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特開2022-190545抗菌・抗ウイルス剤組成物、それを用いた硬化膜及び積層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190545
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス剤組成物、それを用いた硬化膜及び積層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/00 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
C08F299/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098916
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】宗石 徹也
【テーマコード(参考)】
4J127
【Fターム(参考)】
4J127AA03
4J127BB031
4J127BB111
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC022
4J127BD441
4J127BD461
4J127BE241
4J127BE24Y
4J127BF151
4J127BF15X
4J127BF621
4J127BF62X
4J127BG091
4J127BG09X
4J127CB371
4J127DA23
4J127DA28
4J127DA61
4J127EA11
4J127FA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗菌・抗ウイルス性、抗菌・抗ウイルス即効性及び透明性に優れた硬化膜を形成することが可能であり、安定性に優れた抗菌・抗ウイルス剤組成物を提供する。
【解決手段】式(1)及び式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化性重合体組成物とを含有する抗菌・抗ウイルス剤組成物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化性重合体組成物とを含有することを特徴とする抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【化1】
〔式(1)中、Rは炭素数10~22のアルキル基又はアリール基を表し、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基を表し、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイドを表し、pは1~10の整数であり、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1又は2であってm+n=3であり、kは1又は2であり、Zはモノアルキルリン酸イオン、ジアルキルリン酸イオン、ハロゲンイオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン又は芳香族アニオンを表し、また、式(2)中、Rは炭素数10~22のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基を表し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を表し、R、R及びR10はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基を表し、Zはハロゲンイオンを表す。〕
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤が前記活性エネルギー線硬化性重合体組成物100質量部に対して0.1~50質量部含まれていることを特徴とする請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【請求項3】
活性エネルギー線重合開始剤を更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物の活性エネルギー線硬化物であることを特徴とする硬化膜。
【請求項5】
部材と、前記部材の表面に配置された請求項4に記載の硬化膜からなる層とを備えていることを特徴とする積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス剤組成物、並びに、抗菌・抗ウイルス性硬化膜及び積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、人が接触する部材(構造体)に対する抗菌・抗ウイルス加工の必要性が高まっている。このような部材(構造体)に対する抗菌・抗ウイルス加工技術としては、抗菌・抗ウイルス作用を有する組成物を部材の表面にコーティングし、抗菌・抗ウイルス性膜を形成する方法が知られている。
【0003】
例えば、国際公開第2014/184989号(特許文献1)には、酸化チタン等の光触媒粒子と亜酸化銅粒子とバインダー樹脂と有機溶剤とを含有するコーティング組成物が記載されている。また、特開2010-168578号公報(特許文献2)には、一価の銅化合物を含む抗ウイルス性塗料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/184989号
【特許文献2】特開2010-168578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属酸化物粒子を含有する抗菌・抗ウイルス性組成物においては、金属酸化物粒子が凝集して沈殿しやすく、保存安定性に劣り、また、金属成分が熱変色して塗膜の透明性が低下するという問題があった。さらに、金属酸化物粒子は、抗菌・抗ウイルス性が十分なものであっても、抗菌・抗ウイルス即効性に劣るという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、抗菌・抗ウイルス性、抗菌・抗ウイルス即効性及び透明性に優れた硬化膜を形成することが可能であり、安定性に優れた抗菌・抗ウイルス剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、活性エネルギー線硬化性重合体組成物に特定の第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤を配合することによって、前記活性エネルギー線硬化性重合体組成物の安定性及び硬化膜の透明性を維持した状態で、前記活性エネルギー線硬化性重合体組成物に優れた抗菌・抗ウイルス性及び抗菌・抗ウイルス即効性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化性重合体組成物とを含有することを特徴とするものである。
【0009】
【化1】
【0010】
前記式(1)中、Rは炭素数10~22のアルキル基又はアリール基を表し、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基を表し、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイドを表し、pは1~10の整数であり、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1又は2であってm+n=3であり、kは1又は2であり、Zはモノアルキルリン酸イオン、ジアルキルリン酸イオン、ハロゲンイオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン又は芳香族アニオンを表し、また、前記式(2)中、Rは炭素数10~22のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基を表し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を表し、R、R及びR10はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基を表し、Zはハロゲンイオンを表す。
【0011】
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、前記第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤が前記活性エネルギー線硬化性重合体組成物100質量部に対して0.1~50質量部含まれていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、活性エネルギー線重合開始剤を更に含有することが好ましい。
【0013】
本発明の硬化膜は、前記本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物の活性エネルギー線硬化物であり、本発明の積層構造体は、部材と、前記部材の表面に配置された前記本発明の硬化膜からなる層とを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抗菌・抗ウイルス性、抗菌・抗ウイルス即効性及び透明性に優れた硬化膜を形成することが可能であり、安定性に優れた抗菌・抗ウイルス剤組成物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
<抗菌・抗ウイルス剤組成物>
先ず、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物について説明する。本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、後述する式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化性重合体組成物とを含有すものである。このような本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、抗菌・抗ウイルス性に優れた塗膜(硬化膜)を形成することができ、様々な部材(構造体)に対して抗菌・抗ウイルス性を付与することが可能である。特に、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、金属系抗菌・抗ウイルス剤を含有する組成物に比べて、抗菌・抗ウイルス即効性に優れた塗膜を形成することができる。さらに、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、金属系抗菌・抗ウイルス剤を含有する組成物に比べて、抗菌・抗ウイルス剤が分離沈降せず、安定性に優れており、また、塗膜形成時に変色しにくく、透明性に優れた塗膜を形成することが可能である。
【0017】
〔抗菌・抗ウイルス剤〕
本発明に用いられる抗菌・抗ウイルス剤は、第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物からなるものである。前記第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物は部材(構造体)の表面において抗菌・抗ウイルス性を発現する。このような抗菌・抗ウイルス性を発現する第4級アンモニウムカチオン基としては、シラン系のアンモニウムカチオン基、ポリオキシアルキレンアルキルアンモニウムカチオン基、アルキルアンモニウムカチオン基等が挙げられる。前記第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物においては、このような抗菌・抗ウイルス性を発現する第4級アンモニウムカチオン基が1分子中に1つ以上含まれていればよい。また、前記第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物は低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
