(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190827
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】機械学習識別処理を利用した車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20221220BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20221220BHJP
G16Y 20/20 20200101ALI20221220BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20221220BHJP
【FI】
G08G1/00 J
G16Y10/40
G16Y20/20
G16Y40/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099284
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野田 尚人
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB20
5H181CC12
5H181FF04
5H181FF10
5H181FF12
5H181FF13
5H181FF27
5H181MB01
5H181MC12
5H181MC16
5H181MC27
(57)【要約】
【課題】 車両にて機械学習識別処理の結果を利用して制御を実行するシステムに於いて、機械学習識別処理の結果をそのまま直ぐに利用するのではなく、機械学習識別処理の結果を検証してからその結果を実際の制御に利用し、無用な制御の変更や制御の悪化を回避する。
【解決手段】 車両の制御システムは、所定の入力条件に基づいて機械学習識別処理により結果を出力する手段と、その結果に基づいて車両を制御する手段とを含み、更に、機械学習識別処理により出力された結果の状態が変化したときに、その状態の変化が実際に生じているか否かを検証する手段を含む。検証処理により結果の状態の変化が発生していないと判定されるときには、変化前の結果の状態に基づいて、車両が制御され、検証処理により結果の状態の変化が発生したと判定されるときには、変化後の結果の状態に基づいて、車両が制御される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御システムであって、
所定の入力条件に基づいて機械学習識別処理により結果を出力する機械学習識別処理手段と
前記機械学習識別処理手段により出力された結果に基づいて前記車両を制御する車両制御手段と
を含み、更に、
前記所定の入力条件の少なくとも一部が変化したことにより前記機械学習識別処理手段により出力された結果の状態が変化したときに、前記結果の状態の変化が実際に生じているか否かを検証する結果状態検証手段を含み、
前記車両制御手段が、前記結果状態検証手段の検証処理により前記結果の状態の変化が発生していないと判定されるときには、変化前の前記結果の状態に基づいて、前記車両を制御し、前記結果状態検証手段の検証処理により前記結果の状態の変化が発生したと判定されるときには、変化後の前記結果の状態に基づいて、前記車両を制御するよう構成されているシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に於いて用いられる機械学習技術に係り、より詳細には、機械学習処理によって構成された識別器の結果に基づいて車両の制御を実行するシステムに係る。
【背景技術】
【0002】
ニューラルネットワーク、深層学習技術などの機械学習技術の進歩に伴い、自動車等の車両の制御に於いて、機械学習処理を利用する構成が種々提案されている。例えば、特許文献1に於いては、道路毎又は地域毎など、所定の領域毎に車両の制御のための学習済モデル(機械学習識別処理の結果)を作成して管理するシステム構成に於いて、天候などの地質学上の変化や道路工事などの人為的な変化が起きたときに、複数の所定領域のうちで、かかる変化の生じた所定領域を特定し、特定した所定領域に設定されている学習済モデルを削除・更新するといった構成が提案されている。