(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190502
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】車両用アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20221219BHJP
F16H 1/16 20060101ALI20221219BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
F16H1/28
F16H1/16 Z
H02K7/116
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098859
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡部 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 雅生
(72)【発明者】
【氏名】永田 俊顕
【テーマコード(参考)】
3J009
3J027
5H607
【Fターム(参考)】
3J009DA17
3J009EA06
3J009EA19
3J009EC04
3J009FA03
3J027FA10
3J027FA36
3J027FB01
3J027GA05
3J027GB03
3J027GB05
3J027GC13
3J027GC24
3J027GE29
5H607AA12
5H607BB01
5H607CC03
5H607DD03
5H607DD08
5H607EE32
5H607EE33
5H607EE36
(57)【要約】
【課題】駆動対象を異なる態様で往復作動できる車両用アクチュエータを提供する。
【解決手段】アクチュエータ10は、3つの基本軸として、回転軸21から伝達されるトルクにより回転する第1入力軸311及び第2入力軸321と、第1入力軸311及び第2入力軸321の一方から伝達されるトルクにより回転する出力軸341と、を有する遊星歯車機構300を備える。遊星歯車機構300は、モータの回転軸21の回転方向に応じて、モータから伝達されるトルクに基づく第1入力軸311の回転を許容する一方で第2入力軸321の回転を制限する第1駆動状態と、モータから伝達されるトルクに基づく第2入力軸321の回転を許容する一方で第1入力軸311の回転を制限する第2駆動状態と、を切り替える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有するモータと、
3つの基本軸として、前記モータの前記回転軸から伝達されるトルクにより回転する第1入力軸及び第2入力軸と、前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方の入力軸から伝達されるトルクにより回転する出力軸と、を有する遊星歯車機構を備え、
前記遊星歯車機構は、前記モータの前記回転軸の回転方向に応じて、前記モータから伝達されるトルクに基づく前記第1入力軸の回転を許容する一方で前記第2入力軸の回転を制限する第1駆動状態と、前記モータから伝達されるトルクに基づく前記第2入力軸の回転を許容する一方で前記第1入力軸の回転を制限する第2駆動状態と、に切り替わる
車両用アクチュエータ。
【請求項2】
前記遊星歯車機構は、
前記第1入力軸とともに回転する第1ギヤと、
前記第2入力軸とともに回転するキャリアと、
前記キャリアに回転可能に支持され、前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤと、
前記出力軸とともに回転し、前記第2ギヤと噛み合う第3ギヤと、を有する
請求項1に記載の車両用アクチュエータ。
【請求項3】
前記モータから伝達されるトルクにより回転する第4ギヤと、前記第4ギヤと噛み合う第5ギヤと、を有し、前記モータの前記回転軸のトルクを増大させて前記第1入力軸及び前記第2入力軸に伝達する食い違い軸歯車機構を備え、
前記第5ギヤは、軸方向に変位可能に支持されるものであり、前記モータの前記回転軸の回転方向に応じて、前記遊星歯車機構を前記第1駆動状態とする第1の位置及び前記遊星歯車機構を前記第2駆動状態とする第2の位置の間で変位する
請求項2に記載の車両用アクチュエータ。
【請求項4】
前記食い違い軸歯車機構は、前記第4ギヤとしてウォームを有し、前記第5ギヤとしてウォームホイールを有するウォームギヤ機構である
請求項3に記載の車両用アクチュエータ。
【請求項5】
前記食い違い軸歯車機構を収容するハウジングと、
前記第1入力軸と前記ハウジングとを連結することにより前記第1入力軸の回転を制限する第1ロック位置と、前記第1入力軸と前記ハウジングとの連結を解除することにより前記第1入力軸の回転を許容する第1アンロック位置と、の間で変位する第1ロック部材と、
前記第2入力軸と前記ハウジングとを連結することにより前記第2入力軸の回転を制限する第2ロック位置と、前記第2入力軸と前記ハウジングとの連結を解除することにより前記第2入力軸の回転を許容する第2アンロック位置と、の間で変位する第2ロック部材と、を備え、
前記第5ギヤは、
前記第2の位置から前記第1の位置に変位するとき、前記第1ロック部材を前記第1アンロック位置に変位させるとともに前記第2ロック部材を前記第2ロック位置に変位させ、
前記第1の位置から前記第2の位置に変位するとき、前記第1ロック部材を前記第1ロック位置に変位させるとともに、前記第2ロック部材を前記第2アンロック位置に変位させる
請求項3又は請求項4に記載の車両用アクチュエータ。
【請求項6】
前記第5ギヤは、
前記第2の位置から前記第1の位置に変位するとき、前記第1入力軸に接続されるとともに、前記第2入力軸から切断され、
前記第1の位置から前記第2の位置に変位するとき、前記第1入力軸から切断されるとともに、前記第2入力軸に接続される
