(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190895
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】タイヤ及びタイヤと車両との組合せ体
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20221220BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20221220BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B60C11/00 F
B60C5/00 H
B60C11/03 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099406
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 裕貴
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC13
3D131BC19
3D131BC33
3D131BC34
3D131CB08
3D131EA08X
3D131EA09V
3D131EA09X
3D131EB03U
3D131EB05U
3D131EB11V
3D131EB18V
3D131EB24V
3D131EB28V
3D131EB51U
(57)【要約】
【課題】耐偏摩耗性の低下を伴うことなく、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を達成できる、タイヤ2の提供。
【解決手段】このタイヤ2の外面TSは、トレッド面Tと、一対のサイド面Sとを備える。トレッド面Tの輪郭を表す複数の円弧は一対のクラウン円弧を含む。第一クラウン円弧の半径CR1の、第二クラウン円弧の半径CR2に対する比は、1.10以上1.70以下である。赤道から第一トレッド基準端TE1までのゾーンに位置する第一周方向溝48の総溝容積は、赤道から第二トレッド基準端TE2までのゾーンに位置する第二周方向溝50の総溝容積よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並列した複数本の周方向溝が刻まれたトレッドを備え、前記トレッドの幅が第一トレッド基準端から第二トレッド基準端までの軸方向距離で表され、前記第一トレッド基準端が車両の幅方向において外側に位置するように、前記車両に装着される、タイヤであって、
前記タイヤの外面が、トレッド面と、前記トレッド面の端に連なる一対のサイド面とを備え、
正規リムであるリムに組み、内圧を230kPaに調整し、荷重をかけない状態での、前記タイヤの子午線断面において、前記トレッド面の輪郭が軸方向に並列した複数の円弧で表され、
前記複数の円弧が、前記タイヤの赤道面に中心を有し、前記タイヤの赤道において接する、一対のクラウン円弧を含み、
前記第一トレッド基準端側に位置するクラウン円弧の半径の、前記第二トレッド基準端側に位置するクラウン円弧の半径に対する比が、1.10以上1.70以下であり、
前記複数本の周方向溝のうち、前記赤道から前記第一トレッド基準端までのゾーンに位置する周方向溝が第一周方向溝であり、前記赤道から前記第二トレッド基準端までのゾーンに位置する周方向溝が第二周方向溝であり、
前記第一周方向溝の総溝容積が、前記第二周方向溝の総溝容積よりも大きい、
タイヤ。
【請求項2】
前記赤道面からの軸方向距離が前記リムのリム幅の45%である、前記トレッド面上の位置が、ドロップ基準位置であり、前記赤道から前記ドロップ基準位置までの径方向距離がドロップ量であり、
前記第二トレッド基準端側のドロップ量が前記第一トレッド基準端側のドロップ量よりも大きく、前記第二トレッド基準端側のドロップ量と前記第一トレッド基準端側のドロップ量との差が1.0mm以上6.0mm以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記複数の円弧が、軸方向において外側に位置し前記サイド面に繋がる、一対のショルダー円弧を含み、
前記第一トレッド基準端側に位置するショルダー円弧の半径の、前記第二トレッド基準端側に位置するショルダー円弧の半径に対する比が、1.05以上1.35以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第一周方向溝の総溝容積の、前記第二周方向溝の総溝容積に対する比が、1.2以上1.9以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第二周方向溝が前記第一周方向溝よりも浅い、
請求項1から4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記赤道から、前記赤道に近接する前記第二周方向溝までの距離が、前記赤道から、前記赤道に近接する前記第一周方向溝までの距離よりも長い、
請求項1から5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第二周方向溝が、内側要素と、軸方向において前記内側要素の外側に位置する外側要素とを含み、
周方向において、前記内側要素と前記外側要素とが交互に配置される、
請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
周方向に対して傾斜する傾斜溝が、前記トレッドに刻まれ、
前記傾斜溝が、前記第二周方向溝と前記第一周方向溝との間を架け渡す、
請求項6又は7に記載のタイヤ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のタイヤと、車両とを備え、
前記タイヤが、-2度よりも大きく0度よりも小さいキャンバー角で前記車両に装着され、
前記車両が、100kW以上の最高出力を有する乗用車である、
タイヤと車両との組合せ体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ及びタイヤと車両との組合せ体に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッドパターンを非対称パターンで構成すると、操縦安定性や耐偏摩耗性の向上を図れる見込みがある。この場合、非対称パターンがその機能を十分に発揮できるよう、子午線断面におけるトレッド面の輪郭を、赤道面に対して対称に構成するのではなく、非対称に構成することが検討される(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
160km/h以上の速度での走行が考慮された、100kW以上の最高出力を有する、高出力な車両(以下、高出力車とも称される。)にタイヤを装着するとき、タイヤのキャンバー角は負のキャンバー角、具体的には、0度よりも小さく―2度よりも大きい角度に設定される。高出力車に装着されるタイヤには、ドライ路面やウェット路面において良好なハンドリング性能が発揮できることが求められる。
【0005】
負のキャンバー角で車両に装着されたタイヤの接地面では、赤道面の内側部分の面積が大きく、外側部分の面積が小さい。車両が高速で旋回すると、外側部分において接地圧が局所的に高まる傾向にある。接地圧の局所的な高まりは、ハンドリング性能や耐偏摩耗性の低下を招く。接地圧の局所的な高まりを抑制するには、接地面積の増加が必要である。
【0006】
ウェット路面でのハンドリング性能を向上させるには、溝容積の確保が必要である。前述したように、負のキャンバー角で車両に装着されたタイヤの接地面では、赤道面の外側部分の面積は小さい。溝容積確保のために溝の溝面積を増加させると、接地面積が減るので接地圧が高まる。深い溝深さを採用すれば、接地圧の高まりを抑制しながら、溝容積を増やすことができる。この場合、トレッドの厚さを考慮する必要がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐偏摩耗性の低下を伴うことなく、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を達成できる、タイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るタイヤは、軸方向に並列した複数本の周方向溝が刻まれたトレッドを備え、前記トレッドの幅が第一トレッド基準端から第二トレッド基準端までの軸方向距離で表され、前記第一トレッド基準端が車両の幅方向において外側に位置するように、前記車両に装着される、タイヤである。前記タイヤの外面は、トレッド面と、前記トレッド面の端に連なる一対のサイド面とを備える。正規リムであるリムに前記タイヤを組み、前記タイヤの内圧を230kPaに調整し、前記タイヤに荷重をかけない状態での、前記タイヤの子午線断面において、前記トレッド面の輪郭は軸方向に並列した複数の円弧で表される。前記複数の円弧は、前記タイヤの赤道面に中心を有し、前記タイヤの赤道において接する、一対のクラウン円弧を含む。前記第一トレッド基準端側に位置するクラウン円弧の半径の、前記第二トレッド基準端側に位置するクラウン円弧の半径に対する比は、1.10以上1.70以下である。前記複数本の周方向溝のうち、前記赤道から前記第一トレッド基準端までのゾーンに位置する周方向溝が第一周方向溝であり、前記赤道から前記第二トレッド基準端までのゾーンに位置する周方向溝が第二周方向溝である。前記第一周方向溝の総溝容積は、前記第二周方向溝の総溝容積よりも大きい。
