(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190736
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】金属製反転型を作るための石膏製原型及びこれを含む割り型
(51)【国際特許分類】
B22C 7/00 20060101AFI20221220BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221220BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221220BHJP
【FI】
B22C7/00 111
B22C7/00 113
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099131
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】596166472
【氏名又は名称】木戸 平太郎
(72)【発明者】
【氏名】木戸 平太郎
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093FA14
4E093FC10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属製反転型を作るための石膏製原型を提供する。
【解決手段】目的物が反転した形状の造形キャビティを有する金属製反転型を作るための石膏製原型1であって、前記石膏製原型は、前記目的物に相当する模型4が凸設された底部5と当該底部の外周に配設された周壁部7を備えており、前記周壁部の頂部を前記模型の最頂部よりも高く設けて、上面が開放された造形空間11が形成されている。前記石膏製原型は、石膏積層法により一体的に造形され、かつ、熱処理されているものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物が反転した形状の造形キャビティを有する金属製反転型を作るための石膏製原型であって、
前記石膏製原型は、前記目的物に相当する模型が凸設された底部と当該底部の外周に配設された周壁部を備えており、
前記周壁部の頂部を前記模型の最頂部よりも高く設けて、上面が開放された造形空間が形成されており、
前記石膏製原型は、石膏積層法により一体的に造形され、かつ、熱処理されていることを特徴とする、
金属製反転型を作るための石膏製原型。
【請求項2】
前記石膏製原型の底部および/または周壁部に多数のガス抜き孔が設けられていることを特徴とする、請求項1記載の金属製反転型を作るための石膏製原型。
【請求項3】
前記底部に凸設された前記模型に押出ピン孔を形成するための中子が一体的に立設されていることを特徴とする、請求項1または2記載の金属製反転型を作るための石膏製原型。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の石膏製原型と前記造形空間を封鎖する蓋体を備えた割り型であって、前記造形空間に連通する湯口が前記石膏製原型または蓋体に形成されていることを特徴とする、割り型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製反転型を作るための、石膏積層法より一体的に造形された石膏製原型に関するものであり、特に、熱処理炉により熱処理された石膏製原型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目的物が反転した形状の造形キャビティを有する反転型としては、成形する目的物の形状や材質、量産性などを考慮して、金型や砂型、耐火石膏型、シリコーン型などが用いられる。
【0003】
従来の金属製反転型(例えば金型)は、製造しようとする目的物に相当する模型の3Dデータを作成し、この3Dデータを用いて目的物の反転した形状の造形キャビティを有する反転型の3Dデータを作成し、反転型の3Dデータに基づいてNC旋盤や放電加工機などの機械加工により、目的物の反転した形状の造形キャビティを有する金属製反転型を製造していた。しかし、このような製造方法は、機械加工により金属ブロックから削り出して所望の金属製反転型とするものであり、削り出しに多大な時間と費用がかかり、製作された金属製反転型が高価なものになるという問題がある。
【0004】
