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  • 特開-バイポーラ電極及び蓄電装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190786
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】バイポーラ電極及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20221220BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20221220BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/02 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099226
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】大谷 まどか
(72)【発明者】
【氏名】安田 修一
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA02
5H017AA03
5H017AS03
5H017AS10
5H017BB16
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H017EE06
5H017HH01
5H017HH05
5H050AA07
5H050BA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA07
5H050DA08
5H050FA03
5H050FA18
5H050GA24
5H050HA01
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】蓄電装置の容量維持率を向上させる。
【解決手段】バイポーラ電極10は、バイポーラ集電体20と、正極集電体21の表面に設けられた正極活物質層30と、負極集電体22の表面に設けられた負極活物質層40とを備える。バイポーラ集電体20は、アルミニウム層21aを有する正極集電体21及び銅層22aを有する負極集電体22を備える。負極集電体22の表面における負極活物質層40との接着部分には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜23が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム層を有する正極集電体及び銅層を有する負極集電体を備えるバイポーラ集電体と、
前記正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、
前記負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備えるバイポーラ電極であって、
前記負極集電体の表面における前記負極活物質層との接着部分には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が設けられていることを特徴とするバイポーラ電極。
【請求項2】
前記負極集電体の表面における前記酸化被膜が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、1質量%以上である請求項1に記載のバイポーラ電極。
【請求項3】
前記酸化被膜は、前記銅層の表面に設けられ、
前記銅層の表面における前記酸化被膜が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、前記蛍光X線分析で測定される銅100質量部に対して1質量部以上である請求項1又は請求項2に記載のバイポーラ電極。
【請求項4】
前記負極集電体は、前記銅層と、前記銅層の表面に積層されたニッケル層とを備え、
前記酸化被膜は、前記ニッケル層の表面に設けられ、
前記ニッケル層の表面における前記酸化被膜が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、前記蛍光X線分析で測定される銅及びニッケルの合計質量100質量部に対して1質量部以上である請求項1又は請求項2に記載のバイポーラ電極。
【請求項5】
前記銅層は、めっき層であり、
前記負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する請求項1~4のいずれか一項に記載のバイポーラ電極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のバイポーラ電極を備える蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラ電極及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイポーラ電極を用いた蓄電装置に関する研究が行われている。バイポーラ電極は、正極集電体及び負極集電体を備えるバイポーラ集電体と、正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備える。バイポーラ電極を用いた蓄電装置は、体積エネルギー密度及び出力の向上の観点において他の蓄電装置よりも優位であることが期待されている。
【0003】
