(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190440
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】マニピュレーションシステム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221219BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098765
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 裕基
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA25
4B029BB11
4B029GA01
(57)【要約】
【課題】細胞の培養環境を保持した状態で良好に細胞の操作を行うことができるマニピュレーションシステムを提供する。
【解決手段】マニピュレーションシステムは、試料ステージと、試料ステージに載置され、細胞の培養環境を保持できる細胞培養インキュベータと、細胞培養インキュベータの内部に載置され、細胞を収容するための容器と、細胞を操作するためのピペットを備えるマニピュレータと、を有し、細胞培養インキュベータには、ピペットを内部空間に挿入するための開口が設けられ、開口の外縁とピペットとの間の隙間を封止する封止部材が設けられる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ステージと、
前記試料ステージに載置され、細胞の培養環境を保持できる細胞培養インキュベータと、
前記細胞培養インキュベータの内部に載置され、前記細胞を収容するための容器と、
前記細胞を操作するためのピペットを備えるマニピュレータと、を有し、
前記細胞培養インキュベータには、前記ピペットを内部空間に挿入するための開口が設けられ、
前記開口の外縁と前記ピペットとの間の隙間を封止する封止部材が設けられる
マニピュレーションシステム。
【請求項2】
前記封止部材は、蛇腹状に伸縮可能に設けられる
請求項1に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項3】
前記ピペットを保持するピペット保持部材を有し、
前記封止部材は、前記ピペット保持部材の周囲を囲んで設けられる
請求項1又は請求項2に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項4】
前記試料ステージ及び前記細胞培養インキュベータの上方に配置される撮像部を有し、
前記細胞培養インキュベータの天板の、少なくとも前記撮像部と重畳する部分は透光性の材料で形成される
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項5】
前記細胞培養インキュベータは、センサ又はヒータの少なくとも一方を前記内部空間に設置するための、少なくとも1つ以上の貫通孔を有する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項6】
前記細胞培養インキュベータの内部に少なくとも前記センサ及び前記ヒータを備えており、前記貫通孔を通じて外部と接続される
請求項5に記載のマニピュレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養環境を保持できる細胞培養インキュベータが知られている。特許文献1には、顕微鏡のステージに設けられ、細胞を培養しながら顕微鏡で観察できるインキュベータ装置が記載されている。特許文献2には、培養器の内部に細胞操作システムを内蔵した細胞培養インキュベータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-200223号公報
【特許文献2】特表2018-510659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような細胞培養インキュベータは、内部環境を細胞培養に適した状態へ保つために密閉されている。このため、マニピュレータのような操作ツールを外部からアクセスさせることができない場合があり、細胞培養を続けながら細胞の操作を行うことが困難となる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、細胞の培養環境を保持した状態で良好に細胞の操作を行うことができるマニピュレーションシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るマニピュレーションシステムは、試料ステージと、前記試料ステージに載置され、細胞の培養環境を保持できる細胞培養インキュベータと、前記細胞培養インキュベータの内部に載置され、前記細胞を収容するための容器と、前記細胞を操作するためのピペットを備えるマニピュレータと、を有し、前記細胞培養インキュベータには、前記ピペットを内部空間に挿入するための開口が設けられ、前記開口の外縁と前記ピペットとの間の隙間を封止する封止部材が設けられる。
