IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

特開2022-190608フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190608
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20221219BHJP
   C08G 63/02 20060101ALI20221219BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221219BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221219BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221219BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C08J3/12 A CFD
C08G63/02
C08L101/00
C08L67/00
C08K7/02
C08J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099014
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】野口 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】登 優美子
(72)【発明者】
【氏名】曾禰 央司
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F070AA48
4F070AB19
4F070AB23
4F070AB24
4F070DA41
4F070DB01
4F070DB09
4F070DC07
4F071AA48
4F071AA84
4F071AA88
4F071AF11
4F071AF62
4F071AG34
4F071AH13
4F071BA03
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J002AA00W
4J002BG05W
4J002CF16X
4J002CF18X
4J002CL00W
4J002CM04W
4J002FA04X
4J002FD01X
4J002GQ01
4J029AA06
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD09
4J029AE02
4J029AE18
4J029BB03A
4J029BB05A
4J029BB10A
4J029BB13A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CC05A
4J029EC06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029JB162
4J029JF131
4J029KD02
4J029KF00
4J029KF07
(57)【要約】
【課題】簡便な方法により、フィブリル状液晶ポリマー粒子を製造することができる方法の提供。
【解決手段】本発明によるフィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法は、溶融粘度1Pa・s以上20Pa・s以下の液晶ポリマーをジェットミルで粉砕して、体積基準の粒径分布における累積分布50%径D50が1μm以上200μm以下であるフィブリル状液晶ポリマー粒子を得る工程を含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融粘度1Pa・s以上20Pa・s以下の液晶ポリマーをジェットミルで粉砕して、体積基準の粒径分布における累積分布50%径D50が1μm以上200μm以下であるフィブリル状液晶ポリマー粒子を得る工程を含む、フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ジェットミルで粉砕後の液晶ポリマー粒子をローターミルでさらに粉砕する工程を含む、フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法。
【請求項3】
前記液晶ポリマー粒子が、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)と、ジオール化合物に由来する構成単位(II)と、ジカルボン酸に由来する構成単位(III)と、を含む、請求項1または2に記載の液晶ポリマー粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位である、請求項3に記載の液晶ポリマー粒子の製造方法。
【請求項5】
前記構成単位(I)の組成比が、前記液晶ポリマー粒子全体の構成単位に対して、40モル%以上80モル%以下である、請求項3または4に記載の液晶ポリマー粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の製造方法により得られたフィブリル状液晶ポリマー粒子を用いる、樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
