(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190861
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】鋳造条件決定方法及び鋳造条件決定装置
(51)【国際特許分類】
C22B 9/00 20060101AFI20221220BHJP
G01N 33/205 20190101ALI20221220BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C22B9/00
G01N33/205
C22B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099340
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田実 洋一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 智之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 耕介
(72)【発明者】
【氏名】田坂 圭佑
【テーマコード(参考)】
2G055
4K001
【Fターム(参考)】
2G055AA23
2G055BA01
2G055EA02
4K001AA02
4K001BA22
4K001FA14
(57)【要約】
【課題】製品品質の低下を抑制しながら戻り材の配合比を高めることが可能な鋳造条件決定方法及び鋳造条件決定装置を提供する。
【解決手段】鋳造条件決定方法は、複数種の戻り材を含む鋳造材を用いる鋳造の条件の決定方法であって、比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するステップを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の戻り材を含む鋳造材を用いる鋳造の条件の決定方法であって、
比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するステップを備える
鋳造条件決定方法。
【請求項2】
前記複数種の戻り材の各々の配合量に基づいて、前記複数種の戻り材を含む鋳造材全体の総比表面積を算出し、前記総比表面積がクライテリアを満たすように、前記複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定する
請求項1に記載の鋳造条件決定方法。
【請求項3】
前記総比表面積が閾値以下となるように、前記複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定する
請求項2に記載の鋳造条件決定方法。
【請求項4】
前記閾値は、戻り材に含まれる介在物の量を示す指標と、戻り材の比表面積との相関関係に基づいて決定される
請求項3に記載の鋳造条件決定方法。
【請求項5】
前記指標は、前記戻り材の溶融物をフィルタで濾過したときに前記フィルタ上に残留した介在物の周縁長に基づく値である
請求項4に記載の鋳造条件決定方法。
【請求項6】
前記鋳造材の全量に対する前記複数種の戻り材の合計量の割合が50%以上100%以下である
請求項1乃至5の何れか一項に記載の鋳造条件決定方法。
【請求項7】
前記鋳造材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である
請求項1乃至6の何れか一項に記載の鋳造条件決定方法。
【請求項8】
複数種の戻り材を含む鋳造材を用いる鋳造の条件の決定装置であって、
比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するように構成された条件決定部を備える
鋳造条件決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳造条件決定方法及び鋳造条件決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造において、戻り材を含む鋳造材を用いることがある。ここで、戻り材は、鋳物製品の製造時に発生する製品以外の部位、又は、不良品を含む。戻り材には、材料成分の酸化物を主体とする介在物が比較的多く含まれる。このため、戻り材を含む鋳造材を用いた場合、介在物欠陥を有する製品が製造される可能性が高まるおそれがある。
【0003】
