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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190486
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】地山の圧縮強度推定方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 6/02 20060101AFI20221219BHJP
   E21D 9/093 20060101ALI20221219BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
E21B6/02
E21D9/093 F
G01N3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098835
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 耕治
【テーマコード(参考)】
2D054
2D129
2G061
【Fターム(参考)】
2D054GA10
2D054GA63
2D054GA88
2D129AA04
2D129AB05
2D129AB25
2D129DA21
2D129DB01
2G061AA02
2G061AA13
2G061AB04
2G061BA01
2G061CA06
2G061EA03
2G061EA07
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】地山の圧縮強度を高精度で推定できる地山の圧縮強度推定方法を得る。
【解決手段】先端に取り付けられたビット14で地山Gに打撃力を与える打撃ロッド15、および打撃ロッド15で地山Gに打撃力を与えたときに地山Gより反射されて打撃ロッド15に伝搬する反射波データを計測するひずみゲージM1を備えた削岩機10を用意し、圧縮強度が相互に異なる複数の試験体Sを削岩機10で打撃力を与えて各試験体S毎における反射波データを取得し、当該反射波データの圧縮応力の最大振幅と引張応力の最大振幅との比である反射波応力振幅比係数を求め、各試験体Sにおける圧縮強度と各試験体Sについて求められた反射波応力振幅比係数とから、圧縮強度と反射波応力振幅比係数との相関データを求め、相関データと、掘削対象の地山Gを削岩機10により打撃力を与えた際に計測された反射波データの反射波応力振幅比係数とから、地山Gの圧縮強度を推定する。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンで打撃されるシャンクロッド、前記シャンクロッドと直列に取り付けられて先端に固定されたビットで地山に打撃力を与える打撃ロッド、および前記打撃ロッドで地山に打撃力を与えたときに地山より反射されて前記打撃ロッドに伝搬する反射波データを計測する計測手段を備えた削岩機を用意し、
圧縮強度が相互に異なる複数の試験体に前記削岩機で打撃力を与えて前記各試験体毎における前記反射波データを取得し、当該反射波データの圧縮応力の最大振幅と引張応力の最大振幅との比である反射波応力振幅比係数を求め、
前記各試験体における圧縮強度と前記各試験体について求められた前記反射波応力振幅比係数とから、前記圧縮強度と前記反射波応力振幅比係数との相関データを求め、
前記相関データと、掘削対象の地山に前記削岩機により打撃力を与えた際に計測された反射波データの反射波応力振幅比係数とから、地山の圧縮強度を推定する、
ことを特徴とする地山の圧縮強度推定方法。
【請求項2】
前記各試験体の反射波データおよび前記地山の反射波データの少なくとも何れかの反射波データは、打撃により地山と接するビット先端部から最初に反射して前記打撃ロッドに伝搬した反射波のデータである、
ことを特徴とする請求項1記載の地山の圧縮強度推定方法。
【請求項3】
前記計測手段は、前記打撃ロッドと前記シャンクロッドの長さを合計した長さの中央部分に設置されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の地山の圧縮強度推定方法。
【請求項4】
前記計測手段は、入力波と反射波とが干渉しない位置に設置されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の地山の圧縮強度推定方法。
