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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190825
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20221220BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60L7/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099280
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100142918
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 貴志
(72)【発明者】
【氏名】劉 海博
(72)【発明者】
【氏名】河合 恵介
(72)【発明者】
【氏名】坂本 章
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】高木 達也
【テーマコード(参考)】
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D246GB15
3D246GB22
3D246GB23
3D246GB39
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA08A
3D246HA28A
3D246HA38A
3D246HA43A
3D246HA44A
3D246HA64A
3D246HA94A
3D246HB08C
3D246HC01
3D246JA12
3D246JB10
3D246JB47
3D246JB53
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CB02
5H125CB07
5H125DD01
5H125EE44
5H125EE53
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】よりスムーズに移動体を停止させることが可能な移動体の制御装置を提供する。
【解決手段】走行制御ECU50は、切替制御部55と、偏差取得部64と、を備える。切替制御部55は、車両10を減速させる際に、MG11a,11bの制動トルクを低下させつつ、制動装置の制動トルクを増加させる切替制御を実行する。偏差取得部64は、車両が停止状態になった際に、車両を停止状態に維持させるために必要な制動トルクと制動装置の制動トルクとの偏差を示す勾配補正トルクTslpを取得する。切替制御部55は、車両が停止状態になったことが検出された後は、勾配補正トルクTslpに基づいてMG11a,11bの出力トルクを補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪(18a~18d)に制動トルクを付与することが可能な制動装置(16a~16d)と、回生動作により前記車輪に制動トルクを付与することが可能な回転電機(11a,11b)とを有する移動体(10)に搭載される制御装置(50)であって、
前記移動体を減速させる際に、前記回転電機の制動トルクを低下させつつ、前記制動装置の制動トルクを増加させる切替制御を実行する切替制御部(55)と、
前記移動体の状態に関する情報を取得する情報取得部(51)と、
前記移動体が停止状態になった際に、前記移動体を停止状態に維持させるために必要な制動トルクと前記制動装置の制動トルクとの偏差を示す制動トルク偏差を取得する偏差取得部(64)と、を備え、
前記切替制御部は、前記情報取得部により前記移動体が停止状態になったことが検出された後は、前記制動トルク偏差に基づいて前記回転電機の出力トルクを補正する
移動体の制御装置。
【請求項2】
前記制動トルク偏差を第2制動トルク偏差とし、前記偏差取得部を第2偏差取得部とするとき、
前記移動体の減速中に前記制動装置の制動トルクの実際値と理想値との偏差を示す第1制動トルク偏差を取得する第1偏差取得部(63)を更に備え、
前記切替制御部は、前記切替制御が開始された後、前記情報取得部により前記移動体が停止状態であることが検出されるまでの期間は、前記第1制動トルク偏差に基づいて前記回転電機の出力トルクを補正する
請求項1に記載の移動体の制御装置。
【請求項3】
前記移動体は、前記制動装置に液圧を付与することにより前記制動装置を駆動させるホイールシリンダ(26a~26d)を有し、
前記情報取得部は、前記ホイールシリンダの圧力を検出するとともに、検出された前記ホイールシリンダの圧力に基づいて、前記制動装置から前記車輪に付与されている制動トルクの予測値を演算し、
前記第1偏差取得部は、前記制動トルクの予測値に基づいて前記第1制動トルク偏差を演算する
請求項2に記載の移動体の制御装置。
【請求項4】
前記移動体の減速度の実際値と理想値との偏差である減速度偏差を取得する減速度取得部(60)と、
前記移動体が位置している路面勾配に応じて前記移動体に発生する勾配外乱加速度を取得する勾配外乱取得部(61)と、
前記減速度偏差から前記勾配外乱加速度を減算した値に対応する制動トルクを前記制動トルクの予測値により除算することで偏差比率を演算する偏差比率演算部(62)と、を更に備え、
前記第1偏差取得部は、前記制動トルクの予測値に前記偏差比率を乗算することにより前記第1制動トルク偏差を演算する
請求項3に記載の移動体の制御装置。
【請求項5】
前記偏差比率演算部は、前記情報取得部により前記移動体のブレーキペダルが踏み込まれたことが検出された後、前記ブレーキペダルの踏み込みが解除されたことが検出されるまでの期間における前記偏差比率の平均値を演算し、
前記第1偏差取得部は、前記制動トルクの予測値に前記偏差比率の平均値を乗算することにより前記第1制動トルク偏差を演算する
請求項4に記載の移動体の制御装置。
【請求項6】
前記切替制御部は、前記切替制御が開始された後、前記情報取得部により前記移動体が停止状態になったことが検出されるまでの期間、前記回転電機に要求されているトルク要求値に前記第1制動トルク偏差を加算することにより前記回転電機の出力トルクを補正する
請求項2~4のいずれか一項に記載の移動体の制御装置。
【請求項7】
前記切替制御部は、前記情報取得部により前記移動体が停止状態になったことが検出された後に前記回転電機の出力トルクを補正する際に、前記回転電機の出力トルクに上限値を設ける
請求項1~6のいずれか一項に記載の移動体の制御装置。
【請求項8】
前記切替制御部は、前記第1制動トルク偏差、及び前記回転電機に要求されているトルク要求値の少なくとも一方を前記上限値として設定する
請求項7に記載の移動体の制御装置。
【請求項9】
前記切替制御部は、前記情報取得部により前記移動体が停止状態になったことが検出された後に前記回転電機の出力トルクを補正する際に、前記回転電機の出力トルクに下限値を設ける
請求項1~8のいずれか一項に記載の移動体の制御装置。
【請求項10】
前記切替制御部は、前記第1制動トルク偏差、及び前記回転電機に要求されているトルク要求値の少なくとも一方を前記下限値として設定する
請求項9に記載の移動体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載の車両の制御装置がある。この車両には、発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることが可能な回転電機と、車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置とが搭載されている。この制御装置は、目標制動トルクを維持しつつ回転電機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとを切り替える切替制御を実行する。
【0003】
具体的には、制御装置は、回転電機の制動トルクに基づいて車両が減速を開始した後、車両の速度が所定の切替開始速度まで低下すると切替制御を開始する。その後、制御装置は、車両の速度が切替開始速度から切替終了速度まで減少するまでの期間、回転電機の制動トルクと機械式ブレーキの制動トルクとを合計した合計トルクを目標制動トルクに維持しつつ、回転電機の制動トルクを低下させるとともに機械式ブレーキの制動トルクを増加させる。車両の速度が切替終了速度に達したときには、回転電機の制動トルクから機械式ブレーキの制動トルクへの切り替えが完了している。制御装置は、切替制御の実行中に、すなわち回転電機の制動トルクから機械式ブレーキの制動トルクへのすり替え過渡時に車両の制動トルクが目標制動トルクからずれた場合に、そのずれ量が小さくなるように回転電機の制動トルクを補正する。制御装置は、推定路面抵抗、惰行時トルク、車両加速度、デフ比、タイヤ径、及び基準車両重量に基づいて車両の制動トルクを演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-56587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両の制御装置では、例えば切替制御の実行中に車両の加速度が大きく変化したような場合、車両の制動トルクの演算値が急変するため、回転電機の制動トルクの補正量が大きく変化する。例えば、切替制御の実行中に車両が縁石に乗り上げたような場合、あるいは車両の走行路面が平坦面から傾斜面に変化したような場合、車両の加速度が大きく変化する結果、回転電機の制動トルクの補正量が大きくなる可能性がある。このような場合、回転電機の制御トルクが急変することになるため、車両をスムーズに停止させることができない。これが、車両の乗り心地を悪化させる要因となっている。
【0006】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、よりスムーズに移動体を停止させることが可能な移動体の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する制御装置(50)は、車輪(18a~18d)に制動トルクを付与することが可能な制動装置(16a~16d)と、回生動作により車輪に制動トルクを付与することが可能な回転電機(11a,11b)とを有する車両(10)に搭載される制御装置である。制御装置は、切替制御部(55)と、情報取得部(51)と、偏差取得部(64)と、を備える。切替制御部は、車両を減速させる際に、回転電機の制動トルクを低下させつつ、制動装置の制動トルクを増加させる切替制御を実行する。情報取得部は、車両の状態に関する情報を取得する。偏差取得部は、車両が停止状態になった際に、車両を停止状態に維持させるために必要な制動トルクと制動装置の制動トルクとの偏差を示す制動トルク偏差を取得する。切替制御部は、情報取得部により車両が停止状態になったことが検出された後は、制動トルク偏差に基づいて回転電機の出力トルクを補正する。