同公報に於いては、例として、地図情報である標高データと天候情報である雨(湿度が高い)という情報から標高が高い所で雨が降った時に、排気ガス成分(Noxなど)が最適になるような学習モデルを作成し、類似状況を走行する車に対し学習済みモデルを展開する事で、廃ガス成分の排出量を改善するといったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に於いて、或る機械学習処理により構成された識別器の処理(以下、「機械学習識別処理」と称する。)によって得られた結果に基づいて何等かの制御を実行する場合、機械学習識別処理による結果には一般に或る程度のばらつきが生ずるので、機械学習識別処理による結果が誤っていることがあり、そのような誤った結果に基づいて、制御を実行してしまうと、制御性能の悪化を生ずることとなる。例えば、或る地域に於いて波状路(路面が波打つように変位している路面)となっているか、平坦路となっているかを、天候条件や交通量などの条件を入力として、機械学習識別処理により判定し、その判定結果を車両の制御に利用する構成を考えたとき、或る条件に於いて機械学習識別処理が波状路だった所が平坦路になったと判定したとしても実際には波状路のままとなっていることがあり、その場合、もし機械学習識別処理の結果をそのまま信じて、車両の制御を波状路用のものから平坦路用のものに切換えてしまうと、制御性能の悪化を生ずることとなる。即ち、機械学習識別処理は、或る程度にて、不正確な結果を出し得るので、その結果を車両の制御に利用する場合には、機械学習識別処理の結果が正しいかどうかを確認する処理、即ち、機械学習識別処理の結果の検証処理が実行することが好ましい。
【0005】
かくして、本発明の一つの課題は、車両にて機械学習識別処理の結果を利用して制御を実行するシステムに於いて、機械学習識別処理の結果をそのまま直ぐに利用するのではなく、機械学習識別処理の結果を検証してからその結果を実際の制御に利用するよう構成したシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、車両の制御システムであって、
所定の入力条件に基づいて機械学習識別処理により結果を出力する機械学習識別処理手段と
前記機械学習識別処理手段により出力された結果に基づいて前記車両を制御する車両制御手段と
を含み、更に、
前記所定の入力条件の少なくとも一部が変化したことにより前記機械学習識別処理手段により出力された結果の状態が変化したときに、前記結果の状態の変化が実際に生じているか否かを検証する結果状態検証手段を含み、
前記車両制御手段が、前記結果状態検証手段の検証処理により前記結果の状態の変化が発生していないと判定されるときには、変化前の前記結果の状態に基づいて、前記車両を制御し、前記結果状態検証手段の検証処理により前記結果の状態の変化が発生したと判定されるときには、変化後の前記結果の状態に基づいて、前記車両を制御するよう構成されているシステム
によって達成される。
【0007】
上記の構成に於いて、「機械学習識別処理」は、任意の態様の機械学習のアルゴリズムに従った処理であってよく、例えば、ニューラルネットワーク(単層、多層パーセプトロン、ディープラーニングなど)、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、ディープフォレストなどの学習アルゴリズムに従って構成された識別器によって状態を識別又は判定する処理であってよい(「機械学習処理」は、機械学習によって識別器を構成する処理をいい、「機械学習識別処理」は、構成された識別器を用いて、入力条件から結果を出力する処理をいうものとする。)。機械学習識別処理手段に於ける「所定の入力条件」とは、予め選択されている時々刻々に変化する種々の状態であってよく、例えば、天気、気温、湿度などの気象条件、時間帯、交通状況、道路工事等の人為的な事象の有無などであってよい。一方、機械学習識別処理手段により出力される「結果」とは、所定の入力条件が与えられたときに得られる任意の状態であり、例えば、道路の状態(波状路、平坦路など)、車両の排出するガスの状態、降雨の有無、霧の発生の有無などであってよい。「機械学習識別処理手段」は、上記の如き機械学習のアルゴリズムに従い、予め得られている所定の入力条件と、それらの入力条件が与えられたときの結果の状態との複数の組み合わせを教師データと正解データとして用いて、任意の所定の入力条件が与えられたときに、それに対応する結果の状態を出力するように学習によって構成された手段であり、学習した入力条件に類似の状況が入力条件として与えられると、生ずる可能性の最も高い結果の状態を出力するよう構成される。また、上記の構成に於いて、車両の「制御」は、車両の走行或いは運転に関わる任意の制御であってよく、例えば、車速、加減速度又は駆動トルクの制御、操舵制御、排気ガス成分の調整するための各部の制御、ワイパーの動作制御、霧灯や前照灯などの灯火制御などであってよい。
