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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190676
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】集塵水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20221219BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20221219BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C02F1/58 N
C02F1/72 A
C02F1/72 Z
C02F1/76 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084685
(22)【出願日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021098448
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】西内 亨
(72)【発明者】
【氏名】井上 綾
(72)【発明者】
【氏名】天田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大土橋 真希
(72)【発明者】
【氏名】盛一 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
【テーマコード(参考)】
4D038
4D050
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB32
4D038AB33
4D038BA02
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB09
4D038BB16
4D038BB17
4D038BB18
4D050AA12
4D050AB38
4D050BB01
4D050BB02
4D050BB03
4D050BB04
4D050BB06
4D050BB07
4D050BB09
4D050BC04
4D050BC10
4D050BD02
4D050BD03
4D050BD06
4D050BD08
4D050CA09
4D050CA13
4D050CA15
4D050CA16
4D050CA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要とせずに、シアン成分を有効に除去処理する方法の提供。
【解決手段】排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備40と、得られた分離液の一部を洗浄水として湿式集塵処理に供する循環設備50とを用いて集塵水を処理する。集塵水はさらにシアン化物イオン及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する。集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び集塵水にさらに亜鉛塩を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、集塵水にアミン構造を有するカチオン性化合物を添加して固液分離設備で固液分離処理すること;並びに固液分離処理により得られた分離液の一部を湿式集塵処理に供する洗浄水とは別にブロー水として循環設備外に排出し、ブロー水に対して酸化剤を添加して処理すること;を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、さらにシアン化物イオン及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記固液分離設備で固液分離処理すること;並びに
前記固液分離処理により得られた分離液の一部を、前記湿式集塵処理に供する前記洗浄水とは別にブロー水として前記循環設備外に排出し、前記ブロー水に対して酸化剤を添加して処理すること;を含む集塵水の処理方法。
【請求項2】
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含み、
少なくとも前記条件1を満たす条件下、前記集塵水に前記カチオン性化合物を添加することを含む請求項1に記載の集塵水の処理方法。
【請求項3】
前記条件2として、前記集塵水に前記亜鉛塩を添加することを含む請求項1に記載の集塵水の処理方法。
【請求項4】
前記カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項5】
前記カチオン性化合物は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項6】
前記カチオン性化合物は、オレイルアミンを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項7】
前記カチオン性化合物は、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項8】
前記酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、チオ硫酸塩との組み合わせ;次亜塩素酸又はその塩と、硫化ナトリウム又は硫化水素ナトリウムとの組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集塵水の処理方法に関し、より詳しくは、排ガスを湿式集塵処理することで得られる、懸濁物質、シアン化物イオン、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する集塵水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば製鉄所における高炉や転炉等から発生するガスはダストを含むことから、図4に示すように、ガスに含有されるダストを湿式集塵機2により捕集する処理(湿式集塵処理)が行われている。この湿式集塵処理により、ダストを懸濁物質として含有する集塵水が得られる。その集塵水については、集塵水の処理システム1において、集塵水が湿式集塵機2から第1の沈殿槽(シックナー)4に送られ、第1の沈殿槽4で集塵水中の懸濁物質を分離除去する処理が行われている。
【0003】
集塵水には、ガスに含まれていたダスト由来の微細な懸濁物質や塩類等が懸濁又は溶解していることが多いことから、ガスに含まれていたダスト(懸濁物質)を除去するための固液分離処理だけでは、集塵水を清浄化することは難しい。そのため、固液分離処理によりダストとは分離された液分(分離液)は、図4に示すように、循環設備5にて湿式集塵機2に循環される方式で用いられたり、微細な懸濁物質や溶解性の物質を除去するためのさらなる処理が行われたりしている。
【0004】
