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  • 特開-バイポーラ集電体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190788
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】バイポーラ集電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099228
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】大谷 まどか
(72)【発明者】
【氏名】安田 修一
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS03
5H017AS10
5H017BB01
5H017BB12
5H017BB16
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE01
5H017EE05
5H017EE06
5H017HH05
(57)【要約】
【課題】負極活物質の反応電位における蓄電装置の動作の安定性の低下を抑制することのできるバイポーラ集電体を提供する。
【解決手段】バイポーラ集電体の製造方法は、アルミニウム層11aを有する正極集電体11及び銅層12aを有する負極集電体12を備える複合材における負極集電体12の表面に、酸化被膜13を形成する酸化被膜形成工程を備える。酸化被膜13は、Sc、Y、Ca、Er、Tm、Ho、Lu、Dy、Be、Sm、Yb、Nd、Mg、Ce、Laから選ばれる少なくとも一種の特定金属Mの酸化物を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が設けられるバイポーラ電極に用いられるバイポーラ集電体の製造方法であって、
アルミニウム層を有する正極集電体及び銅層を有する負極集電体を備える複合材における前記負極集電体の表面に、金属酸化物を含有する酸化被膜を形成する酸化被膜形成工程を備え、
前記酸化被膜は、Sc、Y、Ca、Er、Tm、Ho、Lu、Dy、Be、Sm、Yb、Nd、Mg、Ce、Laから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含有することを特徴とするバイポーラ集電体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化被膜形成工程は、前記金属の金属塩と、前記金属塩を溶解可能な溶媒とを混合した混合液を加熱して得られる化成処理液を前記負極集電体の表面に付着させた状態として加熱する工程である請求項1に記載のバイポーラ集電体の製造方法。
【請求項3】
前記化成処理液は、塩基性化合物及びルイス酸の一方又は両方を更に含有する請求項2に記載のバイポーラ集電体の製造方法。
【請求項4】
前記銅層の厚さは、めっき層である請求項1~3のいずれか一項に記載のバイポーラ集電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラ集電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイポーラ電極を用いた蓄電装置に関する研究が行われている。バイポーラ電極は、正極集電体及び負極集電体を備えるバイポーラ集電体と、正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備える。バイポーラ電極を用いた蓄電装置は、体積エネルギー密度及び出力の向上の観点において他の蓄電装置よりも優位であることが期待されている。
【0003】
特許文献1には、厚さ20μmのアルミニウム箔と厚さ10μmの銅箔を圧延加工してなるクラッド材をバイポーラ集電体に用いたバイポーラ電極が開示されている。特許文献1のバイポーラ集電体の場合、アルミニウム箔を圧延してなるアルミニウム層が正極集電体となり、銅箔を圧延してなる銅層が負極集電体となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-007926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイポーラ電極を用いた蓄電装置の重量の低減及び体積エネルギー密度の向上の観点から、バイポーラ集電体を薄く形成することが好ましい。バイポーラ集電体を薄くする方法としては、例えば、特許文献1のバイポーラ集電体の場合には、厚さ10μmの銅箔を圧延加工して形成される銅層を銅めっき層に変更することにより、銅層により構成される負極集電体を薄くすることが考えられる。しかしながら、銅層の厚さを薄くするほど、銅層にピンホールが生じやすくなるとともに、ピンホールに起因する問題が新たに発生する。
【0006】
例えば、特許文献1のバイポーラ集電体を、リチウムイオンを電荷担体とする蓄電装置に適用することを考える。この場合に、バイポーラ集電体の銅層にピンホールが存在すると、銅層のピンホールを通過したリチウムイオンがアルミニウム層と反応してアルミニウム層が腐食する。アルミニウム層が過度に腐食すると、負極活物質の反応電位まで電圧が低下しなくなることにより、負極活物質の反応電位における蓄電装置の動作が不安定になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバイポーラ集電体の製造方法は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が設けられるバイポーラ電極に用いられるバイポーラ集電体の製造方法であって、アルミニウム層を有する正極集電体及び銅層を有する負極集電体を備える複合材における前記負極集電体の表面に、金属酸化物を含有する酸化被膜を形成する酸化被膜形成工程を備え、前記酸化被膜は、Sc、Y、Ca、Er、Tm、Ho、Lu、Dy、Be、Sm、Yb、Nd、Mg、Csze、Laから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含有する。
