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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190757
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】サクソフォンの吹込管
(51)【国際特許分類】
   G10D 9/10 20200101AFI20221220BHJP
   G10D 7/08 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G10D9/10
G10D7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099166
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】591284036
【氏名又は名称】柳沢管楽器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 信成
(57)【要約】
【課題】吹奏感が良好で重厚感に富む音が発生するサクソフォンの吹込管を提供する。
【解決手段】マウスピースと2番管との間に設けられたサクソフォンの吹込管11である。マウスピースが上流側端部16aに取付けられかつ2番管が下流側端部16bに取付けられる管体16と、管体16の外周面に接合された第1および第2のネックプレート24,25とを備える。第1のネックプレート24は、管体16の下流側端部16bの近傍に接合されている。第2のネックプレート25は、第1のネックプレート24より上流側に接合されている。第1のネックプレート24と第2のネックプレート25は、管体16の外周面に倣って湾曲する形状に形成されているとともに、管体16の長手方向に予め定めた間隔をおいて互いに離間するように配置されている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスピースと2番管との間に設けられたサクソフォンの吹込管であって、
前記マウスピースが上流側端部に取付けられかつ前記2番管が下流側端部に取付けられる管体と、
前記管体の外周面であって前記下流側端部の近傍に接合された第1の金属板と、
前記外周面における前記第1の金属板より上流側に接合された第2の金属板とを備え、
前記第1の金属板と前記第2の金属板は、前記外周面に倣って湾曲する形状に形成されているとともに、前記管体の長手方向に予め定めた間隔をおいて互いに離間するように配置されていることを特徴とするサクソフォンの吹込管。
【請求項2】
請求項1記載のサクソフォンの吹込管において、
前記第1の金属板は、前記吹込管の上流側に向けて凸になる山形状に形成され、
前記第2の金属板は、前記吹込管の上流側に向けて凸になるV字状に形成されていることを特徴とするサクソフォンの吹込管。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のサクソフォンの吹込管において、
前記管体は、前記上流側端部と前記下流側端部との間に曲がり部を有し、
前記第2の金属板は、前記曲がり部の下流側半部に位置していることを特徴とするサクソフォンの吹込管。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一つに記載のサクソフォンの吹込管において、
前記管体の前記下流側端部は、前記2番管の上流端と対接するリング状の大径部を有し、
前記第1の金属板は、前記大径部に接触していることを特徴とするサクソフォンの吹込管。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一つに記載のサクソフォンの吹込管において、
前記第1の金属板と前記第2の金属板とは、同一の材料によって形成されているとともに、前記管体を形成する材料とは異なる材料によって形成されていることを特徴とするサクソフォンの吹込管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹奏感を変える部品を備えたサクソフォンの吹込管に関する。
【背景技術】
【0002】
サクソフォンの吹奏感や音は、吹込管の形状、材質等の影響を受けることが知られている。従来のサクソフォンの吹込管としては、例えば図7および図8に示すように形成されたものがある。図7に示す吹込管1は、図示していないマウスピースが接続される上流側端部2と、図示していないサクソフォンの2番管が接続される下流側端部3と、上流側端部2と下流側端部3との間に位置する曲がり部4とを有している。
曲がり部4の径方向外側(図7においては右上側)となる部分には、吹込管1の振動に影響を与えるプレート5がハンダ付けされている。このプレート5は、吹込管1の長手方向に延びるように細長く形成されており、曲がり部4から下流側端部3まで延びている。
