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特開2022-190722ガレート型エピカテキン重合体又はガレート型エピガロカテキン重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190722
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ガレート型エピカテキン重合体又はガレート型エピガロカテキン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/62 20060101AFI20221220BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C07D311/62
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099104
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真壁 秀文
(72)【発明者】
【氏名】田中 友梨
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA19
4H039CD40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガレート型エピカテキン重合体又はガレート型エピガロカテキン重合体の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】2分子のガレート型エピカテキンをルイス酸の存在下で自己縮合させる工程を含む、製造方法による。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2分子の一般式(II)で表される化合物を自己縮合させる工程を含む、一般式(III)で表される化合物の製造方法。
【化1】
(式(II)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
【化2】
(式(III)中、X1、R1~R8、及びAは式(II)で定義したのと同じ)
【請求項2】
一般式(III)で表される化合物の収率が70%以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記自己縮合させる工程が、一般式(VI)で表される化合物の不在下で行われる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【化3】
(式(VI)中、X11は水素又はOR18であり、R11~R18は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
【請求項4】
一般式(III)で表される化合物。
【化4】
(式(III)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
【請求項5】
一般式(III)で表される化合物を含む粗生成物であって、粗生成物中の一般式(III)で表される2量体化合物の量が70質量%以上である、粗生成物。
【化5】
(式(III)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法により、前記一般式(III)で表される化合物を製造する工程と、
一般式(III)で表される化合物の4位のアルコール性水酸基の保護基を除去して、一般式(IV)で表される化合物を得る工程と、
一般式(IV)で表される化合物のフェノール性水酸基の保護基を除去して、一般式(V)で表される化合物を得る工程とを含む、式(V)で表される化合物の製造方法。
【化6】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
【化7】
(式(V)中、Y1は水素又はOHである)
【請求項7】
式(V-2)で表される化合物。
【化8】
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法により、前記一般式(III)で表される化合物を製造する工程と、
一般式(III)で表される化合物と、一般式(VII)で表される化合物とをルイス酸の存在下で反応させ、一般式(VIII)で表される化合物を得る工程と、
【化9】
(式(VII)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
【化10】
(式(VIII)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、mは2~5である)
一般式(VIII)で表される化合物から保護基を脱保護する工程とをさらに含む、式(IX)で表される化合物の製造方法。
【化11】
(式(IX)中、Y2は水素又はOHであり、mは2~5である)
【請求項9】
式(IX-2)で表される化合物。
【化12】
(式(IX-2)中、mは2~5である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレート型エピカテキン重合体又はガレート型エピガロカテキン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートはそれぞれ、エピカテキンとエピガロカテキンのフラバン-3-オールの3位に没食子酸が結合したエステルであり、抗酸化作用をはじめとする広範な生理活性を有することが知られている。
【0003】
エピカテキンガレートの2量体であるプロシアニジンガレートは、DNAポリメラーゼの阻害活性や抗腫瘍活性などの重要な生物活性を有することから注目を集めるようになっている(非特許文献1)。
【0004】