マトリクス樹脂に対して、請求項1または2に記載の製造方法により得られたフィブリル状液晶ポリマー粒子を添加することを含む、樹脂成形体の熱膨張係数の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、寸法安定性、耐熱性、化学的安定性等に優れることから、電子回路基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂組成物として応用が検討されている。しかし、液晶ポリマーは概して溶融張力が低く、フィルム成形における生産性が悪いため、液晶ポリマーからなるフィルムは高価であるという課題を抱えている。
【0003】
そこで、樹脂成形体用の添加剤として液晶ポリマーを利用するために、液晶ポリマーを微粒子化したり、フィブリル化したりすることが検討されてきた。例えば、特許文献1では、液晶ポリマーを紡糸して液晶ポリマー繊維を得る工程と、液晶ポリマー繊維に対して水流を噴射してフィブリル化する工程とを含むフィブリル化溶融液晶ポリマー繊維の製造方法が提案されている。しかし、この方法では、得られるフィブリル化物は、繊維状の形態を有しており、微細なフィブリル化液晶ポリマー粒子を得ることは出来ていなかった。
【0004】
上記の課題に対して、特許文献2では、2軸配向された液晶ポリマーのフィルムを粉砕して液晶ポリマーバウダーを得る粉砕工程と、液晶ポリマーパウダーを湿式高圧粉砕装置で粉砕することによりフィブリル化液晶ポリマーバウダーを得るフィブリル化工程とを含む、フィブリル化液晶ポリマーバウダーの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-6629号公報
【特許文献2】国際公開2014/188830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の方法では、液晶ポリマーをフィブリル化するために煩雑な工程を経る必要があった。したがって、本発明の目的は、簡便な方法により、フィブリル状液晶ポリマー粒子を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、原料となる液晶ポリマーの溶融粘度を調節することで、簡便な方法によりフィブリル状液晶ポリマー粒子を製造できることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明の一態様によれば、
溶融粘度1Pa・s以上20Pa・s以下の液晶ポリマーをジェットミルで粉砕して、体積基準の粒径分布における累積分布50%径D50が1μm以上200μm以下である液晶ポリマー粒子を得る工程を含む、液晶ポリマー粒子の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の態様においては、前記ジェットミルで粉砕後の液晶ポリマー粒子をローターミルでさらに粉砕する工程を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の態様においては、前記液晶ポリマー粒子が、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)と、ジオール化合物に由来する構成単位(II)と、ジカルボン酸に由来する構成単位(III)と、を含むことが好ましい。
【0011】
本発明の態様においては、前記ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)が、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、前記構成単位(I)の組成比が、前記液晶ポリマー粒子全体の構成単位に対して、40モル%以上80モル%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の他の態様においては、上記の製造方法により得られたフィブリル状液晶ポリマー粒子を用いる、樹脂成形体の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の他の態様においては、マトリクス樹脂に対して、上記の製造方法により得られたフィブリル状液晶ポリマー粒子を添加することを含む、樹脂成形体の熱膨張係数の低減方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、煩雑な工程を経ずに、簡便な方法によりフィブリル状液晶ポリマー粒子を製造することができる。そのため、本発明のフィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法によれば、連続生産性および経済性に優れるため、フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造コストを低減させることができる。
【発明を実施するための態様】
【0016】
[フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法]
本発明によるフィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法は、少なくともジェットミルによる粉砕工程を含み、続いて、ローターミルによる粉砕工程をさらに含んでもよい。本発明によるフィブリル状液晶ポリマー粒子の製造方法は、従来の製法に比べて煩雑な工程を経ずに、簡便な方法により行われ、連続生産性および経済性に優れるため、フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造コストを低減させることができる。
【0017】
(ジェットミル粉砕)
