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特開2022-190808光学デバイスの製造方法及び光学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190808
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】光学デバイスの製造方法及び光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/17 20060101AFI20221220BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20221220BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B29C45/17
G02B1/04
G02B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099253
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆正
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA03
4F206AA13
4F206AA20
4F206AA28
4F206AH73
4F206AH74
4F206AR06
4F206AR12
4F206AR20
4F206JA07
4F206JL02
4F206JW08
4F206JW23
(57)【要約】
【課題】表面形状精度を向上させるとともに、複屈折を低減させた光学デバイスを提供する。
【解決手段】ゲート12及びランナー11が一体成形されたレンズ13を射出成形する工程と、ランナー11の一部を除去する工程と、ゲート12及びランナー11を残した状態のレンズ13をアニール処理する工程と、レンズ13からゲート12及びランナー11を除去する工程と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート及びランナーが一体成形された光学デバイスを射出成形する工程と、
前記ランナーの一部を除去する工程と、
前記ゲート及び前記ランナーを残した状態の前記光学デバイスをアニール処理する工程と、
前記光学デバイスから前記ゲート及び前記ランナーを除去する工程と、を備える
光学デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1の光学デバイスの製造方法において、
前記アニール処理は、前記ランナーを2mm以上且つ80mm以下残した状態で行う
光学デバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の光学デバイスの製造方法において、
前記アニール処理は、前記光学デバイスのガラス転移温度よりも所定温度低い設定温度で行い、
前記所定温度は、10℃以上且つ30℃以下である
光学デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つの光学デバイスの製造方法において、
前記光学デバイスの光軸方向の厚みは、5mm以上且つ50mm以下である
光学デバイスの製造方法。
【請求項5】
ゲート近傍の所定領域のリタデーション量は、100nm以下である
光学デバイス。
【請求項6】
請求項5の光学デバイスにおいて、
前記所定領域は、前記ゲートからの距離が、前記光学デバイスの外形寸法の5%以上且つ15%以下の範囲である
光学デバイス。
【請求項7】
請求項5又は6の光学デバイスにおいて、
前記光学デバイスの設計値に対するピークトゥバレー値は、前記光学デバイスの外形寸法の0.05%以下である
光学デバイス。
【請求項8】
請求項5~7の何れか1つの光学デバイスにおいて、
光軸方向の厚みは、5mm以上且つ50mm以下である
光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイスの製造方法及び光学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズやプリズム等の光学デバイスは、搭載する機器の高性能化に伴い、厚肉で高い表面形状精度を有するとともに、複屈折を小さくすることが求められている。また、光学デバイスの製造コストを抑えるために、成形タクトを短縮することも求められている。
【0003】
ところで、光学デバイスの射出成形では、成形品の中心部の温度が十分に下がりきらない状態で成形機から取り出すと、成形品の表面にヒケが生じて表面形状精度が劣化してしまう。
【0004】
ここで、ヒケが生じないようにするためには、金型内で徐冷する必要があり、成形タクトが大幅に増大するという課題がある。また、ヒケを抑制するために高保圧で成形すると、複屈折が大きくなるという課題もある。
【0005】
特許文献1には、成形タクトを短縮するために、芯レンズを用いた多層成形、及び複屈折を抑制するために芯レンズのゲート方向と被覆レンズのゲート方向を90~180度ずらして成形する方法が提案されている。
【0006】
特許文献2には、レンズ形状を規定し、屈折率分布(複屈折)が小さい領域のみを使用する方法が提案されている。
【0007】
特許文献3には、成形後のアニールによって複屈折を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-111117号公報
【特許文献2】特開平08-201717号公報
