(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190541
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】透光性建材および建築物
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20221219BHJP
E04C 2/54 20060101ALI20221219BHJP
E04D 3/06 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B32B27/36 102
E04C2/54 A
E04D3/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098912
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克彰
【テーマコード(参考)】
2E108
2E162
4F100
【Fターム(参考)】
2E108BN01
2E108CC09
2E108GG17
2E108HH02
2E108HH03
2E108HH04
2E162CD04
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AN00B
4F100BA03
4F100BA06
4F100CA07B
4F100EH20
4F100GB07
4F100JK07B
4F100JK10
4F100JL09
4F100JN01
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性と耐候性との双方に優れた、ポリカーボネート系樹脂を含有する透光性建材、および、かかる透光性建材を備える信頼性に優れた建築物を提供すること。
【解決手段】本発明の透光性建材1は、ポリカーボネート系樹脂を主材料として構成された基材2と、この基材2の双方の面側に設けられ、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いて形成された樹脂層3とを有している。そして、樹脂層3に、JIS K 7350-4に準じて、サンシャインウエザオメーターを用いて紫外線を3000時間照射した後における、JIS K 7373に準拠して測定された当該透光性建材の黄変度が2.0[ΔYI]未満であり、かつ、透光性建材1は、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験において、ピークエネルギーが120J以上であることを満足する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂を主材料として構成された基材と、
前記基材の双方の面側に設けられ、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いて形成された樹脂層とを有する透光性建材であり、
前記樹脂層に、JIS K 7350-4に準じて、サンシャインウエザオメーターを用いて紫外線を3000時間照射した後における、JIS K 7373に準拠して測定された当該透光性建材の黄変度が2.0[ΔYI]未満であり、かつ、
当該透光性建材は、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験において、ピークエネルギーが120J以上となることを特徴とする透光性建材。
【請求項2】
前記樹脂層は、その平均厚さBが10μm以上60μm以下である請求項1に記載の透光性建材。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤は、前記樹脂層における含有量が2.0重量%以上9.0重量%以下である請求項1または2に記載の透光性建材。
【請求項4】
芳香環を有しない前記樹脂材料は、脂肪族樹脂である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の透光性建材。
【請求項5】
前記脂肪族樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂である請求項4に記載の透光性建材。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、さらに、ゴム成分を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の透光性建材。
【請求項7】
前記基材の平均厚さA[μm]と、双方の前記樹脂層の平均厚さB[μm]との関係式B/Aは、0.0017<B/A<0.01なる関係を満足する請求項1ないし6のいずれか1項に記載の透光性建材。
【請求項8】
当該透光性建材は、その平均厚さCが3.0mm以上18.0mm以下である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の透光性建材。
【請求項9】
前記樹脂層は、その25℃における曲げ弾性率が1500MPa以上である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の透光性建材。
【請求項10】
前記樹脂層は、ISO179-1に基づいて測定されるシャルピー衝撃強度が5.0kJ/m2以上20.0kJ/m2以下である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の透光性建材。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の透光性建材を備えることを特徴とする建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性建材および建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路等の道路や、屋外競技場等に設けられる防音壁、カーポート、ガレージ、物置等が備える屋根部材、および、サンルーム、バルコニー、テラス、門、扉、塀等が備える窓部材等に、透光性を有する樹脂基板が用いられている。すなわち、建築物の透光性が求められる位置に、透光性を有する樹脂基板が、透光性建材として配置して用いられている。
【0003】
このような、透光性建材として、近年、ポリカーボネート系樹脂を含有するポリカーボネート板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このカーボネート板は、耐衝撃性および耐燃焼性に優れるものの、以下に示す点で耐候性に劣ると言う欠点があった。
【0005】
