(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190491
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】インクリフィル
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20221219BHJP
B43K 7/02 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B43K1/08 120
B43K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098841
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間野 大貴
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA12
(57)【要約】
【課題】筆感の低下を抑制し、カシメ部内周への影響の少ないボールペンチップを備えたインクリフィルを提供する。
【解決手段】筆記ボールを収容するホルダー先端の第1テーパー面と、第1テーパー面に対して外側で測定した角度が180°より大きい連結面と、第1テーパー面と連結面との境界である第1肩部、連結面に対して外側で測定した角度が180°より小さい第2テーパー面及び第2テーパー面の先端が内側にかしめられたカシメ部を備えるボールペンチップ並びにインクが収容されるインク収納管を備えたインクリフィルにおいて、第1肩部と筆記ボールとの仮想接線よりも外側にある環状の部分の体積A(mm
3)、先端視における筆記ボールとカシメ部との隙間の面積B(mm
2)、インクの表面張力C(mN/m)、ホルダーの縦弾性係数D(GPa)及び筆記ボールの直径E(mm)の間に、(A×B×10
8)/(C×D×E
5)<8の関係が成立する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルダーと、
前記ホルダーの先端の外周が先細に形成されている第1テーパー面と、
前記第1テーパー面の先端側に形成されている面であって、前記ホルダーの軸心を含む仮想断面において前記第1テーパー面に対して外側で測定した角度が180°より大きい連結面と、
前記第1テーパー面と前記連結面との境界である第1肩部と、
前記連結面の先端側に形成されている先細のテーパー面であって前記仮想断面において前記連結面に対して外側で測定した角度が180°より小さい第2テーパー面と、
前記第1テーパー面、前記連結面及び前記第2テーパー面の内部空間として形成されたボールハウスと、
前記ホルダーの後端から前記ボールハウスの近傍まで達する内部空間として形成されたバック孔と、
前記ボールハウスと前記バック孔との間を貫通する断面円形の孔であるインク孔と、
前記ボールハウスの底面と前記インク孔とを連絡するように前記インク孔の周囲に等配された複数の溝であるチャンネル溝と、
前記ボールハウス内に収容される筆記ボールと、
前記ボールハウスの底面において前記筆記ボールの曲面の一部が転写されて形成されたボール受座と、
前記第2テーパー面の先端部分が内側にかしめられているカシメ部と、
前記第2テーパー面と前記カシメ部との境界である第2肩部と、を備えるボールペンチップ、及び、
前記ボールペンチップの後端が先端に装着されるとともに内部にインクが充填されたインク収容管を備えたインクリフィルであって、
前記筆記ボールが前記ボール受座に接触している状態において、
前記ホルダーのうち前記仮想断面における前記第1肩部と前記筆記ボールとの仮想接線よりも外側にある環状の部分の体積A(mm3)、
先端視における前記筆記ボールと前記カシメ部との隙間の面積B(mm2)、
前記インクの表面張力C(mN/m)、
前記ホルダーの縦弾性係数(ヤング率)D(GPa)、及び、
筆記ボールの直径E(mm)の間に、
(A×B×108)/(C×D×E5)<8
の関係が成立することを特徴とするインクリフィル。
【請求項2】
前記筆記ボールが前記ボール受座に接触している状態において、前記第2肩部は、前記仮想断面における前記第1肩部と前記筆記ボールとの仮想接線よりも外側に位置し、
前記筆記ボールが前記カシメ部の内面に接触している状態において、前記第2肩部は、前記仮想断面における前記第1肩部と前記筆記ボールとの仮想接線よりも内側に位置することを特徴とする、請求項1に記載のインクリフィル。
【請求項3】
前記インクは、少なくとも着色剤と、水と、主骨格としての重合度2以上かつ6以下のポリグリセリンと、を含有するとともに、65モル以上120モル以下のアルキレンオキサイドが付加され、かつ、カルボン酸含有物とエステル結合しているアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルを全体の0.1質量%以上30質量%未満含有するとともに、
前記ボールペンチップは、前記バック孔の内部に収容されるとともに先端部分が前記筆記ボールを先端へ押圧する押圧棒として形成されているスプリングをさらに備えることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のインクリフィル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンに装着されるインクリフィルに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンの筆記先端として用いられるボールペンチップとしては、金属円柱材の切削加工により形成されるものがある。このようなボールペンチップにおいては、先端内部に形成されたボールハウス内に筆記ボールを挿入した後、これを保持すべく先端縁が内方へ押圧変形によりかしめられたカシメ部を有している。
