(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190709
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】角度検出器
(51)【国際特許分類】
G01D 5/20 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
G01D5/20 110B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099077
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小久江 幸二
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA33
2F077FF34
2F077PP26
2F077UU26
2F077VV02
(57)【要約】
【課題】回転トランスを用いることなく、反転する向きの磁束を検出巻線に鎖交させて精度の高い測定をする。
【解決手段】本発明に係る角度検出器は、環状の巻線が同心円状に複数配置された励磁巻線(110)と、励磁巻線に重ねて所定角度間隔毎に配置された複数の巻線により構成された検出巻線(120)と、環状の導電体で構成されたロータ(130)と、を備え、励磁巻線は、半径方向に異なる向きの磁束を生成し、検出巻線は、励磁巻線の領域内に、励磁巻線の半径方向を長手方向とした形状の複数の巻線により構成され、ロータは、励磁巻線で囲まれる領域内において、半径方向の位置が周期的に変化するように構成され、異なる向きの磁束のうちでロータにより遮られない磁束により、検出巻線に検出信号が生成される、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の巻線が同心円状に複数配置された励磁巻線(110)と、
前記励磁巻線(110)に重ねて所定角度間隔毎に配置された複数の巻線により構成された検出巻線(120)と、
環状の導電体で構成されたロータ(130)と、
を備え、
前記励磁巻線(110)は、半径方向の位置に応じて異なる向きの磁束を生成し、
前記検出巻線(120)は、前記励磁巻線(110)の領域内に、前記励磁巻線(110)の半径方向を長手方向とした形状の前記複数の巻線により構成され、
前記ロータは、前記励磁巻線(110)で囲まれる領域内において、前記半径方向の位置が周期的に変化するように構成され、
前記異なる向きの磁束のうちで前記ロータ(130)により遮られない磁束により、前記検出巻線(120)に検出信号が生成される、
ことを特徴とする角度検出器。
【請求項2】
前記励磁巻線(110)は、環状の第1励磁巻線(110a)と、前記第1励磁巻線(110a)の内側に設けられた環状の第2励磁巻線(110b)と、前記第2励磁巻線(110b)の内側に設けられた環状の第3励磁巻線(110c)と、により構成され、
前記第1励磁巻線(110a)と前記第2励磁巻線(110b)と前記第3励磁巻線(110c)とは、交互に異なる方向の励磁電流が供給され、前記異なる向きの磁束を生成し、
前記検出巻線(120)は、前記第1励磁巻線(110a)と前記第2励磁巻線(110b)と前記第3励磁巻線(110c)との半径方向の領域内に、前記励磁巻線(110)の半径方向を長手方向とした形状で構成され、
前記ロータは、前記第1励磁巻線(110a)と前記第3励磁巻線(110c)とで囲まれる領域内において、前記半径方向の位置が周期的に変化するように構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の角度検出器。
【請求項3】
前記第1励磁巻線(110a)と前記第2励磁巻線(110b)とを流れる励磁電流により第1磁束が形成され、
前記第2励磁巻線(110b)と前記第3励磁巻線(110c)とを流れる励磁電流により第2磁束が形成され、
前記ロータ(130)は、回転することにより前記第1磁束と前記第2磁束とを周期的に遮り、
前記検出巻線(120)は、前記第1磁束と前記第2磁束とのうち、前記ロータ(130)により遮られない磁束により検出信号を生成する、
ことを特徴とする請求項2に記載の角度検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度検出器に関し、特に、励磁電流により生じる磁束をロータ回転により周期的に遮蔽することにより、精度の高い測定をする角度検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸の角度を検出するレゾルバとして、従来は以下の(1)~(3)の3種類の回転検出器が知られている。