【請求項5】
前記計測手段は、前記打撃ロッドに取り付けられたひずみゲージである、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の地山の圧縮強度推定方法。
【請求項6】
複数の前記試験体は、所定の岩石ブロックに複数の削孔を行い、削孔した空孔にセメント系固化材を充填して製作する、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の地山の圧縮強度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山の圧縮強度推定方法に関し、特に、トンネル等を掘削する際における切羽前方地山の圧縮強度推定に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル等の掘削において切羽前方の地山性状を把握することは、安全で経済的に施工するために必要不可欠である。そして、切羽前方地山の硬軟などの地山性状を探査する技術として、削孔検層法がある。また、この方法を用いて地山の圧縮強度を予測することが試行されている。
【0003】
この方法は、ドリルジャンボに搭載された油圧式削岩機を用いて、トンネルの切羽から前方に30~50m程度のノンコア削孔(試料(コア)を採取しない削孔)を行い、削孔速度や削岩機の打撃圧(削岩機のピストンがシャンクロッドを打撃することでシャンクロッドに発生した打撃力)、回転圧(ロータによりシャンクロッドに与えられる回転力)、フィード圧(削岩機の推力)などの機械データから削孔位置の地山性状を予測するものである。そして、地山性状を評価する指標としては、削孔時の機械データから求められた削孔速度や単位掘削体積あたりの掘削に要したエネルギー量である掘削体積比エネルギー(「削孔エネルギー」ともいう)がある。
【0004】
しかしながら、掘削体積比エネルギーは、地山性状だけではなく、打撃圧や回転圧、フィード圧などの作動圧の圧力変化や削孔ずりの粒度の違い、削孔ずりの排出状態等によっても変化するため、地山性状を精度よく把握することが難しい。
【0005】
つまり、削孔によりできた掘削ずりが孔内から十分に排出されていない場合には、掘削ずりの二次破砕により掘削効率(削岩機が発生したエネルギーに対する掘削に消費されるエネルギーの比率)が低下し、実際よりも堅硬な地山と過大に評価される。また、亀裂の発達した地山や断層破砕帯などの脆弱地山では孔壁崩壊により掘削効率が低下し、やはり過大に評価される。
【0006】
また、フィード圧が所定の圧力より小さく、ビットの着岩が十分でない場合には、地山へのエネルギー伝達効率が悪くなるだけでなく削孔速度そのものが低下するため、掘削体積比エネルギーが上昇し、実際よりも堅硬な地山と評価されることになる。したがって、掘削時にはフィード圧を一定に保つ必要があるが、著しく脆弱な地山などで安定した削孔を行うためには、フィード圧を低く設定しなければならない。
【0007】
このように、掘削体積比エネルギーを指標とした場合、地山の硬軟の程度や圧縮強度を精度よく把握することは困難である。
【0008】
そこで、ダンピング圧(油圧)を指標として地山の圧縮強度を探査する技術が提案されている。これは、打撃ロッドとビットで地山に打撃力を与えた際に地山から受ける反発力を吸収するダンパ装置が装備された削岩機において、反発力(反発度)の大きさをダンピング圧(地山からダンピングピストンに伝達される打撃反力)により評価するものである。これは、ダンピング圧は、ビット先端の地山からの反発力が直接反映しているので、掘削体積比エネルギーを用いて地山の圧縮強度を評価する探査よりも精度が向上すると考えられるからである。
【0009】
ここで、特許文献1には、ダンピング圧の脈動振幅を用いて地山の圧縮強度を探査する技術が開示されている。具体的には、正規化されたダンピング圧の脈動振幅と圧縮強度が相互に異なる複数の試験体の圧縮強度との相関データを予め求めておき、削岩機により地山に打撃力を与えた際に計測されたダンピング圧の脈動振幅を打撃圧で除して正規化して当該相関データを参照することにより地山の圧縮強度を推定するものである。
【0010】
