IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-連続鋳造における鋳片欠陥検知方法 図1
  • 特開-連続鋳造における鋳片欠陥検知方法 図2
  • 特開-連続鋳造における鋳片欠陥検知方法 図3
  • 特開-連続鋳造における鋳片欠陥検知方法 図4
  • 特開-連続鋳造における鋳片欠陥検知方法 図5
  • 特開-連続鋳造における鋳片欠陥検知方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190572
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】連続鋳造における鋳片欠陥検知方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
B22D11/16 104N
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098955
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】上田 航也
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
(72)【発明者】
【氏名】廣角 太朗
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AA08
4E004MA05
4E004MC12
4E004MC22
4E004NA01
4E004NB01
4E004NC01
4E004NC06
4E004PA07
(57)【要約】
【課題】連続鋳造時、従来手法(温度センサーによる鋳型温度の測温)では検知できなかった鋳片欠陥を検知可能な方法を開示する。
【解決手段】連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度と、前記鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる前記冷却水の温度上昇量との関係を予め求めておき、鋳片の連続鋳造中、前記測定温度又は前記温度上昇量の実測値と、前記関係から推定される前記測定温度又は前記温度上昇量の推定値とのズレに基づいて、前記鋳片における欠陥の発生を検知する、連続鋳造における鋳片欠陥検知方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度と、前記鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる前記冷却水の温度上昇量との関係を予め求めておき、
鋳片の連続鋳造中、前記測定温度又は前記温度上昇量の実測値と、前記関係から推定される前記測定温度又は前記温度上昇量の推定値とのズレに基づいて、前記鋳片における欠陥の発生を検知する、
連続鋳造における鋳片欠陥検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は連続鋳造時に鋳片に発生する欠陥を検知する方法を開示する。
【0002】
連続鋳造において発生する鋳片欠陥は、次工程の圧延で製品の表面欠陥となることから手入れによって取り除く必要がある。これを避けるべく、鋳片欠陥の発生原因を取り除くことがあり得るが、想定外の原因で鋳片欠陥が発生する場合もあるため、手入れが必要な鋳片を判断する技術も必要である。しかし、鋳型直下は高温かつ多量の水蒸気のために一般的なセンサーによる測定は困難であるため、通常は鋳造後に冷片を観察することで手入れが必要か判断するのが一般的である。しかし、この手法では欠陥のある鋳片発見までに時間がかかるため、欠陥を発見した際にはすでに多くの鋳片を同条件で鋳造してしまっている。そのため、操業条件の適正化が遅れる結果となっている。
【0003】
鋳片欠陥を早期に発見する技術として、連続鋳造時の鋳型内で鋳片の欠陥を検知する技術が知られている。一般的な鋳型内欠陥検知手法として、鋳型銅板に設置した温度センサー(熱電対やFBGセンサー等)を利用し、その温度変化から割れやブリード・鋳型内ブレークアウトといった鋳片欠陥を検知する手法が存在する(例えば、特許文献1)。しかし、温度センサーから離れた地点の欠陥については、温度センサーによって測定される温度変化が小さいため、検知が困難になる。従来においては、温度センサーの密度を上げることで検知精度を向上させてきたが、大量の温度センサーを設置することは手間や費用が掛かる。近年、鋳型の測温に用いられるようになったFBGセンサーについても、熱電対に比べれば容易に高密度での測定が可能であるが、費用が高額になる場合や、用いる鋳型銅板の形状によって鋳型への設置本数が制限される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-177164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
