(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190518
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】結晶粒組織の予測方法及び結晶粒組織の予測装置
(51)【国際特許分類】
C22F 1/00 20060101AFI20221219BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20221219BHJP
G01N 15/02 20060101ALI20221219BHJP
G01N 33/204 20190101ALI20221219BHJP
【FI】
C22F1/00 Z
C22F1/10 A
C22F1/00 604
C22F1/00 683
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
C22F1/00 682
G01N15/02 C
G01N33/204
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098882
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】柳下 実奈子
(72)【発明者】
【氏名】奥田 将成
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA01
2G055BA05
2G055FA01
2G055FA10
(57)【要約】
【課題】結晶粒組織の予測方法において、塑性加工した金属材の結晶粒組織の予測精度を向上させることである。
【解決手段】塑性加工した金属材の結晶粒組織の予測方法は、塑性加工前の初期結晶粒の形状を設定する初期結晶粒形状設定工程と、初期結晶粒が塑性加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する第1断面積算出工程と、第1断面積から変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する第2断面積算出工程と、第2断面積を円換算して、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する初期結晶粒径算出工程と、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径と、を平均化して、結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する平均結晶粒径算出工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測方法であって、
塑性加工前の初期結晶粒の形状を設定する初期結晶粒形状設定工程と、
前記初期結晶粒が塑性加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する第1断面積算出工程と、
前記第1断面積から前記変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する第2断面積算出工程と、
前記第2断面積を円換算して、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する初期結晶粒径算出工程と、
前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、前記再結晶粒の結晶粒径とを平均化して、前記結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する平均結晶粒径算出工程と、
を備える、結晶粒組織の予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶粒組織の予測方法であって、
前記第1断面積算出工程は、前記変形後の初期結晶粒の断面形状と、前記変形後の初期結晶粒に生じるひずみと、に基づいて前記第1断面積を算出する、結晶粒組織の予測方法。
【請求項3】
請求項2に記載の結晶粒組織の予測方法であって、
前記変形後の初期結晶粒に生じるひずみには、最大主ひずみ、最小主ひずみ、中間主ひずみ、厚さ方向ひずみまたは幅方向ひずみを用いる、結晶粒組織の予測方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の結晶粒組織の予測方法であって、
前記平均結晶粒径算出工程は、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、前記再結晶粒の結晶粒径と、を未再結晶率及び再結晶率に基づいて平均化して、前記結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する、結晶粒組織の予測方法。
【請求項5】
塑性加工した金属材における結晶粒組織を予測する結晶粒組織の予測装置であって、
塑性加工前の初期結晶粒の形状を設定する初期結晶粒形状設定部と、
