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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190528
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/20 E
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098895
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 健
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治樹
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】木場 琢人
【テーマコード(参考)】
5G059
【Fターム(参考)】
5G059AA05
5G059DD01
5G059DD04
5G059DD06
5G059DD11
5G059DD28
5G059EE04
5G059FF02
5G059FF08
5G059GG01
5G059JJ07
5G059JJ10
5G059JJ26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐電圧性能に優れる絶縁体を備えたスパークプラグの提供。
【解決手段】本発明のスパークプラグ1では、中胴部23を、軸線AX方向における任意の位置で、軸線AX方向に対して垂直な方向に切断することで得られる切断面を、鏡面研磨した状態において、互いに重ならないように185μm×250μmの観察領域Xを20個設定すると共に、前記20個の観察領域Xに含まれる複数の気孔について、それぞれ、気孔の外周の長さP[μm]の2乗値P[μm]を求めた場合に、その2乗値P[μm]の大きい上位20個の気孔における2乗値P[μm]の平均値が2200μm以下であり、かつ20個の観察領域Xの合計面積(100%)に対する、20個の観察領域Xに含まれる全ての気孔の合計面積の割合T[%]が5%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に沿って延びた筒状をなし、先端側に配される脚長部と、前記脚長部の後端側に配され前記脚長部よりも大径である中胴部と、前記中胴部の後端側に配され前記中胴部よりも大径である鍔部とを有し、アルミナ基焼結体からなる絶縁体を備えるスパークプラグであって、
前記中胴部を、前記軸線方向における任意の位置で、前記軸線方向に対して垂直な方向に切断することで得られる切断面を、鏡面研磨した鏡面研磨面において、互いに重ならないように185μm×250μmの観察領域を20個設定すると共に、前記20個の観察領域に含まれる複数の気孔について、それぞれ、気孔の外周の長さP[μm]の2乗値P[μm]を求めた場合に、その2乗値P[μm]の大きい上位20個の気孔における2乗値P[μm]の平均値が2200μm以下であり、かつ
前記20個の観察領域の前記合計面積(100%)に対する、前記20個の観察領域に含まれる全ての気孔の合計面積の割合T[%]が5%以下であるスパークプラグ。
【請求項2】
前記20個の観察領域それぞれについての、前記気孔の面積の累積分布における累積50%の面積が、3μmを超える値である請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記割合Tが3%以下である請求項1又は請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記中胴部の厚みが、2.0mm以下である請求項1から請求項3の何れか一項に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に使用されるスパークプラグとして、アルミナを主成分とするアルミナ基焼結体からなる筒状の絶縁体を備えているものがある(例えば、特許文献1)。この種のスパークプラグでは、近年、小径化の要求により、絶縁体が小径化されている。絶縁体が小径化されると、筒状をなした絶縁体の壁部の厚みが薄くされるため、絶縁体の耐電圧性能に問題が発生することがあった。そのため、近年、絶縁体の更なる耐電圧性能の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-57559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筒状をなした絶縁体の壁部内には、通常、細かな気孔(空隙)がある程度、存在している。この種の気孔は、絶縁体の製造過程において、不可避的に形成されるものであり、極端に大きな気孔(例えば、直径が5,000μmを超える気孔)が形成された場合以外は、通常、その存在が問題視されることは少ない。しかしながら、絶縁体の小径化に伴って、絶縁体の壁部の厚みが小さくなると、気孔の存在を無視できなくなり、気孔が絶縁体の耐電圧性能の低下に影響を及ぼす場合があった。
【0005】
本発明の目的は、耐電圧性能に優れる絶縁体を備えたスパークプラグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、アルミナ基焼結体からなる絶縁体を備えたスパークプラグにおいて、その絶縁体の中胴部の内部に、ある一定以上の大きさを備えつつ、表面が凹凸状の気孔(空隙)が存在していると、スパークプラグの使用時に、その気孔を取り囲む凹凸状の輪郭部分に、局所的な電界集中が発生して、絶縁体の破壊が引き起こされることをつきとめた。