請求項3~請求項5の何れか一項に記載の車両用アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワイパー及び窓ガラスなどの車両の駆動対象を駆動するためのアクチュエータが記載されている。アクチュエータは、モータと、モータの回転速度を減速する減速機と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなアクチュエータにおいて、例えば、窓ガラスを上昇させる場合の窓ガラスの移動方向は重力方向の逆方向となり、窓ガラスを下降させる場合の窓ガラスの移動方向は重力方向となる。このため、アクチュエータは、窓ガラスを上昇させる場合には、窓ガラスを下降させる場合よりも、大きなトルクをモータに出力させる必要がある。こうした実情は、窓ガラスを駆動するアクチュエータに限らず、他の車両の駆動対象を駆動するアクチュエータにおいても概ね共通する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両用アクチュエータは、回転軸を有するモータと、3つの基本軸として、前記モータの前記回転軸から伝達されるトルクにより回転する第1入力軸及び第2入力軸と、前記第1入力軸及び前記第2入力軸の一方の入力軸から伝達されるトルクにより回転する出力軸と、を有する遊星歯車機構を備え、前記遊星歯車機構は、前記モータの前記回転軸の回転方向に応じて、前記モータから伝達されるトルクに基づく前記第1入力軸の回転を許容する一方で前記第2入力軸の回転を制限する第1駆動状態と、前記モータから伝達されるトルクに基づく前記第2入力軸の回転を許容する一方で前記第1入力軸の回転を制限する第2駆動状態と、に切り替わる。
【0006】
上記車両用アクチュエータにおいて、前記遊星歯車機構は、前記第1入力軸とともに回転する第1ギヤと、前記第2入力軸とともに回転するキャリアと、前記キャリアに回転可能に支持され、前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤと、前記出力軸とともに回転し、前記第2ギヤと噛み合う第3ギヤと、を有することが好ましい。
【0007】
上記構成の車両用アクチュエータは、モータの回転軸が第1回転方向に回転する場合及びモータの回転軸が第1回転方向の逆方向である第2回転方向に回転する場合で、遊星歯車機構の減速比を変更できる。このため、車両用アクチュエータは、駆動対象を異なる態様で往復動させることができる。
【0008】
上記車両用アクチュエータは、前記モータから伝達されるトルクにより回転する第4ギヤと、前記第4ギヤと噛み合う第5ギヤと、を有し、前記モータの前記回転軸のトルクを増大させて前記第1入力軸及び前記第2入力軸に伝達する食い違い軸歯車機構を備え、前記第5ギヤは、軸方向に変位可能に支持されるものであり、前記モータの前記回転軸の回転方向に応じて、前記遊星歯車機構を前記第1駆動状態とする第1の位置及び前記遊星歯車機構を前記第2駆動状態とする第2の位置の間で変位することが好ましい。
【0009】
上記構成の車両用アクチュエータは、軸方向に変位可能な第5ギヤの位置に応じて、遊星歯車機構の状態を切り替えることができる。
上記車両用アクチュエータにおいて、前記食い違い軸歯車機構は、前記第4ギヤとしてウォームを有し、前記第5ギヤとしてウォームホイールを有するウォームギヤ機構であることが好ましい。
【0010】
上記構成の車両用アクチュエータは、食い違い軸歯車機構における減速比を大きくすることができる。
上記車両用アクチュエータは、前記食い違い軸歯車機構を収容するハウジングと、前記第1入力軸と前記ハウジングとを連結することにより前記第1入力軸の回転を制限する第1ロック位置と、前記第1入力軸と前記ハウジングとの連結を解除することにより前記第1入力軸の回転を許容する第1アンロック位置と、の間で変位する第1ロック部材と、前記第2入力軸と前記ハウジングとを連結することにより前記第2入力軸の回転を制限する第2ロック位置と、前記第2入力軸と前記ハウジングとの連結を解除することにより前記第2入力軸の回転を許容する第2アンロック位置と、の間で変位する第2ロック部材と、を備え、前記第5ギヤは、前記第2の位置から前記第1の位置に変位するとき、前記第1ロック部材を前記第1アンロック位置に変位させるとともに前記第2ロック部材を前記第2ロック位置に変位させ、前記第1の位置から前記第2の位置に変位するとき、前記第1ロック部材を前記第1ロック位置に変位させるとともに、前記第2ロック部材を前記第2アンロック位置に変位させることが好ましい。
【0011】
上記構成の車両用アクチュエータは、第5ギヤとともに変位する第1ロック部材及び第2ロック部材によって、回転を許容する入力軸及び回転を制限する入力軸を切り替えることができる。
【0012】
上記車両用アクチュエータにおいて、前記第5ギヤは、前記第2の位置から前記第1の位置に変位するとき、前記第1入力軸に接続されるとともに、前記第2入力軸から切断され、前記第1の位置から前記第2の位置に変位するとき、前記第1入力軸から切断されるとともに、前記第2入力軸に接続されることが好ましい。
【0013】
上記構成の車両用アクチュエータは、第5ギヤの変位に応じて、第5ギヤと接続される入力軸を切り替えることができる。
【発明の効果】
【0014】
車両用アクチュエータは、駆動対象を異なる態様で往復作動できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る車両用アクチュエータの斜視図。
【
図10】上記アクチュエータの作用を説明する模式図。
【
図11】上記アクチュエータの作用を説明する模式図。
【
図12】上記アクチュエータの作用を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態に係る車両用アクチュエータ(以下、「アクチュエータ」ともいう。)について図面を参照しつつ説明する。図面中の断面を示すハッチングは、説明理解の容易のために、樹脂部材の断面を示す場合にも金属材料の断面を示すハッチングを用いている。
【0017】
<アクチュエータ10の構成>
図1~
図5に示すように、アクチュエータ10は、モータ20と、ハウジング100と、ウォームギヤ機構200と、遊星歯車機構300と、ロック機構400と、を備える。
【0018】
<ハウジング100>
図2及び
図3に示すように、ハウジング100は、第1ハウジング110及び第2ハウジング160を備える。
【0019】
第1ハウジング110は、モータマウント120と、ウォーム収容部130と、ウォームホイール収容部140と、を有する。
