(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190784
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及び印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/32 20140101AFI20221220BHJP
D06P 5/28 20060101ALI20221220BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221220BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09D11/32
D06P5/28
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 114
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099223
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】服部 周悟
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC02
2H186AB13
2H186AB15
2H186DA07
2H186FB10
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB53
4H157BA12
4H157DA01
4H157DA17
4H157FA46
4H157GA05
4H157GA06
4H157HA18
4H157JA10
4H157JA14
4H157JB02
4J039BE02
4J039BE12
4J039EA35
4J039EA48
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】耐光性が良好な画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】 イエロー染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上と、ブルー染料として、下記式(I)で表される化合物と、有機溶剤と、水と、を含む、インクジェットインク組成物。
【化1】
(式(I)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上18以下のアルキル基を表し、前記アルキル基は分岐していてもよい。Xは、酸素原子又はイミノ基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエロー染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上と、
ブルー染料として、下記式(I)で表される化合物と、
有機溶剤と、
水と、
を含む、インクジェットインク組成物。
【化1】
(式(I)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上18以下のアルキル基を表し、前記アルキル基は分岐していてもよい。Xは、酸素原子又はイミノ基を表す。)
【請求項2】
請求項1において、
前記イエロー染料の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して0.2質量%以上15.0質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記ブルー染料の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して0.2質量%以上15.0質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記イエロー染料の含有量(Y)及びブルー染料の含有量(B)の比(Y:B)が、1:3~3:1である、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
レッド染料を含まない、インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記有機溶剤の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して5.0質量%以上50.0質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記水の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して40.0質量%以上90.0質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物を、転写紙の記録面にインクジェット法により付着させ、前記記録面と記録媒体とを対向させて加熱することにより熱転写することを含む、印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及び印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法を用いて、布帛等を染色(捺染)することが行われている。従来、布帛(織布や不織布)に対する捺染方法としては、スクリーン捺染法、ローラー捺染法等が用いられてきたが、多種少量生産性並びに即時プリント性等の観点では、インクジェット記録方法を適用することが有利である。
【0003】
捺染の一態様として、昇華性染料を用いた転写型の捺染方法がある。かかる捺染方法は、捺染対象の媒体(布帛等)に直接にはインク組成物を付着させない。すなわち転写元となる他の媒体(紙等)へインク組成物を付着させた後、当該他の媒体から捺染対象の媒体へと染料を転写する。
【0004】
例えば、特許文献1には、イエロー染料であるC.I.ディスパースイエロー82と、C.I.ディスパースブルー60及びC.I.ディスパースブルー360から選択されるブルー染料とを含むインクジェットインクが開示され、鮮やかなグリーンの色味の転写物が得られる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のインクでは、得られる画像の耐光性は、必ずしも良好とは言えなかった。画像の耐光性が不十分であると、画像を光に暴露した場合に退色や変色を生じることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
イエロー染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上と、
ブルー染料として、下記式(I)で表される化合物と、
有機溶剤と、
水と、
を含む。
【0008】
【化1】
(式(I)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上18以下のアルキル基を表し、前記アルキル基は分岐していてもよい。Xは、酸素原子又はイミノ基を表す。)
【0009】
本発明に係る印刷物の製造方法の一態様は、