【0008】
本発明の上記のシステムに於いては、基本的には、機械学習識別処理手段により出力された結果の状態に応じて、車両の制御を実行するところ、特に、本発明のシステムの場合には、所定の入力条件の少なくとも一部が変化したことにより機械学習識別処理手段により出力された結果の状態が変化したときには、そのまま、直ぐに、変化後の結果の状態に応じて車両の制御を実行するのではなく、機械学習識別処理手段により出力された結果の状態の変化が実際に生じているか否かを検証する手段が構成される。そして、車両制御手段により車両の制御は、結果状態検証手段の検証処理により結果の状態の変化が発生していないと判定されるときには、変化前の結果の状態に基づいて実行され、結果状態検証手段の検証処理により結果の状態の変化が発生したと判定されるときに、変化後の結果の状態に基づいて実行される。既に触れた通り、一般に、機械学習識別処理により出力される結果には、或る程度のばらつきがあるので、かかる結果が或る状態から別の状態に変化した場合でも、それがばらつきによるものであり、実際には、状態の変化が生じていない場合がある。例えば、波状路であった或る道路に於いて、降雨などがあり、そのことに応答して、機械学習識別処理手段が、その道路の状態が波状路から平坦路に変化したと出力した場合でも、その出力がばらつき又はエラーによるものであり、実際には、道路の状態が波状路から変化をしていない場合もある。そのような場合、車両の制御の態様を、直ぐに、波状路用のものから平坦路用のものに変更してしまうと、制御性能の悪化に繋がることとなる。そこで、本発明のシステムでは、機械学習識別処理により出力される結果の状態の変化があったときには、その変化が実際に生じているか否かを検証するための手段(結果状態検証手段)が構成され、これにより、機械学習識別処理手段に於ける結果のばらつきに起因する制御性能の悪化の防止が図られる。
【0009】
上記のシステムの構成に於いて、機械学習識別処理手段と結果状態検証手段とは、ネットワークサーバに於いて構成され、それぞれの処理の結果が、ネットワークを通じて通信可能な各車両に伝達されて、各車両の制御に実行されてよい。
【0010】
上記のシステムの構成の一つの例としては、車両の走行する地域をいくつかの領域に分割し、それらの領域毎に、機械学習識別処理手段により結果が出力されて、その結果が、対応する領域を走行中の車両の制御に適用されてよい。各領域は、緯度・経度などの位置・範囲情報や、道路の識別情報により特定されてよい。具体例としては、例えば、領域毎に、機械学習識別処理手段によって、時々刻々の所定の入力条件(気象条件、時間帯、交通状況、道路工事等の人為的な事象の有無など)に対応して、道路の状態が波状路であるか平坦路であるかが結果として出力され、その結果に変化があったときに、即ち、波状路であった所が平坦路となったという結果が出力されたときには、結果状態検証手段によって変化の有無が検証され、その検証の結果に応じて、対応する領域を走行する車両の制御が実行されてよい。(その他の例は、後の実施形態の欄に例示される。)
【0011】
上記の構成に於いて、結果状態検証手段による検証処理は、機械学習識別処理手段により出力される結果の態様に応じて任意の態様にて実施されてよい。例えば、上記の如き、機械学習識別処理手段によって或る道路の状態が波状路であるか平坦路であるかが判定される場合、検証処理の一つの態様として、道路の状態が波状路から平坦路に変化したとの結果を機械学習識別処理手段が出力した後に、最初にその道路を通過した車両にて得られるデータを用いて、道路の状態が実際に波状路から平坦路に変化したことが検証されてよい。その場合、具体的には、その車両の車輪速から算出される車速とGPS情報とから算出される車速とを比較し、両者が略等しいときには、道路の状態が平坦路に変化したと判定され、両者の差が相当に大きいときには道路の状態が波状路のままであると判定されてよい(波状路の場合には、通常、車輪速から算出される車速がGPS情報とから算出される車速よりも高くなる。)。また、検証処理の別の態様として、車載カメラや衛星写真の映像を参照して、走行路面に縞状の陰影が観察される場合には、道路の状態が波状路のままであると判定され、そのような陰影が観察されない場合には、道路の状態が平坦路に変化したと判定されるようになっていてよい。(その他の例は、後の実施形態の欄に例示される。)検証処理の手法は、機械学習識別処理手段の結果の状態を確認できる手法であれば、任意の手法であってよく、それぞれの機械学習識別処理手段の結果の状態に対応して、当業者に於いて、適宜選択可能である。