前記初期結晶粒が塑性加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する第1断面積算出部と、
前記第1断面積から前記変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する第2断面積算出部と、
前記第2断面積を円換算して、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する初期結晶粒径算出部と、
前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、前記再結晶粒の結晶粒径と、を平均化して、前記結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する平均結晶粒径算出部と、
前記初期結晶粒形状設定部と、前記第1断面積算出部と、前記第2断面積算出部と、前記初期結晶粒径算出部と、前記平均結晶粒径算出部と、を制御する制御部と、
を備える、結晶粒組織の予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結晶粒組織の予測方法及び結晶粒組織の予測装置に係り、特に、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測方法及び結晶粒組織の予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni合金等で形成される金属材の力学特性は、金属材内部の結晶粒組織に左右される。このため,エンジン部品等の金属材では結晶粒組織の結晶粒径に基準値が設定されることが多い。鍛造などの塑性加工では加工条件によって結晶粒径が変化するため,結晶粒径が基準値を満たすように工程設計が行われる。設計した工程の良否は,試作を行って判断する。しかし、試作は時間もコストもかかるため、事前にシミュレーションで結晶粒組織の結晶粒径を予測することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測方法では、初期結晶粒の結晶粒径と、塑性加工中に生じた再結晶粒の結晶粒径とに基づいて結晶粒組織の平均結晶粒径の予測を行っている。これまでの結晶粒組織の予測方法では、初期結晶粒の結晶粒径は、塑性加工前後で変化せず一定とし、初期結晶粒は再結晶粒に侵食されないとして結晶粒組織の予測が行われている。しかし実際には、初期結晶粒は、塑性加工により変形し、再結晶粒により侵食される。したがって、これまでの結晶粒組織の予測方法では、結晶粒組織の予測精度が低下する可能性がある。
【0005】
そこで本開示の目的は、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測精度を向上させることが可能な結晶粒組織の予測方法及び結晶粒組織の予測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る結晶粒組織の予測方法は、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測方法であって、塑性加工前の初期結晶粒の形状を設定する初期結晶粒形状設定工程と、前記初期結晶粒が塑性加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する第1断面積算出工程と、前記第1断面積から前記変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する第2断面積算出工程と、前記第2断面積を円換算して、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する初期結晶粒径算出工程と、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、前記再結晶粒の結晶粒径とを平均化して、前記結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する平均結晶粒径算出工程と、を備える。
【0007】
本開示に係る結晶粒組織の予測方法おいて、前記第1断面積算出工程は、前記変形後の初期結晶粒の断面形状と、前記変形後の初期結晶粒に生じるひずみと、に基づいて前記第1断面積を算出してもよい。
【0008】
本開示に係る結晶粒組織の予測方法において、前記変形後の初期結晶粒に生じるひずみには、最大主ひずみ、最小主ひずみ、中間主ひずみ、厚さ方向ひずみまたは幅方向ひずみを用いてもよい。
【0009】
本開示に係る結晶粒組織の予測方法において、前記平均結晶粒径算出工程は、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、前記再結晶粒の結晶粒径と、を未再結晶率及び再結晶率に基づいて平均化して、前記結晶粒組織の平均結晶粒径を算出してもよい。
【0010】
