐出ヘッド100内に導入する導入口11を有している。供給部10のフィラメント下流側(導入口11と反対側)に設けられる融解部20は、固体の状態のフィラメント3aを加熱して、融解した状態のフィラメント3bに変化させる。融解部20の下流側に設けられている吐出部30の下端には、融解した状態のフィラメント3bを吐出する吐出口31が設けられている。吐出ヘッド100の内部には、導入口11から吐出口31までを連通する、通路12が形成されている。
【0026】
吐出ヘッド100の導入口11が設けられている上端部には、吐出ヘッド100を支持し、ホットエンドモジュール1が取り付けられる3次元プリンタとの連結部分(アダプター)ともなり得る、ホルダー部Aが取り付けられている。ホットエンドモジュール1が上述された3DプリンタPに取り付けられる場合、ホルダー部Aを介してヘッド部Hに取り付けられ得る。ホルダー部Aは吐出ヘッド100の導入口11側の熱を、吐出ヘッドから外部へ放熱させるヒートシンク部としても機能し得る。図示の例においてホルダー部Aは円筒状であり、供給部10の一部の外周を覆って嵌合することで吐出ヘッド100に接続されている。なお、図示の例では、詳しくは後述されるように、ホルダー部Aには、例えば円筒形のフィラメント送り機構40のパルスモータ(駆動手段(駆動部))44が吐出ヘッド100とともに固定されて支持されている。
【0027】
供給部10の通路12を画定する周壁には開口部10aが形成され、開口部10aからは通路12が露出している。供給部10に形成されている開口部10aには、詳しくは後述されるフィラメント送り機構40を構成する回転部材(ウォーム)41の一部が入り込み、フィラメント3aに当接する。図示の例では、通路12を挟んで開口部10aに対向して設けられている対向開口部10bには、ウォーム41に対向するバックアップ部材としてバックアップローラー42の一部が入り込んで、フィラメント3aに当接している。ウォーム41及びバックアップローラー42は、後述する駆動手段(駆動部)44及び駆動軸(駆動シャフト)43とともにフィラメント送り機構40を構成している。なお、バックアップローラー42は、例えば、板バネ等バネ、ゴム等の弾性体等の付勢手段により回転軸のシャフトを押圧するなどして、ウォーム41の方向に適度に付勢されているのが好ましい。
【0028】
なお、開口部10aは、パイプ状の吐出ヘッド100を長さ方向に外側から通路12が現れるまで平面切削することで形成することができる。
【0029】
実施形態のホットエンドモジュールにおけるフィラメント送り機構40は、フィラメント3aに接して回転することによってフィラメントを下流側(融解部20側)へ送り出す回転部材として、ウォーム(ネジ部)41を備えている。ウォーム41には、連続的な螺旋状のネジ溝(ネジ山)が切られており、ネジ部(ウォーム41)はフィラメント3aに当接する。ウォーム41が先端に取り付けられる駆動シャフト43は、通路12の長さ方向(フィラメント3aの送り方向)に延在している。ウォーム41は駆動シャフト43を中心に回転することによって、フィラメント3aを供給部10から下流側(融解部20側)へと送り出す。ネジ部(ウォーム41)は、バックアップローラー42により、フィラメント3aに適度に圧接されるのが好ましい。
【0030】
駆動シャフト43は駆動部44が発生させる回転力により回転する。駆動部44の発生させる回転方向とウォーム41の回転方向とは一致している。一方、通路12内において、ウォーム41と対向する位置でフィラメント3aを挟むバックアップ部材(バックアップローラー)42は独立した駆動源を有しておらず、ウォーム41の回転によってフィラメント3aが融解部20に押し込まれる動きに応じて受動的に回転する。駆動シャフト43は、吐出ヘッド100(通路12)に対して僅かに傾けて配置されている。この場合、ウォーム41(ネジ部)は、フィラメント3aとの当接面積(当接距離)が大きくなるようにフィラメント3aに平行に当接乃至圧接されるよう、略円錐形状とされるのが好ましい。なお、フィラメント送り機構40の各パーツ、吐出ヘッド100のサイズ、開口部10aのサイズ等によって、駆動シャフト43を吐出ヘッド100(通路12)に対して平行に配置するようにできる。この場合、ウォーム41(ネジ部)は略円柱形状とするのが好ましい。