すなわち、日光に曝される透光性建材としてポリカーボネート板を用いると、ポリカーボネート板が紫外線に長期間に亘って暴露されることに起因して、ポリカーボネート系樹脂が変質・劣化し、その結果、ポリカーボネート板に黄変が生じたり、そのヘイズ値が上昇するため、ポリカーボネート板の視認性が低下するという問題があった。
【0006】
このような、ポリカーボネート板の耐候性に劣る欠点を改良することを目的に、各種の検討がなされているが、ポリカーボネート板を、上記の通り、建築物が備える透光性建材として用いるには、十分な改良がなされているとは言えないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/088105号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐衝撃性と耐候性との双方に優れた、ポリカーボネート系樹脂を含有する透光性建材、および、かかる透光性建材を備える信頼性に優れた建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)~(11)に記載の本発明により達成される。
(1) ポリカーボネート系樹脂を主材料として構成された基材と、
前記基材の双方の面側に設けられ、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いて形成された樹脂層とを有する透光性建材であり、
前記樹脂層に、JIS K 7350-4に準じて、サンシャインウエザオメーターを用いて紫外線を3000時間照射した後における、JIS K 7373に準拠して測定された当該透光性建材の黄変度が2.0[ΔYI]未満であり、かつ、
当該透光性建材は、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験において、ピークエネルギーが120J以上となることを特徴とする透光性建材。
【0010】
(2) 前記樹脂層は、その平均厚さBが10μm以上60μm以下である上記(1)に記載の透光性建材。
【0011】
(3) 前記紫外線吸収剤は、前記樹脂層における含有量が2.0重量%以上9.0重量%以下である上記(1)または(2)に記載の透光性建材。
【0012】
(4) 芳香環を有しない前記樹脂材料は、脂肪族樹脂である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の透光性建材。
【0013】
(5) 前記脂肪族樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂である上記(4)に記載の透光性建材。
【0014】
(6) 前記樹脂組成物は、さらに、ゴム成分を含む上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の透光性建材。
【0015】
(7) 前記基材の平均厚さA[μm]と、双方の前記樹脂層の平均厚さB[μm]との関係式B/Aは、0.0017<B/A<0.01なる関係を満足する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の透光性建材。
【0016】
(8) 当該透光性建材は、その平均厚さCが3.0mm以上18.0mm以下である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の透光性建材。
【0017】
(9) 前記樹脂層は、その25℃における曲げ弾性率が1500MPa以上である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の透光性建材。
【0018】
(10) 前記樹脂層は、ISO179-1に基づいて測定されるシャルピー衝撃強度が5.0kJ/m2以上20.0kJ/m2以下である上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の透光性建材。
【0019】
(11) 上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の透光性建材を備えることを特徴とする建築物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、透光性建材を、耐衝撃性と耐候性との双方に優れたものとし得る。したがって、かかる透光性建材を、建築物において透光性が求められる部材として用いることで、この建築物を優れた信頼性を有するものとし得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の透光性建材の実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す透光性建材を共押出法を適用して製造する建材製造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の透光性建材および建築物を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
本発明の透光性建材1は、ポリカーボネート系樹脂を主材料として構成された基材2と、この基材2の双方の面側に設けられ、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いて形成された樹脂層3とを有し、樹脂層3に、JIS K 7350-4に準じて、サンシャインウエザオメーターを用いて紫外線を3000時間照射した後における、JIS K 7373に準拠して測定された透光性建材1の黄変度が2.0[ΔYI]未満であり、かつ、この透光性建材1は、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験において、ピークエネルギーが120J以上となるものである。このように、紫外線を照射した後の透光性建材1の黄変度が2.0[ΔYI]未満であれば、透光性建材1が紫外線に長時間曝されたとしても、優れた耐久性、すなわち、優れた耐候性を備えるものであると言うことができる。また、高速面衝撃試験において、透光性建材1におけるピークエネルギーが120J以上となることから、透光性建材1を、優れた耐衝撃性を備えるものであると言うことができる。したがって、透光性建材1を、耐衝撃性と耐候性との双方に優れた樹脂基板(樹脂積層板)であると言うことができる。
【0024】
この透光性建材1は、例えば、高速道路等の道路や、屋外競技場等に設けられる防音壁、カーポート、ガレージ、物置等が備える屋根部材、および、サンルーム、バルコニー、テラス、門、扉、塀等が備える窓部材等として、すなわち、建築物において透光性が求められる位置に配置される部材として用いられる。したがって、かかる部材として透光性建材1を用いることで、透光性建材1を備える建築物を、優れた信頼性を有するものとし得る。
