(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190556
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20221219BHJP
B66C 23/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B66C13/22 M
B66C23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098927
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】内山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥラ ファラッグ
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】大久保 正基
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 仁士
【テーマコード(参考)】
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA02
3F204CA03
3F204EA01
3F204EA17
3F205AA07
3F205CA01
3F205DA01
(57)【要約】
【課題】目標位置および旋回動作中のうちの少なくとも一方における吊荷の荷振れを抑制しつつ吊荷を前記目標位置に効率的に移動させることが可能なクレーンを提供する。
【解決手段】クレーンは、目標速度演算部を備える。目標速度演算部は、ブーム16の長さと主巻ロープ50の長さとブーム16の起伏角とを含む旋回方向および半径方向のそれぞれについての吊荷の運動方程式と、旋回動作の経過時間を変数とした旋回体12の旋回角についての多項式関数であって前記経過時間について互いに異なる次数をそれぞれ含む複数の単項式からなる多項式関数とから、目標位置における吊荷の半径方向振れ角度および旋回方向振れ角度が所定の閾値角度よりも小さくかつ吊荷の目標位置への到達時間が最小となるように前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定し、前記目標位置に至るまでの旋回体12の経過時間に応じた目標速度を設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部本体と、
前記下部本体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部本体と、
前記上部本体に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持された起伏体基端部と前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部とを含む起伏体と、
前記起伏体先端部から垂下され吊荷に接続される吊荷ロープと、
所定の速度指令信号を受け付け、当該速度指令信号に応じた速度で前記上部本体を前記旋回中心軸回りに旋回させることが可能な旋回駆動部と、
前記起伏体基端部と前記起伏体先端部とを結ぶ方向である起伏体長手方向における当該起伏体の長さに対応する情報である起伏体長さ情報を取得する起伏体長さ情報取得部と、
前記上部本体の前記旋回中心軸回りの旋回角を検出する旋回角検出部と、
前記回転中心軸回りの前記起伏体の起伏角を検出する起伏角検出部と、
前記起伏体先端部と前記吊荷との間の前記吊荷ロープの長さに対応する情報であるロープ長さ情報を取得するロープ長さ情報取得部と、
前記吊荷が前記吊荷ロープによって吊り上げられた状態である初期状態から、前記上部本体の旋回動作によって前記吊荷を所定の目標位置まで前記旋回中心軸回りに移動させるための目標旋回角度を含む移動情報を受け付ける移動情報受付部と、
前記起伏体を前記上部本体の旋回方向に沿って見た場合における前記吊荷ロープの鉛直方向に対する角度を半径方向振れ角度、前記起伏体を前記上部本体の旋回動作の半径方向に沿って見た場合における前記吊荷ロープの鉛直方向に対する角度を旋回方向振れ角度とすると、少なくとも前記起伏体の長さと前記吊荷ロープの長さと前記起伏角とを含む前記旋回方向および前記半径方向のそれぞれについての前記吊荷の運動方程式と、前記旋回動作の経過時間を変数とした前記上部本体の前記旋回角についての多項式関数であって前記経過時間について互いに異なる次数をそれぞれ含む複数の単項式からなる多項式関数とに基づいて、前記目標位置および前記旋回動作中のうちの少なくとも一方における前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度が所定の閾値角度よりも小さくかつ前記吊荷の前記目標位置への到達時間が最小となるように前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定し、前記目標位置に至るまでの前記上部本体の前記経過時間に応じた目標速度を設定する、目標速度設定部と、
前記目標速度設定部によって設定された前記目標速度に対応する前記速度指令信号を生成し出力する指令信号生成部と、
を備えるクレーン。
【請求項2】
前記指令信号生成部は、前記生成した速度指令信号を前記旋回駆動部に入力する、請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記目標速度設定部は、前記目標位置における前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度が所定の閾値角度よりも小さくなるように前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定する、請求項1または2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記目標速度設定部は、更に、前記吊荷が前記目標位置に到達した際の前記上部本体の旋回速度がゼロであり、前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度のそれぞれの時間変化である半径方向振れ角速度および旋回方向振れ角速度が前記目標位置において所定の閾値角速度以下になるように、前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定する、請求項1乃至3の何れか1項に記載のクレーン。
【請求項5】
前記目標速度設定部は、更に、前記旋回動作中において、前記上部本体の移動速度が予め設定された最大速度以下であり、前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度が所定の移動中最大角度以下であり、前記半径方向振れ角速度および前記旋回方向振れ角速度が所定の移動中最大角速度以下になるように、前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定する、請求項1乃至4の何れか1項に記載のクレーン。
【請求項6】
前記目標速度設定部は、前記吊荷の運動方程式として、以下の式I、式IIに基づいて、前記目標速度を設定する、請求項1乃至5の何れか1項に記載のクレーン。
θ’’1=2×θ’2×θ’4+θ2×θ’’4+θ1×θ’4
2+(L/l)×θ’4
2×sinθ3-(g/l)×θ1 ・・・(式I)
θ’’2=-(L/l)×θ’’4×sinθ3-2×θ’1×θ’4-θ1×θ’’4+θ2×θ’4
2-(g/l)θ2 ・・・(式II)
(ただし、θ1:吊荷の半径方向振れ角度、θ2:吊荷の旋回方向振れ角度、θ’1:吊荷の半径方向振れ角速度、θ’2:吊荷の旋回方向振れ角速度、θ’’1:吊荷の半径方向振れ角加速度、θ’’2:吊荷の旋回方向振れ角加速度、θ3:鉛直方向に対する前記起伏体の起伏角、θ’4:前記上部本体の旋回角速度、θ’’4:前記上部本体の旋回角加速度、g:重力加速度、L:前記起伏体の長さ、l:前記起伏体の先端部から前記吊荷までの前記吊荷ロープの長さ)
【請求項7】