【0031】
実施形態のホットエンドモジュールは、ウォーム41の回転によってフィラメント3aの送りを実施する構成を有することで、比較的高い精度のフィラメント3aの送り出しを実現している。具体的には、ウォーム41は、ネジ山を、ネジ山が伸びる方向に沿ってフィラメント3aに食い込ませながらネジ部をフィラメント3aに当接させて回転することにより、フィラメント3aを送り出す構成とされている。このとき、ネジ部のネジ山を尖らせるなどフィラメント3aに食い込みやすい形状としたり、ネジ山が摩耗しにくい材質でウォーム41(ネジ部)を形成したりしておくことで、フィラメント3aとウォーム41との間に滑りが発生するのを長期に亘って軽減でき、より確実なフィラメント3aの送り出しが実現され得る。なお、ウォーム41のネジ部の溝の底部(谷部)は、鋭角にも平坦にも形成され得る。
【0032】
加えて、吐出ヘッド100の開口部10aにウォーム41が入り込む構成にして、送り機構40と吐出ヘッド100とを一体的な構成としていることで、ホットエンドモジュールの小型化が実現されている。従って、ウォーム41からフィラメント3aが融解する融解部20までの距離は比較的短く、ウォーム41からフィラメント3aに掛かる送り出しの力によりフィラメント3aが撓む可能性は小さい。よって、高い精度のフィラメントの送り速度の調整が可能とされ、吐出口31からの造形材料の吐出量は正確に制御され得る。柔軟なフィラメントを用いて造形を行う場合であっても、フィラメントの撓みや捻じれなどが抑制され、良好に造形物を製造することができると考えられる。
【0033】
換言すれば、本発明の一実施形態であるフィラメントの送り方法においては、フィラメント送り機構40を構成するウォーム41のネジ部をフィラメント3aに当接させた状態で、ウォーム41を回転させることによって、フィラメント3aが送り出される。吐出ヘッド100の供給部10の開口部10aから露出する通路12内において、ウォーム41のネジ部はフィラメント3aに当接し、ウォーム41の回転によって、フィラメント3aは下流側へと送り出される。フィラメントの送り方向(フィラメント3aの延在方向)に沿って延在する駆動シャフト43を駆動部44によって回転させることで、フィラメント3aが下流側へと送り出される。駆動部44の回転速度の制御により、フィラメント3aの融解部20へ送り込まれる速度が制御され、吐出口31から吐出される造形材料の吐出速度が制御され得る。
【0034】
ウォーム41は、駆動シャフト43に取り外し可能に取り付けられ得る。ウォーム41(ネジ部)のネジ山の寸法(高さ、ピッチ、進み角、等)が異なるウォーム41が、解像度や造形において使用されるフィラメント3aの寸法、形状、材質などに合わせて取り換えられ得る。ホットエンドモジュール1を使用して製造されるべき造形物のサイズや要求される精度に応じて、適宜、フィラメント3a並びにウォーム41及びネジ山の寸法が選択され得る。また、ウォーム41は駆動シャフト43の先端部がウォームの形状に加工されたものであってもよい。この場合には、駆動シャフト43が駆動部44に対して交換可能に取り付けられる構成を有し得る。
【0035】
ウォーム41、及び、バックアップローラー42は、フィラメント3aに当接することによってフィラメント3aを冷却する機能も有し得る。融解部20から伝わる熱によるフィラメント3aの軟化(融解)が予防され、従って、通路12内でのフィラメントの詰まりが予防され得る。従って、ウォーム41、及び、バックアップローラー42は、熱伝導率の高い材質を用いて形成されることが好ましく、例えば、銅、アルミニウム、ステンレスなどの金属材料が用いられ得る。熱伝導率の高いセラミック、例えば窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどが用いられてもよく、高熱伝導率を有する樹脂材料が用いられてもよい。
【0036】