【発明の効果】
【0012】
かくして、上記の本発明のシステムに於いては、機械学習識別処理により出力される結果には、一般に、或る程度のばらつきやエラーがあるので、機械学習識別処理により出力される結果が、そのようなばらつきやエラーによるものであるか否かを検証する処理が実行される。かかる構成によれば、機械学習識別処理の結果に基づき、車両の制御を実行する場合で、特に、結果の変化があったときには、直ぐに、その結果の変化に対応して制御の態様を変更するのではなく、実際に結果の状態の変化が起きたことを確認してから、制御の態様を変更することになるので、無用な制御の変更や制御の悪化を回避することが可能となる。本発明の構成は、種々の車両の制御に適用されてよい。
【0013】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態による機械学習識別処理を利用した車両の制御システムの概略構成を表わした模式図である。
図1(B)は、本実施形態による車両の制御システムの好ましい態様の一つに於けるシステムの構成をブロック図の形式にて表した図である。
【
図2】
図2は、本実施形態による車両の制御システムが車両の走行する地域を幾つかに分割してなる領域毎に機械学習識別処理を実行する場合の地域の分割の態様を説明する模式的な地図である。
【
図3】
図3(a)~(f)は、本実施形態のシステムに於いて、道路の状態を機械学習識別処理にて推定する場合に於ける検証の態様を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態のシステムが適用されるサーバに於ける機械学習識別処理と検証に関わる処理をフローチャートの形式に表わした図である。
【符号の説明】
【0015】
10、12、14…車両
20、22、24…車載通信機
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
システムの構成
図1(A)を参照して、本実施形態の車両のシステムに於いては、道路を走行する自動車等の車両10、12、14は、通信手段20、22、24により、通信ネットワークシステムを通じたサーバとのデータ通信(V2N)を実行できるよう構成される。また、車両10、12、14は、それぞれ、GPS装置から位置情報を受けて走行位置と時刻を時々刻々に取得できるようになっていてよい。そして、特に、本実施形態に於いては、車両10、12、14は、V2Nにより、サーバから、車両の制御に於いて参照する機械学習識別処理によって得られた情報を受信し、また、後に説明される如く、機械学習識別処理の結果の検証に利用する情報をサーバへ送信するよう構成されていてよい。サーバは、任意の外部機関から任意の情報、例えば、天気、気温、湿度などの気象条件、時間帯、交通状況、道路工事等の人為的な事象の有無などの情報を、ネットワークなどを通じて取得し、それらの情報を入力条件として機械学習識別処理を実行し、その結果として、車両の制御に於いて参照される情報を出力し、各車両へV2Nを通じて伝達するよう構成されてよい。
【0017】
上記の本実施形態のシステムに於けるサーバと、各車両に搭載される端末装置とは、それぞれ、コンピュータ装置の作動によって実現される。コンピュータ装置は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。後に説明される本実施形態のサーバと端末装置との各部の構成及び作動は、それぞれ、プログラムに従ったコンピュータ装置の作動により実現されてよい。
【0018】
図1(B)を参照して、本実施形態のシステムに於けるサーバに於いては、具体的には、機械学習識別処理部、結果状態検証部及び通信モジュールが設けられる。かかる構成に於いて、機械学習識別処理部は、上記の如く、任意の外部機関から得られる気象情報、交通情報、位置情報(処理の結果を利用する車両の走行している地域の位置を特定する情報)、日・時刻情報などを入力条件として、任意の態様の機械学習識別処理により、処理の結果を制御に利用する車両の地域若しくは日時に於ける道路若しくは路面の状態、環境状態などの識別又は判定結果を出力する。ここで実行される機械学習識別処理は、この分野で利用可能な任意のアルゴリズム、例えば、ニューラルネットワーク(単層、多層パーセプトロン、ディープラーニングなど)、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、ディープフォレストなどに従った処理であってよい。