(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190830
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】プラズマ生成装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099287
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】白石 勝彦
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084BB21
2G084BB22
2G084BB35
2G084CC04
2G084CC06
2G084CC14
2G084CC34
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD22
2G084DD42
2G084DD55
2G084FF01
2G084FF02
2G084FF22
2G084FF39
2G084GG02
2G084GG08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プラズマ生成装置において、アンテナ長を固定した後でも,伝送路インピーダンスの調整が可能であり,伝送路インピーダンスの調整を容易にする。
【解決手段】プラズマ生成部1と、このプラズマ生成部の内部にガスを供給するガス供給源60と、プラズマ生成部の内部に高周波電力を供給する高周波電源50とを備えたプラズマ生成装置において、プラズマ生成部を、棒状のアンテナ11と、棒状のアンテナの周囲を囲んでこの棒状のアンテナの中心軸に沿って移動可能な第一の絶縁部材5と、この第一の絶縁部材の外側に接して棒状のアンテナの中心軸に沿って第一の絶縁部材とは別個に移動可能な第二の絶縁部材とを備えて構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部の内部にガスを供給するガス供給源と、
前記プラズマ生成部の内部に高周波電力を供給する高周波電源と
を備えたプラズマ生成装置であって、
前記プラズマ生成部は、
棒状のアンテナと、
前記棒状のアンテナの周囲を囲んで前記棒状のアンテナの中心軸に沿って移動可能な第一の絶縁部材と、
前記第一の絶縁部材の外側に接して前記棒状のアンテナの中心軸に沿って前記第一の絶縁部材とは別個に移動可能な第二の絶縁部材と、
を備えていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ生成装置であって、
前記第一の絶縁部材は前記棒状のアンテナの周囲を囲む円筒形状を有し、前記第二の絶縁部材は、前記第一の絶縁部材の前記円筒形状の外周面を囲んで前記第一の絶縁部材に接して配置され、前記第一の絶縁部材の前記円筒形状の前記外周面に沿って移動可能に配置されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項3】
請求項2記載のプラズマ生成装置であって、
前記第一の絶縁部材は、前記円筒形状の内部に前記棒状のアンテナの先端部分を囲んで配置されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマ生成装置であって、
前記プラズマ生成部は、一方の端部が閉じられて他方の端部が開口になっている円筒状の空洞部が形成された外部導体と、前記外部導体の前記円筒状の空洞部の内部で前記第一の絶縁部材の外側にあって前記第二の絶縁部材を装着して前記第一の絶縁部材の外周を支持する保持導体とを更に備えることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項5】
請求項4記載のプラズマ生成装置であって、
前記保持導体は、前記外部導体の前記円筒状の空洞部の内部で前記円筒状の空洞部に対して摺動可能に保持されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項6】
請求項4記載のプラズマ生成装置であって、
前記棒状のアンテナは、前記外部導体の前記円筒状の空洞部の内部で前記閉じられた一方の端部に前記円筒状の空洞部の中心軸に沿って固定されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項7】
請求項6記載のプラズマ生成装置であって、
