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特開2022-190881施策提示装置、施策提示方法、および施策提示プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190881
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】施策提示装置、施策提示方法、および施策提示プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20221220BHJP
   G06N 3/08 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G06N20/00
G06N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099388
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 泰穂
(72)【発明者】
【氏名】柴原 琢磨
(57)【要約】
【課題】予測モデルが出力する予測結果を改善するためには、どの特徴量をどのように変化させる施策を取るべきかを提示すること。
【解決手段】施策提示装置は、複数の特徴量の値により構成される特徴量ベクトルと目的変数の値とによって学習された予測モデルを取得し、目的変数の目標となる目標目的変数の値と、複数の特徴量の中の改善対象特徴量と、を設定し、改善対象特徴量の変更前後の値の差と、変更前後の値の重みを規定するコスト計量と、に基づいて定義され、改善対象特徴量の変更前の値を変化させるコストが小さくなるように、改善対象特徴量の変更後の値を算出し、改善対象特徴量の変更後の値を予測モデルに入力した結果得られる目的変数の予測値と、目標目的変数の値と、に基づいて、改善対象特徴量の改善後の値を探索し、探索結果を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムを実行するプロセッサと、前記プログラムを記憶する記憶デバイスと、を有する施策提示装置であって、
前記プロセッサは、
複数の特徴量の値により構成される特徴量ベクトルと目的変数の値とによって学習された予測モデルを取得する取得処理と、
前記目的変数の目標となる目標目的変数の値と、前記複数の特徴量の中の改善対象特徴量と、を設定する設定処理と、
前記改善対象特徴量の変更前後の値の差と、前記変更前後の値の重みを規定するコスト計量と、に基づいて定義され、前記改善対象特徴量の変更前の値を変化させるコストが小さくなるように、前記改善対象特徴量の変更後の値を算出する算出処理と、
前記算出処理によって算出された前記改善対象特徴量の変更後の値を前記予測モデルに入力した結果得られる前記目的変数の予測値と、前記目標目的変数の値と、に基づいて、前記改善対象特徴量の改善後の値を探索する探索処理と、
前記探索処理による探索結果を出力する出力処理と、
を実行することを特徴とする施策提示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記設定処理では、前記プロセッサは、前記複数の特徴量の中から前記改善対象特徴量の選択を受け付けることにより、前記改善対象特徴量を設定する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記設定処理では、前記プロセッサは、前記コスト計量の入力を受け付けることにより、前記改善対象特徴量を設定する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記設定処理では、前記プロセッサは、前記改善対象特徴量の値を増減させる一部の重みの入力を受け付けることにより、前記コスト計量を設定する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項5】
請求項4に記載の施策提示装置であって、
前記設定処理では、前記プロセッサは、負の相関を示す一対の改善対象特徴量の入力を受け付け、前記一部の重みと、前記一対の改善対象特徴量の一方についての前記変更前後の値と前記一対の改善対象特徴量の他方についての前記変更前後の値とが異なる符号の値をとる場合に前記コストを増加させる残余の重みと、により、前記コスト計量を設定する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項6】
請求項4に記載の施策提示装置であって、
前記設定処理では、前記プロセッサは、正の相関を示す一対の改善対象特徴量の入力を受け付け、前記一部の重みと、前記一対の改善対象特徴量の一方についての前記変更前後の値と前記一対の改善対象特徴量の他方についての前記変更前後の値とが同一符号の値をとる場合に前記コストを増加させる残余の重みと、により、前記コスト計量を設定する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項7】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記設定処理では、前記プロセッサは、前記改善対象特徴量間の相関関係に基づいて、前記コスト計量を設定する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項8】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記算出処理では、前記プロセッサは、前記コストを最小化する前記改善対象特徴量の変更後の値を算出する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項9】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記探索処理では、前記プロセッサは、前記目的変数の予測値と、前記目標目的変数の値と、前記コストと、に基づいて、前記改善対象特徴量の改善後の値を探索する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項10】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記探索処理では、前記プロセッサは、前記目的変数の予測値が前記目標目的変数の値を超えた場合に、前記改善対象特徴量の変更後の値を前記改善対象特徴量の改善後の値に決定する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項11】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記出力処理では、前記プロセッサは、前記改善対象特徴量の変更前の値と前記改善対象特徴量の改善後の値とを前記探索結果として表示可能に出力する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項12】
