(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190892
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】成形装置、成型方法及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20221220BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099402
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】大田 俊輔
【テーマコード(参考)】
4F209
5F146
【Fターム(参考)】
4F209AA44
4F209AF01
4F209AG05
4F209AH33
4F209PA02
4F209PB01
4F209PN09
5F146AA31
5F146AA34
(57)【要約】
【課題】 型と基板とを離型できない場合にも、生産性の点で有利な成形装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 型保持部で保持された型と基板保持部で保持された基板とが硬化性組成物を介して接触している状態で、硬化性組成物を硬化させる硬化処理を行い、その後、前記型と前記基板との離型処理を行う。そして、離型処理が成功しなかった場合に、追加の硬化処理を行う。これにより、オペレータによるリカバリ処理を行わなくても離型させることができ、生産性の点で有利な成形装置を提供することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型を保持する型保持部と、
基板を保持する基板保持部と、
前記型保持部で保持された型と、前記基板保持部で保持された基板との間の相対的距離を調整する駆動手段と、
前記型保持部で保持された型と前記基板保持部で保持された基板とが硬化性組成物を介して接触している状態で、前記硬化性組成物を硬化させる硬化処理を行ったのち、前記型と前記基板との離型処理が行われるように前記駆動手段を制御する制御部と、を有する成形装置であって、
前記制御部は、前記離型処理が成功しなかった場合に、前記型保持部で保持された型と前記基板保持部で保持された基板との間の硬化性組成物に、追加の硬化処理を行うように制御することを特徴とする成形装置。
【請求項2】
前記硬化性組成物は、光硬化性樹脂であり、
前記硬化処理は、前記光硬化性樹脂が硬化する光を光照射部から照射することで行われ、
前記追加の硬化処理も、前記光照射部を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記硬化性組成物は、光硬化性樹脂であり、
前記硬化処理は、前記光硬化性樹脂が硬化する光を光照射部から照射することで行われ、
前記追加の硬化処理は、前記光照射部で照射される光よりも短波長の光を照射することで行われることを特徴とする請求項1に記載の成形装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記追加の硬化処理の後に、再度の離型処理を行うように前記駆動手段を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記追加の硬化処理とともに前記離型処理が行われるように前記駆動手段を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項6】
前記型は、凹凸パターンを有しており、
前記成形装置は、前記型の凹凸パターンを用いて基板上に硬化性組成物の凹凸パターンを成形するインプリント装置であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記追加の硬化処理を行った後は、前記型を搬出、または、前記型を洗浄するように制御することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項8】
型保持部で保持された型と基板保持部で保持された基板とが硬化性組成物を介して接触している状態で、前記硬化性組成物を硬化させる硬化処理を行う第1の硬化工程と、
前記第1の硬化工程を行ったのち、前記型と前記基板との離型処理を行う離型工程と、
前記離型処理が成功しなかった場合に、前記型保持部で保持された型と前記基板保持部で保持された基板との間の硬化性組成物に、追加の硬化処理を行う第2の硬化工程と、
を有する成形方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の成形装置を用いて、前記基板の処理を行う工程と、
前記処理された基板を加工することにより物品を製造する工程と、