例えば、上記分離液(集塵水)にシアン化物イオン及びシアノ錯体等のシアン成分が含有されている場合、分離液からシアン成分を除去し、シアン成分が除去された処理水を得るための処理が必要となる。水中のシアン成分を除去する技術としては、次亜塩素酸ナトリウムを用いるアルカリ塩素法、鉄塩を用いる紺青法、並びに銅塩及び還元剤を用いる還元銅塩法(図4参照)等が知られている。還元銅塩法として、例えば特許文献1には、遊離シアン及びシアン錯塩を含有する廃水に銅塩及び還元剤を存在させ、難溶性の沈殿を生成させて分離するシアン含有廃水の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-183182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したアルカリ塩素法では、シアン化ナトリウム等のアルカリ金属塩や、亜鉛シアノ錯体及び銅シアノ錯体等の易分解性のシアノ錯体を除去することができる一方、鉄シアノ錯体を除去することはできない。
【0007】
また、紺青法や還元銅塩法では、廃水中のフェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン等の鉄シアノ錯体についても、難溶性塩を生成させることで廃水から除去することができるといわれている。しかし、本発明者らの検討の結果、紺青法や還元銅塩法では、廃水からの除去処理が困難なシアノ錯体もあることがわかっている。例えば、紺青法では、廃水からペンタシアノカルボニル鉄錯体([FeII(CN)(CO)]3-及び[FeIII(CN)(CO)]2-等)を有効に除去することができないことがわかっている。
【0008】
さらに、還元銅塩法では、廃水に銅塩と還元剤を添加して反応させた後に固液分離処理するという2段階の工程が必要である。そのため一般的に、図4に示すように、銅塩及び還元剤を添加して反応させるための反応槽6と、その後に、反応により生成した難溶性塩を除去するための第2の沈殿槽7が必要であり、処理水を得るまでに必要な設備の設置費用が高くなる。
【0009】
本発明は、上記の従来技術に鑑みて、集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、集塵水中のシアン成分を有効に除去処理することが可能な集塵水の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、前記集塵水は、さらにシアン化物イオン及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記固液分離設備で固液分離処理すること;並びに前記固液分離処理により得られた分離液の一部を、前記湿式集塵処理に供する前記洗浄水とは別にブロー水として前記循環設備外に排出し、前記ブロー水に対して酸化剤を添加して処理すること;を含む、集塵水の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、集塵水中のシアン成分を有効に除去処理することが可能な集塵水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの一例を示す模式構成図である。
図2】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの別の一例を示す模式構成図である。
図3】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムのまた別の一例を示す模式構成図である。
図4】シアン成分を含有する集塵水の処理方法に用いうる従来の処理システムの一例を示す模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、図面における各図で共通する部分については同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、図中の矢印は、物質の流れを表し、当該矢印の線を当該物質の流路として示すこともある。
【0014】
図1図3は、それぞれ本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システム10、11、12の一例を表す模式構成図である。本実施形態の集塵水の処理方法は、排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備40と、固液分離設備40で得られた分離液の一部を洗浄水として湿式集塵処理に供する循環設備50とを用いる。以下、本実施形態の集塵水の処理方法について、固液分離設備40と循環設備50とを備える集塵水処理システム10、11、12における集塵水の処理方法を例示して説明する。なお、集塵水処理システム10、11、12は、排ガスを湿式集塵処理して得られる集塵水を処理するシステムであることから、図1~3においては、ガス及び湿式集塵機2を破線(長破線)で示している。集塵水処理システム10、11、12は、湿式集塵機2を含む排ガス処理システムの一部として構成されていてもよい。
【0015】
本実施形態の集塵水の処理方法では、排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水であって、懸濁物質、シアン化物イオン、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する集塵水を処理対象とする。集塵水は、排ガスを湿式集塵機2にて湿式集塵処理することにより得られる。また、集塵水中の懸濁物質を固液分離処理により除去するために、集塵水を湿式集塵機2から流路(第1の流路)31を通って固液分離設備40に供給することができる。
【0016】
排ガスとしては、湿式集塵機2での洗浄水との接触により、シアン化物イオン、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を生じる可能性があることから、例えば、鉄等を含むダスト、シアン化水素等のシアン成分、及び一酸化炭素を含有する排ガスが好適である。このような排ガスとしては、例えば、製鉄所から生じる排ガス、溶融炉(精錬炉)等の金属精錬設備から生じる排ガス、セメント製造設備から生じる排ガス、及び各種ごみ等の廃棄物を焼却する廃棄物焼却施設から生じる排ガス等を挙げることができる。
【0017】
排ガス中の気体成分としては、例えば、一酸化炭素(CO)、シアン成分の他、二酸化炭素(CO)、及び窒素(N)等が挙げられるが、これらに限られない。また、排ガス中のダストに含まれる固体成分としては、例えば、鉄分(例えば、鉄、酸化鉄、及び水酸化鉄等)、亜鉛、及び銅等が挙げられるが、これらに限られない。これらのなかでも、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合、後述の通り、集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物(以下、単に「カチオン性化合物」と記載することがある。)を添加するだけで、集塵水を有効に処理しうることから、ダスト及び懸濁物質は、亜鉛及び銅の一方又は両方を含むことが好ましい。
【0018】
懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合、集塵水中の亜鉛及び銅の合計含有量は、1~1000mg(Zn+Cu)/Lであることが好ましく、2~200mg(Zn+Cu)/Lであることがより好ましく、10~100mg(Zn+Cu)/Lであることがさらに好ましい。
【0019】
本方法における処理対象である集塵水は、排ガスに含まれていたダストとしての懸濁物質(SS)を含有する。集塵水中の懸濁物質(SS)濃度は、100~10000mg/Lであることが好ましく、200~5000mg/Lであることがより好ましく、500~3000mg/Lであることがさらに好ましい。
【0020】