【0009】
好ましくは、このタイヤでは、前記赤道面からの軸方向距離が前記リムのリム幅の45%である、前記トレッド面上の位置が、ドロップ基準位置であり、前記赤道から前記ドロップ基準位置までの径方向距離がドロップ量である。前記第二トレッド基準端側のドロップ量は前記第一トレッド基準端側のドロップ量よりも大きく、前記第二トレッド基準端側のドロップ量と前記第一トレッド基準端側のドロップ量との差は1.0mm以上6.0mm以下である。
【0010】
好ましくは、このタイヤでは、前記複数の円弧は、軸方向において外側に位置し前記サイド面に繋がる、一対のショルダー円弧を含む。前記第一トレッド基準端側に位置するショルダー円弧の半径の、前記第二トレッド基準端側に位置するショルダー円弧の半径に対する比は、1.05以上1.35以下である。
【0011】
好ましくは、このタイヤでは、前記第一周方向溝の総溝容積の、前記第二周方向溝の総溝容積に対する比は、1.2以上1.9以下である。
【0012】
好ましくは、このタイヤでは、前記第二周方向溝は前記第一周方向溝よりも浅い。
【0013】
好ましくは、このタイヤでは、前記赤道から前記赤道に近接する前記第二周方向溝までの距離は、前記赤道から前記赤道に近接する前記第一周方向溝までの距離よりも長い。
【0014】
好ましくは、このタイヤでは、前記第二周方向溝は、内側要素と、軸方向において前記内側要素の外側に位置する外側要素とを含む。周方向において、前記内側要素と前記外側要素とは交互に配置される。
【0015】
好ましくは、このタイヤでは、周方向に対して傾斜する傾斜溝が前記トレッドに刻まれる。前記傾斜溝は、前記第二周方向溝と前記第一周方向溝との間を架け渡す。
【0016】
本発明の一態様に係るタイヤと車両との組合せ体は、前述のタイヤと、車両とを備える。前記タイヤは、-2度よりも大きく0度よりも小さいキャンバー角で前記車両に装着される。前記車両は、100kW以上の最高出力を有する乗用車である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐偏摩耗性の低下を伴うことなく、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を達成できる、タイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたタイヤの輪郭の一部を示す断面図である。
【
図3】
図3は、トレッドの外面を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0020】
本開示においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を230kPaに調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、標準状態と称される。
【0021】
本開示においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、標準状態で測定される。正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できないタイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの断面において、左右のビード間の距離を、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致させて、測定される。
【0022】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0023】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0024】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0025】
本開示において、溝が周方向又は軸方向に対してなす角度(すなわち、溝の傾斜角度)は、溝の縁が周方向又は軸方向に対してなす角度で表される。溝の一方の縁に基づいて得られる傾斜角度が、その他方の縁に基づいて得られる傾斜角度と異なる場合は、両者の平均値で、溝の傾斜角度が表される。
【0026】
本開示において、溝の溝幅は、溝の中心線に直交する線に沿って計測される、一方の縁から他方の縁までの長さで表される。溝の長さ方向において溝幅が変化する場合は、最大幅と最小幅との平均値で、溝幅は表される。
【0027】
本開示において、キャンバー角とは、タイヤが車両に装着された状態において、路面に対して垂直な面とタイヤの赤道面とがなす角度である。負のキャンバー角でタイヤが車両に装着されている状態とは、タイヤを車両に装着したとき、タイヤの上側が下側よりも車両側に位置している状態を意味する。
【0028】
本開示において、速度記号とは、例えば、JATMA規格において規定され、タイヤが、そのロードインデックスにより示された質量を規定の条件で負荷された状態において、走行可能な最高速度を表す記号である。速度記号がH以上であるタイヤとは、速度記号がH、V、W、又はYであるタイヤを意味する。
【0029】
本開示において、ロードインデックス(LI)とは、例えば、JATMA規格において規定され、規定の条件下でタイヤに負荷することが許される最大の質量、すなわち最大負荷能力を指数で表す指標である。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車用タイヤである。
図1において、タイヤ2はリムRに組まれている。リムRは正規リムである。タイヤ2の内部には空気が充填され、タイヤ2の内圧が調整される。
【0031】
リムRに組まれたタイヤ2は、タイヤ-リム組立体とも称される。タイヤ-リム組立体は、リムRと、このリムRに組まれたタイヤ2とを備える。
【0032】
図1には、タイヤ2の回転軸(図示されず)を含む平面に沿った、タイヤ2の断面(以下、子午線断面とも称される。)の一部が示される。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表す。
【0033】
図1において、符号RWで示される長さはリム幅(JATMA等参照)である。リム幅RWは、一方のリムベースラインから他方のリムベースラインまでの軸方向距離である。
【0034】
図1において、符号PWで示される位置はタイヤ2の軸方向外端である。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離は、タイヤ2の最大幅、すなわち断面幅(JATMA等参照)である。外端PWは、このタイヤ2が最大幅を示す位置(以下、最大幅位置)である。
【0035】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16及びインナーライナー18を備える。
【0036】
トレッド4は、その外面において路面と接地する。トレッド4には、溝20が刻まれる。これにより、トレッドパターンが構成される。
【0037】
図示されないが、トレッド4は、キャップ層と、ベース層とを有する。キャップ層はトレッド4の外面を構成する。キャップ層は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。ベース層は、径方向においてキャップ層の内側に位置する。ベース層は、低発熱性の架橋ゴムからなる。
【0038】
図1において、符号PCで示される位置はタイヤ2の赤道である。赤道PCは、トレッド4の外面と赤道面との交点である。赤道面上に溝20が位置する場合、赤道PCは、この溝20がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。