(1)1相の励磁巻線と2相の検出巻線とが巻かれた電磁鋼板で構成されるステータ(stator:固定子)と、外周に所定の軸倍角を示す凹凸形状が形成された電磁鋼板のみで構成されるロータ(rotor:回転子)とで構成され、励磁巻線を交流電圧で励磁することにより、ステータとロータとのギャップパーミアンスの変化により誘起電圧を変化させ、ロータの回転に依存したsinθとcosθの電圧を誘起させることを検出原理に持つレゾルバ(特許文献1参照)。
(2)1相の励磁巻線が巻かれた電磁鋼板で構成されるロータと、2相の検出巻線が巻かれた電磁鋼板で構成されるステータと、回転体に配された励磁巻線に電圧を励磁するためのトランスで構成され、励磁巻線に交流電圧を励磁することにより、検出巻線にロータの回転に依存したsinθとcosθの電圧を誘起させることを検出原理に持つレゾルバ(特許文献2参照)。
(3)1相の励磁巻線と2相の検出巻線と導電体とから構成され、励磁巻線に交流電圧を励磁することにより検出巻線に鎖交する磁束を、ロータに流れる渦電流により遮蔽することにより、検出巻線にロータの回転に依存したsinθとcosθの電圧を誘起させることを検出原理に持つレゾルバ(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08-189805号公報
【特許文献2】特開2004-157109号公報
【特許文献3】特開2009-128312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の角度検出器(1)は、ロータに磁性体のみを配し、ステータとロータのギャップパーミアンスの変化により誘起電圧を変化させている。このため、検出巻線に鎖交する磁束は、あるオフセットをもって一定の範囲内で増減を繰り返す。このため、検出巻線に鎖交する磁束の向きは変わらず、検出される磁束の変化量が小さく、そのままの出力信号では高い精度を得ることができない問題を有していた。
この方式によるレゾルバでは、磁性体の透磁率がギャップの透磁率と比して非常に大きいため、ロータの回転に伴いギャップ長が変化することにより、誘起電圧振幅は周期的に変化することを利用している。しかし、電磁鋼板の透磁率は、その鋼板の交流応答性能に依存し、周波数が高くなると透磁率は小さくなっていき、高周波になればなる程ギャップの透磁率に近くなっていく。従って、電磁鋼板の透磁率とギャップの透磁率の差が小さい場合、ロータが回転することによる検出信号の振幅の変化量もわずかになるため、角度検出することが難しくなる。そのため、励磁電流の周波数を一定以上大きくすることができなかった。すなわち、励磁周波数により、検出可能な回転体の回転速度も制限されることになっていた。
【0005】
上記の角度検出器(2)は、回転トランスを介してロータ側の励磁巻線に電流を流すことにより、ロータに磁束を発生させて角度検出する。このため、上記角度検出器(1)と比較すると、磁束の変化量が大きくなり、高精度な角度検出が可能になる。しかし、ステータ側からロータの励磁巻線側に電力を供給する回転トランスを設ける必要がある。また、大きな検出ゲインを得るために、トランス、ステータ及びロータのコアに磁性体を用いており、励磁電流の周波数を一定値以上に大きくすることはできない問題があった。そのため、角度検出器としての部品点数が増加して構造が複雑化かつ大型化し、コストが上昇し、検出可能な回転体の回転速度も制限されるという、問題があった。
【0006】
上記の角度検出器(3)は、励磁電流が作る磁束を渦電流により遮蔽することにより、検出巻線に鎖交する磁束の量を周期的に変化させている。このため、角度検出器(1)と同様に、1本のティースに巻回された検出巻線に鎖交する磁束は、あるオフセットをもって一定の範囲内で増減を繰り返す。このため、検出巻線に鎖交する磁束の向きは変わらず、検出される磁束の変化量が小さく、そのままの出力信号では高い精度を得ることができない問題を有していた。
また、ロータの1周期、すなわち電気角360°に対して、90°ずつ位相がずれる形で検出回路を配置し、この4つの検出信号からsin信号とcos信号を生成するため、検出精度に限界があった。すなわち、一つ目の検出回路の検出する信号が、きれいな正弦波であれば理論上誤差はないが、この波形が正弦波から少しも歪まない、ということはあり得ない。この検出波形を高速フーリエ変換した際に、3次や5次の歪みがあれば、それはそのまま3次や5次の検出誤差として現れてくる。また、1つ目の検出回路の検出ゲインと2つ目の検出回路の検出ゲインは、設計的には同じであることを期待しているが、これが全く同じということはなく、必ず誤差を持つ。この検出回路の検出ゲインの差が、sin信号とcos信号のゲインの差にそのままなる。また、位相角も設計的には90°であることを期待しているが、これも必ず誤差を持つ。すなわち、この検出回路の配置上の誤差が、sin信号とcos信号の位相の誤差となる。検出信号のゲイン誤差、位相誤差ともに電気角1次の誤差であり、非常に大きい。そのため、高精度化に限界があった。また、構造上、励磁電流には円周と平行に流れる電流と円周に直交する方向に流れる電流が存在する。円周方向に流れる電流により生成される磁束は、4つの検出巻線に等しく鎖交するが、円周に直交する方向に流れる電流が作る磁束は、4つの検出巻線の位置により異なって鎖交する。そのため、第1~第4の各検出巻線に鎖交する磁束量が、全く同じになることはない。これもこのレゾルバの検出誤差増大の原因となる。