【0007】
そして、本発明者等は、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、アルミナ基焼結体からなる絶縁体を備えたスパークプラグにおいて、その絶縁体の中胴部に存在する気孔の輪郭形状、気孔の大きさ及び気孔の存在割合等を、後述する所定の条件を満たすように制御すると、絶縁体の耐電圧性能が確保されることを見出し、本願発明の完成に至った。
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 軸線方向に沿って延びた筒状をなし、先端側に配される脚長部と、前記脚長部の後端側に配され前記脚長部よりも大径である中胴部と、前記中胴部の後端側に配され前記中胴部よりも大径である鍔部とを有し、アルミナ基焼結体からなる絶縁体を備えるスパークプラグであって、前記中胴部を、前記軸線方向における任意の位置で、前記軸線方向に対して垂直な方向に切断することで得られる切断面を、鏡面研磨した鏡面研磨面において、互いに重ならないように185μm×250μmの観察領域を20個設定すると共に、前記20個の観察領域に含まれる複数の気孔について、それぞれ、気孔の外周の長さP[μm]の2乗値P[μm]を求めた場合に、その2乗値P[μm]の大きい上位20個の気孔における2乗値P[μm]の平均値が2200μm以下であり、かつ前記20個の観察領域の前記合計面積(100%)に対する、前記20個の観察領域に含まれる全ての気孔の合計面積の割合T[%]が5%以下であるスパークプラグ。
【0009】
<2> 20個の前記観察領域それぞれについての、前記気孔の面積の累積分布における累積50%の面積が、3μmを超える値である前記<1>に記載のスパークプラグ。
【0010】
<3> 前記割合Tが3%以下である前記<1>又は<2>に記載のスパークプラグ。
【0011】
<4> 前記中胴部の厚みが、2.0mm以下である前記<1>から<3>の何れか1つに記載のスパークプラグ
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐電圧性能に優れる絶縁体を備えたスパークプラグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係るスパークプラグの軸線方向に沿った断面図
図2】中胴部の切断面を模式的に表した説明図
図3】観察領域に対応したSEM画像を2値化処理した2値化画像を示す説明図
図4】全ての気孔の中から、任意に選ばれた1つの気孔を模式的に表した説明図
図5】水中耐電圧試験により試験サンプルの貫通電圧を測定する方法を模式的に表した説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態1>
本発明の実施形態1に係るスパークプラグ1を、図1図4を参照しつつ説明する。図1は、実施形態1に係るスパークプラグ1の軸線AX方向に沿った断面図である。図1に示される上下方向に延びた一点鎖線は、スパークプラグ1の軸線AXであり、図1において、スパークプラグ1の長手方向(軸線AX方向)が、図1の上下方向に対応する。図1の下側に、スパークプラグ1の先端側が示され、図1の上側に、スパークプラグ1の後端側が示される。
【0015】
スパークプラグ1は、自動車のエンジン(内燃機関の一例)に取り付けられて、エンジンの燃焼室内における混合気の点火に利用される。スパークプラグ1は、主として、絶縁体2、中心電極3、接地電極4、端子金具5、主体金具6、抵抗体7、シール部材8,9を備えている。
【0016】
絶縁体2は、内部に貫通孔21を含む軸線AX方向に延びた略円筒状の部材である。絶縁体2の詳細は、後述する。
【0017】
主体金具6は、スパークプラグ1をエンジン(具体的には、エンジンヘッド)に取り付ける際に利用される部材であり、全体として軸線AX方向に延びた円筒状をなし、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)によって構成される。主体金具6の先端側の外周面には、ネジ部61が形成されている。また、ネジ部61の後端(所謂、ネジ首)には、リング状のガスケットGが外嵌されている。ガスケットGは、環状であり、金属板を折り曲げて形成されている。このようなガスケットGは、ネジ部61の後端と、ネジ部61よりも後端側に配置された座部62との間に配置され、スパークプラグ1がエンジンに取り付けられた際に、スパークプラグ1とエンジン(エンジンヘッド)との間に形成される隙間を封止する。
【0018】
主体金具6の後端側には、主体金具6をエンジンに取り付ける際にレンチ等の工具を係合させるための工具係合部63が設けられている。そして、主体金具6の後端部には、径方向内側に屈曲された薄肉の加締め部64が設けられている。
【0019】
また、主体金具6は、内部に軸線AX方向に貫通する通し孔65を備えており、その通し孔65に挿通される形で、絶縁体2が主体金具6の内部で保持される。絶縁体2の後端は、主体金具6の後端から外側(図1の上側)へ大きく突出した状態となっている。これに対して、絶縁体2の先端は、主体金具6の先端から外側(図1の下側)へ僅かに突出した状態となっている。
【0020】