【0018】
前記第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物において、第4級アンモニウムカチオン基の対イオンとなるアニオンとしては、特に制限はなく、例えば、モノアルキルリン酸イオン、ジアルキルリン酸イオン、ハロゲンイオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、芳香族アニオン等が挙げられる。また、芳香族アニオンとしては、例えば、パラトルエンスルホン酸のアニオン残基、キシレンスルホン酸のアニオン残基、安息香酸のアニオン残基、アルキルベンゼンスルホン酸のアニオン残基等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる抗菌・抗ウイルス剤は、具体的には、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の第4級アンモニウム塩からなるものである。
【0020】
【化2】
【0021】
前記式(1)中、Rは炭素数10~22のアルキル基又はアリール基を表す。Rの炭素数が前記範囲から逸脱すると、抗菌・抗ウイルス性が低下しやすい。また、Rの炭素数としては、12~18が好ましい。
【0022】
前記式(1)中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基を表し、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイドを表し、pは1~10の整数である。これらの基のうち、抗菌・抗ウイルス性が向上するという観点から、メチル基が好ましい。
【0023】
前記式(1)中、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を表す。これらの基のうち、抗菌・抗ウイルス性が向上するという観点から、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基が好ましく、ヒドロキシエチル基がより好ましい。
【0024】
前記式(1)中、Zはモノアルキルリン酸イオン、ジアルキルリン酸イオン、ハロゲンイオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン又は芳香族アニオンを表す。これらのイオンのうち、抗菌・抗ウイルス性が向上するという観点から、モノアルキルリン酸イオン、ジアルキルリン酸イオンが好ましい。また、モノアルキルリン酸イオン及びジアルキルリン酸イオンのアルキル基の炭素数としては1~12が好ましく、1~6がより好ましく、2~4が特に好ましい。また、前記芳香族アニオンとしては、パラトルエンスルホン酸のアニオン残基、キシレンスルホン酸のアニオン残基、安息香酸のアニオン残基、アルキルベンゼンスルホン酸のアニオン残基等が挙げられる。
【0025】
このような前記式(1)で表される第4級アンモニウム塩としては、例えば、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらの第4級アンモニウム塩の中でも、抗菌・抗ウイルス性が向上するという観点から、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩が好ましい。
【0026】
前記式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に1又は2であってm+n=3であり、kは1又は2である。
【0027】
また、前記式(2)中、Rは炭素数10~22のアルキル基を表す。Rの炭素数が前記範囲から逸脱すると、抗菌・抗ウイルス性が低下しやすい。また、Rの炭素数としては、12~18が好ましい。Rを構成するアルキル基としては、例えば、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ウンエイコシル基、ドエイコシル基、トリエイコシル基、テトラエイコシル基等が挙げられる。
【0028】
前記式(2)中、R及びRはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基を表し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を表し、R、R及びR10はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基を表す。また、Zはハロゲンイオンを表し、例えば、塩素イオン、臭素イオン等が挙げられるが、抗菌・抗ウイルス性が向上するという観点から、塩素イオンが好ましい。
【0029】
このような前記式(2)で表される第4級アンモニウム塩としては、例えば、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
前記メトキシシラン系第4級アンモニウム塩としては、例えば、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。これらのメトキシシラン系第4級アンモニウム塩の中でも、抗菌・抗ウイルス性が向上するという観点から、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドが好ましい。
【0031】
また、前記エトキシシラン系第4級アンモニウム塩としては、例えば、オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。これらのエトキシシラン系第4級アンモニウム塩の中でも、抗菌・抗ウイルス性が向上するという観点から、テトラデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドが好ましい。
【0032】
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、前記式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物からなる少なくとも1種の第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤のみが含まれていてもよいが、本発明の効果が得られる範囲において、前記第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤のほかに、他の抗菌・抗ウイルス剤が含まれていてもよい。
【0033】
〔活性エネルギー線硬化性重合体組成物〕
本発明に用いられる活性エネルギー線硬化性重合体組成物は、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を含有するものであり、紫外線等の活性エネルギー線により短時間で重合し硬化する特性を持つものである。このようなラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、3次元的網目構造を形成しやすいという観点から、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を1分子内に2つ以上有する化合物であることが好ましい。
【0034】
前記ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、ポリオール、ポリイソシアネート、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む原料の反応物であるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー;活性エネルギー線反応性モノマー;ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアクリル基を有する化合物;ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアリル基を有する化合物;マレイミド基を有する化合物等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの総称であり、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を意味する。
【0035】
また、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、アクリル基を有する化合物、アリル基を有する化合物、マレイミド基を有する化合物については、分子量が500以上50,000以下であることが好ましい。これらの化合物において、分子量が前記下限未満になると、塗膜(硬化膜)と部材(構造体)との密着性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、活性エネルギー線硬化性重合体組成物の粘度が高くなりすぎて作業性が悪くなる傾向にある。
【0036】
(ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー)
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、ポリオール、ポリイソシアネート、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む原料の反応物である。このようなポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。以下に、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの原料の各成分について説明する。
【0037】
(ポリオール)
ポリオールは、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物である。前記ポリオールとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリオレフィンポリオール、シリコンポリオール、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族系ポリオール等が挙げられる。これらのポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらのポリオールの中でも、硬化膜の耐候性、機械的強度、耐摩耗性が向上するという観点から、ポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0038】
ポリオールの総使用量に対するポリカーボネートポリオールの使用量としては、硬化膜の硬度及び耐候性が良好になるという観点から、25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上が更に好ましい。
【0039】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイドなどの炭素数2~4のアルキレンオキサイドの単独付加重合物又は共付加重合物(ブロック共重合でも、ランダム共重合でもかまわない)であるポリオール等が挙げられる。
