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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190678
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】水系顔料分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20221219BHJP
   C09D 11/104 20140101ALI20221219BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20221219BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20221219BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/104
C09C1/48
C09D11/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088890
(22)【出願日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2021098839
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長島 舟
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】長野 智彦
【テーマコード(参考)】
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037CC24
4J037DD04
4J037EE08
4J037FF23
4J039AE06
4J039BA04
4J039BE01
4J039CA06
4J039EA44
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】水系インクに用いた際に保存安定性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを提供する。
【解決手段】顔料を含有するポリエステル樹脂粒子を含有する水系顔料分散体であり、該ポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂Aが、ポリエステル樹脂AI:1価カルボン酸を10~70モル%含むカルボン酸成分(AI-ac)と、アルコール成分(AI-al)と、の重縮合物、ポリエステル樹脂AII:1価アルコールを10~70モル%含むアルコール成分(AII-al)と、カルボン酸成分(AII-ac)と、の重縮合物、及び、ポリエステル樹脂AIII:1価カルボン酸を0モル%超70モル%未満含むカルボン酸成分(AIII-ac)と、1価アルコールを0モル%超70モル%未満含むアルコール成分(AIII-al)と、の重縮合物から選ばれる1種以上である、水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有するポリエステル樹脂粒子を含有する水系顔料分散体であり、
該ポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂Aが、下記のポリエステル樹脂AI、ポリエステル樹脂AII、及びポリエステル樹脂AIIIから選ばれる1種以上である、水系顔料分散体。
ポリエステル樹脂AI:1価カルボン酸を10モル%以上70モル%以下含むカルボン酸成分(AI-ac)と、アルコール成分(AI-al)と、の重縮合物
ポリエステル樹脂AII:1価アルコールを10モル%以上70モル%以下含むアルコール成分(AII-al)と、カルボン酸成分(AII-ac)と、の重縮合物
ポリエステル樹脂AIII:1価カルボン酸を0モル%超70モル%未満含むカルボン酸成分(AIII-ac)と、1価アルコールを0モル%超70モル%未満含むアルコール成分(AIII-al)と、の重縮合物
【請求項2】
前記1価カルボン酸が、炭素数8以上22以下の脂肪族1価カルボン酸及び炭素数6以上12以下の芳香族1価カルボン酸から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の水系顔料分散体。
【請求項3】
前記1価アルコールが、炭素数8以上22以下の脂肪族1価アルコールである、請求項1又は2に記載の水系顔料分散体。
【請求項4】
カルボン酸成分(AI-ac)が3価以上の多価カルボン酸を5モル%以上60モル%以下含む、請求項1又は2に記載の水系顔料分散体。
【請求項5】
ポリエステル樹脂Aの、重量平均分子量(Mw)が3,000以上30,000以下である、請求項1~4のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【請求項6】
前記顔料がカーボンブラックである、請求項1~5のいずれかに記載の水系顔料分散体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の水系顔料分散体を含有する、水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
水系インクにおいて、印刷物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いることが有用であることが知られている。また、印刷物の耐溶剤性や画像定着性の観点で、ポリエステル樹脂を用いる水系インクの検討がされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、水系インクに用いることにより、該水系インクの低粘度を維持しつつ、非吸水性記録媒体上に印刷を行った際においても耐溶剤性に優れる、顔料水分散体の製造方法、及び該製造方法で得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクとして、所定の工程を有する方法により、顔料を含有するポリエステル系樹脂粒子が水を主媒体とする水系媒体中に分散している顔料水分散体及び顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクが得られることが開示されている。
特許文献2には、画像定着性等に優れる水系インクとして、着色剤粒子及びポリエステル樹脂粒子を含有する水系インクであって、着色剤粒子及びポリエステル樹脂粒子が、それぞれ同一又は異なる、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70モル%以上含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸を50モル%以上含有するカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂を含み、かつ、該ポリエステル樹脂の軟化点が125℃以上160℃以下である、水系インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-99819号公報
【特許文献2】特開2018-177989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2の技術では、印刷物の耐溶剤性や画像定着性等は向上するものの、ポリエステル樹脂を用いる水系インクにおいて長期保存時のインクの保存安定性については改善の余地があることが判明した。
本発明は、水系インクに用いた際に保存安定性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子を含有する水系顔料分散体において、該ポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂に所定の量の1価カルボン酸由来の構成単位及び1価アルコール由来の構成単位から選ばれる1種以上を導入することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕顔料を含有するポリエステル樹脂粒子を含有する水系顔料分散体であり、
該ポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂Aが、下記のポリエステル樹脂AI、ポリエステル樹脂AII、及びポリエステル樹脂AIIIから選ばれる1種以上である、水系顔料分散体。
ポリエステル樹脂AI:1価カルボン酸を10モル%以上70モル%以下含むカルボン酸成分(AI-ac)と、アルコール成分(AI-al)と、の重縮合物
ポリエステル樹脂AII:1価アルコールを10モル%以上70モル%以下含むアルコール成分(AII-al)と、カルボン酸成分(AII-ac)と、の重縮合物
ポリエステル樹脂AIII:1価カルボン酸を0モル%超70モル%未満含むカルボン酸成分(AIII-ac)と、1価アルコールを0モル%超70モル%未満含むアルコール成分(AIII-al)と、の重縮合物
〔2〕前記〔1〕に記載の水系顔料分散体を含有する、水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水系インクに用いた際に保存安定性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[水系顔料分散体]
本発明の水系顔料分散体は、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子(以下、「顔料含有ポリエステル樹脂粒子」ともいう)を含有する水系顔料分散体であり、該ポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂Aが、下記のポリエステル樹脂AI、ポリエステル樹脂AII、及びポリエステル樹脂AIIIから選ばれる1種以上である。
ポリエステル樹脂AI:1価カルボン酸を10モル%以上70モル%以下含むカルボン酸成分(AI-ac)と、アルコール成分(AI-al)と、の重縮合物
ポリエステル樹脂AII:1価アルコールを10モル%以上70モル%以下含むアルコール成分(AII-al)と、カルボン酸成分(AII-ac)と、の重縮合物
ポリエステル樹脂AIII:1価カルボン酸を0モル%超70モル%未満含むカルボン酸成分(AIII-ac)と、1価アルコールを0モル%超70モル%未満含むアルコール成分(AIII-al)と、の重縮合物
【0009】
本発明の水系顔料分散体は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子が水系媒体に分散されてなるものである。
本発明において「水系」とは、媒体中で水が最大割合を占めていることを意味する。
水系媒体の水としては、脱イオン水、イオン交換水又は蒸留水が好ましく用いられる。
水系媒体は、更に有機溶媒を含有してもよい。該有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3以上8以下のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類等の水に溶解する水溶性有機溶媒が挙げられる。
水系媒体中の水の含有量は、環境性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
なお、本発明において「カルボン酸成分」には、カルボン酸のみならず、それらの無水物及びそれらの炭素数1以上3以下のアルキルエステル等も含まれる。すなわち、本明細書中では、単にカルボン酸の名称のみを記載している場合、そのカルボン酸の無水物及び炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含めて記載されているものとする。
【0010】
本発明によれば、水系インクに用いた際に保存安定性に優れる水系顔料分散体を得ることができる。その理由は、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