【0025】
<<透光性建材>>
以下、この透光性建材1について詳述する。
【0026】
本発明の透光性建材1は、上記の通り、基材2と、基材2の双方の面側に設けられた樹脂層3とを備える積層基板で構成されるものである。
【0027】
図1は、本発明の透光性建材の実施形態を示す縦断面図である。なお、以下では、説明の都合上、
図1の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図1では、透光性建材の厚さ方向を誇張して図示しているため、実際の寸法とは大きく異なる。
【0028】
<基材>
基材2は、
図1に示す通り、積層基板である透光性建材1の中間層として位置して、透光性建材1の主層を構成し、ポリカーボネート系樹脂を主材料として含有しており、これにより、透光性建材1に、優れた耐衝撃性および耐燃焼性を付与するためのものである。
【0029】
このポリカーボネート系樹脂としては、特に限定されず、各種のものを用いることができるが、中でも、芳香族系ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、その主鎖に芳香族環を備えており、これにより、基材2の強度(耐衝撃性)をより優れたものとし得る。そのため、前記ピークエネルギーが120J以上となることを比較的容易に満足するものとし得る。
【0030】
この芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ビスフェノールとホスゲンとの界面重縮合反応、ビスフェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等により合成される。
【0031】
ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールAや、下記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノール(変性ビスフェノール)等が挙げられる。
【0032】
【化1】
(式(1A)中、Xは、炭素数1~18のアルキル基、芳香族基または環状脂肪族基であり、RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基であり、mおよびnは、それぞれ0~4の整数であり、pは、繰り返し単位の数である。)
【0033】
なお、前記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノールとしては、具体的には、例えば4,4’-(ペンタン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ペンタン-3,3-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール、1,1’-(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2-シクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3-ビスシクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
特に、ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を主成分とするのが好ましい。かかるビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を用いることにより、基材2は、さらに優れた強度を発揮するものとなる。そのため、基材2にポリカーボネート系樹脂が含まれることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。
【0035】
また、基材2中のポリカーボネート系樹脂の含有量は、特に限定されないが、前記基材100質量部中、75質量部以上であるのが好ましく、85質量部以上であるのがより好ましい。ポリカーボネート系樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、基材2を、優れた強度を発揮するものとし得る。
【0036】
また、基材2は、必要に応じて、上述した、ポリカーボネート系樹脂の他に、例えば、紫外線吸収剤、熱線吸収剤、可塑剤や、酸化防止剤、滑剤、着色剤、フィラー等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
なお、紫外線吸収剤および熱線吸収剤としては、それぞれ、樹脂層3に含まれる紫外線吸収剤および熱線吸収剤として、後述するものと同様のものが挙げられる。
【0038】
さらに、可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアミドオリゴマー、エチレンビスステアロアマイド、フタル酸エステル、ポリスチレンオリゴマー、ポリエチレンワックス、シリコーンオイル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
また、基材2には、樹脂層3との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法等による表面の凹凸化処理、あるいは、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、電子線照射処理等の表面の酸化処理が施されていてもよい。
【0040】
基材2の平均厚さAは、3.0mm以上18.0mm以下であることが好ましく、6.0mm以上18.0mm以下であることがより好ましい。基材2の平均厚さAが前記下限値未満であると、ポリカーボネート系樹脂の種類によっては、透光性建材1の耐衝撃性の低下をまねくおそれがあり、また、基材2の平均厚さAが前記上限値を超えると、ポリカーボネート系樹脂の種類によっては、透光性建材1を曲面形状に成形する必要がある場合、この成形が困難になるおそれがある。
【0041】
また、基材2としては、ポリカーボネート系樹脂を含む材料により得られた単層構造のものや、ポリカーボネート系樹脂を含む材料により得られた単層フィルムを2層以上積層した多層構造のものを用いることができる。
【0042】
ここで、多層構造である場合には、各層は、同一の材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。さらに、各層は、異なる厚さのものであってもよいし、同一の厚さのものであってもよい。
【0043】
例えば、多層構造である基材2としては、耐衝撃性に優れた第1の耐衝撃層と、耐燃焼性に優れた耐燃焼層と、耐衝撃性に優れた第2の耐衝撃層とがこの順で積層されたものが挙げられる。すなわち、1つの耐燃焼層を2つの耐衝撃層で挟持した構成のものが挙げられる。これにより、基材2の耐衝撃性および耐燃焼性のさらなる向上が図られる。