を有する物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形装置、成形方法及び物品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加えて、基板上に数ナノメートルオーダーの微細なパターン(構造体)を形成することができるインプリント技術が注目されている。インプリント技術は、基板上に未硬化のインプリント材(硬化性組成物)を供給(塗布)し、かかるインプリント材とモールド(型)とを接触させて、モールドに形成された微細な凹凸パターンに対応するパターンを基板上に形成する微細加工技術である。具体的には、基板上のショット領域に供給されたインプリント材とモールドとを接触させた状態でインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材からモールドを引き離すことでインプリント材のパターンを基板上に形成することができる。
【0003】
基板上の硬化したインプリント材からモールドを引き離す(離型する)際には、モールドとインプリント材との界面(モールドとインプリント材とが接触している面)に大きな応力が瞬間的に付加される。このような応力は、基板上に形成されるインプリント材のパターンに歪みを生じさせて、パターン欠陥を発生させるという問題を引き起こすことが知られている。また、硬化したインプリント材からモールドを正常に引き離すことができず、モールドや基板をそれぞれの保持部(チャック)で保持することができなくなる(所謂、デチャック)現象が生じることも知られている。
【0004】
このようなデチャックの発生を回避するために、装置内のセンサやカメラの画像情報によりデチャックの発生を予測し、モールドチャックの保持力や基板チャックの基板の保持力を大きくなるように変更する処理を行うことが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにモールドの保持力や基板の保持力を大きくしたとしても、それを超える離型力が必要な場合には、離型ができない恐れがある。そのような場合には、オペレータによるリカバリ処理が必要となるなど、正常な状態に復帰させるまでに多くの時間が必要となり、インプリント装置の生産性を低下させてしまう。
【0007】
本願発明はこのような従来技術の課題に鑑みてなされ、型と基板とを離型できない場合にも、生産性の点で有利な成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の成形装置は、型を保持する型保持部と、基板を保持する基板保持部と、前記型保持部で保持された型と、前記基板保持部で保持された基板との間の相対的距離を調整する駆動手段と、前記型保持部で保持された型と前記基板保持部で保持された基板とが硬化性組成物を介して接触している状態で、前記硬化性組成物を硬化させる硬化処理を行ったのち、前記型と前記基板との離型処理が行われるように前記駆動手段を制御する制御部と、を有する成形装置であって、前記制御部は、前記離型処理が成功しなかった場合に、前記型保持部で保持された型と前記基板保持部で保持された基板との間の硬化性組成物に、追加の硬化処理を行うように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、型と基板とが離型できない場合には、硬化性組成物に対して追加の硬化処理を行うことで硬化性組成物を離型しやすい状態としている。これにより、オペレータによるリカバリ処理を行わなくても離型させることができ、生産性の点で有利な成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の成形装置の一例であるインプリント装置の構成を示す概略図である。
【
図2】第1の実施形態のリカバリ処理を説明するフローチャートである。
【
図3】第2の実施形態のリカバリ処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明にかかる成形装置の一例としてインプリント装置1の構成を示す概略図である。インプリント装置1は、微細な凹凸パターンを有するモールド(型)を用いて基板上にインプリント材の凹凸パターンを形成するリソグラフィ装置である。インプリント装置1は、基板上に供給されたインプリント材とモールドとを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、モールドの凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する。
【0013】
インプリント材には、硬化用のエネルギーが与えられることによって硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱などが用いられる。電磁波としては、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される、赤外線、可視光線、紫外線などの光を用いる。
【0014】
硬化性組成物は、光の照射によって、或いは、加熱によって硬化する組成物である。光の照射によって硬化する光硬化性樹脂は、重合性化合物と光重合開始剤とを少なくとも含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。ここでは、紫外線の照射によって硬化させる光硬化法を採用したインプリント装置を例に説明を行う。
