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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190761
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】音声再生装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 21/02 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
A61M21/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099171
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝司
(57)【要約】
【課題】聴取者に高いリラックス効果を与えることが可能な音声再生装置を提供する。
【解決手段】音声再生装置1は、基本振動子11、生体振動子12、算出部13、及び位相同期制御部14を備える。基本振動子11は、スピーカから出力するための環境音の生成に用いる波形(基本振動波形)を生成する。生体振動子12は、基本振動波形と振動周波数が異なる、心臓の電位変化を示す波形(生体振動波形)を擬似的に生成する。算出部13は、生成された基本振動波形及び生体振動波形を入力し、基本振動波形の瞬時位相(第1瞬時位相)と生体振動波形の瞬時位相(第2瞬時位相)とを算出する。位相同期制御部14は、算出部13で算出された第1瞬時位相と第2瞬時位相との間の位相差に基づき、基本振動子11で生成される基本振動波形の位相及び生体振動子12で生成される生体振動波形の位相を同期させるように双方向に制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカから出力するための環境音の生成に用いる波形である基本振動波形を生成する基本振動子と、
前記基本振動波形と振動周波数が異なる、心臓の電位変化を示す波形である生体振動波形を擬似的に生成する生体振動子と、
前記基本振動波形及び前記生体振動波形を入力し、前記基本振動波形の瞬時位相である第1瞬時位相と前記生体振動波形の瞬時位相である第2瞬時位相とを算出する算出部と、
前記算出部で算出された前記第1瞬時位相と前記第2瞬時位相との間の位相差に基づき、前記基本振動子で生成される前記基本振動波形の位相及び前記生体振動子で生成される前記生体振動波形の位相を同期させるように双方向に制御する位相同期制御部と、
を備えた音声再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、録音した人の心音を基に、拍数リズムと音程(ピッチ)を変更したリラックス音、並びにその作成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-135372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、録音した人の心音に基づいて拍数リズムと音程を変更しているだけであるため、その再生音が十分に高いリラックス効果を引き出せるとは言えない。よって、聴取者に高いリラックス効果を与えることが可能な音声再生装置の実現が望まれる。
【0005】
本発明の目的は、聴取者に高いリラックス効果を与えることが可能な音声再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様に係る音声再生装置は、スピーカから出力するための環境音の生成に用いる波形である基本振動波形を生成する基本振動子と、前記基本振動波形と振動周波数が異なる、心臓の電位変化を示す波形である生体振動波形を擬似的に生成する生体振動子と、前記基本振動波形及び前記生体振動波形を入力し、前記基本振動波形の瞬時位相である第1瞬時位相と前記生体振動波形の瞬時位相である第2瞬時位相とを算出する算出部と、前記算出部で算出された前記第1瞬時位相と前記第2瞬時位相との間の位相差に基づき、前記基本振動子で生成される前記基本振動波形の位相及び前記生体振動子で生成される前記生体振動波形の位相を同期させるように双方向に制御する位相同期制御部と、を備えたものとする。
【0007】
この一態様に係る音声再生装置では、スピーカから出力するための環境音の生成に用いる基本振動波形と擬似的に生成した心臓の電位変化を示す生体振動波形とを入力し、両者の瞬時位相を同期させている。よって、この一態様に係る音声再生装置によれば、環境音と聴取者の心拍とを効果的に用いて、聴取者に高いリラックス効果を与えることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、聴取者に高いリラックス効果を与えることが可能な音声再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る音声再生装置の一構成例を示すブロック図である。