【0007】
これによれば、マニピュレーションシステムは、封止部材により細胞培養インキュベータの内部空間と外部とが遮蔽されるので、細胞培養インキュベータの内部の環境を良好に維持することができる。そして、細胞培養インキュベータに設けられた開口を介してピペットが内部空間に挿入され、細胞培養インキュベータ内の所定の環境下で、細胞の培養環境を保持した状態で良好に細胞の操作を行うことができる。また、マニピュレータの駆動装置等の可動部は、細胞培養インキュベータの外部に配置されているので、細胞培養インキュベータ内の環境(例えば、高温多湿環境)に晒されることを抑制できる。
【0008】
本発明の一態様に係るマニピュレーションシステムにおいて、前記封止部材は、蛇腹状に伸縮可能に設けられる。これによれば、ピペットを内部空間で移動させて細胞の操作を行う際に、封止部材は、ピペットの移動に伴って伸縮可能に設けられる。これにより、マニピュレーションシステムは、開口の外縁とピペットとの間の隙間を良好に封止して、細胞培養インキュベータ内の環境を保ちつつ細胞の操作を行うことができる。
【0009】
本発明の一態様に係るマニピュレーションシステムにおいて、前記ピペットを保持するピペット保持部材を有し、前記封止部材は、前記ピペット保持部材の周囲を囲んで設けられる。これによれば、マニピュレーションシステムは、開口の外縁とピペット保持部材との間の隙間を良好に封止して、細胞培養インキュベータ内の環境を良好に維持することができる。
【0010】
本発明の一態様に係るマニピュレーションシステムにおいて、前記試料ステージ及び前記細胞培養インキュベータの上方に配置される撮像部を有し、前記細胞培養インキュベータの天板の、少なくとも前記撮像部と重畳する部分は透光性の材料で形成される。これによれば、顕微鏡により、透光領域を介して細胞培養インキュベータの内部空間を観察することができる。したがって、マニピュレーションシステムは、細胞培養インキュベータの内部空間で良好に細胞の操作を行うことができる。
【0011】
本発明の一態様に係るマニピュレーションシステムにおいて、前記細胞培養インキュベータは、センサ又はヒータの少なくとも一方を前記内部空間に設置するための、少なくとも1つ以上の貫通孔を有する。これによれば、細胞培養インキュベータの内部空間の環境を適切に制御することができる。
【0012】
本発明の一態様に係るマニピュレーションシステムにおいて、前記細胞培養インキュベータの内部に少なくとも前記センサ及び前記ヒータを備えており、前記貫通孔を通じて外部と接続される。これによれば、細胞培養インキュベータの内部空間の環境を適切に制御することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞の培養環境を保持した状態で良好に細胞の操作を行うことができるマニピュレーションシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係るマニピュレーションシステムの構成例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、微動機構の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、マニピュレーションシステムの制御ブロック図である。
【
図4】
図4は、細胞培養インキュベータ、ピペット保持部材及びピペットの配置関係を説明するための斜視図である。
【
図6】
図6は、取付部材の構成例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るマニピュレーションシステムの構成を模式的に示す図である。マニピュレーションシステム10は、顕微鏡観察下で微小対象物である試料を操作するためのシステムである。
図1に示すように、マニピュレーションシステム10は、顕微鏡ユニット12と、第1マニピュレータ14と、第2マニピュレータ16と、マニピュレーションシステム10を制御するコントローラ43とを備えている。顕微鏡ユニット12の両側に第1マニピュレータ14と第2マニピュレータ16とが分かれて配置されている。微小対象物は、例えば細胞や卵であり、以下の説明では「細胞」と表す。
【0017】
顕微鏡ユニット12は、撮像素子を含むカメラ18(撮像部)と、顕微鏡20と、試料ステージ22とを備えている。試料ステージ22には、細胞培養インキュベータ60が載置される。細胞培養インキュベータ60の内部には、シャーレなどの試料保持部材11が収容される。
【0018】