前記目標速度設定部は、前記吊荷の運動方程式として、以下の式III、式IVに基づいて、前記目標速度を設定する、請求項1乃至5の何れか1項に記載のクレーン。
θ’’1=2×θ’2×θ’4+(L/l)×θ’4
2×sinθ3-(g/l)×θ1 ・・・(式III)
θ’’2=-(L/l)×θ’’4×sinθ3-(g/l)θ2 ・・・(式IV)
(ただし、θ1:吊荷の半径方向振れ角度、θ2:吊荷の旋回方向振れ角度、θ’2:吊荷の旋回方向振れ角速度、θ’’1:吊荷の半径方向振れ角加速度、θ’’2:吊荷の旋回方向振れ角加速度、θ3:鉛直方向に対する前記起伏体の起伏角、θ’4:前記上部本体の旋回角速度、θ’’4:前記上部本体の旋回角加速度、g:重力加速度、L:前記起伏体の長さ、l:前記起伏体の先端部から前記吊荷までの前記吊荷ロープの長さ)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷を移動させることが可能なクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーンとして、下部走行体と、上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能なように下部走行体に支持された上部旋回体と、ブームやジブなどの起伏体と、を備えたものが知られている。起伏体は、水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように上部旋回体の前部に取り付けられている。また、起伏体の先端部から垂下された吊荷ロープにはフックが装着されており、当該フックに吊荷が接続されることで、吊荷が吊り上げられる。このように吊荷が吊り上げられた状態で、上部旋回体が旋回すると、吊荷を旋回方向に移動させることができる。
【0003】
特許文献1には、クレーンを用いて、予め設定された搬送経路に沿って荷物を自動搬送する際に、荷物の荷振れを抑制することが可能なクレーンの制御方法が開示されている。当該制御方法では、前記搬送経路が複数のノード(点)からなる点群データによって設定される。そして、制御装置が、ユーザーが希望する始点から終点までの搬送所要時間を、隣接するノード同士の区間距離にそれぞれ割り振ることで、各区間の目標搬送時間を設定する。更に、制御装置は、設定された目標搬送時間に応じて各区間の目標搬送速度を設定する。当該目標搬送速度は区間同士の境界において不連続となり荷振れが発生しうるため、制御装置は、このようにステップ状に変化する目標搬送速度の加速区間および減速区間に、目標値フィルタを適用する。当該目標値フィルタは、逆動力学に基づく高次のローパスフィルタであり、上記のようにステップ状に変化する目標搬送速度を非ステップ状の目標搬送速度に変換することで、荷物の荷振れを低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、作業の条件によっては目標位置における吊荷の荷振れを抑制することが難しい場合がある。具体的に、上記の技術では、ユーザーが希望する搬送所要時間に基づいて各区間の目標搬送時間がそれぞれ設定されるため、各区間の目標搬送速度が前記搬送所要時間に拘束される。このため、希望される搬送所要時間が比較的短い場合には、ステップ状の目標搬送速度を、逆動力学に基づく高次のローパスフィルタによって、荷振れが生じないような非ステップ状の目標搬送速度に変換することが難しく、目標位置における荷振れの抑制が困難になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、目標位置および旋回動作中のうちの少なくとも一方における吊荷の荷振れを抑制しつつ前記吊荷を前記目標位置に効率的に移動させることが可能なクレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるのはクレーンである。当該クレーンは、下部本体と、上部本体と、起伏体と、吊荷ロープと、旋回駆動部と、起伏体長さ情報取得部と、旋回角検出部と、ロープ長さ情報取得部と、移動情報受付部と、目標速度設定部と、指令信号生成部とを備える。上部本体は、前記下部本体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持されている。起伏体は、前記上部本体に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように支持された起伏体基端部と前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部とを含む。吊荷ロープは、前記起伏体先端部から垂下され吊荷に接続される。旋回駆動部は、所定の速度指令信号を受け付け、当該速度指令信号に応じた速度で前記上部本体を前記旋回中心軸回りに旋回させることが可能である。起伏体長さ情報取得部は、前記起伏体基端部と前記起伏体先端部とを結ぶ方向である起伏体長手方向における当該起伏体の長さに対応する情報である起伏体長さ情報を取得する。旋回角検出部は、前記上部本体の前記旋回中心軸回りの旋回角を検出する。起伏角検出部は、前記回転中心軸回りの前記起伏体の起伏角を検出する。ロープ長さ情報取得部は、前記起伏体先端部と前記吊荷との間の前記吊荷ロープの長さに対応する情報であるロープ長さ情報を取得する。移動情報受付部は、前記吊荷が前記吊荷ロープによって吊り上げられた状態である初期状態から、前記上部本体の旋回動作によって前記吊荷を所定の目標位置まで前記旋回中心軸回りに移動させるための目標旋回角度を含む移動情報を受け付ける。前記起伏体を前記上部本体の旋回方向に沿って見た場合における前記吊荷ロープの鉛直方向に対する角度を半径方向振れ角度、前記起伏体を前記上部本体の旋回動作の半径方向に沿って見た場合における前記吊荷ロープの鉛直方向に対する角度を旋回方向振れ角度とすると、目標速度設定部は、少なくとも前記起伏体の長さと前記吊荷ロープの長さと前記起伏角とを含む前記旋回方向および前記半径方向のそれぞれについての前記吊荷の運動方程式と、前記旋回動作の経過時間を変数とした前記上部本体の前記旋回角についての多項式関数であって前記経過時間について互いに異なる次数をそれぞれ含む複数の単項式からなる多項式関数とに基づいて、前記目標位置および前記旋回動作中のうちの少なくとも一方における前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度が所定の閾値角度よりも小さくかつ前記吊荷の前記目標位置への到達時間が最小となるように前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定し、前記目標位置に至るまでの前記上部本体の前記経過時間に応じた目標速度を設定する。指令信号生成部は、前記目標速度設定部によって設定された前記目標速度に対応する前記速度指令信号を生成し出力する。
【0008】
本構成によれば、目標速度設定部が、吊荷の運動方程式および多項式関数に基づいて、目標位置または旋回移動中における2方向における吊荷の振れ角度が閾値角度よりも小さくかつ吊荷の到達時間が最小となるように、上部本体の目標速度を設定することができる。このため、オペレータによって予め移動所要時間が設定される場合のように上部本体の目標速度が前記移動所要時間の影響を受けることがなく、目標位置または旋回移動中における振れの抑制を満たしつつ、可能な限り最小限の移動時間で吊荷を移動させることができる。したがって、目標位置または旋回移動中における吊荷の荷振れを抑制しつつ吊荷を前記目標位置に効率的に移動させることが可能となる。
【0009】
上記の構成において、前記指令信号生成部は、前記生成した速度指令信号を前記旋回駆動部に入力するものでもよい。
【0010】
本構成によれば、指令信号生成部が生成した速度指令信号に基づいて、目標位置における荷振れを抑制しつつ吊荷を目標位置に移動させるように、上部本体を自動で旋回させることができる。
【0011】
上記の構成において、前記目標速度設定部は、前記目標位置における前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度が所定の閾値角度よりも小さくなるように前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定するものでもよい。