特許文献1には、厚さ20μmのアルミニウム箔と厚さ10μmの銅箔を圧延加工してなるクラッド材をバイポーラ集電体に用いたバイポーラ電極が開示されている。特許文献1のバイポーラ集電体の場合、アルミニウム箔を圧延してなるアルミニウム層が正極集電体となり、銅箔を圧延してなる銅層が負極集電体となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-007926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、アルミニウム層及び銅層を有するバイポーラ集電体の表面における負極活物質層が設けられる部分に、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜を設けたバイポーラ電極を作製した。そして、作製バイポーラ電極を用いた蓄電装置の電池特性を測定したところ、蓄電装置の容量維持率が向上することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のバイポーラ電極は、アルミニウム層を有する正極集電体及び銅層を有する負極集電体を備えるバイポーラ集電体と、前記正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、前記負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備えるバイポーラ電極であって、前記負極集電体の表面における前記負極活物質層との接着部分には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が設けられている。
【0007】
上記バイポーラ電極において、前記負極集電体の表面における前記酸化被膜が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、1質量%以上であることが好ましい。
【0008】
上記バイポーラ電極において、前記酸化被膜は、前記銅層の表面に設けられ、前記銅層の表面における前記酸化被膜が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、前記蛍光X線分析で測定される銅100質量部に対して1質量部以上であることが好ましい。
【0009】
上記バイポーラ電極において、前記負極集電体は、前記銅層と、前記銅層の表面に積層されたニッケル層とを備え、前記酸化被膜は、前記ニッケル層の表面に設けられ、前記ニッケル層の表面における前記酸化被膜が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、前記蛍光X線分析で測定される銅及びニッケルの合計質量100質量部に対して1質量部以上であることが好ましい。
【0010】
上記バイポーラ電極において、前記銅層は、めっき層であり、前記負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有することが好ましい。
本発明の蓄電装置は、上記バイポーラ電極を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蓄電装置の容量維持率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】バイポーラ電極の断面図。
図2】蓄電装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
(バイポーラ電極)
本実施形態のバイポーラ電極は、蓄電装置の電極として用いられる。蓄電装置は、例えば、ニッケル水素二次電池又はリチウムイオン二次電池等の二次電池である。また、蓄電装置は、電気二重層キャパシタであってもよい。本実施形態では、リチウムイオン二次電池に用いられるバイポーラ電極について説明する。
【0014】
図1に示すように、バイポーラ電極10は、バイポーラ集電体20と、バイポーラ集電体20の第1主面20aに設けられた正極活物質層30と、バイポーラ集電体20の第2主面20bに設けられた負極活物質層40とを備えている。
【0015】
<バイポーラ集電体>
バイポーラ集電体20は、第1主面20aを形成するシート状の正極集電体21と、第2主面20bを形成するシート状の負極集電体22とが厚さ方向に一体に接合されてなる積層体である。バイポーラ集電体20は、蓄電装置の放電又は充電の間、正極活物質層30及び負極活物質層40に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。
【0016】
正極集電体21は、必須構成として、アルミニウムを主成分とするアルミニウム層21aを備えている。アルミニウム層21aは、アルミニウム単体からなる層であってもよいし、アルミニウム合金からなる層であってもよい。アルミニウム合金としては、例えば、Al-Mn合金、Al-Mg合金、Al-Mg-Si合金が挙げられる。アルミニウム層21aにおけるアルミニウムの含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。アルミニウム層21aの形態は、例えば、箔、シート、フィルムである。アルミニウム層21aの厚さは、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0017】
また、正極集電体21は、アルミニウム層21aのみにより構成される単体物であってもよいし、アルミニウム層21a以外の部分を備える複合体であってもよい。図1では、一例として、アルミニウム層21aのみにより構成される正極集電体21を図示している。
【0018】
上記複合体としては、例えば、第1主面20aとなる表面がアルミニウム層21aである多層構造体、アルミニウム層21aに該当するアルミニウム膜によって被覆された基材が挙げられる。アルミニウム層21a以外の部分を構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料が挙げられる。上記金属材料としては、例えば、チタン、ステンレス鋼(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)が挙げられる。上記導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。
【0019】