細胞培養インキュベータ60は、内部空間を有する箱状の部材である。細胞培養インキュベータ60の内部空間は密閉され、細胞培養インキュベータ60の外部と遮断される。細胞培養インキュベータ60の内部空間は、細胞の培養を行うための所定の環境(温度や二酸化炭素(CO2)濃度、湿度等)に維持、管理される。細胞の培養環境は、例えば温度37℃、CO2濃度5%、湿度95%以上とされる。なお、本明細書において、「密閉」及び「封止」は、細胞培養インキュベータ60の内部空間が外部と完全に遮断された状態に限定されず、第2ピペット35及び試料ステージ22を移動して細胞の操作を行う際に、細胞培養インキュベータ60の内部空間が所定の環境を維持できる気密性を有していればよい。
【0019】
試料ステージ22及び細胞培養インキュベータ60の直上に顕微鏡20が配置される。顕微鏡ユニット12は、顕微鏡20とカメラ18とが一体構造となっており、試料保持部材11に向けて光を照射する光源(図示は省略している)を備えている。なお、カメラ18は、顕微鏡20と別体に設けてもよい。
【0020】
試料保持部材11には、細胞を含む溶液が収容される。試料保持部材11の細胞に光が照射され、試料保持部材11の細胞で反射した光が顕微鏡20に入射する。細胞に関する光学像は、顕微鏡20で拡大された後、カメラ18で撮像される。顕微鏡ユニット12は、カメラ18で撮像された画像を基に細胞の観察が可能となっている。
【0021】
図1に示すように、第1マニピュレータ14は、第1ピペット保持部材24と、X-Y軸テーブル26と、Z軸テーブル28と、X-Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30と、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32とを備える。第1マニピュレータ14は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0022】
なお、本実施形態において、水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と交差する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと交差する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。試料ステージ22の表面は、XY平面と平行であり、Z軸方向と直交する。
【0023】
X-Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル28は、X-Y軸テーブル26上に上下移動可能に配置され、駆動装置32の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置30、32は、コントローラ43に接続されている。
【0024】
第1ピペット保持部材24は、Z軸テーブル28に連結され、先端に毛細管チップである第1ピペット25が取り付けられている。第1ピペット保持部材24は、X-Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動に従って3次元空間を移動領域として移動できる。第1ピペット保持部材24は、試料保持部材11に収容された細胞を、第1ピペット25を介して保持することができる。すなわち、第1マニピュレータ14は、微小対象物の保持に用いられる保持用マニピュレータであり、第1ピペット25は、微小対象物の保持手段として用いられるホールディングピペットである。
【0025】
第2マニピュレータ16は、第2ピペット保持部材34と、X-Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X-Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42とを備える。第2マニピュレータ16は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0026】
X-Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル38は、X-Y軸テーブル36上に上下移動可能に配置され、駆動装置42の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。
【0027】
第2ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、先端にガラス製の第2ピペット35が取り付けられている。第2ピペット保持部材34は、X-Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動に従って3次元空間を移動領域として移動できる。第2ピペット保持部材34は、試料保持部材11に収容された細胞を人工操作することが可能である。すなわち、第2マニピュレータ16は、微小対象物の操作(DNA溶液の注入操作や穿孔操作など)に用いられる操作用マニピュレータであり、第2ピペット35は、微小対象物のインジェクション操作手段として用いられるインジェクションピペットである。
【0028】