【0007】
以上のように、従来の角度検出器は、検出される磁束の変化量が小さいため高い精度を得ることができないか、あるいは、十分な磁束の変化を得るためにトランスを用いた複雑かつ大型化した構造が必要になるという問題を有していた。
【0008】
本発明は、回転トランスを用いることなく、反転する向きの磁束を検出巻線に鎖交させて精度の高い測定をすることが可能な角度検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る角度検出器は、環状の巻線が同心円状に複数配置された励磁巻線と、励磁巻線に重ねて所定角度間隔毎に配置された複数の巻線により構成された検出巻線と、環状の導電体で構成されたロータと、を備え、励磁巻線は、半径方向の位置に応じて異なる向きの磁束を生成し、検出巻線は、励磁巻線の領域内に、励磁巻線の半径方向を長手方向とした形状の複数の巻線により構成され、ロータは、励磁巻線で囲まれる領域内において、半径方向の位置が周期的に変化するように構成され、異なる向きの磁束のうちでロータにより遮られない磁束により、検出巻線に検出信号が生成される、ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る角度検出器において、励磁巻線は、環状の第1励磁巻線と、第1励磁巻線の内側に設けられた環状の第2励磁巻線と、第2励磁巻線の内側に設けられた環状の第3励磁巻線と、により構成され、第1励磁巻線と第2励磁巻線と第3励磁巻線とは、交互に異なる方向の励磁電流が供給され、異なる向きの磁束を生成し、検出巻線は、第1励磁巻線と第2励磁巻線と第3励磁巻線との半径方向の領域内に、励磁巻線の半径方向を長手方向とした形状で構成され、ロータは、第1励磁巻線と第3励磁巻線とで囲まれる領域内において、半径方向の位置が周期的に変化するように構成される、ことを特徴とする。
ここで、第1励磁巻線と第2励磁巻線とを流れる励磁電流により第1磁束が形成され、第2励磁巻線と第3励磁巻線とを流れる励磁電流により第2磁束が形成され、ロータは、回転することにより第1磁束と第2磁束とを周期的に遮り、検出巻線は、第1磁束と第2磁束とのうち、ロータにより遮られない磁束により検出信号を生成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の角度検出器では、環状の巻線が同心円状に複数配置された励磁巻線と、励磁巻線に重ねて所定角度間隔毎に配置された複数の巻線により構成された検出巻線と、環状の導電体で構成されたロータとを備え、励磁巻線は、半径方向の位置に応じて異なる向きの磁束を生成し、検出巻線は、励磁巻線の領域内に、励磁巻線の半径方向を長手方向とした形状の複数の巻線により構成され、ロータは、励磁巻線で囲まれる領域内において、半径方向の位置が周期的に変化するように構成され、異なる向きの磁束のうちでロータにより遮られない磁束により、検出巻線に検出信号が生成される。このため、回転トランスを用いることなく、周期的に反転する向きの磁束を検出巻線に鎖交させて精度の高い測定をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る角度検出器の構成を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る角度検出器の励磁巻線と検出巻線の配置を示す構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る角度検出器の励磁電流により生じる磁束を示す説明図である。
【
図4】実施の形態1に係る角度検出器の励磁電流により生じる磁束を、ロータにより遮断する様子を示す説明図である。
【
図5】実施の形態1に係る角度検出器の検出巻線に誘起される電圧特性を示す特性図である。
【
図6】従来の角度検出器の検出信号の検出巻線に誘起される電圧特性を示す特性図である。
【
図7】実施の形態1に係る角度検出器により得られる信号波形を示す特性図である。
【
図8】実施の形態1に係る角度検出器の検出誤差の特性を示す特性図である。
【
図9】実施の形態1に係る角度検出器で検出される基本波形を示す波形図である。
【
図10】従来の角度検出器で検出される基本波形を示す波形図である。
【
図11】実施の形態1に係る角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
【