近年、3Dデータを使って石膏積層法によって石膏製反転型を作ることが提唱されている。この石膏製反転型は、金属製反転型を製造する際の前記問題を解消できるが、石膏製であるから強度及び耐熱性がない。さらに目的物を鋳造するたびに崩壊してしまうので、金属製反転型の長所である量産性がない。また更に、石膏製反転型は、肉厚部の乾燥性が悪く乾燥に時間を要すること、乾燥が不十分な場合は注湯時に水蒸気爆発の危険があること、肉厚形状の場合はその通気性が悪く目的物に気泡巣が発生しやすいことなどの問題がある。特許文献1
【0005】
一方、砂型の一種である中子は、砂型と別に製作され、鋳物の空洞部分や穴などをつくるために、砂型内のその部分にセットされるものであり、特に複雑な内部形状を有する鋳物を鋳造するときに使用される。中子は砂型内にセットし、溶湯金属を流し込んだ後に鋳物とともに取り出し、衝撃を与えて破壊して取り出す。中子はすべて一つひとつが消耗品であり、精度と崩壊性の良さが求められる。金属製反転型に必要な押出しピン孔は、前述のように機械加工により穿孔されるのが一般的で、押出しピン孔を形成するために中子を使用することはあまりない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属製反転型を作るための石膏製原型を提供することにより上記問題を解決している。金属製反転型及び石膏製反転型が有する上記問題を解消して、目的物を安価で短期間に作ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、目的物が反転した形状の造形キャビティを有する金属製反転型を作るための石膏製原型であって、前記石膏製原型は、前記目的物に相当する模型が凸設された底部と当該底部の外周に配設された周壁部を備えており、前記周壁部の頂部を前記模型の最頂部よりも高く設けて、上面が開放された造形空間を形成している。前記石膏製原型は、石膏積層法により一体的に造形され、かつ、熱処理されているものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の金属製反転型を作るための石膏製原型において、前記石膏製原型の底部および/または周壁部に多数のガス抜き孔が設けられているものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の金属製反転型を作るための石膏製原型において、前記底部に凸設された前記模型に、押出しピン孔を形成するための中子が一体的に立設されているものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1~3の何れかに記載の石膏製原型と前記石膏製原型の造形空間を閉鎖する蓋体とを備えた割り型であって、前記造形空間に連通する湯口が前記石膏製原型または蓋体に形成されているものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の石膏製原型は、目的物に相当する模型が凸設された底部と当該底板の外周に配設された周壁部により上面が開放された造形空間を備えており、石膏積層法により一体的に造形され、かつ、熱処理されたものであるから、石膏製原型の耐熱性が向上しており、金属溶湯の鋳込みに耐えることができる。また、反転型ではなく原型としたので、金属製反転型を低コストかつ短期間で作ることができる。そうして、作られた反転型は金属製であるから、耐久性があり大量生産に適したものとなる。また更に、石膏製原型は熱処理されたものであるから、水分が除去されており、金属溶湯を注湯する際に発生するおそれがある水蒸気爆発を防止することができる。石膏積層法により造形された成形面が金属製反転型の成形面に反転し、更に目的物の成形面に反転されるから、鋳砂表面が転写された成形面(鋳肌)と異なり、平滑な成形面を有する精度の高い目的物を得ることができる。
【0013】
請求項2記載の発明は、前記石膏製原型の底部および/または周壁部に多数のガス抜き孔が設けられているから、金属溶湯が造形空間の隅々まで行き渡り、ショートショットを起こさず、成形された金属製反転型に気泡巣が発生するのを防止できる。ガス抜き孔の3Dデータは石膏製原型の3Dデータ作成時に作成することができる。
【0014】
請求項3記載の発明は、前記底部に凸設された模型に、押出しピン孔を形成するための中子が一体的に立設されているから、造形空間に金属溶湯を流し込むと同時に押出しピン用の孔を成形することができる。中子の3Dデータは石膏製原型の3Dデータ作成時に作成して、一体化することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1~3の何れかに記載の石膏製原型と前記造形空間を閉鎖する蓋体とを備えた割り型であって、前記造形空間に連通する湯口が前記石膏製原型または蓋体に形成されており、造形空間の上面が蓋体により閉鎖されているので、金属製反転型の裏面を平滑面に成形できる。