X-Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、第2ピペット保持部材34を、試料保持部材11に収容された細胞などの操作位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル38と第2ピペット保持部材34との連結部には、ナノポジショナとして微動機構44が備えられている。微動機構44は、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。
【0029】
図2は、微動機構の一例を示す断面図である。
図2に示すように微動機構44は、第2ピペット保持部材34を駆動対象とする圧電アクチュエータ44aを備える。圧電アクチュエータ44aは、筒状のハウジング87と、ハウジング87の内部に設けられた転がり軸受80、82と、圧電素子92とを含む。ハウジング87の軸方向に第2ピペット保持部材34が挿通される。転がり軸受80、82は、第2ピペット保持部材34を回転可能に支持する。圧電素子92は、印加される電圧に応じて第2ピペット保持部材34の長手方向に沿って伸縮する。第2ピペット保持部材34の先端側(
図2左側)には第2ピペット35(
図1参照)が取り付けられ固定される。
【0030】
第2ピペット保持部材34は、転がり軸受80、82を介してハウジング87に支持される。転がり軸受80は、内輪80aと、外輪80bと、内輪80aと外輪80bとの間に設けられたボール80cとを備える。転がり軸受82は、内輪82aと、外輪82bと、内輪82aと外輪82bとの間に設けられたボール82cとを備える。各外輪80b、82bがハウジング87の内周面に固定され、各内輪80a、82aが中空部材84を介して第2ピペット保持部材34の外周面に固定される。このように、転がり軸受80、82は、第2ピペット保持部材34を回転自在に支持するようになっている。
【0031】
中空部材84の軸方向の略中央部には、径方向外方に突出するフランジ部84aが設けられている。転がり軸受80は、フランジ部84aに対して第2ピペット保持部材34の先端側に配置され、転がり軸受82はフランジ部84aに対して後端側に配置される。内輪間座としてのフランジ部84aを挟んで転がり軸受80の内輪80aと、転がり軸受82の内輪82aとが配置される。第2ピペット保持部材34の外周面にねじ加工が施されており、内輪80aの先端側、及び内輪82aの後端側からロックナット86、86が第2ピペット保持部材34に螺合される。これにより、転がり軸受80、82の軸方向の位置が固定される。
【0032】
円環状のスペーサ90は、転がり軸受80、82と同軸に外輪82bの軸方向後端側に配置される。スペーサ90の軸方向後端側には、円環状の圧電素子92がスペーサ90と略同軸に配置される。さらに圧電素子92の軸方向後端側にはハウジング87の蓋88が配置される。蓋88は、圧電素子92を軸方向に固定するためのもので、第2ピペット保持部材34が挿通する孔部を有する。蓋88は、例えば、ハウジング87の側面に不図示のボルトにより締結されていてもよい。なお、圧電素子92は、棒状又は角柱状としてスペーサ90の周方向に略等配となるように並べても良く、第2ピペット保持部材34を挿通する孔部を有した角筒としても良い。
【0033】
圧電素子92はスペーサ90を介して転がり軸受82と接している。圧電素子92は、リード線(図示せず)を介してコントローラ43に接続されている。圧電素子92は、コントローラ43からの印加電圧に応答して軸方向に沿って伸縮し、第2ピペット保持部材34をその軸方向に沿って微動させるようになっている。第2ピペット保持部材34が軸方向に沿って微動すると、この微動が第2ピペット35(
図1参照)に伝達され、第2ピペット35の位置が微調整されることになる。また、圧電素子92により第2ピペット保持部材34が軸方向に振動すると、第2ピペット35も軸方向に振動する。このように微動機構44により、微小対象物への操作(DNA溶液や細胞の注入操作や穿孔操作など)の際には、より正確な操作が可能となり、圧電素子92による穿孔作用の向上を実現できる。
【0034】
なお、上述の微動機構44は、微小対象物の操作用の第2マニピュレータ16に設けられるとしているが、微小対象物の固定用の第1マニピュレータ14に設けてもよく、省略することも可能である。
【0035】
次に、コントローラ43によるマニピュレーションシステム10の制御について
図3を参照して説明する。
図3は、マニピュレーションシステムの制御ブロック図である。
【0036】
コントローラ43は、演算手段としてのCPU(Central Processing Unit)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のハードウェア資源を備える。コントローラ43は、記憶部46Bに格納された所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って制御部46Aが各種の制御を行うように駆動信号を出力する。
【0037】
