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特開2022-190890露光装置、露光方法および物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190890
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20221220BHJP
   G02B 19/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G02B19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099400
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】杉田 光
【テーマコード(参考)】
2H052
2H197
【Fターム(参考)】
2H052BA02
2H052BA12
2H197AA05
2H197BA09
2H197CD12
2H197CD13
2H197DB10
2H197HA03
2H197HA05
2H197HA10
(57)【要約】
【課題】 光学素子の温度分布を応答性良く制御するために有利な技術を提供する。
【解決手段】 投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置であって、投影光学系の光学素子の温度分布を制御する温度制御部を備え、投影光学系の光軸方向に関して温度制御部の少なくとも一部が光学素子と重なるように温度制御部が配置され、温度制御部は、露光動作における露光条件に応じて光軸方向と垂直な成分を含む方向に移動する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置であって、
前記投影光学系の光学素子の温度分布を制御する温度制御部を備え、
前記投影光学系の光軸方向に関して前記温度制御部の少なくとも一部が前記光学素子と重なるように前記温度制御部が配置され、前記温度制御部は、前記露光動作における露光条件に応じて前記光軸方向と垂直な成分を含む方向に移動することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記露光条件は、前記投影光学系の開口数と、前記投影光学系の瞳面に形成される光強度分布の少なくとも一方に関する条件を含むことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記開口数が第1の値であるときには、前記温度制御部は前記投影光学系の光軸を中心として第1の位置に配置され、
前記開口数が前記第1の値よりも小さい第2の値であるときには、前記温度制御部は前記光軸を中心として前記第1の位置よりも前記光軸に近い位置に配置されることを特徴とする請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記光強度分布が第1の分布であるときには、前記温度制御部は前記投影光学系の光軸を中心として第1の位置に配置され、
前記光強度分布が第2の分布であるときには、前記温度制御部は前記光軸を中心として前記第1の位置よりも前記光軸に近い位置に配置され、
前記第1の分布は、前記第2の分布よりも外側に光強度を有することを特徴とする請求項2に記載の露光装置。
【請求項5】
前記温度制御部は、前記投影光学系の収差が低減されるように前記光学素子の温度分布を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記温度制御部は、前記収差として非点収差が低減されるように、前記光学素子の温度分布を制御することを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記温度制御部は、前記収差としてコマ収差が低減されるように、前記光学素子の温度分布を制御することを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項8】
前記温度制御部は、発熱体を有し、前記発熱体からの熱により前記光学素子の温度分布を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
前記温度制御部は、前記光学素子に光を照射することにより前記光学素子の温度分布を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記温度制御部を保持して移動する移動体と、当該移動体の移動をガイドするガイド部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項11】
前記ガイド部は、前記光学素子の形状に合わせて形成されていることを特徴とする請求項10に記載の露光装置。
【請求項12】