【0015】
インプリント材は、スピンコーターやスリットコーターによって基板上に膜状に付与させることができる。また、インプリント材は、液体吐出ヘッドによって、液滴状、或いは、複数の液滴が繋がって形成された島状又は膜状で基板上に付与されてもよい。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0016】
インプリント装置1は、モールドMを保持するモールドチャック10と、モールドチャック10を保持して移動するヘッド20と、基板Wを保持する基板チャック30と、基板チャック30を保持して移動する基板ステージ40とを有する。また、インプリント装置1は、モールドMのパターン領域(凹凸パターンが形成された領域)Pの形状を補正する形状補正部50と、撮像部70と、制御部80とを有する。
【0017】
モールドチャック10は、モールドMを吸着することで保持するモールド保持部(型保持部)として機能する。基板チャック30は、基板Wを吸着することで保持する基板保持部として機能する。基板ステージ40は、基板チャック30をX軸方向及びY軸方向に移動させることで基板Wを位置決めし、モールドチャック10に保持されたモールドMに対向する基板Wの部分(ショット領域)を変更する。
【0018】
形状補正部50は、モールドMのパターン領域Pを、基板Wの下地(基板Wに形成されているパターン)にあわせて変形させる。
【0019】
撮像部70は、モールドチャック10に保持されたモールドMのパターン領域Pを視野に含むように構成(配置)され、モールドM及び基板Wの少なくとも一方を撮像して画像を取得する。撮像部70は、インプリント処理において、モールドMと基板上のインプリント材との接触状態を観察するカメラ(スプレッドカメラ)である。
【0020】
計測部75は、モールドチャック10によるモールドMの吸着圧、及び、基板チャック30による基板Wの吸着圧の少なくとも一方を計測する機能を有する。計測部75は、第1計測部75Mと、第2計測部75Wとを含む。第1計測部75Mは、モールドMを吸着するためにモールドチャック10に設けられた排気管内の圧力を検出することでモールドMの吸着圧を計測する。第2計測部75Wは、基板Wを吸着するために基板チャック30に設けられた排気管内の圧力を検出することで基板Wの吸着圧を計測する。
【0021】
光照射部90(硬化部)は、インプリント処理の硬化処理の際に、モールドMに対して所定の波長の光、主に短波長の紫外線を照射する。この光照射部90は、光源と、この光源から照射された紫外線を基板W上に付与されたインプリント材に対して適切な方向および位置に補正するための光学素子とから構成される。なお、熱硬化法を採用する場合には、光照射部90に代えて、熱硬化型樹脂を硬化させるための熱源部を設置すればよい。
【0022】
制御部80は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置1の各部を制御してインプリント処理を行う。インプリント処理は、供給処理(供給動作)と、接触処理(接触動作)と、硬化処理(硬化動作)と、離型処理(硬化動作)とを含む。供給処理は、基板上にインプリント材を供給する処理である。接触処理は、モールドMと基板上のインプリント材とを接触させる処理である。モールドMと基板上のインプリント材とを接触させる、即ち、モールドMをインプリント材に押し付けることによって、インプリント材がモールドMのパターン領域P(パターンの凹部)に充填される。硬化処理は、モールドMと基板上のインプリント材とを接触させた状態でインプリント材を硬化させる処理である。離型処理は、基板上の硬化したインプリント材からモールドMを引き離す処理である。
【0023】
なお、インプリント材の供給処理は、インプリント装置にコーターや液体吐出ヘッドなどの付与手段(不図示)を設けてインプリント装置内で行ってもよいが、装置外でインプリント材を基板上に付与してもよい。その場合には付与された基板をインプリント装置に搬入して、接触処理、硬化処理、離型処理といったインプリント処理を行うことになる。さらにインプリント材の硬化処理は、インプリント装置内に光照射部90などの硬化部を設ける例用いて説明するが、装置外で硬化処理を行ってもよい。
【0024】
また、インプリント装置1は、モールドチャック10及び基板チャック30に対して、それぞれの位置を検出して位置情報を取得するセンサを有している。更に、インプリント装置1には、モールドMと基板上のインプリント材とが接触するときのモールドチャック10(モールドM)及び基板チャック30(基板W)の設計基準位置が予め設定されている。従って、制御部80は、センサで取得された位置情報と設計基準位置との差分から、例えば、接触処理中であるのか、離型処理中であるのか、離型処理後であるのか、を検知することができる。ここでは、ヘッド20によってモールドチャック10をZ軸方向に移動させる(即ち、モールドチャック10を駆動手段として機能させて駆動する)ことで、接触処理や離型処理を行う。従って、モールドチャック10の位置情報が、設計基準位置から離れている場合には離型処理が行われていると検知し、設計基準位置である場合には接触処理が行われていると検知することができる。