【特許文献3】特開平11-077842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の発明では、2層の成形を2回に分けて行うため、複数組の金型が必要になる。そのため、金型費が高くなってしまい、成形タクト短縮によるコスト低減効果が小さくなってしまう。また、ゲート方向を変えることによって複屈折を低減しようとしているが、複数回の各成形による複屈折が残留したままとなってしまう。
【0010】
特許文献2の発明では、複屈折分布(複屈折)が小さい中央領域のみを使用しているが、有効領域外の無駄な樹脂量の増加してしまうだけでなく、レンズサイズが大きくなることで大きい成形機が必要になるため、製造コストが増大してしまう。
【0011】
特許文献3の発明では、アニールによって複屈折を除去しようとしているが、応力歪み(複屈折)が解放される際に、レンズ面形状が変化するため、形状精度が劣化してしまう。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面形状精度を向上させるとともに、複屈折を低減させた光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ゲート及びランナーが一体成形された光学デバイスを射出成形する工程と、前記ランナーの一部を除去する工程と、前記ゲート及び前記ランナーを残した状態の前記光学デバイスをアニール処理する工程と、前記光学デバイスから前記ゲート及び前記ランナーを除去する工程と、を備える光学デバイスの製造方法である。
【0014】
本発明では、ゲート及びランナーを残した状態の光学デバイスをアニール処理することで、アニールでの応力歪み(複屈折)解放による形状変化を最小限に抑えるとともに、ゲート近傍の複屈折を抑えることができる。これにより、高い表面形状精度と低い複屈折を両立した光学デバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高保圧の成形によりタクトを効率的に短縮しつつ、高精度な形状と低複屈折を両立した厚肉の光学デバイスを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る光学デバイスにおいて、ゲート及びランナーが一体成形された状態を示す図である。
図2】光軸方向から見たレンズの複屈折状態を示す模式図である。
図3】従来のアニール処理を説明するための図である。
図4】本実施形態のアニール処理を説明するための図である。
図5】保圧力を変更した場合の、レンズの表面形状精度とリタデーション量との測定結果を示す図である。
図6】アニール処理前のゲートからの距離とリタデーション量との関係を示すグラフ図である。
図7】アニール処理後のゲートからの距離とリタデーション量との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
図1に示すように、光学デバイスは、厚肉なレンズ13である。レンズ13は、射出成形によって製造される。図示しない金型内に射出された溶融樹脂は、ランナー11及びゲート12を通って、金型内のレンズ13の転写面に充填される。
【0019】
金型内に溶融樹脂を充填した後、金型内を高い保圧状態にして、短タクトで高精度に金型形状を転写する。金型内で溶融樹脂を一定時間冷却した後、樹脂成形品を金型から取り出すことで、ゲート12及びランナー11が一体成形されたレンズ13が得られる。
【0020】
ここで、金型内を高保圧状態にすることで、保圧時のレンズ金型キャビティ内の樹脂が過充填状態になり、冷却時の収縮によるヒケを抑えることができる。そのため、冷却時間を短縮した短タクトの樹脂成形であっても、表面形状精度の高いレンズ13を得ることができる。
【0021】
ところで、高保圧で成形したレンズ13は、ゲート12近傍の所定領域15で複屈折が大きくなる傾向にある(図2参照)。具体的に、高保圧状態では、低保圧状態に比べて、圧力が加わり易いゲート12側と、圧力が加わり難い反ゲート側の圧力差が大きくなりやすい。また、樹脂流路が急拡大するゲート12近傍では、せん断応力が発生して応力が集中しやすくなる。そのため、ゲート12近傍の所定領域で複屈折が大きく発生することとなる。
【0022】
特に、ゲート12に近づくほど複屈折が大きくなる傾向がある。具体的に、ゲート12からの距離が、レンズ13の外形寸法の15%以下の範囲において、複屈折が大きくなりやすい。
【0023】
そこで、成形工程で発生したレンズ13の複屈折を除去するために、レンズ13をアニール処理することを検討した。図3に示す従来例では、アニール処理する前に、レンズ13に一体成形されたゲート12及びランナー11を除去する。
【0024】
なお、一般に、レンズ13からゲート12を除去するゲートカット作業は、ニッパーやホットニッパー等を用いて行われる。そのため、ゲート12を直線状にしかカットできず、曲面部を有するレンズ13のような光学デバイスでは、ゲートカット跡が残る。このとき、ゲートカット方法によっては、数mm程度、ゲート12が残る場合もあり、ゲートカットとは、完全にゲート12を除去するものではない。
【0025】
ゲートカットされたレンズ13は、アニール炉30に投入される。アニール炉30は、レンズパレット31と、ヒータ35と、を有する。レンズパレット31は、レンズ13の曲面形状に対応して窪んだ保持部32を有する。レンズパレット31には、複数の保持部32が設けられる。レンズ13は、ゲート12を上側に向けた姿勢で、保持部32に保持される。
【0026】
図3に示す例では、ヒータ35は、レンズパレット31を挟んで左右両側に配置される。ヒータ35は、アニール炉30内を加熱する。