フィラメント送り機構40の駆動シャフト43は、フィラメント3aの長さ方向(通路12の長さ方向)に沿って延び、ホルダー部Aに一体的に固定されている駆動部44に取り付けられ得る。駆動シャフト43が吐出ヘッド100の延在方向と垂直な横方向に延在する構成(例えば、フィラメント3aの延在方向に沿って回転する回転部材が開口部10a内でフィラメント3aを送る構成)と比較すると、ホットエンドモジュール1の横方向における寸法は比較的小型とされ得る。ホットエンドモジュール1の横方向の寸法が拡大すると好ましくない場合がある。3DプリンタPのヘッド部Hの横方向における寸法の拡大につながり、造形動作において形ステージ上の造形材料を吐出することができる領域が制限され、造形に支障を来たす場合がある。このような支障を回避する観点から、横方向の寸法が比較的小型であることが好ましい場合がある。
【0037】
駆動シャフト43は、図示されるように、フィラメント3aの延在方向に対して、所定の角度を有するように構成され得る。これにより、駆動シャフト43の先端に位置するウォーム41は、フィラメント3aに対して比較的強い力で当接され得る。この構成によって、ウォーム41の回転によるフィラメント3aの送り出しは、より確実に実施され得る。
【0038】
駆動部44は、例えば、パルス信号によって回転動作を制御することができるステッピングモーター(パルスモーター)である。駆動部44がステッピングモーターである場合には、予め定められた造形プログラムに従って、造形材料の吐出を制御する駆動パルス信号が駆動パルス発生回路(図示せず)によって生成され、モーターコイル電流を供給するドライバ(図示せず)に入力される。駆動パルス信号に基づいてドライバから与えられる電流により、ステッピングモーターは回転し、その回転力は駆動シャフト43を介してウォーム41へと伝わり、フィラメント3aを融解部20へと送り込む。
【0039】
図示される例では、駆動部44は、ホルダー部Aに固定されている。具体的には、例えばホルダー部Aが有する開孔に略円筒形の駆動部44が嵌合して組付けられ、ホルダー部Aによって駆動部44が支持されている。しかしながら、駆動部44の構成はこれに限定されない。駆動部44は、ホルダー部Aの上方にこれと離間して配置することもできる。
【0040】
ホルダー部Aは、3DプリンタPのヘッド部Hに固定されるとともにガイドシャフトに熱的に接触し、X軸ベルトBxによりX軸フレームFxに沿って動き回り、ヘッド部Hとともに熱放散する。このようなことから、ホルダー部A、ヘッド部H、及び/又はガイドシャフトの熱放散性を向上するために、例えば外表面にフィンを形成したり黒色としたりする等、形状、色等を変更したり付加するようにしてもよい。
【0041】
供給部10に形成される開口部10a、10bは、供給部10の断面積を小さくして、供給部10の熱抵抗を高くし得る。開口部10a、10bは供給部10における融解部20から導入口11への伝熱を抑制する効果をもたらし得る。すなわち、開口部10a、10bを有する供給部10は、融解部20から導入口11への伝熱を抑制する断熱部として機能し得る。
【0042】
融解部20には加熱手段(加熱ヘッド)60が取り付けられている。加熱手段60から与えられる熱によって、融解部20における通路12内のフィラメントは融解され、バレル部10と融解部20との境界部下流側において固体と液体の混合した状態のフィラメント3cを経て、融解した状態のフィラメント3bに変化する。
図1に示される例では2つの加熱手段60が吐出ヘッド100の融解部20を挟むように設けられている。
【0043】
加熱手段60としては、例えば、絶縁基板上に厚膜抵抗体層を形成した加熱ヘッド、ヒートブロックなど公知のものを広く使用することができるが、応答性やサイズの点において加熱ヘッドを用いるのが好ましい。図示されている例の加熱ヘッド60は、例えば矩形板状のアルミナ又はジルコニアなどのセラミック基板(絶縁基板)61と、絶縁基板61の表面に形成された帯状の発熱抵抗体62と、を有する。
図1の例では、発熱抵抗体62の絶縁基板61と反対側には別の絶縁基板であるカバー基板63が設けられている。
【0044】
吐出ヘッド100に加熱ヘッド60が取付けられた状態では、加熱ヘッド60は、その絶縁基板61側を吐出ヘッド100の融解部20の平面部に、例えば銀系の厚膜ペーストを接合材料として塗布、焼成して、接合されている。なお、