制御部46Aは、顕微鏡ユニット12の焦点合わせ機構81、第1マニピュレータ14の駆動装置30、駆動装置32、吸引ポンプ29、第2マニピュレータ16の駆動装置40、駆動装置42、圧電素子92、注入ポンプ39を制御する制御回路である。制御部46Aは、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介して、顕微鏡ユニット12、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16のそれぞれに駆動信号を出力する。制御部46Aは、駆動装置30、32、40、42にそれぞれ駆動信号Vxy、Vz(
図1参照)を供給する。駆動装置30、32、40、42は、駆動信号Vxy、Vzに基づいてX-Y-Z軸方向に駆動する。制御部46Aは、微動機構44にナノポジショナ制御信号VN(
図1参照)を供給して、微動機構44の制御を行ってもよい。
【0038】
コントローラ43は、情報入力手段としてジョイスティック47と、入力部49とが接続されている。入力部49は、例えばキーボードやタッチパネル、マウス等である。また、コントローラ43は、液晶パネル等の表示部45が接続される。表示部45にはカメラ18で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面が表示されるようになっている。なお、入力部49としてタッチパネルが用いられる場合には、表示部45の表示画面にタッチパネルを重ねて用い、操作者が表示部45の表示画像を確認しつつ入力操作を行うようにしてもよい。
【0039】
ジョイスティック47は公知のものを用いることができる。ジョイスティック47は、例えば、基台と、基台から直立するハンドル部とを備えている。ジョイスティック47は、ハンドル部を傾斜させるように操作することで駆動装置30、40のX-Y駆動を行うことができ、ハンドル部をねじることで駆動装置32、42のZ駆動を行うことができる。ジョイスティック47は、吸引ポンプ29、圧電素子92、注入ポンプ39の各駆動を操作するためのボタンを備えていてもよい。
【0040】
コントローラ43は、さらに画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dを備えている。顕微鏡20を通してカメラ18で撮像した画像信号V
PIX(
図1参照)が画像入力部43Aに入力される。画像処理部43Bは、画像入力部43Aから画像信号を受け取って、画像処理を行う。画像出力部43Cは、画像処理部43Bで画像処理された画像情報を表示部45へ出力する。位置検出部43Dは、微小対象物である細胞等の位置や、細胞の核等の位置を、画像処理後の画像情報に基づいて検出することができる。細胞の核は、第2ピペット35によるインジェクション操作を行う操作対象である。位置検出部43Dは、画像情報に基づいてカメラ18の撮像領域内における細胞等の有無を検出することができる。また、位置検出部43Dは、第1ピペット25及び第2ピペット35の位置を検出してもよい。画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dは、制御部46Aにより制御される。
【0041】
画像処理部43Bは、例えば細胞の位置や細胞の核の位置を検出するために、画像入力部43Aから受け取った画像信号について二値化処理とフィルタ処理を実行する。画像処理部43Bは、画像信号をグレースケール化して、あらかじめ設定された所定の閾値に基づいて、このグレースケール画像をモノクロ画像に変換する。そして、画像処理部43Bは、二値化処理とフィルタ処理により得られたモノクロ画像に基づいてエッジ抽出処理やパターンマッチングを行う。その処理結果に基づいて位置検出部43Dは、細胞の位置や細胞の核の位置を検出することができる。
【0042】
制御部46Aは、位置検出部43Dからの位置情報、及び細胞等の有無の情報に基づいて、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を制御する。本実施形態において、制御部46Aは、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を所定のシーケンスで自動的に駆動する。かかるシーケンス駆動は、記憶部46Bにあらかじめ保存された所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいて、制御部46Aが順次それぞれに駆動信号を出力することで行われる。
【0043】
次に、細胞培養インキュベータ60の詳細な構成について説明する。
図4は、細胞培養インキュベータ、ピペット保持部材及びピペットの配置関係を説明するための斜視図である。
図5は、
図4のV-V’断面図である。なお、
図4及び
図5では、第2ピペット保持部材34及び第2ピペット35に対応する開口OP及び封止部材70について示し、第1ピペット保持部材24及び第1ピペット25側の開口OP及び封止部材70は図示を省略している。ただし、
図4及び