【0016】
本発明によれば、含有する水分が非常に少なくて、湯回り不良を起こさず、耐熱性や強度あり、金属製反転型を作るための石膏製原型を得ることができる。石膏製原型に補強材を含侵したあと、熱処理してやればタールまたは/およびピッチで補強された、水分が除去された強度の高い石膏製原型を得ることができる。そうして、この石膏製原型を用いることにより金属製反転型を安価に短納期で製造することができる。金属製反転型の造形キャビティに、溶融樹脂や溶融ゴム、溶湯金属などの流動性の成形材料を注入してやれば、所望形状に成形された樹脂製やゴム製、金属製などの目的物を得ることができる。また、金属製反転型の造形キャビティに粉状のガラスやアルミニウム等の金属粉、釉薬粉体を充填したあと熱処理炉に入れて溶融温度以上に加熱してやれば、粉体が熔けて所望形状になったガラス製もしくは金属製の目的物または釉薬製の目的物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】目的部に相当する模型を凸設した石膏製原型の斜視図である。
【
図2】
図1のA-A断面で示す石膏製原型の使用状態の説明図である。
【
図3】石膏製原型を使用して作られた金属製反転型の斜視図である。
【
図4】
図3のB-B断面で示す金属製反転型の使用状態の説明図である。
【
図5】金属製反転型で鋳造された目的物の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
請求項1記載の石膏製原型は、目的物に相当する模型が凸設された底部と当該底部の外周に配設された周壁部を備えており、前記周壁部の頂部を前記模型の最頂部よりも高く設けられているから、上面が開放された造形空間が形成されている。更に、石膏製原型は、石膏積層法により一体的に造形され、かつ、熱処理されているものである。熱処理時間は石膏製原型の質量により異なっており、熱処理中に炉内から白煙が出なくなったら熱処理を終了する。石膏積層法に使用される石膏は、石膏系混合物の粉末(例えば、3DSystems社の石膏ベースパウダー、以下、「石膏」という。)である。これを薄く層状に敷設して、インクジェットノズルから接着剤(水を含んでいる)を噴射して型状に造形する。なお、石膏は、熱処理温度が70~130℃で半水石膏となり、110~200℃でIII型無水石膏(可溶性)となり、200~250℃でII型無水石膏(水和しにくい)となることが知られている。
【0019】
請求項2の石膏製原型は、その底部および/または周壁部に多数のガス抜き孔が設けられている。ガス抜き孔の直径は、0.8~1.2mmが好適である。直径が0.8mmより小さいと石膏積層法で造形したときにガス抜き孔が詰まってしまうことがある。1.2mmより大きいと溶湯金属がガス抜き孔に浸入して針状の突起となるので、金属製反転型から除去するための後処理が必要になる。
【0020】
請求項3の石膏製原型は、前記底部の目的物に相当する模型に、押出しピン孔を形成するための中子が一体的に突設されているものである。中子も石膏製原型と同じく石膏積層法により形成され、しかも熱処理が施されているから、水分が除去されており水蒸気爆発を起こすことはない。また、溶湯金属の注湯時に加熱されて脆化するので、取出しが容易である。押出しピン用の孔は、直径5~10mmが好ましい。直径が大きければその強度が高まるが、目的物に相当する模型の形状により孔の設置領域が限られることになる。
【0021】
請求子4記載の割り型は、請求項1~3の何れかに記載の石膏製原型と前記石膏製原型の造形空間を封鎖する蓋体とを備えたものであって、前記造形空間に連通する湯口が前記石膏製原型または蓋体に形成されたものであるから、溶湯金属を蓋板内面に沿わせることができ、金属製の反転型の裏面を平滑面に成形できる。前記周壁部に造形空間に開口する湯口を設け、石膏製原型を立設させて湯口を上方に向けてから鋳込む(縦流し込み)のが好ましい。また、石膏製原型を水平方向に横たわらせて、湯口(この場合は堰が必要になる)を横方向に向けるとともに、蓋体に湯口から堰に通ずる湯道を設けて鋳込む(横流し込み)こともできる。
【0022】