【0040】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール類とカーボネート類との脱アルコール反応、脱フェノール反応等で得られるものが挙げられる。ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらのポリオール類は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。カーボネート類としては、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。これらのカーボネート類は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなポリオール類とカーボネート類との組合せからなるポリカーボネートポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0041】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、二塩基酸と、上述のポリオール類との重縮合反応により得られるものが挙げられる。二塩基酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの二塩基酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような二塩基酸とポリオール類との組合せからなるポリエステルポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0042】
ポリエーテルエステルポリオールとしては、前記ポリエステルポリオールに環状エーテルを開環重合した化合物や、前記ポリエーテルポリオールと前記ジカルボン酸とを重縮合した化合物が挙げられ、中でも、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートが好ましい。
【0043】
ポリオレフィンポリオールは、2個以上の水酸基を有するポリオレフィンである。前記ポリオレフィンポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。前記ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、及びポリイソプレンポリオールが挙げられる。
【0044】
シリコンポリオールは、2個以上の水酸基を有するシリコーンである。前記シリコンポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。前記シリコンポリオールとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンポリオールが挙げられる。
【0045】
脂肪族ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、2,3,5-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等が挙げられる。
【0046】
脂環式ポリオールとしては、シクロプロパンジオール、シクロプロパンジメタノール、シクロプロパンジエタノール、シクロプロパンジプロパノール、シクロプロパンジブタノール、シクロペンタンジオール、シクロペンタンジメタノール、シクロペンタンジエタノール、シクロペンタンジプロパノール、シクロペンタンジブタノール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、シクロヘキサンジプロパノール、シクロヘキサンジブタノール、シクロヘキセンジオール、シクロヘキセンジメタノール、シクロヘキセンジエタノール、シクロヘキセンジプロパノール、シクロヘキセンジブタノール、シクロヘキサジエンジオール、シクロヘキサジエンジメタノール、シクロヘキサジエンジエタノール、シクロヘキサジエンジプロパノール、シクロヘキサジエンジブタノール、水添ビスフェノールA、トリシクロデカンジオール、アダマンチルジオール等が挙げられる。
【0047】
これらの脂肪族ポリオールや脂環式ポリオールの中でも、得られる硬化膜の耐候性、機械的強度が向上するという観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の水酸基間の炭素数が1~4のポリオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等の水酸基が脂環式構造を挟んで対称な位置に存在している脂環式ポリオールが特に好ましい。
【0048】
芳香族系ポリオールとしては、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、ビスフェノール-A等が挙げられる。
【0049】
また、N-メチルジエタノールアミン等のジアルカノールアミン;ペンタエリスリトール;ソルビトール;マンニトール;グリセリン;トリメチロールプロパン等もその他のポリオール成分として使用することができる。
【0050】
(ポリイソシアネート)
本発明に用いられるポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基及びイソシアネート基を含む置換基の一方又は両方(「イソシアネート基類」とも言う)を有する化合物である。ポリイソシアネートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、1種のポリイソシアネートにおいて、イソシアネート基類は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
イソシアネート基を含む置換基としては、例えば1個以上のイソシアネート基を含む、炭素数1~5のアルキル基、アルケニル基、又はアルコキシル基が挙げられる。イソシアネート基を含む置換基としての前記アルキル基等の炭素数としては1~3が好ましい。
【0052】
ポリイソシアネートの数平均分子量としては、硬化膜の強度と弾性率とのバランスの観点から、100以上が好ましく、150以上がより好ましく、また、1,000以下が好ましく、500以下がより好ましい。ポリイソシアネートの数平均分子量は、単独の単量体からなるポリイソシアネートの場合には化学式からの計算値、2種以上の単量体からなるポリイソシアネートの場合にはNCO%からの計算値によって求めることができる。
【0053】
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式構造を有するポリイソシアネート、及び芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0054】
脂肪族ポリイソシアネートは、脂肪族構造とそれに結合する2以上のイソシアネート基類とを有する化合物である。脂肪族ポリイソシアネートは、硬化膜の耐候性を高め、かつ屈曲性を付与する観点から好ましい。脂肪族ポリイソシアネートにおける脂肪族構造としては特に限定はされないが、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキレン基が好ましい。このような脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、及びダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、及びトリス(イソシアネートヘキシル)イソシアヌレート等の脂肪族トリイソシアネートが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0055】
本発明に用いられるポリイソシアネートとしては、硬化膜の機械的強度、耐汚染性の点から、脂環式構造を有するポリイソシアネートを含むものが好ましい。脂環式構造を有するポリイソシアネートは、脂環式構造とそれに結合する2以上のイソシアネート基類とを有する化合物である。脂環式構造を有するポリイソシアネートにおける脂環式構造としては特に限定はされないが、炭素数3~6のシクロアルキレン基が好ましい。脂環式構造を有するポリイソシアネートとしては、例えば、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等の脂環式構造を有するジイソシアネート、及びトリス(イソシアネートイソホロン)イソシアヌレート等の脂環式構造を有するトリイソシアネートが挙げられる。これらの脂環式構造を有するポリイソシアネートのうち、硬化膜の強度及び密着性を高める観点や、経時での着色も少なく、透明性を必要とする材料に好適に用いることができるという観点から、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、及びイソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0056】
芳香族ポリイソシアネートは、芳香族構造とそれに結合する2以上のイソシアネート基類とを有する化合物である。芳香族ポリイソシアネートにおける芳香族構造としては特に限定はされないが、炭素数6~13の2価の芳香族基が好ましい。このような芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、及びm-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。これらの芳香族ポリイソシアネートのうち、硬化膜の機械的強度を高める観点から、トリレンジイソシアネート、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0057】
(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)
本発明に用いられるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、1個以上の水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基と炭素数1~30の炭化水素基とを有する化合物である。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンとの付加反応物、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンとの付加反応物、グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との付加反応物、グリコールのモノ(メタ)アクリレート体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、得られる硬化膜の機械的強度の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基と水酸基との間に炭素数が2~4のアルキレン基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが特に好ましい。前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの分子量としては、40以上が好ましく、80以上がより好ましく、また、得られる硬化膜の機械的強度の観点から、800以下が好ましく、400以下がより好ましい。なお、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが前記の付加反応体や重合体である場合には、前記分子量は数平均分子量である。
【0059】
(その他の成分)
本発明に用いられるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、その原料に、本発明の効果が得られる範囲において、他の成分を更に含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、鎖延長剤が挙げられる。
【0060】