また、集塵水は、懸濁物質のほか、シアン化物イオン(CN;遊離シアン、フリーシアンとも称される。)、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する。本明細書において、ペンタシアノカルボニル鉄錯体には、[FeII(CN)(CO)]3-及び[FeIII(CN)(CO)]2-、並びにそれら錯イオンの塩(錯塩)及びその水和物が含まれる。集塵水は、シアン化物イオン、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体以外のシアン成分を含有してもよい。他のシアン成分としては、例えば、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)4-;ヘキサシアノ鉄(II)酸イオンとも称される。)、フェリシアン化物イオン([Fe(CN)3-;ヘキサシアノ鉄(III)酸イオンとも称される)、及び[Fe(CN)(CO)2-等を挙げることができる。
【0021】
集塵水のpHは、特に限定されないが、集塵水に後述するカチオン性化合物を添加する際に、5.0~10.0が好ましく、5.5~9.5がより好ましく、6.5~9.0がさらに好ましい。集塵水にpH調整剤を添加して、集塵水のpHを上記範囲内に調整してもよい。pH調整剤は特に限定されず、例えば、塩酸及び硫酸等の酸、並びに水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、及び炭酸ナトリウム等の塩基等の公知のpH調整剤を適宜用いうる。
【0022】
集塵水の温度も特に限定されない。前述の好適な排ガスは比較的高温状態にあることが多く、そのような排ガスを湿式集塵処理して得られる集塵水が好適である観点から、集塵水の温度は、集塵水に後述するカチオン性化合物を添加する際に、20~80℃であることが好ましく、35~80℃であることがより好ましい。集塵水の温度が上記範囲にあることにより、後述のカチオン性化合物や、必要に応じて用いられる亜鉛塩を集塵水に対して十分に反応させることも可能である。
【0023】
本方法では、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び集塵水に亜鉛塩を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加する。すなわち、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合、少なくとも上記条件1を満たすこととなるため、集塵水にカチオン性化合物を添加すればよい。また、集塵水中に懸濁物質が亜鉛及び銅のいずれも含まない場合、上記条件2を満たすように、集塵水にカチオン性化合物及び亜鉛塩を添加すればよい。上記の条件下、アミン構造を有するカチオン性化合物を集塵水に添加することにより、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中にペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物(以下、難溶化物も含めて単に「不溶化物」と記載することがある。)を生じさせることができる。
【0024】
上述の通り、集塵水にカチオン性化合物、及び必要に応じてさらに亜鉛塩を添加して、それらが添加された集塵水を対象として、固液分離設備40にて集塵水中の懸濁物質の固液分離処理を行う。これにより、集塵水中に生じさせた不溶化物を懸濁物質とともに固体成分として固液分離し、除去することが可能となる。このように、集塵水中の懸濁物質を除去するための固液分離処理と同時に、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を不溶化物として固液分離処理により分離除去することが可能となる。集塵水は刻々と変動しうるために懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含むか否かも変わる可能性があること、また、それらの濃度も変わる可能性があること、さらに除去性能が高まりやすいことから、上記条件1及び条件2の両方を満たすことが好ましい。すなわち、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含み、かつ、その集塵水にカチオン性化合物及び亜鉛塩を添加することが好ましい。
【0025】
懸濁物質等の固液分離に用いる固液分離設備40としては、例えば、沈殿処理を行い得るシックナー等の沈殿装置、膜分離処理を行い得る膜分離装置、及びろ過処理を行い得るろ過装置等を挙げることができる。これらのなかでも、沈殿装置を用いた沈殿処理が好ましい。固液分離設備40には、撹拌機構48が設けられていてもよい(図2及び図3参照)。
【0026】
集塵水へのカチオン性化合物及び必要に応じて用いられる亜鉛塩の添加場所は、固液分離処理の対象となる集塵水にカチオン性化合物や亜鉛塩が添加されればよいことから、固液分離設備40、及び/又は固液分離設備40の前であればよい。固液分離設備40の前としては、湿式集塵機2と固液分離設備40との間であればよく、例えば、第1の流路31の途中にカチオン性化合物等の添加位置を設けてもよい。
【0027】
また、図示しないが、湿式集塵機2と固液分離設備40との間に、湿式集塵機2から第1の流路31を流れる集塵水を受け入れる受入槽や、その受入槽から集塵水を固液分離設備40に送るための流路等が設けられてもよい。その受入槽や、受入槽から固液分離設備40への流路等を、カチオン性化合物等の添加位置としてもよい。
【0028】
さらに、図2及び図3に示すように、固液分離設備40には、集塵水を湿式集塵機2から固液分離設備40に送るための樋や配管等の流路(第2の流路)32を敷設することが好ましい。その第2の流路32をカチオン性化合物や亜鉛塩の添加位置とし、当該第2の流路32において、集塵水に対して、カチオン性化合物、さらには必要に応じて亜鉛塩を接触させ、それらを第2の流路32で流して固液分離設備40に送ることが好ましい。第2の流路32は、第1の流路31と同一流路として構成されていてもよいし、第1の流路31に接続されていてもよい。
【0029】
固液分離設備40や第2の流路32等には、カチオン性化合物を添加するための装置(カチオン性化合物添加装置)42や、亜鉛塩を添加するための装置(亜鉛塩添加装置)44を設けることができる。カチオン性化合物添加装置42や亜鉛塩添加装置44は、例えば、各材料(カチオン性化合物又は亜鉛塩)を貯留するためのタンク、並びに各材料を供給するためのポンプ及び供給管等を備えることができる。なお、上述の通り、亜鉛塩は必要に応じて用いられることから、図1図3においては、亜鉛塩添加装置44を破線(短破線)で示している。
【0030】
カチオン性化合物におけるアミン構造は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造であればよい。アミン構造を有するカチオン性化合物は、水中で水溶性カチオンとして利用される。本明細書において、アミン構造とは、アンモニア(NH)の構造中の水素原子を原子団(ヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基)に置換した構造をいう。そして、置換した数が1つの場合を第1級アミンの構造、2つの場合を第2級アミンの構造、3つの場合を第3級アミンの構造、第3級アミンの構造中の窒素原子にさらに炭化水素基が結合した構造を第4級アンモニウムの構造という。
【0031】