3Dデータを使って石膏積層法により造形した前記石膏製原型に補強材を含浸させて強度を高めることができる。補強材としては、天然樹脂や合成樹脂を使用することができる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などの低融点を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。補強材の熱分解温度は樹脂の種類によって異なっており、熱重量曲線により知ることができる。石膏製原型を熱処理炉で200~250℃以上に熱処理すれば、一部の補強材がタール及び/ピッチに変質し、石膏粒相互を連結して鋳込み時に必要な強度を維持することができる。
【0023】
補強材の一つであるシアノアクリレートは単官能モノマーなので、これが重合して得られるポリ(シアノアクリレート)は鎖状の熱可塑性樹脂であり、このため耐熱性が劣るが、熱収縮度は低くて熱処理時に石膏製原型に亀裂が入りにくい。熱分解温度は200~250℃と低く、330℃の乾留で100%近く熱分解する。シアノアクリレートの熱処理で生成したタール及び/ピッチは、他の種類の樹脂の熱処理で生成したものより衝撃に弱いので、中子の易崩壊性を確保するうえで好適である。
【0024】
本発明の石膏製原型の造形空間に金属溶湯を鋳込むことにより、目的物に相当する模型が反転した形状の造形キャビティを有する金属製反転型を作ることができる。金属製反転型の成形面は、石膏積層法の3Dプリンタで出力した成形面を反転させたものであるから平滑である。また、3Dモデリングソフトウエアにより球面や曲面、中空部を有する石膏製原型を簡単に形成することができ、石膏製原型と一体化した中子の造形も容易である。
【実施例0025】
図1に基づき、本発明の石膏製原型に係る3Dデータの作成について、以下に説明する。石膏製原型の3Dデータを作成するには、コンピュータにインストールされた3Dデータ作成ソフト(3Dモデリングソフトウエア)を動作させて、まず、トイプードルを模した形状部3と基部2が結合した3Dデータのファイルを作成する。一方、これとは別に底部5と周壁部7、更に周壁部に湯口8を設けた3Dデータのファイルを作成する。2つのファイルから各3Dデータを読み出し、底部5の中央にトイプードルを模した形状部3および基部2を配置して結合して、石膏製原型1の3Dデータファイルとする。3Dモデリングソフトウエアとして、例えば、ソリッドワークスやスペースクレーム、オートディスクの3D―CAD用ソフトウエアがある。また、123Dデザイン(拡張子.123d)やDSメカニカル(拡張子.rsdoc)、フュージョン360のようなフリーのモデリングソフトウエアを使用することができる。作成された3Dデータは、3Dプリンタ用の3Dデータ(拡張子.stl)に変換して保管する。
【0026】
石膏製原型の3Dデータを用いて、石膏積層法の3Dプリンタ(3DSystems社・ProJet660pro)で出力することにより、
図1の現実の石膏製原型が作成される。石膏製原型1は、3DSystems社・石膏ベースパウダー(石膏系混合物、単に石膏という)の粉末(粒径0.1mm)にプリンタノズルから接着剤(水を含んでいる)を噴霧することにより造形されている。後述するように、この石膏製原型1にシアノアクリレートなどの補強材を含浸させて強度を高めることができる。
【0027】
図1は石膏積層法により造形された現実の石膏製原型の斜視図である。石膏製原型1は、断面かまぼこ形状の基部2とトイプードルを模した形状部3からなる模型(目的物に相当する模型)4を、その底部5の上面中央に備えている。トイプードルを模した形状部3は厚さ6mmであり、基部2は厚さ3mmである。前記形状部3および基部2には、高さ10mmの円柱形の中子6が2本ずつ立設されている。底部5は平面視が矩形で肉厚7mmの平板状であり、その外周に幅7mmの周壁部7が立設されている。底部5と周壁部7により囲まれた領域では、上側に水平方向に連なった高さ5mmの上部空間9が形成され、その下側に模型4を含む高さ3mmおよび6mmの下部空間10が形成されている。上部空間と下部空間とにより、金属を鋳込むための造形空間11が形成される。周壁部7の頂部は模型4の最頂部よりも5mm高く設けられており、中子の上部は石膏製原型1から5mm上方に突出することになる。前記石膏製原型の底部5には多数のガス抜き孔8が設けられており、ガス抜き孔8は造形空間11の底部(底部の上面)と石膏製原型1の背面とを連通しており、鋳込み時に発生するガスを外部に排出する。想像線で示す蓋体12は上部空間9の上面(底部と周壁部により囲まれた造形空間の上側開口)を閉鎖できる大きさに作られている。周壁部7の上辺中央に溶融状態の金属を鋳込む湯口13が設けられている。
【0028】