前記鎖延長剤は、イソシアネート基と反応する2個以上の活性水素を有する化合物である。このような鎖延長剤としては数平均分子量500以下の低分子量ジアミン化合物等が挙げられ、例えば、2,4-もしくは2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,2,4-もしくは2,4,4-トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;及び1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン(水添MDA)、イソプロピリデンシクロヘキシル-4,4’-ジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリシクロデカンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。これらの鎖延長剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0061】
(分子量測定法)
2個以上の水酸基を有する化合物であるポリオール等の前述の原料化合物の分子量又は数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラム(以下、GPCと略す)において分子量分布を有するポリオール以外の化合物については、化学式から分子量を算出したり、GPCによって数平均分子量を求めたりすることができる。また、GPCにおいて分子量分布を有するポリオールについては、その数平均分子量はOH価により求めることができる。
【0062】
(GPCによる数平均分子量の算出)
GPC(東ソー株式会社製「HLC-8120GPC」)を用いて、溶媒としてテトラヒドロフラン、標準サンプルとしてポリスチレン、カラムとしてTSK gel superH1000+H2000+H3000を使用して、送液速度0.5cm/分、カラムオーブン温度40℃で数平均分子量を測定する。
【0063】
(ポリイソシアネートの数平均分子量のNCO%による算出)
三角フラスコにポリイソシアネート1gと0.5モル/Lのジブチルアミントルエン溶液20mlを入れ、アセトン100mlで希釈した後に25℃で30分間反応させる。その後、0.5モル/Lの塩酸水溶液で滴定する。また、三角フラスコにポリイソシアネートを入れなかった以外は上記と同様に滴定を行い、ブランクを求める。そして、以下の式によりNCO%及び数平均分子量を算出する。
NCO%={(B1-A1)×0.5×42.02}/(1×1000)×100
A1:ポリイソシアネート含有溶液の滴定に要した塩酸水溶液の量(ml)
B1:ポリイソシアネートを含有しないブランク溶液の滴定に要した塩酸水溶液の量(ml)
ポリイソシアネートの数平均分子量=(42.02/NCO%)×NCO基の数
なお、前記式において、「NCO基の数」とは、1分子のポリイソシアネートに含まれるNCO基の数である。
【0064】
(ポリオールの数平均分子量のOH価による算出)
三角フラスコにポリオール2gと0.5モル/Lの無水フタル酸ピリジン溶液を入れ、100℃で2時間反応させた後にアセトン150mlで希釈する。その後、0.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。また、三角フラスコにポリオールを入れなかった以外は上記と同様に滴定を行い、ブランクを求める。そして、以下の式によりOH価及び数平均分子量を算出する。
OH価={(B2-A2)×0.5×56.11×1000}/(2×1000)
A2:ポリオール含有溶液の滴定に要した水酸化ナトリウム水溶液の量(ml)
B2:ポリオールを含有しないブランク溶液の滴定に要した水酸化ナトリウム水溶液の量(ml)
ポリオールの数平均分子量={(56.11×1000)/OH価}×官能基の数
なお、前記式において、「官能基の数」とは、1分子のポリオールに含まれるOH基の数である。
【0065】
(ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー)
本発明に用いられるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーにおける全イソシアネート基の量と水酸基及びアミノ基等のイソシアネート基と反応する全官能基の量は、通常、理論的に当モルであり、モル%で表される。
【0066】
すなわち、前記ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーにおける前記ポリイソシアネート、ポリオール、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びその他の原料化合物の使用量は、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーにおける全イソシアネート基の量とそれと反応する全官能基の量とが当モル、又はイソシアネート基に対する官能基のモル%で50モル%以上200モル%以下になる量である。
【0067】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーを製造するときは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの使用量を、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2個以上の水酸基を有するポリオール化合物、及び鎖延長剤等のイソシアネートと反応する官能基を含む化合物の総使用量に対して、通常10モル%以上(好ましくは15モル%以上、更に好ましくは25モル%以上)、また、通常70モル%以下(好ましくは50モル%以下)とする。この割合に応じて、得られるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの分子量を制御することができる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの割合が多くなるにつれて、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの分子量は小さくなる傾向となり、割合が少なくなるにつれて、分子量は大きくなる傾向となる。
【0068】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーが鎖延長剤を含む反応物の場合には、ポリオールと鎖延長剤とを合わせた化合物の総使用量に対するポリオールの使用量としては、液安定性が向上するという観点から、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、95モル%以上が特に好ましい。
【0069】
(ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造方法)
本発明に用いられるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、前記ポリイソシアネートに、前記ポリオールと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを付加反応させることにより製造することができる。ここで、前記鎖延長剤等を原料に併用するときは、本発明に用いられるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、前記ポリイソシアネートに、前述のそれ以外の他の原料化合物を付加反応させることにより製造することができる。これらの付加反応は、公知の何れの方法でも行うことができる。このような方法としては、例えば、以下の(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート以外の成分を、イソシアネート基が過剰となるような条件下で反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た後、このイソシアネート末端ウレタンプレポリマーと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを反応させるプレポリマー法。
(2)全成分を同時に一括添加して反応させるワンショット法。
(3)前記ポリイソシアネートと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを先に反応させ、分子中に(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基とを同時に有するウレタン(メタ)アクリレートプレポリマーを合成した後、得られたプレポリマーに、それら以外の原料成分を反応させる方法。
【0070】
これらのうち、(1)の方法によれば、前記ウレタンプレポリマーが前記ポリイソシアネートと前記ポリオールとをウレタン化反応させてなり、前記ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとをウレタン化反応させてなる構造を有することから、分子量が制御可能で両末端にアクリロイル基が導入可能である。このような観点から、(1)の方法が好ましい。
【0071】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時において、粘度の調整を目的に溶剤を使用することができる。溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、本発明の効果が得られる範囲において、公知の溶剤のいずれも使用することができる。このような溶剤としては、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、イソオクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒が挙げられる。これらの溶剤のうち、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンが好ましい。溶剤は、通常、活性エネルギー線硬化性重合体組成物100質量部に対して300質量部以下で使用可能である。
【0072】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時においては、反応速度が高くなり、製造効率が向上するという観点から、反応温度は通常20℃以上(好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上)である。また、アロハナート化反応等の副反応が起きにくくなるという観点から、反応温度は通常120℃以下(好ましくは100℃以下)である。また、反応液に溶剤が入っている場合にはその溶媒の沸点以下が好ましく、(メタ)アクリレートが入っている場合には(メタ)アクリロイル基の反応防止の観点から70℃以下が好ましい。反応時間は通常5~20時間程度である。
【0073】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時における付加反応触媒としては、本発明の効果が得られる範囲から選ぶことができ、例えば、ジブチルスズラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクトエート、ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラ(アセチルアセトナート)、ジオクタノキシチタンジオクタネート、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)等に代表される公知のウレタン重合触媒が挙げられる。付加反応触媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの付加反応触媒のうち、環境適応性、触媒活性及び保存安定性の観点から、ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)が好ましい。