【0003】
一方、筆記先端を下向きにして保持すると重力によりインクが下がり筆記先端から漏出する、いわゆる「直流」という現象が起こることがある。特に、上記のようなカシメ部を備えたボールペンにおいては、筆記面に対する筆記角度が浅い場合、カシメ部の肩が紙面と接触して、カシメ部内周が変形することがある。この変形により、ボールとの間に隙間が生じると、筆記先端を下向きに保持している間に直流が起こりやすい。その他、描線の品質が悪化する等の問題点もある。
【0004】
そこで特許文献1に示したような、筆記時にカシメ部の肩が紙面に接触しないようにすることで、カシメ部内周の変形に起因する直流を防止し得るボールペンチップ及びこれを用いたインクリフィルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された発明において、筆記面に対する筆記角度が小さい場合、第1肩部が筆記面に接触した状態となり筆感が悪くなることがあった。そこで本願の実施態様は、筆感の低下を抑制するとともに、カシメ部内周への影響の少ないボールペンチップ及びインクリフィルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1実施態様
上記の課題に鑑み、本願の第1実施態様のインクリフィルは、
ホルダーと、
前記ホルダーの先端の外周が先細に形成されている第1テーパー面と、
前記第1テーパー面の先端側に形成されている面であって、前記ホルダーの軸心を含む仮想断面において前記第1テーパー面に対して外側で測定した角度が180°より大きい連結面と、
前記第1テーパー面と前記連結面との境界である第1肩部と、
前記連結面の先端側に形成されている先細のテーパー面であって前記仮想断面において前記連結面に対して外側で測定した角度が180°より小さい第2テーパー面と、
前記第1テーパー面、前記連結面及び前記第2テーパー面の内部空間として形成されたボールハウスと、
前記ホルダーの後端から前記ボールハウスの近傍まで達する内部空間として形成されたバック孔と、
前記ボールハウスと前記バック孔との間を貫通する断面円形の孔であるインク孔と、
前記ボールハウスの底面と前記インク孔とを連絡するように前記インク孔の周囲に等配された複数の溝であるチャンネル溝と、
前記ボールハウス内に収容される筆記ボールと、
前記ボールハウスの底面において前記筆記ボールの曲面の一部が転写されて形成されたボール受座と、
前記第2テーパー面の先端部分が内側にかしめられているカシメ部と、
前記第2テーパー面と前記カシメ部との境界である第2肩部と、を備えるボールペンチップ、及び、
前記ボールペンチップの後端が先端に装着されるとともに内部にインクが充填されたインク収容管を備えたインクリフィルであって、
前記筆記ボールが前記ボール受座に接触している状態において、
前記ホルダーのうち前記仮想断面における前記第1肩部と前記筆記ボールとの仮想接線よりも外側にある環状の部分の体積A(mm3)、
先端視における前記筆記ボールと前記カシメ部との隙間の面積B(mm2)、
前記インクの表面張力C(mN/m)、
前記ホルダーの縦弾性係数(ヤング率)D(GPa)、及び、
筆記ボールの直径E(mm)の間に、
(A×B×108)/(C×D×E5)<8
の関係が成立することを特徴とする。
【0008】
(2)第2実施態様
上記の課題に鑑み、本願の第2実施態様のインクリフィルは、第1実施態様の構成に加え、前記筆記ボールが前記ボール受座に接触している状態において、前記第2肩部は、前記仮想断面における前記第1肩部と前記筆記ボールとの仮想接線よりも外側に位置し、
前記筆記ボールが前記カシメ部の内面に接触している状態において、前記第2肩部は、前記仮想断面における前記第1肩部と前記筆記ボールとの仮想接線よりも内側に位置することを特徴とする。
【0009】
(3)第3実施態様
上記の課題に鑑み、本願の第3実施態様のインクリフィルは、第1実施態様又は第2実施態様の構成に加え、前記インクは、少なくとも着色剤と、水と、主骨格としての重合度2以上かつ6以下のポリグリセリンと、を含有するとともに、65モル以上120モル未満のアルキレンオキサイドが付加され、かつ、カルボン酸含有物とエステル結合しているアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルを全体の0.1質量%以上30質量%未満含有するとともに、
前記ボールペンチップは、前記バック孔の内部に収容されるとともに先端部分が前記筆記ボールを先端へ押圧する押圧棒として形成されているスプリングをさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るインクリフィルによれば、筆記時にカシメ部の肩が紙面に接触しても、カシメ部内周の変形に起因する直流を防止し得るとともに、筆記感の向上を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るインクリフィルの一部断面正面図である。
【
図2】
図1のインクリフィルに使用されるボールペンチップの一部断面正面図である。
【
図3】
図2のボールペンチップの先端部分を拡大した正面断面図である。ただし、スプリングは省略してある。
【
図4】
図3に示すボールペンチップについて、筆記ボールがスプリングで押圧されている状態を示した正面断面図である。ただし、スプリングは省略してある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るインクリフィル10は、