かかる機械学習識別処理を実行するために、機械学習識別処理部は、教師あり学習又は強化学習により、予め準備された種々の入力条件(一つの入力条件は、気象情報、交通情報、位置情報、日・時刻情報などの組み合わせである。)からなる教師データと、各入力条件が与えられたときの識別又は判定結果である正解データとを用いて、或る教師データが与えられると、対応する正解データが得られるように機械学習処理により構成され、これにより、端的に延べれば、或る入力条件に類似の条件が与えられたときに、対応する正解データに類似の結果が出力されることとなる。結果状態検証部は、機械学習識別処理部の出力する結果が或る状態から別の状態に変化したときに、その状態の変化が、実際の状態に於いて発生しているか否かを、走行中の車両の状態を参照して検証するよう構成される。即ち、結果状態検証部に於いては、機械学習識別処理部へ入力される気象情報等が変化したときに、機械学習識別処理部がそれまでとは異なる結果を出力した場合に、その結果の表わす道路若しくは路面の状態、環境状態の変化が実際に生じているか否かが、機械学習識別処理部が変化が起きたと識別又は判定した地域を走行する車両の状態や衛星写真などを種々参照して検証される。かかる検証の具体的な態様は、後に例示される如く、機械学習識別処理部により識別又は判定される状態によって適宜選択されてよい。通信モジュールは、機械学習識別処理部により識別又は判定され結果状態検証部により検証された結果の状態を、その状態の対象となる各地域を走行する各車両へ送信し、或いは、各地域を走行する各車両から結果状態検証部による検証に利用される情報を受信するよう構成される。
【0019】
一方、本実施形態のシステムに於ける各車両に於いては、走行制御部と、通信モジュールとが設けられる。通信モジュールは、サーバとの間の情報の送受信を実行する。走行制御部は、通信モジュールを通じて、サーバから得られた、これから走行する地域又は現に走行している地域の、道路若しくは路面の状態、環境状態などを参照して、かかる状態に適合するように、車両の任意の制御を実行する。また、上記の如く、サーバの結果状態検証部による検証に利用される情報、例えば、車輪速、GPS情報、その他の車両の各部の動作状態などが、走行制御部を介して、通信モジュールからサーバの通信モジュールへ伝達されてよい。なお、サーバとの間で情報伝達を実行する車両は、複数であってよい。
【0020】
上記のサーバに於ける機械学習識別処理部による状態の識別又は判定は、既に触れた如く、典型的には、車両の走行する地域をいくつかの領域に分割し、それらの領域毎に実行されてよい。
図2に模式的に描かれている如く、本実施形態のシステムに於いては、車両の走行する地域を分割して得られる各領域(a1~)の位置が、例えば、緯度(Ni°)・経度(Ei°)により特定され、領域毎に、道路若しくは路面の状態、環境状態などが識別又は判定され、更に、検証されてよい(従って、機械学習識別処理部の入力条件として、位置情報が含まれていてよい。)。
【0021】
システムの作動
(1)機械学習識別処理の結果の検証
「発明の概要」の欄に於いて述べた如く、機械学習識別処理による結果には或る程度のばらつきが生じ、機械学習識別処理による結果が誤っていることがある。従って、機械学習識別処理による結果に基づいて車両の制御を実行する場合には、機械学習識別処理による結果が誤っていないことを確認してから、その結果を利用するようになっていることが好ましい。この点に関し、機械学習識別処理によって識別又は判定される各地域の道路若しくは路面の状態、環境状態などは、その地域を走行する車両の走行状況などから確認することができる。そこで、本実施形態に於いては、機械学習識別処理部への入力条件の少なくとも一部が変化し、これにより、機械学習識別処理部により出力された結果の状態が変化したときには、結果状態検証部によって、結果の状態の変化が実際に生じているか否かの検証が実行される。かかる構成によれば、まず、機械学習識別処理部により車両の走行する地域の状態が変化した可能性があることが検知され、その場合に、実際に状態が変化したか否かが検証され、これにより、車両の制御の悪化が回避されることとなる。また、機械学習識別処理部により車両の走行する地域の状態が変化したときに検証を実行する構成によれば、状態が変化した可能性がないときまで無用に検証を実行しなくてよくなり、制御が速やかに実行されることとなる(即ち、本実施形態に於いては、機械学習識別処理部により、状態の変化の高い蓋然性が判定され、そのことに応答して、検証が実行されることとなる。)