トイプードルの形状部3およびと基部2の側面には7度の抜け勾配が設けられており、周壁部の7内側面と中子5には抜け勾配が設けられていない。抜け勾配は、後述する銅合金製の反転型の造形キャビティに抜け勾配を形成するためのものであり、最終的には目的物(断面かまぼこ形状の基部とトイプードルの形状部からなるもの)を金属製の反転型21から傷つけることなく取り出すためである。一方、中子6や周壁部8は石膏製原型1から金属製反転型21を取り出すときに破壊するものであり、抜け勾配を設ける必要がない。溶融状態の金属として、銅合金のほかに、アルミニウム合金や亜鉛合金、鉛合金など各種の金属を使用することができる。
【0029】
石膏積層法の3Dプリンタにより出力された石膏製原型1及び中子6は、シアノアクリレート(3DSystems社・純正品)の含浸により補強することができる。シアノアクリレートが含浸された石膏製原型1および中子6を熱処理炉(いすゞ製作所製ポータブル電気炉、ISUZU MUFFLE FURNACE MF-11K)に入れ、その炉内の温度が200℃になるように設定して電源を入れる。15分が経過すると炉内は150℃に達し、熱処理炉の天井面の貫通孔から白煙が出始め、200℃を維持すると白煙は出続ける。その状態で100分経過すると白煙が発生しなくなる。白煙が出なくなったら、必要により炉内の温度を250℃になるように設定して電源を入れる。炉内の温度が300℃を超えないように注意する。250℃付近では白煙が出るので、その時点で電源を切って熱処理炉の扉をとじたままで放置する。このようにして、シアノアクリレート樹脂が含浸された石膏製原型1を熱処理炉(マッフル式電気炉)にいれて熱処理することにより、水分が除去され、かつ、シアノアクリレートが熱処理された石膏製原型1及び中子6を得ることができる。
【0030】
次に、蓋体12について説明する。蓋板12は、石膏製原型1の周壁部8に固定して造形空間11を閉鎖するものであり、厚さ5mmのケイカル板を用いることができる。ケイカル板の中央には、石膏製原型1に立設された4本の中子6の先端部を挿入できる貫通孔14を形成されている。石膏製原型1に蓋体12を固定する際に、貫通孔14に中子6の先端部を挿入して、中子を両持ち構造にして溶融状態の銅合金を注入するときの中子の折れを防止する。蓋体12は熱処理をしないでそのまま用いるのがよい。蓋体12で上部空間9を閉鎖するとともに、閉鎖した石膏製原型1を立てて湯口13を上方に配置し、溶融状態の銅合金を流し込む方法(縦流し込み方法)がよい。石膏製原型1を立てることにより上部空間9が縦方向に配置され、中子6を除き溶融状態の金属の流れを妨げるものがないからである。本実施例では石膏製原型に湯口13を設けているが、蓋板12を設けないのであれば湯口13を設ける必要がなく、水平方向の造形空間11の上側開口から溶融状態の金属を注ぎ込めばよい。
【0031】
本実施例において、補強後の石膏製原型(中子を含む)の質量は182gである。シアノアクリレートで補強された石膏製原型1および中子6を熱処理炉にいれて、200℃×100分間の熱処理してやれば水分を含まない石膏製の原型1及び中子6となる。熱処理後の石膏製原型(中子を含む)の質量は133gである。使用したマッフル型の熱処理炉では、炉内の温度を正確に制御することは難しく、200℃にセットしても、200℃+50℃になることがあるので、注意する必要がある。炉内の温度が250℃前後で石膏製の原型や中子に含浸されたシアノアクリレートの一部が分解して白煙(分解ガス)を出し、一部がタール及び/またはピッチに変質し、石膏製粒の表層に付着する。
【0032】
熱処理炉の設定温度が200℃で維持されているときに出る白煙は、原型の石膏の熱分解により発生した水蒸気によるものと考えられる。この熱分解反応により石膏から水分が除去されてIII型無水石膏を生成している。同時に、プリンタノズルから噴霧された接着剤(水を含んでいる)の一部が熱分解してタール及び/又はピッチになり、石膏製粒の表層に付着して、石膏製原型が濃色の灰色となる。炉内が200~250℃になると、III型無水石膏が水和しにくいII型無水石膏に変化していると考えられる。同時に、シアノアクリレートの一部も熱分解されていると考えられる。
【0033】
このように製造された石膏製原型1及び中子6において、中子6の上端部を蓋体12の貫通孔14の挿通し、石膏製原型の造形空間11を蓋体12で閉鎖するように固定する。石膏製原型を蓋体とともに起立させて湯口13を上方に向ける。この湯口13から銅合金の1150~1200℃の溶湯が注入されたとき、石膏製原型に含浸されたシアノアクリレートの残部が熱分解してタール及び/又はピッチになり、また一部はガス化してガス抜き孔8から外部に排出される。