【0008】
この構成によれば、車両が停止した後は、制動トルク偏差に応じた制動トルクが回転電機から出力される。すなわち、車両を停止状態に維持させるために必要な制動トルクと制動装置の制動トルクとの偏差に相当するトルクが回転電機から出力される。このように制動装置の制動トルクのずれに相当するトルクを回転電機から出力するようにすれば、回転電機の出力トルクの急変を抑制しつつ、車両の制動力が不足するような状況が発生し難くなる。よって、よりスムーズに車両を停止させることが可能となる。
【0009】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の移動体の制御装置によれば、よりスムーズに移動体を停止させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態の車両の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態のブレーキシステムの概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、実施形態の車両の電気的な構成を示すブロック図である。
図4図4は、実施形態の走行制御ECUにより実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、実施形態の走行制御ECUにより実行される偏差比率演算処理の手順を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態の走行制御ECUにより実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図7図7(A)~(F)は、実施形態の車両における基本制動トルク、車速、回生トルク要求値、MGの出力トルク、制動トルク要求値、及び制動装置の制動トルクのそれぞれの推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、車両の制御装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
はじめに、本実施形態の制御装置が搭載される車両の概略構成について説明する。図1に示されるように、車両10は、前方MG(Motor Generator)11aと、後方MG11bと、前方インバータ装置12aと、後方インバータ装置12bと、電池13とを備えている。車両10は、MG11a,11bの動力に基づいて走行する、いわゆる電動車両である。本実施形態では、車両10が移動体に相当する。
【0013】
インバータ装置12a,12bは、電池13に蓄えられている直流電力を交流電力に変換するとともに、変換された交流電力をMG11a,11bにそれぞれ供給する。
MG11a,11bは、電動機及び発電機として動作する回転電機である。MG11a,11bは、電動機として動作する場合、インバータ装置12a,12bからそれぞれ供給される交流電力に基づいて駆動する。車両10では、前方MG11aの駆動力が前方ドライブトレイン14a及び前方ドライブシャフト15aを介して右前輪18a及び左前輪18bにそれぞれ伝達されることにより前輪18a,18bが回転する。同様に、後方MG11bの駆動力が後方ドライブトレイン14b及び後方ドライブシャフト15bを介して右後輪18c及び左後輪18dにそれぞれ伝達されることにより後輪18c,18dが回転する。このように、車両10は、4つの車輪18a~18dが駆動輪として機能する、いわゆる4輪駆動の車両である。
【0014】
MG11a,11bは車両10の制動時に回生動作することにより発電機として動作する。詳しくは、車両10の制動時、右前輪18a及び左前輪18bに加わる制動トルクが前方ドライブシャフト15a及び前方ドライブトレイン14aを介して前方MG11aに入力される。前方MG11aは前輪18a,18bから逆入力されるトルクに基づいて発電する。前方MG11aにより発電される交流電力は前方インバータ装置12aにより直流電力に変換されて電池13に充電される。同様に、後方MG11bにより発電される交流電力は後方インバータ装置12bにより直流電力に変換されて電池13に充電される。
【0015】
4つの車輪18a~18dには制動装置16a~16dがそれぞれ設けられている。制動装置16a~16dは、図2に示される油圧制動システム20の構成要素である。油圧制動システム20は、運転者のブレーキペダル21の踏み込み操作に基づいて制動装置16a~16dを駆動させて車輪18a~18dに摩擦力を付与することにより車両10に制動力を付与する。
【0016】
具体的には、図2に示されるように、油圧制動システム20は、ブレーキペダル21と、マスターシリンダ22と、ブースタ23と、リザーバタンク24と、油圧回路25と、制動装置16a~16dとを備えている。
マスターシリンダ22はブレーキペダル21に対する運転者の踏み込み操作に基づいてブレーキオイルに油圧を発生させる。ブレーキペダル21にはブースタ23が接続されている。ブースタ23にはマスターシリンダ22が固定されている。ブースタ23は、マスターシリンダ22において、運転者の踏み込み操作によりブレーキペダル21に入力された圧力を、ブレーキペダル21の操作量に応じたブレーキ油圧へと変換する。本実施形態ではマスターシリンダ22内のブレーキ油圧をマスターシリンダ圧とも称する。マスターシリンダ22には、図示しないマスターシリンダポンプが設けられており、このポンプによりマスターシリンダ22内を加圧することによりマスターシリンダ圧を調整することが可能となっている。マスターシリンダ22の上部にはリザーバタンク24が設けられている。ブレーキペダル21の踏み込み操作が解除されたとき、マスターシリンダ22及びリザーバタンク24は連通状態となる。
【0017】
油圧回路25は、マスターシリンダ22と制動装置16a~16dとの間に設けられており、マスターシリンダ22と制動装置16a~16dとの間でブレーキオイルの油圧を調整して伝達する回路である。本実施形態では、ブレーキオイルの油圧が液圧に相当する。
制動装置16a~16dはホイールシリンダ26a~26dをそれぞれ有している。ホイールシリンダ26a~26dは、油圧回路25からブレーキオイルの油圧が伝達されることにより、車輪18a~18dに制動力をそれぞれ付与する。このホイールシリンダ26a~26dにより構成される制動装置16a~16dは、ドラム式やディスク式等の各種の制動装置を用いることが可能である。
【0018】
車両10は、その状態を検出するための各種センサを有している。図3に示されるように、車両10は、例えばマスターシリンダ圧センサ30、ホイール圧センサ31、車輪速センサ32a~32d、MGレゾルバ33a,33b、電流センサ34a,34b、加速度センサ35、アクセル開度センサ36、及びブレーキストロークセンサ37を有している。
【0019】
マスターシリンダ圧センサ30は、図2に示されるマスターシリンダ22の内圧であるマスターシリンダ圧Pmcを検出する。ホイール圧センサ31は、図2に示されるホイールシリンダ26a~26dの内圧であるホイール圧Pwcを検出する。車輪速センサ32a~32dは、4つの車輪18a~18dにそれぞれ設けられており、車輪18a~18dの単位時間当たりの回転数である車輪速ωwh(a)~ωwh(d)をそれぞれ検出する。MGレゾルバ33a,33bは、2つのMG11a,11bにそれぞれ設けられており、MG11a,11bの出力軸の単位時間当たりの回転数であるMG回転速度ωfmg,ωrmgをそれぞれ検出する。電流センサ34a,34bも、2つのMG11a,11bにそれぞれ設けられており、MG11a,11bに供給される駆動電流Img(a),Img(b)をそれぞれ検出する。
【0020】
加速度センサ35は、図1に示される車体17に取り付けられており、車両10の加速度Asenを検出する。加速度センサ35は、例えば車体17の前後方向、左右方向、及び上下方向のそれぞれの加速度に加え、ピッチ方向、ロー方向、及びヨー方向のそれぞれの加速度を検出することができる、いわゆる6軸加速度センサである。アクセル開度センサ36は車両10のアクセルペダルの踏み込み量Saを検出する。ブレーキストロークセンサ37は、図2に示されるブレーキペダル21の踏み込み量Sbを検出する。
【0021】
車両10は、それに搭載される複数の装置を制御するための各種ECU(Electronic Control Unit)を備えている。図3に示されるように、車両10は、例えばブレーキECU40と、走行制御ECU50とを備えている。各ECU40,50は、CPUやROM、RAM等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。各ECU40,50は、車両10に設けられる車載ネットワーク70を介して各種情報を双方向に通信可能である。
【0022】
ブレーキECU40は、そのROMに予め記憶されたプログラムを実行することにより油圧制動システム20を制御する。例えば、ブレーキECU40は、走行制御ECU50から送信される制動トルク要求値に基づいて油圧制動システム20を制御する。制動トルク要求値は、制動装置16a~16dから車輪18a~18dに付与すべき制動トルクの目標値である。ブレーキECU40は、制動装置16a~16dから車輪18a~18dにそれぞれ付与される制動トルクの総和が制動トルク要求値となるように油圧制動システム20を制御する。
【0023】
走行制御ECU50は、そのROMに予め記憶されたプログラムを実行することにより車両10の走行を統括的に制御する。本実施形態では、走行制御ECU50が制御装置に相当する。走行制御ECU50は、そのプログラムを実行することにより実現される機能的な要素として、例えば情報取得部51と、目標トルク設定部52と、MG制御部53と、制動指示部54とを有している。
【0024】
情報取得部51は、車両10に搭載されるセンサの出力信号に基づいて車両10の各種状態量を検出及び演算する。例えば、情報取得部51は、各センサ30~37の出力信号に基づいて、マスターシリンダ圧Pmc、ホイール圧Pwc、車輪速ωwh(a)~ωwh(d)、MG回転速度ωfmg,ωrmg、駆動電流Img(a),Img(b)、車両10の加速度Asen、アクセルペダルの踏み込み量Sa、及びブレーキペダル21の踏み込み量Sbを検出する。また、情報取得部51はセンサの検出値に基づいて車両10の各種状態量を更に演算する。例えば、情報取得部51は、車輪速ωwh(a)~ωwh(d)の平均値を求めるとともに、求められた平均車輪速から演算式等を用いて、車両10の走行速度である車速V及び車両10の加速度Awhを演算する。また、情報取得部51は、MG回転速度ωfmg,ωrmgのそれぞれの時間微分値を演算することにより、前方MG11aの回転加速度afmg及び後方MG11bの回転加速度armgを取得する。さらに、情報取得部51は、MG回転速度ωfmg,ωrmgの平均値を求めるとともに、求められた平均値をMG回転速度ωmgとして用いる。