【0027】
ところで、従来の光学デバイスの製造方法では、アニール処理を行うことで複屈折を抑制しようとするものであるが、同時に、応力歪みが解放されたことによる形状変形が発生するため、表面形状精度が大きく劣化してしまう。
【0028】
特に、複屈折の大きいゲート12近傍の形状変化が大きい傾向がある。つまり、従来のアニール処理では、レンズ13表面の形状精度と、複屈折の残留とは、トレードオフの関係にある。そのため、表面形状精度を劣化させないように設定温度を下げると、十分に応力歪みを抑制することができず、複屈折が残留してしまう。
【0029】
そこで、本実施形態では、アニール処理を行う前の手順を工夫することで、表面形状精度を向上させるとともに、複屈折を低減させたレンズ13を提供できるようにした。
【0030】
具体的に、図4に示すように、ゲート12及びランナー11が一体成形されたレンズ13を射出成形した後、ランナー11の一部を除去する。そして、ゲート12及びランナー11を残した状態のレンズ13を、レンズパレット31に並べてアニール炉30に投入する。アニール時の形状変形は、より応力歪みの大きいゲート12及びランナー11に集中する。つまり、図4に矢印線で示すように、レンズ13の歪みを、ゲート12及びランナー11側に逃がすことができる。このように、ゲート12及びランナー11の一部が残っていることで、アニール時のレンズ13の形状変形を抑えることができる。
【0031】
アニール処理後に、レンズ13からゲート12及びランナー11を除去することで、高い表面形状精度と低複屈折を両立した厚肉光学デバイスを得ることができる。
【0032】
ここで、レンズ厚みが増えるほど成形時のヒケが大きくなる傾向があり、より高保圧が必要になる。そこで、成形レンズ面に圧力をしっかりと加えるためには、ゲート12での圧力損失を小さくすることが求められ、ゲート径が大きくなる傾向にある。
【0033】
そして、ゲート径が大きくなると、通常のニッパーでは、ゲートカットすることが難しくなり、ホットニッパー等でゲート12に熱を加えて軟化した状態でゲートカットする。しかしながら、ゲートカット時に、応力歪みを有するレンズ13に熱が加わると、形状に悪影響を与えるおそれがある。
【0034】
そのため、本実施形態のように、アニール後に応力歪みを解放した状態でゲートカットすることが好ましい。
【0035】
(アニール処理前のレンズについて)
以下、本実施形態に係る厚肉の光学デバイスの一例として、外形40mm、光軸方向の厚み12mm、シクロオレフィンポリマー(COP)のレンズ13を製造する場合について説明する。
【0036】
金型転写性を重視して、樹脂温度260℃、金型温度120℃と高めに設定し、保圧力を変更することで、保圧力による表面形状精度と複屈折(リタデーション量)の確認を行った。
【0037】
図5は、保圧力を変更した場合の、レンズの表面形状精度とリタデーション量との測定結果を示す図である。なお、レンズ13の表面形状精度は、超高精度三次元測定機(パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社製、UA3P)で測定した。リタデーション量は、複屈折計(株式会社フォトニックラティス製、WPA-200)で測定した。
【0038】
図5に示すように、レンズ13の表面形状精度は、保圧が大きくなるにしたがって良化したが、100MPaまでは形状精度の数値変化が大きく、100MPa以上では形状精度の数値変化が小さく、140MPa以上では、ほとんど変化が無かった。
【0039】
一方、リタデーション量は、保圧が大きくなるにしたがって大きくなる傾向があった。つまり、保圧条件によっては、表面形状精度が良くなれば、リタデーション量が増える傾向にあることが分かった。
【0040】
上述した結果より、本実施例では、成形時の保圧力を140MPaとした。厚肉光学デバイスでは、ヒケを抑制して高い表面形状精度を得るために、100MPa以上の高保圧によって成形することが好ましい。また、ゲートサイズは、圧力が十分に伝わるサイズとして、幅4mm×厚さ3mmとした。
【0041】
図6は、アニール処理前のゲートからの距離とリタデーション量との関係を示すグラフ図である。図6に示すように、レンズ13では、ゲート12近傍の所定領域15の複屈折が大きく出ており、そのリタデーション量の最大値は、ゲート12直下の位置で390nmであった。
【0042】
ここで、所定領域15は、レンズ13の外形寸法の5%以上且つ15%以下の範囲である。本実施例では、レンズ13の外形寸法を40mmとしているので、ゲート12から6mm(外形寸法の15%に相当)までは、リタデーション量が高い状態であるが、6mmを超えると、急激にリタデーション量が小さくなっていた。
【0043】
また、成形したレンズ13の表面形状精度を測定したところ、レンズ13の設計値に対する形状誤差であるピークトゥバレー値(以下、PVという)が2.6μmと、高精度なレンズ13であった。
【0044】
ここで、レンズ13の外形が大きくなるほど、形状精度の誤差PVは大きくなる傾向にある。厚肉の光学デバイスの表面形状精度は、光学デバイスを用いる機器の種類によっても異なるが、外形サイズに対して0.05%以下であることが好ましく、さらには0.02%以下であることが好ましい。
【0045】
本実施例では、レンズ13の外形寸法が40mmであるので、形状誤差PVは20μm以下が好ましく、さらには8μm以下であることが好ましい。
【0046】