負極集電体22は、必須構成として、銅を主成分とする銅層22aを備えている。銅層22aは、銅単体からなる層であってもよいし、銅合金からなる層であってもよい。銅合金としては、例えば、洋白、白銅、ベリリウム銅が挙げられる。銅層22aにおける銅の含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。銅層22aの形態は、例えば、めっき層、箔である。銅層22aの厚さは、例えば、8μm以上20μm以下である。また、めっき層である場合の銅層22aの厚さは、例えば、1μm以上10μm以下であり、好ましくは3μm以上8μm以下である。
【0020】
また、負極集電体22は、銅層22aのみにより構成される単体物であってもよいし、銅層22a以外のその他の層を備える多層構造体であってもよい。上記その他の層としては、例えば、ニッケルを主成分とするニッケル層が挙げられる。上記その他の層は、銅層22aよりも正極集電体21側に設けられていてもよいし、銅層22aよりも第2主面20b側に設けられていてもよい。図1では、一例として、銅層22aと、銅層22aの表面に積層されるとともに第2主面20bを形成するニッケル層22bとを備える二層構造の負極集電体22を図示している。
【0021】
ニッケル層22bは、ニッケル単体からなる層であってもよいし、ニッケル合金からなる層であってもよい。ニッケル合金としては、例えば、ハステロイ、ニクロム、モネル、サンプラチナ、パーマロイが挙げられる。ニッケル層22bにおけるニッケルの含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。ニッケル層22bの形態は、例えば、めっき層、箔である。ニッケル層22bの厚さは、例えば、8μm以上20μm以下である。また、めっき層である場合のニッケル層22bの厚さは、例えば、1μm以上10μm以下である。
【0022】
バイポーラ集電体20としては、例えば、クラッドメタル、所定のめっき処理が施されためっきアルミニウム箔を用いることができる。上記クラッドメタルとしては、例えば、アルミニウム箔と銅箔とを圧延加工してなるクラッドメタル、アルミニウム箔と銅箔とニッケル箔とを圧延加工してなるクラッドメタルが挙げられる。上記めっきアルミニウム箔としては、例えば、アルミニウム箔の片面に銅めっきを施してなる銅めっきアルミニウム箔、アルミニウム箔の片面に銅めっき及びニッケルめっきを順に施してなる銅ニッケルめっきアルミニウム箔が挙げられる。
【0023】
また、バイポーラ集電体20の第2主面20bである負極集電体22の表面には、酸化被膜23が設けられている。酸化被膜23の詳細については後述する。
<正極活物質層>
正極活物質層30は、バイポーラ集電体20の第1主面20aに一体に接着されている。正極活物質層30は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のポリアニオン系化合物、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物が挙げられる。正極活物質は、リチウムイオン二次電池などの蓄電装置の正極活物質として使用可能なものを採用する。
【0024】
正極活物質層30は、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等のその他成分を含有してよい。正極活物質層30に含有されるその他成分の種類、及びその配合比は、特に限定されるものではない。
【0025】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイトが挙げられる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体が挙げられる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0026】
正極活物質層30の厚さは、例えば2~150μmである。
バイポーラ集電体20の第1主面20aに正極活物質層30を形成する方法としては、例えば、ロールコート法等の公知の方法が挙げられる。
【0027】
<負極活物質層>
負極活物質層40は、バイポーラ集電体20の第2主面20bに一体に接着されている。負極活物質層40は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質としてLi、又は、炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)が挙げられる。人造黒鉛としては、例えば、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズが挙げられる。リチウムと合金化可能な元素としては、例えば、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0028】
負極活物質層40は、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等のその他成分を含有してよい。正極活物質層30に含有されるその他成分の種類、及びその配合比は、特に限定されるものではない。
【0029】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイトが挙げられる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体が挙げられる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0030】
負極活物質層40の厚さは、例えば2~150μmである。
バイポーラ集電体20の第2主面20bに負極活物質層40を形成する方法としては、例えば、ロールコート法等の公知の方法が挙げられる。
【0031】
<酸化被膜>