モータマウント120は、モータ20を支持する。ウォーム収容部130は、後述するウォーム210を収容する。ウォーム収容部130は、モータマウント120から延びている。ウォーム収容部130は、円筒状をなしている。
【0020】
ウォームホイール収容部140は、後述するウォームホイール220を収容する。ウォームホイール収容部140は、円板状をなす底壁141と、円筒状をなす周壁142と、底壁141の中央から延びる支持軸143と、を含む。周壁142は、底壁141の外縁から底壁141の板厚方向に延びている。周壁142は、ウォーム収容部130と一体化している。この点で、ウォーム収容部130におけるウォーム210を収容する空間とウォームホイール収容部140におけるウォームホイール220を収容する空間とが接続している。支持軸143は、基端部分を構成する摺動軸144と、先端部分を構成する第1係合軸145と、を含む。摺動軸144は円柱状をなし、第1係合軸145はスプライン軸状をなしている。摺動軸144の外径は、第1係合軸145の外径よりも大きくなっている。
【0021】
第2ハウジング160は、略円板状をなしている。第2ハウジング160は、第1ハウジング110の底壁141に向かって膨らむ規制壁161を有する。また、第2ハウジング160は、板厚方向に貫通する第2係合孔162を有する。規制壁161は、第2係合孔162を囲うように環状をなしている。規制壁161の周方向と直交する断面形状は、山型をなしている。第2係合孔162は、第2ハウジング160の中央部に位置している。第2係合孔162は、スプライン孔である。
【0022】
第2ハウジング160は、第1ハウジング110の開口を塞ぐように、第1ハウジング110に固定される。第2ハウジング160の固定には、例えば、ねじ及びボルトなどの締結部材を用いればよい。このとき、第2ハウジング160の第2係合孔162の軸線及び第1ハウジング110の支持軸143の軸線は同一直線状に位置する。
【0023】
<ウォームギヤ機構200>
ウォームギヤ機構200は、モータ20から出力されるトルクを増大して、遊星歯車機構300に伝達する構成である。言い換えれば、ウォームギヤ機構200は、モータ20の回転軸21の回転速度を減速する構成である。
【0024】
図2及び
図3に示すように、ウォームギヤ機構200は、ウォーム210と、ウォームホイール220と、を備える。
ウォーム210は「第4ギヤ」の一例に相当する。ウォーム210は、モータ20の回転軸21に支持されている。このため、モータ20の回転軸21が回転する場合、ウォーム210は回転軸21とともに回転する。
【0025】
ウォームホイール220は「第5ギヤ」の一例に相当する。ウォームホイール220は、円板状をなすギヤ本体221と、ギヤ本体221の片側から軸方向に延びる伝達軸222と、を有する。また、ウォームホイール220は、軸方向に貫通する軸孔223を有する。ギヤ本体221の厚さは、第1ハウジング110の底壁141と第2ハウジング160の規制壁161との間隔よりも小さくなっている。伝達軸222は、遊星歯車機構300に動力を伝達する部位である。伝達軸222は、軸孔223が設けられている点で、円筒状をなしている。伝達軸222は、ギヤ本体221と平行に延びるフランジ224と、フランジ224から軸方向に延びる第3係合軸225と、を有する。フランジ224とギヤ本体221との間には隙間が生じている。第3係合軸225は、スプライン軸である。第3係合軸225の外径は、フランジ224の外径よりも小さくなっている。軸孔223は、伝達軸222のフランジ224と対応する部分に第5係合孔226を含む。第5係合孔226は、スプライン孔である。
【0026】
図6に示すように、ウォーム210は、ハウジング100のウォーム収容部130に収容され、ウォームホイール220は、ハウジング100のウォームホイール収容部140に収容される。このとき、ウォーム210及びウォームホイール220は、互いに噛み合う。このとき、ウォーム210の回転軸線及びウォームホイール220の回転軸線は、ねじれの位置関係を取っている。この点で、ウォームギヤ機構200は、「食い違い軸歯車機構」である。また、ウォームホイール220の軸孔223には、第1ハウジング110の支持軸143が挿入される。こうして、ウォームホイール220は、第1ハウジング110に対して回転可能に支持される。
【0027】
図6に示すように、ウォームホイール220のギヤ本体221と第1ハウジング110の底壁141との間には隙間が生じている。この点で、ウォームホイール220は、軸方向に変位可能にハウジング100に支持されているといえる。以降の説明では、
図6に示すように、ウォームホイール220が第2ハウジング160の規制壁161に接するときのウォームホイール220の位置を「第1の位置」という。また、ウォームホイール220が第1ハウジング110の底壁141に接するときのウォームホイール220の位置を「第2の位置」という。さらに、ウォーム210が第1回転方向R11に回転するときのウォームホイール220の回転方向を第1回転方向R12とし、ウォーム210が第2回転方向R21に回転するときのウォームホイール220の回転方向を第2回転方向R22とする。
【0028】
ここで、ウォーム210及びウォームホイール220の歯筋は、軸方向に対して傾いているため、ウォーム210が回転する場合、ウォームホイール220を軸方向に変位させる力がウォームホイール220に作用する。つまり、ウォーム210が回転する場合、ウォームホイール220は回転しつつ軸方向に変位する。以降の説明では、ウォーム210が第1回転方向R11に回転するときのウォームホイール220の移動方向を第1方向D1とし、ウォーム210が第2回転方向R21に回転するときのウォームホイール220の移動方向を第2方向D2とする。正確には、第1方向D1は、ウォーム210が第1回転方向R11に回転するときにウォームホイール220に作用する力の方向であり、第2方向D2は、ウォーム210が第2回転方向R21に回転するときにウォームホイール220に作用する力の方向である。なお、第1の位置は、ウォームホイール220が最も第1方向D1に変位したときの位置であり、第2の位置は、ウォームホイール220が最も第2方向D2に変位したときの位置である。
【0029】
<遊星歯車機構300>
図4及び