図1の一部断面正面図に示すように、ボールペンチップ20と、継手14と、インク収容管11とから構成される。インク収容管11は、ポリプロピレン製の管であり、その内部には25℃において剪断速度3.84sec
-1における粘度が100~3,000mPa・secの水性のインク12が充填されている。
【0013】
図2は、ボールペンチップ20の一部正面断面図である。また、
図3は、
図2のボールペンチップの先端部分を拡大した正面断面図であり、軸心40を含む仮想断面として表されている。ただし、
図3においてはスプリング36が省略されている。ボールペンチップは、ステンレス鋼製の円柱材が切削されて形成されたホルダー21と、ホルダー21の先端に収容される筆記ボール35と、ホルダー21の内部に収容されるスプリング36とで構成される。ホルダー21の先端部分は先細に略円錐状に切削されて第1テーパー面22として形成され、さらにその先端側で内向きに径を減じた連結面23と、そこからさらに径を減じるように先端側に突出した第2テーパー面24とが形成されている。
【0014】
ホルダー21は、ボールペンチップ20から筆記ボール35を除いた本体部分であり、たとえば、本実施形態のようにステンレス鋼等の金属製の円柱材を切削することにより形成される。あるいは、用途によってはパイプ材の塑性変形加工及び切削加工により形成されることもある。このホルダー21の先端側を先細に切削した部分を第1テーパー面22という。ここでいう「先端」とは、ボールペンチップ20の筆記先端の側であり、またその反対側が「後端」である。ホルダー21の後端部分は外径を減じた被挿入部28として形成されていて、この部分が、
図1に示すように継手14の先端側に挿入されている。
【0015】
連結面23は、第1テーパー面22の先端側を縮径する面であって、第1テーパー面22と第2テーパー面24とを連結する面である。ここで、第1テーパー面22と連結面23とがなす角度は、ホルダー21の軸心40を含む仮想断面において外側で測定すると180°より大きい。すなわち、本実施形態に係るボールペンチップ20において、ホルダー21の軸心40を含むような断面が存在すると仮定する(これを「仮想断面」と称する。
図3はこの仮想断面を示したものである。)。そして、当該仮想断面において、第1テーパー面22に由来する線分と連結面23に由来する線分とがなす角度を測定する場合、ホルダーの実体部分における角度が「内側」であるとすれば、もう一方の「外側」における角度(すなわち、ホルダーの実体部分でない方の角度であって、
図3に示す角度α)が180°より大きい。ここで、第1テーパー面22と連結面23との境界、すなわち、上記の「角度α」の頂点をなす部分が第1肩部26である。
【0016】
第2テーパー面24は、連結面23の先端側がさらに先細になるように、連結面23から突出するように傾斜したテーパー形状の面である。ここで、連結面23と第2テーパー面24とがなす角度は、上記の仮想断面において同様に「外側」で測定すると(すなわち、
図3に示す角度β)、180°より小さい。なお、この角度βは、180°より小さい角度であって、かつ、第2テーパー面24が先細になるような角度である。換言すると、この角度βは、180°より小さい角度で、かつ、第2テーパー面24がホルダー21の軸心40と平行となる角度よりも大きい角度である。
【0017】
さらに第1テーパー面22、連結面23及び第2テーパー面24の内側に抱持される筆記ボール35の先端部が第2テーパー面24の先端縁から露出するとともに、第2テーパー面24の小口が内方に押圧されて縮径変形されたカシメ部25として形成されている。ホルダー21の内部空間として形成されたバック孔32の内部には、コイルバネにより形成されたスプリング36が挿入されている。スプリング36の先端は先端に向け真っ直ぐに伸びた押圧棒37として形成されている。
【0018】
ボールハウス29は、第1テーパー面22、連結面23及び第2テーパー面24が位置する部分の内周に当たる部分として先端側から形成された空間であり、この中に筆記ボール35が挿入される。なお、本実施形態のようにホルダー21が円柱材より形成される場合にはボールハウス29は先端からの切削加工で形成されるが、ホルダー21がパイプ材より形成される場合にはボールハウス29は外周からのポンチ加工による押圧変形された部分までの内部空間がそのまま利用されるか、あるいは若干内径を広げるべく切削加工することにより形成される。ボールハウス29の底面30は、漏斗様の形状を呈している。
【0019】
バック孔32とは、
図1に示すように、ホルダー21の後端からボールハウス29に達しない近傍(
図3参照)までに達する中心孔である。なお、本実施形態のようにホルダー21が円柱材より形成される場合にはこのバック孔32は切削加工により形成されるが、ホルダー21がパイプ材より形成される場合には後端からボールハウス29までの内部空間がそのままバック孔32となる。この中をインク収容管11に収容されるインク12がボールハウス29まで誘導されることとなっている。
【0020】
ボールハウス29とバック孔32との間は、バック孔32よりも小径な断面円形の孔であるインク孔33で連結されている。そして、このインク孔33の周囲には、軸方向の溝であるチャンネル溝34が複数本(本実施形態では4本)等配されている。本実施形態のように、ホルダー21が円柱材より形成される場合には、チャンネル溝34はボールハウス29の底面30からチャンネルツールによる切削加工で形成される。また、ホルダー21がパイプ材より形成される場合には、前記したボールハウス29の形成の際のポンチ加工で押圧変形した部位間の間隙がこのチャンネル溝34として利用される。