バイポーラ集電体20の第2主面20bである負極集電体22の表面には、酸化被膜23が設けられている。酸化被膜23は、第2主面20bにおける負極活物質層40との接着部分の少なくとも一部に設けられている。また、酸化被膜23は、第2主面20bにおける負極活物質層40との接着部分の全体に設けられていることが好ましく、第2主面20bの全体に設けられていることがより好ましい。図1では、一例として、第2主面20bの全体に酸化被膜23が設けられている場合を図示している。
【0032】
酸化被膜23の厚さは、例えば、10μm以上であり、好ましくは30μm以上である。また、酸化被膜23の厚さは、例えば、500μm以下であり、好ましくは200μm以下である。
【0033】
酸化被膜23は、酸化マグネシウムを含有する被膜である。酸化被膜23における酸化マグネシウムの含有割合は、第2主面20bにおける酸化被膜23が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定される各成分の検出値に基づくマグネシウムの質量割合として規定される。
【0034】
酸化被膜23におけるマグネシウムの含有割合は、例えば、1質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上である。酸化被膜23におけるマグネシウムの含有割合は、例えば、30質量%以下である。
【0035】
バイポーラ集電体20の第2主面20bが銅層22aにより形成されているとする。この場合、酸化被膜23におけるマグネシウムの含有割合は、検出値に基づく銅の質量を100質量部とした相対値として、例えば、1質量部以上であり、好ましくは1.5質量部以上であり、より好ましくは2質量部以上である。また、この場合の酸化被膜23におけるマグネシウムの含有割合は、上記相対値として、例えば、30質量部以下である。
【0036】
また、図1に示すように、バイポーラ集電体20の負極集電体22が銅層22a及びニッケル層22bの二層構造であり、第2主面20bがニッケル層22bにより形成されているとする。この場合、酸化被膜23におけるマグネシウムの含有割合は、検出値に基づく銅及びニッケルの合計質量を100質量部とした相対値として、例えば、1質量部以上であり、好ましくは1.5質量部以上であり、より好ましくは2質量部以上である。また、この場合の酸化被膜23におけるマグネシウムの含有割合は、上記相対値として、例えば、30質量部以下である。
【0037】
次に、バイポーラ集電体20の第2主面20bに酸化被膜23を形成する化成処理の一例について説明する。
まず、化成処理に用いる化成処理液を作製する。上記化成処理液は、マグネシウム塩及び溶媒の混合液を加熱処理した後、沈殿物をろ過することにより得られる。なお、上記混合液には、塩基性化合物及びルイス酸の一方又は両方を更に混合することが好ましい。この場合には、より効率的に酸化被膜23を形成できる。
【0038】
上記マグネシウム塩としては、例えば、酢酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、マグネシウムエトキシドが挙げられる。これらのうちの一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。混合液に含有されるマグネシウム塩は、上記具体例の一種類のみであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。混合液におけるマグネシウム塩の濃度は、例えば、0.1g/ml以上5g/ml以下であり、好ましくは0.5g/ml以上3g/ml以下である。
【0039】
上記溶媒は、混合されるマグネシウム塩を溶解できる溶媒を適宜、選択して用いる。上記溶媒としては、例えば、水、エタノール、酢酸が挙げられる。
上記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウムが挙げられる。混合液に含有される塩基性化合物は、上記具体例の一種類のみであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。混合液における塩基性化合物の濃度は、例えば、0.01g/ml以上0.5g/ml以下であり、好ましくは0.05g/ml以上0.1g/ml以下である。
【0040】
上記ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、酢酸、塩化カルシウムが挙げられる。混合液に含有されるルイス酸は、上記具体例の一種類のみであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。混合液におけるルイス酸の濃度は、例えば、0.1g/ml以上5g/ml以下であり、好ましくは0.5g/ml以上3g/ml以下である。
【0041】
上記加熱処理における加熱温度は、例えば、20℃以上60℃以下であり、好ましくは30℃以上50℃以下である。上記加熱処理における加熱時間は、例えば、0.5分以上10分以下であり、好ましくは1分以上5分以下である。
【0042】
次に、得られた上記化成処理液を用いて、バイポーラ集電体20の第2主面20bに酸化被膜23を形成する化成処理を行う。なお、化成処理に供されるバイポーラ集電体20の第2主面20bは、金属表面であってもよいし、陽極酸化被膜等の酸化被膜が形成された表面であってもよいし、アルカリ処理された表面であってもよい。
【0043】
化成処理では、まず、バイポーラ集電体20の第2主面20bに上記化成処理液を付着させた状態として第1加熱処理を行う。上記化成処理液を付着させる方法としては、例えば、スプレー処理、浸漬処理が挙げられる。第1加熱処理における加熱温度は、例えば、20℃以上60℃以下であり、好ましくは30℃以上50℃以下である。第1加熱処理における加熱時間は、例えば、0.5分以上10分以下であり、好ましくは1分以上5分以下である。
【0044】
