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特開2022-190448金属ナノ粒子担持ポリマー、組成物、物品、及び該ポリマーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190448
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子担持ポリマー、組成物、物品、及び該ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/44 20060101AFI20221219BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221219BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C08F8/44
A01P3/00
A01N59/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098777
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】大河内 則彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 佑里恵
【テーマコード(参考)】
4H011
4J100
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB18
4H011BC19
4H011DH02
4H011DH10
4J100AJ02P
4J100HA31
4J100HB44
4J100HC43
4J100HC46
4J100HC69
4J100HE12
4J100JA11
4J100JA43
4J100JA58
4J100JA60
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】水又は有機溶媒に可溶で、溶液中での着色が抑制された金属ナノ粒子担持ポリマーを提供する。
【課題手段】荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー骨格と、非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子担持ポリマーであって、非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子のメジアン径(D50)が、5nm未満である、金属ナノ粒子担持ポリマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー骨格と、
前記非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子と
を含む金属ナノ粒子担持ポリマーであって、
前記非架橋有機ポリマー骨格に担持された前記金属ナノ粒子のメジアン径(D50)が、5nm未満である、
金属ナノ粒子担持ポリマー。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、前記荷電性基に結合している、請求項1に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
【請求項3】
前記荷電性基が、カルボキシ基である、請求項1又は2に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
【請求項4】
前記非架橋有機ポリマー骨格が有する複数の前記荷電性基の一部に、疎水性基が結合している、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
【請求項5】
前記疎水性基が、炭素数4以上18以下の炭化水素基である、請求項4に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子が、銀ナノ粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子の含有率が、10質量%以上70質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーを含有する組成物。
【請求項9】
抗菌性及び/又は抗ウイルス性を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の組成物を含む物品。
【請求項11】
(1)荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー、金属塩及び錯化剤を準備する工程と、
(2)前記の非架橋有機ポリマー、金属塩及び錯化剤を水に溶解させて、前記非架橋有機ポリマーに金属錯イオンが担持された金属錯イオン担持ポリマーを得る工程と、
(3)前記金属錯イオン担持ポリマー中の前記金属錯イオンを還元して、前記非架橋有機ポリマーに担持された、メジアン径(D50)が5nm未満の金属ナノ粒子を形成する工程と
を含む、金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【請求項12】
(4)前記非架橋有機ポリマーが有する荷電性基に疎水性基を結合させる工程
をさらに含む、請求項11に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【請求項13】
前記疎水性基が、炭素数4以上18以下の炭化水素基である、請求項12に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【請求項14】
前記工程(4)において、疎水化された前記金属ナノ粒子担持ポリマーのエマルションを形成し、前記製造方法が、(5)前記エマルションから、疎水化された前記金属ナノ粒子担持ポリマーを単離する工程をさらに含む、請求項12又は13に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【請求項15】
前記荷電性基が、カルボキシ基である、請求項11~14のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【請求項16】
前記金属塩が、銀塩である、請求項11~15のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【請求項17】
前記錯化剤が、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、エーテル結合及びチオエーテル結合から選択される少なくとも1種の官能基を有する、分子量400以下の化合物である、請求項11~16のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属ナノ粒子担持ポリマー、該ポリマーを含有する組成物、該組成物を含む物品、及び金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀イオンに代表される金属イオンが抗菌性を有することは古くから知られている。最近では、抗ウイルス性を有する金属イオンも知られるようになった。類似の効果は、銀ナノ粒子及び白金ナノ粒子等の金属ナノ粒子においても報告されている。金属ナノ粒子を用いた、抗菌性及び/又は抗ウイルス性(以下「抗菌・抗ウイルス性」ともいう)を有する成分(以下「抗菌・抗ウイルス剤」ともいう)は、今後ますます増加すると予想されている。また、このような用途のほかにも、金属ナノ粒子は、種々の用途に使用できる。従来、金属ナノ粒子を、有機ポリマーに担持させる方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-135294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示者らは、金属ナノ粒子が有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子担持ポリマーについて検討した。その結果、本開示者らは、金属ナノ粒子担持ポリマーを溶媒に溶解させると、金属ナノ粒子に起因すると推測される着色が観測されることを見出した。このような着色は、例えば無色透明性が要求される用途への金属ナノ粒子担持ポリマーの展開を困難にすることがある。
【0005】
本開示は、水又は有機溶媒に可溶で、溶液中での着色が抑制された金属ナノ粒子担持ポリマーを提供することを課題とする。また、本開示は、このような金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法、該ポリマーを含有する組成物、及び該組成物を含む物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示者らは上記課題を解決すべく検討した。その結果、本開示者らは、非架橋有機ポリマーに金属錯イオンを担持させた後、担持された金属錯イオンを適切に還元して金属ナノ粒子を形成することにより、溶液中での着色が抑制された金属ナノ粒子担持ポリマーが得られることを見出した。
【0007】
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーは、荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー骨格と、非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子担持ポリマーであって、非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子のメジアン径(D50)が、5nm未満である、金属ナノ粒子担持ポリマーである。
本開示の組成物は、上記金属ナノ粒子担持ポリマーを含有する。
本開示の物品は、上記組成物を含む。
