(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190642
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】肥料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 11/00 20060101AFI20221219BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20221219BHJP
【FI】
C05F11/00
B09B3/00 304G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021122009
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】500228090
【氏名又は名称】三光株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三輪 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】道川 美富
(72)【発明者】
【氏名】吉川 正明
【テーマコード(参考)】
4D004
4H061
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AC05
4D004BA04
4D004CA14
4D004CA15
4D004CA34
4D004CA42
4D004CB21
4D004CC12
4D004DA03
4D004DA10
4H061AA01
4H061AA02
4H061CC41
4H061EE64
4H061GG19
4H061GG26
4H061GG41
4H061LL24
(57)【要約】
【課題】木質バイオマス灰にあらかじめ酸を含浸した微粉炭を混合し、pH調整を行った肥料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】バイオマス燃焼炉から発生する木質バイオマス灰と酸を含浸させた微粉炭を含有し、且つ前記微粉炭の酸含浸前の重量が前記木質バイオマス灰の重量に対して5~50重量%である肥料及びその製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス燃焼炉から発生する木質バイオマス灰と酸を含浸させた微粉炭を含有し、且つ前記微粉炭の酸含浸前の重量が前記木質バイオマス灰の重量に対して5~50重量%であることを特徴とする肥料。
【請求項2】
前記バイオマス燃焼炉は流動床式燃焼炉であることを特徴とする請求項1に記載の肥料。
【請求項3】
微粉炭に酸を含浸させる酸含浸工程と、前記酸含浸工程で酸を含浸させた前記微粉炭とバイオマス燃焼炉から発生する木質バイオマス灰を混合する混合工程と、前記混合工程で混合した混合灰を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥した乾燥灰を造粒する造粒工程からなることを特徴とする肥料の製造方法。
【請求項4】
前記バイオマス燃焼炉は流動床式燃焼炉であることを特徴とする請求項3に記載の肥料の製造方法。
【請求項5】
前記微粉炭の酸含浸前の重量が前記木質バイオマス灰の重量に対して5~50重量%であることを特徴とする請求項4または5に記載の肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質バイオマス灰を原料とした肥料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年地球温暖化が問題となってきておりその原因である温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの導入を推進するため、固定価格買取制度(FIT)法が制定されたことから間伐材等の木質系燃料を使用したバイオマス発電が増加してきており、それに伴って排出される焼却灰(以下、木質バイオマス灰ともいう)も増加しているが、現状有効なリサイクル方法が確立されておらず、廃棄物として埋め立て処分されている。
【0003】
一方木質バイオマス灰は木質系燃料を使用していることから、木質由来のカリウムやカルシウム等の肥料成分を多く含んでいる。また木質バイオマス発電に使用される燃焼炉にはストーカ炉、流動床炉、回転キルン炉等があり、特に流動床炉は珪砂等の粒子層の下部から加圧された空気を供給して、蓄熱した珪砂等を流動させ、その中で燃料を燃焼させるため、珪砂等の摩滅により生じる珪素分を多量に含んだ珪砂粉等も木質バイオマス灰には多く含まれていることから、特に珪素分を補うための肥料としての利用が試みられている。