ジェットミルによる粉砕工程においては、原料として溶融粘度1Pa・s以上20Pa・s以下の液晶ポリマーを用いる。このような液晶ポリマーに対して、ジェットミル条件を適宜設定することで、フィブリル化された液晶ポリマーを得ることができる。ジェットミルの条件としては、例えば、原料の液晶ポリマーの粉末を、好ましくは0.1~10g/分、より好ましくは0.5~3.0g/分の速度で供給する。供給エアーは好ましくは0.1~5.0MPa、より好ましくは0.5~3.0MPaの圧力で噴射し、粉砕エアーは好ましくは0.1~5.0MPa、より好ましくは0.5~3.0MPaの圧力で噴射する。
【0018】
ジェットミルとは、気流を用いる方式の粉砕装置である。ジェットミルは特に限定されず、従来公知の装置を用いることができる。ジェットミルとしては、例えば、旋回気流式ジェットミル、ジェット・オー・ミル、衝突式ジェットミル、カレントジェットミル等が挙げられる。旋回気流式ジェットミルとは、粉砕室の側壁に、粉砕室の中心部に対して傾斜して配置された噴射ノズルから圧縮空気を噴出させることにより粉砕室内に旋回気流を発生させ、この旋回気流によって粉砕室内に投入された粉体の粉砕を行う装置である。ジェット・オー・ミルとは、縦長のドーナツ様ケーシングの下部から高速エアーを噴射してケーシング本体の粉砕室内に高速の旋回気流を形成し、その旋回気流に粉体を乗せて相互に衝突させることによって粉砕する装置である。衝突式ジェットミルは、ジェット気流で粉体を搬送加速して衝突部材に衝突させ、その衝撃力により粉体を粉砕する装置である。カレントジェットミルは、長円形の内部空間に隔壁を形成させて粉砕ゾーンと分級ゾーンとを設け、ジェット気流を吹込むノズルを粉砕ゾーンに配置した構造を有する装置である。ジェットミルによる粉砕工程においては、これらの装置のいずれを用いてもよい。
【0019】
本発明によるフィブリル状液晶ポリマー粒子の製造に用いるジェットミルとしては、市販の装置を用いることができる。例えば、日清エンジニアリング(株)製の気流式粉砕機スーパージェットミル SJ-100Cシステムを使用することができる。
【0020】
原料である液晶ポリマーの溶融粘度が1Pa・s以上5Pa・s以下である場合、ジェットミル粉砕工程のみでも十分にフィブリル化された液晶ポリマー粒子を得ることができる。原料である液晶ポリマーの溶融粘度が5Pa・s超20Pa・s以下である場合、十分にフィブリル化された液晶ポリマー粒子を得るためには、ジェットミルによる粉砕工程に続いて、下記のローターミルによる粉砕工程を行うことが好ましい。
【0021】
(ローターミル粉砕)
ジェットミルによる粉砕後の液晶ポリマー粒子を、ローターミルによりさらに粉砕することで、フィブリル状液晶ポリマー粒子を得ることもできる。ローターミルは特に限定されず、従来公知の装置を用いることができる。ローターミルの条件としては、例えば、ジェットミル粉砕後の液晶ポリマー粒子を、好ましくは0.1~10g/分、より好ましくは0.5~3.0g/分の速度で供給する。ローターの回転数は、好ましくは6,000~20,000rpmであり、より好ましくは8,000~15,000rpmである。
【0022】
本発明によるフィブリル状液晶ポリマー粒子の製造に用いるローターミルとしては、市販の装置を用いることができる。例えば、フリッチュ(株)製のロータースピードミルP-14を使用することができる。
【0023】
[フィブリル状液晶ポリマー粒子]
本発明の製造方法により得られるフィブリル状液晶ポリマー粒子とは、多数のフィブリル(例えば、フィブリル状の枝、フィブリルからなる網状構造)を有する液晶ポリマーからなる粒子であり、粒子全体が実質的にフィブリル化されているものを指す。すなわち、フィブリル状液晶ポリマー粒子には、フレーク状または偏平状の液晶ポリマー粒子から部分的にフィブリル状の枝が延びるようなものは含まれない。
【0024】
フィブリル状液晶ポリマー粒子は、多数のフィブリルを有するため、表面付近に多数の空隙を有しており、嵩密度が低いものとなる。フィブリル状液晶ポリマー粒子全体の嵩密度は、好ましくは0.01~0.2であり、より好ましくは0.03~0.08である。
【0025】
フィブリル状液晶ポリマー粒子の体積基準の粒径分布は、レーザー回折・散乱法粒径分布測定装置を用いて測定することができる。体積基準の粒径分布における累積分布50%径D50と(以下、「D50」という)は、小粒径側からの累積分布が50%となる粒径の値を表す。本発明の製造方法により得られるフィブリル状液晶ポリマー粒子は、体積基準の粒径分布におけるD50が1μm以上200μm以下である。D50は、上限値が好ましくは150μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、下限値は10μm以上であってもよい。フィブリル状液晶ポリマー粒子の体積基準の粒径分布におけるパラメータであるD50の値を上記範囲内に調節することによって、樹脂成形体に添加した際に線膨張係数を低下させることができる。なお、D50の値は、原料である液晶ポリマーの溶融粘度、粉砕方法・粉砕条件等によって、調節することができる。
【0026】
液晶ポリマー粒子の液晶性は、メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)等を用い、液晶ポリマー粒子を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させた後、光学異方性の有無を観察することにより確認することができる。
【0027】
[液晶ポリマー]
本発明の製造方法により得られる液晶ポリマー粒子の原料である液晶ポリマーは、その組成は特に限定されるものではないが、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)、および芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III)を含むことが好ましい。さらに、本発明による液晶ポリマーは、構成単位(I)~(III)以外の構成単位として、構成単位(IV)をさらに含んでもよい。以下、液晶ポリマーに含まれる各構成単位について説明する。