また、非特許文献1には、ダンピング圧を指標とした地山の圧縮強度を探査する技術が開示されている。具体的には、ダンピング圧とフィード圧との関係は地山の圧縮強度と高い相関を有することから、ダンピング圧の値とフィード圧の値とを計測することにより地山の圧縮強度を推定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-063639号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】トンネル工学研究論文・報告書第6巻1996年11月報告(7)、「油圧式削岩機のダンピング圧を利用した切羽前方探査法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1に記載の技術は、地山の性状をシャンクロッドと打撃ロッドを介して伝搬する応力をダンピング圧(油圧)の変動として間接的に推定するものであるために、実際の圧縮強度を精度よく推定することができない可能性があった。
【0014】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、切羽前方地山の圧縮強度を高精度で推定することのできる地山の圧縮強度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の地山の圧縮強度推定方法は、ピストンで打撃されるシャンクロッド、前記シャンクロッドと直列に取り付けられて先端に固定されたビットで地山に打撃力を与える打撃ロッド、および前記打撃ロッドで地山に打撃力を与えたときに地山より反射されて前記打撃ロッドに伝搬する反射波データを計測する計測手段を備えた削岩機を用意し、圧縮強度が相互に異なる複数の試験体を前記削岩機で打撃力を与えて前記の試験体毎における前記反射波データを取得し、当該反射波データの圧縮応力の最大振幅と引張応力の最大振幅との比である反射波応力振幅比係数を求め、前記各試験体における圧縮強度と前記各試験体について求められた前記反射波応力振幅比係数とから、前記圧縮強度と前記反射波応力振幅比係数との相関データを求め、前記相関データと、掘削対象の地山を前記削岩機により打撃力を与えた際に計測された反射波データの反射波応力振幅比係数とから、地山の圧縮強度を推定する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明の地山の圧縮強度推定方法は、上記請求項1に記載の発明において、前記各試験体の反射波データおよび前記地山の反射波データの少なくとも何れかの反射波データは、打撃力を与えることにより地山と接するビット先端部から最初に反射して前記打撃ロッドに伝搬した反射波のデータである、ことを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明の地山の圧縮強度推定方法は、上記請求項1または2記載の発明において、前記計測手段は、前記打撃ロッドと前記シャンクロッドの長さを合計した長さの中央部分に設置されている、ことを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明の地山の圧縮強度推定方法は、上記請求項1または2記載の発明において、前記計測手段は、入力波と反射波とが干渉しない位置に設置されている、ことを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明の地山の圧縮強度推定方法は、上記請求項1~4の何れか一項に記載の発明において、前記計測手段は、前記打撃ロッドに取り付けられたひずみゲージである、ことを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明の地山の圧縮強度推定方法は、上記請求項1~5の何れか一項に記載の発明において、複数の前記試験体は、所定の岩石ブロックに複数の削孔を行い、削孔した空孔にセメント系固化材を充填して製作する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧縮強度が相互に異なる複数の試験体を削岩機で打撃力を与えて各試験体毎における反射波データを計測手段で取得し、反射波データの圧縮応力の最大振幅と引張応力の最大振幅との比である反射波応力振幅比係数を求め、各試験体における圧縮強度と反射波応力振幅比係数とから両者の相関データを求め、当該相関データと掘削対象の地山を削岩機により打撃力を与えた際に計測された反射波データの反射波応力振幅比係数とから地山の圧縮強度を推定するようにすることで、切羽前方地山の圧縮強度を高精度で推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態である地山の圧縮強度推定方法に用いられる削岩機の模式図である。
