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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190512
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】先端翼付回転貫入鋼管杭
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/28 20060101AFI20221219BHJP
   E02D 5/56 20060101ALI20221219BHJP
   E02D 5/72 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
E02D5/28
E02D5/56
E02D5/72
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098871
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】519367924
【氏名又は名称】株式会社ガイアF1
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 功治
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA11
2D041BA33
2D041CA05
2D041CB06
2D041DB02
2D041FA14
(57)【要約】
【課題】回転貫入時に翼部に作用する反力の影響を抑制して、回転貫入時の破損を発生しにくくした先端翼付回転貫入鋼管杭を提供する。
【解決手段】鋼管本体11の先端12に溶接固定される鋳造部材20よりなる先端翼付回転貫入鋼管杭10であって、鋳造部材20は鋼管本体11の直径よりも大径の筒部21と鋼管本体11の先端12に接続される接続部30とが一体に形成され、接続部30は鋼管本体11の直径から筒部21の直径にまで下方に向かって拡径されてなり、鋳造部材20の先端近傍に筒部21の直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部40とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管本体の先端に溶接固定される鋳造部材よりなる先端翼付回転貫入鋼管杭であって、
前記鋳造部材は前記鋼管本体の直径よりも大径の筒部と前記鋼管本体の先端に接続される接続部とが一体に形成され、
前記接続部は前記鋼管本体の直径から前記筒部の直径にまで下方に向かって拡径されてなり、
前記鋳造部材の先端近傍に前記筒部の直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部とを備える
ことを特徴とする先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項2】
前記鋳造部材は、前記筒部の先端近傍に中心軸を含む仮想平面に対し互いに対称に傾斜する2つの傾斜状切欠き溝を有するとともに、前記筒部の先端開口から先端部が突出し前記筒部の管体内周面と前記仮想平面が交差した先端近傍の取付位置に板厚面が溶接固定される平板鋼板からなる掘削部材を有し、
前記翼部が平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部からなり、前記2つの半円盤状翼部が前記鋳造部材の2つの傾斜状切欠き溝を介して前記鋳造部材の管体内部に交差状に挿入されるとともに前記半円盤状翼部と前記掘削部材との当接部及び前記切欠き溝の挿入部とが溶接固定されている請求項1に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項3】
前記掘削部材が前記取付位置と同一幅の板状部材よりなり尖端部を備える請求項2に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項4】
前記取付位置には傾斜状切欠き溝が形成されていない請求項2又は3に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項5】
鋼管本体の先端に溶接固定される鋳造部材よりなる先端翼付回転貫入鋼管杭であって、
前記鋳造部材は前記鋼管本体の直径よりも大径の筒部と前記鋼管本体の先端に接続される接続部と前記筒部の先端近傍にその直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部とが一体に形成され、