温度センサーから離れた位置における欠陥は、従来手法(温度センサーによる鋳型温度の測温)では検知困難である。連続鋳造時、従来手法では検知できなかった鋳片欠陥を検知可能な新たな方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度と、前記鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる前記冷却水の温度上昇量との関係を予め求めておき、
鋳片の連続鋳造中、前記測定温度又は前記温度上昇量の実測値と、前記関係から推定される前記測定温度又は前記温度上昇量の推定値とのズレに基づいて、前記鋳片における欠陥の発生を検知する、
連続鋳造における鋳片欠陥検知方法
を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の方法によれば、連続鋳造時、従来手法(温度センサーによる鋳型温度の測温)では検知できなかった鋳片欠陥を検知可能である。また、本開示の方法においては、鋳片欠陥を検知するために温度センサーの数を増やさなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試験連続鋳造機の鋳型に設置された温度センサー(FBGセンサー)の数及び位置を概略的に示している。
図2】連続鋳造試験によって得られた鋳片の状態を示している。白線で示される楕円形の領域にディプレッションが発生している。
図3】温度センサーによる温度測定値(測定温度の合計値)と冷却水温度上昇量との関係を示している。鋳片欠陥が生じていない場合、温度測定値と冷却水温度上昇量との間には線形の関係があることが分かる。
図4】実測値及び推定値の比Iと鋳片の欠陥位置との対応を示している。下側のグラフにおいて、鋳片におけるディプレッションのうち、温度センサーによる鋳型の測温のみによっては検知できないディプレッションが発生した箇所と対応する部分を両矢印で示している。
図5】試験連続鋳造機の鋳型に設置された温度センサー(FBGセンサー)の数及び位置を概略的に示している。
図6】実測値及び推定値の比Iと鋳片の欠陥位置との対応を示している。下側のグラフにおいて、鋳片におけるディプレッションのうち、温度センサーによる鋳型の測温のみによっては検知できないディプレッションが発生した箇所と対応する部分を両矢印で示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.連続鋳造における鋳片欠陥検知方法
本開示の鋳片欠陥検知方法においては、まず、連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度と、前記鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる前記冷却水の温度上昇量との関係を予め求めておく。そして、鋳片の連続鋳造中、前記測定温度又は前記温度上昇量の実測値と、前記関係から推定される前記測定温度又は前記温度上昇量の推定値とのズレに基づいて、前記鋳片における欠陥の発生を検知する。
【0010】
冷却水温度上昇量は、冷却水が流れている鋳型全体の抜熱量の代表値であるのに対し、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度値は、センサー周辺のローカルな抜熱量の代表値である。本開示の鋳片欠陥検知方法においては、温度センサーによる鋳型測温とともに、冷却水温度の上昇量を組み合わせることで、従来手法では検知できなかった鋳片欠陥(例えば、連続鋳造時にセンサー間を通過する鋳片欠陥)を検知する。
【0011】
具体的には、予め温度センサーによる測定温度値(複数の温度センサーが設置されている場合は、当該複数の温度センサーによる測定温度の合計値であってよい)と冷却水温度上昇量との関係性を整理しておき、その関係性が崩れた際に鋳片欠陥が発生したと判断する。
【0012】
例えば、鋳型内において鋳片にディプレッション性欠陥(ディプレッションのほか、縦割れやパウダー噛み込み等の鋳型温度を正常時よりも下降させる欠陥)が発生した場合には、当該ディプレッション性欠陥の部分において鋳片と鋳型との接触状態が悪化し、ディプレッション性欠陥近傍の鋳型の温度が低下する。この温度低下を温度センサーで捉えられた場合は、従来通りのロジックで鋳片欠陥が発生したものと判断することができる。一方で、この温度低下を温度センサーで捉えられない場合(例えば、センサーが設置されていない領域に欠陥が存在する場合)には、ディプレッション性欠陥による温度変化は冷却水温度上昇量にのみに現れるため、上記の温度センサーの測定値と冷却水温度上昇量との関係性が崩れる。このような関係性の崩れが認められた場合に、鋳片欠陥が発生したものと判断することができる。