【0008】
上記バイポーラ集電体の製造方法において、前記酸化被膜形成工程は、前記金属の金属塩と、前記金属塩を溶解可能な溶媒とを混合した混合液を加熱して得られる化成処理液を前記負極集電体の表面に付着させた状態として加熱する工程であることが好ましい。
【0009】
上記バイポーラ集電体の製造方法において、前記化成処理液は、塩基性化合物及びルイス酸の一方又は両方を更に含有することが好ましい。
上記バイポーラ集電体の製造方法において、前記銅層は、めっき層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負極活物質の反応電位における蓄電装置の動作の安定性の低下を抑制することのできるバイポーラ集電体が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】バイポーラ電極の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
<バイポーラ集電体>
まず、図1を参照して、本実施形態の製造方法により製造されるバイポーラ集電体10について説明する。
【0013】
バイポーラ集電体10は、シート状の正極集電体11と、シート状の負極集電体12とが厚さ方向に一体に接合されてなる積層体である。バイポーラ集電体10は、正極集電体11により形成される第1主面10aに正極活物質層20が形成されるとともに、負極集電体12により形成される第2主面10bに負極活物質層30が形成されることにより、蓄電装置のバイポーラ電極として用いられる。バイポーラ集電体10は、蓄電装置の放電又は充電の間、正極活物質層20及び負極活物質層30に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。
【0014】
正極集電体11は、必須構成として、アルミニウムを主成分とするアルミニウム層11aを備えている。アルミニウム層11aは、アルミニウム単体からなる層であってもよいし、アルミニウム合金からなる層であってもよい。アルミニウム合金としては、例えば、Al-Mn合金、Al-Mg合金、Al-Mg-Si合金が挙げられる。アルミニウム層11aにおけるアルミニウムの含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。アルミニウム層11aの形態は、例えば、箔、シート、フィルムである。アルミニウム層11aの厚さは、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0015】
また、正極集電体11は、アルミニウム層11aのみにより構成される単体物であってもよいし、アルミニウム層11a以外の部分を備える複合体であってもよい。図1では、一例として、アルミニウム層11aのみにより構成される正極集電体11を図示している。
【0016】
上記複合体としては、例えば、第1主面10aとなる表面がアルミニウム層11aである多層構造体、アルミニウム層11aに該当するアルミニウム膜によって被覆された基材が挙げられる。アルミニウム層11a以外の部分を構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料が挙げられる。上記金属材料としては、例えば、チタン、ステンレス鋼(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)が挙げられる。上記導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。
【0017】
負極集電体12は、必須構成として、銅を主成分とする銅層12aを備えている。銅層12aは、銅単体からなる層であってもよいし、銅合金からなる層であってもよい。銅合金としては、例えば、洋白、白銅、ベリリウム銅が挙げられる。銅層12aにおける銅の含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。
【0018】
銅層12aの形態は、例えば、めっき層、箔である。蓄電装置の重量の低減及び体積エネルギー密度の向上の観点から、銅層12aを薄く形成することが好ましい。銅層12aの厚さは、例えば、8μm以上20μμm以下である。また、めっき層である場合の銅層12aの厚さは、例えば、1μm以上10μm以下であり、好ましくは3μm以上8μm以下である。
【0019】
また、負極集電体12は、銅層12aのみにより構成される単体物であってもよいし、銅層12a以外のその他の層を備える多層構造体であってもよい。上記その他の層としては、例えば、ニッケルを主成分とするニッケル層が挙げられる。上記その他の層は、銅層12aよりも正極集電体11側に設けられていてもよいし、銅層12aよりも第2主面10b側に設けられていてもよい。図1では、一例として、銅層12aと、銅層12aの表面に積層されるとともに第2主面10bを形成するニッケル層12bとを備える二層構造の負極集電体12を図示している。
【0020】
ニッケル層12bは、ニッケル単体からなる層であってもよいし、ニッケル合金からなる層であってもよい。ニッケル合金としては、例えば、ハステロイ、ニクロム、モネル、サンプラチナ、パーマロイが挙げられる。ニッケル層12bにおけるニッケルの含有割合は、例えば、50質量%以上である。ニッケル層12bの形態は、例えば、めっき層、箔である。ニッケル層12bの厚さは、例えば、22bの厚さは、例えば、8μm以上20μm以下である。また、めっき層である場合のニッケル層12bの厚さは、例えば、1μm以上10μm以下であり、好ましくは3μm以上8μm以下である。