【0021】
バック孔32の先端まで誘導されたインク12は、インク孔33からこのチャンネル溝34を経由して、ボールハウス29へ至ることとなる。すなわち、チャンネル溝34は、筆記ボール35で底面30が閉塞されたボールハウス29と、インク孔33とを連絡する。なお、このチャンネル溝34は、使用するインク12が比較的高粘度で直流を起こしにくい場合には、インク12の流通の観点からバック孔32まで貫通させるのが望ましい。一方、使用するインク12が比較的低粘度で直流を起こしやすいものである場合には、バック孔32まで貫通させず、
図3に示すようにインク孔33の途中で止めておくことが望ましい。
【0022】
ここで、筆記ボール35は、超硬ステンレス鋼等の金属製球体であり、ボールハウス29に挿入される。ボールハウス29へ至ったインクは、筆記ボール35の表面に付着して筆記面に転写されることになる。
【0023】
ボールハウス29に挿入された筆記ボール35が、いわゆる「タタキ加工」により後方に押圧されて、ボールハウス29の底面30に筆記ボール35の曲面の一部が転写されてできた凹曲面がボール受座31である。
【0024】
さらに、筆記ボール35がボールハウス29に挿入され、上記したタタキ加工を受けた後で、第2テーパー面24の小口が内方にカシメ加工されて内径を減じた部分がカシメ部25である。このカシメ部25は、筆記ボール35を抱持して落下を防止する構造である。このカシメ部25と第2テーパー面24との境界が第2肩部27である。
【0025】
図2に示すボールペンチップ20は、その被挿入部28を継手14に挿入した状態で、さらにその継手14を介して合成樹脂製のインク収容管11の先端に装着されて、インクリフィル10となる(
図1参照)。インクリフィル10のインク収容管11には、インク12として水性ゲルインクが注入され、さらに後端からインク12が漏出するのを防止するため、グリース状のインク追従体13がインク12その後端に注入されている。
【0026】
上記の構造に加えて、前記仮想断面において、さらに、筆記ボールと第1肩部との接線が存在すると仮定すると(これを「仮想接線」と称する。)、
(A×B×108)/(C×D×E5)<8
の関係が成立する。ここで、「A」は仮想断面における第1肩部と筆記ボールとの仮想接線よりも外側にある環状の部分の体積(単位:mm3)であり、「B」は先端視における筆記ボールとカシメ部との隙間の面積(単位:mm2)であり、「C」はインクの表面張力(単位:mN/m)であり、「D」はホルダーの縦弾性係数(ヤング率)(単位:GPa)であり、「E」は筆記ボールの直径(単位:mm)である。
【0027】
ここで、
図3に示すように、筆記ボール35がボール受座31に接触している状態において、第2肩部27は、仮想断面における第1肩部26と筆記ボール35との仮想接線41よりも外側に位置している。そして、上記の体積Aとは、具体的には、この第2肩部27を含む部分であって、
図3において「A」で示す三角形の領域が、軸心40の周囲を回転して得られる環状部分の体積である。この部分が仮想接線より外側にあることによって、紙面に対する筆記角度が小さい場合、第1肩部26よりも先にこの第2肩部27の近傍の部分が紙面に当たることになる。
【0028】
ここで、第1肩部26の前後である第1テーパー面22及び連結面23は切削加工により形成されるため表面粗さが比較的大きな値となっている。これに対し、第2肩部27より先端側のカシメ部25は塑性変形により形成されるため、第1肩部26の近傍よりもより鏡面に近く滑らかに加工されている。よって、第2肩部27が仮想接線より内側にある場合に比べると、筆記角度が小さい場合に、筆記面は粗面である第1肩部26に接触するよりも先に滑面である第2肩部27に接触するため、より滑らかな筆記感が得られることとなっている。
【0029】
筆記ボール35の体積に対する体積Aの割合については、1%未満の場合、筆記に伴う摩耗によって第2肩部27が第1肩部26よりも先に筆記面に接触することによる滑らかな筆記感が速やかに失われることになる。一方、15%以上の場合、第2肩部27による筆記時の引っかかり感がかえって大きくなる。よって、上記したような滑らかな筆記感という本発明の効果を得るためには、筆記ボールの体積に対する体積Aの割合は1%~15%が好ましい。
【0030】
上述の面積Bについては、筆記ボール35の断面積に対して5%未満の場合、筆記描線が薄くなり、一方15%以上の場合は直流の防止効果が十分に発揮できない。よって、筆記ボール35の断面積に対する面積Bの割合は、5%以上かつ15%未満が好ましい。
【0031】
ホルダー21は、非鉛の金属材料で形成されることが好ましい。この材料で形成されるホルダー21の縦弾性係数(ヤング率)Dについては、金属材料の塑性域に該当する190GPa未満の場合は、筆記先端に落下等による衝撃が加わった際、塑性変形が起こるため弾性回復が起こりにくい。一方、縦弾性係数Dが210GPa以上の場合、金属材料をホルダー21に加工することが困難である。よって、ホルダー21の縦弾性係数Dは190GPa以上かつ210GPa未満とすることが好ましい。
【0032】
カシメ部25は、表面の算術平均高さSaを10nm以下とすることが好ましい。カシメ部25の端面から筆記ボール35の先端までの出寸法は、筆記ボール35の直径に対して30%以上とすることが好ましい。カシメ部25の内面には、ボールハウス内を気密するために、筆記ボール35に沿ったシール面25aが形成されている。シール面25aの軸線方向の長さCは5μm以上かつ30μm未満であることが好ましい。
【0033】
なお、