前記高周波電源と前記プラズマ生成部とを接続する同軸ケーブルと、前記プラズマ生成部の内部で前記同軸ケーブルと前記外部導体とを接続する供給導体部とを更に備え、前記供給導体部は前記外部導体の前記円筒状の空洞部の内部で前記閉じられた一方の端部に前記棒状のアンテナに対して平行に固定されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項8】
請求項6記載のプラズマ生成装置であって、
前記第二の絶縁部材は、前記アンテナの先端部分よりも前記円筒状の空洞部の内部で前記閉じられた一方の端部に近い側に配置されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項9】
請求項1記載のプラズマ生成装置であって、
前記第一の絶縁部材は石英またはアルミナで形成されており、前記第二の絶縁部材は耐熱性の高いOリングで形成されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項10】
プラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部の内部にガスを供給するガス供給源と、
前記プラズマ生成部の内部に高周波電力を供給する高周波電源と
を備えたプラズマ生成装置であって、
前記プラズマ生成部は、
棒状のアンテナと、
前記棒状のアンテナの周囲を囲んで前記棒状のアンテナの中心軸に沿って移動可能な第一の絶縁部材と、前記棒状のアンテナの中心軸に沿って前記第一の絶縁部材とは別個に移動可能な第二の絶縁部材とを備え
前記棒状のアンテナの中心軸に沿って前記棒状のアンテナに対する前記第一の絶縁部材の位置と前記第二の絶縁部材の位置を個別に調整することにより、前記プラズマ生成部の内部に供給された前記高周波電力の伝送路インピーダンスの調性を可能にしたことを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項11】
請求項10記載のプラズマ生成装置であって、
前記第一の絶縁部材は前記棒状のアンテナの周囲を囲む円筒形状を有し、前記第二の絶縁部材は、前記第一の絶縁部材の前記円筒形状の外周面を囲んで前記第一の絶縁部材に接して配置され、前記第一の絶縁部材の前記円筒形状の前記外周面に沿って移動可能に配置されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項12】
請求項11記載のプラズマ生成装置であって、
前記第一の絶縁部材は、前記円筒形状の内部に前記棒状のアンテナの先端部分を囲んで配置されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項13】
請求項10記載のプラズマ生成装置であって、
前記プラズマ生成部は、一方の端部が閉じられて他方の端部が開口になっている円筒状の空洞部が形成された外部導体と、前記外部導体の前記円筒状の空洞部の内部で前記第一の絶縁部材の外側にあって前記第二の絶縁部材を装着して前記第一の絶縁部材の外周を支持する保持導体とを更に備えることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項14】
請求項13記載のプラズマ生成装置であって、
前記保持導体は、前記外部導体の前記円筒状の空洞部の内部で前記円筒状の空洞部に対して摺動可能に保持されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項15】
請求項13記載のプラズマ生成装置であって、
前記棒状のアンテナは、前記外部導体の前記円筒状の空洞部の内部で前記閉じられた一方の端部に前記円筒状の空洞部の中心軸に沿って固定されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを生成するプラズマ生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧プラズマは、真空容器や排気設備が不要であり、減圧環境に比べてプラズマ内の活性種の粒子密度が高く、高速処理が可能であるという利点がある。プラズマの生成法にマイクロ波を使った場合、放電プラズマは空間に放射されるマイクロ波の電界により電子にエネルギーを与え,中性粒子を電離することにより生成される。
【0003】
マイクロ波放電では,大気圧プラズマ生成でよく知られた誘電体バリア放電に必要となる電極やプラズマに接する誘電体(絶縁体)が不要であり,プラズマへの不純物の混入を抑制することができる。
【0004】
また、マイクロ波放電によって生成されたプラズマをガス流によって放電部から移送することで,プラズマ生成部と照射部を分離したリモート処理を行うことが可能であり、原理的には対象物の寸法やどのような形状の表面でも処理することができる。リモート処理に用いられる方式の一つに低周波大気圧プラズマジェットがあるが、低周波大気圧プラズマジェットの場合,放電ガスがヘリウムに限定される。