アミン構造を有するカチオン性化合物は、モノマー、オリゴマー、及びポリマーのいずれでもよい。これらのなかでも、集塵水にカチオン性化合物を添加し、混合した際の発泡を抑制しやすい観点から、第1級、第2級、及び第3級アミンの構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するカチオン性モノマー、並びにアミン構造を有するカチオン性ポリマーが好ましく、第1級アミン構造を有するカチオン性モノマー、及びアミン構造を有するカチオン性ポリマーがより好ましい。なお、以下のアミン構造を有するカチオン性ポリマーには、オリゴマーも含まれるものとする。
【0032】
第1級~第3級アミン構造を有するカチオン性モノマーとしては、例えば、n-オクチルアミン、2-エチルへキシルアミン、3-(2-エチルへキシルオキシ)プロピルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、ヤシアルキルアミン、牛脂アルキルアミン、及び大豆アルキルアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する脂肪族アミン、並びにN-オレオイルエチレンジアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する脂肪酸アミドアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する1級アミン化合物;ジ(2-エチルヘキシル)アミン、ジ(n-オクチル)アミン、ジデシルアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアミン、及びN-(2-ヒドロキシエチル)オレイルアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する2級アミン化合物;ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、トリ-n-オクチルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オレイルアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する3級アミン化合物;等を挙げることができる。また、第1級~第3級アミン構造を有するカチオン性モノマーとしては、第1級アミン構造、第2級アミン構造、及び第3級アミン構造のうちの2以上の構造と、炭素原子数7以上の炭化水素基とを一分子内に有する化合物も用いることができる。そのようなカチオン性モノマーとしては、例えば、N,N-ビス(アミノプロピル)ドデシルアミン、N-オレイルプロピレンジアミン、及びN-オレイルエチレンジアミン等を挙げることができる。さらに、上記に挙げたカチオン性モノマーの具体例は、塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、スルファミン酸塩、炭酸塩、及びクエン酸塩等)であってもよい。これらの塩のうち、塩酸塩及び硫酸塩がより好ましい。また、第4級アンモニウムの構造(第4級アンモニウムカチオン)を有するカチオン性モノマーとしては、例えば、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、及びベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。これらにおける第4級アンモニウムカチオンと対となる陰イオンは、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオン及び臭化物イオンがより好ましい。
【0033】
カチオン性化合物としてポリマー(カチオン性ポリマー)を用いる場合、カチオン性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、1,000~1,000,000であることが好ましく、5,000~800,000であることがより好ましく、10,000~500,000であることがさらに好ましい。カチオン性ポリマーのMwは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)若しくはゲルろ過クロマトグラフィー(GFC))、又は粘度測定からの類推法により測定される、標準試料としてのポリエチレングリコール換算の値をとることができる。
【0034】
アミン構造を有するカチオン性ポリマーとしては、例えば、アリルアミン重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミンアミド硫酸塩重合体等のアリルアミン系重合体;ジアリルアミン重合体、ジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン・アクリルアミド共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、メチルジアリルアミン・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド-ジアリルアミン塩酸塩誘導体共重合体等のジアリルアミン系重合体;アリルアミン・ジアリルアミン重合体、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩共重合体、アリルアミン・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体等のアリルアミン・ジアリルアミン系共重合体;部分メトキシカルボニル化アリルアミン重合体、部分メチルカルボニル化アリルアミン酢酸塩重合体、部分尿素化アリルアミン重合体、及び部分カルボキシルメチル化ポリアリルアミン重合体等の変性アリルアミン系重合体;等を挙げることができる。
【0035】
また、アミン構造を有するカチオン性ポリマーとしては、例えば、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物;ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物;ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物;ジメチルアミン・アンモニア・エピクロロヒドリン重縮合物;ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物;ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物;ポリアミドポリアミン-エピクロロヒドリン重縮合物;ポリエチレンイミン;等を挙げることもできる。
【0036】
上記に挙げたカチオン性化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。それらのなかでも、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を不溶化しやすく、かつ、集塵水に混合した際の発泡を抑制しやすい観点から、カチオン性化合物は、アミン構造を有するカチオン性ポリマーを含むことが好ましい。なかでも、カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0037】
上記のカチオン性ポリマーのなかでも、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体をより不溶化しやすい観点から、カチオン性化合物は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含むことがさらに好ましい。また、上記のカチオン性ポリマーのなかでも、粘度が比較的低いことでポンプ等による送液及び添加等が行いやすい観点から、カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むこともさらに好ましい。