請求項1に記載の施策提示装置であって、
前記出力処理では、前記プロセッサは、前記改善対象特徴量の改善後の値が前記予測モデルに入力されたことにより出力される予測値を表示可能に出力する、
ことを特徴とする施策提示装置。
【請求項13】
プログラムを実行するプロセッサと、前記プログラムを記憶する記憶デバイスと、を有する施策提示装置による施策提示方法であって、
前記プロセッサが、
複数の特徴量の値により構成される特徴量ベクトルと目的変数の値とによって学習された予測モデルを取得する取得処理と、
前記目的変数の目標となる目標目的変数の値と、前記複数の特徴量の中の改善対象特徴量と、を設定する設定処理と、
前記改善対象特徴量の変更前後の値の差と、前記変更前後の値の重みを規定するコスト計量と、に基づいて定義され、前記改善対象特徴量の変更前の値を変化させるコストが小さくなるように、前記改善対象特徴量の変更後の値を算出する算出処理と、
前記算出処理によって算出された前記改善対象特徴量の変更後の値を前記予測モデルに入力した結果得られる前記目的変数の予測値と、前記目標目的変数の値と、に基づいて、前記改善対象特徴量の改善後の値を探索する探索処理と、
前記探索処理による探索結果を出力する出力処理と、
を実行することを特徴とする施策提示方法。
【請求項14】
プロセッサに、
複数の特徴量の値により構成される特徴量ベクトルと目的変数の値とによって学習された予測モデルを取得する取得処理と、
前記目的変数の目標となる目標目的変数の値と、前記複数の特徴量の中の改善対象特徴量と、を設定する設定処理と、
前記改善対象特徴量の変更前後の値の差と、前記変更前後の値の重みを規定するコスト計量と、に基づいて定義され、前記改善対象特徴量の変更前の値を変化させるコストが小さくなるように、前記改善対象特徴量の変更後の値を算出する算出処理と、
前記算出処理によって算出された前記改善対象特徴量の変更後の値を前記予測モデルに入力した結果得られる前記目的変数の予測値と、前記目標目的変数の値と、に基づいて、前記改善対象特徴量の改善後の値を探索する探索処理と、
前記探索処理による探索結果を出力する出力処理と、
を実行させることを特徴とする施策提示プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施策を提示する施策提示装置、施策提示方法、および施策提示プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習モデルは、各特徴量について値が記されたデータから、ある目的変数を予測するモデルである。一般に、機械学習モデルは目的変数の予測のみを出力とし、どうすればその予測を変えられるのかは機械学習モデルから提示されない。
【0003】
機械学習モデルの実問題適用においては、予測結果のみを用いて問題解決可能な問題を除き、機械が出した予測結果から、問題に対してどのようにアプローチするかを人間の手で考え、決定する必要がある。このような意思決定を補助するために、Explainable AI(Artificial Intelligence)と呼ばれる、予測だけではなく、予測の要因の解析を自動化する手法が盛んに研究されている。しかし、Explainable AIは要因を明らかにするのみで、予測とその要因からどのように問題にアプローチするかまでは自動化されない。
【0004】
そこで、機械学習による予測モデルから、実際の問題を解決するための方策を自動的に導出するニーズが存在する。たとえば、ある企業の業績を上げたいという問題が存在するとする。これまでの企業データから各企業の売上を予測するモデルを生成したとき、重要となるのは売上がどうなるかという予測結果そのものではなく、どのような方策をとれば売上が下がるまたは横ばいとなると予測された企業の売上を、上げさせられるかである。
【0005】
他の分野でもこのようなニーズは存在する。たとえば、医療および福祉の分野においては、患者が回復するか否かだけでなく、患者にどのような介入を行えば回復しないと予測される患者を回復させることができるかを自動的に提示することが求められる。
【0006】
下記特許文献1は、広告などのメールを作成する際に、メールの受信者が狙った行動をとるようにメールの修正を提案する手法を開示する。特許文献1の技術は、たとえば、メールの送信時刻およびタイトルから受信者がメールを開くか否かを予測する機械学習モデルを作成し、受信者がメールを開く確率が大きくなるような送信時刻およびタイトルを探索し、確率値が最も大きくなる送信時刻およびタイトルを提示する。
【0007】
下記特許文献2は、分析対象についての説明の容易化を高精度かつ効率的に実現するデータ分析装置を開示する。このデータ分析装置は、入力層と、出力層と、その間において前段の層からのデータと第1学習パラメータとを第1活性化関数に与えて計算して後段の層に計算結果を出力する2層以上の中間層と、により構成される第1ニューラルネットワークを用い、各中間層からの出力データと第2学習パラメータとに基づいて、各出力データを同一サイズの次元数に変換させて、変換後の各出力データを出力する変換部と、変換後の出力データと、入力層に与えられた第1特徴量空間の第1入力データと、に基づいて、第1特徴量空間の第1入力データを第2特徴量空間に再配置する再配置部と、再配置結果と第3学習パラメータとに基づいて、第1特徴量空間の第1入力データに対する予測データを算出する予測データ算出部と、変換後の各出力データと第3学習パラメータとに基づいて、各中間層における第1入力データの第1重要度を算出する重要度算出部と、を有する。
【0008】
下記非特許文献1は、予測を行うDeep Learningなどの機械学習モデルに対し、その予測の要因の解析を自動化する手法を開示する。非特許文献1の技術は、予測を行う機械学習モデルに基づいて新たに線形回帰またはロジスティック回帰を学習し、特徴量の重要度を算出することによって、要因を自動的に解析する。ロジスティック回帰はパーセプトロンと等価な機械学習モデルであり、あらゆる分野で最も広く用いられている。たとえば、下記非特許文献2の119ページに示されるロジスティック回帰は、テストサンプル全体について特徴量の重要度を算出する機能を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第09317816号公報
【特許文献2】特開2019-79305号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ribeiro, Marco Tulio, Sameer Singh, and Carlos Guestrin. "Why should I trust you?: Explaining the predictions of any classifier." Proceedings of the 22nd ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining. ACM, 2016.