本発明では、顔料含有ポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂に所定の量の1価カルボン酸由来の構成単位及び1価アルコール由来の構成単位から選ばれる1種以上を導入することで、ポリエステル樹脂の分子鎖末端がヒドロキシ基又はカルボキシ基である場合と比べて疎水的になり、該ポリエステル樹脂の顔料への吸着性が向上すると考えられる。これにより、水系顔料分散体中の顔料含有ポリエステル樹脂粒子個々の分散安定性を向上させることができ、該水系顔料分散体を用いた水系インクの保存安定性が向上すると考えられる。
【0011】
<顔料>
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料は、カーボンブラック、アルミナ、二酸化チタン等の金属酸化物が挙げられる。これらの無機顔料は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、高級脂肪酸金属塩等の公知の疎水化処理剤で処理されたものであってもよい。
有機顔料は、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、フタロシアニン系顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等の縮合多環系顔料;ジスアゾ系顔料、縮合アゾ系顔料等のアゾ系顔料などが挙げられる。
有機顔料には、顔料誘導体が含まれる。該顔料誘導体は、水酸基、カルボキシ基、カルバモイル基、スルホ基、スルホンアミド基、フタルイミドメチル基等の官能基を有機顔料表面に結合する処理を行うことにより調製することができる。
色相は特に限定されず、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
上記顔料は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの中でも、顔料は、好ましくはカーボンブラックである。本発明においては、特に顔料としてカーボンブラックを用いる場合に、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性が向上し、インクの保存安定性を大きく改善することができる。
【0012】
カーボンブラックのDBP吸油量は、顔料表面へのポリエステル樹脂の吸着性を向上させ、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは40mL/100g以上、より好ましくは50mL/100g以上、更に好ましく60mL/100g以上であり、そして、好ましくは200mL/100g以下、より好ましくは180mL/100g以下、更に好ましくは150mL/100g以下である。
DBP吸油量とは、DBP法により測定された吸油量をいい、具体的には、ASTM D2414に基づいた値である。
商業的に入手しうるカーボンブラックの具体例としては、キャボット社製のMONARCHシリーズ、REGALシリーズ、MOGUL L;オリオンエンジニアドカーボンズ社製のNIPexシリーズ;三菱ケミカル株式会社製の三菱カーボンブラックシリーズ等が挙げられる。
【0013】
<ポリエステル樹脂A>
ポリエステル樹脂Aは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、前述のポリエステル樹脂AI、ポリエステル樹脂AII、及びポリエステル樹脂AIIIから選ばれる1種以上である。
【0014】
(ポリエステル樹脂AI)
ポリエステル樹脂AIは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、1価カルボン酸を10モル%以上70モル%以下含むカルボン酸成分(AI-ac)と、アルコール成分(AI-al)と、の重縮合物である。すなわち、ポリエステル樹脂AIは、カルボン酸成分(AI-ac)由来の構成単位とアルコール成分(AI-al)由来の構成単位とを含む。
【0015】
〔カルボン酸成分(AI-ac)〕
ポリエステル樹脂AIを構成するカルボン酸成分(AI-ac)(以下、単に「カルボン酸成分(AI-ac)」ともいう)は、1価カルボン酸を含む。
【0016】
1価カルボン酸としては、脂肪族1価カルボン酸、芳香族1価カルボン酸が挙げられる。
脂肪族1価カルボン酸の炭素数は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上、より更に好ましくは8以上、より更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは26以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。
脂肪族1価カルボン酸としては、飽和脂肪族1価カルボン酸、不飽和脂肪族1価カルボン酸が挙げられる。
飽和脂肪族1価カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ピバリン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の直鎖、分岐鎖、又は脂環式の飽和脂肪族1価カルボン酸が挙げられる。
不飽和脂肪族1価カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、アビエチン酸やパラストリン酸やイソピマル酸らを含むロジン酸等の直鎖、分岐鎖、又は脂環式の不飽和脂肪族1価カルボン酸が挙げられる。
【0017】
芳香族1価カルボン酸の炭素数は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは6以上12以下である。
芳香族1価カルボン酸としては、例えば、安息香酸;トルイル酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ターシャリーブチル安息香酸等の炭素数1以上4以下のアルキル基で置換された安息香酸;ナフトエ酸が挙げられる。
上記1価カルボン酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
これらの中でも、1価カルボン酸は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは炭素数4以上26以下の脂肪族1価カルボン酸及び炭素数6以上12以下の芳香族1価カルボン酸から選ばれる1種以上、より好ましくは炭素数6以上22以下の脂肪族1価カルボン酸及び炭素数6以上12以下の芳香族1価カルボン酸から選ばれる1種以上、更に好ましくは炭素数8以上22以下の脂肪族1価カルボン酸及び炭素数6以上12以下の芳香族1価カルボン酸から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは炭素数8以上22以下の飽和脂肪族1価カルボン酸、安息香酸、及び炭素数1以上4以下のアルキル基で置換された安息香酸から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは炭素数10以上18以下の飽和脂肪族1価カルボン酸及び安息香酸から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び安息香酸から選ばれる1種以上である。
【0019】
カルボン酸成分(AI-ac)中の1価カルボン酸の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、10モル%以上であり、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは40モル%以上、より更に好ましくは50モル%以上であり、そして、70モル%以下であり、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下である。
【0020】
カルボン酸成分(AI-ac)は、1価カルボン酸以外の他のカルボン酸として、2価以上の多価カルボン酸を含む。2価以上の多価カルボン酸としては、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。
ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。これらの中でも、芳香族ジカルボン酸は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくはテレフタル酸である。
脂肪族ジカルボン酸としては、不飽和脂肪族ジカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸が挙げられる。これらの中でも、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくはフマル酸である。
飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、炭素数1以上20以下の炭化水素基で置換されたコハク酸が挙げられる。炭素数1以上20以下の炭化水素基で置換されたコハク酸の具体例としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等が挙げられる。
脂環式ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸が挙げられる。
上記の2価以上の多価カルボン酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
これらの中でも、カルボン酸成分(AI-ac)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3価以上の多価カルボン酸を含む。
カルボン酸成分(AI-ac)が、3価以上の多価カルボン酸を含むことにより、ポリエステル樹脂AIの側鎖に酸性基を導入することができ、これにより、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性をより向上させることができる。
3価以上の多価カルボン酸は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3価のカルボン酸、より好ましくはトリメリット酸である。
【0022】
カルボン酸成分(AI-ac)が3価以上の多価カルボン酸を含む場合、該カルボン酸成分(AI-ac)中の3価以上の多価カルボン酸の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは30モル%以上、より更に好ましくは40モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは45モル%以下である。
【0023】
カルボン酸成分(AI-ac)が3価以上の多価カルボン酸を含む場合、該カルボン酸成分(AI-ac)中の1価カルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸の合計の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは40モル%以上、より更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下である。
【0024】
カルボン酸成分(AI-ac)が1価カルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸を含む場合、前述のジカルボン酸を含んでもよい。この場合のカルボン酸成分(AI-ac)中のジカルボン酸の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点からは、好ましくは85モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、より更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは40モル%以下、より更に好ましくは20モル%以下である。
【0025】
〔アルコール成分(AI-al)〕
ポリエステル樹脂AIを構成するアルコール成分(AI-al)(以下、単に「アルコール成分(AI-al)」ともいう)は、ジオール及び3価以上の多価アルコールから選ばれる1種以上であり、好ましくはジオールである。
ジオールとしては、芳香族ジオール、直鎖又は分岐の脂肪族ジオール、脂環式ジオールが挙げられる。
芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
