IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社KRIの特許一覧

特開2022-190679芳香族ポリアミド溶解溶媒、芳香族ポリアミド溶解方法および芳香族ポリアミド成形体製造方法
<>
  • 特開-芳香族ポリアミド溶解溶媒、芳香族ポリアミド溶解方法および芳香族ポリアミド成形体製造方法 図1
  • 特開-芳香族ポリアミド溶解溶媒、芳香族ポリアミド溶解方法および芳香族ポリアミド成形体製造方法 図2
  • 特開-芳香族ポリアミド溶解溶媒、芳香族ポリアミド溶解方法および芳香族ポリアミド成形体製造方法 図3
  • 特開-芳香族ポリアミド溶解溶媒、芳香族ポリアミド溶解方法および芳香族ポリアミド成形体製造方法 図4
  • 特開-芳香族ポリアミド溶解溶媒、芳香族ポリアミド溶解方法および芳香族ポリアミド成形体製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190679
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミド溶解溶媒、芳香族ポリアミド溶解方法および芳香族ポリアミド成形体製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/02 20060101AFI20221219BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20221219BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C08G69/02
C08L77/00
C08K5/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090801
(22)【出願日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021098401
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊巳
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB04
4J001DC16
4J001EB36
4J001EB37
4J001EC45
4J001EC46
4J001GA13
4J001JC04
4J002CL061
4J002EN106
4J002EN136
4J002FA041
4J002GK01
4J002HA03
(57)【要約】

【課題】 特別な前処理や硫酸を必要とすることなく、室温付近で芳香族ポリアミドを短時間に溶解することが可能な溶媒および前記溶媒を用いた芳香族ポリアミドの溶解と成形方法等の提供。
【解決手段】 本発明の芳香族ポリアミドの溶解溶媒は、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含み、前記溶媒中の前記各成分の濃度が、水酸化テトラアルキルアンモニウムの濃度が0.5~40wt%、水の濃度が0.5~45wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が15~98wt%の範囲内にある溶媒あることを特徴とする。前記水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウムおよび水酸化テトラブチルアンモニウムが好ましい。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドの溶解に用いられる溶媒であって、
前記溶媒が、下記式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含み、
前記溶媒中の前記各成分の濃度が、水酸化テトラアルキルアンモニウムの濃度が0.5~40wt%、水の濃度が0.5~45wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が15~99wt%の範囲内にあることを特徴とする溶媒。
【化1】
式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表す。
【請求項2】
前記水酸化テトラアルキルアンモニウムが、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウムおよび水酸化テトラブチルアンモニウムの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶媒。
【請求項3】
溶解する芳香族ポリアミドが、パラ芳香族ポリアミドおよび/またはメタ芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶媒。
【請求項4】
芳香族ポリアミドの溶解方法であって、芳香族ポリアミドと請求項1~3のいずれかに記載の溶媒を接触させて芳香族ポリアミドを溶解することを特徴とする芳香族ポリアミドの溶解方法。
【請求項5】
請求項4に記載の芳香族ポリアミドの溶解方法で得られた芳香族ポリアミド溶解溶液を用いて芳香族ポリアミド成形体を製造することを特徴とする芳香族ポリアミド成形体製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドの溶解に用いられる溶媒、ならびに、該溶媒を用いた芳香族ポリアミド成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドは、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のパラ系芳香族ポリアミド、及びポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ系芳香族ポリアミドがあり、ともに繊維として実用化されている。芳香族ポリアミド特にパラ系芳香族ポリアミドは優れた耐熱性と機械強度を持ち、高機能性樹脂として注目されてきた。