本開示に係る結晶粒組織の予測装置は、塑性加工した金属材における結晶粒組織を予測する結晶粒組織の予測装置であって、塑性加工前の初期結晶粒の形状を設定する初期結晶粒形状設定部と、前記初期結晶粒が塑性加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する第1断面積算出部と、前記第1断面積から前記変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する第2断面積算出部と、前記第2断面積を円換算して、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する初期結晶粒径算出部と、前記再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、前記再結晶粒の結晶粒径と、を平均化して、前記結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する平均結晶粒径算出部と、前記初期結晶粒形状設定部と、前記第1断面積算出部と、前記第2断面積算出部と、前記初期結晶粒径算出部と、前記平均結晶粒径算出部と、を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態において、結晶粒組織の予測方法の構成を示すフローチャートである。
【
図2】本開示の実施形態において、塑性加工した金属材の結晶粒組織を説明するための模式図である。
【
図3】本開示の実施形態において、単軸圧縮加工した金属円柱体の結晶粒組織の予測方法を説明するための模式図である。
【
図4】本開示の実施形態において、結晶粒組織の予測装置の構成を示す図である。
【
図5】本開示の実施形態において、熱間単軸圧縮加工前後における円柱供試体の結晶粒分布を示す図である。
【
図6】本開示の実施形態において、各加工条件における平均結晶粒径の実験結果と予測結果との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本開示の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、結晶粒組織の予測方法の構成を示すフローチャートである。結晶粒組織の予測方法は、初期結晶粒形状設定工程(S10)と、第1断面積算出工程(S12)と、第2断面積算出工程(S14)と、初期結晶粒径算出工程(S16)と、平均結晶粒径算出工程(S18)と、を備えている。
【0014】
結晶粒組織の予測方法は、塑性加工した金属材における結晶粒組織の平均結晶粒径等の予測方法である。金属材は、例えば、Ni合金、Al合金、Cu合金、Fe合金等の再結晶が生じる金属材料で形成されている。金属材には、金属部材、金属部品等が含まれる。金属部品は、例えば、圧縮機翼、ディスク等の航空機エンジン部品等である。塑性加工は、例えば、鍛造加工、圧延加工、押出加工、引抜加工等である。塑性加工は、熱間加工でもよいし、冷間加工でもよい。塑性加工は、加工のみであってもよいし、加工後の熱処理を含んでいてもよい。
【0015】
次に、塑性加工した金属材の結晶粒組織について説明する。
図2は、塑性加工した金属材の結晶粒組織を説明するための模式図である。より詳細には、
図2(a)は、塑性加工前の初期状態の結晶粒組織を示す模式図であり、
図2(b)は、加工後の結晶粒組織を示す模式図であり、
図2(c)は、熱処理後の結晶粒組織を示す模式図である。
【0016】
図2(a)に示すように、塑性加工前の初期状態の結晶粒組織は、変形前の初期結晶粒で構成されており、再結晶粒を含んでいない。再結晶粒は、金属の再結晶により新たに生じる結晶粒である。塑性加工における加工中や熱処理中に、再結晶核が金属内部の温度やひずみ分布に応じて生成または成長し、初期状態の結晶粒組織が侵食される。再結晶は,生じる原因やタイミングに応じて,動的再結晶(dynamic recrystallization;DRX),準動的再結晶(meta-dynamic recrystallization; MRX),静的再結晶(static recrystallization; SRX)に分類される。このことから再結晶粒は、動的再結晶粒、準動的再結晶粒、静的再結晶粒に分類される。
【0017】
図2(b)に示すように、加工後の結晶粒組織は、例えば、再結晶粒に侵食された変形後の初期結晶粒と、動的再結晶粒とから構成されている。
図2(c)に示すように、熱処理後の結晶粒組織は、例えば、再結晶粒に侵食された変形後の初期結晶粒と、動的再結晶粒と、準動的再結晶粒と、静的再結晶粒とから構成されている。このように塑性加工した金属材の結晶粒組織は、再結晶粒に侵食された変形後の初期結晶粒と、再結晶粒とから構成される混合組織になっている。
【0018】
初期結晶粒形状設定工程(S10)は、塑性加工前の初期結晶粒の形状を設定する工程である。まず塑性加工前の初期結晶粒の形状が設定される。塑性加工前の初期結晶粒とは、塑性加工により変形する前の初期状態の結晶粒である。塑性加工前の初期結晶粒の形状は、特に限定されず、例えば、球形状、直方体状、多面体状等に設定することが可能である。塑性加工前の初期結晶粒の形状が球形状や直方体状に設定される場合には、塑性加工前の初期結晶粒の形状が単純形状になるので、結晶粒組織の平均結晶粒径等の算出を容易にすることができる。塑性加工前の初期結晶粒の形状は、光学顕微鏡等により金属組織観察された結晶粒と近似した形状に設定してもよい。例えば、塑性加工前が鋳塊(インゴット)である場合には、塑性加工前の初期結晶粒の形状を球形状としてもよい。塑性加工前が板材である場合には、塑性加工前の初期結晶粒の形状を直方体状としてもよい。なお、塑性加工前の初期結晶粒の結晶粒径は、例えば、光学顕微鏡等による金属組織観察等により求めることができる。