本発明において「ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物」とは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンにオキシアルキレン基を付加した構造全体を意味する。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、好ましくは下記一般式(I)で表される化合物である。
【0026】
【化1】
【0027】
一般式(I)において、OR1、及びR2Oは、いずれもアルキレンオキシ基であり、好ましくは、それぞれ独立に炭素数1以上4以下のアルキレンオキシ基であり、より好ましくはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基であり、更に好ましくはプロピレンオキシ基である。
x及びyは、アルキレンオキシドの付加モル数に相当する。xとyの和の平均値は、カルボン酸成分との反応性の観点から、好ましくは2以上である。また、xとyの和の平均値は、前記と同様の観点から、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
x個のOR1とy個のR2Oは、各々同一であっても異なっていてもよいが、インクの保存安定性を向上させる観点から、同一であることが好ましい。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキシド付加物から選ばれる1種以上であり、より好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物である。
【0028】
脂肪族ジオールとしては、例えば、主鎖炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)が挙げられる。
これらの中でも、脂肪族ジオールは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは分岐の脂肪族ジオールであり、より好ましくは炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールである。
脂環式ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールAが挙げられる。
3価以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ソルビタンが挙げられる。
上記のアルコールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、アルコール成分(AI-al)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは芳香族ジオール及び炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールから選ばれる1種以上を含み、より好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物及び炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールから選ばれる1種以上を含み、更に好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、1,2-プロパンジオール及びネオペンチルグリコールから選ばれる1種以上を含み、より更に好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物及び1,2-プロパンジオールから選ばれる1種以上を含み、より更に好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む。
【0029】
アルコール成分(AI-al)中の芳香族ジオール及び炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールの合計の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは95モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0030】
アルコール成分(AI-al)がビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む場合、アルコール成分(AI-al)中のビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは95モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0031】
アルコール成分(AI-al)が3価以上の多価アルコールを含む場合、アルコール成分(AI-al)中の3価以上の多価アルコールの含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
【0032】
ポリエステル樹脂AIのアルコール成分(AI-al)のヒドロキシ基(OH基)に対するカルボン酸成分(AI-ac)のカルボキシ基(COOH基)の当量比(COOH基/OH基)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0033】
ポリエステル樹脂AIは、カルボン酸成分(AI-ac)とアルコール成分(AI-al)とを重縮合して得ることができる。例えば、カルボン酸成分(AI-ac)とアルコール成分(AI-al)とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてエステル化触媒を用いて、120℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
前記エステル化触媒としては、例えば、酸化ジブチル錫、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等の錫化合物;チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物が挙げられる。更に必要に応じて3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)等のエステル化助触媒;4-tert-ブチルカテコール等のラジカル重合禁止剤を用いてもよい。
【0034】
(ポリエステル樹脂AII)
ポリエステル樹脂AIIは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、1価アルコールを10モル%以上70モル%以下含むアルコール成分(AII-al)と、カルボン酸成分(AII-ac)と、の重縮合物である。すなわち、ポリエステル樹脂AIIは、アルコール成分(AII-al)由来の構成単位とカルボン酸成分(AII-ac)由来の構成単位とを含む。
【0035】
〔アルコール成分(AII-al)〕
ポリエステル樹脂AIIを構成するアルコール成分(AII-al)(以下、単に「アルコール成分(AII-al)」ともいう)は、1価アルコールを含む。
【0036】
1価アルコールとしては、脂肪族1価アルコール、芳香族1価アルコールが挙げられる。
脂肪族1価アルコールの炭素数は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは24以下、更に好ましくは22以下、より更に好ましくは20以下である。
脂肪族1価アルコールは、飽和脂肪族1価アルコール及び不飽和脂肪族1価アルコールのいずれであってもよい。
脂肪族1価アルコールとしては、例えば、カプリルアルコール、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、シクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノール等の直鎖、分岐鎖、又は脂環式の脂肪族1価アルコールが挙げられる。
芳香族1価アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコールが挙げられる。
【0037】
これらの中でも、1価アルコールは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましく炭素数6以上24以下の脂肪族1価アルコールであり、より好ましくは炭素数8以上22以下の脂肪族1価アルコールであり、更に好ましくは炭素数8以上22以下の飽和脂肪族1価アルコールであり、より更に好ましくはカプリルアルコール、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、及びベヘニルアルコールから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはラウリルアルコール、ステアリルアルコール、及びベヘニルアルコールから選ばれる1種以上、より更に好ましくはラウリルアルコール及びステアリルアルコールから選ばれる1種以上、より更に好ましくはラウリルアルコールである。
【0038】
アルコール成分(AII-al)中の1価アルコールの含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、10モル%以上であり、好ましくは12モル%以上、より好ましくは15モル%以上であり、そして、70モル%以下であり、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル以下、より更に好ましくは30モル%以下である。
【0039】
アルコール成分(AII-al)は、1価アルコール以外の他のアルコールとして、2価以上の多価アルコールを含む。2価以上の多価アルコールとしては、前述のポリエステル樹脂AIを構成するアルコール成分(AI-al)で例示した、ジオール、3価以上の多価アルコールが挙げられる。
上記の2価以上の多価アルコールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
それらの中でも、アルコール成分(AII-al)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは芳香族ジオール及び炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールから選ばれる1種以上を含み、より好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物及び炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールから選ばれる1種以上を含み、更に好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、1,2-プロパンジオール及びネオペンチルグリコールから選ばれる1種以上を含み、より更に好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物及び1,2-プロパンジオールから選ばれる1種以上を含み、より更に好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む。
【0040】
アルコール成分(AII-al)が芳香族ジオール及び炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールから選ばれる1種以上を含む場合、該アルコール成分(AII-al)中の芳香族ジオール及び炭素数3以上5以下の分岐の脂肪族ジオールの合計の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上、より更に好ましくは70モル%以上であり、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは88モル%以下、更に好ましくは85モル%以下である。
【0041】