【非特許文献2】Friedman J, Trevor H, Robert T. The elements of statistical learning. second edition. New York: Springer series in statistics, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の手法は、メールの修正というアプリケーションの性質上、修正にかかるコストが極めて小さいため、あらゆる修正の中で受信者が狙った行動をする確率値が最も高くなる修正を選びさえすればよい。しかし、マーケティングや医療などの一般の問題では、何らかの方策を行うことにはコストが付随する。たとえば、営業の頻度を増やせば売上を上げられるからといって、無制限に営業の頻度を増やすことはできない。したがって、特許文献1の手法は一般の問題にそのまま適用することは難しい。
【0012】
非特許文献1の手法は、予測結果においてどの特徴量が重要であったかを明らかにできるが、どの特徴量をどのように変えれば予測結果を変えることができるかは明らかにすることができない。
【0013】
本発明は、予測モデルが出力する予測結果を改善するためには、どの特徴量をどのように変化させる施策を取るべきかを提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明の一側面となる施策提示装置は、プログラムを実行するプロセッサと、前記プログラムを記憶する記憶デバイスと、を有する施策提示装置であって、前記プロセッサは、複数の特徴量の値により構成される特徴量ベクトルと目的変数の値とによって学習された予測モデルを取得する取得処理と、前記目的変数の目標となる目標目的変数の値と、前記複数の特徴量の中の改善対象特徴量と、を設定する設定処理と、前記改善対象特徴量の変更前後の値の差と、前記変更前後の値の重みを規定するコスト計量と、に基づいて定義され、前記改善対象特徴量の変更前の値を変化させるコストが小さくなるように、前記改善対象特徴量の変更後の値を算出する算出処理と、前記算出処理によって算出された前記改善対象特徴量の変更後の値を前記予測モデルに入力した結果得られる前記目的変数の予測値と、前記目標目的変数の値と、に基づいて、前記改善対象特徴量の改善後の値を探索する探索処理と、前記探索処理による探索結果を出力する出力処理と、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の代表的な実施の形態によれば、予測モデルが出力する予測結果を改善するためには、どの特徴量をどのように変化させる施策を取るべきかを提示することができる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、AIの比較例を示す説明図である。
図2図2は、(C)施策提示可能AIを実現する施策提示装置の構成例を示す説明図である。
図3図3は、施策提示装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4図4は、施策提示装置の機能的構成例を示すブロック図である。
図5図5は、施策提示装置による施策提示処理手順例を示すフローチャートである。
図6図6は、施策提示装置による設定画面例1を示す説明図である。
図7図7は、施策提示装置による設定画面例2を示す説明図である。
図8図8は、施策提示装置による設定画面例3を示す説明図である。
図9図9は、テストサンプルとマニュアルモードにおける探索結果とを比較した図表である。
図10図10は、テストサンプルとセミマニュアルモードにおける探索結果とを比較した図表である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0017】
<AIの比較例>
図1は、AIの比較例を示す説明図である。(A)~(C)の各グラフにおいて、横軸を時間、縦軸を顧客がサービスを継続する可能性を示す継続確率とする。(A)一般的なAIは、学習により得られた予測モデルで未来予測を実行する。すなわち、(A)の例では、未来予測において継続確率が低下しており、AIは、顧客が契約破棄によりサービスを離脱する時期を予測する。
【0018】
(B)説明可能AIは、学習により得られた予測モデルで未来予測を実行するとともに、なぜそのような予測結果になったかを説明する。(B)の例では、(A)と同様、未来予測において継続確率が低下しており、説明可能AIは、顧客が契約破棄によりサービスを離脱する時期を予測するとともに、顧客の離脱要因の説明することが可能である。
【0019】
(C)施策提示可能AIは、学習により得られた予測モデルを用いて、未来を変える施策を提案する。(C)の例では、(A)および(B)とは異なり、未来を変える施策の提案により、未来予測において継続確率が上昇する。このように、施策提示可能AIは、顧客のサービスからの離脱を回避する施策を提案することにより、サービスの継続確率を高める。以降の説明では、(C)施策提示可能AIを実現する施策提示装置について説明する。
【0020】
実施例1では、2018年度までの企業データを用いて、2019年度の企業の売上高を予測する予測モデルを作成し、これらの企業データと予測モデルとに基づいて、企業の売上を目標値まで上げるためには企業データのどの特徴量をどのように変化させればよいかという施策を提示する施策提示装置を例に挙げて説明する。施策提示装置が出力する施策は、企業の成長のためにはどのような経営方針をとればよいかを示すことにつながる。
【0021】
<(C)施策提示可能AIを実現する施策提示装置の構成例>
図2は、(C)施策提示可能AIを実現する施策提示装置200の構成例を示す説明図である。施策提示装置200において、学習データセット201は、複数の学習データの集合であり、フィールドとして、ID210と、目的変数211と、特徴量ベクトル212と、を有する。同一行の各フィールドの値の組み合わせが1つの学習データを構成するエントリとなる。
【0022】
ID210は、学習データを一意に特定する識別情報である。たとえば、学習データが企業データである場合、ID210は企業を一意に特定する。Nは、学習データの総数となる。たとえば、N=3000である。
【0023】
目的変数211は、特徴量ベクトル212に対応する正解データであり、回帰の場合は連続値(企業データの例では、企業の売上高)、分類の場合はラベル(たとえば、positiveまたはnegative)である。
【0024】
特徴量ベクトル212は、介入不可能特徴量ベクトル221と、介入可能特徴量ベクトル222と、の組み合わせとなるD次元ベクトル(Dは1以上の整数)である。特徴量ベクトル212が企業データである場合、特徴量ベクトル212は、たとえば、2018年度までの各企業の規模や事業内容等の企業概要や、資本状況や経営状況などの情報を含む。ID210が「n」の特徴量ベクトル212を特徴量ベクトルx(n)と表記する場合がある。