【0005】
一方,マイクロ波プラズマ発生装置では,アルゴン,窒素,水素,空気など,多くのガス種によるプラズマ生成実績があり、様々なプラズマ照射条件に対応できる利点がある。
【0006】
プラズマを生成する同軸形マイクロ波プラズ装置が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、「プラズマトーチの全体が同軸構造を保持し,同軸ケーブル中を伝送されるマイクロ波は,同軸モードのままでアンテナに供給され,アンテナの先端でプラズマが発生する。また,アンテナの外径と外側導体の内径の比率を、同軸ケーブルの内部導体と外部導体の径の比率と一致させることにより、伝送インピーダンスの整合が行われる。」と記載されている。
【0007】
各種の径のプラズマを照射し得るプラズマ処理装置が特許文献2に記載されている。この特許文献2には、「一端部からプラズマを噴出する管状の絶縁体を筐体に対して取り外し可能として,一端部の内径が相違する複数種類の絶縁体を予め製作しておくことで、処理対象体の種類や処理対象体に対して施すプラズマ処理の種類に応じて一端部の内径が任意の内径の絶縁体を筐体に取り付けることで,任意の径のプラズマを噴出させて処理対象体に照射することができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-293955号公報
【特許文献2】特開2010-056002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、プラズマトーチの全体が同軸構造であるプラズマ生成装置が記載されている。しかし、この同軸形マイクロ波プラズ装置は、アンテナの外径と外側導体の内径の比率を、同軸ケーブルの内部導体と外部導体の径の比率と一致させることにより、伝送インピーダンスの整合をとっているため,アンテナ径を変えたり,照射するプラズマの径を任意の径にすることができないという問題があった。
【0010】
特許文献2には、内径が異なり、取り外し可能な絶縁管をあらかじめ各種用意しておくことで,各種の径のプラズマを照射するプラズマ処理装置が記載されている。絶縁管の内径が変わると伝送インピーダンスの整合の調整が必要だが,このプラズマ処理装置では,絶縁管が固定されているため、整合の調整ができないという問題があった。
【0011】
マイクロ波を使ったプラズマ生成装置では,伝送路の形状の変更に応じて,伝送インピーダンスの整合が必要であり、伝送インピーダンスの不整合が生じると、マイクロ波の反射が増えて,プラズマ点火の不具合やプラズマの生成効率が低下する。
【0012】
本発明の目的は、伝送路の形状の変更に対して,伝送インピーダンスの整合を容易に調整できる、プラズマ生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した従来技術の課題を解決するために、本発明では、プラズマ生成部と、このプラズマ生成部の内部にガスを供給するガス供給源と、プラズマ生成部の内部に高周波電力を供給する高周波電源とを備えたプラズマ生成装置において、プラズマ生成部を、棒状のアンテナと、棒状のアンテナの周囲を囲んでこの棒状のアンテナの中心軸に沿って移動可能な第一の絶縁部材と、この第一の絶縁部材の外側に接して棒状のアンテナの中心軸に沿って第一の絶縁部材とは別個に移動可能な第二の絶縁部材とを備えて構成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、このような構成にすることで、アンテナ長を固定した状態で,伝送路インピーダンスの調整が可能となるので,伝送路インピーダンスの調整が容易で,使い勝手の良いプラズマ生成装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1に係るプラズマ生成装置の概略の構成を示す正面の断面図である。
【
図2】アンテナ長に対する伝送路のSパラメータの周波数特性を示すグラフである。
【
図3】アンテナ長に対する伝送路のSパラメータの周波数特性を示すグラフである。
【
図4】絶縁筒位置に対する伝送路のSパラメータの周波数特性を示すグラフである。
【