図12】従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
【
図13】実施の形態1に係る角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
【
図14】従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
【
図15】実施の形態1に係る角度検出器で検出される基本波形を示す波形図である。
【
図16】従来の角度検出器で検出される基本波形を示す波形図である。
【
図17】実施の形態1に係る角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
【
図18】従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
【
図19】実施の形態1に係る角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
【
図20】従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の角度検出器の実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
【0014】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における角度検出器100について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、実施の形態1に係る角度検出器100の構成を示す構成図である。ここで、
図1の(a)は角度検出器100の平面図であり、
図1の(b)は角度検出器100の側面図である。
図2は、実施の形態1に係る角度検出器100の励磁巻線110と検出巻線120の配置を示す構成図である。
図3は、実施の形態1に係る角度検出器100の励磁電流により生じる磁束を示す説明図である。
図4は、実施の形態1に係る角度検出器100の励磁電流により生じる磁束を、ロータ130により遮断する様子を示す説明図である。
【0015】
[角度検出器100の構成]
角度検出器100は、主に、励磁巻線110、検出巻線120、ロータ130、を備えている。
【0016】
励磁巻線110は、環状の巻線が同一平面内で同心円状に複数配置されており、環状の第1励磁巻線110aと、第1励磁巻線110aの内側に設けられた環状の第2励磁巻線110bと、第2励磁巻線110bの内側に設けられた環状の第3励磁巻線110cと、により構成されている。第1励磁巻線110aと第2励磁巻線110bと第3励磁巻線110cとには、交互に異なる方向の励磁電流が供給される。
【0017】
検出巻線120は、第1励磁巻線110aと第2励磁巻線110bと第3励磁巻線110cとの半径方向の領域内に重ねられるように、励磁巻線110の半径方向を長手方向とした形状で、所定角度間隔毎に巻回されて設けられている。
図1~
図3において、検出巻線120は14の巻線で構成されている。なお、検出巻線120のそれぞれには、sin信号を検出するsin巻線と、cos信号を検出するcos巻線とが設けられている。
【0018】
励磁巻線110と検出巻線120とは、ステータ側に
図2のように重ねられた配置されている。ここで、励磁巻線及び検出巻線は、銅線をコイル状に複数ターン巻いたものでもよいし、基板上にレイアウトされた導電体パターンで構成してもよい。便宜上、以降基板上のパターンも巻線として扱う。
【0019】
ロータ130は、環状の導電体で構成されており、
図1の(a)に示すように、第1励磁巻線110aと第3励磁巻線110cとで囲まれる領域内において、半径方向の位置が周期的に変化する形状に構成されている。半径方向の位置が周期的に変化する形状とは、例えば、円周にサインカーブの山谷が合成された形状が該当する。ここでは、軸倍角数を4として、円周に山と谷が4回繰り返すものを具体例として示している。
ロータ130は、
図1の(b)に示すように、励磁巻線110及び検出巻線120に対して一定の間隔をもって平行な状態に配置されており、図示されない回転軸と共に回転する。
【0020】
[励磁巻線により生じて検出巻線に鎖交する磁束]
次に、実施の形態1の角度検出器100において励磁巻線110により生じて検出巻線120に鎖交する磁束について、以下に説明する。
【0021】
ここで、交互に異なる方向の励磁電流として、
図3に示すように、第1励磁巻線110aにCW(Clock Wise:時計回り)方向の励磁電流を流し、第2励磁巻線110bにCCW(Counter Clock Wise:反時計回り)方向の励磁電流を流し、第3励磁巻線110cにCW方向の励磁電流を流す場合を想定する。
【0022】