【0025】
介入不可能特徴量ベクトル221は、m個(mは0以上の整数)の介入不可能特徴量fa1~fam(介入不可能特徴量fa1~famを区別しない場合は、単に介入不可能特徴量faと表記。)の値を示すベクトルである。
【0026】
介入不可能特徴量fa1~famとは、深層学習202には有用だが、改善提案について介入不可能な特徴量(たとえば、顧客の資産金額)である。介入可能特徴量ベクトル222は、深層学習202には有用なd個(dは1以上の整数)の介入可能特徴量fb1~fbd(介入可能特徴量fb1~fbdを区別しない場合は、単に介入可能特徴量fbと表記。)の値を示すベクトルである。
【0027】
介入可能特徴量fb1~fbdとは、改善提案について介入可能な特徴量(たとえば、融資提案額)である。なお、介入不可能特徴量faおよび介入可能特徴量fbを区別しない場合は、単に、特徴量fと表記する。
【0028】
深層学習202は、学習データセット201をニューラルネットワークに与えて学習し、予測モデル203を生成する処理である。予測モデル203は、特徴量ベクトル212が入力されると、その目的変数211を予測する機械学習モデルである。特徴量ベクトルが企業データである場合、予測モデル203は、たとえば、企業データに基づく企業の来年度の売上高予測モデルである。
【0029】
テストサンプル204とは、学習データセット201に含まれている特徴量ベクトル212とは別の特徴量ベクトルである(学習データセット201に含まれている特徴量ベクトル212の1つでもよい。)。学習データセット201の特徴量ベクトル212のID210の値と区別するため、テストサンプル204のID210の値を「test」、目的変数211の値を「yt」とする(目的変数ytと表記する場合もある。)。
【0030】
施策提示可能AI205は、テストサンプル204と予測モデル205とを用いて、テストサンプル204への施策情報206を出力する。施策提示可能AI205の詳細な処理は後述する。施策情報206は、テストサンプル204について、改善後の目的変数261と、目的変数ytが改善された介入可能特徴量ベクトル262と、を含む。
【0031】
改善後の目的変数261は、介入不可能特徴量ベクトル221と改善された介入可能特徴量ベクトル262が予測モデル203に入力された場合に出力される予測値である。改善後の目的変数261は、回帰の場合は予測確率であり、分類の場合はあるラベル(たとえば、positive)になる確率である。改善後の介入可能特徴量ベクトル262は、介入可能特徴量fb1~fbdのうち少なくとも1つを含む。
【0032】
<施策提示装置200のハードウェア構成例>
図3は、施策提示装置200のハードウェア構成例を示すブロック図である。施策提示装置200は、プロセッサ301と、記憶デバイス302と、入力デバイス303と、出力デバイス304と、通信インタフェース(通信IF)305と、を有する。プロセッサ301、記憶デバイス302、入力デバイス303、出力デバイス304、および通信IF305は、バス306により接続される。プロセッサ301は、施策提示装置200を制御する。記憶デバイス302は、プロセッサ301の作業エリアとなる。また、記憶デバイス302は、各種プログラムやデータを記憶する非一時的なまたは一時的な記録媒体である。記憶デバイス302としては、たとえば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリがある。入力デバイス303は、データを入力する。入力デバイス303としては、たとえば、キーボード、マウス、タッチパネル、テンキー、スキャナ、マイクがある。出力デバイス304は、データを出力する。出力デバイス304としては、たとえば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカがある。通信IF305は、ネットワーク310と接続し、クライアント端末307とデータを送受信する。
【0033】
なお、施策提示装置200は、たとえば、負荷分散のために複数台で構成されてもよい。また、クライアント端末307も、施策提示装置200と同様のハードウェア構成となる。
【0034】
<施策提示装置200の機能的構成例>
図4は、施策提示装置200の機能的構成例を示すブロック図である。施策提示装置200は、施策提示可能AI205として、取得部401と、設定入力部402と、算出部403と、探索部404と、出力部405と、を有する。これらは、具体的には、たとえば、図1に示した記憶デバイス102に記憶されたプログラムをプロセッサ101に実行させることにより実現される。
【0035】
取得部401は、学習データセット201および予測モデル203を記憶デバイスまたは外部のコンピュータから取得する。学習データセット201内にテストサンプルがない場合は、取得部401は、学習データセット201とは別にテストサンプルを取得する。
【0036】
設定入力部402は、施策の方針に関わる設定の入力を受け付ける。具体的には、たとえば、設定入力部402は、目標入力部421、施策特徴量指定部422、およびコスト情報入力部423を有する。
【0037】
目標入力部421は、施策を実行する上で目標となる目的変数の値ythrの入力を受け付ける(以下、目標目的変数ythrと表記。)。目標目的変数ythrは、たとえば、売上高3億円である。施策特徴量指定部422は、特徴量ベクトル212の中から施策を実行するd個(d≦D)の介入可能特徴量の指定を受け付ける。指定された介入可能特徴量を「施策特徴量」と称す。施策特徴量は、施策の改善対象となる介入可能特徴量である。コスト情報入力部423は、施策特徴量を変化させるために必要なコスト情報の入力を受け付ける。
【0038】
このように、設定入力部402によってデータが入力されると、施策を実施して特徴量を変化させるコストを計算するためのコスト計量が設定される。コスト計量は、施策実施前後における、各介入可能特徴量fbの値についての特徴量空間の重みで定義される。
【0039】
算出部403は、取得部401によって取得された学習データセット201の特徴量ベクトル212とテストサンプル204と設定入力部402で入力されたコスト計量とに基づいて、変更後の施策特徴量ベクトルを算出する。変更後の施策特徴量ベクトルは、介入可能特徴量群から選ばれた1以上の介入可能特徴量の値を示すベクトルである。変更後の施策特徴量ベクトルは、コスト計量に対応するコストを小さくするベクトルである。
【0040】