【0025】
なお、接触処理及び離型処理は、上述のようにモールドチャック10をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、基板ステージ40をZ軸方向に移動させることで実現してもよい。あるいはまた、基板ステージ40とモールドチャック10双方を相対的に移動させることで、型と基板との相対的距離を調整してもよい。
【0026】
また、制御部80は、第1計測部75Mで吸着圧の異常が発生したか否かで、モールドチャック10でモールドMのデチャックが生じたかを検知することができる。同様に、制御部80は、第2計測部75Wで吸着圧の異常が発生したか否かで、基板チャック30で基板のデチャックが生じたかを検知することもできる。
【0027】
なお本発明は、パターンを有しない部材(平坦化部材)を硬化性組成物に接触させた状態で硬化させることにより、基板上に硬化性組成物の硬化物による平坦化層を設ける平坦化装置に適用することも可能である。その際には、インプリント装置のようなパターン転写がなく厳しい精度を要求しないので、生産性の観点より基板全面を一括で平坦化できる平坦化部材を用いて平坦化処理をすることが好ましい。
【0028】
(第1の実施形態)
次に離型処理がうまくいかなかった場合のリカバリ処理について説明する。
図2は、本実施形態のリカバリ処理を含むインプリント処理を説明するフローチャートである。
図2のフローチャートに示す処理は、制御部80がインプリント装置1の各部を統括的に制御することにより実現される。なお、本フローチャートでは、硬化性組成物の基板Wへの付与があらかじめ行われているものとして説明を行う。
【0029】
ステップS201では、制御部80は、基板Wが基板上のインプリント材を介して、モールドMのパターン領域Pと接触する接触処理が行われるようにモールドチャック10を制御する。
【0030】
ステップS202では、制御部80は、モールドMを介して硬化光をインプリント材に照射して硬化処理が行われるように光照射部90を制御する。具体的には、365nmを主波長とする光線を用いて硬化させることができ、このときの照射量(露光量)は所望のパターン構造を成形できるものであることが好ましい。
【0031】
ステップS203では、制御部80は、硬化したインプリント材からモールドMを離型させるために、基板WとモールドMとの相対的距離が離間する離型処理が行われるようにモールドチャック10を制御する。
【0032】
ステップS204では、制御部80は、ステップS203の離型処理が失敗したかどうかを判断する。具体的には、第1計測部75Mで吸着圧の異常が発生した場合、第2計測部75Wで吸着圧の異常が発生した場合に、デチャックが生じたと判断できるため、離型処理が失敗したと判断する。それ以外にもデチャックが発生しなかったとしても、離型時間が所定時間よりもかかっている場合や、離型力を監視しておき、設定値以上の離型力がかかった場合に離型処理が失敗したと判断することができる。なお、制御部80は、デチャックが発生したと判断した場合には、本工程でデチャック状態となった基板WまたはモールドMの再保持処理を行わせる。
【0033】
ステップS204で離型処理は正常に行われたと判断された(離型処理は失敗していない)場合には、本フローチャートの処理を終了し、次のショット領域もしくは基板のインプリント動作へとすすむ。一方、ステップS204で離型処理は失敗したと判断された場合には、ステップS205及びステップS206のリカバリ処理へと進む。
【0034】
ステップS205では、制御部80は、正常な離型処理が行えないとして、離型時に必要な離型力を低減させるために、再硬化処理(追加の硬化処理)を行う。具体的には、制御部80は、モールドMを介して硬化光をインプリント材に照射して、離型力を小さくする再硬化処理が行われるように光照射部90を制御する。
【0035】
インプリント材のような硬化性樹脂材料は、所定の光(主に短波長の光)が照射されることで、分子の化学結合を解離させることができる。特に重合性モノマーを重合させた高分子では、400nm以下の光の波長のエネルギーが様々な種類の化学結合の解離エネルギーより大きくなる。このような重合性モノマーを重合させた高分子の化学結合の解離には400nm以下の波長の光を用いると良い。
【0036】
つまり、硬化性組成物の分子の化学結合を解離させることで、分子の化学結合に起因する材料強度が弱くなる。材料強度が弱くなることで、硬化性組成物を挟んだモールドと基板を引きはがすために必要な離型力は小さくなり、離型が容易になる。
【0037】
本実施形態の光照射部90で照射される光の波長は、上述のとおり365nmを主波長とする光線であり、高分子の化学結合の解離に適切な波長を含んでいるといえる。そのため、本実施形態では硬化処理と再硬化処理の光源を共通とすることができている。このように共通とできることで、装置の複雑化や大型化を防ぐことができる。