従来、エピカテキンガレートの単量体からエピカテキンガレートの2量体を合成する場合、以下に示すように、エピカテキン(i)より調製したエピカテキンガレート求電子体(ii)とエピカテキンガレート求核剤(vi)をそれぞれ別々に合成していた。両者をイッテリビウムトリフラート(Yb(OTf)3)の存在下で縮合すると、2量体である化合物(iv)が得られたが、収率は22%に留まっていた(非特許文献1)。この化合物の全ての保護基を除去し、ガレート型エピカテキン2量体(v)を合成した。この方法の欠点は、求電子体(ii)と求核剤(vi)を別々に調製しなければならないことと、両者の縮合反応の収率が低いことである。従って効率的な合成とはいえなかった(下記スキームA)。
【0005】
【化1】
【0006】
エピガロカテキンガレートが2つ以上重合したガレート型エピガロカテキン重合体については、合成例が報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Suda, M. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2013, 23, 4935-4939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決すべき課題は、ガレート型エピカテキン重合体及びガレート型エピガロカテキン重合体をより効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
【0010】
項1.2分子の一般式(II)で表される化合物を自己縮合させる工程を含む、一般式(III)で表される化合物の製造方法。
【0011】
【化2】
【0012】
(式(II)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
【0013】
【化3】
【0014】
(式(III)中、X1、R1~R8、及びAは式(II)で定義したのと同じ)
項2.一般式(III)で表される化合物の収率が70%以上である項1に記載の製造方法。
項3.前記自己縮合させる工程が、一般式(VI)で表される化合物の不在下で行われる、項1又は2に記載の製造方法。
【0015】
【化4】
【0016】
(式(VI)中、X11は水素又はOR18であり、R11~R18は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
項4.一般式(III)で表される化合物。
【0017】
【化5】
【0018】
(式(III)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
項5.一般式(III)で表される化合物を含む粗生成物であって、粗生成物中の一般式(III)で表される2量体化合物の量が70質量%以上である、粗生成物。
【0019】
【化6】
【0020】
(式(III)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
項6.項1~3のいずれかに記載の製造方法により、前記一般式(III)で表される化合物を製造する工程と、
一般式(III)で表される化合物の4位のアルコール性水酸基の保護基を除去して、一般式(IV)で表される化合物を得る工程と、
一般式(IV)で表される化合物のフェノール性水酸基の保護基を除去して、一般式(V)で表される化合物を得る工程とを含む、式(V)で表される化合物の製造方法。
【0021】
【化7】
【0022】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
【0023】
【化8】
【0024】
(式(V)中、Y1は水素又はOHである)
項7.式(V-2)で表される化合物。
【0025】
【化9】
【0026】
項8.項1~3のいずれかに記載の製造方法により、前記一般式(III)で表される化合物を製造する工程と、
一般式(III)で表される化合物と、一般式(VII)で表される化合物とをルイス酸の存在下で反応させ、一般式(VIII)で表される化合物を得る工程と、
【0027】
【化10】
【0028】
(式(VII)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
【0029】
【化11】
【0030】
(式(VIII)中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、mは2~5である)
一般式(VIII)で表される化合物から保護基を脱保護する工程とをさらに含む、式(IX)で表される化合物の製造方法。
【0031】
【化12】
【0032】
(式(IX)中、Y2は水素又はOHであり、mは2~5である)
項9.式(IX-2)で表される化合物。
【0033】
【化13】
【0034】
(式(IX-2)中、mは2~5である)
【発明の効果】
【0035】
本発明の製造方法によれば、ガレート型エピカテキン重合体及びガレート型エピガロカテキン重合体をより効率的に製造される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであって、本発明はそれらに限定されるものではない。
本発明のいくつかの態様によれば、2分子の一般式(II)で表される化合物を自己縮合させる工程を含む、一般式(III)で表される化合物の製造方法が提供される。
【0037】
【化14】
【0038】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
【0039】
【化15】
【0040】
(式中、X1、R1~R8、及びAは式(II)で定義したのと同じである。具体的には、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