図2図1の音声再生装置の具体的な制御例を説明するための図である。
図3図2の音声再生装置で用いることが可能なラグリードフィルタの一例を示すボード線図である。
図4図2の音声再生装置で用いることが可能なバンドパスフィルタの一例を示すボード線図である。
図5図2の音声再生装置で用いることが可能なバンドパスフィルタの他の例を示すボード線図である。
図6図2の音声再生装置での試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施の形態に限定するものではない。また、実施の形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。以下、図面を参照しながら実施の形態について説明する。
【0011】
<実施の形態>
図1は、本実施の形態に係る音声再生装置の一構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る音声再生装置1は、基本振動子11、生体振動子12、算出部13、及び位相同期制御部14を備えることができる。
【0012】
基本振動子11は、スピーカから出力するための環境音の生成に用いる波形である基本振動波形を生成する。生体振動子12は、基本振動波形と振動周波数が異なる、心臓の電位変化を示す波形である生体振動波形を擬似的に生成する。つまり、生体振動子12は、人の心臓の電位変化を模擬したような振動子であると言える。
【0013】
算出部13は、基本振動子11で生成された基本振動波形と生体振動子12で生成された生体振動波形とを入力し、第1瞬時位相と第2瞬時位相とを算出する。ここで、第1瞬時位相とは基本振動波形の瞬時位相を指し、第2瞬時位相とは生体振動波形の瞬時位相を指す。算出部13は、瞬時位相算出部と称することもできる。
【0014】
位相同期制御部14は、算出部13で算出された第1瞬時位相と第2瞬時位相との間の位相差(瞬時位相差)に基づき、基本振動子11で生成される基本振動波形の位相及び生体振動子12で生成される生体振動波形の位相を同期させるように双方向に制御する。
【0015】
また、音声再生装置1は、基本振動子11で生成された基本振動波形に基づき、環境音を生成するための環境音生成部15を備えることができる。音声再生装置1は、この環境音生成部15で生成された環境音を再生することができる。人の身体は基本的に1/fゆらぎのリズムを取っていることが想定されるため、この環境音は1/fゆらぎ音(以下、単にゆらぎ音)とすることが好ましく、以下、そのような例を挙げる。その場合、環境音生成部15はゆらぎ音生成部と称することもできる。実際、リラックス効果をもたらすと言われる自然の音は1/fゆらぎのようなカオス的振動であり、また、音楽よりも自然音の周期を変化させた方がリラックス効果は高い。
【0016】
ここで、環境音生成部15は、例えばピンクノイズに基本振動波形の自乗を乗算した値に基づき、ゆらぎ音を生成することができる。ピンクノイズは、1/fゆらぎをもつノイズであり、例えば、ホワイトノイズにラグリードフィルタ(Lag-lead filter:LLF)をかけて生成することができる。自然音の中でも波音は毎分12回で睡眠時の呼吸にも近いため、生成されるゆらぎ音は、例えば毎分12回程度の波音とすることができる。但し、生成されるゆらぎ音はこれに限ったものではない。
【0017】
また、音声再生装置1は、次に説明する第1モードと第2モードとの間で切り替えを行うモード切替部16を備えることが好ましい。第1モードは、生体振動子12で生成された波形を生体振動波形として算出部13に入力するモードであり、キャリブレーションモード(以下、CALモード)と称することができる。第2モードは、被験者の心臓の電位変化を計測した波形を生体振動波形として算出部13に入力するモードであり、実際に使用する際のモードであるため、実施モード又はテストモード(以下、TESTモード)と称することができる。なお、モード切替部16は、生体振動子12で生成された波形を生体振動波形として算出部13に入力する経路と、被験者の心臓の電位変化を計測した波形を生体振動波形として算出部13に入力する経路と、を切り替える入力切替部として構成することもできる。
【0018】
CALモードで動作している場合、位相同期制御部14は、上記瞬時位相差に基づき基本振動波形の位相及び生体振動波形の位相を同期させるように、基本振動波形の振動周波数及び生体振動子12における生体振動波形の振動周波数の一方又は双方を修正する。