主体金具6における工具係合部63から加締め部64に至る部位の内周面と、絶縁体2の外周面(後述する後側筒部25の外周面)との間には、環状の領域が形成され、その領域に、環状をなした第1リング部材R1及び第2リング部材R2が、軸線AX方向において互いに離された状態で配置されている。そのような第1リング部材R1と第2リング部材R2との間には、タルク(滑石)10の粉末が充填されている。加締め部64の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁体2の外周面(後述する後側筒部25の外周面)に固定されている。
【0021】
また、主体金具6は、座部62と工具係合部63との間に設けられた薄肉の圧縮変形部66を備えている。圧縮変形部66は、スパークプラグ1の製造時において、絶縁体2の外周面に固定された加締め部64が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。このように圧縮変形部66が圧縮変形することにより、第1リング部材R1、第2リング部材R2及びタルク10を介して、絶縁体2が、主体金具6内で先端側に押圧される。その際、絶縁体2の一部である外側に環状に広がった部分(後述する第1拡径部26)の外周面が、主体金具6の内周側に設けられた段部66の表面に対して、パッキンP1を間に置きつつ、押し付けられる。そのため、エンジンの燃焼室内のガスが、主体金具6と絶縁体2との間に形成される隙間に進入しても、その隙間に設けられたパッキンP1により、外部へ漏出することが防止される。
【0022】
絶縁体2が主体金具6の内部に装着された状態において、その絶縁体2の内部に、中心電極3が配設されている。中心電極3は、軸線AX方向に沿って延びる棒状の中心電極本体31と、その中心電極本体31の先端に取り付けられる略円柱状(略円板状)のチップ(中心電極チップ)32とを備えている。中心電極本体31は、絶縁体2や主体金具6よりも長手方向の長さが短い部材であり、その先端側が外部に露出するように絶縁体2の貫通孔21内で保持されている。中心電極本体31の後端は、絶縁体2の内部(貫通孔21)に収容されている。中心電極本体31は、外側に配される電極母材31Aと、その電極母材31Aの内部に埋設された芯部31Bとを備えている。電極母材31Aは、例えば、ニッケル又はニッケルを主成分とする合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成される。芯部31Bは、電極母材31Aを形成する合金よりも熱伝導性に優れる銅又は銅を主成分とするニッケル基合金で形成される。
【0023】
また、中心電極本体31は、軸線AX方向の所定の位置に取り付けられた電極鍔部31aと、電極鍔部31aよりも後端側の部分である電極頭部31bと、電極鍔部31aよりも先端側の部分である電極脚部31cとを備えている。電極鍔部31aは、絶縁体2内に収容された状態で、絶縁体2の内周面側に形成された段部23a(後述)に支持されている。電極脚部31cの先端(つまり、中心電極本体31の先端)は、絶縁体2の先端より先端側に突出している。
【0024】
チップ32は、略円柱状(略円板状)であり、中心電極本体31の先端(電極脚部31cの先端)に、抵抗溶接やレーザ溶接等により接合される。チップ32は、高融点の貴金属を主成分とする材料(例えば、イリジウム(Ir)を主成分とするイリジウム基合金)からなる。
【0025】
端子金具5は、軸線AX方向に延びる棒状の部材であり、絶縁体2の貫通孔21の後端側に挿し込まれる形で取り付けらる。端子金具5は、絶縁体2(貫通孔21)内において、中心電極3よりも後端側に配置されている。端子金具5は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で構成される。なお、端子金具5の表面には、防食等の目的でニッケル等のメッキが施されてもよい。
【0026】
端子金具5は、先端側に配される棒状の端子脚部51と、その端子脚部51の後端側に配される端子鍔部52と、その端子鍔部52よりも後端側に配されるキャップ装着部53とを備えている。端子脚部51は、絶縁体2の貫通孔21内に挿入されている。端子鍔部52は、絶縁体2の後端部から露出し、かつその後端部に係止する部分である。キャップ装着部53は、高圧ケーブルが接続されたプラグキャップ(不図示)が装着される部分であり、そのキャップ装着部53を介して、外部より火花放電を発生させるための高電圧が印加される。
【0027】
抵抗体7は、絶縁体2の貫通孔21内において、端子金具5の先端(端子脚部51の先端)と中心電極3の後端(中心電極本体31の後端)との間に配置される。抵抗体7は、例えば、1kΩ以上の抵抗値(例えば、5kΩ)を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能等を備えている。抵抗体7は、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料とを含む組成物によって構成される。
【0028】
貫通孔21内における抵抗体7の先端と、中心電極3の後端との間には隙間が設けられており、その隙間を埋める形で、導電性のシール部材8が配設されている。また、貫通孔21内における抵抗体7の後端と、端子金具5の先端との間にも隙間が設けられており、その隙間を埋める形で、導電性のシール部材9が配設されている。各シール部材8,9は、例えば、B-SiO系等のガラス粒子と、金属粒子(Cu、Fe等)とを含む導電性の組成物によって構成される。
【0029】