1~R8 は、互いに同一であっても異なっていてもよい、フェノール性水酸基の保護基であり、好ましくは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基である。芳香族炭化水素基は、好ましくはアリールアルキル、置換アリールアルキルなどであり、より好ましくはベンジルである。脂肪族炭化水素基は、好ましくはアルキルである。置換アリールアルキルの置換基は、例えばアルキル基であり、このアルキル置換基の炭素数は1~20であること好ましく、1~10であることがより好ましい。
【0041】
Aは、アルコール性水酸基の保護基であり、好ましくは、アシル、置換アシル、アルキル、アリールアルキル、置換アリールアルキルである。
【0042】
「アシル」としては、脂肪族カルボン酸又は芳香族カルボン酸のアシルが挙げられる。
【0043】
「置換アシル」としては、芳香族カルボン酸のアシルのアリールが置換されたアシルが挙げられ、具体的には、フェニルがアルキルで置換されたアシルが挙げられる。
【0044】
「アルキル」は、好ましくは炭素数が1~20であり、より好ましくは炭素数が1~10である。アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル及びその異性体、n-ヘキシル及びその異性体、n-ペンチル及びその異性体、n-オクチル及びその異性体、n-ノニル及びその異性体、n-デシル及びその異性体が挙げられ、好ましくはメチルである。
【0045】
「アリールアルキル」は、好ましくは炭素数が7~20である。アリールアルキルとしては、ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、スチリル、シンナミルなどが挙げられ、好ましくはベンジルである。
【0046】
「置換アリールアルキル」は、フェノール性水酸基の保護基と同様に、「置換アリールアルキル」としては、それぞれ、例えばアルキルで置換されたアリールアルキルが挙げられる。このアルキル置換基は、炭素数1~20であることが好ましく、炭素数1~10であることがより好ましい。
【0047】
縮合はルイス酸の存在下で行うことが好ましい。本発明の方法において反応触媒として用いるルイス酸は、好ましくは亜鉛トリフラート(Zn(OTf)2 )又はイッテリビウムトリフラート(Yb(OTf)3 ) である。一般式(II)において、X1が水素である場合、ルイス酸はイッテリビウムトリフラートであることが好ましい。一般式(II)において、X1がOR8である場合、ルイス酸は亜鉛トリフラートであることが好ましい。これらの反応触媒は、市販されている試薬として入手できる。使用される反応触媒の形態は、特に限定されず、粉末状態のものでも結晶化したものでもよいが、粉末状態のものが好ましい。
【0048】
反応触媒として用いるルイス酸の添加量は、特に限定されないが、ガレート型エピカテキン2量体及びガレート型エピガロカテキン2量体の製造においては、一般式(II)で表される化合物1当量に対して、亜鉛トリフラートの添加量は、約0.7~1.0当量程度が好ましく、イッテリビウムトリフラートの添加量は、約0.7~3.0当量程度が好ましい。
【0049】
一般式(II)で表されるエピカテキンガレートから調製した求電子剤は公知であり(例えばSuda, M. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2013, 23, 4935-4939参照)、当業者には通常の有機合成化学的方法により合成することができる。
【0050】
代わりに、一般式(II)で表されるエピカテキンガレート又はエピガロカテキンガレートから調製される求電子剤は、エピカテキン又はエピガロカテキンに置換基を導入することによって製造することもできる。この方法については、例えばBioorganic & Medicinal Chemistry 13(8), 2005, 2759-2771を参照されたい。具体的には、手順(1)エピカテキン又はエピガロカテキンと没食子酸のエステル結合、手順(2)フェノール性水酸基への保護基の導入、及び手順(3)4位へのOA基 (OEE)の導入からなる。
【0051】
発明者らは以前に、ガレート型ではないエピカテキンの求電子剤の2分子の自己縮合と、それに続く保護基の除去により、エピカテキン2量体を合成することに成功した(Suda, M. et al., Synthesis 2014, 46, 3351-3355)。この自己縮合の際に、ルイス酸としてイッテリビウムトリフラート(Yb(OTf)3)と亜鉛トリフラート(Zn(OTf)2)を用いたが、同じエピカテキンを同じルイス酸の当量で重合した場合にはイッテリビウムトリフラートよりも亜鉛トリフラートの方が2量体の収率が高く、最高で、亜鉛トリフラート0.8等量で2量体の収率が58%であった。
【0052】
エピカテキンガレートやエピガロカテキンガレートは、エピカテキンやエピガロカテキンと比較すると、エピカテキンやエピガロカテキンのフラバン-3-オールの3位に没食子酸が結合しているため、分子がかさ高く、自己縮合がより困難であると予想された。
【0053】
しかしながら、驚くべきことに、一般式(II)で表されるガレート型エピカテキン保護体のモノマーから、イッテリビウムトリフラートの存在下、自己縮合により、一般式(III)で表される化合物を74%という高い収率で調製することができた。予想外なことに、ガレート型エピカテキン保護体のモノマーの自己縮合では、ルイス酸として亜鉛トリフラートよりもイッテリビウムトリフラートを用いた方が収率が高かった(亜鉛トリフラートでは収率約51%)。
【0054】