その後、バイポーラ集電体20の第2主面20bに残る化成処理液を水洗等により除去した状態として第2加熱処理を行うことにより、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜23が形成される。第2加熱処理における加熱温度は、例えば、20℃以上60℃以下であり、好ましくは30℃以上50℃以下である。第2加熱処理における加熱時間は、例えば、0.5分以上10分以下であり、好ましくは1分以上5分以下である。
【0045】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上記のバイポーラ電極10を用いたリチウムイオン二次電池の一例について説明する。
【0046】
図2に示すように、リチウムイオン二次電池50は、複数のバイポーラ電極10と、正極電極51と、負極電極52と、セパレータ53と、スペーサ54と、電解質55とを備える。
【0047】
複数のバイポーラ電極10は、セパレータ53を間に挟んで正極活物質層30と負極活物質層40とが対向するように積層されている。
正極電極51は、集電体51aと、集電体51aの片側の表面に設けられた正極活物質層51bとを備える。正極電極51は、積層されたバイポーラ電極10における積層方向の一方側の端部に位置する負極活物質層40に対して、セパレータ53を間に挟んで正極活物質層51bが対向するように配置されている。
【0048】
負極電極52は、集電体52aと、集電体52aの片側の表面に設けられた負極活物質層52bとを備える。負極電極52は、積層されたバイポーラ電極10における積層方向の他方側の端部に位置する正極活物質層30に対して、セパレータ53を間に挟んで負極活物質層52bが対向するように配置されている。
【0049】
スペーサ54は、積層方向に隣接するバイポーラ電極10とバイポーラ電極10との間、バイポーラ電極10と正極電極51との間、及びバイポーラ電極10と負極電極52との間において、各活物質層の周囲を囲むように配置されている。また、スペーサ54は、バイポーラ電極10のバイポーラ集電体20、正極電極51の集電体51a、及び負極電極52の集電体52aに接着されている。
【0050】
リチウムイオン二次電池50の内部には、バイポーラ集電体20、正極電極51、負極電極52、及びスペーサ54によって囲まれた密閉空間が形成されている。セパレータ53及び電解質55は、この密閉空間に収容されている。リチウムイオン二次電池50は、正極電極51の集電体51a及び負極電極52の集電体52aに接続された端子を通じて充放電が行われる。
【0051】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)バイポーラ電極10は、バイポーラ集電体20と、正極集電体21の表面に設けられた正極活物質層30と、負極集電体22の表面に設けられた負極活物質層40とを備える。バイポーラ集電体20は、アルミニウム層21aを有する正極集電体21及び銅層22aを有する負極集電体22を備える。負極集電体22の表面における負極活物質層40との接着部分には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜23が設けられている。
【0052】
上記構成のバイポーラ電極10は、リチウムイオン二次電池50等の蓄電装置に適用することにより、蓄電装置の容量維持率が向上する。また、充放電を繰り返し行った後におけるバイポーラ集電体20と負極活物質層40との間の剥離強度の低下が抑制される。上記の各効果は、次のようにして得られていると推測できる。
【0053】
上記構成のバイポーラ電極10の場合、負極活物質層40は、負極集電体22の表面に設けられた酸化被膜23に接合されている。より具体的には、酸化被膜23に含まれる酸化マグネシウム由来のマグネシウムを介して結合している。このマグネシウムを介した負極活物質層40の結合状態は、銅層22aを構成する銅又はニッケル層22bを構成するニッケルに直接、負極活物質層40が結合する結合状態と比較して耐還元性が高い。これにより、リチウムイオン等の電荷担体との反応による、負極活物質層40とバイポーラ集電体20との結合の分解が抑制される。その結果、充放電を繰り返し行った後におけるバイポーラ集電体20と負極活物質層40との間の剥離強度の低下が抑制される。そして、バイポーラ集電体20と負極活物質層40との間の密着性が維持されることにより、蓄電装置の容量維持率が向上する。
【0054】
(2)負極集電体22の表面における酸化被膜23が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、1質量%以上である。
上記構成によれば、蓄電装置の容量維持率を向上させる効果が顕著に得られる。
【0055】
(3)酸化被膜23は、銅層22aの表面に設けられ、銅層22aの表面における酸化被膜23が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、蛍光X線分析で測定される銅100質量部に対して1質量部以上である。
【0056】
または、負極集電体22は、銅層22aと、銅層22aの表面に積層されたニッケル層22bとを備える。酸化被膜23は、ニッケル層22bの表面に設けられている。ニッケル層22bの表面における酸化被膜23が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定されるマグネシウムの含有割合は、蛍光X線分析で測定される銅及びニッケルの合計質量100質量部に対して1質量部以上である。上記の各構成によれば、蓄電装置の容量維持率を向上させる効果が顕著に得られる。
【0057】
(4)銅層22aはめっき層である。負極活物質層40は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する。