【0025】
目標トルク設定部52は、情報取得部51から車両10の各種状態量を取得するとともに、取得した状態量に基づいて、MG11a,11bの出力トルクの目標値であるトルク指示値Tmg を設定する。
目標トルク設定部52は、例えば情報取得部51から取得したアクセルペダルの踏み込み量Saに基づいてアクセルペダルが踏み込まれたことを検出した場合、アクセルペダルの踏み込み量Saに基づいて基本駆動トルクを演算式やマップ等を用いて演算する。基本駆動トルクは、車両10を加速させるために車輪18a~18dに付与すべき駆動トルクの目標値である。基本駆動トルクは、車両10を前進方向に加速させる場合には正の値に設定され、車両10を後進方向に加速させる場合には負の値に設定される。目標トルク設定部52は、演算された基本駆動トルクから、MG11a,11bから出力すべき駆動トルクの目標値である駆動トルク要求値Tdrvを演算するとともに、演算された駆動トルク要求値Tdrvをトルク指示値Tmg としてMG制御部53に送信する。
【0026】
また、目標トルク設定部52は、情報取得部51から取得したブレーキペダル21の踏み込み量Sbに基づいてブレーキペダルが踏み込まれたことを検出した場合、ブレーキペダル21の踏み込み量Sbに基づいて基本制動トルクを演算式やマップ等を用いて演算する。基本制動トルクは、車両10を減速させるために車輪18a~18dに付与すべき制動トルクの目標値である。基本制動トルクは、基本的には負の値に設定されている。目標トルク設定部52は、演算された基本制動トルクから、MG11a,11bから出力すべき回生トルクの目標値である回生トルク要求値Trgrを演算するとともに、演算された回生トルク要求値Trgrをトルク指示値Tmg としてMG制御部53に送信する。
【0027】
MG制御部53は、目標トルク設定部52から送信されるトルク指示値Tmg に基づいてMG11a,11bの駆動を制御する。これにより、例えばトルク指示値Tmg が駆動トルク要求値Tdrvに設定されている場合には、MG11a,11bのそれぞれの駆動トルクの総和が駆動トルク要求値Tdrvとなるように制御される。結果的に、アクセルペダルの踏み込み量Saに応じた駆動トルクがMG11a,11bから出力されて、車両10が前進方向又は後進方向に加速する。
【0028】
一方、トルク指示値Tmg が回生トルク要求値Trgrに設定されている場合には、MG11a,11bのそれぞれの回生トルクの総和が回生トルク要求値Trgrとなるように制御される。結果的に、ブレーキペダル21の踏み込み量Sbに応じた回生トルクがMG11a,11bから出力されて、車両10が減速する。
【0029】
なお、以下では、MG11a,11bの駆動トルク及び回生トルクをまとめて「MG11a,11bの出力トルク」とも称する。
ところで、MG11a,11bの回生トルクにより車両10が減速した後に停止する際に、油圧制動システム20を用いずに、MG11a,11bの回生トルクのみで車両10を停止させることができれば、停止時に発生する異音を抑制したり、車両10の挙動を安定化させたりすることが可能となる。
【0030】
但し、所定の勾配を有する傾斜路で車両10が停止するような場合、重力の影響により車両10には前後方向の外力が作用するため、重力に抗して車両10を停止状態に維持するためには、車輪18a~18dに制動トルクを付与し続ける必要がある。この制動トルクに対応した回生トルクをMG11a,11bから出力し続けると、モータロックに伴う発熱がMG11a,11bから発生するおそれがある。また、制御上の規制等によりMG11a,11bから回生トルクを出力し続けることができない場合もある。したがって、車両10が停止した後は、MG11a,11bの回生トルクから油圧制動システム20の制動トルクに切り替えることが望ましい。なお、本実施形態の車両10の停止とは、車両10の停車及び駐車のいずれであってもよい。また、車両10の停止状態とは、車両10の停車状態及び駐車場状態のいずれであってもよい。
【0031】
そこで、走行制御ECU50は、車両10が傾斜路等で停止する際にMG11a,11bの回生トルクから制動装置16a~16dの制動トルクに切り替える切替制御を実行する。図3に示されるように、走行制御ECU50は、この切替制御を実行する切替制御部55を更に備えている。
【0032】
例えば、切替制御部55は、MG11a,11bの回生動作により車両10が減速を開始した後、車速Vの推移を監視している。切替制御部55は、車速Vが所定の切替速度Vtha以下になったことを検出すると、切替制御を開始する。具体的には、切替制御部55は、MG制御部53に送信する回生トルク要求値Trgrの絶対値を時間の経過に伴って徐々に減少させつつ、その減少分に相当する制動トルク要求値TrbをブレーキECU40に送信する。したがって、切替制御が開始されて以降、制動トルク要求値Trbは時間の経過に伴って徐々に増加する。切替制御の実行中において回生トルク要求値Trgrと制動トルク要求値Trbとの総和は、ブレーキペダル21の踏み込み量に応じた基本制動トルクに維持される。このような切替制御が実行されることにより、MG11a,11bの回生トルクが徐々に減少するとともに、油圧制動システム20から車輪18a~18dに付与される制動トルクが徐々に増加する。なお、以下では、回生トルク要求値Trgrを「基本回生トルク要求値Trgr」とも称する。
【0033】
一方、切替制御部55は、切替制御を行っている期間に停止時必要制動トルクTstpを演算する。停止時必要制動トルクTstpは、車両10が停止した後に停止状態を維持するために油圧制動システム20から車輪18a~18dに付与すべき制動トルクである。例えば、切替制御部55は、加速度センサ35の出力信号に基づいて検出される車両10の第1減速度と、車輪速ωwh(a)~ωwh(d)に基づいて検出される車両10の第2減速度とを情報取得部51から取得する。第1減速度には、大きくは、車両前後方向における車両10の実際の減速度と、重力加速度の車両進行方向成分とが含まれている。第2減速度は、車両前後方向における車両10の実際の減速度である。したがって、第1減速度と第2減速度との差分値は重力加速度の車両前後方向成分となる。これを利用し、切替制御部55は、第1減速度と第2減速度との差分値を演算するとともに、演算された差分値から所定の演算式等を用いることにより、車両10が停止した際に車両前後方向において車両10に作用する重力成分である減速力を演算する。
【0034】
切替制御部55は、演算された減速力から所定の演算式等を用いて停止時必要制動トルクTstpを演算するとともに、演算された停止時必要制動トルクTstpを制動トルク要求値TrbとしてブレーキECU40に送信する。ブレーキECU40は、車両10が停止した際に、この制動トルク要求値Trbに基づいて油圧制動システム20を制御する。これにより、制動装置16a~16dから車輪18a~18dに停止時必要制動トルクTstpが付与されるため、車両10が傾斜路で停止する場合であっても、停止状態を維持することが可能となる。
【0035】
ところで、MG11a,11bの回生トルクの制御精度及び応答精度と比較すると、油圧制動システム20の制動トルクの制御精度及び応答精度は低い。これは、油圧制動システム20から車輪18a~18dに実際に付与される制動トルクが制動トルク要求値Trbからずれる要因となる。仮に登坂路で車両10が停止する際に油圧制動システム20の制動トルクの絶対値が小さくなる方向にずれたような場合、油圧制動システム20の制動トルクが不足するため、車両10が停止後にずり下がる可能性がある。
【0036】
一方、このような油圧制動システム20の制動トルクのずれ量をMG11a,11bの回生トルクにより補うという方法も考えられるが、上記の特許文献1に記載の制御装置のように車両10の加速度に基づいてMG11a,11bの回生トルクを定めると、車両10の加速度が急変した際にMG11a,11bの回生トルクが大きく変化する可能性がある。このような場合、車両10に大きな制動力が加わることとなるため、車両10をスムーズに停止させることができないおそれがある。
【0037】
そこで、本実施形態の走行制御ECU50は、情報取得部51により検出及び演算される各種状態量に基づいて油圧制動システム20から車輪18a~18dに付与される制動トルクの実際値と制動トルク要求値Trbとの偏差を推定する。本実施形態では、制動トルク要求値Trbが制動装置16a~16dの制動トルクの理想値に相当する。そして、走行制御ECU50は、それらの偏差に基づいてMG11a,11bの出力トルクを補正することにより、車輪18a~18dに実際に付与される制動トルクが基本制動トルクからずれることを抑制する。また、走行制御ECU50は、MG11a,11bの回生トルク指示値に上限値及び下限値を設けることにより、車両10が停止する際にMG11a,11bの出力トルクの絶対値が大きくなり過ぎることを回避する。これにより、よりスムーズな車両10の停止が可能となる。
【0038】
以下、車両10を減速させてから停止させるまでに走行制御ECU50により実行されるMG11a,11bの制御の詳細について説明する。
図3に示されるように、走行制御ECU50は、そのプログラムを実行することにより実現される機能的な要素として、減速度取得部60と、勾配外乱取得部61と、偏差比率演算部62と、第1偏差取得部63と、第2偏差取得部64とを更に備えている。
【0039】
減速度取得部60は、車両10の減速中に車両10の減速度の実際値Dと理想値Dとの偏差である外乱減速度偏差Diffsumを演算する。
車両10の減速度の実際値Dは車両10の実際の減速度である。減速度取得部60は、例えば情報取得部51により取得される車速Vの微分値を演算することにより、車両10の減速度の実際値Dを取得する。
【0040】
車両10の減速度の理想値Dは、MG11a,11bの出力トルクや路面の転がり抵抗等に基づいて車両10に発生すべき減速度である。減速度取得部60は、例えば以下の式f1に基づいて車両10の減速度の理想値Dを演算する。なお、式f1において、「T」は車輪18a~18dに加わるトルクであり、「I」は車体17のイナーシャであり、「R」は車輪18a~18dのタイヤの半径である。
【0041】
【数1】