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法は、(1)荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー、金属塩及び錯化剤を準備する工程と、(2)非架橋有機ポリマー、金属塩及び錯化剤を水に溶解させて、非架橋有機ポリマーに金属錯イオンが担持された金属錯イオン担持ポリマーを得る工程と、(3)金属錯イオン担持ポリマー中の金属錯イオンを還元して、非架橋有機ポリマーに担持された、メジアン径(D50)が5nm未満の金属ナノ粒子を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水又は有機溶媒に可溶で、溶液中での着色が抑制された金属ナノ粒子担持ポリマーを提供できる。また、本開示によれば、このような金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法、該ポリマーを含有する組成物、及び該組成物を含む物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーの一例を示す模式図である。
図2図2は、上記金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法を示すフロー図である。
図3図3は、上記金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法を示す模式図である。
図4図4は、疎水化工程の一例を示す模式図である。
図5図5は、実施例の金属ナノ粒子担持ポリマーの吸収スペクトルである。
図6図6は、比較例の金属ナノ粒子担持ポリマーの吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、「抗菌性」とは、細菌及び真菌のいずれか一方又は双方を死滅又は損傷させる性質、或いは細菌及び真菌のいずれか一方又は双方の生育及び増殖を持続的に抑制する性質をいう。細菌としては、例えば、ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌及びレンサ球菌が挙げられる。真菌(又はカビ)としては、例えば、白癬菌、カンジダ及びアスペルギルスが挙げられる。
【0011】
本開示において、「抗ウイルス性」とは、ウイルスのカプシド又はエンベロープを構成するタンパク質を変性させ、又は該タンパク質に損傷を与えることにより、ウイルスを不活性化させる性質をいう。ウイルスとしては、例えば、ノロウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス及びHIVが挙げられる。
【0012】
[金属ナノ粒子担持ポリマー]
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマー(以下「本開示のポリマー」ともいう)は、
荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー骨格と、
上記非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子と
を含む。
【0013】
本開示のポリマーにおいて、非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子のメジアン径(D50)は、5nm未満である。本開示のポリマーは、後述するように極めて低い吸光度を示すことから、種々の用途に好適に用いることができる。
【0014】
<非架橋有機ポリマー骨格>
本開示のポリマーは、非架橋有機ポリマー骨格を含む。以下、分子としての非架橋有機ポリマーについて説明するときは、単に「非架橋ポリマー」と記載し、本開示のポリマーの構成要素として説明するときは、「非架橋ポリマー骨格」と記載する。
【0015】
非架橋ポリマーは、金属ナノ粒子及び後述する金属錯イオンに対する担体として機能する。本開示において、非架橋ポリマーとは、3次元架橋構造を有さないポリマーを意味し、通常は、直鎖状ポリマー及び分岐鎖状ポリマー等の鎖状ポリマーである。非架橋ポリマーは、例えば、溶媒中で物理的又は化学的架橋構造を有さず、したがって、非架橋ポリマー骨格を含む本開示のポリマーは、水又は所定の有機溶媒に可溶である。ここで「可溶」とは、例えば、1gのポリマーを100mLの溶媒に常温(25℃)で添加したときに、白濁、沈降又はゲル化しないことを意味する。非架橋ポリマー骨格を含む本開示のポリマーを用いることにより、透明な組成物を調製し、又は透明な膜を形成することができる。
【0016】
非架橋ポリマーは、荷電性基を含む側鎖を有する。荷電性基は、水中で負又は正に帯電(イオン化)しうる基であり、例えばプロトン供与性基(ブレンステッド酸)またはプロトン受容性基(ブレンステッド塩基)である。これにより、水中において非架橋ポリマーの分子鎖が負又は正に帯電し、非架橋ポリマーの分子鎖の絡み合いが静電反発によってほどけると同時に、荷電性基又は後述する結合性基が水中に露出する。露出した荷電性基又は結合性基に、後述する金属ナノ粒子が結合している。結合性基は、荷電性基と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0017】
荷電性基としては、例えば、カルボキシ基及びスルホ基等のアニオン性基(水中で負に帯電しうる荷電性基)、並びにアミノ基等のカチオン性基(水中で正に帯電しうる荷電性基)が挙げられる。これらの中でも、カルボキシ基及びスルホ基等のアニオン性基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。なお、上記荷電性基は、負又は正に帯電(イオン化)した基を包含する。例えば荷電性基がカルボキシ基の場合は、該荷電性基は、カルボキシラートイオンを包含する。
【0018】
上記側鎖は、荷電性基そのものであってもよい。
【0019】
非架橋ポリマーに含まれる荷電性基は、アニオン性基又はカチオン性基のいずれか一方のみであることが好ましい。例えば、カルボキシ基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーの場合は、該非架橋ポリマーはアミノ基を含む側鎖を有さないことが好ましく、アミノ基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーの場合は、該非架橋ポリマーはカルボキシ基を含む側鎖を有さないことが好ましい。
【0020】
非架橋ポリマーにおける荷電性基の含有量は、好ましくは0.1mmol/g以上100mmol/g以下、より好ましくは0.5mmol/g以上50mmol/g以下、さらに好ましくは1mmol/g以上20mmol/g以下である。荷電性基の含有量が上記範囲にあると、非架橋ポリマーの分子鎖の絡み合いが水中において静電反発によって充分にほどけるとともに、非架橋ポリマーが金属ナノ粒子及び後述する金属錯イオンを荷電性基によって充分に保持できる。
【0021】
荷電性基は、非架橋ポリマーの分子鎖全体にわたって均一に分布していることが好ましい。荷電性基を含む側鎖が分子鎖内に偏在すると、非架橋ポリマーの水に対する溶解性が低下したり、金属ナノ粒子の担持量が減少したりすることがある。
【0022】
荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーは、例えば、荷電性基を含むモノマーを単独重合又は共重合することによって得られる。荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーとしては、例えば、荷電性基を含む繰り返し構成単位を有する、ビニル系重合体、多糖類及びタンパク質が挙げられる。これらの中でも、荷電性基を含む繰り返し構成単位を有するビニル系重合体が好ましい。
【0023】
上記非架橋ポリマーにおいて、荷電性基を含む繰り返し構成単位の含有割合は、全繰り返し構成単位中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。本開示において、上記構成単位の含有割合は、NMRにより求めることができる。
【0024】
荷電性基を含む繰り返し構成単位を有するビニル系重合体としては、例えば、荷電性基を含むエチレン性不飽和モノマーの単独又は共重合体、及び、荷電性基を含むエチレン性不飽和モノマーと、荷電性基を含まないエチレン性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。
【0025】
荷電性基を含むエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸、並びに無水マレイン酸及び無水イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸の無水物などのカルボキシ基含有モノマー;ビニルスルホン酸及びp-スチレンスルホン酸等のスルホ基含有モノマーが挙げられる。
【0026】
荷電性基を含まないエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン類、アルカン酸ビニルエステル、芳香族カルボン酸ビニルエステル及び(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0027】
スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルエチルベンゼン及びビニルナフタレンが挙げられる。
アルカン酸ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及び酪酸ビニルが挙げられる。