前記温度制御部は、前記投影光学系を保持する鏡筒に設けられたカム機構によって移動されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項13】
前記温度制御部は、主部と副部から構成され、
前記温度制御部の前記光軸方向と垂直な方向への移動に伴い、前記副部は、前記主部に対して移動することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項14】
前記光軸方向から見て、前記主部と前記副部の一部が重なっていることを特徴とする請求項13に記載の露光装置。
【請求項15】
前記副部の移動によって、前記光軸方向から見たときにおける前記温度制御部の大きさが変化する請求項14に記載の露光装置。
【請求項16】
前記副部を保持するリンク機構を更に備え、
前記リンク機構は、前記温度制御部の前記光軸方向と垂直な方向への移動と連動して、前記副部を移動させることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項17】
投影光学系の光学素子の温度分布を制御する温度制御工程と、
前記投影光学系を介して基板を露光する露光工程を含む露光方法であって、
前記温度制御工程において、前記露光工程における露光条件に応じて前記光学素子の温度分布を制御する温度制御部を移動させることを特徴とする露光方法。
【請求項18】
前記露光条件は、前記投影光学系の開口数と、前記投影光学系の瞳面に形成される光強度分布の少なくとも一方に関する条件を含むことを特徴とする請求項17に記載の露光方法。
【請求項19】
前記温度制御部は、前記投影光学系の収差が低減されるように前記光学素子の温度分布を制御することを特徴とする請求項17または18に記載の露光方法。
【請求項20】
物品の製造方法であって、
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の露光装置によって基板を露光する露光工程と、
前記露光工程で露光された前記基板を現像する現像工程と、
前記現像工程で現像された前記基板を処理する処理工程と、を含み、
前記処理工程で処理された前記基板から物品を得ることを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の物品の製造において、原版(レチクル又はマスク)を照明光学系で照明し、投影光学系を介して原版のパターンを基板に投影して基板を露光する露光装置が使用されている。投影光学系の結像特性は、露光光の照射によって変動するため、露光装置では、光学素子の姿勢および位置の制御によって結像特性が補正される。また、光学素子の温度分布を変更することによって結像特性の補正が行われる。
【0003】
特許文献1には、投影光学系に含まれるレンズの保持部の近傍に温度制御ブロックを配置し、温度制御ブロックと保持部とのギャップを調整することによってレンズの温度変化の時定数を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-78572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、光軸に対してレンズの外側に温度制御ブロックを配置しており、温度制御ブロック、空気層、レンズ保持部、レンズの順に熱が伝達される。そのため、温度制御ブロックと保持部とのギャップを変化させたとしても、レンズの温度を所望の値とするためには多くの時間を要する。
【0006】
本発明は、レンズ等の光学素子の温度分布を応答性良く制御するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の露光装置は、投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置であって、前記投影光学系の光学素子の温度分布を制御する温度制御部を備え、前記投影光学系の光軸方向に関して前記温度制御部の少なくとも一部が前記光学素子と重なるように前記温度制御部が配置され、前記温度制御部は、前記露光動作における露光条件に応じて前記光軸方向と垂直な成分を含む方向に移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レンズ等の光学素子の温度分布を応答性良く制御するために有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】露光装置の構成を示す図である。
図2】第1実施形態における調整機構(温度調整部)の構成を示す図である。
図3】第1実施形態における調整機構(温度調整部)の構成を示す図である。
図4】第2実施形態における調整機構(温度調整部)の構成を示す図である。
図5】第2実施形態における調整機構(温度調整部)の構成を示す図である。
図6】第3実施形態における調整機構(温度調整部)の構成を示す図である。