図2図1の削岩機の打撃による応力波の発生と打撃ロッドの伝播、地山の破砕機構を示す説明図であり、(a)はピストンの打撃によりシャンクロッドとピストンに発生した圧縮応力を示す図、(b)~(d)はビットの先端が地山に貫入する状態およびその際のビット荷重と貫入深さとの関係を連続的に示す図である。
図3】地山に押し付けられた状態にあるビットの応力波の挙動を示す模式図である。
図4】岩石ブロックを用いた試験体の製作を示す説明図である。
図5】試験体の一軸圧縮強度を示す図である。
図6図4の試験体の削孔の様子を示す説明図である。
図7図1の削岩機の打撃ロッドにおけるロッド応力の計測位置を示す説明図である。
図8】試験体Bの削孔時におけるロッド応力の計測波形を示す図であり、(a)は測点1での応力波形、図8(a)は測点2での応力波形である。
図9図8の破線枠における拡大図であり、(a)は測点1での応力波形の拡大図、(b)は測点2での応力波形の拡大図である。
図10】試験体B,D,Eを削孔した際におけるピストンの打撃による応力波がビットに入射する波を示す図である。
図11】ビットが試験体B,D,Eに打撃力を与えた後のビットからの最初の反射波(第1反射波)を示す図である。
図12図11において、ビットが試験体Dに打撃力を与えた後のビットからの第1反射波を抽出して示す図である。
図13】試験体A,B,C,D,Eを削孔した際において打撃ロッドの応力波から求めた反射波の応力振幅比係数の削孔深度分布を示す図である。
図14】試験体A,B,C,D,Eから導かれる反射波の応力振幅比係数と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
図1は本発明の一実施の形態である地山の圧縮強度推定方法に用いられる削岩機の模式図である。
【0025】
図1に示す削岩機10は、打撃機構や回転機構が油圧で駆動される油圧式の削岩機であり、油圧ドリフタ11と、スリーブ12を介して油圧ドリフタ11のシャンクロッド13に直列に取り付けられるとともに先端にビット14が固定された打撃ロッド15とを備えている。さらに、油圧ドリフタ11は、シャンクロッド13を打撃するピストン16と、シャンクロッド13を回転させるロータ17(図7)とを有している。なお、ビット14の地山Gとの対向面(つまり掘削側)には、チップ14aが埋め込まれている。
【0026】
このような削岩機10により、油圧ドリフタ11内のピストン16が作動油によりシリンダ(図示せず)内を移動し、シャンクロッド13を打撃する。シャンクロッド13は、ピストン16による打撃力のほかロータ17からの回転力Rと削岩機10の推力(フィード圧)とをスリーブ12を介して打撃ロッド15に伝達し、打撃ロッド15は打撃力と回転力を先端のビット14に伝達する。そして、ビット14が打撃力、回転力および推力を直接地山Gに加えることにより、地山Gが破砕される。
【0027】
ここで、油圧ドリフタ11内のピストン16がシャンクロッド13を打撃した際に発生する圧縮応力波(打撃エネルギー)は先端のビット14に伝播して地山の破砕に消費されるが、一部の応力波は反発力として油圧ドリフタ11に戻る。この打撃の反発力は削岩機10を後退させるとともにビット14の着岩性を悪化させ、掘削効率の低下の要因となる。
【0028】
そこで、地山からの反発力を緩和すると同時に、フィード圧に関わらずビット14の着岩性を維持するために、ダンパ装置が設けられている。
【0029】
このダンパ装置は、図示するように、地山からの反発力を吸収するダンピングピストン18と、ダンピングピストン18の内側に配置されて所定の推力を打撃ロッド15に与えるプッシングピストン19とから構成されている。プッシングピストン19から打撃ロッド15への推力は油圧により与えられており、地山からの反発力がダンピングピストン18の油圧つまりダンピング圧で吸収される。なお、シャンクロッド13のプッシングピストン19側には、プッシングピストン19の軸受けとなる円筒状のブッシュ20が設置されている。
【0030】