しかしながら、芳香族ポリアミドは有機溶剤への溶解性が極めて悪いため通常のプラスチックのようにフィルム化は困難である。
【0003】
特許文献1に記載されるように、無機塩を含有するアミド系溶媒を用い芳香族ポリアミドを溶解してフィルム化方法が提案されている。しかし、この方法では多量の無機塩を用いることでフィルムから完全に除去しきれない恐れがある。
また、非特許文献1に記載されるように、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)とジメチルスルホキシドの溶液にケブラー(登録商標)を溶解して誘導体化する方法が提案されている。しかし、フッ化テトラブチルアンモニウムは毒性があり価格も高く、加えてケブラー(登録商標)の溶解度は1%程度しかない。
【0004】
一方、本出願人は、キチンの溶解に用いる溶媒として水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液とジメチルスルホキシドの混合液について特許(未公開)を出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-241624号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】池田巧夫ら、福井大学大学院工学研究科附属繊維工業研究センター年報、第3巻、28~31ページ(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特別な前処理を必要とすることなく、室温付近で芳香族ポリアミドを短時間で均一に溶解することが可能な溶媒、前記溶媒を用いた芳香族ポリアミドの溶解方法並びに芳香族ポリアミド成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、以下に示す発明を完成するに至った。
〔1〕 芳香族ポリアミドの溶解に用いられる溶媒であって、
前記溶媒が、下記式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含み、
前記溶媒中の前記各成分の濃度が、水酸化テトラアルキルアンモニウムの濃度が0.5~40wt%、水の濃度が0.5~45wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が15~99wt%の範囲内にあることを特徴とする溶媒。
【化1】
式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表す。
〔2〕 前記水酸化テトラアルキルアンモニウムが、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウムおよび水酸化テトラブチルアンモニウムの少なくとも一つを含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の溶媒。
〔3〕 溶解する芳香族ポリアミドが、パラ芳香族ポリアミドおよび/またはメタ芳香族ポリアミドであることを特徴とする前記〔1〕または前記〔2〕に記載の溶媒。
〔4〕 芳香族ポリアミドの溶解方法であって、芳香族ポリアミドと前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の溶媒を接触させて芳香族ポリアミドを溶解することを特徴とする芳香族ポリアミドの溶解方法。
〔5〕 前記〔4〕に記載の芳香族ポリアミドの溶解方法で得られた芳香族ポリアミド溶解溶液を用いて芳香族ポリアミド成形体を製造することを特徴とする芳香族ポリアミド成形体製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の溶媒は、芳香族ポリアミドの種類、結晶形態と形状と関係なく、芳香族ポリアミドを特別な前処理をせずに、短時間で均一に溶解することのできる溶媒である。
【0010】
そして、特許文献1と非特許文献1の溶媒に比べて、本発明の溶媒は、フッ素系化合物や無機塩を含んでいないため、安全が高く、且つ成形体を作成する際に溶媒を完全に除去しやすい。
【0011】
また、本発明の溶媒により芳香族ポリアミドを溶解させた溶液は、安定性が高く、室温でも流動性を有するものであり、優れた成型加工性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1、2、3、5、6、8と9で調製した芳香族ポリアミド溶液の写真(攪拌に用いたマグネティックスターラーの攪拌子が写り込んでいる写真がある。)
図2】実施例1、5、6と8で得た芳香族ポリアミド成形品の写真
図3】比較例1と2で得た芳香族ポリアミドの分散溶液の写真
図4】実施例11、12、13と14で調製したメタ芳香族ポリアミド溶液の写真(攪拌に用いたマグネティックスターラーの攪拌子が写り込んでいる。)
図5】実施例10と12で試作したメタ芳香族ポリアミドフィルムの写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒に溶解する芳香族ポリアミドは、特に制限がなく、結晶化度と重合度に関わらず、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のパラ系芳香族ポリアミド、及びポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ系芳香族ポリアミド又はそれらの誘導体などが挙げられる。
その中でも、東レ・デュポンのケブラー(登録商標)(PPTA)、帝人テクノプロダクツのトワロン(登録商標)(PPTA)とテクノーラ(登録商標)(共重合型アラミド)等のパラ系アラミド、デュポンのノーメックス(登録商標)(メタ系アラミド)と帝人のコーネックス(登録商標)(メタ系アラミド)等のメタ系アラミドは優れた機械特性、熱特性と耐薬品性を持ち、広い分野で応用されているためより好ましい。これらのアラミドは市販されており、原料として市販品が利用できる。