【0021】
バイポーラ集電体10としては、例えば、クラッドメタル、所定のめっき処理が施されためっきアルミニウム箔を用いることができる。上記クラッドメタルとしては、例えば、アルミニウム箔と銅箔とを圧延加工してなるクラッドメタル、アルミニウム箔と銅箔とニッケル箔とを圧延加工してなるクラッドメタルが挙げられる。上記めっきアルミニウム箔としては、例えば、アルミニウム箔の片面に銅めっきを施してなる銅めっきアルミニウム箔、アルミニウム箔の片面に銅めっき及びニッケルめっきを順に施してなる銅ニッケルめっきアルミニウム箔が挙げられる。
【0022】
また、バイポーラ集電体10の第2主面10bである負極集電体12の表面には、酸化被膜13が設けられている。酸化被膜13は、第2主面10bの少なくとも一部に設けられており、好ましくは第2主面10bの全体に設けられている。図1では、一例として、第2主面10bの全体に酸化被膜13が設けられている場合を図示している。
【0023】
酸化被膜13の厚さは、例えば、10μm以上であり、好ましくは30μm以上である。また、酸化被膜13の厚さは、例えば、500μm以下であり、好ましくは200μm以下である。
【0024】
酸化被膜13は、特定の金属酸化物を含有する被膜である。酸化被膜13に含有される金属酸化物は、Sc、Y、Ca、Er、Tm、Ho、Lu、Dy、Be、Sm、Yb、Nd、Mg、Ce、Laから選ばれる特定金属Mの酸化物である。特定金属Mの酸化物は、腐食生成物であるリチウムアルミニウムの形成エネルギーよりも活性化エネルギーが小さい金属酸化物である。ここで、リチウムアルミニウムの形成エネルギーに対する、特定金属Mの酸化物の活性化エネルギーの差分値を表1に示す。表1に示した数値は、公知の文献及び第一原理計算を用いた算出したものである。また、酸化被膜13は、上記金属の酸化物の一種を単独で含有していてもよいし、二種以上を含有していてもよい。
【0025】
【表1】
酸化被膜13における特定の金属酸化物の含有割合は、第2主面10bにおける酸化被膜13が設けられている部分を対象とする蛍光X線分析で測定される各成分の検出値に基づく特定金属Mの質量割合として規定される。例えば、酸化被膜13に含有される金属酸化物が酸化マグネシウムである場合、蛍光X線分析で測定される各成分の検出値に基づくマグネシウムの質量割合として規定される。
【0026】
酸化被膜13における特定金属Mの含有割合は、1質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上である。酸化被膜13におけるマグネシウムの含有割合は、例えば、30質量%以下である。
【0027】
バイポーラ集電体10の第2主面10bが銅層12aにより形成されているとする。この場合、酸化被膜13における特定金属Mの含有割合は、検出値に基づく銅の質量を100質量部とした相対値として、例えば、1質量部以上であり、好ましくは1.5質量部以上であり、より好ましくは2質量部以上である。また、この場合の酸化被膜13における特定金属Mの含有割合は、上記相対値として、例えば、30質量部以下である。
【0028】
また、図1に示すように、バイポーラ集電体10の負極集電体12が銅層12a及びニッケル層12bの二層構造であり、第2主面10bがニッケル層12bにより形成されているとする。この場合、酸化被膜13における特定金属Mの含有割合は、検出値に基づく銅及びニッケルの合計質量を100質量部とした相対値として、例えば、1質量部以上であり、好ましくは1.5質量部以上であり、より好ましくは2質量部以上である。また、この場合の酸化被膜13における特定金属Mの含有割合は、上記相対値として、例えば、30質量部以下である。
【0029】
<正極活物質層及び負極活物質層>
次に、バイポーラ集電体10に形成される正極活物質層20及び負極活物質層30について説明する。
【0030】
正極活物質層20は、リチウムイオンを電荷担体として吸蔵及び放出可能である正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のポリアニオン系化合物、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物が挙げられる。正極活物質は、リチウムイオン二次電池などの蓄電装置の正極活物質として使用可能なものを採用する。
【0031】
負極活物質層30は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質としてLi、又は、炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)が挙げられる。人造黒鉛としては、例えば、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズが挙げられる。リチウムと合金化可能な元素としては、例えば、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0032】
正極活物質層20及び負極活物質層30は、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等のその他成分を含有してよい。正極活物質層20及び負極活物質層30に含有されるその他成分の種類、及びその配合比は、特に限定されるものではない。