図3に示すように、第1励磁巻線110aにおけるCW方向の励磁電流と、第2励磁巻線110bにおけるCCW方向の励磁電流とにより、第1励磁巻線110aと第2励磁巻線110bとの間には、紙面垂直方向奥向きの磁束が形成される。そして、第2励磁巻線110bにおけるCCW方向の励磁電流と、第3励磁巻線110cにおけるCW方向の励磁電流とにより、第2励磁巻線110bと第3励磁巻線110cとの間には、紙面垂直方向手前向きの磁束が形成される。すなわち、第1励磁巻線110aと第2励磁巻線110bと第3励磁巻線110cとは、交互に異なる方向の励磁電流が供給されることにより、半径方向の位置に応じて異なる向きの磁束を生成する。
【0023】
この結果、ロータ130の存在を無視した場合は
図3に示すように、検出巻線120それぞれには、紙面垂直方向奥向きの磁束と、紙面垂直方向手前向きの磁束とが等しく鎖交している。方向が逆で大きさが等しい磁束が鎖交しているため、励磁巻線に交流を励磁した場合、検出巻線に誘起される電圧は0[V]である。
となる。
【0024】
[検出巻線に鎖交する磁束]
ここで、
図4の(a)に示すように、ある特定の検出巻線120について、励磁電流により作られるどちらか一方の磁束だけを遮るようにロータ130を配置する。このロータ130に流れる渦電流により、検出巻線120にどちらか一方の鎖交磁束だけが遮られ、もう一方の磁束だけが鎖交することになる。そのため、検出巻線120に電圧が誘起されるようになる。このとき誘起される電圧の振幅をVpとする。
【0025】
ロータ130の回転に伴い、軸倍角数4のロータ130が電気角で180[deg]回転したときに、
図4の(b)に示すように、先ほどとは逆の向きの磁束を遮るため、検出巻線120には振幅-Vpの電圧が誘起される。
【0026】
[検出巻線に誘起される電圧]
従って、検出巻線120は、はロータ130の回転に伴い、その振幅が±Vpで変化する誘起電圧を検出することが可能となる。この振幅±Vpの変化はロータ130の形状に依存し、構造上連続であるため、振幅の変化がロータ130の回転に対して正弦波として変化するように、ロータ130の形状を選ぶことが可能である。
【0027】
N個の検出巻線120を円周上に等間隔で配置すると、振幅が±Vpで位相が360/N[deg]ステップでずれているN個の正弦波信号を得ることができる。そして、全周に配置された検出巻線120の全ての検出信号より、等分割平均法を用いてsin信号とcos信号を生成する。
従って、検出巻線120のj番目で誘起される電圧Vj(θ)は、ロータ130の角度θにより、以下のように表すことができる。
【0028】
Vj(θ)=Vp*sin(x*θ-j*360/N))*sin(2*π*f)
ここで、
Vj(θ):検出巻線120のj番目に誘起される電圧、
Vp:最大電圧振幅、
θ:ロータ130の角度、
x:ロータ130の軸倍角数(図示具体例は4)、
j:検出巻線120の位置j=0,1,2,・・・,N-1、
f:励磁電流の周波数[Hz]、
N:検出巻線120の数(図示具体例は14)、である。
【0029】
検出巻線120で検出されたN個の信号に対して、信号処理回路にて特定の係数を乗算し、加算して得られる信号がロータ130の角度に対してsin波となるような係数の組み合わせが存在する。また、その振幅がロータの角度に対してcos波となるように係数を選ぶことも可能である。
以下にsin信号の係数ks、cos信号の係数kcの具体例を示す。
【0030】
ksj=k0*sin((j-1)*x*360/N+β)
kcj=k0*cos((j-1)*x*360/N+β)
ここで、
ksj:検出巻線120のj番目からの信号に対するsin信号用の係数、
kcj:検出巻線120のj番目からの信号に対するcos信号用の係数、
k0:最大値を決める任意の定数、
β:位相角を決める任意の定数、である。
【0031】
従って、等間隔に配置したN個の検出巻線120より、以下のような信号を検出することが可能となる。
ここで、信号処理部で生成されたsin信号をEsin(θ)とすると、
Esin(θ)=Σksj*Vp*sin(x*θ-j*360/N))*sin(2*π*f)
=Emax*sin(x*θ+β)
となる。
同様に、信号処理部で生成されたcos信号をEsin(θ)とすると、
Ecos(θ)=Σkcj*Vp*sin(x*θ-j*360/N))*sin(2*π*f)
=Emax*cos(x*θ+β)
となる。
従って、Esin(θ)とEcos(θ)の2つの信号の比を取ることにより、ロータ130の角度θを決定することができる。
【0032】
この信号処理部は、デジタル回路で構成することも、アナログ回路で構成することも可能である。また、高速演算が可能なプロセッサを用いた場合には、ソフトウエアにより処理することも可能である。
また、信号処理部を用いずに、検出巻線120の個々のコイルの位置により決定されるターン数を巻いたコイル、またはパターンを直列で接続し、sin信号及びcos信号を直接生成することも可能である。
