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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190560
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】圧力容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
F17C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098932
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 翔太
(72)【発明者】
【氏名】澤井 統
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB05
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC05
3E172BC07
3E172BD03
3E172CA12
3E172DA34
3E172DA36
3E172DA90
3E172KA02
(57)【要約】
【課題】温度低下時の信頼性を向上させることが可能な圧力容器を提供する。
【解決手段】圧力容器は、ガス収容部110と、バルブと、シール部材と、金属製の管状部材140と、を備える。ガス収容部110は、合成樹脂製のライナー111とそのライナー111の外面を覆う繊維強化樹脂層112とにより形成され、先端に開口部113が形成されたネック部114を有する。バルブは、開口部113からネック部114に挿入されてガス収容部110の内部空間と外部空間を連通するガス流路を形成する挿入部を有する。シール部材は、ネック部114と挿入部との間を封止する。管状部材140は、ネック部114においてライナー111と繊維強化樹脂層112との間に設けられてシール部材の周囲に配置される。管状部材140は、ライナー111に埋設されて内面141および外面142がライナー111の合成樹脂材料に覆われたアンカー部143,144を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のライナーと該ライナーの外面を覆う繊維強化樹脂層とを有し、先端に開口部を有するネック部が設けられたガス収容部と、
前記開口部から前記ネック部に挿入される挿入部と該挿入部に設けられて前記ガス収容部の内部空間と外部空間を連通するガス流路とを有するバルブと、
前記ネック部と前記挿入部との間を封止するシール部材と、
前記ネック部において前記ライナーと前記繊維強化樹脂層との間に設けられて前記シール部材の周囲に配置された金属製の管状部材と、を備え、
前記管状部材は、前記ライナーに埋設されて内面および外面が前記ライナーの合成樹脂材料に覆われたアンカー部を有することを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記ライナーは、前記ネック部の先端部に外径が拡大した拡径部を有し、
前記アンカー部は、前記ライナーの前記拡径部に埋設され、前記ネック部の先端に近づくほど拡径されていることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記ガス収容部は、前記ネック部の基端部に接続されて前記ネック部よりも拡径されたショルダー部を有し、
前記アンカー部は、前記ショルダー部の前記ライナーに埋設され、前記ネック部から遠ざかるほど拡径されており、
前記アンカー部の前記外面は、前記ネック部の中心軸に対する傾斜角が、前記ショルダー部の前記ライナーの外面の前記中心軸に対する傾斜角よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項4】
前記ライナーは、前記ネック部の先端部に外径が拡大した拡径部を有し、
前記アンカー部は、前記ライナーの前記拡径部に埋設され、前記管状部材を径方向に貫通する貫通孔を有することを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項5】
前記アンカー部は、前記内面との間に鋭角を成すとともに前記外面との間に鈍角を成す傾斜面を有し、前記内面および前記傾斜面が前記ライナーの合成樹脂材料に覆われていることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から水素等のガスを高圧にて充填するガスタンクが知られている。下記特許文献1は、口金部材が取り付けられたライナーの外周側に、フィラメントワインディング法によって繊維を積層した繊維強化層を有するガスタンクを開示している。この従来のガスタンクの繊維強化層の内層部分には、繊維間に生じた微細な空隙を有する通気層が設けられている(特許文献1、要約、請求項1、第0007段落、図3)。
【0003】