図7】第4実施形態における調整機構(温度調整部)の構成を示す図である。
図8】第4実施形態における調整機構(温度調整部)の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材ないし要素については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態>
本発明に係る第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態の露光装置100を示す概略図である。露光装置100は、照明光学系10と、原版M(マスク)を保持して移動可能な原版ステージ20と、投影光学系30と、基板W(ウェハ)を保持して移動可能な基板ステージ40と、制御部50とを含みうる。制御部50は、例えばCPUやメモリを含み、露光装置100の各部を制御する(基板Wの露光処理を制御する)。ここで、以下の説明では、投影光学系30の光軸(投影光学系30を通過する光の光軸、光学素子32の光軸とも呼ばれる)に平行な方向をZ方向とし、投影光学系30の光軸に垂直な面内において互いに直行する2つの方向をX方向およびY方向とする。
【0012】
照明光学系10は、光源LSからの光を用いて、原版ステージ20により保持されている原版Mを照明する。原版ステージ20は、パターンが形成された原版Mを保持し、例えばXY方向に移動可能に構成される。投影光学系30は、基板ステージ40により保持されている基板Wに、原版Mからのパターン像を投影して転写する。投影光学系30は、鏡筒31(筐体)と、その内部に配置された複数の光学素子32(例えばレンズ)とを含み、複数の光学素子32の各々は、鏡筒31によって支持されている。また、基板ステージ40は、基板Wを保持し、例えばX、Y、Z、ωX、ωY、ωZの6軸方向に移動可能に構成される。
【0013】
露光装置100では、一般に、投影光学系30の結像特性(例えば収差)が、露光光による温度変化や周囲の気圧変化などによって変動しうる。そのため、本実施形態の露光装置100には、投影光学系30の結像特性を調整(補正)する調整機構60(温度制御部)が設けられている。
【0014】
調整機構60は、例えば、光学素子32から離間して配置された発熱体を含み、発熱体からの放熱量を制御することによって光学素子32への入熱量を制御し、光学素子32の温度を制御する。光学素子32の温度を制御する(変化させる)ことにより、光学素子32の形状(面形状)や屈折率を変化させ、コマ収差や非点収差など投影光学系の結像特性を調整することができる。なお、調整機構60は、露光光とは異なる波長域の非露光光(例えば、赤外光)を光学素子32に照射することで光学素子32の温度を制御しても良い。
【0015】
図2は、本実施形態の調整機構60の構成を示す図である。ここで、調整機構60は、例えば、投影光学系30における複数の光学素子のうち、調整すべき結像特性(例えば、コマ収差、非点収差などの収差)について敏感度が最も高い光学素子32に設けられうる。図1に示す例では、1つの光学素子32に対して調整機構60が設けられているが、複数の光学素子32の各々に対して調整機構が設けられてもよい。
【0016】
図2(a)、(b)は、それぞれZ軸方向とY軸方向から見た調整機構60の構成を示している。調整機構60は、発熱体2011、2012、2013、2014を備える。それぞれの発熱体は、導線2041乃至2044を介してコネクタ2031乃至2034に接続されている。それぞれのコネクタは不図示のケーブルを介して電力制御部に接続され、電力制御部から電力の供給を受ける。電力制御部は、発熱体2011乃至2014の発熱量を制御する。
【0017】
また、それぞれの発熱体は、アクチュエータ2021乃至2024に接続されている。各アクチュエータは例えばリニアモータであり、各アクチュエータを駆動させることにより、発熱体2011乃至2014を移動させることができる。光学素子32は、保持部2051によって保持される。保持部2051は、鏡筒31によって保持される。
【0018】
発熱体2011乃至2014は電力供給によって発熱する材質で構成される。例えば、抵抗値の高い金属導線や、ペルチェ素子で構成される。金属導線の好ましい形状は箔形状である。箔形状とすることで断面積を小さくすることができ、その結果、抵抗値を大きくすることができる。また、箔形状とすることで省スペース化を図ることができる。箔形状の導線の場合、断線やショートを回避するために、フレキケーブルのように樹脂層でカバーされた形状とすることが好ましい。ただし、露光光の照射領域の近傍に樹脂層を配置すると、露光光によって樹脂が変質することに起因した発塵やショートが生じるおそれがある。それゆえ、当該樹脂層を金属板等で挟み込んだ構成とすることが好ましい。
【0019】