探索部404は、算出部403によって算出された変更後の施策特徴量ベクトルに基づいて、目的変数211を達成できる施策を探索する。目的変数211を達成できる施策とは、変更後の施策特徴量ベクトルを予測モデル203に入力した場合に、その予測結果が目標目的変数ythrを超えると、変更後の施策特徴量ベクトルが目的変数211を達成できる施策となる。探索部404は、算出部403によって算出された変更後の施策特徴量ベクトルに基づいて、最もコストが低く、かつ目的変数211を達成できる施策を探索してもよい。
【0041】
出力部405は、探索部404によって探索された探索結果を表示可能に出力する。具体的には、たとえば、出力部405は、出力デバイス304の一例である施策提示装置200のディスプレイに探索結果を表示したり、クライアント端末307のディスプレイに表示可能に探索結果を送信したりする。
【0042】
このように、施策提示装置200は、取得部401において読み込まれた特徴量ベクトル、テストサンプル204および予測モデル203と、設定入力部402において入力されたコスト計量とに基づいて、変更後の施策特徴量ベクトルを算出し、最適な施策を探索して提示する。
【0043】
<施策提示処理手順>
図5は、施策提示装置200による施策提示処理手順例を示すフローチャートである。施策提示装置200は、取得部401により学習データセット201、テストサンプル204および予測モデル203を取得する(ステップS501)。つぎに、施策提示装置200は、目標入力部421により、目標目的変数ythrの設定を受け付ける(ステップS502)。そして、施策提示装置200は、モード選択を受け付ける(ステップS503)。モードには、マニュアルモード、セミマニュアルモードおよびオートモードがある。
【0044】
マニュアルモードは、コスト計量をユーザが手動設定するモードである。セミマニュアルモードは、コスト計量の一部をユーザが手動設定するモードである。オートモードは、コスト計量を施策提示装置200が自動設定するモードである。
【0045】
マニュアルモードが選択された場合(ステップS504:マニュアル)、施策提示装置200は、施策特徴量およびコスト計量の設定を受け付ける(ステップS505)。
【0046】
セミマニュアルモードが選択された場合(ステップS504:セミマニュアル)、施策提示装置200は、施策特徴量およびコスト計量に必要な情報(コスト情報)の設定を受け付ける(ステップS506)。
【0047】
オートモードが選択された場合(ステップS504:オート)、施策提示装置200は、施策特徴量の設定を受け付ける(ステップS507)。
【0048】
ステップS505~S507のあと、施策提示装置200は、算出部403により、変更後の施策特徴量ベクトルを算出する(ステップS508)。つぎに、施策提示装置200は、探索部404により、変更後の施策特徴量ベクトルに基づいて施策を探索する(ステップS509)。最後に、施策提示装置200は、出力部405により、探索結果を出力する。
【0049】
<設定画面例1>
図6は、施策提示装置200による設定画面例1を示す説明図である。設定画面600において、読込ボタン601は、取得部401が記憶デバイス302から学習データセット201、テストサンプル204および予測モデル203を読み込むためのボタンである。
【0050】
具体的には、たとえば、取得部401は、読込ボタン601の押下により、学習データセット201、テストサンプル204および予測モデル203を記憶デバイス302から読み込む(ステップS501)。
【0051】
目標値入力欄602は、目標目的変数ythrを入力するための入力欄である。目標値入力欄に入力された値は、目標目的変数ythrとして目標入力部421によって読み込まれる。
【0052】
モード選択プルダウン603は、マニュアルモード、セミマニュアルモードおよびオートのいずれかを選択するためのプルダウンである。図6では、マニュアルモードが選択された場合について説明する。セミマニュアルモードが選択された場合については図7で後述し、オートモードが選択された場合については図8で後述する。
【0053】
コスト計量情報設定領域604は、モード選択プルダウン603でマニュアルモードが選択された場合に、コスト計量情報を設定するための領域である。具体的には、たとえば、コスト計量情報設定領域604は、施策特徴量選択プルダウン641と、行列要素入力領域642と、設定ボタン643と、を有し、施策特徴量とコストを求めるためのコスト計量Gの行列要素とを、コスト計量情報として受け付ける。
【0054】
施策特徴量選択プルダウン641は、介入可能特徴量fbおよびその種類数h(h≦dを満たす整数)を選択するためのユーザインタフェースである。選択された介入可能特徴量fbが施策特徴量となる。図6では、従業員数、事業所数および株主数の3つ(h=3)の介入可能特徴量fbが施策特徴量に選択された例を示している。コスト計量Gは、h行h列の行列である。
【0055】
行列要素入力領域642は、施策特徴量の列の要素の値の入力を受け付ける領域である。設定ボタン643は、押下により、施策特徴量選択プルダウン641によって選択された施策特徴量および行列要素入力領域642に入力された要素の値を読み込むためのユーザインタフェースである。
【0056】
実行ボタン605は、押下により、コスト計量Gを用いて算出部403および探索部404による処理の実行開始を受け付けるユーザインタフェースである。
【0057】
探索結果表示領域606は、探索部404による探索結果660と改善後の目的変数261とを表示する領域である。探索結果660は、施策特徴量ごとに、改善前の値(矢印の始端側)と改善後の値(矢印の終端側)とを含む。探索結果660は、図2に示した改善後の介入可能特徴量ベクトル262である。
【0058】
[コスト計量G]
ここで、コスト計量Gについて詳細に説明する。コスト計量Gは、下記式(1)に示すコストcを定義するh×h行列である。
【0059】
【数1】
【0060】
ベクトルxorgは変更前の施策特徴量を示すh次元ベクトル、ベクトルxactは変更後の施策特徴量を示すh次元ベクトルである。det(G)は、コスト計量Gの行列式である。上記式(1)は、施策特徴量の差分ベクトル(ベクトルxact-ベクトルxorg)の各要素から重複を許して二つ取り出し、その積の和によってコストcを定義する。この和をとるときに、すなわち、コストcを計量する場合に、差分ベクトル(ベクトルxact-ベクトルxorg)における各差分の積の重みを指定するのがコスト計量Gである。
【0061】
算出部403は、式(1)により、コストcが最小となるベクトルxactを算出する。算出部403は、コストcが小さい順に所定順位までのベクトルxact群を算出してもよく、コストcがしきい値以下となるすべてのベクトルxact群を算出してもよい。
【0062】
[探索処理]
つぎに、探索部404による探索処理について詳細に説明する。探索部404は、下記式(2)の損失関数Lを最小化する施策、具体的には、ベクトルxactを探索する。