この従来のガスタンクによれば、高圧状態にてライナーを透過したガスが、ライナーと繊維強化層との間に溜まることなく、繊維強化層を構成する繊維間に生じた微細な空隙からなる通気層を介してライナーと口金部材との隙間から徐々に外部へ放出される。これにより、繊維強化層に溝部を形成する場合と比較して、十分な強度を確保しつつライナーと繊維強化層との間に溜まった高濃度のガスが短時間に外部へ流出する不具合を抑制することができる。また、ガスタンク内が減圧された際に、ライナーと繊維強化層との間の高圧ガスによりライナーが内側に変形することも抑制できる(特許文献1、第0008段落)。
【0004】
この従来のガスタンクにおいて、ライナーの口部は、内側延出部と、円筒状の被嵌合部とを有しており、この被嵌合部の内側が口部となっている。内側延出部は、ライナーの肩部の内端縁から中心軸線側に小径側ほどライナー内側に位置するように傾斜しつつ延出する。円筒状の被嵌合部は、内側延出部の肩部とは反対側からライナーの軸線方向に沿ってライナー内に突出する。この被嵌合部の外周には、インサートリングが一体に設けられている。インサートリングは、被嵌合部と、この被嵌合部に圧入される口金部材の嵌合部との間に装着されるOリングを締め付ける(特許文献1、第0028段落-第0029段落、図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-174700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のガスタンクにおいて、インサートリングは、前述のように、ライナーの口部の一部である円筒状の被嵌合部の外周にライナーと一体に設けられ、ライナーの被嵌合部と口金部材の嵌合部との間に装着されるOリングを締め付ける。このような構造では、ガスタンクの温度が低下すると、合成樹脂製のライナーと金属製のインサートリングがともに収縮する。すると、ライナーとインサートリングとの間の熱膨張係数の差により、インサートリングからライナーを剥離させる応力が作用して、ガスタンクの信頼性を低下させるおそれがある。
【0007】
本開示は、温度低下時の信頼性を向上させることが可能な圧力容器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、合成樹脂製のライナーと該ライナーの外面を覆う繊維強化樹脂層とを有し、先端に開口部を有するネック部が設けられたガス収容部と、前記開口部から前記ネック部に挿入される挿入部と該挿入部に設けられて前記ガス収容部の内部空間と外部空間を連通するガス流路とを有するバルブと、前記ネック部と前記挿入部との間を封止するシール部材と、前記ネック部において前記ライナーと前記繊維強化樹脂層との間に設けられて前記シール部材の周囲に配置された金属製の管状部材と、を備え、前記管状部材は、前記ライナーに埋設されて内面および外面が前記ライナーの合成樹脂材料に覆われたアンカー部を有することを特徴とする圧力容器である。
【0009】
上記態様の圧力容器において、前記ライナーは、前記ネック部の先端部に外径が拡大した拡径部を有し、前記アンカー部は、前記ライナーの前記拡径部に埋設され、前記ネック部の先端に近づくほど拡径されていてもよい。
【0010】
上記態様の圧力容器において、前記ガス収容部は、前記ネック部の基端部に接続されて前記ネック部よりも拡径されたショルダー部を有し、前記アンカー部は、前記ショルダー部の前記ライナーに埋設され、前記ネック部から遠ざかるほど拡径されており、前記アンカー部の前記外面は、前記ネック部の中心軸に対する傾斜角が、前記ショルダー部の前記ライナーの外面の前記中心軸に対する傾斜角よりも小さくてもよい。
【0011】
上記態様の圧力容器において、前記ライナーは、前記ネック部の先端部に外径が拡大した拡径部を有し、前記アンカー部は、前記ライナーの前記拡径部に埋設され、前記管状部材を径方向に貫通する貫通孔を有してもよい。
【0012】
上記態様の圧力容器において、前記アンカー部は、前記内面との間に鋭角を成すとともに前記外面との間に鈍角を成す傾斜面を有し、前記内面および前記傾斜面が前記ライナーの合成樹脂材料に覆われていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の上記態様によれば、温度低下時の信頼性を向上させることが可能な圧力容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示に係る圧力容器の実施形態1を示す断面図。
図2図1に示す圧力容器のガス収容部のネック部の拡大断面図。
図3図2に示すガス収容部のライナーの製造方法を説明する断面図。
図4】本開示に係る圧力容器の実施形態2を示す図2に相当する拡大断面図。
図5図4に示すガス収容部のライナーの製造方法を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本開示に係る圧力容器の実施形態を説明する。
【0016】
[実施形態1]