図2に示される例では、吐出ヘッド100を挟んで2つの加熱ヘッド60が取り付けられているが、例えば、吐出ヘッド100の融解部20が四角柱状で4つの平面部を有する場合には、その全ての平面に加熱ヘッド60が設けられて、ホットエンド1が4つの加熱ヘッド60を備える構成としてもよい。加熱ヘッド60が小型のものである場合には、1つの平面部における長さ方向に、複数の加熱ヘッド60を設けることも可能である。
【0045】
加熱ヘッド60は発熱抵抗体62に印加される電圧の制御により融解部20の温度を所望の温度に加熱する。融解部20の温度は、例えば発熱抵抗体62の抵抗値変化に基づいて検出され得る。別途センサなどの温度監視手段が設けられ融解部20の温度が検出されてもよい。検出された融解部20の温度に応じて発熱抵抗体62に印加される電圧が調整され、造形物を形成する造形動作の最中には、融解部20における通路12内における温度分布が、造形材料が融解した状態で安定するように温度が制御される。加熱ヘッド60の構成によって融解部20が温度勾配を持つように加熱してもよい。例えば、融解部20のフィラメント上流側の加熱温度が、融解部20のフィラメント下流側の加熱温度よりも低くなるように発熱抵抗体62を構成することで、供給部10への伝熱量を抑制し通路12内での造形材料の詰まりの原因となり得る、供給部10における通路12内でのフィラメント3aの軟化や融解を抑制し得る。
【0046】
通路12内の供給部10の下端部には、加熱手段60により融解部20で融解された造形材料が供給部10側(導入口11側)に逆流するのを防止する、逆流防止部材50が必要に応じて配置され得る。
図2に示される例において、逆流防止部材50は、通路12の内部の融解部20の造形材料が供給される入口(供給部10と融解部20の境界部)に設けられた段部21の上面に接して設けられている。逆流防止部材50は、逆流防止部材50よりも大きい内径を有する環状の固定部材(抜け止め部材51)と段部21とによって挟まれるようにして固定され得る。
【0047】
図2に示される例では、逆流防止部材50は、フィラメントの長さ方向における一部の周縁を取り囲んで接して保持し得るリング状に形成されている。逆流防止部材50は、その内径がフィラメントの線径の公差内の変動に追従し密着して保持した状態が維持され得る弾性を有する材料で形成されるのが好ましい。逆流防止部材50に使用される材料は、フィラメントが融解する温度に対する耐熱性を有することが好ましく、一例として超弾性合金であるNi-Ti系合金が使用され得る。逆流防止部材50によって通路12において融解部20と供給部10とが隔離されることにより、融解した状態のフィラメント3c、3bが逆流した後に供給部10内で固化して通路12に詰まり、フィラメント3aの送り出し不能の状態が発生することが予防され得る。
【0048】
ホットエンドモジュール1は、
図2に示されるように、逆流防止部材50が配置されている部分(供給部10と融解部20との境界部分)における、吐出ヘッド100の外周を取り囲むように設けられる温度調整部70を有し得る。温度調整部70は、例えば、アルミニウム、ステンレスなどの所定の厚みを有する金属ブロックのように、供給部10と融解部20の境界付近の熱容量を増加させる手段であり得る。すなわち、温度調整部70は、供給部10と融解部20の境界付近に接して取り囲むように設けられることによって、供給部10と融解部20の境界部分の熱容量を増大させ得る。従って、供給部10と融解部20の境界付近は、所望の温度で安定して維持され得る。温度調整部70のサイズ、形状及び寸法などは、造形材料の種類、造形動作中の造形材料の送り出し速度などに応じて適宜決定され得る。例えば、形状の具体例としては、リング状、円筒状、多角柱状などを挙げることができる。
【0049】