【0039】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端に連なる。サイドウォール6は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。サイドウォール6は、トレッド4の端からクリンチ8に向かってカーカス12に沿って延びる。サイドウォール6は耐カット性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0040】
それぞれのクリンチ8は、径方向においてサイドウォール6の内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0041】
それぞれのビード10は、軸方向においてクリンチ8の内側に位置する。ビード10は、径方向においてサイドウォール6の内側に位置する。ビード10は、コア22と、エイペックス24とを備える。
【0042】
図示されないが、コア22はスチール製のワイヤを含む。エイペックス24は、径方向においてコア22の外側に位置する。エイペックス24は外向きに先細りである。エイペックス24は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。径方向において、エイペックス24の外端は最大幅位置PWの内側に位置する。エイペックス24の長さは20mmから40mmの範囲で適宜設定される。
【0043】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。カーカス12はラジアル構造を有する。
【0044】
カーカス12は、少なくとも1枚のカーカスプライ26を含む。このタイヤ2のカーカス12は2枚のカーカスプライ26からなる。トレッド4の径方向内側において、内側に位置するカーカスプライ26が第一カーカスプライ28であり、第一カーカスプライ28の外側に位置するカーカスプライ26が第二カーカスプライ30である。
【0045】
第一カーカスプライ28は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す第一プライ本体28aと、この第一プライ本体28aに連なりそれぞれのビード10の周りで軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の第一折り返し部28bとを含む。径方向において、第一折り返し部28bの端は最大幅位置PWの外側に位置する。
【0046】
第二カーカスプライ30は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す第二プライ本体30aと、この第二プライ本体30aに連なりそれぞれのビード10の周りで軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の第二折り返し部30bとを含む。径方向において、第二折り返し部30bの端はエイペックス24の外端とコア22との間に位置する。
【0047】
図示されないが、カーカスプライ26は並列した多数のカーカスコードを含む。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。カーカスコードは有機繊維からなるコードである。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0048】
ベルト14は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。ベルト14は、径方向において外側からカーカス12に積層される。このタイヤ2では、ベルト14の軸方向幅は、断面幅の65%以上85%以下である。
【0049】
ベルト14は、径方向に積層された少なくとも2つの層32で構成される。このタイヤ2のベルト14は、径方向に積層された2つの層32からなる。2つの層32のうち、内側に位置する層32が内側層32aであり、外側に位置する層32が外側層32bである。
図1に示されるように、内側層32aは外側層32bよりも幅広い。外側層32bの端から内側層32aの端までの長さは3mm以上10mm以下である。
【0050】
図示されないが、内側層32a及び外側層32bはそれぞれ、並列した多数のベルトコードを含む。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。
【0051】
バンド16は、径方向において、トレッド4とベルト14との間に位置する。バンド16は、トレッド4の内側においてベルト14に積層される。バンド16はベルト14全体を覆う。バンド16はベルト14よりも幅広い。ベルト14の端からバンド16の端までの長さは3mm以上7mm以下である。
【0052】
図示されないが、バンド16は、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。バンドコードは実質的に周方向に延びる。詳細には、バンドコードが周方向に対してなす角度は、5°以下である。バンド16はジョイントレス構造を有する。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0053】
このタイヤ2のバンド16は、フルバンド34と、一対のエッジバンド36とを備える。フルバンド34は、径方向において外側からベルト14全体を覆う。一対のエッジバンド36は、赤道面を挟んで軸方向に離間して配置される。エッジバンド36は径方向において外側からフルバンド34の端を覆う。このバンド16がフルバンド34で構成されてもよく、一対のエッジバンド36で構成されてもよい。
【0054】
インナーライナー18はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー18は、タイヤ2の内面を構成する。インナーライナー18は、気体透過係数が低い架橋ゴムからなる。インナーライナー18は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0055】
図2は、
図1に示されたタイヤ2の輪郭を示す。このタイヤ2の輪郭は、標準状態のタイヤ2の外面形状を、例えば、変位センサーで計測することで得られる。
図2において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。この
図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
【0056】
図2には、標準状態でのタイヤ2の子午線断面における、このタイヤ2の外面(以下、タイヤ外面TS)の輪郭が示される。このタイヤ外面TSの輪郭は、直線又は円弧をつないで構成される。輪郭を表す直線又は円弧は、輪郭線とも称される。
【0057】
タイヤ外面TSは、トレッド面Tと、一対のサイド面Sとを備える。
図2において、符号PEで示される位置はトレッド面Tとサイド面Sとの境界である。トレッド面Tは、境界PEにおいてサイド面Sと接する。境界PEは、トレッド面Tの端であり、サイド面Sの外端でもある。
【0058】
トレッド面Tは、路面と接地するタイヤ2の外周面をなす。本開示において、トレッド面Tの輪郭は、溝がないと仮定して得られる仮想外面(仮想トレッド面とも称される。)の輪郭で説明される。トレッド面Tは赤道PCを含む。
【0059】
子午線断面において、トレッド面Tの輪郭は、軸方向に並列した複数の円弧で表される。トレッド面Tの輪郭において、隣接する2つの円弧は互いに接する。赤道PCとトレッド面Tの端PEとの間においては、軸方向において内側に位置する円弧の半径は、軸方向において外側に位置する円弧の半径よりも大きい。
【0060】
トレッド面Tの輪郭を構成する複数の円弧のうち、軸方向において外側に位置し、サイド面Sに繋がる円弧がショルダー円弧である。このタイヤ2では、ショルダー円弧が、トレッド面Tの輪郭を構成する複数の円弧の中で最も小さな半径を有する。
図2において、符号SRで示される矢印は、ショルダー円弧の半径である。
【0061】
図2には、ショルダー円弧で表される部分(以下、曲線部とも称される。)が符号RSで示される。子午線断面において、タイヤ外面TSの輪郭は、トレッド面Tの輪郭に含まれる複数の円弧のうち、最小の半径を有し、サイド面Sに繋がる円弧からなる曲線部RSを、トレッド面Tの端PEの部分に含む。
【0062】
それぞれのサイド面Sは、トレッド面Tの端PEに連なる。サイド面Sは、径方向において、トレッド面Tの内側に位置する。本開示において、サイド面Sの輪郭は、模様や文字等の装飾がないと仮定して得られる仮想外面(仮想サイド面とも称される。)の輪郭で説明される。サイド面Sは最大幅位置PWを含む。
【0063】
詳述しないが、子午線断面において、サイド面Sの輪郭は、直線輪郭線と、上部円弧とを含む。直線輪郭線は、トレッド面Tの端PEにおいて曲線部RSと接する直線である。上部円弧は、直線輪郭線に連なり、最大幅位置PWを通る円弧である。図示されないが、この上部円弧は、最大幅位置PWを通り軸方向に延びる直線上に中心を有する。このタイヤ2では、上部円弧と曲線部RSとが直線ではなく円弧で繋げられてもよい。直接、上部円弧と曲線部RSとが繋げられてもよい。