接地電極4は、主体金具6の先端に接合された接地電極本体41と、四角柱形状の接地電極チップ42とを備えている。接地電極本体41は、全体的には途中で略L字状に折れ曲がった板片からなり、その後端部41aが主体金具6の先端に、抵抗溶接等によって接合される。これによって、主体金具6と接地電極本体41とが、電気的に接続される。接地電極本体41は、例えば、主体金具6と同様、ニッケル又はニッケルを主成分とするニッケル基合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成される。接地電極チップ42は、中心電極3のチップ32と同様、イリジウム(Ir)を主成分とするイリジウム基合金等からなる。接地電極チップ42は、接地電極本体41の先端部に対して、レーザ溶接によって接合される。
【0030】
接地電極本体41の先端部の接地電極チップ42と、中心電極3の先端部のチップ32とは、互いに間隔を保ちつつ、対向するように配置されている。つまり、中心電極3の先端部にあるチップ32と、接地電極4の先端部にある接地電極チップ42との間には、隙間SPがあり、中心電極3と接地電極4との間に高電圧が印加されると、その隙間SPにおいて、概ね軸線AX方向に沿った形で、火花放電が発生する。
【0031】
次いで、絶縁体2について詳細に説明する。絶縁体2は、全体的には、軸線AX方向に沿って細長く延びた筒状(円筒状)をなしており、図1に示されるように、内部に軸線AX方向に延びた貫通孔21を含んでいる。絶縁体2は、アルミナを主成分とする筒状(円筒状)のアルミナ基焼結体によって構成される。絶縁体2は、先端側に配される脚長部22と、脚長部22の後端側に配される部分であり、脚長部22よりも大径である中胴部23と、中胴部23の後端側に配される部分であり、中胴部23よりも大径である鍔部24とを備えている。なお、脚長部22と中胴部23との間には、第1拡径部26が設けられており、また、中胴部23と鍔部24との間には、第2拡径部27が設けられている。
【0032】
脚長部22は、全体的には、先側から後側に向かって徐々に外径が大きくなる細長い筒状(円筒状)をなしており、中胴部23や第1拡径部26よりも小さな外径を有している。脚長部22は、スパークプラグ1がエンジン(エンジンヘッド)に取り付けられた際に、その燃焼室に晒される。
【0033】
鍔部24は、軸線AX方向における絶縁体2の略中央に配され、円環状をなしている。鍔部24の内部にある貫通孔21には、抵抗体7が配設されている。
【0034】
第1拡径部26は、脚長部22と中胴部23とを繋ぐ部分であり、先側から後側に向かって徐々に外径が大きくなる円筒状(円環状)をなしている。絶縁体2のうち、この第1拡径部26の外表面が、絶縁体2が主体金具6に装着される際に、主体金具6の内周側に設けられた段部66の表面に対して、パッキンP1を間に置きつつ載せられる。
【0035】
第2拡径部27は、中胴部23と鍔部24とを繋ぐ部分であり、第1拡径部26よりも外径が大きく、かつ先側から後側に向かって徐々に外径が大きくなる円筒状(円環状)をなしている。
【0036】
中胴部23は、軸線AX方向において、外径が略同一に設定された筒状(円筒状)をなしている。図1には、軸線AX方向において、中胴部23が占める範囲L1が示されている。絶縁体2が主体金具6に装着された状態において、中胴部23の外表面(外周面)と主体金具6の内表面(内周面)との間には、僅かな隙間(空間)が存在している。中胴部23のうち、先端寄りの内側(内周面側)に、円環状の段部23aが設けられており、絶縁体2の貫通孔21に中心電極3の中心電極本体31が収容された状態において、段部23aの表面により、中心電極本体31の電極鍔部31aが支持される。中胴部23の壁部の厚み(径方向における厚み)は、脚長部22の壁部の厚みよりも大きい。また、中胴部23のうち、先端側から段部23aが形成されている部分の壁部の厚みは、それよりも後側の部分における壁部の厚みよりも大きい。
【0037】
中胴部23は、その外周面が、大気下(空気)に晒されており、脚長部22と比べて電気を通し易い環境下にあると言える。そのため、中胴部23は、脚長部22と比べて、壁部の厚みが大きく設定されている。
【0038】
本明細書において、「中胴部23の厚み」とは、特に断りが無い限り、中胴部23のうち、壁部の厚みが略一定である部分(つまり、段部23aよりも後端側の部分)の壁部の厚みのことである。中胴部23の厚みは、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、3.0mm以下であっても良いし、2.0mm以下であっても良い。中胴部23の厚みが、2.0mm以下であると、本発明の技術的効果がより顕著に発揮される。
【0039】
なお、絶縁体2は、更に、鍔部24の後端側に接続され、軸線AX方向に延びた筒状(円筒状)の後側筒部25を備えている。後側筒部25は、鍔部24の外径よりも小さな外径を有している。後側筒部25の内部にある貫通孔21には、端子金具5が備える棒状の端子脚部51等が配設されている。
【0040】
中胴部23は、絶縁体2の中で、最も小径化の影響を受け易い部分であり、小径化に伴って絶縁破壊が発生し易くなる。そのため、中胴部23が、少なくとも、以下に示される条件1,2のすべてを満たすような気孔を含む内部組織を備えていると、耐電圧性能に優れた絶縁体2(スパークプラグ1)が得られる。
【0041】
<条件1>
中胴部23を、軸線AX方向における任意の位置で、軸線AX方向に対して垂直な方向に切断することで得られる切断面(つまり、中胴部23を輪切り状にして得られる切断面)23bを鏡面研磨した鏡面研磨面において、互いに重ならないように185μm×250μmの観察領域(縦:185μm、横:250μmの矩形状の観察領域)を20個設定すると共に、それら20個の観察領域に含まれる複数の気孔について、それぞれ、気孔の外周の長さP[μm]の2乗値P[μm]を求めた場合に、その2乗値P[μm]の大きい上位20個の気孔における2乗値P[μm]の平均値が2200μm以下となるように、気孔が絶縁体2の中胴部23に含まれている。