【0004】
特にイネ科の植物は、珪素分を多く必要とすることから有用な肥料として利用が試みられている。例えば、下記特許文献1(特開2021-14394号公報)には、バイオマス焼却灰を用いて、K2Oを1.0質量%以上、およびSiO2を20質量%以上含むカリウム源に、マグネシウム源および/またはカルシウム源を、Mg/Caモル比が0.25~1.0および/またはCa/Siモル比が1.25~1.95になるように混合した混合原料を、1275~1400℃で焼成した後、毎分30℃以下の速度で冷却して珪酸質肥料を製造する方法が開示されており、メルビナイト及びモンティセライトの合計の含有率が30%以上である珪酸質肥料であり、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法により測定した水溶性珪酸の水溶率が13%以上、溶性加里が0.5%以上の肥料が示されている。
【0005】
また下記特許文献2(特開2016-166115号公報)には、木質焼却灰は強アルカリ性を示すことから、強酸性を示す無機酸を混合して木質バイオマス灰のアルカリ分を中和して肥料とする製造方法および肥料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-14394号公報
【特許文献2】特開2016-166115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の肥料は、主に水田の土壌に施用することが想定されているが、水田の土壌の最適pH(水素イオン濃度)は5.5~6.5といわれており、アルカリ分が多い木質バイオマス灰で作られた肥料では土壌のpHが高くなってしまう。しかしながら土壌は雨水、酸性肥料の施用、有機物の分解に伴う有機酸の生成等により酸性化しやすいため、木質バイオマス灰のようにアルカリ分の多い肥料であっても、酸性度を改良するための土壌改良材として施用することは可能であり、また稲のように湛水栽培をする場合は水田中の多量の水により薄められるため、土壌のpHは高くなりにくい。
【0008】
一方芝生のような湛水栽培をしないイネ科の植物も珪素を多く必要とするが、木質バイオマス灰のようなアルカリ分が高い原料で出来ている肥料を施用すると土壌のpHが上がりやすく、十分注意する必要がある。また、1275~1400℃の高温で焼成する場合、特殊な焼成炉等が必要になり製造コストが高くなる問題もある。
【0009】
また、上記特許文献2には強酸性を示す無機酸により中和することが提案されている。一般的にバイオマス灰には微量ではあるがクロム等の重金属が含まれており、強酸性を示す無機酸により中和を行うと、アルカリ分と反応し中性になる前に一部の重金属が溶出してしまう。一旦溶出した重金属はバイオマス灰に再度付着するが、この付着した重金属は雨水等でも簡単に溶出してしまうため、これを使用した肥料を土壌に施用すると土壌及び地下水を汚染する可能性がある。
【0010】
以上から、近年増加している木質バイオマス灰の有効なリサイクル方法として肥料としての利用が試みられているが、アルカリ分が高く、施用に十分注意が必要であり、特にアンモニア態窒素肥料と同時に施用するとアンモニアが揮散してしまううえ、あらかじめ酸により中和する場合、重金属が溶出するおそれがある。
【0011】
そこで、本発明者らは、木質バイオマス灰の中和方法について鋭意検討を行った結果、酸を含浸させた微粉炭を加えることで強酸による木質バイオマス灰への作用を緩和し、重金属の溶出を抑えるとともに、木質バイオマス灰のpHを下げることが可能となることに想到し、本発明に至ったものである。
【0012】
そこで、本発明の目的は、木質バイオマス灰を原料とし、アンモニア態窒素の揮散を抑え、且つ重金属が溶出しにくい肥料及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様の肥料は、バイオマス燃焼炉から発生する木質バイオマス灰と酸を含浸させた微粉炭を含有し、且つ前記微粉炭の酸含浸前の重量が前記木質バイオマス灰の重量に対して5~50重量%であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様の肥料は、第1の態様の肥料であって、前記バイオマス燃焼炉は流動床式燃焼炉であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様の肥料の製造方法は、微粉炭に酸を含浸させる酸含浸工程と、前記酸含浸工程で酸を含浸させた前記微粉炭とバイオマス燃焼炉から発生する木質バイオマス灰を混合する混合工程と、前記混合工程で混合した混合灰を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥した乾燥灰を造粒する造粒工程からなることを特徴とする。