【0044】
<樹脂層>
樹脂層3(被覆層)は、
図1に示すように、基材2の上面(一方の面)と下面(他方の面)との双方を被覆するように積層され、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いて形成されたものであり、基材2に由来する透光性建材1の優れた耐衝撃性を維持しつつ、透光性建材1に優れた耐候性を付与するために設けられたものである。
【0045】
このように樹脂層3が、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤とを含むことにより、樹脂層3および基材2に優れた耐候性を付与することができる。そのため、透光性建材1は、優れた耐候性を発揮する。また、樹脂層3を、芳香環を有しない樹脂材料を含むものとすることで、樹脂層3を、後述するような機械的特性を比較的容易に満足するものに設定し得る。
【0046】
芳香環を有しない樹脂材料は、芳香環を有しないことで、樹脂層3が紫外線に曝されたとしても、樹脂層3における、芳香環を有しない樹脂材料の変質・劣化を的確に抑制または防止して、樹脂層3の耐候性を向上させるために、樹脂層3中に含まれる。
【0047】
芳香環を有しない樹脂材料としては、その構造中に芳香環を有しないものであれば、特に限定されるものではなく、その主鎖が脂肪族構造で構成される脂肪族樹脂が挙げられる。なお、この脂肪族樹脂は、側鎖を備え、その側鎖が脂肪族構造で構成されるものであってもよい。また、脂肪族構造は、直鎖状、分岐状および環状をなすもののいずれであってもよいが、すなわち、脂肪族樹脂は、直鎖脂肪族樹脂、分岐脂肪族樹脂および環状脂肪族樹脂のいずれであってもよいが、中でも、環状脂肪族樹脂であることが好ましい。これにより、樹脂層3を、後述するような機械的特性を比較的容易に満足するものに設定し得る。なお、脂肪族構造は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子のようなヘテロ原子を含むものであってもよいし、炭素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換されているものであってもよい。
【0048】
また、この樹脂材料(主鎖が脂肪族構造で構成される脂肪族樹脂)としては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等に分類されるものの何れであってもよいが、これらの中でも、(メタ)アクリル系樹脂またはポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。主鎖が脂肪族構造で構成される(メタ)アクリル系樹脂またはポリカーボネート系樹脂は、比較的容易または安価に入手することができるとともに、樹脂層3を、後述するような機械的特性を比較的容易に満足するものに設定し得ることから、芳香環を有しない樹脂材料として好ましく用いられる。
【0049】
紫外線吸収剤は、樹脂層3中において紫外線を吸収して、基材2に対する紫外線の到達を抑制または防止することで、基材2中に含まれるポリカーボネート系樹脂の変質・劣化を抑制し、その結果、基材2ひいては透光性建材1の耐候性を向上させるために、樹脂層3中に含まれる。
【0050】
この紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系の紫外線吸収剤が挙げられ、これらのうち1種または2種を組み合わせて用いることができる。
【0051】
また、樹脂層3における紫外線吸収剤の含有量は、特に限定されないが、2.0重量%以上9.0重量%以下であるのが好ましく、3.0重量%以上7.0重量%以下であることがより好ましい。樹脂層3における紫外線吸収剤の含有量が前記下限値未満であると、紫外線吸収剤の種類によっては、基材2の耐候性が低下するおそれがある。また、樹脂層3における紫外線吸収剤の含有量が前記上限値を超えても、それ以上の基材2における耐候性の向上は見られず、紫外線吸収剤の種類によっては、樹脂層3を、後述するような機械的特性を満足するものに設定することが困難となるおそれがある。
【0052】
さらに、樹脂層3、すなわち、樹脂層3の形成に用いられる樹脂組成物には、ゴム成分が含まれることが好ましい。このように、樹脂層3に、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤との他に、さらにゴム成分が含まれることで、樹脂層3を、後述するような機械的特性を比較的容易に満足するものに設定し得る。
【0053】
このゴム成分としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステルを主体とする共重合ゴムや、ポリブタジエン、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)等のジエン系ゴムおよび前記ジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴムおよびエチレン-プロピレ共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー三元共重合体ゴム(EPDM)、エチレン-オクテン共重合体ゴム等の架橋ゴムまたは非架橋ゴムが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
ゴム成分の含有量は、その種類によって適宜設定されるが、2.0重量%以上10.0重量%以下であるのが好ましく、3.0重量%以上7.0重量%以下であることがより好ましい。樹脂層3におけるゴム成分の含有量を前記範囲内に設定することにより、基材2における耐候性の向上を図りつつ、樹脂層3を、後述するような機械的特性を満足するものに比較的容易に設定することが可能となる。
【0055】
また、樹脂層3、すなわち、樹脂層3の形成に用いられる樹脂組成物は、熱線吸収剤を含有することが好ましい。これにより、樹脂層3の耐熱性の向上を図ることができる。
【0056】
この熱線吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、炭素粉末、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、ITO、ATO等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
なお、樹脂層3すなわち、樹脂層3の形成に用いられる樹脂組成物には、上述した各種の構成材料以外に、さらに、その他の材料が含まれていてもよい。