芳香族カルボン酸ビニルエステルとしては、例えば、安息香酸ビニルが挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート及びイソプロピル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート及びメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、脂環又は芳香環含有(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;並びにグリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0029】
荷電性基を含むエチレン性不飽和モノマーと、荷電性基を含まないエチレン性不飽和モノマーとの共重合体において、荷電性基を含むエチレン性不飽和モノマーに由来する構成単位の含有割合は、全繰り返し構成単位中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0030】
荷電性基を含む繰り返し構成単位を有するビニル系重合体としては、具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-マレイン酸共重合体、及び(メタ)アクリル酸-ビニルスルホン酸共重合体、並びにこれらの金属塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。これらの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸及びその金属塩が好ましく、ポリアクリル酸及びその金属塩がより好ましい。
【0031】
荷電性基を含む繰り返し構成単位を有する多糖類としては、例えば、カルボキシ基を含む繰り返し構成単位を有する多糖類が挙げられ、具体的には、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルデキストラン及びアルギン酸、並びにこれらの金属塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、及びこれらの金属塩が好ましく、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸及びアルギン酸ナトリウムがより好ましい。
【0033】
タンパク質は、アミノ酸残基からなる繰り返し構成単位を有する。荷電性基を含む側鎖を有するアミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸等の酸性アミノ酸、並びにリシン等の塩基性アミノ酸が挙げられる。
【0034】
荷電性基を含む側鎖を有するアミノ酸残基を有するタンパク質において、荷電性基を含む側鎖を有するアミノ酸残基の割合(個数基準)は、全アミノ酸残基中、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0035】
荷電性基を含む側鎖を有するアミノ酸残基を有するタンパク質としては、例えば、ポリアスパラギン酸及びポリグルタミン酸等の酸性アミノ酸のタンパク質、並びにポリL-リシン等の塩基性アミノ酸のタンパク質が挙げられる。これらの中でも、ポリL-リシンが好ましい。
【0036】
荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸が好ましく、ポリアクリル酸がより好ましい。
【0037】
荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーとしては、市販品を用いてもよく、従来公知の方法によりモノマーを重合して合成してもよい。荷電性基を含まないモノマーを重合して荷電性基を有さない非架橋ポリマーを得た後、該ポリマーに荷電性基を導入してもよい。例えば、セルロースの構造中のヒドロキシ基の水素原子やヒドロキシメチル基の酸素原子に結合する水素原子の一部又は全部をカルボキシメチル基に置換することにより、カルボキシメチルセルロースが得られる。また、荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーとしては、アルギン酸ナトリウムのように、天然物からの抽出品を用いてもよい。
【0038】
非架橋ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上1,000,000以下、より好ましくは2,000以上100,000以下、さらに好ましくは5,000以上30,000以下である。Mwが上限値以下であると、非架橋ポリマーの溶媒中での凝集が抑制されるため好ましい。本開示において、Mwは、JIS K7252-1(2008)に準拠して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求められる、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0039】
本開示のポリマーを構成する非架橋ポリマー骨格は、上記荷電性基に結合した疎水性基を有していてもよい。すなわち、非架橋ポリマー骨格は、疎水性基が上記荷電性基に結合している基を有していてもよい。これにより、本開示のポリマーの有機溶媒への溶解性が高くなり、また、他のポリマーとの混和性を向上できる。
【0040】
疎水性基は、一実施形態において、上記荷電性基のエステル化又はアミド化により、非架橋ポリマー骨格に導入されていることが好ましい。疎水性基が上記荷電性基に結合している基としては、荷電性基がカルボキシ基又はスルホ基である場合は、例えば、-CONHR、-COOR、又は-SO2ORで表される基が挙げられ、荷電性基がアミノ基である場合は、例えば、-NHCORで表される基が挙げられる。ここでRが、疎水性基である。
【0041】
疎水性基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環含有炭化水素基、及び芳香環含有炭化水素基などの炭化水素基が挙げられる。疎水性基の炭素数は、好ましくは4以上18以下である。本開示のポリマーを極性(誘電率)の低い有機溶媒(トルエン、シクロヘキサンなど)に溶解させる場合は、炭素数の大きい疎水性基が上記荷電性基に多く結合していることが好ましい。
【0042】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基及びオクタデシル基等のアルキル基;オレイル基等のアルケニル基が挙げられる。脂環含有炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。芳香環含有炭化水素基としては、例えば、ベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0043】
本開示のポリマーにおいて、上記荷電性基のうち、疎水性基が上記荷電性基に結合している基の割合(モル基準)は、好ましくは0.1%以上50%以下、より好ましくは0.5%以上20%以下、さらに好ましくは1%以上10%以下である。上記割合は、一実施形態において、上記荷電性基が上記疎水性基によってエステル化又はアミド化されている割合である。上記割合は、核磁気共鳴法(NMR)やマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)により測定できる。
【0044】
図1に、本開示のポリマーの模式図を示す。図1は、非架橋ポリマーがポリアクリル酸であり、金属ナノ粒子が銀ナノ粒子である例である。金属ナノ粒子担持ポリマー10は、非架橋ポリマー骨格11と、非架橋ポリマー骨格11に担持された金属ナノ粒子12とを含む。非架橋ポリマー骨格11が有する複数の荷電性基13(カルボキシ基)の一部に、アミド結合を介して、疎水性基14(n-オクチル基)が結合している。
【0045】
<金属ナノ粒子>
本開示のポリマーは、上記非架橋ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子を含む。
金属ナノ粒子としては、例えば、貴金属元素から形成されたナノ粒子が挙げられ、具体的には、銀ナノ粒子、金ナノ粒子、白金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子及びロジウムナノ粒子が挙げられる。これらのナノ粒子は、空気中又は溶媒中で酸化されにくいことから好ましい。金属ナノ粒子の中でも、銀ナノ粒子は、高い抗菌・抗ウイルス性を有することから好ましい。
【0046】
金属ナノ粒子の非架橋ポリマー骨格への担持形態は特に限定されない。金属ナノ粒子は、例えば、非架橋ポリマー骨格の主鎖又は側鎖に含まれる結合性基、好ましくは荷電性基に結合している。結合性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、チオール基及びチオエーテル結合が挙げられる。これらの中でも、カルボキシ基及びスルホ基等のアニオン性基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。アニオン性基は、水中で負に帯電(イオン化)することで、金属ナノ粒子と強く結合できる。
【0047】
本開示のポリマーにおいて、非架橋ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子のメジアン径(D50)は、5nm未満であり、好ましくは4nm以下、より好ましくは3nm以下、さらに好ましくは2nm以下、特に好ましくは1.5nm以下である。D50が上限値未満又は以下の金属ナノ粒子は、後述する局在表面プラズモン共鳴を起こさないと考えられる。D50の下限は特に限定されないが、例えば0.5nmである。
【0048】
D50は、動的光散乱法(DLS)による体積規準の粒度分布測定により得られる積算分布曲線の50%積算値を示すメジアン径(D50)である。DLSを用いれば、溶媒中の金属ナノ粒子の粒径を、非架橋ポリマーに担持された状態で測定できる。
【0049】
本開示のポリマーにおける金属ナノ粒子の含有率(担持率)は、好ましくは10質量%以上70質量%以下、より好ましくは15質量%以上65質量%以下である。含有率が10質量%以上であれば、金属ナノ粒子による効果(例えば抗菌・抗ウイルス性)が良好に発揮される。含有率が70質量%以下であれば、溶液中での金属ナノ粒子担持ポリマーの凝集が抑制され、したがって透明性に優れる組成物又は膜を得ることができる。