【0064】
タイヤ外面TSの輪郭において、前述の曲線部RSは、その軸方向内側に隣接する輪郭線(以下、内側隣接輪郭線NT)と接点CTにおいて接する。この曲線部RSは、その軸方向外側に隣接するサイド面Sの輪郭を構成する輪郭線(以下、外側隣接輪郭線NS)と接点CSにおいて接する。このタイヤ外面TSの輪郭は、曲線部RSの軸方向内側に位置しこの曲線部RSに接する内側隣接輪郭線NTと、曲線部RSの軸方向外側に位置しこの曲線部RSに接する外側隣接輪郭線NSとを含む。このタイヤ2では、接点CSは前述の境界PEである。
【0065】
図2において、実線LTは、内側隣接輪郭線NTと曲線部RSとの接点CTにおける、曲線部RSの接線である。実線LSは、外側隣接輪郭線NSと曲線部RSとの接点CSにおける、曲線部RSの接線である。符号TEで示される位置は、接線LTと接線LSとの交点を通り径方向に延びる直線と、トレッド面Tとの交点である。このタイヤ2では、この交点TEがトレッド基準端である。
図2の紙面において左側に位置するトレッド基準端TEが第一トレッド基準端TE1であり、右側に位置するトレッド基準端TEが第二トレッド基準端TE2である。
【0066】
図2において、符号TWで示される長さはトレッド4の幅である。トレッド4の幅TWは、第一トレッド基準端TE1から第二トレッド基準端TE2までの軸方向距離である。トレッド基準端TEは、トレッド4の幅TWを特定するための基準位置である。このタイヤ2では、トレッド4の幅TWの、断面幅に対する比率は70%以上90%以下である。
【0067】
図3には、トレッド4の外面の一部が示される。
図3において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の周方向である。この
図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の径方向である。
図3において、矢印Aで示される方向はタイヤ2の回転方向である。この
図3の紙面において下側は回転方向先着側であり、上側は回転方向後着側である。
【0068】
図3に示されるように、このタイヤ2のトレッドパターンは赤道面に対して非対称である。このトレッドパターンは非対称パターンである。このタイヤ2では、車両に装着する際のトレッド4の向きが指定される。第一トレッド基準端TE1が車両の幅方向において外側に位置し、第二トレッド基準端TE2が車両の幅方向において内側に位置するように、このタイヤ2は車両に装着される。
【0069】
このタイヤ2では、トレッドパターンを構成する溝20は周方向に延びる周方向溝38を含む。このタイヤ2では、軸方向に並列した複数本の周方向溝38がトレッド4に刻まれる。
図3に示されるように、このタイヤ2のトレッド4には、3本の周方向溝38が刻まれる。
【0070】
3本の周方向溝38のうち、軸方向において外側に位置する周方向溝38がショルダー周方向溝38sである。2本のショルダー周方向溝38sのうち、第一トレッド基準端TE1側に位置するショルダー周方向溝38sが第一ショルダー周方向溝38s1であり、第二トレッド基準端TE2側に位置するショルダー周方向溝38sが第二ショルダー周方向溝38s2である。
【0071】
第一ショルダー周方向溝38s1は複数の直線要素40を含む。それぞれの直線要素40が周方向に対してなす角度は10度以下である。
図3に示されるように、直線要素40は周方向に対して僅かに傾斜する。直線要素40と赤道面との間隔が後着側から先着側に向かって狭まるように、直線要素40はトレッド4に刻まれる。
このタイヤ2では、第一ショルダー周方向溝38s1は複数の直線要素40を繋げることで構成される。第一ショルダー周方向溝38s1は周方向に連続的に延びる。
【0072】
第二ショルダー周方向溝38s2は、複数の内側要素42と、複数の外側要素44とを含む。それぞれの内側要素42が周方向に対してなす角度は10度以下である。
図3に示されるように、内側要素42は周方向に対して僅かに傾斜する。内側要素42と赤道面との間隔が後着側から先着側に向かって狭まるように、内側要素42はトレッド4に刻まれる。
それぞれの外側要素44は軸方向において内側要素42の外側に位置する。外側要素44が周方向に対してなす角度は10度以下である。
図3に示されるように、外側要素44は周方向に対して僅かに傾斜する。外側要素44と赤道面との間隔が後着側から先着側に向かって狭まるように、外側要素44はトレッド4に刻まれる。このタイヤ2では、外側要素44の傾斜の向きは内側要素42の傾斜の向きと同じである。
このタイヤ2では、内側要素42と外側要素44とは周方向において交互に配置される。第二ショルダー周方向溝38s2は、内側要素42と外側要素44とを交互に繋げることで構成される。前述したように、外側要素44は、軸方向において、内側要素42の外側に位置する。第二ショルダー周方向溝38s2は周方向に断続的に延びる。
【0073】
3本の周方向溝38のうち、軸方向においてショルダー周方向溝38sの内側に位置する周方向溝38がミドル周方向溝38mである。
【0074】
ミドル周方向溝38mは複数のテーパー要素46を含む。それぞれのテーパー要素46は周方向に延びる。テーパー要素46は、その幅が後着側から先着側に向かって狭まるように構成された要素である。先着側のテーパー要素46の幅の、後着側のテーパー要素46の幅に対する比は0.5以上0.7以下である。
このタイヤ2では、ミドル周方向溝38mは複数のテーパー要素46を繋げることで構成される。ミドル周方向溝38mは周方向に連続的に延びる。
【0075】
このタイヤ2では、排水性及び接地面積の確保が考慮され、第一ショルダー周方向溝38s1の溝幅GS1は、トレッド4の幅TWの4%以上8%以下の範囲で設定される。ミドル周方向溝38mの溝幅GMは、第一ショルダー周方向溝38s1の溝幅GS1よりも狭い。溝幅GMの溝幅GS1に対する比率(GM/GS1)は30%以上50%以下の範囲で設定される。第二ショルダー周方向溝38s2の溝幅GS2は、第一ショルダー周方向溝38s1の溝幅GS1よりも狭く、ミドル周方向溝38mの溝幅GMよりも広い。溝幅GS2の溝幅GS1に対する比率(GS2/GS1)は55%以上75%以下の範囲で設定される。
【0076】
図3に示されるように、このタイヤ2のミドル周方向溝38mは、軸方向において、赤道面と第一ショルダー周方向溝38s1との間に位置する。このミドル周方向溝38mは赤道面上に位置していない。このミドル周方向溝38mは、赤道面から第一トレッド基準端TE1側にずらして配置される。
【0077】
このタイヤ2では、赤道から第一トレッド基準端TE1までのゾーン(以下、第一ゾーン)に、第一ショルダー周方向溝38s1と、ミドル周方向溝38mとが位置する。第一ゾーンに位置する、第一ショルダー周方向溝38s1と、ミドル周方向溝38mとは、第一周方向溝48とも称される。赤道から第二トレッド基準端TE2までのゾーン(以下、第二ゾーン)に、第二ショルダー周方向溝38s2が位置する。第二ゾーンに位置する、第二ショルダー周方向溝38s2は、第二周方向溝50とも称される。
【0078】
このタイヤ2では、第一周方向溝48の総溝容積V1は、第一ショルダー周方向溝38s1の溝容積と、ミドル周方向溝38mの溝容積との合計で表される。第二周方向溝50の総溝容積V2は、第二ショルダー周方向溝38s2の溝容積で表される。
【0079】
本開示において、周方向溝38の溝容積は、例えば変位センサーによって計測される、タイヤ外面形状に関する三次元データを用いて算出される。周方向溝38を横切る横溝がある場合は、この横溝の先着側に位置する周方向溝38の溝壁、又は、後着側に位置する周方向溝38の溝壁を仮想的に延ばして横溝を塞ぎ、1本の周方向溝38が特定される。
【0080】
このタイヤ2では、複数本の周方向溝38をトレッド4に刻むことで、複数本の陸部52が構成される。
図3に示されるように、このタイヤ2では、3本の周方向溝38を刻むことで、軸方向に並列した4本の陸部52が構成される。4本の陸部52のうち、軸方向において、外側に位置する陸部52がショルダー陸部52sであり、ショルダー陸部52sの内側に位置する陸部52がミドル陸部52mである。2本のショルダー陸部52sのうち、第一トレッド基準端TE1側に位置するショルダー陸部52sが第一ショルダー陸部52s1であり、第二トレッド基準端TE2側に位置するショルダー陸部52sが第二ショルダー陸部52s2である。2本のミドル陸部52mのうち、第一トレッド基準端TE1側に位置するミドル陸部52mが第一ミドル陸部52m1であり、第二トレッド基準端TE2側に位置するミドル陸部52mが第二ミドル陸部52m2である。