【0012】
上記の構成において、前記目標速度設定部は、更に、前記吊荷が前記目標位置に到達した際の前記上部本体の旋回速度がゼロであり、前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度のそれぞれの時間変化である半径方向振れ角速度および旋回方向振れ角速度が前記目標位置において所定の閾値角速度以下になるように、前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定するものでもよい。
【0013】
上記の構成において、前記目標速度設定部は、更に、前記旋回動作中において、前記上部本体の移動速度が予め設定された最大速度以下であり、前記半径方向振れ角度および前記旋回方向振れ角度が所定の移動中最大角度以下であり、前記半径方向振れ角速度および前記旋回方向振れ角速度が所定の移動中最大角速度以下になるように、前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定するものでもよい。
【0014】
上記の構成において、前記目標速度設定部は、前記吊荷の運動方程式として、以下の式I、式IIに基づいて、前記目標速度を設定するものでもよい。
θ’’1=2×θ’2×θ’4+θ2×θ’’4+θ1×θ’4
2+(L/l)×θ’4
2×sinθ3-(g/l)×θ1 ・・・(式I)
θ’’2=-(L/l)×θ’’4×sinθ3-2×θ’1×θ’4-θ1×θ’’4+θ2×θ’4
2-(g/l)θ2 ・・・(式II)
(ただし、θ1:吊荷の半径方向振れ角度、θ2:吊荷の旋回方向振れ角度、θ’1:吊荷の半径方向振れ角速度、θ’2:吊荷の旋回方向振れ角速度、θ’’1:吊荷の半径方向振れ角加速度、θ’’2:吊荷の旋回方向振れ角加速度、θ3:鉛直方向に対する前記起伏体の起伏角、θ’4:前記上部本体の旋回角速度、θ’’4:前記上部本体の旋回角加速度、g:重力加速度、L:前記起伏体の長さ、l:前記起伏体の先端部から前記吊荷までの前記吊荷ロープの長さ)
【0015】
上記の構成において、前記目標速度設定部は、前記吊荷の運動方程式として、以下の式III、式IVに基づいて、前記目標速度を設定するものでもよい。
θ’’1=2×θ’2×θ’4+(L/l)×θ’4
2×sinθ3-(g/l)×θ1 ・・・(式III)
θ’’2=-(L/l)×θ’’4×sinθ3-(g/l)θ2 ・・・(式IV)
(ただし、θ1:吊荷の半径方向振れ角度、θ2:吊荷の旋回方向振れ角度、θ’2:吊荷の旋回方向振れ角速度、θ’’1:吊荷の半径方向振れ角加速度、θ’’2:吊荷の旋回方向振れ角加速度、θ3:鉛直方向に対する前記起伏体の起伏角、θ’4:前記上部本体の旋回角速度、θ’’4:前記上部本体の旋回角加速度、g:重力加速度、L:前記起伏体の長さ、l:前記起伏体の先端部から前記吊荷までの前記吊荷ロープの長さ)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、目標位置および旋回動作中のうちの少なくとも一方における吊荷の荷振れを抑制しつつ吊荷を前記目標位置に効率的に移動させることが可能なクレーンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るクレーンの側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るクレーンの旋回制御を説明するための模式的な斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るクレーンのブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るクレーンの旋回制御のフローチャートである。
【
図5】上部本体の旋回速度プロファイルの一例である。
【
図6】本発明の実施例における半径方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例における旋回方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例における旋回角度の時間推移を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施例における旋回角速度の時間推移を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施例における半径方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施例における旋回方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図12】本発明の実施例における旋回トルクの時間推移を示すグラフである。
【
図13】本発明の実施例における旋回角度の時間推移を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施例における旋回角速度の時間推移を示すグラフである。
【
図15】本発明の実施例における旋回角度の時間推移を示すグラフである。
【
図16】本発明の実施例における旋回角速度の時間推移を示すグラフである。
【
図17】本発明の実施例における半径方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図18】本発明の実施例における半径方向振れ角速度の時間推移を示すグラフである。
【
図19】本発明の実施例における旋回方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図20】本発明の実施例における旋回方向振れ角速度の時間推移を示すグラフである。
【
図21】本発明の実施例における半径方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図22】本発明の実施例における半径方向振れ角速度の時間推移を示すグラフである。
【
図23】本発明の実施例における旋回方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
【
図24】本発明の実施例における旋回方向振れ角速度の時間推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るクレーン10の側面図である。なお、
図1には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、本実施形態に係るクレーン10の構造および後記の旋回制御を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係るクレーンの移動方向や使用態様などを限定するものではない。
【0019】
クレーン10は、走行体14(下部本体)と、走行体14に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された旋回体12(上部本体)と、ブーム16(起伏体)と、マスト20と、を備える。また、旋回体12の後部には、クレーン10のバランスを調整するためのカウンタウエイト13が積載されている。また、旋回体12の前端部には、キャブ15が備えられている。キャブ15は、クレーン10の運転席に相当する。
【0020】
図1に示されるブーム16は、いわゆるラチス型であり、下部ブーム16A(起伏体基端部)と、一または複数(図例では3個)の中間ブーム16B,16C、16Dと、上部ブーム16E(前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部)とから構成される。具体的に、下部ブーム16Aは、旋回体12の前部に水平な回転中心軸(第1回転中心軸)回りに起伏方向に回動可能となるように支持される。中間ブーム16B,16C,16Dは、その順に下部ブーム16Aの先端側に着脱可能に継ぎ足される。上部ブーム16Eは中間ブーム16Dの先端側に着脱可能に継ぎ足される。下部ブーム16Aは、その下端部に備えられたブームフットピン16Sにおいて旋回体12に回動可能に軸支される。