図1は、本開示に係る圧力容器の実施形態1を示す断面図である。本実施形態の圧力容器100は、たとえば、燃料電池自動車や水素自動車に搭載され、高圧の水素ガスが充填されるタンクである。圧力容器100は、たとえば、ガス収容部110と、バルブ120と、シール部材130と、管状部材140とを備えている。また、図1に示す例において、圧力容器100は、ガス収容部110にバルブを固定するバルブ固定具150を有している。
【0017】
ガス収容部110は、合成樹脂製のライナー111と、そのライナー111の外面を覆う繊維強化樹脂層112とを有している。また、ガス収容部110は、先端に開口部113を有するネック部114が設けられている。より詳細には、ガス収容部110は、円筒状のネック部114と、そのネック部114に接続されてネック部114よりも拡径されたショルダー部115と、そのショルダー部115に接続された円筒状の胴体部116と、胴体部116に接続されたドーム状または半球状の端部117とを有している。ショルダー部115は、たとえば、ネック部114から胴体部116へ向けて滑らかな曲線を描くように徐々に拡径され、ドーム状または半球状の形状を有している。
【0018】
ライナー111は、ガスを収容する内部空間ISを形成するガスバリア性を有する合成樹脂製の内容器である。ライナー111の素材としては、たとえば、ポリアミド、ポリエチレン、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエステル、エポキシなどを使用することができる。ライナー111の素材としてポリアミド6を用いる場合、ライナー111の線膨張係数は、たとえば、13×10-5[1/K]程度である。
【0019】
繊維強化樹脂層112は、ガスを収容するライナー111の外面を覆うことで、110の強度を確保する補強層として機能する。繊維強化樹脂層112は、たとえば、未硬化の樹脂が含浸された繊維束をライナー111に巻き付けて、繊維束に含浸された樹脂を硬化させることによって、ライナー111の外面を覆うように設けられている。繊維強化樹脂層112の繊維束の素材としては、たとえば、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、または炭素繊維を使用することができる。なお、軽量性と機械的強度の観点から、繊維強化樹脂層112の繊維束の素材として炭素繊維を使用することが望ましい。
【0020】
繊維強化樹脂層112の繊維束に含浸される樹脂としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、または、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂を使用することができる。また、繊維強化樹脂層112の繊維束に含浸される樹脂として、たとえば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、または、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂も使用することができる。
【0021】
バルブ固定具150は、たとえば、ガス収容部110の円筒状のネック部114の外側に取り付けられる円筒状の金属製の部材である。バルブ固定具150は、内周面に設けられた抜け止めの突起がネック部114の外周面に食い込むことで、ネック部114の外側に固定されている。バルブ固定具150の外周面には、バルブ120を固定するためのねじ山が設けられている。
【0022】
バルブ120は、たとえば、ガス収容部110の開口部113からネック部114に挿入される円筒状の挿入部121と、その挿入部121に設けられてガス収容部110の内部空間ISと外部空間OSとを連通するガス流路122とを有する金属製の部材である。また、バルブ120は、たとえば、ガス収容部110のネック部114の先端部に取り付けられる凹状の取付部123を有している。取付部123は、バルブ固定具150の外周面に対向する内周面に設けられたねじ山を、バルブ固定具150の外周面に設けられたネジ山に螺合することで、バルブ固定具150を介してガス収容部110の円筒状のネック部114の先端部に固定される。
【0023】
バルブ120の挿入部121は、取付部123のねじ山がバルブ固定具150のねじ山に螺合された状態で、ガス収容部110の円筒状のネック部114のライナー111の内側に挿入されている。挿入部121は、ガス収容部110の内部空間ISと外部空間OSを連通するガス流路122を有している。
【0024】
シール部材130は、ガス収容部110のネック部114と、バルブ120の挿入部121との間を封止する。より具体的には、シール部材130は、たとえば、挿入部121の外周面とネック部114のライナー111との間に配置されたOリングであり、ガス収容部110のネック部114とバルブ120の挿入部121との間を気密に封止する。シール部材130は、たとえば、バルブ120の挿入部121の外周面に形成された凹溝に配置されている。
【0025】