上述のインクジェットインク組成物を、転写紙の記録面にインクジェット法により付着させ、前記記録面と記録媒体とを対向させて加熱することにより熱転写することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0011】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを表し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを表す。
【0012】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態のインクジェットインク組成物は、イエロー染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上と、ブルー染料として、後述の式(I)で表される化合物と、有機溶剤と、水と、を含む。
【0013】
1.1.イエロー染料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、イエロー染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上を含む。インクジェットインク組成物が、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82の少なくとも1種を含むことにより、布帛等に耐光性、発色性の良好な画像を形成できる。
【0014】
C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82のインクジェットインク組成物全量に対する合計の含有量は、0.2質量%以上15.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以上15.0質量%未満、より好ましくは0.5質量%以上14.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以上12.0質量%以下である。C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82のインクジェットインク組成物全量に対する合計の含有量がこの範囲であれば、布帛等を耐光性の良好なグリーンに染色しやすい。また、これらの染料は、分散安定性が比較的良好であるので、インクジェットインク組成物の分散安定性も確保することができる。
【0015】
1.2.ブルー染料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、ブルー染料として、下記式(I)で表される化合物を含む。インクジェットインク組成物は、下記式(I)で表される化合物を含むことにより、布帛等に耐光性、発色性の良好な画像を形成できる。
【0016】
【化2】
(式(I)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上18以下のアルキル基を表し、前記アルキル基は分岐していてもよい。Xは、酸素原子又はイミノ基を表す。)
【0017】
ここで、式(I)中、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1以上15以下のアルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1以上10以下のアルキル基であることがよりさらに好ましい。
【0018】
インクジェットインク組成物には、式(I)で表される化合物の複数種が含有されてもよい。式(I)で表される化合物のインクジェットインク組成物全量に対する合計の含有量は、0.2質量%以上15.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以上15.0質量%未満、より好ましくは0.5質量%以上14.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以上12.0質量%以下である。式(I)で表される化合物のインクジェットインク組成物全量に対する合計の含有量がこの範囲であれば、布帛等を耐光性の良好なグリーンに染色しやすい。また、式(I)で表される化合物は、分散安定性が比較的良好であるので、インクジェットインク組成物の分散安定性も確保することができる。
【0019】
1.3.有機溶剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、有機溶剤を含む。インクジェットインク組成物が有機溶剤を含むことにより、インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性を優れたものとしつつ、長期放置時による記録ヘッドからの水分蒸発を効果的に抑制することができる。また、有機溶剤は、保湿剤として機能してもよい。
【0020】
有機溶剤としては、例えば、ポリオール化合物、グリコールエーテル等が挙げられる。
【0021】
ポリオール化合物としては、例えば、分子内の炭素数が2以上6以下であり、かつ、分子内にエーテル結合を1つ有してもよいポリオール化合物、好ましくはジオール化合物等が挙げられる。具体例としては、1,2-ペンタンジオール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール、3-(3-メチルフェノキシ)-1,2-プロパンジオール、3-ヘキシルオキシ-1,2-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-フェノキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等のグリコール類が挙げられる。
【0022】
グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテルが挙げられる。モノアルキルエーテルの中でも、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0023】
有機溶剤は、複数種を混合して用いてもよい。また、有機溶剤の含有量は、インクジェットインク組成物の粘度調整、保湿効果による目詰まり低減の観点から、インクジェットインク組成物の全質量に対して、0.2質量%以上70.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上60.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以上50.0質量%以下であることがさらに好ましく、10.0質量%以上40.0質量%以下であることがよりさらに好ましい。有機溶剤の含有量を上記範囲とすれば、インクジェットインク組成物の粘度をインクジェット法により適したものに調整しやすく、保湿効果も得られることから、例えば吐出ノズルの目詰まりを低減できる。
【0024】
1.4.水
本実施形態のインクジェットインク組成物は、水を含む。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0025】