アルコール成分(AII-al)がビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む場合、アルコール成分(AII-al)中のビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上、より更に好ましくは70モル%以上であり、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは88モル%以下、更に好ましくは85モル%以下である。
【0042】
また、アルコール成分(AII-al)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、3価以上の多価アルコールを含んでもよい。
3価以上の多価アルコールは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくはグリセリン、ペンタエリスリトール、及びトリメチロールプロパンから選ばれる1種以上であり、より好ましくはペンタエリスリトール及びトリメチロールプロパンから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはトリメチロールプロパンである。
【0043】
アルコール成分(AII-al)が3価以上の多価アルコールを含む場合、該アルコール成分(AII-al)中の3価以上の多価アルコールの含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは45モル%以下である。
【0044】
アルコール成分(AII-al)が3価以上の多価アルコールを含む場合、該アルコール成分(AII-al)中の1価アルコール及び3価以上の多価アルコールの合計の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。
【0045】
アルコール成分(AII-al)が1価アルコール及び3価以上の多価アルコールを含む場合、前述のジオールを含んでもよい。この場合のアルコール成分(AII-al)中のジオールの含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点からは、好ましくは85モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは70モル%以下であり、好ましくは0モル%超、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上である。
【0046】
〔カルボン酸成分(AII-ac)〕
ポリエステル樹脂AIIを構成するカルボン酸成分(AII-ac)(以下、単に「カルボン酸成分(AII-ac)」ともいう)は、ジカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸から選ばれる1種以上である。
ジカルボン酸としては、前述のポリエステル樹脂AIを構成するカルボン酸成分(AI-ac)で例示した、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸が挙げられる。
上記のカルボン酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
それらの中でも、カルボン酸成分(AII-ac)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸から選ばれる1種以上を含み、より好ましくは芳香族ジカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸から選ばれる1種以上を含み、更に好ましくは3価以上の多価カルボン酸を含む。
カルボン酸成分(AII-ac)が、3価以上の多価カルボン酸を含むことにより、ポリエステル樹脂AIIの側鎖に酸性基を導入することができ、これにより、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性をより向上させることができる。
3価以上の多価カルボン酸は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3価のカルボン酸、より好ましくはトリメリット酸である。
【0047】
カルボン酸成分(AII-ac)中の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸の合計の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは95モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0048】
カルボン酸成分(AII-ac)が3価以上の多価カルボン酸を含む場合、該カルボン酸成分(AII-ac)中の3価以上の多価カルボン酸の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、より更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下、より更に好ましくは30モル%以下である。
【0049】
ポリエステル樹脂AIIのアルコール成分(AII-al)のヒドロキシ基(OH基)に対するカルボン酸成分(AII-ac)のカルボキシ基(COOH基)の当量比(COOH基/OH基)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0050】
ポリエステル樹脂AIIは、ポリエステル樹脂AIと同様にアルコール成分(AII-al)とカルボン酸成分(AII-ac)とを重縮合して得ることができる。例えば、アルコール成分(AII-al)とカルボン酸成分(AII-ac)とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて前述のエステル化触媒、エステル化助触媒、及び重合禁止剤を用いて、120℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
【0051】
(ポリエステル樹脂AIII)
ポリエステル樹脂AIIIは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、1価カルボン酸を0モル%超70モル%未満含むカルボン酸成分(AIII-ac)と、1価アルコールを0モル%超70モル%未満含むアルコール成分(AIII-al)と、の重縮合物である。すなわち、ポリエステル樹脂AIIIは、カルボン酸成分(AIII-ac)由来の構成単位とアルコール成分(AIII-al)由来の構成単位とを含む。
【0052】
〔カルボン酸成分(AIII-ac)〕
ポリエステル樹脂AIIIを構成するカルボン酸成分(AIII-ac)(以下、単に「カルボン酸成分(AIII-ac)」ともいう)は、1価カルボン酸を含む。
【0053】
1価カルボン酸としては、脂肪族1価カルボン酸、芳香族1価カルボン酸が挙げられる。
脂肪族1価カルボン酸の炭素数は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上、より更に好ましくは8以上、より更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは26以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。
芳香族1価カルボン酸の炭素数は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは6以上12以下である。
脂肪族1価カルボン酸及び芳香族1価カルボン酸としては、前述のポリエステル樹脂AIを構成するカルボン酸成分(AI-ac)で例示した、脂肪族1価カルボン酸、芳香族1価カルボン酸が挙げられる。
上記1価カルボン酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
それらの中でも、1価カルボン酸は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは炭素数4以上26以下の脂肪族1価カルボン酸及び炭素数6以上12以下の芳香族1価カルボン酸から選ばれる1種以上、より好ましくは炭素数6以上22以下の脂肪族1価カルボン酸及び炭素数6以上12以下の芳香族1価カルボン酸から選ばれる1種以上、更に好ましくは炭素数8以上22以下の脂肪族1価カルボン酸及び炭素数6以上12以下の芳香族1価カルボン酸から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは炭素数8以上22以下の飽和脂肪族1価カルボン酸、安息香酸、及び炭素数1以上4以下のアルキル基で置換された安息香酸から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは炭素数10以上18以下の飽和脂肪族1価カルボン酸及び安息香酸から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び安息香酸から選ばれる1種以上である。
【0055】
カルボン酸成分(AIII-ac)中の1価カルボン酸の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、0モル%超であり、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上であり、そして、70モル%未満であり、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下である。
【0056】
カルボン酸成分(AIII-ac)は、1価カルボン酸以外の他のカルボン酸として、2価以上の多価カルボン酸を含む。2価以上の多価カルボン酸としては、前述のポリエステル樹脂AIを構成するカルボン酸成分(AI-ac)で例示した、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。
上記の2価以上の多価カルボン酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
それらの中でも、カルボン酸成分(AIII-ac)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3価以上の多価カルボン酸を含む。
カルボン酸成分(AIII-ac)が、3価以上の多価カルボン酸を含むことにより、ポリエステル樹脂AIIIの側鎖に酸性基を導入することができ、これにより、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性をより向上させることができる。
3価以上の多価カルボン酸は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3価のカルボン酸、より好ましくはトリメリット酸である。
【0057】
カルボン酸成分(AIII-ac)が3価以上の多価カルボン酸を含む場合、該カルボン酸成分(AIII-ac)中の3価以上の多価カルボン酸の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは30モル%以上、より更に好ましくは40モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは45モル%以下である。
【0058】
カルボン酸成分(AIII-ac)が3価以上の多価カルボン酸を含む場合、該カルボン酸成分(AIII-ac)中の1価カルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸の合計の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは40モル%以上、より更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下である。
【0059】
カルボン酸成分(AIII-ac)が1価カルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸を含む場合、前述のジカルボン酸を含んでもよい。この場合のカルボン酸成分(AIII-ac)中のジカルボン酸の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点からは、好ましくは85モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、より更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは40モル%以下、より更に好ましくは20モル%以下である。