図2で示したように、発熱体2011乃至2014は、光学素子32の光軸方向に関して、少なくとも一部が光学素子32と重なるように、光学素子32と離間して配置される。熱伝導または輻射によって発熱体2011乃至2014から光学素子32に熱が伝達される。発熱体2011乃至2014と光学素子32との間には空気層が存在する。当該空気層の大きさが所定の範囲となるように、光学素子32の組立調整や各部品の寸法管理が行われる。
【0020】
空気の熱伝導率は約0.026W/m・Kであり、金属の熱伝導率と比べて100倍程度小さいため、上記空気層が大きすぎると、発熱体2011乃至2014から光学素子32への熱伝達効率が低下し、光学素子32の温度変化の応答性が低下し得る。そのため、発熱体2011乃至2014と光学素子32との間隔は、5μm以上100μm以下であることが好ましい。このように上記間隔を規定することで、光学素子32の温度変化の応答性を高めることができる。
【0021】
発熱体2011乃至2014は、アクチュエータ2021乃至2024によって投影光学系30の光軸方向(Z軸方向)と垂直な成分を含む方向に移動可能である。本実施形態において、発熱体2011乃至2014はXY面内を光学素子32の半径方向に移動する。発熱体の移動方向は、Z軸方向と垂直な成分を含む方向であれば良く、XY面内からZ軸方向に傾いた方向であっても良い。発熱体2011乃至2014の位置は、露光動作における露光条件に応じて決定される。露光条件は、投影光学系30の開口数NAと、投影光学系30の瞳面における光強度分布の少なくとも一方に関する条件を含む。
【0022】
例えば、投影光学系30の開口数NAを小さくするときには、投影光学系30に照射される露光光の光束が小さくなる。このとき、発熱体を投影光学系30の光軸に近づけるように移動させることで、光学素子32において露光光が照射される照射領域と発熱体との距離を短くすることができる。これにより、投影光学系30の温度分布を応答性良く制御することが可能となる。
【0023】
一方、投影光学系30の開口数NAを大きくするときには、投影光学系30に照射される露光光の光束が大きくなる。このとき、発熱体を投影光学系30の光軸から遠ざけるように移動させることで、発熱体によって露光光がけられることを防ぐことができる。
【0024】
図3(a)、(b)は、図2に示した状態から発熱体2011及び2013をX軸方向に移動させた状態を示している。図2は、投影光学系30の開口数NAが第1の値のときや投影光学系30の瞳面における光強度分布が第1の分布であるときにおける発熱体の配置を示している。図3は、投影光学系30の開口数NAが第1の値よりも小さい第2の値のときや、光強度分布が第2の分布のときにおける発熱体の配置を示している。ここで、第1の分布は、第2の分布よりも外側に光強度を有する光強度分布である。
【0025】
なお、図3に示した例では、発熱体2012及び2014は移動させていないが、これらをY軸方向に移動させても良い。また、図3に示した例では、発熱体2011及び2013の双方を移動させているが、いずれか一方のみを移動させても良い。
【0026】
発熱体は、露光光の光束の外周の近傍に配置することが好ましい。例えば、光束の外周から5mm以下の位置に配置することが好ましい。このように配置することで、投影光学系30の結像特性を応答性良く調整できる。また、発熱体を移動させる際には、光学素子32と発熱体との距離が所定の範囲(例えば、5μm以上100μm以下)となるように移動させることが好ましい。
【0027】
光学素子32の表面形状に合わせて発熱体の移動方向を適切に設定することで、光学素子32と発熱体との距離を所定の範囲に保つことができる。一例としては、筐体31に対するアクチュエータ2021乃至2024の取り付け姿勢を適切に調整することで、光学素子32の移動方向を適切に制御することができる。アクチュエータ2021乃至2024の取り付け姿勢は、スペーサーを用いて調整可能である。また、アクチュエータを取り付ける箇所を加工することによっても取り付け姿勢の調整を実施することができる。
【0028】
各発熱体と光学素子32との距離が5μm以上100μm以下の範囲でばらついたとしても、各発熱体の出力を調整することで光学素子32の温度変化の応答性低下を抑制することが可能である。しかしながら、各発熱体と光学素子32との距離が100μmを超えてばらつくと、光学素子32の温度変化の応答性低下を抑制するために、発熱体の出力を大幅に上昇させる必要が生じる。発熱体の出力を上昇させすぎると、保持部2051や筐体31等の温度上昇も招き、これらの熱膨張や熱変形によって投影光学系30の結像特性が大きく変化し得るため好ましくない。
【0029】