【0021】
また、ブーム16は、アイドラシーブ34S、36Sを有する。アイドラシーブ34S、36Sは、下部ブーム16Aの後側面にそれぞれ回転可能に支持されている。
【0022】
ただし、本発明ではブームの具体的な構造は限定されない。例えば、当該ブームは、中間部材がないものでもよく、また、上記とは中間部材の数が異なるものでもよい。更に、ブームは、単一の部材で構成されたものでもよい。
【0023】
マスト20は、基端及び回動端を有し、その基端が旋回体12に回動可能に連結される。マスト20の回動軸は、ブーム16の回動軸と平行でかつ当該ブーム16の回動軸のすぐ後方に位置している。すなわち、このマスト20はブーム16の起伏方向と同方向に回動可能である。
【0024】
更に、クレーン10は、左右一対のブームバックストップ23と、左右一対のブーム用ガイライン24と、を備える。
【0025】
左右一対のブームバックストップ23はブーム16の下部ブーム16Aの左右両側部に設けられる。これらのブームバックストップ23は、ブーム16が
図1に示される起立姿勢まで到達した時点で、旋回体12の前後方向の中央部に当接する。この当接によって、ブーム16が強風等で後方に煽られることが規制される。
【0026】
左右一対のブーム用ガイライン24は、マスト20の回動端をブーム16の先端部に連結する。この連結は、マスト20の回動とブーム16の回動とを連携させる。
【0027】
また、クレーン10は、各種ウインチを更に備える。具体的に、クレーン10は、ブーム16を起伏させるためのブーム起伏用ウインチ30と、吊荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34及び補巻用ウインチ36とを備える。また、クレーン10は、ブーム起伏用ロープ38と、ブーム16の先端部から垂下され吊荷に接続される主巻ロープ50(吊荷ロープ)と、補巻ロープ60とを備える。本実施形態に係るクレーン10では、主巻用ウインチ34および補巻用ウインチ36がブーム16の基端近傍部位に据え付けられる。また、ブーム起伏用ウインチ30が旋回体12に据え付けられる。これらのウインチ30、32、34、36の位置は、上記に限定されるものではない。
【0028】
ブーム起伏用ウインチ30は、ブーム起伏用ロープ38の巻き取り及び繰り出しを行う。そして、この巻き取り及び繰り出しによりマスト20が回動するようにブーム起伏用ロープ38が配索される。具体的には、マスト20の回動端部及び旋回体12の後端部にはそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック40,42が設けられ、ブーム起伏用ウインチ30から引き出されたブーム起伏用ロープ38がシーブブロック40,42間に掛け渡される。従って、ブーム起伏用ウインチ30がブーム起伏用ロープ38の巻き取りや繰り出しを行うことにより、両シーブブロック40,42間の距離が変化し、これによってマスト20さらにはこれと連動するブーム16が起伏方向に回動する。
【0029】
主巻用ウインチ34は、主巻ロープ50による吊荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。主巻ロープ50(吊荷ロープ)は、ブーム16の先端部から垂下され、吊荷に接続される。ブーム16の先端部には主巻用ガイドシーブ54が配置され、当該主巻用ガイドシーブ54に隣接する位置に複数の主巻用ポイントシーブ56が幅方向に配列された主巻用シーブブロックが設けられている。主巻用ウインチ34から引き出された主巻ロープ50が、アイドラシーブ34S、主巻用ガイドシーブ54に順に掛けられ、かつ、シーブブロックの主巻用ポイントシーブ56と、吊荷用の主フック57に設けられたシーブブロックのシーブ58との間に掛け渡される。従って、主巻用ウインチ34が主巻ロープ50の巻き取りや繰り出しを行うと、両シーブ56,58間の距離が変わって、ブーム16の先端から垂下された主巻ロープ50に連結された主フック57の巻き上げ及び巻き下げが行われる。この結果、吊荷の巻き上げ、巻き下げが可能となる。
【0030】
同様にして、補巻用ウインチ36は、補巻ロープ60による吊荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。この補巻については、主巻用ガイドシーブ54と同軸に補巻用ガイドシーブ64が回転可能に設けられ、補巻用ガイドシーブ64に隣接する位置に不図示の補巻用ポイントシーブが回転可能に設けられている。補巻用ウインチ36から引き出された補巻ロープ60は、アイドラシーブ36S、補巻用ガイドシーブ64に順に掛けられ、かつ、補巻用ポイントシーブから垂下される。従って、補巻用ウインチ36が補巻ロープ60の巻き取りや繰り出しを行うと、補巻ロープ60の末端に連結された図略の吊荷用の補フックが巻き上げられ、または巻き下げられる。
【0031】
図2は、本実施形態に係るクレーン10の旋回制御を説明するための模式的な斜視図である。
図3は、本実施形態に係るクレーン10のブロック図である。
【0032】
図2では、説明のために、ブーム16の基端部が旋回体12の旋回中心軸上に位置するものとして示されている。
図2において、Lはブーム16の長さ、l(小文字のL)はブーム16の先端部から垂下された主巻ロープ50の吊荷LMまでの長さである。また、角度θ
1およびθ
2は、吊荷LMの荷振れ角度を示すものである。具体的に、角度θ
1は、
ブーム16を旋回体12の旋回方向に沿って見た場合における主巻ロープ50の鉛直方向に対する角度であり、半径方向振れ角度θ
1と称する(法線面における振れ角度)。一方、角度θ
2は、ブーム16を旋回体12の旋回動作の半径方向に沿って見た場合における主巻ロープ50の鉛直方向に対する角度であり、旋回方向振れ角度θ
2と称する(接線面における振れ角度)。なお、吊荷LMの振れ動作によっては、半径方向振れ角度θ
1および旋回方向振れ角度θ
2は、正の値だけではなく負の値もとる。
【0033】
角度θ
4は、旋回体12の前記旋回中心軸回りの旋回角であり、角度θ
3は、ブーム16の前記回転中心軸回りの起伏角であり、
図2では鉛直方向を基準として示している。また、
図2の座標系では、ブーム16の基端部を原点として、所定の水平方向(たとえば、走行体14の前方向)をX軸、当該X軸と直交する水平な方向をY軸、X軸およびY軸とそれぞれ直交する方向(鉛直方向)をZ軸としている。
【0034】
本実施形態では、
図2のように、ブーム16(起伏体)の先端部から垂下された吊荷LMが旋回体12の旋回動作(旋回角θ
4の変化)によって旋回移動される場合に、目標位置における吊荷LMの荷振れを抑制しつつ、吊荷LMを可及的に速やかに目標位置に移動させることを可能とする。
【0035】
図3を参照して、クレーン10は、制御部70と、旋回駆動部71と、ブーム駆動部72と、ウインチ駆動部73と、旋回操作部74と、ブーム操作部75と、ウインチ操作部76と、入力部81(移動情報受付部)と、旋回角検出部82と、起伏角検出部83と、ロープ長さ検出部84(ロープ長さ情報取得部)と、ブーム長さ取得部85(起伏体長さ情報取得部)と、吊荷荷重検出部86と、表示部87とを更に備える。
【0036】
旋回駆動部71は、所定の速度指令信号を受け付け、当該速度指令信号に応じた速度で旋回体12を前記旋回中心軸回りに旋回させることが可能である。具体的に、旋回駆動部71は、旋回体12を前記旋回中心軸回りに第1旋回方向および前記第1旋回方向とは反対の第2旋回方向にそれぞれ旋回させることが可能な駆動力を発生する。旋回駆動部71は、作動油の供給を受けることで旋回体12を旋回させる油圧式の旋回モータを含む。
【0037】
ブーム駆動部72は、ブーム起伏用ウインチ30を回転させるための駆動力を発生し、ブーム16を前記回転中心軸回りに回動することが可能とされている。ブーム駆動部72は、作動油の供給を受けることでブーム起伏用ウインチ30を回転させる油圧式の起伏モータを含む。
【0038】