【0033】
[検出巻線に誘起される電圧の比較]
以下、有限要素法解析で求めた検出巻線120の1ターンあたりの誘起電圧振幅波形について、実施の形態1を
図5に、従来例を
図6に示す。
図5は、実施の形態1に係る角度検出器100の検出巻線120に誘起される電圧特性を示す特性図である。
図6は、従来の角度検出器の検出信号の検出巻線に誘起される電圧特性を示す特性図である。
【0034】
図5は、実施の形態1に係る角度検出器100の検出巻線120に誘起される電圧特性を示している。
図5において、横軸はロータ130の回転における機械角[deg]であり、縦軸は検出巻線120に誘起される電圧[V]である。
実施の形態1の角度検出器100は、
図4の(a)と(b)に示したように、ロータ130の回転に伴って、検出巻線120のそれぞれで鎖交する磁束の向きが反転する。これにより、検出信号は、+Vpから-Vpの間で変化すると共に、振幅も従来よりも大きな電圧が得られる。
【0035】
図6は、ロータに磁性体のみを配し、ステータとロータのギャップパーミアンスの変化により誘起電圧を変化させる従来の角度検出器におけるの検出巻線に誘起される電圧特性を示している。
図6において、横軸は従来のロータの回転における機械角[deg]であり、縦軸は検出巻線に誘起される電圧[V]である。
この従来の角度検出器は、ステータとロータのギャップパーミアンスの変化により誘起電圧を変化させており、検出巻線に鎖交する磁束は、同じ向きのまま、所定のオフセットを中心に一定の増減を繰り返している。これにより、検出信号も、同じ極性のまま、所定のオフセットを中心に一定の増減を繰り返しており、かつ変化量が比較的小さい。
【0036】
[sin信号とcos信号の波形と角度誤差]
以下に、実施の形態1において得られるsin信号とcos信号の波形を
図7に示し、このsin信号とcos信号の比をとることにより求めた角度誤差を
図8に示す。
図7は、実施の形態1に係る角度検出器100により得られる信号波形を示す特性図である。
図8は、実施の形態1に係る角度検出器100の検出誤差の特性を示す特性図である。
【0037】
図7のsin信号とcos信号の波形は、有限要素法解析で求めた検出巻線120の1ターンあたりの誘起電圧振幅波形に対して、上述した係数ksjとkcjとを乗算して加算することにより得られるEsin(θ)とEcos(θ)の波形である。
図7において、横軸はロータ130の回転における機械角[deg]であり、縦軸はsin信号とcos信号の波形の検出巻線鎖交磁束量[Wb]である。
図8の角度誤差は、
図7に示したsin信号とcos信号の比をとることにより求められるロータ角度θの誤差である。
図8において、横軸はsin信号とcos信号における機械角[deg]であり、縦軸は角度誤差[′]である。
【0038】
図7に示したsin信号とcos信号の比をとることにより求められるロータ角度θは、従来例(3)として示したロータに流れる渦電流により遮蔽するレゾルバにおいて、位相が90°ずれた検出巻線から計算されたロータ角度θより高精度になっている。
【0039】
実施の形態1により求められるロータ角θが従来よりも高精度である理由を、以下の(a)~(b)に説明する。
【0040】
(a)実施の形態1の場合、ロータ130の回転に伴う誘起電圧の振幅の変化量が従来よりも大きくなっている。
従来例(3)として示したレゾルバの誘起電圧の振幅の最大値をV’max、最小値をV’minとしたとき、ロータの回転に伴う誘起電圧の振幅の変化量は、V’max-V’minである。
一方、実施の形態1の角度検出器100において、誘起電圧の最大値Vmax、最小値-Vmaxであり、ロータ130の回転に伴う誘起電圧の振幅の変化量は、2*Vmaxになる。すなわち、ロータ130の回転に対して、明らかに大きな変化量が誘起電圧に生じる。
実施の形態1と従来例の双方の検出信号に同程度の一定量の誤差が含まれるとしたとき、回転に伴う振幅の変化量に対する誤差の割合は明らかに実施の形態1の方が小さくなり、その結果、実施の形態1はロータ130の角度θを高精度に検出することが可能になる。
【0041】
(b)任意のフーリエ級数を360/N[deg]ずつ位相をずらしたN個の関数の総和は、もとのフーリエ級数のNの整数倍次成分の総和となる。従って、本発明におけるN個の検出巻線120の検出信号から生成された信号には、元に信号にある誤差の内、特定次数の誤差しか含まれない。
従って、ロータ130の回転に伴う検出信号の振幅変化は、ロータ130の形状に依存するが、実施の形態1においてはロータ130の形状に依存する誤差が検出信号による誤差となりにくい。
【0042】
[振幅に誤差を有する波形での具体例]
角度検出器100を4極14スロットで構成した場合、実施の形態1と従来例とにおける違いの例を以下に示す。ここで、4極はロータ130の円周に山と谷が4回繰り返すことを意味する。14スロットは、14の検出巻線120が存在することを意味する。