【0033】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイトが挙げられる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体が挙げられる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0034】
正極活物質層20及び負極活物質層30の厚さは、例えば2~150μmである。
バイポーラ集電体10の第1主面10a及び第2主面10bに正極活物質層20及び負極活物質層30を形成する方法としては、例えば、ロールコート法等の公知の方法が挙げられる。
【0035】
<バイポーラ集電体の製造方法>
次に、バイポーラ集電体10の製造方法について説明する。
バイポーラ集電体10の製造方法は、酸化被膜13を形成する酸化被膜形成工程を備えている。酸化被膜形成工程では、アルミニウム層11aを有する正極集電体11及び銅層12aを有する負極集電体12を備える複合材を用意する。そして、その複合材における負極集電体12により形成される表面に特定の金属酸化物を含有する酸化被膜を形成する。
【0036】
酸化被膜形成工程に用いる上記複合材は、上述したバイポーラ集電体10から酸化被膜13を除いた構造の積層体である。上記複合材としては、例えば、クラッドメタル、所定のめっき処理が施されためっきアルミニウム箔を用いることができる。上記クラッドメタルとしては、例えば、アルミニウム箔と銅箔とを圧延加工してなるクラッドメタル、アルミニウム箔と銅箔とニッケル箔とを圧延加工してなるクラッドメタルが挙げられる。上記めっきアルミニウム箔としては、例えば、アルミニウム箔の片面に銅めっきを施してなる銅めっきアルミニウム箔、アルミニウム箔の片面に銅めっき及びニッケルめっきを順に施してなる銅ニッケルめっきアルミニウム箔が挙げられる。
【0037】
酸化被膜形成工程では、まず、化成処理に用いる化成処理液を作製する。上記化成処理液は、Sc、Y、Ca、Er、Tm、Ho、Lu、Dy、Be、Sm、Yb、Nd、Mg、Ce、Laから選ばれる特定金属Mの金属塩、及び溶媒の混合液を加熱処理した後、沈殿物をろ過することにより得られる。上記混合液には、塩基性化合物及びルイス酸の一方又は両方を更に混合することが好ましい。この場合には、より効率的に酸化被膜13を形成できる。
【0038】
特定金属Mの金属塩としては、例えば、酢酸塩、ギ酸塩、炭酸塩、金属エトキシドが挙げられる。混合液に含有される金属塩は、上記具体例の一種類のみであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。混合液における金属塩の濃度は、例えば、0.1g/ml以上5g/ml以下であり、好ましくは0.5g/ml以上3g/ml以下である。
【0039】
上記溶媒は、混合される金属塩を溶解できる溶媒を適宜、選択して用いる。上記溶媒としては、例えば、水、エタノール、酢酸が挙げられる。
上記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウムが挙げられる。混合液に含有される塩基性化合物は、上記具体例の一種類のみであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。混合液における塩基性化合物の濃度は、例えば、0.01g/ml以上0.5g/ml以下であり、好ましくは0.05g/ml以上0.1g/ml以下である。
【0040】
上記ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、酢酸、塩化カルシウムが挙げられる。混合液に含有されるルイス酸は、上記具体例の一種類のみであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。混合液におけるルイス酸の濃度は、例えば、0.1g/ml以上5g/ml以下であり、好ましくは0.5g/ml以上3g/ml以下である。
【0041】
上記加熱処理における加熱温度は、例えば、20℃以上60℃以下であり、好ましくは30℃以上50℃以下である。上記加熱処理における加熱時間は、例えば、0.5分以上10分以下であり、好ましくは1分以上5分以下である。
【0042】
次に、得られた上記化成処理液を用いて、上記複合材における負極集電体により形成される表面に酸化被膜13を形成する化成処理を行う。上記複合材における酸化被膜13が形成される表面は、金属表面であってもよいし、陽極酸化被膜等の酸化被膜が形成された表面であってもよいし、アルカリ処理された表面であってもよい。
【0043】
化成処理では、まず、上記複合材の表面に上記化成処理液を付着させた状態として第1加熱処理を行う。上記化成処理液を付着させる方法としては、例えば、スプレー処理、浸漬処理が挙げられる。第1加熱処理における加熱温度は、例えば、20℃以上60℃以下であり、好ましくは30℃以上50℃以下である。第1加熱処理における加熱時間は、例えば、0.5分以上10分以下であり、好ましくは1分以上5分以下である。
【0044】
その後、上記複合材の第2主面10bに残る化成処理液を水洗等により除去した状態として第2加熱処理を行うことにより、酸化被膜13が形成されるとともに、バイポーラ集電体10が製造される。第2加熱処理における加熱温度は、例えば、20℃以上60℃以下であり、好ましくは30℃以上50℃以下である。第2加熱処理における加熱時間は、例えば、0.5分以上10分以下であり、好ましくは1分以上5分以下である。
【0045】
(1)バイポーラ集電体10の製造方法は、アルミニウム層11aを有する正極集電体11及び銅層12aを有する負極集電体12を備える複合材における負極集電体12の表面に、酸化被膜13を形成する酸化被膜形成工程を備える。酸化被膜13は、Sc、Y、Ca、Er、Tm、Ho、Lu、Dy、Be、Sm、Yb、Nd、Mg、Ce、Laから選ばれる少なくとも一種の特定金属Mの酸化物を含有する。