【0050】
金属ナノ粒子の含有率は、以下の計算式を用いて算出される。
【0051】
【数1】
【0052】
上記式中、「金属ナノ粒子担持ポリマーの質量」は、得られた金属ナノ粒子担持ポリマーから溶媒を除去したときの固形分質量を表す。一方、「非架橋ポリマーの質量」は、後述する金属錯イオン担持工程で反応系に投入した非架橋ポリマーの質量を表す。
【0053】
<吸光度>
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーは、一実施形態において、該ポリマーの0.01質量%濃度の水溶液における波長350nm以上750nm以下の範囲での吸光度が0.100以下であるという特徴を有する。これは、従来の金属ナノ粒子担持ポリマーの場合はこのような低い吸光度を達成できなかったことと比較して、有意な特徴である。例えば、本開示のポリマーを用いることにより、金属ナノ粒子を含みながら、実質的に無色の組成物又は膜を得ることができる。
【0054】
上記吸光度は、以下の手順で測定する。金属ナノ粒子担持ポリマーと純水とを混合して、上記ポリマーの0.01質量%濃度の水溶液を調製する。この水溶液を光路長1cmのセルに入れ、紫外可視分光光度計(例えば日本分光(株)製V-730)を用いて、測定温度25℃の条件で、波長300nm以上800nm以下の範囲における吸光度を測定する。ブランク液として、純水を用いる。吸収スペクトルは、水溶液が不純物を実質的に含まない状態で測定される。
【0055】
本開示のポリマーにおいて、一実施形態において、上記波長範囲における吸光度が極めて低い理由について、本開示者らは以下のように推定している。ただし、以下の説明はあくまで推定であって、本開示のポリマーを何ら限定するものではない。
【0056】
粒径がナノメートルの領域の金属ナノ粒子は、一般的に、局在表面プラズモン共鳴(以下「局在SPR」ともいう)を起こすことが知られている。局在SPRとは、金属ナノ粒子中の自由電子が入射光エネルギーを吸収して集団振動を起こす現象である。局在SPRが起こる場合、極大吸収(以下「プラズモン吸収」ともいう)が350nm以上750nm以下の範囲に現れる。例えば、銀ナノ粒子の場合は粒径に応じて400nm以上500nm以下の光を強く吸収し、金ナノ粒子の場合は粒径に応じて500nm以上600nm以下の光を強く吸収する。
【0057】
局在SPRによる光の吸収効率(モル吸光係数)は、通常の有機色素の千倍から十万倍も高いことが知られている。そのため、金属ナノ粒子が系中にわずかに存在するだけでも、観察者は金属ナノ粒子による色を認識する。このことが、従来、透明性が要求される用途(例えば抗菌・抗ウイルス剤)へ金属ナノ粒子を適用することを困難にしていた。
【0058】
一方、本開示のポリマーは、極めて低い吸光度を示す。これは、本開示のポリマーに含まれる金属ナノ粒子が、局在SPRを起こさないことに起因している。本開示において金属ナノ粒子が局在SPRを起こさない理由は、金属ナノ粒子の粒径と関係している。銀ナノ粒子の場合、5nm以上100nm以下の粒径で局在SPRが起こり、5nm未満の粒径で局在SPRが起こらなくなると考えられる。
【0059】
例えば銀ナノ粒子担持ポリマーの場合は、従来の銀ナノ粒子は粒径が5nm以上であることから、上述した局在SPRによる発色が起こる。従来技術では、粒径が5nm未満の超微細な銀ナノ粒子を安定状態で得ることは不可能であった。
【0060】
しかしながら、本開示では、後述する製造方法により、粒径が5nm未満の銀ナノ粒子を担持したポリマーを得ることができる。したがって、本開示では、局在SPRを起こさない銀ナノ粒子を安定状態で得ることができる。このような超微細な銀ナノ粒子は、非架橋ポリマーに担持されることで初めて安定に存在できると考えられる。このポリマーにおいては、光又は熱の影響による変色もほとんど示さない。なお、以上の事項については、銀ナノ粒子に限らず、上述した金属ナノ粒子についても同様である。
【0061】
以上の局在SPRの有無は、金属ナノ粒子担持ポリマーの0.01質量%濃度の水溶液の吸収スペクトルの形状に大きく影響する。本開示のポリマー中の金属ナノ粒子は、局在SPRを起こさないことから、本開示のポリマーは、非常に低い吸光度を示す。このように、局在SPRの有無は、目視でも容易に判断でき、厳密には、金属ナノ粒子担持ポリマーの0.01質量%水溶液の吸収スペクトルから判断できる。
上記説明はあくまで推定であって、本開示のポリマーを何ら限定するものではない。
【0062】
<金属ナノ粒子担持ポリマーの保存>
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーは、溶媒に溶解した状態で保存することが好ましい。すなわち、本開示のポリマーは、該ポリマーを含む溶液の状態で保存することが好ましい。金属ナノ粒子担持ポリマーを乾燥し、粉末にすると、溶媒への再溶解が難しい場合がある。
【0063】
一実施形態において、疎水性基が上記荷電性基に結合していない、又は疎水性基の導入量が小さい金属ナノ粒子担持ポリマーは、水中での長期保存が可能である。一実施形態において、疎水性基が上記荷電性基に結合している、又は疎水性基の導入量が大きい金属ナノ粒子担持ポリマーは、有機溶媒中での長期保存が可能である。
【0064】
溶媒としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられる。
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール及び1-ブタノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の炭化水素溶媒;塩化メチレン及びクロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;アセトニトリル及びN,N-ジメチルホルムアミド等の含窒素溶媒;並びにジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒が挙げられる。
溶媒は、1種であってもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0065】
[金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法]
【0066】
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーは、例えば、下記製造方法により製造できる。
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法は、一実施形態において、
(1)荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマー、金属塩及び錯化剤を準備する工程(以下「工程(1)」又は「準備工程」ともいう)と、
(2)非架橋ポリマー、金属塩及び錯化剤を水に溶解させて、非架橋ポリマーに金属錯イオンが担持された金属錯イオン担持ポリマーを得る工程(以下「工程(2)」又は「金属錯イオン担持工程」ともいう)と、
(3)金属錯イオン担持ポリマー中の金属錯イオンを還元して、非架橋ポリマーに担持された、メジアン径(D50)が5nm未満の金属ナノ粒子を形成する工程(以下「工程(3)」又は「金属ナノ粒子形成工程」ともいう)と
を含む(図2参照)。
【0067】
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法は、一実施形態において、
(4)非架橋ポリマーが有する荷電性基に疎水性基を結合させる工程
(以下「工程(4)」又は「疎水化工程」ともいう)
をさらに含む(図2参照)。
【0068】
本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法は、一実施形態において、
(5)金属ナノ粒子担持ポリマーを単離する工程
(以下「工程(5)」又は「ポリマー単離工程」ともいう)
をさらに含む。
【0069】
<工程(1)(準備工程)>
工程(1)は、荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマー、金属塩及び錯化剤を準備する工程である。非架橋ポリマーの詳細については上述したため、ここでは説明を省略する。金属塩及び錯化剤については、以下の工程(2)で説明する。
【0070】
<工程(2)(金属錯イオン担持工程)>
工程(2)は、上記非架橋ポリマー、金属塩及び錯化剤を水に溶解させて、非架橋ポリマーに金属錯イオンが担持された金属錯イオン担持ポリマーを得る工程である。
【0071】
金属塩と錯化剤とが水に溶解すると、通常、金属錯イオンが形成される。この系に上記非架橋ポリマーが共存すると、非架橋ポリマーに金属錯イオンが担持される。図3に、非架橋ポリマー11に金属錯イオン31が担持される工程の模式図を示す。錯化剤を用いて金属錯イオンを形成することにより、工程(3)において金属イオンの還元速度が適切に制御されて、金属ナノ粒子の粒径の増大を抑制できる。
【0072】
金属塩は、水に溶解し、イオン化するものであれば特に限定されない。金属塩としては、上述した貴金属元素を含む塩が好ましく、例えば、硝酸銀及び硫酸銀等の銀塩、塩化金酸、塩化白金酸、塩化パラジウム及び塩化ロジウムが挙げられる。これらの中でも、銀塩が好ましく、硝酸銀がより好ましい。
【0073】
錯化剤とは、金属イオンと錯体を形成可能な化合物を意味し、金属イオンに対する配位子である。錯化剤としては、例えば、金属イオンに配位可能な官能基を有する化合物が挙げられる。金属イオンに配位可能な官能基としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基及びチオール基等の1価の官能基;並びにエーテル結合及びチオエーテル結合(スルフィド結合)等の2価の官能基が挙げられる。これらの中でも、溶液中におけるポリマーの凝集が良好に抑制されるという観点から、アミノ基、ヒドロキシ基、エーテル結合及びチオエーテル結合(スルフィド結合)が好ましい。