【0043】
以下、実施の形態1と従来例とで、電気角2~10次に最大振幅の1%の誤差を持つ基本波形を検出した場合の、基本波形の最大振幅を1と正規化した状態を、
図9と
図10とに示す。
図9は、実施の形態1に係る角度検出器100で検出される基本波形を示す波形図である。
図10は、従来の角度検出器で検出される基本波形を示す波形図である。
図9及び
図10において、横軸は機械角[deg]であり、縦軸は正規化された振幅である。
図9に示す実施の形態1の基本波形は-1.0~1.0の振幅を有するのに対し、
図10に示す従来例の基本波形は0.2~1.0の振幅であり振れ幅が小さい。
ここでは、電気角2~10次に最大振幅の1%の誤差が存在すると仮定したが、波形中に全く誤差が存在しなければ、本発明も従来例も論理的な検出誤差は0となる。一方、誤差が存在する場合、
図9と
図10とを比較すると、従来例に比較して実施の形態1の波形は歪みが小さいことが明らかである。
【0044】
実施の形態1と従来例とについて、最大振幅の1%の誤差を有する状態で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を、
図11と
図12とに示す。
図11は、実施の形態1に係る角度検出器100で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
図12は、従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
図11及び
図12において、横軸は機械角[deg]であり、縦軸は信号の振幅である。
このsin信号とcos信号の波形について
図10と
図11とを比較すると、基本波形の場合と同様に、従来例に比較して実施の形態1のsin信号とcos信号は、振幅が大きく、歪みが小さいことが明らかである。
【0045】
実施の形態1と従来例とについて、最大振幅の1%の誤差を有する状態で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号に含まれる検出誤差を計算により求めたものを
図13と
図14とに示す。
図13は、実施の形態1に係る角度検出器100で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
図14は、従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
【0046】
図13及び
図14において、横軸は機械角[deg]であり、縦軸は検出誤差[′]である。
図13に示す実施の形態1の検出誤差は最大で±18[′]である。一方、
図14に示す従来の検出誤差は最大で±80[′]である。以上より、ロータの形状に依存する歪みに対して、従来例よりも実施の形態1がより精度よく検出可能であることが明らかである。
従って、ロータ130の回転に伴う検出信号の振幅変化は、ロータ130の形状に依存するが、実施の形態1においてはロータ130の形状に依存する誤差が、従来例と比較して、検出信号による誤差となりにくいことがわかる。すなわち、実施の形態1の角度検出器100によれば、従来の角度検出器と比較して、精度の高い測定をすることが可能になる。
【0047】
[検出ゲイン1%誤差を有する場合の具体例]
以下、実施の形態1と従来例とで、各検出巻線により検出される基本波形に誤差は含まれないが、第1検出巻線φ1に比較して第2検出巻線φ2の検出ゲインに1%の誤差を持つ場合の、基本波形の最大振幅を1と正規化した状態を、
図15と
図16とに示す。
図15は、実施の形態1に係る角度検出器100で検出される基本波形を示す波形図である。
図16は、従来の角度検出器で検出される基本波形を示す波形図である。
図15及び
図16において、横軸は機械角[deg]であり、縦軸は正規化された振幅である。
図15に示す実施の形態1の基本波形は-1.0~1.0の振幅を有するのに対し、
図16に示す従来例の基本波形は0.2~1.0の振幅であり振れ幅が小さい。
【0048】
実施の形態1と従来例とについて、各検出巻線により検出される基本波形に誤差は含まれないが、第1検出巻線φ1に比較して第2検出巻線φ2の検出ゲインに1%の誤差を持つ場合の、基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を、
図17と
図18とに示す。
図17は、実施の形態1に係る角度検出器100で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
図18は、従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の波形を示す波形図である。
図17及び