車体17のイナーシャI及びタイヤの半径Rは走行制御ECU50のROMに予め記憶されている。
トルクTは以下の式f2により情報取得部51により演算される。なお、式f2において、「Tmg 」はトルク指示値であり、「Tbrk」は油圧制動トルクであり、「Ifmg」は前方ドライブシャフト15aのイナーシャであり、「afmg」は、情報取得部51により取得される前方MG11aの回転加速度である。また、「Irmg」は後方ドライブシャフト15bのイナーシャであり、「armg」は、情報取得部51により取得される後方MG11bの回転加速度であり、「Troad」は、路面の転がり抵抗に基づいて車輪18a~18dに加わる路面反力トルクである。
【0042】
【数2】


トルク指示値Tmg は、上述の通り、目標トルク設定部52により設定される。また、情報取得部51は以下の式f3に基づいて油圧制動トルクTbrkを演算する。なお、式f3において、「Pwc」は、情報取得部51により取得されるホイール圧であり、「BEF」は制動ファクタである。
【0043】
【数3】


制動ファクタBEFは、制動装置16a~16dの制動トルクに対する車輪18a~18dに実際に作用する制動トルクの比率を示すものである。制動ファクタBEFは、設計値として予め求められており、走行制御ECU50のROMに記憶されている。本実施形態では、この式f3に基づいて演算される油圧制動トルクTbrkが、制動装置16a~16dから車輪18a~18dに付与される制動トルクの予測値に相当する。
【0044】
式f2におけるイナーシャIfmg,Irmgも走行制御ECU50のROMに予め記憶されている。
さらに、情報取得部51は路面反力トルクTroadを以下の式f4に基づいて演算する。なお、式f4において、「α」、「β」、及び「γ」は所定の係数であり、「V」は、情報取得部51に取得される車速である。
【0045】
【数4】