【0058】
その他の材料としては、特に限定されないが、例えば、可塑剤、着色剤、増感剤、安定剤、界面活性剤、酸化防止剤、還元防止剤、帯電防止剤、表面調整剤および親水化添加剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
この樹脂層3の平均厚さBは、特に限定されないが、10μm以上60μm以下であることが好ましく、15μm以上40μm以下であることがより好ましい。樹脂層3の平均厚さBをかかる範囲内に設定することにより、樹脂層3に紫外線吸収剤を添加することにより得られる効果を好適に発揮させて、基材2ひいては透光性建材1の耐候性が低下するのを的確に抑制または防止することができる。さらに、かかる範囲に設定された薄い平均厚さBの樹脂層3であっても、樹脂層3の形成に用いられる樹脂組成物を上記のような構成材料で構成されるものとすることで、樹脂層3を、後述するような機械的特性を満足するものに比較的容易に設定し得る。
【0060】
さらに、基材2の平均厚さA[mm]と、樹脂層3の平均厚さB[mm]との比の関係を示す、関係式B/Aは、0.0017<B/A<0.01なる関係を満足することが好ましく、0.005≦B/A≦0.008なる関係を満足することがより好ましい。これにより、透光性建材1において、基材2に主層としての機能を発揮させて、透光性建材1に優れた耐衝撃性を発揮させつつ、樹脂層3に被覆層としての機能を発揮させて、透光性建材1に優れた耐候性を発揮させることができる。さらに、関係式B/Aを満足するように、薄い平均厚さBに設定された樹脂層3であっても、樹脂層3の形成に用いられる樹脂組成物を上記のような構成材料で構成されるものとすることで、樹脂層3を、後述するような機械的特性を満足するものに比較的容易に設定し得る。また、関係式B/Aを満足するように、基材2の平均厚さAを厚く、樹脂層3の平均厚さBを薄く設定することで、透光性建材1の長期の使用により、透光性建材1の取り換えが必要となった際に、この取り換えられた透光性建材1を、ポリカーボネート板のリサイクル品として用いることが可能となる。具体的には、取り換えられた透光性建材1を粉砕して粉体とした後に、この粉体と、ポリカーボネート系樹脂の粉体とを、3:7の重量比で混合することで混合物とし、その後、得られた混合物を用いてポリカーボネート板を成形体として得ることで、このポリカーボネート板を優れた全光線透過性を有するものとして成形することができる。したがって、このポリカーボネート板をリサイクル品として取り扱うことができるため、透光性建材1の再利用効率の向上を図ることができる。
【0061】
なお、基材2の上面と下面との双方に形成される、2つの樹脂層3は、それぞれ、上述したような、芳香環を有しない樹脂材料と紫外線吸収剤とを含むものであれば、特に限定されず、同一のものであっても、異なるものであってもよい。また、2つの樹脂層3は、それぞれ、その平均厚さBが同一のものであっても、異なるものであってもよい。なお、2つの樹脂層3の平均厚さが異なる場合、これらの平均値を、樹脂層3の前記厚さBとする。
【0062】
また、以上のような構成をなしている樹脂層3は、その機械的特性が、以下に示すように設定されていることが好ましい。
【0063】
すなわち、樹脂層3は、その25℃における曲げ弾性率が、1500MPa以上であるのが好ましく、1700MPa以上2500MPa以下であるのがより好ましい。
【0064】
また、樹脂層3は、その25℃における引張破壊点歪みが、40%以上200%以下であるのが好ましく、80%以上160%以下であるのがより好ましい。
【0065】
さらに、樹脂層3は、ISO179-1に基づいて測定されるシャルピー衝撃強度が5.0kJ/m2以上20.0kJ/m2以下であるのが好ましく、6.5kJ/m2以上20.0kJ/m2以下であるのがより好ましい。
【0066】
樹脂層3の曲げ弾性率、引張破壊点歪み、および、シャルピー衝撃強度のうち少なくとも1つが前記範囲内に設定されていることで、樹脂層3を、優れた機械的特性を有しているものと言うことができる。そのため、この樹脂層3を基材2の被覆層として備える透光性建材1を、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験において、ピークエネルギーが120J以上となることを満足するものとし得る。
【0067】
透光性建材1を、上記で説明したような構成をなす基材2と樹脂層3とを備えるものとすることで、優れた耐衝撃性と耐候性との両立が図られたものとし得るが、本発明では、以下に示す2つの指標を満足している。
【0068】
すなわち、透光性建材1は、樹脂層3に、JIS K 7350-4に準じて、サンシャインウエザオメーターを用いて紫外線を3000時間照射した後における、JIS K 7373に準拠して測定された、基材2の黄変度が2.0[ΔYI]未満であることを満足し、好ましくは1.0[ΔYI]以下であることを満足するものとなっている。これにより、透光性建材1をより優れた耐候性を備えるものであると言うことができ、その結果、透光性建材1の外観劣化がより的確に抑制または防止されるため、透光性建材1を、建築物において透光性が求められる部材として好適に用いることができる。
【0069】
また、透光性建材1は、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験において、ピークエネルギーが120J以上、好ましくは220J以上となることを満足するものとなっている。これにより、透光性建材1を十分な耐衝撃性を備えるものであると言うことができ、その結果、透光性建材1を、耐衝撃性を備えることが必要とされる建築物における、透光性が求められる部材として好適に用いることができる。
【0070】
さらに、上記の2つの指標を満足する他、さらに、以下の耐候性および耐衝撃性を示す指標を満足することが好ましい。
【0071】
すなわち、耐候性を示す指標としては、透光性建材1は、前記紫外線を照射した後における、ASTM D1003に準拠して測定された、基材2のヘイズ値の変化量が7.0%以下であるのが好ましく、4.0%以下であるのがより好ましい。さらに、基材2の全光線透過率が75.0%以上であるのが好ましく、85.0%以上であるのがより好ましい。基材2のヘイズ値の変化量および全光線透過率が前記のように設定されていることにより、透光性建材1をさらに優れた耐候性を備えるものであると言うことができる。
【0072】