図3においては筆記ボール35を先端方向に付勢しているスプリング36の押圧棒37は省略されているが、この
図3は、筆記の際に筆記面によって筆記ボール35が後端方向に押圧されてボール受座31と接触している状態を示している。これに対し、非筆記時においては、
図4に示すように、筆記ボール35は、やはり図示が省略されているスプリング36の押圧棒37により先端方向に押圧され、カシメ部25の内面、すなわちシール面25aと接触した状態となっている。これによって、ボールハウス29は外部と遮断され、直流が防止されている。この状態において、第2肩部27は、軸心40(
図3参照)を含む仮想断面における第1肩部26と筆記ボール35との仮想接線42よりも内側に位置している。
【0034】
本実施形態のインク12は、少なくとも着色剤と、水とを含有するインクにおいて、主骨格が重合度2以上かつ6以下のポリグリセリンであり、65モル以上120モル以下のアルキレンオキサイドが付加され、かつ、カルボン酸含有物とエステル結合しているアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルを全体の0.1質量%以上30質量%未満含有している。
【0035】
実施形態に用いるアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルは、長期保管においてもインク物性が経時的に変化することがなく、書き味、非滲み性及び描線乾燥性を向上させるために含有するものであり、主骨格が重合度2以上かつ6以下のポリグリセリンであり、65モル以上120モル以下のアルキレンオキサイドが付加され、カルボン酸含有物とエステル結合しているものである。このアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルは、重合度が2以上かつ6以下のポリグリセリンと65モル以上120モル以下のアルキレンオキサイド及びカルボン酸含有物とを反応して得られるものである。
【0036】
実施形態において、グリセリン骨格となる、用いるポリグリセリンの重合度は、2以上かつ6以下が望ましい。この重合度が6を超えると、分子全体のかさ高さが大きくなり、書き味、描線の非滲み性が向上するが、乾かなくなり結果として手が汚れる等の問題が生じることとなる。
【0037】
実施形態において、用いるアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどの少なくとも1種(各単独又は2種以上の組み合わせ、以下同様)が挙げられ、好ましくは、アルキレンオキサイドの親水度の点からエチレンオキサイドが望ましい。このアルキレンオキサイドの付加モル数は、65~120モルが望ましい。この付加モル数が65モル未満であると、非滲み性が低下すると共に、紙面の膨潤度が低いため、書き味の飛躍的な向上が見込めず、また、顔料インクに用いる場合、分散性が低下することとなる。一方、付加モル数が120モルを超えると、インク粘度が上昇するため、特に低粘度インクを設計する場合、含有量を少なくする必要があり、目的の書き味、非滲み性が発揮できないこととなる。また、顔料インクに使用する場合、顔料分散安定性を図るための含有量を確保するには、インク粘度上昇が避けられず、結果として含有量を減らすこととなり、分散安定性が確保できないものとなる。更に、インクにせん断減粘性を付与する場合は、低粘度インクより粘度に関しては余裕があるが、粘度付与剤含有前の粘度が高くなってしまうため、結果として粘度付与剤の含有量を減らすこととなり、特に顔料インクに含有する場合、経時にて顔料が沈降することとなる。
【0038】
実施形態において、用いるカルボン酸含有物としては、たとえば、脂肪酸、芳香族カルボン酸などの少なくとも1種が挙げられる。用いる脂肪酸は、直鎖状又は分岐状、又は、飽和若しくは不飽和の何れの脂肪酸であってもよく、実施形態の効果の更なる向上の点から、炭素数4~25である脂肪酸が好ましく、更に好ましくは、炭素数8~20である脂肪酸が望ましく、たとえば、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、また、アルキル、ハロゲン、アルコキシなどの置換基を有するものであってもよいものである。
【0039】
なお、炭素数4未満の脂肪酸である場合、相対的に分子中に占める親水性度が高くなって、描線乾燥性が低下することがあり、また、顔料インクに含有する場合、顔料吸着能力が低下するため顔料分散性が低下することがある。一方、炭素数が25を超える脂肪酸であると、アルキレンオキサイドの付加モル数と同様に、インク粘度が上昇し、インク粘度設計上制約が生じることとなる。
【0040】
実施形態のアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルにおいて、好ましくは、分子の親水性度、顔料インクの場合の顔料吸着性、インク粘度設計の点から、カルボン酸含有物のモル数をX、グリセリンの重合度をYとした場合、X/〔Y+2〕、すなわち、エステル化度(エステル数/水酸基数)は、0.30~0.60とすることが望ましい。
【0041】
実施形態のアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルは、上述の如く、重合度が2~6であるポリグリセリンと65~120モルのアルキレンオキサイド及びカルボン酸含有物とを反応することにより、主骨格がグリセリンからなり、65~20モルのアルキレンオキサイドが付加され、カルボン酸含有物とエステル結合している構成となるものであり、そのHLBは、16~20のものが望ましい。
【0042】