管状部材140は、ガス収容部110のネック部114においてライナー111と繊維強化樹脂層112との間に設けられ、シール部材130の周囲に配置された金属製の管状または環状の部材である。管状部材140は、インサートリングと呼ばれることもある。管状部材140は、たとえば、ガス収容部110の内部空間ISにガスが充填されてガス収容部110の内圧が上昇したときに、繊維強化樹脂層112の膨張によるシール部材130のシール性低下を防止するために設けられる。
【0026】
金属製の管状部材140の線膨張係数は、合成樹脂製のライナー111の線膨張係数よりも小さい。管状部材140の材料は、特に限定されないが、たとえば、ステンレス鋼を使用することができる。管状部材140の素材がステンレス鋼(SUS316L)である場合、管状部材140の線膨張係数は、たとえば、約1.6×10-5[1/K]程度であり、ライナー111の線膨張係数の8分の1以下である。そのため、圧力容器100の温度低下時に、ライナー111の収縮量は、管状部材140の収縮量よりも大きくなる。
【0027】
図2は、図1に示す圧力容器100のガス収容部110のネック部114の拡大断面図である。管状部材140は、ライナー111に埋設されて内面141および外面142がライナー111の合成樹脂材料に覆われたアンカー部143,144を有している。なお、管状部材140は、アンカー部143,144のいずれか一方のみを有してもよい。アンカー部143,144は、たとえば、管状部材140の周方向の全周にわたって設けられていてもよく、管状部材140の周方向において部分的に設けられていてもよい。
【0028】
第1のアンカー部143は、管状部材140の中心軸CA方向において、ネック部114の先端の開口部113の近傍に位置する管状部材140の先端部に設けられている。また、第2のアンカー部144は、管状部材140の中心軸CA方向において、ガス収容部110のネック部114の基端部からショルダー部115の先端部にかけて位置する管状部材140の基端部に設けられている。
【0029】
図2に示す例において、ライナー111は、ネック部114の先端部に外径が拡大した拡径部111aを有している。拡径部111aは、たとえば、ネック部114の中心軸CA方向において、ネック部114の先端の開口部113からアンカー部143が形成された管状部材140の先端部まで設けられている。なお、ネック部114および管状部材140の中心軸CAは、たとえば、ガス収容部110の中心軸CAに一致している。
【0030】
図2に示す例において、ライナー111の肉厚は、たとえば、拡径部111aにおいて他の部分よりも厚くされている。第1のアンカー部143は、ライナー111の拡径部111aに埋設され、ネック部114の先端に近づくほど拡径されている。第1のアンカー部143の内面141および外面142は、ライナー111の合成樹脂材料によって覆われている。すなわち、図2に示す例において、第1のアンカー部143の外面142と繊維強化樹脂層112との間には、ライナー111の合成樹脂材料の薄い層が形成されている。
【0031】
また、ライナー111は、たとえば、ネック部114の基端部に接続されたショルダー部115の先端部に、拡径部111aと同様に他の部分よりも厚くされた厚肉部111bを有している。第2のアンカー部144は、ガス収容部110のショルダー部115に設けられたライナー111の厚肉部111bに埋設され、ネック部114から遠ざかるほど拡径されている。
【0032】
この第2のアンカー部144の外面142は、ネック部114の中心軸CAに対する傾斜角αが、ライナー111の厚肉部111bの外面のネック部114の中心軸CAに対する傾斜角βよりも小さい。これにより、アンカー部144の外面142がライナー111の合成樹脂材料に覆われて、アンカー部144と繊維強化樹脂層112との間にライナー111の合成樹脂材料の層が形成されている。
【0033】
図3は、図2に示すガス収容部110のライナー111の製造方法を説明する断面図である。ライナー111は、たとえば、ガス収容部110の中心軸CA方向において、いくつかの部分に分けて成形され、成形された複数の部分を溶着等によって接合することにより一体化される。ここでは、ガス収容部110のネック部114、ショルダー部115、および胴体部116の一部を構成するライナー111の先端部の製造方法を説明する。
【0034】
まず、ライナー111の金型Dに、管状部材140を固定する。このとき、金型Dの内壁面と管状部材140のアンカー部143,144の外面142との間に空隙Gを形成する。アンカー部143,144の間の管状部材140の直管部145の外面142は、金型Dの内壁面に密着させる。この状態で、溶融させたライナー111の合成樹脂材料を金型DのゲートD1から注入して矢印の方向に流動させる射出成形を行う。
【0035】
この射出成形時に、溶融したライナー111の合成樹脂材料が、空隙Gと管状部材140のアンカー部143,144との間の空隙Gに入り込む。これにより、アンカー部143,144の内面141と外面142が、ライナー111の合成樹脂材料に覆われる。このように、ライナー111と管状部材140とは、インサート成形によって一体化される。ここで、金型Dの内壁面に密着させた管状部材140の直管部145の外面142は、ライナー111の合成樹脂材料によって覆われず、ライナー111から露出して、繊維強化樹脂層112に接した状態になる。