【0074】
錯化剤中の、金属イオンに配位可能な官能基の数は、好ましくは2以上、より好ましくは2以上6以下、さらに好ましくは2以上4以下である。このような官能基数であれば、錯化剤が金属イオンに良好に配位できる。
【0075】
錯化剤の分子量は、好ましくは400以下、より好ましくは300以下、さらに好ましくは200以下、よりさらに好ましくは150以下である。このような分子量であれば、錯化剤が金属イオンに良好に配位できるとともに、得られる金属錯イオンが非架橋ポリマーに良好に担持される。
【0076】
錯化剤としては、具体的には、エチレンジアミン、2,2’-チオジエタノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジグリコールアミン、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)、イミノ二酢酸二ナトリウム及びクエン酸ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、溶液中におけるポリマーの凝集が良好に抑制されるという観点から、エチレンジアミン、2,2’-チオジエタノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン及びジグリコールアミンが好ましい。
【0077】
例えば、非架橋ポリマーとしてポリアクリル酸を用い、金属塩として硝酸銀を用い、錯化剤としてエチレンジアミン、チオジエタノール又はエタノールアミンを用いた場合について、非架橋ポリマー上に担持された金属錯イオンの状態の一例を以下に示す。
【0078】
【化1】
【0079】
例えば、錯化剤中の上記官能基とポリアクリル酸中のカルボキシラートイオンとが、銀イオンの両側からそれぞれ配位すると考えられる。すなわち、錯化剤によって配位された銀イオンからなる銀錯イオンが形成され、ポリアクリル酸中のカルボキシラートイオンが銀錯イオンに配位すると考えられる。このとき、上述したようにポリアクリル酸がカルボキシラートイオンの静電反発によりほぐれていると、銀錯イオンがポリアクリル酸中のカルボキシラートイオンに近接しやすくなることから、銀錯イオンの担持量が増加する。
【0080】
工程(2)は、具体的には、荷電性基を含む側鎖を有する非架橋ポリマーの水溶液を調製する工程と、該水溶液に金属塩及び錯化剤を添加する工程とを含むことが好ましい。
【0081】
まず、非架橋ポリマーを水に溶解させる。水溶液における非架橋ポリマーの濃度は、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは1質量%以上5質量%である。非架橋ポリマーの濃度が上限値以下であると、金属錯イオンの担持効率が良好である。非架橋ポリマーの濃度が下限値以上であると、製造効率が良好である。
【0082】
非架橋ポリマーの水への溶解を促進するという観点から、必要に応じて水溶液を加熱してもよい。例えば、水溶液の液温が好ましくは50℃以上90℃以下、より好ましくは60℃以上85℃以下となるように加熱する。
【0083】
非架橋ポリマーに含まれる荷電性基を水中で帯電させるために、必要に応じて非架橋ポリマーの水溶液に酸又は塩基を加えて、pHを調整してもよい。例えば、荷電性基がカルボキシ基の場合は、水溶液のpHを5以上9以下の範囲に調整すると、非架橋ポリマーが静電反発によりほぐれて、金属錯イオンの担持量が増加する傾向にある。また、pHを調整することにより、工程(3)での還元速度、よって金属ナノ粒子の形成速度を調整できる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウム等の塩基;塩酸及び硝酸等の酸が挙げられる。
【0084】
次に、非架橋ポリマーの水溶液に、錯化剤と金属塩とを添加する。該水溶液における錯化剤と金属塩との終濃度は、それぞれ独立に、好ましくは1mM以上1000mM以下、より好ましくは5mM以上700mM以下、さらに好ましくは10mM以上200mM以下である。
【0085】
錯化剤の添加量は、金属塩の添加量の1倍モル以上100倍モル以下であることが好ましく、1倍モル以上50倍モル以下であることがより好ましく、1倍モル以上10倍モル以下であることがさらに好ましく、3倍モル以上5倍モル以下であることが特に好ましい。錯化剤の添加量が上限値以下であると、金属錯イオンの担持量が低下せず好ましい。錯化剤の添加量が下限値以上であると、金属塩の水への溶解性が高くなり好ましい。
【0086】
非架橋ポリマーへの金属錯イオンの担持を促進するという観点から、必要に応じて水溶液を加熱してもよい。例えば、水溶液の液温が好ましくは50℃以上90℃以下、より好ましくは60℃以上85℃以下となるように加熱する。加熱した場合、金属錯イオンの担持は、通常は10分以内に完了する。
【0087】
金属錯イオン担持ポリマーにおける金属錯イオンの含有率(担持率)は、好ましくは10質量%以上70質量%以下、より好ましくは15質量%以上65質量%以下である。含有率が10質量%以上であれば、後の工程において充分な量の金属ナノ粒子を形成できる。含有率が70質量%以下であれば、溶液中での金属錯イオン担持ポリマーの凝集が抑制され、透明性に優れる組成物又は膜が得られる。
【0088】
金属錯イオンの含有率は、以下の計算式を用いて算出される。
【0089】
【数2】
【0090】
上記式中、「金属錯イオン担持ポリマーの質量」は、得られた金属錯イオン担持ポリマーから溶媒を除去したときの固形分質量を表す。一方、「非架橋ポリマーの質量」は、金属錯イオン担持工程で反応系に投入した非架橋ポリマーの質量を表す。
【0091】
工程(2)で得られた金属錯イオン担持ポリマーの水溶液を、精製工程に供してもよい。精製工程により、未反応物及び不純物を除去できる。精製方法としては、例えば、透析法、及びゲルろ過クロマトグラフィー法が挙げられる。
【0092】
<工程(3)(金属ナノ粒子形成工程)>
工程(3)は、金属錯イオン担持ポリマー中の金属錯イオンを還元して、非架橋ポリマーに担持された、メジアン径(D50)が5nm未満の金属ナノ粒子を形成する工程である。本工程により、非架橋ポリマー骨格に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子担持ポリマーが得られる。工程(3)では、金属錯イオンを、非架橋ポリマーに担持されたままの状態で還元することにより、粒径の小さい、具体的にはメジアン径(D50)が5nm未満の金属ナノ粒子を形成できる。図3に、非架橋ポリマー11に担持された金属錯イオン31が、金属ナノ粒子12に還元される工程の模式図を示す。
【0093】
金属錯イオンは、還元剤を用いても還元してもよく、還元剤を用いずに、超音波、光照射、γ線照射などの物理的作用で還元してもよく、還元剤及び物理的作用を併用して還元してもよい。
【0094】
還元剤としては、還元性を有する公知の化合物を用いることができる。還元剤としては、例えば、グルコース、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、クエン酸、アスコルビン酸、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、エタノール、ポリオール、ホルムアルデヒド、タンニン酸及びジボランが挙げられる。
【0095】
還元剤の添加量は、工程(2)で添加された金属塩1モルに対して、好ましくは0.1モル以上5モル以下、より好ましくは0.5モル以上3モル以下、さらに好ましくは0.8モル以上1.5モル以下である。還元剤は、工程(2)で添加された金属塩に対して等モル量添加することが特に好ましい。還元剤の添加量が上記範囲にあれば、金属イオンを還元して金属ナノ粒子を形成できるとともに、その粒径の増大を抑制できる。
【0096】
工程(3)における反応温度及び反応時間は、使用される還元剤や、上述した物理的作用に合わせて設定することが好ましい。一実施形態において、工程(3)における反応温度は、例えば5℃以上90℃以下、好ましくは10℃以上85℃以下である。温和な条件で還元を行うと、金属ナノ粒子の粒径の増大を抑制できる。例えば、還元剤の還元力に応じて、還元時の反応温度及び反応時間などを適切に調整することにより、形成される金属ナノ粒子の粒径を制御できる。
【0097】
工程(3)で得られた金属ナノ粒子担持ポリマーの水溶液を、精製工程に供してもよい。精製工程により、未反応物及び不純物を除去できる。精製方法としては、例えば、透析法、及びゲルろ過クロマトグラフィー法が挙げられる。
【0098】
<工程(4)(疎水化工程)>
疎水化工程は、金属ナノ粒子担持ポリマーに含まれる荷電性基を疎水化する工程である。一実施形態において、金属ナノ粒子担持ポリマーに含まれる荷電性基に、疎水性基を導入する。例えば、上記荷電性基をエステル化又はアミド化することにより、疎水性基を導入する。
【0099】
なお、疎水化工程で得られるポリマーも、金属ナノ粒子担持ポリマーに包含されるが、疎水化工程前後のポリマーを特に区別して記載する場合は、疎水化工程で得られるポリマーを「金属ナノ粒子担持疎水化ポリマー」と記載する。
疎水性基の具体例は、上述したとおりである。
【0100】
例えば、金属ナノ粒子を担持した非架橋ポリマー骨格中のカルボキシ基と疎水性基を有するアミンとの縮合反応により、アミド結合を形成して、疎水性基を上記ポリマー骨格に導入する。図4に、金属ナノ粒子を担持したポリアクリル酸のカルボキシ基に、n-オクチル基を導入する(カルボキシ基を、n-オクチルアミノカルボニル基に変換する)工程の模式図を示す。
【0101】