【0081】
第一ショルダー陸部52s1には横溝54が刻まれる。横溝54は第一トレッド基準端TE1と第一ショルダー周方向溝38s1との間を架け渡す。横溝54が軸方向に対してなす角度は10度以下である。
図3に示されるように、横溝54は軸方向に対して僅かに傾斜する。軸方向において横溝54の内側部分がその外側部分よりも先着側に位置するように、この横溝54は第一ショルダー陸部52s1に刻まれる。
【0082】
横溝54は、幅広部54aと、この幅広部54aの内側に位置する幅狭部54bとを含む。幅広部54aの溝幅は、トレッド4の幅TWの3%以上5%以下である。幅狭部54bは、幅広部54aの溝幅の0.10倍から0.20倍の溝幅を有する。
【0083】
このタイヤ2では、第一ショルダー陸部52s1に複数の横溝54を刻むことで、この第一ショルダー陸部52s1に複数のブロック56が構成される。これらブロック56は、周方向に連なる。それぞれのブロック56には複数本のサイプ58が刻まれる。サイプ58の傾斜の向きは、横溝54の傾斜の向きと同じである。
【0084】
第一ショルダー陸部52s1のブロック56にはさらに、細溝60が刻まれる。細溝60は先着側の横溝54と後着側の横溝54との間を架け渡す。細溝60の傾斜の向きは、第一ショルダー周方向溝38s1を構成する直線要素40の傾斜の向きと同じである。このタイヤ2では、ブロック56に複数の細溝60を刻むことで、軸方向に並列した複数のピース62がこのブロックに構成される。細溝60は、横溝54の一部をなす幅広部54aの溝幅の0.15倍から0.25倍の溝幅を有する。
【0085】
第一ミドル陸部52m1には傾斜溝64が刻まれる。傾斜溝64は第一ショルダー周方向溝38s1とミドル周方向溝38mとの間を架け渡す。傾斜溝64が軸方向に対してなす角は20度以上30度以下である。傾斜溝64は軸方向に対して傾斜する。軸方向において傾斜溝64の外側部分がその内側部分よりも先着側に位置するように、この傾斜溝64は第一ミドル陸部52m1に刻まれる。この傾斜溝64の溝幅は、トレッド4の幅TWの1%以上3%以下である。
【0086】
このタイヤ2では、第一ミドル陸部52m1に複数の傾斜溝64を刻むことで、複数のブロック66が第一ミドル陸部52m1に構成される。これらブロック66は、周方向に連なる。それぞれのブロック66には複数本のサイプ68が刻まれる。
図3に示されるように、サイプ68の傾斜の向きは傾斜溝64の傾斜の向きと逆である。
【0087】
第二ミドル陸部52m2には傾斜溝70が刻まれる。傾斜溝70はミドル周方向溝38mと第二ショルダー周方向溝38s2との間を架け渡す。傾斜溝70は軸方向に対して傾斜する。軸方向において傾斜溝70の内側部分がその外側部分よりも先着側に位置するように、この傾斜溝70は第二ミドル陸部52m2に刻まれる。傾斜溝70の傾斜の向きは、第一ミドル陸部52m1に刻まれる傾斜溝64の傾斜の向きと同じである。
【0088】
このタイヤ2では、傾斜溝70は、急傾斜部72と、緩傾斜部74とを備える。軸方向において、急傾斜部72は内側に位置し、緩傾斜部74は外側に位置する。急傾斜部72が軸方向に対してなす角度は、40度以上50度以下である。緩傾斜部74が軸方向に対してなす角度は10度以上20度以下である。急傾斜部72の傾斜角度は、緩傾斜部74の傾斜角度よりも大きい。急傾斜部72の傾斜角度と、緩傾斜部74の傾斜角度との差は、20度以上40度以下である。
【0089】
緩傾斜部74の溝幅は、トレッド4の幅TWの2%以上4%以下である。急傾斜部72は、その溝幅が、緩傾斜部74との境界からミドル周方向溝38mに向かって先細りとなるように構成される。周方向に並ぶ傾斜溝70の急傾斜部72のうち、後述する幅狭ブロックが先着側に位置し、後述する幅広ブロックが後着側に位置する急傾斜部72aは、幅広部72aaと幅狭部72abとを備える。幅狭部72abは、幅広部72aaの溝幅の0.10倍から0.30倍の溝幅を有する。
【0090】
このタイヤ2では、第二ミドル陸部52m2に複数の傾斜溝70を刻むことで、複数のブロック76が第二ミドル陸部52m2に構成される。これらブロック76は、周方向に連なる。
【0091】
図3に示されるように、それぞれのブロック76には細溝78が刻まれる。細溝78は先着側の傾斜溝70と後着側の傾斜溝70との間を架け渡す。細溝78は、傾斜溝の一部をなす緩傾斜部74の溝幅の0.20倍から0.50倍の溝幅を有する。
【0092】
このタイヤ2では、ミドル周方向溝38mと、第二ショルダー周方向溝38s2の外側要素44との間に位置する、ブロック76(以下、幅広ブロック80)には、細溝78として、傾斜細溝78t1と直線細溝78sとが刻まれる。これにより、この幅広ブロック80には、内側ピース80a、中間ピース80b及び外側ピース80cが構成される。直線細溝78sの傾斜の向きは外側要素44の傾斜の向きと同じである。傾斜細溝78t1は、先着側が後着側よりも軸方向外側に位置するように幅広ブロック80に刻まれる。傾斜細溝78t1が周方向に対してなす角度は30度以上40度以下である。
【0093】
図3に示されるように、幅広ブロック80の内側ピース80aには、軸方向に延びる複数本の内側サイプ82uが刻まれる。中間ピース80b及び外側ピース80cには、軸方向に対して僅かに傾斜する複数本の外側サイプ82sが刻まれる。
【0094】
このタイヤ2では、ミドル周方向溝38mと、第二ショルダー周方向溝38s2の内側要素42との間に位置する、ブロック76(以下、幅狭ブロック84)には、細溝78として、2本の傾斜細溝78t2が刻まれる。これにより、この幅狭ブロック84には、内側ピース84a、中間ピース84b及び外側ピース84cが構成される。傾斜細溝78t2の傾斜の向きは、幅広ブロック80に刻まれる傾斜細溝78t1の傾斜の向きと同じである。
【0095】
図3に示されるように、幅狭ブロック84の内側ピース84a及び中間ピース84bには、軸方向に延びる複数本の内側サイプ86uが刻まれる。外側ピース84cには、軸方向に対して僅かに傾斜する複数本の外側サイプ86sが刻まれる。
【0096】
第二ショルダー陸部52s2には横溝88が刻まれる。横溝88は第二ショルダー周方向溝38s2と第二トレッド基準端TE2との間を架け渡す。横溝88は、傾斜部88aと、直線部88bとを含む。傾斜部88aは、軸方向に対して傾斜する。傾斜部88aは、第二ミドル陸部52m2に刻まれる傾斜溝70の緩傾斜部74と連続する。傾斜部88aの傾斜の向きは、緩傾斜部74の傾斜の向きと同じである。直線部88bは、軸方向に延びる。傾斜部88aの溝幅は、第二ミドル陸部52m2の傾斜溝70の一部をなす緩傾斜部74の溝幅と同じである。直線部88bは、傾斜部88aの溝幅の1.1倍から1.3倍の溝幅を有する。
【0097】
このタイヤ2では、第二ショルダー陸部52s2に複数の横溝88を刻むことで、複数のブロック90が第二ショルダー陸部52s2に構成される。これらブロック90は、周方向に連なる。それぞれのブロック90には複数本のサイプ92が刻まれる。サイプ92は軸方向に延びる。
【0098】
図3に示されるように、第二ショルダー陸部52s2のブロック90にはさらに、細溝94が刻まれる。細溝94は先着側の横溝88と後着側の横溝88との間を架け渡す。細溝94の傾斜の向きは、第二ショルダー周方向溝38s2を構成する内側要素42又は外側要素44の傾斜の向きと同じである。細溝94は、横溝88の一部をなす傾斜部88aの溝幅の0.15倍から0.25倍の溝幅を有する。このタイヤ2では、ブロック90に複数の細溝94を刻むことで、軸方向に並列した複数のピース96がこのブロック90に構成される。
【0099】
図1において、両矢印WS1は第一ショルダー陸部52s1の幅である。この幅WS1は、第一ショルダー周方向溝38s1の縁から第一トレッド基準端TE1までの軸方向距離である。両矢印WM1は、第一ミドル陸部52m1の幅である。この幅WM1は、第一ショルダー周方向溝38s1の縁からミドル周方向溝38mの縁までの軸方向距離である。両矢印WM2は、第二ミドル陸部52m2の幅である。この幅WM2は、ミドル周方向溝38mの縁から第二ショルダー周方向溝38s2の縁までの軸方向距離である。両矢印WS2は、第二ショルダー陸部52s2の幅である。この幅WS2は、第二ショルダー周方向溝38s2の縁から第二トレッド基準端TE2までの軸方向距離である。周方向において陸部52の幅が変化する場合は、最大幅と最小幅との平均値がこの陸部52の幅として用いられる。
【0100】