図5での開口OP及び封止部材70についての説明は、第1ピペット保持部材24及び第1ピペット25に対応する開口OP及び封止部材70にも適用することができる。
【0044】
図4及び
図5に示すように、細胞培養インキュベータ60は、底板61と、カバー部62と、を有する。底板61は、平板状の部材であり、試料ステージ22(
図1参照)の上面と対向して配置される。カバー部62は、天板62aと側板62bとを有する。側板62bの下部が底板61と連結されて、細胞培養インキュベータ60の内部空間が密閉される。
【0045】
図4に示すように、細胞培養インキュベータ60は、上面から見たときに、四角形状である。ただし、これに限定されず、細胞培養インキュベータ60は、多角形状、円形状等、他の形状であってもよい。
【0046】
図4及び
図5に示すように、細胞培養インキュベータ60の側板62bには、開口OPが設けられる。上述したように、第2ピペット35及び第2ピペット保持部材34は、開口OPを介して細胞培養インキュベータ60の内部空間に挿入される。開口OPは、側面(X軸方向)から見たときに、円形状である。開口OPの直径は、第2ピペット35及び第2ピペット保持部材34の直径よりも大きく形成される。開口OPは、側板62bの上側(天板62a側)に位置する。より詳細には、開口OPは、少なくとも試料保持部材11よりも上側に位置する。これにより、マニピュレーションシステム10は、開口OP内で第2ピペット保持部材34を移動させることができ、細胞培養インキュベータ60内の細胞の操作を行うことができる。
【0047】
なお、開口OPの位置、大きさ、形状は適宜変更することができる。例えば、開口OPは、側板62bに設けられる構成に限定されず、天板62aに設けられてもよい。また、開口OPは、円形に限定されず、楕円形状、多角形状、矩形状等、他の形状であってもよい。開口OPは、細胞の操作に応じて適切な形状を採用することができる。
【0048】
開口OPを覆って封止部材70が設けられる。封止部材70は、開口OPの外縁と、第2ピペット保持部材34(及び第2ピペット35)との間の隙間を封止する。封止部材70は、取付部材71により第2ピペット保持部材34の外周に取り付けられる。
【0049】
封止部材70は、蛇腹状に伸縮可能に設けられる。具体的には、封止部材70は、柔軟性を有する材料で形成され、例えば、ナイロンやビニール等の樹脂フィルム材料や、シート状のゴムで形成することができる。封止部材70の一端側は、第2ピペット保持部材34の外周に固定され、封止部材70の他端側は、開口OPの外縁の、細胞培養インキュベータ60の側板62bに固定される。封止部材70は、第2ピペット保持部材34(及び第2ピペット35)が開口OP内を移動する際に、変形可能に設けられている。
【0050】
図6は、取付部材の構成例を説明するための断面図である。取付部材71は、第1ナット72と、第2ナット73と、を有する。第2ピペット保持部材34の外周面にねじ加工が施されており、第1ナット72及び第2ナット73が第2ピペット保持部材34に螺合される。第2ピペット保持部材34の軸方向に沿った方向で、第1ナット72と第2ナット73との間に、封止部材70及びOリング74が挟み込まれる。これにより、第2ピペット保持部材34と、封止部材70との間が封止される。
【0051】
より具体的には、第1ナット72は、第1ナット72の下面から突出する突出部72aを有する。突出部72aは、第2ピペット保持部材34を囲む環状に形成される。第2ナット73は、第2ナット73の上面から突出する突出部73aを有する。第2ナット73の突出部73aは、第1ナット72の突出部72aの外周を囲む環状に形成される。封止部材70及びOリング74は、第2ナット73の突出部73aと、第2ピペット保持部材34の外周面との間に形成される凹部に配置される。第1ナット72及び第2ナット73が互いに近づく向きに回転することで、封止部材70及びOリング74は、突出部72aと凹部の底部を形成する第2ナット73との間に挟み込まれる。
【0052】
なお、
図6に示す取付部材71の構成はあくまで一例である。取付部材71は、第2ピペット保持部材34と封止部材70との間を封止するように設けられていれば、どのような構造であってもよい。例えば、突出部72a、73aはなくてもよい。また、図示は省略するが、開口OPと、封止部材70との封止も、封止部材70が開口OPの外縁の、細胞培養インキュベータ60の側板62bに沿って固定されて、開口OPを封止できる構造であればどのような構造であってもよい。単に接着剤により封止部材70が、第2ピペット保持部材34に接着されてもよい。あるいは、クランプ部材で封止部材70を第2ピペット保持部材34に挟み込んでも良い。
【0053】
次に、
図4及び5に戻って、細胞培養インキュベータ60の天板62aの、少なくとも顕微鏡ユニット12のカメラ18(