疎水性基を有するアミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、t-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-オクチルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン及びオクタデシルアミン等のアルキルアミン;オレイルアミン等のアルケニルアミンなどの脂肪族炭化水素基を有するアミンが挙げられ、シクロヘキシルアミン等のシクロアルキルアミンなどの、脂環含有炭化水素基を有するアミンが挙げられ、ベンジルアミン等のアラルキルアミンなどの、芳香環含有炭化水素基を有するアミンが挙げられる。
【0102】
上記縮合反応を温和な条件で進行させるため、縮合剤を使用することが好ましい。縮合剤としては、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド及びジイソプロピルカルボジイミド等のカルボジイミド系縮合剤;4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)等のトリアジン系縮合剤;並びにカルボニルジイミダゾール等の炭酸エステル系縮合剤が挙げられる。これらの中でも、水中で使用できる、EDC・HCl及びDMT-MMが好ましい。
【0103】
非架橋ポリマー骨格中のカルボキシ基を活性エステル基へ変換した後に、アミド結合を形成してもよい。その場合、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)や1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)などを上記カルボジイミド系縮合剤と併用することが好ましい。
【0104】
例えば、金属ナノ粒子を担持した非架橋ポリマー骨格中のカルボキシ基と疎水性基を有するアルコールとの縮合反応により、エステル結合を形成して、疎水性基を上記ポリマー骨格に導入する。例えば、金属ナノ粒子を担持した非架橋ポリマー骨格中のアミノ基と疎水性基を有するカルボン酸との縮合反応により、アミド結合を形成して、疎水性基を上記ポリマー骨格に導入する。
【0105】
上記縮合反応は、通常は水中で実施される。疎水性基を有するアミン、アルコール又はカルボン酸と、水との混和性が高くない場合は、水にアルコールを必要量添加することが好ましい。すなわち、反応溶媒として、水とアルコールとの混合溶媒を用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール及びエタノールが挙げられる。水とアルコールとの混合比は、使用するアルキルアミン等が溶媒と自由に混和できるように設定する。例えば、オクチルアミンは、水とメタノールとの等体積量の混合溶媒に良好に混和する。
【0106】
上記縮合反応において、水溶液中の金属ナノ粒子担持ポリマーの濃度は、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上1質量%以下である。濃度が上限値以下であると、縮合反応が良好に進行する。濃度が下限値以上であると、製造効率が向上する。
【0107】
疎水化工程では、金属ナノ粒子担持ポリマーが疎水化されることにより、通常は、金属ナノ粒子担持疎水化ポリマーのエマルション(水分散体)が形成される。すなわち、金属ナノ粒子担持ポリマーのエマルションは、疎水性基が非架橋ポリマー骨格に導入されると同時に形成される。金属ナノ粒子担持ポリマーに疎水性基が導入されると、該ポリマーの水系溶媒(例えば、水、及び水とアルコールとの混合溶媒)への溶解度が低下して、金属ナノ粒子担持ポリマーの一部又は全部が水系溶媒に溶解できなくなり、微小液滴となって水系溶媒中に分散する。このようにして、O/W型のエマルションが形成される。
【0108】
以下、EDC・HCl、NHS及びアルキルアミンを用いた疎水化の一例を記載する。
EDC・HCl及びNHSを、金属ナノ粒子担持ポリマーの水溶液に添加する。これらの終濃度は、それぞれ独立に、1mM以上100mM以下が好ましい。反応温度は20℃以上60℃以下が好ましく、反応時間は1分以上30分以下が好ましい。これにより、カルボキシ基を有する非架橋ポリマーを用いた場合に、金属ナノ粒子担持ポリマーを構成する非架橋ポリマー骨格中のカルボキシ基が活性エステル基に変換される。
【0109】
次に、アルキルアミンを上記水溶液に添加する。アルキルアミンの終濃度は、10mM以上300mM以下が好ましく、10mM以上100mM以下がより好ましい。反応温度は20℃以上50℃以下が好ましく、反応時間は1分以上30分以下が好ましい。これにより、金属ナノ粒子担持ポリマーを構成する非架橋ポリマー骨格中の活性エステル基とアルキルアミンとが反応して、アミド結合が形成される。
【0110】
<工程(5)(ポリマー単離工程)>
ポリマー単離工程は、金属ナノ粒子担持ポリマーを単離する工程である。上記エマルション中の金属ナノ粒子担持ポリマー(金属ナノ粒子担持疎水化ポリマー)は、例えば、公知の方法で回収される。例えば、エマルションを静置することにより、上層の溶媒層と、下層の金属ナノ粒子担持ポリマー層との2層に分離できる。分離効率を高めるために、遠心分離又は電場分離を利用してもよい。例えば、上層の溶媒を除去した後に、下層の金属ナノ粒子担持ポリマーを適当な有機溶媒に溶解させて回収することが好ましい。有機溶媒の具体例は、上述したとおりである。
【0111】
ポリマーの単離は、一実施形態において、以下のような手順で実施される。上記エマルションを遠沈管に移し、遠心機を用いて遠心分離を行う。遠心加速度は1,000×g以上10,000×g以下が好ましく、遠心時間は1分以上30分以下が好ましい。次いで、上澄み液を除去し、遠沈管の底に残った金属ナノ粒子担持ポリマーをアルコール等の有機溶媒に溶解させる。必要に応じて、溶解処理時に超音波処理を行う。
【0112】
[組成物]
本開示の組成物は、本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーを1種又は2種以上含有する。本開示の組成物は、一実施形態において、抗菌・抗ウイルス性を有し、抗菌用及び抗ウイルス用の少なくともいずれか一方の用途に用いられることが好ましい。
【0113】
本開示の組成物中の本開示のポリマーの含有割合は、組成物の用途に応じて任意に選択でき、一実施形態において0.01質量%以上70質量%以下、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。
【0114】
本開示の組成物は、一実施形態において、水及び有機溶媒から選択される少なくとも1種を含有する。例えば、本開示のポリマーは、水及び有機溶媒から選択される少なくとも1種中に溶解している。有機溶媒としては、例えば、上述した具体例が挙げられる。
【0115】
本開示の組成物中の溶媒の含有割合は、組成物の用途に応じて任意に選択でき、一実施形態において30質量%以上99.5質量%以下、好ましくは50質量%以上99質量%以下、より好ましくは60質量%以上98質量%以下である。
【0116】
例えば、本開示の金属ナノ粒子担持ポリマーを、水及び有機溶媒から選択される少なくとも1種の溶媒に溶解させることにより、本開示の組成物が得られる。本開示のポリマーを溶媒中に溶解させる方法としては、例えば、マグネチックスターラー、攪拌羽根付きモーター、ホモジナイザー又は超音波洗浄器を用いる方法が挙げられる。本開示の組成物は、一実施形態において、液状、ジェル状及びスプレー状などの形態で提供される。
【0117】
本開示の組成物は、一実施形態において、本開示のポリマー以外の樹脂を1種又は2種以上含有する。例えば、本開示のポリマーは、上記樹脂と良好に混合できる。本開示のポリマーは、樹脂中での分散性に優れていることから、一実施形態において樹脂が透明性に優れる場合は、樹脂の透明性を維持できる。
【0118】
樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及び環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル;アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリールフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、アセタール樹脂、セルロース樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂並びにシリコーン樹脂が挙げられる。
【0119】
本開示のポリマーは、上記樹脂100質量部に対して、一実施形態において0.1質量部以上50質量部以下、好ましくは0.5質量部以上40質量部以下、より好ましくは1質量部以上30質量部以下の量で用いることができる。
【0120】
本開示のポリマーと上記樹脂とは、例えば、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラー、ロール及びニーダ等の公知の混合装置を用いて混合することができる。
【0121】
本開示の組成物は、一実施形態において、活性エネルギー線硬化性樹脂成分を1種又は2種以上含有する。例えば、本開示のポリマーは、上記活性エネルギー線硬化性樹脂成分と良好に混合できる。本開示のポリマーは、活性エネルギー線硬化性樹脂成分中での分散性に優れていることから、一実施形態において、活性エネルギー線硬化性樹脂成分の硬化物の透明性を維持できる。
【0122】
活性エネルギー線硬化性樹脂成分は、活性エネルギー線の照射を受けて硬化する樹脂成分である。該樹脂成分は、モノマー、オリゴマー及びポリマーのいずれであってもよい。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線(UV)、X線及びγ線等の電磁波;電子線(EB)、α線及びイオン線等の荷電粒子線が挙げられる。
【0123】