このタイヤ2では、接地面積及び排水性の確保の観点から、第一ショルダー陸部52s1の幅WS1の、トレッド4の幅TWに対する比率(WS1/TW)は、20%以上30%以下の範囲で設定される。第一ミドル陸部52m1の幅WM1の、トレッド4の幅TWに対する比率(WM1/TW)は、10%以上20%以下の範囲で設定される。第二ミドル陸部52m2の幅WM2の、トレッド4の幅TWに対する比率(WM2/TW)は、30%以上40%以下の範囲で設定される。第二ショルダー陸部52s2の幅WS2の、トレッド4の幅TWに対する比率(WS2/TW)は、10%以上20%以下の範囲で設定される。
【0101】
前述したように、標準状態での、タイヤ2の子午線断面において、トレッド面Tの輪郭は軸方向に並列した複数の円弧で表される。このタイヤ2では、トレッド面Tの輪郭を表す複数の円弧は、タイヤ2の赤道面に中心を有し、赤道PCにおいて接する、一対のクラウン円弧を含む。一対のクラウン円弧のうち、第一トレッド基準端TE1側のクラウン円弧は第一クラウン円弧とも称される。第二トレッド基準端TE2側のクラウン円弧は、第二クラウン円弧とも称される。
【0102】
図2において、符号CR1で示される矢印は第一クラウン円弧の半径である。符号CR2で示される矢印は、第二クラウン円弧の半径である。符号P1で示される位置は、トレッド面T上の位置である。符号W10で示される長さは、赤道PCから位置P1までの軸方向距離である。このタイヤ2では、軸方向距離W10の、リム幅RWに対する比率(W10/RW)は10%である。位置P1は、赤道からの距離W10がリム幅RWの10%に相当する、トレッド面T上の位置である。この位置P1は、クラウン円弧の半径を特定するためのクラウン基準位置である。第一トレッド基準端TE1側のクラウン基準位置P1が第一クラウン基準位置P1aと称され、第二トレッド基準端TE2側の基準位置P1が第二クラウン基準位置P1bと称される。
【0103】
このタイヤ2では、第一クラウン円弧の半径CR1は、赤道面上に中心を有し、赤道PC及び第一クラウン基準位置P1aを通る円弧の半径で表される。第二クラウン円弧の半径CR2は、赤道面上に中心を有し、赤道PC及び第二クラウン基準位置P1bを通る円弧の半径で表される。
【0104】
クラウン円弧の半径CRを特定すると、トレッド面Tの輪郭を構成する他の円弧の半径が特定される。クラウン円弧とショルダー円弧との間に、2つの円弧が存在する場合を例に、円弧の半径の特定方法が以下に説明される。クラウン円弧とショルダー円弧との間に位置する2つの円弧のうち、クラウン円弧側に位置する円弧はミドル円弧と称され、ショルダー円弧側の円弧はサイド円弧と称される。詳述しないが、このタイヤ2では、クラウン円弧とショルダー円弧との間に、ミドル円弧とサイド円弧とが位置する。
(1)半径CRの円弧がトレッド面Tから乖離する位置が、クラウン円弧で表される部分(以下、クラウン輪郭線とも称される。)の外端として特定される。
(2)クラウン輪郭線の外端からの距離がリム幅RWの10%に相当する、トレッド面T上の位置が、ミドル基準位置として特定される。
(3)クラウン輪郭線の外端とクラウン円弧の中心とを通る直線上に中心を有し、クラウン輪郭線の外端とミドル基準位置とを通る円弧の半径が、ミドル円弧の半径として特定される。
(4)クラウン輪郭線の外端と同様にして、ミドル円弧で表される部分(以下、ミドル輪郭線とも称される。)の外端が特定される。
(5)ミドル輪郭線の外端からの距離がリム幅RWの10%に相当する、トレッド面T上の位置が、サイド基準位置として特定される。
(6)ミドル輪郭線の外端とミドル円弧の中心とを通る直線上に中心を有し、ミドル輪郭線の外端とサイド基準位置とを通る円弧の半径が、サイド円弧の半径として特定される。
(7)クラウン輪郭線の外端と同様にして、サイド円弧で表される部分(以下、サイド輪郭線とも称される。)の外端が特定される。
(8)赤道からの距離がリム幅RWの50%に相当する、トレッド面T上の位置が、ショルダー基準位置として特定される。
(9)サイド輪郭線の外端とサイド円弧の中心とを通る直線上に中心を有し、サイド輪郭線の外端とショルダー基準位置とを通る円弧の半径が、ショルダー円弧の半径SRとして特定される。
【0105】
このタイヤ2では、第一クラウン円弧の半径CR1の、第二クラウン円弧の半径CR2に対する比(CR1/CR2)は1.10以上1.70以下である。
【0106】
比(CR1/CR2)が1.10以上であるので、このタイヤ2を車両に装着した時に、このタイヤ2は、この車両の幅方向において外側に位置する第一ゾーンの接地面積を効果的に増加させることができる。このタイヤ2では、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能及び耐偏摩耗性が効果的に向上する。この観点から、この比(CR1/CR2)は1.20以上が好ましく、1.30以上がより好ましい。
【0107】
比(CR1/CR2)が1.70以下であるので、車両の幅方向において外側に位置する第一ゾーンに過剰な荷重が作用することが抑制される。このタイヤ2は、ドライ路面及びウェット路面での良好なハンドリング性能と、良好な耐偏摩耗性とを適切に維持できる。この観点から、この比(CR1/CR2)は1.65以下が好ましく、1.60以下がより好ましい。
【0108】
このタイヤ2では、第一周方向溝48の総溝容積V1は第二周方向溝50の総溝容積V2よりも大きい。このタイヤ2では、高速旋回時に外側に位置する第一ゾーンの排水性が向上する。このタイヤ2は、ウェット路面でのハンドリング性能に優れる。
【0109】
このタイヤ2では、第一トレッド基準端TE1側に位置するクラウン円弧の半径CR1の、第二トレッド基準端TE2側に位置するクラウン円弧の半径CR2に対する比(CR1/CR2)が1.10以上1.70以下であり、第一周方向溝48の総溝容積V1が第二周方向溝50の総溝容積V2よりも大きい。このタイヤ2は、耐偏摩耗性の低下を伴うことなく、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を達成できる。
【0110】
図1に示されるように、赤道PCの部分が外向きに突出するようにトレッド面Tは湾曲する。赤道PCからトレッド面T上の任意の位置までの径方向距離は、赤道PCからトレッド基準端TEに向かって漸増する。この径方向距離は、赤道PCからのトレッド面Tの落ち込みの程度を表す。この落ち込みの程度は、接地形状や接地圧分布に影響する。
【0111】
図1において、符号PDはトレッド面上の特定位置を示す。符号W45で示される長さは、赤道面から特定位置PDまでの軸方向距離である。このタイヤ2では、軸方向距離W45の、リム幅RWに対する比率(W45/RW)は45%である。位置PDは、赤道面からの軸方向距離W45がリム幅RWの45%である、トレッド面T上の位置である。本開示においては、この位置PDがドロップ基準位置である。赤道PCからドロップ基準位置PDまでの径方向距離が、トレッド面Tの落ち込みの程度を表す指標としての、ドロップ量である。
図1において、符号d1で示される長さが第一トレッド基準端TE1側のドロップ量であり、符号d2で示される長さが第二トレッド基準端TE2側のドロップ量である。
【0112】
標準状態のタイヤ2のキャンバー角を0°とした状態で、正規荷重の70%の荷重を縦荷重としてこのタイヤ2に負荷して、平面からなる路面にこのタイヤ2を接触させて得られる接地面の接地幅が、トレッド4の幅TWの70%以上90%以下の範囲にあるように、タイヤ2の接地面はコントロールされる。タイヤ2は、リム幅RWと同程度のトレッド4の幅TWを有する。タイヤ2が路面と接地すると、ドロップ基準位置PDの付近に接地端は位置する。ドロップ基準位置PDにおけるドロップ量は、適正な接地形状や接地圧分布を得るための有効な指標である。
【0113】
このタイヤ2では、好ましくは、第二トレッド基準端TE2側のドロップ量d2は第一トレッド基準端TE1側のドロップ量d1よりも大きく、第二トレッド基準端TE2側のドロップ量d2と第一トレッド基準端TE1側のドロップ量d1との差(d2-d1)は1.0mm以上6.0mm以下である。
このタイヤ2では、このタイヤ2を車両に装着した時に、この車両の幅方向において外側に位置する第一ゾーンの接地面積が増加する。高速旋回時の有効接地面積が増加するので、接地圧の局所的な高まりが抑制される。トレッド4が十分に路面と接地するので、ドライ路面でのハンドリング性能が向上する。
第一ゾーンの接地面積が増加するので、この第一ゾーンに含まれる第一周方向溝48の溝面積を増加させることができる。溝面積の増加は溝容積の増加に貢献するので、排水性が向上する。このタイヤ2では、ウェット路面でのハンドリング性能も向上する。
そして、接地幅の80%に相当する位置での接地長に関して、車両の幅方向において外側における接地長と内側における接地長とが同程度に構成される。直進走行時における接地圧分布に偏りが生じにくいので、このタイヤ2では、耐偏摩耗性が向上する。