以下、一般式(III)で表される化合物の収率とは、一般式(II)で表されるガレート型エピカテキン保護体又はガレート型エピガロカテキン保護体のモノマー全量に対する、該モノマーの自己縮合により製造される一般式(III)で表される化合物の量の割合である。
【0055】
いくつかの好ましい実施形態では、上記の一般式(III)で表される化合物の製造方法において、一般式(III)で表される化合物の収率が70%以上である。
【0056】
いくつかの好ましい実施形態では、上記自己縮合させる工程が、一般式(VI)で表される化合物の不在下で行われる。
【0057】
【化16】
【0058】
(式中、X11は水素又はOR18であり、R11~R18は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
11~R18は、互いに同一であっても異なっていてもよい、フェノール性水酸基の保護基であり、好ましくは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基である。芳香族炭化水素基は、好ましくはアリールアルキル、置換アリールアルキルなどであり、より好ましくはベンジルである。脂肪族炭化水素基は、好ましくはアルキルである。置換アリールアルキルの置換基は、例えばアルキル基であり、このアルキル置換基の炭素数は1~20であること好ましく、1~10であることがより好ましい。
【0059】
一般式(II)で表される化合物中のX1と一般式(VI)で表される化合物中のX11、一般式(II)で表される化合物中のR1~R8と一般式(VI)で表される化合物中のR11~R18はそれぞれ一致していることが好ましい。つまり、一般式(II)で表される化合物を自己縮合させるときに、一般式(II)で表される化合物においてフラバン-3-オールの4位にOA基を有しない一般式(VI)で表される化合物が存在しないことが、一般式(II)で表される化合物の自己縮合を促進する上で好ましい。
【0060】
本発明のいくつかの態様によれば、一般式(III)で表される化合物が提供される。
【0061】
【化17】
【0062】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
1、R1~R8、及びAの詳細については一般式(III)で表される化合物に関して上記に説明した通りである。
【0063】
式(III) で表される化合物は、一般式(II)で表されるガレート型エピカテキン保護体又はガレート型エピガロカテキン保護体のモノマーの自己縮合により製造されるガレート型エピカテキン保護体又はガレート型エピガロカテキン保護体の2量体である。この化合物を用いてガレート型エピカテキン又はガレート型エピガロカテキン2量体又はそれより大きなガレート型エピカテキン又はガレート型エピガロカテキンの多量体を効率的に製造することができる点で有利である。
【0064】
本発明のいくつかの態様によれば、一般式(III)で表される化合物を含む粗生成物であって、粗生成物中の一般式(III)で表される2量体化合物の量が70質量%以上である、粗生成物が提供される。
【0065】
【化18】
【0066】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、Aはアルコール性水酸基の保護基を表す)
1、R1~R8、及びAの詳細については一般式(III)で表される化合物に関して上記に説明した通りである。
【0067】
上記の式(III)で表される化合物を含む粗生成物は、式(III)で表される化合物を高含有量で含んでいるため、これを精製して用いてガレート型エピカテキン又はガレート型エピガロカテキン2量体又はそれより大きなガレート型エピカテキン又はガレート型エピガロカテキンの多量体を効率的に製造することができる点で有利である。
【0068】
2分子の一般式(II)で表される化合物を自己縮合させる工程の後で生じた式(III)で表される化合物を含む粗生成物からの、式(III) で表される化合物の精製は、クロマトグラフィーなどの公知の方法により、適切な固定相又は充填材と適切な溶媒とを用いて行うことができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、式(III)で表される化合物の精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィーまたは分取用薄層シリカゲルクロマトグラフィーにより行われる。展開溶媒及び溶出溶媒としてはそれぞれヘキサン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒、ヘキサンとジクロロメタンの混合溶媒、ヘキサンと酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒、クロロホルムとメタノールの混合溶媒、酢酸とアセトニトリルの混合溶媒などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、精製は分取用薄層シリカゲルクロマトグラフィーにより行い、展開溶媒はヘキサンと酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒である。
【0070】
本発明のいくつかの態様によれば、上記いずれかに記載の製造方法により、一般式(III)で表される化合物を製造する工程と、一般式(III)で表される化合物の4位のアルコール性水酸基の保護基を除去して、一般式(IV)で表される化合物を得る工程と、一般式(IV)で表される化合物のフェノール性水酸基の保護基を除去して、一般式(V)で表される化合物を得る工程とを含む、式(V)で表される化合物の製造方法が提供される。
【0071】
【化19】
【0072】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
【0073】