【0060】
〔アルコール成分(AIII-al)〕
ポリエステル樹脂AIIIを構成するアルコール成分(AIII-al)(以下、単に「アルコール成分(AIII-al)」ともいう)は、1価アルコールを含む。
1価アルコールとしては、前述のポリエステル樹脂AIIを構成するカルボン酸成分(AII-al)で例示した、脂肪族1価アルコール、芳香族1価アルコールが挙げられる。
【0061】
脂肪族1価アルコールの炭素数は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である。
これらの中でも、1価アルコールは、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましく炭素数6以上24以下の脂肪族1価アルコールであり、より好ましくは炭素数8以上22以下の脂肪族1価アルコールであり、更に好ましくは炭素数8以上22以下の脂肪族1価アルコールであり、より更に好ましくはカプリルアルコール、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、及びベヘニルアルコールから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはラウリルアルコール、ステアリルアルコール、及びベヘニルアルコールから選ばれる1種以上、より更に好ましくはラウリルアルコール及びステアリルアルコールから選ばれる1種以上である。
【0062】
アルコール成分(AIII-al)中の1価アルコールの含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、0モル%超であり、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上であり、そして、70モル%未満であり、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下である。
【0063】
アルコール成分(AIII-al)は、1価アルコール以外の他のアルコールとして、2価以上の多価アルコールを含む。2価以上の多価アルコールとしては、前述のポリエステル樹脂AIを構成するアルコール成分(AI-al)で例示した、ジオール、3価以上の多価アルコールが挙げられる。
上記の他のアルコールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
それらの中でも、アルコール成分(AIII-al)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3価以上の多価アルコールを含む。
【0064】
アルコール成分(AIII-al)が3価以上の多価アルコールを含む場合、アルコール成分(AIII-al)中の3価以上の多価アルコールの含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは45モル%以下である。
【0065】
アルコール成分(AIII-al)が3価以上の多価アルコールを含む場合、該アルコール成分(AIII-al)中の1価アルコール及び3価以上の多価アルコールの合計の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは40モル%以上、より更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下である。
【0066】
アルコール成分(AIII-al)が1価アルコール及び3価以上の多価アルコールを含む場合、前述のジオールを含んでもよい。この場合のアルコール成分(AIII-al)中のジオールの含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点からは、好ましくは85モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、より更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは40モル%以下、より更に好ましくは20モル%以下である。
【0067】
ポリエステル樹脂AIIIを構成するカルボン酸成分(AIII-ac)及びアルコール成分(AIII-al)の総量中の1価カルボン酸及び1価アルコールの合計の含有量は、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、更に好ましくは60モル%以下であり、そして、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上である。
【0068】
ポリエステル樹脂AIIIのアルコール成分(AIII-al)のヒドロキシ基(OH基)に対するカルボン酸成分(AIII-ac)のカルボキシ基(COOH基)の当量比(COOH基/OH基)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0069】
ポリエステル樹脂AIIIは、ポリエステル樹脂AIと同様にアルコール成分(AIII-al)とカルボン酸成分(AIII-ac)とを重縮合して得ることができる。例えば、アルコール成分(AIII-al)とカルボン酸成分(AIII-ac)とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて前述のエステル化触媒、エステル化助触媒、及び重合禁止剤を用いて、120℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
【0070】
ポリエステル樹脂Aの軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは125℃以下、より更に好ましくは120℃以下、より更に好ましくは115℃以下である。
ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度は、好ましくは35℃以上、より好ましくは37℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、そして、好ましくは75℃以下、より好ましくは65℃以下、更に好ましくは55℃以下、より更に好ましくは50℃以下、より更に好ましくは45℃以下である。
【0071】
ポリエステル樹脂Aの酸価は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上、より更に好ましくは25mgKOH/g以上、より更に好ましくは30mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは80mgKOH/g以下、より好ましくは60mgKOH/g以下、更に好ましくは50mgKOH/g以下、より更に好ましくは45mgKOH/g以下、より更に好ましくは40mgKOH/g以下、より更に好ましくは35mgKOH/g以下である。
【0072】
ポリエステル樹脂Aの数平均分子量(Mn)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、更に好ましくは1,000以上であり、そして、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下、より更に好ましくは2,500以下、より更に好ましくは2,000以下、より更に好ましくは1,500以下である。
ポリエステル樹脂Aの重量平均分子量(Mw)は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは6,000以上、より更に好ましくは7,000以上、より更に好ましくは8,000以上であり、そして、好ましくは30,000以下、より好ましくは20,000以下、更に好ましくは15,000以下、より更に好ましくは10,000以下である。
【0073】
ポリエステル樹脂Aは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステル樹脂Aの軟化点、ガラス転移温度、酸価、数平均分子量、及び重量平均分子量は、いずれも実施例に記載の方法で測定することができ、用いる原料モノマーの種類、配合比率、重縮合の温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。ポリエステル樹脂Aを2種以上混合して用いる場合は、その軟化点、ガラス転移温度、酸価、数平均分子量、及び重量平均分子量は、それぞれ2種以上の混合物として、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0074】
本発明においてポリエステル樹脂Aが酸基を含む場合、該ポリエステル樹脂Aの酸基は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、中和剤で中和されてなることが好ましい。
中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物;アンモニア;各種有機アミンなどが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びアンモニアから選ばれる1種以上、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
中和剤の使用当量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。
ここで、中和剤の使用当量は、次式によって求めることができる。中和剤の使用当量が100モル%以下の場合、中和度と同義であり、次式で中和剤の使用当量が100モル%を超える場合には、中和剤がポリエステル樹脂Aの酸基に対して過剰であることを意味し、この時のポリエステル樹脂Aの中和度は100モル%とみなす。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量(g/mol)}/[{ポリエステル樹脂Aの酸価(mgKOH/g)×ポリエステル樹脂Aの質量(g)}/(56.1×1,000)]〕×100
【0075】
(水系顔料分散体の製造)
本発明の水系顔料分散体は、例えば、ポリエステル樹脂A、有機溶媒、顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を含有する顔料混合物を分散処理し、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散液を得た後、該分散液から有機溶媒を除去して得ることができる。
前記有機溶媒は、ポリエステル樹脂Aを溶解し得るものであれば特に制限はなく、例えば、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコールが挙げられる。また、前記中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、水溶液として用いることが好ましい。
顔料混合物の分散処理は、公知の混練機、分散機等を用いて、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の平均粒径が所望の粒径となるように制御して行うことが好ましい。分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料含有ポリエステル樹脂粒子を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な水系顔料分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、更に本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができ、後述する顔料含有ポリエステル樹脂粒子の平均粒径も調整することができる。
得られた分散液から公知の方法で有機溶媒を除去することで、水系顔料分散体を得ることができる。また、粗大粒子等を除去する目的で、有機溶媒を除去した分散体を遠心分離した後、液層部分をフィルター等で濾過し、該フィルター等を通過してくる分散体を水系顔料分散体として得ることが好ましい。