【0074】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時に、反応液に(メタ)アクリロイル基が入っている場合には、重合禁止剤を併用することができる。このような重合禁止剤としては、本発明の効果が得られる範囲から選ぶことができ、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノエチルエーテル、ジブチルヒドロキシトルエン等のフェノール類、フェノチアジン、ジフェニルアミン等のアミン類、ジブチルジチオカルバミン酸、銅等の銅塩、酢酸マンガン等のマンガン塩、ニトロ化合物、ニトロソ化合物等が挙げられる。重合禁止剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの重合禁止剤のうち、フェノール類が好ましい。
【0075】
また、各原料成分の仕込み比は、上述の本発明に用いられるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの組成と実質的に同等(好ましくは同一)である。
【0076】
(活性エネルギー線反応性モノマー)
活性エネルギー線反応性モノマーとしては、例えば、芳香族ビニル系モノマー類、ビニルエステルモノマー類、ビニルエーテル類、アリル化合物類、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリレート類が挙げられ、具体的には、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル系モノマー類;酢酸ビニル、酪酸ビニル、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、アジピン酸ジビニル等のビニルエステルモノマー類;エチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ジアリルフタレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のアリル化合物類;アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、メチレンビスアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-i-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸モルフォリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸-2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル等の単官能(メタ)アクリレート;及びジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール(n=5~14)、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール(n=5~14)、ジ(メタ)アクリル酸-1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ポリブチレングリコール(n=3~16)、ジ(メタ)アクリル酸ポリ(1-メチルブチレングリコール)(n=5~20)、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,9-ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ビルフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエポキシジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの活性エネルギー線反応性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0077】
これらの活性エネルギー線反応性モノマーの中でも、本発明の活性エネルギー線硬化性重合体組成物に塗布性が要求される用途では、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の分子内に環構造を有する単官能(メタ)アクリレートが好ましい。一方、得られる硬化膜の機械的強度が求められる用途では、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,9-ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0078】
(ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアクリル基を有する化合物)
アクリル基を有するポリエーテルを構成するポリエーテルとしては、炭素数3~6の有機基がエーテル結合を介して繰り返したものが好ましい。アクリル基を有するポリエーテルの分子量としては、500以上5000以下が好ましく、500以上2000以下がより好ましい。このようなアクリル基を有するポリエーテルは、ポリエーテルポリオールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応により得ることができる。
【0079】
アクリル基を有するポリエステルを構成するポリエステルとしては、炭素数3~6の有機基がエステル結合を介して繰り返したものが好ましい。アクリル基を有するポリエステルの分子量としては、500以上5000以下が好ましく、500以上2000以下がより好ましい。このようなアクリル基を有するポリエステルは、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応により得ることができる。
【0080】
アクリル基を有するポリカーボネートを構成するポリカーボネートとしては、炭素数3~6の有機基がカーボネート結合を介して繰り返したものが好ましい。アクリル基を有するポリカーボネートの分子量としては、500以上5000以下が好ましく、500以上2000以下がより好ましい。このようなアクリル基を有するポリカーボネートは、ポリカーボネートポリオールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応により得ることができる。
【0081】
アクリル基を有するポリ(メタ)アクリレートを構成するポリ(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートとの共重合体、水酸基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体、グリシジル基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体等が好ましい。アクリル基を有するポリ(メタ)アクリレートの分子量としては、500以上25000以下が好ましい。このようなアクリル基を有するポリ(メタ)アクリレートは、カルボキシ基を有する共重合体(例えば、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートとの共重合体)と水酸基を有する(メタ)アクリレート又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレートとの反応、水酸基を有する共重合体(例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体)と(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応、或いは、グリシジル基を有する共重合体(例えば、グリシジル基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体)と(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応によって、得ることができる。
【0082】
アクリル基を有するポリブタジエンは、カルボキシ基を有するポリブタジエンと水酸基を有する(メタ)アクリレート又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレートとの反応、水酸基を有するポリブタジエンと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応、或いは、無水マレイン酸を付加したポリブタジエンと水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応により得ることができる。
【0083】
アクリル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体は、カルボキシ基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体と水酸基を有する(メタ)アクリレート又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレートとの反応によって得ることができる。
【0084】
(ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアリル基を有する化合物)
アリル基を有する化合物としては、ジアリルエステルとジオールとの反応物等が挙げられる。前記ジアリルエステルとしては、ジカルボン酸又はその誘導体とアリルアルコールとの反応物等が挙げられ、前記ジカルボン酸としては、しゅう酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。前記ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0085】
(マレイミド基を有する化合物)
マレイミド基を有する化合物としては、例えば、N,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン等のビスマレイミド化合物;ダイマー酸ジアミンと無水マレイン酸との反応物;マレイミド酢酸、マレイミドカプロン酸等のマレイミド化アミノ酸とポリオールとの反応物等が挙げられ、中でも、ダイマー酸ジアミンと無水マレイン酸との反応物;マレイミド酢酸、マレイミドカプロン酸等のマレイミド化アミノ酸とポリオールとの反応物が好ましい。前記マレイミド化アミノ酸は、無水マレイン酸とアミノ酢酸又はアミノカプロン酸とを反応させることによって得られるものである。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリメタクリレートポリオールが好ましく、芳香族環を含まないものが特に好ましい。芳香族環を含む場合にはマレイミド基を有する化合物が固形あるいは高粘度になり、また、硬化物とした場合の部材との密着性が低下するからである。
【0086】
(活性エネルギー線硬化性重合体組成物)
本発明に用いられる活性エネルギー線硬化性重合体組成物においては、これらのラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物は1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0087】
また、高硬度でありながら屈曲性に優れ、さらには部材(構造体)に対する密着性が良好な硬化膜が得られ、また、活性エネルギー線硬化性重合体組成物の幅広い粘度調整が可能であるという観点から、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、アクリル基を有する化合物、アリル基を有する化合物、及びマレイミド基を有する化合物のうちの1種又は2種以上と、活性エネルギー線反応性モノマーとを含有する活性エネルギー線硬化性重合体組成物が好ましい。