図5に示すように、遊星歯車機構300は、第1回転体310と、キャリア320と、プラネタリギヤ330と、第2回転体340と、カバー351,352と、軸受361~364と、を備える。以降の説明では、遊星歯車機構300を構成する各種の軸状部材において、ウォームホイール220寄りの端部を基端ともいい、反対側の端部を先端ともいう。
【0030】
遊星歯車機構300の構成について説明する。
第1回転体310は、第1入力軸311と、第1入力軸311と軸方向に並ぶ第1内歯車312と、を備える。また、第1回転体310は、軸方向に貫通する挿通孔313を備える。第1入力軸311は、挿通孔313が貫通している点で、円筒状をなしている。第1入力軸311は、基端寄りに位置する第4係合軸314と、第4係合軸314よりも先端寄りに位置する退避溝315と、を有する。第4係合軸314は、スプライン軸である。退避溝315は、外周面に周方向にわたって設けられている。第1入力軸311において、退避溝315が設けられる部分の外径は、第4係合軸314の外径よりも小さくなっている。挿通孔313は、基端寄りの位置に第3係合孔316を有する。第3係合孔316は、ウォームホイール220の第3係合軸225と対応する形状をなすスプライン孔である。第1内歯車312は「第1ギヤ」の一例に相当する。
【0031】
キャリア320は、第2入力軸321と、第2入力軸321から軸方向と直交する方向に延びる2本のアーム322と、2本のアーム322を軸方向に連結する連結軸323と、を備える。また、キャリア320は、第2入力軸321の基端面から先端に向かって凹む第6係合孔324と、第2入力軸321の基端寄りに位置する退避溝325と、を備える。
【0032】
第2入力軸321の外径は、第1回転体310の挿通孔313の内径よりも小さくなっている。第2入力軸321は、基端寄りに位置する第5係合軸326を有する。第5係合軸326は、ウォームホイール220の第5係合孔226と対応する形状をなすスプライン軸である。2本のアーム322は、軸方向に対して対向している。2本のアーム322の間隔及び2本のアーム322の長さは、プラネタリギヤ330の大きさに応じて設定されることが望ましい。連結軸323は、2本のアーム322を第2入力軸321の軸方向に接続している。つまり、連結軸323の軸線は、第2入力軸321の軸線と平行に延びている。第6係合孔324は、スプライン孔である。退避溝325は、第4係合軸314と軸方向に隣り合っている。退避溝325は、第2入力軸321の外周面に周方向にわたって設けられている。
【0033】
プラネタリギヤ330は「第2ギヤ」の一例に相当する。プラネタリギヤ330は、第1外歯車331及び第2外歯車332を有する。第1外歯車331は、第2外歯車332よりも歯先円直径が大きくなっている。第1外歯車331及び第2外歯車332は、軸方向に一体化している。本実施形態では、第1外歯車331の歯数及び第2外歯車332の歯数は、等しくなっている。プラネタリギヤ330は、キャリア320の連結軸323に回転可能に支持されている。
【0034】
第2回転体340は、出力軸341と、出力軸341と軸方向に並ぶ第2内歯車342と、を備える。出力軸341は、第2内歯車342の歯先円直径よりも内径が小さな支持孔343を有する。支持孔343は、出力軸341の基端面から先端に向かって凹んでいる。第2内歯車342は「第3ギヤ」の一例に相当する。第2内歯車342の歯先円直径は、第1内歯車312の歯先円直径よりも小さくなっている。本実施形態では、第2内歯車342の歯数は、第1内歯車312の歯数よりも多くなっている。
【0035】
続いて、遊星歯車機構300の係合関係について説明する。
図6に示すように、遊星歯車機構300において、第1回転体310及び第2回転体340は、軸方向に対向している。第1回転体310及び第2回転体340の間には、キャリア320の一部とプラネタリギヤ330とが収容されている。
【0036】
第1回転体310の挿通孔313には、キャリア320の第2入力軸321の基端部が挿入されている。キャリア320の第2入力軸321の基端は、第1回転体310から飛び出している。第1回転体310とキャリア320の第2入力軸321との間には、軸受361が配置されている。このため、第1回転体310とキャリア320とは、相対的に回転可能となる。第1回転体310の第1内歯車312は、プラネタリギヤ330の第1外歯車331と噛み合っている。第1回転体310は、第1カバー351に覆われている。第1回転体310の第1入力軸311と第1カバー351との間には、軸受362が配置されている。このため、第1回転体310は、第1カバー351に対して相対的に回転可能となる。
【0037】
第2回転体340の支持孔343には、キャリア320の第2入力軸321の先端部が挿入されている。第2回転体340とキャリア320の第2入力軸321との間には、軸受363が配置されている。このため、第2回転体340とキャリア320とは、相対的に回転可能となる。第2回転体340の第2内歯車342は、プラネタリギヤ330の第2外歯車332と噛み合っている。第2回転体340は、第2カバー352に覆われている。第2回転体340の第2入力軸321と第2カバー352との間には、軸受364が配置されている。このため、第2回転体340は、第2カバー352に対して相対的に回転可能となる。
【0038】
なお、遊星歯車機構300において、第1カバー351及び第2カバー352は、アクチュエータ10が車両に搭載されるとき、車両側の構成に固定される。つまり、第1カバー351及び第2カバー352は、モータ20が駆動される場合であっても、回転しない。
【0039】
図7に示すように、ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、第1回転体310の第3係合孔316とウォームホイール220の第3係合軸225とが噛み合っている。第1回転体310とウォームホイール220との係合関係は、ウォームホイール220の位置によって変化する。詳しくは、ウォームホイール220が第1の位置から第2方向D2に変位すると、第1回転体310の第3係合孔316とウォームホイール220の第3係合軸225とが噛み合わなくなる。
【0040】