水の含有量は、インクジェットインク組成物の全量に対して、40.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以上85.0質量%以下であることがより好ましい。水の含有量がこの範囲であると、インクジェットインク組成物の粘度をインクジェット法により適したものに調整しやすい。
【0026】
1.5.イエロー染料及びブルー染料の含有比
上述したイエロー染料及びブルー染料の含有量の比率には、より適した範囲が存在する。すなわち、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上の合計の含有量(Y)、及び、式(I)で表される化合物の合計の含有量(B)の質量基準の比(Y:B)は、1:3~3:1であることがより好ましい。また。比(Y:B)は、さらに好ましくは1:2~3:1であり、特に好ましくは1:1である。比(Y:B)がこのような範囲であると、耐光性がさらに良好かつ、よりグリーンに近い色相の画像を形成しやすい。
【0027】
1.6.その他の成分
1.6.1.その他の染料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上、並びに、式(I)で表される化合物のみを含んでもよいが、布帛等において得られる色相を調節する等の目的で、その他の染料を含んでもよい。
【0028】
その他の染料としては、特に限定されず、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82以外のイエロー染料、C.I.Disperse Blue 60、C.I.Disperse Blue 359、及び、式(I)で表される化合物以外のブルー染料、オレンジ染料、レッド染料、バイオレット染料、グリーン染料、ブラウン染料、ブラック染料等を挙げることができる。なおこれらの染料は、昇華型染料であることが好ましい。
【0029】
C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82以外のイエロー染料としては、例えば、C.I.Disperse Yellow 1、3、4、5、7、8、9、13、16、23、24、30、31、33、34、39、41、42、44、49、50、51、56、58、60、61、63、64、66、68、71、74、76、77、78、79、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、108、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、153、160、162、163、164、165、179、180、182、183、184、186、192、198、199、201、202、204、210、211、215、216、218、224、227、231、232、233、245、C.I.Solvent Yellow 2、6、14、16、21、25、29、30、33、51、56、77、80、88、89、93、112、113、114、116、136、150、155、157、163、176、179、199等が挙げられる。
【0030】
C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82以外のイエロー染料は複数種を用いてもよく、その合計の含有量は、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82の合計の含有量が0.2質量%以上15.0質量%以下となる範囲であれば任意である。
【0031】
ただし、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82以外のイエロー染料は、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82の含有量に比較して、少ないほうが耐光性の点で好ましい。例えば、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82以外のイエロー染料は、色相を微調整する程度に含有されることが好ましい。また、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、及び、C.I.Disperse Yellow 82以外のイエロー染料を用いても、十分な発色性を有する画像を形成することができる。
【0032】
式(I)で表される化合物以外のブルー染料としては、例えば、C.I.Disperse Blue 3、5、6、7、9、14、16、19、20、24、26、26:1、27、35、43、44、52、54、55、56、58、60、61、62、64、64:1、71、72、72:1、73、75、77、77:1、79、81、81:1、82、83、85、87、88、90、91、93、94、95、96、99、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、131、139、141、142、143、145、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、241、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、354、359、360、367、C.I.Solvent Blue 2、11、14、24、25、35、36、38、48、55、59、63、67、68、70、73、83、105、111、132等が挙げられる。
【0033】
式(I)で表される化合物以外のブルー染料は複数種を用いてもよく、その合計の含有量は、式(I)で表される化合物以外のブルー染料の合計の含有量が0.2質量%以上15.0質量%以下となる範囲であれば任意である。
【0034】
ただし、式(I)で表される化合物以外のブルー染料は、式(I)で表される化合物以外のブルー染料の含有量に比較して、少ないほうが耐光性の点で好ましい。例えば、式(I)で表される化合物以外のブルー染料は、色相を微調整する程度に含有されることが好ましい。また、式(I)で表される化合物以外のブルー染料を用いても、十分な発色性を有する画像を形成することができる。
【0035】
なお、インクジェットインク組成物において、種類を問わないイエロー染料の含有量(Y’)及び種類を問わないブルー染料の含有量(B’)においても、その比(Y’:B’)は、1:3~3:1であることがより好ましい。また。比(Y’:B’)は、さらに好ましくは1:2~3:1であり、特に好ましくは1:1である。比(Y’:B’)がこのような範囲であると、耐光性がさらに良好かつ、よりグリーンに近い色相の画像を形成しやすい。
【0036】
オレンジ染料としては、例えば、C.I.Disperse Orange 1、1:1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、25:1、29、30、31、32、33、37、38、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142、C.I.Solvent Orange 1、2、14、45、60等が挙げられる。
【0037】