【0063】
【数2】
【0064】
上記式(2)において、σはシグモイド関数、aはシグモイド関数σの傾きを決めるパラメータであり、λはコストcの重みを決めるパラメータであり、それぞれ任意に設定可能である。本例では、a=1000,λ=0.1とする。改善後の目的変数yactは、テストサンプル204の介入不可能特徴量ベクトル221と、施策特徴量がベクトルxorgからベクトルxactに置換された介入不可能特徴量ベクトル221と、が結合された特徴量ベクトルを予測モデル203に入力することにより算出される。なお、上記式(2)において、シグモイド関数σを線形関数やReLU関数またはGeLU関数に置き換えてもよい。
【0065】
損失関数Lの右辺第1項は、目的変数yactが目標目的変数ythrを越える場合にL=-1、超えない場合L=0となる単調減少関数であり、目的変数yactが目標目的変数ythrを越えない場合にL=1の損失を与えると解釈できる。
【0066】
損失関数Lの右辺第2項は、コストcに比例する項である。右辺第1項および右辺第2項の和を最小化することにより、目的変数yactが目標目的変数ythrを越え、かつコストcが小さい施策を示すベクトルxactが求まる。なお、右辺第2項は、省略してもよい。
【0067】
なお、探索部404は、損失関数Lが最も小さい施策ではなく、2番目以降に小さい施策を探索してもよい。ユーザは、いずれの施策を採用するかを選択することができる。たとえば、ユーザは、施策選択プルダウン661により、損失関数Lの小ささに応じた施策を選択することが可能である。これにより、探索部404は、施策選択プルダウン661の選択された施策を探索する。図6の例では、施策選択プルダウン661により、「2nd best action」が選択されている。
【0068】
出力部405は、最終的に求まったベクトルxactの値(890,36,390)と元々の施策特徴量を示すベクトルxorgの値(780,25,420)とを、探索結果660として、探索結果表示領域606に表示可能に出力する。図6の例では、施策選択プルダウン661により、「2nd best action」が選択されているため、損失関数Lの値が2番目に小さい施策が探索され、探索結果660として表示される。
【0069】
<設定画面例2>
図7は、施策提示装置200による設定画面例2を示す説明図である。図7は、モード選択プルダウン603において、セミマニュアルモードが選択された場合の設定画面例である。セミマニュアルモードが選択された場合、コスト計量情報設定領域604には、施策特徴量選択プルダウン641と、コスト情報入力領域701と、施策特徴量ペア入力領域702と、設定ボタン643と、が表示される。
【0070】
設定画面700において、コスト情報入力領域701は、コスト情報の入力を受け付けるユーザインタフェースである。コスト情報とは、施策特徴量を単独で動かすときに必要となる重みである。具体的には、たとえば、「従業員数」を1名増やすのにかかる重みが1、事業所数を一つ増やすのにかかる重みが10(単位は一千万円)であれば、コスト情報入力領域701にはそれぞれ「1」と「10」とがコスト情報として入力される。
【0071】
また、コスト情報は、コスト計量Gの対角成分に設定される。すなわち、図6に示したマニュアルモードでは、コスト計量Gの全行列要素の入力が可能であったが、セミマニュアルモードでは、コスト計量Gの対角成分のみ入力可能である。
【0072】
施策特徴量ペア入力領域702は、施策特徴量ペアの入力を受け付ける領域である。具体的には、たとえば、施策特徴量ペア入力領域702は、同一方向施策特徴量ペア入力領域721と、反対方向施策特徴量ペア入力領域722と、を有する。
【0073】
同一方向施策特徴量ペア入力領域721は、同一方向の施策特徴量ペアの入力を受け付ける領域である。同一方向の施策特徴量ペアとは、負の相関を示す施策特徴量ペア、すなわち、施策特徴量ペアである2つの施策特徴量の一方を増加したときに他方を増加するのが困難であるとユーザが判断した施策特徴量ペアである。たとえば、「事業所」を増やしたときに「従業員数」を増やすことが難しい場合、ユーザは、同一方向施策特徴量ペア入力領域721に同一方向施策特徴量ペアとして、(従業員数,事業所数)を入力すればよい。
【0074】
反対方向施策特徴量ペア入力領域722は、正の相関を示す施策特徴量ペア、すなわち、反対方向の施策特徴量ペアの入力を受け付ける領域である。反対方向の施策特徴量ペアとは、施策特徴量ペアである2つの施策特徴量の一方を増加したときに他方を減少するのが困難であるとユーザが判断した施策特徴量ペアである。たとえば、「事業所」を増やしたときに「従業員数」を減らすことは難しい場合、ユーザは、反対方向施策特徴量ペア入力領域722に反対方向施策特徴量ペアとして、(従業員数,事業所数)を入力すればよい。
【0075】
上記のような制限が特にない場合、ユーザは、施策特徴量ペア入力領域702に何も入力する必要はない。
【0076】
図7に示したように、施策特徴量として、「従業員数」および「事業所数」を選択し、各施策特徴量のコスト情報入力領域701にはそれぞれ「1」と「10」を入力し、反対方向施策特徴量ペア入力領域722に(従業員数,事業所数)を入力し、同一方向施策特徴量ペア入力領域721には何も入力しない場合、コスト計量Gは以下のように計算される。
【0077】
まず、コスト計量Gortは、下記式(3)で表現される。
【0078】
【数3】
【0079】
コスト計量Gortの対角成分にコスト情報入力領域701に入力されたコスト情報が設定され、非対角成分に0が設定される。
【0080】
算出部403は、コスト計量Gortを用いて上記式(1)のコストcを計算すると、コストcは、施策特徴量「従業員数」の施策前後の値の差の二乗と、施策特徴量「事業所数」の施策前後の値の差の二乗に10をかけた値と、の和となる。したがって、施策特徴量「事業所数」を変えるには、施策特徴量「従業員数」を変える10倍のコストcが課されることを意味する。このとき、コストcは「従業員数」および「事業所数」の施策前後の値の差をそれぞれ横軸と縦軸にとった二次元平面における、長径:短径=√10:1の楕円の長径の二乗と短径の二乗の和に比例する。
【0081】
そして、算出部403は、下記式(4)に示すように、コスト計量Gortを回転行列を用いて回転させて、コスト計量Gを算出する。
【0082】
【数4】
【0083】
上記式(4)は、長径:短径=√10:1の楕円を、横軸方向にα倍に引き伸ばし、さらに-θ度回転させることに対応する。ここで、パラメータα=1.5、θ=45°とする。これにより、楕円は-45度方向と135度方向に引き伸ばされた形に変形する。コストc、つまりこの楕円の長径と短径の二乗和は、「従業員数」および「事業所数」の施策前後の値の差がそれぞれ正の値と負の値、または、負の値と正の値となるとき、大きくなることを意味する。