ウインチ駆動部73は、主巻用ウインチ34を回転させるための駆動力を発生し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しを行うことで吊荷LMを地面に対して相対的に昇降させることが可能とされている。ウインチ駆動部73は、作動油の供給を受けることで主巻用ウインチ34を回転させる油圧式の吊荷モータを含む。なお、補巻用ウインチ36を回転させるための不図示のウインチ駆動部も同様に設けられている。
【0039】
旋回操作部74、ブーム操作部75およびウインチ操作部76は、キャブ15内に配置されており、オペレータによるクレーン10の各部材を駆動するための操作を受け付ける。
【0040】
旋回操作部74は、旋回駆動部71によって旋回体12を旋回駆動するための操作を受け付ける。旋回操作部74は、旋回体12を前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と旋回体12の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。
【0041】
ブーム操作部75は、ブーム駆動部72によってブーム16を起伏するための操作を受け付ける。ブーム操作部75は、ブーム16を起伏させるための起伏用位置とブーム16の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。前記起伏用位置では、ブーム16を起立させる起立方向とブーム16を倒伏させる倒伏方向への操作が可能である。
【0042】
ウインチ操作部76は、ウインチ駆動部73によって吊荷LMを昇降させるための操作を受け付ける。ウインチ操作部76は、吊荷LMを昇降させるための昇降用位置と吊荷LMの昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。前記昇降用位置では、吊荷LMを上昇させる上昇方向と吊荷LMを下降させる下降方向への操作が可能である。
【0043】
入力部81は、キャブ15内に配置されており、オペレータによるクレーン10の制御に関する情報の入力を受け付ける。一例として、入力部81は、タッチパネル式の入力装置や各種のスイッチ、ボタンなどを含む。入力部81は、吊荷LMが主巻ロープ50によって吊り上げられた状態である初期状態から、旋回体12の旋回動作によって吊荷LMを所定の目標位置まで前記旋回中心軸回りに移動させるための目標旋回角度θf4を含む移動情報を受け付ける。
【0044】
旋回角検出部82は、旋回体12(ブーム16)の旋回中心軸回りの旋回角θ4を検出および出力する。旋回角検出部82は、不図示のジャイロセンサ(IMUセンサ)と演算部とを含む。旋回角検出部82は、旋回体12の旋回中心軸まわりの角速度を前記ジャイロセンサで計測し、前記演算部が前記計測された角速度を時間に対して1回積分処理することで角度に換算し、当該角度を旋回角θ4として出力する。なお、旋回角検出部82の構造は上記に限定されるものではなく、公知の角度計、エンコーダなどでもよい。
【0045】
起伏角検出部83は、ブーム16の前記回転中心軸回りの起伏角θ3を検出および出力する。起伏角検出部83は、傾斜センサからなり、ブーム16の鉛直方向に対する相対角度を検出する。なお、起伏角検出部83は、その他の対象物に対する相対角度を検出するものでもよい。例えば、起伏角検出部83は、ブーム16の対地角(水平方向に対する相対角度)を検出し、90度から当該対地角を引くことで、上記の起伏角θ3を算出し、出力してもよい。また、起伏角検出部83は、公知の角度計などでもよい。
【0046】
ロープ長さ検出部84は、ブーム16の先端部と吊荷LMとの間の主巻ロープ50の長さ(l)に対応する情報であるロープ長さ情報を取得し出力する。本実施形態では、ブーム16の先端部の主巻用ポイントシーブ56と主フック57(シーブ58)との間の距離をロープ長さとして検出する。ロープ長さ検出部84は、主巻用ウインチ34の回転量を検出可能な回転量検出部と、主巻用ウインチ34の外周面上における主巻ロープ50の巻き層数を検出する巻き層検出部とを含む。ロープ長さ検出部84は、主巻用ウインチ34のウインチ径、前記回転量検出部が検出するウインチ回転量に加え、前記巻き層検出部が検出する主巻ロープ50の巻き層から推定される主巻用ウインチ34から繰りだされる主巻ロープ50の繰り出し量と、主巻用ポイントシーブ56とシーブ58のシーブブロックとの間における主巻ロープ50の掛け数とから、前記距離を算出し出力する。
【0047】
なお、主巻ロープ50の長さlの検出方法は、上記の態様に限定されるものではない。たとえば、ワイヤーを不図示のシーブで挟み込んで当該シーブの回転をエンコーダで計測することでロープ長さを検出する態様でも良いし、ブーム16の先端部(ブームトップ)から3次元LIDARで下方の領域をリアルタイムに計測することで吊荷を検知し、前記ブームトップから当該吊荷までの距離を計測することでロープ長さとしても良い。また、公知のステレオカメラや音波を用いて吊荷までの距離を計測し、ロープ長さを算出してもよい。この場合、距離計測の基準点は、ブームトップのようにブームの何れかの部分、クレーン本体、クレーン以外の地面等でもよい。更に、吊荷にGPSなど位置測定可能なセンサを取り付けることで、ロープ長さが算出されてもよい。
【0048】
ブーム長さ取得部85は、制御部70が実行する旋回体12の旋回制御において使用されるブーム16の長さ(L)に関する情報を取得する。すなわち、ブーム長さ取得部85は、ブーム16の基端部(起伏体基端部)と先端部(起伏体先端部)とを結ぶ方向であるブーム長手方向(起伏体長手方向)におけるブーム16の長さに対応する情報(起伏体長さ情報)を取得および出力する。ブーム長さ取得部85は、クレーン10の製造時に前記ブーム16の長さを記憶する記憶部でもよいし、前記ブーム16の長さに関する情報をオペレータから受け付ける入力部でもよい。このため、ブーム長さ取得部85の機能は、
図3の制御部70の記憶部704または入力部81が担ってもよい。更に、旋回体12に互いに異なる長さの複数のブーム16が選択的に装着される場合に、ブーム長さ取得部85は、各ブーム16に装着されたRFIDなどからブーム16の長さに関する情報を受け付ける受信部でもよい。
【0049】
吊荷荷重検出部86は、主フック57に接続された吊荷LMの重量に関する情報(吊荷重量情報)を取得し出力する。本実施形態では、吊荷荷重検出部86は、主巻ロープ50に接続された不図示の荷重検知器(ロードセル)を含み、主巻ロープ50の張力の歪の変化に基づいて吊荷LMの重量を検出する。なお、他の実施形態において、ブーム16を起伏させる油圧回路内の圧力が不図示の圧力計によって検出され、当該圧力に基づいて前記吊荷の荷重が推定されても良い。
【0050】
表示部87は、キャブ15内に配置されたディスプレイであり、オペレータに報知するための各種の情報を表示する。
【0051】
制御部70は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部70は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部701、目標速度演算部702(目標速度設定部)、指令信号生成部703および記憶部704を備えるように機能する。
【0052】
駆動制御部701は、旋回操作部74、ブーム操作部75およびウインチ操作部76が受け付ける操作の操作方向および操作量に応じた指令信号を旋回駆動部71、ブーム駆動部72およびウインチ駆動部73にそれぞれ入力し、各駆動部を駆動する。
【0053】
目標速度演算部702は、自動旋回制御が実行される際に、吊荷LMが目標位置に至るまでの旋回体12の目標速度を設定する。なお、自動旋回制御は、吊荷LMを所定の初期位置から目標位置まで旋回方向に自動で移動させるための制御である。
【0054】
指令信号生成部703は、目標速度演算部702によって設定された前記目標速度に対応する速度指令信号を生成し出力する。指令信号生成部703が出力した速度指令信号は、旋回駆動部71に入力される。この結果、旋回体12の旋回動作が自動制御される。なお、他の実施形態において、当該速度指令信号が表示部87に入力され、オペレータが速度指令信号の大きさ、方向に応じて、旋回操作部74を操作してもよい(旋回アシスト)。