レッド染料としては、例えば、C.I.Disperse Red 1、4、5、6、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、55:1、56、58、59、60、65、70、72、73、74、75、76、78、81、82、83、84、86、86:1、88、90、91、92、93、96、97、99、100、101、103、104、105、106、107、108、110、111、113、116、117、118、121、122、125、126、127、128、129、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、158、159、164、167、167:1、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、190:1、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、298、302、303、310、311、312、320、324、328、C.I.Solvent Red 1、3、7、8、9、18、19、23、24、25、27、49、100、109、121、122、125、127、130、132、135、218、225、230等が挙げられる。
【0038】
なお、レッド染料は、インクジェットインク組成物に含まれてもよいが、含まれないほうがより好ましい。レッド染料は、上述のイエロー染料及びブルー染料と組み合わされることにより、いわゆるコンポジットブラックとなり得る。したがって、得られる画像の彩度を高くする点で、レッド染料はインクジェットインク組成物に含まれないほうが好ましい。
【0039】
バイオレット染料としては、例えば、C.I.Disperse Violet 1、4、8、10、17、18、23、24、26、27、28、29、30、31、33、35、36、37、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77、C.I.Solvent Violet 13等が挙げられる。
【0040】
グリーン染料としては、例えば、C.I.Disperse Green 9、C.I.Solvent Green 3等が挙げられる。
【0041】
ブラウン染料としては、例えば、C.I.Disperse Brown 1、2、4、9、13、19、C.I.ソルベントブラウン3、5等が挙げられる。
【0042】
ブラック染料としては、例えば、C.I.Disperse Black 1、2、3、10、24、26、27、28、30、31、C.I.Solvent Black 3、5、7、23、27、28、29、34等が挙げられる。
【0043】
上記例示した昇華型染料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
ここで「昇華型染料」とは、加熱により昇華する性質を有する染料である。かかる染料は、昇華転写を利用した布帛等に対する染色、すなわち捺染に好適である。昇華型染料は、ポリエステル、ナイロン、アセテート等の疎水性合成繊維の染着に好適に用いられる。昇華型染料は、水に不溶又は難溶の化合物であり、加熱により昇華する性質を有する。なお、本明細書では、分散染料や油溶性染料等の分類にかかわらず、昇華性を有する染料を昇華型染料というものとする。
【0045】
このような昇華転写を利用した捺染方法としては、例えば、転写元である紙等のシート状の中間転写媒体に昇華型染料を含むインクを用いてインクジェット法による印刷を行った後、布帛等の記録媒体に中間転写媒体を重ねて、加熱により昇華転写する方法がある。その他の方法としては、フィルム製品等の剥離可能なインク受容層が設けられた記録媒体のインク受容層に昇華転写用インクを用いてインクジェット法による印刷を行い、その後、そのまま加熱して下層側の記録媒体に昇華拡散染色を行い、さらにその後、インク受容層を剥離する方法等がある。
【0046】
上記例示した昇華型染料は、いずれも水に不溶又は難溶の化合物であるが、例えば、後述する分散剤によって、特定の濃度範囲であれば水に対して良好に分散させることができる。なお、油溶性染料の場合には乳化ともいう。また、上記例示した昇華型染料は、それぞれ分散性において若干の差異がある。すなわち、昇華型染料の種類によっては、分散剤の好適な濃度範囲が異なるし、分散剤の種類によって分散性も異なることがある。
【0047】
インクジェットインク組成物における染料の合計の含有量は、インクジェットインク組成物100質量%に対して、0.4質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上25.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以上23.0質量%以下であることがさらに好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下であることがよりさらに好ましい。インクジェットインク組成物における染料の含有量がこの範囲であれば、得られる転写物の発色性、すなわちOD値の高い画像を十分に形成することができる。
【0048】
1.6.2.分散剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、分散剤を含んでもよい。分散剤は、上述の染料をインクジェットインク組成物中で安定に分散させる機能を有している。分散剤としては、特に限定されないが、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、高分子分散剤が挙げられる。以下に例示する分散剤の中でも、インクジェットインク組成物の分散安定性により優れるという点ではアニオン系分散剤を用いることがより好ましい。
【0049】
アニオン系分散剤としては、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物が好ましく挙げられる。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物における「芳香族スルホン酸」としては、例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β-ナフトールスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルナフタレンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸とβ-ナフトールスルホン酸との混合物、クレゾールスルホン酸と2-ナフトール-6-スルホン酸との混合物、リグニンスルホン酸等が挙げられる。
【0050】
また、アニオン系分散剤としては、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、及び、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物が好ましい。これらの中でもβ-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物が特に好ましい。