活性エネルギー線硬化性樹脂成分としては、光硬化性樹脂成分が好ましく、(メタ)アクリル系光硬化性樹脂成分がより好ましい。(メタ)アクリル系光硬化性樹脂成分としては、例えば、多官能性(メタ)アクリレート[例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの2個以上8個以下程度の重合性基を有する(メタ)アクリレートなど]、エポキシ(メタ)アクリレート[2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性エポキシ(メタ)アクリレート]、ポリエステル(メタ)アクリレート[2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性ポリエステル(メタ)アクリレート]、ウレタン(メタ)アクリレート[2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性ウレタン(メタ)アクリレート]、シリコーン(メタ)アクリレート[2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性シリコーン(メタ)アクリレート]、重合性基を有する(メタ)アクリル系重合体が挙げられる。
【0124】
重合性基を有する(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基の一部に重合性不飽和基を導入したポリマー、例えば、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシ基の一部に、エポキシ基含有(メタ)アクリレートのエポキシ基を反応させて、側鎖に重合性基(光重合性不飽和基)を導入した(メタ)アクリル系重合体であってもよい。
【0125】
本開示のポリマーは、上記活性エネルギー線硬化性樹脂成分100質量部に対して、一実施形態において0.1質量部以上50質量部以下、好ましくは0.5質量部以上40質量部以下、より好ましくは1質量部以上30質量部以下の量で用いることができる。
【0126】
組成物が光硬化性樹脂成分を含有する場合は、組成物は、光照射によって硬化反応を開始しうる光重合開始剤を1種又は2種以上含有することが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物およびアミノベンゾフェノン系化合物が挙げられる。光重合開始剤の含有量は、光硬化性樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。
【0127】
本開示のポリマーは、樹脂及び活性エネルギー線硬化性樹脂成分との混合性に優れ、また分散性に優れることから、本開示の組成物から形成される膜表面に、本開示のポリマーに含まれる金属ナノ粒子が充分な密度で存在できる。これにより、一実施形態において、即効力の高い抗菌・抗ウイルス性が得られる。
【0128】
本開示の組成物は、必要に応じて、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水及び第4級アンモニウム塩などの、他の抗菌・抗ウイルス成分を1種又は2種以上含有してもよい。本開示の組成物は、必要に応じて、分散安定剤、保湿剤、増粘剤、pH調整剤及び界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有してもよい。
【0129】
本開示の組成物を用いて、ペレット、シート、フィルム、板、容器及びパイプ等の種々の成形体を形成することができる。本開示の組成物を、塗料及びコーティング剤のように、基材表面に塗布してもよい。
【0130】
[物品]
本開示の物品は、本開示の組成物を含む。本開示の物品は、一実施形態において、該組成物から形成された構成部分が抗菌・抗ウイルス性を有する。したがって、本開示の物品は、抗菌用及び抗ウイルス用の少なくともいずれか一方の用途に用いられることが好ましい。
【0131】
本開示の物品は、本開示の組成物を含んでいれば特に限定されない。上記物品は、本開示の組成物から形成されるか、或いは、本開示の組成物から形成された構成部分(例えば、表層、部材又は部品)を備える。一実施形態において、本開示の物品は、本開示の組成物から形成された層を備え、該層は、本開示の物品における表層の少なくとも一部を構成している。本開示の物品は、一実施形態において、抗菌・抗ウイルス性に優れることから、例えば、人が手に触れる物品として幅広く使用することができる。
【0132】
本開示の組成物から形成された層の厚さは、一実施形態において0.05μm以上200μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下、より好ましくは0.15μm以上5μm以下である。
【0133】
本開示において、物品の抗菌性は、ISO 22196(JIS Z2801)に準拠して評価し、物品の抗ウイルス性は、ISO 21702に準拠して評価する。
【0134】
上記物品としては、例えば、タッチパネル、フェイスシールド、手すり、ボタン、スイッチ及び窓などを保護するためのフィルム製品;靴下、肌着、タオル、カーテン及びカーペットなどの繊維製品;床材、壁紙、タイル及び塗装材などの建材;スポンジ、まな板、フィルム包材、ブラシ及び弁当箱などのキッチン用品;バスマット、トイレケース付きブラシ及びボトルなどのバス・トイレ用品;歯ブラシ、靴の中敷き、マスク及び抗菌スプレーなどの生活用品;ぬいぐるみ及び積み木などの玩具;洗濯機、掃除機及び冷蔵庫などの家電製品;ステアリング、シフトノブ、空気清浄機及び内装材などの自動車用部品が挙げられる。
【0135】
本開示は、例えば以下の[1]~[17]に関する。
[1]荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー骨格と、非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子担持ポリマーであって、非架橋有機ポリマー骨格に担持された金属ナノ粒子のメジアン径(D50)が、5nm未満である、金属ナノ粒子担持ポリマー。
[2]金属ナノ粒子が、荷電性基に結合している、上記[1]に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
[3]荷電性基が、カルボキシ基である、上記[1]又は[2]に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
[4]非架橋有機ポリマー骨格が有する複数の荷電性基の一部に、疎水性基が結合している、上記[1]~[3]のいずれかに記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
[5]疎水性基が、炭素数4以上18以下の炭化水素基である、上記[4]に記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
[6]金属ナノ粒子が、銀ナノ粒子である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
[7]金属ナノ粒子の含有率が、10質量%以上70質量%以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の金属ナノ粒子担持ポリマー。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の金属ナノ粒子担持ポリマーを含有する組成物。
[9]抗菌性及び/又は抗ウイルス性を有する、上記[8]に記載の組成物。
[10]上記[8]又は[9]に記載の組成物を含む物品。
[11](1)荷電性基を含む側鎖を有する非架橋有機ポリマー、金属塩及び錯化剤を準備する工程と、(2)非架橋有機ポリマー、金属塩及び錯化剤を水に溶解させて、非架橋有機ポリマーに金属錯イオンが担持された金属錯イオン担持ポリマーを得る工程と、(3)金属錯イオン担持ポリマー中の金属錯イオンを還元して、非架橋有機ポリマーに担持された、メジアン径(D50)が5nm未満の金属ナノ粒子を形成する工程とを含む、金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
[12](4)非架橋有機ポリマーが有する荷電性基に疎水性基を結合させる工程をさらに含む、上記[11]に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
[13]疎水性基が、炭素数4以上18以下の炭化水素基である、上記[12]に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
[14]工程(4)において、疎水化された金属ナノ粒子担持ポリマーのエマルションを形成し、上記製造方法が、(5)エマルションから、疎水化された金属ナノ粒子担持ポリマーを単離する工程をさらに含む、上記[12]又は[13]に記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
[15]荷電性基が、カルボキシ基である、上記[11]~[14]のいずれかに記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
[16]金属塩が、銀塩である、上記[11]~[15]のいずれかに記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
[17]錯化剤が、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、エーテル結合及びスルフィド結合から選択される少なくとも1種の官能基を有する、分子量400以下の化合物である、上記[11]~[16]のいずれかに記載の金属ナノ粒子担持ポリマーの製造方法。
【実施例0136】
以下、具体的な実施例を用いて本開示のポリマー等を説明する。
[抗菌性試験]
金属ナノ粒子担持ポリマー水溶液の抗菌性を、以下の手順に従って評価した。
【0137】