また、耐衝撃性を示す指標としては、透光性建材1は、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験において、延性破壊と脆性破壊とのうち延性破壊を示すことが好ましい。透光性建材1が延性破壊を示すことで、透光性建材1が衝撃を受けた際に、透光性建材1を構成する基材2および樹脂層3の破片が飛散するのを的確に抑制または防止し得ることから、透光性建材1の破損時における安全性の向上を図ることができる。なお、本明細書において、高速面衝撃試験で延性破壊とは、高速面衝撃試験において、透光性建材1をポンチが貫通した後に、透光性建材1を構成する基材2および樹脂層3が破壊されず残存しており、さらに、貫通孔周辺の変形部は、一様に突出して残存している状態を示す破壊のことを言う。
【0073】
また、この透光性建材1の平均厚さCは、特に限定されないが、3.0mm以上18.0mm以下であることが好ましく、6.0mm以上18.0mm以下であることがより好ましい。かかる範囲内の平均厚さCに設定された透光性建材1に、本発明を適用することで、透光性建材1を、耐衝撃性と耐候性との双方を確実に優れたものとすることができる。
【0074】
なお、透光性建材10は、
図1のように、平板状をなす積層体である場合の他、その用途に応じて、例えば、その少なくとも一部が湾曲形状に湾曲した構成をなす熱成形体であってもよい。
【0075】
<透光性建材の製造方法>
以上のような構成をなす透光性建材1は、例えば、共押出法、プレス法、キャスト法、射出法等を用いて製造し得るが、以下では、共押出法を用いて透光性建材1を製造する場合を一例に説明する。
【0076】
まず、共押出法が適用された建材製造装置について説明する。
図2は、
図1に示す透光性建材を共押出法を適用して製造する建材製造装置の側面図である。なお、以下の説明では、
図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0077】
図2に示す建材製造装置500は、シート供給部700と、シート成形部800とを有している。
【0078】
シート供給部700は、押出機210と、押出機220と、Tダイ600と、2種3層分配型の分配機230とを備え、押出機210の溶融樹脂吐出部211に接続された配管212、および、押出機220の溶融樹脂吐出部221に接続された配管212に、分配機230が連結され、さらに、この分配機230に配管212を介してTダイ600が接続されている。
【0079】
かかる構成のシート供給部700では、基材2を構成する樹脂組成物(構成材料)が押出機210に収納され、樹脂層3を構成する樹脂組成物(構成材料)が押出機220に収納されている。そして、溶融状態または軟化状態の基材2を構成する樹脂組成物(A)と、溶融状態または軟化状態の樹脂層3を構成する樹脂組成物(B)とが、2種3層分配型の分配機230に供給されると、この分配機230の作動により、樹脂組成物(B)と樹脂組成物(A)と樹脂組成物(B)とがこの順で積層された溶融状態または軟化状態の溶融シート(シート)150が、分配機230、配管212およびTダイ600(が有する開口部601)を介して、シート成形部800に供給される。このように共押出法により溶融シート150を得る構成とすることで、形成された溶融シート150の厚みを安定化させることができる。
【0080】
シート成形部800は、タッチロール110と、冷却ロール120と、後段冷却ロール130とを有している。これらのロールは、それぞれ図示しないモータ(駆動手段)により、それぞれ単独回転するように構成されており、これらのロールの回転により、溶融シート150が冷却されることで、透光性建材1が連続的に送り出されるようになっている。このシート成形部800に、溶融または軟化された溶融シート150を連続的に送り込むことにより、溶融シート150の第1面15および第2面13が平坦化されるとともに、溶融シート150が所望の厚さに設定される。
【0081】
また、冷却ロール120と、タッチロール110との間を通過した溶融シート150を、さらに、冷却ロール120と後段冷却ロール130との間に供給することにより、溶融シート150が冷却され、その結果、樹脂層3と基材2と樹脂層3とがこの順で積層された透光性建材1が形成される。
【0082】
冷却ロール120は、外周面が平滑性を有するロールであり、Tダイ600から供給された溶融状態とされた溶融シート150を冷却する冷却手段を備える。このような冷却ロール120に対して、溶融シート150を押し当てることにより、その第1面15が平坦化されるとともに、溶融シート150が冷却される。
【0083】
タッチロール110は、外周面が平滑性を有するロールであり、冷却ロール120に対向配置されている。このようなタッチロール110と冷却ロール120との間に、溶融シート150を供給することにより、溶融シート150の第2面13が平坦化される。
【0084】
後段冷却ロール130は、外周面が平滑性を有するロールであり、溶融シート150を冷却する冷却手段を備え、タッチロール110および冷却ロール120の後段に配置されている。このような後段冷却ロール130に、溶融シート150を供給することにより、溶融シート150をより確実に冷却して、透光性建材1を得ることができる。
【0085】
なお、本実施形態では、冷却ロール120が冷却手段を有し、タッチロール110が冷却手段を有しない場合について説明したが、かかる場合に限定されず、冷却ロール120およびタッチロール110のうちの少なくとも一方が冷却手段を有していればよく、タッチロール110が冷却手段を有し、冷却ロール120が冷却手段を有していなくてもよいし、冷却ロール120とタッチロール110との双方が冷却手段を有していてもよい。
【0086】
以上のような建材製造装置500を用いた透光性建材の製造方法により、透光性建材1が製造される。
【0087】
透光性建材の製造方法は、帯状をなすシートとされた溶融状態または軟化状態の溶融シート150を押し出す押出工程と、溶融シート150の第1面15および第2面13を平坦化することで透光性建材1を成形する成形工程と、成形された溶融状態または軟化状態の溶融シート150を冷却する冷却工程とを有し、さらに、透光性建材1の少なくとも一部を曲面形状とする場合には、曲面成形工程とを有している。
【0088】
以下、透光性建材1を製造するための各工程について詳述する。
(押出工程)
まず、帯状をなすシートとされた溶融状態または軟化状態の溶融シート150を押し出す。
【0089】
この押出工程では、基材2を構成する樹脂組成物(構成材料)が押出機210に収納され、樹脂層3を構成する樹脂組成物(構成材料)が押出機220に収納されている。そして、溶融状態または軟化状態の基材2を構成する樹脂組成物(A)と、溶融状態または軟化状態の樹脂層3を構成する樹脂組成物(B)とが、2種3層分配型の分配機230に供給されると、この分配機230の作動により、樹脂組成物(B)と樹脂組成物(A)と樹脂組成物(B)とがこの順で積層された溶融状態または軟化状態の溶融シート(シート)150が、分配機230、配管212を介して、Tダイ600が有する開口部601から押し出される。これにより、帯状をなすシートとされた溶融状態または軟化状態の溶融シート150が連続的に送り出される。