図5】Oリング位置に対する伝送路のSパラメータの周波数特性を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施例に係るプラズマ生成装置の概略の構成を示す正面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、マイクロ波によりプラズマを生成し、ガス流を利用して、遠方にある対象物にプラズマを照射するプラズマ発生装置に関するもので、プラズマ生成部にある放電用アンテナとそれを囲む金属筐体との間に絶縁物を配置し、放電用アンテナの軸方向に対する絶縁物の相対位置を調整可能な構造としたことを特徴とし、放電用アンテナの長さを変えずに、回路インピーダンス整合を調整できるようにしたものである。
【0017】
また、これにより、プラズマを発生させるためのマイクロ波の共振器や反射板が不要な構造とすることができ、プラズマ生成装置を小型化できるようにしたものである。
【0018】
また、本発明は、アンテナ長を固定した状態でも,伝送路インピーダンスの調整を容易に行うことができて使い勝手の良いプラズマ装置を提供するものであって、プラズマ励起部に設置したアンテナと、このアンテナの先端部との相対位置が可変となる2つの誘電体を配置した構成を備えたものである。
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0020】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例0021】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るプラズマ生成装置100の概略の構成を示す正面の断面図である。本実施例に係るプラズマ生成装置100は、プラズマ生成部1と、プラズマ生成部1の内部に動作ガスを供給するガス供給源60と、プラズマ生成部1の内部にプラズマを発生させるための電力を供給する高周波電源50を備えている。
【0022】
このプラズマ生成装置100では、プラズマ生成部1の内部にガス供給源60から動作ガスを供給し、高周波電源50から発振された高周波電力をプラズマ励起部90に供給してプラズマを生成し、生成したプラズマをプラズマ送出部91を通して送出して被処理物に対してプラズマによる処理を行う。
【0023】
プラズマ生成部1は、
図1に示すように、外部導体3、同軸ケーブル51、同軸コネクタ52、供給導体10、放射導体としてのアンテナ11、絶縁筒5、保持導体70、を備えている。
【0024】
外部導体3は、少なくとも片側が開口した導電性の筒体になっており、開口部に絶縁筒5によって構成されたプラズマ送出部91が形成されている。絶縁筒5は、石英管やアルミナ管などの誘電体で構成されている。
【0025】
絶縁筒5は、Oリング40a、40bを設置した保持導体70でアンテナ11と同軸に配置される。Oリング40a、40bは、保持導体70に設けた凹部71、72に装着された状態で絶縁筒5の外周面に密着している。
【0026】
保持導体70の内周面は絶縁筒5に摺動可能な状態で接触し、保持導体70の外周面は外部導体3に摺動可能な状態で接するように配置されている。すなわち、絶縁筒5は外部導体3の内面に沿って外部導体3の中心軸方向にスライドできるようになっている。そのため、絶縁筒5の位置および保持導体70に装着したOリング40a、40bの位置をそれぞれ単独で外部導体3の中心軸方向にスライド移動させることが可能となっている。例えば、Oリング40a、40bは、カルレッツ(商品名)のような耐熱性の高い、誘電体である。
【0027】
アンテナ11の一端は、外部導体3の筒体の内部の底面301の中心に固定され、他端は外部導体3の筒体の内部に装着された保持導体70に保持されている絶縁筒5の内部に突出するように配置されている。この状態で、絶縁筒5の中心軸とアンテナ11の中心軸とが一致する構成となっている。
【0028】
Oリング40aは、保持導体70に形成された凹部71に装着された状態で、外部導体3の筒体の底面301に近い側の絶縁筒5の端部5aより下側で、アンテナ11の絶縁筒5内に突出したアンテナ11の先端部11aの位置と同じか、それよりも上側(外部導体3の筒体の底面301に近い側)に配置される。
【0029】
ここで、外部導体3に対するアンテナ11と絶縁筒5,保持導体70に保持されたOリング40aとの位置関係が
図1に示すような関係の場合、外部導体3の筒体の内部の底面301からアンテナ11の先端部11aまでの長さをアンテナ長L1、外部導体3の筒体の内部の底面301から絶縁筒5の端部5aまでの長さを絶縁筒位置L2、外部導体3の筒体の内部の底面301から保持導体70の凹部71に装着されたOリング40aまでの長さをOリング位置L3とする。
【0030】
図1においては、Oリング位置L3を示す矢印のOリング40a側の先端が、Oリング40aの高さ方向の中央部分を指しているが、外部導体3の底面301に近い側の凹部71の上面に接しているOリング40aの上端部分までを指して、Oリング位置L3を外部導体3の底面301からOリング40aの上端部分までと定義してもよい。