特許文献1には、アルミニウム溶湯中からの介在物の除去が十分でないと製品品質が低下することが記載されている。また、特許文献1には、アルミニウム溶湯中に含まれる介在物を除去する手法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鋳造材における戻り材の配合比を高めることで、材料費のコスト低減が可能である。しかし、従来、戻り材を含む鋳造材を用いる場合の鋳造品質への影響の定量的評価が困難であり、このため、戻り材の配合量を積極的に増やすことが難しい。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、製品品質の低下を抑制しながら戻り材の配合比を高めることが可能な鋳造条件決定方法及び鋳造条件決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る鋳造条件決定方法は、
複数種の戻り材を含む鋳造材を用いる鋳造の条件の決定方法であって、
比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するステップを備える。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る鋳造条件決定装置は、
複数種の戻り材を含む鋳造材を用いる鋳造の条件の決定装置であって、
比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するように構成された条件決定部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、製品品質の低下を抑制しながら戻り材の配合比を高めることが可能な鋳造条件決定方法及び鋳造条件決定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る鋳造条件決定装置の概略構成図である。
【
図2】アルミニウム合金についての、戻り材に含まれる介在物長さ(縦軸)と、戻り材の比表面積(横軸)との相関関係の一例を示すグラフである。
【
図3】アルミニウム合金についての、K値(縦軸)と、溶湯に含まれる皮膜状介在物長さ(横軸)との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
幾つかの実施形態に係る鋳造条件決定方法及び鋳造条件決定装置は、複数種の戻り材を含む鋳造材を用いた鋳造に際し、鋳造材における複数種の戻り材の配合量の上限値を含む鋳造条件を決定するための方法及び装置である。
【0013】
(戻り材及び鋳造材について)
戻り材は、鋳物製品の製造時に発生する製品以外の部位(例えば湯道又は押湯等)、又は、鋳造により製品として成形されたが、何らかの理由で使用に適さない不良品を含む。不良品は、通常、製品と同一の形状を有する。なお、戻り材は、リターン材又はスクラップ等と呼ばれることもある。
【0014】
本明細書では、形状が異なる戻り材を異種の戻り材として扱う。例えば、不良品と、ある部位の湯道とは、互いに異種の戻り材である。ある部位の湯道と、他の部位の湯道とは、互いに異種の戻り材である。ある部位の湯道と、同一部位の湯道とは、同種の戻り材である。異種の戻り材は、通常、比表面積が異なる。
【0015】
本明細書における比表面積は、材料(上述の戻り材、又は、後述する新材)の単位重量当たりの表面積である。
【0016】
鋳造材は、複数種の戻り材に加え、インゴット等の新材を含んでもよい。典型的には、鋳造材を構成する新材及び複数種の戻り材は、共通の金属成分を含む。あるいは、典型的には、鋳造材を構成する新材及び複数種の戻り材の各々の主金属成分は同一である。あるいは、典型的には、鋳造材を構成する新材及び複数種の戻り材の金属成分の組成は略同一である。
【0017】
新材及び/又は複数種の戻り材を含む鋳造材は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金(アルミニウム合金)であってもよい。
【0018】
(鋳造条件決定装置の構成)
図1は、一実施形態に係る鋳造条件決定装置の概略構成図である。
図1に示すように、鋳造条件決定装置10は、総比表面積算出部12、及び条件決定部14を備える。
【0019】
総比表面積算出部12は、鋳造材における複数種の戻り材及び/又は新材の各々の配合量(暫定的な配合量)に基づいて、複数種の戻り材を含む鋳造材全体の総比表面積を算出するように構成される。ここで、複数種の戻り材は、互いに異なる比表面積を有する。
【0020】
総比表面積算出部12は、入力部20(キーボード又はマウス等)から入力された複数種の戻り材及び/又は新材の各々の配合量を取得するように構成されていてもよい。総比表面積算出部12は、入力部20から入力された、又は、記憶部22(主記憶装置又は補助記憶装置等)に予め記憶された複数種の戻り材及び/又は新材の各々の比表面積を取得するように構成されてもよい。総比表面積算出部12は、このようにして取得された複数種の戻り材の各々の配合量及び/又は比表面積に基づいて、複数種の戻り材を含む鋳造材全体の総比表面積を算出するように構成されてもよい。材料(複数種の戻り材及び/又は新材)毎の比表面積は、鋳造で用いる鋳型又は鋳造製品のCAD(computer-aided design)モデルから算出されたものであってもよい。