上述した、加熱部60によって加熱される融解部20の温度は、例えば、フィラメント3aに比較的高融点のスーパーエンジニアリングプラスチック材料であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK:融点343℃)を用いる場合には、その融点より高い400℃~450℃程度とされ得る。また、逆流防止部材50が配置され得る、供給部10と融解部20との境界近傍は、フィラメントの融点より低い温度とされ、300℃~330℃程度に維持され得る。供給部10と融解部20との境界近傍は温度調整部70が取り付けられていることにより比較的安定して、フィラメントの融解温度以下に維持され得る。
【0050】
図示の例においては、温度調整部70には、融解部20及び吐出部30の一部をカバーして、加熱手段60から発生する熱を融解部20及び吐出部30の近傍に抑留させるカバー部材80が取り付けられている。カバー部材80は、熱伝導率の高いアルミニウム、ステンレスなどの金属材料を用いて形成され得る。カバー部材80が設けられていることにより、融解部20の入口付近から吐出部30にかけての所定幅の領域の温度分布(温度勾配)を、フィラメントの種類に応じて、通路12の詰まりが生じ難く安定した温度分布とすることができる場合がある。ケース部材80と、ケース部材80がカバーする吐出ヘッド100との間の空間には、ガラス繊維などの耐熱性の絶縁材料が充填されてもよい。温度調整部70及びカバー部材80は、供給部10(吐出ヘッド100)よりも高い熱伝導率材料とされ、融解部20で加熱された熱が供給部10側へ伝わるのを抑制する。
【0051】
開口部10a、10bが形成されていることで融解部20から導入口11への伝熱を抑制し得る供給部10においては、その導入口11で比較的低温とされ、60℃程度に維持され得る。導入口11の外周に取り付けられているホルダー部Aは、導入口11付近の熱を外部に放熱させる機能をも有しており、供給部10の導入口11側は比較的低い温度に維持され得る。また、開口部10aに入り込むウォーム41とフィラメント3aとの接触部においては、フィラメント3aのガラス転移点以下とされることが好ましく、例えば140℃以下とされ得る。
【0052】
図2に示されるホットエンド1に使用される吐出ヘッド100の、開口部10aが形成されている側から見た正面図が
図3(A)に示され、吐出口31側から見た底面図が
図3(B)に示される。吐出ヘッド100は、供給部10、融解部20、及び吐出部30が、例えば、ステンレス、ニッケル合金、チタン、チタン合金、セラミックスのいずれかを用いて一体的に形成されているものであってよい。吐出ヘッド100は独立した部材を組み合わせて形成されたものでもよく、各部材の間のいずれか或いはすべてに他の部材が介在してもよい。この場合、例えば、供給部10、融解部20、及び吐出部30をそれぞれ別部材として組み合わせて吐出ヘッド100が構成され得る。
【0053】
独立した部材を組み合わせて吐出ヘッド100を形成する場合には、融解部20及び吐出部30に使用される部材の材料の熱伝導率が供給部10に使用される部材の材料の熱伝導率より高いことが、導入口11側への伝熱を抑制しつつ加熱手段60の熱を効果的に造形材料の融解に利用する観点から好ましい。また、供給部10と融解部20とを別部材とする場合には、供給部10と融解部20との接続において、供給部10と融解部20との間に逆流防止部材50を挟み込む配置を構成することができる。
【0054】
図3に示される吐出ヘッド100は、例えば円柱状の金属棒を切削加工してなるものである。
図3(A)に図示される吐出ヘッド100の全長は、例えば33mmである。吐出ヘッド100は、例えば64チタン(チタンにアルミニウム6質量%、バナジウム4質量%を混ぜた合金)を用いて形成される。図示の例では、供給部10は直径が例えば3mmの円柱形状(円筒形状)とされ、その長さは例えば17.5mmとされる。供給部10の中心部には、直径が例えば2.3mmの通路12が形成されている。
【0055】