【0084】
一方、同一方向施策特徴量ペア入力領域721に(従業員数,事業所数)を入力し、反対方向施策特徴量ペア入力領域722には何も入力しない場合、つまり「従業員数」が増えるときに「事業所数」が増える、または「従業員数」が減るときに「事業所数」が減るような施策にペナルティを課したい場合は、上記式(4)におけるθを-θに置き換えればよい。
【0085】
このとき、楕円は45度方向と225度方向に引き伸ばされた形をとり、「従業員数」および「事業所数」の施策前後の値の差がそれぞれ正の値と正の値、または、負の値と負の値となるとき(すなわち、同一符号となるとき)、コストcは大きくなる。
【0086】
なお、3次元以上の施策特徴量とコスト計量Gを考えるときは、2次元と場合と同様に対角成分にコスト情報入力領域701にコスト情報を入力し、施策特徴量ペア入力領域702に入力された施策特徴量ペアについて、それぞれ上記式(4)と同様の操作を行えばよい。
【0087】
このようにして求められたコスト計量Gを用いて、算出部403は、図6の設定画面例1で説明した場合と同様、上記式(1)により、コストcが最小となるベクトルxactを算出し、探索部404は、ベクトルxactを用いて上記式(2)の損失関数Lを最小化する施策を探索することになる。
【0088】
<設定画面例3>
図8は、施策提示装置200による設定画面例3を示す説明図である。図8は、モード選択プルダウン603において、オートモードが選択された場合の設定画面例である。オートモードが選択された場合、設定画面800のコスト計量情報設定領域604には、施策特徴量選択プルダウン641と、設定ボタン643と、が表示される。また、オートモードでは、ユーザから指定がない限り、すべての介入可能特徴量fbが施策特徴量となる。
【0089】
オートモードが選択されているため、施策提示装置200は、施策特徴量指定部422およびコスト情報入力部423により、セミマニュアルモードにおいてステップ506で設定される情報を、学習データセット201内の介入可能特徴量間の相関関係に基づいて自動的に決定する。具体的には、たとえば、オートモードでは、施策特徴量指定部422は、総当たりで2つの施策特徴量間の相関係数を算出し、正の相関を示す介入可能特徴量ペアを、反対方向施策特徴量ペアに設定し、負の相関を示す介入可能特徴量ペアを、同一方向施策特徴量ペアに設定する。
【0090】
たとえば、介入可能特徴量fbが「従業員数」、「事業所数」および「株主数」の三つであるとする。これらの介入可能特徴量fbの分散がそれぞれ、「72」,「4.7」,「18」で、「従業員数」および「事業所数」の相関が正に大きく、他の介入可能特徴量ペアの相関はすべて負であるとき、コスト情報入力部423は、有効数字3桁で下記式(5)のようにコスト軽量Gを設定する。
【0091】
【数5】
【0092】
なお、0以上で1よりも小さい正のしきい値および-1よりも大きく0よりも小さい負のしきい値を設けてもよい。この場合、施策提示装置200は、相関係数が正のしきい値以上となる介入可能特徴量ペアについては、反対方向施策特徴量ペアに設定し、相関係数が負のしきい値以下となる介入可能特徴量ペアについては、同一方向施策特徴量ペアに設定してもよい。
【0093】
そして、算出部403は、コスト計量Gに基づいて、上記式(1)により、ベクトルxactを算出することになる。
【0094】
このように、実施例1によれば、設定画面600,700,800において施策特徴量とそのコスト計量の情報を入力することにより、施策提示装置200は、企業の売上を目標値まで上げるためにはデータのどの施策特徴量をどのように変化させればよいかという施策を提示することが可能となる。
【実施例0095】
実施例2では、実施例1の施策提示装置200が、ボストン住宅価格データから、住宅価格を予測する機械学習モデルを作成し、住宅価格を目標値まで上げるためにはどのような施策が必要かを提示する例を説明する。ボストン住宅価格データでは、住宅のある地域の犯罪率や高速道路へのアクセスの良好さなどの地域情報や、住宅の平均部屋数や固定資産税額などの住宅そのもののデータからなるデータセットである。本実施例に基づく施策提示装置200の出力する施策により、住宅の不動産価値を上げるにはどうすればよいかを明らかにすることが可能となる。
【0096】
ボストン住宅価格データを用いて施策提示装置200の動作確認を行った結果について説明する。ボストン住宅価格データは、N=506サンプル、D=13次元の特徴量群、住宅価格(1,000ドル単位)を目的変数とする学習データセット201である。
【0097】
住宅価格を予測する予測モデル203として、特許文献2に記載の予測モデル203を使用した。その精度は決定係数R2=0.830であった。なお、特許文献2に記載の予測モデル203ではなく、他の任意の機械学習モデルを使用してもよい。たとえば、線形か回帰モデルや、ランダムフォレストモデル、多層パーセプトロンモデルなどを使用してもよい。
【0098】
ボストン住宅価格データの介入可能特徴量のうち、平均部屋数RM、高速道路へのアクセス指数RAD、固定資産税TAXを施策特徴量として採用する。高速道路へのアクセス指数RADは大きいほどアクセスがよいことを示す1~24の自然数の変数である。また、施策を提案するテストサンプル204は、住宅価格を「27.5」、平均部屋数RM=6.727、高速道路へのアクセス指数RAD=5、固定資産税TAX=384の住宅とする。このテストサンプル204の施策特徴量を変化させることによって、目標目的変数である住宅価格32.5を達成させることを考える。
【0099】
以下、実施例1におけるマニュアルモード、セミマニュアルモードの手順に沿って、各モードにおけるデータ入力例と、その探索結果を示す。ここで、上記式(1)~(5)において使用した各パラメータの値は実施例1と同じ値とし、上記式(1)~(5)における施策特徴量に対応するデータとして、元々の施策特徴量の値ではなく、平均0および分散1に正規化された値を用いることとする。
【0100】
<マニュアルモード>
下記式(6)のように、コスト計量G1、G2が入力された場合を考える。
【0101】
【数6】
【0102】
コスト計量G1は、すべての施策特徴量の変化にかかるコスト情報を同一(対角成分がすべて1)としている一方、コスト計量G2は、平均部屋数RMの変化にかかるコスト情報に比べて、高速道路へのアクセス指数RADと固定資産税TAXのそれぞれのコスト情報は各々二倍と半分であると仮定していることを意味する。
【0103】
コスト計量G1を用いた結果、最善(最も損失関数Lが小さい)の施策特徴量の値は(RM=7.594,RAD=6,TAX=323.2)であり、このときの目的変数である住宅価格の予測値は32.60であった。