【化20】
【0074】
(式中、Y1は水素又はOHである)
式(III)中のX1、R1~R8、及びAの詳細については一般式(III)で表される化合物に関して上記に説明した通りである。また、式(III)のX1が水素の場合、式(V)のY1は水素であり、式(III)のX1がOR8の場合、式(V)のY1はOHである。
【0075】
上記製造方法によれば、自己縮合により製造されたガレート型エピカテキン保護体又はガレート型エピガロカテキン保護体の2量体を用いて、ガレート型エピカテキン又はガレート型エピガロカテキンの2量体を効率よく製造することができる。
【0076】
一般式(III)で表される化合物の4位のアルコール性水酸基の保護基を除去する工程と、一般式(IV)で表される化合物のフェノール性水酸基の保護基を除去する工程は、いずれも脱保護工程と呼ばれる。
【0077】
一般式(III)で表される化合物の脱保護工程及び一般式(IV)で表される化合物の脱保護工程における、脱保護の方法としては、公知の方法を用いることが可能である。
【0078】
具体的には、例えば、アルコール性水酸基の保護基Aとしてアセチル基が存在する場合には、ナトリウムメトキシドを添加する方法などにより、アセチル基を脱離させることができる。この際の溶媒としては、例えば、メタノールを使用することができる。エトキシエチル基の除去についてはSynthesis 2016, 48, 1525-1532を参照されたい。
【0079】
また、例えば、フェノール性水酸基の保護基R1~R8 としてベンジル基が存在する場合には、水素雰囲気下、水酸化パラジウム(Pd(OH)2 )を添加する方法などにより、ベンジル基を脱離させることができる。この際の溶媒としては、例えば、例えば、テトラヒドロフラン(THF 、メタノール、水の混合溶媒を使用することができる。
【0080】
いくつかの実施形態では、一般式(IV)で表される化合物及び一般式(V)で表される化合物の精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィーまたは分取用薄層シリカゲルクロマトグラフィーにより行われる。展開溶媒及び溶出溶媒としてはそれぞれヘキサン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒、ヘキサンとジクロロメタンの混合溶媒、ヘキサンと酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒、クロロホルムとメタノールの混合溶媒などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、精製は分取用薄層シリカゲルクロマトグラフィーにより行い、展開溶媒はヘキサンと酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒である。
【0081】
本発明のいくつかの態様によれば、式(V-2)で表される化合物が提供される。
【0082】
【化21】
【0083】
本開示のガレート型エピガロカテキン保護体のモノマーの自己縮合を用いれば、式(V-2)で表される化合物であるガレート型エピカロガテキン2量体を、効率良く製造することができる。
【0084】
ガレート型エピガテキン2量体は過剰なサイトカイン産生抑制活性及び抗ウイルス活性を有することが知られている。
【0085】
このガレート型エピカロガテキン2量体は、非ガレート型エピカロガテキン2量体や、ガレート型エピガテキン2量体のような他のプロアントシアニジンと同様、抗酸化作用を初めとする種々の生理作用を示すことが期待され、食品、医薬、化粧品などの分野において有用である。
【0086】
本発明のいくつかの態様によれば、上記製造方法により、一般式(III)で表される化合物を製造する工程と、一般式(III)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させ、一般式(VIII)で表される化合物を得る工程と、
【0087】
【化22】
【0088】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表す)
【0089】
【化23】
【0090】
(式中、X1は水素又はOR8であり、R1~R8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基を表し、mは2~5である)
一般式(VIII)で表される化合物からフェノール性水酸基の保護基を除去する工程とをさらに含む、式(IX)で表される化合物の製造方法が提供される。
【0091】
【化24】
【0092】
(式中、Y2は水素又はOHであり、mは2~5である)
式(VII)及び(VIII)中のX1及びR1~R8の詳細については一般式(III)で表される化合物のX1、及びR1~R8に関して上記に説明した通りである。また、式(III)のX1が水素の場合、式(VII)及び(VIII)のX1は水素であり、式(IX)のY1は水素であり、式(III)のX1がOR8の場合、式(VII)及び8(VIII)のX1はOR8であり、式(IX)のY1はOHである。
【0093】
一般式(VII)で表される化合物は、一般式(II)で表される化合物と比較して、ガレート型エピカテキン又はガレート型エピガロカテキンのフラバン-3-オールの4位に保護基が付いていない化合物であり、求核剤として作用する。一般式(II)で表される化合物中のX1及びR1~R8と、一般式(VII)で表される化合物中のX1及びR1~R8は一致している。
【0094】
一般式(III)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる工程は、ルイス酸の存在下で行うことが好ましい。反応触媒として用いるルイス酸は、好ましくは亜鉛トリフラート(Zn(OTf)2 )又はイッテリビウムトリフラート(Yb(OTf)3 ) である。これらの反応触媒は、市販されている試薬として入手できる。