【0028】
(ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I))
液晶ポリマーを構成する単位(I)は、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であり、下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(I)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0029】
【化1】
上記式中Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもナフチル基が好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0030】
上記式(I)で表される構成単位を与えるモノマーとしては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA、下記式(1))、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化2】
【0031】
ポリエステル樹脂全体の構成単位に対する構成単位(I)の組成比(モル%)は、下限値としては好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは45モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上であり、さらにより好ましくは55モル%以上であり、上限値としては、好ましくは80モル%以下であり、より好ましくは75モル%以下であり、さらに好ましくは70モル%以下であり、さらにより好ましくは65モル%以下である。構成単位(I)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。
【0032】
(ジオール化合物に由来する構成単位(II))
液晶ポリマーを構成する単位(II)は、ジオール化合物に由来する構成単位であり、下記式(II)で表される芳香族ジオール化合物に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(II)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0033】
【化3】
上記式中Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基が好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0034】
構成単位(II)を与えるモノマーとしては、例えば、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP、下記式(2))、ハイドロキノン(HQ、下記式(3))、メチルハイドロキノン(MeHQ、下記式(4))、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(BisPA、下記式(5))、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物を用いることが好ましい。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0035】
ポリエステル樹脂全体の構成単位に対する構成単位(II)の組成比(モル%)は、下限値としては好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは12.5モル%以上であり、さらに好ましくは15モル%以上であり、さらにより好ましくは17.5モル%以上であり、上限値としては、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは27.5モル%以下であり、さらに好ましくは25モル%以下であり、さらにより好ましくは22.5モル%以下である。構成単位(II)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。
【0036】
(芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III))
液晶ポリマーを構成する単位(III)は、ジカルボン酸に由来する構成単位であり、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(III)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0037】
【化8】
上記式中Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびナフチル基が好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0038】
構成単位(III)を与えるモノマーとしては、テレフタル酸(TPA、下記式(6))、イソフタル酸(IPA、下記式(7))、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA、下記式(8))、およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化9】