【0014】
本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒の成分である水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)は前記〔1〕に示す化学式のR1~R4が、炭素数1~5のアルキル基である水酸化テトラアルキルアンモニウムであれば何の制限もなく、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
具体的な化合物を例示すると以下のような化合物を例示できる。
水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化メチルトリプロピルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、水酸化エチルトリプロピルアンモニウム、水酸化エチルトリブチルアンモニウム、水酸化プロピルトリブチルアンモニウム、水酸化ジメチルジプロピルアンモニウム、水酸化ジメチルトリブチルアンモニウム、水酸化ジエチルジプロピルアンモニウム、水酸化ジエチルジブチルアンモニウム、等であり、特に好ましくは、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)および水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)である。
【0015】
本発明のポリイミドの溶解に用いられる水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)は、水溶性であり、水溶液の状態で安定であり、主な物は、市販の薬品が水溶液で市販されており入手が容易である。
本発明のポリイミド溶解剤は、水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)、水及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含むため、TAAHは水溶液としてDMSOと混合して溶解剤とすることができる。
【0016】
本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒は、TAAH、水およびDMSOから構成され、その構成比は、TAAHが0.5~40wt%、水が0.5~45wt%、DMSOが15~99wt%の濃度範囲内になるように調整される。より好ましくは、TAAHが2~35wt%、水が2.0~40wt%、DMSOが25~96wt%、さらに好ましくは、TAAHが2.0~30wt%、水が3.0~35wt%、DMSOが35~95wt%、最も好ましくは、TAAHが3.0~35wt%、水が4~40wt%、DMSOが45~94wt%の濃度範囲内になるように調整される。
【0017】
TAAHの濃度が0.5wt%より低くなると溶解度と溶解速度が低いため好ましくない。一方、40wt%より高くなると芳香族ポリアミドの溶解性が低下したり、必要な溶解温度は高くなったりする。また、得られた芳香族ポリアミド溶液を室温で保存する時に芳香族ポリアミドが析出する恐れがあるため好ましくない。
【0018】
水の濃度は0.5wt%より低くなると芳香族ポリアミドの溶解性が低下したり、TAAHが不安定で分解したりする恐れがあるため好ましくない。一方、45wt%より高くなると芳香族ポリアミドの溶解性が低下するため好ましくない。
【0019】
本発明の溶媒は、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシド以外に、他の有機溶媒を含むこともできる。例えば、アルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリトン、ピリジンが挙げられる。これらの溶媒を添加することで芳香族ポリアミドの溶解を改善したり、芳香族ポリアミド溶液の粘度と反応性を調整したりすることができる。
【0020】
本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒の調製方法は、特に制限はない。例えば、通常市販から購入したTAAH水溶液を所望の濃度まで調製した後、そこにDMSOを加えて攪拌することで芳香族ポリアミド溶解溶媒が得られる。市販TAAH水溶液がTAAHの濃度が、水の濃度を最適範囲にしたときに所望濃度より低い場合、使用する前に蒸留し所望水分率まで濃縮してから使用することが好ましい。また、所望濃度より高い場合、水を加え希釈してから使用する。TAAH/水の重量比は20/80~70/40が好ましい。より好ましくは30/70~60/40、最も好ましくは35/65~55/45である。
混ぜる時の温度に特に制限しないが、10~120℃が好ましい。さらに好ましくは15~100℃、最も好ましくは23~85℃である。
【0021】
本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒に芳香族ポリアミドを溶解する方法は、特に制限はない。例えば、既定量の本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒に芳香族ポリアミドを加え、透明な溶液になるまで攪拌することで芳香族ポリアミド溶液を調製する。攪拌は、通常用いられる機械式撹拌機で攪拌すればよい。ビーカースケールならマグネティックスターラーの攪拌で十分である。溶解する時の温度は、10~150℃であればよく、室温で温度調整せずに溶解させればよい。10℃より低くなると芳香族ポリアミドの溶解度または溶解速度が低いため好ましくない。150℃より高くなると水が蒸発したり、TAAHが分解したり分解したりする恐れがあるため好ましくない。より好ましくは15~140℃、さらに好ましくは15~130℃、最も好ましくは23~125℃である。