【0019】
第1断面積算出工程(S12)は、塑性加工前の初期結晶粒が塑性加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する工程である。塑性加工前の初期結晶粒に加工により荷重が負荷されると、初期結晶粒が変形する。これにより初期結晶粒にひずみが生じて、例えば、加工の前後において初期結晶粒のアスペクト比等が変化する。この加工による初期結晶粒の形状変化を、初期結晶粒の断面形状の変化に基づいて評価する。初期結晶粒の形状変化を断面形状の変化で評価するのは、結晶粒組織の観察評価が、一般的に二次元断面で行われるからである。加工による初期結晶粒の形状変化を評価する断面は、特に限定されないが、例えば、初期結晶粒における中心部の断面とするとよい。
【0020】
初期結晶粒の断面形状の変化を評価するために、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積が算出される。第1断面積は、変形後の初期結晶粒の断面形状と、変形後の初期結晶粒に生じるひずみと、に基づいて算出することが可能である。変形後の初期結晶粒の断面形状は、例えば、塑性加工の成形シミュレーション等を用いて決定することができる。変形後の初期結晶粒に生じるひずみは、例えば、塑性加工の成形シミュレーション等を用いて有限要素法解析、机上計算等によって算出することができる。変形後の初期結晶粒に生じるひずみには、最大主ひずみ、最小主ひずみ、中間主ひずみ、厚さ方向ひずみ、幅方向ひずみ等を用いることが可能である。なお、塑性加工の成形シミュレーションは、一般的に普及している成形シミュレーションソフトウエアを用いて行うことが可能である。例えば、一つの要素が一つの結晶粒に相当するモデルを用いて塑性加工の成形シミュレーションを行う場合には、圧縮加工等の加工後の要素形状から加工後の結晶粒形状を見積もることができる。このような一般的に普及している成形シミュレーションソフトウエアには、例えば、市販されている「DEFORM」や「FORGE」等を用いることが可能である。
【0021】
次に、変形後の初期結晶粒の断面形状から第1断面積を求めるためのパラメータを設定する。そして第1断面積を求めるためのパラメータを、変形後の初期結晶粒に生じるひずみから算出する。例えば、変形後の初期結晶粒の断面形状が長方形である場合には、第1断面積を求めるためのパラメータは長方形断面の長辺及び短辺になる。そして変形後の初期結晶粒に生じるひずみから長方形断面の長辺及び短辺の長さを算出して、第1断面積を算出することができる。また、変形後の初期結晶粒の断面形状が楕円形である場合には、第1断面積を求めるためのパラメータは楕円形断面の長径及び短径になる。変形後の初期結晶粒に生じるひずみから楕円形断面の長径及び短径の長さを算出して、第1断面積を算出することができる。なお、変形後の初期結晶粒における所定方向の長さLは、例えば、変形前の初期結晶粒の結晶粒径をd0、変形後の初期結晶粒における所定方向のひずみをεとしたとき、式(1)から算出することができる。
【0022】
【0023】
第2断面積算出工程(S14)は、第1断面積から変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する工程である。変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を求めた後に、第1断面積から再結晶粒に侵食される面積を除いて第2断面積を算出する。上記の
図2(a)から
図2(c)で説明したように、塑性加工した金属材では再結晶が生じるので、初期結晶粒は変形するだけでなく、再結晶粒に侵食される。このため変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積から再結晶粒に侵食される面積を差し引いて、第2断面積を算出する。
【0024】
再結晶粒に侵食される面積は、再結晶率に基づいて求めることができる。再結晶率は、結晶粒組織に含まれる全結晶粒に対する再結晶粒の比率である。再結晶率は、動的再結晶率と、準動的再結晶率と、静的再結晶率との合計で算出される。動的再結晶率は、結晶粒組織に含まれる全結晶粒に対する動的再結晶粒の比率である。準動的再結晶率は、結晶粒組織に含まれる全結晶粒に対する準動的再結晶粒の比率である。静的再結晶率は、結晶粒組織に含まれる全結晶粒に対する静的再結晶粒の比率である。なお、例えば、塑性加工が加工のみで行われており、熱処理を伴わない場合には、準動的再結晶や静的再結晶が生じないので、再結晶率は、動的再結晶率になる。再結晶率は、例えば、JMAK(Johnson-Mehl, Avrami, Kolmogorov)モデルなどにより求めることができる。再結晶率は、光学顕微鏡等により動的再結晶粒等の再結晶粒を組織観察して、再結晶粒の断面積率を測定してもよい。