【0088】
さらに、この活性エネルギー線硬化性重合体組成物においては、組成物全体に対して、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、アクリル基を有する化合物、アリル基を有する化合物、及びマレイミド基を有する化合物のうちの1種又は2種以上を1質量%以上45質量%以下の割合で含有し、活性エネルギー線反応性モノマーを55質量%以上99質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0089】
〔活性エネルギー線重合開始剤〕
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、主に、紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射で進行する重合反応の開始効率を向上させること等を目的として、活性エネルギー線重合開始剤が更に含まれていることが好ましい。このような活性エネルギー線重合開始剤としては、光によりラジカルを発生する性質を有する化合物である光ラジカル重合開始剤が一般的であり、本発明の効果が得られる範囲において、公知の何れの光ラジカル重合開始剤でも使用可能である。前記重合開始剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0090】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエート、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、2-エチルアントラキノン、t-ブチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチルベンゾイルホルメート、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、及び2-ヒドロキシ-1-〔4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル〕-2-メチル-プロパン-1-オンが挙げられる。
【0091】
これらの中でも、硬化速度が速く、架橋密度を十分に増大させることができるという観点から、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、及び2-ヒドロキシ-1-〔4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル〕-2-メチル-プロパン-1-オンが好ましく、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、及び2-ヒドロキシ-1-〔4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル〕-2-メチル-プロパン-1-オンがより好ましい。
【0092】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、ラジカル重合性基と共にエポキシ基等のカチオン重合性基を有する化合物が含まれる場合には、重合開始剤として、前記光ラジカル重合開始剤と共に光カチオン重合開始剤が含まれていてもよい。光カチオン重合開始剤も、本発明の効果が得られる範囲において、公知の何れのものも使用可能である。
【0093】
これらの光重合開始剤の含有量としては、開始剤分解物による機械的強度の低下が起こり難いという観点から、活性エネルギー線反応性成分の合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0094】
〔光増感剤〕
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、前記光ラジカル重合開始剤と光増感剤とを併用してもよい。光増感剤は、重合開始剤と同じ目的で用いることができる。光増感剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、本発明の効果が得られる範囲において、公知の光増感剤のいずれをも使用することができる。このような光増感剤としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸アミル、及び4-ジメチルアミノアセトフェノンが挙げられる。前記光増感剤の含有量としては、架橋密度の低下による機械的強度の低下が起こり難いという観点から、活性エネルギー線反応性成分の合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0095】
〔その他の添加剤〕
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、本発明の効果が得られる範囲において、同様の用途に用いられる組成物に添加される種々の材料をその他の添加剤として用いることができる。その他の添加剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなその他の添加剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、雲母、酸化亜鉛、酸化チタン、マイカ、タルク、カオリン、金属酸化物、金属繊維、鉄、鉛、金属粉等のフィラー類;炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、C60等のフラーレン類等の炭素材料類(フィラー類、炭素材料類を総称して「無機成分」と称することがある);酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、HALS、耐指紋剤、表面親水化剤、帯電防止剤、滑り性付与剤、可塑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤等の改質剤類;顔料、染料、色相調整剤等の着色剤類;及び前記ラジカル重合性の炭素―炭素二重結合を有する化合物以外のモノマー又は/及びそのオリゴマー、又は無機成分の合成に必要な硬化剤、触媒、硬化促進剤類等が挙げられる。
【0096】
このようなその他の添加剤の含有量としては、架橋密度の低下による機械的強度の低下が起こり難いという観点から、活性エネルギー線反応性成分の合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0097】
〔抗菌・抗ウイルス剤組成物〕
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、前記第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤の含有量としては、特に制限はないが、硬化膜の硬度の低下が少なく、優れた抗菌・抗ウイルス性が得られるという観点から、活性エネルギー線硬化性重合体組成物100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下が好ましく、0.2質量部以上30質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上20質量部以下が特に好ましい。
【0098】
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物には、塗膜を形成するためのコーティング方式に応じて、粘度の調整を目的として、溶剤を配合することができる。溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、本発明の効果が得られる範囲において、公知の溶剤のいずれも使用することができる。このような溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロパノール、イソブタノール、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンが好ましい。溶剤は、通常、活性エネルギー線硬化性重合体組成物100質量部に対して400質量部以下で使用可能である。また、溶剤を配合した本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、前記第4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤の濃度としては、特に制限はないが、組成物全体に対して、0.01質量%以上30質量%以下が好ましく、0.02質量%以上20質量%以下がより好ましく、0.04質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0099】
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物の粘度は、前記組成物の用途や使用態様等に応じて適宜調節することができるが、取り扱い性、塗工性、成形性、立体造形性等の観点から、E型粘度計(ローター1°34’×R24)により25℃で測定される粘度が、10mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましく、また、100,000mPa・s以下であることが好ましく、50,000mPa・s以下であることがより好ましい。粘度の調節は、前記ラジカル重合性の炭素―炭素二重結合を有する化合物の組合せや含有量、その他の成分の種類や含有量等によって適宜調整することができる。
【0100】
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、抗菌・抗ウイルス剤と、活性エネルギー線硬化性重合体組成物と、必要に応じて、活性エネルギー線重合開始剤、光増感剤、その他の添加剤、溶媒とを混合することによって製造することができる。混合方法としては特に限定はなく、従来公知の混合、分散方法等が挙げられる。ホモミキサー、ディスパー、二本ロール、三本ロール、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペブルミル、トロンミル、サンドグラインダー、セグバリアトライター、遊星式攪拌機、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ニーダー、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散機を用いてもよい。
【0101】
本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物の塗工方法としては、バーコーター法、アプリケーター法、カーテンフローコーター法、ロールコーター法、スプレー法、グラビアコーター法、コンマコーター法、リバースロールコーター法、リップコーター法、ダイコーター法、スロットダイコーター法、エアーナイフコーター法、ディップコーター法等の公知の方法を適用可能であるが、その中でもバーコーター法及びグラビアコーター法が好ましい。
【0102】
<硬化膜及び積層構造体>
次に、本発明の硬化膜及び積層構造体について説明する。本発明の硬化膜は、前記本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物の活性エネルギー線硬化物であり、抗菌・抗ウイルス性、抗菌・抗ウイルス即効性及び透明性に優れている。このような本発明の硬化膜は、前記本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物からなる塗膜に活性エネルギー線を照射し、前記塗膜を硬化させることによって形成することができる。
【0103】