【0021】
条件決定部14は、比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するように構成される。条件決定部14は、総比表面積算出部12により算出された鋳造材全体の総比表面積に基づいて、複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定するように構成されてもよい。
【0022】
条件決定部14で決定された複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を含む鋳造条件は、出力部24(例えばディスプレイ等)に出力されるようになっていてもよい。
【0023】
鋳造条件決定装置10は、プロセッサ(CPU等)、主記憶装置(メモリデバイス;RAM等)、補助記憶装置及びインターフェース等を備えた計算機を含む。鋳造条件決定装置10は、インターフェースを介して、入力部20又は記憶部22から信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、プロセッサは、主記憶装置に展開されるプログラムを処理するように構成される。これにより、上述の各機能部(総比表面積算出部12及び条件決定部14)の機能が実現される。
【0024】
鋳造条件決定装置10での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装される。プログラムは、例えば補助記憶装置に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムは主記憶装置に展開される。プロセッサは、主記憶装置からプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0025】
なお、上述の記憶部22は、鋳造条件決定装置10を構成する計算機の主記憶装置又は補助記憶装置を含んでもよく、あるいは、記憶部22は、該計算機とネットワークを介して接続される遠隔記憶装置を含んでもよい。
【0026】
(鋳造条件決定のフロー)
次に、幾つかの実施形態に係る鋳造条件決定方法についてより具体的に説明する。なお、以下において、上述の鋳造条件決定装置10を用いて一実施形態に係る鋳造条件決定方法を実行する場合について説明するが、幾つかの実施形態では、以下に説明する手順の一部又は全部を、他の装置を用いて又は手動で実行してもよい。
【0027】
ここでは、一例として、インゴット(新材)、戻り材A及び戻り材Bからなる鋳造材を用いる場合について説明する。戻り材A及び戻り材Bは、互いに形状が異なる異種の戻り材である。
【0028】
まず、総比表面積算出部12は、各材料(インゴット、戻り材A及び戻り材B)の暫定的な配合量(重量)を取得する。各材料の暫定的な配合量は、作業者により入力部20により入力されてもよく、総比表面積算出部12は、入力部20で入力された各材料の配合量を取得してもよい。ここでは、総比表面積算出部12が取得したインゴット、戻り材A及び戻り材Bの暫定的な配合量(重量)を、それぞれ、Wn’、WA’、WB’とする。
【0029】
また、総比表面積算出部12は、各材料(インゴット、戻り材A及び戻り材B)の比表面積を取得する。各材料の比表面積は、予め記憶部22に記憶されたものであってもよい。各材料の比表面積は、鋳造で用いる鋳型又は鋳造製品のCADモデルから算出することができる。ここでは、総比表面積算出部12が取得したインゴット、戻り材A及び戻り材Bの比表面積を、それぞれ、Sn、SA、SBとする。
【0030】
次に、総比表面積算出部12は、上述のように取得した各材料の配合量及び比表面積に基づいて、各材料(インゴット、戻り材A及び戻り材B)を含む鋳造材全体としての総比表面積を算出する。この鋳造材全体の総比表面積SALLは、各材料の表面積の総和を全重量で除算したものであり、下記式(A)で表すことができる。
SALL=(Sn×Wn’+SA×WA’+SB×WB’)/(Wn’+WA’+WB’) …(A)
【0031】
次に、条件決定部14は、総比表面積算出部12で算出された上述の総比表面積SALLに基づき、複数種の戻り材(戻り材A及び戻り材B)の各々の配合量の上限値を決定する。
【0032】
条件決定部14は、総比表面積SALLがクライテリアを満たすように、戻り材Aの配合量の上限値WA_U及び戻り材Bの配合量の上限値WB_Uを決定してもよい。
【0033】
本発明者らの鋭意検討の結果、インゴット(新材)や戻り材等の鋳造材について、各材料の比表面積と、該材料に含まれる介在物の量に相関関係があることが分かった。この点、上述の方法によれば、比表面積が異なる2種以上の戻り材(戻り材A及び戻り材B)の配合量の上限値(WA_U及びWB_U)をそれぞれ独立に決定する。したがって、各々の比表面積に応じて各戻り材の配合量の上限値を適切に設定することにより、製品品質の低下を抑制しながら、鋳造材における戻り材の配合比を高めることができる。