図18において、横軸は機械角[deg]であり、縦軸は信号の振幅である。
このsin信号とcos信号の波形について
図17と
図18とを比較すると、基本波形の場合と同様に、従来例に比較して実施の形態1のsin信号とcos信号の振幅は大きくなっている。
【0049】
実施の形態1と従来例とについて、各検出巻線により検出される基本波形に誤差は含まれないが、第1検出巻線φ1に比較して第2検出巻線φ2の検出ゲインに1%の誤差を持つ場合の、検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号に含まれる検出誤差を計算により求めたものを
図19と
図20とに示す。
図19は、実施の形態1に係る角度検出器100で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
図20は、従来の角度検出器で検出される基本波形から生成されるsin信号とcos信号の歪みを示す波形図である。
【0050】
図19及び
図20において、横軸は機械角[deg]であり、縦軸は検出誤差[′]である。
図19に示す実施の形態1の検出誤差は-0.3~0.9[′]である。一方、
図20に示す従来の検出誤差は最大で±7[′]である。
以上より、検出巻線120の検出ゲイン誤差についても、実施の形態1の方が従来例よりも精度よく検出可能であることが明らかである。
【0051】
[実施の形態1の角度検出器100の特徴]
従来例と比較して、実施の形態1の角度検出器100の特徴は、以下の通りである。
・角度検出器100においてロータ130の回転に伴って誘起される電圧の変化は、従来例よりも大きい。これにより、高精度な角度検出を期待できる。
・全周360°に均等に配置された全ての検出巻線120の検出信号より、等分割平均法を用いてsin信号とcos信号を生成している。このため、検出巻線120を構成する各巻線の検出信号誤差による精度への影響が小さくなり、高精度な角度検出を期待できる。
・sin信号とcos信号ともに、生成元となる検出信号は同一信号である。このため、検出巻線120を構成する各巻線の検出信号誤差による精度への影響が小さくなり、高精度な角度検出を期待できる。
・コアを使用せずに製造可能であるため、小型・軽量化、低価格化が可能である。また、コアへの巻線の巻回作業が不要であるため、製造工程を簡略化できる。
・トランス構造を持たないため、小型・軽量化、低価格化が可能である。
・コアを使用していないため、コアの交流応答性能による励磁周波数の制限がなく、励磁電圧の高周波が可能である。従って、コアを使用する場合よりも高回転の角度検出が可能である。
【0052】
[その他の実施の形態]
実施の形態1において、周囲に4組の山谷を有するロータ130と、14の検出巻線120を備える、4極14スロットの角度検出器100の具体例を示したが、ロータ130の極数と検出巻線120の数とを任意に定めることが可能である。
【0053】
[実施の形態により得られる効果]
以上説明したように、本発明の実施の形態1の角度検出器100によると、以下のような効果を得ることができる。
実施の形態1の角度検出器100では、励磁巻線110は、環状の第1励磁巻線110aと、第1励磁巻線110aの内側に設けられた環状の第2励磁巻線110bと、第2励磁巻線110bの内側に設けられた環状の第3励磁巻線110cと、により構成され、第1励磁巻線110aと第2励磁巻線110bと第3励磁巻線110cとには、交互に異なる方向の励磁電流が供給され、第1励磁巻線110aと第2励磁巻線110bと第3励磁巻線110cとの半径方向の領域内に、励磁巻線110の半径方向を長手方向とした複数の巻線が所定間隔毎に配置されて検出巻線120が構成され、第1励磁巻線110aと第3励磁巻線110cとで囲まれる領域内において、半径方向の位置が周期的に変化するようにロータ130が構成されている。
そして、第1励磁巻線110aと第2励磁巻線110bとを流れる励磁電流により生じる第1磁束と、第2励磁巻線110bと第3励磁巻線110cとを流れる励磁電流により生じる第2磁束との一部は、ロータ130により遮られ、第1磁束と第2磁束とのうちでロータ130により遮られない磁束により、検出巻線120に検出信号が生成される。このため、回転トランスを用いることなく、周期的に反転する向きの磁束を検出巻線120に鎖交させて精度の高い測定をすることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の角度検出器100は、回転トランスを用いることなく精度の高い測定をするものであり、小型、軽量、高信頼性を要求される各種の用途に適している。
【符号の説明】
【0055】
100 角度検出器、110 励磁巻線、110a 第1励磁巻線、110b 第2励磁巻線、110c 第3励磁巻線、120 検出巻線、130 ロータ、CW 時計回り、CCW 反時計回り。