【0042】
<条件2>
全ての気孔において、前記20個の観察領域の合計面積(100%)に対する、前記20個の観察領域に含まれる全ての気孔の合計面積の割合T[%]は、5%以下である。
【0043】
ここで、図2図4等を参照しつつ、より具体的に上記条件1,2等について詳細に説明する。図2は、中胴部23の切断面23bを模式的に表した説明図である。図2には、中胴部23が、軸線AX方向における任意の位置で、軸線AX方向に対して垂直な方向に切断され、かつ切断後に、鏡面状に研磨された鏡面研磨面の状態の切断面23bが示されている。本明細書において、切断面23bの鏡面研磨面を、切断面23bと同じ符号を用いて「鏡面研磨面23b」と表す場合がある。
【0044】
切断面23bの鏡面研磨処理は、ダイヤモンド砥石やダイヤモンドペースト等を利用した公知の手法に基づいて行われる。鏡面研磨処理は、切断面23bの表面粗さ(Ra)が、例えば0.001μm程度となるまで行われる。
【0045】
中胴部23の鏡面研磨面23bは、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察される。そのため、鏡面研磨面23bには、必要に応じて導電性付与のためのカーボン蒸着が行われてもよい。なお、SEMの加速電圧は、例えば、20kVに設定され、SEMの倍率は、例えば、500倍に設定される。
【0046】
鏡面研磨面23bは、図2に示されるように、円環状をなしており、その円環状の鏡面研磨面23bに、互いに重ならないように185μm×250μmの大きさの観察領域Xが環状に一列に並ぶように20個設定される。各観察領域Xは、鏡面研磨面23bの所定箇所を、SEMを用いて撮影したSEM画像として取得される。図2には、複数の観察領域Xが模式的に表されている。なお、図2では、観察領域X同士を区別するために、各符号Xに添え字(1~20の数字)が付されている。例えば、観察領域Xのうち、観察領域X1は、1番目に設定した観察領域Xであり、観察領域X20は、20番目に設定した観察領域Xである。
【0047】
このように設定された合計20個の観察領域Xに対応した合計20個のSEM画像について、コンピュータ上で実行される公知の画像解析ソフト(例えば、WinROOF(登録商標))を利用して、画像解析処理(二次元画像解析処理)が行われる。
【0048】
画像解析処理では、先ず、個々のSEM画像について、SEM画像に付記されているスケールバーを基にした、大きさの較正処理(キャリブレーション)が行われる。次いで、較正処理後のSEM画像に対して、2値化処理が行われる。図3は、観察領域Xに対応したSEM画像を2値化処理した2値化画像を示す説明図である。2値化処理では、SEM画像の各画素についての輝度(明度)が、所定の閾値(例えば、閾値=118)を用いて、二階調化される。つまり、輝度が閾値以下の画素については、その画素の輝度が「0」とされ、輝度が閾値を超えた画素については、その画素の輝度が「255」とされる。このように二階調化して、中間階調を無くすことにより、2値化画像が得られる。図3の2値化画像では、気孔11が黒色で示され、それ以外の部分(セラミック部分)12が白色で示されている。
【0049】
そして、観察領域Xに対応した2値化画像から、それに含まれる全ての気孔(空隙)を抽出すると共に、その抽出した各気孔について、それぞれ、気孔の外周の長さP[μm]が計測される。図4は、全ての気孔の中から、任意に選ばれた1つの気孔11を模式的に表した説明図である。そして更に、抽出した各気孔について、計測された気孔の外周の長さP[μm]の2乗値P[μm]が算出される。2乗値P[μm]は、20個の観察領域Xに含まれる全ての気孔11について、それぞれ求められる。
【0050】
このように全ての気孔11について、2乗値P[μm]が求められた後、それらの気孔11の中から、2乗値P[μm]が大きい方から上位20個の気孔が選出される。そして、それら上位20個の気孔の2乗値P[μm]の平均値が算出される。本実施形態の場合、前記2乗値P[μm]の平均値が、2200μm以下に設定されている。
【0051】
前記2乗値P[μm]の平均値が、2200μm以下である場合とは、中胴部23に含まれる気孔の輪郭形状が、切断面(鏡面研磨面)23bにおいて、より真円に近い方が好ましく、また、中胴部23に含まれる気孔の大きさが小さい方が好ましいことを意味する。
【0052】
ここで、気孔の2乗値P[μm]の技術的な意義について、更に説明する。なお、ここでは、2値化画像から抽出された任意の1つの気孔を例に挙げて説明する。気孔の輪郭形状は、気孔の凹凸度を指標として評価できる。気孔の凹凸度は、(P/A)×(1/4π)で表される。Pは、上述したように、気孔の外周の長さP[μm]を表し、Aは、気孔の面積[μm]を表す。また、気孔の大きさは、気孔の面積A[μm]で評価できる。
【0053】
そこで、1つの気孔について、「輪郭形状」と「大きさ」とをまとめて評価する指標Vとして、気孔の凹凸度((P/A)×(1/4π))と、気孔の面積A[μm]との積((P/A)×(1/4π)×A)を利用できることが経験的に知られている。この場合、指標Vは、2乗値P[μm]に比例することが明らかであるため、本実施形態においては、1つの気孔における「輪郭形状」と「大きさ」とをまとめて評価する指標として、気孔の外周の長さP[μm]の2乗値P[μm]を使用した。