導線2041乃至2044は、発熱体2011乃至2014の移動に応じて変形可能であることが好ましい。発熱体2021乃至2024にフレキケーブルを使用する場合は、導線2041~2044もフレキケーブルで構成することが好ましい。発熱体としてペルチェ素子等を採用した場合は、複数の導線を束ねたケーブルとしても良いし、フラットケーブルとしても良い。また、導線2041乃至2044に露光光が照射される可能性があるため、導線2041乃至2044を金属製のカバーやダクトで覆う等の対策を施すことが好ましい。
【0030】
光学素子32が配置された空間を所定の気体で充填している場合、コネクタ2031乃至2034は、当該空間と外部空間とを空間分離するために気密コネクタとすることが好ましい。
【0031】
本実施形態の調整機構60では発熱体2011乃至2014を4つ配置しているが、発熱体の数は4つに限定されず、少なくとも1つの発熱体を配置すれば、投影光学系30の結像特性を調整可能である。また、本実施形態の調整機構60では、1つの発熱体に1つのアクチュエータを設けているが、発熱体の数とアクチュエータの数が異なっていても良い。例えば、6つの発熱体を設け、そのうちの2つの発熱体にアクチュエータを配置して、当該2つの発熱体を可動とし、その他の4つの発熱体にはアクチュエータを配置せずに固定としても良い。
【0032】
なお、図2及び3では対向する2つの発熱体をそれぞれ移動させているが、一方の発熱体を移動させ、他方の発熱体は固定しても良い。図2及び3のように、対向する発熱体のそれぞれを加熱して光学素子32に温度分布を形成することで投影光学系30の非点収差を効果的に補正することができる。また、対向する発熱体の一方を加熱して光学素子32に温度分布を形成することで投影光学系30のコマ収差を効果的に補正することができる。
【0033】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態に係る調整機構60の構成を示している。第1実施形態と共通の構成に関しては、図2及び3と同様の符号を付しており、説明を省略する。調整機構60はY軸に対して線対称な構成であるため、図4は、調整機構60の一部の構成を省略した図として表記している。第1実施形態との差異は、発熱体の光学素子32の半径方向への移動に伴って、Z軸方向から見た発熱体の大きさを可変としている点である。
【0034】
発熱体2011は、主部2051と副部2061に分割した構造となっている。主部2051と副部2061は、両者の一部がZ軸方向に重なるように配置されている。アクチュエータ2031によって主部2051を移動させると、それに応じて副部2061が主部2051に対して光学素子32の周方向に移動する。例えば、副部2061をカム機構により主部2051と連結させ、主部2051の移動と連動してカム機構と共に副部2061を移動させることができる。このように構成することにより、アクチュエータ2031によって主部2051を1つの方向に移動させるだけで、投影光学系30の半径方向への発熱体2011の移動と、発熱体2011の周方向の長さの調整を実施することが可能となる。もちろん、投影光学系30の半径方向への発熱体2011の移動と、発熱体2011の周方向の長さの調整をそれぞれ異なるアクチュエータで実施しても良い。
【0035】
図4(a)に示したように、投影光学系30に照射される露光光の光束が大きい(例えば、投影光学系30の開口数NAが大きい)ときには、主部2051と副部2061の重なり領域を小さくして、発熱体2011の周方向の長さを長くする。一方で、図4(b)に示したように、投影光学系30に照射される露光光の光束が小さい(例えば、投影光学系30の開口数NAが小さい)ときには、主部2051と副部2061の重なり領域を大きくして、発熱体2011の周方向の長さを短くする。
【0036】
このような構成とすることで、発熱体が投影光学系30の光軸に近づくにつれて発熱体の周方向の長さを短くすることができ、発熱体同士の干渉を防止することが可能となる。これにより、投影光学系30に照射される露光光の光束が小さいときにも、投影光学系30の温度分布を高精度かつ応答性良く調整することが可能となる。
【0037】
なお、主部2051と副部2061を移動させる機構として、図5に示した多関節リンク機構を用いても良い。リンク機構は、リンク301乃至305、関節401乃至4040、ガイド501乃至504を備える。リンク301の一端はアクチュエータ2031に接続され、リンク302及び303の一端は鏡筒31に接続されている。関節401乃至404は、Z軸周りの自由度を持つ。アクチュエータ2031によってリンク301が駆動されることに応じて、図5(a)及び(b)に示したように、各リンク302乃至305は各ガイドに沿って駆動される。
【0038】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態に係る調整機構60の構成を示している。第1実施形態と共通の構成に関しては、図2及び3と同様の符号を付しており、説明を省略する。調整機構60はY軸に対して線対称な構成であるため、図6は、調整機構60の一部の構成を省略した図として表記している。第1実施形態との差異は、アクチュエータを用いずにカム機構を用いて発熱体の駆動を制御する点である。