【0038】
また、カチオン性化合物としては、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を不溶化しやすいこと、集塵水に混合した際の発泡を抑制しやすいこと、及び粘度が比較的低く、ポンプ等による送液及び添加等が行いやすいことから、オレイルアミンもさらに好ましい。さらには、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体をさらに不溶化しやすいこと、及び粘度が比較的低く、ポンプ等による送液及び添加等が行いやすいことから、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を用いることもさらに好ましい。オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合比率としては、オレイルアミンによる上記効果を維持しつつ、不溶化処理能をさらに高める観点から、オレイルアミンの質量に対するジデシルジメチルアンモニウムクロリドの質量の比が0.5~2の範囲が好ましく、1~2の範囲がより好ましい。
【0039】
集塵水にカチオン性化合物を添加する際のカチオン性化合物の形態としては、粉末状や、水等に溶かした溶液(水溶液等)状などを挙げることができ、水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0040】
集塵水にカチオン性化合物とともに必要に応じて添加される亜鉛塩には、水中で亜鉛イオン(Zn2+)を生じうる化合物を好適に用いることができる。好適な亜鉛塩としては、例えば、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛、及び亜硫酸亜鉛等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、硫酸亜鉛が好ましい。集塵水に亜鉛塩を添加する際の亜鉛塩の形態としては、粉末状や、水等に溶かした溶液(水溶液等)状などを挙げることができ、水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0041】
集塵水に対するカチオン性化合物の添加量(集塵水中のカチオン性化合物の濃度)は、カチオン性化合物(有効成分量)として、1~500mg/Lであることが好ましく、2~100mg/Lであることがより好ましく、3~25mg/Lであることがさらに好ましい。また、集塵水に亜鉛塩を添加する場合、集塵水に対する亜鉛塩の添加量(集塵水中の亜鉛塩の濃度)は、亜鉛塩として、0.1~100mg/Lであることが好ましく、0.5~40mg/Lであることがより好ましく、1~20mg/Lであることがさらに好ましい。上記のカチオン性化合物の添加量、及び亜鉛塩の添加量は、それらの2種以上が用いられる場合には当該2種以上の合計の添加量を表す。
【0042】
なお、固液分離処理の際には、上述したカチオン性化合物及び亜鉛塩のほか、さらに凝集剤が用いられてもよい。凝集剤の種類は特に限定されず、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、及び塩化第二鉄等の無機凝集剤、並びにアニオン性高分子凝集剤等の高分子凝集剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
アミン構造を有するカチオン性化合物、及び必要に応じて亜鉛塩が添加された集塵水を固液分離設備で固液分離処理するに当たり、集塵水、カチオン性化合物、及び必要に応じて添加された亜鉛塩は、所定時間混合されることが好ましい。混合の時間としては、例えば、2秒~20分間が好ましく、5秒~10分間がより好ましく、10秒~5分間がさらに好ましい。このような短時間でも、集塵水に対するカチオン性化合物及び亜鉛塩の添加効果を得ることができる。上述した第2の流路32が敷設された固液分離設備(より好適には沈殿装置)40を用いれば、第2の流路32において、集塵水、カチオン性化合物、及び必要に応じて用いられる亜鉛塩を混合することができる(図2及び図3参照)。
【0044】
固液分離設備40において、固形分(懸濁物質、及び不溶化物等)とは分離された液分(分離液)の一部は、循環設備50により、排ガスの洗浄水として湿式集塵処理(湿式集塵機2)に供給される。これにより、分離液中にペンタシアノカルボニル鉄錯体等のシアン成分が僅かに残留する場合でも、循環して繰り返して処理を行うことで、水中シアン濃度をさらに低減することが可能となる。
【0045】
固液分離設備40で固形分とは分離された分離液の一部は、配管等の流路(第3の流路)33を通って循環設備50に供給することができる。循環設備50は、固液分離設備40で得られた分離液を貯留する貯槽52、並びに貯槽52内の分離液の一部を湿式集塵処理に送るための配管等の流路(第4の流路)54及び循環ポンプ56を備えて構成されることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態の集塵水の処理方法では、固液分離処理(固液分離設備40)により得られた分離液の一部を、湿式集塵処理(湿式集塵機2)に供される洗浄水とは別にブロー水として循環設備外に排出し、ブロー水に対して酸化剤を添加して処理することも行う。これにより、ブロー水中にシアン化物イオンが残留している場合に、当該シアン化物イオンを酸化分解することでき、シアン成分が有効に低減された処理水、例えば、全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である処理水を得ることができる。なおかつ、循環設備外で酸化剤を添加するため、酸化剤による循環設備50の腐食の問題を避けることができる。
【0047】
本方法では、循環設備外のブロー水に対して酸化剤を添加することから、当該ブロー水に酸化剤を添加して反応させるための反応槽60を設けることが好ましい。固液分離設備40で得られた分離液の一部は、循環設備50における貯槽52と反応槽60を接続する流路(第5の流路)35を通って、貯槽52から反応槽60に送ることができる。また、固液分離設備40で得られた分離液の一部は、固液分離設備40と反応槽60を直接接続する流路(不図示)を通って反応槽60に送られてもよい。反応槽60の後には、前述した還元銅塩法で必要となるようなさらなる沈殿槽7(図4参照)は不要であるため、また、反応槽60も小型の槽で十分であるため、設備の設置費用を還元銅塩法の場合と比べて低く抑えることができる。
【0048】
ブロー水への酸化剤の添加場所は、固液分離処理で得られた分離液の一部に対して、循環設備外で酸化剤が添加される位置であればよい。例えば、反応槽60を酸化剤の添加位置としてもよいし、第5の流路35や、固液分離設備40と反応槽60を直接接続する流路(不図示)等を、酸化剤の添加位置としてもよい。
【0049】
反応槽60や第5の流路35等には、酸化剤を添加するための装置(酸化剤添加装置)62を設けることができる。酸化剤添加装置62は、例えば、酸化剤を貯留するためのタンク、並びに酸化剤を供給するためのポンプ及び供給管等を備えることができる。酸化剤添加装置62は、使用する酸化剤の種類に応じて、複数設けられてもよい。
【0050】