【0054】
なお、観察領域Xに対応した2値化画像から、抽出した各気孔について、それぞれ、面積A[μm]も計測される。計測された各気孔の面積A[μm]は、後述する条件2の規定で利用される。
【0055】
また、上記条件2に示されるように、全ての観察領域Xの面積(20個の観察領域Xの合計面積)(100%)に対する、全ての観察領域Xに含まれる全ての気孔の合計面積の割合T[%]は、5%以下となるように、絶縁体2の中胴部23の内部組織中の気孔11が調整されている。条件2における全ての気孔の合計面積は、全ての気孔について計測された気孔の面積A[μm]の総和である。なお、本実施形態において、1個の気孔の面積A[μm]は、5,000μm以下に調整されることが好ましい。参考として、気孔11の大きさと比較するために、図3の2値化画像中に、面積が略5,000μmである円を示した。
【0056】
更に、上記条件1,2以外に、以下に示される条件を満たすように、中胴部23の内部組織が調整されてもよい。具体的には、20個の観察領域Xそれぞれについて、気孔の面積分布を対数正規分布により近似し、その気孔の面積における累積分布の累積50%の面積を求めた場合に、その累積50%の面積は、3μmを超える値であってもよい。中胴部23がこのような条件を満たしていると、耐衝撃性の優れた絶縁体2が得られる。
【0057】
更に、以下に示される条件を満たすように、中胴部23の内部組織が調整されてもよい。具体的には、上記条件2で示した前記割合T[%]が、3%以下であってもよい。
【0058】
次いで、絶縁体2の製造方法について説明する。絶縁体2は、上述した条件1,2等を満たすように製造されたものである。絶縁体2の製造方法としては、最終的に得られる絶縁体2が条件1,2等を満たすものであれば特に制限はない。ここでは、絶縁体2の製造方法の一例を説明する。
【0059】
絶縁体2の製造方法は、主として、スラリー作製工程、脱泡工程、造粒工程、通篩工程、成形工程、研削工程及び焼成工程を備えている。
【0060】
<スラリー作製工程>
スラリー作製工程は、原料粉末、バインダー及び溶媒を混合してスラリーを作製する工程である。原料粉末は、主成分として、焼成によりアルミナに転化する化合物の粉末(以下、Al化合物粉末)が使用される。Al化合物粉末としては、例えば、アルミナ粉末が使用される。
【0061】
Al化合物粉末の粒径(メジアン径)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、1.5μm~2.5μmである。なお、粒径は、レーザ回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置、製品名「MT-3000」)により測定される体積基準のメジアン径(D50)である。
【0062】
Al化合物粉末は、焼成後のアルミナ基焼結体の質量(酸化物換算)を100質量%としたときに、酸化物換算で90質量%以上となるように調製されることが好ましい。なお、本発明の目的を損なわない限り、原料粉末には、Al化合物粉末以外の粉末が含まれてもよい。
【0063】
バインダーは、原料粉末の成形性の向上等を目的として、スラリー中に添加される。このようなバインダーとしては、ポリビニルアルコール、水性アクリル樹脂、アラビアゴム、デキストリン等の親水性結合剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
バインダーの配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、原料粉末100質量部に対して、0.2質量部~1.5質量部の割合で配合され、好ましくは0.3質量部~0.9質量部の割合で配合される。
【0065】
溶媒は、原料粉末等を分散させる等の目的で使用される。溶媒としては、例えば、水、アルコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
溶媒の配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、原料粉末100質量部に対して、35質量部~45質量部の割合で配合され、好ましくは38質量部~42質量部の割合で配合される。なお、スラリーには、必要に応じて、原料粉末、バインダー及び溶媒以外の他の成分が配合されてもよい。スラリーの混合には、公知の撹拌・混合装置等を利用することができる。
【0067】
<脱泡工程>
スラリー作製工程後のスラリーに対して、必要に応じて、脱泡工程を行ってもよい。脱泡工程では、例えば、混合(混錬)後のスラリーの入った容器を、真空脱泡装置内に配置して、減圧して低気圧環境下に置くことで、スラリー内に含まれる気泡が取り除かれる。脱泡前後のスラリーの密度を比較することで、スラリー中の気泡量を把握することができる。
【0068】
<造粒工程>
造粒工程は、原料粉末等を含むスラリーから、球状の造粒粉を作製する工程である。スラリーから造粒粉を作製する方法としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、スプレードライ法が挙げられる。スプレードライ法では、所定のスプレードライヤー装置を利用して、スラリーを噴霧乾燥することにより、所定の粒径を備えた造粒粉が得られる。
【0069】
<通篩工程>
通篩工程は、造粒粉を、所定の目開きを有する篩を通過させることで、造粒粉中に含まれる異物等を除去する工程である。通篩工程で使用される篩の目開きは、例えば、造粒粉の平均粒径に対して、150%~300%の大きさとなるように設定される。より具体的には、篩の目開きは、例えば150μm以上350μm以下の範囲に調整される。