【0022】
芳香族ポリアミドの溶解量は、特に制限しない。芳香族ポリアミドの種類、重合度(分子量)や用途により適宜に調整すればよい。例えば、1~50wt%である。より好ましくは2~40wt%、最も好ましくは3~30wt%である。溶解量が低すぎると生産性が低くなったり、得られた芳香族ポリアミド溶液の成形性が悪くなったりするため好ましくない。一方、溶解量が高すぎると、芳香族ポリアミドは溶解不完全であったり、溶液の均一性が低下したり、得られた芳香族ポリアミド溶液の流動性が失ったりする恐れがあるため好ましくない。
【0023】
本発明の芳香族ポリアミド成型体の成型用溶液は、芳香族ポリアミド溶解溶媒に芳香族ポリアミドを溶解して得られた芳香族ポリアミド溶液を脱泡し成形用溶液として用いる。成形方法に特に制限しないが、一般的に湿式成形法又は乾式成形法が適用することができる。例えば、シリンジで芳香族ポリアミド溶液を吸い込んだ後、ノズルを付けシリンジポンプ又はマイクロフィーダーに装着しシリンジを動きながらノズルから芳香族ポリアミド溶液を常温の水又はアルコールなどの凝固液中に吐出し、繊維を洗浄した後巻取機で巻き取ることで芳香族ポリアミド繊維を調製する。
芳香族ポリアミドフィルムを成形する場合、例えば、芳香族ポリアミド溶液をガラス基板上に流延し、水又はアルコールなどの凝固液に入れて液膜を凝固させながら洗浄した後、乾燥することによりフィルムを調製する。
乾式法を用いて成形する場合、金型から芳香族ポリアミド溶液を吐出しながら一定な温度下で加熱することでDMSOとTAAHを除く、繊維が得られる。一方、フィルム成形の場合、芳香族ポリアミド溶液を基板上にキャスティングした後、一定な温度下で加熱することでフィルム化できる。加熱温度は成形方法とTAAHの種類により適宜設定すればよい。例えば、50~300℃の温度範囲内であればよい。温度は50℃から順次に上げる方は成形体内に気泡の形成を避けられるため好ましい。
【実施例0024】
本発明について、実施例を用いてさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
(用いた原料と溶媒)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド:(株)ダイセル製のティアラ(登録商標)(微小繊維状芳香族ポリアミド)を105℃の送風乾燥機で乾燥して用いた。または、市販のケブラー(登録商標)繊維をそのまま用いた。
メタアラミド:市販コーネックス(登録商標)短繊維を使用した。
35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液:東京化成工業株式会社製。
45%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液:35%の東京化成工業株式会社製品を濃縮して得た。
48%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液:35%の東京化成工業株式会社製品を濃縮して得た。
40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液:東京化成工業株式会社製。
48%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液:40%の東京化成工業株式会社製品を濃縮して得た。
40%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液:東京化成工業株式会社製。
他の試薬は、ナカライテスク株式会社から購入した。
【0026】
(溶解方法)
芳香族ポリアミドの溶解には10ml又は20mlのサンプル瓶、マグネチックスターラー又はマグネチックホットスターラーを用いた。
【0027】
[実施例1]
10mlのバイアル瓶に40%水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液0.7g、ジメチルスルホキシド(DMSO)4.3gを加え、80℃にセットしたマグネチックホットスターラーで攪拌しながら市販ケブラー(登録商標)繊維0.2gを加え、攪拌しながら溶液の外観を観察した。溶液の外観はケブラー(登録商標)の溶解に伴い黄色から茶色まで変化する傾向が確認した。40分後茶色の透明溶液が得られた。芳香族ポリアミド溶液の外観写真を図1に示した。透明溶液を得るまでの攪拌時間は40分であった。
得られた芳香族ポリアミド溶液をガラス棒でガラス基板上にキャスティングし、ガラス基板ごとエタノール溶液中に入れた。約10分後芳香族ポリアミドは凝固して固くなった。エタノールを4回繰り返し交換することによりDMSOとTPAHを除いた。次にガラス基板上に伸ばして風乾させた。得られたフィルムの外観を図2に示す。
【0028】
[実施例2]
市販ケブラー(登録商標)繊維0.2gに代えてティアラ0.2gを加えた以外は実施例1と同様に溶解した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は90分であった。得られた溶液の外観を図1に示す。
【0029】
[実施例3]
DMSO4.3gと40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.7gに代えてDMSO4.6gと40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.4gを用いた以外は実施例2と同様に実施し、ティアラ(登録商標)0.1gを溶解した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は120分であった。得られた溶液の外観を図1に示す。
【0030】
[実施例4]