【0104】
コスト計量G2を用いた結果、最善の施策特徴量の値は(RM=7.609,RAD=5,TAX=311.9)であり、このときの目的変数である住宅価格の予測値は32.80であった。
【0105】
図9は、テストサンプル204とマニュアルモードにおける探索結果とを比較した図表である。コスト計量G1,G2を用いた場合の探索結果を比べると、以下のことがわかる。まず、両方とも住宅価格が目標目的変数の値32.5は越えており、かつ、最善の施策特徴量(RM,RAD,TAX)の値は、テストサンプル204の施策特徴量の値(6.727,5,384)から著しく乖離しておらず、コストcを最小化した上で目標を達成しようとしていることがわかる。
【0106】
また、コスト計量G1,G2に対する最善の施策特徴量(RM,RAD,TAX)の値を比べると、平均部屋数RMはほぼ同じである一方で、高速道路へのアクセス指数RADはコスト計量G1では、テストサンプル204の施策特徴量の値「5」から1増えているが、コスト計量G2では、テストサンプル204の施策特徴量の値「5」と同じ値をとる。
【0107】
また、コスト計量G2の固定資産税TAXの値「311.9」とテストサンプル204の施策特徴量の値「384」との差は、コスト計量G1の固定資産税TAXの値「323.2」とテストサンプル204の施策特徴量の値「384」との差よりも大きい。つまり、コスト計量G1よりもコスト計量G2に対する仮定を正しく反映してコストcが計算されていることがわかる。
【0108】
<セミマニュアルモード>
コスト情報入力領域701において、平均部屋数RM、高速道路へのアクセス指数RAD、および固定資産税TAXにすべて「1」、同一方向施策特徴量ペア入力領域721に(RM,RAD)、反対方向施策特徴量ペア入力領域722に(RM,TAX)が入力されたと仮定する。このとき、最善の施策特徴量の値は、RM=7.73,RAD=3,TAX=410,目的変数である住宅価格の予測値は32.7であった。
【0109】
図10は、テストサンプル204とセミマニュアルモードにおける探索結果とを比較した図表である。つまり、テストサンプル204と比べて、RMは大きく、RADは小さく、TAXは大きくなっている。これは、同一方向施策特徴量ペア入力領域721および反対方向施策特徴量ペア入力領域722において、平均部屋数RMと高速道路へのアクセス指数RADの両方が大きくまたは小さくなること、平均部屋数RMと固定資産税TAXの一方が大きく、他方が小さくなることに対してコスト情報を課す入力を正しく反映した結果であることがわかる。
【0110】
同一方向施策特徴量ペア入力領域721および反対方向施策特徴量ペア入力領域722が空欄であった場合、マニュアルモードにおけるコスト計量G1の探索結果と同一になるが、同一方向施策特徴量ペア入力領域721および反対方向施策特徴量ペア入力領域722に入力することにより、コスト計量G1の探索結果とは全く異なる結果が得られることがわかる。
【実施例0111】
実施例3では、実施例1の施策提示装置200が、ローン申し込み者のデータから、ローンを貸付可能か否かを予測する予測モデル203を作成し、貸付可能と判断されるためにはどのような施策を実施すれば良いかを提示する例を説明する。本実施例に基づく施策提示装置200の出力する結果により、ローンの貸付が不可能と判断された顧客に対し、どのように収入や申し込み内容などを変更すれば貸付可能になるかを示すことができ、より多くの人がローンを利用することができるようになる。
【0112】
テストサンプル204は、特徴量群の各値を示す特徴量ベクトルxnと、予測すべき未来の値を示す目的変数ynと、の組み合わせにより規定される時系列データとする。ID210の値n=1,…,Nは、ローン申込者を指定するためのインデックスである。
【0113】
特徴量ベクトルxnはD次元の実数値ベクトルであり、ローン申込者の過去の信用情報や収入情報、どのような額面および内容でローンに申し込んだかなどの申込情報を含んでいる。目標変数ynは、0または1のいずれかのクラス値をとる。本実施例では、目標変数yn=1は、ローンを貸付不可能と判断されたこと、目標変数yn=0は、貸付可能と判断されたことを意味する。
【0114】
実施例1と同様の施策提示手順を実行すれば、施策提示装置200は、ローンを貸付不可能な顧客に対し、信用情報や収入情報、申し込み情報の中で、どの量をどの程度変えれば、コストが少なく、かつローンを貸付可能と判断されるようにできるかを提示することができる。
【0115】
実施例3のような分類モデルは、回帰モデルと異なり、予測対象は各クラスに分類される確率値である。したがって、上記式(2)の改善後の目的変数yactは、目標となるクラスに分類される確率値に対応するため、目標目的変数ythrには目標となるクラスに分類されるための確率値のしきい値が用いられる。ここで、確率値そのものの代わりに、確率値pのもつ情報量「-log(p)」の逆数や負符号をつけた「log(p)」を使用してもよい。
【0116】
このように、施策提示装置200は、最も低コストで予測結果を変えるためには、どの特徴量をどのように変化させる施策を取るべきかを提示することができる。
【0117】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。たとえば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、または置換をしてもよい。
【0118】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、たとえば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0119】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)の記録媒体に格納することができる。
【0120】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0121】
101 プロセッサ
102 記憶デバイス
200 施策提示装置
201 学習データセット
202 深層学習
203 予測モデル
204 テストサンプル
205 予測モデル
211 目的変数
212 特徴量ベクトル
221 介入不可能特徴量ベクトル
222 介入可能特徴量ベクトル
301 プロセッサ
302 記憶デバイス
401 取得部
402 設定入力部
403 算出部
404 探索部
405 出力部
421 目標入力部
422 施策特徴量指定部
423 コスト情報入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10