【0003】
また、サクソフォンの音を好みの音に変えるにあたっては、例えば特許文献1に記載されているように、音を変えるための部品を吹込管2番管との締結部に取付けることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-116067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7および図8に示す従来の吹込管1は、息を吹き込んだときの抵抗感が大きく、音の響きが少なくなる傾向にあり、吹奏感や音を改善することが要請されていた。息を吹き込んだときの抵抗感が大きくなる理由は、吹込管1の振動がプレート5によって妨げられるからであると考えられる。なお、従来の吹込管1からプレート5を外して演奏したところ、音が過度に軽くなってしまい、全体的に締まりがない音になることが分かった。ここでいう「軽い音」とは、いわゆる倍音を含まないような音で、音の芯のみでその周りに響きがないような音である。なお、音を改善するにあたっては、特許文献1に記載されているような、部品数が増えるようなことは避けなければならない。
【0006】
本発明の目的は、吹奏感が改善されて重厚感に富む音が発生するサクソフォンの吹込管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した要請に応えるために発明者が行った幾多の実験の結果に基づくものである。
本発明に係るサクソフォンの吹込管は、マウスピースと2番管との間に設けられたサクソフォンの吹込管であって、前記マウスピースが上流側端部に取付けられかつ前記2番管が下流側端部に取付けられる管体と、前記管体の外周面であって前記下流側端部の近傍に接合された第1の金属板と、前記外周面における前記第1の金属板より上流側に接合された第2の金属板とを備え、前記第1の金属板と前記第2の金属板は、前記外周面に倣って湾曲する形状に形成されているとともに、前記管体の長手方向に予め定めた間隔をおいて互いに離間するように配置されているものである。
【0008】
本発明は、前記サクソフォンの吹込管において、前記第1の金属板は、前記吹込管の上流側に向けて凸になる山形状に形成され、前記第2の金属板は、前記吹込管の上流側に向けて凸になるV字状に形成されていてもよい。
【0009】
本発明は、前記サクソフォンの吹込管において、前記管体は、前記上流側端部と前記下流側端部との間に曲がり部を有し、前記第2の金属板は、前記曲がり部の下流側半部に位置していてもよい。
【0010】
本発明は、前記サクソフォンの吹込管において、前記管体の前記下流側端部は、前記2番管の上流端と対接するリング状の大径部を有し、前記第1の金属板は、前記大径部に接触していてもよい。
【0011】
本発明は、前記サクソフォンの吹込管において、前記第1の金属板と前記第2の金属板とは、同一の材料によって形成されているとともに、前記管体を形成する材料とは異なる材料によって形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吹奏感が良好で重厚感に富む音が発生するサクソフォンの吹込管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る吹込管を備えたサクソフォンの上流部を示す斜視図である。
図2図2は、本発明に係るサクソフォンの吹込管を示す斜視図である。
図3図3は、吹込管の断面図である。
図4図4は、第1の金属板と第2の金属板の平面図である。
図5図5は、吹込管の一部を示す正面図である。
図6図6は、吹込管の下流側端部の分解斜視図である。
図7図7は、従来の吹込管の斜視図である。
図8図8は、従来の吹込管の一部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサクソフォンの吹込管の一実施の形態を図1図6を参照して詳細に説明する。
図1に示す吹込管11は、サクソフォン12のマウスピース13と2番管14との間に設けられるものである。図1は、サクソフォン12の上流側の一部のみが描いてある。以下において、この吹込管11の長手方向を説明するにあたっては、吹込管11内で空気が流れる方向に基づいて、上流側あるいは下流側として行う。また、吹込管11の説明を行うにあたって、方向を示す場合は、2番管14が上下方向に延びる状態で吹込管の上流側を後側として行う。
マウスピース13は、リード15が取付けられ、吹込管11の上流側端部に取付けられている。
【0015】