以上より、ウォームホイール220から第1回転体310に対するトルクの伝達状況は、ウォームホイール220の位置によって変化する。詳しくは、ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、ウォームホイール220から第1回転体310にトルクが伝達され、ウォームホイール220が第2の位置に位置する場合、ウォームホイール220から第1回転体310にトルクが伝達されない。言い換えれば、ウォームホイール220が第1回転方向R12に回転する場合、ウォームホイール220から第1回転体310にトルクが伝達される。一方、ウォームホイール220が第2回転方向R22に回転する場合、ウォームホイール220から第1回転体310にトルクが伝達されない。
【0041】
図7に示すように、ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、キャリア320の第5係合軸326とウォームホイール220の第5係合孔226とが噛み合っていない。第1回転体310とウォームホイール220との係合関係は、ウォームホイール220の位置によって変化する。詳しくは、ウォームホイール220が第1の位置から第2方向D2に変位すると、キャリア320の第5係合軸326とウォームホイール220の第5係合孔226とが噛み合う。
【0042】
以上より、ウォームホイール220からキャリア320に対するトルクの伝達状況は、ウォームホイール220の位置によって変化する。詳しくは、ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、ウォームホイール220からキャリア320にトルクが伝達されず、ウォームホイール220が第2の位置に位置する場合、ウォームホイール220からキャリア320にトルクが伝達される。言い換えれば、ウォームホイール220が第1回転方向R12に回転する場合、ウォームホイール220からキャリア320にトルクが伝達されない。一方、ウォームホイール220が第2回転方向R22に回転する場合、ウォームホイール220からキャリア320にトルクが伝達される。
【0043】
遊星歯車機構300において、第1内歯車312とともに回転する第1入力軸311、キャリア320とともに回転する第2入力軸321及び第2内歯車342とともに回転する出力軸341が3つの基本軸に相当している。そして、第2入力軸321が固定軸となるとき、第1入力軸311から出力軸341にトルクが伝達され、第1入力軸311が固定軸となるとき、第2入力軸321から出力軸341にトルクが伝達される。以降の説明では、前者の駆動状態を第1駆動状態といい、後者の駆動状態を第2駆動状態という。遊星歯車機構300は、第1駆動状態及び第2駆動状態の切り替えにより、減速比を可変する。
【0044】
減速比は、第1内歯車312、第2内歯車342、第1外歯車331及び第2外歯車332の歯数により調整できる。本実施形態において、第1内歯車312の歯数は「30」であり、第2内歯車342の歯数は「40」であり、第1外歯車331の歯数及び第2外歯車332の歯数は「10」である。なお、本実施形態の遊星歯車機構300は、いわゆる2K-H型の遊星歯車機構である。
【0045】
<ロック機構400>
図2及び
図3に示すように、ロック機構400は、第1ロック部材410と、第2ロック部材420と、を備える。
【0046】
第1ロック部材410及び第2ロック部材420の構成について説明する。
第1ロック部材410は、円環状をなす環状壁411と、環状壁411から軸方向に延びる複数の係止爪412と、を有する。環状壁411は、環状壁411の外側部分を構成する第2係合軸413と、環状壁411の内側部分を構成する第4係合孔414と、を含む。第2係合軸413は、第2ハウジング160の第2係合孔162と対応する形状をなすスプライン軸であり、第4係合孔414は、第1回転体310の第4係合軸314と対応する形状をなすスプライン孔である。複数の係止爪412は、環状壁411の周方向に等間隔に配置されている。複数の係止爪412の先端は、第1ロック部材410の中心を通る軸線に向かって折れ曲がっている。
【0047】
第2ロック部材420は、円板状をなす係合壁421と、係合壁421から軸方向に延びる軸部422と、軸部422から軸方向に延びる第6係合軸423と、を有する。第2ロック部材420は、基端面から先端に向かって凹む第1係合孔424を有する。軸部422は、円柱状をなしている。軸部422の外径は、係合壁421の外径よりも僅かに小さくなっている。第6係合軸423は、キャリア320の第6係合孔324と対応する形状をなすスプライン軸であり、第1係合孔424は、ハウジング100の第1係合軸145と対応する形状をなすスプライン孔である。
【0048】
第1ロック部材410及び第2ロック部材420の係合関係について説明する。
図6に示すように、第1ロック部材410は、第2ハウジング160とウォームホイール220とに係合している。詳しくは、
図7に示すように、第1ロック部材410の第2係合軸413は、第2ハウジング160の第2係合孔162に噛み合っている。このため、第1ロック部材410は、第2ハウジング160に対して、軸方向の変位が許容され、周方向への変位が制限されている。また、第1ロック部材410の複数の係止爪412は、ウォームホイール220のフランジ224に係止している。このため、第1ロック部材410は、ウォームホイール220に対して、軸方向の変位が制限され、周方向への変位が許容されている。以上より、ウォームホイール220が軸方向に変位する場合、第1ロック部材410は、ウォームホイール220とともに軸方向に変位する。一方、ウォームホイール220が回転する場合、第1ロック部材410は、ウォームホイール220とともに回転しない。
【0049】
図7に示すように、ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、第1ロック部材410の第4係合孔414と第1回転体310の第4係合軸314とが噛み合っていない。この場合、第1回転体310は第1ロック部材410を介して第2ハウジング160に連結されないため、第1回転体310の回転は許容される。ウォームホイール220が第1の位置から第2方向D2に変位すると、第1ロック部材410の第4係合孔414と第1回転体310の第4係合軸314とが噛み合う。この場合、第1回転体310は第1ロック部材410を介して第2ハウジング160に連結されるため、第1回転体310の回転が制限される。