【0016】
本発明の第4の態様の肥料の製造方法は、第3の態様の肥料の製造方法であって、前記バイオマス燃焼炉は流動床式燃焼炉であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第5の態様の肥料の製造方法は、第3または4の態様の肥料の製造方法であって、前記微粉炭の酸含浸前の重量が前記木質バイオマス灰の重量に対して5~50重量%であることを特徴とする。
【0018】
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様の肥料によれば、あらかじめ酸を含浸した微粉炭によって木質バイオマス灰に含まれるアルカリ分が中和されているため、アンモニア態窒素肥料と同時に施用する際にアンモニアが揮散することがなく、且つ過剰の酸によって木質バイオマス灰中の重金属が溶出し、土壌および地下水を汚染することを抑制できる。また酸含浸前の微粉炭の重量を木質バイオマス灰の重量に対して5~50重量%にすることで、十分な施肥効果が得られ、且つ微粉炭が目立って土壌が黒っぽくなることを防止できる。
【0020】
本発明の第2の態様の肥料によれば、流動床式燃焼炉は珪素を多く含有した砂を主な流動媒体とすることから、砂が摩滅して多くの珪素分を含んだ微粒子が木質バイオマス灰に混入しているため、木質バイオマス灰に含まれるカリウムやカルシウムに加えて珪素を含有した肥料となることから、特に珪素を必要とするイネ科の植物に対して珪素の施肥効果が得られる。
【0021】
本発明の第3の態様の肥料の製造方法によれば、酸を含浸した微粉炭の混合量により土壌改質材、元肥、追肥に用途分けして使用でき、且つ重金属による土壌および地下水の汚染を抑制できる肥料が提供できる。
【0022】
本発明の第4の態様の肥料の製造方法によれば、木質由来のカリウムおよびカルシウムのほか、流動媒体から生じる微粉砂から珪素が溶け出すため、珪素の施肥効果がある肥料が提供できる。
【0023】
本発明の第5の態様の肥料の製造方法によれば、酸を含浸する前の微粉炭の重量を木質バイオマス灰の重量に対して5~50重量%にすることで、十分な施肥効果が得られ、且つ土壌が黒っぽくならない肥料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る肥料の製造方法の工程ブロック図である。
【
図2】pHと木質バイオマス灰の重量に対する硫酸のモル量との関係を示したグラフである。
【
図3】施行の有無と芝の長さの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る肥料およびその製造方法について説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための肥料およびその製造方法を例示するものであって、本発明をこれに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0026】
[実施形態]
以下、
図1を参照して本発明の実施形態に係る肥料の製造方法を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る肥料の製造方法の工程ブロック図である。
本発明の実施形態に係る肥料の製造方法は、微粉炭に酸を含浸させる酸含浸工程(a)と、酸を含浸させた微粉炭とバイオマス燃焼炉から発生する木質バイオマス灰を混合する混合工程(b)と、混合した混合灰を乾燥する乾燥工程(c)と、乾燥した混合灰を造粒する造粒工程(d)からなっている。
【0027】
以下、各工程について詳述する。
(a)酸含浸工程
この工程では、微粉炭に硫酸等の酸を含浸させる。微粉炭には無数の微細な細孔が有るため、あらかじめ酸をこの細孔に吸収させておくことができる。含浸させる酸は、特に限定するものではなく、木質バイオマス灰のpHによって酸の種類および濃度を調整する。
なお微粉炭は一般的に市販されている炭の微粉でよく、特に限定されるものではない。
【0028】
(b)混合工程
この工程では、バイオマス燃焼炉から発生する木質バイオマス灰と酸を含浸させた微粉炭を混合する。この酸を含浸させた微粉炭を木質バイオマスに混合すると木質バイオマス灰に含有されているカルシウム等のアルカリ分が酸により中和される。この際中和で発生する中和水によりアルカリ分に接触している酸は薄められpHが上がり重金属の溶出を抑制できる。
【0029】