【0046】
上記構成によれば、銅層12aに、ピンホールが存在していた場合に、そのピンホールの内側にも酸化被膜13が形成される。酸化被膜13に含まれる特定金属Mの酸化物は、腐食生成物であるリチウムアルミニウムの形成エネルギーよりも活性化エネルギーが小さく、リチウムによる還元反応に対して安定である。ピンホール内に位置する酸化被膜13がリチウム耐食性被膜として作用することにより、アルミニウム層11aの腐食が抑制される。その結果、負極活物質の反応電位における蓄電装置の動作の安定性の低下が抑制される。また、蓄電装置の動作の安定性の低下が抑制されることにより、銅層12aをより薄く形成することが容易になり、バイポーラ電極の設計の自由度が向上する。
【0047】
(2)酸化被膜形成工程は、特定金属Mの金属塩と、金属塩を溶解可能な溶媒とを混合した混合液を加熱して得られる化成処理液を負極集電体12の表面に付着させた状態として加熱する工程である。
【0048】
上記構成によれば、酸化被膜13を簡易に形成することができる。
(3)化成処理液は、塩基性化合物及びルイス酸の一方又は両方を更に含有する。
上記構成によれば、酸化被膜13における特定金属Mの酸化物の含有割合を高めることが容易である。
【0049】
(4)めっき層により構成される銅層12aを有する複合材を用いる。
銅層12aが薄く形成されるほど、銅層12aにピンホールが生じやすくなる。そのため、銅層12aがめっき層である場合には、酸化被膜13に基づく効果がより顕著に得られる。
【実施例0050】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(複合材Aの作製)
厚さ15μmのアルミニウム箔を、70mm×70mmのアルミニウム面が露出するようにマスキングテープを用いてSUS板に張り付けることによりめっき処理用の試験片を得た。
【0051】
試験片の露出したアルミニウム面を、奥野製薬社トップアルクリーン101の水溶液を用いて60℃で5分処理することにより脱脂を行った。脱脂後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップアルソフト108水溶液を用いて55℃で1分処理することによりエッチングを行った。エッチング後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップデスマットN-20を用いて室温で1分処理することで、スマットを除去した。
【0052】
次に、試験片を水洗し、奥野製薬社サブスターZN-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、表面を亜鉛置換した。置換後の試験片を水洗し、硝酸水溶液で亜鉛を一度剥離した後、サブスターZn-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、再度、亜鉛置換した。
【0053】
硫酸銅150g/L、硫酸150g/L、塩酸80ppmになるように建浴し、添加剤として奥野製薬社トップルチナSFベースWR、トップルチナSF-B、トップルチナSFレベラーを加えて銅めっき浴を調製した。調製しためっき浴に試験片を浸漬し、陽極として含リン銅を用いて室温で電流密度2A/dm、2分間の条件で試験片の表面に銅めっきを形成した。めっき後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップリンスを用いて防錆処理することにより、複合材Aを得た。
【0054】
(試験例1)
水9mlにマグネシウムエトキシド2g、酢酸1.05gを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Aを得た。複合材Aを化成処理液Aに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後の複合材Aを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例1のバイポーラ集電体を得た。
【0055】
(試験例2)
水8mlに酢酸マグネシウム2g、水酸化ナトリウム50mg、ホウ酸77mgを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Bを得た。複合材Aを化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後の複合材Aを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例2のバイポーラ集電体を得た。
【0056】
(試験例3)
水8mlに酢酸マグネシウム2g、塩化カルシウム50mgを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Cを得た。複合材Aを化成処理液Cに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後の複合材Aを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例3のバイポーラ集電体を得た。
【0057】
(試験例4)
水8mlに酢酸マグネシウム2gを加えて60℃で2時間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Dを得た。また、3質量%水酸化ナトリウム水溶液10mlに次亜リン酸ナトリウム100mgを加えることによりアルカリ処理液を得た。
【0058】