前記接続部は前記鋼管本体の直径から前記筒部の直径にまで下方に向かって拡径されてなる
ことを特徴とする先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項6】
前記翼部が平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部からなり、前記2つの半円盤状翼部が前記筒部の先端近傍に交差状に形成されている請求項5に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項7】
前記半円盤状翼部と管体の中心軸に直交する平面との交差角度が5度ないし20度である請求項2ないし4又は6のいずれか1項に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項8】
前記翼部が前記筒部の直径に対して2.5ないし5.5倍の直径を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭。
【請求項9】
前記接続部が外側に凸の湾曲面からなる請求項1ないし8のいずれか1項に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に回転掘削用の翼部を有する先端翼付回転貫入鋼管杭に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建築物の基礎工事等で使用される鋼管杭は、管体からなる鋼管本体の先端側に回転掘削用の円盤状の翼部を有するものであり、先端翼付回転貫入鋼管杭とも称される。この鋼管杭は、施工装置により地盤に多数打ち込まれて回転貫入され、建築物の基礎を支持するように構成される。その際、翼部の直径や面積が大きいほど、より大きな荷重を支持することが可能となる。そこで、鋼管本体の先端にその直径より大径の円筒状に形成された先端部材を溶接して取り付け、先端部材の外周に翼部を設けて翼部の直径や面積を大きくした鋼管杭が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
鋼管杭では、回転貫入の際に翼部に対して地盤からの反力が作用し、鋼管本体と先端部材との溶接個所やその近傍の部位に負荷がかかる。しかしながら、より大きな荷重を支持可能とするために翼部の直径や面積を大きくしようとした場合、翼部の直径や面積の大きさに比例して翼部に作用する反力も増大し、それに比例して先端部材の溶接個所等への負荷も増大する。そのため、先端部材の溶接個所等が負荷に耐えられなくなって破損する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-173028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであって、回転貫入時に翼部に作用する反力の影響を抑制して、回転貫入時の破損を発生しにくくした先端翼付回転貫入鋼管杭を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、請求項1の発明は、鋼管本体の先端に溶接固定される鋳造部材よりなる先端翼付回転貫入鋼管杭であって、前記鋳造部材は前記鋼管本体の直径よりも大径の筒部と前記鋼管本体の先端に接続される接続部とが一体に形成され、前記接続部は前記鋼管本体の直径から前記筒部の直径にまで下方に向かって拡径されてなり、前記鋳造部材の先端近傍に前記筒部の直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部とを備えることを特徴とする先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0007】
請求項2の発明は、前記鋳造部材は、前記筒部の先端近傍に中心軸を含む仮想平面に対し互いに対称に傾斜する2つの傾斜状切欠き溝を有するとともに、前記筒部の先端開口から先端部が突出し前記筒部の管体内周面と前記仮想平面が交差した先端近傍の取付位置に板厚面が溶接固定される平板鋼板からなる掘削部材を有し、前記翼部が平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部からなり、前記2つの半円盤状翼部が前記鋳造部材の2つの傾斜状切欠き溝を介して前記鋳造部材の管体内部に交差状に挿入されるとともに前記半円盤状翼部と前記掘削部材との当接部及び前記切欠き溝の挿入部とが溶接固定されている請求項1に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0008】