【0031】
高周波電源50は、準マイクロ波帯(1GHz~3GHz)またはマイクロ波帯(3GHz~30GHz)の高周波信号を所定の電力で生成すると共に、同軸ケーブル51を介して同軸コネクタ52で外部導体を接続されてプラズマ生成部1に高周波電力を出力する。同軸ケーブル51の終端を供給導体10と接続して逆L字で外部導体3の底面301と短絡させることで、供給導体10と隣設して平行に設置したアンテナ11へマイクロ波エネルギーを集中的に送ることができるように構成されている。
【0032】
このような構成において、電流が流れる軸を中心に同心円状に磁場が発生するので、一例として、2.45 GHzマイクロ波の場合,その波長の1/4(30.6 mm)に値する距離供給導体10から離れた位置にアンテナ11が設置されている場合、アンテナ11に供給導体10に流れるマイクロ波電力との共振が起き、アンテナ11の先端部11aでマイクロ波電界が作られ、絶縁筒5の内部で先端部11aのプラズマ励起部90にプラズマ99が発生する。このとき、高周波電源50からプラズマを生成する高周波信号の供給効率を高めるため、高周波電源50とプラズマ生成部1との間に整合器を配設することもできる。
【0033】
プラズマ放電用の動作ガスは、ガス供給源60からガス配管61を通してマスフローコントローラ62で流量が調整されたうえで、外部導体3に設けたガス導入管63を介して外部導体3内のガス整流部92に導入される。絶縁筒5の内部のプラズマ励起部90で発生したプラズマ99は、ガス供給源60から供給されたガスの流れに沿って、プラズマ送出部91からプラズマ生成部1の外部に流れ出る。
【0034】
図1に示したような構成を有するプラズマ生成装置100を用いて絶縁筒5の内部にマイクロ波プラズマを発生させるときの、アンテナ長L1,絶縁筒位置L2,Oリング位置L3とアンテナ11の先端部11aで消費される電力との関係を以下に説明する。
【0035】
図2のグラフは、一例として、2.45GHzのマイクロ波に対して、アンテナ長L1に対する同軸ケーブル51と供給導体10とを含んで形成される伝送路の反射電力を評価するSパラメータの周波数特性を示している。マイクロ波の伝送路の特性を表すSパラメータ(S11=反射波/入射波)の吸収ピークの周波数が2.45 GHzに最も近く、また、吸収が大きいほど供給した電力がアンテナ先端部で消費されていることを表すため、吸収ピークは負に大きいほど伝送路インピーダンス整合が良いと言える。
【0036】
図2に示す場合では、絶縁筒位置L2を12mm、Oリング位置L3を18mmに固定して、アンテナ長L1をパラメータとした場合のSパラメータの周波数特性を示している。波形220は、マイクロ波の1/4(30.6 mm)よりも短い27.2mmの場合のSパラメータの周波数特性を示しており、2.45GHzで吸収ピーク221が負に大きくなっていることがわかる。
【0037】
比較例として示した、アンテナ長L1を0.8mm短くしたアンテナ長L1が26.4mmの場合の波形230における吸収ピーク231の周波数は2.519GHz、0.8mm長くしたアンテナ長L1が28.0mmの場合の波形210における吸収ピーク211の周波数は2.385GHzとなり、いずれの場合も吸収ピークが2.45GHzからずれてしまう。このような場合、プラズマの点火の不具合が発生したり、伝送路の反射電力が大きくなってプラズマの生成効率が低下してしまう。
【0038】
図3のグラフは、別の例として、絶縁筒位置L2が12mm、Oリング位置L3が18mmで何れも
図2と同じ条件にしたとき、2.45GHzのマイクロ波に対して、アンテナ長L1が
図2の波形220の場合と同じ27.2mmにおける伝送路のSパラメータの周波数特性を示す波形320と、それよりも0.2mm長くした27.4mmの場合の伝送路のSパラメータの周波数特性を示す波形310である。
【0039】
図3の例では、アンテナ長L1が27.2mmにおける波形320の吸収ピーク321が2.45GHzであるのに対して、アンテナ長L1が27.4mmの場合の波形310吸収ピーク311の周波数は2.435GHzとなり、2.45GHzからずれている。この場合も、プラズマが点火されにくくなったり、伝送路の反射電力が大きくなってプラズマの生成効率が低下してしまう。
【0040】
図4のグラフは、アンテナ長L1を27.4mm、Oリング位置L3を18mmに固定して、絶縁筒位置L2をパラメータとした場合のSパラメータの周波数特性を示す。絶縁筒位置L2を12mmにした場合のSパラメータの周波数特性を示す波形410と、絶縁筒5をスライドさせて絶縁筒位置L2を18mmまで長くした場合のSパラメータの周波数特性を示す波形420である。波形410は、