【0034】
また、鋳造材全体の総比表面積は、鋳造材全体に含まれる介在物量の指標となり得る。したがって、上述のように、複数種の戻り材を含む鋳造材全体の総比表面積SALLがクライテリアを満たすように、複数種の戻り材(戻り材A及び戻り材B)の各々の配合量の上限値を決定することで、製品品質の低下をより確実に抑制しながら、鋳造材における戻り材の配合比を高めることができる。
【0035】
一実施形態では、条件決定部14は、総比表面積SALLが閾値以下となるように、複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定する。例えば、上述の例において、算出された総比表面積SALLが閾値Sth以下であるとき、該総比表面積SALLの計算に用いた戻り材A及び戻り材Bの暫定的な配合量WA及びWBを、それぞれ、戻り材A及び戻り材Bの配合量の上限値WA_U及びWB_Uとして決定してもよい。
【0036】
総比表面積SALLと比較される上述の閾値Sthは、戻り材に含まれる介在物の量を示す指標と、戻り材の比表面積との相関関係に基づいて決定することができる。戻り材に含まれる介在物の量を示す指標は、例えば、戻り材の溶融物をフィルタで濾過したときに該フィルタ上に残留した介在物(皮膜状介在物)の周縁長(以下、介在物長さともいう。)に基づく値であってもよい。
【0037】
ここで、
図2は、アルミニウム合金についての、単位重量あたりの戻り材(及び新材)に含まれる介在物長さ(縦軸)と、戻り材(及び新材)の比表面積(横軸)との相関関係の一例を示すグラフである。各戻り材(及び新材)に含まれる介在物長さは、アルミニウム溶湯介在分析手法であるPoDFA(Porous Disc Filtration Apparatus)分析により計測されたものである。
図2のグラフにおける介在物の周縁長は、各材料の溶湯をフィルタで濾過し、フィルタ上に残留した介在物を顕微鏡で観察し、顕微鏡の視野に含まれる皮膜状介在物の周縁長を計測し、このように計測される周縁長の総和から算出されたものである。単位重量あたりの材料(戻り材又は新材)に含まれる介在物長さは、単位重量当たりの各材料に含まれる介在物の量を示す指標である。
【0038】
また、
図3は、アルミニウム合金についての、K値(縦軸)と、溶湯に含まれる皮膜状介在物長さ(横軸)との相関関係を示すグラフである。なお、K値とは、溶湯の清浄度を示す指標であり、JIS H 0523:2020に規定される方法で計測することができる。
【0039】
本発明者らの鋭意検討の結果、
図2のグラフに示すように、鋳造材を構成する各材料(戻り材及び新材)の比表面積と、該材料に含まれる介在物の量とは相関関係があり、概ね比例の関係であることが分かった。したがって、複数の戻り材及び/又は新材からなる鋳造材全体の総比表面積は、鋳造材全体に含まれる介在物量を示す指標となり得る。なお、各材料(複数種の戻り材及び新材)と、これらの材料に含まれる介在物の量の相関関係については従来不明であったことであり、各材料の比表面積と介在物量との間に上述の相関関係があることは、本発明者らによる新しい知見である。
【0040】
ここで、一般に、アルミニウム及びアルミニウム合金に関して、K値が1以下であれば、溶湯の清浄度が十分であり、品質が良好な鋳造品が得られることが知られている。また、
図3のグラフから得られる近似曲線に基づき、単位重量当たりの溶湯に含まれる介在物長さが約3.5mm/kg以下であれば、K値が1以下となることがわかる。
【0041】
したがって、複数の戻り材(及び/又は新材)を含む鋳造材について、
図2で得られたグラフに基づいて、単位重量あたりの介在物長さが約3.5mm/kg以下である鋳造材全体の総比表面積となるように各材料の配合比を決定すれば、該鋳造材の溶湯のK値は1以下となり、該鋳造材から得られる鋳造品の品質は良好なものとなる。すなわち、上述の例において総比表面積S
ALLと比較される上述の閾値S
thは、単位重量あたりの介在物長さが3.5mm/kgである鋳造材の総比表面積であってもよい。
【0042】
なお、本発明者らにより、
図2のグラフから、ある種のアルミニウム合金では、介在物長さL
A(mm/kg)と材料の比表面積S(mm
2/g)とは、下記式(B)で表されることがわかった。
L
A=0.04×S+0.97 …(B)
この式に基づけば、上述の例において総比表面積S
ALLと比較される上述の閾値S
thは、63.25(mm
2/g)である。
【0043】