このHLBが16未満であると、アルキレンオキサイドの付加モル数が少なく、アルキル基、芳香族付加モル数が多くなる方向になり、書き味低下を引き起こすこととなり、また、顔料インクに用いる場合、分散安定性低下を引き起こすこととなる。一方、HLBが20を超えると、アルキレンオキサイドの付加モル数が多くなる方向になるため、インク粘度の上昇等でインク粘度設計上制約が生じることとなる。
【0043】
実施形態のアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルの平均分子量は、3000~9000のものが望ましい。この平均分子量が3000未満になると、紙面への浸透成分にあたる疎水基不足による描線乾燥性の低下を招くこととなり、また、顔料インクでは顔料分散性に劣ることとなり、一方、平均分子量が9000を超えると、インク粘度の上昇等でインク粘度設計上制約が生じることとなる。
【0044】
実施形態のアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルの含有量は、インク組成物全量に対して、1~10質量%とすることが望ましい。この含有量が1質量%未満であると、書き味向上が図れず、一方、10質量%を越えると、ニュートン性インクの場合、粘度が高くなり目標粘度に設定できない。また、非ニュートンインクの場合、目標粘度に設定する際、非ニュートン性付与剤の含有量を制限する必要があり、結果としてネットワーク構造が強固なものにならず、顔料沈降等の問題が発生することとなる。
【0045】
実施形態に用いる着色剤としては、無機系及び有機系顔料、水溶性染料又は低濃度で水に溶解する油溶性染料の中から任意のものを使用することができる。油溶性染料を用いる場合は、ビヒクル中に有機溶剤を溶解させることで染料の溶解性を向上させることが可能となる。無機系顔料としては、たとえば、酸化チタン、カーボンブラック、金属粉などが挙げられ、また、有機系顔料としては、たとえばアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、二トロ顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも用いることができる。
【0046】
これらの着色剤の含有量は、インク12の組成の全量に対して、1~15質量%の範囲とすることが望ましい。この着色剤の含有量が15質量%を越えると、長期に保存した場合、顔料が凝集してしまったり、染料が析出したりしてペン先に詰まり、筆記不良を起こすこととなり、また、1質量%未満では、着色が弱くなり、紙に書いた時の色相が分からなくなってしまうので好ましくない。
【0047】
実施形態のインク12のpHに関しては、インク組成物のpHを7~10の範囲に調製することが好ましい(測定温度:25℃、測定器:ホリバ社製pHメーター)。インク12のpHを上記範囲に調製するのは、ボールペンチップが金属材料を用いた場合の防錆とともに、顔料の分散に仕様する分散剤の凝集や着色剤として使用する酸性染料の未溶解を防ぐためである。
【0048】
実施形態のインク12の粘度は、幅広い粘度領域で用いることができる。ニュートン粘性インク粘度が1~10mPa・Sのような低粘度インクの場合は、非滲み性、書き味に効果が見られる。粘度が10~100mPa・s程度のインクに関しても低粘度インクと同様な効果が期待できる。非ニュートン粘性インクで剪断速度3.84s-1におけるインク粘度が100~4000mPa・s程度の場合、非ニュートン性付与剤と強固なネットワーク構造を構築し、物性安定性を図ることができる。
【0049】
インク12の表面張力は、30~40mN/m(測定温度:25℃、測定機器:協和界面科学社製、表面張力測定器)の範囲で設定することが好ましい。インク12の表面張力が上記の範囲を下回ると(各範囲の最小値未満であると)、筆記描線が滲みやすくなったり、直流・吹き出し等を生じることがあり、上記の好ましい範囲を越えると、ペンの書き味や流量安定性が低下することがある。
【0050】
なお、実施形態のインク12においては、筆記先端の乾燥を防ぐための保湿剤として、必要に応じて水溶性有機溶剤を用いることができる。グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどの誘導体は、その保湿効果より有機溶剤と同様な効果を得る目的でインク中に含有することができる。これらの水溶性有機溶剤の含有量は、インク12の組成の全量に対して、5~40質量%の範囲とすることが望ましい。この水溶性有機溶剤の含有量が40質量%を越えると、描線が乾きづらくなり、好ましくない。
【0051】
また、実施形態のインク12においては、筆記先端の乾燥を防ぐための保湿剤として、必要に応じて糖類、尿素誘導体等を用いることができる。保湿剤は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
これらの糖類、尿素誘導体等の保湿剤の含有量は、インクの組成の全量に対して、0.25~10質量%とすることが望ましい。この保湿剤の含有量が0.25質量%未満であると、保湿剤としての効果が発揮されず、一方、10質量%を越えると、インク粘度増加、描線乾燥性の低下を招くこととなる。
【0053】
以上の他、実施形態のインク12には、必要に応じて、潤滑剤、防腐剤、pH調節剤、水溶性アルカリ溶解樹脂、樹脂エマルジョン、腐食抑制剤、酸化防止剤、増粘剤を含有させることができ、残部は水(イオン交換水、精製水、蒸留水、純水、超純水等)で調整される。
【0054】