【0051】
ノニオン系分散剤としては、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0052】
また、高分子分散剤としては、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリル酸塩、スチレン-アクリル酸共重合物、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合物等が挙げられる。
【0053】
分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。分散剤の合計の含有量は、インクジェットインク組成物100質量%に対して、0.1質量%以上30.0質量%以下、好ましくは0.4質量%以上30.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上25.0質量%以下、さらに好ましくは10.0質量%以上23.0質量%以下、ことさら好ましくは15.0質量%以上20.0質量%以下である。分散剤の含有量が0.1質量%以上であることにより、染料の分散安定性を確保することができる。また、分散剤の含有量が30.0質量%以下であれば、染料を溶解させすぎることがなく、かつ、粘度を小さく抑えることができる。
【0054】
1.6.3.その他の成分
(界面活性剤)
インクジェットインク組成物は界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、表面張力を調整する機能を有する。界面活性剤としては、水溶解時に表面張力を低下させインクの印刷用基材や吐出流路に対する濡れ性を調整するために用いられ、低表面張力性の水溶性溶剤系界面活性剤及び界面活性剤系界面活性剤から選ばれる。
【0055】
水溶性溶剤系界面活性剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、ブチレングリコール、1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル類が挙げられる。
【0056】
界面活性剤系界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤から適宜選択できる。またこれらのうち界面活性が高く気泡性の少ないアセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
【0057】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、市販品としては特に限定されないが、例えば、日信化学工業株式会社製、オルフィンE1004、E1010、E1020、PD-001、PD-002W、PD-004、PD-005、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300、サーフィノール440、465、485、CT111、C
T121、TG、GA、ダイノール604、607、川研ファインケミカル株式会社製、アセチレノールE40、E60、E100、等が挙げられる。
【0058】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、信越化学株式会社製、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、日信化学工業株式会社製、シルフェイスSAG002、005、503A、008等が挙げられる。
【0059】
界面活性剤の配合量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、0.01質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
(pH調整剤)
インクジェットインク組成物はpH調整剤を含有してもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み合わせが挙げられる。そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸等、無機塩基として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられ、有機塩基として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)等が挙げられ、有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。さらに、これらのうち、pH調整剤の一部又は全部として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミン、及び、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸等のカルボキシル基含有有機酸、が含まれることが、pH緩衝効果をより安定に得ることができるため好ましい。
【0061】
(保湿剤)
インクジェットインク組成物は保湿剤を含有してもよい。保湿剤としては、一般にインクジェットインク組成物に用いられるものであれば特に限定されず使用可能である。
【0062】
有機溶剤としても機能する保湿剤の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、メソエリスリトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のポリオール類が挙げられる。また、他の保湿剤の具体例としては、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ヒドロキシエチルピロリドン等のラクタム類、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3-ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素誘導体、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類及びこれらの糖類の誘導体、グリシン、トリメチルグリシンのベタイン類等が挙げられる。
【0063】
糖類とは単糖類、二糖類、三糖類及び四糖類を含むオリゴ糖類及び多糖類をいうものとする。糖類としては、例えば、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、イソトレハロース、ゲンチオビオース、メリビオース、ツラノース、ソホロース、イソサッカロース、グルカン、フルクタン、マンナン、キシラン、ガラクツロナン、マンヌロナン、N-アセチルグルコサミン重合体等のホモグリカン、ジヘテログリカン、トリへテログリカン等のヘテログリカン、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、マルトテトラオース、マルトペンタオース等が挙げられる。
【0064】