請求項3の発明は、前記掘削部材が前記取付位置と同一幅の板状部材よりなり尖端部を備える請求項2に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0009】
請求項4の発明は、前記取付位置には傾斜状切欠き溝が形成されていない請求項2又は3に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0010】
請求項5の発明は、鋼管本体の先端に溶接固定される鋳造部材よりなる先端翼付回転貫入鋼管杭であって、前記鋳造部材は前記鋼管本体の直径よりも大径の筒部と前記鋼管本体の先端に接続される接続部と前記筒部の先端近傍にその直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部とが一体に形成され、前記接続部は前記鋼管本体の直径から前記筒部の直径にまで下方に向かって拡径されてなることを特徴とする先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0011】
請求項6の発明は、前記翼部が平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部からなり、前記2つの半円盤状翼部が前記筒部の先端近傍に交差状に形成されている請求項5に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0012】
請求項7の発明は、前記半円盤状翼部と管体の中心軸に直交する平面との交差角度が5度ないし20度である請求項2ないし4又は6のいずれか1項に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0013】
請求項8の発明は、前記翼部が前記筒部の直径に対して2.5ないし5.5倍の直径を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【0014】
請求項9の発明は、前記接続部が外側に凸の湾曲面からなる請求項1ないし8のいずれか1項に記載の先端翼付回転貫入鋼管杭に係る。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る先端翼付回転貫入鋼管杭は、鋼管本体の先端に溶接固定される鋳造部材よりなる先端翼付回転貫入鋼管杭であって、前記鋳造部材は前記鋼管本体の直径よりも大径の筒部と前記鋼管本体の先端に接続される接続部とが一体に形成され、前記接続部は前記鋼管本体の直径から前記筒部の直径にまで下方に向かって拡径されてなり、前記鋳造部材の先端近傍に前記筒部の直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部とを備えるため、回転貫入時に翼部に作用する反力による負荷を軽減することができ、回転貫入時に破損が発生しにくくなるとともに、大きな荷重の支持を可能としながら地盤からの反力にも耐えることができる。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1において、前記鋳造部材は、前記筒部の先端近傍に中心軸を含む仮想平面に対し互いに対称に傾斜する2つの傾斜状切欠き溝を有するとともに、前記筒部の先端開口から先端部が突出し前記筒部の管体内周面と前記仮想平面が交差した先端近傍の取付位置に板厚面が溶接固定される平板鋼板からなる掘削部材を有し、前記翼部が平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部からなり、前記2つの半円盤状翼部が前記鋳造部材の2つの傾斜状切欠き溝を介して前記鋳造部材の管体内部に交差状に挿入されるとともに前記半円盤状翼部と前記掘削部材との当接部及び前記切欠き溝の挿入部とが溶接固定されているため、鋳造部材と翼部との固定強度を大幅に向上させることができ、直径が大きい各翼部が回転貫入時に作用する反力や回転貫入を停止して逆回転させる場合等にも耐えることができて鋳造部材から翼部が脱落するおそれがない鋼管杭を確実かつ簡易に製造することが可能となる。
【0017】
請求項3の発明は、請求項2において、前記掘削部材が前記取付位置と同一幅の板状部材よりなり尖端部を備えるため、鋼管杭本体の管体内の中央に適切に配置しやすくなるとともに、回転貫入時に効率的に地盤を掘削することができる。
【0018】