供給部10の周壁には、供給部10の断面積を小さくしてその熱抵抗を高くし得る、例えば長さ9mm、幅2.1mmの開口部10a、長さ9mm、幅2mmの開口部10bが、通路12に対向して一対で形成されている。この開口部10a、10bの幅及び長さは、供給部10の剛性を保ちながら熱抵抗を高くすることを考慮しつつ、供給部10の通路12の直径、又は、開口部10a内に入り込むもしくは開口部10aから露出するフィラメント3aと当接するフィラメント送り機構40のウォーム41、及び、対向開口部10bに入り込むもしくは開口部10aから露出するフィラメント3aと当接するバックアップローラー42の配置やサイズとの兼ね合いで適宜決定され得る。例えば、開口部10aは、直径が3mmのパイプ状の供給部10を約1mm平面切削することでフィラメント3aが露出する程度開口させられ、この開口から露出するフィラメント3aにウォーム41(ネジ部)が圧接する。また、例えば、開口部10bは、開口幅約2mmとなるまで平面切削することで開口され、開口から露出するフィラメント3aには幅2mm未満のバックアップローラー42が圧接する。
【0056】
図示の例では、融解部20は、角部がC面に形成された、例えば一辺3.2mmの矩形の断面形状を有する四角柱状に形成され、その長さは例えば12.5mmである。四角柱状の融解部20の4つの側面(平面部)のそれぞれには、加熱手段60が取り付けられ得る。融解部20に取り付けられる加熱手段60のサイズ、数、位置などに応じて、融解部20は四角柱以外の角柱状(例えば三角柱状、又は五角柱状)に形成されてもよい。融解部20の中心には、直径が例えば1.8mmの通路12が、供給部10の通路12と連通して形成されている。
【0057】
融解部20における通路12の径は、供給部10における通路12の径よりも小さく形成され、通路径が変化する融解部20と供給部10との境目には逆流防止部材50を固定し得る段部21が形成され得る。すなわち、融解部20における通路12の周壁の厚さより、供給部10における通路12の周壁の厚さが、薄く形成され得る。なお、融解部20の4つの側面には、その内部の造形材料をより効率的に加熱して融解させるために、通路12を露出させる開口が形成されてもよい。加熱手段60が開口を塞ぐように取り付けられることで、造形材料が加熱手段60により直接加熱されることとなり、より効率的に造形材料の融解がなされ得る。
【0058】
吐出部30は、例えば長さ3mmの略円錐状とされ、融解部20から吐出部30の先端部(吐出口31)側に向けて先細る形状を有している。吐出部30は融解部20との境界においては例えば直径3mmに形成され、吐出口31が形成されている先端部では、例えば直径1.5mmに形成され、吐出口31は例えば直径0.4mmに形成される。なお、上述した吐出ヘッド100の各部及び通路12のサイズは、フィラメントのサイズなどに応じて適宜変更され得る。
【0059】
本実施形態のホットエンドモジュールにおいては、フィラメント3aを介してウォーム41と対向するバックアップ部材として、バックアップローラー42とは異なる部材が用いられ得る。
図4に示される例のホットエンドモジュール1aにおいては、バックアップ部材として、押し付け部材42aが採用されている。押し付け部材42aの一部は、対向開口部10bに入り込み、ウォーム41がフィラメント3aと当接する部分に対応する位置においてフィラメント3aに当接している。
【0060】
押し付け部材42aは、板状の部材PLと部材PLの先端に形成される突起部PRとを有している。部材PLの突起部PRと反対側の端部はホルダー部Aに取り付けられている。すなわち、押し付け部材42aは、その一方の端がホルダー部Aに取り付けられたカンチレバー型の部材である。突起部PRは対向開口部10b内に入り込んでフィラメント3aに当接する。ウォーム41の回転によりフィラメント3aが融解部20側に送り出されるのに従って、フィラメント3aは突起部PRに対して摺動する。板状の部材PLは、外力に起因する変形に対して復元力を有しており、例えばバネ性を有するステンレス鋼板などを用いて形成され得る。部材PLは、その先端に配置されている突起部PRを、そのバネ性によって、フィラメント3aに対して弾性的に付勢し得る。
【0061】