このように、戻り材に含まれる介在物の量を示す指標(単位重量あたりの介在物長さ)と、戻り材の比表面積との相関関係に基づいて、鋳造材全体の総比表面積と比較される閾値を簡易かつ適切に決定することができる。
【実施例0044】
図4は、実施例を説明するための表である。複数種の戻り材(押湯A、押湯B、湯道C、不良品Q)、及び/又は、新材(インゴット)からなる鋳造材(例1~5)について、上述の総比表面積を算出した。また、各鋳造材(例1~5)について、熱分析計測を行い、介在物量を評価した。
【0045】
(各材料の配合)
例1~例5の鋳造材として、
図4の表の「原材料」の欄に記載の配合比(重量)の鋳造材を用意した。
【0046】
(各材料の表面積及び総比表面積の計算)
例1~例5の鋳造材について、各材料の比表面積に基づき表面積を算出し、その計算結果を用いて、鋳造材全体の総比表面積を算出した。各材料の表面積及び総比表面積は、それぞれ、
図4の表の「表面積」及び「総比表面積」の欄に記載のとおりである。なお、各材料の比表面積は以下のとおりである。インゴット:33mm
2/g、押湯A:33mm
2/g、押湯B:66mm
2/g、湯道C:55mm
2/g、不良品Q:108mm
2/g。
【0047】
例1~例5の鋳造材の総比表面積を上述の式(B)から求まる閾値Sth(63.25mm2/g)と比較すると、例1~例4の鋳造材の総比表面積は該閾値以下であり、例5の鋳造材の総比表面積は該閾値超である。
【0048】
なお、例1~例5の鋳造材についての総比表面積から、上記式Bに基づき、介在物長さ(皮膜状介在物の長さ)を推定することができる。このようにして推定される介在物長さは、
図4の表の「介在物長さ」の欄に記載のとおりである。
【0049】
(介在物量の評価)
例1~例5の鋳造材について、熱分析計測により介在物量の評価を行った。熱分析計測では、例1~例5の鋳造材の各々について、溶湯を所定の型に流し込み、所定温度から凝固するまでの時間(凝固時間;温度の時間変化の傾きが変化するまでの時間)を計測することにより行った。ここで、溶湯の凝固時間が長いほど、介在物量が多いことを示す。
【0050】
例1~例4の鋳造材については、溶湯の凝固時間が規定値以下であり、例5の鋳造材については、溶湯の凝固時間が規定値を超えていた。すなわち、総比表面積が上述の閾値以下である例1~例4の鋳造材においては、介在物量が比較的少ないこと、及び、総比表面積が上述の閾値超である例5の鋳造材においては、介在物量が比較的多いことが確認された。
【0051】
これらの結果から、アルミニウム合金について設定された鋳造材の総比表面積の閾値(63.25mm2/g)が適切であること、及び、該閾値に基づき各戻り材の上限値を決定することで、品質良好な鋳造品が得られることが示された。
【0052】
また、例1~例4の鋳造材は、戻り材の合計配合比率が、50%~100%である。一方、従来は、鋳造材における戻り材の配合比率は20%程度以下である。したがって、上述した方法に従い各戻り材の配合量の上限値を決定することで、実施例で示したように、品質低下を抑制しながら戻り材の配合比率を高めることができる。
【0053】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0054】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る鋳造条件決定方法は、
複数種の戻り材を含む鋳造材を用いる鋳造の条件の決定方法であって、
比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するステップを備える。
【0055】
本発明者らの鋭意検討の結果、インゴット(新材)や戻り材等の鋳造材について、各材料の比表面積と、該材料に含まれる介在物の量に相関関係があることが分かった。この点、上記(1)の方法では、比表面積が異なる2種以上の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ独立に決定する。したがって、各々の比表面積に応じて各戻り材の配合量の上限値を適切に設定することにより、製品品質の低下を抑制しながら、鋳造材における戻り材の配合比を高めることができる。
【0056】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記複数種の戻り材の各々の配合量に基づいて、前記複数種の戻り材を含む鋳造材全体の総比表面積を算出し、前記総比表面積がクライテリアを満たすように、前記複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定する。
【0057】