【0013】
また、鋳型内において鋳片にブレークアウト性欠陥(ブレークアウトのほか、再溶解による凝固シェル厚みの減少やブレークアウトにまでは至らない局所欠陥等の鋳型温度を正常時よりも上昇させる欠陥)が生じた場合も、上記と同様にして検知が可能である。すなわち、鋳片にブレークアウト性欠陥が発生した場合には、当該ブレークアウト性欠陥近傍の鋳型の温度が上昇する。この温度上昇を温度センサーで捉えられた場合は、従来通りのロジックで鋳片欠陥が発生したものと判断することができる。一方で、この温度上昇を温度センサーで捉えられない場合には、ブレークアウト性欠陥による温度変化は冷却水温度上昇量にのみに現れるため、上記の温度センサーの測定値と冷却水温度上昇量との関係性が崩れる。このような関係性の崩れが認められた場合に、鋳片欠陥が発生したものと判断することができる。
【0014】
1.1 温度センサーによる鋳型温度の測定
上述の通り、本開示の方法においては、鋳型に設置された温度センサーによって鋳型の局所部分における温度を測定する。連続鋳造時、鋳片欠陥のない正常な状態においては温度センサーによって測定される温度に実質的な変化が無い一方で、温度センサーが設置された部分近傍を鋳片欠陥が通過した場合、温度センサーによって測定される温度が上下し得る。
【0015】
鋳型における温度センサーの設置位置は特に限定されるものではない。鋳型の開口形状が長辺及び短辺を有する略矩形状である場合、鋳型の長辺側の壁に温度センサーが設置されてもよいし、鋳型の短辺側の壁に温度センサーが設置されてもよいし、長辺側及び短辺側の両方の壁に温度センサーが設置されてもよい。鋳型に対する温度センサーの設置方法については、従来と同様であってよい。
【0016】
鋳型における温度センサーの数についても特に限定されるものではない。上述の通り、本開示の方法は、温度センサーが設置されていない領域における鋳片欠陥を検知しようとするものであり、温度センサーの数によらず所定の効果が期待できる。すなわち、温度センサーの数は、少なくとも1つであればよい。ただし、温度センサーの数が多いほどノイズが少なくなる。よって、鋳片欠陥の検知精度を一層高める観点からは、鋳型に複数の温度センサーが設置されてもよく、4つ以上の温度センサーが設置されてもよい。鋳型に複数の温度センサーが設置される場合、当該複数の温度センサーは規則的に配置されてもよいし、ランダムに配置されてもよい。例えば、温度センサーは、連続鋳造時の鋳造方向に沿って複数設置されてもよいし、連続鋳造時の鋳造方向とは直交する方向に沿って複数設置されてもよいし、これらの両方の方向に沿って二次元的に複数設置されてもよい。
【0017】
温度センサーの種類は、特に限定されるものではなく、連続鋳造用の鋳型に設置可能な一般的な温度センサーを採用すればよい。例えば、熱電対であってもよいし、FBGセンサーであってもよい。
【0018】
1.2 冷却水温度上昇量
冷却水温度上昇量は、鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる。冷却水の入口温度及び出口温度は温度センサー等によって直接的に測定されてもよいし、伝熱計算等に基づいて間接的に測定されてもよい。
【0019】
上述の通り、鋳型内の鋳片に欠陥が発生した場合、冷却水温度上昇量が変化する。すなわち、鋳型内の鋳片にディプレッション性欠陥が生じた場合、鋳片から鋳型への伝熱量が低下することから、冷却水温度上昇量も低下する。また、鋳型内の鋳片にブレークアウト性欠陥が生じた場合、鋳片から鋳型への伝熱量が増大することから、冷却水温度上昇量も増大する。
【0020】
冷却水は、鋳型の全体に流通されてもよいし、鋳型の一部のみに流通されてもよい。例えば、鋳型の開口形状が長辺及び短辺を有する略矩形状である場合、鋳型の長辺側の壁に冷却水が流通されてもよいし、鋳型の短辺側の壁に冷却水が流通されてもよいし、長辺側及び短辺側の両方の壁に冷却水が流通されてもよい。冷却水は、鋳型の長辺側と短辺側とで独立して流通されてもよい。冷却水が鋳型の長辺側と短辺型とで独立して流通される場合、鋳片欠陥が長辺側で生じたのか、短辺側で生じたのかを絞り込み易くなる。この点、本開示の方法において冷却水温度上昇量は複数箇所で測定されてもよい。鋳型における冷却水流路の形態は従来と同様であってよい。
【0021】
冷却水が流通する鋳型壁と、温度センサーが設置される鋳型壁とは、同じ壁であっても異なる壁であってもよい。温度センサーの位置及び冷却水流路の位置によらず、本開示の方法によって、温度センサーが設置されていない領域に生じた鋳片欠陥を検知することができる。
【0022】
1.3 温度センサーによる測定温度と冷却水温度上昇量との関係