【0019】
一方、TESTモードで動作している場合、位相同期制御部14は、上記瞬時位相差に基づき基本振動波形の位相と被験者の呼吸の変化に応じて変化する生体振動波形の位相とを同期させるように、基本振動波形の振動周波数を修正する。TESTモードでは、環境音を生成する元となる基本振動波形の振動周波数と、被験者の呼吸とを、間接的に同期させることになる。よって、TESTモードは、実際にリラックス効果をユーザである聴取者に与える際に使用される。
【0020】
また、TESTモードで動作している場合、位相同期制御部14は、上記瞬時位相差に基づき基本振動波形の位相と被験者の呼吸の変化に応じて変化する生体振動波形の位相とを同期させるように、双方の振動周波数を修正するようにすることもできる。上記双方の振動周波数とは、基本振動波形の振動周波数と、CALモード時の生体振動子12のために用意した生体振動波形の振動周波数又は被験者の心拍の生体振動波形のための設定値として用意した生体振動波形の振動周波数とを指す。
【0021】
また、上述した音声再生装置1は、その全体を制御する制御部(図示せず)を備えることができる。この制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、作業用メモリ、及び不揮発性の記憶装置などによって実現されることができる。この記憶装置にプロセッサによって実行される制御用のプログラムを格納しておき、プロセッサがそのプログラムを作業用メモリに読み出して実行することで、各構成要素11~16の機能を果たすことができる。また、この制御部は、集積回路(Integrated Circuit)を含む構成によって実現されることができる。
【0022】
次に、図2図6を参照しながら、音声再生装置1のより具体的な構成例について説明する。図2は、音声再生装置1の具体的な制御例を説明するための図である。図3は、図2の音声再生装置で用いることが可能なラグリードフィルタの一例を示すボード線図である。図4は、図2の音声再生装置で用いることが可能なバンドパスフィルタ(Band-pass filter:BPF)の一例を示すボード線図で、図5は、図2の音声再生装置で用いることが可能なバンドパスフィルタの他の例を示すボード線図である。図3図5ではいずれも、上側にゲイン線図、下側に位相線図を示している。
【0023】
図2に示すように、音声再生装置1は、ハードウェア構成としてコントローラ10を備えることができる。コントローラ10は、上述した制御部の例であり、基本振動子11、生体振動子12、算出部13、位相同期制御部14、環境音生成部15、及びモード切替部16を有することができる。これらの構成要素11~16は、例えば、制御用のプログラムとしてコントローラ10に実装することができる。コントローラ10は、位相同期制御をリアルタイムに実行できるように、各構成要素11~16を構成しておく。
【0024】
また、コントローラ10は、図示しないが、心電センサからの信号を入力するインタフェースと、ヘッドフォン又は設置型スピーカ等のスピーカ(又はそのスピーカに接続されたアンプ)に接続するインタフェースと、を有することができる。
【0025】
上記の心電センサは、被験者の心電位を計測するセンサ、つまり心電計であり、心電図(ECG:Electrocardiogram)を描画可能なデータを出力すると言える。上記のスピーカは、リラックス効果を得られるゆらぎ音等の環境音を人に聴かせるためのスピーカである。なお、上記のアンプを介してスピーカとインタフェースとを接続する場合、上記のアンプは歪みがほぼないものとしておくことで、環境音生成部15で生成された環境音と同程度のリラックス効果を有する音をスピーカから出力することが可能となる。
【0026】
基本振動子11の振動周波数の修正は、基本振動子11の位相θの時間微分である角周波数dθ/dtの修正で実行することができる。角周波数dθ/dtは、基本角周波数ωと後述の変数uとの合計で表されることができ、基本振動子11の出力値(変位に対応)yは、α、βを定数として、αcos(θ+β)で表されることができる。基本振動子11は、環境音生成部15及び算出部13に出力値yを出力する。変数uは位相同期制御部14からフィードバックされる値とすることができる。
【0027】
環境音生成部15は、出力値yを入力し、その自乗にピンクノイズpを掛け合わせた信号Sをヘッドフォン等のスピーカに出力し、聴取者に聴取させることができる。ここで、ピンクノイズは自然現象を表す1/fゆらぎをもつ。ピンクノイズpは、ホワイトノイズwに、例えば図3で示すようなラグリードフィルタLLF(s)をかけた信号とすることができる。このように、ピンクノイズpはラグリードフィルタでホワイトノイズwから生成することができ、環境音はこのピンクノイズpと基本振動子11のパワー(自乗)との積で生成することができる。