【0036】
なお、アンカー部143,144の間の管状部材140の直管部145の外面142と、金型Dの内壁面との間に、空隙Gを形成してもよい。この場合、アンカー部143,144の内面141と外面142だけでなく、管状部材140の直管部145の内面141と外面142も、ライナー111の合成樹脂材料によって覆われる。すなわち、管状部材140の全体がライナー111の合成樹脂材料に埋設され、管状部材140の外表面の全体がライナー111の合成樹脂材料によって覆われる。
【0037】
以下、本実施形態の圧力容器100の作用を、上記従来のガスタンクと対比しつつ、説明する。上記従来のガスタンクにおいて、インサートリングは、前述のように、ライナーの口部の一部である円筒状の被嵌合部の外周にライナーと一体に設けられ、ライナーの被嵌合部と口金部材の嵌合部との間に装着されるOリングを締め付ける。このような構造では、ガスタンクの温度が低下すると、合成樹脂製のライナーと金属製のインサートリングがともに収縮する。すると、ライナーとインサートリングとの間の熱膨張係数の差により、インサートリングからライナーを剥離させる応力が作用して、ガスタンクの信頼性を低下させるおそれがある。
【0038】
これに対し、本実施形態の圧力容器100は、ガス収容部110と、バルブ120と、シール部材130と、金属製の管状部材140と、を備えている。ガス収容部110は、合成樹脂製のライナー111とそのライナー111の外面を覆う繊維強化樹脂層112とを有し、先端に開口部113を有するネック部114が設けられている。バルブ120は、開口部113からネック部114に挿入される挿入部121と、その挿入部121に設けられてガス収容部110の内部空間ISと外部空間OSを連通するガス流路122とを有する。シール部材130は、ネック部114と挿入部121との間を封止する。管状部材140は、ネック部114においてライナー111と繊維強化樹脂層112との間に設けられてシール部材130の周囲に配置されている。そして、管状部材140は、ライナー111に埋設されて内面141および外面142がライナー111の合成樹脂材料に覆われたアンカー部143,144を有する。
【0039】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100は、繊維強化樹脂層112の内側でシール部材130の周囲に配置された管状部材140によって、ガス収容部110の内圧上昇時の繊維強化樹脂層112の膨張によるシール部材130のシール性低下を抑制できる。また、管状部材140のアンカー部143,144がライナー111に埋設され、アンカー部143,144の内面141および外面142がライナー111の合成樹脂材料に覆われている。そのため、圧力容器100の温度低下時に、ライナー111の収縮量が管状部材140の収縮量よりも大きくなっても、ライナー111がアンカー部143,144によって管状部材140に拘束され、管状部材140からライナー111が剥離することが防止される。これにより、圧力容器100の温度低下時の信頼性を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態の圧力容器100において、ライナー111は、ネック部114の先端部に外径が拡大した拡径部111aを有している。また、管状部材140のアンカー部143は、ライナー111の拡径部111aに埋設され、ネック部114の先端に近づくほど拡径されている。
【0041】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100は、ライナー111の合成樹脂材料によって覆われるアンカー部143の内面141および外面142の面積を拡大することができ、アンカー部143によってライナー111を強固に拘束することができる。また、ライナー111と管状部材140との線膨張係数の差によって管状部材140の中心軸CA方向に応力が作用しても、ネック部114の先端側が拡径されたアンカー部143によってライナー111をより確実に拘束して、ライナー111の剥離を防止できる。
【0042】
また、本実施形態の圧力容器100において、ガス収容部110は、ネック部114の基端部に接続されてネック部114よりも拡径されたショルダー部115を有している。管状部材140のアンカー部144は、ショルダー部115のライナー111に埋設され、ネック部114から遠ざかるほど拡径されている。そして、アンカー部144の外面142は、ネック部114の中心軸CAに対する傾斜角αが、ショルダー部115のライナー111の外面の中心軸CAに対する傾斜角βよりも小さい。