本実施の形態の削岩機10では、ピストン16はシャンクロッド13を毎分2,800~4,500回打撃する。また、打撃により破砕した掘削ずりは、水などによるフラッシングにより破砕位置から取り除かれ、孔外に排出される。
【0031】
ここで、削岩機10の打撃により打撃ロッド15を伝播する応力波について説明する。
【0032】
削岩機10の打撃による応力波の発生と打撃ロッド15の伝播、地山の破砕機構を図2に示す。なお、図2(b)~(d)には、ビット14の先端が地山Gに貫入する際のビット荷重(ビット14から地山Gへの荷重)と貫入深さとの関係(以下、「F-δ関係」という)を併記している。実際のF-δ関係は、載荷時、除荷時ともに直線でなく曲線となるが、ここでは単純に直線で示している。また、図2(c)、(d)において、圧縮応力と引張応力は、ドット密度が疎になる程小さく、密になる程大きいことを表している。
【0033】
さて、油圧ドリフタ11内のピストン16がシャンクロッド13を打撃して衝撃力を与えると、打撃した部位に局所的な圧縮応力が発生する(図2(a))。
【0034】
局所的な圧縮応力は波(応力波)としてスリーブ12を介して打撃ロッド15を伝播する。打撃ロッド15を伝播する応力波の伝播速度は例えば5,080m/sであり、打撃ロッド15が棒状であることから1次元波動として扱うことができる(図2(b))。
【0035】
応力波はビット14まで伝播して先端部の地山Gとの境界で入射波となり、ビット14に埋め込まれたチップ14aから地山G内に透過する透過波となるが、一部はビット14と地山Gの音響インピーダンスの違いから境界で引張応力の反射波となって削岩機10側に戻っていく。F-δ関係では、ビット荷重が増えるにつれて貫入深さも大きくなる載荷過程に入る(図2(c))。
【0036】
応力波の入射が終了すると、ビット14は地山Gの剛性によって撥ね返され、反射波は引張応力から圧縮応力に変化する。F-δ関係ではビット荷重の減少につれて貫入量が減少する除荷過程に入り、最終貫入量となる。図2(d)のハッチングの面積が地山Gの破砕に消費されたエネルギーである(図2(d))。
【0037】
ここで、地山Gに押し付けられた状態にあるビット14の応力波の挙動を図3に示す。ビット側を弾性体1、地山側を弾性体2として2つの弾性体が平面で接した状態に置き換えて考えると、境界面(弾性体1と弾性体2の境界)に入射波が到達して反射波と透過波に分かれる挙動として捉えることができる。
【0038】
次に、このような削岩機10を用いた地山の強度推定方法について説明する。
【0039】
地山の強度推定方法においては、先ず、前述した油圧式の削岩機10を用いて、圧縮強度が既知の地山を模擬した試験体Sに対して削孔を実施する。削孔は、圧縮強度の異なる複数の試験体Sについて行った。
【0040】
圧縮強度の試験では、使用材料であるセメント系固化材(不分離性グラウト)の種類を変えることにより圧縮強度の異なる地山を模擬した試験体Sを製作し、これを削岩機10の打撃圧、回転圧、フィード圧、ダンピング圧の作動圧を変更して削孔する際のロッド応力および削孔速度や各油圧の機械データを計測した。なお、固化材の養生期間は同一とした。
【0041】
試験体Sの製作には、4個の花崗岩(茨城県笠間市で採掘された稲田花崗岩)からなる岩石ブロックE(100cm×100cm×100cm)を使用した。岩石ブロックEの削孔する面を上にしてφ127mmのビットを装着した空圧式クローラドリルを用いて一面の6か所から垂直方向に深さ60cmの削孔を行い、図4に示すように、4個の岩石ブロックEそれぞれに同一種類のグラウトモルタルA,B,C,Dを厚さが50cmになるように充填し最上部に厚さ10cmのキャップ用モルタルPを充填して試験体Sを製作した。
【0042】
試験体Sの一軸圧縮強度(σ)を図5に示す。一軸圧縮強度は、充填したグラウトモルタルA,B,C,Dと同じ種別のグラウトモルタルA,B,C,Dを用いて試験体Sごとに5本のテストピース(図示せず)を製作しておき、削孔実験の実施時間に合わせて一軸圧縮試験を行い、その平均値から求めた。なお、試験体Sは花崗岩からなる岩石ブロックEの削孔していない位置から新たに削孔する場合とした。
【0043】