吹込管11は、図2および図3に示すように、この吹込管11の上流側端部から下流側端部に延びる管体16と、この管体16の上流側端部16aを覆うコルク17と、管体16の中間部分の上部に設けられたキーポスト18と、キーポスト18に接離するキー(図示せず)を含む操作系の部品などを備えている。この実施の形態による管体16は、金属材料によって断面形状が円形となるように形成された本体21と、本体21の上流端に取付けられた口先リング22と、本体21の下流端に取付けられた筒体23とによって構成されている。
【0016】
本体21を形成する金属材料としては、例えば真鍮、銀、ブロンズブラスなどがある。本体21が真鍮やブロンズブラスによって形成される場合は、本体21の外周面がゴールドラッカーによって被覆される。本体21が銀によって形成される場合は、本体21の外周面がクリアラッカーによって被覆される。
口先リング22と筒体23は、本体21と同様に金属材料によって形成され、本体21にハンダ付けによって固着されている。口先リング22と筒体23を形成する金属材料は、本体21と同一の材料でもよいし、本体21とは異なる材料でもよい。
【0017】
筒体23は、管体16の下流側端部16bを構成するもので、図3に示すように、2番管14の上流側端部内に挿入される小径部23aと、2番管14の上流端と対接するリング状の大径部と23bを有している。本体21の下流端は、大径部23bの中に嵌合している。
管体16は、コルク17によって覆われた上流側端部16aと、筒体23からなる下流側端部16bとの間に曲がり部16cを有している。曲がり部16cは、図3に示すように、管体16の上流端から下流側に延びる直線状の上流側中心線C1と、筒体23の下流端から上流側に向けて延びる直線状の下流側中心線C2との交わる角度αが鈍角となるように形成されている。
【0018】
管体16における、曲がり部16cの前面、言い換えれば、曲がり部16cの径方向外側(図3においては右上側)に位置する筒体23の外周面であって、曲がり部16cから下流側端部16bに至る部位には、第1のネックプレート24と第2のネックプレート25とが設けられている。この実施の形態においては、第1のネックプレート24が本発明でいう「第1の金属板」に相当し、第2のネックプレート25が本発明でいう「第2の金属板」に相当する。
【0019】
第1のネックプレート24と第2のネックプレート25は、それぞれ真鍮や銀などの金属板を図4に示す初期の形状に打ち抜き、この打ち抜かれた板片を本体21の外周面に倣って湾曲する形状(図6参照)に曲げることによって形成されている。第1のネックプレート24と第2のネックプレート25の厚みは、例えば1mm程度とすることができる。この実施の形態による第1のネックプレート24と第2のネックプレート25は、同一材料であって、管体16の本体21を形成する材料とは異なる材料によって形成されている。例えば、第1および第2のネックプレート24,25をそれぞれ真鍮によって形成し、管体16の本体21を銀によって形成することができる。
【0020】
これらの第1および第2のネックプレート24,25は、本体21の所定の位置にハンダ付けによって接合されている。
第1のネックプレート24は、図2および図4(B)に示すように、吹込管11の上流側に向けて凸になる山形状に形成されている。この実施の形態による第1のネックプレート24は、湾曲した底辺24aと、底辺24aの両端に接続された二つの湾曲した辺24b,24cとを有する、二等辺三角形を呈する形状に形成されている。
【0021】
第1のネックプレート24の各辺24a~24cは、三角形が外側に向けて膨らむような形状に湾曲している。第1のネックプレート24は、図5に示すように、頂点24dが上方を指向するように管体16の下流側端部16b(筒体23)の近傍に配置されている。この実施の形態による第1のネックプレート24の底辺24aは、筒体23の大径部23bの上端面26に上側から接触している。第1のネックプレート24の底辺24aの長さは、図5に示すように管体16を正面から見た状態において、底辺24aの両端が本体21の外周面(径方向の両端)から径方向の内側に1mm~2mm程度離れるような長さである。
【0022】
第2のネックプレート25は、図2および図4(A)に示すように、吹込管11の上流側に向けて凸になるV字状に形成されている。第2のネックプレート25の二つの辺部分25a,25bは、V字の頂点25cから離れるにしたがって次第に細くなるように形成されている。また、これらの辺部分25a,25bは、それぞれV字の外側に向けて膨らむように湾曲している。辺部分25a,25bの先端と、V字の頂点25cは、それぞれ所定の曲率半径となるように丸められている。
【0023】