請求項4の発明は、請求項2又は3において、前記取付位置には傾斜状切欠き溝が形成されていないため、取付位置に対する掘削部材の位置決めが容易となる。
【0019】
請求項5の発明に係る先端翼付回転貫入鋼管杭は、鋼管本体の先端に溶接固定される鋳造部材よりなる先端翼付回転貫入鋼管杭であって、前記鋳造部材は前記鋼管本体の直径よりも大径の筒部と前記鋼管本体の先端に接続される接続部と前記筒部の先端近傍にその直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部とが一体に形成され、前記接続部は前記鋼管本体の直径から前記筒部の直径にまで下方に向かって拡径されてなるため、回転貫入時に翼部に作用する反力による負荷を軽減することができ、回転貫入時に破損が発生しにくくなるとともに、大きな荷重の支持を可能としながら地盤からの反力にも耐えることができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項5において、前記翼部が平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部からなり、前記2つの半円盤状翼部が前記筒部の先端近傍に交差状に形成されているため、鋳造によって形成しやすい。
【0021】
請求項7の発明は、請求項2ないし4又は6において、前記半円盤状翼部と管体の中心軸に直交する平面との交差角度が5度ないし20度であるため、鋳造部材の外側の地盤を効率よく掘削することに加え、荷重を適切に支持することができる。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1ないし7において、前記翼部が前記筒部の直径に対して2.5ないし5.5倍の直径を有するため、より大きな荷重を支持することができるとともに、回転貫入時の地盤からの反力に耐えることができる。
【0023】
請求項9の発明は、請求項1ないし8において、前記接続部が外側に凸の湾曲面からなるため、より効果的に翼部50,60に対する反力による負荷の軽減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る先端翼付回転貫入鋼管杭の分解斜視図である。
図2図1の鋼管杭の側面図である。
図3図1の鋼管杭の正面図である。
図4図1の鋼管杭の要部横断面図である。
図5】鋳造部材の接続部と鋼管本体との溶接状態を表す要部断面図である。
図6】他の実施形態に係る先端翼付回転貫入鋼管杭の分解斜視図である。
図7】従来の鋼管杭の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1~3に示す本発明の一実施形態に係る鋼管杭10は、回転杭工法等の建築物の基礎工事等において、施工装置により地盤に対して回転貫入され、多数打ち込まれて建築物の基礎を支持するための部材であり、先端翼付回転貫入鋼管杭と称される。この鋼管杭10は、鋼管本体11と、鋳造部材20と、翼部40とを有する。
【0026】
鋼管本体11は、地中に回転貫入される管体からなる。この鋼管本体11は、地盤の掘削面積に影響しない部位であることから、後述の鋳造部材20より小径に形成されることにより、軽量化やコスト低減を図ることができる。図1において、符号12は鋼管本体11の先端である。
【0027】
鋳造部材20は、鋼管本体11の先端12に溶接される部材であり、筒部21と接続部30とが鋳造により一体に形成されてなる。筒部21は鋼管本体11の直径より大径に形成された円筒状の部位である。実施形態の鋳造部材20は、図2に示すように、筒部21の先端近傍に中心軸Cを含む仮想平面Dに対し互いに対称に傾斜する2つの傾斜状切欠き溝22,23を有するとともに、内部に掘削部材25を有する。鋳造部材20の中心軸Cは、鋼管杭10の回転貫入時の回転中心に相当する。
【0028】
傾斜状切欠き溝22,23は、後述する半円盤状翼部50,60が取り付けられる部位である。傾斜状切欠き溝22,23は、図3に示すように、半円盤状翼部50(60)と管体の中心軸Cに直交する平面Pとの交差角度(θ)を規定する。傾斜状切欠き溝22,23は、公知の切断装置等によって形成される。
【0029】
掘削部材25は、地盤掘削用の平板鋼板からなり、図4に示すように、筒部21の管体内周面と仮想平面Dが交差した先端近傍の取付位置F,Fに板厚面26,26が溶接固定される。この掘削部材25は、図2,3に示すように、先端部が筒部21の先端開口21aから突出するように配置されている。
【0030】