本発明者らの知見によれば、鋳造材全体の総比表面積は、鋳造材全体に含まれる介在物量の指標となり得る。上記(2)の方法によれば、複数種の戻り材を含む鋳造材全体の総比表面積がクライテリアを満たすように、複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定する。したがって、このように決定された上限値に従って各戻り材を配合することで、製品品質の低下をより確実に抑制しながら、鋳造材における戻り材の配合比を高めることができる。
【0058】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の方法において、
前記総比表面積が閾値以下となるように、前記複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定する。
【0059】
上記(3)の方法によれば、複数種の戻り材を含む鋳造材全体の総比表面積が閾値以下となるように複数種の戻り材の各々の配合量の上限値を決定する。したがって、このように決定された上限値に従って各戻り材を配合することで、製品品質の低下をより確実に抑制しながら、鋳造材における戻り材の配合比を高めることができる。
【0060】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の方法において、
前記閾値は、戻り材に含まれる介在物の量を示す指標と、戻り材の比表面積との相関関係に基づいて決定される。
【0061】
上記(4)の方法によれば、戻り材に含まれる介在物の量を示す指標と、戻り材の比表面積との相関関係に基づいて、鋳造材全体の総比表面積と比較される閾値を簡易かつ適切に決定することができる。
【0062】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の方法において、
前記指標は、前記戻り材の溶融物をフィルタで濾過したときに前記フィルタ上に残留した介在物の周縁長に基づく値である。
【0063】
複数種の戻り材について、溶融物をフィルタで濾過したときにフィルタ上に残留する介在物の周縁長は、各戻り材に含まれる介在物量の指標となり得る。上記(5)の方法によれば、戻り材の溶融物をフィルタで濾過したときにフィルタ上に残留した介在物の周縁長に基づく指標を用いて、各戻り材の配合量の上限値を適切に決定することができる。
【0064】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの方法において、
前記鋳造材の全量に対する前記複数種の戻り材の合計量の割合が50%以上100%以下である。
【0065】
従来、鋳造材中の戻り材の配合量は、20%程度以下であるのが通常である。上記(6)の方法によれば、上記(1)に記載の方法に従い複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ決定するので、例えば50%以上の高い比率で戻り材を投入しても、製品品質の低下を効果的に抑制することができる。
【0066】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの方法において、
前記鋳造材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である。
【0067】
本発明者らの知見によれば、アルミニウムを含む鋳造材について、各材料(新材及び戻り材)の比表面積と、該材料に含まれる介在物の量に比較的強い相関関係がある。上記(7)の方法によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金の鋳造材について、上記(1)に記載の方法に従い、複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ独立に決定する。したがって、各々の比表面積に応じて各戻り材の配合量の上限値を適切に設定することにより、製品品質の低下を抑制しながら、鋳造材における戻り材の配合比を高めることができる。
【0068】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る鋳造条件決定装置(10)は、
複数種の戻り材を含む鋳造材を用いる鋳造の条件の決定装置であって、
比表面積が異なる複数種の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ個別に決定するように構成された条件決定部(14)を備える。
【0069】
上記(8)の構成では、比表面積が異なる2種以上の戻り材の配合量の上限値をそれぞれ独立に決定する。したがって、各々の比表面積に応じて各戻り材の配合量の上限値を適切に設定することにより、製品品質の低下を抑制しながら、鋳造材における戻り材の配合比を高めることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0071】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。