複合材Aをアルカリ処理液に含浸させた状態として50℃で2分間の加熱処理を行うことによりアルカリ処理した複合材Aを得た。この複合材Aを化成処理液Dに浸漬させた状態として、60℃で2分間の加熱処理を行うことにより試験例4のバイポーラ集電体を得た。
【0059】
(試験例5)
化成処理を施していない複合材Aを試験例5とした。
(蛍光X線分析及び抵抗の測定)
試験例1~5のバイポーラ集電体における化成処理が施された部分を対象とする蛍光X線分析を行うことにより、マグネシウム(Mg)及び銅(Cu)の各質量を測定した。そして、銅100質量部に対するマグネシウムの含有割合を算出した。また、試験例1~5のバイポーラ集電体における化成処理が施された表面の抵抗を、四端子法を用いて測定した。それらの結果を表2に示す。なお、表2の成分割合欄における「n.d.」は、未検出を示す。
【0060】
【表2】
蛍光X線分析の結果から、化成処理を行った試験例1~4には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が形成されていることが確認できる。そして、化成処理液の組成を異ならせることにより、酸化被膜における酸化マグネシウムの含有割合を調整することができた。また、酸化被膜が形成されている試験例1~4の抵抗は、酸化被膜が形成されていない試験例5と同程度であった。この結果から、酸化被膜を設けることによる導電性の低下はない又は非常に小さいと考えられる。
【0061】
(複合材Bの作製)
厚さ15μmのアルミニウム箔を、70mm×70mmのアルミニウム面が露出するようにマスキングテープを用いてSUS板に張り付けることによりめっき処理用の試験片を得た。
【0062】
試験片の露出したアルミニウム面を、奥野製薬社トップアルクリーン101の水溶液を用いて60℃で5分処理することにより脱脂を行った。脱脂後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップアルソフト108水溶液を用いて55℃で1分処理することによりエッチングを行った。エッチング後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップデスマットN-20を用いて室温で1分処理することで、スマットを除去した。
【0063】
次に、試験片を水洗し、奥野製薬社サブスターZN-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、表面を亜鉛置換した。置換後の試験片を水洗し、硝酸水溶液で亜鉛を一度剥離した後、サブスターZn-291水溶液を用いて室温で1分処理することにより、再度、亜鉛置換した。
【0064】
硫酸銅150g/l、硫酸150g/l、塩酸80ppmになるように建浴し、添加剤として奥野製薬社トップルチナSFベースWR、トップルチナSF-B、トップルチナSFレベラーを加えて銅めっき浴を調製した。調製しためっき浴に試験片を浸漬し、陽極として含リン銅を用いて室温で電流密度2A/dm、5分間の条件で試験片の表面に銅めっきを形成した。めっき後の試験片を水洗し、奥野製薬社トップリンスを用いて防錆処理することにより複合材Bを得た。
【0065】
(複合材Cの作製)
銅めっきを形成する工程までを、上記の複合材Bの作製と同様に行った後、試験片を水洗した。硫酸ニッケル250g/l、塩化ニッケル50g/l、ホウ酸50g/lになるように建浴しためっき浴に試験片を浸漬し、室温で電流密度1A/dm、2分間の条件で試験片の表面にニッケルめっきを形成した。めっき後の試験片を水洗することにより複合材Cを得た。
【0066】
(試験例6及び試験例7)
複合材Bを化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後の複合材Bを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例6のバイポーラ集電体を得た。また、化成処理を施していない複合材Bを試験例7とした。
【0067】
(試験例8及び試験例9)
複合材Cを化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後の複合材Cを水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例8のバイポーラ集電体を得た。化成処理を施していない複合材Cを試験例9とした。
【0068】
(蛍光X線分析)
試験例6~9のバイポーラ集電体における化成処理が施された部分を対象とする蛍光X線分析を行うことにより、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、及びニッケル(Ni)の各質量を測定した。そして、銅及びニッケルの合計質量100質量部に対するマグネシウムの含有割合を算出した。それらの結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
蛍光X線分析の結果から、化成処理を行った試験例6及び試験例8には、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が形成されていること、及び化成処理を行った試験例7及び試験例9には、酸化被膜が形成されていないことが確認できる。
【0070】
(試験例10及び試験例11)
複合材Bに対して、集束イオンビーム装置を用いて、銅めっき部分における10μm角の範囲を徐々にエッチングした。下地のアルミニウム箔が観察されたところで、エッチングを停止することにより、銅めっき部分に人工的なピンホールが形成されたピンホール付き複合材を得た。
【0071】
ピンホール付き複合材を化成処理液Bに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後の複合材を水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例10のバイポーラ集電体を得た。化成処理を施していないピンホール付き複合材をそのまま試験例11とした。