このタイヤ2では、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上と、耐偏摩耗性の向上とをタイヤ2が達成できる観点から、差(d2-d1)は2.0mm以上がより好ましく、2.5mm以上がさらに好ましい。ドライ路面及びウェット路面での良好なハンドリング性能と、良好な耐偏摩耗性とをタイヤ2が適切に維持できる観点から、この差(d2-d1)は、5.0mm以下がより好ましく、4.5mm以下がさらに好ましい。
【0114】
このタイヤ2では、好ましくは、第一トレッド基準端TE1側に位置するクラウン円弧の半径CR1の、第二トレッド基準端TE2側に位置するクラウン円弧の半径CR2に対する比(CR1/CR2)が1.10以上1.70以下であり、第二トレッド基準端TE2側のドロップ量d2が第一トレッド基準端TE1側のドロップ量d1よりも大きく、第二トレッド基準端TE2側のドロップ量d2と第一トレッド基準端TE1側のドロップ量d1との差(d2-d1)が1.0mm以上6.0mm以下であり、第一周方向溝48の総溝容積V1が第二周方向溝50の総溝容積V2よりも大きい。このタイヤ2は、耐偏摩耗性の低下を伴うことなく、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を達成できる。
【0115】
図2において、矢印SR1は第一トレッド基準端TE1側に位置するショルダー円弧(以下、第一ショルダー円弧)の半径である。矢印SR2は、第二トレッド基準端TE2側に位置するショルダー円弧(以下、第二ショルダー円弧)の半径である。
【0116】
このタイヤ2では、第一ショルダー円弧の半径SR1の、第二ショルダー円弧の半径SR2に対する比(SR1/SR2)は1.05以上1.35以下が好ましい。
【0117】
比(SR1/SR2)が1.05以上に設定されることにより、第一ゾーンの、直進走行時において接地していない部分が、高速旋回時において路面と接地できる。接地面が外側に拡がるので、有効接地面積が増加する。このタイヤ2は、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を図ることができる。この観点から、この比(SR1/SR2)は1.10以上がより好ましく、1.15以上がさらに好ましい。
【0118】
比(SR1/SR2)が1.35以下に設定されることにより、車両の幅方向において外側に位置する第一ゾーンに過剰な荷重が作用することが抑制される。このタイヤ2は、ドライ路面及びウェット路面での良好なハンドリング性能と、良好な耐偏摩耗性とを適切に維持できる。この観点から、この比(SR1/SR2)は1.30以下がより好ましく、1.25以下がさらに好ましい。
【0119】
前述したように、第一周方向溝48の総溝容積V1は第二周方向溝50の総溝容積V2よりも大きい。このタイヤ2では、第一周方向溝48の総溝容積V1の、第二周方向溝50の総溝容積V2の比(V1/V2)は1.2以上1.9以下が好ましい。
【0120】
比(V1/V2)が1.2以上に設定されることにより、高速旋回時に外側に位置する第一ゾーンの排水性が向上する。このタイヤ2は、ウェット路面でのハンドリング性能に優れる。この観点から、この比(V1/V2)は1.3以上がより好ましく、1.4以上がさらに好ましい。
【0121】
比(V1/V2)が1.9以下に設定されることにより、第一ゾーンのトレッド4において必要な剛性が確保される。このタイヤ2では、良好なハンドリング性能が維持される。この観点から、この比(V1/V2)は1.8以下がより好ましく、1.7以下がさらに好ましい。
【0122】
図1において、符号DS1で示される長さは、第一ショルダー周方向溝38s1の溝深さである。符号DMで示される長さは、ミドル周方向溝38mの溝深さである。符号DS2で示される長さは、第二ショルダー周方向溝38s2の溝深さである。符号Aで示される長さはトレッド4の厚さである。この厚さAは、赤道面に沿って計測される。
【0123】
このタイヤ2では、第一ショルダー周方向溝38s1の溝深さDS1と、ミドル周方向溝38mの溝深さDMとは同じである。この第一ショルダー周方向溝38s1の溝深さDS1と、ミドル周方向溝38mの溝深さDMとが異なっていてもよい。前述したように、第一ショルダー周方向溝38s1及びミドル周方向溝38mは第一周方向溝48である。この第一周方向溝48の溝深さD1は、第一ショルダー周方向溝38s1の溝深さDS1とミドル周方向溝38mの溝深さDMとの平均値で表される。このタイヤ2では、排水性の向上と、トレッドの剛性確保との観点から、第一周方向溝48の溝深さD1の、トレッドの厚さAに対する比(D1/A)は0.70以上0.95以下が好ましい。
【0124】
前述したように、このタイヤ2では、第二ショルダー周方向溝38s2は第二周方向溝50である。第二ショルダー周方向溝38s2の溝深さDS2は第二周方向溝50の溝深さD2である。複数本の周方向溝38が第二ゾーンに構成される場合、第二周方向溝50の溝深さD2は、これらの周方向溝38の溝深さの平均値で表される。
【0125】
このタイヤ2では、第一トレッド基準端TE1側に位置するクラウン円弧の半径CR1が、第二トレッド基準端TE2側に位置するクラウン円弧の半径CR2よりも大きく、第一トレッド基準端TE1側のドロップ量d1が第二トレッド基準端TE2側のドロップ量d2よりも小さい。このタイヤ2では、第一ゾーンにおけるトレッド4のボリュームは第二ゾーンにおけるトレッド4のボリュームよりも大きい。第二周方向溝50よりも深い第一周方向溝48を刻んでも、第一ゾーンのトレッド4において必要な剛性が確保される。
【0126】
このタイヤ2では、第二周方向溝50は第一周方向溝48よりも浅い。浅い第二周方向溝50は第二ゾーンの剛性確保に貢献する。深い第一周方向溝48は高速旋回時の排水性の向上に貢献する。深い第一周方向溝48はさらに、溝面積を拡張することなく、溝容積の増加に貢献できる。このタイヤ2は、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能のさらなる向上を図ることができる。この観点から、第二周方向溝50は第一周方向溝48よりも浅いのが好ましい。
【0127】
このタイヤ2では、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上の観点から、第一周方向溝48の溝深さD1の、第二周方向溝50の溝深さD2に対する比(D1/D2)は1.3以上が好ましく、1.4以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。第一ゾーンのトレッド4において必要な剛性が確保される観点から、この比(D1/D2)は2.0以下が好ましく、1.9以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましい。
【0128】
図1において、符号F1で示される長さは赤道PCからミドル周方向溝38mまでの軸方向距離である。ミドル周方向溝38mは、第一ゾーンにおいて赤道に最も近接する第一周方向溝48である。この軸方向距離F1は、赤道から、この赤道に近接する第一周方向溝48までの距離である。符号F2で示される長さは赤道PCから第二ショルダー周方向溝38s2までの軸方向距離である。第二ショルダー周方向溝38s2は、第二ゾーンにおいて赤道に最も近接する第二周方向溝50である。この軸方向距離F2は、赤道から、この赤道に近接する第二周方向溝50までの距離である。軸方向距離F1が周方向において変化する場合は、最大値と最小値との平均値で軸方向距離F1が表される。軸方向距離F2も同様である。
【0129】
このタイヤ2では、軸方向距離F2は軸方向距離F1よりも長い。長い軸方向距離F2は、第二ゾーンにおける接地面積の確保に貢献する。短い軸方向距離F1は、高速旋回時の排水性の向上に貢献する。このタイヤ2は、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能のさらなる向上を図ることができる。この観点から、軸方向距離F2は軸方向距離F1よりも長いのが好ましい。
【0130】
高速旋回時の排水性の向上の観点から、軸方向距離F1の、トレッド4の幅TWに対する比率(F1/TW)は2%以上が好ましく、3%以上がより好ましい。良好な耐偏摩耗性の維持の観点から、この比率(F1/TW)は、7%以下が好ましく、6%以下がより好ましい。
【0131】
ハンドリング性能の向上の観点から、軸方向距離F2の、トレッド4の幅TWに対する比(F2/TW)は25%以上が好ましく、28%以上がより好ましい。良好な耐偏摩耗性の維持の観点から、この比(F2/TW)は、35%以下が好ましく、32%以下がより好ましい。