削孔実験では、岩石ブロックEに充填したグラウトモルタルA,B,C,Dの固化後、図6のように充填面が鉛直方向になるよう試験体Sを横転した後、グラウトモルタルA,B,C,Dを充填した試験体Sの孔をφ64mmのビット14を用いて水平方向に60cm程度の深さまで削孔した。なお、削孔実験では、圧縮強度の異なる試験体Sを安定して削孔するため、打撃圧16MPa、フィード圧6MPa、ダンピング圧9MPaに設定した。
【0044】
削孔実験の計測には、削岩機10の油圧や削孔長などの削孔データを自動計測する削孔検層装置(図示せず)とロッド応力を計測する汎用の記録装置を用いた。削岩機10の油圧回路に設置した油圧センサを用いて打撃圧、回転圧、ダンピング圧、フィード圧を計測した。また、ロッド応力の計測結果を削孔深さについて整理するため、削孔検層装置から出力される削孔長のデータを利用した。
【0045】
4個の岩石ブロックを用いた打撃ロッド15の応力を計測する実験では、長さ3.70mの六角中空ロッド(対辺35mm、内径9.5mm)を用いた。ここで、ロッド応力の計測位置を図7に示す。計測位置は、打撃ロッド15とシャンクロッド13との接合部から50cmの位置(測点1)と、削孔時にセントラライザCLと計測ケーブル(図示せず)が干渉しないように測点1からビット14側に1.7m離れた位置(測点2)との2箇所である。つまり、全長3.70mの打撃ロッド15に対し、測点1は中央(1.85m)よりもビット14とは反対側であり、測点位置は中央よりもビット14側となっている。また、測点1にはひずみゲージ(計測手段)M1を、測点2にはひずみゲージ(計測手段)M2を設置した。なお、打撃ロッド15の曲げ応力の影響を打ち消すため、1か所当り2枚のひずみゲージを六角断面の対辺に貼った。なお、測点は本実施の形態に示す位置に限定されるものではなく、測点箇所は3箇所以上であってもよい。
【0046】
削孔中は打撃ロッド15が回転するため、事前に計測ケーブルを回転と逆方向に30回転ほど打撃ロッド15に巻いておき、打撃ロッド15の回転で巻き戻されてさらに30回転ほど逆方向に巻くまでの約25秒間(ロッド回転数:145rpm)を計測した。記録装置では、2箇所の測点(測点1,測点2)のロッド応力のデータと削孔検層の専用計測装置の計測データを同期させてサンプリング周波数1MHz(サンプリング時間間隔10-6秒)で記録した。
【0047】
試験体Bの削孔時におけるロッド応力の計測波形を図8に示す。ここで、図8(a)は測点1での応力波形、図8(a)は測点2での応力波形である。図8において、計測したひずみからヤング率を205.8GPaとして応力に換算し、引張応力を正、引張応力を負として表示している。
【0048】
測点1および測点2について打撃による応力波が確認できる0ms~5msの範囲(破線枠)の拡大図を図9に示す。ここで、図9(a)は測点1での応力波形の拡大図、図9(b)は測点2での応力波形の拡大図である。打撃ロッド15の弾性波速度が5,080m/sであることから、図示するように、削岩機10の打撃による応力波が打撃ロッド15を伝播して測点1に到達した時間を基準にすると(図9(a))、1.7m前方の位置にある測点2には0.335ms遅れて到達している(図9(b))。測点1から反射が想定されるビット14の先端までの距離が3.25m、シャンクロッド13の端部までの距離が0.49mであることを考慮して応力波が到達する走時線RTを図中に併記した。実線の走時線RTaが油圧ドリフタ11側からビット14側に伝播する応力波の走時を示し、破線の走時線RTbがビット14側から油圧ドリフタ11側に伝播する応力波の走時を示している。ピストン16がシャンクロッド13を打撃した際に発生した応力波がビット14に入射する波(入射波)と試験体に打撃力を与えた後ビット14から反射した波(反射波)を確認することができる。
【0049】
また、応力波は、ビット14先端とシャンクロッド13端部との間を繰り返し反射しながら振幅が減衰していることが分かる。すなわち、図9において、応力波を形成する入射波と反射波は、ビット14が試験体Sに打撃力を与えた後の最初の入射波(第1入射波)および反射波(第1反射波)の振幅が最も大きく、次の入射波(第2入射波)および反射波(第2反射波)、さらにその次の入射波(第3入射波)および反射波(第3反射波)となるにつれて振幅が減衰していることが分かる。
【0050】