酸化剤としては、過酸化水素、酸素、オゾン、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、及びヨウ素化合物等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、シアン化物イオンに対する酸化分解能、及び設備の腐食が生じ難い観点から、使用する酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含むことが好ましい。また、酸化剤とともに、酸化剤の反応助剤を用いてもよい。反応助剤としては、例えば、銅塩、チオ硫酸塩、亜硫酸又はその塩、硫化ナトリウム、及び硫化水素ナトリウム等を挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0051】
また、ブロー水中のシアン化物イオンをより酸化分解し易い観点から、酸化剤としては、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、チオ硫酸塩との組み合わせ;硫化ナトリウム又は硫化水素ナトリウムと、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを用いることが好ましい。これらのなかでも、酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;及び過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;のうちの少なくとも1種の組み合わせを含むことがさらに好ましい。上記の各組み合わせの酸化剤は、水等に溶かした溶液(水溶液等)状の形態で用いることがより好ましい。
【0052】
次亜塩素酸塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び次亜塩素酸マグネシウム等を挙げることができる。触媒量としての銅塩とは、銅がシアン化物イオン及び/又はシアノ錯体に対してモル比1:1より少ない量のことを指す。銅塩としては、例えば、亜酸化銅(I)、塩化銅(I)、及び硫化銅(I)等の銅(I)塩、並びに硫酸銅(II)、塩化銅(II)、酸化銅(II)、及び硝酸銅(II)等の銅(II)塩を挙げることができる。チオ硫酸塩としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カルシウム、及びチオ硫酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0053】
ブロー水に対する酸化剤の添加量(ブロー水中の酸化剤の濃度)は、酸化剤(有効成分量)として、1~5000mg/Lであることが好ましく、4~500mg/Lであることがより好ましく、10~160mg/Lであることがさらに好ましい。上記の酸化剤の添加量は、2種以上の酸化剤が用いられる場合には、当該2種以上の合計の添加量を表す。
【0054】
酸化剤を添加する際のブロー水のpHは、特に限定されないが、5.0~10.0であることが好ましく、5.5~9.5であることがより好ましく、6.0~9.0であることがさらに好ましい。酸化剤を添加する前のブロー水にpH調整剤を添加して、ブロー水のpHを上記範囲内に調整してもよい。pH調整には、上述の通り、公知のpH調整剤を適宜用いうる。
【0055】
ブロー水に酸化剤を添加した後、ブロー水中のシアン化物イオンと酸化剤とが十分に反応しうるように、酸化剤が添加されたブロー水を所定時間撹拌することが好ましい。撹拌の時間としては、例えば、1~60分間が好ましく、2~45分間がより好ましく、5~30分間がさらに好ましい。上述した反応槽60を用いる場合、反応槽60にて撹拌を行うことができるため好ましく、例えば、撹拌機構付きの反応槽60にて撹拌を行うことができる。
【0056】
固液分離設備40で液分とは分離された固形分(懸濁物質、及び不溶化物等)を含むスラリーについて、濃縮処理及び脱水処理のいずれか一方又は両方を行い、脱水ケーキと分離水を得ることが好ましい。また、得られた分離水を前述の固液分離処理(固液分離設備40)に送ることが好ましい。これにより、集塵水中のシアン成分の除去処理をさらに安定して行うことが可能となる。
【0057】
例えば図3に示すように、固液分離設備40で液分とは分離された固形分を含むスラリーを、配管等の流路(第6の流路)36を介して脱水機80に送り、脱水処理することにより、脱水ケーキ及び分離水を得ることができる。脱水機80による脱水処理の代わりに濃縮槽(不図示)による濃縮処理であってもよく、濃縮槽による濃縮処理と脱水機80による脱水処理とを併用してもよい。脱水機80で得られた分離水(脱水ろ液)は、配管等の流路(第7の流路)37を通って、より好ましくはさらに第2の流路32を通って固液分離設備40に送られることが好ましい。この場合、第7の流路37と第2の流路32とが接続されていることが好ましい。固液分離設備40には、脱水機80で得られた分離水(脱水ろ液)のほか、濃縮槽で得られた分離水が送られてもよく、余剰のスラリーが送られてもよい。
【0058】
本実施形態の集塵水の処理方法は、集塵水又は処理水中の全シアン濃度と、集塵水、ブロー水、又は処理水中のシアン化物イオン濃度を測定することを含んでいてもよい。集塵水又は処理水中の全シアン濃度の測定値、及び集塵水、ブロー水、又は処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値に応じて、カチオン性化合物、亜鉛塩、及び酸化剤の各添加量を調整することもできる。
【0059】
以上詳述した通り、本実施形態の集塵水の処理方法によれば、特定の条件下、アミン構造を有するカチオン性化合物を集塵水に添加することにより、集塵水中にペンタシアノカルボニル鉄錯体の不溶化物を生じさせることができる。そして、集塵水中に生じさせたペンタシアノカルボニル鉄錯体の不溶化物、及び懸濁物質を一緒に、固液分離処理により分離除去することができる。また、本方法によれば、固液分離処理で得られた分離液の一部をブロー水として循環設備外に排出し、そのブロー水に対して酸化剤を添加するため、酸化剤による循環設備の腐食を避けつつ、ブロー水中に残留するシアン化物イオンを酸化分解することができる。したがって、本方法によれば、集塵水中の懸濁物質を固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、集塵水中のシアン化物イオン及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を有効に除去処理することができる。よって、従来技術と比べて、設備の設置費用を低く抑えつつ、シアン濃度が有効に低減された処理水を得ることができる。
【0060】
なお、本発明の一実施形態の集塵水の処理方法は、次の構成をとることが可能である。
[1]排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、さらにシアン化物イオン及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記固液分離設備で固液分離処理すること;並びに
前記固液分離処理により得られた分離液の一部を、前記湿式集塵処理に供する前記洗浄水とは別にブロー水として前記循環設備外に排出し、前記ブロー水に対して酸化剤を添加して処理すること;を含む集塵水の処理方法。
[2]前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含み、