【0132】
図3に示されるように、このタイヤ2の第二ミドル陸部52m2は赤道面を跨ぎ、第二ミドル陸部52m2のほとんどは第二ゾーンに位置する。このタイヤ2が負のキャンバー角で車両に装着されると、この第二ミドル陸部52m2においてタイヤ2は路面と主に接地する。この第二ミドル陸部52m2は第一周方向溝48としてのミドル周方向溝38mと第二周方向溝50としての第二ショルダー周方向溝38s2との間に位置する。
【0133】
前述したように、このタイヤ2の第二ミドル陸部52m2には傾斜溝70が刻まれ、傾斜溝70はミドル周方向溝38mと第二ショルダー周方向溝38s2との間を架け渡す。傾斜溝70の縁がトラクションの発生に貢献するので、このタイヤ2では、良好なハンドリング性能が得られる。ミドル周方向溝38mは、第一ゾーンにおいて赤道に最も近接する第一周方向溝48である。第二ショルダー周方向溝38s2は、第二ゾーンにおいて赤道に最も近接する第二周方向溝50である。このタイヤ2では、良好なハンドリング性能が得られる観点から、周方向に対して傾斜する傾斜溝70がトレッド4に刻まれ、この傾斜溝70が、第二周方向溝50と第一周方向溝48との間を架け渡すのが好ましい。
【0134】
このタイヤ2では、第二ショルダー周方向溝38s2は、第二ゾーンにおいて、第二ミドル陸部52m2と第二ショルダー陸部52s2との間に位置する。言い換えれば、第二ショルダー周方向溝38s2は、赤道PCに近接するが、第一ゾーンにおいて赤道に近接する第一周方向溝48よりも赤道から離れて第二ゾーンに配置される第二周方向溝50である。
この第二ショルダー周方向溝38s2は、前述したように、内側要素42と外側要素44とを含み、周方向において、内側要素42と外側要素44とが交互に配置される。内側要素42の2本の縁と、外側要素44の2本の縁とが、トラクションの発生に貢献するので、このタイヤ2では、良好なハンドリング性能が得られる。外側要素44が軸方向において内側要素42の外側に位置するので、内側要素42及び内側要素42の縁に作用する応力が効果的に分散される。内側要素42又は外側要素44の縁に欠け等の損傷は生じにくいので、第二ショルダー周方向溝38sは、その機能を安定して発揮できる。この観点から、このタイヤ2では、赤道PCに近接するが、第一ゾーンにおいて赤道に近接する第一周方向溝48よりも赤道から離れて第二ゾーンに配置される第二周方向溝50は、内側要素42と、軸方向において内側要素42の外側に位置する外側要素44とを含み、周方向において、内側要素42と外側要素44とが交互に配置されるのが好ましい。
【0135】
以上説明したように、本発明によれば、耐偏摩耗性の低下を伴うことなく、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を達成できるタイヤ2が得られる。本発明は、ロードインデックスが100以上で、速度記号がH以上であるタイヤ2において、顕著な効果を奏する。
本発明のタイヤ2は、負のキャンバー角、具体的には、-2度よりも大きく0度よりも小さいキャンバー角で車両に装着されるのが好ましい。本発明のタイヤ2は、-2度よりも大きく0度よりも小さいキャンバー角で、100kW以上の最高出力を有する車両に装着されるのがより好ましい。
本発明のタイヤ2が装着された車両は、本発明の一態様に係る、タイヤと車両との組合せ体であり、この組合せ体は前述のタイヤ2と車両とを備え、このタイヤ2が-2度よりも大きく0度よりも小さいキャンバー角で車両に装着され、車両が100kW以上の最高出力を有する乗用車である。
【実施例0136】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0137】
[実施例1]
図1-3に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/45R18 100V)を得た。
この実施例1では、第一クラウン円弧の半径CR1の、第二クラウン円弧の半径CR2に対する比(CR1/CR2)は1.50であった。第一ショルダー円弧の半径SR1の、第二ショルダー円弧の半径SR2に対する比(SR1/SR2)は1.20であった。第二トレッド基準端TE2側のドロップ量d2と第一トレッド基準端TE1側のドロップ量d1との差(d2-d1)は3.5mmであった。第一周方向溝の総溝容積V1の、第二周方向溝の総溝容積V2に対する比(V1/V2)は1.7であった。
この実施例1では、赤道PCからミドル周方向溝までの軸方向距離F1の、トレッドの幅TWに対する比率(F1/TW)は4%であった。赤道PCから第二ショルダー周方向溝までの軸方向距離F2の、トレッドの幅TWに対する比率(F2/TW)は30%であった。第一周方向溝の溝深さD1の、第二周方向溝の溝深さD2に対する比(D2/D1)は1.6であった。第一周方向溝の溝深さD1の、トレッドの厚さAに対する比(D1/A)は0.93であった。
【0138】
[比較例1]
比較例1は従来タイヤである。この比較例1のトレッドパターンは対称パターンであり、トレッド面Tの輪郭は対称プロファイルであった。
【0139】
[比較例2-3]
半径CR1、半径SR1及びドロップ量d1を変えて比(CR1/CR2)、比(SR1/SR2)及び差(d2-d1)を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例2-3のタイヤを得た。
【0140】
[実施例3及び比較例4]
第一ショルダー周方向溝の溝幅を変えて比(V1/V2)を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3及び比較例4のタイヤを得た。
【0141】
[実施例2]
半径SR1及び第一ショルダー周方向溝の溝幅を変えて比(SR1/SR2)及び比(V1/V2)を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3及び比較例4のタイヤを得た。
【0142】
[実施例4]
半径SR1を変えて比(SR1/SR2)を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4のタイヤを得た。
【0143】
[ハンドリング性能(WET)]
試作タイヤをリム(サイズ=18×8.0J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。第一トレッド基準端が車両の幅方向において外側に位置するように、タイヤを試験車両(乗用車:最高出力=135kW)に装着した。ウェット路面(水膜厚=1.4mm)のテストコースで試験車両を走行させて、ドライバーにハンドリング性能を評価(官能評価)させた。その結果が、下記の表1及び2に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤはウェット路面でのハンドリング性能に優れる。
【0144】
[ハンドリング性能(DRY)]
試作タイヤをリム(サイズ=18×8.0J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。第一トレッド基準端が車両の幅方向において外側に位置するように、タイヤを試験車両(乗用車:最高出力=135kW)に装着した。ドライ路面のテストコースで試験車両を走行させて、ドライバーにハンドリング性能を評価(官能評価)させた。その結果が、下記の表1及び2に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤはドライ路面でのハンドリング性能に優れる。
【0145】
[耐偏摩耗性]
試作タイヤをリム(サイズ=18×8.0J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。第一トレッド基準端が車両の幅方向において外側に位置するように、タイヤを試験車両(乗用車:最高出力=135kW)に装着した。ドライ路面のテストコースで試験車両を走行させた。30000km走行後、リアタイヤの摩耗状況を確認した。接地幅の80%相当位置における摩耗量を計測した。車両の幅方向内側に配置された第二ゾーンにおける摩耗量と、車両の幅方向外側に配置された第一ゾーンにおける摩耗量との差を計測した。その結果が、下記の表1に示されている。0に近いほど好ましい。なお、この評価は、比較例1及び実施例1のタイヤについて行った。
【0146】
【0147】
【0148】
表1-2に示されるように、実施例では、耐偏摩耗性の低下を伴うことなく、ドライ路面及びウェット路面でのハンドリング性能の向上を達成できることが確認されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。