なお、後述の水系インク中に任意に添加される、防腐剤、防黴剤等の各種添加剤を、水系顔料分散体に添加してもよい。
【0076】
本発明の水系顔料分散体の固形分濃度は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点、及びインクの製造を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。前記固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0077】
本発明の水系顔料分散体は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子が水系媒体中に分散されてなるものである。
ここで、本発明の水系顔料分散体中の顔料含有ポリエステル樹脂粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料とポリエステル樹脂Aにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリエステル樹脂Aに顔料の少なくとも一部が内包された粒子形態、ポリエステル樹脂A中に顔料が分散された粒子形態、ポリエステル樹脂Aからなるポリエステル樹脂粒子の表面に顔料の一部が露出した粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。これらの中でも、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の形態は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂Aに顔料の少なくとも一部が内包された粒子形態、すなわち、ポリエステル樹脂Aによって顔料の少なくとも一部が被覆された粒子形態であることが好ましい。
【0078】
本発明の水系顔料分散体中の顔料の含有量は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは17質量%以下である。
本発明の水系顔料分散体中のポリエステル樹脂Aに対する顔料の含有量の質量比[顔料/ポリエステル樹脂A]は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、より更に好ましくは1.3以上であり、そして、好ましくは9以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下である。
本発明の水系顔料分散体中の顔料含有ポリエステル樹脂粒子の平均粒径は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは60nm以上、より更に好ましくは70nm以上、より更に好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは450nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下、より更に好ましくは100nm以下、より更に好ましくは90nm以下である。前記平均粒径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0079】
本発明の水系顔料分散体中の顔料含有ポリエステル樹脂粒子のゼータ電位は、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させ、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは-50mV以下、より好ましくは-55mV以下、更に好ましくは-65mV以下、より更に好ましくは-75mV以下、より更に好ましくは-85mV以下、より更に好ましくは-100mV以下であり、そして、製造容易性の観点から、好ましくは-150mV以上、より好ましくは-130mV以上である。
前記ゼータ電位は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0080】
[水系インク]
本発明の水系インク(以下、「水系インク」又は「インク」ともいう)は、前記水系顔料分散体を含有する。これにより、インクの保存安定性を高めることができる。
【0081】
(有機溶媒)
本発明の水系インクは、保存安定性を向上させる観点から、有機溶媒を更に含有することが好ましい。前記有機溶媒は、沸点90℃以上の有機溶媒を1種以上含むことが好ましい。前記有機溶媒の沸点は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
前記有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の有機溶媒を用いる場合には、前記有機溶媒の沸点は、各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
前記有機溶媒としては、例えば、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物が挙げられる。これらの中でも、前記有機溶媒は、好ましくは多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上であり、より好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテルから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはプロピレングリコール及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテルから選ばれる1種以上である。
【0082】
(界面活性剤)
本発明の水系インクは、保存安定性を向上させる観点から、界面活性剤を更に含有することが好ましい。
前記界面活性剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、ノニオン性シリコーン系界面活性剤、ノニオン性フッ素系界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、前記界面活性剤は、好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、及びノニオン性シリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上であり、より好ましくはノニオン性シリコーン系界面活性剤であり、更に好ましくはポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYKシリーズ等が挙げられる。
前記界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
(顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体)
本発明の水系インクは、印刷物の耐溶剤性、画像密着性等のインク塗膜の耐久性を向上させる観点から、顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体を更に含有してもよい。顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体は定着助剤として機能することができる。
ポリエステル樹脂Aは、その分子鎖末端に導入された1価カルボン酸由来の構成単位又は1価アルコール由来の構成単位により顔料に吸着又は固定化されているため、水系インクが顔料を含有しない樹脂粒子を更に含有する場合においても、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を良好に維持することができ、水系インクの保存安定性を向上させることができると考えられる。
【0084】
顔料を含有しない樹脂粒子を構成する樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の縮合系樹脂;アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂等の付加重合系樹脂;ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。
顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
これらの中でも、顔料を含有しない樹脂粒子を構成する樹脂は、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくはポリエステル樹脂及びビニル系樹脂から選ばれる1種以上であり、より好ましくはポリエステル樹脂である。すなわち、顔料を含有しない樹脂粒子は、好ましくは顔料を含有しないポリエステル樹脂粒子である。
顔料を含有しないポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂は、前述のポリエステル樹脂Aを用いてもよいが、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂Aとは異なる他のポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂B」ともいう)を用いることが好ましい。
【0085】
ポリエステル樹脂Bは、カルボン酸成分(b-ac)とアルコール成分(b-al)とを重縮合して得られる。すなわち、ポリエステル樹脂Bは、カルボン酸成分(b-ac)とアルコール成分(b-al)との重縮合物である。
【0086】
ポリエステル樹脂Bを構成するカルボン酸成分(b-ac)(以下、単に「カルボン酸成分(b-ac)」ともいう)としては、前述のポリエステル樹脂Aで例示した、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。これらの中でも、カルボン酸成分(b-ac)は、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくはジカルボン酸を含み、より好ましくは芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸から選ばれる1種以上を含み、更に好ましくはテレフタル酸及びフマル酸を含む。
カルボン酸成分(b-ac)中の芳香族ジカルボン酸の含有量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは55モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、更に好ましくは70モル%以下、より更に好ましくは65モル%以下である。
カルボン酸成分(b-ac)中の脂肪族ジカルボン酸の含有量は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは25モル%以上であり、そして、好ましくは50モル%以下、より好ましくは45モル%以下、更に好ましくは40モル%以下、より更に好ましくは35モル%以下である。
【0087】
カルボン酸成分(b-ac)は、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくは3価以上の多価カルボン酸を含む。
3価以上の多価カルボン酸は、前述のポリエステル樹脂Aで例示したものが挙げられ、好ましくはトリメリット酸である。
カルボン酸成分(b-ac)中の3価以上の多価カルボン酸の含有量は、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは7モル%以上であり、そして、好ましくは20モル%以下、より好ましくは17モル%以下、更に好ましくは15モル%以下である。
上記のカルボン酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
ポリエステル樹脂Bを構成するアルコール成分(b-al)(以下、単に「アルコール成分(b-al)」ともいう)は、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、好ましくは前記一般式(I)で表される化合物であり、より好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキシド付加物から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物である。