【0050】
以上より、第1ロック部材410は、ウォームホイール220の位置に応じて、第1回転体310の回転を許容したり制限したりする。ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、第1ロック部材410は、第1回転体310の回転を許容する第1アンロック位置に位置する。一方、ウォームホイール220が第2の位置に位置する場合、第1ロック部材410は、第1回転体310の回転を制限する第1ロック位置に位置する。言い換えれば、ウォームホイール220が第1回転方向R12に回転する場合、第1ロック部材410は第1アンロック位置に位置する。一方、ウォームホイール220が第2回転方向R22に回転する場合、第1ロック部材410は第1ロック位置に位置する。
【0051】
図6に示すように、第2ロック部材420は、ウォームホイール220と第1ハウジング110とに係合している。詳しくは、
図7に示すように、第2ロック部材420の係合壁421は、ウォームホイール220の軸孔223に係合している。第2ロック部材420は、ウォームホイール220に対して、軸方向への変位が制限され、周方向への回転が許容されている。また、第2ロック部材420の第1係合孔424は、第1ハウジング110の第1係合軸145と噛み合っている。このため、第2ロック部材420は、第1ハウジング110に対して、軸方向の変位が許容され、周方向への回転が制限されている。以上より、ウォームホイール220が軸方向に変位する場合、第2ロック部材420は、ウォームホイール220とともに軸方向に変位する。一方、ウォームホイール220が回転する場合、第2ロック部材420は回転しない。
【0052】
図7に示すように、ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、第2ロック部材420の第6係合軸423とキャリア320の第6係合孔324とが噛み合っている。この場合、キャリア320は第2ロック部材420を介して第1ハウジング110に連結されるため、キャリア320の回転は制限される。ウォームホイール220が第1の位置から第2方向D2に変位すると、第2ロック部材420の第6係合軸423とキャリア320の第6係合孔324とが噛み合わなくなる。この場合、キャリア320は第2ロック部材420を介して第1ハウジング110に連結されなくなるため、キャリア320の回転が許容される。
【0053】
以上より、第2ロック部材420は、ウォームホイール220の位置に応じて、キャリア320の回転を許容したり制限したりする。ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合、第2ロック部材420は、キャリア320の回転を制限する第2ロック位置に位置する。一方、ウォームホイール220が第2の位置に位置する場合、第2ロック部材420は、キャリア320の回転を許容する第2アンロック位置に位置する。言い換えれば、ウォームホイール220が第1回転方向R12に回転する場合、第2ロック部材420は第2ロック位置に位置する。一方、ウォームホイール220が第2回転方向R22に回転する場合、第2ロック部材420は第2アンロック位置に位置する。
【0054】
<アクチュエータ10の作用>
図6~
図12を参照して、アクチュエータ10の駆動対象が「窓ガラス」であるときの作用について説明する。言い換えれば、アクチュエータ10がウィンドウレギュレータの駆動源であるときの作用について説明する。ただし、アクチュエータ10の出力軸341が第1回転方向R12に回転するときに窓ガラスが下降し、アクチュエータ10の出力軸341が第2回転方向R22に回転するときに窓ガラスが上昇するように、トルクの伝達経路が構成される。
【0055】
図6に示すように、窓ガラスを下降させる場合、アクチュエータ10のモータ20の回転軸21が第1回転方向R11に回転する。すると、ウォーム210が第1回転方向R11に回転する。ウォーム210が第1回転方向R11に回転すると、ウォームホイール220は、第1回転方向R12に回転しつつ第1方向D1に変位する。ウォームホイール220は、第2ハウジング160の規制壁161に接触するまで、言い換えれば、第1の位置に到達するまで、第1方向D1に変位し続ける。ウォームホイール220は、第1の位置に到達すると、軸方向に変位することなく、第1回転方向R12に回転する。
【0056】
図7に示すように、ウォームホイール220が第1方向D1に変位する場合、ウォームホイール220の第3係合軸225が第1回転体310の第3係合孔316と噛み合う。つまり、ウォームホイール220が第1回転体310に接続され、ウォームホイール220から第1回転体310にトルクを伝達可能な状態となる。一方、ウォームホイール220が第1方向D1に変位する場合、ウォームホイール220の第5係合孔226がキャリア320の第5係合軸326と噛み合わなくなる。つまり、ウォームホイール220がキャリア320から切断され、ウォームホイール220からキャリア320にトルクを伝達不能な状態となる。
【0057】
ウォームホイール220が第1方向D1に変位する場合には、ウォームホイール220が第1回転体310とキャリア320との双方にトルクを伝達する状況が発生しないことが好ましい。詳しくは、ウォームホイール220がキャリア320にトルクを伝達しない状態に移行した後に、ウォームホイール220が第1回転体310にトルクを伝達する状態に移行することが好ましい。後述するウォームホイール220が第2方向D2に変位する場合も略同様である。
【0058】
図7に示すように、ウォームホイール220が第1方向D1に変位する場合、第1ロック部材410は、ウォームホイール220とともに第1方向D1に変位する。すると、第1ロック部材410の第4係合孔414は、第1回転体310の第4係合軸314と噛み合わなくなる。つまり、第1ロック部材410が第1アンロック位置に位置することにより、第1回転体310は、第1ロック部材410を介した第2ハウジング160との連結が解除される。
【0059】