本実施形態において、インクジェットインク組成物が保湿剤を含有する場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、0.2質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
(キレート化剤)
インクジェットインク組成物は、キレート化剤を含有していてもよい。キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類等が挙げられる。塩類としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩、又は、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、若しくはメタリン酸塩等が挙げられる。
【0066】
(防腐剤、防かび剤)
インクジェットインク組成物には、必要に応じて防腐剤、防かび剤を使用してもよい。防腐剤、防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-3-メチルフェノール等が挙げられる。
【0067】
(その他)
さらに上記以外の成分として、インクジェットインク組成物は、例えば、防錆剤、酸化抑制剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、溶解助剤など、インクジェット用のインク組成物において通常用いることができる添加剤を必要に応じて含有していてもよい。
【0068】
1.7.インクジェットインク組成物の物性及び製造
インクジェットインク組成物の25.0℃における表面張力は、10.0mN/m以上40.0mN/mであることが好ましく、25.0mN/m以上40.0mN/m以下であることがより好ましい。表面張力は、協和界面科学株式会社製、自動表面張力計CBVP-Zを用いて、25.0℃の環境下で白金プレートを組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0069】
インクジェットインク組成物の20.0℃における粘度は、1.5mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、2.0mPa・s以上8.0mPa・s以下であることがより好ましい。表面張力及び粘度を前記範囲内とするには、例えば、上述した有機溶剤や界面活性剤の種類、及びこれらと水の添加量等を適宜調整すればよい。なお、粘度は、株式会社アントンパール・ジャパン製、粘弾性試験機MCR-300を用いて、20.0℃の環境下で、Shear Rateを10から1000に上げていき、Shear Rateが200のときの粘度を読み取ることにより測定することができる。
【0070】
インクジェットインク組成物は、pHが5.8以上10.5以下であることが好ましく、6.0以上10.0以下であることがより好ましい。インクジェットインク組成物のpHがこの範囲であれば、例えば、記録ヘッドやインクジェット記録装置の部材の腐食を抑制することができる。
【0071】
インクジェットインク組成物は、上記した各成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。また、染料はあらかじめ分散剤によって分散された分散体の態様で配合されても構わない。
【0072】
1.8.作用効果
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、昇華転写を利用した布帛等に対する捺染方法に好適に適用することができる。すなわち、本実施形態に係るインクジェットインク組成物を、後述する印刷物の製造方法に用いることにより、転写紙上にインクジェット法にて付着させて転写画像を形成し、該転写画像を布帛に転写する。これにより、耐光性の良好な転写物が得られる。また、本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、イエロー染料とブルー染料とを含む一つのインク組成物であるので、転写紙等に付着させることにより所定の色相の画像を、凝集ムラを抑えつつ得ることができる。これに対して同様のイエロー染料を含むインク組成物と、同様のブルー染料を含むインク組成物とを、転写紙等の上で混合することにより所定の色相の画像を得る場合には、画像の凝集ムラが生じやすい。
【0073】
2.印刷物の製造方法
本実施形態に係る印刷物の製造方法は、上述のインクジェットインク組成物を、転写紙の記録面にインクジェット法により付着させ、記録面と記録媒体とを対向させて加熱することにより熱転写することを含む。
【0074】
ここで、昇華転写を利用した印刷物の製造方法としては、例えば、転写紙等のシート状の中間転写媒体に昇華型染料を含むインクジェットインク組成物を用いてインクジェット法による印刷を行って転写画像を形成した後、布帛等の記録媒体(転写先媒体)に中間転写媒体を重ねて、加熱により得られた転写画像を昇華転写する方法がある。
【0075】
すなわち、本実施形態に係る印刷物の製造方法は、少なくとも、上述のインクジェットインク組成物を、記録ヘッドから吐出して転写紙上に付着させるインク付着工程と、インクジェットインク組成物に含まれる染料を転写紙から昇華転写させて記録媒体に転写する転写工程とを含む。
【0076】
2.1.インク付着工程
本工程では、インクジェット法を用いて、上記のインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体である転写紙上の記録面に付着させて転写画像を形成する。インクジェット法によるインクジェットインク組成物の吐出は、例えば、インクジェット記録装置等の液滴吐出装置を用いて行うことができる。
【0077】
使用可能なインクジェット記録装置としては、上述のインクジェットインク組成物を収容するカートリッジやタンク等のインク収容容器及びこれに接続される記録ヘッドを少なくとも有し、インクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体である転写紙に画像を形成することができれば特に限定されない。また、インクジェット記録装置としては、シリアル型及びライン型のいずれでも使用することができる。これらの型のインクジェット記録装置には記録ヘッドが搭載されており、転写紙と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させながら、記録ヘッドのノズル孔からインク組成物の液滴を所定のタイミングで、間欠的にかつ所定の体積で吐出する。これにより、転写紙にインクジェットインク組成物を付着させて、所定の転写画像を形成することができる。
【0078】
一般に、シリアル型のインクジェット記録装置では、転写紙の搬送方向と、記録ヘッドの往復動作の方向が交差しており、記録ヘッドの往復動作と転写紙の搬送動作との組み合わせによって、転写紙と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させる。またこの場合、一般的には、記録ヘッドには複数のノズル孔が配置され、転写紙の搬送方向に沿ってノズル孔の列、すなわちノズル列が形成されている。また、記録ヘッドには、インクジェットインク組成物の種類や数に応じて、複数のノズル列が形成される場合もある。
【0079】