【化10】
【化11】
【0039】
ポリエステル樹脂(A)全体の構成単位に対する構成単位(III)の組成比(モル%)は、下限値としては好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは12.5モル%以上であり、さらに好ましくは15モル%以上であり、さらにより好ましくは17.5モル%以上であり、上限値としては、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは27.5モル%以下であり、さらに好ましくは25モル%以下であり、さらにより好ましくは22.5モル%以下である。構成単位(II)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。なお、構成単位(II)の組成比と構成単位(III)の組成比は実質的に当量((構成単位(II)≒構成単位(III))となる。
【0040】
(他のモノマーに由来する構成単位(IV))
液晶ポリマーは、上記構成単位(I)~(III)以外の他の構成単位をさらに含んでもよい。構成単位(IV)は、上記構成単位(I)~(III)を与えるモノマー以外の他のモノマーに由来するものであって、上記構成単位(I)~(III)を与えるモノマーと重合可能な重合性を有するモノマーに由来するものであれば特に限定されない。重合性基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミン基、ならびにアミド基が挙げられる。構成単位(IV)を与えるモノマーはこれらの重合性基を1つ以上、好ましくは2つ以上有するものである。重合性基が2つ以上含まれる場合、それらの重合性基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。構成単位(IV)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0041】
構成単位(IV)としては、例えば、下記の構成単位(IV-1):
【化12】
が挙げられる。
【0042】
構成単位(IV-1)を与えるモノマーとしては、アセトアミノフェノン(AAP、下記式(9))、p-アミノフェノール、4’-アセトキシアセトアニリド、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化13】
【0043】
また、構成単位(IV)としては、例えば、下記の構成単位(IV-2):
【化14】
が挙げられる。
【0044】
構成単位(V-2)を与えるモノマーとしては、1,4-シクロへキサンジカルボン酸(CHDA、下記式(10))およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【化15】
【0045】
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(IV)の組成比(モル%)は、構成単位(I)~(III)の組成比に応じて、適宜設定することができる。具体的には、モノマー仕込みにおけるカルボキシル基と、ヒドロキシ基および/またはアミン基とのモノマー比(モル比)がおおよそ1:1の範囲になるように、各構成単位の組成比を適宜設定すればよい。
【0046】
液晶ポリマーの特に好ましい配合としては、液晶ポリマー全体の構成単位に対して、少なくとも、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の構成単位が45モル%以上75モル%以下の範囲内である。液晶ポリマーの格別に好ましい配合としては、
45モル%≦6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(I)≦75モル%
12モル%≦芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)≦27.5モル%
3モル%≦テレフタル酸に由来する構成単位(III)≦25モル%
2モル%≦2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位(III)≦9モル%
である。
液晶ポリマー全体の構成単位に対して、各構成単位が上記範囲内であれば、誘電正接の低い液晶ポリマーを得ることができる。
【0047】
液晶ポリマーの融点は、下限値としては、好ましくは280℃以上であり、より好ましくは290℃以上であり、さらに好ましくは295℃以上であり、さらにより好ましくは300℃以上であり、また、上限値としては、好ましくは340℃以下であり、より好ましくは335℃以下であり、さらに好ましくは330℃以下であり、さらにより好ましくは325℃以下である。
なお、本明細書において、液晶ポリマーの融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定した値である。具体的には、昇温速度10℃/分で室温から360~380℃まで昇温して液晶ポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で30℃まで降温し、更に10℃/分の速度で380℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点(Tm)とした。
【0048】