一方、ウォームホイール220が第1方向D1に変位する場合、第2ロック部材420は、ウォームホイール220とともに第1方向D1に変位する。すると、第2ロック部材420の第6係合軸423は、キャリア320の第6係合孔324と噛み合う。つまり、第2ロック部材420が第2ロック位置に位置することにより、キャリア320は、第1ロック部材410を介して、第1ハウジング110に連結される。
【0060】
ウォームホイール220が第1方向D1に変位する場合には、第1ロック部材410が第1回転体310の回転を制限する状況及び第2ロック部材420がキャリア320の回転を制限する状況が同時に発生しないことが好ましい。詳しくは、第1ロック部材410が第1回転体310の回転を可能とした後に、第2ロック部材420がキャリア320の回転を制限することが好ましい。後述するウォームホイール220が第2方向D2に変位する場合も略同様である。
【0061】
ウォームホイール220が第1方向D1に変位することで、ウォームホイール220が第1の位置に配置された後は、キャリア320の回転が制限された状態で、第1回転体310が第1回転方向R12に回転する。言い換えれば、遊星歯車機構300において、第2入力軸321の回転が制限された状態で、第1入力軸311が第1回転方向R12に回転する。つまり、遊星歯車機構300の状態は、第1駆動状態となる。続いて、第1駆動状態における出力軸341の回転態様について説明する。
【0062】
図11は、
図10に示す状態から、キャリア320を回転させずに、第1回転体310を第1回転方向R12に120°だけ回転させた状態を示している。
図11及び
図12における三角形の記号は、第1回転体310及び第2回転体340の回転量を示すためのものである。この場合、プラネタリギヤ330は、公転することなく自転する。プラネタリギヤ330の第1外歯車331及び第2外歯車332は、歯数が同じであるため、第1内歯車312の歯数及び第2内歯車342の歯数の比率で減速比が定まる。つまり、第1回転体310が第1回転方向R12に120°だけ回転する場合、第2回転体340は、第1回転方向R12に90°だけ回転する。つまり、遊星歯車機構300の減速比は「4/3≒1.33」となる。
【0063】
以上説明したように、アクチュエータ10が窓ガラスを重力方向に沿って下降させる場合には、遊星歯車機構300の減速比が比較的小さな値となる。このため、アクチュエータ10は、窓ガラスを速やかに下降させる。
【0064】
図8に示すように、窓ガラスを上昇させる場合、アクチュエータ10のモータ20の回転軸21が第2回転方向R21に回転する。すると、ウォーム210が第2回転方向R21に回転する。ウォーム210が第2回転方向R21に回転すると、ウォームホイール220は、第2回転方向R22に回転しつつ第2方向D2に変位する。ウォームホイール220は、第1ハウジング110の底壁141に接触するまで、言い換えれば、第2の位置に到達するまで、第2方向D2に変位し続ける。ウォームホイール220は、第2の位置に到達した後は、軸方向に変位することなく、第2回転方向R22に回転する。
【0065】
図9に示すように、ウォームホイール220が第2方向D2に変位する場合、ウォームホイール220の第3係合軸225が第1回転体310の第3係合孔316と噛み合わなくなる。つまり、ウォームホイール220が第1回転体310から切断され、ウォームホイール220から第1回転体310にトルクを伝達不能な状態となる。一方、ウォームホイール220が第2方向D2に変位する場合、ウォームホイール220の第5係合孔226がキャリア320の第5係合軸326と噛み合う。つまり、ウォームホイール220がキャリア320に接続され、ウォームホイール220からキャリア320にトルクを伝達可能な状態となる。
【0066】
図9に示すように、ウォームホイール220が第2方向D2に変位する場合、第1ロック部材410は、ウォームホイール220とともに第2方向D2に変位する。すると、第1ロック部材410の第4係合孔414は、第1回転体310の第4係合軸314と噛み合う。つまり、第1ロック部材410が第1ロック位置に位置することにより、第1回転体310は、第1ロック部材410を介して、第2ハウジング160に連結される。一方、ウォームホイール220が第2方向D2に変位する場合、第2ロック部材420は、ウォームホイール220とともに第2方向D2に変位する。すると、第2ロック部材420の第6係合軸423は、キャリア320の第6係合孔324と噛み合わなくなる。つまり、第2ロック部材420が第2アンロック位置に位置することにより、キャリア320は、第1ロック部材410を介した第1ハウジング110との連結が解除される。
【0067】
ウォームホイール220が第2方向D2に変位することで、ウォームホイール220が第2の位置に配置された後は、第2回転体340の回転が制限された状態で、キャリア320が第2回転方向R22に回転する。言い換えれば、遊星歯車機構300において、第1入力軸311の回転が制限された状態で、第2入力軸321が第2回転方向R22に回転する。つまり、遊星歯車機構300の状態は、第2駆動状態となる。続いて、第2駆動状態における出力軸341の回転態様について説明する。
【0068】
図12は、
図10に示す状態から、第1回転体310を回転させずに、キャリア320を第2回転方向R22に120°だけ回転させた状態を示している。この場合、プラネタリギヤ330は、公転しつつ自転する。キャリア320が第2回転方向R22に120°だけ回転する場合、第2回転体340は、第2回転方向R22に30°だけ回転する。つまり、遊星歯車機構300の減速比は「4」となる。
【0069】
以上説明したように、アクチュエータ10が窓ガラスを重力方向に反して上昇させる場合には、遊星歯車機構300の減速比が比較的大きな値となる。このため、アクチュエータ10は、窓ガラスをゆっくりと上昇させる。その結果、モータ20に掛かる負荷は低減される。
【0070】
<アクチュエータ10の効果>
(1)アクチュエータ10は、モータ20の回転軸21が第1回転方向R11に回転する場合及びモータ20の回転軸21が第2回転方向R21に回転する場合で、遊星歯車機構300の減速比を変更できる。このため、アクチュエータ10は、窓ガラスなどの駆動対象を異なる態様で往復動させることができる。