【0090】
換言すれば、溶融状態または軟化状態の溶融シート150が、開口部601から押し出されるようにして、共押出法で成膜される。
【0091】
(成形工程)
次に、溶融シート150の第1面15および第2面13を平坦化するとともに、溶融シート150を所定の厚さに設定することで、溶融状態または軟化状態とされた樹脂層3と基材2と樹脂層3とがこの順で積層された透光性建材1を成形する。
【0092】
この成形工程は、タッチロール110と冷却ロール120との間に、溶融シート150を供給することにより行われる。
【0093】
この際、冷却ロール120の外周面およびタッチロール110の外周面は、それぞれ、平滑性を有するロール状をなしている。そのため、溶融シート150の第1面15および第2面13は、それぞれ、平滑性を有する外周面に押し当てられることにより、平坦化される。
【0094】
また、冷却ロール120の外周面とタッチロール110の外周面との離間距離は、形成すべき透光性建材1の厚さに設定され、この離間距離を所定の大きさに適宜設定することで、所望の厚さの溶融シート150を得ることができる。
【0095】
このように、本工程において、冷却ロール120およびタッチロール110はそれぞれ、第1面15および第2面13を平坦化するため、ならびに、溶融シート150の厚さを設定するために用いられる。
【0096】
(冷却工程)
次に、第1面15および第2面13が平坦化され、かつ、多孔質体とされた、溶融状態または軟化状態の溶融シート150を冷却する。
【0097】
これにより、樹脂層3と基材2と樹脂層3とがこの順で積層された積層体4からなる透光性建材1が形成される。
【0098】
この冷却工程は、溶融シート150を、冷却ロール120と後段冷却ロール130との間に供給することにより行われる。
【0099】
これにより、溶融シート150は、冷却ロール120に、冷却ロール120が180°回転するまで溶融シート150の第1面15が当接し、後段冷却ロール130に、後段冷却ロール130が90°回転するまで溶融シート150の第2面13が当接する。
【0100】
ここで、本実施形態では、冷却ロール120および後段冷却ロール130のいずれもが冷却手段を備えているため、上記のような、溶融シート150の各ロール120、130との当接(接触)により、第1面15および第2面13が平坦化された溶融シート150が冷却される。その結果、第1面15および第2面13が平坦化され透光性建材1が得られる。
【0101】
なお、本実施形態では、各冷却ロール120、130に、溶融シート150の第1面15および第2面13が交互に当接した状態で、溶融シート150が冷却される。そのため、第1面15または第2面13側に反りが生じた状態で溶融シート150が冷却されてしまうのを確実に防止することができる。
【0102】
以上のように、本工程において、冷却手段を備える各冷却ロール120、130は、溶融シート150を冷却するために用いられる。
以上のような工程を経ることで、平板状をなす透光性建材1を得ることができる。
【0103】
(曲面成形工程)
また、平板状をなす透光性建材1の一部または全部が、曲面形状に成形されたものとする場合には、平板形成工程の後に、平板の一部または全部を、曲面形状に成形する成形工程を実施する。
【0104】
透光性建材1の一部または全部を、曲面形状に成形する方法としては、例えば、平板状をなす透光性建材1を加熱し、樹脂が軟化した直後に型に押し当てて曲面形状に成形する方法が挙げられる。
【0105】
また、透光性建材1を加熱する方法としては、特に限定はされないが、例えば、赤外線乾燥炉やガス式熱風乾燥炉、熱風循環式乾燥炉等の公知の方法が挙げられる。また、熱成形をする方法としては、例えば、真空成型、圧空成形、プレス成形、フリーブロー成形等の方法が挙げられる。
【0106】
なお、前記曲面形状とは、湾曲面を有する形状であり、例えば、成形体の断面形状が円弧状である形状等が含まれる。
【0107】
以上のようにして、平板の一部または全部が曲面形状に成形された透光性建材1が形成される。
【0108】
以上、本発明の透光性建材および建築物について図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、透光性建材および建築物を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0109】
また、透光性建材は、基材と樹脂層との間に、接合層(接着剤層)等の他の層が少なくとも1つ介在するものであってもよい。
【実施例0110】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0111】
1.透光性建材の形成
[実施例1]
[1]まず、ポリメチルメタクリレート(PMMA)にアクリル系ゴム成分を分散させた合材(クラレ社製、「パラペット GR00100」)、および、トリアジン系紫外線吸収剤を、それぞれの含有量が、95.0重量%、および、5.0重量%となるように、撹拌・混合することにより調製することで、樹脂層形成用材料(樹脂組成物)を準備した。
【0112】
また、ビスフェノールA型ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ユーピロン E2000」)を、基材形成用材料として準備した。
【0113】
[2]次に、準備した基材形成用材料および樹脂層形成用材料を、それぞれ、
図2に示す建材製造装置500が備える単軸の押出機210および単軸の押出機220に収納し、その後、単軸の押出機210における回転数を50rpmとする条件で、これら単軸の押出機210および単軸の押出機220から分配機230に供給した。そして、この分配機230により、樹脂層形成用材料、基材形成用材料および樹脂層形成用材料の順に層状に分配した分配物をTダイ600に供給した後、Tダイ600の開口部601から、溶融状態とされたシートとしてシート成形部800に押出した。
【0114】
そして、開口部601から押出されたシート状をなす分配物を、タッチロール110と冷却ロール120との間、および、冷却ロール120と後段冷却ロール130との間で挾持することで、平坦化ならびに冷却して、基材2と、この基材2の上面および下面の双方を被覆する樹脂層3と、を備える積層体で構成された実施例1の透光性建材1を得た。
【0115】
なお、得られた透光性建材1における基材2の平均厚さAおよび樹脂層3の平均厚さBは、それぞれ、3.0mmおよび20.0μmであった。
【0116】