図1参照)と重畳する部分は透光性の材料で形成される。透光性の材料は、例えばガラスが用いられる。天板62aの、一部が透光性の材料で形成されてもよく、あるいは天板62aの全体が透光性の材料で形成されてもよい。これにより、マニピュレーションシステム10は、カメラ18により、天板62aの透光領域を介して細胞培養インキュベータ60の内部空間の第2ピペット35及び細胞を観察することができる。
【0054】
なお、細胞培養インキュベータ60は、2つの部材(底板61及びカバー部62)で構成されているが、これに限定されない。細胞培養インキュベータ60は、例えば底板、天板及び側板の3つの部材が連結されて構成されてもよい。試料ステージ22及びマニピュレータとの配置関係に応じて、細胞培養インキュベータ60は、4つ以上の部材で構成されていてもよい。
【0055】
また、細胞培養インキュベータ60には、開口OPに限定されず、ヒータや各種センサを細胞培養インキュベータ60の内部空間に設置するための貫通孔(図示しない)が設けられていてもよい。貫通孔は、例えば、ヒータや各種センサに接続される配線等が挿入される。この場合、本実施形態のマニピュレーションシステム10は、貫通孔を介して細胞培養インキュベータ60内の環境を容易に調整、管理することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のマニピュレーションシステム10は、試料ステージ22と、試料ステージ22に載置され、細胞の培養環境を保持できる細胞培養インキュベータ60と、細胞培養インキュベータ60の内部に載置され、細胞を収容するための試料保持部材11(容器)と、細胞を操作するためのピペット(例えば、第2ピペット35)を備える第2マニピュレータ16と、を有する。細胞培養インキュベータ60の側板62bには、第2ピペット35を内部空間に挿入するための開口OPが設けられ、開口OPの外縁と第2ピペット35との間の隙間を封止する封止部材70が設けられる。
【0057】
これによれば、マニピュレーションシステム10は、封止部材70により細胞培養インキュベータ60の内部空間と外部とが遮蔽されるので、細胞培養インキュベータ60内の環境を良好に維持することができる。そして、細胞培養インキュベータ60に設けられた開口OPを介して第2ピペット35が内部空間に挿入され、細胞培養インキュベータ60内の所定の環境下で、細胞の培養環境を保持した状態で良好に細胞の操作を行うことができる。言い換えると、細胞培養インキュベータ60内の細胞を大気中に取り出すことなく、長時間培養を続けながら、第2マニピュレータ16による細胞操作が可能である。また、第2マニピュレータ16の駆動装置40、42等の可動部は、細胞培養インキュベータ60の外部に配置されるので、細胞培養インキュベータ60内の環境(例えば、高温多湿環境)に晒されることを抑制できる。したがって、マニピュレーションシステム10は、第2マニピュレータ16の駆動装置40、42等の可動部における、腐食やサビの発生を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態のマニピュレーションシステム10において、封止部材70は、蛇腹状に伸縮可能に設けられる。これによれば、第2ピペット35を内部空間で移動させて細胞の操作を行う際に、封止部材70は、第2ピペット35の移動に伴って伸縮可能に設けられる。これにより、マニピュレーションシステム10は、開口OPの外縁と第2ピペット35との間の隙間を良好に封止して、細胞培養インキュベータ60内の環境を保ちつつ細胞の操作を行うことができる。
【0059】
また、本実施形態のマニピュレーションシステム10において、第2ピペット35を保持する第2ピペット保持部材34を有し、封止部材70は、第2ピペット保持部材34の周囲を囲んで設けられる。これによれば、マニピュレーションシステム10は、開口OPの外縁と第2ピペット保持部材34との間の隙間を良好に封止して、細胞培養インキュベータ60内の環境を良好に維持することができる。
【0060】
また、本実施形態のマニピュレーションシステム10において、試料ステージ22及び細胞培養インキュベータ60の上方に配置されるカメラ18(撮像部)を有し、細胞培養インキュベータ60の天板62aの、少なくともカメラ18と重畳する部分は透光性の材料で形成される。これによれば、カメラ18により、透光領域を介して細胞培養インキュベータ60の内部空間を観察することができる。したがって、マニピュレーションシステム10は、細胞培養インキュベータ60の内部空間で良好に細胞の操作を行うことができる。
【符号の説明】
【0061】
10 マニピュレーションシステム
11 試料保持部材
12 顕微鏡ユニット
14 第1マニピュレータ
16 第2マニピュレータ
18 カメラ
20 顕微鏡
22 試料ステージ
24 第1ピペット保持部材
25 第1ピペット
26、36 X-Y軸テーブル
28、38 Z軸テーブル
30、32、40、42 駆動装置
34 第2ピペット保持部材
35 第2ピペット
43 コントローラ
44 微動機構
46A 制御部
60 細胞培養インキュベータ
61 底板
62 カバー部
62a 天板
62b 側板
70 封止部材
71 取付部材
OP 開口