【0025】
第2断面積A’は、動的再結晶率をXdrx、準動的再結晶率をXmrx、静的再結晶率をXsrx、第1断面積をAとしたとき、式(2)で算出することができる。
【0026】
【0027】
初期結晶粒径算出工程(S16)は、第2断面積を円換算して、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する工程である。結晶粒の結晶粒径は、通常、結晶粒の形状に依らず、結晶粒を円換算したときの直径で表現される。このため第2断面積を円換算して、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する。再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径d’0は、第2断面積をA’としたとき式(3)で算出することができる。
【0028】
【0029】
平均結晶粒径算出工程(S18)は、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径とを平均化して、結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する工程である。塑性加工した金属材の結晶粒組織は、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒と、再結晶粒との混合組織で構成されている。このことから再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径とを平均化することにより、結晶粒組織の平均結晶粒径を算出することができる。
【0030】
再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径とは、例えば、未再結晶率及び再結晶率に基づいて平均化することができる。未再結晶率は、結晶粒組織に含まれる全結晶粒に対する再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の比率である。未再結晶率は、(1-再結晶率)で求めることができる。結晶粒組織の平均結晶粒径は、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径とを、未再結晶率及び再結晶率に基づいて比例配分して平均化することにより算出することが可能である。
【0031】
再結晶粒が、動的再結晶粒と、準動的再結晶粒と、静的再結晶粒とから構成される場合には、平均化された再結晶粒の結晶粒径は、動的再結晶粒径×動的再結晶率と、準動的再結晶粒径×準動的再結晶率と、静的再結晶粒径×静的再結晶率との合計で求めることができる。また再結晶粒が、動的再結晶粒のみからなる場合には、平均化された再結晶粒の結晶粒径は、動的再結晶粒径×動的再結晶率で求めることができる。再結晶率や再結晶粒径は、例えば、JMAK(Johnson-Mehl, Avrami, Kolmogorov)モデルなどにより求めることが可能である。
【0032】
結晶粒組織の平均結晶粒径daveは、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径をd’0、動的再結晶率をXdrx、準動的再結晶率をXmrx、静的再結晶率をXsrx、動的再結晶粒径をddrx、準動的再結晶粒径dmrx、静的再結晶粒dsrxとしたとき、式(4)で算出される。このようにして塑性加工した金属材の結晶粒組織の平均結晶粒径を予測することができる。
【0033】
【0034】
このように上記構成における結晶粒組織の予測方法によれば、塑性加工中の初期結晶粒の変形と、再結晶粒による初期結晶粒の侵食とを考慮して結晶粒組織の平均結晶粒径を予測しているので、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測精度を向上させることができる。
【0035】
次に、具体例として、単軸圧縮加工した金属円柱体の結晶粒組織の予測方法について説明する。
図3は、単軸圧縮加工した金属円柱体の結晶粒組織の予測方法を説明するための模式図である。より詳細には、
図3(a)は、初期結晶粒形状設定工程(S10)を説明するための模式図であり、
図3(b)は、第1断面積算出工程(S12)を説明するための模式図であり、
図3(c)は、第2断面積算出工程(S14)を説明するための模式図であり、
図3(d)は、初期結晶粒径算出工程(S16)を説明するための模式図である。勿論、塑性加工は単軸圧縮加工に限定されることなく、金属材についても金属円柱体に限定されない。
【0036】
初期結晶粒形状設定工程(S10)では、金属円柱体の中心部における単軸圧縮加工前の初期結晶粒の形状を、球形状に設定する。そして
図3(a)に示すように、単軸圧縮加工前の初期結晶粒の結晶粒径を、直径d
0に設定する。
【0037】