【0028】
また、生体振動子12の振動周波数の修正は、生体振動子12の位相θの時間微分である角周波数dθ/dtの修正で実行することができる。角周波数dθ/dtは、基本角周波数ωと後述の変数uとの合計で表されることができ、生体振動子12の出力値(変位に対応)yは、α、βを定数として、αcos(θ+β)で表されることができる。生体振動子12は、算出部13に出力値yを出力する。変数uは位相同期制御部14からフィードバックされる値とすることができる。
【0029】
算出部13は、基本振動子11の第1瞬時位相θ1e及び生体振動子12の第2瞬時位相θ2eを算出する。第1瞬時位相θ1eは、基本振動子11から入力された出力値yに、例えば図4で示すようなバンドパスフィルタBPF(s)をかけたものをヒルベルト変換して得る(推定する)ことができる。
【0030】
第2瞬時位相θ2eは、生体振動子12から入力された出力値yに、例えば図5で示すようなバンドパスフィルタBPF(s)をかけたものを調整した後、ヒルベルト変換して得る(推定する)ことができる。この調整は、基本振動子11と生体振動子12の基本周波数の違いの調整であり、分周比からなる係数ω/ωをかけることで実施している。ここで、BPF(s)、BPF(s)はいずれも、ヒルベルト変換前に振動主成分を求めるために用いられる。
【0031】
BPF(s)及びBPF(s)で例示したように、算出部13は、基本振動波形を通過させる第1バンドパスフィルタと、生体振動波形を通過させる第2バンドパスフィルタと、を有することができる。この場合、上述したように算出部13は次のような算出を行うことができる。即ち、算出部13は、第1バンドパスフィルタを通過させた後の基本振動波形をヒルベルト変換した値に基づき第1瞬時位相θ1eを算出し、第2バンドパスフィルタを通過させた後の生体振動波形をヒルベルト変換した値に基づき第2瞬時位相θ2eを算出する。
【0032】
また、基本周波数の違いの調整について例示したように、算出部13は、角周波数ωと角周波数ωとの比に基づき第2瞬時位相θ2eを算出することができる。換言すれば、算出部13は、基本振動子11の振動周波数(ωに依存)と生体振動子12の振動周波数(ωに依存)とに基づき、第2瞬時位相θ2eを算出することができる。また、算出部13での計算式を変更することで、算出部13は、基本振動子11の振動周波数と生体振動子12の振動周波数とに基づき、第1瞬時位相θ1e或いは第1瞬時位相θ1e及び第2瞬時位相θ2eを算出することもできる。
【0033】
位相同期制御部14は、k,kを係数として、変数u,uを下式で求め、それぞれ基本振動子11、生体振動子12に出力することで、第1瞬時位相θ1eと第2瞬時位相θ2eとの間の差(瞬時位相差)が一定になるように制御する。
=ksin(θ2e-θ1e
=ksin(θ1e-θ2e
【0034】
以上のように、コントローラ10では、基本振動子11の第1瞬時位相θ1eと生体振動子12の第2瞬時位相θ2eとの瞬時位相差が一定になるように、つまり双方の位相が同期するように制御されている。また、変数u,uを用いた基本振動子11の基本振動波形及び生体振動子12の生体振動波形に対するフィードバック制御は、上式の例からも分かるように双方向の制御を含むと言える。ここで、上記双方向の制御は、生体振動波形に基づく(上述の例では第2瞬時位相θ2eに基づく)基本振動波形の制御と、基本振動波形に基づく(上述の例では第1瞬時位相θ1eに基づく)生体振動波形の制御と、を指すことができる。
【0035】
但し、生体振動子12はCALモードでのみ使用され、実際にリラックス効果を聴取者に与えるために使用するTESTモードでは心電センサの計測値が生体振動子12の出力(出力値y)に置き換えられて使用されることができる。つまり、BPF(s)で例示した第2バンドパスフィルタを通過させる対象の生体振動波形は、CALモードでは生体振動子12からの出力(計算で得られる出力)とし、TESTモードでは心電センサによる直接の計測値とすることができる。
【0036】
CALモードでは、同期機能をキャリブレーションすることができる。例えば、CALモードでは、今後使う聴取者用のω,ω(及び係数k,k等の係数群)を設定して同期させる。そのため、音声再生装置1は、基本振動子11の振動周波数を設定する第1設定部を備えることができる。上述したように、この振動周波数は、その非変動分(上述の例ではω)が設定されることで設定されることもできる。また、音声再生装置1は、生体振動子12の振動周波数を設定する第2設定部を備えることができる。上述したように、この振動周波数は、その非変動分(上述の例ではω)が設定されることで設定されることもできる。