【0070】
<成形工程>
成形工程は、造粒粉を、成形型を利用して所定形状に成形することで成形体を得る工程である。成形工程は、ラバープレス成形や金型プレス成形等によって行われる。本実施形態の場合、成形型(例えば、ラバープレス成形機の内ゴム型及び外ゴム型)を外周側から印加する圧力(プレス昇圧速度)は、段階的に上昇するように調整される。なお、成形プレスの際に、最高プレス圧の半分以下の圧力の時に0.2秒以上の増圧の停止時間を設けることで、顆粒のつぶれ残りがなくなり、気孔の大きさと形を制御することができる。最高プレス圧の半分より大きいプレス圧の時に増圧の停止時間を設けると、成形体に過剰な圧力がかかり、成形体にキレ(切れ目)等の欠陥が発生する。なお、「増圧の停止」とは、プレス圧の増加・減少の値が、最高プレス圧の1/20以下の場合をいう。
【0071】
<研削工程>
研削工程は、成形工程後に得られた成形体の加工取り代の除去や成形体の表面を研磨等する工程である。研削工程では、レジノイド砥石等を研削することにより、加工取り代の除去や成形体の表面の研磨等が行われる。このような研削工程により、成形体の形状が整えられる。
【0072】
<焼成工程>
焼成工程は、研削工程により形状が整えられた成形体を焼成して、絶縁体を得る工程である。焼成工程では、例えば、大気雰囲気下で、1450℃以上1650℃以下で1~8時間焼成する。焼成後、成形体を冷却することにより、アルミナ基焼結体からなる絶縁体2が得られる。
【0073】
以上のようにして得られた絶縁体2を使用しつつ、本実施形態のスパークプラグ1が製造される。スパークプラグ1の絶縁体2以外の構成は、上述したように公知の構成と同様である。
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1〕
(試験サンプルの作製)
上記実施形態1で例示したスパークプラグの絶縁体と、基本的な構成が同じである絶縁体(以下、試験サンプル)を、上記実施形態1と同様の製造方法で作製(合計41本作製)した。試験サンプルの中胴部は、円筒状であり、その厚みは、2.0mmである。
【0076】
(水中耐電圧の測定)
以下に示される水中耐電圧試験を行い、貫通電圧の測定を行った。具体的な内容は以下の通りである。図5は、水中耐電圧試験により試験サンプルT1の貫通電圧を測定する方法を模式的に表した説明図である。図5に示されるように、先ず、試験サンプルT1(スパークプラグの絶縁体2)に対する試験前準備として、絶縁体2の先端部22aに第1シリコーンチューブT30を装着し、その状態で、先端部22a内の貫通孔21に、絶縁を目的としてシリコーンゴムT31を注入して固化させた。なお、中心電極3は、固化したシリコーンゴムT31と接触しないように、予めその長さが、切断等によって調整されている。次いで、第1シリコーンチューブT30よりも、内径が大きい第2シリコーンチューブT32を用意し、その第2シリコーンチューブT32の内側に、第1シリコーンチューブT30を装着した先端部22aが配置されるように、第2シリコーンチューブT32を、絶縁体2の鍔部24に装着した。そして、第2シリコーンチューブT32と、第1シリコーンチューブT30との間に形成される隙間T33を、食塩水(濃度:1質量%)T34で浸した。また、後側筒部25の後端側から、内部の貫通孔21に対して、図5に示されるように、中心電極3及び端子金具5を挿し込む形で装着した。そして、試験サンプルT1(絶縁体2)の軸線方向において、中胴部23の略中央の位置おなり、かつ先端が食塩水T34に接触するように、第2シリコーンチューブT32に、試験針T35を取り付けた。このように取り付けた試験針T35をアース側とし、試験サンプルT1(絶縁体2)の後端から露出した端子金具5に、後述する条件で、高電圧を印加した。具体的には、オシリスコープを見ながら、開始電圧(20kV)から30kVまで、1kV/secで昇圧した。開始電圧から1kVずつ昇圧させ、各電圧で10秒間保持し、貫通した電圧を記録した。なお、水中耐電圧試験の際、高電圧側の配線は、なるべく空気中に配置し、絶縁物上には必要最小限の部分を載置した。また、中心電極3及び端子金具5は、すべての試験サンプルT1の試験について、同じものを使用した。このような作業を、20本の試験サンプル(絶縁体)に対して行った。試験結果は、20本の試験サンプルについての平均値とした。結果は、表1に示した。
【0077】
(耐衝撃性の評価)
各試験サンプルに対して、JIS B7733に規定されるシャルピー試験を行い、試験サンプル(絶縁体)が破断する破断エネルギーの測定を行った。具体的な内容は、以下の通りである。先ず、試験サンプルである絶縁体を使用して、上記実施形態1で例示したものと同様の構成のスパークプラグ(以下、試験用スパークプラグ)を作製した。その試験用スパークプラグの軸線方向を上下方向として、先端側を下方に向け、試験台に設けられたネジ孔に試験用スパークプラグの主体金具のネジ部を螺合させて固定した。また、固定した試験用スパークプラグの軸線方向の上方に軸支点を有するハンマーを旋回可能に設けた。そして、ハンマーの先端を持ち上げてリリースし、自由落下によりハンマーを旋回させ、ハンマーの先端を絶縁体の後端より略1mmの部位に衝突させた。このハンマーの持ち上げ角度(軸線方向に対する角度)を、所定角度ずつ大きくしながらハンマーの先端を試験用スパークプラグの絶縁体に衝突させた。このような操作を繰り返し、絶縁体に破断が生じた際の持ち上げ角度に基づいて絶縁体のシャルピー破断エネルギー[J]を求めた。このような作業を、20本の試験サンプル(絶縁体)に対して行った。試験結果は、20本の試験サンプルについての平均値とした。結果は、表1に示した。