突起部PRの表面は、高い摺動性及び耐摩耗性を有する材料で構成され得る。例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、アセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などの高摺動性を有する樹脂が突起部PRの表面にコーティングされ得る。押し付け部材42aは、部材PLの先端に、これらの樹脂からなる部材を突起部PRとして接合させることにより形成され得る。また、押し付け部材42aは、一方の端部にバンプ状の突起を有する板状の部材PLを用いて、突起を上述の樹脂材料で被覆することによっても形成され得る。バックアップ部材として、バックアップローラー42に替えて押し付け部材42aが使用されることにより、バックアップローラー42の軸受けとなる部材を配置する必要がなくなる。従って、ホットエンドモジュールの横方向の寸法はさらに小型化され得る。
【0062】
また、ウォーム41と対向してフィラメント3aを挟持する構成として、バックアップ部材(バックアップローラー42、押し付け部材42a)に替えて、通路12の内壁に設けられる凸部が採用され得る。凸部が通路12の内壁に設けられている構成が採用される例として、
図5には、ホットエンドモジュール1bが示されている。この場合、ウォーム41が入り込む開口部10aに対向する位置の周壁には開口部は設けられず、周壁の一部が通路12の中心に向かって突出する凸部42bが形成される。凸部42bは、ウォーム41のフィラメント3aに当接する部分に対向して、フィラメント3aに当接し得るように形成される。
【0063】
凸部42bは、吐出ヘッド100の開口部10aから通路12の内壁の凸部42b形成位置の上側(導入口11側)及び下側(融解部20側)を部分的に、例えば切削又は研磨することにより凹部(通路12における凸部42bが形成されている部分よりも径の広い部分)を形成することで、形成することができる。また、本実施形態では、凸部42bが形成されるべき位置(フィラメント3aを挟んでウォーム41と対向する位置)に硬質の部材(例えば、金属又はセラミック)を接合又は蒸着することによって形成しているが、必ずしも必要ではない。つまり、ウォーム(ネジ部)41の幅サイズ、バネによりネジ部41を凸部42b(硬質の部材が形成されていない凸部)に押し付けるように付勢させることで、ネジ部41をフィラメント3aに良好に圧接することができる。本実施形態において、例えば、凸部42bが形成されている部分においては、通路12の内径は2.3mm程度とされ、凸部42bの導入口11側及び融解部20側の凹部に対応する部分の通路12の内径は2.5mmとされ得る。凸部42bの形成は、開口部10aから適切な工具を挿入しての通路12の内壁への研磨、及び、硬質の部材の付与によって形成され得る。凸部42bの表面は、バックアップ部材(押し付け部材)42aの突起部PRと同様に、摺動性及び耐摩耗性の樹脂材料又は金属材料で被覆され得る。
【0064】
ウォーム41に対向してフィラメント3aを挟持する部材として、バックアップ部材(押し付け部材)42、42aに替えて凸部42bを採用することにより、フィラメント送り機構40を備えるホットエンドモジュールはさらに小型化され得る。特に、供給部10の近傍における、横方向の寸法が比較的小さく抑制され得る。凸部42bの形成は、供給部10において同径(例えば2.3mm径)の通路12が形成された後に、ウォーム41と対向する位置への金属バンプの形成、又は樹脂材料のスポット溶着により実現されてもよい。
【0065】
実施形態のホットエンドモジュールは、各図面に例示される構造、並びに、本明細書において例示される構造、形状、及び材料を備えるものに限定されない。実施形態のホットエンドモジュールは、その取り付けられ得る3Dプリンタのヘッド部Hの構成に応じて、ホルダー部A、フィラメント送り機構40の構成は修正され得る。実施形態のホットエンドモジュールは、
図6にホットエンドモジュール1cとして示されるように、駆動部44がホルダー部Aから離間する構成を有し得る。図示の例では、駆動シャフト43は、ホルダー部Aと別体としてホルダー部Aのさらに上側(フィラメント3aの上流側)に配置されている駆動部44まで延びている。ホルダー部Aは導入口11近傍を部分的に被覆して吐出ヘッド100に取り付けられており、駆動シャフト43の延在する部分にはホルダー部Aは設けられていない。従って、ホットエンドモジュール1cでは導入口11近傍における横方向の寸法の増大が抑制され得る。