また、掘削部材25は、図4に示すように、取付位置F,Fと同一幅の板状部材よりなる。すなわち、掘削部材25は、筒部21の内周の直径と略同一幅に形成される。そのため、板状の掘削部材25は、仮想平面Dに沿った筒部21の管体内の中央に適切に配置される。掘削部材25の厚さは特に限定されないが、強度等の観点から、例えば約9mmとされる。また、掘削部材25は、図3に示すように、先端部が鋭角に形成された尖端部27を備える。この尖端部27は、中心軸Cに位置している。そのため、回転貫入時に効率的に地盤を掘削することができる。
【0031】
図2に示すように、掘削部材25の取付位置F(仮想平面Dが交差した鋳造部材20の管体内周面の先端部近傍)には、傾斜状切欠き溝22,23が形成されていないことが好ましい。特に、取付位置F,Fにおける傾斜状切欠き溝22,23が形成されていない範囲(幅)は、掘削部材25の厚さと略等しく形成することがより好ましい。これにより、傾斜状切欠き溝22,23の各端部を目安として、取付位置F,Fに対する掘削部材25の位置決めが容易となる。
【0032】
接続部30は、鋼管本体11の先端12に溶接により接続される部位であり、鋼管本体11の直径から筒部21の直径にまで下方に向かって拡径されている。この接続部30は、図5に示すように、上部側(鋼管本体11側)が水平部31として形成され、下部側(筒部21側)が筒部21と一体に連設されている。また、接続部30では、必要に応じて、図2,3,5に示すように、外面32に全周にわたって一又は複数の段部33が形成される。なお、実施形態では、接続部30の外面32が外側に凸の湾曲面32aからなる形状とされる。
【0033】
接続部30では、図5(a)に示すように、上部側の水平部31に該水平部31と略同径の鋼管本体11Aの先端12aが当接されて、水平部13と鋼管本体11Aの先端12aとの溶接が行われる。また、接続部30では、外面32が拡径していることにより、図5(b)に示すように、水平部31の直径より大径の鋼管本体11Bを溶接させることも可能である。すなわち、接続部30の水平部31が鋼管本体11Bより小径であることにより、水平部31が鋼管本体11B内に進入して、鋼管本体11Bの先端12bが接続部30の外面32に当接される。そして、接続部30の外面32と鋼管本体11Bの先端12bとを溶接して両者を固定することができる。その際、鋼管本体11Bの先端12bを接続部30の外面32に形成された段部33に載置させることにより、大径の鋼管本体11Bを安定して溶接固定することができる。
【0034】
また、接続部30では、水平部31が略中央に位置し、外面32(湾曲面32a)が水平部31から下方へ均等に拡径される。そのため、水平部31と略同径の鋼管本体11Aと水平部31より大径の鋼管本体11Bのいずれであっても、鋳造部材20との溶接に際して鋼管本体11(11A,11B)を鋳造部材20の中心に容易に位置決めすることが可能となる。
【0035】
翼部40は、回転貫入時に鋳造部材20の外側の地盤を掘削する部材であり、鋳造部材20の筒部21の先端近傍に溶接される。この翼部40は、直径や面積が大きいほどより大きな荷重を支持することができる反面、回転貫入時に地盤からの反力の影響が大きくなる。そこで翼部40は、より大きな荷重の支持を可能としながら地盤からの反力にも耐え得るようにするために、鋳造部材20の筒部21の直径に対して1.5ないし6倍の直径、より好ましくは2.5ないし5.5倍の直径を有するように設けられる。翼部40の直径が小さすぎる場合は十分に荷重を支持することができなくなるおそれがあり、直径が大きすぎる場合は地盤からの反力の影響が大きくなりすぎて不具合が生じやすくなる。
【0036】
翼部40の形状は、筒部21の外周にらせん状や円盤状に形成される等、筒部21の外周に翼状に突出して設けられて回転により地盤の掘削が可能であれば特に限定されない。実施形態の翼部は、図1,4に示すように、平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部50,60からなる。半円盤状翼部50(60)は、平面半円形状の翼本体51(61)と、刃部55(65)とを有する。刃部55(65)は、鋳造部材20の外側の地盤を掘削するための部位であり、翼本体51(61)の弦部52(62)の一端側に形成される。刃部55(65)の刃角は、例えば45度である。
【0037】