また、一般に、ライン型のインクジェット記録装置では、記録ヘッドは往復動作を行わず、転写紙の搬送によって転写紙と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させる。この場合においても、一般的には、記録ヘッドには、ノズル孔が複数配置され、転写紙の搬送方向に交差する方向に沿ってノズル列が形成されている。
【0080】
インクジェット記録方式は、インクジェットインク組成物を微細なノズル孔より液滴として吐出して該液滴を転写紙に付着させることができれば、特に制限されない。例えば、インクジェット記録方式としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡によりインクを吐出させる方式等を用いることができる。本実施形態においては、インク組成物の変質のしにくさ等の観点から、ピエゾ方式を用いることが好ましい。
【0081】
本実施形態で用いられるインクジェット記録装置には、例えば、加熱ユニット、乾燥ユニット、ロールユニット、巻き取り装置等の公知の構成を制限無く採用することができる。
【0082】
本実施形態において、中間転写媒体である転写紙としては、例えば、普通紙等の紙、インクジェット用専用紙、コート紙等のインク受容層が設けられた記録媒体等を用いることができるが、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が設けられた紙が好ましい。これにより、中間転写媒体に付与されたインクジェットインク組成物が乾燥する過程で、記録面に滲み等が抑制された中間記録物を得ることができる。また、このような媒体であれば、さらに記録面の表面に昇華型染料を留めやすく、後の転写工程において、染料の昇華をより効率的に行うことができる。
【0083】
2.2.転写工程
本実施形態に係る印刷物の製造方法は、インクジェットインク組成物が付与された転写紙の記録面を、被捺染物であるポリエステル布帛等の記録媒体と対向させた状態、つまり、転写紙の記録面に布帛等を配置した状態で加熱し、インクジェットインク組成物に含まれる昇華型染料を被捺染物に昇華させて布帛等に転写する転写工程を含む。これにより、布帛等を被捺染物とした捺染物、すなわち印刷物が得られる。
【0084】
転写工程での加熱温度は、特に規定されるものではないが、160.0℃以上220.0℃以下であることが好ましく、170.0℃以上200.0℃以下であることが好ましい。これにより、昇華型染料を被捺染物に転写させるために十分なエネルギーを与えることができ、印刷物の生産性を優れたものとすることができる。
【0085】
転写工程での加熱時間は、加熱温度にもよるが、30.0秒以上90.0秒以下であることが好ましく、45.0秒以上60.0秒以下であることがより好ましい。これにより、昇華型染料を被捺染物に転写させるために十分なエネルギーを得ることができ、印刷物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0086】
また、転写工程は、インクジェットインク組成物が付与された転写紙を、被捺染物と対向させた状態で加熱することにより行えばよいが、転写紙と被捺染物とを密着させた状態で加熱することにより行うことが好ましい。これにより、例えば、より鮮明な画像を布帛等に記録した印刷物が得られる。
【0087】
記録媒体すなわち被捺染物としては、例えば、疎水性繊維布帛であるポリエステル布帛が挙げられるが、樹脂フィルム等のシート状の物や、シート状以外の球状、直方体形状や曲面を有する物体等の立体的な形状を有する物を用いてもよい。
【0088】
2.3.その他の工程
本実施形態に係る印刷物の製造方法は、インク付着工程の後に転写紙を加熱する工程を含んでもよい。この工程は、インクジェットインク組成物を転写紙へ吐出して付着させた後に加熱する工程である。この工程を行うことにより、インク付着工程で付着されたインクジェットインク組成物の乾燥が促進され、画像の滲みが抑制されるとともに、裏移りも抑制される場合がある。なお、裏移りとは、例えば、転写紙がロールで巻き取られる等、重ねられる場合に、記録面に接した裏面に対してインクジェットインク組成物の成分が移動する現象を指す。
【0089】
この工程における転写紙の到達温度は、60.0℃以上であることが好ましく、70.0℃以上120.0℃以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、昇華型染料が昇華しにくく、かつ良好な乾燥速度を得ることができる。
【0090】
本実施形態に係る印刷物の製造方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるので、耐光性の良好な画像が形成された印刷物を製造することができる。
【0091】
3.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25.0℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0092】
3.1.インク組成物の調製
表1の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、さらに、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したビーズミルにて分散処理を行うことにより十分に混合した。1時間攪拌してから、5.0μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過することで、実施例及び比較例に係るインク組成物を得た。表1中の数値は、質量%を示す。水はイオン交換水を用い、各インク組成物の質量がそれぞれ100質量%となるように添加した。
【0093】
【0094】
表1に示す成分のうち、化合物名以外の成分は、以下の通りである。
・SY160:1 =C.I.Solvent Yellow 160:1
・DY54 =C.I.Disperse Yellow 54
・DY82 =C.I.Disperse Yellow 82
・化合物A =下記式(IA)で表される化合物(下記製造例1によって得た化合物)
・化合物B =下記式(IB)で表される化合物(下記製造例2によって得た化合物)
・DB60 =C.I.Disperse Blue 60
・DB360 =C.I.Disperse Blue 360
・DB183 =C.I.Disperse Blue 183
・DB72 =C.I.Disperse Blue 72
・DB359 =C.I.Disperse Blue 359
・NSNaF =ナフタレンスルホン酸ナトリウム ホルマリン縮合物(花王株式会社製「デモールNL」)
・BYK348 =ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名「BYK(登録商標)-348」(ポリエーテル変性シロキサン界面活性剤)
【0095】
【0096】
【0097】
上記式(IA)で表される化合物は、以下のように製造した。