第1断面積算出工程(S12)では、単軸圧縮加工前の初期結晶粒が単軸圧縮加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する。単軸圧縮加工前の初期結晶粒の形状を球形状に設定した場合、単軸圧縮加工により初期結晶粒の形状は楕円体形状に変形する。したがって、
図3(b)に示すように、単軸圧縮加工後の初期結晶粒の中心部の断面形状は、単軸圧縮加工前の円形断面から楕円形断面に変形する。変形後の初期結晶粒に生じるひずみは、例えば、塑性加工の成形シミュレーション等を用いて有限要素解析等により、最大主ひずみε
1st、最小主ひずみε
3rdを求めることができる。
【0038】
次に、楕円形断面の断面積を算出するためのパラメータである長径d1及び短径d3について、変形後の初期結晶粒に生じるひずみに基づいて算出する。楕円形断面の長径d1は、単軸圧縮加工前の初期結晶粒の直径d0と、最大主ひずみε1stとから、式(5)で算出することができる。楕円形断面の短径d3は、単軸圧縮加工前の初期結晶粒の直径d0と、最小主ひずみε3rdとから、式(6)で算出することができる。変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積Aは、式(7)で算出することができる。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
第2断面積算出工程(S14)では、第1断面積から変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する。
図3(c)に示すように、変形後の初期結晶粒は、再結晶粒に侵食される。
図3(c)では、変形後の初期結晶粒が、動的再結晶粒、準動的再結晶粒及び静的再結晶粒に侵食される例を示している。第2断面積A’は、第1断面積をA、動的再結晶率をX
drx、準動的再結晶率をX
mrx、静的再結晶率をX
srxとすると式(8)で算出できる。
【0043】
【0044】
初期結晶粒径算出工程(S16)では、第二断面積A’を円換算して、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径d’0を算出する。再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径d’0は、式(9)で算出できる。
【0045】
【0046】
平均結晶粒径算出工程(S18)では、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径d’0と、再結晶粒の結晶粒径とを、未再結晶率及び再結晶率に基づいて平均化して、結晶粒組織の平均結晶粒径daveを算出する。動的再結晶率をXdrx、準動的再結晶率をXmrx、静的再結晶率をXsrx、動的再結晶粒径をddrx、準動的再結晶粒径をdmrx、静的再結晶粒をdsrxとすると、結晶粒組織の平均結晶粒径daveは、式(10)で算出される。式(10)は、式(4)のd’0に式(9)のd’0を代入して求めた式である。なお、式(9)の第二断面積A’には、式(8)で求めた第2断面積A’が代入されており、式(8)の第1断面積Aには、式(7)で求めた第1断面積Aが代入されている。
【0047】
【0048】
次に、塑性加工した金属材における結晶粒組織を予測する結晶粒組織の予測装置について説明する。
図4は、結晶粒組織の予測装置10の構成を示す図である。結晶粒組織の予測装置10は、初期結晶粒形状設定部12と、第1断面積算出部14と、第2断面積算出部16と、初期結晶粒径算出部18と、平均結晶粒径算出部20と、制御部22と、を備えている。
【0049】
初期結晶粒形状設定部12は、塑性変形前の初期結晶粒の形状を設定する機能を有している。第1断面積算出部14は、初期結晶粒が塑性加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積である第1断面積を算出する機能を有している。第2断面積算出部16は、第1断面積から変形後の初期結晶粒が再結晶粒に侵食される面積を除くことにより、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積である第2断面積を算出する機能を有している。初期結晶粒径算出部18は、第2断面積を円換算して、再結晶粒浸食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を算出する機能を有している。平均結晶粒径算出部20は、再結晶粒浸食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径とを平均化して、結晶粒組織の平均結晶粒径を算出する機能を有している。
【0050】
制御部22は、初期結晶粒形状設定部12と、第1断面積算出部14と、第2断面積算出部16と、初期結晶粒径算出部18と、平均結晶粒径算出部20とを制御する機能を有している。初期結晶粒形状設定部12と、第1断面積算出部14と、第2断面積算出部16と、初期結晶粒径算出部18と、平均結晶粒径算出部20と、制御部22とは、例えば、一般的なコンピュータシステム等で構成することができる。
【0051】