前記活性エネルギー線としては、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等が挙げられる。装置コストや生産性の観点から、電子線又は紫外線を利用することが好ましく、光源としては、電子線照射装置、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、Arレーザー、He-Cdレーザー、固体レーザー、キセノンランプ、高周波誘導水銀ランプ、太陽光等が適している
活性エネルギー線の照射量は、活性エネルギー線の種類に応じて適宜設定することができ、例えば、電子線照射で硬化する場合、その照射量としては1~10Mradが好ましい。また、紫外線照射の場合は50~1,000mJ/cmが好ましい。硬化時の雰囲気は、空気、窒素やアルゴン等の不活性ガスでもよい。また、フィルムやガラスと金属金型との間の密閉空間で照射してもよい。
【0104】
本発明の硬化膜の膜厚としては、目的とされる用途に応じて適宜決定することができるが、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μmで以上が特に好ましく、また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましく、20μm以下が最も好ましい。硬化膜の膜厚が前記下限未満になると、三次元加工後の意匠性や機能性の発現が不十分となる場合があり、他方、前記上限を超えると、内部硬化性、三次元加工適性が不十分となる場合がある。
【0105】
本発明の積層構造体は、部材と、前記部材の表面に配置された前記本発明の硬化膜からなる層とを備えるものである。この積層構造体は、優れた抗菌・抗ウイルス性及び抗菌・抗ウイルス即効性を有するものである。また、部材が透明性を有するものである場合には、透明性にも優れている。
【0106】
前記部材の材質としては、特に制限はなく、例えば、プラスチック、ガラス、金属、木材、塗装塗膜、合成皮革等が挙げられる。また、部材の形状も、特に制限はなく、積層構造体の用途に応じて適宜決定することができる。
【0107】
本発明の積層構造体においては、前記本発明の硬化膜からなる層が前記部材の表面に直接配置されていてもよいし、前記本発明の硬化膜からなる層と前記部材との間に、前記硬化膜及び前記部材以外の他の層が更に配置されていてもよい。また、本発明の積層構造体においては、前記本発明の硬化膜からなる層と前記部材とからなる積層体の外側に、前記硬化膜及び前記部材以外の他の層が更に配置されていてもよい。
【0108】
このような本発明の積層構造体の製造方法としては、例えば、(1)前記部材上に、前記本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物からなる塗膜を含む全ての層を未硬化の状態で積層した後、活性エネルギー線を照射して硬化させる方法が挙げられる。複数の層を未硬化の状態で積層する方法としては、特に制限はないが、下層を未硬化の状態で形成した後、その上に上層を未硬化の状態で形成する逐次塗工法や、多重スリットを用いて2層以上の層を未硬化の状態で同時に形成する同時多層塗工法等の公知の塗工方法が挙げられる。また、積層構造体が前記本発明の硬化膜からなる層と他の層とを備えている場合(すなわち、複数の層を備えている場合)においては、(2)前記部材上に、下層を未硬化の状態で積層し、活性エネルギー線を照射して硬化又は半硬化させた後、その上に上層を未硬化の状態で積層し、再度活性エネルギー線を照射して硬化させる方法や、(3)離型フィルムやベースフィルムの上に、未硬化又は半硬化の状態で各層を形成し、これらの層を貼り合わせた後、活性エネルギー線を照射して硬化させる方法を採用してもよい。これらの方法のうち、層間密着性が向上するという観点から、前記方法(1)を採用することが好ましい。
【0109】
本発明の積層構造体の製造する際の前記部材に対する前記本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物の付着量としては、特に制限はないが、硬化膜の硬度の低下が少なく、優れた抗菌・抗ウイルス性が得られるという観点から、前記部材に対する抗菌・抗ウイルス剤の付着量が0.01g/m以上20g/m以下となる量が好ましく、0.02g/m以上10g/m以下となる量がより好ましい。また、優れた抗菌・抗ウイルス性と優れた透明性及び部材に対する密着性とを兼ね備える硬化膜が得られるという観点から、前記部材に対する活性エネルギー線硬化性重合体組成物の付着量が0.05g/m以上50g/m以下であることが好ましく、0.1g/m以上20g/m以下であることがより好ましい。
【0110】
<用途>
上述したように、本発明の硬化膜は、抗菌・抗ウイルス性、抗菌・抗ウイルス即効性及び透明性に優れたものであるが、さらに、強靭性、柔軟性、耐擦傷性、薬品性等にも優れたものである。このため、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、プラスチックやガラスに対するコーティング剤や、レンズの成型剤、封止剤、接着剤等の様々な分野に用いることができる。
【0111】
したがって、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、エラストマー、塗料、繊維、接着剤、床材、シーラント、医療用材料、人工皮革、コーティング剤等に広く用いることが可能であり、これらの用途において、多様な特性を発現させることができる。特に、人工皮革、合成皮革、医療用材料、床材、コーティング剤等の用途に、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いると、抗菌・抗ウイルス性に加え、耐摩擦性、耐ブロッキング性に優れるため、引っ掻き等による傷がつきにくく、摩擦による劣化が少ないという良好な表面特性を付与することができる。
【0112】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、熱可塑性エラストマーとしての用途にも適用できる。例えば、食品、医療分野で用いる空圧機器、塗装装置、分析機器、理化学機器、定量ポンプ、水処理機器、産業用ロボット等におけるチューブやホース類、スパイラルチューブ、消防ホース等に使用できる。また、丸ベルト、Vべルト、平ベルト等のベルトとして、各種伝動機構、紡績機械、荷造り機器、印刷機械等に用いることができる。さらに、履物のヒールトップや靴底、カップリング、パッキング、ポールジョイント、ブッシュ、歯車、ロール等の機器部品、スポーツ用品、レジャー用品、時計のベルト等に使用できる。また、オイルストッパー、ギアボックス、スペーサー、シャーシー部品、内装品、タイヤチェーン代替品等の自動車部品にも用いることができる。さらに、キーボードフィルム、自動車用フィルム等のフィルム、カールコード、ケーブルシース、ベロー、搬送ベルト、フレキシブルコンテナー、バインダー、合成皮革、ディピンイング製品、接着剤等に使用できる。
【0113】
さらに、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、楽器、仏壇、家具、化粧合板、スポーツ用品等の木材製品に適用できる。また、自動車補修用にも使用できる。
【0114】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、例えば、プラスチックバンパー用塗料、ストリッパブルペイント、磁気テープ用コーティング剤、床タイル、床材、紙、木目印刷フィルム等のオーバープリントワニス、木材用ワニス、高加工用コイルコート、光ファイバー保護コーティング、ソルダーレジスト、金属印刷用トップコート、蒸着用ベースコート、食品缶用ホワイトコート等に適用できる。
【0115】
さらに、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、接着剤として、食品包装、靴、履物、磁気テープバインダー、化粧紙、木材、構造部材、液晶パネル内部のOCR材料等に適用できる。
【0116】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、鉄、銅、アルミニウム、フェライト、メッキ鋼板等の金属材料、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、ガラス、セラミック等の無機材料を効率良く接着することができる。
【0117】
さらに、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、バインダーとして、磁気記録媒体、インキ、鋳物、焼成煉瓦、グラフト材、マイクロカプセル、粒状肥料、粒状農薬、ポリマーセメントモルタル、レジンモルタル、ゴムチップバインダー、再生フォーム、ガラス繊維サイジング等に使用可能である。
【0118】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、繊維加工剤の成分として、防縮加工、防皺加工、撥水加工等に使用できる。
【0119】
さらに、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、シーラント・コーキングとして、コンクリート打ち壁、誘発目地、サッシ周り、壁式PC目地、ALC目地、ボード類目地、複合ガラス用シーラント、断熱サッシシーラント、自動車用シーラント等に使用できる。
【0120】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、医療用材料としての使用が可能であり、血液適合材料として、チューブ、カテーテル、人工心臓、人工血管、人工弁等、また、使い捨て素材としてカテーテル、チューブ、バッグ、手術用手袋、人工腎臓ポッティング材料等に使用できる。
【0121】
さらに、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、UV硬化型塗料、電子線硬化型塗料、フレキソ印刷版用の感光性樹脂組成物、光硬化型の光ファイバー被覆材組成物等の原料として用いることができる。
【0122】
これらの用途の中でも、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物、硬化膜及び積層構造体は、折り曲げ可能なフィルム等のフレキシブル材料にコーティング剤として使用することが好ましく、例えば、携帯電話、モニター、タブレット等のタッチパネル等の電子機器やメガネレンズ等の光学機器に有効に適用することができる。
【0123】
また、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、これを硬化させて硬化膜とした場合、抗菌・抗ウイルス性に加え、硬度に優れる硬化膜を与えることができ、本発明の硬化膜を各種部材への被膜として用いることにより、表面保護性を付与することが可能となる。
【実施例0124】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した抗ウイルス剤及び活性エネルギー線硬化性重合体組成物の構成成分を以下に示す。
【0125】
(抗ウイルス剤1)
反応容器に、トリメトキシシリルプロピルクロライド199質量部、ジメチルオクタデシルアミン298質量部及びエタノール744質量部を入れ、窒素雰囲気下、150℃で20時間反応させて、3-(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライドを40質量%含むエタノール溶液(抗ウイルス剤1)1241質量部を得た。
【0126】
(抗ウイルス剤2)