図3で説明した波形310と同じ条件で得られたものである。
【0041】
図4に示すように、アンテナ長L1とOリング位置L3を固定した状態で絶縁筒位置L2を12mmから18mmに長くすることで、吸収ピークの周波数を、絶縁筒位置L2が12mmの場合の吸収ピーク2.435GHzに対して絶縁筒位置L2が18mmの場合には2.448GHzとなり、供給するマイクロ波の周波数2.45GHzにより近づくように調整することができる。
【0042】
図5に示すグラフは、アンテナ長L1を27.4mm、絶縁筒位置L2を18mmに固定して、Oリング位置L3をパラメータとしたときのSパラメータの周波数特性を示す。すなわち、アンテナ長L1と絶縁筒位置L2とを固定した状態で、保持導体70をスライドさせて、Oリング40aを移動して、Oリング位置L3を18mmした場合のSパラメータの周波数特性を示す波形510と、Oリング位置L3を21mmに長くした場合のSパラメータの周波数特性を示す波形520である。Oリング位置L3を18mmにした場合のSパラメータの周波数特性を示す波形510は、
図4で説明したSパラメータの周波数特性を示す波形410と同じである。
【0043】
図5に示すように、アンテナ長L1と絶縁筒位置L2とを固定した状態でOリング位置L3を18mmから21mmに長くすることで、波形510のピーク511に対する波形520のピーク521の吸収ピーク周波数が2.448GHzのままで、吸収ピークが負に大きくなり、伝送路のインピーダンス整合がより良くなっていることがわかる。
【0044】
図4及び
図5に示した結果より、アンテナ11の先端部11aの位置(アンテナ長L1)に対する絶縁筒5の端部5aの位置(絶縁筒位置L2)とOリング40aの位置(Oリング位置L3)をそれぞれ独立に調整できるようにすることで、伝送路のインピーダンスを調整することができることがわかる。
【0045】
ここで、伝送路のインピーダンスを調整するために絶縁筒5の端部5aの位置(絶縁筒位置L2)とOリング40aの位置(Oリング位置L3)をそれぞれ調整しても、ガス整流部92の空間の容積の変化は小さい。これにより、ガス整流部92からプラズマ送出部91に至るまでのプラズマ放電用の動作ガスの流れに与える影響は少ない。その結果、アンテナ11の先端部11aにおけるプラズマの発生には、ほとんど影響を与えず、安定したプラズマの生成を行うことができる。
【0046】
即ち、本実施例によれば、アンテナ長L1の長さを変えることなく、伝送路のインピーダンスを調整でき、伝送路インピーダンスの調整を容易とし、作業効率の向上をはかることができる。
【0047】
また、長時間プラズマを発生させるとアンテナ11が熱膨張して、アンテナ11の先端部11aの位置(アンテナ長L1)が変化して共振周波数が微妙に変化してしまうことがあるが、このような場合においても、絶縁筒5の端部5aの位置(絶縁筒位置L2)とOリング40aの位置(Oリング位置L3)をそれぞれ独立に調整することで、共振周波数の微妙なずれを調整することができる。
【0048】
なお、上記した実施例においては、保持導体70に形成した凹部71に誘電体で形成されたOリング40aを装着して構成について説明したが、Oリング40aに替えて誘電体で形成された材料、例えばテフロン(登録商標)などの樹脂材料で形成された部品を用いてもよい。
【0049】
また、Oリング40aと40bとを用いて絶縁筒5を保持する構成について説明したが、Oリング40bをなくしてOリング40aだけで絶縁筒5を保持する構成としてもよく、また、Oリング40aと40bとに加えて、第3のOリングも用いて絶縁筒5を保持導体70の側で保持する構成にしてもよい。さらに、Oリング40bに替えて、Oリング以外の材料を用いてもよい。
【0050】
本実施例によれば、アンテナ長L1の長さを一定にした状態で絶縁筒位置L2とOリング位置L3とを独立に調整できる構成としたことにより、比較的簡素な構成で容易にマイクロ波電力の伝送路のインピーダンスを調整することができるようになり、インピーダンス調整作業の効率を向上させることができるようになった。
第1の実施例では、保持導体70の外周面は外部導体3に直接接するような構成なっていたが、第2の実施例では、外部導体3が保持導体70と接する面にOリング40cと40dを設けている点が第1の実施例と比較した場合の変更点である。
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。