一旦薄められた酸は、微粉炭から沁み出す酸によってpHが下がり、さらに木質バイオマス灰のアルカリ分と中和反応を行い、全体のアルカリ分が減少する。この時微粉炭に含浸した酸は、微粉炭の細孔を通って沁み出してくるため、アルカリ分に対して過剰な酸が一度に供給されることがなく、部分的な酸過剰部が生じないため、木質バイオマス灰中の重金属の溶出が抑制される。
【0030】
一方、木質バイオマス灰に強酸を直接混合すると、部分的に過剰な酸が木質バイオマス灰に作用して、重金属等が溶出してしまう恐れがある。一旦溶出した重金属はそのまま木質バイオマス灰の表面に付着したまま残存する。この残存した重金属は雨水等によっても溶出しやすいため、土壌及び地下水を汚染する恐れがある。
【0031】
なお、木質バイオマス灰に弱酸または濃度を薄めた強酸を混合して中和する場合、木質バイオマス灰からの重金属の溶出は抑制されるが、比較的多くの水分が残るため、造粒する前に乾燥する必要があるが、酸を含浸させた微粉炭を混合する場合は、もともと水分が少ないうえ、中和熱により水分が蒸発し、造粒に適した水分量に調整することが可能であり、造粒前の乾燥時間を短縮もしくは省略できる。
【0032】
木質バイオマス灰に混合する微粉炭の量は含浸する酸及び木質バイオマス灰のアルカリ度によって異なり、ほぼ中性にすることで良好な肥料となるが、微粉炭の量を少なくすると肥料がアルカリ性になるため、酸性土化した土壌の土壌改良材も兼ねることができる。また微粉炭の量を多くすると、ほぼ中性にすることができるため元肥及び追肥として利用できる。なお、混合方法および装置は、ミキサー等の一般的な混合方法および装置を使用できる。
【0033】
(c)乾燥工程
この工程では、混合工程で混合した混合灰を造粒に適した含水率に乾燥する。なお、木質バイオマス灰と酸を含浸させた微粉炭を混合した混合灰はあらかじめ造粒に適した含水率に調整することが可能であり、その場合、この工程は省略できる。
【0034】
(d)造粒工程
この工程では、木質バイオマス灰と酸を含浸した微粉炭を混合した混合灰を造粒機で造粒する。混合灰をそのまま撒くと飛散したり、濡れると塊状のダマになったりして施用しにくいため、粒状等に造粒する。また、造粒に際して水溶性の粘結材を加えることでより用途に適した造粒物が得られる。なお造粒方法および装置には、コンパクティング造粒機、ブリケッティング造粒機、エクストルード造粒機、パン型転動造粒機等の一般的な造粒方法および造粒機を使うことができる。
【0035】
以下、さらに肥料について詳述する。
微粉炭に酸を含浸させると微粉炭中の細孔に酸が含浸する。この酸を含浸した微粉炭と木質バイオマス灰を混合すると微粉炭の周りの木質バイオマス灰中のアルカリ分と微粉炭に含浸している酸が中和反応を行い、水と塩が生じる。この水に木質バイオマス灰のカルシウム等のアルカリ分が溶出するとともに微粉炭の細孔中の酸も拡散しさらに中和反応が進む。この際酸は微粉炭の細孔を通って拡散するため常にアルカリ分のほうが酸よりも多くなり、木質バイオマス灰に過度な酸の作用が生じることはなく、重金属が強酸により溶出することを抑制できる。
【0036】
微粉炭に含浸させる酸はアルカリ分を中和できればいいため、特に限定する必要はないが、例えば硫酸を使用すると中和により生成される塩は主に硫酸カルシウム及び硫酸カリウムであり、これらはカリウム、カルシウムのほか硫黄の施肥効果に寄与する。また、硝酸を使用すると同様に窒素の施肥効果が得られるが、硝酸態窒素は施肥し過ぎると過剰に植物等に蓄積され、過剰に蓄積された野菜等を食した際の人体への影響が懸念されていることから、注意を要す。さらにまた、リン酸を使用するとリンの施肥効果が得られるが、土壌が酸性になるとリン酸の施肥効果を阻害するアルミナ等が活発になるためpHをアルカリ側に調整する必要がある。
【0037】
また酸を含浸させる微粉炭は特に限定する必要はないが、例えば下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭はリンを多量に含有しているため、これを微粉炭として使用することでリンの施肥効果が得られる。
【0038】
さらにまたゼオライトや珪藻土等のような多孔質の材料で且つ酸と反応しない材料であれば酸の含浸材として利用することができるがゼオライトや珪藻土のように比重が大きい材料を使用すると肥料が重くなり、取り扱いが大変になるため、より軽い微粉炭を使用するほうが良い。
【0039】
なお、予め微粉炭と木質バイオマス灰を混合したのち、酸で中和することで外観上同様な肥料が得られるが、本発明の実施形態の製造方法により製造することでのみ上述した効果が得られる。
【0040】