係数α,β,γは走行制御ECU50のROMに予め記憶されている。
情報取得部51は、目標トルク設定部52により設定されるトルク指示値Tmg 、式f3により演算される油圧制動トルクTbrk、走行制御ECU50のROMに予め記憶されているイナーシャIfmg,Irmg、情報取得部51により取得される回転加速度afmg,armg、及び式f4により演算される路面反力トルクTroadから上記の式f2を用いて基本車両トルクTを演算する。また、減速度取得部60は、演算された基本車両トルクTから上記の式f1を用いて車両10の減速度の理想値Dを演算する。車両10の減速度の理想値Dは基本車両トルクTに基づいて発生する車両10の減速度である。
【0046】
ここで、車両10は、基本車両トルクTだけでなく、それ以外の外乱トルクの影響を受けて減速する。外乱トルクには、大きくは、車両10が傾斜路に位置しているときに重力の影響により車両10に作用する勾配外乱トルク、及び制動装置16a~16dから車輪18a~18dに加わる制動トルクのずれ量等がある。制動トルクのずれ量とは、油圧制動システム20から車輪18a~18dに付与される制動トルクの実際値と制動トルク要求値Trbとのずれ量である。車両10は、実際には、基本車両トルクT及び外乱トルクの影響を受けて減速することになる。すなわち、車速Vの微分値から演算される車両10の減速度の実際値Dは基本車両トルクT及び外乱トルクに基づいて発生する車両10の減速度である。
【0047】
以上のような車両10の減速度の実際値D及び車両10の減速度の理想値Dのそれぞれの定義に基づけば、それらの偏差である外乱減速度偏差Diffsumは、勾配外乱トルク及び制動トルクのずれ量に基づいて発生する車両10の外乱減速度となる。具体的には、減速度取得部60は、車両10の減速度の実際値D及び車両10の減速度の理想値Dから以下の式f5に基づいて外乱減速度偏差Diffsumを演算する。なお、式f4において「LFP」はローパスフィルタの関数を示し、「τ」及び「τ」はローパスフィルタの時定数を示す。
【0048】
【数5】

時定数τ,τは走行制御ECU50のROMに予め記憶されている。
一方、勾配外乱取得部61は、加速度センサ35により検出される車両10の加速度Asen、及び車輪速ωwh(a)~ωwh(d)から求められる車両10の加速度Awhを用いて、車両10が位置している路面の勾配に基づいて発生する車両10の加速度Aslpを演算する。以下では、この車両10の加速度Aslpを「勾配外乱加速度Aslp」と称する。
【0049】
具体的には、加速度センサ35により検出される車両10の加速度Asenには、車両10の実際の加速度だけでなく、車両10の重力加速度成分が含まれている。これに対し、情報取得部51により車輪速ωwh(a)~ωwh(d)から求められる車両10の加速度Awhは車両10の実際の加速度となる。これを利用し、勾配外乱取得部61は、以下の式f6に示されるように、加速度Asenから加速度Awhを減算することにより勾配外乱加速度Aslpを演算する。
【0050】
【数6】


偏差比率演算部62は、減速度取得部60により演算される外乱減速度偏差Diffsum、及び勾配外乱取得部61により演算される勾配外乱加速度Aslpを用いることにより、制動装置16a~16dの制動トルクの理想値に対する実際値のずれ量の比率である偏差比率Rptを演算する。具体的には、偏差比率演算部62は、以下の式f7に基づいて外乱減速度偏差Diffsumから勾配外乱加速度Aslpを減算することにより制動外乱減速度Diffbrkを演算する。制動外乱減速度Diffbrkは、制動装置16a~16dから車輪18a~18dに加わる制動トルクのずれ量に基づいて発生する車両10の減速度である。
【0051】
【数7】

偏差比率演算部62は制動外乱減速度Diffbrkから以下の式f8に基づいて制動外乱トルクTbrk,Dを演算する。なお、式f8において、「I」は車体17のイナーシャであり、「R」は車輪18a~18dのタイヤの半径である。
【0052】
【数8】

この式f8により演算される制動外乱トルクTbrk,Dは制動装置16a~16dの制動トルクのずれ量を示すものである。
一方、上記の式f3を用いて演算される油圧制動トルクTbrkは制動装置16a~16dの制動トルクの理想値を示すものである。
【0053】
そこで、偏差比率演算部62は、以下の式f9に示されるように、式f8を用いて演算される制動外乱トルクTbrk,Dを、上記の式f3を用いて演算される油圧制動トルクTbrkで除算することにより偏差比率Rptを演算する。なお、式f9において、「Filter」は例えばローパスフィルタに基づく関数を表すものである。
【0054】
【数9】

第1偏差取得部63は、偏差比率演算部62により演算される偏差比率Rptと、ROMに記憶されている制動ファクタBEFと、情報取得部51により取得されるホイール圧Pwcとから以下の式f10に基づいて補正トルクTcorを演算する。
【0055】
【数10】

本実施形態では、補正トルクTcorが、制動装置16a~16dの制動トルクの実際値と理想値との偏差である第1制動トルク偏差に相当する。
切替制御部55は、切替制御の実行の際に、すなわち基本回生トルク要求値Trgrの絶対値を減少させつつ制動トルク要求値Trbの絶対値を増加させている際に、以下の式f11に基づいてトルク指示値Tmg を演算する。
【0056】
【数11】

MG制御部53は、この式f11により演算されるトルク指示値Tmg に基づいてMG11a,11bの出力トルクを制御する。これにより、MG11a,11bから出力されるトルクが、基本回生トルク要求値Trgrに補正トルクTcorを加算した値に制御される。結果的に、基本回生トルク要求値Trgrに応じた回生トルクに加え、制動装置16a~16dの制動トルクのずれ量に応じたトルクがMG11a,11bから出力されるため、車輪18a~18dに加わる実際の制動トルクが基本制動トルクから大きくずれ難くなる。よって、よりスムーズに車両10を停止させることが可能となる。
【0057】
第2偏差取得部64は、車両10が傾斜路で停止状態になった際に制動装置16a~16dの制動トルクだけでは車両10を停止状態に維持することができない場合に、その不足分の制動トルクに対応するMG11a,11bの出力トルクの補正値Tslpを演算する。以下では、この出力トルクの補正値Tslpを「勾配補正トルクTslp」と称する。本実施形態では、勾配補正トルクTslpが、車両10が停止状態になった際に、車両10を停止状態に維持するために必要な制動トルクと制動装置16a~16dの制動トルクとの偏差である第2制動トルク偏差に相当する。
【0058】
具体的には、第2偏差取得部64は以下の式f12に基づいて勾配補正トルクTslpを演算する。なお、式f12において、「K」はフィードバック係数であり、「ωmg」は、情報取得部51により取得されるMG回転速度であり、「T」は勾配補正トルクの初期値である。
【0059】
【数12】