【0034】
次に、
図2に基づき、
図1のA-A断面で示す石膏製原型を使用して横流し込み方法を説明する。まず、石膏製原型1の形状部3および基部2に設けられている中子6の長さを5mmにして、その先端面が周壁部9の頂面と面一になるようにする。次に、石膏製原型1と同じ厚さ及び同じ大きさの矩形板材(図示なし)を準備し、この矩形板材を図示しないベース板上に載せた状態で周囲を下枠15で囲んだあと鋳砂を詰め込む。天地逆にして、前記下枠15と同形同大の上枠16を積み重ね、下枠に充填された鋳砂の上面に離型剤を塗ったあと上枠内に鋳砂を詰め込む。この際、矩形板材の上辺部に円柱をその底面の半分が当接するように立てて湯道18を確保する。鋳砂が固まったら上型20を下型19から外して露出した矩形板材を取り除き、代わりに石膏製原型1を
図2に示す状態で入れる。更に、上型から前記円柱を除いて湯道18を確保し、その後に石膏製原型1が入った下型19に上型20を重ね、上型の湯口17から溶融状態の銅合金(溶湯温度1150~1200℃)を鋳込む。下型19と上型20との間には、造形空間11の全域(中子がある場合はその領域は除く)にわたり水平方向に延びる上部空間9が存在するので、湯道18から供給された溶融状態の銅合金は反対側へ速やかに移動して造形空間11を満たす。
【0035】
冷却後に銅合金製反転型21を中子6とともに脱型する。石膏製原型は溶融状態の銅合金がもつ熱により脆化しており、簡単に脱型することができる。脱型された銅合金製反転型21に振動を与えて中子6を崩壊し、粉末状にして取り出せば、押出しピン用の孔25が作られていることを確認できる。
【0036】
図3は、
図2の石膏製原型の造形空間11に溶融状態の銅合金を流し込んで成形された銅合金製反転型21である。この銅合金製反転型21はトイプードル形状部を形成する凹部22と断面かまぼこ型の基部を形成する凹部23とからなる造形キャビティ24を備えている。両方の凹部22,23には円柱型の押出しピン孔25が中子6により形成されている。図示しない押出しピンの先端が造形キャビティ24の成形面と面一となるように配置して、押出しピンで押出しピン孔25を塞ぎ、更に造形キャビティ24を閉鎖するように、微細な連続孔を有する耐熱性多孔質板(図示なし)を銅合金製の反転型に固定し、多孔質板に設けた湯口から造形キャビティ24に800℃のアルミニウムの溶湯を鋳込むと、
図5のアルミニウム製の目的物(アルミニウム製のペット用霊碑)31を得ることができる。銅合金の融点は1083℃前後であるから、アルミニウム溶湯の鋳込みにより反転型が熔解することはない。なお、多孔質板の上面に重りを載せてやれば、アルミニウム溶湯が銅合金製反転型21の造形キャビティ24の隅々までアルミニウムがいきわたった精度の高い目的物を得ることができる。なお、
図4の想像線で示すように、多孔質板にかえて、鋳砂で形成した上型26を用いることができる。アルミニウム溶湯の鋳込みは上型26の湯口27から行うことができる。
【0037】
また、
図4に示す銅合金製反転型の造形キャビティ24に粉状のガラス(Aスキの粉体)を山盛り状に充填して熱処理炉にいれ、800~850℃に加熱することにより、ガラスの粉が熔けて一体化した白色のガラス製目的物(ガラス製のペット用霊位)を得ることができる。この場合、山盛りにされたガラス粉に、上下方向のガイド機構を四隅に設けた耐火石膏製蓋板を載せるとともに、耐火石膏製蓋板の上面に重りを載せてやれば、ガラス粉が熔け出した際に重力方向の圧力が作用して、ガラス粉が相互に熔着するのを促進するとともに、粉間に含まれた空気を圧縮して熔けたガラスの密度が高く、銅合金製反転型21の造形キャビティ24の隅々までガラスがいきわたった精度の高いガラス製の目的物を得ることができる。ガラス粉に代えてアルミニウム粉や釉薬の粉を充填することにより、アルミニウム製の目的物や釉薬製の目的物を得ることができる。
このような技術の利用分野は、金属製反転型(金型)を作る分野である。作られた金属製反転型を用いて樹脂成形品を製造する分野、ゴム成形品を製造する分野、ジュラルミン製の航空部品に係る鋳物を製造する分野、歯科技工士の業務である冠やカスタムアバットメントを製造する分野などに利用することができる。更に、粉状のガラスやアルミニウムを用いることができるので、アルミニウム製エンジンの機械加工で廃棄される削り粉(切子)や廃蛍光灯リサイクルガラスのフリットやカレットの粉末を成形材料として使用することができる。