【0043】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100は、ライナー111の合成樹脂材料によって覆われるアンカー部144の内面141および外面142の面積を拡大することができ、アンカー部144によってライナー111を強固に拘束することができる。また、ライナー111と管状部材140との線膨張係数の差によって管状部材140の中心軸CA方向に応力が作用しても、ネック部114から遠ざかるほど拡径されたアンカー部144によってライナー111をより確実に拘束して、ライナー111の剥離を防止できる。
【0044】
さらに、アンカー部144の外面142は、ネック部114の中心軸CAに対する傾斜角αが、ショルダー部115のライナー111の外面の中心軸CAに対する傾斜角βよりも小さい。そのため、ネック部114から遠ざかるほど、アンカー部144の外面142を覆うライナー111の合成樹脂材料の厚さを増加させ、アンカー部144によってライナー111をより強固に拘束することが可能になる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、管状部材140のアンカー部143,144によってライナー111を拘束して、温度低下時の信頼性を向上させることが可能な圧力容器100を提供することができる。
【0046】
[実施形態2]
次に、実施形態1の図1を援用し、図4および図5を参照して、本開示に係る圧力容器の実施形態2を説明する。図4は、本開示に係る圧力容器の実施形態2を示す実施形態1の図2に相当する拡大断面図である。図5は、図4に示すガス収容部110のライナー111の製造方法を説明する断面図である。
【0047】
本実施形態の圧力容器100は、管状部材140のアンカー部146,147の構成が、前述の実施形態1の圧力容器100と異なっている。本実施形態の圧力容器100のその他の構成は、前述の実施形態1の圧力容器100と同様であるため、同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
前述の実施形態1の圧力容器100と同様に、本実施形態の圧力容器100において、ライナー111は、ネック部114の先端部に外径が拡大した拡径部111aを有している。そして、本実施形態の圧力容器100において、管状部材140の第1のアンカー部146は、ライナー111の拡径部111aに埋設され、管状部材140を径方向に貫通する貫通孔148を有している。
【0049】
このような構成により、図5に示すように、金型DのゲートD1から溶融したライナー111の合成樹脂材料を注入して、ライナー111に管状部材140をインサート成形するときに、アンカー部146の内面141および外面142が合成樹脂材料に覆われる。さらに、溶融した合成樹脂材料は、貫通孔148に充填される。これにより、成形後のライナー111を管状部材140のアンカー部146に強固に固定することが可能になる。
【0050】
また、前述の実施形態1の圧力容器100と同様に、本実施形態の圧力容器100において、第2のアンカー部147は、ガス収容部110のショルダー部115のライナー111に埋設されている。さらに、本実施形態のガス収容部110において、第2のアンカー部147は、内面141との間に鋭角を成すとともに外面142との間に鈍角を成す傾斜面149を有している。そして、アンカー部147は、内面141および傾斜面149がライナー111の合成樹脂材料に覆われている。
【0051】
このような構成により、図5に示すように、金型DのゲートD1から溶融したライナー111の合成樹脂材料を注入して、ライナー111に管状部材140をインサート成形するときに、内面141側から回り込んだ合成樹脂材料によって、アンカー部147の外側の傾斜面149が覆われる。その結果、図4に示すように、アンカー部147がライナー111の合成樹脂材料に食い込んだ状態になり、アンカー部147の外側にライナー111の合成樹脂材料が存在する状態になる。これにより、成形後のライナー111を管状部材140のアンカー部147に強固に固定することが可能になる。
【0052】
したがって、本実施形態によれば、前述の実施形態1と同様に、管状部材140のアンカー部146,147によってライナー111を拘束して、温度低下時の信頼性を向上させることが可能な圧力容器100を提供することができる。
【0053】
以上、図面を用いて本開示に係る圧力容器の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
100 圧力容器
110 ガス収容部
111 ライナー
111a 拡径部
112 繊維強化樹脂層
113 開口部
114 ネック部
115 ショルダー部
120 バルブ
121 挿入部
122 ガス流路
130 シール部材
140 管状部材
141 内面
142 外面
143 アンカー部
144 アンカー部
146 アンカー部
147 アンカー部
148 貫通孔
149 傾斜面
CA 中心軸
IS 内部空間
OS 外部空間
α 傾斜角
β 傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5