液晶ポリマーの溶融粘度は、液晶ポリマーの融点+20℃以上、せん断速度100s-1の条件おいて、1Pa・s以上20Pa・s以下であり、好ましくは10Pa・s以下であり、より好ましくは5Pa・s以下である。液晶ポリマーの溶融粘度が1Pa・s以上5Pa・s以下である場合、ジェットミルを用いた粉砕工程のみでフィブリル化でき、体積平均粒子径を所望の範囲内に調節することができる。また、液晶ポリマーの溶融粘度が5Pa・s超20Pa・s以下である場合、ジェットミルを用いた粉砕工程を行った後、ロールミルを用いた粉砕工程を行ってフィブリル化することで、体積平均粒子径を所望の範囲内に調節し易くなる。なお、液晶ポリマーの溶融粘度は、液晶ポリマーの重合条件や組成等によって、調節することができる。
【0049】
(液晶ポリマーの製造方法)
液晶ポリマーは、所望により構成単位(I)~(III)を与えるモノマーおよび所望により構成単位(IV)を与えるモノマーを、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。一実施態様において、本発明に係る液晶ポリマーは、溶融重合によりプレポリマーを作製し、これをさらに固相重合する2段階重合によっても製造することができる。
【0050】
溶融重合は、本発明に係るポリエステル化合物が効率よく得られる観点から、所望により上記構成単位(I)~(III)を与えるモノマーおよび所望により構成単位(IV)を与えるモノマーを、所定の配合で合わせて100モル%として、モノマーが有する全水酸基に対し、1.05~1.15モル当量の無水酢酸を存在させて酢酸還流下において行うことが好ましい。
【0051】
溶融重合とこれに続く固相重合の二段階により重合反応を行う場合は、溶融重合により得られたプレポリマーを冷却固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素等の不活性雰囲気下、または真空下において200~350℃の温度範囲で1~30時間プレポリマー樹脂を熱処理する等の方法が好ましくは選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0052】
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等、有機化合物触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、モノマーの総量100重量部に対して、0.0001~0.1重量部であることが好ましい。
【0053】
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置等が挙げられる。
【0054】
[用途]
本発明の製造方法により得られる液晶ポリマー粒子は、樹脂組成物の添加剤として用いることができる。上記のフィブリル状液晶ポリマー粒子は、誘電正接が低く、樹脂組成物に添加することで、樹脂組成物からなる成形体の誘電正接を低下させることができる。そのため、上記の液晶ポリマー粒子を電子回路基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂成形体に好適に用いることができる。
【0055】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、マトリクス樹脂と、上記のフィブリル状液晶ポリマー粒子とを含むものである。マトリクス樹脂は特に限定されず、従来公知のマトリクス樹脂を用いることができる。マトリクス樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。マトリクス樹脂に上記のフィブリル状液晶ポリマー粒子を加えて樹脂成形体を製造することで、樹脂成形体の線膨張係数を低減させることができる。
【0056】
樹脂成形体中のフィブリル状液晶ポリマー粒子の含有量は、特に限定されないが、マトリクス樹脂100体積部に対して、好ましくは10~80体積部であり、より好ましくは20~70体積部であり、さらに好ましくは30~60体積部である。フィブリル状液晶ポリマー粒子の含有量が上記数値範囲内であれば、樹脂成形体の線膨張係数を有意に低減させることができる。
【0057】
[樹脂成形体の熱膨張係数の低減方法]
樹脂成形体の熱膨張係数の低減方法は、マトリクス樹脂に対して、上記のフィブリル状液晶ポリマー粒子を添加することを特徴するものである。マトリクス樹脂については、[樹脂成形体]の欄で説明した通りである。添加方法は、特に限定されず、マトリクス樹脂中にフィブリル状液晶ポリマー粒子が十分に分散する方法であればよい。
【0058】
フィブリル状液晶ポリマー粒子の添加量は、マトリクス樹脂100体積部に対して、好ましくは10~80体積部であり、より好ましくは20~70体積部であり、さらに好ましくは30~60体積部である。フィブリル状液晶ポリマー粒子の添加量が上記数値範囲内であれば、樹脂成形体の線膨張係数を有意に低減させることができる。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
<液晶ポリマーの合成>
(合成例1)
攪拌翼を有する重合容器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)60モル%、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP)20モル%、テレフタル酸(TPA)15.5モル%、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA)4.5モル%を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0061】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が310℃になったところで重合物を抜き出し、冷却固化した。得られた重合物を粉砕し目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