【0071】
(2)アクチュエータ10は、軸方向に変位可能なウォームホイール220の位置に応じて、遊星歯車機構300の状態を切り替えることができる。詳しくは、アクチュエータ10は、ウォームホイール220が第1の位置に位置する場合には、ウォームホイール220が第2の位置に位置する場合よりも、遊星歯車機構300の減速比を小さくすることができる。
【0072】
(3)アクチュエータ10は、ウォームギヤ機構200を備える。このため、アクチュエータ10は、食い違い軸歯車機構における減速比を大きくすることができる。
(4)アクチュエータ10は、ウォームホイール220とともに変位する第1ロック部材410によって、第1回転体310の回転を許容したり制限したりできる。同様に、アクチュエータ10は、ウォームホイール220とともに変位する第2ロック部材420によって、キャリア320の回転を許容したり制限したりできる。
【0073】
(5)アクチュエータ10は、ウォームホイール220の変位に応じて、ウォームホイール220と接続される入力軸を切り替えることができる。
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0074】
・アクチュエータ10は、シートを上下動させるシート駆動装置の駆動源として用いてもよい。この場合、シート駆動装置は、アクチュエータ10の出力軸341が第1回転方向R12に回転する場合にシートが下降し、当該出力軸341が第2回転方向R22に回転する場合にシートが上昇するように、トルクの伝達経路が構成される。これによれば、アクチュエータ10は、シートの上昇時におけるモータ20の負荷を低減できる。
【0075】
・アクチュエータ10は、運転席のシートを前後動させるシート駆動装置の駆動源として用いてもよい。この場合、シート駆動装置は、アクチュエータ10の出力軸341が第1回転方向R12に回転する場合にシートが後方に移動し、当該出力軸341が第2回転方向R22に回転する場合にシートが前方に移動するように、トルクの伝達経路が構成される。これによれば、アクチュエータ10は、シートを前方に移動させる場合、言い換えれば、シートに着座する運転者がステアリングホイールに近付く場合には、シートの移動速度を低速にできる。一方、アクチュエータ10は、シートを後方に移動させる場合、言い換えれば、シートに着座する運転者がステアリングホイールから離れる場合には、シートの移動速度を高速にできる。したがって、アクチュエータ10は、運転者に危害感を与えにくくしつつ、運転者の利便性を高めることができる。
【0076】
・以上説明したように、アクチュエータ10は、駆動対象を往復作動させる駆動装置に適用できる。さらに、アクチュエータ10は、駆動対象の往復作動に伴って、モータ20の負荷に差異が生じていたり、駆動対象の駆動速度を変化させたい要求があったりする場合に適している。
【0077】
・アクチュエータ10は、モータ20の回転軸21の回転方向に応じて、遊星歯車機構300における減速比に差を設けることができればよい。つまり、モータ20の回転軸21の回転方向に関わらず、遊星歯車機構300の減速比は「1」より小さくてもよい。
【0078】
・ウォームホイール220の第3係合軸225などのスプライン軸は、先細りしていることが好ましく、第1回転体310の第3係合孔316などのスプライン孔は、開口に向かうにつれて拡径されていることが好ましい。これによれば、スプライン軸がスプライン孔に挿入されやすくなる。
【0079】
・上記実施形態のアクチュエータ10は、ウォームホイール220の第3係合軸225と第1回転体310の第3係合孔316とが噛み合うか否かによって、ウォームホイール220から第1回転体310へのトルクの伝達状態を切り替える。つまり、アクチュエータ10は、ウォームホイール220と第1回転体310との間に噛み合いクラッチを備えているということもできる。この点で、アクチュエータ10は、上記噛み合いクラッチの代わりに、摩擦クラッチ及び流体クラッチを備えてもよい。ウォームホイール220の第5係合孔226とキャリア320の第5係合軸326との噛み合いについても同様である。さらには、第1回転体310の第4係合軸314と第1ロック部材410の第4係合孔414との噛み合い及びキャリア320の第6係合孔324と第2ロック部材420の第6係合軸423との噛み合いについても同様である。
【0080】
・ロック機構400は、ウォームホイール220とともに軸方向に変位する第1ロック部材410及び第2ロック部材420を備えなくてもよい。この場合、ロック機構400は、第1ラチェット機構及び第2ラチェット機構を備えることが好ましい。第1ラチェット機構は、第1回転体310の第1回転方向R12の回転を許容する一方で第1回転体310の第2回転方向R22の回転を制限する。第2ラチェット機構は、キャリア320の第2回転方向R22の回転を許容する一方でキャリア320の第1回転方向R12の回転を制限する。
【0081】
・ウォームギヤ機構200は、2つのヘリカルギヤを噛み合せた食い違い軸歯車機構であってもよい。
・遊星歯車機構300を構成するギヤの形状及び噛み合い態様は適宜に変更してもよい。例えば、遊星歯車機構300は、サンギヤ、リングギヤ及びプラネタリギヤ330を有する一般的な遊星歯車機構として構成することもできる。また、遊星歯車機構300は、プラネタリギヤ330の数を複数個とすることもできる。
【0082】
・遊星歯車機構300は、いわゆるK-H-V型の遊星歯車機構であってもよいし、3K型の遊星歯車機構であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…車両用アクチュエータ
20…モータ
21…回転軸
100…ハウジング
110…第1ハウジング
160…第2ハウジング
200…ウォームギヤ機構(食い違い軸歯車機構)
210…ウォーム(第4ギヤ)
220…ウォームホイール(第5ギヤ)
300…遊星歯車機構
310…第1回転体
311…第1入力軸
312…第1内歯車(第1ギヤ)
320…キャリア
321…第2入力軸
330…プラネタリギヤ(第2ギヤ)
331…第1外歯車
332…第2外歯車
340…第2回転体
341…出力軸
342…第2内歯車(第3ギヤ)
400…ロック機構
410…第1ロック部材
420…第2ロック部材