少なくとも前記条件1を満たす条件下、前記集塵水に前記カチオン性化合物を添加することを含む上記[1]に記載の集塵水の処理方法。
[3]前記条件2として、前記集塵水に前記亜鉛塩を添加することを含む上記[1]又は[2]に記載の集塵水の処理方法。
[4]前記カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[5]前記カチオン性化合物は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[6]前記カチオン性化合物は、オレイルアミンを含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[7]前記カチオン性化合物は、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[8]前記酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含む上記[1]~[7]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[9]前記酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、チオ硫酸塩との組み合わせ;次亜塩素酸又はその塩と、硫化ナトリウム又は硫化水素ナトリウムとの組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを含む上記[1]~[8]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
【実施例0061】
以下、試験例を挙げて、上述した本発明の一実施形態の集塵水の処理方法の効果等をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0062】
<模擬集塵水>
本試験例では、処理対象である集塵水として、以下に述べる、シアン成分を含有する原水と、懸濁物質とを混合して調製した模擬集塵水を用いた。
【0063】
(原水)
所定の工場における排ガスの洗浄を行う排ガス処理装置から排出された、未燃カーボン、鉄分、及び亜鉛分等の懸濁物質を含有する廃水を沈降分離して得られた上澄水を用意した。この上澄水を原水とし、採取した日が異なる3種の原水No.1~3を用意した。これらの原水について、JIS K0102:2013における全シアンの測定方法により、全シアン(T-CN)濃度を測定し、JIS K0102:2013におけるシアン化物の測定法のうちの通気法により、遊離シアン(F-CN)濃度を測定した。また、T-CN濃度の測定値からF-CN濃度の測定値を差し引いた値をシアノ錯体濃度として算出した。その結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
また、原水No.1~3の各原水を5種Cろ紙でろ過して得られたろ液について、液体クロマトグラフィー(LC;商品名「Alliance 2695」、日本ウォーターズ社製)に、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS;商品名「ICP-MS7500」、アジレント・テクノロジー社製)を検出器として結合させた装置(LC-ICP-MS)を用い、以下の測定条件にて、原水中の溶解性のシアノ錯体の濃度を分析した。
(測定条件)
カラム;ODSカラム(商品名「L-Column2」;粒子径5μm、内径4.6mm、カラム長150mm、2連;化学物質評価研究機構製)
移動相;アセトニトリルと25mMリン酸緩衝液(pH7.0、イオンペア試薬として15mMリン酸二水素テトラブチルアンモニウムを含む)との体積比40:60の混合物
流速;0.8mL/分
カラム温度;40℃
検出器;ICP-MS及びフォトダイオードアレイ(PDA)(検出波長:210~400nm)
ICP-MSにおける検出対象元素:Fe(原子量56)、Cu(原子量63)、Ni(原子量60)、Co(原子量59)、Zn(原子量66)
注入量;50~100μL
【0066】
上記分析の結果、原水No.1~3はいずれも[Fe(CN)(CO)]3-、[Fe(CN)(CO)2-、[Fe(CN)4-、及び[Fe(CN)3-を含有することが確認された。それらシアノ錯体の合計濃度は、原水No.1では3.5mg-CN/L、原水No.2では1.5mg-CN/L、原水No.3では3.0mg-CN/Lであった。これらの原水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度は、表1に示すT-CN濃度からF-CN濃度を差し引いたシアノ錯体濃度と比較することで、原水中のシアノ錯体の過半(50質量%超)が、ペンタシアノカルボニル鉄錯体であることが認められた。なお、上記分析の結果、原水No.1のシアノ錯体濃度の内訳は、[Fe(CN)(CO)]3-:2.1mg/L、[Fe(CN)(CO)2-:0.3mg/L、[Fe(CN)4-:0.7mg/L、及び[Fe(CN)3-:0.4mg/Lであった。また、原水No.2のシアノ錯体濃度の内訳は、[Fe(CN)(CO)]3-:0.9mg/L、[Fe(CN)(CO)2-:0.1mg/L、[Fe(CN)4-:0.3mg/L、及び[Fe(CN)3-:0.2mg/Lであった。さらに、原水No.3のシアノ錯体濃度の内訳は、[Fe(CN)(CO)]3-:1.8mg/L、[Fe(CN)(CO)2-:0.3mg/L、[Fe(CN)4-:0.6mg/L、及び[Fe(CN)3-:0.3mg/Lであった。
【0067】
(懸濁物質)
所定の工場における排ガスの洗浄を行う排ガス処理装置から排出された、未燃カーボン、鉄分、及び亜鉛等を含む懸濁物質(SSNo.1)と、亜鉛及び銅を含まない懸濁物質(SSNo.2)を用意した。これらの懸濁物質(SS)の元素組成を蛍光X線分析によって求め、表2に示した。後述する通り、これらの懸濁物質(SSNo.1又はSSNo.2)と、上述した原水(原水No.1又はNo.2)とを混合して模擬集塵水を調製した。また、後述する通り、組成を変更したSSを用意するために、原水と、SSNo.2と、Zn2+源として硫酸亜鉛7水和物の水溶液に水酸化ナトリウムを混合して調製した金属水酸化物懸濁液とを同時に混合し、模擬集塵水中のSS組成を表2のSSNo.3に示す通りに変更した模擬集塵水も用意した。さらに、組成を変更したSSを用意するために、原水と、SSNo.2と、Cu源として酸化第一銅を塩酸で溶解した溶液に水酸化ナトリウムを混合して調製した金属水酸化物懸濁液とを同時に混合し、模擬集塵水中のSS組成を表2のSSNo.4に示す通りに変更した模擬集塵水も用意した。なお、表2には、各懸濁物質(SSNo.1~4)の概要として、SSNo.1は「Zn含有SS」、SSNo.2は「Zn,Cu不含SS」と記した。また、SSNo.3は、SSNo.2に硫酸亜鉛を添加したことでSS中のZn含有率(質量%)を調整したことから、「Zn,Cu不含SS+Zn3.0%」と記し、同様にSSNo.4は、「Zn,Cu不含SS+Cu3.0%」と記した。
【0068】
【0069】
(模擬集塵水の調製)
原水(原水No.1又は原水No.2)を100mLビーカーにとり、50℃になるように加熱撹拌し、塩酸によりpH7.5に調整した。原水に対し、懸濁物質(SSNo.1又はSSNo.2)、又はSSNo.2と上記金属水酸化物懸濁液を、合計SS濃度が2000mg/Lになるように添加した。このようにして、シアン化物イオン、ペンタシアノカルボニル鉄錯体、及び懸濁物質(SSNo.1、No.2、No.3、又はNo.4)を含有する模擬集塵水を調製した。各試験例で処理対象とした模擬集塵水に使用した原水及び懸濁物質(SS)の種類(No.)、並びに当該集塵水中の亜鉛(Zn)又は銅(Cu)の濃度を、後記表5の模擬集塵水欄に示す。