アルコール成分(b-al)は、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物以外の他のアルコール成分を含んでいてもよい。
他のアルコール成分としては、前述のポリエステル樹脂Aで例示した、主鎖炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール、脂環式ジオール、3価以上の多価アルコールが挙げられる。
上記のアルコールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルコール成分(b-al)中のビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0089】
ポリエステル樹脂Bのアルコール成分(b-al)のヒドロキシ基(OH基)に対するカルボン酸成分(b-ac)のカルボキシ基(COOH基)の当量比(COOH基/OH基)は、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは1.0以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0090】
ポリエステル樹脂Bは、ポリエステル樹脂Aと同様にカルボン酸成分(b-ac)とアルコール成分(b-al)とを重縮合して得ることができる。例えば、カルボン酸成分(b-ac)とアルコール成分(b-al)とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて前述のエステル化触媒、エステル化助触媒、及び重合禁止剤を用いて、120℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
【0091】
ポリエステル樹脂Bの軟化点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは130℃以下である。
ポリエステル樹脂Bのガラス転移温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
【0092】
ポリエステル樹脂Bの酸価は、インクの保存安定性及びインク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上、更に好ましくは30mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは37mgKOH/g以下、更に好ましくは35mgKOH/g以下である。
【0093】
ポリエステル樹脂Bの数平均分子量(Mn)は、インクの保存安定性及びインク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくは700以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは2,000以上、より更に好ましくは3,000以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは7,000以下、更に好ましくは5,000以下である。
ポリエステル樹脂Bの重量平均分子量(Mw)は、インクの保存安定性及びインク塗膜の耐久性を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは7,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下、更に好ましくは20,000以下である。
【0094】
ポリエステル樹脂Bの軟化点、ガラス転移温度、酸価、数平均分子量、及び重量平均分子量は、いずれも実施例に記載の方法で測定することができ、用いる原料モノマーの種類、配合比率、重縮合の温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。ポリエステル樹脂Bを2種以上混合して用いる場合は、その軟化点、ガラス転移温度、酸価、数平均分子量、及び重量平均分子量は、それぞれ2種以上の混合物として、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0095】
顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体は、顔料を含有しない樹脂粒子が水系媒体に分散されてなる。該水系分散体においては、必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有していてもよい。
顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体は、例えば、該樹脂粒子を構成する樹脂がポリエステル樹脂Bの場合には、ポリエステル樹脂Bを水系媒体に添加して分散機等によって分散処理を行う方法、ポリエステル樹脂Bの有機溶媒溶液に水系媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法により得ることできる。これらの中でも、インクの保存安定性を向上させる観点から、転相乳化による方法が好ましい。転相乳化は、ポリエステル樹脂Bを有機溶媒に溶解させ、次いで、この溶液に水系媒体を添加して転相し、その後、有機溶媒を除去する方法が好ましい。より具体的には、例えば、特開2016-222896号公報に記載の方法が挙げられる。
【0096】
顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体の固形分濃度は、顔料を含有しない樹脂粒子の分散安定性の観点、インクの保存安定性の観点、及びインク塗膜の耐久性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。前記固形分濃度は、実施例に記載した方法により測定することができる。
水系分散体中の顔料を含有しない樹脂粒子の平均粒径は、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは60nm以上、より更に好ましくは70nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは120nm以下、より更に好ましくは100nm以下、より更に好ましくは80nm以下である。前記平均粒径は、実施例に記載した方法により測定することができる。
【0097】
本発明の水系インクは、前記水系顔料分散体、及び必要に応じて、前述の有機溶媒、界面活性剤、及び顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体等を混合して製造することが好ましい。
本発明の水系インクは、更に必要に応じて、水系インクに通常用いられる、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を添加し、更にフィルター等による濾過処理を行うことにより得ることができる。
本発明の水系インク中の各成分の含有量及びインク物性は以下のとおりである。
【0098】
本発明の水系インク中の前記水系顔料分散体の含有量は、印字濃度の観点から、固形分換算で、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、保存安定性の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下である。
本発明の水系インク中の顔料の含有量は、印字濃度の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく7質量%以下である。
本発明の水系インク中のポリエステル樹脂Aに対する顔料の含有量の質量比[顔料/ポリエステル樹脂A]は、印字濃度の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、より更に好ましくは1.3以上であり、そして、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは9以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下である。
【0099】
本発明の水系インク中の顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体の含有量は、インク塗膜の耐久性を向上させる観点から、固形分換算で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは7質量%以下である。
水系インク中の顔料を含有しない樹脂粒子に対する顔料の含有量の質量比[顔料/顔料を含有しない樹脂粒子]は、保存安定性及び印字濃度の観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは1以上であり、そして、インク塗膜の耐久性の観点から、好ましくは9以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.3以下である。
【0100】
本発明の水系インク中の有機溶媒の含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは47質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
本発明の水系インク中の水の含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
本発明の水系インクにおける全固形分中の顔料の質量比[顔料/(水系インクの全固形分)]は、保存安定性及び印字濃度の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.2以上、より更に好ましくは0.3以上であり、そして、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0101】
水系インクの20℃の粘度は、保存安定性の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。水系インクの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
水系インクの20℃のpHは、保存安定性の観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、水系インクのpHは、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。水系インクの20℃のpHは、常法により測定できる。
【0102】
本発明の水系インクは、フレキソ印刷インキ用、グラビア印刷インキ用、インクジェット記録用等の各種印刷用として好適に用いることができる。
用いる印刷媒体としては、高吸水性の普通紙、低吸水性のコート紙、非吸水性の樹脂フィルム等の樹脂製印刷媒体が挙げられる。コート紙としては、例えば、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙が挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が挙げられる。当該樹脂フィルムは、コロナ処理された基材を用いてもよい。
【実施例0103】
ポリエステル樹脂、水系顔料分散体、及びインク等の物性は、以下の方法により測定した。
【0104】
[ポリエステル樹脂の軟化点]
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0105】
[ポリエステル樹脂のガラス転移温度]
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製、商品名:Pyris 6 DSC)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0106】
[ポリエステル樹脂の酸価]
JIS K0070-1992に記載の中和滴定法において、測定溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒〔アセトン:トルエン=1:1(容量比)〕に変更したこと以外は、該中和滴定法に従って測定した。