なお、本実施例では、レンズ樹脂材料の一例として、シクロオレフィンポリマーの例を示したが、その他の材料として、シクロオレフィンコポリマー(COC)、アクリル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、及びポリカーボネート(PC)などの透明な光学樹脂材料を用いてもよい。ここで、複屈折を抑制するためには、光弾性係数の小さいCOP、COC、及びPMMAがより好ましい。
【0047】
また、厚肉の光学デバイスの一例として、厚み12mmのレンズ13について説明したが、この形態に限定するものではない。例えば、外形形状によって高保圧の成形が必要になる厚肉のレンズ13として、厚み5mm以上且つ50mm以下のものであればよい。
【0048】
(アニール処理後のレンズについて)
アニール処理を行うのにあたって、ゲート12及びランナー11が一体成形されたレンズ13から、ランナー11の一部をカットする。そして、ゲート12及びランナー11を残した状態のレンズ13をアニール炉30に投入する(図4参照)。ここで、ランナー11は、10mm以上残した状態でカットする。
【0049】
なお、アニール時のランナー11の残存量については、アニール炉30のサイズ、レンズパレット31の大きさ、及びレンズ13に求められる表面形状精度によって調整すればよい。例えば、ランナー11を2mm以上且つ80mm以下残した状態とすればよい。ここで、ランナー11は、ゲート12とは別に2mm以上あれば良く、5mm以上あることが好ましく、さらには10mm以上あることが好ましい。
【0050】
そして、アニール炉30の設定温度を、材料のガラス転移点よりも所定温度低い温度に設定する。ここで、所定温度は、10℃以上且つ30℃以下である。本実施例では、ガラス転移温度よりも10℃以上低い110℃に炉内温度を上昇させた後、3時間かけてゆっくりと徐冷して室温に戻した。その後、レンズ13をアニール炉30から取り出し、ゲートカットを行った。
【0051】
図7は、アニール処理後のゲートからの距離とリタデーション量の関係を示すグラフ図である。図7に示すように、アニール処理によって、レンズ13全面において複屈折が抑制されており、そのリタデーション量は、最大値でも30nmまで抑制されていた。
【0052】
ここで、レンズ13の略全域で低いリタデーション量であったが、アニール前に複屈折が大きかったゲート12近傍の所定領域15では、わずかにリタデーション量が大きく、数十nm程度に対して、ゲート12近傍以外のエリアは、10nm程度にまでリタデーション量が小さくなっていた。
【0053】
また、アニール後の成形レンズの表面形状精度を、超高精度三次元測定機(パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社製、UA3P)によって測定したところ、設計形状に対する形状誤差PVが3.2μmであり、高精度をキープしていた。
【0054】
(比較例)
以下、比較例として、レンズ13を成形後にゲートカットをしてからアニール炉30に投入する従来の方法について検証した。
【0055】
上述した実施例において、レンズ13を成形後にゲートカットしたところ、ゲート12の残り量は1.1mmとなった。比較例では、ゲートカットしたレンズ13をレンズパレット31に並べて、アニール炉30に投入した(図3参照)。アニール条件は、上述した実施例と同様とした。
【0056】
アニール後の複屈折状態は、実施例のレンズ13とほぼ同様の状態になることが確認され、そのリタデーション量は最大値で30nmであった。
【0057】
しかしながら、超高精度三次元測定機(パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社製、UA3P)でレンズ13の表面形状精度を測定したところ、設計形状に対する形状誤差PVが32.8μmと大きく形状が崩れていた。これは、アニール処理時の応力歪み解放による形状変形が原因と考えられる。
【0058】
また、アニールにおける形状変形を抑えるために、アニール炉30の設定温度を下げて100℃に設定したところ、表面形状精度の設計形状に対する形状誤差PVは3.9μmと形状変形がほとんどない状態にできたが、複屈折を十分に抑制することができず、そのリタデーション量は310nmとなった。
【0059】
このように、レンズ13をゲートカットしてからアニール処理を行う場合、レンズ13の表面形状精度の維持と複屈折の抑制とは、トレードオフの関係にあり、両立することが難しい。
【0060】
これに対し、本実施形態に係る光学デバイスの製造方法によれば、ゲート12及びランナー11を残した状態のレンズ13をアニール処理することで、アニールでの応力歪み(複屈折)解放による形状変化を最小限に抑えるとともに、ゲート12近傍の複屈折を抑えることができる。これにより、高い表面形状精度と低い複屈折を両立した光学デバイスを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の光学デバイスは、主に高精度が必要な厚肉光学デバイスに適用できる。例えば、車載用のヘッドアップディスプレイ(HUD)やヘッドライト用などのレンズ、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)用のレンズ・プリズム、プロジェクタ用のレンズ・プリズム、及び撮像系のレンズ等の厚肉光学デバイスに対して、特に好適である。
【符号の説明】
【0062】
11 ランナー
12 ゲート
13 レンズ(光学デバイス)
15 所定領域
30 アニール炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7