また、ISO178に基づいて測定された、樹脂層3の曲げ弾性率は1800MPaであり、ISO527に基づいて測定された、樹脂層3の引張破壊点歪みは60%であった。さらに、ISO179-1に基づいて測定された、樹脂層3のシャルピー衝撃強度(ノッチあり)は6.5kJ/m2であった。
【0117】
[実施例2~3]
前記工程[2]において、分配機230により形成される分配物における基材形成用材料および樹脂層形成用材料の分配比率を調整することで、表1に示すような平均厚さA、Bとなっている基材2および樹脂層3を形成したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~3の透光性建材1を得た。
【0118】
[実施例4~5、比較例3]
前記工程[1]において、樹脂層形成用材料に含まれる前記合材およびトリアジン系紫外線吸収剤の含有量を、表1に記載のように変更し、さらに、前記工程[2]において、分配機230により形成される分配物における基材形成用材料および樹脂層形成用材料の分配比率を調整することで、表1に示すような平均厚さA、Bとなっている基材2および樹脂層3を形成したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例4~5、比較例3の透光性建材1を得た。
【0119】
[実施例6]
前記工程[1]において、樹脂層形成用材料に含まれる前記合材に代えて、ポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、「KFポリマー ♯850」)を用い、さらに、前記工程[2]において、分配機230により形成される分配物における基材形成用材料および樹脂層形成用材料の分配比率を調整することで、表1に示すような平均厚さA、Bとなっている基材2および樹脂層3を形成したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例6の透光性建材1を得た。
【0120】
[比較例1]
前記工程[1]において、樹脂層形成用材料に含まれる前記合材に代えて、ビスフェノールA型ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ユーピロン E2000」)を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、比較例1の透光性建材1を得た。
【0121】
[比較例2]
前記工程[1]において、樹脂層形成用材料に含まれる前記合材に代えて、ビスフェノールA型ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ユーピロン E2000」)を用い、さらに、前記工程[2]において、分配機230により形成される分配物における基材形成用材料および樹脂層形成用材料の分配比率を調整することで、表1に示すような平均厚さA、Bとなっている基材2および樹脂層3を形成したこと以外は、前記実施例1と同様にして、比較例2の透光性建材1を得た。
【0122】
2.評価
各実施例および各比較例の透光性建材1を、以下の方法で評価した。
【0123】
<耐候性試験>
各実施例および各比較例の透光性建材1について、それぞれ、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、成形体を得た。
【0124】
次いで、各実施例および各比較例の透光性建材1から得られた成形体について、JIS K 7350-4に準じて、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて促進試験を行い、紫外線照射3000時間後の外観を、JIS K 7373に準じて、黄変度(ΔYI)を、ASTM D1003に準じて、ヘイズ値の変化量(ΔHAZE)および全光線透過率(TT)を、それぞれ、次のように評価した。
【0125】
<<黄変度(ΔYI)>>
◎:ΔYIが1.0以下で外観の変化なし。
〇:ΔYIが1.0超2.0未満であり、
外観変化が若干見られるか、または認められない。
△:ΔYIが2.0以上3.0未満であり、
外観変化が明らかに見られるか、または若干見られる。
×:ΔYIが3.0超で外観変化が明らかに見られる。
【0126】
<<ヘイズ値の変化量(ΔHAZE)>>
◎:ΔHAZEが4.0以下である。
〇:ΔHAZEが4.0超7.0以下である。
×:ΔHAZEが7.0超である。
【0127】
<<全光線透過率(TT)>>
◎:TTが85.0以上であり、外観に変化がない。
〇:TTが75.0以上85.0未満であり、外観に変化がない。
△:TTが75.0以上85.0未満であり、外観に変化がある。
×:TTが75.0未満であり、外観に変化がある。
【0128】
<リターン性評価>
各実施例および各比較例の透光性建材1を破砕機等にて粉砕後、その粉体とポリカーボネート樹脂の粉体を3:7の比率で混合することで混合物を調製した。その後、この混合物を、建材製造装置500が備えるTダイ600に供給した後、Tダイ600の開口部601から、溶融状態とされたシートとしてシート成形部800に押出した。次いで、得られた成形体について、全光線透過率(TT)を次のように評価した。
【0129】
<<全光線透過率(TT)>>
◎:TTが85.0以上である。
〇:TTが75.0以上85.0未満である。
×:TTが75.0未満である。
【0130】
<高速面衝撃試験>
各実施例および各比較例の透光性建材1を、角材として切り出した後に、ASTM D3763に準拠した高速面衝撃試験機(インストロン社製「ダイナタップCEAST9350」)を用いて、室温(23℃)、ポンチ先端径1/2インチ(12.7mm)、衝突速度8.257m/sの条件で、ピークエネルギーを測定するとともに、破壊モードを観察した。
【0131】
以上のようにして得られた各実施例および各比較例の透光性建材1における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0132】
【0133】
表1に示したように、各実施例では、透光性建材1を、ポリカーボネート系樹脂を主材料として構成された基材2と、この基材2の両面側に、それぞれ、芳香環を有しない樹脂材料と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いて形成された、2つの樹脂層3とを有する積層体で構成することで、各実施例の透光性建材1を、前記黄変度が2.0[ΔYI]未満であり、さらに、前記高速面衝撃試験において、ピークエネルギーが120J以上となることを満足するものとすることができた。したがって、各実施例では、各比較例と比較して、耐衝撃性と耐候性との双方に優れた透光性建材1が得られる結果を示した。