結晶粒組織の予測装置10は、記憶部(図示せず)や出力部(図示せず)を備えていてもよい。記憶部は、初期結晶粒の形状、第1断面積、第2断面積、再結晶粒浸食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径、結晶粒組織の平均結晶粒径等を記憶する機能を有している。記憶部は、一般的なメモリ等で構成することができる。出力部は、結晶粒組織の平均結晶粒径等を出力する機能を有している。出力部は、一般的なディスプレイやプリンタ等で構成することができる。
【0052】
以上、上記構成によれば、塑性加工中の初期結晶粒の変形と、再結晶粒による初期結晶粒の侵食とを考慮して結晶粒組織の平均結晶粒径を予測しているので、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測精度を向上させることができる。また、上記構成によれば、初期結晶粒の変形や、再結晶粒による初期結晶粒の侵食を考慮可能なので、塑性加工条件が異なる場合でも塑性加工条件に応じて結晶粒組織の予測精度を向上させることができる。
【0053】
より詳細には、変形後の初期結晶粒の形状は、塑性加工条件に応じて変化する。例えば、金属素材を一方向に圧延すると、圧延方向のひずみの増加に伴って結晶粒の厚さが減少する。しかし塑性加工条件が複雑になると初期結晶粒の形状変化を数式で表現することは難しくなる。また、初期結晶粒は不均一に生成した再結晶粒に侵食されるので、見かけ上の初期結晶粒の結晶粒径も不均一になる。このため、これまでは初期結晶粒の変形や再結晶粒による浸食を考慮せずに、初期結晶粒の結晶粒径を一定としていた。しかし、上記構成によれば、塑性加工条件に応じて初期結晶粒の変形や、再結晶粒による初期結晶粒の侵食を考慮可能となるので、結晶粒組織の予測精度を向上させることができる。
【0054】
また、上記構成によれば、塑性加工した金属材における結晶粒組織の平均結晶粒径の予測精度が向上するため,工程設計時の後戻りや試作数を削減できる。
【0055】
上記構成によれば、第1断面積算出工程は、変形後の初期結晶粒の断面形状と、変形後の初期結晶粒に生じるひずみと、に基づいて第1断面積を算出することができる。変形後の初期結晶粒の断面形状と、変形後の初期結晶粒に生じるひずみとは、一般的に普及している塑性加工の成形シミュレーションソフトウエアを使用して容易に求められるので、別途新たなプログラムを作成しなくても既存のプログラムを利用して算出することができる。このように上記構成によれば、試作するよりも短時間、低コストで塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測を行うことができる。
【0056】
上記構成によれば、変形後の初期結晶粒に生じるひずみには、最大主ひずみ、最小主ひずみ、中間主ひずみ、厚さ方向ひずみまたは幅方向ひずみを用いることができる。変形後の初期結晶粒に生じるひずみの種類を加工条件に応じて選択することにより、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測をより精度よく行うことができる。また、変形後の初期結晶粒に生じるひずみの種類を選択することにより、計算負荷と推定精度とのバランスを取って、塑性加工した金属材における結晶粒組織の予測を行うことができる。
【実施例0057】
Ni基超合金で形成された円柱供試体を熱間単軸圧縮加工し、熱間単軸圧縮加工した円柱供試体における結晶粒組織の予測試験を行った。熱間単軸圧縮加工では、加工後の熱処理については行っていない。まず、熱間単軸圧縮加工前後において、電子線後方散乱回折(EBSD)測定により円柱供試体の金属組織を観察した。
図5は、熱間単軸圧縮加工前後における円柱供試体の結晶粒分布を示す図である。より詳細には、
図5(a)は、熱間単軸圧縮加工前の結晶粒分布を示す図であり、
図5(b)は、熱間単軸圧縮加工後の結晶粒分布を示す図である。
【0058】
熱間単軸圧縮加工前の結晶粒組織は、初期結晶粒の結晶粒径d0が12μmであった。熱間単軸圧縮加工後の結晶粒組織は、微細な動的再結晶粒を含む平均結晶粒径dave=2.94μmの金属組織に変化した。JMAK(Johnson-Mehl, Avrami, Kolmogorov)モデルで計算すると、動的再結晶率Xdrxは0.49であり、動的再結晶粒径ddrxは0.84μmであった。なお、この加工条件では、準動的再結晶及び静的再結晶は生じていなかった。
【0059】
次に、実施例の結晶粒組織の予測方法について説明する。円柱供試体の中心部における熱間単軸圧縮加工前の初期結晶粒の形状を球形状に設定した。初期結晶粒の結晶粒径d0は12μmとした。初期結晶粒が熱間単軸圧縮加工により変形したとき、変形後の初期結晶粒の断面積を求めた。変形後の初期結晶粒の断面形状は、楕円形状とした。変形後の初期結晶粒に生じるひずみには、最大主ひずみ及び最小主ひずみを用いた。変形後の初期結晶粒の断面積から再結晶粒により侵食される面積を除いて、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積を求めた。再結晶率は、動的再結晶率Xdrxを0.49、準動的再結晶率Xmrxを0、静的再結晶率Xsrxを0とした。