【符号の説明】
【0066】
1、1a、1b、1c ホットエンドモジュール
3a、3b、3c フィラメント
10 供給部
10a 開口部
10b 対向開口部
11 導入口
12 通路
20 融解部
21 段部
30 吐出部
31 吐出口
40 フィラメント送り機構
41 ウォーム
42 バックアップローラー
42a 押し付け部材
42b 凸部
43 駆動シャフト
44 駆動部
50 逆流防止部材
51 抜け止め部材
60 加熱手段(加熱ヘッド)
61 絶縁基板
62 発熱抵抗体
70 温度調整部
100 吐出ヘッド
PL 部材
PR 突起部
P 3Dプリンタ
H ヘッド部
A ホルダー部
S 造形ステージ
【手続補正書】
【提出日】2022-12-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形材料であるフィラメントを導入するための導入口を有し、前記導入口から導入された前記フィラメントを下流側へ供給する供給部、前記供給部から供給された前記フィラメントを加熱融解する前記下流側の融解部、前記融解部で融解された前記フィラメントを吐出する吐出口を有する吐出部、及び、前記導入口から前記吐出口へと連通する通路、を備える吐出ヘッドと、
前記フィラメントを前記下流側へ送り出すためのフィラメント送り機構と、
前記吐出ヘッドと前記フィラメント送り機構とを結合するホルダー部と、を備えた3次元プリンタ用のホットエンドモジュールであって、
前記吐出ヘッドの前記供給部は、前記通路を露出させる開口部を有し、
前記フィラメント送り機構は、前記開口部から前記通路内に臨んで配置されたネジ部を有するウォームと、前記ウォームを駆動させる駆動手段と、を有し、
前記ウォームの前記ネジ部を前記通路内の前記フィラメントに当接させた状態で前記ウォームを回転させることによって前記フィラメントを前記下流側へ送り出すようにしたことを特徴とする3次元プリンタ用のホットエンドモジュール。
【請求項2】
前記通路は前記導入口から前記吐出口にかけて直線状に連通しており、前記吐出ヘッドの前記供給部の前記開口部から露出する前記通路の内壁に、前記ウォームと対向する凸部を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の3次元プリンタ用のホットエンドモジュール。
【請求項3】
前記吐出ヘッドの前記供給部は、前記通路を介して前記開口部と対向するように設けられた対向開口部を有し、
前記フィラメント送り機構は、前記対向開口部から前記通路内に臨んで配置され、前記ウォームと対向する位置に配置されるバックアップ部材を有し、
前記ウォームと前記バックアップ部材との間に前記フィラメントを挟持した状態で、前記ウォームを回転させることによって前記フィラメントを前記下流側へ送り出すようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の3次元プリンタ用のホットエンドモジュール。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のホットエンドモジュールを搭載していることを特徴とする3次元プリンタ。
【請求項5】
造形材料であるフィラメントを導入するための導入口を有し、前記導入口から導入された前記フィラメントを下流側へ供給する供給部、前記供給部から供給された前記フィラメントを加熱融解する前記下流側の融解部、前記融解部で融解された前記フィラメントを吐出する吐出口を有する吐出部、及び
前記導入口から前記吐出口へと連通する通路、を備える吐出ヘッドであって、
前記供給部は前記通路を露出させる縦長の開口部を有し、前記開口部の前記導入口側に寄った位置と対向する前記通路の内壁に凸部を設けたことを特徴とする、吐出ヘッド。
【請求項6】
前記凸部は、前記内壁における前記凸部が形成されるべき位置の上側及び下側の部分に凹部を形成することで設けたことを特徴とする、請求項5に記載の吐出ヘッド。
【請求項7】
前記供給部と前記融解部と前記吐出部とが一体的に形成されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の吐出ヘッド。