銅層22aをめっき層とした場合、銅層22aが薄く形成されることにより、銅層22aにピンホールが形成されやすくなる。銅層22aにピンホールが存在すると、ピンホールを通過したリチウムイオンがアルミニウム層21aと反応してアルミニウム層21aが腐食する。アルミニウム層21aが腐食すると、負極活物質の反応電位まで電圧が低下しなくなることにより、負極活物質の反応電位における蓄電装置の動作が不安定になる。また、アルミニウム層21aにおける腐食部分がアルミニウム層21aの反対側の面にまで達してバイポーラ集電体20に孔が開くおそれがある。
【0058】
上記構成によれば、銅めっき等により薄く形成されている銅層22aに、ピンホールが存在していた場合に、そのピンホールの内側にも酸化被膜23が形成される。酸化被膜23に含まれる酸化マグネシウムは、腐食生成物であるリチウムアルミニウムの形成エネルギーよりも活性化エネルギーが小さく、リチウムによる還元反応に対して安定である。ピンホール内に位置する酸化被膜23がリチウム耐食性被膜として作用することにより、アルミニウム層21aの腐食が抑制される。その結果、負極活物質の反応電位における蓄電装置の動作の安定性の低下が抑制される。
【実施例0059】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(バイポーラ集電体Aの作製)
厚さ15μmのアルミニウム箔を、70mm×70mmのアルミニウム面が露出するようにマスキングテープを用いてSUS板に張り付けることによりめっき処理用の試験片を得た。
【0060】
試験片の露出したアルミニウム面を、奥野製薬社トップアルクリーン101の水溶液を用いて60℃で5分処理することにより脱脂を行った。脱脂後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップアルソフト108水溶液を用いて55℃で1分処理することによりエッチングを行った。エッチング後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップデスマットN-20を用いて室温で1分処理することで、スマットを除去した。
【0061】
次に、試験片を水洗し、奥野製薬社サブスターZN-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、表面を亜鉛置換した。置換後の試験片を水洗し、硝酸水溶液で亜鉛を一度剥離した後、サブスターZn-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、再度、亜鉛置換した。
【0062】
硫酸銅150g/L、硫酸150g/L、塩酸80ppmになるように建浴し、添加剤として奥野製薬社トップルチナSFベースWR、トップルチナSF-B、トップルチナSFレベラーを加えて銅めっき浴を調製した。調製しためっき浴に試験片を浸漬し、陽極として含リン銅を用いて室温で電流密度2A/dm、2分間の条件で試験片の表面に銅めっきを形成した。めっき後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップリンスを用いて防錆処理することにより、バイポーラ集電体Aを得た。
【0063】
(試験例1)
水9mlにマグネシウムエトキシド2g、酢酸1.05gを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Aを得た。バイポーラ集電体Aを化成処理液Aに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のバイポーラ集電体Aを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例1のバイポーラ集電体を得た。
【0064】
(試験例2)
水8mlに酢酸マグネシウム2g、水酸化ナトリウム50mg、ホウ酸77mgを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Bを得た。バイポーラ集電体Aを化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のバイポーラ集電体Aを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例2のバイポーラ集電体を得た。
【0065】
(試験例3)
水8mlに酢酸マグネシウム2g、塩化カルシウム50mgを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Cを得た。バイポーラ集電体Aを化成処理液Cに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のバイポーラ集電体Aを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例3のバイポーラ集電体を得た。
【0066】
(試験例4)
水8mlに酢酸マグネシウム2gを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Dを得た。また、3質量%水酸化ナトリウム水溶液10mlに次亜リン酸ナトリウム100mgを加えることによりアルカリ処理液を得た。
【0067】
バイポーラ集電体Aをアルカリ処理液に含浸させた状態として50℃で2分間の加熱処理を行うことによりアルカリ処理したバイポーラ集電体Aを得た。このバイポーラ集電体Aを化成処理液Dに浸漬させた状態として、60℃で2分間の加熱処理を行うことにより試験例4のバイポーラ集電体を得た。
【0068】
(試験例5)
化成処理を施していないバイポーラ集電体Aを試験例5とした。
(蛍光X線分析及び抵抗の測定)
試験例1~5のバイポーラ集電体における化成処理が施された部分を対象とする蛍光X線分析を行うことにより、マグネシウム(Mg)及び銅(Cu)の各質量を測定した。そして、銅100質量部に対するマグネシウムの含有割合を算出した。また、試験例1~5のバイポーラ集電体における化成処理が施された表面の抵抗を、四端子法を用いて測定した。それらの結果を表1に示す。なお、表1の成分割合欄における「n.d.」は、未検出を示す。