【0055】
記憶部704は、クレーン10において実行される各種の制御中に参照されるパラメータや閾値などを記憶している。
【0056】
<旋回制御のフロー>
図4は、本実施形態に係るクレーン10の旋回制御のフローチャートである。制御部70により旋回動作の自動制御が実行されるにあたって、まず、制御部70は入力部81に含まれる自動制御スイッチがONされているか否かを判定する(ステップS1)。ここで、自動制御スイッチがONされている場合(ステップS1でYES)、制御部70は記憶部704内に移動情報が格納されているかを判定する(ステップS2)。前述のように、当該移動情報は、吊荷LMを移動させる目標位置までの目標旋回角度θ
f4を含むものであり、オペレータが入力部81を通じて入力することで記憶部704に格納される。
【0057】
ステップS2において移動情報がある場合(ステップS2でYES)、旋回角検出部82、起伏角検出部83およびロープ長さ検出部84が、それぞれ、旋回角θ
4、起伏角θ
3および主巻ロープ50の長さlを検出する(ステップS3)。検出された情報は、記憶部704に記憶される。なお、ステップS1で自動制御スイッチがOFFの場合(ステップS1でNO)、または、ステップS2で移動情報がない場合(ステップS2でNO)、
図2のように各処理が繰り返される。
【0058】
ステップS3において各情報が検出されると、ブーム長さ取得部85がブーム16の長さ(L)を取得する。前述のように、ブーム16の長さは予め記憶部704に記憶されていても良いし、入力部81などを通じて入力されてもよい。
【0059】
次に、目標速度演算部702が、吊荷LMが初期位置から目標位置に至るまでの旋回体12の旋回速度(旋回角速度θ’4)のプロファイル(推移)を演算する(ステップS5)。すなわち、本実施形態では、吊荷LMの荷振れを抑制するために、旋回体12の旋回角θ4に応じてその角速度θ’4が変化するように制御される。なお、以後の説明では、θの微分(角速度)をθ’と表し、θの2回微分(角加速度)をθ’’と表す場合がある。演算された旋回角速度θ’4の推移は、表示部87に表示され、オペレータが確認することができる。
【0060】
ステップS5において速度プロファイル(角速度θ’4の推移)が決定されると、ステップS6において、目標速度演算部702が目標位置における吊荷LMの推定荷振れ量を演算する。この際、前述の運動方程式から吊荷LMの半径方向振れ角度θ1および旋回方向振れ角度θ2がそれぞれ演算され、その結果が表示部87に表示される。
【0061】
次に、指令信号生成部703が、上記の演算された角速度θ’4に応じた速度指令信号を生成し(ステップS7)、旋回駆動部71に入力する。この結果、旋回駆動部71が旋回体12を旋回させ、旋回体12の旋回動作の自動制御が実行される(ステップS8)。
【0062】
<旋回速度の演算について>
次に、上記のステップS5で実行される旋回速度(角速度θ’4)の演算について詳述する。
【0063】
初期位置において吊荷LMがブーム16によって吊り上げられた状態から、旋回体12が目標位置に向かって旋回すると、主巻ロープ50に接続された吊荷LMには、半径方向および旋回方向において2次元的な荷振れが発生する。ブーム16は、旋回体12とともに旋回する水平移動に加え、自らが起伏することで、鉛直方向にも移動することができる。このため、上記のような2次元的な荷振れを抑制するためには、旋回体12の旋回速度(角速度θ’4)に加え、移動中にブーム16の起伏角θ3を調整することも考えられる。しかしながら、このような吊荷LMの上下方向における動きは重力に逆らうため、より複雑な荷振れを招きやすく、吊荷LMを短時間で目標位置に到達させつつ、その荷振れを抑制することが困難になる。
【0064】
そこで、本実施形態では、制御部70が、旋回体12の旋回、すなわち、ブーム16の水平方向への移動のみによって、時間的に最適な軌道を決定し、目標位置における荷振れを抑制する。換言すれば、当該旋回移動では、ブーム16の起伏角θ3は固定されている。また、ここでいう軌道とは、位置的な軌道のみならず、時間的要素を含むものであり、各時刻において吊荷LMがどの位置を通過するかという問題を含むものである。更に、制御部70は、目標位置に到達した後の吊荷LMの継続的な荷振れを出来る限り抑制する。
【0065】
旋回体12を駆動する旋回駆動部71に含まれる旋回モータ(不図示)に掛かるトルクをτ
4とすると、トルクτ
4はラグランジュの運動方程式などから以下の式1によって表すことができる。
【数1】
【0066】
なお、上記の式1および後記の各式に含まれる一部のパラメータの定義について、以下の表1に示す。
【表1】
【0067】
式1のパラメータについて補足すると、J4およびIbは旋回体12およびブーム16に掛かる慣性モーメントである。Ix、Iy、Izは表1にも示されているように、ブーム16に掛かる各座標軸回りの慣性モーメントである。
【0068】
ここで、
図2の吊荷LMに掛かる外力のバランスから、半径方向および旋回方向のそれぞれの方向における吊荷LMの荷振れのダイナミクスモデルは、動力学に基づいて以下の式2、式3によって表すことができる。
【数2】
【数3】
【0069】
なお、式2、式3においてgは重力加速度である。式2、式3は、吊荷LMの荷振れを表す基準となる(完全な)ダイナミクスモデルと定義される。一方、式2、式3の各式において、θの2乗とθの2回微分との積、ならびに、θとθの1回微分の2乗との積については、相対的に小さな値であるため、省略することができる(θは、θ
1、θ
2を含む)。このため、式2、式3は、以下の式4、式5に置き換えることができる。
【数4】
【数5】
【0070】
式4、式5は、吊荷LMの荷振れを表す第1のダイナミクスモデルと定義される。また、式4、式5は、本発明の式I、式IIに相当する。更に、上記の式4の右辺の第2項、第3項、式5の右辺の第2項、第3項および第4項を省略することで、以下の式6、式7を得ることができる。
【数6】
【数7】
【0071】
式6、式7は、吊荷LMの荷振れを表す第2のダイナミクスモデルと定義される。また、式6、式7は、本発明の式III、式IVに相当する。更に、本実施形態では、動的なブーム16の動きを単純化し最適な時間軌道を生成するために、目標速度演算部702は、旋回体12の旋回角θ
4について、以下の式8のように、初期位置(旋回動作の始点)を基準とする旋回動作の経過時間tを変数とした多項式関数で定義する。
【数8】
【0072】
式8のように、本実施形態では、ブーム16の動きを単純化するモデルとして、6次多項式を用いて定式化している。式8におけるbi(i=1~6)は、最適化によって決定される多項式係数である。ただし、旋回体12の旋回動作が開始される初期状態では、旋回角θ4=0、旋回角速度θ’4=0であるため、係数b0、b1はゼロに割り当てられる。したがって、b2、b3、b4、b5、b6の5つの係数が最適化によって調整される。なお、多項式の次数は6次に限られるものではなく、より低次あるいは高次の多項式を用いてもよい。
【0073】
ここで、吊荷LMが目標位置に到達する時刻をTとすると、旋回動作中の時刻(経過時間)tは、t=STと表すことができる。Sは、0≦S≦1の範囲内の離散値を含むベクトルである。この結果、式8は、以下の式9のように表すことができる。
【数9】
【0074】
目標速度演算部702は、上記の式9における到達時刻Tが最小となるように多項式係数b
i(i=2~6)をそれぞれ設定することで、吊荷LMを速やかに目標位置に移動させることができる。この際、吊荷LMの荷振れを抑制するためには、前述の式4および式5または式6および式7で規定される半径方向振れ角度θ
1、旋回方向振れ角度θ
2が、目標位置において所定の閾値角度以下に抑制されるとともに、目標位置への移動中においても所定の最大角度以下に抑えられることが望ましい。したがって、上記の問題は、以下の式10、式11によって表すことができる。
【数10】
【数11】
【0075】