潤滑剤としては、たとえば、リノール酸カリウム、リシノール酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩、その他、以下に示すノニオン系、アニオン系、両性界面活性剤を挙げることができる。これらの含有量は、特に低粘度インク(10mPa・s程度)の場合は、非滲み性の観点から、インク組成物全量に対して、0.01~2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.05~1.5質量%、特に望ましくは0.1~1.2質量%とすることが望ましく、非ニュートン粘性で100~4000mPa・s(剪断速度3.84s-1の場合)の際は、その粘度効果より含有量を制限しなくともよい。
【0055】
防腐剤としては、たとえば、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、ペンタクロロフェノールナトリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、2-ピリヂンチオール-1-オキサイドナトリウム塩、1,2-ベンズイソチアゾン-3-オン、5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾン-3-オン、2,4-チアゾリンベンズイミダゾール、パラオキシ安息香酸エステルなどが挙げられる。
【0056】
pH調節剤としては、アミン又は塩基、たとえば、アミノトリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物の無機アルカリ剤、アンモニアなどが挙げられる。
【0057】
水溶性アルカリ溶解樹脂又は樹脂エマルジョンは、主として粘度調整剤、耐水化剤としての働きを期待して含有するものであり、たとえば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネイト、ポリメチルメタクリレート、ベンゾグアナミン樹脂、スチレン・アクリロトリル共重合体、変性アクリルメチルメタクリレート・スチレン共重合体、アクリル酸アルキルエステル共重合物、アクリロニトリル・アクリル酸アルキルエステル共重合物、スチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合物、スチレン・メタクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル共重合物、スチレン・アクリロニトリル・メタクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル共重合物、メタクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル共重合物、アクリル酸・メタクリル酸・アクリル酸アルキルエステル共重合物、塩化ビニリデン・アクリル酸アルキルエステル共重合物などが挙げられる。
【0058】
酸化防止剤は、主に実施形態のエステル化合物の加水分解性を抑制したり、ボールペン軸等の筆記具内の気体膨張による不具合を解消するために用いるものである。具体的には、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、ビニルピロリドンオリゴマー、トコフェノールなどのポリフェノール類、カテキン、フラバンジェノール、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、アセチルシステインなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0059】
増粘剤は、有機系増粘剤と無機系増粘剤に大別されるが、有機系増粘剤としては、たとえば、アクリル系合成高分子、天然ガム、セルロース、多糖類が使用できる。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、カゼインクサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、アルカラン、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体、アクリル膨潤会合性エマルション、スチレン・アクリル酸共重合体の塩などが挙げられる。無機系増粘剤としては、たとえば、スメクタイト、ベントナイト、ケイソウ土等の粘土類、二酸化珪素等の微少粒体等が挙げられる。これらの増粘剤の含有量は、インクの粘度値により適宜増減される。
【0060】
腐食抑制剤としては、たとえば、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、リン酸オクチル、チオリン酸ジオクチル等の脂肪酸リン誘導体、イミダゾール、ベンゾイミダゾール及びその誘導体、2-メルカプトベンゾチアゾール、オクチルメタンスルホン酸、ジシクロへキシルアンモニウム・ナイトライト、ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト、プロパルギルアルコール、ジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【実施例0061】
実施例として、2種類のインクを用いたインクリフィルについて直流試験及び引っかかり感の官能試験による評価を行った。
【0062】
(1)インク1
インク1は、以下の組成とした。
色材(ウォーターブラック):5質量%
溶剤(エチレングリコール):20質量%
ph調整剤(トリエタノールアミン):0.3質量%
ph調整剤(アミノメチルプロパノール):0.1質量%
防腐剤(2-ベンズイソチアゾリン-3-オン):0.1質量%
防錆剤(ベンゾトリアゾール):0.3質量%
増粘剤(キサンタンガム):0.4質量%