【0037】
CALモードでは、上述したような瞬時位相に基づく位相同期(振動周波数比を考慮した瞬時位相に基づく位相同期)を行うことで、1:1の周波数比以外の周波数比であっても位相同期を行うことが可能になる。よって、例えば、ωを聴取者の安静に近い拍動(例えば周波数72回/分に対応)に設定し、同期させやすいようにωの約数の中からωを選択して設定し、同期機能が上手く機能するかを確かめることができる。
【0038】
TESTモードにおいて、算出部13は、基本振動子11で生成された基本振動波形及び入力部からの生体振動波形を入力し、基本振動波形の第1瞬時位相と生体振動波形の第2瞬時位相とを算出することになる。ここで、上記入力部は、心臓の拍動を計測又は推定した生体振動波形を入力する入力部であり、上述の例では心電センサとの間のインタフェースで構成することができる。
【0039】
TESTモードにおける位相同期制御部14は、算出部13で算出された第1瞬時位相と第2瞬時位相との間の位相差に基づき、基本振動子11で生成される基本振動波形の位相及び入力部から入力される生体振動波形の位相を両方向から同期させる制御を行う。これにより、基本振動子11で生成される基本振動波形の位相と、聴取者の呼吸を介して間接的に制御された生体振動波形の位相とを同期させるように双方向に制御することができる。
【0040】
具体的に説明すると、TESTモードにおいては、CALモードで同期できた際に設定した値を使用することができる。そして、生体振動子12で生成される生体振動波形の代わりに心電センサの計測値(心電位)を入力として用い、CALモード時と同様にヒルベルト変換で算出した瞬時位相差を三角関数で双方向に制御することで同期を引き起こすことができる。
【0041】
ここで双方向に制御するとは、基本振動子11による基本振動波形と上記計測値の振動波形である生体振動波形とを両方向から制御することを指す。後者から前者は、心拍を計測した心電センサの計測値が算出部13に入力され、算出部13で算出された第2瞬時位相θ2eが位相同期制御部14に入力され、それによってuが変化するような制御であるため、直接的な制御であると言える。
【0042】
一方で、前者から後者の制御は、基本振動波形に基づきゆらぎ音がスピーカから再生され、聴取者がそのゆらぎ音に呼吸を合わせることで、間接的に心拍を変動させる(心電センサの計測値を制御する)ものであり、呼吸を介した間接的な制御であると言える。心電センサの計測値は不随意であるが、呼吸自体は聴取者が随意に変えること(直接制御すること)ができるため、呼吸を介した間接的な制御を行えばよい。
【0043】
そして、TESTモード時においても、上述したような瞬時位相に基づく位相同期(周波数比を考慮した瞬時位相に基づく位相同期)を行うことで、1:1の周波数比以外の周波数比でも位相同期が可能になる。これにより、聴取者においてリラックス効果を引き出すこと、つまり聴取者に対してリラックス効果を与えることができる。
【0044】
次に図6を参照しながら、図2の音声再生装置1での試験結果について説明する。図6は、図2の音声再生装置1での試験結果を示す図である。試験は、上述した双方向制御を図6の最も右下の模式図において示したように、心拍が環境音に作用するような制御と環境音が呼吸に作用して呼吸が心拍に作用するような制御とが含まれることになる。
【0045】
試験は、準備期間後(0~50sec)、同期制御有り(50~100sec)、同期制御無し(100~150sec)で実施した。この試験における被験者である聴取者は被験者)は健常者とした。また、試験は、CALモードにおいて毎分72回の拍動及びゆらぎ音としての毎分12回の波音を設定して同期させた状態で、聴取者を椅子に座らせ、座位でヘッドフォンからその波音を聴取させ、実施した。聴取者には波音を聴かせると、聴取者はその波音に自然と呼吸を合わせるようになり、これにより同期を発生させた。
【0046】
この試験の結果、心電位、心拍数、心電位のBPF(s)通過値z、基本振動子11による基本振動波形のBPF2(s)通過値zは、それぞれ図6に示すようになった。また、図6には、相対瞬時位相(θ1e-θ2e)とともに心電位をスペクトル解析して低周波変動成分(LF:Low Frequency)及び高周波変動成分(HF:High Frequency)を得て、LF-HFを算出した結果も示している。ここで、LFが優位であると交換神経が活性化している(緊張状態にある)と評価でき、HFが優位であると副交感神経が活性化している(リラックス状態にある)と評価できる。