本発明者の知見によれば、連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度と、鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる冷却水の温度上昇量との間には、一定の相関関係がある。例えば、鋳片に欠陥が生じていない正常状態において、温度センサーによる測定温度が高くなると、それに応じて冷却水温度上昇量も大きくなる。
【0023】
温度センサーによる測定温度と冷却水温度上昇量との関係は、数式化されたものであってもよい。例えば、後述の実施例に示されるように、温度センサーによる測定温度と冷却水温度上昇量との関係を一次関数として整理することも可能である。連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、温度センサーによる測定温度と冷却水温度上昇量との関係は、過去又は現在の操業実績に基づいて決定されてもよいし、シミュレーション等によって決定されてもよい。
【0024】
温度センサーによる測定温度と冷却水温度上昇量との関係は、連続鋳造する溶融金属の種類やその他の鋳造条件によって変化し得る。本開示の方法においては、温度センサーによる測定温度と冷却水温度上昇量との関係が、連続鋳造条件毎に予め整理されていてもよく、実際の連続鋳造においては、当該連続鋳造の条件に応じて、予め整理された複数の関係の中から、当該連続鋳造の条件に一致する(又は、最も近い)、最適な関係が選択されてもよい。
【0025】
1.4 鋳片における欠陥の発生の検知
本開示の方法においては、鋳片の連続鋳造中、上記の測定温度又は温度上昇量の実測値と、上記の関係から推定される測定温度又は温度上昇量の推定値とのズレに基づいて、鋳片における欠陥の発生を検知する。
【0026】
例えば、鋳片の連続鋳造中に、鋳型に設置された温度センサーによって鋳型温度を測定する。そして、温度センサーによる測定温度の実測値と予め求められた上記の関係とから、鋳片に欠陥が生じない場合においてあり得るべき冷却水温度上昇量の推定値を求める。上記の関係が数式化されている場合は、温度センサーによる測定温度の実測値を当該数式に代入することで、鋳片に欠陥が生じない場合においてあり得るべき冷却水温度上昇量の推定値が定まる。一方で、鋳片の連続鋳造中に、上記の温度センサーによる鋳型温度の測定と並行して、冷却水の入口温度と出口温度とから冷却水温度上昇量を測定する。この冷却水温度上昇量の実測値と、上記の通りに推定された冷却水温度上昇量の推定値との間に閾値を超えるようなズレが生じた場合、温度センサーによって検知できない部分に鋳片欠陥が生じたものと判断することができる。
【0027】
或いは、鋳片の連続鋳造中に、鋳型を流通する冷却水の入口温度と出口温度とを各々測定し、その差から冷却水温度上昇量を測定する。そして、冷却水温度上昇量の実測値と予め求められた上記の関係とから、鋳片に欠陥が生じない場合においてあり得るべき温度センサーによる測定温度の推定値を求める。上記の関係が数式化されている場合、冷却水温度上昇量の実測値を当該数式に代入することで、鋳片に欠陥が生じない場合においてあり得るべき温度センサーによる測定温度の推定値が定まる。一方で、鋳片の連続鋳造中に、上記の冷却水温度上昇量の測定と並行して、温度センサーによる鋳型温度の測定を行う。この温度センサーによる測定温度の実測値と、上記の通りに推定された温度センサーによる測定温度の推定値との間に閾値を超えるようなズレが生じた場合、温度センサーによって検知できない部分に鋳片欠陥が生じたものと判断することができる。
【0028】
或いは、予め求められた上記の関係を直線又は曲線で示される関数としてグラフ上に示しておく。グラフ上に示された直線又は曲線は、鋳片に欠陥が生じない場合においてあり得るべき温度センサーによる測定温度の推定値と冷却水温度上昇量の推定値とをグラフ上にプロットしたものと一致する。そして、鋳片の連続鋳造中に、温度センサーによる鋳型温度の測定と、冷却水温度上昇量の測定とを行い、これらの実測値を、上記のグラフ上にプロットする。プロットされた位置が、上記の直線又は曲線から閾値を超えて離れている場合、温度センサーによって検知できない部分に鋳片欠陥が生じたものと判断することができる。
【0029】
本開示の方法において、実測値と推定値との「ズレ」とは、実測値と推定値との差や、実測値と推定値との比のほか、予め求めた上記の関係からの経時的なズレ方(所定の時間あたり、上記の関係に対してどの程度のズレが生じたか)等も含む概念である。実測値と推定値との「ズレ」は、実測値と推定値との偏倚であってもよい。上述の通り、本開示の方法においては、上記の温度センサーの測定値と冷却水温度上昇量との関係性の崩れを指標として鋳片欠陥の発生を検知するものであり、この関係性の「崩れ」が、上記の「ズレ」と対応する。ズレとして具体的にどのような指標を採用するかは、特に限定されず、検知精度等を考慮して適当なものを選択すればよい。