DMSO4.3gと40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.7gに代えてDMSO4.0gと40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液1.0gを用いた以外は実施例2と同じ手法でティアラ(登録商標)0.25gを溶解した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は180分であった。
【0031】
[実施例5]
40%の水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液に代えて、45%の水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液を用いた以外実施例3と同様に乾燥したティアラ(登録商標)0.2gの溶解を実施した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は60分であった。得られた溶液の外観を図1に示す。得られた芳香族ポリアミド溶液を用いて実施例1と同じ手法でフィルムを作製した。得られたフィルムの外観を図2に示す。
【0032】
[実施例6]
40%の水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液に代えて、40%の水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液を用いた以外実施2と同様に乾燥したティアラ(登録商標)の溶解を実施した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は120分であった。得られた溶液の外観を図1に示す。得られた芳香族ポリアミド溶液を用いて実施例1と同じ手法でフィルムを作製した。得られたフィルムの外観は図2に示す。
【0033】
[実施例7]
溶解温度を室温にした以外実施例1と同様にケブラー(登録商標)繊維の溶解を実施した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は150分であった。
【0034】
[実施例8]
DMSO3.0gと40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液2.0gを用い、温度を120℃にセットした以外は実施例2と同様に実施し、ティアラ0.2gを溶解した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は40分であった。得られた溶液の外観を図1に示す。
さらに、得られたセルロース溶液をシリンジで吸って、孔径0.5mmφを有するノズルを付けて常温の蒸留水浴中に吐出しながら、繊維状なゲルを延伸した。次に、蒸留水を用いて繊維状なゲルを洗浄し、水酸化テトラプロピルアンモニウムとジメチルスルホキシドを除き、室温で風乾させることで繊維を得た。得られた繊維の写真を図2に示す。
【0035】
[実施例9]
DMSO4.75gと40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.25gを用いた以外は実施例8と同様に実施し、ティアラ0.1gを溶解した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は150分であった。得られた溶液の外観を図1に示す。
【0036】
[比較例1]
40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液を添加せずDMSO5gのみを用いて実施例1と同じ手法でティアラ0.2gを添加して5時間攪拌し続けたが、溶解と色の変化も全く生じなかった。外観は図3に示すように薄黄色のペースト状分散液であった。
【0037】
[比較例2]
塩化カルシウム0.25gとN-メチル-2-ピロリドンと(NMP)4.75gを混合し、実施例1と同じ手法でティアラ0.2gを5時間攪拌し続いたが、溶解と色の変化も全く生じなかった。外観は図3に示すように薄黄色のペースト状分散液であった。
【0038】
[実施例10]
40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.7gに代えて48%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液を用いた以外は実施例1と同じ手法でケブラー繊維0.3gを溶解した。茶色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は70分であった。得られた溶液をガラス棒でガラス基板上にキャスティングし、ガラス基板ごと蒸留水中に入れた。約5分後溶液は凝固して固くなった。蒸留水を4回繰り返し交換することによりDMSOとTPAHを除いた。次にガラス基板上に伸ばして風乾させた。得られたフィルムの外観を図5に示す。
【0039】
[実施例11]
20mlのバイアル瓶にDMSO3.0gと48%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液2.0gを加え、非加熱型マグネチックホットスターラーで攪拌しながらメタアラミド短繊維1.2gを加え、攪拌しながら溶液の外観を観察した。溶液の外観はメタアラミド短繊維の溶解に伴い無色から黄色まで変化する傾向が確認した。120分後黄色の透明溶液が得られた。得られた溶液の外観写真を図4に示したように、室温で流動性を有する。
【0040】
[実施例12]