【0069】
【表1】
蛍光X線分析の結果から、化成処理を行った試験例1~4には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が形成されていることが確認できる。そして、化成処理液の組成を異ならせることにより、酸化被膜における酸化マグネシウムの含有割合を調整することができた。また、酸化被膜が形成されている試験例1~4の抵抗は、酸化被膜が形成されていない試験例5と同程度であった。この結果から、酸化被膜を設けることによる導電性の低下はない又は非常に小さいと考えられる。
【0070】
(バイポーラ集電体Bの作製)
厚さ15μmのアルミニウム箔を、70mm×70mmのアルミニウム面が露出するようにマスキングテープを用いてSUS板に張り付けることによりめっき処理用の試験片を得た。
【0071】
試験片の露出したアルミニウム面を、奥野製薬社トップアルクリーン101の水溶液を用いて60℃で5分処理することにより脱脂を行った。脱脂後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップアルソフト108水溶液を用いて55℃で1分処理することによりエッチングを行った。エッチング後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップデスマットN-20を用いて室温で1分処理することで、スマットを除去した。
【0072】
次に、試験片を水洗し、奥野製薬社サブスターZN-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、表面を亜鉛置換した。置換後の試験片を水洗し、硝酸水溶液で亜鉛を一度剥離した後、サブスターZn-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、再度、亜鉛置換した。
【0073】
硫酸銅150g/l、硫酸150g/l、塩酸80ppmになるように建浴し、添加剤として奥野製薬社トップルチナSFベースWR、トップルチナSF-B、トップルチナSFレベラーを加えて銅めっき浴を調製した。調製しためっき浴に試験片を浸漬し、陽極として含リン銅を用いて室温で電流密度2A/dm、5分間の条件で試験片の表面に銅めっきを形成した。めっき後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップリンスを用いて防錆処理することによりバイポーラ集電体Bを得た。
【0074】
(バイポーラ集電体Cの作製)
銅めっきを形成する工程までを、上記のバイポーラ集電体Bの作製と同様に行った後、試験片を水洗した。硫酸ニッケル250g/l、塩化ニッケル50g/l、ホウ酸50g/lになるように建浴しためっき浴に試験片を浸漬し、室温で電流密度1A/dm、2分間の条件で試験片の表面にニッケルめっきを形成した。めっき後の試験片を水洗することによりバイポーラ集電体Cを得た。
【0075】
(試験例6及び試験例7)
バイポーラ集電体Bを化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のバイポーラ集電体Bを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例6のバイポーラ集電体を得た。化成処理を施していないバイポーラ集電体Bを試験例7とした。
【0076】
(試験例8及び試験例9)
バイポーラ集電体Cを化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のバイポーラ集電体Cを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例8のバイポーラ集電体を得た。化成処理を施していないバイポーラ集電体Cを試験例9とした。
【0077】
(蛍光X線分析)
試験例6~9のバイポーラ集電体における化成処理が施された部分を対象とする蛍光X線分析を行うことにより、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、及びニッケル(Ni)の各質量を測定した。そして、銅及びニッケルの合計質量100質量部に対するマグネシウムの含有割合を算出した。それらの結果を表2に示す。
【0078】
(容量維持率及び剥離強度の測定)
黒鉛95質量部、カルボキシメチルセルロース2.5質量部、スチレン-ブタジエンゴム2.5質量部を水に混合することにより負極用スラリーを調製した。次に、試験例6~9のバイポーラ集電体から40mm×40mmの試験片を切り出した。切り出した試験片のめっきが施されている側の面の中心15mm×15mmの範囲に負極用スラリーを塗布し、乾燥させることにより、負極活物質層を形成した。負極用スラリーは、乾燥後の目付量5mg/mmがとなるように塗布した。負極活物質層を形成した試験片に対して、1.5N/mmの線圧によるプレスを行った後、120℃で6時間の加熱処理を行うことにより評価用の電極シートを得た。なお、以下では、電極シートにおける負極活物質層が設けられている側の面を負極側の面と記載する。
【0079】
電極シートの負極側の面に対して、電極シートの各辺の端から10mmを覆い、かつ各辺から5mmはみ出る四角枠状の酸変性ポリプロプレン製シートを重ねて加熱することにより熱溶着した。電極シートの正極側の面に対して、50mm×50mmに切り出したSUS箔を重ねて加熱することにより、酸変性ポリプロプレン製シートにおける電極シートの各辺から5mmはみ出ている部分をSUS箔に熱溶着した。これにより、電極シートにおけるアルミニウム面が電解液に触れないように処理された試験電極を得た。
【0080】