【0022】
図3を参照して、例として、路面が波状路である道路が、降雨などの地質学上の事象や道路工事などの人為的な事象の発生により、平坦路に変化した可能性がある場合について説明する。まず、
図3(a)に模式的に描かれている如く、路面が波状路である場合、その上を走行する車両に於いては、路面の凹凸により車輪に対して衝撃が加わり、車輪の回転が変動しやすく、挙動が不安定となるので、最大駆動トルクを制限するなどの制御が実行される。一方、路面の凹凸が殆どない平坦路の場合には、かかるトルク制限制御は、不要となる。従って、路面が波状路から平坦路に変化したときには、トルク制限制御が適切に解除できることが望ましい。かかる状況に於いて、
図3(b)の如く、或る地域に激しい降雨などがあったときには、路面が波状路から平坦路へ変化する場合があり、或いは、路面を道路工事が行われたときには、路面が平坦化されている場合がある。そこで、そのような地質学上の事象や人為的な事象があったときに、その情報が機械学習識別処理部へ与えられる。ここで、もし機械学習識別処理部が路面が平坦化されたとの識別結果を出力しないときには、路面が波状路のままである可能性が高いので、車両の制御態様の変更は必要ないこととなる。一方、もし機械学習識別処理部が、
図3(c)の如く、路面が平坦化されたとの識別結果を出力したときには、路面が平坦路に変化した可能性が高く、もしそうなら、車両の制御態様の変更が必要となる。しかしながら、既に述べた如く、機械学習識別処理部による識別又は判定には、ばらつきやエラー(特異値と称する。)があり、もし路面が平坦路に変化したとの判定が特異値によるものであれば、実際には、路面は平坦路に変化していないこととなる。かくして、この例の場合には、既に述べた如く、路面が平坦路に変化したという機械学習識別処理部による識別又は判定に変化があったときには、結果状態検証部によって、その後に最初にその地域を走行する車両の走行状態を参照して、機械学習識別処理部による識別又は判定に於ける変化が実際にあったか否か、即ち、路面が平坦路に変化したか否かの検証が実行される。
【0023】
この例の場合、路面が平坦路に変化したか否かの検証は、種々の態様にて達成可能である。例えば、一つの態様に於いては、
図3(d)に示されている如く、検証の対象となる路面を走行する車両の車輪速と、GPS情報から得られる車体速とが比較されてよい。路面が平坦路である場合には、車輪がスリップしなければ、車輪速とGPS情報から得られる車体速とは略一致するのに対し、路面が波状路である場合には、その上を走行する車両に於いては、路面の凹凸によって車輪が浮き上がり空転が発生するので、車輪速は車体速よりも高くなる。従って、車輪速≒GPS車体速のときには、路面が平坦路であり(
図3(f))、車輪速≠GPS車体速のときには、路面が波状路のままである(
図3(e))、と検証することができることとなる。また、別の態様に於いては、車載カメラや衛星写真の映像に於ける検証の対象となる路面の陰影が参照されてよい。路面が平坦路である場合には、路面の陰影は存在しないが、波状路である場合には、縞状の陰影が観察されるので、路面の陰影が存在しなくなったときには、路面が平坦化されたことが検証できることとなる。そして、路面が平坦路になったことが検証された場合には、上記の如きトルク制限制御が解除され、路面が波状路のままであることが検証された場合には、トルク制限制御が継続されることとなる。即ち、本実施形態に於いては、機械学習識別処理部による識別又は判定にて示された変化が実際にあったことが検証されたときにのみ、その変化に適合すべく車両の制御態様の変更が為されることとなる。
【0024】
本実施形態に於ける、機械学習識別処理の結果に基づく車両の制御に検証処理を組み込む構成は、車両に於ける各部の作動制御に適用されてよい。例えば、一つの例として、車両が降雨エリアに進入するのに合わせてワイパーを作動する制御を実行する場合に、上記の検証処理が実行されてよい。この場合、機械学習識別処理が種々の気象条件から個々の領域(