式10は、到達時刻Tが最小となるような多項式係数bi(i=2~6)を最適化する問題を意味し、式11は、そのための条件を意味している。式11を上から順に参照して、時刻Tにおける旋回角θ4(T)は、目標旋回角度θf4である。時刻T、すなわち、目標位置における旋回角速度θ’4(T)はゼロである。また、移動中の旋回角速度θ’4(t)(速度)の絶対値は、旋回駆動部71の特性から予め設定された旋回最大角速度θ’max4(最大速度)以下に設定される。更に、目標位置における振れ角度θi(T)(i=1、2)の絶対値は、予め設定された最終荷振れ許容角度θf(閾値角度)以下に設定される。同様に、目標位置における振れ角速度θ’i(T)(i=1、2)の絶対値は、予め設定された最終荷振れ許容角速度θ’f(閾値角速度)以下に設定される。また、移動中における振れ角度θi(t)(i=1、2)の絶対値は、予め設定された移動中荷振れ許容角度θSW(移動中最大角度)以下に設定される。同様に、移動中における振れ角速度θ’i(t)(i=1、2)の絶対値は、予め設定された移動中荷振れ許容角速度θ’SW(移動中最大角速度)以下に設定される。なお、上記のパラメータについては、前述の表1にも示されている。なお、各角速度は、対応する角度の時間変化に相当する。
【0076】
本実施形態では、目標速度演算部702は、上記の問題を一例として逐次二次計画法によって演算する。なお、目標速度演算部702は、作業現場において求められる演算精度および演算時間に応じて、前述の式4、式5、式9、式10および式11(後記の実施例2)または、式6、式7、式9、式10および式11(後記の実施例1)によって、最適解を演算することができる。当該演算によって、式9の多項式係数bi(i=2~6)がそれぞれ最適化され、式10の最小の到達時刻Tが決定されると、その到達予想時刻が表示部87に表示されてもよい。また、目標速度演算部702は、式9から移動中の各時刻における旋回角θ4の推移を決定するとともに、その微分から旋回角速度θ’4の推移を決定する。この結果から、先のステップS7において指令信号生成部703が速度指令信号を生成することができる。
【0077】
一方、目標速度演算部702は、上記の最適化結果から、式4および式5、または、式6および式7を用いて、目標位置における半径方向振れ角度θ
1および旋回方向振れ角度θ
2を演算することができる(
図4のステップS6)。この際、目標速度演算部702は、式2および式3から半径方向振れ角度θ
1および旋回方向振れ角度θ
2を演算してもよい。
【0078】
以上のように、本実施形態では、目標速度演算部702は、動力学に基づく吊荷LMの運動方程式と、所定の多項式関数に基づいて、旋回体12の目標速度(角速度θ’4)を演算する。前記運動方程式は、少なくともブーム16の長さLと主巻ロープ50の長さlと起伏角θ3とを含むものであり、旋回方向および半径方向のそれぞれについての方程式を含む。また、前記多項式関数は、初期位置を基準とする旋回動作の経過時間tを変数とした旋回体12の旋回角θ4についての多項式関数である。当該多項式関数は、前記経過時間tについて互いに異なる次数をそれぞれ含む複数の単項式からなる。目標速度演算部702は、これらの方程式および関数に基づいて、目標位置における半径方向振れ角度θ1および旋回方向振れ角度θ2が所定の閾値角度よりも小さく、かつ、吊荷LMの目標位置への到達時刻Tが最小となるように前記複数の単項式の係数をそれぞれ決定することで、目標位置に至るまでの旋回体12の経過時間tに応じた目標速度(角速度θ’4)を設定する。
【0079】
特に、本実施形態では、目標速度演算部702が、吊荷LMの運動方程式と多項式関数とに基づいて、目標位置における2方向における吊荷LMの振れ角度θ1、θ2が所定の閾値角度よりも小さくかつ吊荷LMの到達時間が最小となるように、旋回体12の目標速度を設定することができる。このため、予め移動所要時間が設定される場合のように旋回体12の目標速度が前記移動所要時間の影響を受けることがなく、目標位置における荷振れを抑制しながら、可能な限り最小限の移動時間で吊荷LMを移動させることができる。したがって、目標位置における吊荷LMの荷振れを抑制しつつ吊荷LMを前記目標位置に効率的に移動させることが可能となる。
【0080】
また、本実施形態では、吊荷LMの到達時間が最小となるように、旋回体12の目標速度(角速度の推移)を最適化することができる。この際、この問題を最適化する条件には、吊荷LMの荷振れ制約条件が既に含まれている。したがって、従来のように、一度設定された搬送速度の推移に、逆動力学に基づくフィルタ処理(目標値フィルタ)を施すことで、荷振れを抑制するように上記の搬送速度を補正する場合と比較して、幅広い条件に対応して最適な旋回体12の目標速度を設定することができる。また、事前に目標値までの搬送時間が設定される場合と比較して、旋回体12の目標速度が当該搬送時間に拘束されることがなく、あくまでも荷振れの抑制を必達しながら最小時間で吊荷LMを目標位置に到達させることが可能となる。
【0081】
更に、本実施形態では、目標速度演算部702が実行する演算には、主巻ロープ50の長さ(主フック57の位置)、ブーム16の起伏角θ3およびブーム16の長さ(旋回半径)を含む吊荷LMの運動方程式が用いられているため、吊荷LMの振れを高い精度で抑えながら、吊荷LMを目標位置に短時間で移動させることができる。
【0082】
また、上記で説明した2つのダイナミクスモデルのうち、第1のダイナミクスモデルを用いて旋回体12の旋回動作における旋回角速度θ’4の最適化を行った場合には、吊荷LMを目標位置に最短時間で到達させることができるとともに、完全なダイナミクスモデル(フルモデル)との波形の一致性も高く維持しながら、吊荷LMの荷振れを抑えることができる。
【実施例0083】
次に、本発明について実施例を基に更に詳述する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
<簡略化されたダイナミクスモデルの検証>
前述のように、クレーン10の旋回制御において所定の条件を満たすような旋回速度を演算するために、目標速度演算部702は、第1のダイナミクスモデル(式4、式5)または第2のダイナミクスモデル(式6、式7)を採用する。これらは、完全なダイナミクスモデル(式2、式3)を簡略化したものであるため、その有効性について検証する。
図5は、基本的な旋回速度プロファイル(サイクロイドブーム速度)の一例である。
図6は、本発明の実施例における半径方向振れ角度θ
1の時間推移を示すグラフである。
図7は、本発明の実施例における旋回方向振れ角度θ
2の時間推移を示すグラフである。
【0085】
図5における時間と旋回角速度との関係は、以下の式12によって表すことができる。
【数12】
【0086】
なお、式12におけるθ’
max4は、
図5の最大角速度に相当する。
図5における時刻20secが目標位置と仮定される。このような速度プロファイルでは、目標位置における速度(角速度)のみならず、加速度(角加速度)もゼロである。このような速度プロファイルとともに、以下の表2に示すような条件を、第1のダイナミクスモデル(実施例2)、第2のダイナミクスモデル(実施例1)、完全なダイナミクスモデル(基準例)にそれぞれ入力することで演算された、半径方向振れ角度θ
1および旋回方向振れ角度θ
2のそれぞれの推移が
図6、
図7に示されている。なお、各条件では、速度および加速度が10msecのサンプリング時間で演算される。
【表2】
【0087】
図6、
図7を参照して、第1のダイナミクスモデル(式4、式5)は、半径方向振れ角度θ
1および旋回方向振れ角度θ
2のいずれにおいても、完全なダイナミクスモデルに一致する結果となった。一方、第1のダイナミクスモデルと比べて、より多くの項を省略した第2のダイナミクスモデルでは、半径方向振れ角度θ
1においては完全なダイナミクスモデルに近似する結果となったが、旋回方向振れ角度θ
2においては後半の時間域において完全なダイナミクスモデルとの間で乖離が発生する結果となった。このため、完全なダイナミクスモデルとの一致性の観点では、第1のダイナミクスモデルの方が良好な結果となった。
【0088】
<荷振れ制約条件について>