得られた試験電極を負極電極とし、金属リチウム箔を正極電極とするハーフセルを作製した。セパレータとしては、ポリエチレン製のセパレータを用いた。電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1Mの濃度となるように溶解させた非水電解質を用いた。得られたハーフセルについて、直流電流0.2mAで負極電極における正極電極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行い、放電が終了してから10分後に、直流電流0.2mAで負極電極における正極電極に対する電圧が0.5Vになるまで充電を行った。上記の放電及び充電を30サイクル繰り返した。そして、初回の充電後の充電容量を100としたときの30サイクル後の充電容量の比率として容量維持率を算出した。
【0081】
次に、30サイクルの放電及び充電を行った後のハーフセルから試験電極を取り出し、幅10mmの帯状に裁断して剥離して剥離試験用の測定サンプルを得た。試験サンプルの負極活物質層を両面テープで固定して、集電体部分を引き剥がす形式で90度ピール試験を実施することにより測定サンプルの剥離強度を測定した。得られた容量維持率及び剥離強度の結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
蛍光X線分析の結果から、化成処理を行った試験例6及び試験例8には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が形成されていること、及び化成処理を行っていない試験例7及び試験例9には、酸化被膜が形成されていないことが確認できる。そして、酸化被膜が形成されていない試験例7及び試験例9と比較して、酸化被膜が形成されている試験例6及び試験例8では、容量維持率及び剥離強度が上昇した。この結果は、酸化被膜を設けることにより、負極活物質と負極集電体との間の剥離強度が向上し、それに伴って容量維持率が向上することを示している。また、上記の結果から、銅めっきの表面に酸化被膜を形成した場合、及びニッケルめっきの表面に酸化被膜を形成した場合のいずれにおいても、容量維持率及び剥離強度を向上させる効果が得られることが分かる。
【0083】
(試験例10及び試験例11)
バイポーラ集電体Bに対して、集束イオンビーム装置を用いて、銅めっき部分における10μm角の範囲を徐々にエッチングした。下地のアルミニウム箔が観察されたところで、エッチングを停止することにより、銅めっき部分に人工的なピンホールが形成されたピンホール付きバイポーラ集電体を得た。
【0084】
ピンホール付きバイポーラ集電体を化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のバイポーラ集電体Bを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例10のバイポーラ集電体を得た。また、化成処理を施していないピンホール付きバイポーラ集電体を試験例11とした。
【0085】
(蛍光X線分析)
試験例10及び試験例11のバイポーラ集電体における化成処理が施された部分を対象とする蛍光X線分析を行うことにより、マグネシウム(Mg)及び銅(Cu)の各質量を測定した。そして、銅100質量部に対するマグネシウムの含有割合を算出した。それらの結果を表3に示す。
【0086】
(電気化学試験)
試験例10及び試験例11のバイポーラ集電体を直径11mmの円形に裁断してなる負極電極(評価極)と、厚さ500μmの金属リチウム箔を直径13mmの円形に裁断してなる正極電極との間にセパレータを挟装して電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに非水電解質を注入して、電池ケースを密閉することにより、電気化学試験用のハーフセルを得た。セパレータとしては、ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターを用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1Mの濃度となるように溶解させた非水電解質を用いた。
【0087】
得られた電気化学試験用のハーフセルに対して、0.1mAの電流で対極リチウム電位として0Vまで掃引した。電圧0Vに到達した後、3時間、電流量0.1mA、電圧0VでCC-CVで電流を流した。掃引時の到達電圧、電圧0Vが保持された保持時間、及び3時間後のCC-CV電圧を表3に示す。
【0088】
【表3】
蛍光X線分析の結果から、試験例10については、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が形成されていること、及び試験例11については、酸化被膜が形成されていないことが確認できた。
【0089】
酸化被膜が形成されていない試験例11は、掃引時の到達電圧が0Vに達しているものの、90分後に電圧を0Vに保持することができなくなり、3時間後のCC-CV電圧は0.11Vであった。この結果から、試験例11の場合、0Vに到達後、しばらくの時間が経過すると、銅めっきのピンホールを通じてリチウムイオンがアルミニウム箔に達し、リチウムイオンによるアルミニウム箔の腐食が発生したと考えられる。一方、酸化被膜が形成されている試験例10は、3時間の測定時間の間、0Vの状態が保持された。この結果から、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜を設けることにより、銅めっきのピンホールに起因するアルミニウム箔の腐食を抑制する効果が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0090】
10…バイポーラ電極
20…バイポーラ集電体
21…正極集電体
21a…アルミニウム層
22…負極集電体
22a…銅層
22b…ニッケル層
23…酸化被膜
30…正極活物質層
40…負極活物質層
50…蓄電装置
図1
図2