2つの半円盤状翼部50,60は、図2~4に示すように、2つの傾斜状切欠き溝22,23を介して管体内部に交差状に挿入されるとともに、半円盤状翼部50,60と掘削部材25との当接部28,29及び切欠き溝22,23の挿入部22a,23aとが溶接固定されている。各半円盤状翼部50,60は、鋳造部材20の中央に相当する取付位置F,Fに固定された掘削部材25により、対称的に配置される。また、2つの半円盤状翼部50,60は、図3に示すように、各刃部55,65がそれぞれ下方側となるように正面視交差状に配置される。各刃部55,65を下方側とすることにより、地盤を掘削しやすくなる。
【0038】
半円盤状翼部50,60は、鋳造部材20の切欠き溝22,23から管体内部に挿入された状態で溶接される。その際、半円盤状翼部50,60は、切欠き溝22,23との溶接に加え、鋳造部材20内部への挿入状態で掘削部材25との当接部28,29での溶接も行われる。そのため、単に鋳造部材20の外周に翼部50,60を溶接する場合と比較して、鋳造部材20に対する翼部50,60の固定強度が大幅に向上される。
【0039】
半円盤状翼部50,60は、鋳造部材20の外側の地盤を効率よく掘削することに加え、荷重を適切に支持することを可能とするために、図3に示すように、管体の中心軸Cに直交する平面Pとの交差角度(θ)が5度ないし20度であることが好ましい。半円盤状翼部50,60の交差状角度(θ)が小さすぎる場合は、2つの翼部50,60の傾斜が小さく水平に近い状態となって、鋳造部材20の外側の地盤の掘削効率が悪くなるおそれがある。半円盤状翼部50,60の交差状角度(θ)が大きすぎる場合は、2つの翼部50,60の面部が急勾配となって水平方向に対する面積が小さくなり、十分に荷重を支持することができなくなるおそれがある。
【0040】
次に、鋼管杭10を用いた作業工程について説明する。まず、地上に設置した施工装置(図示せず)により、鋼管杭10を地面に対して起立させ、鋼管杭10を回転させながら下方へ押圧させる。その際、鋳造部材20の筒部21の先端開口21aから掘削部材25が突出していることにより、掘削部材25により地盤の掘削が開始される。掘削部材25に掘削された鋳造部材20の下方の土砂は、掘削部材25及び2つの半円盤状翼部50,60により外周側に押し退けられる。それとともに、2つの半円盤状翼部50,60により、鋳造部材20の外側の地盤が掘削され、鋼管杭10が地中に回転貫入される。
【0041】
鋼管杭10の回転貫入時には、垂直方向上向き及び回転の反対方向の反力が地盤から各翼部50,60に作用する。この翼部50,60に対する反力により、鋼管本体11と鋳造部材20との溶接個所やその近傍の部位には、負荷が生じる。
【0042】
ここで、図6に示す従来の鋼管杭100では、先端部材120が円筒形状の先端本体121の後端に円形平板状の天板部材122が溶接され、先端本体121の内周に切削部材125と外周に翼部140とが溶接されるとともに、天板部材122に鋼管本体111が溶接されている。特に、鋼管本体111は天板部材122に対して略垂直に溶接されるため、翼部140に鋼管杭100の軸回転と反対方向の反力が作用すると、先端本体121や天板部材122の面に対してねじれ方向に負荷がかかる。その際、溶接部分よりその近傍の部位の強度が劣ることから、鋼管本体111と天板部材122との溶接部分の近傍や先端本体121と天板部材122との溶接部分の近傍等に破損が生じることがある。
【0043】
これに対し、本発明の鋼管杭10は、鋳造部材20の接続部30が鋼管本体11側から筒部21側へ下方に向かって拡径されている。そのため、鋳造部材20の鋼管本体11との溶接部分近傍となる接続部30の外面32は、鋼管本体11に対して傾斜方向(非垂直方向)の面となり、翼部50,60に対する反力によって鋳造部材20の鋼管本体11との溶接部分近傍に生じるねじれ方向の負荷を軽減させることができる。また特に、接続部30が外側に凸の湾曲面32aであることによって、より効果的に反力による負荷の軽減が可能となる。したがって、回転貫入時の翼部50,60への反力による影響を抑制することができ、回転貫入時に破損が発生しにくくなる。さらに、鋳造部材20は、筒部21と接続部30とが鋳造により一体に形成されていることにより、鋳造部材20自体に溶接部分が形成されないため、溶接部分との強度差による破損が発生するおそれがない。
【0044】
また、鋼管杭10では、翼部50,60が鋳造部材20内部への挿入状態で鋳造部材20と掘削部材25と溶接固定されていることにより、鋳造部材20に対する各翼部50,60の固定強度が大幅に向上されている。従って、各翼部50,60の直径を鋳造部材20の直径に対して1.5ないし6倍、より好ましくは2.5ないし5.5倍と大きくして、地盤から作用する反力が累進的に大きくなったとしても、各翼部50,60の鋳造部材20に対する固定強度が不足せず、各翼部50,60が鋳造部材20から脱落するおそれがない。