【0030】
鋳片欠陥が生じたか否かの判断基準となる「閾値」については、特に限定されるものではない。鋳片欠陥が無い場合において不可避的に生じる温度変動(振動)やノイズを考慮して、適当な閾値を設定すればよい。また、連続鋳造条件毎に異なる閾値が設定されてもよい。
【0031】
以上の通り、本開示の方法によれば、連続鋳造時、従来手法(温度センサーによる鋳型温度の測温)では検知できなかった鋳片欠陥を検知可能である。また、本開示の方法は、温度センサーによって検知できない領域に生じる鋳片欠陥を検知可能とするもので、当該鋳片欠陥を検知するために温度センサーの数を増やす必要がない。
【0032】
2.連続鋳造方法
本開示の技術は、鋳片の連続鋳造方法としての側面も有する。すなわち、本開示の鋳片の連続鋳造方法は、
連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度と、前記鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる前記冷却水の温度上昇量との関係を予め求めておき、
鋳片の連続鋳造中、前記測定温度又は前記温度上昇量の実測値と、前記関係から推定される前記測定温度又は前記温度上昇量の推定値とのズレに基づいて、前記鋳片における欠陥の発生を検知し、
前記鋳片における欠陥の発生が検知されない場合、連続鋳造条件を変更することなく連続鋳造を続行し、前記鋳片における欠陥の発生が検知された場合、連続鋳造条件の変更又は連続鋳造の停止を行ってもよい。より具体的には、鋳片における欠陥の発生が検知された場合、例えば、鋳造速度を変更してもよいし、電磁気装置の設定値を変更してもよい。また、鋳片における欠陥の発生が検知された場合、当該欠陥の除去を行うために手入れ工程が行われてもよい。鋳片における欠陥の発生が検知された場合、当該手入れ工程においては、例えば、鋳片に欠陥が発生していない正常時よりもスカーフ(研削)量が増加されてもよいし、目視で欠陥の確認を行いながらハンドスカーフによる手入れが行われてもよい。詳細については、上述した内容から自明であることから、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0033】
3.補足
尚、連続鋳造時、ディプレッション性欠陥とブレークアウト性欠陥とが同時に生じた場合、本開示の方法によって鋳片の欠陥を検知することは困難ともいえる。しかしながら、ディプレッション性欠陥とブレークアウト性欠陥とが同時に生じるようなことは通常はあり得ない。万が一、ディプレッション性欠陥とブレークアウト性欠陥とが同時に生じるような事態となった場合は、連続鋳造に明らかな異常が生じており、本開示の方法以外の方法で当該異常を容易に検知できるものと考えられる。
【0034】
本開示の方法は、温度センサーを用いた従来手法において鋳片欠陥が無いと判断された際に、追加的に実施されるものであってもよい。すなわち、鋳片の連続鋳造時、温度センサーを用いた従来手法による鋳片欠陥検知の漏れを防ぐ目的で、本開示の方法が実施されてもよい。
【0035】
本開示の方法は、鋳片の形状や種類によらず、適用可能である。鋳片は角鋳片であってもよいし丸鋳片であってもよい。また、鋳片を構成する金属の種類も特に限定されるものではなく、例えば、鋼であってもよいし、鋼以外の金属であってもよい。
【実施例0036】
以下に本発明に係る実施例を示す。本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明においては、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいて、種々の条件が採用され得る。
【0037】
1.試験条件
試験連続鋳造機を用いて、鋳片の連続鋳造試験を実施した。連続鋳造条件を表1に、鋳片の鋼組成(質量%)を表2に示す。表2に示される成分以外の残部はFe及び不純物である。また、図1に、試験連続鋳造機の鋳型に設置された温度センサー(FBGセンサー)の数及び位置を示す。図1に示されるように、鋳型の長辺側の壁に複数の温度センサーを設置した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
2.試験結果
鋳造試験の結果、図2に示されるようなディプレッションと呼ばれる凹み状の欠陥を複数有する鋳片が得られた。このうち鋳片幅方向中央に位置するディプレッション(例えば図2において白線の楕円で示される領域X)に関しては、温度センサー位置から離れているため、温度センサーに温度変化として現れなかった。
【0041】
図3に上記連続鋳造試験における欠陥の無い区間での5秒ごとの平均冷却水温度上昇量ΔTと温度センサーによる測定温度の合計値ΣTとの関係を示す。両者には線形の関係があることがわかる。また、これらの関係が崩れたときに欠陥が発生しているといえる。例えば、図2の領域Xに相当する欠陥が発生した時点におけるΣTとΔTとを図3上にプロットした場合、線形の関係式から外れた位置にプロットされるのがわかる。