実施例又は比較例で得られたポリマー(銀ナノ粒子担持ポリマー等)を純水に添加し、ポリマー濃度0.01質量%の水溶液(検体)10mLを得た。試験に用いる大腸菌(NBRC 3972)を液体培地にて、35℃で24時間、増菌培養した。培養後、滅菌した普通ブイヨン培地(1/500NB培地)を用いて大腸菌の濃度を108cfu/mLに調整した(cfu:コロニー形成単位)。この菌液0.1mLを、上記ポリマーを含む上記検体10mLに接種し、25℃で1時間放置した。その後、滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて検体の10倍希釈系列を調製した。各希釈系列から1mL採取し、これをSCDLP寒天培地と混釈した。これを30℃で48時間培養した後、生育したコロニーをカウントし、生菌数に換算した。陰性対照として、上記ポリマーを含まないPBSも同様に試験した。最後に、以下の計算式を用いて抗菌活性値を算出した。抗菌活性値が2.0以上の場合を有効と判定した。
【0138】
【数3】
【0139】
[吸収スペクトル及び吸光度の測定]
実施例又は比較例で得られたポリマーと純水とを混合して、該ポリマーの0.01質量%濃度の水溶液を調製した。この水溶液を光路長1cmのセルに入れ、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製V-730)を用いて、測定温度25℃の条件で、波長300nm以上800nm以下の範囲における吸光度を測定した。ブランク液として、純水を用いた。吸収スペクトルは、水溶液が不純物を実質的に含まない状態で測定した。
【0140】
[金属ナノ粒子の粒径の測定]
以下のとおり、動的光散乱法(DLS)による測定を行った。実施例又は比較例で得られたポリマーと純水とを混合して、該ポリマーの希釈水溶液を複数調製した。水溶液濃度は粒径測定に用いた粒度分布計(日機装(株)製ナノトラックUPA-UT)の指定範囲内に入る濃度を選択し、溶媒屈折率1.333、粒子形状非球形、測定温度20℃の条件で粒度分布を測定した。
【0141】
[銀ナノ粒子含有率]
上述した式に従い、銀ナノ粒子の含有率を算出した。
【0142】
[実施例1]
0.6gのポリアクリル酸(重量平均分子量25,000、富士フィルム和光純薬)を30mLの水に溶解させた。ここに5mLの1M NaOH水溶液、2mLのチオジエタノール、0.85gの硝酸銀を順次添加し、70~80℃で5分間撹拌した。次いで5mLの1M D-グルコース水溶液を添加し、70~80℃でさらに15分間撹拌した。最後に、得られたポリマー水溶液を透析チューブに封入し、純水中で透析を行った。DLSを用いて銀ナノ粒子の粒径(D50)を測定したところ、1nmであった。
【0143】
[実施例2]
0.6gのポリアクリル酸(重量平均分子量25,000、富士フィルム和光純薬)を30mLの水に溶解させた。ここに1mLのエチレンジアミンと0.85gの硝酸銀とを添加し、70~80℃で5分間撹拌した。次いで0.54mLのジエチレントリアミンを添加し、室温でさらに30分間撹拌した。最後に、得られたポリマー水溶液を透析チューブに封入し、純水中で透析を行った。得られた銀ナノ粒子担持ポリマーの銀ナノ粒子含有率は、56.4質量%であった。
【0144】
[実施例3]
0.6gのポリアクリル酸(重量平均分子量25,000、富士フィルム和光純薬)を30mLの水に溶解させた。ここに1mLのエチレンジアミンと0.425gの硝酸銀とを添加し、70~80℃で5分間撹拌した。次いで0.27mLのジエチレントリアミンを添加し、70~80℃でさらに5分間撹拌した。最後に、得られたポリマー水溶液を透析チューブに封入し、純水中で透析を行った。
【0145】
[実施例4~6]
硝酸銀及びジエチレントリアミンの使用量を表1に記載したとおりに変更したこと以外は実施例3と同様に実施した。
【0146】
[実施例7]
0.6gのカルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フィルム和光純薬、以下「CMC・Na」とも記載する)を30mLの水に溶解させた。ここに2mLのチオジエタノールと0.85gの硝酸銀とを添加し、70~80℃で5分間撹拌した。次いで5mLの1M D-グルコース水溶液を添加し、70~80℃でさらに30分間撹拌した。最後に、得られたポリマー水溶液を透析チューブに封入し、純水中で透析を行った。
【0147】
[比較例1]
硝酸銀を添加しなかったこと以外は実施例2と同様に実施した。
【0148】
[比較例2]
0.6gのポリアクリル酸(重量平均分子量25,000、富士フィルム和光純薬)を30mLの水に溶解させた。ここに1mLのエチレンジアミンと0.85gの硝酸銀とを添加し、70~80℃で5分間撹拌した。次いで5mLの1M D-グルコース水溶液を添加し、70~80℃でさらに30分間撹拌した。最後に、得られたポリマー水溶液を透析チューブに封入し、純水中で透析を行った。
【0149】
[比較例3]
0.6gの牛骨ゼラチン(富士フィルム和光純薬)を30mLの水に溶解させた。ここに2mLのチオジエタノールと0.21gの硝酸銀とを添加し、70~80℃で5分間撹拌した。次いで1.25mLの1M D-グルコース水溶液と5mLの1M NaOH水溶液とを添加し、70~80℃でさらに15分間撹拌した。最後に、得られたポリマー水溶液を透析チューブに封入し、純水中で透析を行った。
【0150】
[比較例4]
硝酸銀の添加量を0.05gに変更し、1M D-グルコース水溶液の添加量を0.31mLに変更したこと以外は、比較例3と同様に実施した。
【0151】
[結果]
実施例で得られたポリマーの水溶液について吸収スペクトルを測定したところ、銀ナノ粒子によるプラズモン吸収は観測されず(図5)、しかも該水溶液は、優れた抗菌性を示した(表1)。
【0152】
比較例1で得られたポリマーの水溶液について吸収スペクトルを測定したところ、硝酸銀が添加されていないことから、銀ナノ粒子が存在せず、したがってプラズモン吸収は観測されなかった(図6)。この水溶液について抗菌性試験を実施したところ、抗菌性は認められなかった(表2)。比較例2~4で得られたポリマーの水溶液は、抗菌性を示したものの、銀ナノ粒子によるプラズモン吸収が観測された。したがって、比較例2~4で得られたポリマーにおける銀ナノ粒子のD50は、5nm以上であると考えられる。
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
実施例2では還元力の強いジエチレントリアミンを用い、30℃以下で30分間反応させている。一方、比較例2では、還元力の弱いグルコースを用い、70℃以上で30分間反応させている。このように、還元剤の還元力に応じて、還元時の反応温度及び反応時間を適切に制御することにより、プラズモン吸収が観測されない銀ナノ粒子を形成することができた。
【0156】
実施例1では、硝酸銀の添加前にpH調整剤をポリアクリル酸水溶液に添加し、還元力の弱いグルコースを用い、70℃以上で15分間反応させている。一方、比較例2では、還元力の弱いグルコースを用い、70℃以上で30分間反応させている。このように、還元力の弱い還元剤を用いる場合も、還元時の反応温度及び反応時間、pHを適切に制御することにより、プラズモン吸収が観測されない銀ナノ粒子を形成することができた。
【0157】
以上のとおり、還元剤の還元力に応じて、還元時の反応温度及び反応時間、pHなどを適切に調整することにより、プラズモン吸収が観測されない銀ナノ粒子を形成できる。
【0158】
比較例3では、ポリアクリル酸と比べて牛骨ゼラチン上での銀錯イオンの担持量が少ないと考えられる。銀錯イオンの担持量が少ないと、溶液中に遊離した状態で銀ナノ粒子が形成される傾向にある。このように形成された銀ナノ粒子は、速やかに凝集して5nm以上の大きさになると考えられる。したがって、大部分の銀錯イオンがポリマーに担持(固定)された状態で銀錯イオンを還元することも、上記凝集を抑制するという観点から好ましい。
【0159】
[実施例8]
実施例1で得られた銀ナノ粒子担持ポリマーを、以下の手順に従って疎水化した。まず、10mLの銀ナノ粒子担持ポリマー水溶液(3.1質量%)に、10mLの純水と、20mLのメタノールとを添加した。ここに2mLのEDC・HCl/NHS水溶液(各0.1M)を添加し、10分間放置した。ここに1.5mLのn-オクチルアミンを添加し、3分間放置した。これにより、銀ナノ粒子担持疎水化ポリマーのエマルションが得られた。このエマルションを遠心分離した後、上澄み液を除去し、得られた固形分を10mLのメタノールに溶解させた。得られた銀ナノ粒子担持疎水化ポリマーの固形分濃度は、2.0質量%であった。
【0160】
[実施例9]
実施例8で得られた銀ナノ粒子担持疎水化ポリマーのメタノール溶液を用いてコーティング剤を調製し、該コーティング剤を用いて、以下の通り、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにコーティングした。
【0161】
まず、以下の組成をもつコーティング剤を調製した。
・溶媒:メチルイソブチルケトン 5.046g
・抗菌成分:銀ナノ粒子担持疎水化ポリマーの2.0質量%メタノール溶液
0.789mL
・UV硬化性樹脂成分:PET-30(日本化薬) 0.157g
・重合開始剤:Omnirad184(BASF) 0.006g
【0162】
上記コーティング剤をPETフィルム(コスモシャイン(登録商標)A4100、東洋紡)に塗布・乾燥後、紫外線を照射した。これにより、PETフィルム表面に、銀ナノ粒子担持疎水化ポリマーを含む、厚さ約200nmの硬化膜を形成した。
【0163】
上記の通り得られた硬化膜の抗菌性をISO 22196(JIS Z2801)に従って評価した。その結果、抗菌活性値は7.4であり、優れた抗菌性が認められた。陰性対照は、上記コーティング剤によるコーティングがされていない上記PETフィルムとした。
【符号の説明】
【0164】
10・・・金属ナノ粒子担持ポリマー
11・・・非架橋ポリマー(骨格)
12・・・金属ナノ粒子
13・・・荷電性基
14・・・疎水性基
31・・・金属錯イオン
図1
図2
図3
図4
図5
図6