【0107】
[ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)]
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、ポリエステル樹脂をテトラヒドロフランに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP-200」(住友電気工業株式会社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量測定
溶離液としてテトラヒドロフランを1mL/minの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行った。試料の数平均分子量及び重量平均分子量は、あらかじめ作製した検量線に基づき算出した。検量線は、数種類の単分散ポリスチレン〔東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン;2.63×103、2.06×104、1.02×105(重量平均分子量(Mw))、ジーエルサイエンス株式会社製の単分散ポリスチレン;2.10×103、7.00×103、5.04×104(重量平均分子量(Mw))〕を標準試料として用いて作成した。
測定装置:「CO-8010」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「GMHXL」+「G3000HXL」(東ソー株式会社製)
【0108】
[固形分濃度]
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、測定試料の水分(質量%)を測定した。固形分濃度は次の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100-水分(質量%)
【0109】
[顔料を含有するポリエステル樹脂粒子及び顔料を含有しない樹脂粒子の平均粒径]
大塚電子株式会社製のレーザー粒子解析システム「ELS-8000」(キュムラント解析)を用いて測定されるキュムラント平均粒径を、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子又は顔料を含有しない樹脂粒子の平均粒径とした。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数30回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定する粒子の濃度は、5×10-3質量%で行った。
【0110】
[顔料を含有するポリエステル樹脂粒子のゼータ電位]
大塚電子株式会社製のレーザー粒子解析システム「ELS-8000」を用いて測定されるゼータ電位を、顔料を含有するポリエステル樹脂粒子のゼータ電位とした。測定の際、サンプルの固形分濃度を0.006質量%となるようにイオン交換水で調整した。
【0111】
以下の製造例、実施例及び比較例において用いた顔料、有機溶媒、界面活性剤、及びpH調整剤は、以下のとおりである。
[顔料]
・ブラック顔料;ピグメントブラック7(以下、「PBk7」ともいう)(キャボット社製「MONARCH800」、DBP吸油量:74mL/100g)
[有機溶媒]
・PG:プロピレングリコール、沸点187℃(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・BDG-S:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、沸点220℃(富士フイルム和光純薬株式会社製)
[界面活性剤]
・KF6011:アルキレングリコール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製「KF-6011」、ノニオン性シリコーン系界面活性剤)
[pH調整剤]
・MDEA:N-メチルジエタノールアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0112】
製造例1-1~1-7、1-9、1-12~1-13
(ポリエステル樹脂A-1~A-7、A-9、C-1~C-2の製造)
表1に示すフマル酸及びトリメリット酸無水物を除く各原料モノマー(カルボン酸成分及びアルコール成分)、エステル化触媒、及びエステル化助触媒を、表1に示す配合量で配合し、温度計、撹拌装置、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した内容積10Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃で10時間反応を行った後、更に8.3kPaで1時間反応を行った。その後180℃へ温度を下げ、表1に示す配合量のフマル酸及び/又はトリメリット酸無水物を投入し、更にフマル酸を投入する場合は重合禁止剤として4-tert-ブチルカテコールを投入し、210℃まで1時間ごとに10℃ずつ段階昇温した。その後210℃で2時間反応を行った後、更に8.3kPaで軟化点が表1に示す温度に到達するまで反応させて、各ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。
【0113】
製造例1-8、1-10~1-11
(ポリエステル樹脂A-8、A-10~A-11)
表1に示す各原料モノマー(カルボン酸成分及びアルコール成分)、エステル化触媒、及びエステル化助触媒を、表1に示す配合量で配合し、温度計、撹拌装置、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した内容積10Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃で10時間反応を行った後、更に8.3kPaで軟化点が表1に示す温度に到達するまで反応させて、各ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の物性を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
実施例1-1~1-11及び比較例1-1~1-2
(水系顔料分散体D-1~D-11,DC-1~DC-2の製造)
内容積2Lの容器内で、顔料分散ポリマーであるポリエステル樹脂Aとして表2に示す種類の各ポリエステル樹脂66.7gをメチルエチルケトン(MEK)222.7gに溶解し、その中に、表2に示す配合量の5N水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水363.1gを加えて、中和剤として水酸化ナトリウムの使用当量が表2に示す値となるように調整し、10℃以上15℃以下でディスパー翼を用いて2,000r/minで15分間撹拌混合を行なった。次いで、ブラック顔料100gを加え、10℃以上15℃以下でディスパー翼を用いて7,000r/minで2時間撹拌混合した。得られた予備分散体を150メッシュ濾過し、イオン交換水を36.1g添加して希釈した後に、マイクロフルイダイザー「M-110EH-30XP」(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー)を用いて、150MPaの圧力で15パス分散処理し、各顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散液を得た。
得られた分散液全量をそれぞれ2Lナスフラスコに入れ、固形分濃度が16質量%になるようにイオン交換水を加え、回転式蒸留装置「ロータリーエバポレーター N-1000S」(東京理化器械株式会社製)を用いて、回転数50r/minで、32℃に調整した温浴中、0.09MPa(abs)の圧力で3時間保持して、MEKを除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPa(abs)に下げて固形分濃度25質量%になるまで濃縮して各濃縮物を得た。
得られた濃縮物をそれぞれ500mLアングルローターに投入し、高速冷却遠心機「himac CR22G」(日立工機株式会社製、設定温度20℃)を用いて3,660r/minで20分間遠心分離した後、液層部分を孔径5μmのメンブランフィルター「Minisart」(Sartorius社製)で濾過した。次いで、固形分濃度が22質量%になるようにイオン交換水を添加し、更に「プロキセル(登録商標)LV(S)」(ロンザジャパン株式会社製:防腐剤、有効分20質量%)0.76gを添加し、70℃で2時間撹拌した。25℃に冷却後、前記孔径5μmフィルターで濾過し、必要に応じてイオン交換水により固形分濃度を調整して、顔料含有ポリエステル樹脂粒子を含む水系顔料分散体D-1~D-11及びDC-1~DC-2(固形分濃度22質量%)を得た。各水系顔料分散体中の顔料含有ポリエステル樹脂粒子の平均粒径及びゼータ電位を表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
表2から、実施例の水系顔料分散体は、比較例のものと比べて、ゼータ電位の絶対値が大きく、顔料含有ポリエステル樹脂粒子の分散安定性が向上していることが期待できる。
【0118】
製造例2-1
(顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体E-1の製造)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表3に示す配合で定着助剤ポリマーであるポリエステル樹脂Bとしてポリエステル樹脂C-1と有機溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)とを入れ、25℃でMEKに溶解させた。次いで、中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液を添加して、撹拌下でイオン交換水を加え、顔料を含有しない樹脂粒子の分散液を得た。得られた分散液を、四つ口フラスコに入れたまま撹拌しながら60℃に保ちつつ減圧し、MEKを留去した。室温まで冷却後、イオン交換水を加えて、200メッシュの金網で濾過し、顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体E-1(固形分濃度40質量%)を得た。得られた水系分散体E-1中の顔料を含有しない樹脂粒子の平均粒径を表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
実施例2-1~2-11及び比較例2-1~2-2
表4に示す水系インクの組成となるように、水系顔料分散体、有機溶媒、界面活性剤、pH調整剤、顔料を含有しない樹脂粒子の水系分散体、及びイオン交換水を混合し、得られた混合液を孔径1.2μmのメンブランフィルター「Minisart」(Sartorius社製)で濾過し、各水系インクを得た。得られた水系インクの保存安定性を以下の方法により評価した。結果を表4に示す。
【0121】
(保存安定性の評価)
得られた水系インクを70℃恒温環境下で4週間まで保存し、保存前後の水系インクの平均粒径を前述の方法により測定し、保存前後の水系インクの粒径変化率〔=100×(保存後の水系インクの平均粒径)/(保存前の水系インクの平均粒径)〕を評価した。粒径変化率の値が小さいほど保存安定性に優れる。
粒径変化率は、下記評価基準により判断した。
〔評価基準〕
A+:4週間保存後においても110%以下である。
A:4週間保存後で110%超150%以下である。
B:4週間保存後で150%超であるが、3週間保存後までは150%以下である。
C:3週間経過する前に150%超となる。
【0122】
【表4】
【0123】
表4から、実施例の水系インクは、比較例の水系インクと比べて、保存安定性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、水系インクに用いた際に保存安定性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体を含有する水系インクを得ることができ、該水系インクは各種印刷用インクとして好適に用いることができる。