フィードバック係数Kは走行制御ECU50のROMに予め記憶されている。第2偏差取得部64は、式f12の積分項を、切替制御の実行の開始時から現在までの経過時間に基づく時間積分値として用いる。
また、第2偏差取得部64は、以下の式f13に基づいて勾配補正トルクの初期値Tを演算する。なお、式f13において、「M」は、車両10の重量であり、「Aslp」は、車両10が位置している路面の勾配に基づいて発生する車両10の加速度であり、「R」は、タイヤの半径であり、「DEF」は、MG11a,11bから車輪18a~18dのタイヤまでのギア比である。
【0060】
【数13】

車両10の重量M、タイヤの半径R、及びギア比DEFは走行制御ECU50のROMに予め記憶されている。車両10の加速度Aslpは上記の式f6の演算値が用いられる。
切替制御部55は、車両10が停止状態になった際に、以下の式f14に示されるように、勾配補正トルクTslpをトルク指示値Tmg に設定する。
【0061】
【数14】

その際、切替制御部55は、基本回生トルク要求値の絶対値|Trgr|及び補正トルクの絶対値|Tcor|のうちのいずれか大きい方をトルク指示値Tmg の上限値に設定する。また、切替制御部55は、「-|Trgr|」及び「-|Tcor|」のうちのいずれか小さい方をトルク指示値Tmg の下限値に設定する。
【0062】
MG制御部53はトルク指示値Tmg に基づいてMG11a,11bの出力トルクを制御する。これにより、MG11a,11bから出力されるトルクが勾配補正トルクTslpに制御される。結果的に、制動装置16a~16dの制動トルクだけでは車両10を停止状態に維持することができない場合に、その不足分に相当するトルクがMG11a,11bから出力されるため、車両10を停止状態に維持することが可能となる。
【0063】
次に、以上のような走行制御ECU50の各要素により実行される具体的な処理の手順について図4図6を参照して説明する。
走行制御ECU50は、図4に示される処理を所定の周期で繰り返し実行する。図4に示されるように、走行制御ECU50では、まず、ステップS10の処理として、情報取得部51が、車両10のReady信号がオン状態であるか否かを判断する。車両10には、車両10を始動させる際に運転者が操作するReadyスイッチが設けられている。
【0064】
Ready信号はReadyスイッチの出力信号である。運転者がReadyスイッチをオン操作すると、Ready信号がオン状態になる。したがって、ステップS10の処理は、車両10が始動しているか否かを判断する処理に相当する。
情報取得部51は、ステップS10の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわちReadyスイッチがオン状態である場合には、ステップS11の処理として、油圧制動トルクTbrkが所定のトルク閾値Tth以上であるか否かを判断する。具体的には、情報取得部51は、ホイール圧センサ31により検出されるホイール圧Pwc、及びROMに予め記憶されている制動ファクタBEFから上記の式f3に基づいて油圧制動トルクTbrkを演算する。トルク閾値Tthは、ブレーキペダル21が踏み込まれているか否かを判断することができるように予め実験等により求められており、走行制御ECU50のROMに記憶されている。
【0065】
情報取得部51は、ステップS11の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわち油圧制動トルクTbrkが所定のトルク閾値Tth以上である場合には、ブレーキペダル21が踏み込まれていると判断する。この場合、走行制御ECU50は、ステップS12の処理として、偏差比率Rptを演算する処理を実行する。この偏差比率演算処理の具体的な処理手順は図5に示される通りである。
【0066】
図5に示されるように、偏差比率演算処理では、まず、ステップS20の処理として、減速度取得部60が外乱減速度偏差Diffsumを演算する。具体的には、減速度取得部60は、車速Vの微分値から演算される車両10の減速度の実際値D、及び上記の式f1~f4により演算される車両10の減速度の理想値Dから上記の式f5に基づいて外乱減速度偏差Diffsumを演算する。
【0067】
勾配外乱取得部61は、ステップS20に続くステップS21の処理として、加速度センサ35により検出される車両10の加速度Asenと、車輪速ωwh(a)~ωwh(d)から求められる車両10の加速度Awhとから上記の式f6に基づいて勾配外乱加速度Aslpを演算する。
【0068】
偏差比率演算部62は、ステップS21に続くステップS22の処理として、ステップS20及びS21の処理でそれぞれ得られた外乱減速度偏差Diffsum及び勾配外乱加速度Aslpから上記の式f7に基づいて制動外乱減速度Diffbrkを演算する。
【0069】
偏差比率演算部62は、ステップS22に続くステップS23の処理として、偏差比率Rptを演算する。具体的には、偏差比率演算部62は、ステップS22の処理で得られる制動外乱減速度Diffbrkから上記の式f8に基づいて制動外乱トルクTbrk,Dを演算する。また、偏差比率演算部62は、上記の式f3を用いることにより油圧制動トルクTbrkを演算する。そして、偏差比率演算部62は、制動外乱トルクTbrk,D及び油圧制動トルクTbrkから上記の式f9に基づいて偏差比率Rptを演算する。
【0070】
このようにして求められる偏差比率Rptを用いることにより、上記の式f10に基づいて補正トルクTcorを演算することが可能となる。本実施形態の走行制御ECU50は、補正トルクTcorの演算精度を高めるために、ブレーキペダル21が踏み込まれている期間における偏差比率Rptの平均値を求めるとともに、求められた偏差比率Rptの平均値に基づいて補正トルクTcorを演算する。
【0071】
具体的には、偏差比率演算部62は、ステップS23に続くステップS24の処理として、偏差比率積算値SumR,n及び時間積算値SumT,nを演算する。偏差比率演算部62は、以下の式f15に基づいて、偏差比率積算値SumR,nを演算する。なお、式f15において、「SumR,n-1」は、偏差比率積算値SumR,nの前回値であり、「ΔT」は、予め定められた微少時間である。
【0072】
【数15】

また、偏差比率演算部62は、以下の式f16に基づいて、時間積算値SumT,nを演算する。なお、式f16において、「SumT,n-1」は、時間積算値SumT,nの前回値である。
【0073】
【数16】

情報取得部51は、ステップS24に続くステップS25の処理として、油圧制動トルクTbrkが所定のトルク閾値Tth以上であるか否かを判断する。このステップS26の処理は図4のステップS11の処理と同様である。情報取得部51は、ステップS26の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわちブレーキペダル21が踏み込まれていると判断した場合には、ステップS20の処理に戻る。したがって、ブレーキペダル21が踏み込まれている期間は、ステップS20~S25の処理が繰り返し実行される。これにより、ブレーキペダル21が踏み込まれている期間における偏差比率積算値SumR,n及び時間積算値SumT,nを求めることができる。
【0074】
その後、偏差比率演算部62は、ステップS25の処理で否定的な判断が行われた場合には、すなわちブレーキペダル21の踏み込みが解除された場合には、ステップS26の処理として、以下の式f17に基づいて偏差比率の平均値Ave(Rptを演算する。
【0075】
【数17】