【0038】
また、硬化性組成物の硬化で生じる重合反応は、連鎖的に短時間で起こることが知られている。一方、共有結合の解離は、共有結合部に解離エネルギー以上の光量が照射されることで起こり、重合反応よりも長時間かかる。そのため、再硬化処理では、露光時間を硬化処理よりも長時間、例えば10倍以上の時間、とすることが好ましい。
【0039】
なお、硬化処理に用いる光源と、再硬化処理に用いる光源を別にしてもよい。その場合には、再硬化処理に用いる光源は、通常の硬化処理に用いる光源よりも短波長の光を含む光源とすることが好ましい。例として、硬化処理に365nmを主波長とする光源を用い、再硬化処理に320nm以下の波長を含む光源とすることが考えられる。320nm以下の波長の光のエネルギーは、様々な有機化合物の化学結合の解離エネルギーより大きく、このような波長の光を用いることで、有機化合物の化学結合の解離を促進することができ、離型力をより効果的に低減させることができる。
【0040】
さらに、再硬化処理での照明領域は、ステップS202の硬化処理の照明領域よりも広くすることが好ましい。十分な領域に対して再硬化処理の硬化光を照射することで、インプリント領域外で硬化性組成物が硬化することで離型力が増しているような場合でも、離型力を低減させて離型させることができる。このような現象は、インプリント装置1外でインプリント材を全面に付与した場合や、インプリント材の塗布異常が生じた場合に発生する可能性がある。
【0041】
なお、光硬化法ではなく熱硬化法を採用する場合には、硬化処理及び追加の硬化処理として、熱源部を用いて加熱し硬化させることになる。その際、追加の硬化処理としては、化学結合の解離を促進できる状態にまで加熱を行う。
【0042】
ステップS206では、制御部80は、硬化したインプリント材からモールドMを離型させるために、基板WとモールドMとの相対的距離が離間する離型処理が再度行われるようにモールドチャック10を制御する(再離型処理)。
【0043】
ステップS207では、制御部80は、ステップS204と同様に、ステップS206の離型処理が失敗したかどうかを判断する。具体的な判断方法についてはステップS204と同様であるため説明を省略する。
【0044】
なお、ステップS205で再硬化処理が行われたインプリント材は、ステップS206の再離型処理により離型が成功したとしても、上述の通り共有結合が解離しておりインプリント材が劣化しているため、所望のパターンとして利用できない可能性が高い。そのため、再硬化処理が行われた領域のパターンは後工程では使用しないことが好ましい。
【0045】
ステップS207で再離型処理は正常に行われたと判断された(再離型処理は失敗していない)場合には、ステップS208に進み、ステップS207で再離型処理が失敗したと判断された場合にはステップS209に進み、エラー処理が行われる。なお、再離型処理が失敗したと判断された場合には、複数回ステップS205とステップS206を繰り返したのち、エラー処理が行われるようにしてもよい。エラー処理の具体例としては、ユーザに再離型処理を行っても離型が行えなかった旨を通知することが考えられる。
【0046】
ステップS208では、制御部80は、再硬化処理が行われたモールドMであるとして、モールドを搬出して処理を終了する。ステップS208で搬出されたモールドMは、インプリント装置1外の洗浄装置などでモールドの洗浄・再生が行われる。
【0047】
再硬化処理により、パターン形成に最適な露光量以上の光量が照射されると、上述のように化学結合が解離することにより、離型力が低下して基板WとモールドMとを離型させることができるようになるが、パターン自体には転写不良が発生している可能性が高い。言い換えると、モールドMの凹パターン内にインプリント材の一部が残存してしまっている可能性が高い。そのため、そのままの状態のモールドMで次のインプリント処理を行えるとパターン転写を正常に行えない(転写不良が生じる)可能性が高いため、モールドを洗浄するなどして再生させたのち、再使用することが必要となる。
【0048】
なお、インプリント装置1内部にモールド洗浄手段(不図示)が設けられている場合には、ステップS208で装置外にモールドを搬出する代わりに、モールド洗浄装置によりモールドの洗浄を行って再生して処理を終了してもよい。すなわち、制御部80は、再硬化処理後には、モールドを洗浄・再生させるために、モールドMをインプリント装置1から搬出するか、モールドMを洗浄するように制御する。このように離型失敗後のモールドが次のインプリント処理にそのまま使用されないようにすることで、インプリント処理で転写不良が発生することを防止することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、型と基板とが離型できない場合には、硬化性組成物に対して追加の硬化処理を行うことで硬化性組成物を離型しやすい状態としたうえで再度離型処理を行っている。これにより、オペレータによるリカバリ処理を行わなくても離型させることができ、生産性の点で有利な成形装置を提供することができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に離型処理がうまくいかなかった場合のリカバリ処理の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、再硬化処理を行った後、離型処理を行う例を用いて説明したが、本実施形態では再硬化処理と離型処理とを同時に行う。以下、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様の処理については説明を省略する。