図2参照)の降雨の有無を判定するよう構成され、降雨があると判定された領域に車両が進入するときに、車両のワイパーを作動させるよう構成されるところ、機械学習識別処理の結果が或る領域について「降雨なし」から「降雨あり」に変わったとき、検証処理として、その領域に最初に進入した車両にて降雨の有無の確認がされてよい。降雨の確認は、例えば、車載カメラの画像に於ける認識、ワイパーの手動操作の有無などを参照して達成可能である。そして、その領域に最初に進入した車両にて降雨ありの確認がされると、その次にその領域に進入する車両に於いて、その進入と同時にワイパーが作動されるが、その領域に最初に進入した車両にて降雨ありの確認がされない場合には、ワイパーを作動しないようになっていてよい。「降雨あり」から「降雨なし」に変わったときも、同様に、検証処理として、その領域に最初に進入した車両にて降雨の有無の確認がされてよい。
【0025】
また、本実施形態の構成が適用される別の例として、車両が霧の発声エリアに進入するのに合わせて灯火制御を実行する場合に、上記の検証処理が実行されてよい。この場合、機械学習識別処理が種々の気象条件から個々の領域(
図2参照)の霧の有無を判定するよう構成され、霧が発生していると判定された領域に車両が進入するときに、車両の霧灯などの灯火を点灯させるよう構成されるところ、機械学習識別処理の結果が或る領域について「霧なし」から「霧あり」に変わったとき、検証処理として、その領域に最初に進入した車両にて霧の有無の確認がされてよい。霧の確認は、例えば、車載カメラの画像に於ける認識、霧灯の手動操作の有無などを参照して達成可能である。そして、その領域に最初に進入した車両にて霧ありの確認がされると、その次にその領域に進入する車両に於いて、その進入と同時に霧灯が点灯されるが、その領域に最初に進入した車両にて霧ありの確認がされない場合には、点灯しないようになっていてよい。「霧あり」から「霧なし」に変わったときも、同様に、検証処理として、その領域に最初に進入した車両にて霧の有無の確認がされてよい。
【0026】
(4)システムの処理過程
本実施形態のシステムに於けるサーバの機械学習識別処理部と結果状態検証部とに於ける処理過程は、
図4に例示されている如く、実施されてよい。まず、機械学習識別処理部に於いて、
図2に関連して説明されている如く、車両の走行する地域に於ける機械学習の結果の参照される領域(対象領域)毎に、入力条件の変化があるか否かが監視される(ステップ1)。そして、或る対象領域について入力条件の変化があったときには、既に説明されている如く、教師あり学習又は強化学習などのアルゴリズムに従って構成された識別又は判定のアルゴリズムによって対象領域の状態の識別又は判定が実行される(機械学習識別処理-ステップ2)。ここで、処理結果に於ける対象領域の状態に於いて変化があったときには、例えば、波状路だった所が平坦路になったとの結果が得られたときには(ステップ3)、すぐにその変化があったと判別するのではなく、結果状態検証部による検証処理が実行される。かかる検証処理に於いては、具体的には、例えば、機械学習識別処理部により状態の変化があったとの処理結果が得られた対象領域を走行する車両が待機され(ステップ4)、その対象領域を車両が走行したときに、その車両から、車輪速やGPS車体速などの走行情報又はその他の情報が収集される(ステップ5)。そして、収集された情報を参照して、対象領域に於いて状態の変化があったことが確認されると(ステップ6)、対象領域の状態が機械学習識別処理部による処理結果の状態に変更されたと判定され(ステップ7)、それ以降、かかる対象領域を走行する車両に於いては、変更後の状態を参照して、走行制御又は作動制御が実施されるようにする(ステップ8)。なお、入力条件の変化がないとき(ステップ1)、入力条件の変化があっても機械学習識別処理部の処理結果に変化がないとき(ステップ3)、或いは、機械学習識別処理部の処理結果に変化があっても検証処理に於いてその変化が確認されなかったとき(ステップ6)のそれぞれに於いては、対象領域の状態の変更はないものとして、かかる対象領域を走行する車両の制御が継続される。
【0027】
図4の検証処理を衛星写真の画像等を用いて実行するときには、機械学習識別処理部により状態の変化があったとの処理結果が得られた対象領域を走行する車両を待たずに、対象領域に於いて状態の変化があったか否かを確認する処理が実行されてよい。
【0028】
以上の如く、上記の本実施形態のシステムによれば、機械学習識別処理の結果を利用して車両の制御を実行する場合に、機械学習識別処理の結果の或る変化があったときに、それがばらつきやエラーによるものかどうかを検証してから、機械学習識別処理の結果を制御に利用するようになっているので、無用な制御の変更や制御の悪化を回避することが可能となる。
【0029】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。