反応容器に、n-ブタノール3モルと無水リン酸1モルとから調製したモノ体/ジ体の混合比が約1/1のアルキルリン酸エステル143質量部及び水500質量部を入れ、ラウリルジメチルアミン260質量部を添加して中和した。この中和物にエチレンオキサイド100質量部を添加し、100℃で3時間反応させて、ラウリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステルを45質量%含む組成物(抗ウイルス剤2)1000質量部を得た。これをラウリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステルの濃度が15質量%となるように水で希釈した。なお、前記ラウリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステルは、前記式(1)中のRが炭素数12のアルキル基であり、Rがメチル基であり、Rがヒドロキシエチル基であり、nが1であり、mが2であり、kが1であり、Zがジブチルリン酸イオンである化合物1と、前記式(1)中のRが炭素数12のアルキル基であり、Rがメチル基であり、Rがヒドロキシエチル基であり、nが1であり、mが2であり、kが2であり、Zがブチルリン酸イオンである化合物2との混合物(化合物1:化合物2(モル比)=1:1)である。
【0127】
(抗ウイルス剤3)
反応容器に、ヘキサデシルジメチルアミン322質量部を入れ、50℃に冷却しながら、ジエチル硫酸178質量部を滴下により徐々に添加した。滴下終了後、50℃で1時間反応させて、ヘキサデシルエチルジメチルアンモニウム-エチル硫酸塩を含む組成物(抗ウイルス剤3)500質量部を得た。
【0128】
(抗ウイルス剤4)
ジデシルジメチルアンモニウムメチル硫酸塩(ライオン株式会社製「リポカード210-80MSPG」)。
【0129】
(抗ウイルス剤5)
銀ジルコニウム化合物(東亞合成株式会社製「ノバロンIV-1000」)。
【0130】
(抗ウイルス剤6)
銀イオン担持ゼオライト(株式会社シナネンニューセラミック製「シナネンゼオミックHD-10N」)
(抗ウイルス剤7)
酸化銅(I)ナノパウダー(US Research Nanomaterials社製、平均一次粒子径:18nm)15質量部をメチルエチルケトン84質量部に添加し、ビーズミルで分散しながら、分散剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK-111」)1質量部を徐々に添加して、固形分濃度が15質量%の亜酸化銅粒子分散液(抗ウイルス剤7)を調製した。なお、動的光散乱法により測定した亜酸化銅粒子の平均二次粒子径は110nmであった。
【0131】
(ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素/酸素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、原料ジオールとして3-メチル-1,5-ペンタンジオールと1,6-ヘキサンジオールを9/1(モル比)で用いたポリカーボネートポリオール(株式会社クラレ製「クラレポリオールC-1090」、数平均分子量:976、平均水酸基価:115mgKOH/g)62.8g、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(エボニック・ジャパン株式会社製「VESTANAT IPDI」、数平均分子量:222)28.5g、メチルエチルケトン23.6g、ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)0.009gを加え、80~90℃でポリカーボネートポリオールを反応させた。反応の終了はNCO%を測定することにより確認した。
【0132】
反応終了後、60℃まで冷却した後、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(ナカライテスク株式会社製「ヒドロキノンモノメチルエーテル」)0.096g、ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)0.05g、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして2-ヒドロキシエチルアクリレート(株式会社日本触媒製「アクリル酸2-ヒドロキシエチル」、数平均分子量:116)14.9gを滴下して80~90℃でヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを反応させて、ポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの比率(モル比)が1:2:2であるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーを得た。反応の終了はNCO%を測定することにより確認した。
【0133】
(ペンタエリスリトール・トリ/テトラアクリレート)
東亜合成株式会社製「アロニックス306」。
【0134】
((メタ)アクリル変性オリゴマー)
ラジカル重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有するポリマー(三井化学株式会社製「オレスターRA-3057」、重量平均分子量:14000、官能基数:2)。
【0135】
(光重合開始剤)
ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASFジャパン株式会社製「Omnirad184」)。
【0136】
(実施例1~8、比較例1~3及び参考例1)
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、ペンタエリスリトール・トリ/テトラアクリレート、(メタ)アクリル変性オリゴマー、光重合開始剤、抗菌・抗ウイルス剤を表1に示す配合量で混合し、さらに、メチルエチルケトンを混合して、有効成分量(触媒と溶媒以外の成分量)が50質量%の抗菌・抗ウイルス剤組成物を調製した。なお、表1に示した配合量は各成分の固形分量に換算した値である。また、光重合開始剤の配合量は、前記有効成分100質量部に対して5.3質量部となる量とした。
【0137】
得られた抗菌・抗ウイルス剤組成物を硬化膜厚が5μmとなるように100μm厚のコロナ処理ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製「コスモシャインA4160」)上に塗工し、得られた塗膜を熱風乾燥機を用いて50℃で10分間乾燥させた。得られた乾燥塗膜に紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製「EYE GRANDAGE ECS-301」、光源:メタルハライド)により500mJ/cmで紫外線を照射して前記乾燥塗膜を硬化させ、前記ポリエステルフィルム上に硬化膜を備える積層体を得た。
【0138】
<抗ウイルス性評価>
ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2)ATCC VR-1679を使用し、得られた積層体について、ISO21702:2019に従って、抗ウイルス試験(試料とウイルス液との接触時間:24時間)を行った。なお、未加工試料としては、参考例1で得られた積層体(硬化膜に抗菌・抗ウイルス剤が含まれていない積層体)を使用した。各硬化膜の抗ウイルス活性値を下記式:
抗ウイルス活性値=(U-U)-(A-U
〔前記式中、Uは接種直後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm)であり、Uは接種から24時間後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm)であり、Aは接種から24時間後の抗ウイルス加工処理した試料(前記積層体)から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm)である。〕
により求め、得られた硬化膜の抗ウイルス性能を評価した。その結果を表1に示す。抗ウイルス活性値が高いものほど、抗ウイルス性に優れていることを意味し、本実施例においては、抗ウイルス活性値Rが2.0以上である場合に抗ウイルス性が良好であると判断した。
【0139】
<抗ウイルス即効性評価>
試料とウイルス液との接触時間を30分間に変更した以外は上記と同様にして前記抗ウイルス試験を行い、各硬化膜におけるウイルス残存率を下記式:
ウイルス残存率(%)=(A/U)×100
〔前記式中、Uは接種直後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm)であり、Aは接種から24時間後の抗ウイルス加工処理した試料(前記積層体)から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm)である。〕
により求めた。その結果を表1に示す。ウイルス残存率が小さいほど、抗ウイルス即効性に優れていることを意味する。
【0140】
<ヘーズ値(曇価)>
JIS K7136:2000に従い、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、型式:HGM-2DP)を用いて前記積層体のヘーズ値(ΔH(%))を測定した。その結果を表1に示す。ヘーズ値が小さいものほど、透明性に優れていることを意味する。
【0141】
<抗菌・抗ウイルス剤組成物の安定性評価>
前記抗菌・抗ウイルス剤組成物(有効成分量:50質量%)の調製4時間後の組成物中の沈降物の発生と変色の有無を目視により観察し、下記基準により評価した。
A:沈降なし及び変色なし。
B:沈降なし、変色あり。
C:沈降物の発生あり。
【0142】
【表1】
【0143】
表1に示したように、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物(実施例1~8)は、安定性に優れており、また、抗ウイルス性、抗ウイルス即効性及び透明性に優れた硬化膜を形成できることが確認された。特に、抗菌・抗ウイルス剤を含まない活性エネルギー線硬化性重合体組成物(参考例1)と比較すると明らかなように、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物(実施例1~8)は、活性エネルギー線硬化性重合体組成物の安定性及びその硬化膜の透明性を維持した状態で、抗ウイルス性及び抗ウイルス即効性に優れた硬化膜を形成できることがわかった。
【0144】
一方、抗ウイルス剤として銀ジルコニウム化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤組成物(比較例1)及び亜酸化銅粒子を含有する抗菌・抗ウイルス剤組成物(比較例3)は、硬化膜の抗ウイルス性は優れているものの、抗ウイルス即効性が不十分であり、また、抗ウイルス剤を配合することによって、安定性及び硬化膜の透明性が低下することが確認された。
【0145】
また、抗ウイルス剤として銀イオン担持ゼオライトを含有する抗菌・抗ウイルス剤組成物(比較例2)は、硬化膜の抗ウイルス性及び抗ウイルス即効性が不十分であり、また、抗ウイルス剤を配合することによって、安定性及び硬化膜の透明性も低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0146】
以上説明したように、本発明によれば、安定性に優れた抗菌・抗ウイルス剤組成物を得ることが可能となる。また、この抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いることによって、抗菌・抗ウイルス性、抗菌・抗ウイルス即効性及び透明性に優れた硬化膜を形成することが可能となる。
【0147】
したがって、本発明の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、各種部材(構造体)に抗菌性・抗ウイルス性を付与することが可能なコーティング組成物等として有用である。また、本発明の積層構造体は、優れた抗菌・抗ウイルス性及び抗菌・抗ウイルス即効性を有していることから、各種用途における抗菌性・抗ウイルス性部材等として有用である。