【0039】
図6(a)に示すように、筐体31の内部に回転体(カム)2071を配置する。回転体2071は、投影光学系30の光軸を回転中心として回転する移動体である。回転体2071は、例えば角度10度から60度の範囲で移動する。回転体2071が移動すると回転体2071がフォロア2081と接触することによりフォロア2081を移動させる。フォロア2081は、回転軸2091を中心に回転し、その一端は回転体2071と接触しており、他端は主部2051と接触している。
【0040】
図6(b)に示したように、回転体2071がA方向に移動するとフォロア2081がB方向に回転され、主部2051はC方向に駆動する。これにより、第1実施形態におけるアクチュエータによる発熱体の駆動と同様の作用効果が得られる。なお、図6では、発熱体を主部2051と副部2061に分割した構成としているが、これに限らず、第1実施形態のように主部と副部に分割しないような構成としても良い。
【0041】
像高ごとの投影光学系30の結像特性を均一に補正するために、発熱体を投影光学系30の瞳面の近傍に配置することが考えられる。このとき、投影光学系30の絞り機構の近傍に発熱体が配置されることになる。絞り機構に関しては、絞り機構を構成する絞り羽根の数だけカム溝を設けた円盤を、アクチュエータを用いて投影光学系30の光軸周りに回転させる構成が一般的である。絞り機構を構成する円盤の駆動に連動させて発熱体を駆動させるような構成とすることで、発熱体を駆動させる構成を簡略化することが可能となる。
【0042】
<第4実施形態>
図7及び8は、第4実施形態に係る調整機構60の構成を示している。図7(a)、(b)は、それぞれZ軸方向とY軸方向から見た調整機構60の構成を示している。第1実施形態と共通の構成に関しては、図2及び3と同様の符号を付しており、説明を省略する。調整機構60はY軸に対して線対称な構成であるため、図7及び8は、調整機構60の一部の構成を省略した図として表記している。第1実施形態との差異は、発熱体を移動体601と接続させている点である。移動体601は、連結部603を介してアクチュエータ2031に接続されており、ガイド部602に沿って移動することができる。また、移動体601は、投影光学系30の光軸方向に移動することができる。
【0043】
図8は、図7の状態から光学素子32の周方向に発熱体を移動させた状態を示している。図7と同様に、図8(a)、(b)は、それぞれZ軸方向とY軸方向から見た調整機構60の構成を示している。図7の状態からアクチュエータ2031がA方向に移動すると、移動体601がB方向に移動し、発熱体2011をB方向に駆動させることができる。このような構成とすることで、発熱体2011と光学素子32との距離を略一定に保つことができる。
【0044】
本実施形態では、ガイド部602として直動レールを用いているが、光学素子32の形状に合わせた形状(例えば、曲線)のレールを用いても良い。また、アクチュエータ2031がB方向に移動できるように、アクチュエータ2031を鏡筒31に対して傾けて設置しても良い。さらに、発熱体の光学素子32と対向する面を、光学素子32の形状と合わせた形状とすることで、発熱体を移動させたときにおける発熱体と光学素子32との距離の変化を効果的に低減させることができる。また、光学素子32の形状に合わせて、発熱体をX軸及びY軸周りに回転させても良い。
【0045】
以上説明したように、調整機構60における発熱体2011乃至2014の位置を、露光動作における露光条件に応じて適切に設定することで、光学素子32の温度分布を高精度かつ応答性良く制御することができる。結果として、投影光学系30の結像特性を高精度かつ効率的に調整することが可能となる。
【0046】
次に、本実施形態に代表される露光装置を利用して物品(半導体IC素子、液晶表示素子、MEMS等)を製造する物品製造方法を説明する。物品製造方法は、上記のような露光装置によって基板を露光する露光工程と、該露光工程で露光された基板を現像する現像工程と、該現像工程で現像された基板を処理する処理工程とを含み、該処理工程で処理された基板から物品を得ることができる。該処理工程は、例えば、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等が含まれうる。物品製造方法によれば、従来よりも高品位の物品を製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
30 投影光学系
32 光学素子(レンズ)
60 温度制御部(調整機構)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8