【0051】
図3は、本実施形態のリカバリ処理を含むインプリント処理を説明するフローチャートである。
図3のフローチャートに示す処理は、制御部80がインプリント装置1の各部を統括的に制御することにより実現される。なお、本フローチャートでは、硬化性組成物の基板Wへの付与があらかじめ行われているものとして説明を行う。
図3のステップS201~S204、ステップS207~S209は、
図2の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
ステップS301では、制御部80は、正常な離型処理が行えないとして、離型時に必要な離型力を低減させるために、再硬化処理を行いながら、基板WとモールドMとの相対的距離が離間する再離型処理が行われるようにモールドチャック10を制御する。
【0053】
ステップS203の離型処理で離型が失敗する原因としては、想定外の離型力が必要になったか、必要離型力および所定の光をどの程度の強度と時間を照射すればよいか不明なことが考えられる。その際に、ステップS301の工程で再硬化処理の光を照射させながら、デチャックが発生しない程度の離型力をかけ続けることで、最低限の再硬化処理で離型させることができる。このような再離型処理とすることで、離型力を低減させるための照射時間を不必要に長くすることなくなるため、装置不使用時間を短縮でき、生産性の低下を防止することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態でも、型と基板とが離型できない場合には、硬化性組成物に対して追加の硬化処理を行うことで硬化性組成物を離型しやすい状態としたうえで再度離型処理を行っている。これにより、オペレータによるリカバリ処理を行わなくても離型させることができ、生産性の点で有利な成形装置を提供することができる。
【0055】
〈物品の製造について〉
以上説明したインプリント装置1を用いて形成される硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。
【0056】
物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0057】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0058】
次に、
図4を用いて、インプリント装置によって基板にパターンを形成し、該パターンが形成された基板を処理し、該処理が行われた基板から物品を製造する物品製造方法について説明する。まず
図4(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウエハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0059】
図4(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図4(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを介して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0060】
図4(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、離型が成功した場合には基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0061】
図4(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図4(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0062】
そして物品の製造方法には、基板に供給(塗布)されたインプリント材に上記のインプリント装置(インプリント方法)を用いてパターンを形成する工程と、かかる工程でパターンを形成された基板を加工する工程も含まれる。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利であるといえる。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 インプリント装置
10 モールドチャック
30 基板チャック
80 制御部
90 光照射部(硬化部)