【0060】
再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の断面積を円換算し、再結晶粒侵食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径を求めた。そして再結晶粒浸食後における変形後の初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径とを、未再結晶率及び再結晶率とに基づいて比例配分して平均化し、式(10)から結晶粒組織の平均結晶粒径を求めた。動的再結晶率Xdrxは0.49とし、動的再結晶粒径ddrxは0.84μmとした。準動的再結晶及び静的再結晶は生じていないので、準動的再結晶率Xmrx及び静的再結晶率Xsrxは0とした。この結果、熱間単軸圧縮加工した円柱供試体における結晶粒組織の平均結晶粒径は、3.48μmになった。
【0061】
次に、参考例の結晶粒組織の予測方法について説明する。参考例の結晶粒組織の予測方法は、実施例の結晶粒組織の予測方法に対して、次の2点が相違している。参考例の結晶粒組織の予測方法では、初期結晶粒の形状が熱間単軸圧縮加工の前後において変化しないで一定として予測を行った。更に、参考例の結晶粒組織の予測方法では、初期結晶粒が再結晶粒に侵食されないとして予測を行った。その他については実施例の結晶粒組織の予測方法と同様に行った。
【0062】
より詳細には、参考例の結晶粒組織の予測方法は、初期結晶粒の形状を球形状に設定し、初期結晶粒の結晶粒径と、再結晶粒の結晶粒径とを、未再結晶率及び再結晶率に基づいて比例配分して平均化し、式(11)から結晶粒組織の平均結晶粒径を求めた。初期結晶粒の結晶粒径d0は12μmとした。動的再結晶率Xdrxは0.49とし、動的再結晶粒径ddrxは0.84μmとした。準動的再結晶及び静的再結晶は生じていないので、準動的再結晶率Xmrx及び静的再結晶率Xsrxは0とした。この結果、熱間単軸圧縮加工した円柱供試体の結晶粒組織の平均結晶粒径は、6.53μmになった。
【0063】
【0064】
参考例の結晶粒組織の予測方法では、平均結晶粒径の予測値である6.53μmと、平均結晶粒径の実験値である2.94μmとの差が3.59μmになった。一方、実施例の結晶粒組織の予測方法では、平均結晶粒径の予測値である3.48μmと、平均結晶粒径の実験値である2.94μmとの差が0.54μmになった。このように平均結晶粒径における予測値と実験値との差は、3.59μmから0.54μmに減少した。この結果から実施例の結晶粒組織の予測方法は、参考例の結晶粒組織の予測方法よりも結晶粒組織の平均結晶粒径の予測精度が向上していることが明らかになった。
【0065】
次に、実施例の結晶粒組織の予測精度が向上した理由について説明する。
図5(a)及び
図5(b)によれば、熱間単軸圧縮加工による圧縮変形によって初期結晶粒の形状が変化していることが認められる。しかし参考例の結晶粒組織の予測方法では、熱間単軸圧縮加工前後における初期結晶粒の形状変化を考慮していないため、結晶粒組織の平均結晶粒径の予測精度が低下したと考えられる。一方、実施例の結晶粒組織の予測方法では、熱間単軸圧縮加工前後における初期結晶粒の形状変化を考慮しているため、結晶粒組織の平均結晶粒径の予測精度が向上したと考えられる。また、参考例の結晶粒組織の予測方法では、初期結晶粒が再結晶粒に侵食されないとして予測したのに対して、実施例の結晶粒組織の予測方法では、初期結晶粒が再結晶粒に侵食されるとして予測を行った。実施例の結晶粒組織の予測方法では、初期結晶粒における再結晶粒の侵食を考慮しているため、結晶粒組織の平均結晶粒径の予測精度が更に向上したと考えられる。
【0066】
次に、上記の円柱供試体について、熱間単軸圧縮加工の加工条件を変えて結晶粒組織の予測を行った。加工条件は、加工温度を3条件、円柱供試体に生じるひずみを3条件変化させることにより合計で9条件とした。加工温度はTA、TB、TCの3条件とし、これらの加工温度の大小関係はTA<TB<TCとした。円柱供試体に生じるひずみは、εa、εb、εcの3条件とし、これらのひずみの大小関係はεa<εb<εcとした。各加工条件について、光学顕微鏡の金属組織観察による平均結晶粒径の測定と、上記の実施例の結晶粒組織の予測方法による平均結晶粒径の予測と、上記の参考例の結晶粒組織の予測方法による平均結晶粒径の予測と、を行った。
【0067】
図6は、各加工条件における平均結晶粒径の実験結果と予測結果との比較を示すグラフである。
図6のグラフでは、横軸に各加工条件を取り、縦軸に平均結晶粒径を取り、平均結晶粒径の実験値と予測値とを棒グラフで示している。全ての加工条件において、平均結晶粒径における実験値と予測値との差は、実施例の結晶粒組織の予測方法が、参考例の結晶粒組織の予測方法より小さくなった。この結果から、熱間単軸圧縮加工の加工条件を変えた場合でも、実施例の結晶粒組織の予測方法によれば、結晶粒組織における平均結晶粒径の予測精度が向上することが明らかとなった。