以上の処理により偏差比率の平均値Ave(Rptを演算できるが、例えばブレーキペダル21の踏み込み時間が極端に短いような場合に、その演算値が大きな誤差を有する可能性がある。仮に偏差比率の平均値Ave(Rptが大きな誤差を有しているような場合、その演算値から上記の式f10に基づいて補正トルクTcorを演算すると、補正トルクTcorが誤った値に設定される可能性がある。これにより、例えば補正トルクTcorが大きく変化すると、MG11a,11bの出力トルクが大きく変動するため、好ましくない。
【0076】
そこで、偏差比率演算部62は、今回のブレーキペダル21の踏み込み操作時に演算された偏差比率の今回の平均値Ave(Rptと、前回のブレーキペダル21の踏み込み操作時に演算された偏差比率の前回の平均値Ave(Rptn-1との偏差が所定値N以上である場合には、偏差比率の平均値Ave(Rptの変動量を所定値Nに制限する。
【0077】
具体的には、偏差比率演算部62は、ステップS26に続くステップS27の処理として、RAMに記憶されている偏差比率の平均値Ave(Rptを、前回の平均値Ave(Rptn-1に設定する。
偏差比率演算部62は、ステップS27に続くステップS28の処理として、以下の式f18に基づいて差分値Diffを演算する。
【0078】
【数18】

偏差比率演算部62は、ステップS28に続くステップS29の処理として、差分値の絶対値|Diff|が所定値N以上であるか否かを判断する。偏差比率演算部62は、ステップS29の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわち差分値の絶対値|Diff|が所定値N以上である場合には、ステップS30の処理を実行する。具体的には、偏差比率演算部62は、以下の式f19に基づいて偏差比率の今回の平均値Ave(Rptを設定し直す。なお、式f19において「sign」は符号関数である。
【0079】
【数19】

したがって、差分値の絶対値|Diff|が所定値N以上である場合には、偏差比率の今回の平均値Ave(Rptが、前回の平均値Ave(Rptn-1に所定値Nを加算又は減算した値に制限される。
偏差比率演算部62は、ステップS30に続くステップS31の処理として、偏差比率の今回の平均値Ave(RptをRAMに記憶した後、図5に示される処理を終了する。
【0080】
一方、偏差比率演算部62は、ステップS29の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち差分値の絶対値|Diff|が所定値N未満である場合には、ステップS31の処理として偏差比率の今回の平均値Ave(RptをそのままRAMに記憶した後、図5に示される処理を終了する。
【0081】
図4及び図5に示される処理が実行されることにより、車両10のブレーキペダル21の踏み込み操作が行われる都度、偏差比率の平均値Ave(Rptが更新されるとともに、その値がRAMに記憶されることとなる。
走行制御ECU50は、切替制御の実行中に、この偏差比率の平均値Ave(Rptを用いて基本回生トルク要求値Trgrを補正する。次に、この走行制御ECU50により実行される基本回生トルク要求値Trgrの補正処理の具体的な手順について図6を参照して説明する。なお、走行制御ECU50は、図6に示される処理を所定の演算周期で繰り返し実行する。
【0082】
図6に示されるように、走行制御ECU50では、まず、ステップS40の処理として、情報取得部51が、車両10のReady信号がオン状態であるか否かを判断する。また、情報取得部51は、ステップS40の処理で肯定的な判断を行った場合には、ステップS41の処理として、油圧制動トルクTbrkが所定のトルク閾値Tth以上であるか否かを判断する。ステップS40,S41の処理は、図4に示されるステップS10,S11の処理と同一であるため、それらの詳細な説明は割愛する。
【0083】
情報取得部51は、ステップS41の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわちブレーキペダル21が踏み込まれている場合には、ステップS42の処理として、車両10が停止しているか否かを判断する。
具体的には、情報取得部51は、ステップS42の処理において、例えば以下の式f20が成立しているか否かを判断する。なお、式f20において、「Vca」は、車輪速ωwh(a)~ωwh(d)の平均値から演算式等を用いて演算可能な車速であり、「Vcb」は、MG回転速度ωfmg,ωrmgから演算式等を用いて演算可能な車速である。また、「Vthb」は、車両が停止しているか否かを判断することができるように予め設定されている閾値であり、走行制御ECU50のROMに記憶されている。「Max」は、車速Vca,Vcbのうちの大きい方を選択する関数である。速度閾値Vthbは例えば「0[km/h]」に設定される。
【0084】
【数20】