【0062】
次に、上記で得られたプレポリマーを、ヤマト科学(株)製のオーブンでヒーターにより、温度を室温から5時間かけて280℃まで昇温した後、280℃で温度を3時間保持して固相重合を行った。その後室温で自然放熱し、粉砕し、液晶ポリマーAの粉末を得た。メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用い、液晶ポリマーAを顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を示すことを確認した。
【0063】
(合成例2)
温度を室温から5時間かけて300℃まで昇温した後、300℃で温度を1時間保持して固相重合を行った以外は、合成例1と同様にして、液晶ポリマーBの粉末を得た。また、合成例1と同様にして、液晶ポリマー粒子Bが液晶性を示すことを確認した。
【0064】
(合成例3)
温度を室温から5時間かけて310℃まで昇温した後、310℃で温度を1.5時間保持して固相重合を行った以外は、合成例1と同様にして、液晶ポリマーCの粉末を得た。また、合成例1と同様にして、液晶ポリマー粒子Cが液晶性を示すことを確認した。
【0065】
(融点の測定)
上記で得られた液晶ポリマーA~Cの融点を、ISO11357、ASTM D3418の試験方法に準拠して、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)により測定した。このとき、昇温速度10℃/分で室温から360~380℃まで昇温してポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で30℃まで降温し、更に10℃/分の速度で380℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点(Tm)とした。測定結果を表1に示した。
【0066】
(溶融粘度の測定)
上記で得られた液晶ポリマーA~Cの溶融粘度は、せん断速度100S-1における融点+20℃での溶融粘度(Pa・s)を、キャピラリーレオメーター粘度計((株)東洋精機製作所キャピログラフ1D)と内径1mmキャピラリーを用い、JIS K7199に準拠して測定した。測定結果を表1に示した。
【0067】
(粒径分布の測定)
上記で得られた液晶ポリマーA~Cの粉末の体積基準の粒径分布をレーザー回折・散乱法粒径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LS 13 320乾式システム、トルネードドライパウダーモジュール装着)で測定した。粒径分布を示すパラメータであるD50は、測定データから演算結果として得た。結果を表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
<フィブリル状液晶ポリマー粒子の製造>
(実施例1)
上記で得られた液晶ポリマーAの粉末を、下記の条件でジェットミル粉砕を行って、フィブリル状液晶ポリマー粒子Aを得た。
(ジェットミルの条件)
・装置名:日清エンジニアリング(株)製、型番:気流式粉砕機スーパージェットミル SJ-100Cシステム
・原料供給速度:2g/分
・供給エアー:0.8MPa
・粉砕エアー:0.7Mpa
【0070】
(実施例2)
上記で得られた液晶ポリマーBの粉末を、上記の条件でジェットミル粉砕を行った後、続いて、下記の条件でローターミル粉砕を行って、フィブリル状液晶ポリマー粒子Bを得た。
(ローターミルの条件)
・装置名:フリッチュ(株)製、型番:ロータースピードミルP-14
・原料供給速度:1g/分
・回転数:10,000rpm
・篩目開き:0.08mm
【0071】
(比較例1)
上記で得られた液晶ポリマーCの粉末を、上記の条件でジェットミル粉砕を行って、液晶ポリマー粒子Cを得た。
【0072】
(粒径分布の測定)
上記で得られた液晶ポリマー粒子A~Cのの体積基準の粒径分布を上記と同様にして測定した。結果を表2に示した。
【0073】
【表2】
【0074】
[樹脂成形体の製造]
(実施例3)
ポリイミドワニス(ソマール株式会社製、スピクセリアGR003)に、ワニス中のポリイミド100体積部に対して50体積部のフィブリル状液晶ポリマー粒子Bを添加し、懸濁液を得た。得られた懸濁液をガラス基板に塗布し、乾燥・硬化させて、厚さ50μmのフィルムを製造した。
【0075】
(比較例2)
上記で得られた液晶ポリマーCの粉末を、日本ニューマチック工業社製SPK-12型ジェットミルに同社製DSF-10型分級機を組み合わせた装置を用いて、粉砕圧0.65MPa、樹脂供給量5kg/hの条件で連続的に粉砕を行った。その結果、略球状液晶ポリマー粒子Dを得た。
【0076】
続いて、フィブリル状液晶ポリマー粒子Bの代わりに、得られた略球状液晶ポリマー粒子Dを用いた以外は、実施例3と同様にして、フィルムを製造した。
【0077】
(線膨張係数(CTE)の測定)
上記で得られた実施例3および比較例2のフィルムについて、下記の条件で線膨張係数を測定した。測定結果を表3に示した。
(線膨張係数の測定条件)
・装置名:リガク(株)製、型番:熱機械分析装置 Thermo plus EVO2
・温度プログラム:(1)30→280℃、10℃/分 30分保持
(2)280→80℃、50℃/分
(3)80℃→400℃、10℃/分 5分保持
・2段加熱((3)の昇温過程)の100~200℃のCTE値(ppm/K)を採用
【0078】
【表3】