【0072】
(蛍光X線分析)
試験例10及び試験例11のバイポーラ集電体における化成処理が施された部分を対象とする蛍光X線分析を行うことにより、マグネシウム(Mg)及び銅(Cu)の各質量を測定した。そして、銅100質量部に対するマグネシウムの含有割合を算出した。それらの結果を表3に示す。
【0073】
(電気化学試験)
試験例10及び試験例11のバイポーラ集電体を直径11mmの円形に裁断してなる負極電極(評価極)と、厚さ500μmの金属リチウム箔を直径13mmの円形に裁断してなる正極電極との間にセパレータを挟装して電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに非水電解質を注入して、電池ケースを密閉することにより、電気化学試験用のハーフセルを得た。セパレータとしては、ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターを用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1Mの濃度となるように溶解させた非水電解質を用いた。
【0074】
得られた電気化学試験用のハーフセルに対して、0.1mAの電流で対極リチウム電位として0Vまで掃引した。電圧0Vに到達した後、3時間、電流量0.1mA、電圧0VでCC-CVで電流を流した。掃引時の到達電圧、電圧0Vが保持された保持時間、及び3時間後のCC-CV電圧を表4に示す。
【0075】
【表4】
蛍光X線分析の結果から、試験例10については、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜が形成されていること、及び試験例11については、酸化被膜が形成されていないことが確認できた。
【0076】
酸化被膜が形成されていない試験例11は、掃引時の到達電圧が0Vに達しているものの、90分後に電圧を0Vに保持することができなくなり、3時間後のCC-CV電圧は0.11Vであった。この結果から、試験例11の場合、0Vに到達後、しばらくの時間が経過すると、銅めっきのピンホールを通じてリチウムイオンがアルミニウム箔に達し、リチウムイオンによるアルミニウム箔の腐食が発生したと考えられる。一方、酸化被膜が形成されている試験例10は、3時間の測定時間の間、0Vの状態が保持された。この結果から、酸化マグネシウムを含有する酸化被膜を設けることにより、銅めっきのピンホールに起因するアルミニウム箔の腐食を抑制する効果が得られることが分かる。
【0077】
次に、アルミニウム箔の表面に直接、酸化被膜を形成した試験例12~24の評価用電極を用いた簡易な構成の試験系にて、酸化被膜による腐食抑制効果を検証した。
(試験例12)
エタノール10mlにマグネシウムエトキシド2gを加えて60℃で5分間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Eを得た。表面の脱脂処理を行った厚さ15μmのアルミニウム箔を15質量%硫酸水溶液に浸漬し、電流密度2A/dmにて表面を酸化させることにより、陽極酸化されたアルミニウム箔を得た。陽極酸化されたアルミニウム箔を直径9mmの円形に裁断したものを化成処理液Eに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のアルミニウム箔を水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例12の評価用電極を得た。
【0078】
(試験例13)
水9mlにマグネシウムエトキシド2g、酢酸1.05mgを加えて60℃で5分間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Fを得た。化成処理液Eを化成処理液Fに変更した点を除いて試験例12と同様の処理を行うことにより試験例13の評価用電極を得た。
【0079】
(試験例14)
水10mlにマグネシウムエトキシド2gを加えて60℃で5分間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Gを得た。化成処理液Eを化成処理液Gに変更した点を除いて試験例12と同様の処理を行うことにより試験例13の評価用電極を得た。
【0080】
(試験例15)
水10mlにカルシウムエトキシド1.5gを加えて60℃で5分間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Hを得た。化成処理液Eを化成処理液Hに変更した点を除いて試験例12と同様の処理を行うことにより試験例15の評価用電極を得た。
【0081】
(試験例16)
水10mlにカルシウムエトキシド1.5g、酢酸ナトリウム0.5gを加えて60℃で5分間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Iを得た。化成処理液Hを化成処理液Iに変更した点を除いて試験例15と同様の処理を行うことにより試験例16の評価用電極を得た。
【0082】
(試験例17)
厚さ15μmのアルミニウム箔を10質量%LiPF水溶液に浸漬し、60℃で5分間の加熱処理を行うことにより、フッ化処理されたアルミニウム箔を得た。フッ化処理されたアルミニウム箔を直径9mmの円形に裁断したものを化成処理液Hに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のアルミニウム箔を水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例17の評価用電極を得た。