さらに、図9(a)の波形と図9(b)の波形とを比較すると、図9(a)に示す測点1に設置されたひずみゲージM1で計測された入射波と反射波との間隔(第1入射波と第1反射波との間隔、第2入射波と第2反射波との間隔、第3入射波と第3反射波との間隔)の方が、図9(b)に示す測点2に設置されたひずみゲージM2で計測された入射波と反射波との間隔よりも大きくなっている。したがって、ビット14に対して相対的に近い測点2よりも遠い測点1に設置されたひずみゲージM1で計測された入射波と反射波の方が相互干渉が小さいことが分かる。
【0051】
試験体S(グラウトモルタルA,B,C,D、岩石ブロックE)の圧縮強度(σ)の違いによる入射波と反射波の応力波形の変化を確認するため、圧縮強度が大きく変化する3種類の試験体B,D,Eを対象に比較した。各試験体B,D,Eを削孔した際のピストン16の打撃による応力波がビット14に入射する波を比較した結果を図10に、ビット14が試験体B,D,に打撃力を与えた後のビット14からの最初の反射波(第1反射波)を比較した結果を図11に、それぞれ示す。なお、測定点は、図10および図11ともに、測点1である。
【0052】
ビット14に入射する応力波は、地山Gの破砕に寄与する圧縮応力が大きく、引張応力は小さい。試験体B,D,Eにおける入射応力波の圧縮応力の最大振幅は、図10に示すように、184.9MPa、222.8MPa、210.0MPaと大きな差が見られないことからピストンの打撃力が概ね一定であったと推察できる。これに対し、ビット14が試験体Sを破砕した際に削岩機10側に伝播する第1反射波では、図11に示すように、圧縮強度が大きい試験体Sほど引張応力の最大振幅が168.0MPa、142.1MPa、102.1MPaと小さくなり、逆に圧縮応力の最大振幅が27.6MPa、51.0MPa、116.5MPaと大きくなる。これらのことから、試験体Sの圧縮強度や剛性が大きくなるほどビット14と試験体Sの音響インピーダンスの差が小さくなり引張応力が小さくなったこと、応力波の入射が終了してビット14に生じる反射波が圧縮応力になると、試験体Sの剛性が大きいほど試験体Sからの反発力が大きくなり反射波の圧縮応力が大きくなったことが推察される。
【0053】
入射波の主要な応力は圧縮応力であり、ビット14からインピーダンスの小さい試験体Sに入射することから反射波は引張応力となる。そして、試験体Sの圧縮強度が大きいほど反射波の引張応力は小さくなり、反射波の圧縮応力は大きくなった。そこで、図12に示すように、一例として試験体Dについて、第1反射波の引張応力の最大振幅と圧縮応力の最大振幅を用いて反射波の正負の応力振幅比に基づく係数(以下、反射波の応力振幅比係数という)を次式から求め、圧縮強度との関係を検討する。
【0054】
α=(σ-σ)/(σ+σ
【0055】
ここで、αは反射波の応力振幅比係数、σは第1反射波の最大圧縮応力振幅、σは第1反射波の最大引張応力振幅である。
【0056】
なお、反射波の応力振幅比係数は第2反射波や第3反射波から求めるようにしてもよい。但し、前述したように、ビット14が試験体Sに打撃力を与えた後の最初の反射波である第1反射波の振幅が最も大きくなることから、第1反射波から求めるのが望ましい。
【0057】
また、同じく前述したように、ビット14に対して相対的に遠い測点1に設置されたひずみゲージM1で計測された反射波の方が入力波との相互干渉が小さくなる。よって、測定点はビット14の先端部(地山と接する側)とシャンクロッド13の端部(ピストンと接する側)からできるだけ離れていることが望ましく、少なくとも、本実施の形態のように、ビット14に近い測点2よりも打撃ロッド15とシャンクロッド13の長さを合計した長さの中央部分である測点1に設置されているひずみゲージM1の計測データを用いるのがよい。
【0058】
但し、測定点は、入力波と反射波とが干渉しない位置であればよく、必ずしも、打撃ロッド15とシャンクロッド13の長さを合計した長さの中央部ではなくてもよい。
【0059】
さて、反射波の応力振幅比係数において、ビット14の先端が自由端の場合はσ=0と考えることができ、α=-1となり、一方、固定端である場合はσ=0と考えることができ、α=1となる。よって、試験体Sの圧縮強度が大きくなると、反射波の応力振幅比係数の値が大きくなる。
【0060】