DMSO4.2gと48%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液0.8gを用いた以外、実施例11と同じ手法でメタアラミド短繊維0.75gを溶解した。黄色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は110分であった。得られた溶液は図4に示すように室温で流動性を有する。得られた溶液をガラス棒でガラス基板上にキャスティングし、ガラス基板ごと蒸留水中に入れた。約5分後溶液は凝固して固くなった。蒸留水を4回繰り返し交換することによりDMSOとTEAHを除いた。次にガラス基板上に伸ばして風乾させた。得られたフィルムの外観を図5に示す。
【0041】
[実施例13]
DMSO4.6gと48%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液0.4gを用いた以外、実施例11と同じ手法でメタアラミド短繊維0.3gを溶解した。黄色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は60分であった。得られた溶液は図4に示すように室温で流動性を有する。
【0042】
[実施例14]
DMSO4.3gと48%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.7gを用いた以外、実施例13と同じ手法でメタアラミド短繊維0.6gを溶解した。黄色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は120分であった。得られた溶液は図4に示すように室温で流動性を有する。
【0043】
[実施例15]
DMSO4.4gと40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液0.6gを用いた以外、実施例13と同じ手法でメタアラミド短繊維0.25gを溶解した。黄色の透明溶液を得るまでの攪拌時間は105分であった。得られた溶液は室温で流動性を有する。
【0044】
[実施例16]
実施例12で調製したメタアラミド溶液をPETフィルム上にキャスティングした後、60℃ホットプレートの上に1時間放置し含まれる水を除いた。次にホットプレートの温度を150℃まで上げてさらに1時間加熱するとフィルム状な固体になった。このフィルム状固体を250℃送風乾燥機内で1時間乾燥した後、FT-IR分析した結果、TEAHとDMSOは検出できなかった。
【0045】
[比較例3]
DMSO4.95gと48%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液0.05gを用いた以外、実施例15と同じ手法でメタアラミド短繊維0.25gの溶解を試みた。室温で180分攪拌した結果、メタアラミド短繊維は膨潤したが透明溶液は得られなかった。
【0046】
実施例1~15と比較例1~3の溶解条件と評価結果をまとめて表1と表2に、溶媒の組成比を表3に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表1~3に示すとおり、実施例1~15は、芳香族ポリアミドを前処理せず、室温~120℃で短時間に、かつ、均一に芳香族ポリアミドを溶解することができた。ティアラ、ケブラー(登録商標)繊維とメタアラミド短繊維は形状が異なるポリフェニレンテレフタルアミドであったが、何れも溶解できた。この結果から本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒を用いれば芳香族ポリアミドの形状に関係なく溶解可能である。一方、比較例1、2と3では、芳香族ポリアミドを溶解することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上述のように、本発明の芳香族ポリアミド溶解溶媒によれば、芳香族ポリアミドの重合度と結晶形態に依存することなく、短時間で、かつ均一に芳香族ポリアミドを溶解することができ、従来のような毒性な高い溶媒が不要である。さらに、本発明の溶媒に溶解させた芳香族ポリアミド含有溶液は、優れた流動性と成形性加工を有し、湿式成形法で芳香族ポリアミド特に芳香族ポリアミド成形体を製造する技術分野に広く適用することが可能である。また、本発明の溶媒に溶解させた芳香族ポリアミド含有溶液は、芳香族ポリアミド誘導体の合成にも適用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドの溶解に用いられる溶媒であって、
前記溶媒が、下記式で表わされる水酸化テトラアルキルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含み、
前記溶媒中の前記各成分の濃度が、水酸化テトラアルキルアンモニウムの濃度が0.5~40wt%、水の濃度が0.5~45wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が15~99wt%の範囲内にあることを特徴とする溶媒。
【化1】
式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表す。
【請求項2】
前記水酸化テトラアルキルアンモニウムが、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウムおよび水酸化テトラブチルアンモニウムの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶媒。
【請求項3】
溶解する芳香族ポリアミドが、パラ芳香族ポリアミドおよび/またはメタ芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶媒。
【請求項4】
芳香族ポリアミドの溶解方法であって、芳香族ポリアミドと請求項1または請求項2に記載の溶媒を接触させて芳香族ポリアミドを溶解することを特徴とする芳香族ポリアミドの溶解方法。
【請求項5】
請求項4に記載の芳香族ポリアミドの溶解方法で得られた芳香族ポリアミド溶解溶液を用いて芳香族ポリアミド成形体を製造することを特徴とする芳香族ポリアミド成形体製造方法。