【0083】
(試験例18)
水8mlに塩化カルシウム1.5gを加えて60℃で5分間の加熱処理を行った後、沈殿物をろ過することにより化成処理液Jを得た。化成処理液Hを化成処理液Jに変更した点を除いて試験例17と同様の処理を行うことにより試験例18の評価用電極を得た。
【0084】
(試験例19)
3質量%の水酸化ナトリウム水溶液10mlに次亜リン酸ナトリウム100mgを加えることによりアルカリ処理液を得た。厚さ15μmのアルミニウム箔をアルカリ処理液に含浸させた状態として50℃で2分間の加熱処理を行うことによりアルカリ処理されたアルミニウム箔を得た。アルカリ処理されたアルミニウム箔を直径9mmの円形に裁断したものを化成処理液Hに浸漬させた状態として、60℃で5分間の第1加熱処理を行った。第1加熱処理後のアルミニウム箔を水洗し、120℃で1時間の第2加熱処理を行うことにより試験例19の評価用電極を得た。
【0085】
(試験例20)
化成処理液Hを化成処理液Iに変更した点を除いて試験例19と同様の処理を行うことにより試験例20の評価用電極を得た。
【0086】
(試験例21~24)
表面の脱脂処理を行った厚さ15μmのアルミニウム箔を直径9mmの円形に裁断したものを試験例21の評価用電極とした。試験例12で作成した陽極酸化されたアルミニウム箔を直径9mmの円形に裁断したものを試験例22の評価用電極とした。試験例17で作成したフッ化処理されたアルミニウム箔を直径9mmの円形に裁断したものを試験例23の評価用電極とした。試験例19で作成したアルカリ処理されたアルミニウム箔を直径9mmの円形に裁断したものを試験例23の評価用電極とした。
【0087】
(蛍光X線分析)
試験例12~24の評価用電極における化成処理が施された部分を対象とする蛍光X線分析を行うことにより、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びアルミニウム(Al)の各質量を測定した。それらの結果を表5に示す。
【0088】
(電気化学試験)
試験例12、13、15~24の評価用電極と、厚さ500μmの金属リチウム箔を直径13mmの円形に裁断してなる正極電極との間にセパレータを挟装して電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに非水電解質を注入して、電池ケースを密閉することにより、電気化学試験用のハーフセルを得た。セパレータとしては、ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターを用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1Mの濃度となるように溶解させた非水電解質を用いた。
【0089】
得られた電気化学試験用のハーフセルに対して、0.1mAの電流で対極リチウム電位として0Vまで掃引した。電圧0Vに到達した後、3時間、電流量0.1mA、電圧0VでCC-CVで電流を流した。掃引時の到達電圧、電圧0Vが保持された保持時間、及び3時間後のCC-CV電圧を表5に示す。
【0090】
【表5】
蛍光X線分析の結果から、試験例14を除いて、化成処理を行った試験例12~20には、酸化マグネシウム又は酸化カルシウムを含有する酸化被膜が形成されていることが確認できる。特に、ルイス酸である酢酸を含む化成処理液を用いた試験例13は、酢酸を含まない化成処理液を用いた試験例12と比較して、酸化被膜における酸化マグネシウムの含有割合が高い。また、塩基性化合物である酢酸ナトリウムを含む化成処理液を用いた試験例16は、酢酸ナトリウムを含まない化成処理液を用いた試験例15と比較して、酸化被膜における酸化カルシウムの含有割合が高い。なお、試験例14は、マグネシウムエトキシドが化成処理液中に十分に溶解できていなかったために、酸化被膜が形成されなかったと考えられる。
【0091】
また、酸化被膜が形成されていない試験例21~24は、掃引時の到達電圧が0Vに達しない、又は0Vに到達後、数分で0Vに保持することができなくなった。これに対して、酸化被膜が形成されている試験例12、13、15~20は全て、掃引時の到達電圧が0Vに達し、その保持時間が試験例21~24よりも長くなっている。特に、酸化マグネシウム又は酸化カルシウム含有割合が高い酸化被膜が形成された試験例13及び試験例16は、3時間後も0Vに保持されていた。この結果は、酸化被膜に含有される酸化マグネシウム又は酸化カルシウムに基づいて、腐食抑制効果が得らえていることを示唆する。
【0092】
また、表1に示すように、上記特定金属Mの酸化物は、リチウムアルミニウムの形成エネルギーに対する、特定金属Mの酸化物の活性化エネルギーの差分値が酸化マグネシウムと同等又はそれ以上である。そのため、酸化マグネシウムと同様に、酸化被膜に含有させることにより腐食抑制効果が得られると考えられる。
【0093】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が設けられるバイポーラ電極に用いられるバイポーラ集電体であって、アルミニウム層を有する正極集電体及び銅層を有する負極集電体を備え、前記負極集電体の表面には、Sc、Y、Ca、Er、Tm、Ho、Lu、Dy、Be、Sm、Yb、Nd、Mg、Ce、Laから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含有する酸化被膜が設けられていることを特徴とするバイポーラ集電体。
【符号の説明】
【0094】
10…バイポーラ集電体
11…正極集電体
11a…アルミニウム層
12…負極集電体
12a…銅層
13…酸化被膜
20…正極活物質層
30…負極活物質層
図1