第2のネックプレート25の上下方向の形成幅Lは、第2のネックプレート25の左右方向の形成幅W1より狭い。また、第2のネックプレート25の左右方向の形成幅W1は、第1のネックプレート24の左右方向の形成幅W2より狭い。この実施の形態による吹込管11をアルトサクソフォンに適用する場合、第2のネックプレート25の上下方向の形成幅Lは、14mm~16mmで、好ましくは15mm程度である。また、左右方向の形成幅W1は、18mm~20mmで、好ましくは19mm程度である。このような形状、寸法に真鍮を材料として形成された第2のネックプレート25の重量は、約1gである。
【0024】
第2のネックプレート25は、図3に示すように、曲がり部16cの下流側半部であって、管体16の外周面における第1のネックプレート24より上流側に配置されている。この実施の形態による第2のネックプレート25は、V字の頂点25cが管体16の上流側中心線C1の下方近傍に位置するように位置付けられている。
また、第1のネックプレート24と第2のネックプレート25とは、管体16の長手方向に予め定めた間隔D(図5参照)をおいて互いに離間するように配置されている。第2のネックプレート25の二つの辺部分25a,25bは、基端から先端に至る全域において、間隔Dとなる略一定の間隔をおいて第1のネックプレート24から離れるような形状に形成されている。
【0025】
この実施の形態による吹込管11をアルトサクソフォンに適用する場合、間隔Dは3.5mm~4.5mmで、好ましくは4mmである。発明者が行った実験によれば、第2のネックプレート25が設けられていない場合は、音が軽くなることを防ぐことはできず、第2のネックプレート25が第1のネックプレート24に接触するような場合は、吹込管11に息を吹き込んだときに抵抗感が生じ、音が重くなることが分かった。このような試行錯誤の結果、第2のネックプレート25を4mm程度第1のネックプレート24より上に離すことにより、息を吹き込んだときの抵抗感が少なくかつ重厚感がある音が発生するという結果が得られた。
【0026】
このように、間隔Dは、吹奏感や音に大きな影響を及ぼすため、サクソフォンの構成に応じて適宜変更することが好ましい。なお、第1および第2のネックプレート24,25の各部の寸法も、上記の寸法に限定されることはなく、サクソフォンの構成に応じて適宜変更することが可能である。
【0027】
この実施の形態による吹込管11を実際に製作し、この吹込管11を使用してサクソフォンを演奏したところ、息を軽く吹き込むだけで音の芯の周囲にも響くような音が低音域から高音域までバランスよく発生することが分かった。
したがって、この実施の形態によれば、吹奏感が良好で重厚感に富む音が発生するサクソフォンの吹込管を提供することができる。
【0028】
この実施の形態による第1のネックプレート24は、吹込管11の上流側に向けて凸になる山形状に形成されている。第2のネックプレート25は、吹込管11の上流側に向けて凸になるV字状に形成されている。このため、第1および第2のネックプレート24,25を管体16に接合するときに方向や接合位置を容易に定めることができる。
【0029】
この実施の形態による管体16は、上流側端部16aと下流側端部16bとの間に曲がり部16cを有している。第2のネックプレート25は、曲がり部16cの下流側半部に位置している。このため、管体16内を上流端から下流側に向けて伝播する空気の振動が管体16の内面における第2のネックプレート25と対応する部分に当たるようになる。このため、第2のネックプレート25が空気や管体16の振動に大きな影響を及ぼすようになり、音質改善を効果的に行うことができる。
【0030】
この実施の形態による管体16の下流側端部16b(筒体23)は、2番管14の上流端と対接するリング状の大径部23bを有している。第1のネックプレート24は、大径部23bに接触している。このため、第1のネックプレート24が実質的に吹込管11から2番管14に振動を伝達する伝達物質として機能し、サクソフォンの音質向上を図ることができる。
【0031】
この実施の形態による第1のネックプレート24と第2のネックプレート25とは、同一の材料によって形成されているとともに、管体16を形成する材料とは異なる材料によって形成されている。このため、第1および第2のネックプレート24,25が管体16の振動に及ぼす影響を大きくすることが可能になる。また、第1および第2のネックプレート24,25の色が管体16の色とは異なるようになるから、第1および第2のネックプレート24,25が目立つようになってサクソフォンの外観向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0032】
11…吹込管、12…サクソフォン、13…マウスピース、14…2番管、16…管体、16a…上流側端部、16b…下流側端部、16c…曲がり部、23…筒体、23b…大径部、24…第1のネックプレート、25…第2のネックプレート、D…間隔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8