糖類(グルコース):2質量%
アセチレンオキサイド付加グリセリンエステル(分子量5043、HLB18):3質量%
精製水:残部
【0063】
上記組成のインク1を、測定温度25℃において、測定器としてELD・EMD型粘度計(トキメック)を用いて測定した粘度は、回転数1rpmで1500mPa・s、及び、回転数50rpmで230mPa・sであった。また、pH測定器(ホリバ)を用いて25℃で測定したインク1のpHは8.5であった。さらに、インク1の表面張力(C)は32mN/mであった。
【0064】
このインク1を、
図1に示すようなインクリフィルのインク収容管に充填した。インク収容管の先端に装着されるボールペンチップは、ステンレスで形成されたホルダーにボール径(E)0.7mmの筆記ボールが収容されたものであった。このホルダーのヤング率(D)は200GPaであった。また、筆記ボールを押圧するスプリングの押し荷重は平均15g重(0.15N)であった。
【0065】
このインク1を用いたインクリフィルとして、後述の表1に示す実施例1~4及び比較例1~3のインクリフィルを作成した。
【0066】
(2)インク2
インク2は、以下の組成とした。
色材(カーボンブラック):7質量%
溶剤(エチレングリコール):10質量%
溶剤(プロピレングリコール):15質量%
ph調整剤(トリエタノールアミン):0.3質量%
ph調整剤(アミノメチルプロパノール):0.1質量%
防腐剤(2-ベンズイソチアゾリン-3-オン):0.1質量%
防錆剤(ベンゾトリアゾール):0.1質量%
尿素:1.5質量%
アセチレンオキサイド付加グリセリンエステル(分子量5095、HLB17.8):1質量%
精製水:残部
【0067】
上記組成のインク2を、測定温度25℃において、インク1と同様に測定した粘度は、回転数50rpmで3.8mPa・sであった。また、インク1と同様に測定したインク2のpHは8.5であった。さらに、インク2の表面張力(C)は38mN/mであった。
【0068】
このインク2を、
図1に示すようなインクリフィルのインク収容管に充填した。インク収容管の先端に装着されるボールペンチップは、ステンレスで形成されたホルダーにボール径(E)0.5mmの筆記ボールが収容されたものであった。このホルダーのヤング率(D)は193GPaであった。また、筆記ボールを押圧するスプリングの押し荷重は平均15g重(0.15N)であった。
【0069】
このインク2を用いたインクリフィルとして、後述の表2に示す実施例5~10並びに比較例5及び6のインクリフィルを作成した。
【0070】
(3)試験方法
(3-1)直流試験
温度23±2℃、相対湿度65±10%の環境下で、各実施例又は比較例のインクリフィルを装着したボールペン軸の先端から筆記先端を繰り出した状態で、水平面に対し50°の傾斜を有する受け板に1mの高さから筆記先端を下向きに落下させた。その後、フリーハンドで20~25cm程度の円を5周筆記し直ちに下向きに固定して60分放置した。その後、ボールペンチップ先端に溜まったインク滴の大きさを測定した。判定基準は下記に示すとおりである。
評価A:インク滴の発生なし
評価B:インク滴の大きさが0mm超、1mm以下
評価C:インク滴の大きさが1mm超、2mm以下
評価D:インク滴の大きさが2mm超
【0071】
(3-2)引っかかり感試験
被験者に各実施例又は比較例のインクリフィルを装着したボールペンにて筆記角度を概ね45°に保つようにして自由筆記させた。その際の引っかかり感について、下記に示すとおり官能評価した。
評価A:引っかかり感が全くない
評価B:引っかかり感がわずかにある
評価C:引っかかり感がある
評価D:引っかかり感がかなりある
【0072】
(4)試験結果
インク1による評価結果を下記表1に、及び、インク2による評価結果を下記表2に、それぞれ示す。なお、各表中の「A」は、ホルダー21のうち、軸心40を含む仮想断面における第1肩部26と筆記ボール35との仮想接線41よりも外側にある環状の部分の体積A(
図3参照)であり、単位はmm
3である。また、各表中の「B」は、先端視における筆記ボール35とカシメ部25との隙間の面積B(
図3参照)であり、単位はmm
2である。また、各表中の「F」は、上記の各パラメータA~Eによって、下記式にて算出される値である。
F=(A×B×10
8)/(C×D×E
5)
【0073】
【0074】
【0075】
上記表1及び表2より、いずれの実施例及び比較例も、引っかかり感に関しての評価結果は「A」と高評価であった。
【0076】
ここで、インク1を用いた比較例1~比較例4並びにインク2を用いた比較例5及び比較例6のいずれにおいても、F値が8を上回っていた。これに伴い、直流試験の評価は最も良い比較例1、比較例4及び比較例6でも「C」で、その他の比較例では「D」と芳しくない結果であった。
【0077】
一方、インク1を用いた実施例1~実施例4及びインク2を用いた実施例5~10はいずれもF値が8を下回っていた。これに伴い、直流試験の評価は悪くても「B」(実施例1、実施例5及び実施例9)で、その他の実施例では「A」と優れた結果であった。
【0078】
前記したF値算出の式からは、A値及びB値が大きくなるほど、F値が大きくなり、それに伴い、上記表1及び表2に示すように、直流試験の評価が悪くなる傾向が見られる。これは、
図3の「A」を含むカシメ部の厚さが大きいと、筆記先端が衝突した際の変形が復元しにくくなるため、その後に直流が起こりやすくなったと考えられる。これに対し、カシメ部の厚さが小さい場合には、第1肩部26(
図3参照)の方が衝突しやすくなるため、カシメ部の変形が起こりにくく、直流に対する悪影響が少なかったと考えられる。