スルホラン75部中に、1,4-ジアミノ-2,3-アンスラキノンジカルボキシイミド3部、3-アミノペンタン25部を加えて液を得た。得られた液をオートクレーブ中で140℃に加熱し、6時間反応させた後、室温まで冷却して液を得た。得られた液から析出した固体を濾過分離し、メタノール100部、水200部で洗浄した後、乾燥することにより、上記式(IA)で表される化合物3.1部を得た。
【0098】
上記式(IB)で表される化合物は、以下のように製造した。
スルホラン75部中に、1,4-ジアミノ-2,3-アンスラキノンジカルボキシイミド3.0部、1-アミノブタン25部を加えて液を得た。得られた液をオートクレーブ中で140℃に加熱し、6時間反応させた後、室温まで冷却して液を得た。得られた液から析出した固体を濾過分離し、メタノール100部、水200部で洗浄した後、乾燥することにより、上記式(IB)で表される化合物2.9部を得た。
【0099】
3.2.印刷物の作成
各例のインクジェットインク組成物を、インクカートリッジに充填し、該インクカートリッジをインクジェットプリンター(PX-H6000、セイコーエプソン株式会社製)に装着した。
【0100】
このインクジェットプリンターを用いて、上記各例のインクジェットインク組成物をそれぞれ吐出し、中間転写媒体であるTRANSJET Classic(Cham Paper社製)に、ベタパターンを印刷した。
【0101】
その後、中間転写媒体のインクジェットインク組成物の付着した側の面を白色記録媒体である布帛(ポリエステル100%、アミーナ、東レ株式会社製)と密着させ、この状態で、ヒートプレス機(TP-608M、太陽精機株式会社製)を用いて200℃60秒の条件で加熱し、昇華転写を行い、各例の印刷物を得た。
【0102】
また、比較例6-1及び比較例6-2のインクジェットインク組成物を用いた印刷物は、中間転写媒体への印刷時に比較例6-1のインクジェットインク組成物と比較例6-2のインクジェットインク組成物を、ヘッドの別の列にそれぞれ充填し、各色1:1の割合で、同じ場所に、2列のインク合計量が他の例と同じとなるよう吐出した。それ以外は他の例と同様にして印刷物を得た。
【0103】
3.3.評価試験
得られた転写物に対して、下記の評価試験を行った。
【0104】
3.3.1.耐光性の評価
耐光性の評価は、キセノンレーザーメーターXL-75(スガ試験機株式会社製)を用いて、印捺物を24℃、相対湿度60%RHの条件下で、照度70000luxの照射を7日間行った。評価前後の印捺物のODの低下率(%)を測定することによって行った。そして、以下の評価基準により評価して、結果を表1に記した。
(評価基準)
耐光性の評価によりOD値の低下率が、
A:50%以下である
B:50%を超え80%以下である
C:80%を超えて低下した
【0105】
3.3.2.凝集ムラの評価
各例の印捺物を目視で確認し、以下の評価基準により評価して、結果を表1に記した。
(評価基準)
A:凝集ムラが観測されない
C:凝集ムラが観測される
【0106】
3.4.評価結果
イエロー染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上と、ブルー染料として、式(I)で表される化合物と、有機溶剤と、水と、を含む、各実施例のインクジェットインク組成物は、耐光性が良好であった。また、比較例6-1、比較例6-2の結果から、それぞれイエロー染料のみ、及びブルー染料のみを含むインクを別々に吐出して印刷した場合に比べ、あらかじめイエロー染料及びブルー染料を混合したインクに相当する各例のインク(例えば実施例1)のみを吐出して印刷した場合には、凝集ムラが生じにくいことが判明した。
【0107】
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0108】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0109】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0110】
インクジェットインク組成物は、
イエロー染料として、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Solvent Yellow 160:1、C.I.Disperse Yellow 82から選ばれる1種以上と、
ブルー染料として、下記式(I)で表される化合物と、
有機溶剤と、
水と、
を含む。
【化5】
(式(I)中、Rは、水素原子又は炭素数1以上18以下のアルキル基を表し、前記アルキル基は分岐していてもよい。Xは、酸素原子又はイミノ基を表す。)
【0111】
このインクジェットインク組成物によれば、耐光性の良好な画像を形成することができる。また、イエロー染料とブルー染料とを含むことにより、凝集ムラが抑制された画像を形成することができる。
【0112】
上記インクジェットインク組成物において、
前記イエロー染料の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して0.2質量%以上15.0質量%以下であってもよい。
【0113】
このインクジェットインク組成物によれば、十分な発色性を有する画像を形成することができる。
【0114】
上記インクジェットインク組成物において、
前記ブルー染料の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して0.2質量%以上15.0質量%以下であってもよい。
【0115】
このインクジェットインク組成物によれば、十分な発色性を有する画像を形成することができる。
【0116】
上記インクジェットインク組成物において、
前記イエロー染料の含有量(Y)及びブルー染料の含有量(B)の比(Y:B)が、1:3~3:1であってもよい。
【0117】
このインクジェットインク組成物によれば、耐光性が良好かつ、よりグリーンに近い色相の画像を形成することができる。
【0118】
上記インクジェットインク組成物において、
レッド染料を含まなくてもよい。
【0119】
このインクジェットインク組成物によれば、いわゆるコンポジットブラックではない、彩度の高い画像を形成することができる。
【0120】
上記インクジェットインク組成物において、
前記有機溶剤の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して5.0質量%以上50.0質量%以下であってもよい。
【0121】
このインクジェットインク組成物によれば、粘度をインクジェット法により適したものに調整しやすく、保湿効果による吐出ノズルの目詰まりを低減できる。
【0122】
上記インクジェットインク組成物において、
前記水の含有量が、インクジェットインク組成物全体に対して40.0質量%以上90.0質量%以下であってもよい。
【0123】
このインクジェットインク組成物によれば、粘度をインクジェット法により適したものに調整しやすい。
【0124】
印刷物の製造方法は、
上記いずれかのインクジェットインク組成物を、転写紙の記録面にインクジェット法により付着させ、前記記録面と記録媒体とを対向させて加熱することにより熱転写することを含む。
【0125】
この印刷物の製造方法によれば、耐光性の良好な画像が形成された印刷物を製造することができる。