【0047】
この試験の結果、図6で示すように、同期制御有りの期間(四角で囲んだ区間)では、相対瞬時位相がほぼ一定になり(同期でき)、HF優位(LF-HF<0)となってリラックス効果が得られていることが確認できた。
【0048】
以上に説明したように、本実施の形態に係る音声再生装置1では、スピーカから出力するための環境音の生成に用いる基本振動波形と擬似的に生成した心臓の電位変化を示す生体振動波形とを入力し、両者の瞬時位相を両方向から同期させている。そして、音声再生装置1では、TESTモードで例示したように、実際に聴取者に環境音を聴取させて環境音と心電位とを入力し、両者の瞬時位相を両方向から同期させている。このような両方向からの制御(双方向制御)により、環境音と生体(心拍)との相互作用を上げることができ、その結果として、リラックス効果(自律神経系のリラックス効果等)を高めること、つまり自律神経系を改善させることができる。
【0049】
また、音声再生装置1は、上記TESTモードを実装しない形態においても、例えば、聴取者の心拍の特徴等を考慮した設定の中からCALモードで同期可能な設定を選択しておくことができる。よって、音声再生装置1では、上記TESTモードを実装しない形態においても、このような同期可能な設定を実施しておけば、そのような設定に基づく環境音を聴取者に聴取させてその聴取者が呼吸を環境音に合わせるだけで効果は得られる。即ち、この場合でも、環境音と擬似的な心電位との位相が両方向から同期でき(環境音と心拍との位相が両方向から擬似的に同期でき)、結果として聴取者に対して高いリラックス効果を与えることが可能となる。
【0050】
以上のように、音声再生装置1によれば、環境音と聴取者の心拍とを位相同期させるようにそれらを効果的に用いて、聴取者に高いリラックス効果を与えることが可能になる。
【0051】
(代替例)
上述した実施の形態に係る音声再生装置は、上述した構成例に限らず、また上述した制御例を実行する構成に限らず、各部の機能が果たせればよい。
【0052】
例えば、上述した実施の形態では心臓の拍動を心電位(ECGデータ)から観測した例を挙げたが、これに限ったものではなく、脈波センサ、心音センサ、肌画像センサなどを用いて心臓の拍動を計測又は推定することもできる。なお、いずれの例においても、その計測又は推定の結果をTESTモード時に生体振動子12の出力に置き換えることになる。
【0053】
また、音声再生装置1は、例えば、タブレット(タブレット端末)、スマートフォン等の携帯電話機、スマートウォッチ等のウェアラブルデバイス、その他、汎用PC(Personal Computer)などに搭載することができる。
【0054】
また、音声再生装置1は、生体振動子12やCALモードを備えないようにすることもできる。つまり、TESTモード時の制御として説明したように、音声再生装置1は、基本振動子11と、算出部13と、位相同期制御部14と、環境音生成部15と、心臓の拍動を計測又は推定した生体振動波形を入力する入力部と、を備えるように構成することもできる。この構成例(代替構成例)の場合、上述した生体振動子12に関連して説明した各種値(ω等)は、予め設定しておくこと、或いは様々な値のセットを試して被験者にとってリラックス効果が高いセットを選択するようにすることができる。
【0055】
上記代替構成例における算出部13は、基本振動子11で生成された基本振動波形及び入力部からの生体振動波形を入力し、基本振動波形の第1瞬時位相と生体振動波形の第2瞬時位相とを算出することになる。上記代替構成例における位相同期制御部14は、算出部13で算出された第1瞬時位相と第2瞬時位相との間の位相差に基づき、基本振動子11で生成される基本振動波形の位相及び入力部から入力される生体振動波形の位相を同期させるように双方向に制御する。
【0056】
なお、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)を含む。さらに、この例は、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリを含む。この半導体メモリとしては、例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory)などが挙げられる。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【符号の説明】
【0057】
1 音声再生装置
10 コントローラ
11 基本振動子
12 生体振動子
13 算出部
14 位相同期制御部
15 環境音生成部
16 モード切替部
図1
図2
図3
図4
図5
図6