【0045】
また、各翼部50,60が鋳造部材20の切欠き溝22,23から管体内部に挿入された状態で固定されていることにより、各翼部50,60には、鋳造部材20の内側と外側において地盤から垂直方向上向きの反力が作用することとなる。そのため、翼部50,60の外周側のみが変形する等の部分的に変形する不具合が発生しにくくなる。これにより、鋼管杭10の進行方向がずれにくくなり、進行方向のずれ等による鋳造部材20の変形等の不具合の発生が抑制される。
【0046】
さらに、地盤に回転貫入された鋼管杭10に対し、その上に建築物等の荷重が加わると、各翼部50,60には地盤から垂直方向上向きの反力が作用し、この反力により鋳造部材20を介して建築物等が地盤に支持される。鋼管杭10は、鋳造部材20や各翼部50,60に変形等による不具合が発生しにくいため、鋼管杭10が支持できる重量が設計値から減少しない。また、回転貫入を停止して逆回転させる場合等にも耐えることができる。
【0047】
図6は、他の実施形態に係る先端翼付回転貫入鋼管杭10Aであって、鋳造部材20Aが、筒部21と接続部30と翼部40Aとが一体に形成されてなるものである。以下の説明において、同一符号は同一の構成を表すものとして説明を省略する。
【0048】
翼部40Aは、鋳造により筒部21の先端近傍に一体に形成されて、回転貫入時に鋳造部材20の外側の地盤を掘削する部位である。翼部40Aが鋳造により筒部21と一体に形成されるため、翼部の溶接工程を省略することができ、効率的に鋼管杭10Aを形成することができる。
【0049】
翼部40Aの形状は、筒部21の外周にらせん状や円盤状に形成される等、筒部21の外周に翼状に突出して設けられて回転により地盤の掘削が可能であれば特に限定されない。例えば、翼部40Aは平面半円形状に形成された2つの半円盤状翼部50A,60Aからなり、2つの半円盤状翼部50A,60Aが筒部21の先端近傍に交差状に形成することが鋳造によって形成しやすくて好ましい。
【0050】
筒部21に交差状に形成された半円盤状翼部50A,60Aは、図2,3に示す鋼管杭10の各翼部50,60溶接後の外観形状と略同一に構成される。そこで、半円盤状翼部50A,60Aでは、筒部21の直径に対して1.5ないし6倍の直径、より好ましくは2.5ないし5.5倍の直径を有するように一体に形成することにより、前記の各翼部50,60と同様に大きな荷重を支持しながら地盤からの反力に耐えることが可能となる。また、半円盤状翼部50A,60Aは、管体の中心軸Cに直交する平面Pとの交差角度(θ)を5度ないし20度とすることにより、図2,3に示す鋼管杭10の各翼部50,60と同様に、鋳造部材20の外側の地盤を効率よく掘削でき、荷重を適切に支持することができる。
【0051】
以上図示し説明したように、本発明の先端翼付回転貫入鋼管杭は、鋼管本体の先端に溶接固定される鋳造部材よりなり、鋳造部材は鋼管本体の直径よりも大径の筒部と鋼管本体の先端に接続される接続部とが一体に形成され、接続部は鋼管本体の直径から筒部の直径にまで下方に向かって拡径されてなるため、回転貫入時に翼部に作用する反力による負荷を軽減することができ、回転貫入時に破損が発生しにくくなる。また、鋳造部材の先端近傍に筒部の直径に対して1.5ないし6倍の直径を有する翼部を有するため、大きな荷重の支持を可能としながら地盤からの反力にも耐え得る鋼管杭を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上の通り、本発明の先端翼付回転貫入鋼管杭では、回転貫入時の翼部に作用する反力による負荷が軽減されて破損の発生を抑制することができる。そのため、従来の鋼管杭の代替品として有望である。
【符号の説明】
【0053】
10,10A 鋼管杭
11,11A,11B 鋼管本体
12,12a,12b 鋼管本体の先端
20,20A 鋳造部材
21 筒部
21a 筒部の先端開口
22,23 傾斜状切欠き溝
22a,23a 傾斜状切欠き溝の挿入部
25 掘削部材
26 板厚面
27 尖端部
28,29 当接部
30 接続部
31 水平部
32 接続部の外面
32a 湾曲面
33 段部
40,40A 翼部
50,50A,60,60A 半円盤状翼部
51,61 翼本体
52,62 弦部
55,65 刃部
C 鋳造部材の中心軸
D 仮想平面
F 掘削部材の取付位置
P 管体の中心軸に直交する平面
θ 交差角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7