前述のように、本発明では、吊荷LMを最短時間で目標位置に到達させるとともに、目標位置および移動中の荷振れが所定の閾値角度以下に収まるように(荷振れ制約条件)、旋回速度の推移が最適化される。このため、この荷振れ制約条件の有無による吊荷LMの動きについて評価した。当該評価では、起伏角θ
3を45度と仮定し、その他の条件は以下の表3に示される。
【表3】
【0089】
上記の各条件に基づいて、前述の式4、式5、式9、式10および式11(第1のダイナミクスモデル)から演算された、目標位置(目標旋回角度θ
f4)までの旋回角θ
4および旋回角速度θ’
4の時間推移の結果が、
図8、
図9にそれぞれ示される。
図8、
図9において、「With sway」は、式11の制約条件がすべて加味された場合の演算結果である(後記の図でも同様)。一方、
図8、
図9において、「No sway」は、式11の下4つの半径方向振れ角度θ
1、旋回方向振れ角度θ
2に関する制約条件(荷振れ制約条件)がない場合の演算結果に相当する(後記の図でも同様)。
図8に示すように、荷振れ制約条件がない場合には、荷振れ制約条件がある場合と比較して、吊荷LMが早く目標位置に到達する。しかしながら、この場合、
図9に示すように、旋回体12の旋回角速度θ’
4は旋回開始時から急激に上昇するとともに、目標位置の直前で急激に低下される結果となった。なお、上記の各演算について、最適化が終了するまでの演算時間は、「No sway」では1.50秒、「With sway」では2.99秒であった。
【0090】
更に、上記のように生成された時間的に最適化された軌道の有効性を確認するために、式9を式2、式3に適用することで、吊荷LMの半径方向振れ角度θ
1および旋回方向振れ角度θ
2の推移について演算した。
図10は、本実施例における半径方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。
図11は、本実施例における旋回方向振れ角度の時間推移を示すグラフである。なお、
図10、
図11のいずれのグラフにおいても、吊荷LMが目標位置に到達した後(
図8の到達時間参照)の荷振れも示している。
【0091】
図10、
図11に示すように、荷振れ制約条件がある場合には、半径方向振れ角度θ
1、旋回方向振れ角度θ
2ともに、移動中、目標位置および目標位置到達後の荷振れが低く抑えられている。一方、荷振れ制約条件がない場合には、
図9に示すように吊荷LMが目標位置に早く到達するものの、移動中、目標位置および目標位置到達後の荷振れが大きく発生する結果が得られた。
【0092】
更に、上記の演算結果を式1に適用することで、荷振れ制約条件の有無について、旋回体12を旋回させる旋回モータのトルクについて評価した。
図12は、本実施例における旋回トルクτ4の時間推移を示すグラフである。
図12では、一部のトルク推移が部分的に拡大して示されている。
図12に示すように、荷振れ制約条件がある場合、ない場合のいずれの場合においても、クレーン10において予め設定される旋回モータの最大トルクおよび最小トルク(
図12の上下の一点鎖線)の間の範囲内に収まる結果となった。なお、前述の式1を制約条件に用いることで,旋回トルクτ4を最大トルクおよび最小トルクの間に抑える多項式軌道の生成も可能である。
【0093】
<荷振れ抑制の検証結果>
次に、前述の第1のダイナミクスモデル(実施例2)および第2のダイナミクスモデル(実施例1)について、式11に含まれる制約条件として2つのケースにおいて最適化の演算を行った結果を示す。表4は、上記の制約条件の2つのケース(ケース1、ケース2)を示したものである。
【表4】
【0094】
ケース1と比較してケース2では、旋回最大角速度θ’
max4、移動中荷振れ許容角速度θ’
SW、最終荷振れ許容角度θ
fが相対的に大きく設定されている一方、最終荷振れ許容角速度θ’
fが相対的に小さく設定されている。
図13および
図14は、上記のケース1における旋回角度θ
4および旋回角速度θ’
4の時間推移を示すグラフである。ケース1では、実施例1と実施例2との間で、旋回角θ
4の推移に大きな差は見られないが、旋回角速度θ’
4では、実施例2の方が緩やかな推移を示し、トップスピードを抑えることができる結果となった。
【0095】
図15および
図16は、上記のケース2における旋回角度θ
4および旋回角速度θ’
4の時間推移を示すグラフである。ケース2では、実施例2の方が実施例1よりも早く目標位置に到達する結果となった。なお、上記の到達時間の差はあるものの旋回角速度θ’
4のプロファイルには大きな差は見られない。
【0096】
図17、
図18、
図19および
図20は、上記のケース1における半径方向振れ角度θ
1、半径方向振れ角速度θ’
1、旋回方向振れ角度θ
2および旋回方向振れ角速度θ’
2のそれぞれの時間推移を示すグラフである。なお、各図では、実施例1、実施例2の結果に加えて、確認のために、前述の完全なダイナミクスモデル(式2、式3)を適用した場合の推移を、実施例1’、実施例2’としてそれぞれ示している。なお、実施例1、実施例2のそれぞれのグラフが途切れている部分(終端)が目標位置への到達時刻に相当する。実施例1’、実施例2’は目標位置に到達した後の推移を評価することができる。各図に示すように、実施例2は実施例1よりも目標位置における荷振れおよびその後の荷振れが低く抑えられている。また、実施例1は、完全なダイナミクスモデル(実施例1’)との一致性も極めて高い結果となった。ただし、いずれの実施例1、2においても、目標位置における荷振れを所定の閾値角度以下に抑えることが可能であるとともに、最適な最小時間で吊荷LMを目標位置に到達させることが可能となる。
【0097】
図21、
図22、
図23および
図24は、上記のケース2における半径方向振れ角度θ
1、半径方向振れ角速度θ’
1、旋回方向振れ角度θ
2および旋回方向振れ角速度θ’
2のそれぞれの時間推移を示すグラフである。ケース2においても、実施例2は実施例1よりも目標位置における荷振れおよびその後の荷振れが低く抑えられている。また、実施例1は、完全なダイナミクスモデル(実施例1’)との一致性も極めて高い結果となった。また、いずれの実施例1、2においても、目標位置における荷振れを所定の閾値角度以下に抑えることが可能であるとともに、最適な最小時間で吊荷LMを目標位置に到達させることが可能となる。
【0098】
以上、本発明の一実施形態に係るクレーン10について説明した。このような構成によれば、目標位置または旋回動作中、あるいは双方における吊荷LMの荷振れを抑制しつつ吊荷LMを前記目標位置に効率的に移動させることが可能となる。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明は、例えば以下のような変形実施形態を取ることができる。
【0099】
(1)クレーン10の構造は、
図1に示されるものに限定されるものではなく、他の構造を有するクレーンであってもよい。クレーン10には、ブーム16の先端部に連結されるジブがあっても良いし、クレーン10はタワークレーンなどでもよい。また、マスト20ではなく、ガントリを備えたクレーン10でもよい。
【0100】
(2)目標速度演算部702が実行する演算に使用される吊荷LMの運動方程式は、先の実施形態において使用したものに限定されるものではない。ブーム16の長さと主巻ロープ50の長さとブーム16の起伏角とを含む、旋回方向および半径方向のそれぞれについての他の吊荷LMの運動方程式が採用されてもよい。この場合、前記旋回角についての多項式関数の係数の決定については、式I、式IIまたは式III、IV以外にも、公知のニュートンの運動方程式やラグランジュの運動方程式に基づく前記の完全なダイナミクスモデル、あるいは完全なダイナミクスモデルからいずれかの微小項を消去した運動方程式を用いてもよい。
【0101】
(3)上記の実施形態では、式11において、目標位置および旋回移動中の双方において、半径方向振れ角度θ1、旋回方向振れ角度θ2に関する条件がそれぞれ設定される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。振れ角度の条件は、目標位置のみ設定されてもよいし、旋回移動中のみ設定されてもよい。