ブレーキペダル21が踏み込まれた後、車両10が停止するまでの間は、情報取得部51はステップS42の処理で否定的な判断を行う。この場合、第1偏差取得部63は、ステップS45の処理として、上記の式f10を用いて補正トルクTcorを演算する。この際、第1偏差取得部63は、RAMに記憶されている偏差比率の平均値Ave(Rptを読み込むとともに、この偏差比率の平均値Ave(Rptを式f10における偏差比率Rptとして用いる。
【0085】
切替制御部55は、ステップS45に続くステップS46の処理として、切替制御の実行中に上記の式f11に基づいてトルク指示値Tmg を設定する。続いて、MG制御部53は、ステップS47の処理として、このトルク指示値Tmg に基づいてMG11a,11bの出力トルクを制御する。これにより、MG11a,11bから出力されるトルクが、基本回生トルク要求値Trgrに補正トルクTcorを加算した値に制御される。
【0086】
その後、車両10が停止すると、情報取得部51がステップS42の処理で肯定的な判断を行う。この場合、第2偏差取得部64は、ステップS43の処理として、上記の式f12を用いて勾配補正トルクTslpを演算する。また、切替制御部55は、ステップS43に続くステップS44の処理として、上記の式f14に基づいてトルク指示値Tmg を設定する。この際、切替制御部55は、基本回生トルク要求値の絶対値|Trgr|及び補正トルクの絶対値|Tcor|のうちのいずれか大きい方をトルク指示値Tmg の上限値に設定する。また、切替制御部55は、「-|Trgr|」及び「-|Tcor|」のうちのいずれか小さい方をトルク指示値Tmg の下限値に設定する。続いて、MG制御部53は、ステップS47の処理として、このトルク指示値Tmg に基づいてMG11a,11bの出力トルクを制御する。これにより、MG11a,11bから出力されるトルクが基本的には勾配補正トルクTslpに制御される。
【0087】
次に、図7を参照して、本実施形態の車両10の動作例について説明する。
図7に示されるように、時刻t10でブレーキペダル21が踏み込まれたとすると、図7(A)に示されるように、目標トルク設定部52は、基本制動トルクを、ブレーキペダル21の踏み込み量Sbに応じた値T10に設定する。また、図7(C)に示されるように、目標トルク設定部52は、基本回生トルク要求値Trgrを、基本制動トルクT10に応じた所定の回生トルクT20に設定するとともに、この基本回生トルク要求値Trgrをトルク指示値Tmg としてMG制御部53に送信する。なお、所定の回生トルクT20は負の値である。MG制御部53は、このトルク指示値Tmg に基づいてMG11a,11bを制御する。これにより、図7(D)に示されるように、MG11a,11bの出力トルクの総和が所定の回生トルクT20に制御される。結果的に、図7(B)に示されるように、車速Vが徐々に減少する。
【0088】
その後、時刻t11で車速Vが切替速度Vthaまで減少すると、切替制御部55が切替制御を開始する。これにより、時刻t11以降、切替制御部55は、図7(C)に示されるように基本回生トルク要求値の絶対値|Trgr|を所定の回生トルクの絶対値|T20|から徐々に減少させるとともに、図7(E)に示されるように制動トルク要求値の絶対値|Trb|を徐々に増加させる。結果的に、図7(D)に示されるようにMG11a,11bの出力トルクの絶対値が所定の回生トルクの絶対値|T20|から徐々に減少するとともに、図7(F)に示されるように制動装置16a~16dの制動トルクの絶対値が徐々に増加する。
【0089】
このとき、MG11a,11bのトルク指示値Tmg が上記の式f11に基づいて基本回生トルク要求値Trgrに補正トルクTcorを加算した値に設定される。補正トルクTcorは例えば図7(C)に二点鎖線で示されるように設定される。これにより、MG11a,11bは、回生トルク要求値Trgrに応じた回生トルクに加え、制動装置16a~16dの制動トルクのずれ量に応じたトルクを出力する。これにより、車輪18a~18dに加わる実際の制動トルクが基本制動トルクT10から大きくずれ難くなる。よって、よりスムーズに車両10を停止させることが可能となる。
【0090】
その後、図7(B)に示されるように、時刻t12で車速Vが「0[km/h]」まで低下すると、すなわち車両10が停止状態になると、図7(C)に示されるように、その後の時刻t13で基本回生トルク要求値Trgrが「0」に設定される一方、図7(E)に示されるように制動トルク要求値Trbが停止時必要制動トルクTstpに設定される。よって、制動装置16a~16dから車輪18a~18dに停止時必要制動トルクTstpが付与される。仮に制動装置16a~16dから出力される停止時必要制動トルクTstpだけでは車両10を停止状態に維持することができない場合には、図7(C)に二点鎖線で示されるように勾配補正トルクTslpがMG11a,11bから出力される。この勾配補正トルクTslpにより、より確実に車両10を停止状態に維持することが可能となる。
【0091】
以上説明した本実施形態の走行制御ECU50によれば、以下の(1)~(6)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)切替制御部55は、切替制御が開始された後、情報取得部51により車両10が停止状態であることが検出されるまでの期間は、第1制動トルク偏差に相当する補正トルクTcorに基づいてMG11a,11bの出力トルクを補正する。また、切替制御部55は、情報取得部51により車両10が停止状態になったことが検出された後は、第2制動トルク偏差に相当する勾配補正トルクTslpに基づいてMG11a,11bの出力トルクを補正する。これにより、制動装置16a~16dの制動トルクのずれに相当するトルクがMG11a,11bから出力されるようになるため、MG11a,11bの出力トルクの急変を抑制しつつ、車両10の制動力が不足するような状況が発生し難くなる。よって、よりスムーズに車両10を停止させることが可能となる。
【0092】
(2)情報取得部51は、ホイール圧センサ31によりホイール圧Pwcを検出するとともに、検出されたホイール圧Pwcから上記の式3に基づいて油圧制動トルクTbrkを演算する。第1偏差取得部63は、上記の式f9及びf10を用いることにより、油圧制動トルクTbrkから、第1制動トルク偏差に相当する補正トルクTcorを演算する。この構成によれば、制動装置16a~16dの制動トルクの実際値と理想値との偏差を示す第1制動トルク偏差を容易に求めることができる。
【0093】
(3)減速度取得部60は、上記の式f5に基づいて車両10の減速度の実際値Dと理想値Dとの偏差である外乱減速度偏差Diffsumを取得する。勾配外乱取得部61は、上記の式f6に基づいて、車両10が位置している路面勾配に応じて車両10に発生する勾配外乱加速度Aslpを取得する。偏差比率演算部62は、上記の式f7に示されるように外乱減速度偏差Diffsumから勾配外乱加速度Aslpを減算することにより制動外乱減速度Diffbrkを求めるとともに、上記の式f8に基づいて制動外乱減速度Diffbrkから制動外乱トルクTbrk,Dを演算する。また、偏差比率演算部62は、上記の式f9に示されるように、制動外乱トルクTbrk,Dを、上記の式f3により演算される油圧制動トルクTbrkで除算することで偏差比率Rptを演算する。上記の式f3に示されるようにホイール圧Pwcに制動ファクタBEFを乗算した値が油圧制動トルクTbrkであることに着目すると、第1偏差取得部63は、式f10に基づいて、すなわち油圧制動トルクTbrkに偏差比率Rptを乗算することにより補正トルクTcorを演算する。この構成によれば、第1制動トルク偏差に相当する補正トルクTcorを容易に演算することができる。
【0094】
(4)偏差比率演算部62は、ブレーキペダル21が踏み込まれたことが検出された後、その踏み込みが解除されたことが検出されるまでの期間における偏差比率の平均値Ave(Rptを演算する。第1偏差取得部63は、油圧制動トルクTbrkに偏差比率の平均値Ave(Rptを乗算することにより補正トルクTcorを演算する。この構成によれば、第1制動トルク偏差に相当する補正トルクTcorを、より高い精度で演算することができる。
【0095】
(5)切替制御部55は、切替制御が開始された後、車両10が停止状態になったことが検出されるまでの期間、上記の式f11に示されるように、回生トルク要求値Trgrに補正トルクTcorを加算することによりMG11a,11bの出力トルクを補正する。この構成によれば、制動装置16a~16dの制動トルクのずれ量に応じたトルクがMG11a,11bから出力されるため、車輪18a~18dに加わる実際の制動トルクが基本制動トルクT10から大きくずれ難くなる。よって、よりスムーズに車両10を停止させることが可能となる。
【0096】
(6)切替制御部55は、車両10が停止状態になったことが検出された後にMG11a,11bの出力トルクを補正する際に、図6のステップS44に示されるように、それらの出力トルクの上限値を「Max(|Trgr|,|Tcor|)」に設定するとともに、その下限値を「Min(-|Trgr|,-|Tcor|)」に設定する。この構成によれば、停止後にMG11a,11bの出力トルクの絶対値が大きくなり過ぎることを回避できる。
【0097】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・車両10は、電動車両に限らず、エンジン及びMGの両方を動力源とするハイブリッド車両であってもよい。なお、車両10がハイブリッド車両である場合には、式f2に用いられるトルク指示値Tmg は、MGのトルク指示値と、エンジンのトルク指示値である直行トルクとを加算したものであってもよい。
【0098】
・上記実施形態の構成は、車両10に限らず、任意の移動体に適用可能である。
・本開示に記載の走行制御ECU50及びその制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の走行制御ECU50及びその制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の走行制御ECU50及びその制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【0099】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0100】
10:車両(移動体)
11a,11b:MG(回転電機)
18a~18d:車輪
16a~16d:制動装置
26a~26d:ホイールシリンダ
50:走行制御ECU(制御装置)
51:情報取得部
55:切替制御部
60:減速度取得部
61:勾配外乱取得部
62:偏差比率演算部
63:第1偏差取得部
64:第2偏差取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7