【0095】
一般式(III)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる工程に用いる溶媒は、反応に影響を及ぼさない溶媒であればいずれであっても良い。例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシドなどの溶媒を、単独もしくは混合して使用することができる。
【0096】
一般式(III)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる工程の反応時間は特に制限されず、製造原料の種類及び目的物の種類に応じて、適宜、調整することができる。例えば、5~24時間が挙げられるがこれに限定されない。
【0097】
一般式(III)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とを反応させる工程の反応温度は特に制限されず、製造原料の種類及び目的物の種類に応じて、適宜、調整することができる。例えば、室温以下(0 ℃以上23℃ 以下)であることが好ましいがこれに限定されない。
【0098】
一般式(VIII)で表される化合物からのフェノール性水酸基の保護基を除去する工程は、一般式(III)で表される化合物のフェノール性水酸基の保護基を除去する工程と同様に行うことができる。
【0099】
例えば、フェノール性水酸基の保護基R1~R8 としてベンジル基が存在する場合には、水素雰囲気下、水酸化パラジウム(Pd(OH)2 )を添加する方法などにより、ベンジル基を脱離させることができる。この際の溶媒としては、例えば、例えば、テトラヒドロフラン(THF 、メタノール、水の混合溶媒を使用することができる。
【0100】
式(III) で表される化合物は、一般式(II)で表されるガレート型エピカテキン保護体又はガレート型エピガロカテキン保護体のモノマーの自己縮合により製造されるガレート型エピカテキン保護体又はガレート型エピガロカテキン保護体の2量体である。この化合物を用いて3量体以上のガレート型エピカテキン又はガレート型エピガロカテキン多量体を効率的に製造することができる点で有利である。
【0101】
上記の製造方法により得られた式(XI)で表される中分子ガレート型エピカテキンor エピガロカテキン重合体は、非ガレート型のエピガテキン多量体やエピカロガテキン多量体と同様、抗酸化作用を初めとする抗腫瘍,抗ウイルス,炎症抑制活性などを示すことが期待され、食品、医薬、化粧品などの分野において有用である。
【0102】
本発明のいくつかの態様によれば、式(IX-2)で表される化合物が提供される。
【0103】
【化25】
【0104】
(式中、mは2~5である)
式(IX-2)で表される化合物は、式(IX)で表される化合物のうち、モノマー単位がガレート型エピガロカテキンであるがレート型エピガロカテキン多量体である。
【0105】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0106】
実施例1 ガレート型エピカテキン2量体の合成
エピカテキン(1)より3工程で調製したエピカテキンガレート誘導体(2)をイッテリビウムトリフラートで処理すると、(2)の自己縮合(Suda, M. et al., Synthesis 2014, 46, 3351-3355)により、生成した2量体である(3)を74%の収率で調製することができた。この化合物(3)の4位のエトキシエチル(OEE)基をルイス酸存在下でトリエチルシランを用いて還元的に除去すると、化合物(4)が70%の収率で得られた。この化合物(4)の全ての保護基を除去し(Ichikawa, M. et al., Synthesis 2016, 48, 1525-1532)、ガレート型エピカテキン2量体(5)を合成した。化合物(3), (4), (5)の精製は分取用薄層シリカゲルクロマトグラフィーにより行い、展開溶媒はヘキサンと酢酸エチルとジクロロメタンの混合溶媒(質量比 ヘキサン:酢酸エチル:ジクロロメタン=10:1:5)で行った。化合物(2)からの総収率は52%であり、効率的な新規合成経路を開発した(スキーム1)。
【0107】
【化26】
【0108】
実施例2 中分子ガレート型エピカテキン重合体の合成
自己縮合により得られた化合物(3)は、ガレート型エピカテキン保護体(7)とルイス酸である反応触媒 Zn(OTf)2を用いて反応させることにより、3~5量体縮合物(8)となり、これを化合物を脱保護することにより、ガレート型エピカテキンの3~5量体化合物(9)が生成する。
【0109】
【化27】
【0110】
実施例3 ガレート型エピカロガテキン2量体の合成
エピガロカテキンガレート(11)より3工程で調製したエピガロカテキンガレート誘導体(12)を亜鉛トリフラートで処理すると、エピガロカテキンガレート誘導体(12)の自己縮合(Suda, M. et al., Synthesis 2014, 46, 3351-3355)により、生成した2量体である(13)を48%の収率で調製することができた。この化合物(13)の4位のエチレングリコール基の水酸基をメチル化した後にルイス酸存在下でトリエチルシランを用いて還元的に除去すると、化合物(14)が50%の収率で得られた。この化合物(14)の全ての保護基を除去し(Ichikawa, M. et al., Synthesis 2016, 48, 1525-1532)、ガレート型エピガロカテキン2量体(15)を合成した (スキーム3)。
【0111】
【化28】
スキーム3. ガレート型エピガロカテキン2量体の合成