一方、流動床式燃焼炉から発生する木質バイオマス灰には、流動媒体の砂が摩滅して微粉化した微粒子が含まれている。この微粒子は珪素を多く含んでいるうえ、高温の状態で摩擦により生成されるため、非常に細かいため表面積が広く、また活性化しているため珪素の溶出量が比較的多くなり、珪素の施肥効果も得られる。
【0041】
なお、流動床式燃焼炉から発生する木質バイオマス灰は、もともとアルカリ分や重金属を含有していない流動媒体の微粒子を多く含むため、その他の燃焼炉から発生する木質バイオマス灰と比較して、アルカリ分も少なく、重金属等の有害物質の含有量も少ないことから、肥料としやすく、またより安全である。
【0042】
<微粉炭混合とpHに関する実験[実験例1~9、比較例1]>
本発明の実施形態の製造方法で、含浸する酸の濃度および酸を含浸した微粉炭の量を変えて、肥料を製作し、そのpHを測定した。
【0043】
最初に微粉炭に濃度の異なる硫酸を任意の割合で含浸させたのち、木質バイオマス灰に任意の割合で混合し、造粒を行い、試料(実験例1~9)を製作し、重量体積比10%で純水と混合し、pHを測定した。また木質バイオマス灰(比較例1)のpHを同様にして測定した。その結果を表1および
図2に示した。
【0044】
【0045】
表1および
図2の結果から、以下のことが判明した。
木質バイオマス灰にあらかじめ硫酸を含浸した微粉炭を混合することで、任意のpHの肥料が得られ、特に濃度が高い硫酸を含浸することでほぼ中性の肥料が得られた。なお、濃度が90重量%以上の濃硫酸を使用すると、より少量の硫酸で中性にすることができるが、濃硫酸は管理上より注意を要するため、今回は実施しなかった。
【0046】
また硫酸を含浸した微粉炭の混合量を増やすと濃度の低い硫酸でも中性にすることができるが、微粉炭の量が木質バイオマス灰に対して50重量%を超えると、炭が目立って全体的に黒っぽくなるうえ、施用したのち、乾燥した際に微粉炭が舞うことから、中性に近い肥料を得るためには濃度の高い硫酸を含浸したほうがよい。
【0047】
一方酸性度の高い土壌に施用する場合は、濃度の低い硫酸を含浸させるか、硫酸を含浸させた微粉炭の量を少なくすることで、土壌改良材および肥料としての両方の効能が得られるが、微粉炭の量が木質バイオマス灰に対して5重量%未満だとpHの改善が得られない。なお、微粉炭に含浸させる酸は硫酸に限定されるものでなく、塩酸、硝酸、リン酸等の一般的な酸を使用できる。
【0048】
以上のことから、微粉炭の混合量を、木質バイオマス灰に対して5~50重量%とすることで任意のpHに調整された肥料が得られる。
【0049】
<重金属の溶出に関する実験[実験例10、比較例2]>
本発明の実施形態の製造方法で肥料を製作し、重金属の溶出試験を実施した。
最初に微粉炭50gに80%硫酸75gを含浸させたのち、木質バイオマス灰200gと混合、撹拌して混合灰を作製したのち、造粒して直径3mm程度の試料(実験例10)を製作した。次に木質バイオマス灰200gに80%硫酸75gを直接混合、混錬したのち、造粒して直径3mm程度の試料(比較例2)を製作した。
次に製作した実験例10および比較例2の試料について環告46号溶出試験を行い重金属の溶出量を測定した。
【0050】
表2に木質バイオマス灰の成分分析結果、表3に重金属の溶出試験結果を示した。
【0051】
【0052】
【0053】
表3に示した結果から、以下のことが判明した。
あらかじめ硫酸を含浸させた微粉炭を木質バイオマス灰と混合して作製した試料(実験例10)は、木質バイオマス灰に直接硫酸を混合して作製した試料(比較例2)に対して、六価クロムCr(VI)の溶出量が十分の一に減少した。その他の重金属はほとんど差がなかった。重金属のうち六価クロムは特に酸に溶けやすいことから、直接硫酸を混合した肥料は六価クロムの溶出が多くなったのに対して、本発明の肥料は微粉炭に酸を含浸した効果が得られたことから差が出たものと考えられる。
【0054】
<芝生への肥効の確認実験[実験例11、比較例3]>
本発明の実施形態の肥料を芝生に施用し、その効果を確認した。流動床式燃焼炉の木質バイオマス発電所から発生した木質バイオマス灰に予め硫酸を含浸した微粉炭を混合し、pHを5.7に調整した肥料を追肥した芝(実験例11)と追肥しない芝(比較例3)を1か月栽培した。
【0055】
その後、成長した芝の長いほうから20本を選びその長さを測定した。
表4及び
図3にその結果を示した。
【0056】
【表4】
その結果、追肥した芝生の最長の長さが約25%長く、平均でも約33%長くなり、施肥効果が確認できた。
【符号の説明】
【0057】
11 微粉炭
12 酸
13 木質バイオマス灰
14 肥料
(a) 酸含浸工程
(b) 混合工程
(c) 乾燥工程
(d) 造粒工程