【0070】
<予備試験>
原水No.3を100mLビーカーにとり、50℃になるように加熱撹拌し、塩酸によりpH7.5に調整した。この原水にSSNo.2を2000mg/L添加して模擬集塵水とし、その模擬集塵水に対して、硫酸亜鉛7水和物の10質量%濃度水溶液を硫酸亜鉛(ZnSO)として10mg/L、後記表4に示すカチオン性化合物Aを10mg/L添加した。それらの添加後、予備試験1では20秒間、予備試験2では300秒間(5分間)撹拌して反応させ、反応液を得た。得られた反応液をろ紙(5種C)でろ過し、ろ液を得た。このろ液中の全シアン(T-CN)濃度を、後記の「処理水のT-CN濃度の測定」と同様の方法で測定した。予備試験1及び2の結果を、原水No.3のT-CN濃度値とともに表3に示す。
【0071】
【0072】
予備試験1及び2の結果より、模擬集塵水に亜鉛塩及びカチオン性化合物を添加した後、それらの混合時間が20秒間、及び5分間でも十分にT-CN濃度が低減された処理水が得られることが確認された。そのため、前述の集塵水処理システム11、12における第2の流路32(図2及び図3参照)において、集塵水、カチオン性化合物、及び亜鉛塩を混合することで、十分に処理を行い得ることが認められる。予備試験1及び2の結果を踏まえ、以下の試験例では、模擬集塵水と、カチオン性化合物等との混合時間の条件を5分間に設定した。
【0073】
<試験方法>
(ステップ1)
ビーカー内の調製した模擬集塵水に、試験例1~4を除く試験例では、下記表4に示すカチオン性化合物A~K及び高分子化合物L(アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物)のいずれかを添加した。また、試験例8、11、18、20及び23~37では、さらに硫酸亜鉛7水和物の10質量%濃度水溶液を添加した。その後、模擬集塵水を50℃で5分間撹拌した。次いで、模擬集塵水を含む液をろ紙(5種C)でろ過し、ろ液を得た。以下、カチオン性化合物A~K及び高分子化合物Lを単に「化合物A~L」と記載する。なお、表4に示す通り、化合物J及びKは、2種のカチオン性化合物の混合物であるが、便宜上、化合物と記載する。各試験例における硫酸亜鉛水溶液のZnSOとしての添加濃度(mg(ZnSO)/L)、並びに化合物A~Lの種類(表4参照)及び添加濃度(mg/L)を、後記表5のステップ1欄に示す。
【0074】
【0075】
(ステップ2)
次に、得られたろ液を50℃、pH7.5に調整した上で、各試験例の条件に応じて、ろ液に薬剤を添加し、又は添加せず、10分間撹拌した。薬剤には、35質量%濃度の過酸化水素水、12質量%濃度の次亜塩素酸水溶液、及び1質量%濃度の硫酸銅(II)5水和物の水溶液を用いた。その後、薬剤として、過酸化水素及び/又は次亜塩素酸を用いた試験例では、ろ液中に残存した過酸化水素及び次亜塩素酸を重亜硫酸ナトリウムの添加によって除去し、他の試験例ではその作業を行わずに、処理水を得た。各試験例における過酸化水素水のHとしての添加濃度(mg(H)/L)、次亜塩素酸水溶液のNaClOとしての添加濃度(mg(NaClO)/L)、硫酸銅(II)水溶液のCuとしての添加濃度(mg(Cu)/L)を、後記表5のステップ2欄に示す。
【0076】
(処理水のT-CN濃度の測定)
得られた処理水について、JIS K0102の38.1.2で規定される「pH2以下で発生するシアン化水素」で前処理し、JIS K0102の38.3で規定される「4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度法」に準じた方法を用いることで全シアン(T-CN)濃度を測定した。結果を表5の処理水欄に示す。
【0077】
【0078】
以上の試験例により、懸濁物質、シアン化物イオン及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する模擬集塵水に対して、様々な条件で処理を行い、全シアン(T-CN)濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である処理水が得られた(試験例11~14及び20~36)。具体的には、集塵水中の懸濁物質が亜鉛又は銅を含む場合、アミン構造を有するカチオン性化合物を集塵水に添加して固液分離処理し、かつ、その処理で得られた分離液に酸化剤を添加して処理することで、T-CN濃度が有効に低減された処理水が得られることが確認された(試験例12~14、21及び22)。また、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅を含まない場合、アミン構造を有するカチオン性化合物と亜鉛塩を集塵水に添加して固液分離処理し、かつ、その処理で得られた分離液に酸化剤を添加して処理することで、T-CN濃度が有効に低減された処理水が得られることが確認された(試験例11、20及び23~36)。これらの結果から、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び/又は銅を含む条件や集塵水にさらに亜鉛塩を添加する条件下における、アミン構造を有するカチオン性化合物の作用により、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の不溶化物を生じさせ、それを懸濁物質と一緒に固液分離処理で分離除去できたと認められる。また、固液分離処理後の分離液中に残留するシアン化物イオンを酸化剤により酸化分解できたと認められる。
【0079】
さらに付言すると、化合物A~G及びIを用いた試験例(No.11~14、20~29、31、及び34~36)では、化合物Hを用いた試験例(No.30)に比べて、当該化合物を模擬集塵水に添加した際の発泡が抑制されていた。また、化合物B、D、G、及びI~Kを用いた試験例(No.24、26、29、及び31~33)では、それら以外の化合物を用いた場合に比べて、粘度が低く、ポンプ送液がより容易であった。
【0080】
上記試験例の結果から、実際に、排ガスを湿式集塵処理して得られる集塵水について、前述の固液分離設備及び循環設備を用いる実施形態に係る集塵水の処理方法を適用することが非常に有用であることが確かめられた。固液分離設備により、集塵水中の懸濁物質とともにペンタシアノカルボニル鉄錯体を分離除去でき、かつ、その固液分離設備で得られた分離液の一部(ブロー水)に循環設備外で酸化剤を添加することで、循環設備の腐食を避けつつ、シアン化物イオンを分解できるためである。また、それにより、集塵水中の懸濁物質を固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、集塵水中のシアン化物イオン及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を有効に除去処理することができ、従来技術と比べて、設備の設置費用を低く抑えつつ、シアン濃度が有効に低減された処理水を得ることができるためである。
【符号の説明】
【0081】
10、11、12:集塵水処理システム
2:湿式集塵機
31、32、33、35、36、37:流路
40:固液分離設備
42:カチオン性化合物添加装置
44:亜鉛塩添加装置
50:循環設備
52:貯槽
54:流路
56:循環ポンプ
60:反応槽
62:酸化剤添加装置
図1
図2
図3
図4