試験体S(グラウトモルタルA,B,C,D、岩石ブロックE)を削孔した際に打撃ロッド15の応力波から求めた反射波の応力振幅比係数の削孔深度分布を図13に示す。なお、図13(a)は試験体Aにおける、図13(b)は試験体Bにおける、図13(c)は試験体Cにおける、図13(d)は試験体Dにおける、図13(e)は試験体Eにおける、反射波の応力振幅比係数の削孔深度分布である。
【0061】
これらの図面において、打撃ごとに求めた反射波の応力振幅比係数を○で示し、削孔深度方向の傾向を見るため、50個あたりの区間平均を実線で示した。また、試験体A,B,C,D,Eの削孔区間における係数の平均値を併記した。なお、削孔開始時のキャップ用モルタルPの部分は、作動油圧が急激に上昇する区間であるため、反射波の応力振幅比係数の評価から除外した。
【0062】
図13より、試験体A,B,C,D,Eの反射波の応力振幅比係数の平均値は、-0.66、-0.39、-0.35、-0.28、0.30であり、圧縮強度が大きくなるほど反射波の応力振幅比係数が大きくなっていることが分かる。また、試験体A,B,C,Dでは、削孔深度が60cm付近の試験体Eの花崗岩に変化する位置で反射波の応力振幅比係数が急激に大きくなっている。
【0063】
反射波の応力振幅比係数(α)と圧縮強度(f)との関係を図14に示す。図14において、削岩機10を空打ちした場合にα=-1、f=0となることから、この条件の結果が原点となるように横軸をα+1として整理した。図示するように、両者の間には比較的高い相関が見られる。これは、試験体Sからの反発力が反映される反射波の圧縮応力を考慮した指標(応力振幅比係数)を用いたことで圧縮強度との相関が高くなったと推察される。
【0064】
反射波の応力振幅比係数(α)と圧縮強度(f)との関係式を2次の多項式近似により求めると次式となる。
【0065】
f=132.0(α+1)+25.3(α+1)
【0066】
ここで、fは圧縮強度(MPa)、αは反射波の応力振幅比係数である。
【0067】
また、相関係数(R)は0.94である。
【0068】
なお、本実施の形態では、反射波の応力振幅比係数(α)と圧縮強度(f)との関係式を、最小二乗法により近似曲線で求めたが、近似直線で求めてもよい。
【0069】
以上から、削孔時の反射波形の振幅から求めた反射波の応力振幅比係数(α)は、地山の圧縮強度(f)を推定する際の有効な指標であることが分かる。そこで、圧縮強度(f)が相互に異なる複数の試験体S(本実施の形態では、試験体A,B,C,D,E)を削岩機10で打撃して各試験体毎Sにおける反射波データをひずみゲージM1で取得し、反射波データの圧縮応力の最大振幅と引張応力の最大振幅との比である反射波応力振幅比係数(α)を求め、各試験体における圧縮強度(f)と反射波応力振幅比係数(α)とから導かれる近似曲線あるいは近似直線により、圧縮強度(f)と前記反射波応力振幅比係数(α)との相関データを予め求めておく。そして、求められた相関データと掘削対象の地山を削岩機10により打撃力を与えた際に計測された反射波データの反射波応力振幅比係数(α)とから切羽前方地山の圧縮強度(f)を推定することで、地山の圧縮強度を高精度で推定することが可能になる。
【0070】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0071】
例えば、本実施の形態においては、ピストン16の打撃による打撃ロッド15のひずみを計測する計測手段として、電気式のひずみゲージM1,M2が用いられているが、FBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)技術による光ファイバ式ひずみセンサなどを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明に係る地山の圧縮強度推定方法は、地山に対してトンネル等を掘削する際における切羽前方地山の強度推定に適用して有効である。
【符号の説明】
【0073】
10 削岩機
11 油圧ドリフタ
12 スリーブ
13 シャンクロッド
14 ビット
14a チップ
15 打撃ロッド
16 ピストン
17 ロータ
18 ダンピングピストン
19 プッシングピストン
20 ブッシュ
試験体 A,B,C,D,E,S
CL セントラライザ
G 地山
M1,M2 ひずみゲージ(計測手段)
P キャップ用モルタル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14