【0042】
ここで、定量的な整理のため、上記の関係式に平均冷却水温度上昇量の実測値ΔTを代入することによって求められる温度センサーによる測定温度の合計値の推定値(鋳片欠陥が無い場合にあり得るべき推定値)をT total、温度センサーによる測定温度の合計値の実測値をTtotal、両者の比をI(=Ttotal/T total)と定義する。当該比Iが100%を下回っている場所は、「実際の抜熱に対しセンサーが検知している抜熱が小さい」、すなわち、「センサーで検知できていないディプレッション性欠陥が存在する」ことを表している。比Iと鋳片の欠陥位置との対応を図4に示す。図4の下側のグラフにおいては、鋳片におけるディプレッションのうち、温度センサーのみによっては検知できないディプレッションが発生した箇所と対応する部分を両矢印で示している。比Iが100%を大きく下回っている場所において、センサー間にディプレッションが存在することが確認できる。これに鑑みると、例えば、比Iについて閾値を設定し、当該閾値を下回った部分について、ディプレッションが発生したものと判断することができる。
【0043】
尚、上記においては、鋳型温度を低下させる欠陥であるディプレッションが生じた鋳片について示したが、本開示の方法において、検知対象とする鋳片欠陥の種類は、ディプレッション性欠陥に限定されず、ブレークアウト性欠陥であってもよい。センサー間にブレークアウト性欠陥が生じた場合、上記の比Iが100%を大きく超えるものと考えられ、これをもって、ブレークアウト性欠陥が生じたものと判断することができる。
【0044】
3.補足
鋳型に設置される温度センサーの数を変化させた場合についても検討した。具体的には、上記の連続鋳造試験において、測定温度の実測値として採用される温度センサーの数を鋳造方向に4つに減少させたうえで、上記と同様の解析を行った。図5に、測定温度の実測値として採用される温度センサーの鋳型における設置位置を示す。また、図6に、上記の比Iと鋳片の欠陥位置との対応を示す。図6に示されるように、温度センサーのみによっては検知できない鋳片欠陥の位置と、上記の比Iが100%を大きく下回った位置とが一致している。すなわち、温度センサーの数によらず、上記の方法によって、温度センサーのみによっては検知できない鋳片欠陥を精度よく検知できることが分かる。
【0045】
尚、ノイズが大きくなるものの、鋳型に設置される温度センサーの数は1つであってもよい。また、上記の結果から、温度センサーの位置や冷却水の流通箇所によらず、所望の効果が期待できることが明らかである。例えば、上記においては、鋳型の長辺側の壁に温度センサーが設置される場合を例示したが、鋳型の短辺側の壁に温度センサーが設置される場合においても、同様の方法によって、温度センサーのみによっては検知できない鋳片欠陥を精度よく検知できる。
【0046】
また、上記実施例においては、温度センサーによる測定温度又は温度上昇量の実測値と、予め求められた所定の関係から推定される測定温度又は温度上昇量の推定値との「ズレ」の具体例として、実測値と推定値との「比I」を例示したが、本開示の方法において採用され得る当該「ズレ」は、これに限定されるものではない。実測値と推定値との差を採用し、当該差が大きい場合において、温度センサーのみによっては検知できない鋳片欠陥が生じたものと判断してもよい。或いは、実測値の推定値からの経時的なズレ方(所定の時間あたり、上記の関係(推定値)に対して、実測値がどの程度のズレを生じたか)をモニタリングして、当該ズレ方が大きい場合において、温度センサーのみによっては検知できない鋳片欠陥が生じたものと判断してもよい。或いは、これ以外の「ズレ」を指標として、温度センサーのみによっては検知できない鋳片欠陥を検知してもよい。
【0047】
また、上記実施例においては、鋼からなる矩形状の鋳片を連続鋳造する形態を示したが、本開示の技術はこれ以外の金属種や鋳片形状からなる鋳片を連続鋳造する場合にも適用可能である。
【0048】
以上の通り、鋳片の連続鋳造時、温度センサーから離れた地点での鋳型内鋳片欠陥を検知するためには、以下の方法を採用することが有効といえる。
(1)連続鋳造時に鋳片に欠陥が生じなかった場合における、鋳型に設置された温度センサーによる測定温度と、前記鋳型に流通する冷却水の入口温度及び出口温度から求められる前記冷却水の温度上昇量との関係を予め求めておく。
(2)鋳片の実際の連続鋳造中、前記測定温度又は前記温度上昇量の実測値と、前記関係から推定される前記測定温度又は前記温度上昇量の推定値とのズレに基づいて、前記鋳片における欠陥の発生を検知する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6