【0078】
(中胴部の切断面の観察)
得られた試験サンプルの中胴部を、軸線方向に対して垂直に切断し、得られた切断面を、鏡面状に研磨した後、その切断面(鏡面研磨面)の組織をSEMで観察した。SEMの加速電圧は、20kVに設定し、SEMの倍率は、500倍に設定した。そして、その切断面(鏡面研磨面)において、互いに重ならないように観察領域(185μm×250μm)を20個設定し、それら20個の観察領域に対応した合計20個のSEM画像を取得した。そして、それらのSEM画像に対して、画像解析ソフト(WinROOF(登録商標))による画像解析処理を実行して、20個の観察領域に含まれる複数の気孔について、それぞれ、気孔の外周の長さP[μm]、及び2乗値P〔μm〕を求めた。そして、複数の気孔の中から、2乗値P〔μm〕の大きい上位20個の気孔を選出し、選出した20個の気孔の2乗値P〔μm〕の平均値を算出した。結果は、表1に示した。
【0079】
また、20個の観察領域の合計面積(100%)に対する、全ての気孔の合計面積の割合T[%]を求めた。結果は表1に示した。
【0080】
更に、20個の観察領域それぞれについて、気孔の面積分布を対数正規分布により近似し、その気孔の面積における累積分布の累積50%の面積[μm]を求めた。結果は、表1に示した。
【0081】
〔実施例2~9〕
成形工程における成形プレスの際に、増圧の停止時間におけるプレス圧を適宜、変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~9の試験サンプルを作製した。
【0082】
〔実施例10〕
中胴部の厚みを3.0mmに変更すると共に、成形工程における成形プレスの際に、増圧の停止時間におけるプレス圧を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10の試験サンプルを作製した。
【0083】
〔比較例1,2〕
成形工程における成形プレスの際に、増圧の停止時間を設けないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1,2の試験サンプルを作製した。
【0084】
〔比較例3〕
中胴部の厚みを3.0mmに変更すると共に、成形工程における成形プレスの際に、増圧の停止時間を設けないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の試験サンプルを作製した。
【0085】
得られた試験サンプルについて、実施例1と同様、上記「水中耐電圧の測定」、「耐衝撃性の評価」、及び「切断面の観察」を行った。それらの結果は、表1に示した。なお、実施例10及び比較例3については、耐衝撃性の評価は行っていない。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、中胴部の厚みが2mmである実施例1~9の場合、2乗値P[μm]が大きい方から上位20個の気孔について、それらの気孔の2乗値P[μm]の平均値が、何れも2200μm以下となっており、耐電圧性能に優れている。なお、実施例1~9では、20個の観察領域の合計面積(100%)に対する、20個の観察領域に含まれる全ての気孔の合計面積の割合T[%]が、何れも5.0%以下となっている。また、実施例1~9では、面積が5,000μmを超える気孔は見当たらなかった。
【0088】
これに対して、中胴部の厚みが2mmである比較例1,2の場合、2乗値P[μm]の平均値は、それぞれ7820μm、3420μmであり、実施例1~9と比べて、耐電圧性能が低いことが確かめられた。
【0089】
また、中胴部の厚みが3mmである実施例10については、同じく中胴部の厚みが3mmである比較例3と比べて、耐電圧性能に優れていることが確かめられた。
【0090】
また、実施例1~9のうち、実施例1~4及び実施例8,9は、気孔の面積の累積分布における累積50%の面積が、3μmを超える場合であり、そのような各実施例は、前記累積50%の面積が3μm以下である実施例5~7と比べて、耐衝撃性に優れることが確かめられた。
【0091】
また、実施例1~9のうち、実施例1,2及び実施例5~9は、前記割合T[%]が、何れも3%以下であり、実施例3,4と比べて、耐電圧性能に優れることが確かめられた。
【0092】
中胴部の厚みが2mmであり、前記2乗値P[μm]の平均値が1470μmである実施例1と、前記2乗値P[μm]の平均値が7820μmである比較例1とを比較すると、水中耐電圧の差が、8kV/mmであった。これに対して、中胴部の厚みが3mmであり、前記2乗値P[μm]の平均値が1465μmである実施例10と、前記2乗値P[μm]の平均値が7820μmである比較例3とを比較すると、水中耐電圧の差が、5kV/mmであった。このように、前記2乗値P[μm]が同程度であっても、中胴部の厚みが小さい程、耐電圧性能が大きく向上することが確かめられた。
【符号の説明】
【0093】
1…スパークプラグ、2…絶縁体、21…貫通孔、22…脚長部、23…中胴部、23b…切断面(鏡面研磨面)、24…鍔部、25…後側筒部、26…第1拡径部、27…第2拡径部、3…中心電極、4…接地電極、5…端子金具、6…主体金具、7…抵抗体、8…シール部材、9…シール部材、11…気孔、AX…軸線
図1
図2
図3
図4
図5